JP2014186468A - 結合自由エネルギーの算出方法、及び結合自由エネルギーの算出装置、プログラム、並びに化合物のスクリーニング方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】溶媒と化合物との溶媒和エネルギー(ΔG1)を算出する第1の工程と、前記化合物及びタンパク質が結合した結合状態(λ=0)と、非結合である非結合状態(λ=1)との間のエネルギー変化(ΔG2)を算出する第2の工程とを含み、前記第2の工程が、構造サンプリングをする距離(Dth)を決定する処理と、前記距離(Dth)以下の距離の前記化合物と前記タンパク質との結合エネルギー変化(ΔG21)を算出する処理と、前記タンパク質の影響を無視して、前記溶媒と前記化合物との溶媒和エネルギー変化(ΔG23)を算出する処理と、補間により前記化合物と前記タンパク質との結合エネルギー変化(ΔG22)を算出する処理と、標準状態に対する補正項(ΔG24)を算出する処理とを含む結合自由エネルギーの算出方法である。
【選択図】図1
Description
開示の結合自由エネルギーの算出方法は、
溶媒中における化合物とタンパク質との結合自由エネルギーの算出方法であって、
前記溶媒と前記化合物との溶媒和エネルギー(ΔG1)を算出する第1の工程と、
前記化合物及び前記タンパク質が結合した結合状態(λ=0)と、非結合である非結合状態(λ=1)との間のエネルギー変化(ΔG2)を算出する第2の工程とを含み、
前記第2の工程が、
前記結合状態(λ=0)の前記化合物及び前記タンパク質の距離に基づいて、構造サンプリングをする距離(Dth)を決定する処理と、
前記結合状態(λ=0)と前記非結合状態(λ=1)との間の状態であって、前記化合物と前記タンパク質との距離が前記距離(Dth)以下の距離である状態が存在する状態(λ=λm)について、前記距離(Dth)以下の距離の前記化合物と前記タンパク質との結合エネルギー変化(ΔG21)を算出する処理と、
前記非結合状態(λ=1)及び前記非結合状態(λ=1)と同一視できる状態(λ=λn)について、前記タンパク質の影響を無視して、前記溶媒と前記化合物との溶媒和エネルギー変化(ΔG23)を算出する処理と、
前記状態(λ=λm)と前記状態(λ=λn)との間の状態について、前記状態(λ=λm)及び前記状態(λ=λn)から補間して、前記化合物と前記タンパク質との結合エネルギー変化(ΔG22)を算出する処理と、
前記距離(Dth)から計算される空間の体積に基づいて、標準状態に対する補正項(ΔG24)を算出する処理とを含む。
タンパク質と複数の化合物とについて、開示の前記結合自由エネルギーの算出方法により結合自由エネルギーを算出する工程と、
算出された前記結合自由エネルギーに基づいて化合物を選択する工程とを含む。
コンピューターに、
溶媒と化合物との溶媒和エネルギー(ΔG1)を算出する第1の工程と、
前記化合物及びタンパク質が結合した結合状態(λ=0)と、非結合である非結合状態(λ=1)との間のエネルギー変化(ΔG2)を算出する第2の工程とを実行させ、
前記第2の工程が、
前記結合状態(λ=0)の前記化合物及び前記タンパク質の距離に基づいて、構造サンプリングをする距離(Dth)を決定する処理と、
前記結合状態(λ=0)と前記非結合状態(λ=1)との間の状態であって、前記化合物と前記タンパク質との距離が前記距離(Dth)以下の距離である状態が存在する状態(λ=λm)について、前記距離(Dth)以下の距離の前記化合物と前記タンパク質との結合エネルギー変化(ΔG21)を算出する処理と、
前記非結合状態(λ=1)及び前記非結合状態(λ=1)と同一視できる状態(λ=λn)について、前記タンパク質の影響を無視して、前記溶媒と前記化合物との溶媒和エネルギー変化(ΔG23)を算出する処理と、
前記状態(λ=λm)と前記状態(λ=λn)との間の状態について、前記状態(λ=λm)及び前記状態(λ=λn)から補間して、前記化合物と前記タンパク質との結合エネルギー変化(ΔG22)を算出する処理と、
前記距離(Dth)から計算される空間の体積に基づいて、標準状態に対する補正項(ΔG24)を算出する処理とを含む。
コンピューターに、溶媒と化合物との溶媒和エネルギー(ΔG1)を算出する第1の工程と、前記化合物及びタンパク質が結合した結合状態(λ=0)と、非結合である非結合状態(λ=1)との間のエネルギー変化(ΔG2)を算出する第2の工程とを実行させるプログラムを記録したコンピュータが読み取り可能な記録媒体を備え、
前記第2の工程が、
前記結合状態(λ=0)の前記化合物及び前記タンパク質の距離に基づいて、構造サンプリングをする距離(Dth)を決定する処理と、
前記結合状態(λ=0)と前記非結合状態(λ=1)との間の状態であって、前記化合物と前記タンパク質との距離が前記距離(Dth)以下の距離である状態が存在する状態(λ=λm)について、前記距離(Dth)以下の距離の前記化合物と前記タンパク質との結合エネルギー変化(ΔG21)を算出する処理と、
前記非結合状態(λ=1)及び前記非結合状態(λ=1)と同一視できる状態(λ=λn)について、前記タンパク質の影響を無視して、前記溶媒と前記化合物との溶媒和エネルギー変化(ΔG23)を算出する処理と、
前記状態(λ=λm)と前記状態(λ=λn)との間の状態について、前記状態(λ=λm)及び前記状態(λ=λn)から補間して、前記化合物と前記タンパク質との結合エネルギー変化(ΔG22)を算出する処理と、
前記距離(Dth)から計算される空間の体積に基づいて、標準状態に対する補正項(ΔG24)を算出する処理とを含む。
開示の化合物のスクリーニング方法によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、効率よく化合物をスクリーニングする方法を提供できる。
開示のプログラムによれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、タンパク質と化合物との結合自由エネルギーを精度よく算出するプログラムを提供できる。
開示の結合自由エネルギーの算出装置によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、タンパク質と化合物との結合自由エネルギーを精度よく算出する装置を提供できる。
開示の結合自由エネルギーの算出方法は、第1の工程と、第2の工程とを少なくとも含み、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
前記算出方法は、溶媒中における化合物とタンパク質との結合自由エネルギーの算出方法である。
標的タンパク質と、薬剤候補分子(リガンド分子)A又はBとの結合自由エネルギー(ΔGA bind、ΔGB bind)は、図1のように表すことができる。
ここで、ΔGA bindとΔGB bindとの関係は、熱力学的サイクルにより、以下のように表すことができる。
ここで、ΔGA bindは、以下のように表すことができる。
ただし、単にバネによる拘束を行わないと、バネによる拘束がない分、薬剤候補分子が存在する空間が広がるため、構造サンプリングをする空間が広くなってしまう。
そこで、薬剤候補分子とタンパク質との相互作用が強い領域について構造サンプリングをするように、相互作用が最も強い状態(結合状態)における薬剤候補分子とタンパク質との距離に基づいて構造サンプリングをする適当な距離を決定する。そして、薬剤候補分子とタンパク質との距離がその距離内に存在する状態については、薬剤候補分子とタンパク質との結合エネルギー変化を計算する。
また、薬剤候補分子とタンパク質との相互作用がほとんどない領域については、タンパク質の影響を無視して、溶媒中における薬剤候補分子の溶媒和エネルギーを算出する。
更に、前記相互作用が強い領域と、前記相互作用がほとんどない領域との間の領域は、ドラスティックに変化する領域のため、計算が困難であることから、前記相互作用が強い領域と前記相互作用がほとんどない領域とにおけるエネルギー変化から補間してエネルギー変化を算出する。
更に、実験と比較するために体積補正を行う。
以上によって、結合自由エネルギーを精度よく算出することができる。
前記第1の工程としては、前記溶媒と前記化合物との溶媒和エネルギー(ΔG1)を算出する工程であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
(1)前記化合物と、前記化合物の周囲の前記溶媒との相互作用を結合定数λ1とする。
ここで、前記化合物は前記溶媒中に存在して前記溶媒と完全に相互作用している状態をλ1=0とし、前記化合物は前記溶媒中に存在するが前記溶媒と全く相互作用していない状態をλ1=1とする。
(2)ΔG1を算出するために、λ1={0、λ1、λ2、λ3、・・・、λn−1、1}として状態を分割する。
(3)λ1 iからλ1 i+1に変化したときのΔG1の変化(ΔGi→i+1)を計算する。
(4)全てのΔGi→i+1を足し合せてΔG1を得る。
ここで用いる計算プログラムとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、分子動力学計算プログラムなどが挙げられる。前記分子動力学計算プログラムとしては、例えば、gromacs(グローマックス、Groningen Machine for Chemical Simulations)、amber(Assisted Model Building with Energy Refinement)、charmm、tinker、lammpsなどが挙げられる。
前記第2の工程としては、前記化合物及び前記タンパク質が結合した結合状態(λ=0)と、非結合である非結合状態(λ=1)との間のエネルギー変化(ΔG2)を算出する工程である。
前記非結合状態(λ=1)とは、前記化合物と前記タンパク質との相互作用がない状態を意味する。
第1の処理:構造サンプリングをする距離(Dth)を決定する処理
第2の処理:前記結合状態(λ=0)と前記非結合状態(λ=1)との間の状態であって、前記化合物と前記タンパク質との距離が前記距離(Dth)以下の距離である状態が存在する状態(λ=λm)について、前記距離(Dth)以下の距離の前記化合物と前記タンパク質との結合エネルギー変化(ΔG21)を算出する処理
第3の処理:前記非結合状態(λ=1)及び前記非結合状態(λ=1)と同一視できる状態(λ=λn)について、前記タンパク質の影響を無視して、前記溶媒と前記化合物との溶媒和エネルギー変化(ΔG23)を算出する処理
第4の処理:前記状態(λ=λm)と前記状態(λ=λn)との間の状態について、前記状態(λ=λm)及び前記状態(λ=λn)から補間して、前記化合物と前記タンパク質との結合エネルギー変化(ΔG22)を算出する処理
第5の処理:前記距離(Dth)から計算される空間の体積に基づいて、標準状態に対する補正項(ΔG24)を算出する処理
前記第1の処理は、前記結合状態(λ=0)の前記化合物及び前記タンパク質の距離に基づいて、構造サンプリングをする距離(Dth)を決定する処理であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
まず、前記結合状態(λ=0)における前記化合物及び前記タンパク質の距離を、分子動力学法(MD法)を用いて、シミュレーション時間でプロットする。その一例を図4に示す。得られたプロットに基づいて、頻度分布における前記化合物及び前記タンパク質の距離の最小値から90%〜100%のいずれかを前記距離(Dth)とする。ここで、前記距離(Dth)を常に100%とすることもできるが、その場合、シミュレートの際にイレギュラーに大きい距離があった場合に、その距離が前記距離(Dth)となると、構造サンプリングをする範囲が無駄に広くなってしまう。そのため、90%〜100%の範囲で選択することが好ましい。
前記第2の処理としては、前記結合状態(λ=0)と前記非結合状態(λ=1)との間の状態であって、前記化合物と前記タンパク質との距離が前記距離(Dth)以下の距離である状態が存在する状態(λ=λm)について、前記距離(Dth)以下の距離の前記化合物と前記タンパク質との結合エネルギー変化(ΔG21)を算出する処理であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記第3の処理としては、前記非結合状態(λ=1)と同一視できる状態(λ=λn)について、前記タンパク質の影響を無視して、前記溶媒と前記化合物との溶媒和エネルギー変化(ΔG23)を算出する処理であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
ここで、同一視できる状態とは、前記結合状態(λ=0)と前記非結合状態(λ=1)との間の状態において、前記化合物と前記タンパク質との相互作用がほとんどないと判断できる状態である。
なお、λm及びλnは、0≦λm<λn<1の関係にある。
前記第4の処理としては、前記状態(λ=λm)と前記状態(λ=λn)との間の状態について、前記状態(λ=λm)及び前記状態(λ=λn)から補間して、前記化合物と前記タンパク質との結合エネルギー変化(ΔG22)を算出する処理であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
ここでは、図6に示すレナードジョーンズ(LJ)相互作用の消失経路の例を用いて説明する。
まず、前記第1の処理により決定した前記距離Dthに基づいて、結合状態(λLJ=0)から非結合状態(λLJ=1)に向かって、化合物とタンパク質との距離が前記距離(Dth)内のサンプルについて、前記化合物と前記タンパク質との結合エネルギー変化(ΔG21)を算出する。前記化合物と前記タンパク質との相互作用が弱くなっていくと、前記距離(Dth)内にサンプルがない状態になる(図6のλLJ=0.75付近)。そこまで、算出を行う。
次に、非結合状態(λLJ=1)から結合状態(λLJ=0)に向かって、前記化合物と前記タンパク質との相互作用がほとんどないと判断できる限界まで、溶媒と前記化合物との溶媒和エネルギー変化(ΔG23)を算出する。図6では、λLJ=0.8付近まで算出している。
そして、上記算出を行った領域の間の領域(0.75<λLJ<0.8)については、λLJ=0.75とλLJ=0.8の結果から補間して、エネルギー変化(ΔG22)を算出する。
前記第5の処理は、前記距離(Dth)から計算される空間の体積に基づいて、標準状態に対する補正項(ΔG24)を算出する処理であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
図7は、化合物とタンパク質との状態変化を表す図である。
図7の状態変化に基づいて、算出すべき結合自由エネルギー(ΔG°)は、例えば、以下の式で求めることができる。
上記2つの数式のうちの下の数式の左辺が補正項(ΔG24)に相当する。
自由エネルギーは状態変数なので、基本的には、径路によらない。しかし、レナードジョーンズ相互作用を先に消失させていくとすると、残された(レナードジョーンズ相互作用と比して、大きな相互作用エネルギーを与える)クーロン相互作用によって原子同士が非常に近づいてしまうため計算が困難になることがある。一方、クーロン相互作用を先に消去すると、レナードジョーンズ相互作用を(同一位置に異なる原子が非常に近づく場合を避けるために)ソフトコアポテンシャルで扱うことができ、精度のよい計算が可能になる。
開示の化合物のスクリーニング方法は、タンパク質と複数の化合物とについて、開示のの結合自由エネルギーの算出方法により結合自由エネルギーを算出する工程と、
算出された前記結合自由エネルギーに基づいて化合物を選択する工程とを含む。
開示のプログラムは、コンピューターに、第1の工程と、第2の工程とを少なくとも実行させるプログラムである。
前記プログラムは、溶媒中における化合物とタンパク質との結合自由エネルギーを算出する。
開示のコンピュータが読み取り可能な記録媒体は、開示の前記プログラムを記録してなる。
前記コンピュータが読み取り可能な記録媒体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、内蔵ハードディスク、外付けハードディスク、CD−ROM、DVD−ROM、MOディスク、USBメモリなどが挙げられる。
開示の結合自由エネルギーの算出装置は、開示の前記コンピュータが読み取り可能な記録媒体を備える。
まず、前記溶媒と前記化合物との溶媒和エネルギー(ΔG1)を算出する(ΔG1の算出)。
次に、前記結合状態(λ=0)の前記化合物及び前記タンパク質の距離に基づいて、構造サンプリングをする距離(Dth)を決定する(Dthの決定)。
次に、前記結合状態(λ=0)と前記非結合状態(λ=1)との間の状態であって、前記化合物と前記タンパク質との距離が前記距離(Dth)以下の距離である状態が存在する状態(λ=λm)について、前記距離(Dth)以下の距離の前記化合物と前記タンパク質との結合エネルギー変化(ΔG21)を算出する(ΔG21の算出)。
次に、前記非結合状態(λ=1)及び前記非結合状態(λ=1)と同一視できる状態(λ=λn)について、前記タンパク質の影響を無視して、前記溶媒と前記化合物との溶媒和エネルギー変化(ΔG23)を算出する(ΔG23の算出)。
次に、前記状態(λ=λm)と前記状態(λ=λn)との間の状態について、前記状態(λ=λm)及び前記状態(λ=λn)から補間して、前記化合物と前記タンパク質との結合エネルギー変化(ΔG22)を算出する(ΔG22の算出)。
次に、前記距離(Dth)から計算される空間の体積に基づいて、標準状態に対する補正項(ΔG24)を算出する(ΔG24の算出)。
最後に、ΔG1、ΔG21、ΔG22、ΔG23、及びΔG24の和を求める。
以上により、溶媒中における化合物とタンパク質との結合自由エネルギーを算出できる。
なお、図9に示すように、ΔG1の算出と、他の処理(Dthの決定、ΔG21の算出、ΔG22の算出、ΔG23の算出、ΔG24の算出)との順番は、問わない。また、ΔG24の算出と、ΔG21の算出、ΔG22の算出、及びΔG23の算出との順番は問わない。ΔG22の算出は、ΔG21の算出において状態(λ=λm)を決定した後、及びΔG23の算出において状態(λ=λn)を決定した後に行うことが好ましい。
結合自由エネルギーの算出装置10は、例えば、CPU11、メモリ12、記憶部13、表示部14、入力部15、出力部16、I/Oインターフェース部17等がシステムバス18を介して接続されて構成される。
前記プログラムは、記憶部13に格納され、メモリ12のRAM(主メモリ)にロードされ、CPU11により実行される。
入力部15は、各種データの入力装置であり、例えば、キーボード、ポインティングデバイス(例えば、マウス等)などである。
出力部16は、各種データの出力装置であり、例えば、プリンタである。
I/Oインターフェース部17は、各種の外部装置を接続するためのインターフェースである。例えば、CD−ROM、DVD−ROM、MOディスク、USBメモリなどのデータの入出力を可能にする。
タンパク質:FK506 BINDING PROTEIN
リガンド:8−DEETHYL−8−[BUT−3−ENYL]−ASCOMYCIN、C44H69NO12(分子量:803)
タンパク質:FK506 BINDING PROTEIN
リガンド:1,3−DIPHENYL−1−PROPYL−1−(3,3−DIMETHYL−1,2− DIOXYPENTYL)−2−PIPERIDINE CARBOXYLATE、C28H35NO4(分子量:449)
結合状態(λ=0)における化合物及びタンパク質の距離を、gromacsを用いて、シミュレーション時間でプロットした。得られたプロットに基づいて、頻度分布における前記化合物及び前記タンパク質の距離の最小値から95%の距離を前記距離(Dth)とした。具体的な距離(Dth)は、[1fkj]の計算では、0.77nmであり、[1fkg]の計算では、0.85nmであった。
なお、ΔG21を算出する際のλ=λmの最大値は、前記距離Dthの中に化合物を含む構造が出現しなくなるλの最大値をλmとすることにより決定した。また、ΔG23を算出する際のλ=λnの最小値は、溶媒中の化合物の自由エネルギー変化と一致をはじめるλの最小値をλnとすることにより決定した。
図11中の実施例が、本実施例の結果である。実験値は、Holt et al., J. Am. Chem. Soc. 1993, 115, 9925−9938に記載の実験値である。比較例は、Wang et al., Biophysical Jourmal Vol.91, 2798−2814に記載の計算値であって、バネによる拘束を行った場合の計算値である。
本実施例の1fkgの計算結果(−10.9kcal/mol)は、実験値(−10.9kcal/mol)と一致しており、比較例の計算結果(−10.3kcal/mol)よりも優れていた。
本実施例の1fkjの計算結果(−11.7kcal/mol)は、実験値(−12.7kcal/mol)とやや異なる値であるものの、比較例(−10.1kcal/mol)よりは実験値に近い値であった。1fkjにおいて比較例が実験値と大きく異なるのは、リガンド分子が大きいためと考えられる。本実施例では、リガンド分子が大きい場合でも比較的精度が高い計算結果を得ることができた。
(付記1) 溶媒中における化合物とタンパク質との結合自由エネルギーの算出方法であって、
前記溶媒と前記化合物との溶媒和エネルギー(ΔG1)を算出する第1の工程と、
前記化合物及び前記タンパク質が結合した結合状態(λ=0)と、非結合である非結合状態(λ=1)との間のエネルギー変化(ΔG2)を算出する第2の工程とを含み、
前記第2の工程が、
前記結合状態(λ=0)の前記化合物及び前記タンパク質の距離に基づいて、構造サンプリングをする距離(Dth)を決定する処理と、
前記結合状態(λ=0)と前記非結合状態(λ=1)との間の状態であって、前記化合物と前記タンパク質との距離が前記距離(Dth)以下の距離である状態が存在する状態(λ=λm)について、前記距離(Dth)以下の距離の前記化合物と前記タンパク質との結合エネルギー変化(ΔG21)を算出する処理と、
前記非結合状態(λ=1)及び前記非結合状態(λ=1)と同一視できる状態(λ=λn)について、前記タンパク質の影響を無視して、前記溶媒と前記化合物との溶媒和エネルギー変化(ΔG23)を算出する処理と、
前記状態(λ=λm)と前記状態(λ=λn)との間の状態について、前記状態(λ=λm)及び前記状態(λ=λn)から補間して、前記化合物と前記タンパク質との結合エネルギー変化(ΔG22)を算出する処理と、
前記距離(Dth)から計算される空間の体積に基づいて、標準状態に対する補正項(ΔG24)を算出する処理とを含むことを特徴とする結合自由エネルギーの算出方法。
(付記2) 前記溶媒が、水である付記1に記載の結合自由エネルギーの算出方法。
(付記3) 前記化合物及び前記タンパク質の距離が、前記化合物の重心と、前記タンパク質における結合サイトを構成する複数のアミノ酸残基の重心を結んでできる空間の重心との距離である付記1から2のいずれかに記載の結合自由エネルギーの算出方法。
(付記4) 前記距離(Dth)が、前記結合状態(λ=0)における前記化合物及び前記タンパク質の距離についてシミュレートして得られる結果の前記距離の頻度分布における最小値から90%〜100%の距離から選択される付記1から3のいずれかに記載の結合自由エネルギーの算出方法。
(付記5) 前記結合自由エネルギーが、クーロン相互作用と、レナードジョーンズ相互作用とに分けて算出され、前記クーロン相互作用について計算した後に、前記レナードジョーンズ相互作用について計算する付記1から4のいずれかに記載の結合自由エネルギーの算出方法。
(付記6) タンパク質と複数の化合物とについて、付記1から5のいずれかに記載の結合自由エネルギーの算出方法により結合自由エネルギーを算出する工程と、
算出された前記結合自由エネルギーに基づいて化合物を選択する工程とを含むことを特徴とする化合物のスクリーニング方法。
(付記7) コンピューターに、
溶媒と化合物との溶媒和エネルギー(ΔG1)を算出する第1の工程と、
前記化合物及びタンパク質が結合した結合状態(λ=0)と、非結合である非結合状態(λ=1)との間のエネルギー変化(ΔG2)を算出する第2の工程とを実行させ、
前記第2の工程が、
前記結合状態(λ=0)の前記化合物及び前記タンパク質の距離に基づいて、構造サンプリングをする距離(Dth)を決定する処理と、
前記結合状態(λ=0)と前記非結合状態(λ=1)との間の状態であって、前記化合物と前記タンパク質との距離が前記距離(Dth)以下の距離である状態が存在する状態(λ=λm)について、前記距離(Dth)以下の距離の前記化合物と前記タンパク質との結合エネルギー変化(ΔG21)を算出する処理と、
前記非結合状態(λ=1)及び前記非結合状態(λ=1)と同一視できる状態(λ=λn)について、前記タンパク質の影響を無視して、前記溶媒と前記化合物との溶媒和エネルギー変化(ΔG23)を算出する処理と、
前記状態(λ=λm)と前記状態(λ=λn)との間の状態について、前記状態(λ=λm)及び前記状態(λ=λn)から補間して、前記化合物と前記タンパク質との結合エネルギー変化(ΔG22)を算出する処理と、
前記距離(Dth)から計算される空間の体積に基づいて、標準状態に対する補正項(ΔG24)を算出する処理とを含む、
ことを特徴とするプログラム。
(付記8) コンピューターに、溶媒と化合物との溶媒和エネルギー(ΔG1)を算出する第1の工程と、
前記化合物及びタンパク質が結合した結合状態(λ=0)と、非結合である非結合状態(λ=1)との間のエネルギー変化(ΔG2)を算出する第2の工程とを実行させるプログラムを記録し、
前記第2の工程が、
前記結合状態(λ=0)の前記化合物及び前記タンパク質の距離に基づいて、構造サンプリングをする距離(Dth)を決定する処理と、
前記結合状態(λ=0)と前記非結合状態(λ=1)との間の状態であって、前記化合物と前記タンパク質との距離が前記距離(Dth)以下の距離である状態が存在する状態(λ=λm)について、前記距離(Dth)以下の距離の前記化合物と前記タンパク質との結合エネルギー変化(ΔG21)を算出する処理と、
前記非結合状態(λ=1)及び前記非結合状態(λ=1)と同一視できる状態(λ=λn)について、前記タンパク質の影響を無視して、前記溶媒と前記化合物との溶媒和エネルギー変化(ΔG23)を算出する処理と、
前記状態(λ=λm)と前記状態(λ=λn)との間の状態について、前記状態(λ=λm)及び前記状態(λ=λn)から補間して、前記化合物と前記タンパク質との結合エネルギー変化(ΔG22)を算出する処理と、
前記距離(Dth)から計算される空間の体積に基づいて、標準状態に対する補正項(ΔG24)を算出する処理とを含む、
ことを特徴とするコンピュータが読み取り可能な記録媒体。
(付記9) コンピューターに、溶媒と化合物との溶媒和エネルギー(ΔG1)を算出する第1の工程と、前記化合物及びタンパク質が結合した結合状態(λ=0)と、非結合である非結合状態(λ=1)との間のエネルギー変化(ΔG2)を算出する第2の工程とを実行させるプログラムを記録したコンピュータが読み取り可能な記録媒体を備え、
前記第2の工程が、
前記結合状態(λ=0)の前記化合物及び前記タンパク質の距離に基づいて、構造サンプリングをする距離(Dth)を決定する処理と、
前記結合状態(λ=0)と前記非結合状態(λ=1)との間の状態であって、前記化合物と前記タンパク質との距離が前記距離(Dth)以下の距離である状態が存在する状態(λ=λm)について、前記距離(Dth)以下の距離の前記化合物と前記タンパク質との結合エネルギー変化(ΔG21)を算出する処理と、
前記非結合状態(λ=1)及び前記非結合状態(λ=1)と同一視できる状態(λ=λn)について、前記タンパク質の影響を無視して、前記溶媒と前記化合物との溶媒和エネルギー変化(ΔG23)を算出する処理と、
前記状態(λ=λm)と前記状態(λ=λn)との間の状態について、前記状態(λ=λm)及び前記状態(λ=λn)から補間して、前記化合物と前記タンパク質との結合エネルギー変化(ΔG22)を算出する処理と、
前記距離(Dth)から計算される空間の体積に基づいて、標準状態に対する補正項(ΔG24)を算出する処理とを含む、
ことを特徴とする結合自由エネルギーの算出装置。
Claims (8)
- 溶媒中における化合物とタンパク質との結合自由エネルギーの算出方法であって、
前記溶媒と前記化合物との溶媒和エネルギー(ΔG1)を算出する第1の工程と、
前記化合物及び前記タンパク質が結合した結合状態(λ=0)と、非結合である非結合状態(λ=1)との間のエネルギー変化(ΔG2)を算出する第2の工程とを含み、
前記第2の工程が、
前記結合状態(λ=0)の前記化合物及び前記タンパク質の距離に基づいて、構造サンプリングをする距離(Dth)を決定する処理と、
前記結合状態(λ=0)と前記非結合状態(λ=1)との間の状態であって、前記化合物と前記タンパク質との距離が前記距離(Dth)以下の距離である状態が存在する状態(λ=λm)について、前記距離(Dth)以下の距離の前記化合物と前記タンパク質との結合エネルギー変化(ΔG21)を算出する処理と、
前記非結合状態(λ=1)及び前記非結合状態(λ=1)と同一視できる状態(λ=λn)について、前記タンパク質の影響を無視して、前記溶媒と前記化合物との溶媒和エネルギー変化(ΔG23)を算出する処理と、
前記状態(λ=λm)と前記状態(λ=λn)との間の状態について、前記状態(λ=λm)及び前記状態(λ=λn)から補間して、前記化合物と前記タンパク質との結合エネルギー変化(ΔG22)を算出する処理と、
前記距離(Dth)から計算される空間の体積に基づいて、標準状態に対する補正項(ΔG24)を算出する処理とを含むことを特徴とする結合自由エネルギーの算出方法。 - 前記溶媒が、水である請求項1に記載の結合自由エネルギーの算出方法。
- 前記化合物及び前記タンパク質の距離が、前記化合物の重心と、前記タンパク質における結合サイトを構成する複数のアミノ酸残基の重心を結んでできる空間の重心との距離である請求項1から2のいずれかに記載の結合自由エネルギーの算出方法。
- 前記距離(Dth)が、前記結合状態(λ=0)における前記化合物及び前記タンパク質の距離についてシミュレートして得られる結果の前記距離の頻度分布における最小値から90%〜100%の距離から選択される請求項1から3のいずれかに記載の結合自由エネルギーの算出方法。
- 前記結合自由エネルギーが、クーロン相互作用と、レナードジョーンズ相互作用とに分けて算出され、前記クーロン相互作用について計算した後に、前記レナードジョーンズ相互作用について計算する請求項1から4のいずれかに記載の結合自由エネルギーの算出方法。
- タンパク質と複数の化合物とについて、請求項1から5のいずれかに記載の結合自由エネルギーの算出方法により結合自由エネルギーを算出する工程と、
算出された前記結合自由エネルギーに基づいて化合物を選択する工程とを含むことを特徴とする化合物のスクリーニング方法。 - コンピューターに、
溶媒と化合物との溶媒和エネルギー(ΔG1)を算出する第1の工程と、
前記化合物及びタンパク質が結合した結合状態(λ=0)と、非結合である非結合状態(λ=1)との間のエネルギー変化(ΔG2)を算出する第2の工程とを実行させ、
前記第2の工程が、
前記結合状態(λ=0)の前記化合物及び前記タンパク質の距離に基づいて、構造サンプリングをする距離(Dth)を決定する処理と、
前記結合状態(λ=0)と前記非結合状態(λ=1)との間の状態であって、前記化合物と前記タンパク質との距離が前記距離(Dth)以下の距離である状態が存在する状態(λ=λm)について、前記距離(Dth)以下の距離の前記化合物と前記タンパク質との結合エネルギー変化(ΔG21)を算出する処理と、
前記非結合状態(λ=1)及び前記非結合状態(λ=1)と同一視できる状態(λ=λn)について、前記タンパク質の影響を無視して、前記溶媒と前記化合物との溶媒和エネルギー変化(ΔG23)を算出する処理と、
前記状態(λ=λm)と前記状態(λ=λn)との間の状態について、前記状態(λ=λm)及び前記状態(λ=λn)から補間して、前記化合物と前記タンパク質との結合エネルギー変化(ΔG22)を算出する処理と、
前記距離(Dth)から計算される空間の体積に基づいて、標準状態に対する補正項(ΔG24)を算出する処理とを含む、
ことを特徴とするプログラム。 - コンピューターに、溶媒と化合物との溶媒和エネルギー(ΔG1)を算出する第1の工程と、前記化合物及びタンパク質が結合した結合状態(λ=0)と、非結合である非結合状態(λ=1)との間のエネルギー変化(ΔG2)を算出する第2の工程とを実行させるプログラムを記録したコンピュータが読み取り可能な記録媒体を備え、
前記第2の工程が、
前記結合状態(λ=0)の前記化合物及び前記タンパク質の距離に基づいて、構造サンプリングをする距離(Dth)を決定する処理と、
前記結合状態(λ=0)と前記非結合状態(λ=1)との間の状態であって、前記化合物と前記タンパク質との距離が前記距離(Dth)以下の距離である状態が存在する状態(λ=λm)について、前記距離(Dth)以下の距離の前記化合物と前記タンパク質との結合エネルギー変化(ΔG21)を算出する処理と、
前記非結合状態(λ=1)及び前記非結合状態(λ=1)と同一視できる状態(λ=λn)について、前記タンパク質の影響を無視して、前記溶媒と前記化合物との溶媒和エネルギー変化(ΔG23)を算出する処理と、
前記状態(λ=λm)と前記状態(λ=λn)との間の状態について、前記状態(λ=λm)及び前記状態(λ=λn)から補間して、前記化合物と前記タンパク質との結合エネルギー変化(ΔG22)を算出する処理と、
前記距離(Dth)から計算される空間の体積に基づいて、標準状態に対する補正項(ΔG24)を算出する処理とを含む、
ことを特徴とする結合自由エネルギーの算出装置。
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