JP2014136812A - Feイオン含有処理浴における表面処理鋼板の製造方法 - Google Patents

Feイオン含有処理浴における表面処理鋼板の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】表面処理浴中の有機高分子濃度の減少を抑制し、表面処理皮膜上に被覆される有機樹脂被覆層との密着性に優れた表面処理鋼板の製造方法を提供すること。
【解決手段】ジルコニウムイオン、並びにポリカルボン酸若しくはポリカルボン酸塩を含み、さらにクロムを含まない表面処理浴を用いて、鉄が露出している鋼帯上にジルコニウムの酸素化合物、並びにポリカルボン酸若しくはポリカルボン酸塩を含有する皮膜を電解処理によって形成させる表面処理鋼板の製造方法であって、前記表面処理浴が鉄沈殿剤を含有することによって、前記表面処理浴中のポリカルボン酸若しくはポリカルボン酸塩の濃度の減少を抑制・制御し、前記表面処理浴に鋼帯から溶出した鉄イオン濃度を減少することを特徴とする。
【選択図】図17

Description

本発明は、ジルコニウム、有機高分子を含有する処理浴において、リン酸又はリン酸塩を添加することによって、有機高分子の減少量を抑制し、Feイオンを効率的に除去する表面処理鋼板の製造方法に関する。
鋼帯に電解処理を行う場合、表面処理浴中の金属イオンを還元させて金属を皮膜として析出させる方法と、鋼帯(カソード)上での水の電気分解に伴い発生する水素ガスを用いて、pH変動により酸素化合物を析出させる方法がある。
後者の方法では、ジルコニウム、チタン、アルミニウムなどの酸素化合物の皮膜が得られ、クロメート処理の代替として開発が進められている。
ジルコニウム、チタン等の電解処理による酸素化合物の皮膜を形成させる先行技術としては、例えば、特許文献1(特開2004−190121号公報)には、金属材料を、ジルコニウム化合物、チタニウム化合物及び遊離フッソを含むpHが2〜6の表面処理用処理液中で、陰極電解処理する表面処理方法が記載されている。
特許文献2(特開2005−097712号公報)には、金属表面にZr、O、Fを主成分としリン酸イオンを含有しない無機表面処理層が形成されている表面処理金属材料が記載されている。
また、従来から、酸素化合物を鋼帯上に析出させ、金属容器用に適用する場合、耐食性をさらに向上させるため、電解処理後の皮膜上に塗料あるいはフィルムに代表される有機樹脂被覆が一般的に行われているが、酸素化合物のみで構成された皮膜では有機樹脂被覆との密着力は十分とはいえない。
そこで更なる密着性の向上を目的に、電解処理浴中にさらに有機高分子を添加し、電解処理によって有機−無機複合酸化物の皮膜を形成させることが提案されている。
特開2004−190121号公報 特開2005−097712号公報 特開平10−511601号公報 特開2007−530778号公報
これらの提案において、酸素化合物を電解処理によって皮膜形成する方法では、電解処理時に鋼帯のエッチングが生じ、鋼帯の処理面積の増加に伴い、表面処理浴中のFeイオンも増加する。
処理浴中のFeイオンの増加は、皮膜中のFeイオンの割合を増加させ、その結果、塗料あるいはフィルムとの密着性を低下させる要因となる。
そのため、表面処理浴中からFeイオンを除去する必要があり、表面処理浴中からFeイオンを除去するには、イオン交換樹脂中を通過させる方法、次亜鉛酸ナトリウムを添加し不溶性の酸化第二鉄としてフィルターでろ過する方法、リン酸塩、炭酸塩あるいは有機物の添加によりスラッジ化し、フィルターでろ過する方法などが提案されている。
表面処理浴中のFeイオンを沈殿させ除去する先行技術としては、特許文献3(特開平10−511601号公報)に、スラッジ溶液のpHを上昇させ、リン酸塩を添加することにより、リン酸第二鉄として沈殿させる方法が記載されている。
また、特許文献4(特開2007−530778号公報)に、酸化金属材料からターゲット金属を回収するプロセスにおいて、炭酸カルシウムを添加し、酸化鉄として沈殿する方法が記載されている。
酸素化合物を電解処理によって皮膜形成する方法では、前述した通り、鋼帯の処理面積の増加に伴う処理浴中のFeイオンの増加が、皮膜中のFeイオンの割合を増加させ、その結果、密着性を低下させる要因となるため、表面処理浴(以下、処理浴という場合がある)中からFeイオンを除去する必要がある。
処理浴中のFeイオンを除去する方法としては、処理浴中のpHを上昇させ、Feイオンは水和酸化物として析出する方法があるが、処理浴中に有機高分子を含有する場合、処理浴中のpHを上昇させると、Feイオンは水和酸化物として析出するが、同時に皮膜の形成成分である有機高分子も一緒に沈殿する。
このことは、後述する参考例1〜5からも明らかである。
前記有機高分子がポリイタコン酸(以下、PIAと記載する場合がある)の場合の一例を表1及び図1に示す。処理浴中のpHを上昇させると、Feイオンが赤褐色の水和酸化物の沈殿として生じるとともに処理浴中のFeイオン濃度が減少し、これに対応して処理浴中のポリイタコン酸の濃度が減少し、pH3.0以上では大部分が鉄とともに沈殿する。
さらに、Feイオンが水和酸化物として析出しないpHであっても、Feイオンの増加に伴い、Feイオンをキレートした有機高分子がFeイオンと共に沈殿する。
このことは、後述する参考例6〜12からも明らかである。処理浴のpHが2.5で、前記有機高分子がポリイタコン酸の場合の一例を表2及び図2に示す。
処理浴中のFeイオンが増加し、Feイオンが600ppm以上で赤褐色の水和酸化物の沈殿が生じ、処理浴中のポリイタコン酸の濃度が減少する。
前述したように、Feイオンを沈殿物として除去しようとすると、同時に表面処理浴の形成成分である有機高分子も沈殿してしまうために、処理浴中に生じたFeイオンを効率良く除去することができないという問題がある。
また、Feイオンを沈殿物として除去する以外の方法として、イオン交換樹脂による方法があるが、イオン交換樹脂によるろ過方法では皮膜形成成分も除去されるとともに、短時間でイオン交換樹脂での処理能力を超えてしまうため、長時間にわたり効率よく除去することができないという問題がある。
そこで、本発明は、ジルコニウム、有機高分子、鉄沈殿剤を含有する表面処理浴(以下、処理浴と記載する場合がある)を用いて表面処理する際に、表面処理浴中に増加したFeイオンを鉄沈殿剤によって沈殿除去するとともに、表面処理浴中の有機高分子濃度の減少を抑制し、有機高分子(特に、ポリカルボン酸)を含有する処理浴で処理することにより,ポリカルボン酸の一部は皮膜の構成成分となり、表面処理皮膜上に被覆される有機樹脂被覆層との密着性に優れた表面処理鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
(1)本発明の表面処理鋼板の製造方法は、
ジルコニウムイオン、並びにポリカルボン酸若しくはポリカルボン酸塩を含み、さらにクロムを含まない表面処理浴を用いて、鉄が露出している鋼帯上にジルコニウムの酸素化合物、並びにポリカルボン酸若しくはポリカルボン酸塩を含有する皮膜を電解処理によって形成させる表面処理鋼板の製造方法であって、
前記表面処理浴が鉄沈殿剤を含有することによって、
前記表面処理浴中のポリカルボン酸若しくはポリカルボン酸塩の濃度の減少を抑制・制御し、
前記表面処理浴に鋼帯から溶出した鉄イオン濃度を減少することを特徴とする。
なお鉄沈殿剤を含有するとは、予め表面処理浴に添加することおよび皮膜を電解処理によって形成させ始めた後に添加することの両方を含む。
(2)本発明の表面処理鋼板の製造方法は、上記(1)において、
前記ポリカルボン酸が、ポリイタコン酸であることを特徴とする。
(3)本発明の表面処理鋼板の製造方法は、上記(1)又は(2)において、
前記鉄沈殿剤が、リン酸又はリン酸塩であることを特徴とする。
(4)本発明の表面処理鋼板の製造方法は、上記(1)〜(3)のいずれかにおいて、
前記リン酸又はリン酸塩が、リン酸二水素イオン、リン酸水素イオンあるいはリン酸イオンであることを特徴とする。
(5)本発明の表面処理鋼板の製造方法は、上記(1)〜(4)のいずれかにおいて、
前記鉄沈殿剤が、0.4〜12mmol/Lであることを特徴とする。
(6)本発明の表面処理鋼板の製造方法は、上記(1)〜(4)のいずれかにおいて、
前記鉄沈殿剤が、0.4〜9mmol/Lであることを特徴とする。
(7)本発明の表面処理鋼板の製造方法は、上記(1)〜(4)のいずれかにおいて、
前記表面処理浴のpHが2.0〜4.0であり、
前記鉄沈殿剤を0.4〜12mmol/Lとすることによって、
前記有機高分子濃度の減少率を60%以下とし、
前記表面処理浴中のFeイオン濃度を100ppm以下とすることを特徴とする。
(8)本発明の表面処理鋼板の製造方法は、上記(1)〜(4)のいずれかにおいて、
前記表面処理浴のpHが2.0〜4.0であり、
前記鉄沈殿剤を0.4〜9mmol/Lとすることによって、
前記有機高分子濃度の減少率を60%以下とし、
前記表面処理浴中のFeイオン濃度を100ppm以下とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の表面処理鋼板の製造方法。
(9)本発明の表面処理鋼板の製造方法は、上記(1)〜(4)のいずれかにおいて、
前記表面処理浴のpHが2.0〜3.0であり、
前記鉄沈殿剤を0.4〜11mmol/Lとすることによって、
前記有機高分子濃度の減少率を15%以下とし、
前記表面処理浴中のFeイオン濃度を100ppm以下とすることを特徴とする。
(10)本発明の表面処理鋼板の製造方法は、上記(1)〜(4)のいずれかにおいて、
前記表面処理浴のpHが2.0〜3.0であり、
前記鉄沈殿剤を0.4〜8mmol/Lとすることによって、
前記有機高分子濃度の減少率を15%以下とし、
前記表面処理浴中のFeイオン濃度を100ppm以下とすることを特徴とする。
(11)本発明の表面処理鋼板の製造方法は、上記(4)において、
前記表面処理浴のpHが2.0〜3.0であり、
前記リン酸塩がリン酸二水素アンモニウムであり、
表面処理浴中のリン酸二水素アンモニウム添加量と鉄イオン添加濃度との関係を、
下記の条件で行い、前記有機高分子濃度の減少率を15%以下とすることを特徴とする。
条件:横軸をリン酸二水素アンモニウム添加量(ppm)、縦軸を鉄イオン添加濃度(ppm)としたグラフの座標(リン酸二水素アンモニウム添加量、鉄イオン添加濃度)における、A(300、100)、B(100、500)、C(600、500)、D(600、100)、A(300、100)を順に結んで形成された図形の内部
(12)本発明の表面処理鋼板の製造方法は、上記(4)において、
前記表面処理浴のpHが2.0〜3.0であり、
前記リン酸塩がリン酸二水素ナトリウムであり、
表面処理浴中のリン酸二水素ナトリウム添加量と鉄イオン添加濃度との関係を、
下記の条件で行い、前記有機高分子濃度の減少率を10%以下とすることを特徴とする。
条件:横軸をリン酸二水素ナトリウム添加量(ppm)、縦軸を鉄イオン添加濃度(ppm)としたグラフの座標(リン酸二水素ナトリウム添加量、鉄イオン添加濃度)における、A(350、100)、B(50、500)、C(600、500)、D(600、100)、A(350、100)を順に結んで形成された図形の内部
(13)本発明の表面処理鋼板の製造方法は、上記(1)〜(12)のいずれかにおいて、前記表面処理鋼板の製造方法が陰極電解処理であることを特徴とする。
(14)本発明の表面処理鋼板の製造方法は、上記(3)又は(4)において、
処理浴中のリン濃度を3mmol以下とすることにより、
前記酸素化合物の最表層に含有されるリン(P)とジルコニウム(Zr)のTOF−SIMSによる強度比(P/Zr)を0.012以下とすることを特徴とする。
本発明の表面処理鋼板の製造方法によれば、ジルコニウム、有機高分子を含有する表面処理浴中に、鉄沈殿剤を添加することによって、表面処理浴中に混入し増加したFeイオンを沈殿除去するとともに、表面処理皮膜の形成成分となる処理浴中の有機高分子濃度の減少を抑制し、表面処理皮膜上に被覆される有機樹脂被覆層との密着性に優れた表面処理鋼板を製造することが出来る。
また、陰極電解中にFeイオンが増加した表面処理浴を、別浴槽あるいは循環経路内で、鉄沈殿剤の添加による再生処理を行うことにより、処理浴中のFeイオン濃度を一定濃度以下に維持し、有機高分子濃度を減少させずにFeイオンを沈殿除去することもできる。
Feイオン濃度とPIA濃度に及ぼすpHの影響を示すグラフである。 処理浴中のPIA濃度に及ぼすFeイオン濃度の影響を示すグラフである。 鉄沈殿剤の種類とpHの影響を示すグラフである。 鉄沈殿剤の種類とpHの影響を示すグラフである。 鉄沈殿剤の種類とpHの影響を示すグラフである。 沈殿物のモル比を示すグラフである。 リン酸二水素アンモニウム[NHPO]添加による処理浴中のFeイオン量の変化を示すグラフである。 リン酸二水素アンモニウム[NHPO]添加による処理浴中のPIA量の変化を示すグラフである。 リン酸二水素ナトリウム[NaHPO]添加による処理浴中のFeイオン量の変化を示すグラフである。 リン酸二水素ナトリウム[NaHPO]添加による処理浴中のPIA量の変化を示すグラフである。 リン酸二水素アンモニウム[NHPO]添加による処理浴中の鉄沈殿状況を示すグラフである。 リン酸二水素ナトリウム[NaHPO]添加による処理浴中の鉄沈殿状況を示すグラフである。 鉄沈殿剤の種類とpHの影響を示すグラフである。 鉄沈殿剤の種類とpHの影響を示すグラフである。 鉄沈殿剤の種類とpHの影響を示すグラフである。 表面処理皮膜中のPの分析結果を示すグラフである。 表面処理浴の別浴槽及び循環経路内での再生処理を示す概略説明図である。
(鋼帯)
本発明に用いられる鋼帯としては、従来公知の缶用鋼板に使用されている冷延鋼板等を使用することができ、その板厚は0.07mm〜0.4mm程度であることが好ましい。
(表面処理浴)
本発明において、陰極電解処理に用いられる表面処理浴は、ジルコニウムイオン(Zr)、ポリカルボン酸若しくはポリカルボン酸塩、及び鉄沈殿剤を含有するノンクロムの処理浴である。
処理浴中において、Zrの濃度は、1000〜10000ppm、特に5000〜6000ppmの範囲にすることが好ましい。上記範囲よりもZrの濃度が多い場合には、Zrの濃度が上記範囲にある場合に比べて形成される皮膜の耐食性が低下するおそれがある。その一方、上記範囲よりもZrの濃度が低いと陰極電解時の析出速度が低下するおそれがある。
Zr成分を供給するZr薬剤としては、フッ化ジルコニウムカリウム[KZrF]、フッ化ジルコニウムアンモニウム[(NHZrF]、炭酸ジルコニウムアンモニウム[(NHZrO(CO]、オキシ硝酸ジルコニウム[ZrO(NO]、オキシ酢酸ジルコニウム[ZrO(CHCOO)]等を用いることが出来る。
表面処理浴には、必要に応じて、上記成分以外の無機物を添加してもよい。
このような無機物としては、金属元素としてアルミニウムイオン、チタニウムイオン、及び/又は非金属元素としてフッ素、硝酸、アンモニアなどが挙げられる。
処理浴中のポリカルボン酸としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸、ポリイタコン酸から選ばれるホモポリマー又はこれらのうち少なくとも1種を構成単位とするコポリマーを挙げることができ、これらの中でも、特にポリイタコン酸を好適に使用することができる。
ポリカルボン酸(共重合体含む)若しくはポリカルボン酸塩は、処理浴中においてFeイオンと沈殿を誘発し、Feイオンを除去できることから、皮膜中にFeが過多に入ることを抑制する効果があり、かつ、ポリカルボン酸の一部は皮膜構成成分の一部となることで、処理被膜上の有機樹脂被膜との湿潤密着性が特に優れる。
ここでいうポリカルボン酸とは、カルボキシル基を有するモノマーを重合させて得ることができる、カルボキシル基を有する構成単位からなる高分子である。
ポリイタコン酸としては、分子量が260〜1000000、特に1000〜70000の範囲にあるものが好ましく用いられる。分子量が260未満であるとFeイオンとの沈殿の形成が難しくなり、1000000を超えると表面処理浴の粘度が上昇するため作業性が悪くなるおそれがある。
ポリカルボン酸コポリマーとしては、ポリイタコン酸−ポリマレイン酸共重合体、ポリイタコン酸−(メタ)アクリル酸共重合体等を挙げることができる。また、ポリカルボン酸の代わりに、ポリカルボン酸のアルカリ金属塩やアンモニウム塩を使用することもできる。
上記ポリカルボン酸の機能を損なわない範囲で、他のモノマー又はその変性物とのコポリマーを組み合わせで使用することもでき、このような他のモノマーとしては下記のものを例示することができる。
N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルオキサゾリン、N−ビニル−1,2,4−トリアゾール、N−ビニルフタルイミド、N−ビニルコハク酸イミド、N−ビニルイミダゾール、ビニルスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、ビニルホスホン酸等のビニル化合物;エチレンオキシド、プロピオンオキシド、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル等のエポキシド類;メチルビニルケトン、フェニルビニルケトン、ジビニルケトン等のビニルケトン類;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジオクチル(メタ)アクリルアミド、N−モノブチル(メタ)アクリルアミド、N−モノオクチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジアセトナクリルアミド、N−2−ヒドロキシエチルアクリルアミド、2−アクリルアミド−2−メチルスルホン酸等のアクリルアミド系モノマー;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチルアクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリルメタクリレート、フェニルアクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、ジヒドロジシクロペンタジエニル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、2−メタクリロイルオキシエチルコハク酸、エチレングリコールジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、メトキシトリエチレングリコール、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールジメタクリレート等の(メタ)アクリレートエステルモノマー類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等の重合性ニトリル類;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル,n−ブチルビニルエーテル、イソブチルニビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類;スチレン、α−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、パラクロロスチレン、ビニルナフタレン、p−スチレンスルホン酸等の重合性芳香族化合物;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、トリメチル酢酸、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等のビニルエステル類;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン;エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン、3−メチル−1−ブテン等のオレフィン;塩化アリル、フタル酸ジアリル、アリルアルコール、アリルスルホン酸等のアリル化合物;等を挙げることができる。
また、ポリ乳酸などのポリヒドロキシ酸とのコポリマーであっても良い。
処理浴中の有機高分子の濃度としては、50〜600ppm、特に100〜500ppmの範囲にすることが好ましい。
処理浴中に配合された有機高分子は、陰極電解処理によって、ジルコニウムとともに表面処理皮膜中に析出し、表面処理皮膜上に被覆される有機樹脂被覆層との密着性を向上させるという効果がある。
有機高分子を上記範囲とする理由は以下のとおりである。
鋼帯を処理浴中で陰極電解処理することにより、鋼帯から溶出したFeイオンが混入し増加するが、有機高分子はFeイオンとキレートを形成する作用があるため、鋼帯の表面処理皮膜の構成成分になるほか、表面処理皮膜中にFeイオンが過多に入ることを抑制する効果がある。
しかし、有機高分子の一部は、Feイオンをキレートした状態で表面処理皮膜中の構成成分となるとともに、Feイオン濃度が多すぎると、Feイオンとキレートを形成した状態で赤褐色の水和酸化物の沈殿となり、表面処理皮膜の形成成分である有機高分子の処理浴中での濃度を減少させてしまう。
よって、処理浴中の有機高分子の濃度が600ppmよりも高い場合は、Feイオンと関係なく表面処理皮膜に入りすぎ、表面処理皮膜上に被覆される有機樹脂被覆層との密着性を阻害するおそれがあると共に、経済的にも好ましくない。
一方、有機高分子の濃度が50ppmよりも低い場合には、処理浴中のFeイオンを十分に補足できず、表面処理皮膜と表面処理皮膜上に被覆される有機樹脂被覆層との十分な密着性を確保できないおそれがある。
なお、表面処理浴中のFeイオン添加量と有機高分子濃度(以下、PIA濃度という場合がある)の関係を、表2、図2に示す(参考例)。すなわち、処理浴中のFeイオンは100ppm以上になると有機高分子の一部はFeイオンをキレートした状態で表面処理皮膜の構成成分となり皮膜の耐食性が劣るようになる。
また、処理浴中のFeイオンが増加し300ppm以上になると、有機高分子とキレートを形成して処理浴中の有機高分子濃度が減少し始め、500ppmを超えると、有機高分子が鉄の水和酸化物とともに沈殿し始め、ついには大部分の有機高分子が鉄の水和酸化物と共沈し、沈殿物となってスラッジが発生してしまう。
このため、処理浴中のFeイオンの濃度は500ppm以下であることが好ましく、300ppm以下であることがより好ましく100ppm以下であることが最も好ましい。
よって、表面処理浴の再生処理は、Feイオンの濃度が100〜500ppmの間にある時に行うことが好ましく、100ppm以下の時に行うのがより好ましい。
表面処理浴に含有させる鉄沈殿剤としては、リン酸又はリン酸塩が挙げられる。
リン酸又はリン酸塩を添加することによって、リン酸又はリン酸塩が有機高分子に代わって表面処理浴中のFeイオンと反応して、Feイオンをリン酸第二鉄の白色沈殿物として除去することが出来る。
このため、リン酸又はリン酸塩の添加により、表面処理浴中のFeイオンを除去できるとともに表面処理浴中の構成成分である有機高分子濃度も維持することができるのである。リン酸又はリン酸塩が存在しない場合は、有機高分子がFeイオンを補足することによって、表面処理浴中の構成成分である有機高分子濃度も減少してしまう。
リン酸又はリン酸塩は、表面処理浴中において、リン酸二水素イオン、リン酸水素イオン、リン酸イオンとして存在させることが必要である。これにより、Feイオンとの反応を生じさせることができる。これらのリン酸又はリン酸塩は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。
リン酸二水素イオン源としては、リン酸二水素アンモニウム[NHPO]、リン酸二水素ナトリウム[NaHPO]が挙げられ、リン酸水素イオン源としては、リン酸水素ナトリウム[NaHPO]、リン酸水素カルシウム[CaHPO]が挙げられ、リン酸イオン源としては、リン酸[HPO]、リン酸ナトリウム[NaPO]を挙げることができる。これらの中でも特にリン酸二水素イオンを好適に使用することができる。リン酸二水素イオンは、作業pH領域で解離しやすいため鉄との反応が速く、他のリン酸又はリン酸塩よりも有機高分子濃度の減少をより抑制することができるためである。
表面処理浴にリン酸又はリン酸塩を添加することによって、処理浴中のFeイオンを不溶性のリン酸鉄のスラッジ(白色のリン酸第二鉄)として沈殿除去して、表面処理浴の再生処理を行う(以下、表面処理浴中のFeイオンをスラッジとして沈殿除去することを、表面処理浴の再生処理という場合がある)。
これによって、表面処理浴のFeイオンが表面処理皮膜中に巻き込まれることを防止するとともに、表面処理皮膜の形成成分となる有機高分子がFeイオンとキレートを形成して沈殿することを防止し、処理浴中の有機高分子濃度の減少を抑制し制御することができる。
<表面処理浴のpH>
処理浴のpHは、pH2.0〜6.0の範囲とすることが好ましく、より好ましくはpH2.0〜4.0であり、特に好ましくはpH2.0〜3.0である。pH2.0よりも低いと、表面処理浴中において鋼帯のエッチングが過多となり、処理浴中のFeイオン濃度が高くなる。一方、pH6.0よりも高いと、表面処理浴中において鋼帯のエッチング不足となり、効率よく皮膜を形成することが出来なくなる。
なお、pHが3.0を超えると、処理浴中でFeイオンと有機高分子がキレートを形成して水和酸化物の沈殿が生じ、処理浴中の有機高分子濃度が減少する。
また、pHが4.0を超えると、処理浴の主成分であるZrがFeイオンも一緒に沈殿してしまい処理浴が不安定になる。
一般に処理浴のpHが低いとFeイオンの許容溶存濃度が高く、一方、pHが高いと許容溶存濃度が低い傾向にあり、許容溶存濃度を超えたFeイオンは、酸化物又は水酸化物として処理浴中に浮遊又は沈殿し、表面処理皮膜の耐食性能を低下させる可能性がある。
また、Feイオンが許容溶存濃度以下であっても、処理浴中の有機高分子とキレートを形成して水和酸化物の沈殿が生じ、処理浴中の有機高分子濃度が減少する。
このため、処理浴中に析出したFeイオンを速やかに取り除く再生処理を行うことが必要となる。
<処理浴中での再生処理>
処理浴中に析出したFeイオンを取り除く再生処理としては、表面処理浴中に鉄沈殿剤(リン酸又はリン酸塩)を添加することによって、表面処理浴中に存在するFeイオンを、リン酸鉄のスラッジとして沈殿させる。
この沈殿生成物は、後述する実施例から求めた表3、4及び図6の結果に示す様に、反応したFeイオンとPイオンのモル比が、pHに関わらずFe(mol):P(mol)≒1:1で反応している。
このため、沈殿生成物は、リン酸第二鉄[FePO]と考えられ、Feイオンは処理浴中で3価のFeイオンとして次の様に反応していると推測される。
Fe3++HPO 2−+2OH → FePO・2HO↓
表面処理浴のpHと沈殿物の鉄(Fe)とリン(P)のモル比の関係を、後述する実施例による図6に示す。
Feイオンとリン酸イオン濃度(Pイオン濃度)は上記の反応により、図6に示すように概略1:1で反応してリン酸第二鉄[FePO4]として沈殿する。
また、Feイオン濃度が100ppm以上では、概略添加した鉄沈殿剤の量に反比例して、Feイオン濃度が減少する(図7,図9参照)。
このため、表面処理浴中のFeイオンモル数と同量のPイオンモル数を添加することによって、目標とするFeイオン濃度に、特に好適とする100ppm以下にすることができる。
次に、本発明では上記処理浴中で電解処理により鋼鈑上にZrの酸素化合物が形成させるため、浴中のPイオンが存在すると、Zrと共に皮膜に取り込まれることとなる。リン酸のようなイオン半径の大きいアニオンは、高温多湿環境下で溶出し易いことが分かっており、表面処理皮膜からアニオンが溶出すると、皮膜と有機樹脂との密着性を低下させることとなる。そのため、処理浴成分からリン酸を除くことが検討されているが、本発明ではリン酸又はリン酸塩の濃度を制御することによって、表面処理板の特性に影響を及ぼさずに、Feを沈殿させることが可能となった。皮膜中のPの割合はX線光電子分光法(X−ray Photoelectron Spectroscopy;XPS),飛行時間二次イオン質量分析計(Time−Of−Flight Secondary Ion Mass Spectrometer;TOF−SIMS)のような既存の表面分析装置により知ることができる。しかしながら、XPSの検出限界は0.数at%程度と検出感度が小さく、また有機樹脂との密着性に関与するのは皮膜の最表層であり、密着を阻害する要因となる最表層の分析を行うことが重要である。TOF−SIMSはXPSに比べ、分析深さが1/10程度である一方、検出感度は数百倍であり、最表層における微量元素の分析に適している。また、TOF−SIMSに限らず、最表層の分析では有機物による汚染の影響を除くため、数nm程度エッチングを行った後に行うことが望ましい。したがって、本発明における皮膜の最表層とは、皮膜の最表層から5nm(SiO換算)エッチングした深さまでの位置をとした。
また、TOF−SIMSにおける定量評価は、元素の構造によってイオン化率が異なるため、XPSのように元素ごとの強度から評価をすることは技術的に難しい。そのため、一般的には対象となる物質の積分強度と基準物質の積分強度との比を相対比較することで評価されており、本発明ではZrあるいはPに起因した二次イオン(Zr、ZrO、P、POなど)のうち、積分強度が最も大きかったZrとPの積分強度の比(P/Zr)を求め、皮膜中のP割合を相対的に評価した。
評価の結果、P/Zr比が大きい、即ち皮膜中のPの割合が多いと、公知の知見より有機樹脂との密着性が悪くなることが明確である。
本検討により、処理浴中のPイオン濃度を3.1ミリモル濃度/L(以下、ミリモル濃度を「mmol/L」と表わすことがある)以下に制御することにより、表面処理皮膜中のP/Zr比を0.012以下に抑制することが出来、その結果、有機樹脂との密着性が良好に保たれることが分かった。
Pイオンは鉄沈殿剤として添加する目的であるため、Feイオンを沈殿させた後にPイオンが浴中に存在しない状態が皮膜の湿潤密着性にとっては最も好ましいが、言い換えると、添加するPイオンの量は、処理浴中に存在するFeイオンのモル数と同じモル数のPイオンモル数に加えて3.1mmol/L以下まで過剰に添加することができると考えられる。
表面処理浴の再生処理においては、表面処理浴中のFeイオン濃度が500ppmを超えることにより、鉄の水酸化物の沈殿により処理浴中の有機高分子の大部分が失われてしまう前に実施することが基本であり、処理浴中のFeイオン濃度が500ppmを超える前に再生処理を行うことが望ましい。
このため、処理浴に添加するリン酸又はリン酸塩の量は、0.4〜12mmol/Lとすることが好ましく、0.4〜9mmol/Lとすることがより好ましい。
この理由を以下に述べる。
すなわち、Feイオン濃度500ppmがリン酸第二鉄[FePO]として沈殿するのに必要なPイオンは、FeイオンとPイオンが1:1で反応するために、9mmol/L必要であり、さらに、表面処理鋼板の特性を低下させることのない3mmol/Lを加えた12mmol/Lまで添加することができるのである。
<表面処理浴を別浴槽へ移して、別浴槽内での再生処理>
なお、上記のような再生処理は、処理液を別浴槽に移し、別浴槽内で処理液中のFeイオンを取り除くこともできる。
別浴槽とは、表面処理を行う処理タンクとは切り離されたストレージタンク等を示す。
表面処理を行う表面処理浴槽等の循環経路とは別の系統のストレージタンク等に処理液を貯蔵している間に再生処理を行う。
このように、別浴槽内での再生処理は、表面処理を行う系統とは別の系統で再生処理を行うため、表面処理を行う時の表面処理浴のpHとは関係なく、鉄を効率良く沈殿させる目的のためにpHを調整することが出来る。
再生処理を別浴槽で行う場合は、表面処理液を表面処理浴槽から再生処理を行う別浴槽へ移送する。そこで、処理液中に増加したFeイオンのモル数とほぼ同量のモル数のリン酸又はリン酸塩を添加する。さらに、アンモニアにより表面処理剤組成物のpHを上昇させることによりFeイオンをリン酸鉄として沈殿させ、フィルター等で除去する。次いで、硝酸により、処理浴のpHを所定の値に戻した後、皮膜構成成分であるジルコニウム、有機高分子等を所定量まで添加し、表面処理浴槽に戻す。
なお、リン酸又はリン酸塩を添加しないで処理浴のpHを上昇させた場合の参考例を表1及び図1に示す。
リン酸又はリン酸塩を添加しないで処理浴のpHを上昇させた場合、Feイオンは赤褐色の水和酸化物として沈殿が生じ、処理浴中のFeイオン濃度も減少する。
さらに、これに対応して処理浴中の有機高分子もFeイオンと共沈し、有機高分子濃度も減少する。
pHが3.0以上になると、処理浴中の有機高分子の大部分が鉄とともに沈殿してしまう。このため、pHを上昇させてFeイオンを沈殿除去する場合、鉄沈殿剤としてリン酸又はリン酸塩を添加し、有機高分子濃度の減少を抑制することが重要となる。
別浴槽のpHは2.0〜4.0であることが好ましく、2.0〜3.0であることがより好ましい。上記pHの範囲内であれば、鉄沈殿剤としてリン酸又はリン酸塩を添加しpHを4.0まで上昇させることにより、鉄沈殿剤を添加しない場合よりもより多くのFeイオンを減少することが出来ると共に、有機高分子濃度の減少を抑制することが出来る。
しかし、pHの影響により処理浴中の有機高分子もある程度減少することを考慮する必要がある。
別浴槽のpHを上昇させる場合は有機高分子もある程度減少するため、別浴槽での再生処理を行うか、あるいは、後述する循環経路内での再生処理を行うか、操業の状況に応じて適宜選択あるいは併用して行うことが必要である。
Feイオンが存在する別浴槽に鉄沈殿剤を添加する場合、添加する鉄沈殿剤の量は、処理浴中において増加したFeイオンのモル数と同じモル数のリン酸又はリン酸塩を添加し、アンモニア等により処理液のpHを上昇させる。
鉄沈殿剤の添加により、pHの上昇によりFeイオンの沈殿が始まるpH3.0よりも低いpH2.0からFeイオンの減少が始まり、pHの上昇に伴い、pHが2.5よりリン酸第二鉄と考えられる沈殿物が生じ、沈殿量に対応して処理液中のFeイオン濃度も減少し、pH4.0では大部分のFeイオンが沈殿する。
別浴槽のFeイオンはリン酸鉄として大部分が沈殿するために、有機高分子はFeイオンとキレートを形成して沈殿せず、別浴槽中の有機高分子濃度はpHの影響を受け減少はするものの、リン酸又はリン酸塩を添加しない場合に比べ大幅な有機高分子の減少が抑制され、その減少率は60%以下にすることができる。
また、Feイオン濃度が100ppm以上では、概略添加した鉄沈殿剤の量に反比例してFeイオン濃度が減少し、FeイオンとPイオンは1:1で反応する。
このため、表面処理浴中に500ppmのFeイオンが存在する場合は、Feイオン500ppmと同じモル数である9.0mmol/Lの鉄沈殿剤を添加して、pHを2.0から4.0まで上昇させれば良く、さらに、表面処理鋼板の特性を低下させることのない3mmol/Lを加えた12mmol/Lまで添加することができると考えられる。
このことより、別浴槽で再生処理を行う場合、表面処理浴に添加する鉄沈殿剤は0.4〜12mmol/Lであることが好ましく、0.4〜9mmol/Lであることがより好ましい。
別浴槽において、Feイオン濃度を100ppm以下とする場合、pHが2.0〜3.0の領域では、Feイオンとリン酸の反応が進み難い。
このため、pHが2.0〜3.0の領域でFeイオン濃度を特に好ましい100ppm以下まで減少させるためには、必要以上のリン酸又はリン酸塩を添加しなければならないが、リン酸又はリン酸塩の添加と同時にpHを4.0まで上昇させることにより、Feイオンとリン酸の反応が促進されFeイオンを沈殿させることができ、別浴槽中のFeイオン濃度を100ppm以下にすることができる。
別浴槽において、pHが4.0を超えると表面処理皮膜形成成分であるZrも一緒に沈殿してしまうが、別浴槽において、pHが2.0〜4.0の領域では鉄と一緒にジルコニウムが沈殿することもない。
また、添加したリン酸又はリン酸塩でジルコニウムが沈殿することもない。
このことより、別浴槽で再生処理を行う場合、表面処理浴のpHは2.0〜4.0であることが好ましく、pHは2.0〜3.0であることがより好ましい。
以上の説明のように、別浴槽で再生処理する場合には、リン酸またはリン酸塩を処理浴中に添加するとともに処理浴のpHを上昇させることにより、Feイオンを沈殿除去し、Feイオンによる有機高分子濃度の減少を抑制することが出来る。
<表面処理浴の循環経路内での再生処理>
表面処理浴の再生処理は、処理液の循環経路内でFeイオンを取り除くこともできる。
再生処理を循環経路内で行う場合は、電解処理により表面処理を行う循環経路内で再生処理を行う。すなわち、図17に示すように、循環経路とは、処理タンク11、鉄沈殿槽12、循環タンク13を準備して、鋼帯14を処理タンク11内の処理浴15中を通過する間に陰極電解して、鋼帯14上に酸素化合物の処理皮膜を形成させるようにする。
この時、処理タンク11内での処理浴水位を保ち、処理浴15の濃度を安定させるために、処理浴15中の処理液は、処理タンク11、鉄沈殿槽12、循環タンク13を循環させて使用される。
循環経路内での再生処理においては、処理浴中に増加したFeイオンのモル数に見合ったモル数のリン酸又はリン酸塩を、鉄沈殿槽12に添加し、処理浴中のFeイオンをリン酸鉄として鉄沈殿槽内で沈殿させ、循環経路内に設置したフィルター16で除去する。
循環経路内では、電解処理に先立ちあるいは電解処理と並行して、Feイオンの増加に合わせてリン酸又はリン酸塩を添加してもよい。
このため、処理浴は表面処理に最も好ましいpH2.0〜3.0の領域で再生処理を行うことが好ましい。
処理浴中に、増加したFeイオンのモル数に見合ったモル数のリン酸又はリン酸塩を添加し、Feイオンを沈殿させ、リン酸又はリン酸塩の添加量にほぼ比例して処理浴中のFeイオンをリン酸鉄の沈殿物として減少させる。
この場合、処理浴のpHが2.0〜3.0の領域でFeイオンをリン酸鉄として沈殿させるため、有機高分子濃度に及ぼすpHの影響は少なく、有機高分子濃度の減少率を15%以下にし、Feイオンを沈殿除去することができる。
循環経路内での再生処理においても、Feイオン濃度が500ppmを超えて、鉄の水酸化物の沈殿により処理浴中の有機高分子の大部分が失われてしまう前に実施することが基本であり、Feイオンの沈殿によるスラッジが発生する前、すなわち、処理浴中のFeイオン濃度が500ppmを超える前に再生処理を行うことが望ましい。
循環経路内で再生処理を行う第一の方法は、処理浴のpHを2.0〜3.0とし、Feイオン濃度を100ppm以下にすることである。
表面処理浴中で増加したFeイオンに見合った量のリン酸又はリン酸塩を、鉄沈殿槽内に添加し、Feイオン濃度を100ppm以下にする。
処理浴に添加するリン酸又はリン酸塩の量は、0.4〜11mmol/Lが好ましく、0.4〜8mmol/Lがより好ましい。
このため、処理浴中にFeイオンが増加し始める当初から鉄沈殿剤を鉄沈殿槽内に添加しておき、Feイオンの増加を防止することが好ましく、操業開始直後から0.4mmol/L以上のリン酸又はリン酸塩を添加することが好ましい。
また、Feイオン濃度が500ppmに達した場合、8mmol/Lのリン酸又はリン酸塩を添加することによって、処理浴中のFeイオン濃度を100ppm以下にすることができる。
さらに、表面処理鋼板の特性(例えば、表8に示すような「湿潤密着性」)を低下させることのない3mmol/Lを加えた11mmol/Lまで添加することができる。
循環経路内で再生処理する第二の方法は、処理浴のpHを2.0〜3.0とし、リン酸第二鉄FePOの白色沈殿物として沈殿させることである。
鉄沈殿剤としてリン酸又はリン酸塩を鉄沈殿槽内に添加することにより、表面処理浴中のFeイオンをリン酸第二鉄[FePO]の白色沈殿物として生成させ除去する。
処理浴のpHが2.0〜3.0の領域で、鉄沈殿剤をリン酸二水素イオンとして、処理浴中のFeイオン濃度に応じたリン酸二水素イオンを鉄沈殿槽内に添加することにより、処理浴中の有機高分子濃度の減少率を建浴時の15%以下に制御することができる。
前記リン酸二水素イオンとしてリン酸二水素アンモニウム[NHPO]を使用した場合、処理浴中の有機高分子濃度の減少率を建浴時の15%以下に制御する方法としては、次の通りである。
処理浴のpHを2.0〜3.0の範囲として、処理浴中のFeイオン濃度に応じたリン酸二水素アンモニウムを添加する。この場合、図11に示すように、表面処理浴中のリン酸二水素アンモニウム添加量と鉄イオン添加濃度との関係を、下記の条件で行う。すなわち、横軸をリン酸二水素アンモニウム添加量(ppm)、縦軸を鉄イオン添加濃度(ppm)としたグラフの座標(リン酸二水素アンモニウム添加量、鉄イオン添加濃度)における、A(300、100)、B(100、500)、C(600、500)、D(600、100)、A(300、100)を順に結んで形成された図形の内部領域で行う。
図11中の括弧による数値は、リン酸二水素アンモニウムを添加した後に白色の鉄沈殿物が発生した時のポリイタコン酸(PIA)の減少率である。このように、処理浴にリン酸二水素アンモニウムを添加することによって、リン酸第二鉄の白色沈殿物が生成し、処理浴中のポリイタコン酸の減少を15%以内に抑制することができる。
前記リン酸二水素イオン源としてリン酸二水素ナトリウム[NaHPO]を使用した場合、処理浴中の有機高分子濃度の減少率を建浴時の10%以下に制御する方法としては、次の通りである。
処理浴のpHを2.0〜3.0の範囲として、処理浴中のFeイオン濃度に応じたリン酸二水素ナトリウムを添加する。この場合、図12に示すように、表面処理浴中のリン酸二水素ナトリウム添加量と鉄イオン添加濃度との関係を、下記の条件で行う。
すなわち、横軸をリン酸二水素ナトリウム添加量(ppm)、縦軸を鉄イオン添加濃度(ppm)としたグラフの座標(リン酸二水素ナトリウム添加量、鉄イオン添加濃度)における、A(350、100)、B(50、500)、C(600、500)、D(600、100)、A(350、100)を順に結んで形成された図形の内部領域である。
図12中の括弧による数値は、リン酸二水素ナトリウムを添加した後に白色の鉄沈殿物が発生した時のポリイタコン酸(PIA)の減少率である。
このように、処理浴中にリン酸二水素ナトリウムを添加することによって、リン酸第二鉄の白色沈殿物が生成し、処理浴中のポリイタコン酸の減少を10%以下に抑制することができる。
以上の説明のように、表面処理浴中のFeイオンは大部分が白色のリン酸第二鉄の沈殿となり減少し、表面処理により消費された有機高分子量及び操業中のpH変動により減少した有機高分子を所定量まで補充すれば良い。
また、循環経路内で再生処理する場合には、Feイオンの増加に見合った量のリン酸またはリン酸塩を処理浴中に添加すれば良い。
この場合、操業中の循環経路内で再生処理するため、処理浴のpHは3.0以下が好ましく、有機高分子濃度はほとんど減少せずに、処理浴中に増加したFeイオンはリン酸第二鉄の白色沈殿物として除去することが出来る。
(表面処理鋼板の製造方法)
表面処理に先立って、鋼帯の前処理を行う。鋼帯の前処理としては定法により、脱脂、水洗、必要に応じて、酸洗、水洗を行い、表面を清浄化する。表面が清浄化された鋼帯は、上述の再生処理が行われた処理浴を30〜65℃の浴温度に調整し、攪拌しながら、0.5〜100A/dmの範囲の電流密度で陰極電解を行い、最後に水洗することにより、好適な表面構造を有する表面処理鋼板が作製される。
(表面処理鋼板の形成)
以上のようにして製造された表面処理鋼板は、鋼帯の少なくとも一方の表面に、Zrの酸素化合物及び有機高分子を含有し、Zrの量が3〜300mg/mであり、且つ炭素の量(以下、C量と略す。)が0.1〜5.0mg/mである、ノンクロムの表面処理皮膜が陰極電解により形成されている。
Zr量は、上記範囲よりも少ないと耐食性に劣るようになる一方、上記範囲よりも多くても、性能は飽和し、経済性に劣るだけであるので、表面処理皮膜中のZr量は上記範囲内にあることが好ましい。
またC量が上記範囲よりも少ない場合には、処理浴中のポリカルボン酸量が十分でなく、耐食性に劣るようになる。一方、上記範囲よりもC量が多い場合には、表面処理皮膜上に被覆される有機樹脂被覆層との十分な密着性を確保できないおそれがあるようになることから、表面処理皮膜中のC量は上記範囲にあることが好ましい。
以下、本発明を、参考例、実施例及び比較例を用いて具体的に説明する。
[参考例1〜5]
参考例1〜5においては、下記のように表面処理浴を調整し、沈殿物の発生状況を観察し、沈殿物高さを測定した。さらに、フィルターろ過によって得られた上清を用いて、鉄(Fe)イオン濃度、Pイオン濃度、ポリイタコン酸(PIA)濃度を測定し、ポリイタコン酸(PIA)減少率を計算した。フィルターには、0.5μmポアサイズのメンブレンフィルターを用いた。
<表面処理浴の調整>
ジルコニウム(Zr)添加濃度:6000ppm、ポリイタコン酸(PIA)添加濃度:500ppmの表面処理浴に、表1に示すように、硝酸鉄を用いてFeイオン濃度として300ppmのFeイオンを添加し、アンモニアにより表面処理浴のpHを2.0〜4.0まで変化させた。
なお、Feイオン添加モル濃度(mmol/L)はFeイオン添加濃度(ppm)より換算した。
<沈殿物発生の有無の評価>
表面処理浴を各pHに変化させ、沈殿物発生の有無を目視観察により、次の様に評価した。
○印:沈殿物の発生有り
△印:沈殿物の発生までは至らないが浴が白濁した状態
×印:沈殿物の発生無し
<沈殿物高さの測定>
上記の様に調整した各表面処理浴から10mL採取して、内径12mmの透明ガラス円筒管に入れ、1時間放置後の沈殿物の高さを測定した。
<Fe、Pイオン濃度の測定>
Feイオン濃度、Pイオン濃度はICP発光分析装置CIROS((株)リガク製)を
用いて測定した。
<PIA濃度の測定>
PIA濃度は全有機体炭素計TOC−5000((株)島津製作所製)を用いて測定した有機体炭素濃度値をポリイタコン酸に換算して求めた。
<PIA減少率の計算>
PIA減少率は、下記の式(X)により、表面処理浴へ添加したPIA添加濃度(ppm)から、Feイオンを添加し、pH調整後の表面処理浴中のPIA濃度(ppm)を引いた値を表面処理浴へ添加したPIA添加量(ppm)で除し、百分率とした。
PIA減少率=(PIA添加濃度−PIA濃度)/PIA添加量×100・・・(X)
表面処理浴での沈殿物の発生状況の観察結果、沈殿物高さ、鉄(Fe)イオン濃度、Pイオン濃度、ポリイタコン酸(PIA)濃度の測定結果、ポリイタコン酸(PIA)減少率の計算結果を表1に、Feイオン濃度とPIA濃度に及ぼすpHの影響を図1に示す。
鉄沈殿剤としてのリン酸またはリン酸塩を添加せずに表面処理浴のpHを上昇させた場合、pHの上昇とともに赤褐色の水和酸化鉄の沈殿が発生し、表面処理浴中のFeイオン濃度は減少した。これに伴い表面処理浴中のポリイタコン酸は鉄と共沈してPIA濃度も減少し、pH3.0以上では表面処理浴の構成成分でもあるポリイタコン酸の大部分が消失した。
[参考例6〜12]
参考例6〜12においては、下記のように表面処理浴を調整し、沈殿物の発生状況を観察し、ポリイタコン酸(PIA)濃度を測定し、ポリイタコン酸(PIA)減少率を計算した。
<表面処理浴の調整>
ジルコニウム(Zr)添加濃度:6000ppm、ポリイタコン酸(PIA)添加濃度:400ppm、pH2.5の表面処理浴に、表2に示す様に、硝酸鉄を用いてFeイオン濃度として100〜1200ppmまで変化させた。
なお、Feイオン添加モル濃度(mmol/L)はFeイオン添加濃度(ppm)より換算した。
表面処理浴での沈殿物の発生状況の観察結果、ポリイタコン酸(PIA)濃度の測定結果、ポリイタコン酸(PIA)減少率の計算結果を表2に、表面処理浴中のPIA濃度に及ぼすFeイオンの影響を図2に示す。
表面処理浴中のFeイオンが増加し、300ppmを超えるとPIA濃度が減少し始め、500ppmを超えると鉄沈殿物が発生し始め、表面処理浴の構成成分であるポリイタコン酸の大部分が鉄と共沈しPIA濃度が約100ppmに減少した。
[実施例1〜69]
実施例1〜69においては、下記のように表面処理浴を調整し、Pイオン濃度を測定し、沈殿物のFe/Pモル比を計算したこと以外は、参考例1〜5と同様にして、表面処理浴を分析した。
なお、処理浴中のFeイオンモル濃度(mmol/L)及びPイオンモル濃度(mmol)は、Feイオン濃度(ppm)及びPイオン濃度(ppm)より換算した。
<表面処理浴の調整>
ジルコニウム(Zr)添加濃度:6000ppm、ポリイタコン酸(PIA)添加濃度:500ppmの表面処理浴に、表3、4に示すように、硝酸鉄を用いてFeイオン濃度として100〜500ppmのFeイオンを添加し、鉄沈殿剤としてリン酸二水素アンモニウム[NHPO]又はリン酸二水素ナトリウム[NaHPO]を50〜600ppm添加した後、アンモニアにより表面処理浴のpHを2.0〜4.0まで変化させた。
なお、Feイオン添加モル濃度(mmol/L)及び鉄沈殿剤添加モル濃度(mmol/L)は、Feイオン添加濃度(ppm)及び鉄沈殿剤添加濃度(ppm)より換算した。
[比較例1〜4]
比較例1〜4においては、下記のように表面処理浴を調整した以外は、実施例1〜69と同様に行った。
<表面処理浴の調整>
ジルコニウム(Zr)添加濃度:6000ppm、ポリイタコン酸(PIA)添加濃度:500ppmの表面処理浴に、表3、4に示すように、硝酸鉄を用いてFeイオン濃度として300ppmのFeイオンを添加し、鉄沈殿剤としてリン酸二水素アンモニウム[NHPO]又はリン酸二水素ナトリウム[NaHPO]を300〜600ppm添加した後、硝酸水溶液により表面処理浴のpHを1.5とした。
なお、Feイオン添加モル濃度(mmol/L)及び鉄沈殿剤添加モル濃度(mmol/L)は、Feイオン添加濃度(ppm)及び鉄沈殿剤添加濃度(ppm)より換算した。
<沈殿物Fe/Pモル比の計算>
鉄沈殿剤を300ppm及び600ppm添加した時の沈殿物のFe/Pモル比を、表面処理浴中のFeイオン濃度(ppm)及びPイオン濃度(ppm)から逆算して、下記の計算式(Y)より求めた。
DM={(IFe0−IFe)/Fea}/{(IP0−IP)/Pa}・・・(Y)
DM :沈殿物Fe/Pモル比
IFe0 :pH2.0の時のFeイオン濃度(ppm)
IFe :各pHでのFeイオン濃度(ppm)
Fea :鉄の原子量
IP0 :pH2.0の時のPイオン濃度(ppm)
IP :各pHでのPイオン濃度(ppm)
Pa :リンの原子量
表面処理浴での沈殿物の発生状況の観察結果、沈殿物高さ、鉄(Fe)イオン濃度、リン(P)イオン濃度、ポリイタコン酸(PIA)濃度の測定結果、ポリイタコン酸(PIA)減少率、沈殿物Fe/Pモル比の計算結果を表3、4に、表面処理浴のpHとFeイオン濃度、Pイオン濃度、PIA濃度、PIAの減少率及びFe/Pモル比の関係を図3〜6に、鉄沈殿剤添加濃度と表面処理浴中のFeイオン量及びPIA量の関係を図7〜10に、鉄沈殿剤添加濃度と鉄沈殿物の発生状況の関係を図11、12に示す。
<表面処理浴の別浴槽での再生処理>
表面処理浴を別浴槽で再生処理する場合、Feイオンが増加した表面処理液を表面処理浴槽から再生処理を行う別浴槽へ移送し、鉄沈殿剤を添加後に、pHを上昇させて実施する。
Feイオンが300ppm(5.4mmol/L)存在する表面処理浴中に、鉄沈殿剤として、リン酸二水素アンモニウムを300ppm(2.6mmol/L)又は600ppm(5.2mmol/L)、リン酸二水素ナトリウムを300ppm(2.5mmol/L)又は600ppm(5.0mmol/L)添加し、表面処理浴のpHを1.5から4.0まで上昇させた結果を、図3〜5に示す。
すなわち、図3、4から明らかなように、有機高分子がポリイタコン酸である処理浴にリン酸二水素アンモニウムあるいはリン酸二水素ナトリウムを添加し、処理浴のpHを上昇することによって白色の鉄沈殿物が生じ、処理浴のFeイオン濃度が減少すると伴に、リン酸二水素アンモニウムあるいはリン酸二水素ナトリウムを処理浴に添加しない場合に比べて、ポリイタコン酸の濃度の減少が抑えられていることがわかる。
このような結果から、処理浴中のFeイオン濃度は鉄沈殿剤の添加量に対応して減少し、鉄沈殿剤を添加しない場合(図1)よりもより効率良くFeイオン濃度が減少した(図3)。
鉄はリン酸鉄として沈殿するために、処理浴中のPイオン濃度もこれに対応して減少するのである(図3)。
また、表面処理浴の構成成分であるポリイタコン酸もpHの影響により減少するが、鉄沈殿剤を添加しない場合大部分のポリイタコン酸が沈殿してしまう(図1)のに対し、鉄沈殿剤を添加することによって処理浴中のポリイタコン酸の減少をより抑制し(図4)、ポリイタコン酸の減少率を60%以下とすることができた(図5)。
上述したように、鉄はリン酸鉄として沈殿するために、処理浴中のPイオン濃度もこれに対応して減少するが、図6に示すように、処理浴中へFeイオンを300ppm(5.4mmol/L)添加した後に鉄沈殿剤をリン酸二水素アンモニウムとして600ppm(5.2mmol/L)又はリン酸二水素ナトリウムを600ppm(5.0mmol/L)添加し、処理浴中のFeイオンの大部分を沈殿させた場合、処理浴のpHにかかわらず、処理浴に残存するFeイオン濃度(ppm)及びPイオン濃度(ppm)から逆算して求めた沈殿物Fe/Pモル比≒1であり、FeイオンとPイオンが概略1:1で反応して、リン酸第二鉄として沈殿したことを示している。
また、FeイオンとPイオンが概略1:1で反応し、添加した鉄沈殿剤の量に反比例してFeイオン濃度が減少するために、表3、4及び図3の実施例に示すように、鉄沈殿剤を添加することにより、鉄沈殿剤が300ppmではpH3.5で、鉄沈殿剤が600ppmではpH2.5でFeイオン濃度は約100ppmとなり、さらにpHを上昇することによって、処理浴中のFeイオン濃度は100ppm以下とすることができた。
このように、処理浴中にFeイオンが300ppm存在し、pHを2.0〜4.0まで上昇して再生処理を行った場合、処理浴に添加するリン酸又はリン酸塩の量は2〜8mmol/Lが好ましく、2〜5mmol/Lがより好ましい。
2〜5mmol/Lのリン酸又はリン酸塩を添加することによって、処理浴中のFeイオン濃度を100ppm以下とし、さらに、表面処理鋼板の特性を低下させることのない3mmol/Lを加えた8mmol/Lまで添加することができ、有機高分子濃度の減少率を60%以下にすることができた。
すなわち、有機高分子濃度の減少率が60%以下で、Feイオン濃度を100ppm以内に維持することが出来る。
これらのことより、Feイオンが少ない場合は、鉄沈殿剤を50ppm(0.4mmol/L)以上添加すれば良く、処理浴中にFeイオンが500ppm(9.0mmol/L)存在する場合では、Feイオンと同量のPイオンを9.0mmol/L添加すれば、処理浴中のFeイオン濃度は100ppm以下になると考えられ、さらに、表面処理鋼板の特性を低下させることのない3.0mmol/Lを加えた12mmol/Lまで添加することができると考えられる。
以上のことより、別浴槽で再生処理を行う場合、表面処理浴に添加する鉄沈殿剤は0.4〜12mmol/Lであることが好ましく、0.4〜9mmol/Lであることがより好ましい。
<表面処理浴の循環経路内での再生処理>
表面処理浴を循環経路内で再生処理する場合、pH2.0〜3.0の領域で行う。
循環経路内で再生処理する第一の方法として、Feイオンが100〜500ppm存在するpH2.5の表面処理浴に、鉄沈殿剤としてリン酸二水素アンモニウム又はリン酸二水素ナトリウムを50〜600ppm添加した結果を、図7〜10に示す。
すなわち、図7、8から明らかなように、有機高分子がポリイタコン酸であるpH2.5の処理浴にリン酸二水素アンモニウムを添加することにより、白色の鉄沈殿物が生じ処理浴のFeイオン濃度が減少するが、処理浴中のポリイタコン酸の濃度はほとんど減少していないことがわかる。
このような結果から、Feイオンが100〜500ppm存在するpH2.5の表面処理浴中に、鉄沈殿剤としてリン酸二水素アンモニウム又はリン酸二水素ナトリウムを添加した場合、FeイオンとPイオンが1:1で反応するために、鉄沈殿剤の添加量に概略反比例して処理浴中のFeイオンは減少(図7、9)し、ポリイタコン酸の減少率を15%以下にすることができた(図8、10)。
表面処理浴中のFeイオン濃度を目標とする100ppm以下とするためには、各Feイオン濃度において、鉄沈殿剤添加量に概略反比例するFeイオン濃度の減少曲線の延長線がFeイオン濃度100ppmとなる座標点以上の鉄沈殿剤を添加すれば良い。
例えば、表面処理浴中のFeイオンが500ppmの場合、鉄沈殿剤がリン酸二水素アンモニウムでは900ppm(7.8mmol/L)であり、リン酸二水素ナトリウムでは900ppm(7.5mmol/L)である。
以上のことより、循環経路内で再生処理を行う場合、表面処理浴に添加する鉄沈殿剤は0.4〜11mmol/Lであることが好ましく、0.4〜8.0mmol/Lであることがより好ましい。
Feイオンが100ppmの場合は、鉄沈殿剤を50ppm(0.4mmol/L)添加すれば良く、処理浴中にFeイオンが500ppm(9.0mmol/L)存在する場合、鉄沈殿剤を8.0mmol/L添加すれば、処理浴中のFeイオン濃度は100ppm以下になると考えられ、さらに、表面処理鋼板の特性を低下させることのない3mmol/Lを加えた11mmol/Lまで添加することができると考えられる。
循環経路内で再生処理する第2の方法として、Feイオンが100〜500ppm存在するpH2.5の表面処理浴に、鉄沈殿剤としてリン酸二水素アンモニウム又はリン酸二水素ナトリウムを50〜600ppm添加した結果を、図11、12に示す。
その結果、Feイオンが100〜500ppm存在するpH2.5表面処理浴中に、鉄沈殿剤としてリン酸二水素アンモニウム又はリン酸二水素ナトリウムを添加した場合、リン酸第二鉄の白色沈殿物が生成する。この沈殿物の生成の有無により処理浴中のFeイオンの沈殿による除去を目視により確認することができた。
処理浴中へのFeイオンの添加濃度と鉄沈殿剤の添加量の関係における沈殿物の発生状況を図11、12に示し、図中の括弧内の数値は、各座標点でのPIA減少率を示す。
鉄沈殿剤がリン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素ナトリウムのいずれの場合においても、座標点A、B、C、Dで囲まれた範囲内で鉄沈殿剤を添加すれば、リン酸鉄による沈殿物が発生し処理浴中のFeイオンが減少するとともにPIA減少率を15%以下に抑制することができた。
[実施例70〜85]
実施例70〜85においては、下記のように表面処理浴を調整したこと以外は、参考例1〜5と同様にして、表面処理浴を分析した。
なお、処理浴中のFeイオンモル濃度(mmol/L)は、Feイオン濃度(ppm)より換算した。
<表面処理浴の調整>
ジルコニウム(Zr)添加濃度:6000ppm、ポリイタコン酸(PIA)添加濃度:500ppmの表面処理浴に、表5、6に示すように、硝酸鉄を用いてFeイオンを添加し、鉄沈殿剤としてリン酸[HPO]又はリン酸ナトリウム[NaPO]を添加した後、アンモニアにより表面処理浴のpHを変化させた。
なお、Feイオン添加モル濃度(mmol/L)及び鉄沈殿剤添加モル濃度(mmol/L)は、Feイオン添加濃度(ppm)及び鉄沈殿剤添加濃度(ppm)より換算した。表面処理浴での沈殿物の発生状況の観察結果、沈殿物高さ、鉄(Fe)イオン濃度、ポリイタコン酸(PIA)濃度の測定結果、ポリイタコン酸(PIA)減少率の計算結果を表5、6に、表面処理浴のpHとFeイオン濃度、PIA濃度及びPIAの減少率の関係を図13〜15に示す。
Feイオンが100ppm存在する表面処理浴中に、鉄沈殿剤として、リン酸を500ppm(5.1mmol/L)、リン酸ナトリウムを500ppm(3.0mmol/L)添加し、表面処理浴のpHを変化させた。
処理浴中のFeイオン濃度は鉄沈殿剤の添加及びpHの上昇に対応して減少し(図13)、表面処理浴の構成成分であるポリイタコン酸もpHの影響により減少する(図14)が、ポリイタコン酸の減少率は60%以下とすることができた(図15)。
また、実施例73〜75、実施例81〜85に示すように、Feイオンが100〜500ppm存在するpH2.5表面処理浴中に、鉄沈殿剤としてリン酸又はリン酸ナトリウムを添加した場合、処理浴中のFeイオンが減少するとともに、表面処理浴の構成成分であるポリイタコン酸の減少率を15%以下とすることができた。
[比較例5〜7]
比較例5〜7においては、下記のように表面処理浴を調整したこと以外は、実施例70〜85と同様にして、表面処理浴を分析した。
<表面処理浴の調整>
ジルコニウム(Zr)添加濃度:6000ppm、ポリイタコン酸(PIA)添加濃度:500ppmの表面処理浴に、表7に示すように、硝酸鉄を用いてFeイオンを添加し、鉄沈殿剤としてクエン酸[C]、炭酸ナトリウム[NaCO]又は炭酸水素ナトリウム[NaHCO]添加した後、アンモニアにより表面処理浴のpHを調整した。
表面処理浴での沈殿物の発生状況の観察結果、沈殿物高さ、鉄(Fe)イオン濃度、ポリイタコン酸(PIA)濃度の測定結果、ポリイタコン酸(PIA)減少率の計算結果を表7に示す。
いずれの場合も、沈殿物の発生は観察され、若干のFeイオンの減少が見られるが、表面処理浴の構成成分であるポリイタコン酸は約90%減少した。
[参考例13、14]
参考例13、14においては、ジルコニウム(Zr)添加濃度:6000ppm、ポリイタコン酸(PIA)添加濃度:500ppmの表面処理浴のpHを表8に示す様に2.5と3.0の2水準として、Feイオン及び鉄沈殿剤を添加せずに処理浴を作成した。
この表面処理浴を用いて、表8に示す処理条件により陰極電解することによりZrの酸化物及び有機高分子を含有する表面処理鋼板を作成し、表面処理鋼板の皮膜量(Zr量、PIA量)、X線光電子分光装置(XPS)によるリン(P)の強度、トフ・シムス(TOF−SIMS)によるリンとジルコニウムの強度比(P/Zr)を測定した。
また、得られた表面処理鋼板に有機樹脂を被覆して有機樹脂被覆表面処理鋼板を作成し、有機樹脂皮膜と表面処理鋼板との湿潤密着性を評価した。
<表面処理皮膜量(Zr量、PIA量)の測定>
表面処理皮膜中のZr量は、蛍光X線分析装置ZSX100e((株)リガク製)を用いて測定した。
炭素・水素/水分分析装置RC612(LECO社製)を用いて皮膜中のC量を測定しPIA量に換算した。
<XPSによる表面処理皮膜中のP強度の測定>
表面処理皮膜中のPの強度は、X線光電子分光装置(XPS)JPS−9200(日本電子株式会社製)により、加速電圧:10kV、測定径:Φ3mmの条件で測定した。得られた結果は解析ソフトSpec Surf(日本電子株式会社製)にて解析した。
<トフ・シムスによる表面処理皮膜中のP/Zr強度比>
表面処理皮膜中のリンとジルコニウムの強度比(P/Zr)は、トフ・シムス(TOF−SIMS)TRIFT−II(アルバックファイ株式会社製)により、加速電圧:15kV、測定径300μm、の条件で深さ方向に点分析を行った。エッチング時間は1.7nm/min.(SiO換算)とし、得られた結果は解析ソフトWin Cadence(Physical Electronics社製)にて解析した。TOF−SIMSスペクトルにおけるリン(質量数:30.9738)とジルコニウム(質量数:89.9047)の二次イオンの積分強度から、リン及びジルコニウムの強度比を算出した。
<有機樹脂被覆表面処理鋼板の作成>
上記のようにして得られた表面処理鋼板を250℃に加熱し、イソフタル酸を15mol%共重合化したフィルム厚み20μmの無配向ポリエチレンテレフタレートフィルムを、ラミネートロールを介して熱圧着し、直ちに水冷することにより有機被覆表面処理鋼板を作製した。
<湿潤密着性の評価>
上記のようにして得られた有機樹脂被覆表面処理鋼板の樹脂被覆面にカッターナイフで4cmの素地に達するクロスカット傷を入れ、市販のコーヒー飲料(商品名Blendy ボトルコーヒー低糖、味の素ゼネラルフーズ株式会社製)に浸漬させて37℃で6週間経時して、クロスカット部からの変色の広がりにより、腐食状態を次の様に評点をつけ、評点4以上のものを適用可能として評価した。
なお、この間カビの発生を抑えるためにコーヒーを定期的に取り替えた。
評点5:クロスカット部からの変色の広がりが片辺あたり1.0mm未満
評点4:クロスカット部からの変色の広がりが片辺あたり1.0mm以上2.0mm未満
評点3:クロスカット部からの変色の広がりが片辺あたり2.0mm以上4.0mm未満
評点2:クロスカット部からの変色の広がりが片辺あたり4.0mm以上6.0mm未満
評点0:クロスカット部からの変色の広がりが片辺あたり6.0mm以上
表面処理鋼板の皮膜量(Zr量、PIA量)、X線光電子分光装置(XPS)によるリン(P)の強度、トフ・シムス(TOF−SIMS)によるリンとジルコニウムの強度比(P/Zr)の測定結果及び有機樹脂被覆表面処理鋼板の湿潤密着性の評価結果を表8に示す。
表面処理浴にFeイオン及び鉄沈殿剤を添加しない場合、表8に示す皮膜量が得られ、表面処理皮膜からは、XPS及びTOF−SIMSのいずれにおいても皮膜に由来するリンの強度は得られなかった。
また、参考例13での湿潤密着性の評価は評点4となり、参考例14での湿潤密着性の評価は評点5となった。
[実施例86〜99]
実施例86〜99においては、ジルコニウム(Zr)添加濃度:6000ppm、ポリイタコン酸(PIA)添加濃度:500ppmの表面処理浴に、鉄沈殿剤としてリン酸二水素アンモニウムを75〜360ppm添加し、各処理浴のpHを表8の通りにしたこと以外は、参考例13、14と同様にして、表面処理鋼板の皮膜量(Zr量、PIA量)、X線光電子分光装置(XPS)によるリン(P)の強度、トフ・シムス(TOF−SIMS)によるリンとジルコニウムの強度比(P/Zr)を測定し、有機樹脂被覆表面処理鋼板の湿潤密着性を評価した。
表面処理鋼板の皮膜量(Zr量、PIA量)、X線光電子分光装置(XPS)によるリン(P)の強度、トフ・シムス(TOF−SIMS)によるリンとジルコニウムの強度比(P/Zr)の測定結果及び有機樹脂被覆表面処理鋼板の湿潤密着性の評価結果を表8に示す。
表面処理浴に鉄沈殿剤を添加した場合、表8に示す正常な皮膜量が得られた。
表面処理皮膜からは、XPSの測定で皮膜に由来するリンの強度は得られなかったが、TOF−SIMSによる測定で皮膜に由来するリンの強度が得られ、皮膜最表層でのリンとジルコニウムの強度比は、P/Zr=0.006〜0.012であった。
本発明における湿潤密着性の評価は、評点が4あるいは5となり、適用可能な範囲内であった。
このことより、ジルコニウム、ポリイタコン酸の表面処理浴にリン酸二水素アンモニウムを75ppm(0.7mmol/L)から360ppm(3.1mmol/L)添加しても良好な湿潤密着性が得られることが解る。
表面処理皮膜のP/Zr比が0.014以上であると、フィルムとの湿潤密着性が悪くなることが分かる。このときの処理浴中のPイオンは4.7ミリモル濃度であった。
このため、Feイオンを沈殿させた後にPイオンが存在しない状態が最も好ましいが、処理浴中のPイオンは、表面処理鋼板の湿潤密着性を低下させることのない3.1mmol/L以下であることが好ましく、言い換えれば、添加するPイオンの量は、処理浴中に存在するFeイオンのモル数と同じモル数のPイオンモル数に加えて3.1mmol/L以下まで過剰に添加することができる。
したがって、処理浴中のP濃度を3.1mmol/L以下に制御することにより、表面処理皮膜中のP/Zr比を0.012以下に抑制することが出来、その結果、有機樹脂との密着性が良好に保たれる。
[比較例8〜13]
比較例8〜13においては、ジルコニウム(Zr)添加濃度:6000ppm、ポリイタコン酸(PIA)添加濃度:500ppmの表面処理浴に、鉄沈殿剤としてリン酸二水素アンモニウムを540〜1080ppm添加し、各処理浴のpHを表8の通りにしたこと以外は、参考例13、14と同様にして、表面処理鋼板の皮膜量(Zr量、PIA量)、X線光電子分光装置(XPS)によるリン(P)の強度、トフ・シムス(TOF−SIMS)によるリンとジルコニウムの強度比(P/Zr)を測定し、有機樹脂被覆表面処理鋼板の湿潤密着性を評価した。
表面処理鋼板の表面処理皮膜量(Zr量、PIA量)、X線光電子分光装置(XPS)によるリン(P)の強度、トフ・シムス(TOF−SIMS)によるリンとジルコニウムの強度比(P/Zr)の測定結果及び有機樹脂被覆表面処理鋼板の湿潤密着性の評価結果を表8に示す。
表面処理浴に鉄沈殿剤を540ppm以上添加した場合、表8に示す表面処理皮膜量が得られた。
TOF−SIMSによる皮膜最表層でのリンとジルコニウムの強度比は、P/Zr=0.018〜0.021となり、湿潤密着性の評点は3あるいは2となり、適用可能な範囲外であった。
このことより、ジルコニウム、ポリイタコン酸の表面処理浴にリン酸二水素アンモニウムを540ppm(4.7mmol/L)以上添加すると良好な湿潤密着性が得られないことが解る。
本発明は、ジルコニウム、有機高分子、鉄沈殿剤を含有する表面処理浴(以下、処理浴と記載する場合がある)を用いて表面処理する際に、表面処理浴中に増加したFeイオンを鉄沈殿剤によって沈殿除去するとともに、表面処理浴中の有機高分子濃度の減少を抑制し、表面処理皮膜上に被覆される有機樹脂被覆層との密着性に優れた表面処理鋼板を製造することができ、産業上の利用可能性が極めて高い。

Claims (14)

  1. ジルコニウムイオン、並びにポリカルボン酸若しくはポリカルボン酸塩を含み、さらにクロムを含まない表面処理浴を用いて、鉄が露出している鋼帯上にジルコニウムの酸素化合物、並びにポリカルボン酸若しくはポリカルボン酸塩を含有する皮膜を電解処理によって形成させる表面処理鋼板の製造方法であって、
    前記表面処理浴が鉄沈殿剤を含有することによって、
    前記表面処理浴中のポリカルボン酸若しくはポリカルボン酸塩の濃度の減少を抑制・制御し、
    前記表面処理浴に鋼帯から溶出した鉄イオン濃度を減少することを特徴とする表面処理鋼板の製造方法。
  2. 前記ポリカルボン酸が、ポリイタコン酸である請求項1に記載の表面処理鋼板の製造方法。
  3. 前記鉄沈殿剤が、リン酸又はリン酸塩である請求項1又は2に記載の表面処理鋼板の製造方法。
  4. 前記リン酸又はリン酸塩が、リン酸二水素イオン、リン酸水素イオンあるいはリン酸イオンである請求項1〜3のいずれかに記載の表面処理鋼板の製造方法。
  5. 前記鉄沈殿剤が、0.4〜12mmol/Lである請求項1〜4のいずれかに記載の表面処理鋼板の製造方法。
  6. 前記鉄沈殿剤が、0.4〜9mmol/Lである請求項1〜4のいずれかに記載の表面処理鋼板の製造方法。
  7. 前記表面処理浴のpHが2.0〜4.0であり、
    前記鉄沈殿剤を0.4〜12mmol/Lとすることによって、
    前記有機高分子濃度の減少率を60%以下とし、
    前記表面処理浴中のFeイオン濃度を100ppm以下とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の表面処理鋼板の製造方法。
  8. 前記表面処理浴のpHが2.0〜4.0であり、
    前記鉄沈殿剤を0.4〜9mmol/Lとすることによって、
    前記有機高分子濃度の減少率を60%以下とし、
    前記表面処理浴中のFeイオン濃度を100ppm以下とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の表面処理鋼板の製造方法。
  9. 前記表面処理浴のpHが2.0〜3.0であり、
    前記鉄沈殿剤を0.4〜11mmol/Lとすることによって、
    前記有機高分子濃度の減少率を15%以下とし、
    前記表面処理浴中のFeイオン濃度を100ppm以下とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の表面処理鋼板の製造方法。
  10. 前記表面処理浴のpHが2.0〜3.0であり、
    前記鉄沈殿剤を0.4〜8mmol/Lとすることによって、
    前記有機高分子濃度の減少率を15%以下とし、
    前記表面処理浴中のFeイオン濃度を100ppm以下とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の表面処理鋼板の製造方法。
  11. 前記表面処理浴のpHが2.0〜3.0であり、
    前記リン酸塩がリン酸二水素アンモニウムであり、
    表面処理浴中のリン酸二水素アンモニウム添加量と鉄イオン添加濃度との関係を、
    下記の条件で行い、前記有機高分子濃度の減少率を15%以下とすることを特徴とする請求項4に記載の表面処理鋼板の製造方法。
    条件:横軸をリン酸二水素アンモニウム添加量(ppm)、縦軸を鉄イオン添加濃度(ppm)としたグラフの座標(リン酸二水素アンモニウム添加量、鉄イオン添加濃度)における、A(300、100)、B(100、500)、C(600、500)、D(600、100)、A(300、100)を順に結んで形成された図形の内部
  12. 前記表面処理浴のpHが2.0〜3.0であり、
    前記リン酸塩がリン酸二水素ナトリウムであり、
    表面処理浴中のリン酸二水素ナトリウム添加量と鉄イオン添加濃度との関係を、
    下記の条件で行い、前記有機高分子濃度の減少率を10%以下とすることを特徴とする請求項4に記載の表面処理鋼板の製造方法。
    条件:横軸をリン酸二水素ナトリウム添加量(ppm)、縦軸を鉄イオン添加濃度(ppm)としたグラフの座標(リン酸二水素ナトリウム添加量、鉄イオン添加濃度)における、A(350、100)、B(50、500)、C(600、500)、D(600、100)、A(350、100)を順に結んで形成された図形の内部
  13. 前記表面処理鋼板の製造方法が陰極電解処理であることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の表面処理鋼板の製造方法。
  14. 表面処理浴中のリン濃度を3.1mmol以下とすることにより、
    前記酸素化合物の最表層に含有されるリン(P)とジルコニウム(Zr)のTOF−SIMSによる強度比(P/Zr)を0.012以下とする請求項3又は4記載の表面処理鋼板の製造方法。
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