JP2014141602A - 基材と他の基材との接合に用いられる接合膜、接合膜の形成方法、接合体、液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置 - Google Patents

基材と他の基材との接合に用いられる接合膜、接合膜の形成方法、接合体、液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置 Download PDF

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Abstract

【課題】基材と他の基材との接合を優れた密着性をもって接合することができる接合膜、かかる接合膜を製造することができる接合膜の製造方法、かかる接合膜を備える接合体、液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置を提供すること。
【解決手段】接合膜は、基材上に設けられ、シロキサン(Si−O)結合を有するSi骨格と、該Si骨格に結合する脱離基としてメチル基とを含み、前記接合膜の少なくとも一部の領域にエネルギーを付与し、前記接合膜の少なくとも表面付近に存在する前記脱離基が前記Si骨格から脱離することにより、前記接合膜の表面の前記領域に、他の基材との接着性が発現するものであり、前記メチル基の含有量は、当該接合膜の厚さ方向において、前記基材の反対側よりも前記基材側で少なくなっている。
【選択図】なし

Description

本発明は、基材と他の基材との接合に用いられる接合膜、接合膜の形成方法、接合体、液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置に関するものである。
例えば、インクジェットプリンタのような液滴吐出装置には、液滴を吐出するための液滴吐出ヘッドが備えられている。このような液滴吐出ヘッドとしては、例えば、インクを液滴として吐出するノズルに連通し、インクを収容するインク室(キャビティー)と、このインク室の壁面を変形させる駆動用の圧電素子とを備えるものが知られている。
このような液滴吐出ヘッドにあっては、駆動用の圧電素子を伸縮させることにより、インク室の一部(振動板)を変位させる。これにより、インク室の容積を変化させて、ノズルからインク液滴が吐出される。
ところで、この液滴吐出ヘッドは、ノズルが形成されたノズルプレートと、インク室が形成された基板と、インク室の容積を変化させる振動板と、歪みにより振動板を振動させる圧電素子とを有しており、これらを接合することによって組み立てられている。
また、振動板は、圧電素子の歪みにより振動する振動フィルムと、圧電素子の歪みを振動フィルムに伝播する支持板とを有しており、これら同士を互いに接合することによって組み立てられている(例えば、特許文献1等参照。)。
このような各種部材(基材)の組み立て(接合)は、通常、ビスフェノール系、ノボラック系のようなエポキシ系接着剤や、ウレタン系接着剤等の各種接着剤で構成される接着層を介して行われている。
ここで、例えば、インク室と振動板との接着層を介した接合や、インク室とノズルプレートとの接着層を介した接合では、接着層(接合膜)がインク室に貯留されるインクと長時間接することとなる。
そのため、各種部材(各種基材)と接着層との間での密着力が不十分であると、インクに含まれる溶媒が各種部材と接着剤との間に浸潤し、これに起因して、接着剤が各種部材から剥離すると言う問題が生じる。
したがって、各種部材と接着層との密着力を向上させることを目的に、上述したような接着剤で構成される接着層に代えて、シロキサン結合を含むSi骨格と、このSi骨格に結合する脱離基とを有する接合膜を介して、各種部材同士を接合することが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
しかしながら、このような接合膜を用いた各種部材同士の接合によっても、各種部材の種類、形状、さらには接触するインク(溶媒)の種類等によっては、前記密着力を十分に向上させることができず、より優れた密着性をもって接合し得ることが求められている。
また、このような液滴吐出ヘッドが備える各種部材同士の接合に限らず、半導体素子、圧電素子、光学素子、MEMS部品およびセンサー部品等が備える各種部材同士の接合においても、優れた密着性を発揮させることができる接合膜の開発が求められている。
特開2008−42129号公報 特開2009−35720号公報
本発明の目的は、基材と他の基材との接合を優れた密着性をもって接合することができる接合膜、かかる接合膜を製造することができる接合膜の製造方法、かかる接合膜を備える接合体、液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置を提供することにある。
このような目的は、下記の本適用例により達成される。
[本適用例1]
本適用例の接合膜は、基材上に設けられ、シロキサン(Si−O)結合を有するSi骨格と、該Si骨格に結合する脱離基としてメチル基とを含む接合膜であって、
前記接合膜の少なくとも一部の領域にエネルギーが付与され、前記領域の少なくとも表面の前記脱離基が前記Si骨格から脱離して、前記メチル基の含有量が、当該接合膜の厚さ方向において、前記基材の反対側よりも前記基材側で少なくなっていることを特徴とする。
接合膜をかかる構成を有するものとすることで、基材と他の基材との間に接合膜を介在させることにより、基材と他の基材とを優れた密着性をもって接合することができる。
[本適用例2]
本適用例の接合膜では、前記基材側に位置する第1の層と、前記基材の反対側に位置する第2の層とを有し、前記第1の層と前記第2の層とが積層された積層体で構成され、
前記第1の層中における前記メチル基の含有量は、前記第2の層中における前記メチル基の含有量よりも少ないことが好ましい。
接合膜をかかる構成の積層体とすることで、この膜を、メチル基の含有量が、接合膜の厚さ方向において、基材の反対側よりも基材側で少なくなっているものと容易にすることができる。
[本適用例3]
本適用例の接合膜では、前記第1の層は、その厚さ方向において、前記基材側からその反対側に向かって前記メチル基の含有量が増加し、
前記第2の層は、その厚さ方向において、前記メチル基の含有量が一定であることが好ましい。
これにより、第1の層は、基材との界面および第2の層との界面の双方に対して優れた密着性を発揮するものとなるため、これらの界面における接合膜の剥離を抑制または防止することができる。
[本適用例4]
本適用例の接合膜では、プラズマ重合により形成されたものであることが好ましい。
プラズマ重合法によれば、緻密で均質な接合膜を効率よく成膜することができる。これにより、接合膜は、他の基材に対して特に強固に接合し得るものとなる。さらに、プラズマ重合法で成膜された接合膜は、エネルギーが付与されて活性化された状態が比較的長時間にわたって維持される。このため、接合体の製造過程の簡素化、効率化を図ることができる。
[本適用例5]
本適用例の接合膜の形成方法は、前記基材上に、プラズマ重合法を用いて、原料ガスとしてのポリオルガノシロキサン中の分子を重合させることにより、前記ポリオルガノシロキサンの重合物を付着及び堆積させて前記接合膜を得る際に、
前記ポリオルガノシロキサンの重合物を付着及び堆積させる条件を経時的に変化させることを特徴とする。
これにより、基材および他の基材の双方に対して優れた密着性を発揮する接合膜を形成することができる。
[本適用例6]
本適用例の接合膜の形成方法では、経時的に変化させる前記条件は、前記原料ガスの流量であることが好ましい。
これにより、接合膜の厚さ方向において、メチル基の含有量が基材の反対側よりも基材側で少なくなっている接合膜を、容易かつ確実に成膜することができる。
[本適用例7]
本適用例の接合体は、本適用例の接合膜を介して、前記基材と前記他の基材とが接合されてなることを特徴とする。
これにより、優れた密着性をもって基材と他の基材とが接合された接合体を得ることができる。
[本適用例8]
本適用例の液滴吐出ヘッドは、本適用例の接合膜を備えることを特徴とする。
これにより、信頼性の高い液滴吐出ヘッドを得ることができる。
[本適用例9]
本適用例の液滴吐出装置は、本適用例の液滴吐出ヘッドを備えることを特徴とする。
これにより、信頼性の高い液滴吐出装置を得ることができる。
本発明の液滴吐出ヘッドをインクジェット式記録ヘッドに適用した実施形態を示す縦断面図である。 図1に示すインクジェット式記録ヘッドを備えるインクジェットプリンタの実施形態を示す概略図である。 本発明の接合膜のエネルギー付与前の表面付近の状態を示す部分拡大図である。 本発明の接合膜のエネルギー付与後の表面付近の状態を示す部分拡大図である。 本発明の接合膜の形成に用いられる成膜装置(プラズマ重合装置)を模式的に示す縦断面図である。 基板上に接合膜を作製する方法を説明するための図(縦断面図)である。
以下、本発明の接合膜、接合膜の形成方法、接合体、液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置を、添付図面に示す好適実施形態に基づいて詳細に説明する。
<インクジェット式記録ヘッド>
まず、本発明の接合膜を説明するのに先立って、本発明の接合膜を備える液滴吐出ヘッド(本発明の液滴吐出ヘッド)について説明する。
なお、以下では、本発明の液滴吐出ヘッドを、インクジェット式記録ヘッドに適用した場合を一例に説明する。
図1は、本発明の液滴吐出ヘッドをインクジェット式記録ヘッドに適用した実施形態を示す縦断面図、図2は、図1に示すインクジェット式記録ヘッドを備えるインクジェットプリンタの実施形態を示す概略図である。なお、以下の説明では、図1中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
図1に示すインクジェット式記録ヘッド1(以下、単に「ヘッド1」と言うこともある。)は、図2に示すようなインクジェットプリンタ(本発明の液滴吐出装置)9に搭載されている。
図2に示すインクジェットプリンタ9は、装置本体92を備えており、上部後方に記録用紙Pを設置するトレイ921と、下部前方に記録用紙Pを排出する排紙口922と、上部面に操作パネル97とが設けられている。
操作パネル97は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、LEDランプ等で構成され、エラーメッセージ等を表示する表示部(図示せず)と、各種スイッチ等で構成される操作部(図示せず)とを備えている。
また、装置本体92の内部には、主に、往復動するヘッドユニット93を備える印刷装置(印刷手段)94と、記録用紙Pを1枚ずつ印刷装置94に送り込む給紙装置(給紙手段)95と、印刷装置94および給紙装置95を制御する制御部(制御手段)96とを有している。
制御部96の制御により、給紙装置95は、記録用紙Pを一枚ずつ間欠送りする。この記録用紙Pは、ヘッドユニット93の下部近傍を通過する。このとき、ヘッドユニット93が記録用紙Pの送り方向とほぼ直交する方向に往復移動して、記録用紙Pへの印刷が行なわれる。すなわち、ヘッドユニット93の往復動と記録用紙Pの間欠送りとが、印刷における主走査および副走査となって、インクジェット方式の印刷が行なわれる。
印刷装置94は、ヘッドユニット93と、ヘッドユニット93の駆動源となるキャリッジモータ941と、キャリッジモータ941の回転を受けて、ヘッドユニット93を往復動させる往復動機構942とを備えている。
ヘッドユニット93は、その下部に、多数のノズル孔11を備えるヘッド1と、ヘッド1にインクを供給するインクカートリッジ931と、ヘッド1およびインクカートリッジ931を搭載したキャリッジ932とを有している。
なお、インクカートリッジ931として、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラック(黒)の4色のインクを充填したものを用いることにより、フルカラー印刷が可能となる。
往復動機構942は、その両端をフレーム(図示せず)に支持されたキャリッジガイド軸943と、キャリッジガイド軸943と平行に延在するタイミングベルト944とを有している。
キャリッジ932は、キャリッジガイド軸943に往復動自在に支持されるとともに、タイミングベルト944の一部に固定されている。
キャリッジモータ941の作動により、プーリを介してタイミングベルト944を正逆走行させると、キャリッジガイド軸943に案内されて、ヘッドユニット93が往復動する。そして、この往復動の際に、ヘッド1から適宜インクが吐出され、記録用紙Pへの印刷が行われる。
給紙装置95は、その駆動源となる給紙モータ951と、給紙モータ951の作動により回転する給紙ローラ952とを有している。
給紙ローラ952は、記録用紙Pの送り経路(記録用紙P)を挟んで上下に対向する従動ローラ952aと駆動ローラ952bとで構成され、駆動ローラ952bは給紙モータ951に連結されている。これにより、給紙ローラ952は、トレイ921に設置した多数枚の記録用紙Pを、印刷装置94に向かって1枚ずつ送り込めるようになっている。なお、トレイ921に代えて、記録用紙Pを収容する給紙カセットを着脱自在に装着し得るような構成であってもよい。
制御部96は、例えばパーソナルコンピュータやディジタルカメラ等のホストコンピュータから入力された印刷データに基づいて、印刷装置94や給紙装置95等を制御することにより印刷を行うものである。
制御部96は、いずれも図示しないが、主に、各部を制御する制御プログラム等を記憶するメモリ、印刷装置94(キャリッジモータ941)を駆動する駆動回路、給紙装置95(給紙モータ951)を駆動する駆動回路、および、ホストコンピュータからの印刷データを入手する通信回路と、これらに電気的に接続され、各部での各種制御を行うCPUとを備えている。
また、CPUには、例えば、インクカートリッジ931のインク残量、ヘッドユニット93の位置等を検出可能な各種センサー等が、それぞれ電気的に接続されている。
制御部96は、通信回路を介して、印刷データを入手してメモリに格納する。CPUは、この印刷データを処理して、この処理データおよび各種センサーからの入力データに基づいて、各駆動回路に駆動信号を出力する。この駆動信号により印刷装置94および給紙装置95は、それぞれ作動する。これにより、記録用紙Pに印刷が行われる。
以下、ヘッド1について、図1を参照しつつ詳述する。
図1に示すように、ヘッド1は、ノズルプレート10と、ノズルプレート上に設けられた吐出液貯留室形成基材(基材)20と、吐出液貯留室形成基材20上に設けられた振動フィルム30と、振動フィルム30上に設けられた支持板40と、支持板40上に設けられた圧電素子(振動手段)50およびケースヘッド60とを有している。なお、本実施形態では、このヘッド1は、ピエゾジェット式ヘッドを構成する。
吐出液貯留室形成基材20(以下、省略して「基材20」と言う。)には、インクを貯留する複数の吐出液貯留室(圧力室)21が形成され、さらに、各吐出液貯留室21に連通し、各吐出液貯留室21にインクを供給する吐出液供給室22が形成されている。
図1に示すように、各吐出液貯留室21および吐出液供給室22は、それぞれ、平面視において、ほぼ長方形状をなし、各吐出液貯留室21の幅(短辺)は、吐出液供給室22の幅(短辺)より細幅となっている。
また、各吐出液貯留室21は、吐出液供給室22に対して、ほぼ垂直をなすように配置されており、各吐出液貯留室21および吐出液供給室22は、平面視において全体として、櫛状をなしている。
基材20を構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンのようなシリコン材料、ステンレス鋼のような金属材料、石英ガラスのようなガラス材料、アルミナのようなセラミックス材料、グラファイトのような炭素材料、ポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、シリコーン樹脂のような樹脂材料等が挙げられ、これらのうち1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、上記のような材料に、酸化処理(酸化膜形成)、めっき処理、不働態化処理、窒化処理等の各処理を施した材料でもよい。
これらの中でも、基材20の構成材料は、シリコン材料またはステンレス鋼であるのが好ましい。このような材料は、耐インク性(耐薬品性)に優れることから、長時間にわたってインクに曝されたとしても、基材20が変質及び劣化するのを確実に防止することができる。また、これらの材料は、加工性に優れるため、寸法精度の高い基材20が得られる。このため、吐出液貯留室21や吐出液供給室22の容積の精度が高くなり、高品位の印字が可能なヘッド1が得られる。
また、吐出液供給室22は、後述するケースヘッド60に設けられた吐出液供給路61と連通して複数の吐出液貯留室21にインクを供給する共通のインク室として機能するリザーバー70の一部を構成する。
基材20の下面(振動フィルム30と反対側の面;一方の面)には、接合膜15を介して、吐出液貯留室21および吐出液供給室22を覆うようにノズルプレート10が接合(接着)されている。
本実施形態では、この接合膜15が、後述する本発明の接合膜で構成されており、かかる構成とすることで、接合膜15のインクに含まれる溶媒に対する耐性(耐溶剤性)が向上するため、接合膜15がインクに接触することに起因する膨潤を的確に防止または抑制することができる。また、接合膜15の基材20およびノズルプレート10に対する密着性が向上しているため、接合膜15のインクに含まれる溶媒に接触したとしても、接合膜15と基材20およびノズルプレート10との間で剥離が生じるのを確実に抑制または防止することができる。
ノズルプレート10には、各吐出液貯留室21に対応するように、それぞれノズル孔11が形成(穿設)されている。このノズル孔11から、吐出液貯留室21に貯留されたインク(吐出液)を押し出すことにより、インクが液滴として吐出されることとなる。
また、ノズルプレート10は、各吐出液貯留室21や吐出液供給室22の内壁面の下面を構成している。すなわち、ノズルプレート10と、基材20および振動フィルム30とにより、各吐出液貯留室21や吐出液供給室22を画成している。
このようなノズルプレート10を構成する材料としては、例えば、前述したようなシリコン材料、金属材料、ガラス材料、セラミックス材料、炭素材料、樹脂材料、またはこれらの各材料の1種または2種以上を組み合わせた複合材料等が挙げられる。
これらの中でも、ノズルプレート10の構成材料は、シリコン材料またはステンレス鋼であるのが好ましい。このような材料は、耐インク性に優れることから、長時間にわたってインクに曝されたとしても、ノズルプレート10が変質及び劣化するのを確実に防止することができる。また、これらの材料は、加工性に優れるため、寸法精度の高いノズルプレート10が得られる。このため、信頼性の高いヘッド1が得られる。
なお、ノズルプレート10の構成材料は、線膨張係数が300℃以下で2.5〜4.5[×10−6/℃]程度であるものが好ましい。
また、ノズルプレート10の厚さは、特に限定されないが、0.01〜1mm程度であるのが好ましい。
また、ノズルプレート10の下面には、必要に応じて、撥液処理を施すのが好ましい。これにより、ノズル孔から吐出されるインク滴が意図しない方向に吐出されるのを防止することができる。
基材20の上面(他方の面)には、接合膜25を介して、吐出液貯留室21および吐出液供給室22を覆うように振動フィルム30が接着されている。
本実施形態では、この接合膜25も、前述した接合膜15と同様に、本発明の接合膜で構成される。これにより、接合膜25のインクに含まれる溶媒に対する耐性(耐溶剤性)が向上するため、接合膜25がインクに接触することに起因する膨潤を的確に防止または抑制することができる。また、接合膜25の基材20および振動フィルム30に対する密着性が向上しているため、接合膜25のインクに含まれる溶媒に接触したとしても、接合膜25と基材20および振動フィルム30との間で剥離が生じるのを確実に抑制または防止することができる。
また、振動フィルム30は、各吐出液貯留室21や吐出液供給室22の内壁面の上面を構成している。すなわち、振動フィルム30と、基材20およびノズルプレート10とにより、各吐出液貯留室21や吐出液供給室22を画成している。そして、振動フィルム30が基材20と確実に接合されていることにより、各吐出液貯留室21や吐出液供給室22の液密性を確保している。
さらに、振動フィルム30は、弾性変形する機能を有するものである。したがって、圧電素子50で発生した歪みにより、支持板40を介して振動フィルム30を変位(振動)させることで、吐出液貯留室21の容積を変化させることができ、その結果、インクが吐出される。
振動フィルム30を構成する材料としては、例えば、前述したようなシリコン材料、金属材料、ガラス材料、セラミックス材料、炭素材料、樹脂材料、またはこれらの各材料の1種または2種以上を組み合わせた複合材料等が挙げられる。
これらの中でも、振動フィルム30の構成材料は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、アラミド樹脂のような樹脂材料、シリコン材料またはステンレス鋼であるのが好ましい。このような材料は、耐インク性に優れることから、長時間にわたってインクに曝されたとしても、振動フィルム30が変質及び劣化するのを確実に防止することができる。このため、吐出液貯留室21内および吐出液供給室22内に、長期間にわたってインクを貯留することができる。さらに、これらは、高速で弾性変形することが可能な材料であるため、吐出液貯留室21の容積を高速に変化させることができ、その結果、インクを高精度に吐出することができる。
振動フィルム30の上面には、接合膜35を介して、振動フィルム30の一部に対応するように支持板40が接着されている。
本実施形態では、この接合膜35も、前述した接合膜15と同様に、本発明の接合膜で構成される。これにより、接合膜35のインクに含まれる溶媒に対する耐性(耐溶剤性)が向上するため、接合膜35がインクに接触することに起因する膨潤を的確に防止または抑制することができる。また、接合膜35の支持板40および振動フィルム30に対する密着性が向上しているため、接合膜25のインクに含まれる溶媒に接触したとしても、接合膜35と支持板40および振動フィルム30との間で剥離が生じるのを確実に抑制または防止することができる。
支持板40は、圧電素子50で発生した歪みを、このものを介して、振動フィルム30に伝播する機能を有するものである。これにより、圧電素子50に歪みを発生させることで、振動フィルム30に変位が生じ、その結果、各吐出液貯留室21における容積変化を確実に生じさせることができる。
支持板40を構成する材料としては、例えば、前述したようなシリコン材料、金属材料、ガラス材料、セラミックス材料、炭素材料、樹脂材料、またはこれらの各材料の1種または2種以上を組み合わせた複合材料等が挙げられる。
これらの中でも、支持板40の構成材料は、シリコン材料またはステンレス鋼(SUS)であるのが好ましい。このような材料は、優れた強度を有するものである。そのため、圧電素子50で発生した歪みが、より確実に、振動フィルム30に伝播されることから、インクがより高精度に吐出されることとなる。
なお、本実施形態では、上述した振動フィルム30と支持板40とが接合膜35を介して接合された積層体により、吐出液貯留室21および吐出液供給室22を覆う振動板(封止板)が構成される。
支持板40の上面の一部(図1では、支持板40の上面の中央部付近)に、圧電素子(振動手段)50が接合されている。
圧電素子50は、圧電材料で構成された圧電体層51と、この圧電体層51に電圧を印加する電極膜52との積層体で構成されている。このような圧電素子50では、電極膜52を介して圧電体層51に電圧を印加することにより、圧電体層51に電圧に応じた歪みが発生する(逆圧電効果)。この歪みが支持板40を介して振動フィルム30に撓み(振動)をもたらし、吐出液貯留室21の容積を変化させる。かかる構成の圧電素子50が支持板40と確実に接合されていることにより、圧電素子50に発生した歪みを、支持板40を介して振動フィルム30の変位へと確実に変換することができ、その結果、各吐出液貯留室21が確実に容積変化することとなる。
また、圧電体層51と電極膜52との積層方向は、特に限定されず、支持板40に対して平行な方向であっても、直交する方向であってもよい。なお、圧電体層51と電極膜52との積層方向が、図1に示すように、支持板40に対して直交する方向である場合、このように配置された圧電素子50を特にMLP(Multi Layer Piezo)と言う。圧電素子50がMLPであれば、支持板40の変位量を大きくとることができるので、インクの吐出量の調整幅が大きいという利点がある。
圧電素子50のうち、支持板40に隣接する(接触する)面は、圧電素子50の配置方法によって異なるが、圧電体層が露出した面、電極膜が露出した面、または圧電体層と電極膜の双方が露出した面のいずれかである。
圧電素子50のうち、圧電体層51を構成する材料としては、例えば、チタン酸バリウム、ジルコン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、水晶等が挙げられる。
一方、電極膜52を構成する材料としては、例えば、Fe、Ni、Co、Zn、Pt、Au、Ag、Cu、Pd、Al、W、Ti、Mo、またはこれらを含む合金等の各種金属材料が挙げられる。
ここで、前述した支持板40は、圧電素子50に対応する位置を取り囲むように環状に形成された凹部53を有している。すなわち、支持板40は、振動フィルム30上に、その一部に対応するように設けられており、圧電素子50に対応する位置では、支持板40の一部が、この環状の凹部53を隔てて島状に孤立している。このような島状をなす部分に圧電素子50を接合する構成とすることで、圧電素子50で発生した歪みをより確実に、振動フィルム30に伝播することができるため、振動フィルム30における撓みがより確実に生じることとなる。
また、圧電素子50の電極膜52は、図示しない駆動ICと電気的に接続されている。これにより、圧電素子50の動作を駆動ICによって制御することができる。
また、支持板40の上面の一部(図1では、凹部53を隔てて、島状をなす部分を取り囲む部分)には、ケースヘッド60が接合されている。このように、ケースヘッド60と支持板40とが接合されることで、ノズルプレート10、基材20、振動フィルム30および支持板40の積層体で構成された、いわゆるキャビティー部分を補強し、キャビティー部分のよじれや反り等を確実に抑制することができる。
ケースヘッド60を構成する材料としては、例えば、前述したようなシリコン材料、金属材料、ガラス材料、セラミックス材料、炭素材料、樹脂材料、またはこれらの各材料の1種または2種以上を組み合わせた複合材料等が挙げられる。
これらの中でも、ケースヘッド60の構成材料は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ザイロンのような変性ポリフェニレンエーテル樹脂(「ザイロン」は登録商標)またはステンレス鋼であるのが好ましい。これらの材料は、十分な剛性を備えていることから、ヘッド1を支持するケースヘッド60の構成材料として好適である。
また、振動フィルム30、接合膜35および支持板40は、吐出液供給室22に対応する位置に貫通孔23を有する。この貫通孔23により、ケースヘッド60に設けられた吐出液供給路61と吐出液供給室22とが連通している。なお、吐出液供給路61と吐出液供給室22とにより、複数の吐出液貯留室21にインクを供給する共通のインク室として機能するリザーバー70の一部を構成する。
このようなヘッド1では、図示しない外部吐出液供給手段からインクを取り込み、リザーバー70からノズル孔11に至るまで内部をインクで満たした後、駆動ICからの記録信号により、各吐出液貯留室21に対応するそれぞれの圧電素子50を動作させる。これにより、圧電素子50の逆圧電効果によって支持板40を介して振動フィルム30に撓み(振動)が生じる。その結果、例えば、各吐出液貯留室21内の容積が収縮すると、各吐出液貯留室21内の圧力が瞬間的に高まり、ノズル孔11からインクが液滴として押し出される(吐出される)。
このようにして、ヘッド1において、印刷したい位置の圧電素子50に、駆動ICを介して電圧を印加すること、すなわち、吐出信号を順次入力することにより、任意の文字が図形等を印刷することができる。
なお、ヘッド1は、前述したような構成のものに限らず、例えば、振動手段としての圧電素子50に代えて、静電アクチュエータを備えるものであってもよい。
ただし、本実施形態のように、振動手段が圧電素子で構成されていることにより、振動フィルム30に発生する撓みの程度を容易に制御することができる。これにより、インク滴の大きさを容易に制御することができる。
なお、本実施形態では、接合膜15、25、35のいずれもが、本発明の接合膜で構成されることとしたが、本発明では、この場合に限らず、これら接合膜15、25、35のうちの少なくとも1層が、本発明の接合膜で構成されていればよい。
<接合膜>
さて、上述のとおり、本実施形態では、接合膜15、25、35に、本発明の接合膜が適用される。
以下、この接合膜について説明する。
なお、以下では、接合膜15、25、35を介して接合される、基材20および支持板40と、ノズルプレート10および振動フィルム30とを、それぞれ総称して、「基材」と、「他の基材」と言い、接合膜15、25、35のうち接合膜15を代表にして、基材2上に形成した接合膜15に発現した接着性をもって他の基材と接合する場合について説明する。
図3は、本発明の接合膜のエネルギー付与前の表面付近の状態を示す部分拡大図、図4は、本発明の接合膜のエネルギー付与後の表面付近の状態を示す部分拡大図である。なお、以下の説明では、図3、4中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
接合膜15は、図3、4に示すように、シロキサン(Si−O)結合302を含むSi骨格301と、このシロキサン結合302に結合する脱離基であるメチル基303とを含み、メチル基303の含有量は、この接合膜15の厚さ方向において、基材2の反対側よりも基材2側で少なくなっている。
かかる構成の接合膜15は、シロキサン結合302を含むSi骨格301の影響によって、変形し難い強固な膜である。そのため、接合膜15自体が接合強度、耐インク性および寸法精度の高いものとなり、最終的に得られる接合体においても、接合強度、耐インク性および寸法精度が高いものとなる。
このような接合膜15は、その少なくとも一部の領域(全ての領域も含む)にエネルギーが付与されると、かかる領域に位置するメチル基303がSi骨格301から脱離し、その結果、図4に示すように、接合膜15の表面および内部に、活性手304が生じ、これにより、接合膜15の表面の前記領域に接着性が発現するものである。かかる接着性が発現すると、接合膜15は、他の基材に対して、高い寸法精度で強固に効率よく接合可能なものとなる。
さらに、この接合膜15では、メチル基303の含有量が、その厚さ方向において、基材2側で少なく、基材2の反対側(他の基材側)で多くなっている。したがって、前記のように、接合膜15へのエネルギーの付与によりメチル基303をSi骨格301から脱離させて、その表面に接着性を発現させる際に、より確実にメチル基303を脱離させることができる。そのため、表面に発現する接着性をもって、他の基材をより強固に接合することができる。また、メチル基303が多量に含まれることで、接合膜15の表面では、その強度が基材2側と比較して低くなっている。そのため、接合すべき他の基材に対する追従性が向上することから、かかる観点からも、他の基材をより強固に接合することができるようになる。さらに、基材2側でメチル基303の含有量を少なく設定することで、基材2上への接合膜15の成膜時において、優れた密着性を有する接合膜15を基材2上に形成することができる。以上のことから、接合膜15を介した基材2と他の基材との接合がより優れた密着性をもって接合され、その結果、接合膜15を介して基材2と他の基材とが接合された接合体は、各種溶媒を含有するインクに対して優れた耐インク性を発揮するものとなる。
また、このような接合膜15は、流動性を有しない固体状のものとなる。このため、接合膜15の厚さや形状がほとんど変化しない。これにより、接合膜15を介して基材2と他の基材とが接合された接合体の寸法精度は、従来に比べて格段に高いものとなる。さらに、接着剤の硬化に要する時間が不要になるため、短時間で強固な接合が可能となる。
このような接合膜15は、単一の層で構成され、この層中において基材2側からその反対側に向かって、メチル基303の含有量が連続的に変化するものであっても良いが、基材2側に位置する第1の層と、基材2の反対側に位置する第2の層とを有し、第1の層と第2の層とが積層された積層体で構成されており、第1の層中におけるメチル基303の含有量が、第2の層中におけるメチル基303の含有量よりも少なくなっているのが好ましい。接合膜15をかかる構成の積層体とすることで、この膜を、メチル基303の含有量が、接合膜15の厚さ方向において、基材2の反対側よりも基材2側で少なくなっているものと容易にすることができる。
この第1の層におけるメチル基303の含有量は、0.03[Abs]以上、0.15[Abs]以下であるのが好ましく、0.07[Abs]以上、0.12[Abs]以下であるのがより好ましい。これにより、基材2上への接合膜15の成膜時において、優れた密着性を有する第1の層を基材2上に形成することができる。
また、第2の層におけるメチル基303の含有量は、0.16[Abs]以上、0.25[Abs]以下であるのが好ましく、0.16[Abs]以上、0.20[Abs]以下であるのがより好ましい。接合膜(第2の層)15へのエネルギーの付与によりメチル基303をSi骨格301から脱離させて、その表面に接着性を発現させる際に、第2の層におけるメチル基303の含有量をかかる範囲内に設定することにより、より確実にメチル基303を脱離させることができることから、表面に発現する接着性をもって、他の基材をより強固に接合することができるようになる。
なお、各層の厚さ方向におけるメチル基303の含有量は、クラスターイオンビーム(GCTB)搭載飛行時間型2次イオン質量分析(TOF−SIMS)装置を用いて測定することができ、メチル基303の吸光度で相対的に表すことができる。GCTB搭載TOF−SIMS装置によれば、100nm程度の分解能で、厚さ方向におけるメチル基303の含有量を優れた精度で測定することができる。
また、このような第1の層は、その膜厚が50nm以上、500nm以下であるのが好ましく、250nm以上、400nm以下であるのがより好ましい。かかる範囲内に設定することで、第1の層としての機能を確実に発揮させて、優れた密着性をもって第1の層を基材2に接合することができる。
さらに、第2の層は、その膜厚が500nm以上、2000nm以下であるのが好ましく、500nm以上、2000nm以下であるのがより好ましい。かかる範囲内に設定することで、第2の層としての機能を確実に発揮させて、接合すべき他の基材に対する追従性をより向上させることができるため、他の基材をさらに強固に接合することができるようになる。
また、このような接合膜15において、第1の層は、その厚さ方向において、基材2側からその反対側に向かってメチル基303の含有量が増加しているグラデーション層であり、第2の層は、その厚さ方向において、メチル基303の含有量(メチル基量)が一定となっている単一層であることが好ましい。これにより、第1の層を、基材2との界面および第2の層との界面の双方に対して優れた密着性を発揮するものとすることができる。そのため、これらの界面における接合膜15の剥離を確実に抑制または防止することができる。
なお、本明細書中では、「各層の厚さ方向において、メチル基303の含有量が一定となっている」とは、例えばGCTB搭載TOF−SIMS装置を用いて、100nm程度の分解能で、厚さ方向におけるメチル基303の含有量を測定した際に、異なる厚さで測定されたメチル基量の小数点第3位を四捨五入した値同士が同一である場合のことを言う。これに対して、「各層の厚さ方向において、基材2側からその反対側に向かってメチル基303の含有量が増加している」とは、異なる厚さで測定されたメチル基量の小数点第3位を四捨五入した値同士が異なり、かつ、基材2側の値よりも基材2の反対側の値の方が大きくなっている場合のことを言うこととする。
また、グラデーション層である第1層は、メチル基303の含有量が連続的に変化する単一層で構成されるものであっても良いし、メチル基303の含有量がそれぞれ異なる複数の層が積層された積層体で構成されるものであっても良い。
さらに、接合膜15おいて、特に、接合膜15を構成する全原子からH原子を除いた原子のうち、Si原子の含有率とO原子の含有率の合計が、10〜90原子%程度であるのが好ましく、20〜80原子%程度であるのがより好ましい。Si原子とO原子とが、前記範囲の含有率で含まれていれば、接合膜15は、Si原子とO原子とが強固なネットワークを形成し、接合膜15自体が強固なものとなる。また、かかる接合膜15は、基材(基板)2および他の基材(他の基板)4に対して、特に高い接合強度を示すものとなる。
また、接合膜15中のSi原子とO原子の存在比は、3:7〜7:3程度であるのが好ましく、4:6〜6:4程度であるのがより好ましい。Si原子とO原子の存在比を前記範囲内になるよう設定することにより、接合膜15の安定性が高くなり、基材2と他の基材とをより強固に接合することができるようになる。
なお、接合膜15中のSi骨格301の結晶化度は、45%以下であるのが好ましく、40%以下であるのがより好ましい。これにより、接合膜15中において、Si骨格301はランダムな原子構造を含むものとなる。このため、前述したSi骨格301の特性が顕在化し、接合膜15の寸法精度および接着性がより優れたものとなる。
このSi骨格301の結晶化度は、例えば、X線回折法等を用いて求めることができる。
また、接合膜15は、その構造中にSi−H結合を含んでいるのが好ましい。このSi−H結合は、プラズマ重合法によってシランが重合反応する際に重合物中に必然的に生じるものであるが、このとき、Si−H結合がシロキサン結合の生成が規則的に行われるのを阻害すると考えられる。このため、シロキサン結合は、Si−H結合を避けるように形成されることとなり、Si骨格301の原子構造の規則性が低下する。このようにして、プラズマ重合法によれば、結晶化度の低いSi骨格301を効率よく形成することができる。
このSi−H結合は、例えば、赤外光吸収スペクトルを用いて求めることができる。
一方、接合膜15中のSi−H結合の含有率が多ければ多いほど結晶化度が低くなるわけではない。具体的には、接合膜15の赤外光吸収スペクトルにおいて、シロキサン結合に帰属するピークの強度を1としたとき、Si−H結合に帰属するピークの強度は、0.001〜0.2程度であるのが好ましく、0.002〜0.05程度であるのがより好ましく、0.005〜0.02程度であるのがさらに好ましい。Si−H結合のシロキサン結合に対する割合が前記範囲内であることにより、接合膜15中の原子構造は、相対的にランダムなものとなる。このため、Si−H結合のピーク強度がシロキサン結合のピーク強度に対して前記範囲内にある場合、接合膜15は、接合強度、耐インク性および寸法精度において特に優れたものとなる。
また、Si骨格301に結合するメチル基303は、前述したように、Si骨格301から脱離することによって、接合膜15に活性手を生じさせるよう振る舞うものである。このメチル基303には、エネルギーを付与されることによって、比較的簡単に、かつ均一に脱離するものの、エネルギーが付与されないときには、脱離しないようSi骨格301に確実に結合している。
すなわち、接合膜15の赤外光吸収スペクトルにおいて、シロキサン結合に帰属するピークの強度を1としたとき、メチル基303に帰属するピークの強度は、0.05〜0.45程度であるのが好ましく、0.1〜0.4程度であるのがより好ましく、0.2〜0.3程度であるのがさらに好ましい。メチル基303のピーク強度がシロキサン結合のピーク強度に対する割合が前記範囲内であることにより、メチル基303がシロキサン結合の生成を必要以上に阻害するのを防止しつつ、接合膜15中に必要かつ十分な数の活性手が生じるため、接合膜15に十分な接着性が生じる。また、接合膜15には、メチル基303に起因する十分な耐候性および耐インク性が発現する。
このような特徴を有する接合膜15の構成材料としては、例えば、ポリオルガノシロキサンのようなシロキサン結合を含む重合物等が挙げられる。
ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜15は、それ自体が優れた機械的特性を有している。また、多くの材料に対して特に優れた接着性を示すものである。したがって、ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜15は、基材2に対して特に強固に被着するとともに、他の基材に対しても特に強い被着力を示し、その結果として、基材2と他の基材とを強固に接合することができる。
また、ポリオルガノシロキサンは、通常、撥水性(非接着性)を示すが、エネルギーを付与されることにより、容易に有機基を脱離させることができ、親水性に変化し、接着性を発現するが、この非接着性と接着性との制御を容易かつ確実に行えるという利点を有する。
なお、この撥水性(非接着性)は、主に、ポリオルガノシロキサン中に含まれたメチル基303による作用である。したがって、ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜15は、エネルギーを付与されることにより、表面に接着性が発現するとともに、表面以外の部分においては、前述したメチル基303による作用・効果が得られるという利点も有する。したがって、接合膜15は、耐候性および耐インク性に優れたものとなり、例えば、薬品類等に長期にわたって曝されるような基板の接合に際して、有効に用いられるものとなる。これにより、例えば、樹脂材料を浸食し易い有機系インクが用いられる工業用インクジェットプリンタの液滴吐出ヘッドに本発明を適用する際には、ポリオルガノシロキサンで構成された接合膜15を備えることにより、耐久性および耐インク性に優れたものとすることができる。
また、ポリオルガノシロキサンの中でも、特に、オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とするものが好ましい。オクタメチルトリシロキサンの重合物を主成分とする接合膜15は、接着性に特に優れることから、本発明の接合膜に対して特に好適に適用できるものである。また、オクタメチルトリシロキサンを主成分とする原料は、常温で液状をなし、適度な粘度を有するため、取り扱いが容易であるという利点もある。
このような接合膜15を介した他の基材の基材2に対する接合強度は、そのダイシェア強度が、15MPa以上であるのが好ましく、17MPa以上、22MPa以下であるのがより好ましい。接合膜15を上述したような構成のものとすることで、ダイシェア強度を前記範囲内のものに容易に設定することが可能となる。
なお、このダイシェア強度は、MIL−STD−833(Method2019.7)に準拠して、他の基材側からせん断応力をかけた時のせん断強度として測定することができる。
このような接合膜15では、その形成方法(成膜方法)は、特に限定されないが、プラズマ重合法であるのが好ましい。プラズマ重合法によれば、緻密で均質な接合膜15を効率よく成膜することができる。これにより、接合膜15は、他の基材に対して特に強固に接合し得るものとなる。さらに、プラズマ重合法で成膜された接合膜15は、エネルギーが付与されて活性化された状態が比較的長時間にわたって維持される。このため、接合体の製造過程の簡素化、効率化を図ることができる。
以下、プラズマ重合法を用いた接合膜の成膜方法、すなわち本発明の接合膜の形成方法について説明するが、この接合膜の成膜方法(形成方法)に先立って、まず、かかる方法に用いられる成膜装置(プラズマ重合装置)について説明する。
<成膜装置>
図5は、本発明の接合膜の形成に用いられる成膜装置(プラズマ重合装置)を模式的に示す縦断面図である。なお、以下の説明では、図5中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
図5に示す成膜装置(プラズマ重合装置)100は、チャンバー101と、基材2を支持する第1の電極130と、第2の電極140と、各電極130、140間に高周波電圧を印加する電源回路180と、チャンバー101内にガスを供給するガス供給部190と、チャンバー101内のガスを排気する排気ポンプ170とを備えている。これらの各部のうち、第1の電極130および第2の電極140がチャンバー101内に設けられている。以下、各部について詳細に説明する。
チャンバー101は、内部の気密を保持し得る容器であり、内部を減圧(真空)状態にして使用されるため、内部と外部との圧力差に耐え得る耐圧性能を有するものとされる。
図5に示すチャンバー101は、軸線が水平方向に沿って配置されたほぼ円筒形をなすチャンバー本体と、チャンバー本体の左側開口部を封止する円形の側壁と、右側開口部を封止する円形の側壁とで構成されている。
チャンバー101の上方には供給口103が、下方には排気口104が、それぞれ設けられている。そして、供給口103にはガス供給部190が接続され、排気口104には排気ポンプ170が接続されている。
なお、本実施形態では、チャンバー101は、導電性の高い金属材料で構成されており、接地線102を介して電気的に接地されている。
第1の電極130は、板状をなしており、基材2を支持している。
この第1の電極130は、チャンバー101の側壁の内壁面に、鉛直方向に沿って設けられており、これにより、第1の電極130は、チャンバー101を介して電気的に接地されている。なお、第1の電極130は、図5に示すように、チャンバー本体と同心状に設けられている。
第1の電極130の基材2を支持する面には、静電チャック(吸着機構)139が設けられている。
この静電チャック139により、図5に示すように、基材2を鉛直方向に沿って支持することができる。
また、第1の電極130には、図示しない温度調整手段が設けられており、この温度調整手段の作動により、基材2を所望の温度に設定することができる。
第2の電極140は、基材2を介して、第1の電極130と対向して設けられている。なお、第2の電極140は、チャンバー101の側壁の内壁面から離間した(絶縁された)状態で設けられている。
この第2の電極140には、配線184を介して高周波電源182が接続されている。また、配線184の途中には、マッチングボックス(整合器)183が設けられている。これらの配線184、高周波電源182およびマッチングボックス183により、電源回路180が構成されている。
このような電源回路180によれば、第1の電極130は接地されているので、第1の電極130と第2の電極140との間に高周波電圧が印加される。これにより、第1の電極130と第2の電極140との間隙には、高い周波数で向きが反転する電界が誘起される。なお、この周波数および高周波電力の出力が適宜設定し得るよう構成されている。
ガス供給部190は、チャンバー101内に所定のガスを供給するものである。
図5に示すガス供給部190は、液状の膜材料(原料液)を貯留する貯液部191と、液状の膜材料を気化してガス状に変化させる気化装置192と、キャリアガスを貯留するガスボンベ193とを有している。また、これらの各部とチャンバー101の供給口103とが、それぞれ配管194で接続されており、ガス状の膜材料(原料ガス)とキャリアガスとの混合ガスを、供給口103からチャンバー101内に供給するように構成されている。
貯液部191に貯留される液状の膜材料は、成膜装置100により、重合して基材2の表面に重合膜を形成する原材料となるものである。
このような液状の膜材料は、気化装置192により気化され、ガス状の膜材料(原料ガス)となってチャンバー101内に供給される。なお、気化装置192により気化する膜材料の気化量を適宜設定することにより、膜材料の流量を所望の大きさに設定することができる。また、原料ガスについては、後に詳述する。
ガスボンベ193に貯留されるキャリアガスは、電界の作用により放電し、およびこの放電を維持するために導入するガスである。このようなキャリアガスとしては、例えば、Arガス、Heガス等が挙げられる。
また、チャンバー101内の供給口103の近傍には、拡散板195が設けられている。
拡散板195は、チャンバー101内に供給される混合ガスの拡散を促進する機能を有する。これにより、混合ガスは、チャンバー101内に、ほぼ均一の濃度で分散することができる。
排気ポンプ170は、チャンバー101内を排気するものであり、例えば、油回転ポンプ、ターボ分子ポンプ等で構成される。このようにチャンバー101内を排気して減圧することにより、ガスを容易にプラズマ化することができる。また、大気雰囲気との接触による基材2の汚染・酸化等を防止するとともに、プラズマ処理による反応生成物をチャンバー101内から効果的に除去することができる。
また、排気口104には、チャンバー101内の圧力を調整する圧力制御機構171が設けられている。これにより、チャンバー101内の圧力が、ガス供給部190の動作状況に応じて、適宜設定される。
以上のような構成の成膜装置100を用いて、本発明の接合膜の形成方法を適用することで、基材2上に接合膜15が形成される。
以下、その形成方法について説明する。
<接合膜の形成方法>
図6は、基材上に接合膜を作製する方法を説明するための図(縦断面図)である。なお、以下の説明では、図6中の上側を「上」、下側を「下」と言う。
本発明の接合膜の形成方法は、上述した接合膜15を形成するために用いられ、基材2上に、プラズマ重合法を用いて、原料ガスとしてのポリオルガノシロキサン中の分子を重合させることにより、前記ポリオルガノシロキサンの重合物を付着及び堆積させて接合膜15を得る際に、前記ポリオルガノシロキサンの重合物を付着及び堆積させる条件を経時的に変化させる方法である。
このように、前記条件を経時的に変化させることにより、形成される接合膜15を、その厚さ方向において、メチル基の含有量が基材2の反対側よりも基材2側で少なくなっているものとすることができる。したがって、この接合膜15は、基材2および他の基材の双方に対して優れた密着性を発揮するものとなる。
以下、この本発明の接合膜の形成方法の各工程について、詳述する。
なお、前記ポリオルガノシロキサンの重合物を付着及び堆積させる際に、経時的に変化させる条件としては、原料ガスの流量、高周波電力の出力および基材2の温度等が挙げられるが、中でも、原料ガスの流量であるのが好ましい。これにより、接合膜15の厚さ方向において、メチル基303の含有量が基材2の反対側よりも基材2側で少なくなっている接合膜15を、容易かつ確実に成膜することができる。
したがって、以下では、前記ポリオルガノシロキサンの重合物を付着及び堆積させる際に、原料ガスの流量を経時的に変化させる場合を一例に説明する。
<1> まず、基材2を用意し、必要に応じて、接合膜15を形成すべき基材2の上面に表面処理を施す。
この表面処理としては、例えば、スパッタリング処理、ブラスト処理のような物理的表面処理、酸素プラズマ、窒素プラズマ処理等を用いたプラズマ処理、コロナ放電処理、エッチング処理、電子線照射処理、紫外線照射処理、オゾン暴露処理のような化学的表面処理等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
<2> 次に、基材2を成膜装置100のチャンバー101内に収納して封止状態とした後、排気ポンプ170の作動により、チャンバー101内を減圧状態とする。
<3> 次に、ガス供給部190を作動させ、チャンバー101内に原料ガスとキャリアガスの混合ガスを供給する。供給された混合ガスは、チャンバー101内に充填される(図6(a)参照)。
ここで、混合ガス中における原料ガスの占める割合(混合比)は、原料ガスやキャリアガスの種類や目的とする成膜速度等によって若干異なるが、例えば、混合ガス中の原料ガスの割合を0〜70%程度に設定するのが好ましく、1〜60%程度に設定するのがより好ましい。これにより、重合膜の形成(成膜)の条件の最適化を図ることができる。
また、供給するガスの流量は、ガスの種類や目的とする成膜速度、膜厚等によって適宜決定され、特に限定されるものではないが、通常は、原料ガスおよびキャリアガスの流量を、それぞれ、0〜100ccm程度に設定するのが好ましく、1〜60ccm程度に設定するのがより好ましい。
<4> 次に、電源回路180を作動させ、一対の電極130、140間に高周波電圧を印加する。これにより、一対の電極130、140間に存在するガスの分子が電離し、プラズマが発生する。このプラズマのエネルギーにより原料ガス中の分子が重合し、図6(b)に示すように、重合物が基材2に付着及び堆積する。これにより、基材2上にプラズマ重合膜で構成された接合膜15が形成される(図6(c)参照)。
本実施形態では、この重合物がプラズマ重合法により基材2に付着及び堆積する際に、原料ガスの流量を経時的に変化させ、これにより、混合ガス中における原料ガスの占める割合(混合比)を変化させる。より具体的には、前述したような範囲内の原料ガスの流量が大きくなるように経時的に変化させ、これにより、混合ガス中における原料ガスの混合比が大きくなるように変化させる。このようにして、接合膜15が形成される過程において、原料ガスの流量を経時的に変化させることにより、得られる接合膜15は、その厚さ方向において、基材2の反対側よりも基材2側でメチル基303の含有量が少なくなっているものとなる。その結果、この接合膜15は、基材2および他の基材の双方に対して優れた密着性を発揮する。
また、プラズマの作用により、基材2の表面が活性化・清浄化される。このため、原料ガスの重合物が基材2の表面に堆積し易くなり、接合膜15の安定した成膜が可能になる。かかる観点からも、プラズマ重合法によれば、基材2の構成材料によらず、基材2と接合膜15との密着強度をより高めることができる。
原料ガスとしては、例えば、メチルシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、メチルフェニルシロキサンのようなオルガノシロキサンが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。このような原料ガスを用いて得られるプラズマ重合膜、すなわち接合膜15は、これらの原料が重合してなるもの(重合物)、すなわちポリオルガノシロキサンで構成されることとなる。
本工程におけるプラズマ重合の際には、上述した供給するガスのうち、原料ガスの流量を、最終的には1〜50ccm程度の範囲内で増加させるのが好ましく、10〜30ccm程度の範囲内で増加させるのがより好ましい。これにより、得られる接合膜15を、その厚さ方向において、基材2の反対側よりも基材2側でメチル基303の含有量がより確実に少なくなっているものとすることができる。
また、プラズマ重合の際、一対の電極130、140間に印加する高周波の周波数は、特に限定されないが、1kHz〜100MHz程度であるのが好ましく、10〜60MHz程度であるのがより好ましい。
さらに、高周波の出力密度は、特に限定されないが、0.01〜100W/cm程度であるのが好ましく、0.1〜50W/cm程度であるのがより好ましく、1〜40W/cm程度であるのがさらに好ましい。高周波の出力密度を前記範囲内とすることにより、高周波の出力密度が高過ぎて原料ガスに必要以上のプラズマエネルギーが付加されるのを確実に防止することができる。
また、成膜時のチャンバー101内の圧力は、133.3×10−5〜1333Pa(1×10−5〜10Torr)程度であるのが好ましく、133.3×10−4〜133.3Pa(1×10−4〜1Torr)程度であるのがより好ましい。
処理時間は、1〜10分程度であるのが好ましく、4〜7分程度であるのがより好ましい。
また、基材2の温度は、25℃以上であるのが好ましく、25〜100℃程度であるのがより好ましい。
なお、原料ガスの流量を経時的に変化させる場合に代えて、高周波電力の出力または基材2の温度を経時的に変化させて接合膜15を形成する場合には、本工程<4>において、原料ガスの流量を一定とし、高周波電力の出力または基材2の温度を経時的に変化させるようにすればよい。
以上のようにして、基材2上に接合膜15を成膜することができる。
この接合膜15に接着性を発現させた後、この接着性をもって他の基材と接合することで、接合膜15を介して基材2と他の基材とが接合された接合体を得ることができるが、以下、この接合体の形成方法について説明する。
<接合体の形成方法>
[1]まず、基材2上に形成された接合膜15の表面に対してエネルギーを付与する。
エネルギーが付与されると、接合膜15では、メチル基303がSi骨格301から脱離する。そして、メチル基303が脱離した後には、接合膜15の表面および内部に活性手が生じる。これにより、接合膜15の表面に、他の基材との接着性が発現する。このような状態の接合膜15は、他の基材と、化学的結合に基づいて強固に接合可能なものとなる。
ここで、接合膜15に付与するエネルギーは、いかなる方法で付与されてもよく、例えば、エネルギー線を照射する方法、接合膜15を加熱する方法、接合膜15に圧縮力(物理的エネルギー)を付与する方法、プラズマに曝す(プラズマエネルギーを付与する)方法、オゾンガスに曝す(化学的エネルギーを付与する)方法等が挙げられる。
また、本実施形態では、接合膜15にエネルギーを付与する方法として、特に、接合膜15にエネルギー線を照射する方法を用いるのが好ましい。これらの方法は、接合膜15に対して比較的簡単に効率よくエネルギーを付与することができるので、エネルギー付与方法として好適である。
このうち、エネルギー線としては、例えば、紫外線、レーザー光のような光、X線、γ線、電子線、イオンビームのような粒子線等、またはこれらのエネルギー線を組み合わせたものが挙げられる。
これらのエネルギー線の中でも、特に、波長150〜300nm程度の紫外線を用いるのが好ましい。かかる紫外線によれば、付与されるエネルギー量が最適化されるので、接合膜15中のSi骨格301が必要以上に破壊されるのを防止しつつ、Si骨格301とメチル基303との間の結合を選択的に切断することができる。これにより、接合膜15の特性(機械的特性、化学的特性等)が低下するのを防止しつつ、接合膜15に接着性を発現させることができる。
なお、紫外線の波長は、より好ましくは、160〜200nm程度とされる。
また、UVランプを用いる場合、その出力は、接合膜15の面積に応じて異なるが、1mW/cm〜1W/cm程度であるのが好ましく、5mW/cm〜50mW/cm程度であるのがより好ましい。なお、この場合、UVランプと接合膜15との離間距離は、3〜3000mm程度とするのが好ましく、10〜1000mm程度とするのがより好ましい。
また、紫外線を照射する時間は、接合膜15の表面付近のメチル基303を脱離し得る程度の時間、すなわち、接合膜15の内部のメチル基303を多量に脱離させない程度の時間とするのが好ましい。具体的には、紫外線の光量、接合膜15の構成材料等に応じて若干異なるものの、0.5〜30分程度であるのが好ましく、1〜10分程度であるのがより好ましい。
また、紫外線は、時間的に連続して照射されてもよいが、間欠的(パルス状)に照射されてもよい。
また、接合膜15に対するエネルギー線の照射は、いかなる雰囲気中で行うようにしてもよく、具体的には、大気、酸素のような酸化性ガス雰囲気、水素のような還元性ガス雰囲気、窒素、アルゴンのような不活性ガス雰囲気、またはこれらの雰囲気を減圧した減圧(真空)雰囲気等が挙げられるが、特に大気雰囲気中で行うのが好ましい。これにより、雰囲気を制御することに手間やコストをかける必要がなくなり、エネルギー線の照射をより簡単に行うことができる。
このように、エネルギー線を照射する方法によれば、接合膜15に対して選択的にエネルギーを付与することが容易に行えるため、例えば、エネルギーの付与による基材2の変質及び劣化を防止することができる。
なお、付与するエネルギーの大きさを調整するためには、例えば、エネルギー線の種類、エネルギー線の出力、エネルギー線の照射時間等の条件を調整すればよい。
さらに、エネルギー線を照射する方法によれば、短時間で大きなエネルギーを付与することができるので、エネルギーの付与をより効率よく行うことができる。
ここで、エネルギーが付与される前の接合膜15は、図3に示すように、Si骨格301とメチル基303とを有している。かかる接合膜15にエネルギーが付与されると、メチル基303がSi骨格301から脱離する。これにより、図4に示すように、接合膜15の表面に活性手304が生じ、活性化される。その結果、接合膜15の表面に接着性が発現する。
ここで、接合膜15を「活性化させる」とは、接合膜15の表面および内部のメチル基303が脱離して、Si骨格301において終端化されていない結合手(以下、「未結合手」または「ダングリングボンド」とも言う。)が生じた状態や、この未結合手が水酸基(OH基)によって終端化された状態、または、これらの状態が混在した状態のことを言う。
したがって、活性手304とは、未結合手(ダングリングボンド)、または未結合手が水酸基によって終端化されたもののことを言う。このような活性手304によれば、他の基材に対して、特に強固な接合が可能となる。
なお、後者の状態(未結合手が水酸基によって終端化された状態)は、例えば、接合膜15に対して大気雰囲気中でエネルギー線を照射することにより、大気中の水分が未結合手を終端化することによって、容易に生成することができる。
また、本実施形態では、接合膜15に他の基材を貼り合わせる前に、あらかじめ、接合膜15に対してエネルギーを付与する場合について説明しているが、かかるエネルギーの付与は、接合膜15に他の基材を貼り合わせる(重ね合わせる)際、または貼り合わせた(重ね合わせた)後に行われるようにしてもよい。
[3]次に、他の基材(他の被着体)を用意する。そして、活性化させた接合膜15と他の基材とが密着するように、基材2上に形成された接合膜15に他の基材を貼り合わせる。これにより、接合膜15を介して基材2と他の基材とが接合された接合体が得られる。
このようにして得られた接合体では、従来の接合方法で用いられていた接着剤のように、主にアンカー効果のような物理的結合に基づく接着ではなく、共有結合のような短時間で生じる強固な化学的結合に基づいて、接合膜15を介して接合膜15と他の基材とが接合されている。このため、接合体は短時間で形成することができ、かつ、極めて剥離し難く、接合ムラ等も生じ難いものとなる。
また、この接合体では、接合膜15を介して基材2と他の基材とが接合されており、接合膜15において、メチル基303の含有量が、その厚さ方向において、基材2側で少なく、基材2の反対側(他の基材側)で多くなっている。そのため、この接合体は、より優れた密着性をもって接合され、その結果、各種溶媒を含有するインクに対して優れた耐インク性を発揮するものとなる。
以上のようにして、接合体(本発明の接合体)を得ることができる。
なお、接合体を得た後、この接合体に対して、必要に応じ、以下の3つの工程([4A]、[4B]および[4C])のうちの少なくとも1つの工程(接合体の接合強度を高める工程)を行うようにしてもよい。これにより、接合体の接合強度のさらなる向上を図ることができる。
[4A]得られた接合体を、基材2と他の基材とが互いに近づく方向に加圧する。
これにより、基材2の表面および他の基材の表面に、それぞれ接合膜15の表面がより近接し、接合体における接合強度をより高めることができる。
また、接合体を加圧することにより、接合体中の接合界面に残存していた隙間を押し潰して、接合面積をさらに広げることができる。これにより、接合体における接合強度をさらに高めることができる。
このとき、接合体を加圧する際の圧力は、接合体が損傷を受けない程度の圧力で、できるだけ高い方が好ましい。これにより、この圧力に比例して接合体における接合強度を高めることができる。
なお、この圧力は、基材2および他の基材の各構成材料や各厚さ、接合装置等の条件に応じて、適宜調整すればよい。具体的には、基材2および他の基材の各構成材料や各厚さ等に応じて若干異なるものの、0.2〜10MPa程度であるのが好ましく、1〜5MPa程度であるのがより好ましい。これにより、接合体の接合強度を確実に高めることができる。なお、この圧力が前記上限値を上回っても構わないが、基材2および他の基材の各構成材料によっては、基材2および他の基材に損傷等が生じるおそれがある。
また、加圧する時間は、特に限定されないが、10秒〜30分程度であるのが好ましい。なお、加圧する時間は、加圧する際の圧力に応じて適宜変更すればよい。具体的には、接合体を加圧する際の圧力が高いほど、加圧する時間を短くしても、接合強度の向上を図ることができる。
[4B]得られた接合体を加熱する。
これにより、接合体における接合強度をより高めることができる。
このとき、接合体を加熱する際の温度は、室温より高く、接合体の耐熱温度未満であれば、特に限定されないが、好ましくは25〜100℃程度とされ、より好ましくは50〜100℃程度とされる。かかる範囲の温度で加熱すれば、接合体が熱によって変質及び劣化するのを確実に防止しつつ、接合強度を確実に高めることができる。
また、加熱時間は、特に限定されないが、1〜30分程度であるのが好ましい。
また、前記工程[4A]、[4B]の双方を行う場合、これらを同時に行うのが好ましい。すなわち、接合体を加圧しつつ、加熱するのが好ましい。これにより、加圧による効果と、加熱による効果とが相乗的に発揮され、接合体の接合強度を特に高めることができる。
[4C]得られた接合体に紫外線を照射する。
これにより、接合膜15と基材2および他の基材との間に形成される化学結合を増加させ、基材2および他の基材と接合膜15との間の接合強度をそれぞれ高めることができる。その結果、接合体の接合強度を特に高めることができる。
このとき照射される紫外線の条件は、前記工程[2]に示した紫外線の条件と同等にすればよい。
また、本工程[4C]を行う場合、基材2および他の基材のうち、いずれか一方が透光性を有していることが必要である。そして、透光性を有する基板側から、紫外線を照射することにより、接合膜15に対して確実に紫外線を照射することができる。
以上のような工程を行うことにより、接合体における接合強度のさらなる向上を容易に図ることができる。
以上、本発明の接合膜、接合膜の形成方法、接合体、液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置を、図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。例えば、本発明の接合膜の形成方法では、前記実施形態の構成に限定されず、工程の順序が前後してもよい。また、任意の目的の工程が1または2以上追加されていてもよく、不要な工程を削除してもよい。
また、本発明の接合体、液滴吐出ヘッドおよび液滴吐出装置において、各構成は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、あるいは、任意の構成のものを付加することができる。
また、前記実施形態では、インクジェット式記録ヘッド1が備える基材20、支持板40のような基材と、ノズルプレート10、振動フィルム30のような他の基材との密着性を向上させるために本発明の接合膜を用いてこれら同士を接合する場合について説明したが、このような場合に限定されず、これらとは異なる基材と他の基材との接合に、本発明の接合膜を適用することができる。
このような基材と他の基材とを備えるものとしては、例えば、メモリのような半導体素子、水晶発振子のような圧電素子、反射鏡、光学レンズ、回折格子、光学フィルターのような光学素子、マイクロリアクタ、マイクロミラーのようなMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)部品、圧力センサー、加速度センサーのようなセンサー部品、半導体基板とそれに搭載される半導体素子等が挙げられる。
次に、本発明の具体的実施例について説明する。
1.接合体の製造
(実施例1)
<1> まず、基材として、縦50mm×横50mm×平均厚さ1mmの単結晶シリコン基板を用意し、その他の基材として、縦10.5mm×横10.5mm×平均厚さ1mmのガラス基板を用意した。
そして、単結晶シリコン基板を図5に示す成膜装置100のチャンバー101内に収納し、酸素プラズマによる表面処理を行った。
<2> 次に、表面処理を行った面に、平均厚さ1300nmのプラズマ重合膜(接合膜)を成膜した。
また、成膜条件は以下に示す通りとした。
<成膜条件>
・原料ガスの組成 :オクタメチルトリシロキサン
・キャリアガスの組成:アルゴン
・キャリアガスの流量:20sccm
・高周波電力の出力 :150W
・チャンバー内圧力 :4Pa(低真空)
・基板温度 :40℃
また、原料ガスの流量は、成膜開始から30secまでを、1sccmとし、その後、15sec毎に20sccmとなるまで1sccmずつ上昇させた後、20sccmで1200secの間一定に保った。
このようにして単結晶シリコン基板上に成膜されたプラズマ重合膜は、オクタメチルトリシロキサン(原料ガス)の重合物で構成されており、シロキサン結合を有するSi骨格と、脱離基としてのメチル基とを含んでおり、単結晶シリコン基板側に位置するメチル基の含有率が変化する厚さ300nmのグラデーション層と、表面側に位置するメチル基の含有率が一定の厚さ1000nmの単一層とからなる積層体で構成されるものである。
<3> 次に、得られたプラズマ重合膜(接合膜)に以下に示す条件で紫外線を照射した。
<紫外線照射条件>
・雰囲気ガスの組成 :大気(空気)
・雰囲気ガスの温度 :20℃
・雰囲気ガスの圧力 :大気圧(100kPa)
・紫外線の波長 :172nm
・紫外線の照射時間 :5分
<4> 次に、紫外線を照射してから1分後に、単結晶シリコン基板上のプラズマ重合膜の紫外線を照射した面と、ガラス基板とが接触するように、接合膜が介在するようにして単結晶シリコン基板とガラス基板とを重ね合わせることで、接合体を得た。
<5> 次に、得られた接合体を3MPaで加圧しつつ、80℃で加熱し、15分間維持した。これにより、接合体の接合強度の向上を図った。
(実施例2)
前記工程<2>において、平均厚さ1300nmのプラズマ重合膜(接合膜)を成膜する際の条件を、以下のように変更したこと以外は、前記実施例1と同様にして接合体を得た。
<成膜条件>
・原料ガスの組成 :オクタメチルトリシロキサン
・原料ガスの流量 :20sccm
・キャリアガスの組成:アルゴン
・キャリアガスの流量:20sccm
・チャンバー内圧力 :4Pa(低真空)
・基板温度 :40℃
また、高周波電力の出力は、成膜開始から15secまでを、700Wとし、その後、下記の表1の条件でグラデーション層を形成したのち、150Wで1200secの間一定に保ち単一層を形成することでグラデーション層と単一層とが積層された積層体からなる接合膜を形成した。
Figure 2014141602
このようにして単結晶シリコン基板上に成膜されたプラズマ重合膜は、オクタメチルトリシロキサン(原料ガス)の重合物で構成されており、シロキサン結合を有するSi骨格と、脱離基としてのメチル基とを含んでおり、単結晶シリコン基板側に位置するメチル基の含有率が変化する厚さ300nmのグラデーション層と、表面側に位置するメチル基の含有率が一定の厚さ1000nmの単一層とからなる積層体で構成されるものである。
(比較例1)
成膜時間を780sec、高周波電力の出力を250Wとし、原料ガスの流量を、成膜開始から終了まで20sccmの一定に保って、メチル基の含有率が一定の厚さ1300nmの単一層からなる単層体で構成されるプラズマ重合膜(接合膜)を形成したこと以外は、前記実施例1と同様にして接合体を得た。
(比較例2)
高周波電力の出力を200Wとして、メチル基の含有率が一定の厚さ1300nmの単一層からなる単層体で構成されるプラズマ重合膜(接合膜)を形成したこと以外は、前記比較例1と同様にして接合体を得た。
(比較例3)
高周波電力の出力を150Wとして、メチル基の含有率が一定の厚さ1300nmの単一層からなる単層体で構成されるプラズマ重合膜(接合膜)を形成したこと以外は、前記比較例1と同様にして接合体を得た。
2.接合体の評価
2−1.接合強度(ダイシェア強度)の評価
各実施例および各比較例で得られた接合体について、それぞれ接合強度(ダイシェア強度)を測定した。
この接合強度の測定は、MIL−STD−833(Method2019.7)に準拠して、ガラス基板側から0.1mm/秒の速度でせん断応力をかけた時のせん断強度として測定した。
2−2.接合膜中のメチル基量の評価
各実施例および各比較例で得られた接合体における接合膜ついて、それぞれ、膜中のメチル基量を測定した。
このメチル基量の測定は、クラスターイオンビーム(GCTB)搭載飛行時間型2次イオン質量分析(TOF−SIMS)装置を用いて、各実施例および各比較例の接合体について、それぞれ単結晶シリコン基板側から100nm、200nmおよび500nmの位置について行なった。
以下、上記における各評価結果を表2に示す。
Figure 2014141602
表2から明らかなように、各実施例で得られた接合体は、15MPa以上の接合強度を有し、接合膜を、その厚さ方向において、単結晶シリコン基板の反対側よりも単結晶シリコン基板側でメチル基量が少なくなっているものとすることで、優れた密着性を有していることが判った。
これに対して、各比較例で得られた接合体は、接合膜中におけるメチル基量が一定であり、これに起因して、十分な接合強度が得られたとは言えない結果となった。
1……インクジェット式記録ヘッド 10……ノズルプレート 11……ノズル孔 15、25、35……接合膜 100……成膜装置 101……チャンバー 102……接地線 103……供給口 104……排気口 130……第1の電極 139……静電チャック 140……第2の電極 170……ポンプ 171……圧力制御機構 180……電源回路 182……高周波電源 183……マッチングボックス 184……配線 190……ガス供給部 191……貯液部 192……気化装置 193……ガスボンベ 194……配管 195……拡散板 2……基材 20……吐出液貯留室形成基材 21……吐出液貯留室 22……吐出液供給室 23……貫通孔 30……振動フィルム 301……Si骨格 302……シロキサン結合 303……メチル基 304……活性手 40……支持板 50……圧電素子 51……圧電体層 52……電極膜 53……凹部 60……ケースヘッド 61……吐出液供給路 70……リザーバー 9……インクジェットプリンタ 92……装置本体 921……トレイ 922……排紙口 93……ヘッドユニット 931……インクカートリッジ 932……キャリッジ 94……印刷装置 941……キャリッジモータ 942……往復動機構 943……キャリッジガイド軸 944……タイミングベルト 95……給紙装置 951……給紙モータ 952……給紙ローラ 952a……従動ローラ 952b……駆動ローラ 96……制御部 97……操作パネル P……記録用紙

Claims (9)

  1. 基材上に設けられ、シロキサン(Si−O)結合を有するSi骨格と、該Si骨格に結合する脱離基としてメチル基とを含む接合膜であって、
    前記接合膜の少なくとも一部の領域にエネルギーが付与され、前記領域の少なくとも表面の前記脱離基が前記Si骨格から脱離して、前記メチル基の含有量が、当該接合膜の厚さ方向において、前記基材の反対側よりも前記基材側で少なくなっていることを特徴とする接合膜。
  2. 前記基材側に位置する第1の層と、前記基材の反対側に位置する第2の層とを有し、前記第1の層と前記第2の層とが積層された積層体で構成され、
    前記第1の層中における前記メチル基の含有量は、前記第2の層中における前記メチル基の含有量よりも少ない請求項1に記載の接合膜。
  3. 前記第1の層は、その厚さ方向において、前記基材側からその反対側に向かって前記メチル基の含有量が増加し、
    前記第2の層は、その厚さ方向において、前記メチル基の含有量が一定である請求項2に記載の接合膜。
  4. 前記接合膜は、プラズマ重合により形成されたものである請求項1ないし3のいずれか1項に記載の接合膜。
  5. 接合膜の形成方法であって、
    基材上に、プラズマ重合法を用いて、原料ガスとしてのポリオルガノシロキサン中の分子を重合させることにより、前記ポリオルガノシロキサンの重合物を付着及び堆積させて前記接合膜を得る際に、
    前記ポリオルガノシロキサンの重合物を付着及び堆積させる条件を経時的に変化させることを特徴とする接合膜の形成方法。
  6. 経時的に変化させる前記条件は、前記原料ガスの流量である請求項5に記載の接合膜の形成方法。
  7. 請求項1ないし4のいずれか1項に記載の接合膜を介して、前記基材と前記他の基材とが接合されてなることを特徴とする接合体。
  8. 請求項1ないし4のいずれか1項に記載の接合膜を備えることを特徴とする液滴吐出ヘッド。
  9. 請求項8に記載の液滴吐出ヘッドを備えることを特徴とする液滴吐出装置。
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