以下、図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
なお、説明は以下の順序で行なう。
1.通信処理系統:基本
2.変調および復調:比較例
3.変調および復調:基本(注入同期方式の適用)
4.基準搬送信号の位相と復調処理の関係
5.注入同期方式:第1実施形態
6.注入同期方式:第2実施形態
7.発振回路の構成例
8.多チャネル化と注入同期の関係
9.伝送路構造(筐体内、装着・搭載された機器間)
10.システム構成:第1適用例(単一チャネル)
11.システム構成:第2適用例(同報通信)
12.システム構成:第3適用例(周波数分割多重:2チャネル)
13.システム構成:第4適用例(周波数分割多重:全二重双方向通信)
<通信処理系統:基本>
図1〜図1Aは、本実施形態の無線伝送システムを説明する図である。ここで、図1は、無線伝送システム1の信号インタフェースを機能構成面から説明する図である。図1Aは、無線伝送システム1における信号の多重化を説明する図である。
本実施形態の無線伝送システムで使用する搬送周波数としてはミリ波帯で説明するが、本実施形態の仕組みは、ミリ波帯に限らず、より波長の短い、たとえばサブミリ波帯の搬送周波数を使用する場合にも適用可能である。本実施形態の無線伝送システムは、たとえば、デジタル記録再生装置、地上波テレビ受像装置、携帯電話装置、ゲーム装置、コンピュータなどにおいて使用される。
[機能構成]
図1に示すように、無線伝送システム1は、第1の無線機器の一例である第1通信装置100と第2の無線機器の一例である第2通信装置200がミリ波信号伝送路9を介して結合されミリ波帯で信号伝送を行なうように構成されている。ミリ波信号伝送路9は、無線信号伝送路の一例である。伝送対象の信号を広帯域伝送に適したミリ波帯域に周波数変換して伝送するようにする。
第1の通信部(第1のミリ波伝送装置)と第2の通信部(第2のミリ波伝送装置)で、無線伝送装置(システム)を構成する。そして、比較的近距離に配置された第1の通信部と第2の通信部の間では、伝送対象の信号をミリ波信号に変換してから、このミリ波信号をミリ波信号伝送路を介して伝送するようにする。本実施形態の「無線伝送」とは、伝送対象の信号を一般的な電気配線(単純なワイヤー配線)ではなく無線(この例ではミリ波)で伝送することを意味する。
「比較的近距離」とは、放送や一般的な無線通信で使用される野外(屋外)での通信装置間の距離に比べて距離が短いことを意味し、伝送範囲が閉じられた空間として実質的に特定できる程度のものであればよい。「閉じられた空間」とは、その空間内部から外部への電波の漏れが少なく、逆に、外部から空間内部への電波の到来(侵入)が少ない状態の空間を意味し、典型的にはその空間全体が電波に対して遮蔽効果を持つ筐体(ケース)で囲まれた状態である。
たとえば、1つの電子機器の筐体内での基板間通信や同一基板上でのチップ間通信や、一方の電子機器に他方の電子機器が装着された状態のように複数の電子機器が一体となった状態での機器間の通信が該当する。
なお、「一体」は、装着によって両電子機器が完全に接触した状態が典型例であるが、前述のように、両電子機器間の伝送範囲が閉じられた空間として実質的に特定できる程度のものであればよい。両電子機器が多少(比較的近距離:たとえば数センチ〜10数センチ以内)離れた状態で定められた位置に配置されていて「実質的に」一体と見なせる場合も含む。要は、両電子機器で構成される電波が伝搬し得る空間内部から外部への電波の漏れが少なく、逆に、外部からその空間内部への電波の到来(侵入)が少ない状態であればよい。
以下では、1つの電子機器の筐体内での信号伝送を筐体内信号伝送と称し、複数の電子機器が一体(以下、「実質的に一体」も含む)となった状態での信号伝送を機器間信号伝送と称する。筐体内信号伝送の場合は、送信側の通信装置(通信部:送信部)と受信側の通信装置(通信部:受信部)が同一筐体内に収容され、通信部(送信部と受信部)間に無線信号伝送路が形成された本実施形態の無線伝送システムが電子機器そのものとなる。これに対して、機器間信号伝送の場合、送信側の通信装置(通信部:送信部)と受信側の通信装置(通信部:受信部)がそれぞれ異なる電子機器の筐体内に収容され、両電子機器が定められた位置に配置され一体となったときに両電子機器内の通信部(送信部と受信部)間に無線信号伝送路が形成されて本実施形態の無線伝送システムが構築される。
ミリ波信号伝送路を挟んで設けられる各通信装置においては、送信部と受信部が対となって組み合わされて配置される。一方の通信装置と他方の通信装置との間の信号伝送は片方向(一方向)のものでもよいし双方向のものでもよい。たとえば、第1の通信部が送信側となり第2の通信部が受信側となる場合には、第1の通信部に送信部が配置され第2の通信部に受信部が配置される。第2の通信部が送信側となり第1の通信部が受信側となる場合には、第2の通信部に送信部が配置され第1の通信部に受信部が配置される。
送信部は、たとえば、伝送対象の信号を信号処理してミリ波の信号を生成する送信側の信号生成部(伝送対象の電気信号をミリ波の信号に変換する信号変換部)と、ミリ波の信号を伝送する伝送路(ミリ波信号伝送路)に送信側の信号生成部で生成されたミリ波の信号を結合させる送信側の信号結合部を備えるものとする。好ましくは、送信側の信号生成部は、伝送対象の信号を生成する機能部と一体であるのがよい。
たとえば、送信側の信号生成部は変調回路を有し、変調回路が伝送対象の信号を変調する。送信側の信号生成部は変調回路によって変調された後の信号を周波数変換してミリ波の信号を生成する。原理的には、伝送対象の信号をダイレクトにミリ波の信号に変換することも考えられる。送信側の信号結合部は、送信側の信号生成部によって生成されたミリ波の信号をミリ波信号伝送路に供給する。
一方、受信部は、たとえば、ミリ波信号伝送路を介して伝送されてきたミリ波の信号を受信する受信側の信号結合部と、受信側の信号結合部により受信されたミリ波の信号(入力信号)を信号処理して通常の電気信号(伝送対象の信号)を生成する受信側の信号生成部(ミリ波の信号を伝送対象の電気信号に変換する信号変換部)を備えるものとする。好ましくは、受信側の信号生成部は、伝送対象の信号を受け取る機能部と一体であるのがよい。たとえば、受信側の信号生成部は復調回路を有し、ミリ波の信号を周波数変換して出力信号を生成し、その後、復調回路が出力信号を復調することで伝送対象の信号を生成する。原理的には、ミリ波の信号からダイレクトに伝送対象の信号に変換することも考えられる。
つまり、信号インタフェースをとるに当たり、伝送対象の信号に関して、ミリ波信号により接点レスやケーブルレスで伝送する(電気配線での伝送でない)ようにする。好ましくは、少なくとも信号伝送(特に高速伝送や大容量伝送が要求される映像信号や高速のクロック信号など)に関しては、ミリ波信号により伝送するようにする。要するに、従前は電気配線によって行なわれていた信号伝送を本実施形態ではミリ波信号により行なうものである。ミリ波帯で信号伝送を行なうことで、Gbpsオーダーの高速信号伝送を実現することができるようになるし、ミリ波信号の及ぶ範囲を容易に制限でき、この性質に起因する効果も得られる。
ここで、各信号結合部は、第1の通信部と第2の通信部がミリ波信号伝送路を介してミリ波の信号が伝送可能となるようにするものであればよい。たとえばアンテナ構造(アンテナ結合部)を備えるものとしてもよいし、アンテナ構造を具備せずに結合をとるものであってもよい。
「ミリ波の信号を伝送するミリ波信号伝送路」は、空気(いわゆる自由空間)であってもよいが、好ましくは、ミリ波信号を伝送路中に閉じ込めつつミリ波信号を伝送させる構造を持つものがよい。その性質を積極的に利用することで、たとえば電気配線のようにミリ波信号伝送路の引回しを任意に確定することができる。
このような構造のものとしては、たとえば、典型的にはいわゆる導波管が考えられるが、これに限らない。たとえば、ミリ波信号伝送可能な誘電体素材で構成されたもの(誘電体伝送路やミリ波誘電体内伝送路と称する)や、伝送路を構成し、かつ、ミリ波信号の外部放射を抑える遮蔽材が伝送路を囲むように設けられその遮蔽材の内部が中空の中空導波路がよい。誘電体素材や遮蔽材に柔軟性を持たせることでミリ波信号伝送路の引回しが可能となる。
因みに、空気(いわゆる自由空間)の場合、各信号結合部はアンテナ構造をとることになり、そのアンテナ構造によって近距離の空間中を信号伝送することになる。一方、誘電体素材で構成されたものとする場合は、アンテナ構造をとることもできるが、そのことは必須でない。
以下、本実施形態の無線伝送システム1の仕組みについて具体的に説明する。なお、最も好適な例として、各機能部が半導体集積回路(チップ)に形成されている例で説明するが、このことは必須でない。
第1通信装置100にはミリ波帯通信可能な半導体チップ103が設けられ、第2通信装置200にもミリ波帯通信可能な半導体チップ203が設けられている。
本実施形態では、ミリ波帯での通信の対象となる信号を、高速性や大容量性が求められる信号のみとし、その他の低速・小容量で十分なものや電源など直流と見なせる信号に関してはミリ波信号への変換対象としない。これらミリ波信号への変換対象としない信号(電源を含む)については、従前と同様の仕組みで基板間の信号の接続をとるようにする。ミリ波に変換する前の元の伝送対象の電気信号を纏めてベースバンド信号と称する。
[第1通信装置]
第1通信装置100は、基板102上に、ミリ波帯通信可能な半導体チップ103と伝送路結合部108が搭載されている。半導体チップ103は、LSI機能部104と信号生成部107(ミリ波信号生成部)を一体化したシステムLSI(Large Scale Integrated Circuit)である。図示しないが、LSI機能部104と信号生成部107を一体化しない構成にしてもよい。別体にした場合には、その間の信号伝送に関しては、電気配線により信号を伝送することに起因する問題が懸念されるので、一体的に作り込んだ方が好ましい。別体にする場合には、2つのチップ(LSI機能部104と信号生成部107との間)を近距離に配置して、ワイヤーボンディング長を極力短く配線することで悪影響を低減するようにすることが好ましい。
信号生成部107と伝送路結合部108はデータの双方向性を持つ構成にする。このため、信号生成部107には送信側の信号生成部と受信側の信号生成部を設ける。伝送路結合部108は、送信側と受信側に各別に設けてもよいが、ここでは送受信に兼用されるものとする。
なお、ここで示す「双方向通信」は、ミリ波の伝送チャネルであるミリ波信号伝送路9が1系統(一芯)の一芯双方向伝送となる。この実現には、時分割多重(TDD:Time Division Duplex)を適用する半二重方式と、周波数分割多重(FDD:Frequency Division Duplex :図1A)などが適用される。
時分割多重の場合、送信と受信の分離を時分割で行なうので、第1通信装置100から第2通信装置200への信号伝送と第2通信装置200から第1通信装置100への信号伝送を同時に行なう「双方向通信の同時性(一芯同時双方向伝送)」は実現されず、一芯同時双方向伝送は、周波数分割多重で実現される。しかし、周波数分割多重は、図1A(1)に示すように、送信と受信に異なった周波数を用いるので、ミリ波信号伝送路9の伝送帯域幅を広くする必要がある。
半導体チップ103を直接に基板102上に搭載するのではなく、インターポーザ基板上に半導体チップ103を搭載し、半導体チップ103を樹脂(たとえばエポキシ樹脂など)でモールドした半導体パッケージを基板102上に搭載するようにしてもよい。すなわち、インターポーザ基板はチップ実装用の基板をなし、インターポーザ基板上に半導体チップ103が設けられる。インターポーザ基板には、一定範囲(2〜10程度)の比誘電率を有したたとえば熱強化樹脂と銅箔を組み合わせたシート部材を使用すればよい。
半導体チップ103は伝送路結合部108と接続される。伝送路結合部108は、たとえば、アンテナ結合部やアンテナ端子やマイクロストリップ線路やアンテナなどを具備するアンテナ構造が適用される。なお、アンテナをチップに直接に形成する技術を適用することで、伝送路結合部108も半導体チップ103に組み込むようにすることもできる。
LSI機能部104は、第1通信装置100の主要なアプリケーション制御を司るもので、たとえば、相手方に送信したい各種の信号を処理する回路や相手方から受信した種々の信号を処理する回路が含まれる。
信号生成部107(電気信号変換部)は、LSI機能部104からの信号をミリ波信号に変換し、ミリ波信号伝送路9を介した信号伝送制御を行なう。
具体的には、信号生成部107は、送信側信号生成部110および受信側信号生成部120を有する。送信側信号生成部110と伝送路結合部108で送信部(送信側の通信部)が構成され、受信側信号生成部120と伝送路結合部108で受信部(受信側の通信部)が構成される。
送信側信号生成部110は、入力信号を信号処理してミリ波の信号を生成するために、多重化処理部113、パラレルシリアル変換部114、変調部115、周波数変換部116、増幅部117を有する。なお、変調部115と周波数変換部116は纏めていわゆるダイレクトコンバーション方式のものにしてもよい。
受信側信号生成部120は、伝送路結合部108によって受信したミリ波の電気信号を信号処理して出力信号を生成するために、増幅部124、周波数変換部125、復調部126、シリアルパラレル変換部127、単一化処理部128を有する。周波数変換部125と復調部126は纏めていわゆるダイレクトコンバーション方式のものにしてもよい。
パラレルシリアル変換部114とシリアルパラレル変換部127は、本実施形態を適用しない場合に、パラレル伝送用の複数の信号を使用するパラレルインタフェース仕様のものである場合に備えられ、シリアルインタフェース仕様のものである場合は不要である。
多重化処理部113は、LSI機能部104からの信号の内で、ミリ波帯での通信の対象となる信号が複数種(N1とする)ある場合に、時分割多重、周波数分割多重、符号分割多重などの多重化処理を行なうことで、複数種の信号を1系統の信号に纏める。たとえ、高速性や大容量性が求められる複数種の信号をミリ波での伝送の対象として、1系統の信号に纏める。
時分割多重や符号分割多重の場合には、多重化処理部113はパラレルシリアル変換部114の前段に設けられ、1系統の信号に纏めてパラレルシリアル変換部114に供給すればよい。時分割多重の場合、複数種の信号_@(@は1〜N)について時間を細かく区切ってパラレルシリアル変換部114に供給する切替スイッチを設ければよい。
一方、周波数分割多重の場合には、各別の搬送周波数で変調してそれぞれ異なる周波数帯域F_@の範囲の周波数に変換してミリ波の信号を生成し、それら各別の搬送周波数を用いたミリ波信号を同一方向または逆方向に伝送する必要がある。このため、たとえば、図1A(2)に示すように同一方向に伝送する場合は、パラレルシリアル変換部114、変調部115、周波数変換部116、増幅部117を複数種の信号_@の別に設け、各増幅部117の後段に多重化処理部113として加算処理部を設けるとよい。そして、周波数多重処理後の周波数帯域F_1+…+F_Nのミリ波の電気信号を伝送路結合部108に供給するようにすればよい。加算処理部としては、図1A(2)に示すように各別の搬送周波数を用いたミリ波信号を同一方向に伝送する場合はいわゆる結合器を使用すればよい。
図1A(2)から分かるように、複数系統の信号を周波数分割多重で1系統に纏める周波数分割多重では伝送帯域幅を広くする必要がある。図1A(3)に示すように、複数系統の信号を周波数分割多重で1系統に纏めることと、送信と受信に異なった周波数を用いる全2重方式と併用する場合は伝送帯域幅を一層広くする必要がある。
パラレルシリアル変換部114は、パラレルの信号をシリアルのデータ信号に変換して変調部115に供給する。変調部115は、伝送対象信号を変調して周波数変換部116に供給する。変調部115としては、振幅・周波数・位相の少なくとも1つを伝送対象信号で変調するものであればよく、これらの任意の組合せの方式も採用し得る。
たとえば、アナログ変調方式であれば、たとえば、振幅変調(AM:Amplitude Modulation )とベクトル変調がある。ベクトル変調として、周波数変調(FM:Frequency Modulation)と位相変調(PM:Phase Modulation)がある。デジタル変調方式であれば、たとえば、振幅遷移変調(ASK:Amplitude shift keying)、周波数遷移変調(FSK:Frequency Shift Keying)、位相遷移変調(PSK:Phase Shift Keying)、振幅と位相を変調する振幅位相変調(APSK:Amplitude Phase Shift Keying)がある。振幅位相変調としては直交振幅変調(QAM:Quadrature Amplitude Modulation )が代表的である。
周波数変換部116は、変調部115によって変調された後の伝送対象信号を周波数変換してミリ波の電気信号を生成して増幅部117に供給する。ミリ波の電気信号とは、概ね30GHz〜300GHzの範囲のある周波数の電気信号をいう。「概ね」と称したのはミリ波通信による効果が得られる程度の周波数であればよく、下限は30GHzに限定されず、上限は300GHzに限定されないことに基づく。
周波数変換部116としては様々な回路構成を採り得るが、たとえば、周波数混合回路(ミキサー回路)と局部発振回路とを備えた構成を採用すればよい。局部発振回路は、変調に用いる搬送波(キャリア信号、基準搬送波)を生成する。周波数混合回路は、パラレルシリアル変換部114からの信号で局部発振回路が発生するミリ波帯の搬送波と乗算(変調)してミリ波帯の変調信号を生成して増幅部117に供給する。
増幅部117は、周波数変換後のミリ波の電気信号を増幅して伝送路結合部108に供給する。増幅部117には図示しないアンテナ端子を介して双方向の伝送路結合部108に接続される。
伝送路結合部108は、送信側信号生成部110によって生成されたミリ波の信号をミリ波信号伝送路9に送信するとともに、ミリ波信号伝送路9からミリ波の信号を受信して受信側信号生成部120に出力する。
伝送路結合部108は、アンテナ結合部で構成される。アンテナ結合部は伝送路結合部108(信号結合部)の一例またはその一部を構成する。アンテナ結合部とは、狭義的には半導体チップ内の電子回路と、チップ内またはチップ外に配置されるアンテナを結合する部分をいい、広義的には、半導体チップとミリ波信号伝送路9を信号結合する部分をいう。たとえば、アンテナ結合部は、少なくともアンテナ構造を備える。また、時分割多重で送受信を行なう場合には、伝送路結合部108にアンテナ切替部(アンテナ共用器)を設ける。
アンテナ構造は、ミリ波信号伝送路9との結合部における構造をいい、ミリ波帯の電気信号をミリ波信号伝送路9に結合させるものであればよく、アンテナそのもののみを意味するものではない。たとえば、アンテナ構造には、アンテナ端子、マイクロストリップ線路、アンテナを含み構成される。アンテナ切替部を同一のチップ内に形成する場合は、アンテナ切替部を除いたアンテナ端子とマイクロストリップ線路が伝送路結合部108を構成するようになる。
送信側のアンテナはミリ波の信号に基づく電磁波をミリ波信号伝送路9に輻射する。また、受信側のアンテナはミリ波の信号に基づく電磁波をミリ波信号伝送路9から受信する。マイクロストリップ線路は、アンテナ端子とアンテナとの間を接続し、送信側のミリ波の信号をアンテナ端子からアンテナへ伝送し、また、受信側のミリ波の信号をアンテナからアンテナ端子へ伝送する。
アンテナ切替部はアンテナを送受信で共用する場合に用いられる。たとえば、ミリ波の信号を相手方である第2通信装置200側に送信するときは、アンテナ切替部がアンテナを送信側信号生成部110に接続する。また、相手方である第2通信装置200側からのミリ波の信号を受信するときは、アンテナ切替部がアンテナを受信側信号生成部120に接続する。アンテナ切替部は半導体チップ103と別にして基板102上に設けているが、これに限られることはなく、半導体チップ103内に設けてもよい。送信用と受信用のアンテナを別々に設ける場合はアンテナ切替部を省略できる。
ミリ波の伝搬路であるミリ波信号伝送路9は、たとえば、自由空間伝送路として、たとえば筐体内の空間を伝搬する構成にすることが考えられる。また、好ましくは、導波管、伝送線路、誘電体線路、誘電体内などの導波構造で構成し、ミリ波帯域の電磁波を効率よく伝送させる特性を有するものとするのが望ましい。たとえば、一定範囲の比誘電率と一定範囲の誘電正接を持つ誘電体素材を含んで構成された誘電体伝送路9Aにするとよい。たとえば、筐体内の全体に誘電体素材を充填することで、伝送路結合部108と伝送路結合部208の間には、自由空間伝送路ではなく誘電体伝送路9Aが配されるようになるし、また、伝送路結合部108のアンテナと伝送路結合部208のアンテナの間を誘電体素材で構成されたある線径を持つ線状部材である誘電体線路で接続することで誘電体伝送路9Aを構成することも考えられる。
「一定範囲」は、誘電体素材の比誘電率や誘電正接が、本実施形態の効果を得られる程度の範囲であればよく、その限りにおいて予め決められた値のものとすればよい。つまり、誘電体素材は、本実施形態の効果が得られる程度の特性を持つミリ波を伝送可能なものであればよい。誘電体素材そのものだけで決められず伝送路長やミリ波の周波数とも関係するので必ずしも明確に定められるものではないが、一例としては、次のようにする。
誘電体伝送路9A内にミリ波の信号を高速に伝送させるためには、誘電体素材の比誘電率は2〜10(好ましくは3〜6)程度とし、その誘電正接は0.00001〜0.01(好ましくは0.00001〜0.001)程度とすることが望ましい。このような条件を満たす誘電体素材としては、たとえば、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系、シリコーン系、ポリイミド系、シアノアクリレート樹脂系、液晶ポリマーからなるものが使用できる。
誘電体素材の比誘電率とその誘電正接のこのような範囲は、特段の断りのない限り、本実施形態で同様である。なお、ミリ波信号を伝送路に閉じ込める構成のミリ波信号伝送路9としては、誘電体伝送路9Aの他に、伝送路の周囲が遮蔽材で囲まれその内部が中空の中空導波路としてもよい。
伝送路結合部108には受信側信号生成部120が接続される。受信側の増幅部124は、伝送路結合部108に接続され、アンテナによって受信された後のミリ波の電気信号を増幅して周波数変換部125に供給する。周波数変換部125は、増幅後のミリ波の電気信号を周波数変換して周波数変換後の信号を復調部126に供給する。復調部126は、周波数変換後の信号を復調してベースバンドの信号を取得しシリアルパラレル変換部127に供給する。
シリアルパラレル変換部127は、シリアルの受信データをパラレルの出力データに変換して単一化処理部128に供給する。
単一化処理部128は、多重化処理部113と対応するもので、1系統に纏められている信号を複数種の信号_@(@は1〜N)に分離する。たとえば、1系統の信号に纏められている複数本のデータ信号を各別に分離してLSI機能部1104に供給する。
なお、周波数分割多重により1系統に纏められている場合には、周波数多重処理後の周波数帯域F_1+…+F_Nのミリ波の電気信号を受信してそれらを各別に分離して同一方向に伝送し周波数帯域F_@別に処理する必要がある。このため、図1A(2)に示すように、増幅部224、周波数変換部225、復調部226、シリアルパラレル変換部227を複数種の信号_bの別に設け、各増幅部224の前段に単一化処理部128として周波数分離部を設けるとよい。そして、分離後の各周波数帯域F_bのミリ波の電気信号を対応する周波数帯域F_bの系統に供給するようにすればよい。周波数分離部としては、図1A(2)に示すように各別の搬送周波数のミリ波信号が多重化されたものを各別に分離する場合はいわゆる分配器を使用すればよい。
なお、図1A(2)で示した周波数分割多重方式の使用形態は、送信部と受信部の組を複数用いて、かつ、それぞれの組で各別の搬送周波数を用いて同一方向に伝送する方式であるが、周波数分割多重方式の使用形態はこれに限らない。たとえば、図1において、第1通信装置100の送信側信号生成部110と第2通信装置200の受信側信号生成部220の組で第1の搬送周波数を使用し、第1通信装置100の受信側信号生成部120と第2通信装置200の送信側信号生成部210の組で第2の搬送周波数を使用し、それぞれの組が互いに逆方向に信号伝送を同時に行なう全二重の双方向通信にすることもできる。この場合、図1における伝送路結合部108,208のアンテナ切替部としては、双方への同時の信号伝送が可能ないわゆるサーキュレータを使用すればよい。
また、送信部と受信部の組をさらに多く用いて、各組ではそれぞれ異なる搬送周波数を用いて、同一方向と逆方向を組み合せる態様にしてもよい。この場合、図1A(2)において、伝送路結合部108,208にはサーキュレータを使用しつつ、多重化処理部113,213と単一化処理部128,228を使用する構成にすればよい。
このように半導体チップ103を構成すると、入力信号をパラレルシリアル変換して半導体チップ203側へ伝送し、また半導体チップ203側からの受信信号をシリアルパラレル変換することにより、ミリ波変換対象の信号数が削減される。
第1通信装置100と第2通信装置200の間の元々の信号伝送がシリアル形式の場合には、パラレルシリアル変換部114およびシリアルパラレル変換部127を設けなくてもよい。
[第2通信装置]
第2通信装置200は、概ね第1通信装置100と同様の機能構成を備える。各機能部には200番台の参照子を付し、第1通信装置100と同様・類似の機能部には第1通信装置100と同一の10番台および1番台の参照子を付す。送信側信号生成部210と伝送路結合部208で送信部が構成され、受信側信号生成部220と伝送路結合部208で受信部が構成される。
LSI機能部204は、第2通信装置200の主要なアプリケーション制御を司るもので、たとえば、相手方に送信したい各種の信号を処理する回路や相手方から受信した種々の信号を処理する回路が含まれる。
[接続と動作]
入力信号を周波数変換して信号伝送するという手法は、放送や無線通信で一般的に用いられている。これらの用途では、α)どこまで通信できるか(熱雑音に対してのS/Nの問題)、β)反射やマルチパスにどう対応するか、γ)妨害や他チャンネルとの干渉をどう抑えるかなどの問題に対応できるような比較的複雑な送信器や受信器などが用いられている。これに対して、本実施形態で使用する信号生成部107,1207は、放送や無線通信で一般的に用いられる複雑な送信器や受信器などの使用周波数に比べて、より高い周波数帯のミリ波帯で使用され、波長λが短いため、周波数の再利用がし易く、近傍で多くのデバイス間での通信をするのに適したものが使用される。
本実施形態では、従来の電気配線を利用した信号インタフェースとは異なり、前述のようにミリ波帯で信号伝送を行なうことで高速性と大容量に柔軟に対応できるようにしている。たとえば、高速性や大容量性が求められる信号のみをミリ波帯での通信の対象としており、システム構成によっては、通信装置100,200は、低速・小容量の信号用や電源供給用に、従前の電気配線によるインタフェース(端子・コネクタによる接続)を一部に備えることになる。
信号生成部107は、LSI機能部104から入力された入力信号を信号処理してミリ波の信号を生成する。信号生成部107は、たとえば、マイクロストリップライン、ストリップライン、コプレーナライン、スロットラインなどの伝送線路で伝送路結合部108に接続され、生成されたミリ波の信号が伝送路結合部108を介してミリ波信号伝送路9に供給される。
伝送路結合部108は、アンテナ構造を有し、伝送されたミリ波の信号を電磁波に変換し、電磁波を送出する機能を有する。伝送路結合部108はミリ波信号伝送路9と結合されており、ミリ波信号伝送路9の一方の端部に伝送路結合部108で変換された電磁波が供給される。ミリ波信号伝送路9の他端には第2通信装置200側の伝送路結合部208が結合されている。ミリ波信号伝送路9を第1通信装置100側の伝送路結合部108と第2通信装置200側の伝送路結合部208の間に設けることにより、ミリ波信号伝送路9にはミリ波帯の電磁波が伝搬するようになる。
ミリ波信号伝送路9には第2通信装置200側の伝送路結合部208が結合されている。伝送路結合部208は、ミリ波信号伝送路9の他端に伝送された電磁波を受信し、ミリ波の信号に変換して信号生成部207(ベースバンド信号生成部)に供給する。信号生成部207は、変換されたミリ波の信号を信号処理して出力信号(ベースバンド信号)を生成しLSI機能部204へ供給する。
ここでは第1通信装置100から第2通信装置200への信号伝送の場合で説明したが、第2通信装置200のLSI機能部204からの信号を第1通信装置100へ伝送する場合も同様に考えればよく双方向にミリ波の信号を伝送できる。
ここで、電気配線を介して信号伝送を行なう信号伝送システムでは、次のような問題がある。
i)伝送データの大容量・高速化が求められるが、電気配線の伝送速度・伝送容量には限界がある。
ii)伝送データの高速化の問題に対応するため、配線数を増やして、信号の並列化により一信号線当たりの伝送速度を落とすことが考えられる。しかしながら、この対処では、入出力端子の増大に繋がってしまう。その結果、プリント基板やケーブル配線の複雑化、コネクタ部や電気的インタフェースの物理サイズの増大などが求められ、それらの形状が複雑化し、これらの信頼性が低下し、コストが増大するなどの問題が起こる。
iii)映画映像やコンピュータ画像等の情報量の膨大化に伴い、ベースバンド信号の帯域が広くなるに従って、EMC(電磁環境適合性)の問題がより顕在化してくる。たとえば、電気配線を用いた場合は、配線がアンテナとなって、アンテナの同調周波数に対応した信号が干渉される。また、配線のインピーダンスの不整合などによる反射や共振によるものも不要輻射の原因となる。共振や反射があると、それは放射を伴い易く、EMI(電磁誘導障害)の問題も深刻となる。このような問題を対策するために、電子機器の構成が複雑化する。
iv)EMCやEMIの他に、反射があると受信側でシンボル間での干渉による伝送エラーや妨害の飛び込みによる伝送エラーも問題となってくる。
これに対して、本実施形態の無線伝送システム1は、電気配線ではなくミリ波で信号伝送を行なうようにしている。LSI機能部104からLSI機能部204に対する信号は、ミリ波信号に変換され、ミリ波信号は伝送路結合部108,208間をミリ波信号伝送路9を介して伝送する。
無線伝送のため、配線形状やコネクタの位置を気にする必要がないため、レイアウトに対する制限があまり発生しない。ミリ波による信号伝送に置き換えた信号については波長が短く、波長の長さの範囲も限られているため、EMCやEMIの問題を容易に解消できる。一般に、通信装置100,200内部で他にミリ波帯の周波数を使用している機能部は存在しないため、EMCやEMIの対策が容易に実現できる。
第1通信装置100と第2通信装置200を近接した状態での無線伝送であり、固定位置間や既知の位置関係の信号伝送であるため、次のような利点が得られる。
1)送信側と受信側の間の伝搬チャネル(導波構造)を適正に設計することが容易である。
2)送信側と受信側を封止する伝送路結合部の誘電体構造と伝搬チャネル(ミリ波信号伝送路9の導波構造)を併せて設計することで、自由空間伝送より、信頼性の高い良好な伝送が可能になる。
3)無線伝送を管理するコントローラ(本例ではLSI機能部104)の制御も一般の無線通信のように動的にアダプティブに頻繁に行なう必要はないため、制御によるオーバーヘッドを一般の無線通信に比べて小さくすることができる。その結果、小型、低消費電力、高速化が可能になる。
4)製造時や設計時に無線伝送環境を校正し、個体のばらつきなどを把握すれば、そのデータを参照して伝送することでより高品位の通信が可能になる。
5)反射が存在していても、固定の反射であるので、小さい等化器で容易にその影響を受信側で除去できる。等化器の設定も、プリセットや静的な制御で可能であり、実現が容易である。
また、波長の短いミリ波帯での無線通信であることで、次のような利点が得られる。
a)ミリ波通信は通信帯域を広く取れるため、データレートを大きくとることが簡単にできる。
b)伝送に使う周波数が他のベースバンド信号処理の周波数から離すことができ、ミリ波とベースバンド信号の周波数の干渉が起こり難い。
c)ミリ波帯は波長が短いため、波長に応じてきまるアンテナや導波構造を小さくできる。加えて、距離減衰が大きく回折も少ないため電磁シールドが行ない易い。
d)通常の野外での無線通信では、搬送波の安定度については、干渉などを防ぐため、厳しい規制がある。そのような安定度の高い搬送波を実現するためには、高い安定度の外部周波数基準部品と逓倍回路やPLL(位相同期ループ回路)などが用いられ、回路規模が大きくなる。しかしながら、ミリ波では(特に固定位置間や既知の位置関係の信号伝送との併用時は)、ミリ波は容易に遮蔽でき、外部に漏れないようにでき、安定度の低い搬送波を伝送に使用することができ、回路規模の増大を抑えることができる。安定度を緩めた搬送波で伝送された信号を受信側で小さい回路で復調するのには、注入同期方式(詳細は後述する)を採用するのが好適である。
なお、本実施形態では、無線伝送システムの一例として、ミリ波帯で通信を行なうシステムを例示したが、その適用範囲はミリ波帯で通信を行なうものに限定されない。ミリ波帯よりも波長の長いセンチ波(好ましくはミリ波に近い側)や、逆にミリ波帯よりも波長の短いサブミリ波(好ましくはミリ波に近い側)を適用してもよい。ただし、筐体内信号伝送や機器間信号伝送において、注入同期方式を採用し、また、タンク回路を含む発振回路の全体をCMOSチップ上に形成するという点においては、ミリ波帯を使用するのが最も効果的であると考えられる。
<変調および復調:比較例>
図2は、通信処理系統における変調機能部および復調機能部の比較例を説明する図である。
[変調機能部:比較例]
図2(1)には、送信側に設けられる比較例の変調機能部8300Xの構成が示されている。伝送対象の信号(たとえば12ビットの画像信号)はパラレルシリアル変換部114により、高速なシリアル・データ系列に変換され変調機能部8300Xに供給される。
変調機能部8300Xとしては、変調方式に応じて様々な回路構成を採り得るが、たとえば、振幅や位相を変調する方式であれば、周波数混合部8302と送信側局部発振部8304を備えた構成を採用すればよい。
送信側局部発振部8304(第1の搬送信号生成部)は、変調に用いる搬送信号(変調搬送信号)を生成する。周波数混合部8302(第1の周波数変換部)は、パラレルシリアル変換部8114(パラレルシリアル変換部114と対応)からの信号で送信側局部発振部8304が発生するミリ波帯の搬送波と乗算(変調)してミリ波帯の変調信号を生成して増幅部8117(増幅部117と対応)に供給する。変調信号は増幅部8117で増幅されアンテナ8136から放射される。
[復調機能部:比較例]
図2(2)には、受信側に設けられる比較例の復調機能部8400Xの構成が示されている。復調機能部8400Xは、送信側の変調方式に応じた範囲で様々な回路構成を採用し得るが、ここでは、変調機能部8300Xの前記の説明と対応するように、振幅や位相が変調されている方式の場合で説明する。
比較例の復調機能部8400Xは、2入力型の周波数混合部8402(ミキサー回路)を備え、受信したミリ波信号(の包絡線)振幅の二乗に比例した検波出力を得る自乗検波回路を用いる。なお、自乗検波回路に代えて自乗特性を有しない単純な包絡線検波回路を使用することも考えられる。図示した例では、周波数混合部8402の後段にフィルタ処理部8410とクロック再生部8420(CDR:クロック・データ・リカバリ /Clock Data Recovery)とシリアルパラレル変換部8127(S−P:シリアルパラレル変換部127と対応)が設けられている。フィルタ処理部8410には、たとえば低域通過フィルタ(LPF)が設けられる。
アンテナ8236で受信されたミリ波受信信号は可変ゲイン型の増幅部8224(増幅部224と対応)に入力され振幅調整が行なわれた後に復調機能部8400Xに供給される。振幅調整された受信信号は周波数混合部8402の2つの入力端子に同時に入力され自乗信号が生成され、フィルタ処理部8410に供給される。周波数混合部8402で生成された自乗信号は、フィルタ処理部8410の低域通過フィルタで高域成分が除去されることで送信側から送られてきた入力信号の波形(ベースバンド信号)が生成され、クロック再生部8420に供給される。
クロック再生部8420(CDR)は、このベースバンド信号を元にサンプリング・クロックを再生し、再生したサンプリング・クロックでベースバンド信号をサンプリングすることで受信データ系列を生成する。生成された受信データ系列はシリアルパラレル変換部8227(S−P)に供給され、パラレル信号(たとえば12ビットの画像信号)が再生される。クロック再生の方式としては様々な方式があるがたとえばシンボル同期方式を採用する。
[比較例の問題点]
ここで、比較例の変調機能部8300Xと復調機能部8400Xで無線伝送システムを構成する場合、次のような難点がある。
先ず、発振回路については、次のような難点がある。たとえば、野外(屋外)通信においては、多チャンネル化を考慮する必要がある。この場合、搬送波の周波数変動成分の影響を受けるため、送信側の搬送波の安定度の要求仕様が厳しい。筐体内信号伝送や機器間信号伝送において、ミリ波でデータを伝送するに当たり、送信側と受信側に、屋外の無線通信で用いられているような通常の手法を用いようとすると、搬送波に安定度が要求され、周波数安定度数がppm(parts per million )オーダー程度の安定度の高いミリ波の発振回路が必要となる。
周波数安定度が高い搬送信号を実現するためには、たとえば、安定度の高いミリ波の発振回路をシリコン集積回路(CMOS:Complementary Metal-oxide Semiconductor )上に実現することが考えられる。しかしながら、通常のCMOSで使われるシリコン基板は絶縁性が低いため、容易にQ値(Quality Factor)の高いタンク回路が形成できず、実現が容易でない。たとえば、参考文献Aに示されているように、CMOSチップ上でインダクタンスを形成した場合、そのQ値は30〜40程度になってしまう。
参考文献A:A. Niknejad, “mm-Wave Silicon Technology 60GHz and Beyond”(特に3.1.2 Inductors pp70〜71), ISBN 978-0-387-76558-7
よって、安定度の高い発振回路を実現するには、たとえば、発振回路の本体部分が構成されているCMOS外部に水晶振動子などで高いQ値のタンク回路を設けて低い周波数で発振させ、その発振出力を逓倍してミリ波帯域へ上げるという手法を採ることが考えられる。しかし、LVDS(Low Voltage Differential Signaling)などの配線による信号伝送をミリ波による信号伝送に置き換える機能を実現するのに、このような外部タンクを全てのチップに設けることは好ましくない。
OOK(On-Off-Keying )のような振幅を変調する方式を用いれば、受信側では包絡線検波をすればよいので、発振回路が不要になりタンク回路の数を減らすことはできる。しかしながら、信号の伝送距離が長くなると受信振幅が小さくなり、包絡線検波の一例として自乗検波回路を用いる方式では、受信振幅が小さくなることの影響が顕著になり信号歪みが影響してくるので不利である。換言すると、自乗検波回路は、感度的に不利である。
周波数安定度数が高い搬送信号を実現するための他の手法として、たとえば、高い安定度の周波数逓倍回路やPLL回路などを使用することが考えられるが、回路規模が増大してしまう。たとえば、参考文献Bには、プッシュ−プッシュ(Push-push )発振回路を使うことで、60GHzの分周器をなくし消費電力を減らしてはいるが、これでもまだ30GHzの発振回路や分周器、位相周波数検出回路(Phase Frequency Detector:PFD)、外部のレファレンス(この例では117MHz)などが必要で、明らかに回路規模が大きい。
参考文献B:“A 90nm CMOS Low-Power 60GHz Tranceiver with Intergrated Baseband Circuitry”,ISSCC 2009/SESSION 18/RANGING AND Gb/s COMMUNICATION /18.5,2009 IEEE International Solid-State Circuits Conference,pp314〜316
自乗検波回路は受信信号から振幅成分しか取り出せないので、用いることのできる変調方式は振幅を変調する方式(たとえばOOKなどのASK)に限られ、位相や周波数を変調する方式の採用が困難となる。位相変調方式の採用が困難になると言うことは、変調信号を直交化してデータ伝送レートを上げることができないということに繋がる。
また、周波数分割多重方式により多チャンネル化を実現する場合に、自乗検波回路を用いる方式では、次のような難点がある。受信側の周波数選択のためのバンドパスフィルタを自乗検波回路の前段に配置する必要があるが、急峻なバンドパスフィルタを小型に実現するのは容易ではない。また、急峻なバンドパスフィルタを用いた場合は送信側の搬送周波数の安定度についても要求仕様が厳しくなる。
<変調および復調:基本>
図3〜図4Aは、通信処理系統における変調機能および復調機能の基本構成を説明する図である。ここで、図3は、送信側に設けられる本実施形態の変調機能部8300(変調部115,215と周波数変換部116,216)とその周辺回路で構成される送信側信号生成部8110(送信側の通信部)の基本構成例を説明する図である。図4は、受信側に設けられる本実施形態の復調機能部8400(周波数変換部125,225と復調部126,226)とその周辺回路で構成される受信側信号生成部8220(受信側の通信部)の基本構成例を説明する図である。図4Aは注入同期の位相関係を説明する図である。
前述の比較例における問題に対する対処として、本実施形態の復調機能部8400は、注入同期(インジェクションロック)方式を採用する。
注入同期方式にする場合には、好ましくは、受信側での注入同期がし易くなるように変調対象信号に対して予め適正な補正処理を施しておく。典型的には、変調対象信号に対して直流近傍成分を抑圧してから変調する、つまり、DC(直流)付近の低域成分を抑圧(カット)してから変調することで、搬送周波数fc近傍の変調信号成分ができるだけ少なくなるようにし、受信側での注入同期がし易くなるようにしておく。DCだけでなくその周りも抑圧した方がよいと言うことである。デジタル方式の場合、たとえば同符号の連続によってDC成分が発生してしまうことを解消するべくDCフリー符号化を行なう。
また、ミリ波帯に変調された信号(変調信号)と合わせて、変調に使用した搬送信号と対応する受信側での注入同期の基準として使用される基準搬送信号も送出するのが望ましい。基準搬送信号は、送信側局部発振部8304から出力される変調に使用した搬送信号と対応する周波数と位相(さらに好ましくは振幅も)が常に一定(不変)の信号であり、典型的には変調に使用した搬送信号そのものであるが、少なくとも搬送信号に同期していればよく、これに限定されない。たとえば、変調に使用した搬送信号と同期した別周波数の信号(たとえば高調波信号)や同一周波数ではあるが別位相の信号(たとえば変調に使用した搬送信号と直交する直交搬送信号)でもよい。
変調方式や変調回路によっては、変調回路の出力信号そのものに搬送信号が含まれる場合(たとえば標準的な振幅変調やASKなど)と、搬送波を抑圧する場合(搬送波抑圧方式の振幅変調やASKやPSKなど)がある。よって、送信側からミリ波帯に変調された信号と合わせて基準搬送信号も送出するための回路構成は、基準搬送信号の種類(変調に使用した搬送信号そのものを基準搬送信号として使用するか否か)や変調方式や変調回路に応じた回路構成を採ることになる。
[変調機能部]
図3には、変調機能部8300とその周辺回路の基本構成が示されている。変調機能部8300(周波数混合部8302)の前段に変調対象信号処理部8301が設けられている。図3に示す各例は、デジタル方式の場合に対応した構成例を示しており、変調対象信号処理部8301は、パラレルシリアル変換部8114から供給されたデータに対して、同符号の連続によってDC成分が発生してしまうことを解消するべく、8−9変換符号化(8B/9B符号化)や8−10変換符号化(8B/10B符号化)やスクランブル処理などのDCフリー符号化を行なう。図示しないが、アナログ変調方式では変調対象信号に対してハイパスフィルタ処理(またはバンドパスフィルタ処理)をしておくのがよい。
8−10変換符号化では、8ビットデータを10ビット符号に変換する。たとえば、10ビット符号として1024通りの中から”1”と”0”の個数のなるべく等しいものをデータ符号に採用することでDCフリー特性を有するようにする。データ符号に採用しない一部の10ビット符号は、たとえば、アイドルやパケット区切りなどを示す特殊な符号として用いる。スクランブル処理では、たとえば、10GBase−Xファミリ(IEEE802.3aeなど)で採用されている64B/66B符号化が知られている。
ここで、図3(1)に示す基本構成1は、基準搬送信号処理部8306と信号合成部8308を設けて、変調回路(第1の周波数変換部)の出力信号(変調信号)と基準搬送信号を合成(混合)するという操作を行なう。基準搬送信号の種類や変調方式や変調回路に左右されない万能な方式と言える。ただし、基準搬送信号の位相によっては、合成された基準搬送信号が受信側での復調時に直流オフセット成分として検出されベースバンド信号の再現性に影響を与えることもある。その場合は、受信側で、その直流成分を抑制する対処をとるようにする。換言すると、復調時に直流オフセット成分を除去しなくても良い位相関係の基準搬送信号にするのがよい。
基準搬送信号処理部8306では、必要に応じて送信側局部発振部8304から供給された変調搬送信号に対して位相や振幅を調整し、その出力信号を基準搬送信号として信号合成部8308に供給する。たとえば、本質的には周波数混合部8302の出力信号そのものには周波数や位相が常に一定の搬送信号を含まない方式(周波数や位相を変調する方式)の場合や、変調に使用した搬送信号の高調波信号や直交搬送信号を基準搬送信号として使用する場合に、この基本構成1が採用される。
この場合、変調に使用した搬送信号の高調波信号や直交搬送信号を基準搬送信号に使用することができるし、変調信号と基準搬送信号の振幅や位相を各別に調整できる。すなわち、増幅部8117では変調信号の振幅に着目した利得調整を行ない、このときに同時に基準搬送信号の振幅も調整されるが、注入同期との関係で好ましい振幅となるように基準搬送信号処理部8306で基準搬送信号の振幅のみを調整できる。
なお、基本構成1では、信号合成部8308を設けて変調信号と基準搬送信号を合成しているが、このことは必須ではなく、図3(2)に示す基本構成2のように、変調信号と基準搬送信号を各別のアンテナ8136_1,8136_2で、好ましくは干渉を起さないように各別のミリ波信号伝送路9で受信側に送ってもよい。基本構成2では、振幅も常に一定の基準搬送信号を受信側に送出でき、注入同期の取り易さの観点では最適の方式と言える。
基本構成1,2の場合、変調に使用した搬送信号(換言すると送出される変調信号)と基準搬送信号の振幅や位相を各別に調整できる利点がある。したがって、伝送対象情報を載せる変調軸と注入同期に使用される基準搬送信号の軸(基準搬送軸)を、同相ではなく、異なる位相にして復調出力に直流オフセットが発生しないようにするのに好適な構成と言える。
周波数混合部8302の出力信号そのものに周波数や位相が常に一定の搬送信号が含まれ得る場合には、基準搬送信号処理部8306や信号合成部8308を具備しない図3(3)に示す基本構成3を採用し得る。周波数混合部8302によりミリ波帯に変調された変調信号のみを受信側に送出し、変調信号に含まれる搬送信号を基準搬送信号として扱えばよく、周波数混合部8302の出力信号にさらに別の基準搬送信号を加えて受信側に送る必要はない。たとえば、振幅を変調する方式(たとえばASK方式)の場合に、この基本構成3が採用され得る。このとき、好ましくは、DCフリー処理を行なっておくのが望ましい。
ただし、振幅変調やASKにおいても、周波数混合部8302を積極的に搬送波抑圧方式の回路(たとえば平衡変調回路や二重平衡変調回路)にして、基本構成1,2のように、その出力信号(変調信号)と合わせて基準搬送信号も送るようにしてもよい。
なお、位相や周波数を変調する方式の場合にも、図3(4)に示す基本構成4のように、変調機能部8300(たとえば直交変調を使用する)でミリ波帯に変調(周波数変換)した変調信号のみを送出することも考えられる。しかしながら、受信側で注入同期がとれるか否かは、注入レベル(注入同期方式の発振回路に入力される基準搬送信号の振幅レベル)や変調方式やデータレートや搬送周波数なども関係し、適用範囲に制限がある。
基本構成1〜4の何れも、図中に点線で示すように、受信側での注入同期検出結果に基づく情報を受信側から受け取り、変調搬送信号の周波数やミリ波(特に受信側で注入信号に使用されるもの:たとえば基準搬送信号や変調信号)や基準搬送信号の位相を調整する仕組みを採ることができる。受信側から送信側への情報の伝送はミリ波で行なうことは必須ではなく、有線・無線を問わず任意の方式でよい。
基本構成1〜4の何れも、送信側局部発振部8304を制御することで変調搬送信号(や基準搬送信号)の周波数が調整される。
基本構成1,2では、基準搬送信号処理部8306や増幅部8117を制御することで基準搬送信号の振幅や位相が調整される。なお、基本構成1では、送信電力を調整する増幅部8117により基準搬送信号の振幅を調整することも考えられるが、その場合は変調信号の振幅も一緒に調整されてしまう難点がある。
振幅を変調する方式(アナログの振幅変調やデジタルのASK)に好適な基本構成3では、変調対象信号に対する直流成分を調整するか、変調度(変調率)を制御することで、変調信号中の搬送周波数成分(基準搬送信号の振幅に相当)が調整される。たとえば、伝送対象信号に直流成分を加えた信号を変調する場合を考える。この場合において、変調度を一定にする場合、直流成分を制御することで基準搬送信号の振幅が調整される。また、直流成分を一定にする場合、変調度を制御することで基準搬送信号の振幅が調整される。
ただしこの場合、信号合成部8308を使用するまでもなく、周波数混合部8302から出力される変調信号のみを受信側に送出するだけで、自動的に、搬送信号を伝送対象信号で変調した変調信号と変調に使用した搬送信号とが混合された信号となって送出される。必然的に、変調信号の伝送対象信号を載せる変調軸と同じ軸(つまり変調軸と同相で)に基準搬送信号が載ることになる。受信側では、変調信号中の搬送周波数成分が基準搬送信号として注入同期に使用されることになる。ここで、詳細は後述するが、位相平面で考えたとき、伝送対象情報を載せる変調軸と注入同期に使用される搬送周波数成分(基準搬送信号)の軸が同相となり、復調出力には搬送周波数成分(基準搬送信号)に起因する直流オフセットが発生する。
[復調機能部]
図4には、復調機能部8400とその周辺回路の基本構成が示されている。本実施形態の復調機能部8400は、受信側局部発振部8404を備え、注入信号を受信側局部発振部8404に供給することで、送信側で変調に使用した搬送信号に対応した出力信号を取得する。典型的には送信側で使用した搬送信号に同期した発振出力信号を取得する。そして、受信したミリ波変調信号と受信側局部発振部8404の出力信号に基づく復調用の搬送信号(復調搬送信号:再生搬送信号と称する)を周波数混合部8402で乗算する(同期検波する)ことで同期検波信号を取得する。この同期検波信号はフィルタ処理部8410で高域成分の除去が行なわれることで送信側から送られてきた入力信号の波形(ベースバンド信号)が得られる。以下、比較例と同様である。
周波数混合部8402は、同期検波により周波数変換(ダウンコンバート・復調)を行なうことで、たとえばビット誤り率特性が優れる、直交検波に発展させることで位相変調や周波数変調を適用できるなどの利点が得られる。
受信側局部発振部8404の出力信号に基づく再生搬送信号を周波数混合部8402に供給して復調するに当たっては、位相ズレを考慮する必要があり、同期検波系において位相調整回路を設けることが肝要となる。たとえば、参考文献Cに示されているように、受信した変調信号と受信側局部発振部8404で注入同期により出力される発振出力信号には、位相差があるからである。
参考文献C:L. J. Paciorek, “Injection Lock of Oscillators”, Proceeding of the IEEE, Vol. 55 NO. 11, November 1965 ,pp1723〜1728
この例では、その位相調整回路の機能だけでなく注入振幅を調整する機能も持つ位相振幅調整部8406を復調機能部8400に設けている。位相調整回路は、受信側局部発振部8404への注入信号、受信側局部発振部8404の出力信号の何れに対して設けても良く、その両方に適用してもよい。受信側局部発振部8404と位相振幅調整部8406で、変調搬送信号と同期した復調搬送信号を生成して周波数混合部8402に供給する復調側(第2)の搬送信号生成部が構成される。
図中に点線で示すように、周波数混合部8402の後段には、変調信号に合成された基準搬送信号の位相に応じて(具体的には変調信号と基準搬送信号が同相時)、同期検波信号に含まれ得る直流オフセット成分を除去する直流成分抑制部8407を設ける。
ここで、参考文献Cに基づけば、受信側局部発振部8404の自走発振周波数をfo(ωo)、注入信号の中心周波数(基準搬送信号の場合はその周波数)をfi(ωi)、受信側局部発振部8404への注入電圧をVi、受信側局部発振部8404の自走発振電圧をVo、Q値(Quality Factor)をQとすると、ロックレンジを最大引込み周波数範囲Δfomax で示す場合、式(A)で規定される。式(A)より、Q値がロックレンジに影響を与え、Q値が低い方がロックレンジが広くなることが分かる。
Δfomax =fo/(2*Q)*(Vi/Vo)*1/sqrt(1−(Vi/Vo)^2)…(A)
式(A)より、注入同期により発振出力信号を取得する受信側局部発振部8404は、注入信号の内のΔfomax 内の成分にはロック(同期)し得るが、Δfomax 外の成分にはロックし得ず、バンドパス効果を持つと言うことが理解される。たとえば、周波数帯域を持った変調信号を受信側局部発振部8404に供給して注入同期により発振出力信号を得る場合、変調信号の平均周波数(搬送信号の周波数)に同期した発振出力信号が得られ、Δfomax 外の成分は取り除かれるようになる。
ここで、受信側局部発振部8404に注入信号を供給するに当たっては、図4(1)に示す基本構成1のように、受信したミリ波信号を注入信号として受信側局部発振部8404に供給することが考えられる。この場合、Δfomax 内の周波数成分は少ない方が望ましい。「少ない方が望ましい」と記載したのは、ある程度は存在していても適切に信号入力レベルや周波数を調整すれば注入同期が可能であることに基づく。つまり、注入同期に不要な周波数成分も受信側局部発振部8404に供給され得るので注入同期が取り難いことが懸念される。しかしながら、送信側で予め、変調対象信号に対して低域成分を抑圧(DCフリー符号化などを)してから変調することで、搬送周波数近傍に変調信号成分が存在しないようにしておけば、基本構成1でも差し支えない。
また、図4(2)に示す基本構成2のように、周波数分離部8401を設け、受信したミリ波信号から変調信号と基準搬送信号を周波数分離し、分離した基準搬送信号成分を注入信号として受信側局部発振部8404に供給することが考えられる。注入同期に不要な周波数成分を予め抑制してから供給するので、注入同期が取り易くなる。
図4(3)に示す基本構成3は、送信側が図3(2)に示す基本構成2を採っている場合に対応するものである。変調信号と基準搬送信号を各別のアンテナ8236_1,8236_2で、好ましくは干渉を起さないように各別のミリ波信号伝送路9で受信する方式である。受信側の基本構成3では、振幅も常に一定の基準搬送信号を受信側局部発振部8404に供給でき、注入同期の取り易さの観点では最適の方式と言える。
図4(4)に示す基本構成4は、送信側が位相や周波数を変調する方式の場合に図3(4)に示す基本構成4を採っている場合に対応するものである。構成としては基本構成1と同様になっているが、復調機能部8400の構成は、実際には、直交検波回路など位相変調や周波数変調に対応した復調回路とされる。
アンテナ8236で受信されたミリ波信号は図示を割愛した分配器(分波器)で周波数混合部8402と受信側局部発振部8404に供給される。受信側局部発振部8404は、注入同期が機能することで、送信側で変調に使用した搬送信号に同期した再生搬送信号を出力する。
ここで、受信側で注入同期がとれる(送信側で変調に使用した搬送信号に同期した再生搬送信号を取得できる)か否かは、注入レベル(注入同期方式の発振回路に入力される基準搬送信号の振幅レベル)や変調方式やデータレートや搬送周波数なども関係する。また、変調信号は注入同期可能な帯域外となるようにしておくことが肝要であり、そのためには送信側でDCフリー符号化をしておくことで、変調信号の中心(平均的な)周波数が搬送周波数に概ね等しく、また、中心(平均的な)位相が概ねゼロ(位相平面上の原点)に等しくなるようにするのが望ましい。
たとえば、参考文献Dには、BPSK(Binary Phase Shift Keying )方式で変調された変調信号そのものを注入信号に使用する例が開示されている。BPSK方式では、入力信号のシンボル時間Tに応じて受信側局部発振部8404への注入信号は180度の位相変化が起こる。その場合でも受信側局部発振部8404が注入同期できるためには受信側局部発振部8404の最大引込み周波数範囲幅をΔfomax とすると、たとえばシンボル時間TはT<1/(2Δfomax )を満たしていることが必要とされる。このことは、シンボル時間Tは余裕をもって短く設定されていなければならないことを意味するが、このように短いシンボル時間Tの方がよいと言うことは、データレートを高くするとよいことを意味し、高速なデータ転送を目指す用途においては都合がよい。
参考文献D: P. Edmonson, et al., ”Injection Locking Techniques for a 1-GHz Digital Receiver Using Acoustic-Wave Devices”, IEEE Transactions on Ultrasonics,Ferroelectrics, and Frequency Control, Vol. 39, No. 5, September, 1992,pp631〜637
また、参考文献Eには、8PSK(8-Phase Shift Keying)方式で変調された変調信号そのものを注入信号に使用する例が開示されている。この参考文献Eにおいても、注入電圧や搬送周波数が同じ条件であればデータレートが高い方が注入同期し易いことが示されており、やはり、高速なデータ転送を目指す用途においては都合がよい。
参考文献E:Tarar, M.A.; Zhizhang Chen、“A Direct Down-Conversion Receiver for Coherent Extraction of Digital Baseband Signals Using the Injection Locked Oscillators”、Radio and Wireless Symposium, 2008 IEEE、Volume , Issue , 22-24 Jan. 2008 、pp57〜60
基本構成1〜4の何れにおいても、式(A)に基づき、注入電圧Viや自走発振周波数foを制御することでロックレンジを制御するようにする。換言すると、注入同期がとれるように、注入電圧Viや自走発振周波数foを調整することが肝要となる。たとえば、周波数混合部8402の後段(図の例では直流成分抑制部8407の後段)に注入同期制御部8440を設け、周波数混合部8402で取得された同期検波信号(ベースバンド信号)に基づき注入同期の状態を判定し、その判定結果に基づいて、注入同期がとれるように、調整対象の各部を制御する。
その際には、受信側で対処する手法と、図中に点線で示すように、送信側に制御に資する情報(制御情報のみに限らず制御情報の元となる検知信号など)を供給して送信側で対処する手法の何れか一方またはその併用を採り得る。受信側で対処する手法は、ミリ波信号(特に基準搬送信号成分)をある程度の強度で伝送しておかないと受信側で注入同期がとれないという事態に陥るので、消費電力や干渉耐性の面で難点があるが、受信側だけで対処できる利点がある。
これに対して、送信側で対処する手法は、受信側から送信側への情報の伝送が必要になるものの、受信側で注入同期がとれる最低限の電力でミリ波信号を伝送でき消費電力を低減できる、干渉耐性が向上するなどの利点がある。
筐体内信号伝送や機器間信号伝送において注入同期方式を適用することにより、次のような利点が得られる。送信側の送信側局部発振部8304は、変調に使用する搬送信号の周波数の安定度の要求仕様を緩めることができる。注入同期する側の受信側局部発振部8404は式(A)より明らかなように、送信側の周波数変動に追従できるような低いQ値であることが必要である。
このことは、タンク回路(インダクタンス成分とキャパシタンス成分)を含む受信側局部発振部8404の全体をCMOS上に形成する場合に都合がよい。受信側では、受信側局部発振部8404はQ値の低いものでもよいが、この点は送信側の送信側局部発振部8304についても同様であり、送信側局部発振部8304は周波数安定度が低くてもよく、Q値の低いものでもよい。
CMOSは微細化が今後さらに進み、その動作周波数はさらに上昇する。より広帯域で小型の伝送システムを実現するには、高い搬送周波を使うことが望まれる。本例の注入同期方式は、発振周波数安定度についての要求仕様を緩めることができるため、より高い周波数の搬送信号を容易に用いることができる。
高い周波数ではあるが周波数安定度が低くてもよい(換言するとQ値の低いものでもよい)ということは、高い周波数で安定度も高い搬送信号を実現するために、高い安定度の周波数逓倍回路やキャリア同期のためのPLL回路などを使用することが不要で、より高い搬送周波数でも、小さな回路規模で簡潔に通信機能を実現し得るようになる。
受信側局部発振部8404により送信側で使用した搬送信号に同期した再生搬送信号を取得して周波数混合部8402に供給し同期検波を行なうので、周波数混合部8402の前段に波長選択用のバンドパスフィルタを設けなくてもよい。受信周波数の選択動作は、事実上、送受信の局部発振回路を完全に同期させる(つまり、注入同期がとれるようにする)制御を行なえばよく、受信周波数の選択が容易である。ミリ波帯であれば注入同期に要する時間も低い周波数に比べて短くて済み、受信周波数の選択動作を短時間で済ませることができる。
送受信の局部発振回路が完全に同期するため、送信側の搬送周波数の変動成分が打ち消されるので、位相変調など様々な変調方式が容易に適用できる。たとえば、デジタル変調では、QPSK(Quadrature Phase Shift Keying )変調や16QAM(Quadrature Amplitude Modulation )変調などの位相変調が広く知られている。これらの位相変調方式は、ベースバンド信号と搬送波との間で直交変調を行なうものである。直交変調では、入力データをI相とQ相のベースバンド信号にし直交変調を施す、つまりI相信号とQ相信号によりI軸とQ軸の各搬送信号に対して各別に変調を施す。参考文献Eに記載のような8PSK変調での適用に限らず、QPSKや16QAMのような直交変調方式でも注入同期を適用可能であり、変調信号を直交化してデータ伝送レートを上げることができる。
注入同期を適用すれば、同期検波との併用により、波長選択用のバンドパスフィルタを受信側で使用しなくても、多チャンネル化や全二重の双方向化を行なう場合などのように複数の送受信ペアが同時に独立な伝送をする場合でも干渉の問題の影響を受け難くなる。
[注入信号と発振出力信号との関係]
図4Aには、注入同期における各信号の位相関係が示されている。ここでは、基本的なものとして、注入信号(ここでは基準搬送信号)の位相は変調に使用した搬送信号の位相と同相である場合で示す。
受信側局部発振部8404の動作としては、注入同期モードと増幅器モードの2つを採り得る。注入同期方式を採用する上では、基本的な動作としては、注入同期モードで使用し、特殊なケースで増幅器モードを使用する。特殊なケースは、基準搬送信号を注入信号に使用する場合に、変調に使用した搬送信号と基準搬送信号の位相が異なる(典型的には直交関係にある)場合である。
受信側局部発振部8404が注入同期モードで動作する場合、図示のように、受信した基準搬送信号SQと注入同期により受信側局部発振部8404から出力される発振出力信号SCには位相差がある。周波数混合部8402にて直交検波をするには、この位相差を補正する必要がある。図から分かるように、受信側局部発振部8404の出力信号に対して変調信号SIの位相とほぼ一致するように位相振幅調整部8406で位相調整を行なう位相シフト分は図中の「θ−φ」である。
換言すると、位相振幅調整部8406は、受信側局部発振部8404が注入同期モードで動作しているときの出力信号Vout の位相を、受信側局部発振部8404への注入信号Sinj と注入同期したときの出力信号Vout との位相差「θ−φ」の分を相殺するように位相シフトすればよい。因みに、受信側局部発振部8404への注入信号Sinj と受信側局部発振部8404の自走出力Voとの位相差がθであり、注入同期したときの受信側局部発振部8404の出力信号Vout と受信側局部発振部8404の自走出力Voとの位相差がφである。
<基準搬送信号の位相と復調処理の関係>
[基本]
図5〜5Bは、基準搬送信号の位相と復調処理の関係を説明する図である。ここで、図5は、搬送信号と基準搬送信号が同一周波数で同一位相の場合における復調処理の基本を説明する図である。図5Aは、搬送信号と基準搬送信号が同一周波数であり位相が直交関係にある場合における復調処理の基本を説明する図であり、図5Bはその回路構成の基本を示す図である。
注入同期方式を適用する場合、処理済入力信号で搬送信号を変調して得た変調信号と合わせて、変調に使用した搬送信号と対応する(少なくとも同期した)基準搬送信号も受信側に送ることが望ましい。典型的には、変調に使用した搬送信号と同じ周波数の信号を基準搬送信号として使用する。このとき、変調に使用した搬送信号と基準搬送信号の位相関係を如何様に設定するかで、受信側の復調時に不要成分(特に直流オフセット成分)が発生する。以下、この点について、変調に使用した搬送信号と同じ周波数の信号を基準搬送信号に使用する場合における、基準搬送信号の位相と復調処理の関係について説明する。
ASK方式では、伝送対象信号で搬送信号の振幅を変調する。I軸とQ軸で表わされる位相平面上で、I相信号とQ相信号の内の何れか一方を使用し、変調信号の信号振幅を0〜+Fの範囲で与えるものと考えればよい。0,+Fの2値で変調する場合が最も単純で、変調度が100%の場合はOOKとなる。「F」は正規化することで「1」と考えられ、2値のASKが実現される。
ここで、変調に使用した搬送信号と同じ周波数で同じ位相の信号を基準搬送信号として使用する場合を考える。たとえば、図5(1)に示すように、I軸に情報を載せて伝送しようとするとき、基準搬送信号も同相(I軸)にする。
ところで、変調に使用した搬送信号と基準搬送信号の位相を同相とする場合、たとえば次のような手法を採り得る。
図5(2)に示す第1例は図3(1)に示す基本構成1を適用する手法の一例である。周波数混合部8302には伝送対象信号a(t)と搬送信号c(t)=cosωtが供給される。周波数混合部8302としては平衡変調回路や二重平衡変調回路を使用して搬送波抑圧の振幅変調を行なうことで、d(t)=a(t)cosωtを生成し信号合成部8308に供給する。伝送対象信号a(t)は0,+1の2値とする。基準搬送信号処理部8306は送信側局部発振部8304から出力された搬送信号c(t)=cosωtの振幅をCo(0〜1の範囲内)にして基準搬送信号e(t)=Cocosωtとして信号合成部8308に供給する。信号合成部8308はd(t)+e(t)なる信号合成を行なうことで送信信号f(t)を生成する。Co=0のときが100%変調時と等価である。
図5(3)に示す第2例と図5(4)に示す第3例は、図3(3)に示す基本構成3を適用する手法の一例である。周波数混合部8302としては搬送波抑圧が適用されない回路構成を使用し、伝送対象信号b(t)に直流成分b0を加えた信号g(t)で振幅変調を行なうことでh(t)=g(t)cosωtを生成する。伝送対象信号b(t)は−1,+1の2値とする。伝送対象信号b(t)の振幅Bが変調度(変調率)に対応する。
ここで、図5(3)に示す第2例は、変調度Bを一定(=1)にする場合であり、直流成分b0を1〜2の範囲内で制御することで基準搬送信号の振幅(b(t)=−1の期間の振幅)を調整する。図5(4)に示す第3例は、直流成分b0を一定(=1)にする場合であり、変調度Bを0〜1の範囲内で制御することで基準搬送信号の振幅(b(t)=−1の期間の振幅)を調整する。
第1例〜第3例の何れの場合も、I軸だけに情報を載せて伝送しようとするときに基準搬送信号も同相(I軸)にしている例であり、この場合、図5(5)から分かるように、受信側で直流オフセット成分が発生してしまう。
たとえば、I軸を実数成分、Q軸を虚数成分として、第1例において伝送対象信号a(t)の振幅を0,+1とすると、受信信号点はI軸上の0,+1にくる。基準搬送波もI軸上に載せると、信号点は「0+Co」と「+1+Co」になり、+Co分の直流成分が載る結果となる。
第2例や第3例において伝送対象信号b(t)を−1,+1とすると、受信信号点はI軸上の−1,+1にくる。基準搬送波もI軸上に載せると、信号点は「−1+Co」と「+1+Co」になり、+Co分の直流成分が載る結果となる。BPSKを適用する場合に、基準搬送波もI軸上に載るように予め信号処理で変調対象信号を加工してから変調することでASKと等価にするという考え方である。
この問題を解決するには、図4に示したように、受信側に直流オフセット成分を抑制する直流成分抑制部8407を設けることが考えられる。しかしながら、機器ごとにばらつきが異なり直流オフセットの大きさに応じた個別調整が必要となるし、温度ドリフトの影響を受けるなどの難点がある。
この問題を受信側に直流成分抑制部8407を設けずに解決する方法として、伝送情報が載せられる位相軸(変調信号の位相軸)とは異なる位相軸(好ましくは最も離れた位相軸)に基準搬送信号を載せて送ることが考えられる。
たとえば、伝送情報をI軸とQ軸の何れか一方にだけに載せるASKモードの場合には、送信側では、基準搬送信号と変調情報を直交させておくことが考えられる。つまり、I相信号とQ相信号の2軸変調を行なう代りに、I軸とQ軸の何れか一方だけを信号伝送に使用し、他方については無変調にし、その無変調信号を基準搬送信号として使用する。
伝送情報(変調情報)および基準搬送信号と、I軸およびQ軸の関係を逆にしてもよい。たとえば、送信側では、伝送情報をI軸側にし基準搬送信号をQ軸側にしておいてもよいし、逆に、伝送情報をQ軸側にし基準搬送信号をI軸側にしておいてもよい。図5Aに示した例は、伝送情報をI軸側にし基準搬送信号をQ軸側にする場合を示している。
図5A(2)に示すように、伝送信号用のI軸用には周波数混合部8302_Iを設けている。周波数混合部8302_Iには伝送対象信号a(t)が供給される。基準搬送信号処理部8306は、基準搬送信号用のQ軸用の周波数混合部8302_Qと、その前段に搬送信号を直交化させる機能部として90度位相シフト部8309を有している。位相振幅調整回路8307を90度位相シフト部8309として機能させてもよい。周波数混合部8302_Qには直流成分Coが供給される。
そして、受信側では、受信側局部発振部8404の出力信号に基づく再生搬送信号を周波数混合部8402に供給し、受信したI軸の変調信号と掛け合わせる(同期検波する)ことでI軸のベースバンド信号を復元する。この際には、受信側局部発振部8404の出力信号に基づく再生搬送信号の位相がI軸の変調信号の位相がほぼ一致するように位相調整を行なう。結果的に位相がほぼ等しくなっていればよく、前述のように、位相調整は受信側局部発振部8404の前段および後段の何れで行なってもよい。
ここで、変調信号(搬送信号)と基準搬送信号を直交関係にする場合、受信側局部発振部8404の出力信号に基づく再生搬送信号を如何様にして得るかは、注入振幅と関係する。大まかには、受信側局部発振部8404での注入同期が適正に機能するか、注入同期が機能せずに受信側局部発振部8404が増幅器モードで動作するかで、位相シフトの考え方が異なる。
たとえば、受信側局部発振部8404での注入同期が適正に機能するように注入振幅を小さくする(弱い注入信号にする)場合には、注入同期で得られる受信側局部発振部8404の出力信号Vout (発振出力信号SC)を元に再生搬送信号を取得する。なお、「注入振幅を小さくする(弱い注入信号にする)」とは言っても、あまり弱いと注入同期しなくなるので、注入同期が適正に機能するように、程よいレベルの入力が必要になる。この場合、Q軸の基準搬送信号SQに基づく発振出力信号SCが受信側局部発振部8404から得られるが、図4Aに示したように、受信した基準搬送信号SQと注入同期により受信側局部発振部8404から出力される発振出力信号SCには位相差がある。さらに、受信側局部発振部8404への注入信号であるQ軸の基準搬送信号は伝送対象信号が載せられる変調軸(I軸)と90度の位相差がある。
結局の所は、受信側局部発振部8404の出力信号に対して変調信号SIの位相とほぼ一致するように位相振幅調整部8406で位相調整を行なう位相シフト分は、図4A中の「θ−φ」にさらに伝送対象情報を載せる変調軸との位相差の分(本例の場合90度)を加えた分となる。図5A(3)に示すように、変調信号SIの位相とほぼ一致するように位相振幅調整部8406で位相調整を行なって再生搬送信号SRとし、これを周波数混合部8402に供給すると言うことになる。
この再生搬送信号SRを受信したI軸の変調信号SIと周波数混合部8402において掛け合わせる(同期検波する)ことでI軸のベースバンド信号を復元する。こうすることで、直流オフセット成分のないベースバンド信号が得られる。
一方、注入振幅を大きくする(強い注入信号にする)場合には、受信側局部発振部8404は注入同期モードが機能せずに増幅器モードで動作するようになる。この場合、位相振幅調整部8406は、受信側局部発振部8404が増幅器モードで動作しているときの基準搬送信号の成分の出力信号の位相を、伝送対象情報を載せる変調軸との位相差の分を相殺するように位相シフトすればよい。本例の場合、I軸に伝送対象情報を載せ、Q軸に基準搬送信号を載せているので、両軸の位相差は90度である。
よって、図5A(4)に示すように、増幅器モードで受信側局部発振部8404から出力される出力信号の内のQ軸の基準搬送信号の成分をI軸の変調信号と位相が一致するように90度位相シフトを行なって再生搬送信号SRとして、これを周波数混合部8402に供給する。この再生搬送信号SRを受信したI軸の変調信号SIと周波数混合部8402において掛け合わせる(同期検波する)ことでI軸のベースバンド信号を復元する。こうすることで、直流オフセット成分のないベースバンド信号が得られる。
基準搬送信号SQ(=Cosin(ωt+θ)と変調信号SI(=a(t)cos(ωt+θ))との間には90度の位相差があるので、基準搬送信号SQの位相を90度ずらすことで、ベースバンド信号の直流成分を抑えることができる。たとえば、基準搬送波をQ軸上に載せると、信号点は「+1+jCo」と「0+jCo」になり、I軸成分だけを取り出せば、「0」と「+1」となり、直流成分が載らない結果が得られる。Q軸上の基準搬送信号SQに対応する受信側局部発振部8404から増幅器モードで出力される出力信号で同期検波するとQ軸成分しか得られないので、途中で位相を90度ずらしてI軸成分を得られるようにするのである。
したがって、復調系統の回路構成としては、図5B(1)に示すように位相調整のみ行なう場合と、図5B(2)に示すように位相と振幅の両方を調整する場合が考えられる。位相と振幅の両方を調整する場合は受信側局部発振部8404の注入側で行なう場合と発振出力側で行なう場合の何れをも採り得る。また、図5B(3)に示すように注入同期を適正に機能させるか否かを調整するためには受信側局部発振部8404の注入側で注入振幅を調整するようにしてもよい。
[直交関係にある場合における復調処理の具体例]
図6〜図6Cは、搬送信号と基準搬送信号が同一周波数であり位相が直交関係にある場合における復調処理の具体例を説明する図である。因みに、受信側局部発振部8404としては後述する差動負性抵抗発振回路8500を使用する。
先ず、図6(1)には、受信側局部発振部8404が自走発振している際の出力信号のスペクトラム例が示されている。60GHzで発振しており、強い2倍の高調波も発生しているのが分かる。この状態の受信側局部発振部8404に、I軸成分(変調信号)とQ軸成分(基準搬送信号)を含む信号Sinj を注入して受信側局部発振部8404の出力信号Vout の振る舞いをシミュレーションする。
なお、図5A(2)に示す回路において、I軸にはM系列(2^11−1)のデータ信号、Q軸には直流成分を使用し、それぞれ60GHz帯にアップコンバートした信号Sinj を受信側局部発振部8404への注入信号として使用する。図6(2)には、注入信号の仕様が示されている。図6A(1)には、注入信号として使用するベースバンドのI,Qの信号波形例が示され、図6A(2)には、そのスペクトラム例が示されている。この注入信号のスケールファクタ(scale factor)倍の電流が電流源で受信側局部発振部8404に注入される。
図6B〜図6Cには、I軸成分(変調信号)とQ軸成分(基準搬送信号)を含む信号Sinj を受信側局部発振部8404に注入したときの受信側局部発振部8404の出力信号の振る舞いが示されている。なお、受信側局部発振部8404の出力信号Vout を解析するために、図6B(1)に示すように、直交検波回路を使って、I信号とQ信号にダウンコンバートする。
図6B(2)には、受信側局部発振部8404での注入同期が適正に機能するように注入振幅を設定した場合の出力信号Vout のスペクトラム例が示されている。この例では、スケールファクタ=10^−4に設定している。また、そのときの図6B(1)に示す直交検波回路を使ったタウンコンバート後のI信号とQ信号の例が、図6B(3)に示されている。
信号の注入は0.5nsecから始まり、約4nsec後に注入同期ができている。このように、弱い注入信号の場合、注入同期が適正に機能することで、I軸の変調信号成分はロックレンジΔfomax 外となって、受信側局部発振部8404のバンドパス効果により、殆ど取り除かれることが分かる。
Q軸の基準搬送信号SQに基づき注入同期で得られる発振出力信号SCの位相がI軸の変調信号SIの位相と一致するように調整して再生搬送信号SRとして周波数混合部8402に供給して同期検波することで直流オフセット成分のないベースバンド信号が得られる。
図6C(1)には、受信側局部発振部8404での注入同期が機能せず増幅器モードで動作するように注入振幅を大きくする場合の出力信号Vout のスペクトラム例が示されている。この例では、スケールファクタ=5×10^−3)に設定している。また、そのときの図6B(1)に示す直交検波回路を使ったタウンコンバート後のI信号とQ信号の例が、図6C(2)に示されている。
信号の注入は0.5nsecから始まり、約4nsec後に出力信号が得られている。ここで、その出力信号Vout のスペクトラムに着目した場合、注入同期モードによって発振出力信号が得られているというのではなく、注入された信号が殆どそのまま出力される増幅器モードで動作していることが分かる。増幅器モードで動作する場合も、基本波以外に強い2倍の高調波も発生しているのが分かる。このように、強い注入信号の場合、注入同期モードが機能せずに増幅器モードで動作するので、I軸の変調信号成分とQ軸の基準搬送信号成分はそれぞれ殆どそのまま出力される。ただし、このような増幅器モードであっても、送信側局部発振部8304で生成された変調用のI軸の搬送信号と同期したQ軸の基準搬送信号成分と対応する出力信号が得られる。
したがって、Q軸の基準搬送信号SQと対応する増幅器モードの出力信号SAの位相がI軸の変調信号SIの位相と一致するように調整して再生搬送信号SRとして周波数混合部8402に供給して同期検波することで直流オフセット成分のないベースバンド信号が得られる。I軸とQ軸の位相差は90度であるので、出力信号SAの位相をI軸側に90度ずらしたものを再生搬送信号SRとして周波数混合部8402に供給して同期検波することで、ベースバンド信号の直流成分を抑えることができる。
次に、第1通信装置100側から第2通信装置200側へミリ波信号を伝送する場合において、注入同期方式を採用する場合の送信側(送信側信号生成部110)と受信側(受信側信号生成部220)の詳細例について説明する。
<注入同期方式:第1実施形態>
図7〜図7Aは、注入同期方式を適用する送信器側の構成例の第1実施形態を説明する図である。図8は、注入同期方式を適用する受信器側の構成例の第1実施形態を説明する図である。図7〜図7Aに示す第1実施形態の送信側信号生成部8110Aと図8に示す第1実施形態の受信側信号生成部8220Aの組合せで、第1実施形態の無線伝送システム1Aが構成される。第1実施形態は、受信側で注入同期がとれるように制御する方式を適用する構成である。
[送信側の構成例]
図7には、第1実施形態(第1例)の送信側信号生成部8110A_1(送信側信号生成部110,210と対応)の構成が示されている。図7Aには、第1実施形態(第2例)の送信側信号生成部8110A_2(送信側信号生成部110,210と対応)の構成が示されている。なお、第1例では参照子“_1”を付し、第2例では参照子“_2”を付し、両者を区別せずに説明するときには参照子を省略する。
第1実施形態の送信側信号生成部8110Aは、図示しないパラレルシリアル変換部8114と変調機能部8300の間に、エンコード部8322、マルチプレクサ部8324、波形整形部8326を備える。これらの機能部を備えることは必須ではなく、それらの機能を必要とする場合に設ければよい。
送信側信号生成部8110Aは、各機能部を制御するコントローラ部8346を備える。コントローラ部8346を備えることは必須ではないが、最近の様々なシステムではこの機能はしばしばCMOSチップ上や基板上に存在する。コントローラ部8346は、エンコードやマルチプレクスの設定、波形整形の設定、変調モードの設定、発振周波数の設定、基準搬送信号の位相や振幅の設定、増幅部8117の利得および周波数特性の設定、アンテナの特性の設定、などの機能を持つ。各設定情報は対応する機能部へ供給される。
エンコード部8322は、コントローラ部8346からのエンコード(Encode)パターンの設定情報に基づいて、図示しないパラレルシリアル変換部8114によりシリアル化されたデータに対してエラー訂正などのコーディング処理を行なう。このとき、エンコード部8322は、変調対象信号処理部8301の機能として、8−9変換符号や8−10変換符号などのDCフリー符号化を適用して、搬送周波数近傍に変調信号成分が存在しないようにし、受信側での注入同期がし易くなるようにしておく。
マルチプレクサ部8324は、データをパケット化する。受信器側の注入同期検出部が既知パターンの相関で注入同期の検出を行なう構成の場合は、マルチプレクサ部8324は、コントローラ部8346からの同期検出用パケットの設定情報に基づいて、既知の信号波形や既知のデータパターン(たとえば擬似ランダム信号:PN信号)を定期的に挿入しておく。
波形整形部8326は、コントローラ部8346からの波形整形の設定情報に基づいて、周波数特性補正、プリエンファシス、帯域制限などの波形整形処理を行なう。
送信側信号生成部8110Aは、周波数混合部8302(変調回路)と送信側局部発振部8304(送信側発振部)を有する変調機能部8300を備える。また、送信側信号生成部8110Aは、変調機能部8300の他に、位相振幅調整回路8307を有する基準搬送信号処理部8306と信号合成部8308を備える。この例では、基準搬送信号処理部8306は、送信側局部発振部8304から出力された搬送信号そのものを基準搬送信号とし、その基準搬送信号を位相振幅調整回路8307により振幅と位相を調整して信号合成部8308に供給する。
ここで、図7に示す第1例では、送信側局部発振部8304は、CMOSチップ上のタンク回路を用いてCMOSチップ上で変調に用いる搬送信号を生成する。
一方、図7Aに示す第2例は、第1通信装置100に、基準として使えるクロック信号が存在する場合の構成例であり、変調機能部8300_2は、送信側局部発振部8304の前段に周波数逓倍部8303を備えている。周波数逓倍部8303は、図示しないクロック信号生成部から供給される「基準として使えるクロック信号」を逓倍し、その逓倍信号を送信側局部発振部8304に供給する。第2例の送信側局部発振部8304は、同期発振回路であり、逓倍信号に同期して、変調に用いる搬送信号を生成する。
周波数混合部8302は、送信側局部発振部8304で生成された搬送信号を、波形整形部8326からの処理済入力信号で変調して信号合成部8308に供給する。位相振幅調整回路8307は、コントローラ部8346からの位相・振幅の設定情報に基づいて、送信する基準搬送信号の位相と振幅を設定する。
信号合成部8308は、アンテナ8136,8236がそれぞれ1つの場合に、ミリ波帯に変調された変調信号と合わせて基準搬送信号を受信側に送るために設けられている。周波数混合部8302で生成された変調信号と基準搬送信号処理部8306で生成された基準搬送信号を各別のアンテナで伝送する構成にする場合には信号合成部8308は不要である。
信号合成部8308は、ミリ波帯に変調された信号と合わせて基準搬送信号も受信側に送出する場合に、周波数混合部8302によりミリ波帯に変調された変調信号と位相振幅調整回路8307からの基準搬送信号を合成処理してから増幅部8117に渡す。周波数混合部8302によりミリ波帯に変調された変調信号のみを受信側に送出する場合には、信号合成部8308は、合成処理を行なわずに、周波数混合部8302によりミリ波帯に変調された変調信号のみを増幅部8117に渡す。増幅部8117は、信号合成部8308から受け取ったミリ波信号に対して、必要に応じて送信出力の振幅や周波数特性を調整してアンテナ8136に供給する。
前述の説明から理解されるように、ミリ波帯に変調された信号と合わせて基準搬送信号も受信側に送出する場合に、信号合成部8308を機能させるか否かは変調方式や周波数混合部8302の回路構成にも関係する。変調方式や周波数混合部8302の回路構成によっては信号合成部8308を機能させなくてもミリ波帯に変調された信号と合わせて基準搬送信号も受信側に送出することは可能である。
振幅変調やASKにおいて周波数混合部8302を積極的に搬送波抑圧方式の変調回路にして、その出力と合わせて送信側局部発振部8304で生成された基準搬送信号も送るようにしてもよい。この場合、変調に使用した搬送信号の高調波を基準搬送信号に使用することができるし、変調信号と基準搬送信号の振幅を各別に調整できる。すなわち、増幅部8117では変調信号の振幅に着目した利得調整を行ない、このときに同時に基準搬送信号の振幅も調整されるが、注入同期との関係で好ましい振幅となるように位相振幅調整回路8307で基準搬送信号の振幅のみを調整するようにすることができる。
[受信側の構成例]
図8には、第1実施形態の受信側信号生成部8220A(受信側信号生成部120,220と対応)の構成が示されている。第1実施形態の受信側信号生成部8220Aは、各機能部を制御するコントローラ部8446を備える。また、受信側信号生成部8220Aは、復調機能部8400の後段に、直流成分抑制部8407と注入同期検出部8442を備える。
コントローラ部8446を備えることは必須ではないが、コントローラ部8346と同様に、最近の様々なシステムではこの機能はしばしばCMOSチップ上や基板上に存在する。コントローラ部8446は、増幅部8224の利得および周波数特性の設定、受信した基準搬送信号の位相や振幅の設定、発振周波数の設定、変調モードの設定、フィルタおよび等化の設定、コーディングおよびマルチプレクスの設定などの機能を持つ。各設定情報は対応する機能部へ供給される。
復調機能部8400は、周波数混合部8402(復調回路)と受信側局部発振部8404(受信側発振回路)と位相振幅調整部8406とを備える。
なお、受信側局部発振部8404への注入信号側に(たとえば位相振幅調整部8406の前段に)、基準搬送信号成分のみを抽出する回路(バンドパスフィルタ回路など)を配置することも考えられる。こうすることで、受信したミリ波信号から変調信号成分と基準搬送信号成分が分離され、基準搬送信号成分のみが受信側局部発振部8404に供給されるようになり注入同期がとり易くなる。
位相振幅調整部8406は、コントローラ部8446からの位相・振幅の設定情報に基づいて、受信した基準搬送信号の位相と振幅を設定する。図では、受信側局部発振部8404への注入信号入力端側に位相振幅調整部8406を配置する構成で示しているが、受信側局部発振部8404と周波数混合部8402の信号系路上に位相振幅調整部8406を配置する構成にしてもよいし、その両者を併用する構成にしてもよい。
直流成分抑制部8407は、周波数混合部8402から出力される同期検波信号に含まれる不要な直流成分(直流オフセット成分)を抑制する。たとえば、変調信号と合わせて基準搬送信号も送信側から受信側に伝送する場合、変調信号と基準搬送信号の位相関係によっては、同期検波信号に直流オフセット成分が大きく発生する場合がある。その直流オフセット成分を除去するのに直流成分抑制部8407が機能する。
コントローラ部8446には、注入同期検出部8442が検出した注入同期の状態を示す情報に基づき、受信側局部発振部8404で生成される復調搬送信号が、変調搬送信号と同期するように同期調整を行なう注入同期調整部の機能部を備えている。注入同期検出部8442とコントローラ部8446の注入同期調整に関わる機能部(注入同期調整部)で注入同期制御部8440が構成される。
注入同期検出部8442は、周波数混合部8402で取得されたベースバンド信号に基づき注入同期の状態を判定し、その判定結果をコントローラ部8446に通知する。図では、直流成分抑制部8407の出力信号を検知する構成で示しているが、直流成分抑制部8407の入力側を検知する構成にしてもよい。
「注入同期の状態」とは、受信側局部発振部8404から出力される出力信号(発振回路出力)が送信側の基準搬送信号に同期したか否かである。発振回路出力と送信側の基準搬送信号が同期したことを「注入同期がとれた」とも称する。
受信側信号生成部8220Aは、注入同期がとれるように、送信側局部発振部8304の自走発振周波数、受信側局部発振部8404への注入信号の振幅(注入振幅)や位相(注入位相)の少なくとも1つを制御する。何れを制御するかは、システム構成に依存し、必ずしもその全ての要素を制御しなければならないというものではない。
たとえば、コントローラ部8446は、注入同期がとれるように、注入同期検出部8442の検出結果と連動して、受信側局部発振部8404の自走発振周波数を制御し、位相振幅調整部8406を介して受信側局部発振部8404への注入振幅と注入位相を制御する。
たとえば、先ず、送信側からミリ波信号伝送路9を介して送られたミリ波信号(変調信号や基準搬送信号)はアンテナ8236を経て増幅部8224で増幅される。増幅されたミリ波信号の一部は、位相振幅調整部8406で振幅と位相が調整された後に受信側局部発振部8404に注入される。周波数混合部8402では、増幅部8224からのミリ波信号を受信側局部発振部8404からの出力信号(再生基準搬送信号)でベースバンド信号へ周波数変換する。変換されたベースバンド信号の一部は注入同期検出部8442に入力され、受信側局部発振部8404が送信側の基準搬送信号に同期したか否かを判断するための情報が注入同期検出部8442により取得されコントローラ部8446に通知される。
コントローラ部8446は、注入同期検出部8442からの「注入同期の状態」の情報(注入同期判定情報と称する)に基づいて、同期したかどうかの判定を、たとえば次の2つの手法の何れか、またはそれらの併用で行なう。
1)注入同期検出部8442は、復元された波形と既知の信号波形や既知のデータパターンとの相関をとり、その相関結果を注入同期判定情報とする。コントローラ部8446は、強い相関が得られたとき同期したと判断する。
2)注入同期検出部8442は、復調されたベースバンド信号の直流成分を監視(モニタ)し、その監視結果を注入同期判定情報とする。コントローラ部8446は、直流成分が安定したとき、同期したと判断する。
前記の1)や2)の仕組みについては様々な手法が考えられるが、ここではその詳細については説明を割愛する。また、同期したかどうかの判定手法は、ここで示した1),2)の他にも考えられ、それらも本実施形態に採用し得る。
コントローラ部8446は、注入同期がとれていないと判断した場合は、予め決められた手順に従い、送信側で変調に使用した搬送信号と受信側局部発振部8404から出力される信号(発振回路出力)の同期がとれるように(注入同期がとれるように)、受信側局部発振部8404への発振周波数の設定情報や位相振幅調整部8406への振幅および位相の設定情報を変更する。この後、コントローラ部8446は、再度、注入同期状態を判定するという手順を良好な同期がとれるまで繰り返す。
受信側局部発振部8404の注入同期が正しく行なわれ周波数混合部8402で周波数変換(同期検波)されたベースバンド信号はフィルタ処理部8410へ供給される。フィルタ処理部8410には、低域通過フィルタ8412の他に等化器8414が設けられている。等化器8414は、たとえば符号間干渉を低減させるため、受信した信号の高周波帯域に、低下した分の利得を加えるイコライザ(つまり波形等化)フィルタを有する。
ベースバンド信号は低域通過フィルタ8412で高域成分が除去され、等化器8414により高域成分が補正される。
クロック再生部8420は、シンボル同期部8422、デコード部8424、デマルチプレクサ部8426を有する。デコード部8424はエンコード部8322に対応するものであり、デマルチプレクサ部8426はマルチプレクサ部8324に対応するものであり、それぞれ送信側とは逆の処理を行なう。クロック再生部8420は、シンボル同期部8422でシンボル同期した後、コントローラ部8446からのコーディング(Coding)パターンの設定情報およびマルチプレクスの設定に基づいて、元の入力信号を復元する。
CMOSは微細化が今後さらに進み、その動作周波数はさらに上昇する。より高帯域で小型の伝送システムを実現するには、高い搬送周波を使うことが望まれる。本例の注入同期方式は、発振周波数安定度についての要求仕様を緩めることができるため、より高い搬送周波数を容易に用いることができる。注入同期で発振する受信側局部発振部8404は式(A)より明らかなように、送信側の周波数変動に追従できるような低いQであることが必要である。これは、タンク回路を含む受信側局部発振部8404の全体をCMOS上で形成する場合に都合がよい。もちろん、受信側局部発振部8404と同様の回路構成の発振回路を送信側局部発振部8304として使用してもよく、タンク回路を含む送信側局部発振部8304の全体をCMOS上で形成することができる。
<注入同期方式:第2実施形態>
図9〜図9Aは、注入同期方式を適用する送信器側の構成例の第2実施形態を説明する図である。図10〜図10Aは、注入同期方式を適用する受信器側の構成例の第2実施形態を説明する図である。
第2実施形態は、送信側の機能部を調整して注入同期がとれるように制御する方式を適用する構成である。送信側の機能部を調整して注入同期がとれるように制御するに当たって何の情報を受信側から送信側に送るかや、制御主体を送信側におくのか受信側におくのかで、様々な構成を採り得る。以下では、その中で代表的な2例について第1実施形態との相違点のみを説明する。
図9に示す第2実施形態(第1例)の送信側信号生成部8110B_1と図10に示す第2実施形態(第1例)の受信側信号生成部8220B_1の組合せで、第2実施形態(第1例)の無線伝送システム1B_1が構成される。図9Aに示す第2実施形態(第2例)の送信側信号生成部8110B_2と図10Aに示す第2実施形態(第2例)の受信側信号生成部8220B_2の組合せで、第2実施形態(第2例)の無線伝送システム1B_2が構成される。
第2実施形態(第1例)は、注入同期判定情報を送信側に送り、送信側に制御主体をおく構成である。具体的には、受信側信号生成部8220B_1のコントローラ部8446は、注入同期検出部8442が取得した注入同期判定情報を送信側信号生成部8110B_1のコントローラ部8346に送る。コントローラ部8446は注入同期判定情報の送信側への伝送に介在するだけで実態としては制御主体とはならない。なお、コントローラ部8446を介在させずに、注入同期検出部8442が注入同期判定情報を送信側信号生成部8110B_1のコントローラ部8346に送るように構成してもよい。
コントローラ部8346には、受信側の注入同期検出部8442が検出した注入同期の状態を示す情報に基づき、受信側局部発振部8404で生成される復調搬送信号が、変調搬送信号と同期するように同期調整を行なう注入同期調整部の機能部を備えている。注入同期検出部8442とコントローラ部8346の注入同期調整に関わる機能部(注入同期調整部)で注入同期制御部8440と同様の注入同期制御部が構成される。
コントローラ部8346は、注入同期がとれるように、送信側局部発振部8304の自走発振周波数やミリ波信号の送信振幅(送信電力)を制御する。同期がとれているか否かの判断手法はコントローラ部8446の場合と同様の手法でよい。
コントローラ部8346は、注入同期がとれていないと判断した場合は、予め決められた手順に従い、送信側局部発振部8304への発振周波数の設定情報や位相振幅調整回路8307への振幅および位相の設定情報を変更し、また、増幅部8117への利得の設定情報を変更する。振幅変調やASK方式を採用している場合には、変調度を制御することでミリ波信号に含まれる搬送信号の無変調成分の振幅を調整してもよい。この後、コントローラ部8346は、再度、注入同期状態を判定するという手順を良好な同期がとれるまで繰り返す。
一方、第2実施形態(第2例)は、受信側に制御主体をおき、送信側に制御コマンドを送って受信側から送信側を制御する構成である。具体的には、コントローラ部8446は、注入同期検出部8442により取得された注入同期判定情報に基づき同期がとれているか否かを判定し、注入同期がとれていないと判断した場合は、変調機能部8300と増幅部8117を制御する制御コマンドを送信側に送る。つまり、コントローラ部8446が直接に変調機能部8300と増幅部8117を制御する。換言すると、コントローラ部8346は、変調機能部8300に対して、発振周波数、基準搬送信号の位相や振幅の各初期設定を行ない、また、増幅部8117に対して利得の初期設定を行なうが、注入同期に関わる設定情報の変更制御は行なわない。
コントローラ部8446は、注入同期がとれていないと判断した場合は、第1例のコントローラ部8346と同様に、予め決められた手順に従い、送信側局部発振部8304への発振周波数の設定情報や位相振幅調整回路8307への振幅および位相の設定情報を変更し、また、増幅部8117への利得の設定情報を変更する。振幅変調やASK方式を採用している場合には、変調度を制御することでミリ波信号に含まれる搬送信号の無変調成分の振幅を調整してもよい。この後、コントローラ部8446は、再度、注入同期状態を判定するという手順を良好な同期がとれるまで繰り返す。
<発振回路の構成例>
図11〜図11Aは、送信側局部発振部8304や受信側局部発振部8404として使用される発振回路の構成例を説明する図である。図11(1)はその回路構成例であり、図11(2)は、インダクタ回路のCMOS上のレイアウトパターン例である。図11Aは、インダクタ回路のCMOS上のレイアウトパターン例の詳細を説明する図である。
ここで示す発振回路は、一般的なインダクタとキャパシタで構成されるタンク回路(LC共振回路)を持つ差動負性抵抗発振回路8500であり、タンク回路を含む全ての構成素子(発振素子)が、同一の半導体基板(シリコン基板)上に形成される。
差動負性抵抗発振回路8500は、電流源8510、襷がけ構成の差動トランジスタ対(トランジスタ8522_1,8522_2)で構成された負性抵抗回路8520、LC回路(インダクタ回路8532およびキャパシタ回路8534)で構成されたタンク回路8530を備える。
トランジスタ8522_1,8522_2の各ソースは共通に電流源8510の出力端に接続されている。トランジスタ8522_1のゲートはトランジスタ8522_2のドレインと接続され、トランジスタ8522_2のゲートはトランジスタ8522_1のドレインと接続され、襷がけ構成とされている。
トランジスタ8522_1,8522_2の各ドレインと電源Vdd間にインダクタ回路8532が接続されている。
インダクタ回路8532は、トランジスタ8522_1側のインダクタンス成分8532L_1と抵抗成分8532R_1の直列回路およびトランジスタ8522_2側のインダクタンス成分8532L_2と抵抗成分8532R_2の直列回路で表わされている。トランジスタ8522_1,8522_2のドレイン間にキャパシタ回路8534が接続されている。インダクタンス成分8532Lは巻線によって生成される誘導成分であり、抵抗成分8532Rはその損失分(直列抵抗成分)である。
インダクタ回路8532は、送信側信号生成部8110や受信側信号生成部8220などが形成されるCMOSと同一チップ上において、電流源8510、負性抵抗回路8520、キャパシタ回路8534などの発振素子を絶縁する絶縁層上に配置される。つまり、タンク回路8530を含む差動負性抵抗発振回路8500の全体が、送信側信号生成部8110や受信側信号生成部8220とともに1チップ化される。
キャパシタ回路8534は、トランジスタ8522_1側のキャパシタ成分8534C_1とコンダクタンス成分8534G_1の並列回路およびトランジスタ8522_2側のキャパシタ成分8534C_2とコンダクタンス成分8534G_2の並列回路で表わされている。キャパシタ成分8534Cは、たとえばダイオードの両端に逆バイアス電圧を印加することで端子間に発生する容量成分を利用するものでバリキャップダイオード(可変容量ダイオード、バラクタ)などが使用される。コンダクタンス成分8534Gはそのバリキャップダイオードの損失成分である。
負性抵抗回路8520とタンク回路8530(インダクタ回路8532およびキャパシタ回路8534)の接続点a,bが差動負性抵抗発振回路8500の信号出力端となり周波数混合部8402と差動信号で接続されるとともに注入信号の入力端ともなる。因みに、注入信号の入力は接続点a,bに電流源を介して行なう。
注入信号の中心周波数が変調信号の搬送周波数と同じ場合は、接続点a,bの出力信号(構成によっては位相振幅調整部8406を介して)を周波数混合部8402への再生搬送信号として使用する。また、変調に使用する搬送信号のN倍の高調波を基準搬送信号として使用している場合には、接続点a,bの出力信号を1/N倍に分周した信号(構成によっては位相振幅調整部8406を介して)を周波数混合部8402への再生搬送信号として使用する。
差動負性抵抗発振回路8500では、トランジスタ8522_1,8522_2が交互にオンオフすることで、電流源8510によって制限される電流がドレイン側に流れる。そのドレイン側にはタンク回路8530(共振回路)が設けられているので、差動負性抵抗発振回路8500は、注入信号が供給されない場合でも、タンク回路8530を構成するインダクタ回路8532とキャパシタ回路8534の素子定数で規定される共振周波数で自走発振する。たとえば、キャパシタ回路8534を構成するバリキャップダイオードの逆バイアス電圧を調整することで差動負性抵抗発振回路8500の自走発振周波数を調整できる。
図11(2)に示すインダクタ回路8532のレイアウトパターン例においては、メタル層パターンにより概ね8角形状の線輪パターンが複数層に亘って螺旋状に形成されることで巻き数nの略円形のコイルが1対形成されている。たとえば、電源Vdd側と接続点a,b側を円の反対側に配置する場合、2n層で巻き数nのコイルが得られる。円形のコイル8550の一方はインダクタンス成分8532L_1と抵抗成分8532R_1の直列回路で、他方がインダクタンス成分8532L_2と抵抗成分8532R_2の直列回路で表わされることになる。
図はn=1.5の場合であり、コイル8550を形成するための配線層の内で、電源Vddの引出しパターンが配置される層を最上層(たとえば第9配線層)とし、接続点a,dの引出しパターンが配置される層を最下層(たとえば第7配線層)とし、さらにその間の1つの層(たとえば第8配線層)も使って、1.5ターンのコイル8550_1(インダクタンス成分8532L_1と抵抗成分8532R_1の直列回路)と1.5ターンのコイル8550_2(インダクタンス成分8532L_2と抵抗成分8532R_2の直列回路)を形成している。
図11(2)に示すように、コイル8550_1,8550_2は全体的には二重螺旋状態(外側の線輪パターンと内側の線輪パターンを組み合わせた状態)となっている。詳細には、たとえば、トランジスタ8522_1側のコイル8550_1は、第9配線層の電源引出しパターンから、そのまま第9配線層で左周りで外側の線輪パターン8552_91 にて半周させてコンタクトホール8554で第8配線層へ移行する(図11A(1))。そして、第8配線層で内側の線輪パターン8552_81 にて左周りで半周させてコンタクトホール8555で第7配線層へ移行する(図11A(2))。そして、第7配線層で外側の線輪パターン8552_71 (線輪パターン8552_91 の下層に形成)にて左周りで半周させて接続点aへと引き出す(図11A(3))。
一方、トランジスタ8522_2側のコイル8550_2は、第9配線層の電源引出しパターンから、そのまま第9配線層で右周りで外側の線輪パターン8552_92 にて半周させてコンタクトホール8556で第8配線層へ移行する(図11A(1))。そして、第8配線層で内側の線輪パターン8552_82 にて右周りで半周させてコンタクトホール8557で第7配線層へ移行する(図11A(2))。そして、第7配線層で外側の線輪パターン8552_72 (線輪パターン8552_92 の下層に形成)にて右周りで半周させて接続点bへと引き出す(図11A(3))。
ここで、透磁率μ、巻き数n、半径rとしたとき、円形コイルのインダクタンス成分8532L_1,8532L_2のインダクタ値Lは、参考文献Fに示されているように、おおよそ「μ・(n^2)・r」で近似できる。
参考文献F:Thomas Lee, “The Design of CMOS Radio-Frequency Integrated Circuits”(特に“4.5.1 SPIRAL INDUCTORS”,pp136〜137),ISBN 0-521-83539-9
一方、図11に示すインダクタンス成分8532L_1,8532L_2と直列の抵抗成分8532R_1,462R_2の抵抗値Rは、図11Aに示す円形コイル(メタル層パターン)の線幅Wに大きく依存する。線の抵抗値Rは線幅Wにおおよそ反比例するので、高いQ値のインダクタを作るためには線幅Wを大きくしなければならない。
安定度の高い搬送波を作るために、Q値の高い(つまり抵抗成分8532R_1,462R_2の抵抗値R)の小さいインダクタを作ろうとすると線幅Wが大きくなり、同じ半径Rの大きさで作れる巻数nが少なくなる。逆に、抵抗値Rが大きくなることを許容できれば、線幅Wを小さくして、同じインダクタンス値Lを小さいサイズ(半径R)のインダクタで実現できることになる。安定度を緩めた搬送波で伝送された信号を、受信側でQが低く小さい回路で復調するのには注入同期による方法が有効である。
「小さい回路」でよい理由は、Qが低くてよいことだけでなく、ミリ波帯を使用することで、搬送周波数が数10GHzと高いので、所望のインピーダンスを実現するためのインダクタ回路8532のインダクタ値Lおよびキャパシタ回路8534の容量値Cは周波数に比例して小さくできることも関係する。また、インダクタとキャパシタで共振用のタンク回路8530を作る場合、周波数を上げれば、タンク回路8530をより小さいインダクタ値と容量値で実現できることも「小さい回路」にできる要因である。
以上のことから、ここで説明した差動負性抵抗発振回路8500を送信側局部発振部8304や受信側局部発振部8404として使用することで、タンク回路8530を含む全ての発振素子がCMOS構成の半導体チップに構成できる。半導体チップの外部にタンク回路を持たないで送信側局部発振部8304や受信側局部発振部8404を構成できる。タンク回路内蔵の1チップ発振回路(IC:半導体集積回路)が実現される。
送信側局部発振部8304は周波数混合部8302を含む送信側信号生成部110,210を構成する送信側のその他の機能部と合わせて1チップにされて送信用の無線通信装置(半導体集積回路)として提供され得る。また、受信側局部発振部8404は周波数混合部8402を含む受信側信号生成部120,220を構成する受信側のその他の機能部と合わせて1チップにされて受信用の無線通信装置(半導体集積回路)として提供され得る。また、これら送信用と受信用の無線通信装置(半導体集積回路)がさらに1チップ化されて双方向通信用の無線通信装置(半導体集積回路)として提供され得る。タンク回路内蔵の1チップ通信回路(IC)が実現される。
<多チャネル化と注入同期の関係>
図12は、多チャネル化と注入同期の関係を説明する図である。図12(1)に示すように、多チャンネル化は、異なる搬送周波数を異なる通信送受対が用いればよい、つまり周波数分割多重で多チャンネル化は実現される。全二重双方向化も異なる搬送周波数を用いれば容易に実現でき、撮像装置の筐体内で複数の半導体チップ(つまり送信側信号生成部110と受信側信号生成部220)が独立して通信するような状況も実現できる。
たとえば、図12(2)〜(4)に示すように、2つの送受信ペアが同時に独立な伝送をしているときを考える。ここで、図12(2)に示すように、自乗検波方式を適用した場合は、先にも説明したが、周波数多重方式での多チャンネル化には受信側の周波数選択のためのバンドパスフィルタ(BPF)が必要となる。急峻なバンドパスフィルタを小型に実現するのは容易ではないし、選択周波数を変更するためには可変バンドパスフィルタが必要となる。送信側における時間的に変動する周波数成分(周波数変動成分Δ)の影響を受けるため、変調方式は周波数変動成分Δの影響を無視できるようなもの(たとえばOOK)などに限られ、変調信号を直交化してデータ伝送レートを上げると言うことも困難である。
小型化のため受信側にキャリア同期のPLLを持たない場合、たとえば図12(3)に示すように、IF(Intermediate Frequency:中間周波数)にダウンコンバートして自乗検波することが考えられる。この場合、十分に高いIFに周波数変換するブロックを加えることにより、バンドパスフィルタなしに受信する信号を選択できるが、その分回路が複雑になる。送信側における周波数変動成分Δだけでなく、受信側のダウンコンバートにおける時間的に変動する周波数成分(周波数変動成分Δ)の影響も受ける。このため、変調方式は、周波数変動成分Δの影響を無視できるように、振幅情報を取り出すもの(たとえばASKやOOKなど)に限られる。
これに対して、図12(4)に示すように、注入同期方式を適用すれば、送信側局部発振回路304と受信側局部発振部8404が完全に同期するため、様々な変調方式が容易に実現できる。キャリア同期のためのPLLも不要で回路規模も小さくて済み、受信周波数の選択も容易になる。加えて、ミリ波帯域の発振回路は低い周波数より時定数の小さいタンク回路を使って実現できるので、注入同期に要する時間も低い周波数比べて短くて済み、高速の伝送に向いている。このように、注入同期方式を適用することで、通常のベースバンド信号によるチップ間の信号に比べて、伝送速度を容易に高速化でき、入出力の端子数を削減することができる。ミリ波の小型アンテナをチップ上に構成することもでき、チップからの信号の取出し方に著しく大きな自由度を与えることもできる。さらに、注入同期によって送信側の周波数変動成分Δが打ち消されるので、位相変調(たとえば直交変調)など様々な変調が可能となる。
周波数分割多重による多チャンネル化を実現する場合でも、受信側では、送信側で変調に使用した搬送信号と同期した信号を再生して同期検波により周波数変換を行なうことで、搬送信号の周波数変動Δがあってもその影響(いわゆる干渉の影響)を受けずに伝送信号を復元できる。図12(4)に示すように、周波数変換回路(ダウンコンバータ)の前段に周波数選択フィルタとしてのバンドパスフィルタを入れなくても済む。
<伝送路構造>
[第1例]
図13は、本実施形態の無線伝送路構造の第1例を説明する図である。第1例の伝送路構造は、1つの電子機器の筐体内でミリ波により信号伝送を行なう場合での適用例である。電子機器としては固体撮像装置を搭載した撮像装置への適用例で示す。
第1通信装置100が制御回路や画像処理回路などを搭載したメイン基板に搭載され、第2通信装置200が固体撮像装置を搭載した撮像基板に搭載されているシステム構成となっている。図13では、基板間のミリ波信号伝送に着目して、撮像装置500の断面模式図を示しており、ミリ波信号伝送と関わりのない部品は適宜図示を省略している。
撮像装置500の筐体590内には、撮像基板502とメイン基板602が配置されている。撮像基板502には固体撮像装置505が搭載される。たとえば、固体撮像装置505はCCD(Charge Coupled Device )で、その駆動部(水平ドライバや垂直ドライバ)も含めて撮像基板502に搭載する場合や、CMOS(Complementary Metal-oxide Semiconductor )センサの場合が該当する。
固体撮像装置505を搭載した撮像基板502との間で信号伝送を行なうメイン基板602に第1通信装置100(半導体チップ103)を搭載し、撮像基板502に第2通信装置200(半導体チップ203)を搭載する。前述のように、半導体チップ103,203には、信号生成部107,207、伝送路結合部108,208が設けられる。
図示しないが、撮像基板502には、固体撮像装置505や撮像駆動部が搭載される。図示しないが、メイン基板602には画像処理エンジンが搭載される。メイン基板602には図示しない操作部や各種のセンサが接続される。メイン基板602は図示しない外部インタフェースを介してパーソナルコンピュータやプリンタなどの周辺機器と接続可能になっている。操作部には、たとえば、電源スイッチ、設定ダイアル、ジョグダイアル、決定スイッチ、ズームスイッチ、レリーズスイッチなどが設けられる。
固体撮像装置505や撮像駆動部は、無線伝送システム1におけるLSI機能部204のアプリケーション機能部に該当する。信号生成部207や伝送路結合部208は固体撮像装置505とは別の半導体チップ203に収容してもよいし、固体撮像装置505や撮像駆動部などと一体的に作り込んでもよい。別体にした場合には、その間(たとえば半導体チップ間)の信号伝送に関しては、電気配線により信号を伝送することに起因する問題が懸念されるので、一体的に作り込んだ方が好ましい。固体撮像装置505や撮像駆動部などは別の半導体チップ203であるとする。アンテナ236はパッチアンテナとしてチップ外に配置してもよいし、たとえば逆F型などでチップ内に形成してもよい。ミリ波通信においては、ミリ波の波長が数mmと短いため、アンテナも小型で数mm角オーダーとなり、撮像装置500内のような狭い場所にも簡単にパッチアンテナを設置可能である。
画像処理エンジンは無線伝送システム1におけるLSI機能部104のアプリケーション機能部に該当し、固体撮像装置505で得られた撮像信号を処理する画像処理部が収容される。信号生成部107や伝送路結合部108は画像処理エンジンとは別の半導体チップ103Bに収容してもよいし、画像処理エンジンと一体的に作り込んでもよい。別体にした場合には、その間(たとえば半導体チップ間)の信号伝送に関しては、電気配線により信号を伝送することに起因する問題が懸念されるので、一体的に作り込んだ方が好ましい。ここでは、画像処理エンジンとは別の半導体チップ103であるとする。アンテナ136はパッチアンテナとしてチップ外に配置してもよいし、たとえば逆F型などでチップ内に形成してもよい。
画像処理エンジンには、画像処理部の他に、たとえば、CPU(中央処理装置)や記憶部(ワークメモリやプログラムROMなど)などで構成されたカメラ制御部などの制御回路や制御信号生成部なども収容されている。カメラ制御部は、プログラムROMに記憶されているプログラムをワークメモリに読み出し、プログラムに従って撮像装置500の各部を制御する。
カメラ制御部はまた、操作部の各スイッチからの信号に基づき撮像装置500全体を制御し、電源部を制御することで各部に電源を供給し、外部インタフェースを介して周辺機器と画像データの転送などの通信を行なう。
カメラ制御部はまた、撮影に関するシーケンス制御を行なう。たとえば、カメラ制御部は、同期信号発生部や撮像駆動部を介して固体撮像装置505の撮像動作を制御する。同期信号発生部は信号処理のために必要な基本的な同期信号を発生し、撮像駆動部は同期信号発生部の発生する同期信号とカメラ制御部からの制御信号を受信して、固体撮像装置505を駆動するための詳細なタイミング信号を発生する。
固体撮像装置505から画像処理エンジンに送られる画像信号(撮像信号)は、アナログ信号・デジタル信号の何れでもよい。デジタル信号にする場合において、固体撮像装置505がCCDであるのかCMOSであるのかなど種類を問わず、AD変換部と別体の場合には、撮像基板502にAD変換部が搭載される。
撮像基板502には、無線伝送システム1を実現するべく、固体撮像装置505の他に、信号生成部207、伝送路結合部208が搭載される。同様に、メイン基板602には、無線伝送システム1を実現するべく、信号生成部107、伝送路結合部108が搭載される。撮像基板502側の伝送路結合部208とメイン基板602側の伝送路結合部108の間はミリ波信号伝送路9によって結合される。これによって、撮像基板502側の伝送路結合部208とメイン基板602側の伝送路結合部108の間で、ミリ波帯での信号伝送が双方向に行なわれる。
片方向通信でよい場合は、送信側に信号生成部107および伝送路結合部108を配置し、受信側に信号生成部207および伝送路結合部208を配置すればよい。たとえば、固体撮像装置505で取得された撮像信号のみを伝送する場合であれば、撮像基板502側を送信側としメイン基板602側を受信側とすればよい。固体撮像装置505を制御するための信号(たとえば高速のマスタークロック信号や制御信号や同期信号)のみを伝送する場合であれば、メイン基板602側を送信側とし撮像基板502側を受信側とすればよい。
2つのアンテナ136,236間でミリ波通信が行なわれることで、固体撮像装置505で取得される画像信号は、アンテナ136,236間のミリ波信号伝送路9を介してミリ波にのせられてメイン基板602へと伝送される。また、固体撮像装置505を制御する各種の制御信号は、アンテナ136,236間のミリ波信号伝送路9を介してミリ波にのせられて撮像基板502へと伝送される。
ここで、ミリ波信号伝送路9としては、アンテナ136,236が対向して配置される形態、アンテナ136,236が基板の平面方向にズレて配置される形態の何れでもよい。アンテナ136,236が対向して配置される形態では、基板の法線方向に指向性を有するたとえばパッチアンテナを使用するとよい。アンテナ136,236が基板の平面方向にズレて配置される形態では、基板の平面方向に指向性を有するたとえばダイポールアンテナや八木宇田アンテナや逆F型アンテナなどを使用するとよい。
ミリ波信号伝送路9のそれぞれは、図13(1)に示すように自由空間伝送路9Bでもよいが、図13各(2),(3)に示すような誘電体伝送路9Aや図13(4),(5)に示すような中空導波路9Lにすることが望ましい。
自由空間伝送路9Bとする場合において、ミリ波信号伝送路9を近接して複数系統設ける場合は、好ましくは、各系統のアンテナ対の間での干渉を抑えるために、電波伝搬を妨げる構造物(ミリ波遮蔽材MY)を系統間に配置するのがよい。ミリ波遮蔽材MYは、メイン基板602および撮像基板502の何れか一方に配置してもよいし双方に配置してもよい。ミリ波遮蔽材MYを配置するか否かは、系統間の空間距離と干渉の度合いから決めればよい。干渉の度合いは送信電力とも関係するので、空間距離・送信電力・干渉の度合いを総合的に勘案して決めることになる。
誘電体伝送路9Aとしては、たとえば、図13(2)に示すように、アンテナ136,236間を、たとえばシリコーン樹脂系のような柔らかい(柔軟性を持つ)誘電体素材で接続することが考えられる。誘電体伝送路9Aは、その周囲を遮蔽材(たとえば導電体)で囲んでもよい。誘電体素材の柔軟性を活かすためには、遮蔽材にも柔軟性を持たせるのがよい。誘電体伝送路9Aで接続されるが、その素材が柔らかいため、電気配線のように引回しが可能である。
また誘電体伝送路9Aの他の例としては、図13(3)に示すように、メイン基板602上のアンテナ136の上に誘電体伝送路9Aを固定して、撮像基板502のアンテナ236が誘電体伝送路9Aと接触する位置に配置されるようにしてもよい。なお、逆に、誘電体伝送路9Aを撮像基板502側に固定してもよい。
中空導波路9Lとしては、周囲が遮蔽材で囲まれ内部が中空の構造であればよい。たとえば、図13(4)に示すように、周囲が遮蔽材の一例である導電体MZで囲まれ内部が中空の構造にする。たとえば、メイン基板602上にアンテナ136を取り囲む形で導電体MZの囲いが取り付けられている。アンテナ136と対向する位置に撮像基板502側のアンテナ236の移動中心が配置されるようにする。導電体MZの内部が中空であるので誘電体素材を使用する必要がなく低コストで簡易にミリ波信号伝送路9を構成できる。
導電体MZの囲いは、メイン基板602側、撮像基板502側の何れに設けてもよい。何れの場合も、導電体MZによる囲いと撮像基板502やメイン基板602との距離L(導電体MZの端から相対する基板までの隙間の長さ)はミリ波の波長に比べて十分小さい値に設定する。遮蔽材(囲い:導電体MZ)の大きさや形状は、アンテナ136,236の対向範囲が囲い(導電体MZ)の内側に存在するような大きさおよび平面形状に設定すればよい。その限りにおいて導電体MZの平面形状は、円形・三角・四角など任意である。
中空導波路9Lは、基板上の導電体MZで囲いを形成することに限らず、たとえば、図13(5)に示すように、比較的厚めの基板に貫通穴または非貫通穴を設けて、その穴の壁面を囲いに利用するように構成してもよい。この場合、基板が遮蔽材として機能する。穴は、撮像基板502およびメイン基板602の何れか一方であってもよいし双方であってもよい。穴の側壁は導電体で覆われていてもよいし、覆われてなくてもよい。後者の場合は、基板と空気の比誘電率の比によって、ミリ波は反射され穴の中に強く分布することになる。穴を貫通させる場合には、半導体チップ103,203の裏面にアンテナ136,236を配置する(取り付ける)とよい。穴を貫通させずに途中で止める(非貫通穴とする)場合、穴の底にアンテナ136,236を設置すればよい。
穴の断面の大きさや形状は、アンテナ136,236の対向範囲が囲いとして機能する基板側壁の内側に存在するような大きさおよび平面形状に設定すればよい。その限りにおいて断面形状は円形・三角・四角など任意である。
1つの電気機器(この例では撮像装置500)の筐体内に第1通信装置100と第2通信装置200を配置してミリ波信号伝送を行なう際に、ミリ波信号伝送路9を自由空間伝送路9Bとする場合、筐体内の部材による反射の影響が懸念される。特に、注入同期方式を適用する場合、同方式を適用しない場合よりも総じて送信電力が大きくなり、反射に起因する干渉やマルチパスの問題が顕在化することが予想される。これに対して、誘電体伝送路9Aや中空導波路9Lなどのようなミリ波閉じ込め構造(導波路構造)のミリ波信号伝送路9にすれば、筐体内の部材による反射の影響を受けない。加えて、一方のアンテナ136から放出したミリ波信号をミリ波信号伝送路9に閉じ込めて他方のアンテナ236側に伝送できるため、放出電波の無駄が少なくなるので注入同期方式を適用する場合でも送信電力を小さくできる。
[第2例]
図13Aは、本実施形態の無線伝送路構造の第2例を説明する図である。第2例の伝送路構造は、複数の電子機器が一体となった状態での電子機器間でミリ波により信号伝送を行なう場合での適用例である。たとえば、一方の電子機器が他方の(たとえば本体側の)電子機器に装着されたときの両電子機器間の信号伝送への適用である。
たとえば、中央演算処理装置(CPU)や不揮発性の記憶装置(たとえばフラッシュメモリ)などが内蔵されたいわゆるICカードやメモリカードを代表例とするカード型の情報処理装置を本体側の電子機器に装着可能(着脱自在)にしたものがある。一方(第1)の電子機器の一例であるカード型の情報処理装置を以下では「カード型装置」とも称する。本体側となる他方(第2)の電子機器を以下では単に電子機器とも称する。
電子機器101Aとメモリカード201Aの間のスロット構造4Aは、電子機器101Aに対して、メモリカード201Aの着脱を行なう構造であり、電子機器101Aとメモリカード201Aの固定手段の機能を持つ。
図13A(2)に示すように、スロット構造4Aは、電子機器101A側の筺体190に、メモリカード201A(その筐体290)を開口部192から挿抜して固定可能な構成となっている。筺体190の開口部192とは反対側(外側)の一面に基板102が支持材191により取り付けられている。
スロット構造4Aのメモリカード201Aの端子との接触位置には受け側のコネクタが設けられる。ミリ波伝送に置き換えた信号についてはコネクタ端子(コネクタピン)が不要である。
なお、電子機器101A側(スロット構造4A)において、ミリ波伝送に置き換えた信号についてもコネクタ端子を設けておくことが考えられる。この場合、スロット構造4Aに挿入されたメモリカード201が第2例のミリ波伝送路構造が適用されていない従前のものの場合には、従前のように電気配線により信号伝送を行なえる。
電子機器101Aとメモリカード201Aは、嵌合構造として、凹凸の形状構成を具備する。ここでは、図13A(2)に示すように、電子機器101Aの筺体190に円筒状の凸形状構成198A(出っ張り)を設け、図13A(1)に示すように、メモリカード201Aの筐体290に円筒状の凹形状構成298A(窪み)を設けている。つまり、図13A(3)に示すように、筺体190において、メモリカード201Aの挿入時に、凹形状構成298Aの位置に対応する部分に凸形状構成198Aが設けられている。
このような構成により、スロット構造4Aに対するメモリカード201Aの装着時に、メモリカード201Aの固定と位置合せを同時に行なうようにしている。なお、凹凸形状の嵌合にガタがあっても、アンテナ136,236が遮蔽材(囲い:導体144)の外に出ないような大きさに設定すればよく、凹凸形状構成の平面形状は、図のように円形であることは必須ではなく、三角や四角など任意である。
たとえば、メモリカード201Aの構造例(平面透視および断面透視)が図13A(1)に示されている。メモリカード201Aは、基板202の一方の面上に信号生成部207(ミリ波信号変換部)を具備する半導体チップ203を有する。半導体チップ203には、ミリ波信号伝送路9と結合するためのミリ波送受信端子232が設けられている。基板202の一方の面上には、ミリ波送受信端子232と接続された基板パターンによるミリ波伝送路234とアンテナ236(図ではパッチアンテナ)が形成されている。ミリ波送受信端子232、ミリ波伝送路234、およびアンテナ236で、伝送路結合部208が構成されている。
パッチアンテナは、法線方向の指向性が鋭くないので、アンテナ136,236はオーバーラップ部分の面積がある程度大きくとれていれば多少ズレて配置されても、受信感度には影響を受けない。ミリ波通信においては、ミリ波の波長が数mmと短いため、アンテナも小型で数mm角オーダーとなり、小型のメモリカード201内のような狭い場所にも簡単にパッチアンテナを設置可能である。
なお、アンテナ136,236を半導体チップ103,203内に形成する場合は、たとえば逆F型など、さらに小型のアンテナが求められる。因みに、逆F型アンテナは、無指向性であり、換言すると、基板の厚さ(法線)方向だけではなく平面方向にも指向性を持つので、ミリ波信号伝送路9との結合をとる伝送路結合部108,208に反射板を設けるなどの工夫をすることで伝送効率を向上させるのがよい。
筐体290は、基板202を保護するための覆いであり、少なくとも凹形状構成298Aの部分は、ミリ波信号伝送可能な比誘電率を有した誘電体素材を含む誘電体樹脂で構成される。凹形状構成298Aの誘電体素材には、たとえば、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系などからなる部材が使用される。筺体290の少なくとも凹形状構成298Aの部分の誘電体素材もミリ波誘電体伝送路を構成するようになる。
筐体290において、アンテナ236と同一面に凹形状構成298Aが形成される。凹形状構成298Aは、スロット構造4Aに対するメモリカード201Aの固定を行なうとともに、スロット構造4Aが具備するミリ波信号伝送路9とのミリ波伝送の結合に対する位置合せを行なう。
基板202の一辺には、筐体290の決められた箇所で電子機器101Aと接続するための接続端子280(信号ピン)が、筐体290の決められた位置に設けられている。第1実施形態の場合、メモリカード201Aは、低速・小容量の信号用や電源供給用に、従前の端子構造を一部に備えることになる。クロック信号や複数本のデータ信号は、ミリ波での信号伝送の対象となるので、図中に点線で示すように、端子を取り外している。
電子機器101Aの構造例(平面透視および断面透視)が図13A(2)に示されている。電子機器101Aは、基板102の一方(開口部192側)の面上に信号生成部107(ミリ波信号変換部)を具備する半導体チップ103を有する。半導体チップ103には、ミリ波信号伝送路9と結合するためのミリ波送受信端子132が設けられている。基板102の一方の面上には、ミリ波送受信端子132と接続された基板パターンによるミリ波伝送路134とアンテナ136(図ではパッチアンテナ)が形成されている。ミリ波送受信端子132、ミリ波伝送路134、およびアンテナ136で、伝送路結合部108が構成されている。
筺体190には、スロット構造4Aとして、メモリカード201Aが挿抜される開口部192が形成されている。
筺体190には、メモリカード201Aが開口部192に挿入されたときに、凹形状構成298Aの位置に対応する部分に、ミリ波閉じ込め構造(導波路構造)を持つミリ波信号伝送路9を構成するように凸形状構成198Aが形成されている。本例では、凸形状構成198Aは、誘電素材が内部に充填された誘電体導波管142を筒型の導体144内に形成することで誘電体伝送路9Aとなるように構成されており、伝送路結合部108のアンテナ136に対して誘電体導波管142の中心が一致するように固定的に配置される。凹凸の嵌合構造に、アンテナ136,236間の結合を強化する構造として誘電体導波管142を設けている。
なお、誘電体導波管142を設けることは必須ではなく、筺体190,290の誘電体素材のままでミリ波信号伝送路9が構成されるようにしておいてもよい。また、誘電体伝送路9Aではなく、周囲が遮蔽材で囲まれ内部が中空の中空導波路9Lに変形してもよい。たとえば、筒型の導体144内を空洞(中空)状態に形成することで中空導波路9Lを構成すればよい。このような構造の中空導波路9Lでも、囲いの機能を持つ導体144によってミリ波が中空導波路9Lの中に閉じ込められるため、ミリ波の伝送損失が少なく効率的に伝送できる、ミリ波の外部放射を抑える、EMC対策がより楽になるなどの利点が得られる。
誘電体導波管142の径、長さ、素材などのパラメータは、ミリ波信号を効率よく伝送可能なように決定される。素材としては、前述のように、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、エポキシ樹脂系、シリコーン系、ポリイミド系、シアノアクリレート樹脂系からなるものなど、比誘電率が2〜10(好ましくは3〜6)程度、誘電正接が0.00001〜0.01(好ましくは0.00001〜0.001)程度の誘電体素材を用いるのがよい。ミリ波信号を誘電体伝送路9Aに閉じ込めることで、伝送効率の向上を図ることができ、ミリ波の信号伝送が不都合なく行なえる。素材を適正に選択することで、導体144を設けなくてもよい場合もある。
導体144の径は、メモリカード201Aの凹形状構成298Aの径に対応するように構成される。導体144は、誘電体導波管142内に伝送されるミリ波の外部放射を抑える遮蔽材としての効果もある。
電子機器101Aのスロット構造4A(特に開口部192)にメモリカード201Aが挿入されたときの構造例(断面透視)が図13A(3)に示されている。図示のように、スロット構造4Aの筺体190は開口部192からのメモリカード201Aの挿入に対し、凸形状構成198A(誘電体伝送路9A)と凹形状構成298Aが凹凸状に接触するようなメカ構造を有する。凹凸構造が嵌合するときに、アンテナ136,236が対向するとともに、その間にミリ波信号伝送路9として誘電体伝送路9Aが配置される。
以上の構成によって、メモリカード201Aとスロット構造4Aの固定が行なわれる。また、アンテナ136,236の間で、ミリ波信号を効率よく伝送するように、ミリ波伝送の結合に対する誘電体伝送路9Aの位置合わせが実現される。
つまり、電子機器101Aにおいては、凸形状構成198Aの部分に伝送路結合部108(特にアンテナ結合部)が配置され、メモリカード201Aにおいては、凹形状構成298Aの部分に伝送路結合部208(特にアンテナ結合部)が配置されるようにしている。凹凸が合致したときに、伝送路結合部108,208のミリ波伝送特性が高くなるように配置するのである。
このような構成により、スロット構造4Aに対するメモリカード201Aの装着時に、メモリカード201Aの固定とミリ波信号伝送に対する位置合せを同時に行なうことが可能となる。メモリカード201Aにおいては、誘電体伝送路9Aとアンテナ236の間に筐体290を挟むが、凹形状構成298Aの部分の素材が誘電体素材であるのでミリ波の伝送に大きな影響を与えるものではない。この点は、誘電体導波管142を凸形状構成198Aの部分に設けずに筺体190の誘電体素材のままとしておいた場合でも同様で、各筐体190,290の誘電体素材によりアンテナ136,236間にミリ波信号伝送路9(誘電体伝送路9A)が構成される。
第2例のミリ波伝送路構造によれば、メモリカード201Aがスロット構造4Aに装着されたときに、伝送路結合部108,208(特にアンテナ136,236)間に誘電体導波管142を具備する誘電体伝送路9Aを介在させる構成を採用している。ミリ波信号を誘電体伝送路9Aに閉じ込めることで高速信号伝送の効率向上を図ることができる。
考え方としては、カード装着用のスロット構造4Aの嵌合構造(凸形状構成198,凹形状構成298)の部分以外の所でアンテナ136とアンテナ236を対向させるようにミリ波信号伝送路9を形成することもできる。しかしながらこの場合は位置ズレによる影響がある。それに対して、カード装着用のスロット構造4Aの嵌合構造にミリ波信号伝送路9を設けることで位置ズレによる影響を確実に排除できる。
特に、本構成例では嵌合構造(スロット構造4A)を利用してミリ波閉じ込め構造(導波路構造)のミリ波信号伝送路9(この例では誘電体伝送路9A)を構築しているので、筐体やその他の部材による反射の影響を受けないし、一方のアンテナ136から放出したミリ波信号を誘電体伝送路9Aに閉じ込めて他方のアンテナ236側に伝送できる。そのため、放出電波の無駄が少なくなるので注入同期方式を適用する場合でも送信電力を小さくできる。
[第3例]
図13Bは、本実施形態の無線伝送路構造の第3例を説明する図であり、特に、電子機器の変形例を説明するものである。無線伝送システム1は、第1の電子機器の一例として携帯型の画像再生装置201Kを備えるとともに、画像再生装置201Kが搭載される第2(本体側)の電子機器の一例として画像取得装置101Kを備えている。画像取得装置101Kには、画像再生装置201Kが搭載される載置台5Kが筐体190の一部に設けられている。なお、載置台5Kに代えて、第2例のようにスロット構造4にしてもよい。一方の電子機器が他方の電子機器に装着されたときの両電子機器間において、ミリ波帯の無線で信号伝送を行なうという点では第2例の伝送路構造の場合と同じである。以下では、第2例との相違点に着目して説明する。
画像取得装置101Kは概ね直方体(箱形)の形状をなしており、もはやカード型とは言えない。画像取得装置101Kとしては、たとえば動画データを取得するものであればよく、たとえばデジタル記録再生装置や地上波テレビ受像機が該当する。画像再生装置201Kには、アプリケーション機能部205として、画像取得装置101K側から伝送されてくる動画データを記憶する記憶装置や、記憶装置から動画データを読み出して表示部(たとえば液晶表示装置や有機EL表示装置)にて動画を再生する機能部が設けられる。構造的には、メモリカード201Aを画像再生装置201Kに置き換え、電子機器101Aを画像取得装置101Kに置き換えたと考えればよい。
載置台5Kの下部の筺体190内には、たとえばミリ波伝送路構造の第2例(図13A)と同様に、半導体チップ103が収容されており、ある位置にはアンテナ136が設けられている。アンテナ136と対向する筺体190の部分には、内部の伝送路が誘電体素材で構成された誘電体伝送路9Aとし、その外部が導体144で囲まれた誘電体導波管142が設けられている。なお、誘電体導波管142(誘電体伝送路9A)を設けることは必須ではなく、筺体190の誘電体素材のままでミリ波信号伝送路9が構成されるようにしておいてもよい。これらの点は前述の他の構造例と同様である。なお、第8例で説明したように、複数のアンテナ136を平面状に併設し、本番の信号伝送に先立ち、画像再生装置201Kのアンテナ236から検査用のミリ波信号を送出し、最も受信感度の高いアンテナ136を選択するようにしてもよい。
載置台5Kに搭載される画像再生装置201Kの筺体290内には、たとえばミリ波伝送路構造の第2例(図13A)と同様に、半導体チップ203が収容されており、ある位置にはアンテナ236が設けられている。アンテナ236と対向する筺体290の部分は誘電体素材によりミリ波信号伝送路9(誘電体伝送路9A)が構成されるようにしてある。これらの点は前述の第2例のミリ波伝送路構造と同様である。
このような構成により、載置台5Kに対する画像再生装置201Kの搭載(装着)時に、画像再生装置201Kのミリ波信号伝送に対する位置合せ行なうことが可能となる。アンテナ136,236の間に筐体190,290を挟むが、誘電体素材であるのでミリ波の伝送に大きな影響を与えるものではない。
第3例のミリ波伝送路構造は、嵌合構造という考え方ではなく壁面突当て方式を採り、載置台5Kの角101aに突き当てられるように置かれたときにアンテナ136とアンテナ236が対向するようにしているので、位置ズレによる影響を確実に排除できる。
画像再生装置201Kが載置台5Kの規定位置に装着されたときに、伝送路結合部108,208(特にアンテナ136,236)間に誘電体伝送路9Aを介在させる構成を採用している。ミリ波信号を誘電体伝送路9Aに閉じ込めることで高速信号伝送の効率向上を図ることができる。筐体やその他の部材による反射の影響を受けないし、一方のアンテナ136から放出したミリ波信号を誘電体伝送路9Aに閉じ込めて他方のアンテナ236側に伝送できる。そのため、放出電波の無駄が少なくなるので注入同期方式を適用する場合でも送信電力を小さくできる。
<システム構成:第1適用例>
図14は、本実施形態の無線伝送システム1の第1適用例を説明する図である。第1適用例は、1つの電子機器の筐体内または複数の電気機器間において、CMOSプロセスで形成されている2つの半導体チップ103A,203A間で、前述の注入同期方式を適用してミリ波帯で信号伝送を行なう例である。
第1通信装置100A側の筐体190Aと第2通信装置200A側の筐体290Aは、その外観形状は、立方体(直方体)に限らず、球体、円柱体、半円柱体であっても、楕円柱でもよい。1つの筐体内での信号伝送の場合は、たとえば、同一基板上に半導体チップ103Aと半導体チップ203Bが搭載されているものと考えればよい。あるいは、第1通信装置100A側の筐体190Aと第2通信装置200A側の筐体290Aが兼用されているものと考えればよい。第1通信装置100Aを具備する電子機器に第2通信装置200Aを具備する電子機器が載置された機器間での信号伝送の場合は、第1通信装置100A側の筐体190Aと第2通信装置200A側の筐体290Aが図中の点線部分で接触しているものと考えればよい。
筐体190A,290Aは、たとえば、デジタル記録再生装置、地上波テレビ受像機、カメラ、ハードディスク装置、ゲーム機、コンピュータ、無線通信装置などの外装(外観)のケースに対応するものである。
たとえば、無線伝送システム1においては、映画映像やコンピュータ画像などの高速性と大容量性が求められる信号を伝送するべく、搬送周波数f1が30GHz〜300GHzのミリ波帯の送信信号Sout_1 にしてミリ波信号伝送路9_1を伝送させる。
ミリ波信号伝送路9_1は、筐体190A,290Aの内部の自由空間、その内部に構築された誘電体伝送路や、導波管および/または導波路から構成され、導波路には、スロットラインおよび/またはマイクロストリップラインが含まれる。ミリ波信号伝送路9_1は、ミリ波の送信信号Sout_1 が伝送できれば何でもよい。筐体190A,290Aの内部に充填された樹脂部材などの誘電体物質自体もミリ波信号伝送路9_1を構成する。
ミリ波は容易に遮蔽でき、外部に漏れ難いため、安定度の低い搬送周波数f1の搬送信号を使用することができる。このことは、半導体チップ103A,203A間の伝搬チャネルの設計の自由度を増すことにも繋がる。たとえば、半導体チップ103A,203Aを封止する封止部材(パッケージ)構造と伝搬チャネルを併せて誘電体素材を使用して設計することで、自由空間でのミリ波信号伝送に比べて、より信頼性の高い良好な信号伝送を行なえる。
たとえば、筐体190A,290Aの内部は自由空間とすることで、アンテナ136A,236A間に自由空間伝送路が構成されるようにしてもよいし、その内部全体を樹脂部材などの誘電体素材で充填してもよい。これらの場合、筐体190A,290Aは、ミリ波帯の送信信号Sout_1 が外部に漏れ出ないように、たとえば、外部六面が金属板で囲まれたシールドケースの他に、その内部に樹脂部材でコーティングされたケースのようなものにするのが望ましい。筐体190A,290Aは、また、外部六面が樹脂部材で囲まれたケースの他に、その内部に金属部材でシールドされたケースのようなものとしてもよい。何れも、注入同期方式を適用しない場合よりも注入同期方式を適用する場合の方が送信振幅を大きくする傾向があるので、その点を勘案したシールド対策をしておくのがよい。
好ましくは、筐体190A,290Aの内部を自由空間としつつアンテナ136A,236A間を、誘電体伝送路、中空導波路、導波管構造などにして、ミリ波信号を伝送路中に閉じ込めつつミリ波信号を伝送させる構造を持つミリ波閉じ込め構造(導波路構造)にする。ミリ波閉じ込め構造にすれば、筐体190A,290Aでの反射の影響を受けることがなく、アンテナ136A,236A間でミリ波帯の信号を確実に伝送できる。加えて、アンテナ136Aから放出したミリ波信号(送信信号Sout_1 )をミリ波信号伝送路9_1に閉じ込めてアンテナ236A側に伝送できるので、無駄を少なくできる(無くすことができる)ため送信電力を抑えることができる。注入同期方式を適用する場合でも、送信電力を極めて小さくできるため、外部に電磁誘導障害(EMI)を与えないので、筐体190A,290Aは、金属のシールド構造を省略してもよくなる。
半導体チップ103Aは、変調機能部8300(周波数混合部8302、送信側局部発振部8304)と増幅部8117を備え、増幅部8117は伝送路結合部108の一部をなすアンテナ136Aと接続されている。半導体チップ103Aは、伝送対象信号SIN_1をミリ波信号に変換(変調)してアンテナ136Aから送信信号Sout_1 を放出する。
半導体チップ203Aは、増幅部8224と復調機能部8400(周波数混合部8402、受信側局部発振部8404)と低域通過フィルタ8412を備え、増幅部8224は伝送路結合部208の一部をなすアンテナ236Aと接続されている。半導体チップ203Aは、アンテナ236Aで受信した受信信号Sin_1(Sout_1 と対応する)から伝送対象信号SOUT_1 (SIN_1と対応する)を復元(復調)する。つまり、半導体チップ103A,203Aは、アンテナ136A,236A間のミリ波信号伝送路9_1を介してミリ波帯で信号伝送を行なう。
ミリ波用のアンテナ136A,236Aは、波長が短いので、超小型のアンテナ素子を半導体チップ103A,203A上に構成することが可能となる。アンテナ136A,236Aが小型化できるので、アンテナ136Aからの送信信号Sout_1 の放射のし方やアンテナ236Aからの受信信号Sin_1の取り出し方にも、著しく大きな自由度を与えることができる。
送信側の半導体チップ103Aと受信側の半導体チップ203Aの何れも、従来方式のような外部のタンク回路を用いることなく、前述のようにタンク回路を含む送信側局部発振部8304や受信側局部発振部8404の全体が同一チップ上に形成されているものとする。送信側の半導体チップ103Aは、たとえば、送信側局部発振部8304で生成された搬送周波数f1の搬送信号を伝送対象信号SIN_1に基づきASK方式で変調することでミリ波の送信信号Sout_1 に周波数変換する。
受信側の半導体チップ203Aは、たとえば、送信側の半導体チップ103Aから送られてきたミリ波信号(送信信号Sout_1 =受信信号Sin_1)を受信側局部発振部8404への注入信号として使用し、それに基づく再生搬送信号を受信側局部発振部8404が取得する。周波数混合部8402は、その再生搬送信号を使い受信信号Sin_1を復調する。復調された信号を低域通過フィルタ8412に通すことで、伝送対象信号SIN_1と対応する伝送対象信号SOUT_1 が復元される。
筐体190A内の半導体チップ103Aと筐体290A内の半導体チップ203Aは、配設位置が特定(典型的には固定)されたものとなるので、両者の位置関係や両者間の伝送チャンネルの環境条件(たとえば反射条件など)を予め特定できる。よって、送信側と受信側の間の伝搬チャネルの設計が容易である。また、送信側と受信側を封止する封止構造と伝搬チャネルを併せて誘電体素材を使って設計すれば、自由空間伝送よりも信頼性の高い良好な伝送が可能になる。
伝搬チャネルの環境が頻繁に変化するというようなことはなく、前述したコントローラ部8346,8446による注入同期がとれるようにするための制御も一般の無線通信のように動的にアダプティブに頻繁に行なう必要がなくなる。そのため、制御によるオーバーヘッドを一般の無線通信に比べて小さくすることができる。このことは、高速・大容量の信号伝送を行なう伝送無線伝送システム1を、小型、低消費電力で実現することに寄与する。
また、製造時や設計時に無線伝送環境を校正し、個体のばらつきなどを把握すれば、そのデータを参照して注入同期がとれるようにコントローラ部8346,8446が各種の設定を行なえる。注入同期状態の判定とそれを受けての各種の設定値の変更を繰り返すと言うことが不要になり、注入同期がとれるようにするための各種の設定が簡単になる。
<システム構成:第2適用例>
図15は、本実施形態の無線伝送システム1の第2適用例を説明する図である。第2適用例は、1つの電子機器の筐体内または複数の電気機器間において、CMOSプロセスで形成されている3つの半導体チップ103B,203B_1,203B_2間で、前述の注入同期方式を適用してミリ波帯で信号伝送を行なう例である。第1適用例との相違は、1対2で信号伝送を行なう点にある。典型的には、1つの送信側の半導体チップ103Bから2つの受信側の半導体チップ203B_1,203B_2に同報(一斉)通信を行なう点である。図では、受信側を2つにしているが、3以上にしてもよい。なお、使用する搬送周波数f2は30GHz〜300GHzのミリ波帯である。以下、第1適用例との相違点について説明する。
1つの筐体内での信号伝送の場合は、たとえば、同一基板上に半導体チップ103Bと半導体チップ203B_1,203_2が搭載されているものと考えればよい。あるいは、第1通信装置100B側の筐体190Bと第2通信装置200B_1,200B_2側の筐体290B_1,290B_2が兼用されているものと考えればよい。第1通信装置100Bを具備する電子機器に対して2つの第2通信装置200B_1,200B_2を具備する電子機器が載置された機器間での信号伝送の場合は、第1通信装置100B側の筐体190Bと第2通信装置200B_1,200B_2側の筐体290B_1,290B_2が図中の点線部分で接触しているものと考えればよい。
送信側の半導体チップ103Bは、たとえば、送信側局部発振部8304で生成された搬送周波数f2の搬送信号を伝送対象信号SIN_2に基づきASK方式で変調することでミリ波の送信信号Sout_2 に周波数変換する。送信信号Sout_2 はアンテナ136Bを介してミリ波信号伝送路9_2に供給され、受信側の2つのアンテナ236B_1,236B_2に到達する。受信側の半導体チップ203B_1,203B_2は、たとえば、送信側の半導体チップ103Bから送られてきたミリ波信号(送信信号Sout_2 =受信信号Sin_2)を受信側局部発振部8404への注入信号として使用し、それに基づく再生搬送信号を受信側局部発振部8404が取得する。周波数混合部8402は、その再生搬送信号を使って受信信号Sin_2を復調する。復調された信号を低域通過フィルタ8412に通すことで、伝送対象信号SIN_2と対応する伝送対象信号SOUT_2 が復元される。
このように、第2適用例では、送信側の半導体チップ103Bと受信側の半導体チップ203B_1,203B_2間で、1対2の伝送チャンネルを構成するミリ波信号伝送路9_2により同報通信が実現される。
<システム構成:第3適用例>
図16〜図16Bは、本実施形態の無線伝送システム1の第3適用例を説明する図である。第3適用例は、送信側にはN組(Nは2以上の正の整数)の送信部を配置し、受信側にはM組(Mは2以上の正の整数)の受信部を配置し、送信部と受信部の組で各別の搬送周波数を用いて伝送する構成である。つまり、複数の搬送周波数を用いて、それぞれ異なる信号を伝送する周波数分割多重伝送を行なう。以下では、説明を簡単にするために、搬送周波数f1,f2を使用する2系統の通信で説明する。
図16〜図16Aに示す第3適用例(その1)は、送信側および受信側の何れもが各別のアンテナを使用する場合であり、前述の第1適用例の構成と第2適用例の構成を組み合わせて無線伝送システム1を構築する例である。各半導体チップを送信側と受信側の何れに見立てることもでき、各半導体チップの配置場所の制約が基本的にはない形態である。これに対して、図16Bに示す第3適用例(その2)は、送信側および受信側の何れもが共通のアンテナを使用する場合である。
第3適用例(その1)において、第1適用例の構成を採用する部分で使用する搬送周波数f1は30GHz〜300GHzのミリ波帯であり、第2適用例の構成を採用する部分で使用する搬送周波数f2も30GHz〜300GHzのミリ波帯である。ただし、各搬送周波数f1,f2は、各変調信号が干渉しない程度に離れているものとする。以下、第1・第2適用例との相違点について説明する。
1つの筐体内での信号伝送の場合は、たとえば、同一基板上に半導体チップ103A,103Bと半導体チップ203A,203B_1,203B_2が搭載されているものと考えればよい。
機器間での信号伝送の場合は、たとえば、図16に示す第3適用例(その1−1)のように、半導体チップ103A,103Bが収容された第1通信装置100Cを具備する電子機器に対して半導体チップ203A,203B_1,203_2が収容された第2通信装置200Cを具備する電子機器が載置され、第1通信装置100C側の筐体190Cと第2通信装置200C側の筐体290Cが図中の点線部分で接触しているものと考えればよい。
また、図16Aに示す第3適用例(その1−2)のように、半導体チップ103A,203B_1,203B_2が収容された第1通信装置100Cを具備する電子機器に対して半導体チップ103B,203Aが収容された第2通信装置200Cを具備する電子機器が載置され、第1通信装置100C側の筐体190Cと第2通信装置200C側の筐体290Cが図中の点線部分で接触しているものと考えればよい。特に説明しないが、第3適用例(その2)においても同様に考えればよい。
第3適用例(その1)において、送受信間のアンテナは、単一のミリ波信号伝送路9_3で結合される。機能的には、第1適用例の構成を採用する部分がミリ波信号伝送路9_1で第1の通信チャネルが形成され、第2適用例の構成を採用する部分がミリ波信号伝送路9_2で第2の通信チャネルが形成される。単一のミリ波信号伝送路9_3であるから、たとえばミリ波信号伝送路9_1の搬送周波数f1の電波がミリ波信号伝送路9_2側へ伝達され得るし、ミリ波信号伝送路9_2の搬送周波数f2の電波がミリ波信号伝送路9_1側へ伝達され得る。
第1適用例の構成が採用される部分では、搬送周波数f1を用いて、半導体チップ103A,203A間でミリ波信号伝送路9_1を介してミリ波帯で信号伝送が行なわれる。第2適用例の構成が採用される部分では、搬送周波数f2(≠f1)を用いて、半導体チップ103Bと半導体チップ203B_1,203B_2間でミリ波信号伝送路9_2を介してミリ波帯で同報通信が行なわれる。つまり、第3適用例では、1対1および1対2の伝送システムが混在する。このとき、通信チャネルごとに異なった搬送周波数f1,f2を設定することで干渉の影響を受けることなくそれぞれの信号伝送が実現される。
たとえば、図16中に点線で示すように、半導体チップ203B_1が搬送周波数f2の送信信号Sout_2 (=受信信号Sin_2)を受信して注入同期しているときに、搬送周波数f1の送信信号Sout_1 も到来したとする。この場合、半導体チップ203B_1は搬送周波数f1に注入同期することはなく、再生搬送信号を使って同期検波し低域通過フィルタ8412を通すことで、搬送周波数f1の送信信号Sout_1 を半導体チップ203B_1で復調処理したとしても、伝送対象信号SIN_1の成分が復元されることはない。つまり、半導体チップ203B_1が搬送周波数f2に注入同期しているときに搬送周波数f1の変調信号を受信しても、搬送周波数f1の成分の干渉の影響を受けることはない。
また、図16中に点線で示すように、半導体チップ203Aが搬送周波数f1の送信信号Sout_1 (=受信信号Sin_1)を受信して注入同期しているときに、搬送周波数f2の送信信号Sout_2 も到来したとする。この場合、半導体チップ203Aは搬送周波数f2に注入同期することはなく、再生搬送信号を使って同期検波し低域通過フィルタ8412を通すことで、搬送周波数f2の送信信号Sout_2 を半導体チップ203Aで復調処理したとしても、伝送対象信号SIN_2の成分が復元されることはない。つまり、半導体チップ203Aが搬送周波数f1に注入同期しているときに搬送周波数f2の変調信号を受信しても、搬送周波数f2の成分の干渉の影響を受けることはない。
第3適用例(その2)においては、一方(送信側)の半導体チップ103にはN組の送信側信号生成部110が収容され、他方(受信側)の半導体チップ203にはM組の受信側信号生成部220が収容され、各送信側信号生成部110から各受信側信号生成部220に同一方向に、周波数分割多重を適用して同時の信号伝送を可能にする形態である。送信部と受信部はそれぞれ前述の注入同期方式を適用するものとする。
たとえば、第1通信装置100Cには第1・第2の送信側信号生成部110_1,110_2を配置し、第2通信装置200Cには第1・第2・第3の受信側信号生成部220_1,220_2,220_3を配置する。第1の送信側信号生成部110_1と第1の受信側信号生成部220_1の組では第1の搬送周波数f1を使用し、第2の送信側信号生成部110_1と第2・第3の受信側信号生成部220_2,220_3の組では第2の搬送周波数f2(≠f1)を使用するものとする。
各送信側信号生成部110_1,110_2で生成された搬送周波数f1,f2のミリ波信号は多重化処理部113の一例である結合器で1系統に纏められ、伝送路結合部108のアンテナ136を介してミリ波信号伝送路9を伝送する。受信側のアンテナ236は、ミリ波信号伝送路9を伝送してきたミリ波信号を受信し単一化処理部228の一例である分配器で3系統に分離し、各受信側信号生成部220_1,220_2,220_3に供給する。
受信側信号生成部220_1は送信側信号生成部110_1が変調に使用した搬送周波数f1の搬送信号に注入同期した再生搬送信号を生成し、受信した搬送周波数f1のミリ波信号を復調する。受信側信号生成部220_2,220_3は送信側信号生成部110_2が変調に使用した搬送周波数f2の搬送信号に注入同期した再生搬送信号を生成し、受信した搬送周波数f2のミリ波信号を復調する。
第3適用例(その2)では、このような仕組みにより、第3適用例(その1)と同様に、2組の搬送周波数f1,f2を用いて、同一方向にそれぞれ異なる信号を伝送する周波数分割多重伝送を干渉問題を起すことなく実現できる。
<システム構成:第4適用例>
図17〜図17Aは、本実施形態の無線伝送システム1の第4適用例を説明する図である。第4適用例は、1対の双方向通信用の半導体チップ内にそれぞれ同数の送信部と受信部を配置し、送信部と受信部の組で各別の搬送周波数を用いて、全二重の双方向通信を行なう構成である。以下では、説明を簡単にするために一方の通信には搬送周波数f1を使用し、前記一方とは逆方向への通信には搬送周波数f2を使用する2系統の通信で説明する。搬送周波数f1は30GHz〜300GHzのミリ波帯であり、搬送周波数f2も30GHz〜300GHzのミリ波帯であるが、各搬送周波数f1,f2は、各変調信号が干渉しない程度に離れているものとする。
図17に示す第4適用例(その1)は、送信側および受信側の何れもが各別のアンテナを使用する場合である。これに対して、図17Aに示す第4適用例(その2)は、双方向通信用の各半導体チップの何れもが共通のアンテナを使用する場合である。
1つの筐体内での信号伝送の場合は、たとえば、同一基板上に半導体チップ103D,203Dが搭載されているものと考えればよい。機器間での信号伝送の場合は、たとえば、図17のように、半導体チップ103Dが収容された第1通信装置100Dを具備する電子機器に対して半導体チップ203Dが収容された第2通信装置200Dを具備する電子機器が載置され、第1通信装置100D側の筐体190Dと第2通信装置200D側の筐体290Dが図中の点線部分で接触しているものと考えればよい。特に説明しないが、第4適用例(その2)においても同様に考えればよい。
第4適用例(その1)において、2系統の送受信間のアンテナは、単一のミリ波信号伝送路9_4で結合される。機能的には、ミリ波信号伝送路9_1で第1の通信チャネルが形成され、ミリ波信号伝送路9_2で第1の通信チャネルとは逆方向への伝送を行なう第2の通信チャネルが形成される。単一のミリ波信号伝送路9_4であるから、たとえばミリ波信号伝送路9_1の搬送周波数f1の電波がミリ波信号伝送路9_2側へ伝達され得るし、ミリ波信号伝送路9_2の搬送周波数f2の電波がミリ波信号伝送路9_1側へ伝達され得る。
たとえば、第1通信装置100Dの半導体チップ103Dには、送信側信号生成部110と受信側信号生成部120が設けられ、第2通信装置200Dの半導体チップ203Dには、送信側信号生成部210と受信側信号生成部220が設けられている。
送信側信号生成部110は、変調機能部8300(周波数混合部8302、送信側局部発振部8304)と増幅部8117を備え、増幅部8117は伝送路結合部108の一部をなすアンテナ136_1と接続されている。半導体チップ103D(送信側信号生成部110)は、伝送対象信号SIN_1をミリ波信号に変換(変調)してアンテナ136_1から送信信号Sout_1 を放出する。
受信側信号生成部220は、増幅部8224と復調機能部8400(周波数混合部8402、受信側局部発振部8404)と低域通過フィルタ8412を備え、増幅部8224は伝送路結合部208の一部をなすアンテナ236_2と接続されている。半導体チップ203D(受信側信号生成部220)は、アンテナ236_2で受信した受信信号Sin_1(Sout_1 と対応する)から伝送対象信号SOUT_1 (SIN_1と対応する)を復元(復調)する。つまり、半導体チップ103D,203Dは、アンテナ136_1,236_2間のミリ波信号伝送路9_4(のミリ波信号伝送路9_1)を介してミリ波帯で信号伝送を行なう。
送信側信号生成部210は、変調機能部8300(周波数混合部8302、送信側局部発振部8304)と増幅部8117を備え、増幅部8117は伝送路結合部108の一部をなすアンテナ136_2と接続されている。半導体チップ203D(送信側信号生成部210)は、伝送対象信号SIN_2をミリ波信号に変換(変調)してアンテナ136_2から送信信号Sout_2 を放出する。
受信側信号生成部120は、増幅部8224と復調機能部8400(周波数混合部8402、受信側局部発振部8404)と低域通過フィルタ8412を備え、増幅部8224は伝送路結合部208の一部をなすアンテナ236_1と接続されている。半導体チップ103D(受信側信号生成部120)は、アンテナ236_1で受信した受信信号Sin_2(Sout_2 と対応する)から伝送対象信号SOUT_2 (SIN_2と対応する)を復元(復調)する。つまり、半導体チップ103D,203Dは、アンテナ136_2,236_1間のミリ波信号伝送路9_4(のミリ波信号伝送路9_2)を介してミリ波帯で信号伝送を行なう。
ここで、全二重の双方向伝送を可能とするべく、信号伝送する送信部と受信部の組ごとに別の周波数を基準搬送信号として割り当てる。たとえば、送信側信号生成部110と受信側信号生成部220の組では第1の搬送周波数f1を使用し、送信側信号生成部210と受信側信号生成部120の組では第2の搬送周波数f2(≠f1)を使用する。通信チャネルごとに異なった搬送周波数f1,f2を設定することで干渉の影響を受けることなく全二重の双方向伝送が実現される。
たとえば、半導体チップ103Dの受信側信号生成部120が搬送周波数f2の送信信号Sout_2 (=受信信号Sin_2)を受信して注入同期しているときに、送信側信号生成部110側から搬送周波数f1の送信信号Sout_1 も到来したとする。この場合、受信側信号生成部120は搬送周波数f1に注入同期することはなく、再生搬送信号を使って同期検波し低域通過フィルタ8412を通すことで、搬送周波数f1の送信信号Sout_1 を受信側信号生成部120で復調処理したとしても、伝送対象信号SIN_1の成分が復元されることはない。つまり、受信側信号生成部120が搬送周波数f2に注入同期しているときに搬送周波数f1の変調信号を受信しても、搬送周波数f1の成分の干渉の影響を受けることはない。
また、受信側信号生成部220が搬送周波数f1の送信信号Sout_1 (=受信信号Sin_1)を受信して注入同期しているときに、送信側信号生成部210側から搬送周波数f2の送信信号Sout_2 も到来したとする。この場合、受信側信号生成部220は搬送周波数f2に注入同期することはなく、再生搬送信号を使って同期検波し低域通過フィルタ8412を通すことで、搬送周波数f2の送信信号Sout_2 を受信側信号生成部220で復調処理したとしても、伝送対象信号SIN_2の成分が復元されることはない。つまり、受信側信号生成部220が搬送周波数f1に注入同期しているときに搬送周波数f2の変調信号を受信しても、搬送周波数f2の成分の干渉の影響を受けることはない。
第4適用例(その2)においても、双方向通信用の半導体チップ内には、1つずつの送信部と受信部を配置する。送信部と受信部はそれぞれ前述の注入同期方式を適用するものとする。たとえば、第1通信装置100Dの半導体チップ103Dには、送信側信号生成部110と受信側信号生成部120が設けられ、第2通信装置200Dの半導体チップ203Dには、送信側信号生成部210と受信側信号生成部220が設けられている。
全二重の双方向伝送を可能とするべく、信号伝送する送信部と受信部の組ごとに別の周波数を基準搬送信号として割り当てる。たとえば、送信側信号生成部110と受信側信号生成部220の組では第1の搬送周波数f1を使用し、送信側信号生成部210と受信側信号生成部120の組では第2の搬送周波数f2(≠f1)を使用するものとする。
半導体チップ103Dの送信側信号生成部110で生成された搬送周波数f1のミリ波信号は伝送路結合部108のアンテナ切替部の一例であるサーキュレータを介してアンテナ136に伝達されミリ波信号伝送路9_4に伝送される。半導体チップ203Dは、ミリ波信号伝送路9_4を伝達してきたミリ波信号をアンテナ236で受信し伝送路結合部208のアンテナ切替部の一例であるサーキュレータを介して受信側信号生成部220に供給する。受信側信号生成部220は送信側信号生成部110が変調に使用した搬送周波数f1に注入同期した再生搬送信号を生成し受信したミリ波信号を復調する。
逆に、半導体チップ203D側の送信側信号生成部210で生成された搬送周波数f2のミリ波信号は伝送路結合部208のアンテナ切替部の一例であるサーキュレータを介してアンテナ236に伝達され、ミリ波信号伝送路9_4に伝送される。半導体チップ103D側は、ミリ波信号伝送路9_4を伝達してきたミリ波信号をアンテナ136で受信し伝送路結合部108のアンテナ切替部の一例であるサーキュレータを介して受信側信号生成部120に供給する。受信側信号生成部120は送信側信号生成部210が変調に使用した搬送周波数f2に注入同期した再生搬送信号を生成し受信したミリ波信号を復調する。
第4適用例(その2)では、このような仕組みにより、第4適用例(その1)と同様、2組の搬送周波数f1,f2を用いた周波数分割多重の適用において、互いに逆方向にそれぞれ異なる信号を伝送する全2重の双方向通信を干渉問題を起すことなく実現できる。