JP2014175617A - 高電気抵抗強磁性薄膜 - Google Patents

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Abstract

【課題】GH帯域において透磁率が安定していることが要求される電子部品に適した磁性薄膜を提供する。
【解決手段】一軸磁気異方性を有する強磁性薄膜の組成は一般式L100−a−bで示され、LはFe,Coおよび/またはNiであり、MはLi、Be、Mg、Al、Ca、Sr、Baおよび/またはYであり、Fはフッ素であり、かつ組成比a、bは原子比率であり、aが9%以上50%以下、bの原子比率が16%以上60%以下であり、かつa+bの合計の原子比率が25%以上70%以下である。薄膜の電気抵抗率が1.5×10μohm・cm以上、飽和磁化が5kG以上、かつ異方性磁界が10Oe以上である。
【選択図】図1

Description

本発明は、電子機器の部品に使用される高電気抵抗薄膜に関する。近年、電子機器における情報処理・伝送の高速化が急速に進展しており、それらの動作周波数が、従来の高周波帯域(1000MHz以下)から準マイクロ波帯域(300MHz〜3GHz、特にGHz帯域)及びそれ以上(センチメートル波帯域、3GHz以上)にまで高まっている。また、電子機器の多機能化および小型化に対応して、内部容積の大部分を占める電子部品が小型化されており、さらには、半導体能動電子部品内に受動電子部品の集積化される、いわゆるオンチップ化も進んでいる。このように電子部品の小型化及び集積化が進展している状況において、電子部品として欠かせないインダクタ,カプラ,バラン等の高周波磁気デバイスも同様に小型化が必要である。このためには、従来のコイル部品に磁性体を導入することが非常に有効である。
しかし、以下に述べる既存の磁性材料は、高周波帯域まで充分な特性を維持できず、利用できない。
合金系金属材料
これらの金属材料としては、Fe、Co、Niもしくはそれらを含む合金が代表的なものである。金属材料は、材料物性としての磁気特性は非常に良好であるものの、電気抵抗率が1×100 〜1×101 μohm・cm台と極めて小さいために、一般に、1 MHz以上の高周波帯域では、磁性材料内部に渦電流が発生し大きな損失をもたらす。後に詳しく説明するように、この損失低減のためにこれらを薄膜化するならば、膜厚は極めて薄くなってしまい、デバイス適用時の実効的透磁率は小さい。他方、上記の磁性金属とPdやPtなどの貴金属との合金は、大きな磁気異方性を示す。大きな磁気異方性は、所望する高周波材料を得るために有利な特性であるが、その一方で保磁力も大きくなるため、信号処理用電子機器部品への材料として取り扱うことが困難である。
フェライト
一方、フェライトは酸化物であり電気抵抗率が大きいので、渦電流による損失は小さい。しかし、飽和磁化および異方性磁界が本質的に小さく、磁気モーメントの回転における歳差運動の散逸摩擦係数(ダンピング定数)が大きいので、周波数に対し緩慢な透磁率の共鳴が比較的低い周波数で起こる、言い換えれば透磁率の虚数部が所望の使用周波数帯域で大きくなることによって、GHz帯域での低損失利用には制限がある。このように、フェライトがGHz帯域での応用に不向きなため、特にGHzを超えて十分な磁気特性を有するものとしては金属材料の他なかった。
アモルファス磁性材料
アモルファス材料は、メタロイドや電気抵抗率の高い金属を含有することによって電気抵抗率が高くなり、非晶質構造に起因する磁気特性を有しているので、結晶系材料に替わり高周波磁性の研究が活発に行われてきた。その電気抵抗率は1×103 μohm・cm程度に大きいものもあるが、このような高電気抵抗率を示すアモルファス磁性材料については磁気特性の大幅な劣化を伴うため、良好な高周波磁気特性を得るためには、1×102 μohm・cmオーダーの低い電気抵抗率の材料を用いることになることから、上記の合金系金属材料と同様に、実用に耐えうるGHz対応の磁性材料は現時点で存在しないと言える。
薄膜電子部品
既存材料を本出願で対象とする周波数帯域で低損失動作するデバイスに適応しうるようにするため、これらを薄膜化した上で、膜厚を表皮深さの3分の1以下の厚さになるようにし、さらにその薄膜をスリット加工するなどして渦電流の経路を寸断するなどの工夫によって、渦電流損失を最小限にする検討が多く試されてきた。ところが、電気抵抗率の小さな磁性薄膜の表皮深さは、ごく浅いことから、渦電流損失を低減させるためには膜厚を極めて薄く、具体的にはサブミクロンオーダーまで薄くせざるをえないため、磁性体の体積を著しく減少させる。また、スリット加工は、同様に磁性体の体積減少や、意図せぬ形状効果によって反磁界および磁束の局所集中を発生させるなどの不具合もある。スピネル型フェライトにおけるスネークの限界則のように一義的ではないものの、金属材料においても透磁率の絶対値と高周波限界性能にはトレードオフの関係にあるため、GHzに対応するような材料は透磁率が比較的小さいこともあり、このような体積減少や不具合は、デバイスの磁気回路における実効透磁率を極めて小さくする。よって、従来のコイル構造に磁性体を導入した電子部品のインピーダンスは、磁性体を用いない同構造の空芯部品との有意差を十分に示すことができなくなるどころか、むしろ損失の大きさが顕著となる。つまり、既存材料では数〜数十μmの厚い膜を用いる必要が生じてしまうので、高周波帯域での低損失駆動のためには磁性体の電気抵抗率の向上が必須である。
ナノグラニュラー材料
従来技術では、高周波帯域(特にGHz帯域)での用途において、磁性体を用いた電子部品は未だ実用化に至っていない。ところで、非特許文献1:「まてりあ」Vol.41, 2002(No.6),第402〜409頁、「ナノグラニュラー磁性薄膜の動向と展望」では、本出願人の研究者が、優れた高周波軟磁性特性を得るためには、大きな異方性磁界(Hk)、飽和磁化(Bs)及び高い電気抵抗率が同時に実現される必要があることを解説し、また酸化物系ナノグラニュラー薄膜の研究例を紹介している。例えば、FeやCoなどの強磁性金属が酸化物のセラミックスからなるマトリックスに分散したナノグラニュラー構造材料などである。ナノグラニュラー材料では、酸化物や窒化物の絶縁体にナノサイズ粒子状のFe、Coもしくはそれらの合金からなる強磁性グラニュールが分散した構造であり、磁性グラニュールによる高い飽和磁化と絶縁体セラミックスによる高い電気抵抗率を併せ持っている。
続いて、特許文献で発表された高電気抵抗膜の従来技術を述べる。
特許文献1:特開2001−94175号公報は、室温においてMR比の値が3%以上の大きな磁気抵抗効果を示し、105μohm・cm以上の電気比抵抗を有する高電気比抵抗磁気抵抗膜として、本出願人が提案したものである。この膜中にはフッ化物からなる絶縁物マトリックスにナノメーターサイズの磁性グラニュールが分散している。
特許文献2:特開平7−86035号公報は、電気抵抗と飽和磁化が共に高い軟磁性薄膜で、高周波特性の優れた一軸磁気異方性薄膜に関する。この薄膜の組成が、一般式 Fe100-x-y-z Mx Ny Lz (原子%)で示され、MはBe, B, Mg, Al, Si, Ca, Ti, Y,Zr,Mo,In, Sn,Cs,Ba, La,Hf,Ta,Bi,Pbおよび/またはWであり、LはOおよび/またはFであり、それぞれの原子比率が、5≦x ≦25、0≦y ≦15、15≦ z ≦35、28≦x+y+z≦50である。薄膜の結晶構造は、主にbcc-Fe構造とMの酸化物相あるいはフッ化物相からなる。特許公報2が提案する一軸磁気異方性薄膜は軟磁性膜の最高電気抵抗値は1000μohm・cmであり(段落番号0012)、また、実施例で測定されている薄膜の透磁率の最大周波数は500MHzである。
特許文献3:特開平9−82522号公報は、適度な大きさの一軸磁気異方性を有し、且つ大きな電気抵抗と高い飽和磁化とを有し、透磁率の高周波特性の優れた磁性膜として、本出願人が提案したものである。磁性膜の組成は、一般式(Co1-aFea100-X-YMXOYで示される酸化物系材料である。MはAl, Dy,Er,Gd,Hf, Li, Mg, Nd,Sc,Sr,Tm,Y, Ybおよび/またはZrであり、その組成比aはa<0.3、xおよびyは原子%で8<x<12,27<y<37で、且つ 36<x+y<48である組成と少量の不純物からなる。また、異方性磁界が50Oe以上100 Oe以下、飽和磁束密度が8kG以上、電気抵抗率が300 μohm・cm以上1500 μohm・cm以下である。
特許文献3は、磁気特性について次のように説明している。(イ)磁性粒子が大きな異方性エネルギーを有していても、その大きさがナノサイズであって、それぞれの粒子の異方性エネルギーによって個々の粒子の磁化方向がバラバラな方位を持っているために、磁性体の全体のエネルギーがゼロに近づき、軟磁性になる。すなわち、粒径の減少に伴う実効的な結晶磁気異方性の低下により、優れた軟磁性が得られる。(ロ)グラニュールの粒径が100オングストローム(10nm)以上になると軟磁性が失われる。(ハ)粒界が厚いと粒子間の磁気的相互作用が失われ、軟磁性も失われる。
上記(イ)〜(ハ)は、ナノグラニュラー材料がこのような軟磁性を示すためには、(a)それぞれの磁性グラニュールが互いに磁気的な相互作用を及ぼす間隔で接近し、かつ(b)グラニュールの粒径が実効的な結晶磁気異方性の低下をもたらす直径より小さいことが必要であることを示している。一方、特許文献3から、磁性Co粒子の粒径が100オングストローム(10nm)を超えると垂直磁気異方性が現れ、かつ軟磁性が失われることが分かる。
特許文献3の実施例において薄膜の透磁率を測定している周波数の最高値は500MHzであり、また、達成された最大の電気抵抗率は1500μohm・cmである。
特許文献4:特開2007−173863号公報も同様に本出願人が提案した酸化物系一軸磁気異方性膜である。
特許文献5:特開2012−69428号公報は、本出願人が提案したナノグラニュラー構造を有する薄膜誘電体に関するものである。この薄膜誘電体の組成が一般式FeaCobNicMwNxOyFzで表わされ,M成分はMg,Al,Si,Ti,Y,Zr,Nb,Hf,および/またはTaであり,組成比a,b,c,w,x,y,zは原子比率(%)で、0≦a≦60,0≦b≦60,0≦c≦60,10<a+b+c<60,10≦w≦50,0≦x≦50,0≦y≦50,0≦z≦50,20≦x+y+z≦70、a+b+c+w+x+y+z=100で表わされるとともに、Fe,Coおよび/またはNiからなり、かつnmサイズを有する金属グラニュールが、M成分とN,Oおよび/またはFからなる絶縁体マトリックスに分散している。誘電率及び誘電損失などの誘電特性以外に、電気抵抗率は1× 104〜 1×1015 μohm・cmであることも記載されている。
特許文献1:特開2001−94175号公報
特許文献2:特開平7−86035号公報
特許文献3:特開平9−82522号公報
特許文献4:特開2007−173863号公報
特許文献5:特開2012−69428号公報
非特許文献1:「まてりあ」Vol.41, 2002(No.6),第402〜409頁、「ナノグラニュラー磁性薄膜の動向と展望」
準マイクロ波帯域での透磁率に関係するナノグラニュラー材料の物性について次のとおり考察した。
電気抵抗率:渦電流損失は、周波数に比例し電気抵抗率に反比例する。準マイクロ波領域もしくはそれ以上での渦電流損失を少なくするためには、従来よりも十分に高い電気抵抗率が必要である。ナノグラニュラー材料で電気抵抗率を高くするためには、電気伝導がグラニュール間の絶縁体セラミックスからなるトンネルバリア(粒界)を介したトンネル伝導によることが必要である。これを達成し、例えば、電気抵抗率が1.5×103 μohm・cmとなった場合、電気抵抗率の平方根に比例および周波数と透磁率を掛け合わせた値の平方根に反比例する表皮深さは、仮に透磁率が100で、周波数が1 GHzでは約6 μm、透磁率15では5 GHzで約6μmとなるので、いずれの例でも2 μmの厚さの膜を利用できる。電気抵抗率がそれ以上となると、より厚い膜を利用することができる一方、膜厚を増加させない場合は、より渦電流が流れにくくなる。
強磁性:特許文献3など従来の薄膜はナノグラニュラー構造の磁性金属グラニュールの粒径がナノサイズであり、磁性金属グラニュール間の磁気的な相互作用によって強磁性を発現することを利用して、高周波帯域において安定した透磁率を達成している。一方、特許文献3では不所望とされている超常磁性は、(A)それぞれの磁性金属グラニュールが互いに磁気的相互作用を及ぼさない距離に離れ、かつ(B)磁性金属グラニュールの粒径が室温において超常磁性の臨界粒径より小さいことが必要である。本発明者らの研究によると、超常磁性ナノグラニュラー材料の透磁率は極めて小さく、準マイクロ帯域において実用に十分な大きさの透磁率を得ることができない。
異方性磁界:非特許文献1が考察しているように透磁率の磁気共鳴周波数を高くするためには、異方性磁界が高いことが必要である。
透磁率の共鳴周波数:材料が強磁性共鳴したとき、その透磁率の虚数部(損失項)は、共鳴周波数で極大となるが、この極大値をメジアンとしたガウス分布的分散を示しており、共鳴周波数周辺でもある程度の値を示す。よって、300 MHz以上で安定した透磁率(実数部)を低損失で発現するために、透磁率の共鳴周波数は、一般的に使用周波数の2倍以上必要であると言われている。つまり、600 MHz以上であり、特に近年の最新機器の駆動周波数の増加に対応させるなら1 GHzを超えることが重要となる。透磁率の共鳴周波数は飽和磁化と異方性磁界を掛け合わせた値の平方根に比例し、例えば飽和磁化が5 kG以上、かつ異方性磁界が10 Oe以上の組み合わせで1 GHz以上となる。
以上、説明した従来技術の検討及び本発明者らの研究を総括すると、従来のナノグラニュラー構造をもつ磁性材料薄膜は、GHz帯域において透磁率が安定していることが基本特性として要求される電子部品に適していないので、本発明は、産業上の利用分野で説明した電子部品に適した薄膜を提供することを目的とする。
本発明は、非常に大きな電気抵抗率と強磁性を示し、かつ一軸異方性を有するナノグラニュラー磁性薄膜を提供することにより上記課題を解決する。かかる磁性薄膜の基本となる物理的原理を説明する。
ナノグラニュラー構造において、磁性金属グラニュール(以下「グラニュール」という)同士が磁気的な相互作用を及ぼす前掲(A)は、グラニュールの距離が交換相互作用を生ずる程度に近いことを要求する。しかし、グラニュール同士が接触すれば磁気的にも結合するが、金属同士が接触するために電気抵抗率が大幅に減少してしまう。そのため、絶縁体で電気的に分断されている必要があるが、1nm程度より狭いグラニュール間距離では、グラニュール間の磁気的な相互作用と、量子効果による絶縁体を介しての電子のトンネル伝導の両方が起こる。トンネル伝導による電気伝導を呈する物質の電気抵抗率は、金属伝導のそれよりも大きい。但し、絶縁体による本来の絶縁性は大幅に損なわれることになるので、この本来の絶縁性が特に優れる材料の選択が重要となる。ここで、窒化物や酸化物絶縁体は、製造方法を工夫してもグラニュラー構造においては結晶構造にならず、アモルファス構造となるため、結晶構造に比べて数分の一程度にバンドギャップが低下するので、伝導電子のトンネル確率が増加し、電気抵抗率が小さくなってしまう。これに対して、フッ化物絶縁体は、後述する理由により、磁気的結合を生じる1nm程度以下の距離におけるトンネル伝導が生じても、高い電気抵抗率を達成することができる。
次に、グラニュラー構造において実効的な結晶磁気異方性の低下が生じ軟磁性をもつためには、グラニュール同士が磁気的に結合しなければならない(B)。この要件(B)を満たすためには、グラニュールの体積総量を増す必要があるため、薄膜中の金属量が多くなる。この場合、相対的に絶縁体セラミックス量が減少するために、個々のグラニュールを孤立させる量に足りなくなり、金属グラニュールが接触する箇所が増え電気抵抗率は低下してしまう。この問題は、以下考察するフッ化物絶縁体を使用することにより解消することができる。
フッ化物結晶からなるナノグラニュラー構造は、高い電気抵抗率を有している。この理由は、MgF2、CaF2等のフッ化物はAl2O3等の酸化物に比べてバンドギャップが大きく(MgF2:11.8eV,Al2O3:7〜9eVいずれも結晶状態での値)、ナノグラニュラー構造膜のトンネルバリアを伝導電子が通過する確率が下がるので、電気抵抗率が高くなることである。フッ化物を用いたナノグラニュラー構造膜において特長的なのは、窒化物や酸化物を用いた場合とは異なり、フッ化物が結晶構造をなすことである。結晶構造であるということは、組成も化学量論組成近くに安定したものであり、アモルファス構造の材料とは異なってバンドギャップの低下がなく、さらには材料製造時におけるグラニュールを構成する金属とフッ化物の混合が抑制されるため、従来と比較して高電気抵抗化を非常に高い次元で達成することが可能である。また、こうような絶縁体を用いれば、グラニュール同士の接触が増加して電気抵抗率が低下しているような領域の金属量の材料においても、従来材料と比べて相対的に電気抵抗率は高くなる。
以上の物理的考察に基づいて完成した本発明の特徴とするところは次の通りである。
第一発明は、一般式L100-a-bMaFbで示され、LはFe、CoおよびNiから選択される1種以上の元素であり、MはLi、Be、Mg、Al、Ca、Sr、BaおよびYから選択される少なくとも1種以上の元素であり、Fはフッ素であり、かつ組成比a,bは原子比率であり、aが9%以上50%以下で、bの原子比率が16%以上60%以下であり、かつa+bの合計の原子比率が25%以上70%以下であるとともに、電気抵抗率が1.5×103 μohm・cm以上、飽和磁化が5kG以上、かつ異方性磁界が10 Oe以上であることを特徴とする一軸磁気異方性を有する強磁性薄膜に関する。
第二発明は、前記Lが、前記Fe、Co、Niから選択される1種以上の元素と、Pd、Ptから選択される1種以上の元素の合金であり、該合金中のPd、Ptの含有量は50原子%以下であることを特徴とする第一発明の一軸磁気異方性を有する強磁性薄膜に関する。
第三発明は、前記Lからなり、平均粒径が50 nm以下の磁性微粒子が、前記MとFのフッ化物からなる絶縁体マトリックスに均一に分布したナノグラニュラー構造を有することを特徴とする第一または第二発明の一軸磁気異方性を有する強磁性薄膜に関する。
第四発明は、GHz帯域で使用されるインダクタ、カプラ、バランなどの高周波磁気デバイスに組み込まれる磁性材料部品として使用される一軸磁気異方性を有する強磁性薄膜に関する。
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明(第一発明)の強磁性薄膜の組成を表す一般式L−M−Fにおいて、MとFの合計の原子比率が25%未満の場合は、金属Lからなるグラニュールの接触が増加し、電気抵抗率が減少してしまう。また、MとFの合計の原子比率70%を超える場合には、金属Lからなるグラニュール間の距離が大きくなることで磁気的に結合するグラニュールが減少し、膜の磁性が失われる。M成分は、Fと結合し絶縁体セラミックスを形成する。Mの含有量が9%未満であると絶縁体の非化学量論性が顕著になり、余剰電子によって絶縁性が低下するため、フッ化物以外の絶縁体を用いた場合と電気抵抗率に有意差がない。また、F量が60 %を超える場合は、Fが極めて過剰となり、この過剰なFがグラニュールを形成するLとも結合して金属グラニュールの磁気特性劣化及びグラニュール自体の形成を抑制することになるので、Mの原子比率が9%以上50 %以下、Fの原子比率が16 %以上60 %以下、かつMとFの合計の原子比率が25%以上70%以下とする。
図1には、後述の実施例で行った方法で成膜した、LがFeとCoからなり、MがMg、AlまたはCaのいずれかからなる薄膜について、膜中のMとFの合計と電気抵抗率および飽和磁化の関係を示した。MとFの合計が請求項1と一致する25%以上70%以下の組成範囲において、1.5×103μohm・cm以上の電気抵抗率と5kG以上の飽和磁化の両方を満たすことが分かる。
本発明の強磁性薄膜は、前記した組成範囲において、1.5×103 μohm・cm以上の電気抵抗率と5 kG以上の飽和磁化を得ることができる。電気抵抗率が1.5×103 μohm・cm未満の場合は、渦電流損失が増大し、従来材料に対して優位性が無い。また、飽和磁化が5 kG未満および異方性磁界が10 Oe未満の場合は、透磁率の強磁性共鳴周波数が低く既存のフェライトと同程度あり、優位性がない。本発明の強磁性薄膜においては、1.5×103 μohm・cm以上の電気抵抗率、5 kG以上の飽和磁化および10 Oe以上の異方性磁界を同時に示すことが必要である。
本発明(第二発明)では、Lからなる磁性金属グラニュールを、化学的に極めて安定なPdまたはPtの貴金属を含む合金とすることによって、磁性金属グラニュールの抗フッ化性を高め、フッ化物絶縁体との相分離を促進する。磁性金属グラニュールを構成するLの元素がFと結合してしまうと、膜の飽和磁化が減少するが、Pd、Ptはこれを最小限に抑制する効果がある。さらに、Pd、Ptは異方性磁界を著しく大きくする効果も有している。しかしながら、Pd、Ptは非磁性金属であるためxが50原子%を超えると飽和磁化が減少し、好ましくない。
本発明(第三発明)のナノグラニュラー構造は、スパッタ法によって、磁性金属相とフッ化物相からなるネットワーク状の微細組織の薄膜を作製することによって、得られる。これらのナノグラニュラー膜は、スパッタ法、例えばRFスパッタ成膜装置を用い、磁性金属ターゲット、例えばFe、Co、 Niあるいはそれらの合金による円板と、フッ化物絶縁体ターゲット、例えばMgF2、CaF2等の焼結体を同時にスパッタして作製する。成膜は磁場中あるいは無磁場中で行い、成膜後の熱処理は、例えば静磁界中および回転磁界中、あるいは無磁場中で、100℃から500℃の範囲のそれぞれの温度で適当な時間、例えば5分〜5時間保持し、その後、これらの膜を静磁界中で成膜あるいは熱処理する。これらの成膜方法および熱処理のいずれによっても異方性磁界を付与することができる。
本発明(第四発明)は各種材質、形状寸法の基板上にサブミクロンから数十μmの厚さの強磁性薄膜を成膜することにより、電子機器の磁性部品の小型化を可能にする。
続いて、本発明の強磁性薄膜の成膜方法を説明する。
本発明の強磁性薄膜は、コンベンショナルなスパッタ装置、RFスパッタ装置で成膜することができ、これは工業的にも大きな利点である。スパッタ法又はRFスパッタ成膜装置を用い、純Fe、純Co、純Ni、あるいはFe、Co、Niのいずれか2種以上とPd、Ptのいずれか1種以上を含む合金円板上に、M元素を含むフッ化物の絶縁体のチップを均等に配置した複合ターゲットを用いるか、あるいは金属ターゲットと絶縁体ターゲットに同時に電力を投入するなどの方法で、ターゲットに対向して配置された基板上にスパッタ成膜すると、磁性グラニュールと絶縁体が分散したナノグラニュラー構造膜が得られる。
また、基板近傍に永久磁石を配置するなど、成膜中に静磁界を印加することによって磁気異方性を誘導し、異方性磁界を付与することで、所望の磁気特性の薄膜が得られる。
より具体的には、コンベンショナルタイプのRFスパッタ装置、RFマグネトロンスパッタ装置あるいはDC対向ターゲットスパッタ装置を用い、直径70〜100mmの純Fe、純Co、純NiあるいはFe、Co、Niのいずれか2種以上とPd,Ptのいずれか1種以上を含む1個以上の合金円板ターゲット、さらにM元素を含むフッ化物ターゲットを同時にスパッタすることにより、薄膜を作製する。スパッタ成膜に際しては、スパッタガスに純Arガスを用いる。膜厚のコントロールは成膜時間を加減することによって行い、約0.3〜30μmに成膜する。尚、基板は間接水冷あるいは100〜800℃の任意の温度に熱し、成膜時のArガス圧力は1〜60mTorrで、スパッタ電力は50〜350Wである。また、基板ホルダーに一対の永久磁石を配置し、基板表面に80〜500 Oeの静磁界を印加することができる。
段落番号0020で触れたグラニュールの体積割合を大きくするためには、金属ターゲットとフッ化物ターゲットのそれぞれから飛び出す粒子の量を個別に制御する必要がある。即ち、金属グラニュールと多結晶フッ化物の粒径が薄膜中で一定である薄膜を想定して、多くのグラニュール成分がターゲットから飛び出し基板上にデポジットするように金属ターゲットの電力を相対的に大きくすると強磁性薄膜となり、一方でフッ化物ターゲットへの投入電力を相対的に大きくすると超常磁性薄膜となるので、金属ターゲットとフッ化物ターゲットとの電力比率が、1対5より大きくならないようにすることが好ましい。
さらに、成膜後あるいは成膜中の100〜800℃の熱処理により磁気特性を調整することができる。また、10 Oe〜 10 kOeの静磁界中もしくは回転磁界中で熱処理することによって、異方性磁界の制御が可能である。但し、熱処理温度は、100℃未満では効果はなく、800℃を越えると薄膜成分全体が全率固溶して構造が一様化してしまい、ヘテロ構造であるナノグラニュラー構造は得られない。
さらに、上記したスパッタ条件の範囲内で、成膜及び熱処理条件を調整すると、(1)金属グラニュールの粒径や分散状態、(2)フッ化物絶縁体の構造や状態、(3)フッ化物絶縁体の結晶構造、(4)グラニュールとフッ化物絶縁体との接合界面、(5)絶縁体やグラニュール内の原子数個程度の不純物や界面での原子の配置や移動など、原子レベルでの構造変化などに若干の影響を与える。
本発明の強磁性薄膜は、強磁性を有する金属ナノグラニュールとフッ化物絶縁体粒界相から構成される。フッ化物粒界相は強磁性ナノグラニュールを囲むように存在し、ナノグラニュールが互いに接触しない部分が大多数となるので電気抵抗率が高くなり、以下詳述するようにマイクロ波帯域で安定した透磁率を実現することができる。
(イ)フッ化物絶縁体は酸化物絶縁体に比べて大きなバンドギャップを有するため、グラニュールが磁気的な相互作用を及ぼすほどに接近しても、伝導電子のトンネル確率は従来材料の窒化物・酸化物絶縁体に比べて非常に低いので、トンネル伝導電子のコンダンクタンスが小さくなり、大きな電気抵抗率を示す。さらに、フッ化物粒界相は結晶構造を有するために、アモルファス化する従来材料とは異なってバンドギャップが減少しない。
(ロ)従来材料とは異なり、高電気抵抗率を示す領域においても強磁性を示す。本出願人が提案した特許文献3の図5には、絶縁体が酸化イットリウムで、金属グラニュールがCoであるCo70Y7O23薄膜の磁化曲線が示されている。この図5の薄膜にあっては、磁化容易方向の磁化曲線のループが垂直に立ち上がっており、保磁力がほとんどゼロであるために強磁性でかつ一軸異方性を有しているが、電気抵抗率は3×102 μohm・cmと低い。この組成系において、電気抵抗率を本請求範囲内にまで高めるためにCo量を減少させると、強磁性は失われ超常磁性になってしまう。つまりは、磁化容易および困難方向が判別できず、保磁力や残留磁化を生じない磁化挙動となる。一方、本発明の薄膜の磁化曲線は後述の試料番号7に関して図4に示すように、金属総量が57%程度まで少なくなって、電気抵抗率が1×106μohm・cmのオーダーとなっても、磁化容易方向と困難方向が容易に判別でき、保磁力や残留磁化、そして困難方向からは異方性磁界も観測される強磁性を示す。
(ハ)本出願人の提案した特許文献3の図5の膜と、後述する本発明の試料番号22の膜に関して表2に示した特性と比較すると、磁化困難方向の磁化特性の傾きから読み取られる異方性磁界は、前者で80 Oeであるのに対し、後者で500 Oeと極めて大きくなっており、かつ電気抵抗率も2×103 μohm・cmと、前者の約10倍になる高い値を保っていることから、GHz領域での実用化に適した透磁率特性の発現に有効である。
(ニ)マイクロ波領域での安定した透磁率特性を得るためには、強磁性共鳴周波数が高い必要がある。共鳴周波数を高くするためには、大きな異方性磁界と同時に大きな飽和磁化が必要である。本出願人の提案した特許文献3の図5の膜と、後述する本発明の試料番号4の膜に関して表2に示した特性と比較すると、飽和磁化は同等であるが、前者の電気抵抗率が3×102 μohm・cmであるのに対し、後者は100倍以上の値(5.1×104 μohm・cm)を呈している。試料番号4の試料からさらに金属グラニュール成分を増加させた試料番号21においては、飽和磁化が12 kGに増加する一方で、電気抵抗率も5.0×103 μΩ・cmと高い値を保っているため、GHz領域での安定した透磁率を示す実用的材料を得ることができる。
以下、本発明を実施例を参照してさらに詳しく説明する。
〔実施例1〕
予備実験
基板には、約0.5mm厚のコーニング社製#7059(コーニング社の商品名)ガラス、約0.5mm厚のコーニング社製イーグル2000(コーニング社の商品名)ガラス、0.5mm厚で表面を熱酸化したSiウエハ、0.5mm厚の石英ガラス、もしくは同様に約0.5mm厚のMgOを用い、さらに、膜厚を0.5〜3μmの範囲で変化させた試料番号7の薄膜の磁気特性を測定したところ、基板種類や膜厚と関係なく磁気特性ほとんど同じであったために、以下の実験では次のような実験条件の範囲で行った。
実施例における強磁性薄膜の作製方法及び条件
成膜装置:RFマグネトロンスパッタ装置・DC対向ターゲットスパッタ装置
基板:#7059ガラス、イーグル2000ガラス、石英ガラス、Siウエハ
膜厚:0.3〜10μm
基板温度:水冷〜800℃
スパッタ圧力:0.3〜20mTorr
スパッタ電力:50〜350W
基板への印加磁界:80〜320 Oe
熱処理:未処理、または100℃〜800℃の所定の温度で真空中の磁界無し、10 Oe〜10 kOeの静磁界中または回転磁界中にて5分〜5時間保持
強磁性薄膜の評価方法
前記のようにして作製した薄膜試料は、その磁化曲線を試料振動型磁化測定装置(VSM)で測定し、高周波透磁率特性をシールデッド・ループコイル法で測定した。また、電気抵抗率は直流4端子法を基本とする電気抵抗率の測定装置を用いて測定し、膜組成はエネルギー分散型分光分析法(EDS)、あるいは波長分散型分光分析法(WDS)によって分析した。また、膜の構造は、Cu−Kα線を用いたX線回折法(XRD)および高分解能透過型電子顕微鏡(TEM)によって解析した。それぞれの薄膜試料の組成および各温度条件を表1に、諸特性を表2に示す。

Figure 2014175617
Figure 2014175617
図2には試料番号5のTEM像を示す。膜は、粒径が4〜10nm程度のグラニュール(黒っぽい球形の部分)と、絶縁体 (グラニュール間の白っぽい部分)からなる、ナノメーター(nm)オーダーの微細構造であるグラニュラー構造であることが分かる。また、図3には試料番号6のXRD図形を示す。2θが25°および52°付近にはAlF3からなるフッ化物からのピーク、また2θが44°付近には膜中の磁性金属グラニュール(鉄,コバルト)に対応するピークが観察され観察される。図3において、磁性金属グラニュールのピークの半値幅から、シェラーの式を用いて計算されるグラニュールの粒径は10〜25nmである。以上のことから、これらの膜が微細なナノグラニュールと絶縁体であるフッ化物相の2相からなるナノグラニュラー構造であることがわかる。
試料番号7の磁化ループを図4に示す。図中の2つの磁化ループは、VSMを用いて磁化容易方向と磁化困難方向とで測定したものであり、膜面内に一軸磁気異方性を有することを示している。異方性磁界は35 Oeである。尚、異方性磁界は困難軸方向の磁化曲線の傾きから決定した。また、飽和磁化は7.5 kGであるので、透磁率の共鳴周波数は、1.44 GHzである。この試料の電気抵抗率を直流4端子法により測定したところ、3.9×106μohm・cmと大きな値を示す。
図5に試料番号14の静磁化ループを示した。尚、この試料には、真空中で1 kOeの磁界を磁化容易方向に印加し、290℃で5分保持の熱処理を施してある。図中の2つの磁化ループは、磁化容易方向と磁化困難方向で測定したものであり、膜面内に一軸磁気異方性を有することを示している。困難軸方向の磁化曲線の傾きから決定した異方性磁界は、290 Oeである。また、図では最大磁化が4.5kG程度に見えるが、まだ磁化飽和に至っていないためであり、さらに印加磁界強度を高めると5.2 kG以上の飽和磁化値を示す。透磁率の共鳴周波数は、3.53 GHzである。この試料の電気抵抗率を直流4端子法により測定したところ、2.8×104μohm・cmであった。この膜の最も特長的であるところは、磁性金属にPdを含んでいることで異方性磁界が極めて大きいことであり、透磁率の周波数限界の高周波化に大きく寄与する。同じくPdやPtを含む試料番号22などにおいても、その他の磁性金属を用いた試料よりも異方性磁界の増加が確認できる。
図6には試料番号8の磁化困難軸方向の比透磁率の周波数特性を示す。本試料には、1000MHzを超えても透磁率の減少は少なく、透磁率が大きく減少する強磁性共鳴周波数は3000MHz付近であり、1GHz(1000MHz)以上の帯域までの安定した高周波特性を示している。さらに、図7には試料番号9の磁化困難軸方向の比透磁率の周波数依存性を示す。尚、この試料は真空の1kOeの回転磁界中(10rpm)において、240℃で5時間保持の熱処理を施した。透磁率の値は、約600と高い値を示し、かつ1000MHz以上の高周波帯域までほぼ一定値を維持しており、良好な高周波特性を有していることがわかる。これらの周波数特性は、本発明の強磁性薄膜が、高い飽和磁化と異方性磁界、並びに高い電気比抵抗を有していることによるものである。
比較例
RFマグネトロンスパッタリング装置を用いて、直径4インチのターゲットをスパッタリングして、厚さ約2μmの薄膜を作製した。尚、このときのターゲット組成はCo85Al15であり、基板には約0.5mm厚のコーニング社製#7059ガラスを用いた。成膜時のスパッタ圧力は1〜10mTorrで、アルゴンガスに対する酸素の流量比は0〜3%であった。また、成膜中の基板には一軸磁気異方性が付与されるように、一対の永久磁石によって約130Oeの磁場が印加されている。なお、スパッタ投入電力は200W一定とした。
出来た試料の構造は粒径が50オングストローム以下の主Co相からなる微粒子と、厚さが約1 nmのAl-O系セラミックス相か粒界からなるネットワーク状の組織からなっていることが認められた。試料は成膜時の印加磁場方向と平行な一軸磁気異方性を有しており、その異方性磁界(Hk)の大きさは83 Oeであった。困難方向の保磁力(Hc)は2.2Oeであり、また、飽和磁化は11kGで、電気抵抗率は980μΩcmであり、磁気特性は本発明実施例と同等であるものの、電気抵抗率が一桁低いという結果が得られた。
電気抵抗率を向上させるために、ターゲット組成中のAlを増加させ、酸素流量比も増加させた。その結果、磁気特性が、安定した高周波透磁率の発現のためには不十分となるほど低下した。さらにAlおよび酸素を増加させると電気抵抗率はより増加するものの、本発明においては十分に強磁性を示す電気抵抗率領域である1×104 μohm・cmのオーダーでも強磁性は失われ超常磁性に磁化挙動が遷移した。
これは、金属グラニュールと絶縁体との体積比率が同じである前提において、絶縁体が、酸化物、この場合酸化アルミニウムであると、アモルファス構造であるが故に、電気抵抗率が低く、所望の電気抵抗率を得ようとして絶縁体の体積比率を増加させると、金属グラニュール間の距離が大きくなって超常磁性になってしまうことに起因する。本発明においては、絶縁体がフッ化物であるため電気抵抗率が高く、同様に金属グラニュール間距離が超常磁性に至るまで増加した際には、従来材料と比べて電気抵抗率が極めて高くなっている。
以上説明したように、本発明による高電気抵抗強磁性薄膜は、GHz帯域に及ぶ高い周波数帯域に比較的厚くとも対応するものであり、空芯部品と明確な有意差のある特性を低損失で実現するオンチップ高周波磁気デバイスの実用化に大きく寄与するものである。なお、以上主としてGHzオーダーのマイクロ波領域での用途について説明したが、図6および7から分かるように、GHz帯域に対応した本発明による高電気抵抗強磁性膜は、より低い周波数帯域では磁性損失も渦電流損失もより小さくなるため、例えば超短波帯域(30〜300MHz)や短波帯域(3〜30MHz)で使用されるデバイス用材料としても有効である。
本発明のL-M-F系薄膜のM成分とF成分の合計原子%に対する電気抵抗率及び飽和磁化を示すグラフである。 本発明実施例の試料番号5のTEM像である。 本発明実施例の試料番号6のXRD図形である。 本発明実施例の試料番号7の静磁化ループである。 本発明実施例の試料番号14の静磁化ループである。 本発明実施例の試料番号8の比透磁率の周波数依存性を示すグラフである。 本発明実施例の試料番号9の比透磁率の周波数依存性を示すグラフである。

Claims (4)

  1. 一般式L100-a-bMaFbで示され、LはFe、CoおよびNiから選択される1種以上の元素であり、MはLi、Be、Mg、Al、Ca、Sr、BaおよびYから選択される少なくとも1種以上の元素であり、Fはフッ素であり、かつ組成比a,bは原子比率であり、aが9%以上50%%以下、bの原子比率が16% 以上60%以下であり、かつa+bの合計の原子比率が25%以上70%以下であるとともに、電気抵抗率が1.5×103 μohm・cm以上、飽和磁化が5 kG以上、かつ異方性磁界が10 Oe以上であることを特徴とする一軸磁気異方性を有する強磁性薄膜。
  2. 前記Lが、前記Fe、CoおよびNiから選択される1種以上の元素と、Pd、Ptから選択される1種以上の元素の合金であり、該合金中のPd、Ptの含有量は50原子%以下であることを特徴とする請求項1に記載の一軸磁気異方性を有する強磁性薄膜。
  3. 前記Lからなり、平均粒径が2〜50 nmの磁性微粒子が、前記MとFのフッ化物からなる絶縁体マトリックスに均一に分布したナノグラニュラー構造を有することを特徴とする請求項1または2に記載の一軸磁気異方性を有する強磁性薄膜。
  4. GHz帯域で使用されるインダクタ、カプラ、バランなどの電子機器に組み込まれる磁性材料部品として使用される請求項1から3までの何れか1項に記載の一軸磁気異方性を有する強磁性薄膜。
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