図1から図10を参照して薄型基板処理装置の一実施形態の構成を説明する。以下では、薄型基板処理装置の一例であるスパッタ装置の全体構成、ガス冷却部の構成、搬送レーンの構成、基板固定部の構成、スパッタ装置の電気的構成、スパッタ装置での成膜処理、実施例の順に説明する。
[スパッタ装置の全体構成]
図1を参照してスパッタ装置の全体構成を説明する。
図1に示されるように、スパッタ装置10は、紙面の手前に向かって延びる箱状をなす搬出入室11と、同じく紙面の手前に向かって延びる箱状をなす真空室12とを備え、搬出入室11と真空室12との間には、これら処理室の間を連通あるいは遮断するゲートバルブ13が取り付けられている。搬出入室11は、紙面の左右方向である搬出入方向に沿って延び、真空室12は、紙面の上下方向である搬送方向に沿って延び、搬出入室11は、真空室12の搬送方向における略中央に接続されている。
搬出入室11には、搬出入室11内を排気する排気部11Vが搭載され、搬出入室11の底面には、搬出入方向に沿って延びる搬出入レーン11Lが設置されている。搬出入室11は、枠状のトレイTに取り付けられた成膜前の薄型基板としてのフィルム基板Sを外部から搬入し、搬出入レーン11Lによって真空室12に搬出する。また、搬出入室11は、搬出入レーン11Lによって成膜後のフィルム基板Sを真空室12から搬入し、外部に搬出する。
フィルム基板Sは、例えば紙面の手前に向かって延びる矩形板状をなす樹脂製の基板である。フィルム基板Sの幅は、例えば、紙面の左右方向に沿って500mmであり、紙面の手前側に向かって600mmであり、フィルム基板Sの厚さは、例えば80μmである。
フィルム基板Sの形成材料には、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、セルロース、および、これらの共重合樹脂が用いられる。また、フィルム基板Sの形成材料には、ゼラチン、および、カゼイン等の有機天然化合物が用いられる。
より詳しくは、フィルム基板Sの形成材料には、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチレンメタクリレート、アクリル、ポリカーボネート、ポリスチレン、トリアセテート、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、エチレン‐酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、金属イオン架橋エチレン‐メタクリル酸共重合体、ポリウレタン、セロファン等が用いられる。このうち、フィルム基板Sの形成材料には、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメチレンメタクリレート、および、トリアセテートのいずれかが用いられることが好ましい。
また、薄型基板は、フィルム基板に限らず、プリント基板を構成する基板、例えば、紙フェノール基板、ガラスエポキシ基板、テフロン基板(テフロンは登録商標)、アルミナ等のセラミックス基板、低温同時焼成セラミックス(LTCC)基板等のリジッド基板であってもよい。あるいは、これらの基板に金属で構成された配線層が形成されたプリント基板であってもよい。なお、本開示の技術による効果が高められるうえでは、薄型基板として、厚さが1mm以下の基板が用いられることが好ましく、厚さが100μm以下の基板が用いられることが更に好ましい。
真空室12は、反転室12A、第1成膜室12B、第2成膜室12Cを備え、第1成膜室12Bと第2成膜室12Cとが、搬送方向にて反転室12Aを挟んで配置されている。反転室12Aにおける搬出入室11と対向する面には、真空室12内を排気する排気部12Vが搭載されている。真空室12の底壁のうち第1成膜室12Bの底壁と第2成膜室12Cの底壁とには、搬送方向に沿って延びる搬送部としての搬送レーン12Lが設置され、2つの搬送レーン12Lの間には基板回転部12Rが反転室12A内に設置されている。
基板回転部12Rは、例えば、フィルム基板Sが載置される載置部と、反転室12Aの底壁に直交する軸を中心に載置部を回転させる回転モータ等を備えている。基板回転部12Rは、搬出入室11から搬入されたフィルム基板Sを紙面における例えば左回りに90°回転させることによって、フィルム基板Sを搬送レーン12L上に配置する。また、基板回転部12Rは、フィルム基板Sを同じく紙面における左周りに180°回転させることによって、フィルム基板Sにおけるゲートバルブ13と向かい合う面を変える。
第1成膜室12Bには、搬出入室11と向かい合う側壁に第1成膜部20Aが搭載され、第2成膜室12Cには、同じく搬出入室11と向かい合う側壁に第2成膜部20Bが搭載されている。第1成膜部20Aと第2成膜部20Bとの各々は、基板処理部の一例である。第1成膜部20Aと第2成膜部20Bとは、搬送方向にて、基板回転部12Rを挟んで配置されている。第1成膜部20Aと第2成膜部20Bとは、真空室12における搭載位置と、成膜する薄膜とが異なるものの、その他の構成は同様であるため、以下では、第1成膜部20Aの構成を説明し、第2成膜部20Bの構成の説明を省略する。
第1成膜部20Aは、フィルム基板Sに向かい合うターゲット21と、ターゲット21におけるフィルム基板Sとは向かい合わない面に取り付けられたバッキングプレート22を備え、バッキングプレート22には、ターゲット21に電力を供給するターゲット電源23が接続されている。ターゲット21の形成材料の主成分は、例えばチタンである。バッキングプレート22に対するターゲット21とは反対側には、ターゲット21におけるフィルム基板Sと向かい合う面に漏洩磁場を形成する磁気回路24が搭載されている。第1成膜部20Aは、第1成膜室12Bの側壁に接続され、第1成膜室12B内にスパッタガスを供給するスパッタガス供給部25を備えている。スパッタガス供給部25は、例えば、スパッタガスとしてアルゴンガスを供給する。なお、スパッタガスは、窒素ガス、酸素ガス、および、水素ガスのいずれかでもよく、あるいは、アルゴンガスを含むこれら4種のガスの少なくとも2つが混合された混合ガスでもよい。
第1成膜部20Aでは、スパッタガス供給部25が第1成膜室12B内にアルゴンガスを供給しているときに、ターゲット電源23がバッキングプレート22を通じてターゲット21に例えば高周波電力を供給する。これにより、第1成膜室12B内にアルゴンガスからプラズマが生成され、ターゲット21におけるフィルム基板Sと向かい合う面がプラズマ中の正イオンでスパッタされ、フィルム基板Sに向けてチタンを主成分とするスパッタ粒子Spが放出される。
なお、第2成膜部20Bでは、ターゲット21の形成材料の主成分が、例えば銅である。また、上述したターゲット21の形成材料の主成分は、チタンや銅に限らず、クロムであってもよい。あるいは、ターゲット21の形成材料の主成分は、チタン、銅、および、クロムのうちの少なくとも2つを含む合金であってもよい。
第1成膜室12B内における搬出入方向でのターゲット21と搬送レーン12Lとの間には、接地された板状のシャッタ26が搭載されている。シャッタ26は、例えば、開口部26aが形成されたシャッタ本体と、開口部26aを覆う位置と開放する位置とで変位する板状の被覆部と、被覆部の位置を変えるシャッタモータと、シャッタモータの回転運動をシャッタに伝える回転軸等を備えている。被覆部が開口部26aを覆う位置に配置された場合に、シャッタ26は、ターゲット21の表面全体を覆う。
基板回転部12Rは、反転室12A内に搬入されたフィルム基板Sを回転させることによって、フィルム基板Sを搬送レーン12L上に配置する。そして、搬送レーン12Lは、フィルム基板Sを第1成膜部20A、あるいは、第2成膜部20Bに向けて搬送する。これにより、搬送レーン12Lは、搬送方向におけるフィルム基板Sとターゲット21とが向かい合わない位置である非処理位置から、フィルム基板Sの全体とターゲット21とが向かい合う位置である処理位置にフィルム基板Sを搬送する。第1成膜部20Aと第2成膜部20Bとは、各成膜部20A,20Bに対応する処理位置に配置されたフィルム基板Sに対して薄膜を形成する。
第1成膜室12Bと第2成膜室Bとの各々には、冷却部としてのガス冷却部31が1つずつ搭載され、第1成膜室12Bのガス冷却部31は、第1成膜部20Aに対応する処理位置に配置され、第2成膜室12Cのガス冷却部31は、第2成膜部20Bに対応する処理位置に配置されている。各ガス冷却部31は、フィルム基板Sにおけるターゲット21とは向かい合わない面に接して冷却ガスを供給することによって、フィルム基板Sを冷却する。各ガス冷却部31には、搬出入方向におけるガス冷却部31の位置を変える変位部32が連結されている。
各変位部32は、例えば、ガス冷却部31におけるターゲット21とは向かい合わない面に連結されるシャフトと、搬出入方向でのシャフトの位置を変える変位モータと、変位モータの回転運動を直動運動に変更してシャフトに伝える伝達部等を備えている。各変位部32は、搬出入方向におけるガス冷却部31がトレイTに接する位置である接触位置と、搬出入方向におけるガス冷却部31がトレイTに接しない非接触位置との間で、ガス冷却部31の位置を変える。
ガス冷却部31の各々は、フィルム基板Sが処理位置に配置されたときに搬出入方向における接触位置に配置され、フィルム基板Sが搬送されるときには、搬出入方向における非接触位置に配置される。つまり、フィルム基板Sが搬送されるときには、ガス冷却部31がフィルム基板Sとは離れた位置に配置されるため、搬送中のフィルム基板Sとガス冷却部31とが接触することが抑えられる。
[ガス冷却部の構成]
図2および図3を参照してガス冷却部31の構成をより詳しく説明する。
図2に示されるように、ガス冷却部31は、紙面の手前に向かって延びる板状をなす冷却プレート41を備え、冷却プレート41の形成材料には、例えば、酸化アルミニウム等のセラミックスや、ポリイミド等の樹脂が用いられる。冷却プレート41の幅は、紙面の左右方向、および、紙面の手前方向の両方向において、フィルム基板Sの幅と略等しい。ただし、冷却プレート41における各方向の幅は、フィルム基板Sにおける同方向の幅よりも大きい。
冷却プレート41内には、冷却ガスの通路である複数の冷却孔41h1が、冷却プレート41における搬出入方向に沿って形成され、各冷却孔41h1は、冷却プレート41内に搬送方向に沿って形成された1つの冷却通路41h2に接続されている。各冷却孔41h1は、例えば円筒面で区画され、複数の冷却孔41h1の各々は、冷却プレート41の面内において相互に所定の間隔を空けて形成されている。
冷却プレート41のフィルム基板Sと向かい合わない面には、紙面の手前に向かって延びる板状をなすバイアス電極51が取り付けられている。バイアス電極51と冷却プレート41とには、バイアス電極51における冷却プレート41と接する面と、この面との対向面との間を貫通し、冷却プレート41内を通って冷却通路41h2に接続される冷却ガス供給孔31hが形成されている。
冷却ガス供給孔31hには、所定の温度の冷却ガスを供給する共通の冷却ガス供給部42が接続されている。冷却ガス供給部42の供給する冷却ガスには、例えば、ヘリウムガスやアルゴンガス等が用いられる。
バイアス電極51には、バイアス電極51に高周波電力を供給するバイアス用高周波電源52が接続されている。バイアス用高周波電源52は、例えば、周波数が1MHz以上6MHz以下の高周波電力を供給することが好ましい。あるいは、バイアス用高周波電源52は、相対的に高い周波数の高周波電力と、相対的に低い周波数の高周波電力とを供給する構成でもよい。この場合には、バイアス用高周波電源52は、周波数が13MHz以上28MHz以下の高周波電力と、周波数が100kHz以上1MHz以下の高周波電力とを供給することが好ましい。本実施形態では、バイアス電極51、バイアス用高周波電源52、および、スパッタガス供給部25が、逆スパッタ処理部を構成している。また、バイアス用高周波電源52が、電圧印加部を構成している。
冷却プレート41におけるフィルム基板Sと向かい合う面には、環状をなすシール部材43が、冷却プレート41の外周に沿って取り付けられている。フィルム基板Sが処理位置に配置され、かつ、ガス冷却部31が接触位置に配置されるとき、トレイTにおけるガス冷却部31に向かい合う面と、ガス冷却部31におけるフィルム基板Sと向かい合う面とによってシール部材43は押し潰される。
これにより、冷却プレート41におけるフィルム基板Sと向かい合う面、トレイTにおける冷却プレート41と向かい合う面、および、フィルム基板Sにおける冷却プレート41に向かい合う面によって密封された冷却空間が形成される。冷却ガス供給部42は、冷却空間が形成されている間にわたって、冷却空間に対して冷却ガスを所定の流量で供給し続ける。この際に、フィルム基板Sにおける冷却プレート41と向かい合う面によって冷却空間が区画されるため、トレイTによって囲まれたフィルム基板Sの全体が冷却ガスと接触する。
ガス冷却部31は、トレイTにおけるターゲット21に向かい合う面をガス冷却部31に向けて押さえるクランプ44を備えている。
このように、ガス冷却部31が、冷却ガスによってフィルム基板Sを冷却する。そのため、フィルム基板Sに対する成膜等によりフィルム基板Sに対して高いエネルギーを有した粒子が到達しても、フィルム基板Sが冷却されない構成と比べて、フィルム基板Sの温度が高められにくくなる。
また、第1成膜室12Bにスパッタガス供給部25からアルゴンガスが供給されている状態で、バイアス用高周波電源52がバイアス電極51に高周波電力を供給すると、第1成膜室12B内には、アルゴンガスからプラズマが生成される。そして、ガス冷却部31がトレイTに接している状態でバイアス電極51に高周波電力が供給されると、フィルム基板Sにはバイアス電圧が印加される。これにより、プラズマ中の正イオンがフィルム基板Sに引き込まれるため、フィルム基板Sにおけるガス冷却部31とは向かい合わない面が逆スパッタされる。
図3に示されるように、フィルム基板Sは、トレイTによってフィルム基板Sの中心から外周に向かう張力Ft1で引っ張られている。そして、張力Ft1の大きさは、冷却空間に供給される冷却ガスの圧力における最大値Fgよりも十分に大きい値に設定されている。そのため、冷却ガスが、冷却空間が形成されている間にわたって冷却空間に供給され続けても、フィルム基板Sが、ターゲット21側に凸状をなしにくくなる。それゆえに、フィルム基板Sの形状が、フィルム基板Sに対して成膜処理が行われている間にわたって保たれるため、フィルム基板Sの面内において薄膜の厚さにおけるばらつきが抑えられる。
[搬送レーンの構成]
図4および図5を参照して搬送レーン12Lの構成をより詳しく説明する。なお、図4には、フィルム基板Sが、搬送方向における第1成膜部20Aと対向する対向位置に配置された状態が示されている。なお、第1成膜室12Bに設置された搬送レーン12Lと、第2成膜室12Cに設置された搬送レーン12Lとは、真空室12内における設置位置が異なるもののフィルム基板Sの搬送に関わる構成は同じである。そのため、以下では、第1成膜室12Bに設置された搬送レーン12Lの構成を説明し、第2成膜室12Cに設置された搬送レーン12Lの構成の説明を省略する。
図4に示されるように、第1成膜室12Bの底壁には、搬送レーン12Lが設置され、搬送レーン12Lは、搬送方向に沿って延びる搬送レール61と、搬送レール61に所定の間隔を空けて配置された複数の搬送ローラ62とを備えている。搬送ローラ62の各々は、搬送ローラ62の軸心を回転中心とする自転ができる状態で、搬送レール61に支えられている。各搬送ローラ62には、搬送ローラ62を回転させる搬送モータ63が連結され、各搬送モータ63は、正方向と逆方向とに回転することによって、各搬送ローラ62を2つの方向に回転させる。
トレイTに支えられたフィルム基板Sは、起立した状態で搬送レール61上に載せられる。以下、フィルム基板Sの高さ方向が、起立方向として設定される。搬送レール61上のトレイTは、搬送ローラ62が回転することによって、搬送方向における基板回転部12Rから各成膜部20A,20Bと対応する対向位置に向けて、あるいは、各対向位置から基板回転部12Rに向けて、フィルム基板Sとともに搬送される。このように、搬送レーン12Lは、フィルム基板Sの起立方向における下側の端部を支えながらフィルム基板Sを搬送する。
第1成膜室12Bの上壁には、フィルム基板Sを上述の処理位置にて固定する基板固定部64が、搬送レーン12Lの一部と高さ方向にて向かい合う位置に取り付けられている。基板固定部64は、フィルム基板Sの起立方向、すなわち、トレイTの起立方向における上縁を支えることによって、フィルム基板Sの位置を処理位置に固定する。
図5に示されるように、基板固定部64は、搬送方向に沿って延びる柱状をなし、起立方向における下側の端部に挟持溝64hが形成されている。挟持溝64hにおける搬出入方向に沿った幅である溝幅は、基板回転部12Rに近い端部における溝幅W1が最も大きく、基板回転部12Rから遠い端部における溝幅W2が最も小さい。そして、挟持溝64hの幅は、溝幅W1から溝幅W2に向けて次第に小さくなる。挟持溝64hの溝幅は、搬送方向の途中でトレイTにおける搬出入方向に沿った幅と等しい溝幅W3になる。そのため、搬送レーン12Lを搬送されているトレイTでは、起立方向における上縁が基板固定部64に挿入される。そして、基板固定部64の搬送方向における途中で、トレイTの搬送方向における位置が、処理位置に固定される。
[スパッタ装置の電気的構成]
図6を参照してスパッタ装置10の電気的構成を説明する。なお、以下では、スパッタ装置10の電気的構成のうち、真空室12の駆動の制御に関する構成についてのみ説明する。
図6に示されるように、スパッタ装置10は、スパッタ装置10の駆動を制御する制御装置70を備えている。制御装置70には、排気部12V、基板回転部12R、スパッタガス供給部25、シャッタ26、変位部32、冷却ガス供給部42、搬送モータ63、ターゲット電源23、および、バイアス用高周波電源52が接続されている。
制御装置70は、排気部12Vの駆動を開始させるための駆動開始信号、および、排気部12Vの駆動を停止させるための駆動停止信号を排気部駆動回路12VDに出力する。排気部駆動回路12VDは、制御装置70からの制御信号に応じて排気部12Vを駆動するための駆動信号を生成し、生成された駆動信号を排気部12Vに出力する。
制御装置70は、基板回転部12R、特に、回転モータの駆動を開始させるための駆動開始信号、および、基板回転部12Rの駆動を停止させるための駆動停止信号を基板回転部駆動回路12RDに出力する。基板回転部駆動回路12RDは、制御装置70からの制御信号に応じて基板回転部12Rを駆動するための駆動信号を生成し、生成された駆動信号を基板回転部12Rに出力する。
制御装置70は、スパッタガス供給部25からのスパッタガスの供給を開始させるための供給開始信号、および、スパッタガス供給部25からのスパッタガスの供給を停止させるための供給停止信号をスパッタガス供給部駆動回路25Dに出力する。スパッタガス供給部駆動回路25Dは、制御装置70からの制御信号に応じてスパッタガス供給部25を駆動するための駆動信号を生成し、生成された駆動信号をスパッタガス供給部25に出力する。
制御装置70は、シャッタ26、特に、シャッタモータの駆動を開始させるための駆動開始信号、および、シャッタ26の駆動を停止させるための駆動停止信号をシャッタ駆動回路26Dに出力する。シャッタ駆動回路26Dは、制御装置70からの制御信号に応じてシャッタ26を駆動するための駆動信号を生成し、生成された駆動信号をシャッタ26に出力する。
制御装置70は、変位部32、特に、変位モータの駆動を開始させるための駆動開始信号、および、変位部32の駆動を停止させるための駆動停止信号を変位部駆動回路32Dに出力する。変位部駆動回路32Dは、制御装置70からの制御信号に応じて変位部32を駆動するための駆動信号を生成し、生成された駆動信号を変位部32に出力する。
制御装置70は、冷却ガス供給部42からの冷却ガスの供給を開始させるための供給開始信号、および、冷却ガス供給部42からの冷却ガスの供給を停止させるための供給停止信号を冷却ガス供給部駆動回路42Dに出力する。冷却ガス供給部駆動回路42Dは、制御装置70からの制御信号に応じて冷却ガス供給部42を駆動するための駆動信号を生成し、生成された駆動信号を冷却ガス供給部42に出力する。
制御装置70は、搬送モータ63の駆動を開始させるための駆動開始信号、および、搬送モータ63の駆動を停止させるための駆動停止信号を搬送モータ駆動回路63Dに出力する。搬送モータ駆動回路63Dは、制御装置70からの制御信号に応じて搬送モータ63を駆動するための駆動信号を生成し、生成された駆動信号を搬送モータ63に出力する。
制御装置70は、ターゲット電源23からの電力の供給を開始させるための供給開始信号、および、ターゲット電源23からの電力の供給を停止させるための供給停止信号をターゲット電源23に出力する。ターゲット電源23は、制御装置70からの制御信号に応じて電力の供給および停止を行う。
制御装置70は、バイアス用高周波電源52からの電力の供給を開始させるための供給開始信号、および、バイアス用高周波電源52からの電力の供給を停止させるための供給停止信号をバイアス用高周波電源52に出力する。バイアス用高周波電源52は、制御装置70からの制御信号に応じて電力の供給および停止を行う。
[スパッタ装置での成膜処理]
図7から図10を参照して、スパッタ装置10の真空室12にて成膜処理が行われるときのスパッタ装置10の駆動の状態を説明する。なお、図7から図10では、図示の便宜上、スパッタ装置10の備える真空室12のみが示され、搬出入室11の図示が省略されている。
上述したスパッタ装置10の真空室12では、成膜前のフィルム基板Sに対してフィルム基板Sの成膜面である表面を洗浄する逆スパッタ処理、密着層形成処理、および、シード層形成処理が順に行われる。なお、フィルム基板Sの表面には、例えば、ガラスエポキシ樹脂で構成される絶縁層が形成されている。以下では、フィルム基板Sが真空室12内に搬入されてから、逆スパッタ処理、密着層形成処理、および、シード層形成処理が終了されるまでのスパッタ装置10の動作を説明する。
図7に示されるように、フィルム基板Sに対する成膜処理が行われるときには、まず、制御装置70が回転モータに対する駆動開始信号を出力し、基板回転部12Rが載置部に載せられたフィルム基板Sを紙面の左回りに90°回転させる。これにより、トレイTの起立方向における下側の端部が、第1成膜室12Bの搬送レーン12L上に配置される。なお、真空室12にフィルム基板Sが搬入される前に、制御装置70が排気部12Vに対する駆動開始信号を出力し、排気部12Vが真空室12内を排気する。これにより、真空室12内が所定の圧力に減圧されている。また、シャッタ26の被覆部は、開口部26aを覆う位置に配置されている。
フィルム基板Sが搬入された後に、制御装置70が真空室12に搭載された2つのスパッタガス供給部25に対する供給開始信号を出力する。そして、各スパッタガス供給部25が、真空室12内へのアルゴンガスの供給を所定の流量で開始し、真空室12内を所定の圧力に保持する。なお、2つのスパッタガス供給部25が供給するアルゴンガスの流量は、同じであってもよいし、相互に異なってもよい。
そして、制御装置70が搬送モータ63に対する駆動開始信号を出力し、搬送レーン12Lが、非処理領域から第1成膜部20Aのターゲット21との対向位置である処理位置に向けてフィルム基板Sを搬送する。制御装置70が搬送モータ63に対する駆動停止信号を出力し、搬送レーン12Lが、フィルム基板Sの位置を対向位置で固定する。このとき、トレイTの起立方向の上縁は、基板固定部64によって固定されている。
図8に示されるように、制御装置70が変位モータに対する駆動開始信号を出力し、第1成膜部20Aの対向位置に配置された変位部32がガス冷却部31の搬出入方向における位置を変えることで、ガス冷却部31を非接触位置から接触位置まで移動させる。このとき、トレイTが基板固定部64によって固定されているため、ガス冷却部31が接触しても、フィルム基板Sの位置が変わることを抑えられる。
その後、制御装置70が冷却ガス供給部42に対する供給開始信号を出力し、冷却ガス供給部42が、冷却空間に対する冷却ガスの供給を開始する。
次いで、制御装置70が第1成膜部20Aのバイアス用高周波電源52に対する供給開始信号を出力する。そして、バイアス用高周波電源52が、バイアス電極51への高周波電力の供給を開始する。
これにより、第1成膜室12B内にはアルゴンガスからプラズマが生成され、プラズマ中の正イオンがフィルム基板Sに向けて引き込まれる。結果として、フィルム基板Sにおけるターゲット21と向かい合う面である処理面が逆スパッタされることにより、フィルム基板Sの付着物等が取り除かれる。このとき、フィルム基板Sがガス冷却部31によって冷却されているため、フィルム基板Sの冷却が行われない構成と比べて、フィルム基板Sの温度が高められることを抑えられる。また、ターゲット21におけるフィルム基板Sと向かい合う面がシャッタ26によって覆われているため、フィルム基板Sから放出された粒子が、ターゲット21の表面に付着しにくくなる。
それゆえに、フィルム基板Sの逆スパッタによる表面洗浄処理と、フィルム基板Sへの成膜処理とが同一の第1成膜室12B内で行われても、フィルム基板S上に形成される薄膜には、フィルム基板Sから放出された粒子が含まれにくくなる。また、フィルム基板Sの成膜が行われる前に、ターゲット21におけるフィルム基板Sと向かい合う面のクリーニング処理を省くことができる分、真空室12内で行われる成膜処理の工程を少なくすることができる。
フィルム基板Sの逆スパッタが所定の時間にわたって行われると、制御装置70がバイアス用高周波電源52に対する供給停止信号を出力し、バイアス用高周波電源52がバイアス電極51への高周波電力の供給を停止する。これにより、フィルム基板Sのスパッタが終了される。
図9に示されるように、制御装置70がシャッタモータに対する駆動開始信号を出力し、シャッタ26の被覆部が開口部26aを開放する位置に配置される。そして、制御装置70が、ターゲット電源23に対する供給開始信号を出力することによって、ターゲット電源23がバッキングプレート22を通じてターゲット21に電力を供給する。これにより、第1成膜室12B内にアルゴンガスからプラズマが生成され、ターゲット21におけるフィルム基板Sと向かい合う面がプラズマ中の正イオンによってスパッタされる。結果として、ターゲット21からチタンを主成分とするスパッタ粒子Spがフィルム基板Sに向けて放出されることによって、フィルム基板Sに密着層としてのチタンの薄膜が形成される。
第1成膜室12B内には、フィルム基板Sの逆スパッタと、密着層の形成とにわたって、アルゴンガスが供給され続けるため、第1成膜室12B内の圧力が変わりにくい。そのため、アルゴンガスの供給が、フィルム基板Sの逆スパッタが終了されると同時に停止される構成と比べて、第1成膜室12B内には、アルゴンガスからプラズマが生成されやすくなる。また、フィルム基板Sは、フィルム基板Sの逆スパッタと、密着層との形成とにわたって、ガス冷却部31によって冷却され続ける。そのため、ガス冷却部31によるフィルム基板Sの冷却が、フィルム基板Sの逆スパッタが終了されると同時に停止される構成と比べて、フィルム基板Sが冷却される期間が長くなる分、フィルム基板Sの温度が高められにくくなる。
密着層の形成が所定の時間にわたって行われると、制御装置70がターゲット電源23に対する供給停止信号を出力する。これにより、フィルム基板Sへの密着層の形成が終了される。その後、制御装置70が冷却ガス供給部42に対する供給停止信号を出力し、冷却ガス供給部42が冷却空間に対する冷却ガスの供給を終了する。また、制御装置70がシャッタモータに対する駆動開始信号を出力し、シャッタ26の被覆部が開口部26aを覆う位置に配置される。
図10に示されるように、制御装置70が変位モータに対する駆動信号を出力し、第1成膜部20Aの対向位置である処理位置に配置された変位部32がガス冷却部31の搬出入方向における位置を変えることで、ガス冷却部31を接触位置から非接触位置まで移動させる。これにより、ガス冷却部31がトレイTから離れるため、冷却空間内に供給された冷却ガスが第1成膜室12B内に放出される。
制御装置70が搬送モータ63に対する駆動開始信号を出力し、搬送レーン12Lがフィルム基板Sを基板回転部12Rに向けて搬送する。そして、制御装置70が回転モータに対する駆動開始信号を出力し、基板回転部12Rがフィルム基板Sを回転させない状態で、第2成膜部20B側の搬送レーン12Lにフィルム基板Sを搬送する。次いで、制御装置70が搬送モータ63に対する駆動開始信号を出力し、搬送レーン12Lが非処理位置から第2成膜部20Bとの対向位置である処理位置に向けてフィルム基板Sを搬送する。制御装置70が搬送モータ63に対する駆動停止信号を出力し、搬送レーン12Lが、フィルム基板Sの位置を対向位置で固定する。このとき、トレイTの起立方向の上縁は、基板固定部64によって固定されている。
制御装置70が変位モータに対する駆動開始信号を出力し、第2成膜部20Bの対向位置に配置された変位部32がガス冷却部31の搬出入方向における位置を変えることで、ガス冷却部31を非接触位置から接触位置まで移動させる。このとき、トレイTが基板固定部64によって固定されているため、ガス冷却部31が接触しても、フィルム基板Sの位置が変わることを抑えられる。
その後、制御装置70が冷却ガス供給部42に対する供給開始信号を出力し、冷却ガス供給部42が冷却空間に対する冷却ガスの供給を開始することによって、ガス冷却部31がフィルム基板Sを冷却する。
次いで、制御装置70が第2成膜部20Bのターゲット電源23に対する供給開始信号を出力する。そして、ターゲット電源23が、バッキングプレート22を通じてターゲット21への電力の供給を開始する。これにより、第2成膜室12C内にはアルゴンガスからプラズマが生成され、ターゲット21におけるフィルム基板Sに向かい合う面が、プラズマ中の正イオンにスパッタされる。結果として、ターゲット21から銅を主成分とするスパッタ粒子Spがフィルム基板Sに向けて放出され、フィルム基板S上にシード層としての銅の薄膜が形成される。このとき、フィルム基板Sがガス冷却部31によって冷却されているため、フィルム基板Sの冷却が行われない構成と比べて、フィルム基板Sの温度が高められることを抑えられる。
シード層の形成が所定の時間にわたって行われると、制御装置70がターゲット電源23に対する供給停止信号を出力する。これにより、ターゲット電源23がバッキングプレート22への電力の供給を停止し、シード層の形成が終了される。また、制御装置70が、冷却ガス供給部42に対する供給停止信号を出力し、冷却ガス供給部42が冷却空間に対する冷却ガスの供給を終了する。その後、制御装置70が変位モータに対する駆動信号を出力し、第2成膜部20Bの対向位置に配置された変位部32がガス冷却部31の搬出入方向における位置を変えることで、ガス冷却部31を接触位置から非接触位置まで移動させる。これにより、ガス冷却部31がトレイTから離れるため、冷却空間内に供給された冷却ガスが第2成膜室12C内に放出される。
次いで、制御装置70が2つのスパッタガス供給部25の各々に対する供給停止信号を出力し、スパッタガス供給部25が真空室12内へのアルゴンガスの供給を停止する。
このように、真空室12内には、フィルム基板Sに対する逆スパッタ処理、密着層の形成、および、シード層の形成の開始から終了までにわたって、アルゴンガスが供給され続ける。そのため、逆スパッタ処理、密着層の形成、および、シード層の形成の各々の開始と終了との度に、アルゴンガスの供給状態が変わる構成と比べて、真空室12内の圧力が変わりにくい。それゆえに、真空室12内には、密着層の形成、および、シード層の形成が行われるときに、プラズマが生成されやすくなる。
なお、こうした真空室12によれば、フィルム基板Sにて向かい合う2つの面に対して、逆スパッタ処理、密着層形成処理、および、シード層形成処理を行うことが可能である。フィルム基板Sの2つの面に各処理を行う場合には、フィルム基板Sにおける一方の面に、逆スパッタ処理、密着層形成処理、および、シード層形成処理の全てが行われた後に、フィルム基板Sが基板回転部12Rにて紙面の左回りに180°回転されればよい。これにより、フィルム基板Sにおける他方の面に対する逆スパッタ処理、密着層形成処理、および、シード層形成処理が可能になる。あるいは、フィルム基板Sの2つの面の各々に逆スパッタ処理と密着層形成処理とが行われた後に、2つの面の各々にシード層形成処理が行われてもよい。
上述した成膜室12B,12Cでは、ガス冷却部31によってフィルム基板Sの冷却が行われ、ガス冷却部31を構成する冷却プレート41等がフィルム基板Sにおけるターゲット21と向かい合わない面には接触しない。そのため、フィルム基板Sの2つの面に対して密着層やシード層が形成される場合であっても、フィルム基板Sにおける成膜後の面に対してガス冷却部31が接触しない。それゆえに、フィルム基板Sにおける成膜後の面に対して、フィルム基板Sを冷却するための機構が接触する構成と比べて、フィルム基板S上に形成された各層が損傷したり剥がれたりすることが抑えられる。
[実施例]
[実施例1]
ガラスエポキシ樹脂からなる絶縁基板の表面をスパッタし、絶縁物基板がスパッタされる範囲であるスパッタ有効範囲内の異なる位置にて絶縁基板のスパッタ速度を測定した。なお、スパッタ有効範囲の大きさは、500mm×600mmであり、また、スパッタ処理は以下の条件で行った。そして、スパッタ有効範囲内の対角線上における2つの角部である第1角部と第2角部、中央部、各角部と中央部との間でスパッタ速度を測定し、その結果が図11に示されている。
・基板 ガラスエポキシ樹脂基板
・スパッタガス アルゴンガス
・流量 200sccm
・周波数 2MHz
・電力量 730W
・圧力 2Pa
図11に示されるように、スパッタ有効範囲の中央部でのスパッタ速度は1.9nm/minであり、スパッタ有効範囲の全体でのスパッタ速度のばらつきは±7.3%であることが認められた。なお、バイアス用高周波電源から供給される高周波電力の周波数が、1MHz以上6MHz以下の範囲であれば、図11に示される結果と同等の結果が得られることも認められている。
[実施例2]
実施例2と同様、ガラスエポキシ樹脂からなる絶縁基板の表面をスパッタし、スパッタ有効範囲における異なる位置での絶縁基板のスパッタ速度を測定した。なお、実施例3では、スパッタ処理は以下の条件で行い、スパッタ有効範囲における実施例2と同様の位置にてスパッタ速度を測定し、その結果が図12に示されている。
・基板 ガラスエポキシ樹脂基板
・スパッタガス アルゴンガス
・流量 200sccm
・周波数(高周波数) 13.56MHz
・電力量(高周波数) 730W
・周波数(低周波数) 200kHz
・電力量(低周波数) 805W
・圧力 2Pa
図12に示されるように、スパッタ有効範囲の中央部でのスパッタ速度は21.1nm/minであり、スパッタ有効範囲の全体でのスパッタ速度のばらつきは±23.7%であることが認められた。なお、バイアス用高周波電力のうち、相対的に周波数の高い高周波電力の周波数が13MHz以上28MHz以下であり、相対的に周波数の低い高周波電力の周波数が100kHz以上1MHz以下であれば、図12に示される結果と同等の結果が得られることも認められている。
[比較例]
実施例2と同様、ガラスエポキシ樹脂からなる絶縁基板の表面をスパッタし、フィルム基板における異なる位置での絶縁基板のスパッタ速度を測定した。なお、比較例では、スパッタ処理は以下の条件で行い、フィルム基板における実施例2と同様の位置にてスパッタ速度を測定し、その結果が図13に示されている。
・基板 ガラスエポキシ樹脂基板
・スパッタガス アルゴンガス
・流量 200sccm
・周波数 13.56MHz
・電力量 730W
・圧力 0.7Pa
図13に示されるように、スパッタ有効範囲の中央部でのスパッタ速度は0.4nm/minであり、スパッタ有効範囲の全体でのスパッタ速度のばらつきは±42.0%である。
このように、フィルム基板のスパッタを行うときには、バイアス用高周波電源から供給される高周波電力の周波数が1MHz以上6MHz以下とすることによって、スパッタ速度が高められ、かつ、フィルム基板の面内におけるスパッタ速度のばらつきも小さくなることが認められた。また、バイアス用高周波電源から供給される高周波電力の周波数が、以下のような相対的に高い周波数と、相対的に低い周波数とであることによって、スパッタ速度が高められ、かつ、フィルム基板の面内におけるスパッタ速度のばらつきも小さくなることが認められた。
・高周波 13MHz以上28MHz以下
・低周波 100kHz以上1MHz以下
以上説明したように、薄型基板処理装置の一実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)高いエネルギーを有したスパッタ粒子Spがフィルム基板Sに放出されても、ガス冷却部31がフィルム基板Sを冷却しているため、冷却が行われない構成と比べて、フィルム基板Sの温度が高められにくくなる。
(2)冷却空間に冷却ガスが供給されることによって、フィルム基板Sにおけるターゲット21とは向かい合わない面の全体に冷却ガスが供給される。それゆえに、フィルム基板Sにおけるターゲット21とは向かい合わない面の一部が冷却される構成と比べて、フィルム基板Sの温度が、より高められにくくなる。
(3)冷却空間に冷却ガスが供給されることによってフィルム基板Sの形状が変わることが抑えられる。そのため、フィルム基板Sの面内において到達するスパッタ粒子Spの量がばらつくことが抑えられる。つまり、フィルム基板Sに形成される薄膜の厚さが、フィルム基板Sの面内においてばらつくことを抑えられる。
(4)フィルム基板Sにおける薄膜の形成された面が、冷却ガスによって冷却されるため、フィルム基板Sとの接触によってフィルム基板Sを冷却する構成と比べて、フィルム基板Sに形成された薄膜が損傷することや剥がれることが抑えられる。
(5)ターゲット21の表面がシャッタ26によって覆われた状態でフィルム基板Sの洗浄処理が行われる。そのため、ターゲット21と基板の洗浄に用いられるバイアス電極51とが同一の第1成膜室12B内に設置されていても、フィルム基板Sの洗浄によって、フィルム基板Sから放出された粒子がターゲット21の表面に付着することが抑えられる。それゆえに、ターゲット21から放出されるスパッタ粒子Spには、フィルム基板Sから放出された粒子が含まれることが抑えられる。
(6)フィルム基板Sが逆スパッタされるときに、フィルム基板Sに対して周波数が1MHz以上6MHz以下の電圧が印加されるため、フィルム基板Sのスパッタ速度が高められる。また、フィルム基板Sのスパッタ速度における面内分布も高められる。
(7)フィルム基板Sが逆スパッタされるときに、フィルム基板Sに対して周波数が13MHz以上28MHz以下の電圧と、周波数が100kHz以上1MHz以下の電圧とが重畳されるため、フィルム基板Sのスパッタ速度が高められる。また、フィルム基板Sのスパッタ速度における面内分布も高められる。
なお、上記実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・バイアス用高周波電源52の供給する高周波電力は、周波数が1MHz以上6MHz以下でなくともよい。こうした構成であっても、フィルム基板Sにおけるターゲット21と向かい合う面が逆スパッタされるため、フィルム基板Sの洗浄を行うことは可能である。
・バイアス用高周波電源52の供給する高周波電力が13MHz以上28MHz以下である場合に、周波数が100kHz以上1MHz以下の高周波電力が重畳されなくともよい。こうした構成であっても、フィルム基板Sにおけるターゲット21と向かい合う面が逆スパッタされるため、フィルム基板Sの洗浄を行うことは可能である。
・第1成膜室12Bには、シャッタ26が取り付けられていなくともよい。こうした構成の場合には、フィルム基板Sに対する薄膜の形成が行われる処理室とは別に、フィルム基板Sの洗浄が行われる逆スパッタ処理室が設けられればよい。この場合には、第1成膜室12Bには、バイアス電極51とバイアス用高周波電源52とが設置されなくてよい。そして、逆スパッタ処理室には、上述した第1成膜室12Bと同様のガス冷却部、変位部、バイアス電極、および、バイアス用高周波電源と、バイアス電極と対向する位置にアノードである接地電極が設置されればよい。これにより、ターゲット21の表面にフィルム基板Sから放出された粒子が付着することを抑えることは可能である。ただし、フィルム基板Sの洗浄を行うための処理室が別途設けられるため、真空室12の設置面積が変わらない前提では、処理室が増えた分だけ、スパッタ装置10の設置面積が大きくなってしまう。
・上述のように第1成膜室12Bとは別の処理室が設けられる場合には、基板処理部は、バイアス電極51と、バイアス用高周波電源52とによって具体化された構成に限らず、例えば、以下のような構成であってもよい。
図14に示されるように、真空室12が、反転室12A、第1成膜室12B、および、第2成膜室12Cに加えて、エッチング処理室12Dを備え、エッチング処理室12Dと第1成膜室12Bとが、搬送方向にて反転室12Aを挟んで配置されている。そして、搬出入室11と第2成膜室12Cとが、搬出入方向にて反転室12Aを挟んで配置されている。なお、反転室12Aに対して、第1成膜室12B、第2成膜室12C、および、エッチング処理室12Dが連結される場合にも、真空室12を排気する排気部12Vは、反転室12Aに搭載されている。エッチング処理室12Dの外部には、高周波アンテナ81が搭載され、高周波アンテナ81には、高周波アンテナ81に、例えば、周波数が13.56MHzである高周波電力を供給するアンテナ用高周波電源82が接続されている。
こうした構成では、エッチングガス供給部83がエッチング処理室12D内に例えばアルゴンガスを供給し、アンテナ用高周波電源82が高周波アンテナ81に高周波電力を供給することによって、エッチング処理室12D内にプラズマが生成される。そして、バイアス用高周波電源52がバイアス電極51に対して高周波電力を供給することにより、プラズマ中の正イオンがフィルム基板Sに向けて引き込まれる。これにより、フィルム基板Sにおけるターゲット21と向かい合う面がエッチングされる。フィルム基板Sがエッチングされるときに、ガス冷却部31がフィルム基板Sを冷却することによって、フィルム基板Sの温度が高められることが抑えられる。
なお、エッチングガス供給部83の供給するガスは、アルゴンガスに限らず、窒素ガス、酸素ガス、四フッ化炭素ガス、六フッ化硫黄ガス、三フッ化窒素ガス等でもよい。また、高周波アンテナ81、アンテナ用高周波電源82、エッチングガス供給部83、バイアス電極51、および、バイアス用高周波電源52によってエッチング処理部が構成されている。
あるいは、図15に示されるように、真空室12は、上述したエッチング処理室12Dに代えてイオン処理室12Eを備え、イオン処理室12E内にイオン処理部としてのイオンガン84が搭載された構成でもよい。イオンガン84には、搬送方向にてイオンガン84を揺動させる変位部が連結されている。変位部は、イオンガン84を搬送方向にて処理位置に配置されたフィルム基板Sの一端と向かい合う位置と他端と向かい合う位置との間で揺動させる。これにより、イオンビームが、フィルム基板Sの全面に照射される。
こうした構成であっても、例えばアルゴンガスから生成されたイオンビームがフィルム基板Sにおけるイオンガン84と向かい合う面に対して照射されるイオンボンバードメント処理により、フィルム基板Sが洗浄される。そして、フィルム基板Sに対してイオンボンバードメント処理が行われるときに、ガス冷却部31がフィルム基板Sを冷却することによって、フィルム基板Sの温度が高められることが抑えられる。なお、イオンビームの生成に用いられるガスは、アルゴンガスに限らず、窒素ガス、酸素ガス、および、水素ガス等でもよい。
なお、イオン処理室12Eでは、ガス冷却部31と変位部32とが設置されず、イオンガン84が、フィルム基板Sに対して搬出入方向の両側に配置されてもよい。この場合には、フィルム基板Sにおける各面と向かい合う位置の各々に複数、例えば2個から8個のイオンガン84が固定され、搬送レーン12Lによって搬送されているフィルム基板Sに対してイオンビームが各イオンガン84から照射される。これにより、フィルム基板Sにて向かい合う2つの面にイオンボンバードメント処理が行われる。
なお、上述のように、真空室12が、逆スパッタ処理室が第1成膜室12Bとは別に備える場合にも、図14および図15に示されるように、第2成膜室12Cは、搬出入方向にて反転室12Aに対して搬出入室11とは反対側に設置されればよい。
・スパッタ装置10は、フィルム基板Sの洗浄に関わる構成、すなわち、バイアス電極51およびバイアス用高周波電源52、エッチング処理室12D、イオン処理室12Eが搭載されていない構成であってもよい。
・真空室12では、フィルム基板Sにおける1つの面のみに各種処理が行われてもよい。こうした構成であっても、上記(1)に準じた効果を得ることはできる。
・例えば、フィルム基板Sにてターゲット21と向かい合う面上に格子状に形成された梁がマスクとして配置され、フィルム基板Sの形状が、ターゲット21に向けて凸状に変わることがマスクによって抑えられる構成でもよい。こうした構成によれば、フィルム基板Sに加えられる張力を抑えること、あるいは、フィルム基板Sに加えられる張力を無くすことが可能にもなる。
・冷却空間は、例えば、フィルム基板Sにおける冷却プレート41と向かい合う面と、冷却プレート41におけるフィルム基板Sと向かい合う面とによって挟まれる開放された空間でもよい。こうした構成であれば、トレイTとガス冷却部31とを接触させる構成やシール部材43そのものを省くことが可能にもなる。また、例えば、フィルム基板Sにおける冷却プレート41と向かい合う面そのものが開放され、ガス冷却部31は、フィルム基板Sにおけるターゲット21とは向かい合わない面に対して単に冷却ガスを供給する構成でもよい。こうした構成であっても、冷却ガスを用いてフィルム基板Sを冷却する構成である以上は、上記(1)に準じた効果を得ることはできる。
・ガス冷却部31は、冷却空間に供給された冷却ガスの圧力が所定の圧力に到達したときに、冷却ガス供給部42からの冷却ガスの供給を停止する構成でもよい。この場合には、冷却ガスの圧力は、フィルム基板Sの形状が、ターゲット21に向けて凸状に変わらない圧力に設定されればよい。こうした構成によれば、フィルム基板Sの形状が変わることを抑えつつ、フィルム基板Sを冷却することができる。
・ガス冷却部31は、冷却ガス供給部42から冷却空間に対して所定の流量で冷却ガスを供給しながら、冷却空間から所定の排気流量で冷却ガスを排気し、これにより、冷却空間内における冷却ガスの圧力を所定の値に保つ構成でもよい。こうした構成によれば、フィルム基板Sの形状が、ターゲット21に向けて凸状に変わることを抑えることができる。また、ガス冷却部31では、冷却ガスが循環されるため、冷却空間内における冷却ガスの圧力が所定の圧力になったときに、冷却ガスの供給を停止する構成と比べて、フィルム基板Sの熱が、冷却ガスによって奪われやすくなる。結果として、フィルム基板Sの温度が高められにくくなる。
・ガス冷却部31には、ガス冷却部31の搬出入方向における位置を変える変位部32が連結されていなくともよく、ガス冷却部31の搬出入方向における位置は、上述の接触位置に固定されていてもよい。
・基板固定部64は、フィルム基板Sの起立方向の上側の端部にてトレイTの上縁を支える構成に限らず、フィルム基板Sの起立方向の上側の中央にてトレイTの上縁を支える構成でもよい。この場合には、基板固定部64に形成された挟持溝64hの溝幅が、基板固定部64における搬送方向の全体にわたって、トレイTにおける搬出入方向に沿った幅と略同じ幅であって、かつ、トレイTが挟持溝64hを通過することができる幅であればよい。こうした構成によっても、上記(3)と同等の効果を得ることができる。
なお、基板固定部64は、フィルム基板Sの起立方向における上側の端部および中央部に限らず、フィルム基板Sの起立方向の上側のいずれかの位置を支える構成であればよく、こうした構成によっても、上記(3)と同等の効果を得ることができる。
・第1成膜室12Bの上壁と第2成膜室12Cの上壁とには、基板固定部64が取り付けられていなくともよい。こうした構成であっても、ガス冷却部31がトレイTに接触してトレイTがターゲット21に向けて押される際に、その押圧によってトレイTが変位しない程度の質量をトレイTが有していれば、フィルム基板Sの位置は変わり難い。また、トレイTにおける起立方向の下側の端部が、搬送レーン12Lによって支えられている以上は、搬送レーン12Lによって支えられていない構成と比べて、フィルム基板Sの位置は少なからず変わりにくい。
・逆スパッタに用いられるガスは、上述したアルゴンガスに限らず、窒素ガス、酸素ガス、水素ガス、四フッ化炭素ガス、六フッ化硫黄ガス、および、三フッ化窒素ガスでもよく、これらのガスを2つ以上混合した混合ガスでもよい。
・第1成膜室12Bや逆スパッタ処理室での逆スパッタ処理、エッチング処理室12Dでのエッチング処理にてフッ素を含むガスが用いられる場合には、搬送方向における各処理室と、反転室12Aとの間にゲートバルブが取り付けられ、かつ、各処理室に排気部が取り付けられることが好ましい。
・搬出入室11には、フィルム基板Sに吸着したガスを除去するためにフィルム基板Sを加熱する機構が設けられていてもよい。あるいは、スパッタ装置10には、フィルム基板Sを加熱する機構を備えた処理室が、搬出入室11と反転室12Aとの間に備えられていてもよい。
・真空室12は、2つの成膜室を備える構成でなくともよく、少なくとも1つの成膜室を備える構成であればよい。あるいは、真空室12は、成膜室を備えず、逆スパッタ処理室、エッチング処理室、および、イオン処理室のいずれかを備える構成でもよい。
・フィルム基板Sのスパッタが行われるときに供給されるアルゴンガスの流量、第1成膜部20Aによって密着層が形成されるときに供給されるアルゴンガスの流量、第2成膜部20Bによってシード層が形成されるときに供給されるアルゴンガスの流量が相互に異なってもよい。こうした構成であっても、第1成膜室12B内にアルゴンガスが継続して供給される構成であれば、アルゴンガスの供給が、フィルム基板Sのスパッタが終了すると同時に停止される構成と比べて、第1成膜室12B内にはプラズマが生成されやすくはなる。
・フィルム基板Sの逆スパッタが終了すると同時に、第1成膜室12B内へのアルゴンガスの供給が停止され、第1成膜部20Aでの密着層の形成が開始されるときに、アルゴンガスの供給が開始される構成でもよい。また、第2成膜部20Bのスパッタガス供給部25は、第2成膜室12Cにてシード層の形成が行われるときにのみ真空室12にアルゴンガスを供給してもよい。