JP2014144375A - 毛髪再生用細胞移植方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】培養細胞を用いる再生医療が実現することを課題とする。
【解決手段】移植部の皮膚を100ミクロンから400ミクロンの分層で剥離し、その分層皮膚を薬剤処理して表皮部分と真皮部分に分離して、表皮部分のみを使用し、真皮部分は廃棄する。分離した表皮部分は、採皮部の露出した残りの真皮の上に移植するが、その際に毛乳頭細胞もしくは組織を真皮の上に移植し、その上から表皮を移植することによって、上記課題が解決された。
【選択図】なし

Description

本発明は、細胞治療、再生医療の分野に関する。
脱毛症患者は非常に多く、その原因は遺伝、加齢、ホルモン、外傷、瘢痕など多岐にわたるが、特効治療がいまだに存在しない。現状は、義髪、人工毛移植、自家植毛、育毛剤(内服、外用)などであるが、十分な対処方法がないにもかかわらず、2000億円の市場を形成する需要があり、特効治療が開発されれば数倍の潜在市場が開拓されることが予想される。
非特許文献1および3はチャンバーを使用した毛髪再生技術を開示する。非特許文献2は、細胞注入による毛髪再生技術を開示する。しかし、いずれも、毛包の再生にはいたらず、毛髪の再生は成功していない。
特許文献1は、深さ3mmで皮膚全層を除去し、その穴に移植細胞を置く移植方法を開示し、特許文献2は、中空ワイヤー管挿入による真皮・皮下組織破壊を伴う毛髪再生方法。新生児マウス細胞使用を開示し、特許文献3は、皮膚の創傷を利用した毛髪再生方法を字開示している。しかし、特許文献1の手法ではうまく毛髪の再生が生じない。また、特許文献2および3は、創傷を利用するものであり、治療方法としては妥当性に欠ける。
The Journal of Investigative Dermatology 100(3):229−236(1993)Wendy C et al The Journal of Investigative Dermatology 124:867−876(2005)Ying Z et al The Journal of Investigative Dermatology 127(9):2106−2115(2007)Ehama R et al 国際公開第2005/053763号パンフレット 国際公開第2006/020958号パンフレット 国際公開第2007/047707号パンフレット
自家植毛は後頭部から毛包を移植するが、存在する毛包を1対1で犠牲にするため治療効果は極めて限定的である。培養細胞を用いる再生医療が実現できれば、大量の毛包を供給することが可能となる。しかし、毛乳頭組織や細胞を単純に移植しても毛包の再生は起こらない。
したがって、培養細胞を用いる再生医療が実現することを課題とする。
毛乳頭細胞は表皮基底層と接触することにより最も効率的に表皮幹細胞に毛包誘導を行うことができる。しかし、その表皮と毛乳頭細胞は血行の良好な環境に置かれなければ毛包再生が起こらない。したがって、この2つの条件を満たし、かつ臨床上実行可能な移植法として、本移植概念が開発された。
しかるに、本発明者らは、毛乳頭細胞を移植する場合に正常な毛包再生が最も効率的に実現する移植法を考案、開発した。移植部の皮膚を100μmから400μmの分層で剥離し、その分層皮膚を薬剤処理して表皮部分と真皮部分に分離して、表皮部分のみを使用し、真皮部分は廃棄する。分離した表皮部分は、採皮部の露出した残りの真皮の上に移植するが、その際に毛乳頭細胞もしくは組織を真皮の上に移植し、その上から表皮を移植する。
本発明はまた、以下に関する。
培養細胞を用いた毛包再生治療の実現に向けて解決すべき問題点は大きく分けて三点ある。第一点はヒト毛乳頭細胞の毛包誘導能が培養によって失われること、第二点は上皮系細胞の供給源をいずれに求めるのかということ、第三点は移植細胞をいかなるコンストラクトにして、さらにいかに禿髪部位の移植床に移植すれば毛包再生が効率的に起こりうるかということである。第一点では、ヒト培養毛乳頭細胞の毛包誘導関連因子を網羅的に検索しTGFb2が培養毛乳頭細胞に特異的に発現しており、動物実験においてTGFb2シグナルを抑制すると毛包誘導が抑制されたことから、TGFb2が毛包誘導因子の1つとして機能していることが示唆された。またTGFb2発現を増強する因子の刺激により毛乳頭細胞からWnt10b、アルカリフォスファターゼなどの毛包誘導関連因子の発現が亢進することがわかった。近年BMPなどいくつかの因子が毛包誘導能維持に有用であることが報告されている。第2点では、毛包上皮系幹細胞の局在およびバイオマーカーを解析し、K15およびCD200、CD34、CD271の発現様式により異なる2種類の幹細胞集団があることが示された。それぞれの幹細胞集団を単離すると高いコロニー形成能を有する細胞集団がそれぞれ5%前後の割合で得られ、これら少数の細胞が毛包再生に関わっていることが示唆された。第3点では、培養毛乳頭細胞をスフィア・細胞懸濁液・シートなどの状態にして移植することが可能であり、なおかつ上皮系幹細胞を移植しない方法でも移植床に存在する上皮系幹細胞から毛包を誘導できることがわかった。しかし、単純な注射などでの方法では適切な場所への移植が不可能であり、そのためにはいかに血行を維持してしかも表皮幹細胞と接触した状態で移植することが可能かを追求する必要がある。ヒト禿髪部を想定した独自の動物実験モデルを開発して移植法の最適化を行い、治療法の有効性を総合的に確認している。
したがって、本発明は以下をも提供する。
(1) 表皮シートを含む毛髪再生剤であって、該表皮シートは、真皮部分が細胞分離剤で処理して削除されたものである、毛髪再生剤。
(2)前記細胞分離剤は、ディスパーゼ、コラゲナーゼ、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)およびトリプシンから選択される、項1に記載の毛髪再生剤。
(3)前記表皮シートは、皮膚を真皮部分で切り取って調製されたものである、項1または2に記載の毛髪再生剤。
(4)前記表皮シートは、皮膚を表皮部分より下で、かつ、皮下組織より上で剥離して調製されたものである、項1〜3のいずれかに記載の毛髪再生剤。
(5)前記表皮シートは、皮膚を100〜400μm剥離して調製されたものである、項1〜4のいずれかに記載の毛髪再生剤。
(6) 真皮部分が細胞分離剤で処理して削除された表皮シートと、細胞、移植組織および薬剤からなる群より選択される少なくとも1つの毛髪再生促進成分とを含む毛髪再生剤。
(7)前記細胞分離剤は、ディスパーゼ、コラゲナーゼ、トリプシンおよびEDTAから選択される、項6に記載の毛髪再生剤。
(8)前記毛髪再生促進成分は、毛包形成細胞である、項6〜7のいずれかに記載の毛髪再生剤。
(9)前記毛包形成細胞は、培養毛乳頭細胞、非培養毛乳頭細胞、培養表皮角化細胞、非培養表皮角化細胞、培養表皮基底細胞、非培養表皮基底細胞、培養表皮幹細胞、非培養表皮幹細胞、培養毛包幹細胞および非培養毛包幹細胞からなる群より選択される少なくとも1種類の細胞を含む、項8に記載の毛髪再生剤。
(10)前記毛髪再生促進成分は、移植組織である、項6〜9のいずれかに記載の毛髪再生剤。
(11)前記移植組織は、毛包組織、毛乳頭組織、および毛包形成細胞を含む毛包誘導コンストラクトからなる群より選択される少なくとも1種類の組織を含む、項10に記載の毛髪再生剤。
(12)前記組織は、足場材を含むものである、項11に記載の毛髪再生剤。
(13)前記足場材は、ポリ乳酸、コラーゲンおよびゼラチンからなる群より選択される少なくとも1つの材料を含むものである、項12に記載の毛髪再生剤。
(14)前記毛髪再生促進成分は、薬剤である、項6〜13のいずれかに記載の毛髪再生剤。
(15)前記薬剤は、骨形成たんぱく質(BMPs)、線維芽細胞増殖因子(FGFs)、上皮増殖因子(EGF)、血管上皮増殖因子(VEGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、ビタミンD(VitD)、インスリン様増殖因子(IGF)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、Wnts、トランスフォーミング増殖因子(TGFs)、表皮角化細胞培養上清、およびそれらを徐放化した製剤からなる群より選択される、項12に記載の毛髪再生剤。
(16)前記毛包形成細胞は、スフィア、懸濁またはシートの状態にあるものである項8に記載の毛髪再生剤。
(17)前記表皮シートは、皮膚を真皮部分で切り取って調製されたものである、項6〜16のいずれかに記載の毛髪再生剤。
(18)前記表皮シートは、皮膚を表皮部分より下で、かつ、皮下組織より上で剥離して調製されたものである、項6〜17のいずれかに記載の毛髪再生剤。
(19)前記表皮シートは、皮膚を100〜400μm剥離して調製されたものである、項6〜18のいずれかに記載の毛髪再生剤。
(20) 毛髪再生に使用するための表皮シートを調製する方法であって、
A)真皮層を含む剥離された皮膚を提供する工程;および
B)該皮膚を細胞分離剤で処理して真皮部分を消化する工程
を包含する、方法。
(21)前記細胞分離剤は、ディスパーゼ、コラゲナーゼ、EDTAおよびトリプシンから選択される、項20に記載の方法。
(22)前記皮膚は、表面から100〜400μmの深さの層のものである、項20〜21のいずれかに記載の方法。
(23) 毛髪再生に使用するための表皮シートを調製するためのデバイスであって、
真皮層を含む剥離された皮膚を提供することができる手段を備える、デバイス。
(24)前記皮膚は、表面から100〜400μmの深さの層のものである、項23に記載のデバイス。
(25)前記手段は、皮むき機、髭剃りまたはカンナの形状をしているものである、項23〜25のいずれかに記載のデバイス。
(26) 毛髪を再生するための方法であって、
A)真皮層を含む100〜400μmの剥離された皮膚を提供する工程;
B)該皮膚を細胞分離剤で処理して真皮部分を消化する工程;
C)毛包形成細胞を毛髪再生が所望される真皮の上に載せ、その上に消化された該皮膚を載せる工程;および
D)毛髪再生に十分な期間培養する工程
を包含する、方法。
従って、本発明のこれらおよび他の利点は、添付の図面を参照して、以下の詳細な説明を読めば、明白である。
従来達成できなかった、成体を用いて、培養毛乳頭によって、毛髪が実際に生え出すことが確認されたのは、従来になく画期的である。従来は、生え出しした論文は全て胎児細胞の使用であり、成体細胞使用における成果によって、実用化がほぼ可能になったといえる。また、本治療法は人種差の影響を受けることはない、また人種を問わず、脱毛症に悩む人口が存在することから、幅広い応用が期待される。
なお、過去にいくつかの移植方法が公開されている。しかし、本治療法は過去に開発された移植法よりも、はるかに毛包再生の効率が高い、ヒトにおいて実現が容易であり、ほとんど瘢痕を残さない、成人の細胞を用いても毛包再生が可能である、という大きな利点を持つ。
以下、本発明を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞または形容詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
(用語の定義および基本的な技術の説明)
本明細書において、「毛髪再生剤」とは、毛髪が生えていない身体の場所に毛髪を生えさせることができる組成物などの物質をいう。
本明細書において、「表皮」とは、動物の皮膚(あるいは粘膜)の上皮の一般的な呼称であり、外胚葉起原のものをいう。脊椎動物では,多層上皮性で,その下にある結合組織性の真皮と合して皮膚を形成する。
本明細書において、「表皮シート」とは、皮膚を剥離し、酵素処理が終わったものをいう。本発明の目的において、切り取っただけのものとは異なることに留意すべきである。
本明細書において、「真皮」とは、脊椎動物の表皮の下にある組織をいう。表皮とともに皮膚を形成する。皮は中胚葉性の緻密結合組織で,多量の膠原繊維のほか,弾性繊維・血管・神経・平滑筋繊維などが混じている。真皮の下に疎性結合組織からなる皮下組織が存在する。哺乳類では,表皮に接する面に,多数の小突起すなわち真皮乳頭(papilla)を形成して,表皮−真皮間の接触面積を増す傾向があり,この乳頭をもつ真皮の浅層を乳頭層(stratum papillare, papillary layer),より深層を網状層(stratum reticulare, reticular
layer)とよぶ。
本明細書において、「皮下組織」とは、脊椎動物の真皮とその下にある骨や筋肉との間の比較的繊維の粗な疎性結合組織の部分をいう。
本明細書において、「細胞分離剤」とは、細胞を分離させる任意の薬剤をいい、代表的には、ディスパーゼ、コラゲナーゼ、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)およびトリプシンを用いることができる。
本明細書において、「細胞」とは、一般に用いられるのと同じ意味で用いられる。代表的に毛包形成細胞が用いられる。
本明細書において「毛包」とは、表皮の陥入によって生じたもので,毛髪の周囲を囲み,底部から毛が成長する部分をいう。
本明細書において、「毛包形成細胞」とは、表皮の陥入によって生じた毛包(folliculus pili,hair follicle,hair sac,毛嚢)を形成する任意の細胞をいう。代表的には、培養毛乳頭細胞、非培養毛乳頭細胞、培養表皮角化細胞、非培養表皮角化細胞、培養表皮基底細胞、非培養表皮基底細胞、培養表皮幹細胞、非培養表皮幹細胞、培養毛包幹細胞および非培養毛包幹細胞を挙げることができる。
本明細書において、「毛包組織」とは、毛包を形成する任意の組織を言う。
本明細書において、「毛乳頭組織」とは、毛乳頭部、それに続く真皮鞘を含む間葉系組織全体を言う。毛穴の一番下の部分にある毛細血管から運ばれた栄養を取り込んで毛の成長をつかさどる部分をいう。
本明細書において、「毛包誘導コンストラクト」とは、毛包を誘導することができる任意の構造体をいう。代表的には、毛包形成細胞を含む毛包誘導コンストラクトが用いられる。
本明細書において、「移植組織」とは、移植すべき組織状のものをいう。代表的には、毛包組織、毛乳頭組織、および毛包形成細胞を含む毛包誘導コンストラクトを挙げることができる。
本明細書において、「薬剤」とは、毛髪再生に直接または間接に効果のある任意の薬剤をいう。たとえば、代表的には、骨形成たんぱく質(BMPs)、線維芽細胞増殖因子(FGFs)、上皮増殖因子(EGF)、血管上皮増殖因子(VEGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、ビタミンD(VitD)、インスリン様増殖因子(IGF)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、Wnts、トランスフォーミング増殖因子(TGFs)、表皮角化細胞培養上清、およびそれらを徐放化した製剤を挙げることができる。
本明細書において、「毛髪再生促進成分」とは、毛髪再生促進をする任意の成分をいう。本発明では、たとえば細胞、毛包誘導コンストラクト、薬剤などを代表例として挙げることができる。
本明細書において、「足場材」とは、細胞、組織などが固定または安定するために必要とされる部材をいう。たとえば、代表的には、ポリ乳酸、コラーゲンおよびゼラチンなどを使用することができる。
本明細書において「真皮層を含む剥離された皮膚を提供することができる手段」とは、真皮層を含む剥離された皮膚を生産するにおいて適した任意の手段を言う。代表的には、皮むき機、髭剃りまたはカンナの形状をしたものが使用される。
本明細書において「毛髪再生に十分な期間」とは、本発明を使用したときに所望のレベルの毛髪再生が生じるに十分な時間を言う。そのような時間は、所望のレベルの毛髪量を肉眼で観察することによって計測することができる。
(本発明の詳説)
以下に本発明の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本発明のよりよい理解のために提供されるものであり、本発明の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本発明の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。
1つの局面において、本発明は、表皮シートを含む毛髪再生剤であって、該表皮シートは、真皮部分が細胞分離剤で処理して削除されたものである、毛髪再生剤を提供する。本発明の方法は、成体においても毛髪を再生させることに成功した点において注目されるべきである。
本発明の表皮シートを含む毛髪再生剤の製造は、たとえば、皮膚を細胞分離剤で適宜処理して真皮部分を削除することによって実施されうる。より具体的には、下記のような本発明において用いられる毛包形成細胞のシートのような生産方法を例示することができる。
本発明の表皮シートを含む毛髪再生剤の使用法としては、たとえば、培養毛乳頭シートを皮膚切除部の真皮上に乗せ、表皮シートをもどし、縫合する方法を用いて毛髪を再生することができる。
本発明の表皮シートを含む毛髪再生剤は、皮膚を真皮部分で切り取って調製されたものである、より好ましくは、皮膚を表皮部分より下で、かつ、皮下組織より上で剥離して調製されたものである、すなわち、おおよそ皮膚を100〜400μm剥離して調製されたものである限り、使用することができる。本発明を実施するためには、少なくとも切り取る皮膚の最下層が真皮内であることが通常最低条件であることが判明している。
そのようなものの調製には、細胞分離剤で適宜処理して真皮部分を削除することが好ましい。細胞分離剤としては、たとえば、ディスパーゼ、コラゲナーゼ、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)およびトリプシンなどを挙げることができる。好ましくは、ディスパーゼが用いられる。
別の局面において、本発明は、真皮部分が細胞分離剤で処理して削除された表皮シートと、細胞、移植組織および薬剤からなる群より選択される少なくとも1つの毛髪再生促進成分とを含む(組み合わせ)毛髪再生剤を提供する。
本発明における真皮部分が細胞分離剤で処理して削除された表皮シートは、上記のとおり製造および使用することができる。また、任意の好ましい実施形態を採用することができる。したがって、細胞分離剤としては、ディスパーゼ、コラゲナーゼ、トリプシンおよびEDTAなどを使用することができ、表皮シートは、皮膚を真皮部分で切り取って調製されたものが使用されることが理解される。
そして、本発明の毛髪再生剤において使用される細胞、移植組織および薬剤などの毛髪再生促進成分は、表皮シートとともに使用することによって、その毛髪再生効果を増強することができる。
本発明において使用される毛髪再生促進成分は、代表的には、毛包形成細胞である。このような毛包形成細胞としては、培養毛乳頭細胞、非培養毛乳頭細胞、培養表皮角化細胞、非培養表皮角化細胞、培養表皮基底細胞、非培養表皮基底細胞、培養表皮幹細胞、非培養表皮幹細胞、培養毛包幹細胞および非培養毛包幹細胞などを挙げることができ、1種または複数種使用することができる。
別の実施形態において、本発明において使用される毛髪再生促進成分は、移植組織である。この移植組織は、毛包組織、毛乳頭組織、および毛包形成細胞を含む毛包誘導コンストラクトなどを挙げることができ、1種または複数種使用することができる。
この組織は、好ましくは、足場材を含むものであり、この足場材は、ポリ乳酸、コラーゲンおよびゼラチンなどを挙げることができ、1種または複数種使用することができる。なお、足場材に入れる細胞は前出の全ての細胞に可能性があり、毛包形成細胞を使った毛包誘導コンストラクトが使用されることが理解される。なお、毛包組織から外側の上皮系細胞層を取り除くと毛乳頭組織になる。
別の実施形態では、本発明において使用される毛髪再生促進成分は、薬剤である。この薬剤は、骨形成たんぱく質(BMPs)、線維芽細胞増殖因子(FGFs)、上皮増殖因子(EGF)、血管上皮増殖因子(VEGF)、血小板由来増殖因子(PDGF)、ビタミンD(VitD)、インスリン様増殖因子(IGF)、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、Wnts、トランスフォーミング増殖因子(TGFs)、表皮角化細胞培養上清、およびそれらを徐放化した製剤などを挙げることができ、1種または複数種使用することができる。
なお、本発明において用いられる毛包形成細胞としては、代表的に、スフィア、懸濁またはシートの状態にあるものが使用される。
スフィア状のものを生産するには、以下の手順を使用する。
*毛乳頭を6cmディッシュの底面へ注射針(27G)及び5番鑷子を用いて張り付ける(Explant)。これら毛乳頭細胞(DPC)の培養には50% CM*を用いる(P)。37℃、5%CO下にてインキュベートする。
*50% Conditioned Medium(50% CM; ヒト表皮ケラチノサイトを10%ヒト血清/FAD培地によりFeeder法で培養した際の上清を10%ヒト血清/DMEM培地と1:1で混合)
*上記のDPCが80%程度のコンフルエントに増殖した後、それらを300μLの0.25% Trypsin−EDTAにてDPCを分散する(37℃, 5min)。分散したDPCを低接着用丸底96wellタイタープレートに1x10個/ wellずつ播種し、50% CMにて2日間培養を行うことにより、細胞塊がsphereを形成する(P)。
懸濁状のものを生産するには、以下の手順を使用する。
*毛乳頭を6cmディッシュの底面へ注射針(27G)及び5番鑷子を用いて張り付ける(Explant)。これら毛乳頭細胞(DPC)の培養には50% CM*を用いる(P)。37℃、5%CO下にてインキュベートする。
*50% Conditioned Medium(50% CM; ヒト表皮ケラチノサイトを10%ヒト血清/FAD培地によりFeeder法で培養した際の上清を10%ヒト血清/DMEM培地と1:1で混合)
*シャーレ上のDPCを分散する。その後10cmディッシュにDPCを1x10個ずつ播種し、50%CMにて培養する(P)。移植直前に、1000μLの0.25%
Trypsin−EDTAにてDPCを分散する(37℃, 5min)。分散したDPCを遠心チューブに集積(800g, 5min)した後、50% CMにて2×10cells/ mLの細胞密度の細胞懸濁液に調製する。
シート状のものを生産するには、以下の手順を使用する。
*毛乳頭を6cmディッシュの底面へ注射針(27G)及び5番鑷子を用いて張り付ける(Explant)。これら毛乳頭細胞(DPC)の培養には50% Conditioned Medium(CM)*を用いる(P)。37℃、5%CO下にてインキュベートする。
*50% Conditioned Medium(50% CM;ヒト表皮ケラチノサイトを10%ヒト血清/FAD培地によりFeeder法で培養した際の上清を10%ヒト血清/DMEM培地と1:1で混合)
*シャーレ上のDPCを分散する。その後6cmディッシュに6x10個ずつ播種し、DPCが積層状態に至るまで50% CMにて培養を行う(P)。この細胞を移植直前に、セルスクレーパーを用いて物理的に細胞を剥離し、シート状のものを移植に供する。
(表皮シートの生産方法)
別の局面において、本発明は、毛髪再生に使用するための表皮シートを調製する方法であって、A)真皮層を含む剥離された皮膚を提供する工程;およびB)該皮膚を細胞分離剤で処理して真皮部分を消化する工程を包含する、方法を提供する。
本発明の表皮シートは、皮膚を真皮部分で切り取って調製されることができ、より好ましくは、皮膚を表皮部分より下で、かつ、皮下組織より上で剥離して調製されることができ、すなわち、おおよそ皮膚を100〜400μm剥離して調製されることができる。
そのようなものの調製には、細胞分離剤で適宜処理して削除することが好ましい。細胞分離剤としては、たとえば、ディスパーゼ、コラゲナーゼ、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)およびトリプシンなどを挙げることができる。好ましくは、ディスパーゼが用いられる。
(表皮シート製造デバイス)
別の局面において、本発明は、毛髪再生に使用するための表皮シートを調製するためのデバイスであって、真皮層を含む剥離された皮膚を提供することができる手段を備える、デバイスを提供する。
本発明の表皮シート製造デバイスは、皮膚を真皮部分で切り取って調製し、より好ましくは、皮膚を表皮部分より下で、かつ、皮下組織より上で剥離して調製し、すなわち、おおよそ皮膚を100〜400μm剥離して調製することができるデバイスである限り、どのようなものであっても、使用することができる。
代表的にはこの手段は、皮むき機、髭剃りまたはカンナの形状をしているものであるが用いられるが、これらに限定されない。
(毛髪再生法)
別の局面において、本発明は、毛髪再生法、または毛髪再生に使用するための方法であって、A)真皮層を含む100〜400μmの剥離された皮膚を提供する工程;B)該皮膚を細胞分離剤で処理して真皮部分を消化する工程;C)毛包形成細胞を毛髪再生が所望される真皮の上に載せ、その上に消化された該皮膚を載せる工程;およびD)毛髪再生に十分な期間培養する工程を包含する、方法を提供する。
(A)および(B)の工程について、上記のように本明細書に記載された任意の手法を用いることができる。
C)毛包形成細胞を毛髪再生が所望される真皮の上に載せ、その上に消化された該皮膚を載せる工程について、移植培養毛乳頭細胞が懸濁液の場合、培養細胞の漏出を防止するため、懸濁液の用量を3〜5μLとすることが好ましいが、これに限定されない。
D)毛髪再生に十分な期間培養する工程を包含するについては、毛髪再生を観察しながら、毛髪再生が所望のレベルに達するまで適宜培養を継続することができることに留意すべきである。たとえば、そのような期間は、数日から数ヶ月でありうる。
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
以下に実施例を示して本発明をさらに詳しく説明するが、この発明は以下の例に限定されるものではない。動物実験は、東京大学において承認された倫理規定および動物愛護規定に基づいて行った。ヒトのサンプルは、提供者のあらかじめの同意を得た上で実験に使用した。実験に使用した試薬類は、和光純薬などから入手した。動物材料は、(株)日本生物材料センターから入手した。
(実施例1:ラット髭毛乳頭細胞 採取・培養)
本実施例では、毛髪再生に使用される髭毛乳頭細胞の採取を行った。
1 F344ラット(オス)の髭組織からピンセットとハサミを用いて毛球部を取り出し、周囲組織を取り除き、毛乳頭のみを採取した。
2 採取した毛乳頭を6cmディッシュの底面に針とピンセットで張り付け、DMEM/10%FBS培地(ニッスイ)をゆっくり添加後、37℃、5%CO下で培養した。細胞数が増えるまで3日おきに培地を交換した。
3 細胞が増えたら10cmディッシュに継代培養した。
(結果)
結果を図1に示す。培養開始5日後の培養細胞の写真が示されている。移植に耐える程度の生物学的活性を保っていることがわかる。
(実施例2:表皮シートの作製および移植片の調製)
表皮シートは、以下のようにして作製する。表皮シートは、以下のように作製しすぐに移植することもでき、あるいは、別途作製し保存することもできる。
(ラット足裏移植方法における表皮シートの作製)
以下の1、2、3の手順が表皮シートの作製方法である。
表皮シートの作成は移植工程の一部ともいえ、移植片準備の段階ということもできるが、別途取り出すこともできる。
1 F344ラット(オス)、またはヌードラット(オス)を麻酔し、足裏に0.001%ボスミン液(第一製薬)を注射した後、3mmBiopsyPunch(KAImedical,BP30F)を足裏皮膚組織に軽く押し付け皮膚表面上にスリットを作製した。
2 スカルペル(KAI medical,511−A)で真皮層を残すように薄切し皮層を分離した。
3 分離した皮膚を1000PU/mLディスパーゼII(三光純薬)で37℃、20分間処理し真皮層を取り除き、表皮シートを作製した。
(移植準備)
次に、移植に使用されるラット髭毛乳頭細胞 移植片準備を行った。
移植当日、4mm Biopsy Punch(KAI medical,BP40F)とピンセットを用いて、ディッシュ底面から毛乳頭細胞をシート状に物理的に剥がした(直径4mmの円状に剥がれたシートが採取される)。1箇所に1枚の毛乳頭細胞シートを移植した。ラット足裏移植方法)。
F344ラット(オス)、またはヌードラット(オス)を麻酔し、足裏に0.001%ボスミン液(第一製薬)を注射した後、3mmBiopsyPunch(KAI medical,BP30F)を足裏皮膚組織に軽く押し付け皮膚表面上にスリットを作製した。
スカルペル(KAI medical,511−A)で真皮層を残すように薄切し皮層を分離した。
分離した皮膚を1000PU/mLディスパーゼII(三光純薬)で37℃、20分間処理し真皮層を取り除き、表皮シートを作成した。
培養毛乳頭シートを皮膚切除部の真皮上に乗せ、表皮シートをもどし、縫合した。
以上の模式図は、図2に示す。
(結果)
図3は、ラットの足裏皮膚(毛および毛包組織は無い)を用いて、成獣ラット培養毛乳頭細胞移植を行ったものの結果である。図3は、移植細胞から生え出した毛の写真であり、下はHE染色写真である。図3の結果から明らかなように、移植部分から毛髪が生え出した。
(実施例3:ヒト毛乳頭細胞 採取・培養)
本実施例では、毛髪再生に使用されるヒト毛乳頭細胞 の採取を行った。
1 ヒト後頭部から3mmBiopsyPunch (KAImedical,BP30F)でくり抜いた皮膚組織を採取し、ピンセットとハサミを用いて毛球部を取り出した後、周囲組織を取り除き毛乳頭のみを採取した。
2 採取した毛乳頭を6cmディッシュの底面に針とピンセットで張り付け、50%CM培地(ヒト表皮ケラチノサイト培養上清(FAD/10%ヒト血清 Gibco)とDMEM/10%ヒト血清(ニッスイ)を1:1で混合した培地。)をゆっくり添加後、37℃、5%CO下で培養する。細胞数が増えるまで3日おきに培地を交換した。
(結果)
結果を図4に示す。培養開始11日後の培養細胞の写真が示されている。毛乳頭細胞が十分採取されたことがわかる。
(実施例4:ヒト毛乳頭細胞移植片準備)
次に、移植に使用されるヒト毛乳頭細胞移植片準備を行った。
移植当日、セルスクレーパー(SUMILON)を用いて、ディッシュ底面から毛乳頭細胞をシート状に物理的に剥がし、ピンセットで細切した。1箇所に1枚の毛乳頭細胞シートを移植した。
(結果)
結果を図5に示す。図5には、ヌードラットの足裏皮膚(毛および毛包組織は無い)を用いて、ヒト培養毛乳頭細胞移植を行ったもの結果を示す。ヒト培養毛乳頭細胞移植の場合でも、はっきりとした毛包構造が形成されていることがわかる。
(実施例5:細胞分離剤として、コラゲナーゼ、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)およびトリプシンを利用した例
分離したラット足裏皮膚を、0.05%コラゲナーゼで4℃一晩、または50mM〜200mM EDTAで4℃一晩、または0.25%トリプシン/EDTAで37℃ 40−50分処理し表皮シートを作製する。作成した表皮シートを観察すると、ディスパーゼ処理同様に真皮層の細胞が除去されており、いずれも表皮シート作成に有効であることが分かる。
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
毛乳頭細胞は培養して増殖させる必要があるが、それによりごく少数の毛包から無数の毛包を再生する治療法の実現が可能となる。毛包誘導能力を維持した毛乳頭細胞を本移植法により移植することにより、毛包再生が可能となる。脱毛症による外観を愁訴とする患者は非常に多く、関連産業はすでに国内だけで数千億円の市場が、形成されており、有効な治療法が開発されることにより、さらに潜在的な市場が開拓されることが予想され、産業上も大きな利用価値がある。
図1は、実施例1:ラット髭毛乳頭細胞を採取・培養した培養開始5日後の培養細胞の写真を示す。 図2は、本発明の毛髪再生法の模式図である。左側は処理前である。中央では処理時が記載される。右は、実際の移植処置時の段階である。処理時には、1)皮膚を真皮層を含め100−400μm剥離し、2)剥離後にディスパーゼ等で処理をして真皮部分を消化する。模式図では、上の部分の表皮に少しついた真皮が処理の対象である。右パネルでは、3)真皮上に培養毛乳頭細胞をのせて、酵素処理した表皮を戻す。 図3は、ラットの足裏皮膚(毛および毛包組織は無い)を用いて、成獣ラット培養毛乳頭細胞移植を行ったものの結果である。図3は、生の写真であり、矢印の先に生えだした毛が観察できる。左右(a,b)は、アングルの異なった写真を示す。下はヘマトキシリン・エオシン(HE)染色写真である。左上、左下および中央および右側に合計4枚(c,d,e,f)のHE染色写真図3の結果から明らかなように、移植部分から毛髪が生え出した。 図4は、実施例3のヒト毛乳頭細胞の採取・培養したものを示す。培養開始11日後の培養細胞の写真が示されている。 図5には、ヌードラットの足裏皮膚(毛および毛包組織は無い)を用いて、ヒト培養毛乳頭細胞移植を行ったもの結果を示す。ヒト培養毛乳頭細胞移植の場合でも、はっきりとした毛包構造が形成されていることがわかる。左右(a,b)は異なる移植片の組織像である。

Claims (1)

  1. 明細書に記載の発明。
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