JP2014190883A - 相構造観察方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】原子間力顕微鏡によるブレンドポリマーの相構造観察方法の提供。
【解決手段】この観察方法では、相構造を有するブレンドポリマーが劣化処理されることにより、ブレンドポリマーに硬さの異なる複数の相が形成される。劣化処理後のブレンドポリマーが、原子間力顕微鏡により観察される。劣化処理の処理温度は、60℃以上100℃以下である。劣化処理の処理時間は、1日以上2週間以下である。劣化処理後のブレンドポリマーは、原子間力顕微鏡のタッピングモード又はフォースボリュームモードで観察される。ブレンドポリマーは、相互に非相溶である少なくとも2種類のポリマーを含んでいる。ブレンドポリマーは、ガラス転移温度の異なる少なくとも2種類のポリマーを含んでいる。劣化処理後のブレンドポリマーに形成された一の相と他の相の硬さの差(H2−H1)は、0.5MPa以上である。
【選択図】図1
【解決手段】この観察方法では、相構造を有するブレンドポリマーが劣化処理されることにより、ブレンドポリマーに硬さの異なる複数の相が形成される。劣化処理後のブレンドポリマーが、原子間力顕微鏡により観察される。劣化処理の処理温度は、60℃以上100℃以下である。劣化処理の処理時間は、1日以上2週間以下である。劣化処理後のブレンドポリマーは、原子間力顕微鏡のタッピングモード又はフォースボリュームモードで観察される。ブレンドポリマーは、相互に非相溶である少なくとも2種類のポリマーを含んでいる。ブレンドポリマーは、ガラス転移温度の異なる少なくとも2種類のポリマーを含んでいる。劣化処理後のブレンドポリマーに形成された一の相と他の相の硬さの差(H2−H1)は、0.5MPa以上である。
【選択図】図1
Description
本発明は、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope,AFM)による相構造観察方法に関する。
近年の材料開発において、多様なニーズに対応するために、ブレンドポリマーの重要性が増している。多くのブレンドポリマーは、相構造を有している。ブレンドポリマーでは、数nmから数百μmの大きさの相からなる相構造が形成されている。それぞれの相の大きさや配列は、ブレンドポリマーの配合や熱履歴により異なる。さらに、実用に供されているブレンドポリマーには、補強剤や着色剤等多くの添加剤が配合されている。添加剤は、相構造の形成に影響する。ブレンドポリマーには、複雑で多様な相構造が形成されうる。相構造は、ブレンドポリマーの物性に影響する。相構造の観察は、ブレンドポリマーによる材料開発上、必須の技術である。
ブレンドポリマーの相構造の観察には、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope,TEM)、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope,SEM)、原子間力顕微鏡(AFM)等が使用される。
TEMでは、相構造におけるそれぞれの相の色の相違や、凹凸等の立体的形状の差が観察されうる。TEMによるブレンドポリマーの観察において、コントラストの高い相構造の画像を得るためには、エッチング処理や重金属による染色処理等の前処理が必要である。エッチング処理の装置は、高価である。染色処理は煩雑であり、作業環境上の配慮を要する。さらに、TEMでは、観察用の試料片として、超薄切片を作成する必要がある。超薄切片の作成には、高度な熟練を要する。
SEMでは、相構造におけるそれぞれの相の色の相違や、凹凸等の立体的形状の差が観察されうる。SEM観察においても、コントラストの高い相構造の画像を得るためには、エッチング処理や染色処理等の前処理が必要である。さらに、SEMの分解能は、TEMの分解能よりも低い。SEMでは、ブレンドポリマーの複雑な相構造の観察が困難である。
AFMは、TEMと同等の分解能を有する。AFMでは、超薄切片の作成を要しない。特開2000−017091公報では、高エネルギーのイオンの注入によって凹凸形状が形成されたフッ素樹脂の表面が、AFMによって観察されている。特開2009−236606公報では、エッチング処理により得られたブロック共重合体のマスクパターンがAFMによって観察されている。
ブレンドポリマーの相構造は複雑である。原子間力顕微鏡(AFM)においても、ブレンドポリマーの相構造について、コントラストの高い画像を得ることは容易ではない。本発明の目的は、高価な装置や煩雑な処理をすることなく、ブレンドポリマーの相構造をAFMによって観察する方法を提供することである。
本発明に係る相構造観察方法は、
(1)相構造を有するブレンドポリマーが劣化処理されることにより、上記ブレンドポリマーに、硬さの異なる複数の相が形成される工程、
及び
(2)この劣化処理後のブレンドポリマーが、原子間力顕微鏡により観察される工程
を含む。
(1)相構造を有するブレンドポリマーが劣化処理されることにより、上記ブレンドポリマーに、硬さの異なる複数の相が形成される工程、
及び
(2)この劣化処理後のブレンドポリマーが、原子間力顕微鏡により観察される工程
を含む。
好ましくは、ブレンドポリマーが劣化処理される工程における、劣化処理の処理温度は、60℃以上100℃以下である。好ましくは、この工程における劣化処理の処理時間は、1日以上2週間以下である。
この観察方法では、ブレンドポリマーが観察される工程において、原子間力顕微鏡のタッピングモード又はフォースボリュームモードが使用されることが好ましい。
好ましくは、このブレンドポリマーは、相互に非相溶である少なくとも2種類のポリマーを含んでいる。好ましくは、このブレンドポリマーは、ガラス転移温度の異なる少なくとも2種類のポリマーを含んでいる。
劣化処理後のブレンドポリマーに形成された複数の相において、硬さが最小である一の相の硬さがH1とされ、硬さが最大である他の相の硬さがH2とされたとき、好ましい差(H2−H1)は、0.5MPa以上である。
好ましくは、このブレンドポリマーは、カーボンブラック又はシリカを含む。好ましくは、このブレンドポリマーは、100質量部のポリマーと、0質量部以上50質量部以下のカーボンブラック又はシリカを含む。
好ましいブレンドポリマーは、加硫ゴム及び未加硫ゴムである。好ましくは、加硫ゴム及び未加硫ゴムの基材ゴムは、天然ゴム、ブタジエンゴム及びスチレンブタジエンゴムから選択される。
本発明に係る相構造観察方法では、相構造を有するブレンドポリマーが劣化処理される。劣化処理されたブレンドポリマーには、硬さの異なる複数の相からなる相構造が形成される。劣化処理後のブレンドポリマーが、原子間力顕微鏡(AFM)の観察に供される。この劣化処理後のブレンドポリマーが有する相構造は、ブレンドポリマーの相構造と同等である。
AFMは、相構造におけるそれぞれの相の硬さを検出できる。AFMは、複数の相の硬さの差から、相構造の画像を作成できる。本発明に係る観察方法では、劣化処理後のブレンドポリマーが有する複数の相の硬さの差は大きい。大きな硬さの差により、コントラストの高い相構造の画像が得られる。コントラストの高い画像により、ブレンドポリマーの複雑な相構造が、高い精度で解析されうる。本発明に係る相構造観察方法によれば、ブレンドポリマーの相構造の観察に、煩雑な処理を要しない。
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。この実施形態に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
本発明に係る相構造観察方法では、ブレンドポリマーが劣化処理される工程を有する。ブレンドポリマーは、相構造を有している。本願明細書において、「相構造」とは、複数の相が、規則的に、又は不規則に配列された構造をいう。相構造は、ブレンドポリマーに含まれる複数の成分が、相分離することによって形成される。「相分離」とは、ブレンドポリマー中のある成分が、他の成分から分離して、異なる相を形成する現象をいう。ブレンドポリマーの代表的な相構造として、海島構造、繊維状構造、共連続構造及びこれらが複合された構造が例示される。
本願明細書において、「劣化処理」とは、ブレンドポリマーに硬さの異なる複数の相を形成するための処理をいう。典型的な劣化処理は、加熱処理である。加熱処理には、オーブン、恒温槽、乾燥器等の既存の装置が使用されうる。ブレンドポリマーが、化学的に処理されることにより、劣化処理とされてもよい。酸又はアルカリによる処理が例示される。
劣化処理されたブレンドポリマーが成形されることにより試料片が得られる。この試料片が、原子間力顕微鏡(AFM)による観察に供される。試料片の形状及び大きさは、AFMの試料台に設置可能なものであれば特に限定されない。ブレンドポリマーの成形には、ナイフ、はさみ、カミソリ等が適宜使用される。クライオミクロトーム等が用いられてもよい。クライオミクロトームで切削された試料片には、平滑な面が形成されうる。平滑な面は、AFMによる観察に適している。ブレンドポリマーが成形されて得られる試料片が、劣化処理されてもよい。
AFMは、先端に探針が装着されたカンチレバーを備えている。試料片がAFMによって観察される場合、探針が試料片の表面を走査する。探針は、試料片の表面に沿って動く。探針の動きは、カンチレバーにより検出される。カンチレバーによって検出された探針の動きが画像化されることにより、AFM像が得られる。AFMでは、試料片の表面の立体的な形状が検出される。AFMでは、さらに試料片の表面の硬さや摩擦力等の力学的特性が測定される。本発明に係る観察方法において使用可能なAFMとして、Bruker AXS社製MultiMode8、日立ハイテクサイエンス社製E−sweep等が例示されるが、これらの機種に限定されるものではない。AFMの測定条件は、試料片の種類や表面状態に応じて適宜選択される。タングステン、イリジウム、窒化珪素等を材質とする探針が使用されうる。
本発明に係る観察方法により得られたブレンドポリマーの相構造のAFM像が、図1に示されている。図1は、処理温度90℃、処理時間1週間で劣化処理されたブレンドポリマーについて得られたAFM像である。図2は、劣化処理される前のブレンドポリマーについて得られたAFM像である。
このブレンドポリマーは、天然ゴム及びブタジエンゴムを基材ゴムとする加硫ゴムである。このブレンドポリマーには、天然ゴムを主成分とする相と、ブタジエンゴムを主成分とする相からなる相構造が形成されている。図1及び図2において、ブタジエンゴムを主成分とする相が暗色部として示されており、天然ゴムを主成分とする相が明色部として示されている。図1における明色部と暗色部との境界は、図2における明色部と暗色部との境界よりも明確である。図1の画像のコントラストは、図2の画像のコントラストよりも高い。図1に示された劣化処理後のブレンドポリマーの相構造のAFM像は、劣化処理前のブレンドポリマーの相構造のAFM像よりも鮮明である。
本発明に係る相構造観察方法において、ブレンドポリマーを構成する主な成分は、ポリマーである。好ましくは、ブレンドポリマーは、50質量%以上のポリマーを含む。50質量%以上のポリマーを含むブレンドポリマーが成形されて得られる試料片の表面には、AFMで観察可能な程度に、相構造が形成されうる。本願明細書において、「ポリマー」とは、重量平均分子量10000以上の重合体をいう。
好ましくは、ブレンドポリマーは、少なくとも2種類のポリマーを含む。ポリマーの種類は、特に限定されない。ポリマーとして、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリスチレン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、及び天然ゴムが例示される。エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が用いられてもよい。相互に非相溶性である少なくとも2種類のポリマーを含むブレンドポリマーが好ましい。「非相溶性」とは、種類の異なるポリマーが分子レベルで均一に混合されていないことをいう。相互に非相溶な複数のポリマーを含むブレンドポリマーでは、それぞれのポリマーが相分離することによって、相構造が形成される。
より好ましくは、このブレンドポリマーは、ガラス転移温度の異なる少なくとも2種類のポリマーを含む。このブレンドポリマーでは、ガラス転移温度が高いポリマーを主成分とする相と、ガラス転移温度が低いポリマーを主成分とする相とを含む相構造が形成されうる。このブレンドポリマーでは、それぞれのポリマーが相分離することによって、硬さの異なる相からなる相構造が形成される。このブレンドポリマーが劣化処理された場合、劣化処理後のそれぞれの相の硬さの差は、劣化処理前のそれぞれの相の硬さの差よりも大きい。ポリマーのガラス転移温度は、JIS K0129に準拠して測定される。
好ましいブレンドポリマーは、加硫ゴムである。加硫ゴムは、ポリマーとして、基材ゴムを含む。基材ゴムとして、天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、アクリロニトリルブタジエンスチレンゴム(ABS)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)等が例示される。
加硫ゴムは、架橋結合を有している。加硫ゴムが劣化処理された場合、架橋結合の切断と生成とが生じて、加硫ゴムの架橋密度が変化する。架橋密度の変化に対する劣化処理の効果は、基材ゴムの種類により異なる。一部の基材ゴムでは、劣化処理によって、架橋結合が切断されることにより、硬さが小さくなる。他の基材ゴムでは、劣化処理によって、架橋反応が進行して架橋結合が生じることにより、硬さが大きくなる。
劣化処理されることによって相の硬さが小さくなる基材ゴムとして、天然ゴム及びイソプレンゴムが例示される。劣化処理されることによって相の硬さが大きくなる基材ゴムとして、ブタジエンゴム及びスチレンブタジエンゴムが例示される。好ましい基材ゴムは、天然ゴム、ブタジエンゴム及びスチレンブタジエンゴムから選択される。
好ましくは、加硫ゴムは、少なくとも2種類の基材ゴムを含む。より好ましくは、加硫ゴムは、劣化処理によって硬さが小さくなる基材ゴムと、劣化処理によって硬さが大きくなる基材ゴムを含む。好ましい基材ゴムの組合せの一例として、天然ゴムとブタジエンゴムとの組合せが挙げられる。この基材ゴムを含む加硫ゴムでは、天然ゴムを主成分とする相と、ブタジエンゴムを主成分とする相とを含む相構造が形成される。天然ゴムを主成分とする相の硬さは、劣化処理によって小さくなる。ブタジエンゴムを主成分とする相の硬さは、劣化処理によって大きくなる。この加硫ゴムが劣化処理された場合、硬さの差が大きい複数の相が形成されうる。この劣化処理後の加硫ゴムがAFMで観察された場合、コントラストの高い相構造の画像が得られる。
ブレンドポリマーとして、未加硫ゴムが用いられてもよい。未加硫ゴムの基材ゴムには、加硫ゴムについて前述された基材ゴムが好適に使用される。
ブレンドポリマーが、カーボンブラック又はシリカを含んでもよい。カーボンブラック及びシリカの粒子径や表面構造は、相構造の形成に影響する。本発明に係る観察方法によれば、カーボンブラック又はシリカが配合されたブレンドポリマーについても、コントラストの高い相構造の画像を得ることができる。
カーボンブラックとして、チャンネルブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック及びサーマルブラックが例示される。カーボンブラックの好ましい平均粒子径は、30nm以下であり、より好ましくな20nm以下である。平均粒子径が30nm以下のカーボンブラックは、ブレンドポリマーに配合されたときの分散性に優れる。適正な強度が付与されるとの観点から、好ましい平均粒子径は1nm以上である。カーボンブラックに代えて又はカーボンブラックと共に、活性炭等の非晶性カーボンや、グラファイト等の結晶性カーボンが配合されうる。
シリカとして、乾式法による無水珪酸、湿式法による含水珪酸、合成珪酸塩等が例示される。シリカのチッ素吸着比表面積は、40m2/g以上が好ましく、50m2/g以上がより好ましい。チッ素吸着比表面積が40m2/g以上のシリカが配合されたブレンドポリマーには、適正な強度が付与される。シリカのチッ素吸着比表面積は、450m2/g以下が好ましく、400m2/g以下がより好ましい。チッ素吸着比表面積が450m2/g以下のシリカは、ブレンドポリマーに配合されたときの分散性に優れる。このブレンドポリマーでは、相構造の形成が阻害されない。
好ましくは、このブレンドポリマーは、100質量部のポリマーと、0質量部以上50質量部以下のカーボンブラック又はシリカを含む。50質量部以下のカーボンブラック又はシリカを含むブレンドポリマーが成形されて得られる試料片の表面は、その全面がカーボンブラック又はシリカによって覆われていない。この試料片の表面には、AFMで観察可能な程度に、ブレンドポリマーの相構造が形成されている。さらに、この試料片の表面は十分に平滑である。この試料片がAFMで観察される場合、探針による試料片の表面の走査が阻害されない。この試料片では、AFMによる相構造の観察が容易である。この観点から、より好ましいカーボンブラック又はシリカの配合量は、ポリマー100質量部に対して、0質量部以上20質量部以下である。
カーボンブラック又はシリカは、それぞれ単独で用いられてもよく、2種類以上を組み合わせて用いられてもよい。カーボンブラック及びシリカが併用される場合、ブレンドポリマーにて十分な強度が付与されるとの観点から、好ましい配合比率(カーボンブラック/シリカ)は、1/3以上5/1以下である。
本発明の目的が達成される限り、ブレンドポリマーが、着色剤、リン酸径安定剤、酸化防止剤、光安定剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤等の公知の添加剤を含んでもよい。ブレンドポリマーが加硫ゴム又は未加硫ゴムの場合、酸化亜鉛、硫酸バリウム等の比重調整剤、過酸化物、硫黄、有機硫黄化合物等の加硫剤、加硫促進剤、脂肪族カルボン酸(又はその金属塩)、芳香族カルボン酸(又はその金属塩)等が必要に応じて添加されうる。酸化亜鉛は、架橋助剤としても機能しうる。
ブレンドポリマーは、溶融混練や溶媒中での混合等の既知の方法により製造される。ブレンドポリマーが加硫ゴム又は未加硫ゴムである場合、基材ゴム等が配合された材料が、バンバリーミキサー、ニーダー等の混練機により、固体状態で混練される。基材ゴム等の材料が、有機溶媒中に分散又は溶解されることにより混合されてもよい。この場合、有機溶媒は、全ての材料が混合された後に、公知の方法により除去される。
本発明に係る観察方法において、劣化処理の処理条件(処理温度及び処理時間)は、ブレンドポリマーに含まれるポリマーの種類や添加剤の配合等によって、適宜選択される。劣化処理後のブレンドポリマーにおいて、それぞれの相の硬さが十分に異なるものとなるような処理条件が設定される。
劣化処理の好ましい処理温度は、60℃以上100℃以下である。60℃以上の処理温度で劣化処理されたブレンドポリマーには、硬さの異なる複数の相が形成されている。この劣化処理後のブレンドポリマーにおけるそれぞれの相の硬さの差は、十分に大きい。劣化処理後のブレンドポリマーがAFMで観察された場合、コントラストの高い相構造の画像が得られる。この観点から、より好ましい処理温度は、70℃以上である。劣化処理の処理温度が100℃以下の場合、熱によるブレンドポリマーの過剰な変形が抑制される。このブレンドポリマーでは、相構造の破壊が抑制される。この観点から、より好ましい処理温度は、90℃以下である。
劣化処理の好ましい処理時間は、1日以上である。1日以上劣化処理されたブレンドポリマーには、硬さの異なる複数の相が形成されている。この劣化処理後のブレンドポリマーにおけるそれぞれの相の硬さの差は、十分に大きい。劣化処理後のブレンドポリマーがAFMで観察された場合、コントラストの高い相構造の画像が得られる。この観点から、より好ましい処理時間は、2日以上であり、さらに好ましくは、3日以上である。コスト及び分析効率との観点から、2週間以上の処理時間が好ましい。
特に好ましい劣化処理の処理条件は、処理温度70℃以上90℃以下であり、かつ処理時間3日以上である。この処理条件で劣化処理されたブレンドポリマーは、硬さの異なる複数の相からなる相構造を有する。この劣化処理後のブレンドポリマーにおけるそれぞれの相の硬さの差は、十分に大きい。この劣化処理後のブレンドポリマーがAFMで観察されて得られる相構造の画像は、鮮明である。
本発明に係る観察方法において、劣化処理後のブレンドポリマーは、AFMが備える適切な測定モードで観察される。適切な測定モードは、ブレンドポリマーに含まれるポリマーの種類や、AFM観察に供される試料片の表面状態に応じて、適宜選択される。AFMの代表的な測定モードとして、コンタクトモード、タッピングモード及びノンコンタクトモードが挙げられる。試料片の表面の微少領域の硬さが測定されるフォースモジュレーションモードや、試料片の表面における弾性率やヤング率の分布が測定可能なフォースボリュームモードが選択されてもよい。好ましい測定モードは、探針と試料片との接触時間が短く、軟質な試料片の測定に適したタッピングモード及び試料片の微小領域の力学的特性の差を画像化できるフォースボリュームモードである。
本発明に係る観察方法において、相の硬さは、AFMで測定可能な力学的特性として示される。AFMのフォースボリュームモードが使用されることにより、相の硬さは、弾性率(MPa)として示されうる。AFMのフォースボリュームモードでは、試料片の表面の微小領域毎に弾性率が測定されることによって、弾性率によるヒストグラムの分布曲線が得られる。本願明細書において、このヒストグラムを、硬さヒストグラムと称する。図1に示された劣化処理後のブレンドポリマーについて得られた硬さヒストグラムの分布曲線が、図3に示されている。図3の横軸は弾性率であり、縦軸は各弾性率が得られた微小領域の数(頻度)である。
図3に示された分布曲線は、弾性率の小さいピークAと、弾性率の大きいピークBからなる。ピークAは、図1における暗色部に存在する微小領域が測定されて得られたものである。ピークBは、図1における明色部に存在する微小領域が測定されて得られたものである。図3に示された両矢印a及び両矢印bは、それぞれのピークの半値幅である。この分布曲線において、両矢印aと両矢印bとは、横軸方向において、重複していない。即ち、この分布曲線では、ピークAとピークBとが分離している。換言すれば、ピークAに示される暗色部の弾性率と、ピークBに示される明色部の弾性率との差は、十分に大きい。この劣化処理後のブレンドポリマーに含まれる複数の相において、それぞれの相の硬さの差は十分に大きい。この劣化処理後のブレンドポリマーがAFMで観察されて得られる相構造の画像において、明色部と暗色部との明度の差は大きい。このAFM画像では、明色部と暗色部との境界部分は鮮明である。
劣化処理後のブレンドポリマーに含まれる複数の相において、硬さが最小である一の相の硬さがH1とされ、硬さが最大となる他の相の硬さがH2とされた場合、差(H2−H1)は、0.5MPa以上が好ましい。差(H2−H1)が0.5MPa以上のブレンドポリマーがAFMで観察されたとき、コントラストの高い相構造の画像が得られる。より好ましくは差(H2−H1)は1.0MPa以上である。AFM観察における容易さとの観点から、差(H2−H1)は3.0MPa以下が好ましい。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
なお、以下の全ての実施例において用いられた原子間力顕微鏡(AFM)は、Buruker AXS社製MultiMode8である。相構造の観察には、バネ定数0.5N/mのカンチレバーを使用した。フォースボリュームモードで、周波数5Hz、測定範囲5μm×5μmの測定条件で観察をおこなった。
[実施例1]
表1の製造例1として示された組成に従って、天然ゴム(TSR20)、ブタジエンゴム(宇部興産(株)製、BR150B)、カーボンブラック(キャボットジャパン(株)製、ショウブラックN330)、オイル((株)ジャパンエナジー製、プロセスX−140)、老化防止剤(大内新興化学工業(株)製、ノクラック6C)、ワックス(日本精蝋(株)製、オゾエース0355)、酸化亜鉛(東邦亜鉛(株)製、銀嶺R)及びステアリン酸(日油(株)製、椿)を配合し、充填率58%となるように、容量1.7Lのバンバリーミキサー((株)神戸製鋼製)に投入した。投入された材料の温度が140℃に到達するまで、回転速度80rpmで、加熱しながら混練した。取り出した混練物に、2質量部の硫黄(鶴見化学工業(株)製、5%オイル含有粉末硫黄)と1.5質量部の加硫促進剤(大内新興化学工業(株)製、ノクセラーNS)とを添加し、オープンロールを用いて、80℃で5分間混合した。得られた混合物を、160℃で20分間プレス加硫して、製造例1のブレンドポリマーを得た。このブレンドポリマーは、加硫ゴムである。
表1の製造例1として示された組成に従って、天然ゴム(TSR20)、ブタジエンゴム(宇部興産(株)製、BR150B)、カーボンブラック(キャボットジャパン(株)製、ショウブラックN330)、オイル((株)ジャパンエナジー製、プロセスX−140)、老化防止剤(大内新興化学工業(株)製、ノクラック6C)、ワックス(日本精蝋(株)製、オゾエース0355)、酸化亜鉛(東邦亜鉛(株)製、銀嶺R)及びステアリン酸(日油(株)製、椿)を配合し、充填率58%となるように、容量1.7Lのバンバリーミキサー((株)神戸製鋼製)に投入した。投入された材料の温度が140℃に到達するまで、回転速度80rpmで、加熱しながら混練した。取り出した混練物に、2質量部の硫黄(鶴見化学工業(株)製、5%オイル含有粉末硫黄)と1.5質量部の加硫促進剤(大内新興化学工業(株)製、ノクセラーNS)とを添加し、オープンロールを用いて、80℃で5分間混合した。得られた混合物を、160℃で20分間プレス加硫して、製造例1のブレンドポリマーを得た。このブレンドポリマーは、加硫ゴムである。
製造例1のブレンドポリマー2gを、90℃に設定されたオーブン(エスペック(株)社製、回転枠付恒温器)内に、1週間静置して、劣化処理をおこなった。オーブンから取り出したブレンドポリマーを厚さ約1mm、約2mm角の大きさに成形した後、ミクロトームにより平滑面を作成することにより、実施例1の試料片を得た。試料片の平滑面を、前述の測定条件によりAFMで観察し、図1のAFM像及び図3の硬さヒストグラムの分布曲線を得た。実施例1で得られたAFM像の評価結果が、表2に示されている。
[比較例1]
劣化処理がされていないこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の試料片を得た。この試料片を、前述の測定条件によりAFMで観察して、図2のAFM像を得た。ブレンドポリマーの組成が表1に示されている。比較例1で得られたAFM像の評価結果が、表2に示されている。
劣化処理がされていないこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の試料片を得た。この試料片を、前述の測定条件によりAFMで観察して、図2のAFM像を得た。ブレンドポリマーの組成が表1に示されている。比較例1で得られたAFM像の評価結果が、表2に示されている。
[実施例2及び実施例3]
ブレンドポリマーの劣化処理の処理条件を表2に示されたものとした以外は、実施例1と同様にして、実施例2及び実施例3の試料片を作成し、前述の測定条件により、AFMで相構造を観察した。ブレンドポリマーの組成及び加硫処理条件が、表1に示されている。実施例2及び実施例3で得られたAFM像の評価結果が、表2に示されている。
ブレンドポリマーの劣化処理の処理条件を表2に示されたものとした以外は、実施例1と同様にして、実施例2及び実施例3の試料片を作成し、前述の測定条件により、AFMで相構造を観察した。ブレンドポリマーの組成及び加硫処理条件が、表1に示されている。実施例2及び実施例3で得られたAFM像の評価結果が、表2に示されている。
[実施例4及び実施例5]
ブレンドポリマーの組成を表1に示されたものとした以外は、実施例1と同様にして、実施例4及び実施例5の試料片を作成し、前述の測定条件により、AFMで相構造を観察した。ブレンドポリマーの組成及び加硫処理条件が、表1に示されている。実施例4及び実施例5で得られたAFM像の評価結果が、表3に示されている。
ブレンドポリマーの組成を表1に示されたものとした以外は、実施例1と同様にして、実施例4及び実施例5の試料片を作成し、前述の測定条件により、AFMで相構造を観察した。ブレンドポリマーの組成及び加硫処理条件が、表1に示されている。実施例4及び実施例5で得られたAFM像の評価結果が、表3に示されている。
[実施例6]
加硫処理がされていないこと以外は、実施例1と同様にして、実施例6の試料片を作成し、前述の測定条件により、AFMで相構造を観察した。実施例6に用いたブレンドポリマーは、未加硫ゴムである。ブレンドポリマーの組成が表1に示されている。実施例6で得られたAFM像の評価結果が、表3に示されている。
加硫処理がされていないこと以外は、実施例1と同様にして、実施例6の試料片を作成し、前述の測定条件により、AFMで相構造を観察した。実施例6に用いたブレンドポリマーは、未加硫ゴムである。ブレンドポリマーの組成が表1に示されている。実施例6で得られたAFM像の評価結果が、表3に示されている。
[AFM像評価]
実施例1から実施例6で得られたAFM像を、明色部と暗色部との明度の差、境界部分の鮮明さ及び硬さヒストグラムの分布曲線における複数のピークの分離性との観点から、目視により評価した結果が、表2及び表3に示されている。全て良好な場合を「A」とし、いずれかが不良な場合を「B」として評価した。
実施例1から実施例6で得られたAFM像を、明色部と暗色部との明度の差、境界部分の鮮明さ及び硬さヒストグラムの分布曲線における複数のピークの分離性との観点から、目視により評価した結果が、表2及び表3に示されている。全て良好な場合を「A」とし、いずれかが不良な場合を「B」として評価した。
表1に記載された化合物の詳細は、以下の通りである。
天然ゴム:TSR20(Tg:−73℃)
ブタジエンゴム:宇部興産(株)製のBR150B(Tg:−114℃)
スチレンブタジエンゴム:JSR(株)製のJSR1502(結合スチレン量:23.5質量%、Tg:−52℃)
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN330(N2SA:79m2/g)
シリカ:デグッサ 社製のULTRASIL VN3(N2SA:175 m2/g)
オイル:(株)ジャパンエナジー製のプロセスX−140
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−1,3−ジメチルブチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
酸化亜鉛:東邦亜鉛(株)製の銀嶺R
ステアリン酸:日油(株)製の椿
硫黄:鶴見化学工業(株)製の5%オイル処理粉末硫黄(オイル分5質量%含有の可溶性硫黄)
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−t−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)
天然ゴム:TSR20(Tg:−73℃)
ブタジエンゴム:宇部興産(株)製のBR150B(Tg:−114℃)
スチレンブタジエンゴム:JSR(株)製のJSR1502(結合スチレン量:23.5質量%、Tg:−52℃)
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN330(N2SA:79m2/g)
シリカ:デグッサ 社製のULTRASIL VN3(N2SA:175 m2/g)
オイル:(株)ジャパンエナジー製のプロセスX−140
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−1,3−ジメチルブチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
酸化亜鉛:東邦亜鉛(株)製の銀嶺R
ステアリン酸:日油(株)製の椿
硫黄:鶴見化学工業(株)製の5%オイル処理粉末硫黄(オイル分5質量%含有の可溶性硫黄)
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−t−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド)
本発明に係る観察方法により得られた図1のAFM像の評価は、劣化処理されていない比較例1について得られた図2のAFM像の評価よりも高い。表2及び表3に示された通り、本発明に係る観察方法により得られた実施例1から6のAFM像は、全て高い評価を得ている。この結果から、本発明の優位性は明らかである。
以上説明された相構造観察方法は、ブロックポリマーや、グラフトポリマー等の相構造の観察にも適用される。
Claims (11)
- 相構造を有するブレンドポリマーが劣化処理されることにより、上記ブレンドポリマーに、硬さの異なる複数の相が形成される工程と、
上記劣化処理後のブレンドポリマーが、原子間力顕微鏡により観察される工程とを含む相構造観察方法。 - 上記ブレンドポリマーが劣化処理される工程において、
劣化処理の処理温度が、60℃以上100℃以下である請求項1に記載の相構造観察方法。 - 上記ブレンドポリマーが劣化処理される工程において、
劣化処理の処理時間が、1日以上2週間以下である請求項1又は2に記載の相構造観察方法。 - 上記劣化処理後のブレンドポリマーが原子間力顕微鏡により観察される工程において、
原子間力顕微鏡のタッピングモード又はフォースボリュームモードが使用される請求項1から3のいずれかに記載の相構造観察方法。 - 上記ブレンドポリマーが、相互に非相溶である少なくとも2種類のポリマーを含んでいる請求項1から4のいずれかに記載の相構造観察方法。
- 上記ブレンドポリマーが、ガラス転移温度の異なる少なくとも2種類のポリマーを含んでいる請求項1から5のいずれかに記載の相構造観察方法。
- 上記劣化処理後のブレンドポリマーに形成された複数の相において、硬さが最小である一の相の硬さがH1とされ、硬さが最大である他の相の硬さがH2とされたとき、差(H2−H1)が0.5MPa以上である請求項1から6のいずれかに記載の相構造観察方法。
- 上記ブレンドポリマーが、カーボンブラック又はシリカを含む請求項1から7のいずれかに記載の相構造観察方法。
- 上記ブレンドポリマーが、100質量部のポリマーと、0質量部以上50質量部以下の上記カーボンブラック又はシリカとを含む請求項8に記載の相構造観察方法。
- 上記ブレンドポリマーが、加硫ゴム又は未加硫ゴムである請求項1から9のいずれかに記載の相構造観察方法。
- 上記加硫ゴム又は未加硫ゴムの基材ゴムが、天然ゴム、ブタジエンゴム及びスチレンブタジエンゴムから選択される請求項10に記載の相構造観察方法。
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- 2013-03-28 JP JP2013067706A patent/JP2014190883A/ja active Pending
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