JP2014105632A - 回転機械のロータ温度計測方法と装置及び蒸気タービン - Google Patents

回転機械のロータ温度計測方法と装置及び蒸気タービン Download PDF

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Abstract

【課題】
長期間にわたり、回転機械のロータ表面の温度を、回転機械の起動時や停止時に精度良く計測することが可能な回転機械のロータ温度計測方法と装置および蒸気タービンを提供する。
【解決手段】
ロータとロータの周囲を覆う静止体壁面を有する回転機械のロータ温度計測方法及び装置であって、ロータ表面に対向して放射温度計などの非接触温度計を設置し、非接触温度計近傍の静止体壁面に熱電対などの静止体温度計を設置し、静止体温度計の測定温度を用いて、非接触温度計の測定温度を補正する補正値を求め、この補正値を用いて非接触温度計の測定温度を補正し、回転機械のロータ温度を求める。
【選択図】 図1

Description

本発明は、蒸気タービンなどの回転機械のロータ温度計測方法と装置及び蒸気タービンに関する。
蒸気タービンのロータは、高温蒸気による熱負荷や、さらに高速回転による遠心力の負荷にて、材料が徐徐に損傷を受け強度が低下するため、寿命となる一定の使用期間を過ぎて使うことはできなくなる。
このため、蒸気タービン用ロータの寿命の消費割合を求めて寿命を評価することが安定した電力の供給を行う上で重要となり、現在まで数々の研究や開発がなされ、種々の問題を解決するための技術が提案されている。
例えば、特許文献1では、運転後の蒸気タービンロータ材の硬さを求めて、硬さの低下量からクリープ損傷率を推定し、ロータ余寿命を診断する技術が開示されている。この技術を適用することによりロータ余寿命を診断することが可能になる。
また、特許文献2や特許文献3などにおいては、ロータの熱応力を監視するために、車室内面のメタル温度からロータの温度および熱応力を計算から推測する方法が開示されている。
また、特許文献4においては、非接触式の放射温度計などを用いて、ロータ表面の温度を直接計測する方法が開示されている。
特開平6−200701公報 特公平7−122403公報 特開2005−121024公報 特表2011−503408公報 特開平8−338764公報
特許文献1に記載の方法では、ロータ余寿命を診断するために蒸気タービンを停止させ、ロータ表面の硬さを計測する必要を生じる。測定の毎に蒸気タービンを停止させることは著しい経済的損失につながる。また、硬さ測定のためにロータ表面に押込痕などのキズが生じれば、キズにより更なるロータ寿命低下をもたらすこととも有り得る。
これに対して、特許文献2や特許文献3に記載の方法を用いることにより、ロータ余寿命を診断するために蒸気タービンを停止させる必要が無くなり、またロータに押込痕などのキズが生じることもなくなる。しかしながら、車室内面のメタル温度を用いてロータ温度を予測できるのは、蒸気温度と蒸気流量の変化速度が極めて小さい場合に限られる。例えば、蒸気タービンを短時間で起動する場合においては、ロータ表面と車室内面メタル表面の熱流束は異なり、両者に大きな差が現れることが予想され、車室内面のメタル温度からロータの温度の推測が難しくなる。これにより、短時間で起動する場合の熱応力の計算が難しく、結局、ロータ余寿命の評価が困難となる。このことから、電力需要の急速な変化に対応して短時間で蒸気タービンを起動したり、停止したりすることは難しくなる。
これらに対して、特許文献4に記載の方法を用いることにより、蒸気タービンを短時間で起動する場合においても、ロータ表面の温度を直接計測するためロータの熱応力を精度良く求めることが可能となる。しかしながら、蒸気タービンなど回転機械では高温の蒸気(高温の流体)がロータ表面と接触し、水蒸気中(流体中)の溶存酸素などによりロータ表面は酸化する。水蒸気中の溶存酸素などは微量ではあるが、ロータ表面には、長期の時間の経過とともに徐徐に酸化により表面皮膜などを生じ、これが成長することとなる。酸化皮膜の発生成長などにより、ロータ表面の放射率が変化するため、同じ温度であっても放射温度計の出力が異なり、計測される温度は時間の経過とともに変化する。結局、長期の時間経過を考えると、ロータの温度の計測が難しく、従って熱応力の計算が難しくロータ余寿命の評価も不正確にならざるを得ない。このことから、長期間にわたり、電力需要の急速な変化に対応して、短時間で蒸気タービンを起動したり、停止したりすることは難しくなる。
なお、鉄鋼プロセス等の製造プロセスでは、例えば、特許文献5に記載のように、放射温度計の測温精度を維持するために定期的に精度検査を行い、必要に応じて放射温度計を較正している。特許文献5では、放射温度計と被測定物との間に、格納ケースから出し入れ可能な、被測定物の表面と類似する表面を有する較正板を配設し、被測定物の温度を接触測定することなく、放射温度計の較正を可能にしている。しかしながら、蒸気タービンのようなロータ表面の温度を測定する場合には、特許文献5に記載のような較正板を設置するスペースを確保することは難しく、また、そのよう較正板を設置することは流体の流れを阻害する要因になる。また、長期の時間経過に伴いロータ表面に酸化被膜が形成された場合には、較正板の表面とロータ表面の状態に大きな差が生じると考えられる。即ち、被測定物の表面の経時的変化について考慮していない。
本発明の目的は、長期間にわたり、回転機械のロータ表面の温度を、回転機械の起動時や停止時に精度良く計測することが可能な回転機械のロータ温度計測方法と装置および蒸気タービンを提供することにある。
本発明は、ロータとロータの周囲を覆う静止体壁面を有する回転機械のロータ温度計測方法及び装置であって、ロータ表面に対向して放射温度計などの非接触温度計を設置し、非接触温度計近傍の静止体壁面に熱電対などの静止体温度計を設置し、静止体温度計の測定温度を用いて、非接触温度計の測定温度を補正する補正値を求め、この補正値を用いて非接触温度計の測定温度を補正し、回転機械のロータ温度を求めるようにしたものである。
本発明によれば、長期間にわたり、回転機械のロータ表面の温度を、回転機械の起動時や停止時に精度良く計測することが可能となる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
本発明の実施例であるロータ温度計測装置を適用した蒸気タービンの構成図である。 本発明の他の実施例であるロータ温度計測装置を適用した蒸気タービンの構成図である。 本発明の他の実施例であるロータ温度計測装置を適用した蒸気タービンの構成図である。 本発明の各実施例に用いられる放射温度計の先端部分の構成例を説明する図である。 本発明の実施例であるロータ温度計測装置を適用した蒸気タービンの構成図であり、測温されるロータ表面を黒色もしくは暗灰色とした蒸気タービンの構成図である。
以下、本発明の実施例について図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施例のロータ温度計測装置を適用した蒸気タービンの構成を示す概略図である。
蒸気タービン発電プラントにおいて、蒸気タービンは、ボイラ等の蒸気発生器で発生する蒸気を用いて回転され、発電機を駆動して発電する。汽力発電プラントでは、蒸気タービンは、一般的に、蒸気の流れの上流側から、高圧タービン、中圧タービン、及び低圧タービンから構成される。低圧タービンを回転させた蒸気は、排気室を経由して復水器に導入され、復水器で凝縮されて給水となり蒸気発生器に還流する。
図1に示すように、蒸気タービン(本実施例では高圧タービン)1は、ロータ2と、ロータ2を内包する静止体壁面を構成するケーシング7とを備える。ロータ2の周方向には、複数の動翼8が固定され、動翼8もケーシング7に内包されている。動翼8の先端とケーシング7との間にはシール装置が設けられている。ケーシング7には、ノズルダイヤフラム外輪10が固定され、ノズルダイヤフラム外輪10を介して周方向に複数の静翼9が固定されている。また、静翼8の内周には、ノズルダイヤフラム内輪11が取り付けられ、ノズルダイヤフラム内輪11とロータとの間にはシール装置が設けられている。動翼8と静翼9は、ロータ2の軸方向に対して交互に配置され、動翼と静翼からなる段落が複数形成される。
ボイラ(図示省略)で発生した蒸気Stは、ケーシング7に流入すると、ロータの最も上流の初段から順に、静翼9と動翼8の間を交互に通りながら膨張し、ロータ2を回転させる。ロータの最も下流に位置する動翼、すなわち最終段の動翼を通過した蒸気は、ケーシングの外に排気されるように構成される。なお、符号12は給水加熱器(図示省略)へ抽気蒸気を供給する抽気管を示す。
蒸気タービン1のロータ2は、高温蒸気による熱負荷や、さらに高速回転による遠心力の負荷にて材料が徐徐に損傷を受け強度が低下するため、寿命となる一定の使用期間を過ぎて使うことはできなくなる。余寿命を決定する大きな要因は、例えば、特許文献2〜4に記載のようにロータ温度である。このため、ロータ温度(表面温度)を精度良く測定することが重要となる。
本実施例では、蒸気タービンのロータ表面に対向して非接触温度計(非接触温度計センサ部)を設置し、非接触温度計近傍の静止体壁面に静止体温度計(静止体温度計センサ部)を設置し、定常負荷運転状態などのロータ表面温度とロータ近傍の静止体壁面温度がほぼ等しくなる運転状態において、非接触温度計の測定温度と静止体温度計の測定温度を取得し、静止体温度計の測定温度を用いて、非接触温度計による測定箇所(ロータ表面)の経時的な状態変化に起因して主に生ずる非接触温度計の測定温度の偏差(誤差)を補正する補正係数を求め、この補正係数を用いて、起動時などの運転状態における非接触温度計の測定温度を補正するようにしている。そして、このようにして測定したロータ温度に基づき、ロータの寿命評価や、蒸気タービンの起動や停止の際の制御を行うようしている。
図面を用いて詳細に説明する。図1に示すように、本実施例では、ロータ2の表面に対向して非接触温度計センサ部41を設置し、非接触温度計センサ部41近傍の静止体壁面に静止体温度計センサ部(接触温度計センサ部)51を設置している。また、本実施例では、蒸気の上流の入り口部および初段の前方位置のロータ2の表面に対向して非接触温度計センサ部41を設置している。
定常負荷運転時などでは、蒸気Stの温度と流量はほほ一定に保たれるため、ロータ2の表面温度Trと静止体壁面温度Twはそれぞれほぼ一定になる。従って、このような運転時においては、ロータ2の表面温度Trとロータ2の近傍の静止体壁面温度Twはほぼ等しくなる。よって、本実施例において、非接触温度計センサ部41近傍の静止体壁面に静止体温度計センサ部51を設置するとは、定常負荷運転時などの状態において静止体温度計センサ部51による測定箇所の静止体壁面温度Twが非接触温度計センサ部41による測定箇所のロータ2の表面温度Trと実質的に等しくなるように、静止体温度計センサ部41を静止体壁面に設置することを言う。
また、本実施例では、非接触温度計は非接触温度計センサ部41と非接触温度計信号処理部4から構成され、静止体温度計は静止体温度計センサ部51と静止体温度計信号処理部5から構成されている。
静止体壁面に貼り付けた静止体温度計センサ部51の信号は静止体温度計信号処理部5に伝えられ、静止体温度計信号処理部5にて電気信号に変換されて温度偏差比較器6aに送られる。温度偏差比較器6aでは静止体壁面の測定温度Twmを受け取る。ロータ表面に対向して設置された非接触温度計センサ部41の信号は非接触温度計信号処理部4に伝えられ、非接触温度計信号処理部4にて電気信号に変換されて温度偏差比較器6aに送られる。温度偏差比較器6aではロータ2の測定温度Tdmを受け取る。
本実施例では、ロータや静止体壁面が600℃程度の高温蒸気に曝されるため、ロータ近傍や静止体壁面の高温部には温度を電気信号に変換する回路部を設けないようにすることが望ましい。そのため、本実施例では、非接触温度計及び静止体温度計を、それぞれ、センサ部(非接触温度計センサ部41、静止体温度計センサ部51)と信号処理部(非接触温度計信号処理部4、静止体温度計信号処理部5)とに分けて構成し、センサ部から信号処理部へはファイバーなどで信号を伝達するようにしている。
温度偏差比較器6aでは、非接触温度計信号処理部4と静止体温度計信号処理部5からそれぞれ送られてきた非接触温度計センサ部41による測定温度Tdm(K)と静止体温度計センサ部51による測定温度Twm(K)との比を求めて補正値Cとする。ここでKは絶対温度による表示を表す(以下同じ。)。
C=Twm/Tdm (1)
温度偏差比較器6aで得られた補正値Cを補正値記憶装置6bへ送る。補正値記憶装置6bでは補正値Cを記憶する。本実施例では、補正値Cは定常負荷運転時のように蒸気Stの温度と流量がほぼ一定に保たれている状態で取得する。また、この補正値は、定常負荷運転状態において日々更新するようにしても良いし、所定期間をおいて更新するようにしても良い。
補正値記憶装置6bに記憶された補正値Cは、非接触温度計信号処理部4へ送られる。補正値Cは起動時や停止時などの際に非接触温度計の測定温度の補正に利用される。
非接触温度計信号処理部4では、受け取った補正値Cと非接触温度計センサ部41からの測定温度Tdm(K)を用いて、ロータ2の表面温度Tr(K)を次の式(2)から求める。
Tr(K)=C×Tdm(K) (2)
すなわち、本実施例では、補正値Cを予め求めておくことにより、式(2)を用いて、起動時などにおいて、非接触温度計41センサ部により直にロータ2の表面温度Trを求めることができる。
なお、非接触温度計としては、一般的に、温度により放射エネルギー量が変化することを利用して測温する放射温度計が用いられ、静止体温度計としては、一般的に、熱電対が用いられるが、本発明はこれらに限定されない。例えば、非接触温度計としては、温度により透磁率が変化することを利用した測温する透磁率温度計測計の適用が考えられ、静止体温度計としては、測温抵抗体の適用が考えられる。
このようにして求めたロータ表面温度は、ロータ余寿命を診断するために用いられる。すなわち、上述したように、ロータの余寿命を決定する大きな要因は、例えば、特許文献2〜4に記載のようにロータ温度である。特許文献2〜4などに記載のような手法を用いて、測定したロータ温度(表面温度)に基づきロータ余寿命を精度よく診断することができる。なお、ロータ余寿命の診断方法は特許文献2〜4に記載の手法に限定されない。
また、求めたロータ表面温度は、蒸気タービンの起動制御(主蒸気加減弁の開度制御)に利用することができる。本実施例では、ロータ表面温度を精度良く求めることができるので、ロータ温度の状態(熱応力)を正確に把握しながら起動制御することができ、蒸気タービンの高速起動に好適である。
以上説明した本実施例によれば、ロータ余寿命を診断するために蒸気タービンを停止させてロータに押込キズを生じさせる必要がない。従って、ロータ余寿命を診断するためにロータの健全性を損なうことも無く、また、蒸気タービンを停止させることに起因する経済的損失の発生を防止できる。
また、本実施例によれば、ロータ表面温度を計測するためロータの熱応力を精度良く求めることが可能であり、このため、本実施例のロータ温度測定方法・装置を蒸気タービンの起動・停止制御に利用することにより、電力需要の急速な変化に対応して、短時間で蒸気タービン起動したり、停止したり、また起動と停止の繰り返しを実現することができる。
また、本実施例によれば、長期のロータ表面温度の直接計測を可能とし、長期のロータの熱応力を精度良く求め、ロータ余寿命を精度良く評価することができる。
さらに、本実施例によれば、長期間経過後の運転においても電力需要の急速な変化に対応して、ロータ表面温度の直接計測を可能とし、ロータの熱応力を精度良く求め、ロータ余寿命を精度良く評価可能であり、長期間にわたって短時間の起動停止が可能となる。すなわち、長期間の運転により、ロータ表面が酸化して、ロータ表面の状態が変化しても、定常負荷運転状態などにおいて随時または定期的に更新する補正値Cによりロータ表面の状態の変化について補償することができ、長期間にわたってロータ表面温度の直接計測および高精度計測が可能にある。
また、本実施例では、蒸気の上流の入り口部および初段の前方位置のロータの表面に対向して非接触温度計センサ部を設置しているので、最も寿命が消費される位置の寿命の消費割合がわかるため、ロータの交換時期を容易に決めることが可能になる。すなわち、蒸気は上流の入り口部および初段の前で最高温、最高圧であり、順次後ろの段落へ進むにつれ、膨張して温度と圧力は下がり、最も下流の段落の後ろおよび排気室で最低温、最低圧となる。蒸気タービンの起動から停止までの1サイクルで考えると、最も熱負荷が高いのは蒸気の入り口近傍および初段の前部分となる。特に、蒸気の上流の入り口部および初段の前方位置のロータの部分では高回転速度による遠心力の負荷が加わり、最も速く寿命が消費されると考えられる。従って、本実施例により最も寿命が消費される位置の寿命の消費割合を把握することができる。
次に、非接触温度計として放射温度計を用いた場合について、さらに詳細に説明する。
基本的な構成は、上述した通りであるが、図1における非接触温度計センサ部41が放射温度計センサ部であり、非接触温度計信号処理部4が放射温度計信号処理部である。また、温度偏差比較器6aによる信号処理が異なる。
すなわち、本実施例では、放射温度計を用いることを考慮して、温度偏差比較器6aでは、放射温度計センサ部41による測定温度Tdm(K)と静止体壁面温度計センサ部51による測定温度Twm(K)のそれぞれの4乗の比を求めて放射率の補正値Cmとする。
Cm=Twm/Tdm (3)
温度偏差比較器6aで得られた補正値Cmを補正値記憶装置6bへ送る。補正値記憶装置6bでは、次の式(4)から補正値Cを求め記憶する。なお、補正値Cは、温度偏差比較器6aにおいて式(4)に基づいて求め、得られた補正値Cを補正値記憶装置6bへ送るようにしても良い。
C=Cm0.25 (4)
そして、補正値記憶装置6bに記憶された補正値Cは、放射温度計信号処理部4へ送られ、起動時や停止時などの際に放射温度計の測定温度の補正に利用される。すなわち、放射温度計信号処理部4では、受け取った補正値Cと放射温度計センサ部41からの測定温度Tdm(K)を用いて、ロータ2の表面温度Tr(K)を上述の式(2)から求める。なお、放射温度計信号処理部4において補正値Cmを受け取り、放射温度計信号処理部4において、式(4)と式(2)の演算を行いロータ2の表面温度Tr(K)を求めるようにしても良い。
本実施例によれば、上述した実施例の効果が同様に得られ、また、ロータ2の表面温度Tr(K)をより正確に求めることができる。
上述の実施例においては、補正値Cを求めるタイミング(ロータ2の表面温度Trと静止体壁面温度Twが一致する運転時)を定常負荷運転時としている。しかしながら、ロータ2の表面温度Trと静止体壁面温度Twが実質的に一致する運転時は定常負荷運転時に限るわけではない。例えば、起動開始時もしく停止処理時に蒸気温度一定保持状態を複数設けることが可能である。
以下、起動開始時もしく停止処理時に蒸気温度・流量一定保持状態(実質的に蒸気温度・流量一定保持状態)を複数(例えば2つ)設け、複数(例えば2つ)の蒸気温度・流量一定時の静止体温度計の測定温度を用いて、放射温度計に用いる補正値Cを求める場合について説明する。
温度一定運転時においては、それぞれの蒸気温度・流量一定保持状態1および状態2において、蒸気St1および蒸気St2の温度と流量はほほ一定に保たれる。従って、ロータ2の表面温度Tr1および表面温度Tr2とロータ2の近傍の静止体壁面温度Tw1およびは温度Tw2ほぼ等しくなる。添字1,2は状態番号を表す(以下同じ)。
本実施例では、補正値Cを温度の関数として表し、ロータ温度(蒸気温度)に対応した補正値Cを得るようにしている。すなわち、上述の実施例では、定常負荷状態において求めた補正値Cを用いて起動時や停止時など過渡状態における放射温度計の測定温度を補正している。過渡状態においては、補正値Cをロータ温度(蒸気温度)に応じて求めた方が放射温度計を用いてより正確にロータ温度を測定できると考えられる。しかし、起動時や停止時などの過渡時における静止体温度計の測定温度Twmは補正値Cを求める演算に用いることができない。そこで、本実施例では、補正値Cを以下に述べるように放射温度計の測定温度Tdmの関数として求めるようにしている。
起動時や停止時などの過渡時においては、静止体壁面の温度は蒸気温度(ロータ温度)に遅れて変化するため、静止体温度計の測定温度Twmを補正値Cの演算に用いることはできない。しかし、複数の温度一定状態における静止体温度計の測定温度Twmと放射温度計の測定温度Tdmに基づき、測定温度Twmは測定温度Tdmの関数として式(5)により求められる。
Twm=a×Tdm(K)+b (5)
係数a,bは、温度偏差比較器6aにおいて、放射温度計センサ部41による測定温度Tdm1、Tdm2と、静止体温度計センサ部51による測定温度Twm1、Twm2を用いて、式(6),式(7)より求める。
a=(Twm2−Twm1)/(Tdm2−Tdm1) (6)
b=Twm1−a×Tdm1 (7)
そして、補正値Cは、上述した式(1)と式(5)により、次式(8)のように表される(定められる)。
C=(a×Tdm(K)+b)/Tdm(K) (8)
温度偏差比較器6aで得られた係数a、bは補正値記憶装置6bで記憶される。放射温度計信号処理部4は、補正値記憶装置6bからの係数a、bを受け取り、放射温度計センサ部41からの測定温度Tdm(K)を用いて、上述した式(8)で補正値Cを求め、そして、求めた補正値Cと測定温度Tdm(K)を用いて上述した式(2)でロータ2の表面温度Tr(K)を求める。
また、ロータの表面温度Tr(K)は、上述した式(2)と式(8)により、次式(9)のように表すことができる。
Tr(K)=a×Tdm(K)+b (9)
従って、放射温度計信号処理部4は、受け取った係数a、bと放射温度計センサ部41からの測定温度Tdm(K)を用いて上述した式(9)によりロータ2の表面温度Tr(K)を求めるようにしても良い。
本実施例によれば、上述した実施例の効果が同様に得られる。また、本実施例では、補正値Cを温度の関数として表し、ロータ温度(蒸気温度)に対応させた補正値により放射温度計の測定温度を補正するようにしているので、より広範囲の温度領域でより高精度にロータ表面の温度を計測できる。
なお、上述の説明では状態1および状態2の二つの状態に基づき補正値Cを温度Tdmの関数として求める場合について説明したが、より多くの状態を設定した場合についても、補正値を温度Tdmの関数として求めることが可能である。
また、上述の説明では、ロータの表面温度Trと静止体壁面温度Twが実質的に一致する運転時として蒸気温度・流量一定運転時について説明した。蒸気温度・流量が緩慢に変化する運転状態においてもロータの表面温度Trと静止体壁面温度Twが実質的に一致する。従って、蒸気温度・流量一定運転時とは、言い換えれば、ロータの表面温度Trと静止体壁面温度Twが実質的に一致する運転状態を意味するものであり、狭義の一定のみならず、緩慢に変化する場合も含むものである。
次に、図2を用いて本発明の他の実施例を説明する。本実施例では放射温度計および静止体温度計をロータ軸方向に複数個所設置している。
図2に示すように、ロータ2の表面に対向して放射温度計センサ部41を複数設置し、それぞれの放射温度計センサ部41近傍の静止体壁面に静止体温度計センサ部51を張り付けて設置している。本実施例では、一つは、上述の実施例と同様に、蒸気の上流の入り口部および初段の前方位置のロータ2の表面に対向して非接触温度計センサ部41を設置し、他は、抽気管12を取り出す位置のロータ2の表面に対向して非接触温度計センサ部41を設置し、また、最終段の後方位置のロータ2の表面に対向して非接触温度計センサ部41を設置している。
定常負荷運転時においては蒸気Stの温度と流量はほほ一定に保たれるため、それぞれの位置においてロータ2表面の温度Trとロータ2の近傍の温度Twはほぼ等しくなる。各静止体温度計センサ部51の信号は静止体温度計信号処理部5に伝えられ、各放射温度計センサ部41の信号は放射温度計信号処理部4に伝えられる。そして、各設置箇所における放射温度計センサ部の測定温度の補正に用いる補正値Cが、上述の実施例と同様な手法でそれぞれ求められ、各補正値Cは、補正値記憶装置6bに、各放射温度計センサ部に対応して記憶される。そして、放射温度計信号処理部4は、補正値記憶装置6bからの各補正値Cと各放射温度計センサ部からの測定温度を用いて、各設置場所におけるロータ2の表面温度Tr(K)を上述した式(2)を用いて求める。
本実施例によれば、上述した実施例の効果が同様に得られる。また、本実施例では、さらに、蒸気タービンを短時間で起動する場合においても、複数個所のロータ表面の温度を直接計測するため複数個所のロータの熱応力を精度良く求めることが可能となり、ロータの複数個所の寿命評価を行うことも可能となる。
また、本実施例では、複数個所において、放射温度計を用いて直にロータの表面温度を求めることができるため、ロータの熱伸びの予測をより高精度に行うことができる。
次に、図3を用いて本発明の他の実施例を説明する。本実施例では放射温度計センサ部近傍に静止体温度計センサ部を複数個所設置している。
図3に示すように、図1の実施例と同様に、ロータ2の表面に対向して放射温度計センサ部41を設置し、さらに、放射温度計センサ部41近傍の静止体壁面に静止体温度計センサ部51を複数設置している。本実施例では、静止体温度計センサ部51は、図1の実施例における設置箇所に加えて、蒸気Stの入り口部の静止体壁面に設置している。但し、設置場所はこれに限定されない。定常負荷運転時においては蒸気Stの温度と流量はほほ一定に保たれ、蒸気Stの入り口部の静止体壁面の温度も含めてロータ2の表面温度Trとロータ2の近傍の温度Twはほぼ等しくなる。
複数の静止体温度計センサ部51の信号は静止体温度計信号処理部5に伝えられ、静止体温度計信号処理部5にて、複数の静止体温度計センサ部51の信号の平均値が求められ、また、電気信号に変換されて、静止体壁面の測定温度Twmとして温度偏差比較器6aに送られる。そして、静止体壁面の測定温度Twmとして静止体壁面の複数箇所の測定温度の平均値を用いる以外は、上述した図1に示す実施例と同様であり、詳細な説明は省略する。
本実施例によれば、上述した実施例の効果が同様に得られる。また、本実施例では、さらに、静止体壁面の温度を複数の静止体温度計センサ部で測定するようにしているので、より精度よく補正値Cを求めることができる。また、静止体温度計センサ部の何れかに異常が生じた場合、通常運転中にセンサ部を交換することはできないので、正常と思われるセンサ部からの信号のみ用いるようにすれば、容易に異常時の対応ができるので、計測システムの安定性が増す。
次に、図4を用いて本発明の他の実施例を説明する。本実施例では、放射温度計センサ部の先端に黒色もしくは暗灰色の円筒上のカバーを取り付けている。
図4の右側に示すように、ロータ2の表面に対向して設置した放射温度計センサ部41はロータ2の表面からの放射エネルギーだけでなく、外乱として静止体の放射光の反射エネルギーをも吸収する。これらは測定上の外乱となるため測定精度低下の要因となる。そこで、図4の中央及び左に示すように、放射温度計センサ部41の先端に黒色もしくは暗灰色の円筒上のカバー42を取り付ける。このカバー42により、外乱となる静止体の放射光の影響を取り除くことができる。
本実施例によれば、上述した実施例の効果が同様に得られ、さらに、外乱となる静止体の放射光の影響を受けず、より高精度にロータ温度を測定することが可能となる。
次に、図5を用いて本発明の他の実施例を説明する。本実施例では放射温度計センサ部に対向するロータ表面を黒色もしくは暗灰色としている。その他は上述した図1に示す実施例と同様である。
図5に示すように、本実施例では、放射温度計センサ部41に対向するロータ2の表面に黒色もしくは暗灰色とした領域13がロータの周方向に設けられている。
ロータ2にこのような領域13が設けられていない場合、放射率は例えば0.3と小さい値である。ロータ2の表面が酸化して、ロータ表面の状態が変化するとロータ2の表面の放射率は1.0に近い大きな値となることが予測される。
従って、黒色もしくは暗灰色の領域13を設けて、ロータ2の表面を、予め放射率が1.0に近い大きな値(例えば放射率0.8)とすることにより、その後のロータ2の表面が酸化しても放射率の変化は少なく、補正値Cの変動も小さく抑えることができる。従って、誤差の入る要因を少なくすることができ、さらなる測定精度の向上が望める。
本実施例によれば、上述した実施例の効果が同様に得られ、さらに、放射率の変化(従って補正値Cの変動)を小さく抑えて測定精度の向上が期待できる。
なお、上述の実施例では、回転機械として蒸気タービンを例にして説明したが、ガスタービンのロータにも適用できる。
また、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加,削除,置換をすることが可能である。
1 蒸気タービン
2 ロータ
4 非接触温度計信号処理部(放射温度計信号処理部)
41 非接触温度計センサ部(放射温度計センサ部)
42 カバー
5 静止体温度計信号処理部
51 静止体温度計センサ部
6a 温度偏差比較器
6b 補正値記憶装置
7 ケーシング(静止体壁面)
St 蒸気

Claims (13)

  1. ロータと前記ロータの周囲を覆う静止体壁面を有する回転機械のロータ温度計測方法であって、
    非接触温度計を用いて前記ロータの表面温度を測定し、
    静止体温度計を用いて前記非接触温度計近傍の前記静止体壁面の温度を測定し、
    前記ロータの表面温度と前記ロータの近傍の静止体壁面温度がほぼ等しくなる運転状態における前記非接触温度計の測定温度と前記静止体温度計の測定温度に基づき、前記ロータの表面の状態変化に起因して主に生ずる前記非接触温度計の測定温度の偏差を補正する補正値を求め、
    前記補正値を用いて前記非接触温度計の測定温度を補正して前記ロータの表面温度の計測値を得ることを特徴とする回転機械のロータ温度計測方法。
  2. 請求項1において、前記非接触温度計は放射温度計であり、前記静止体温度計は熱電対であることを特徴とする回転機械のロータ温度計測方法。
  3. 請求項2において、
    前記ロータの表面温度と前記ロータの近傍の静止体壁面温度がほぼ等しくなる運転状態は、回転機械の定常負荷運転状態であり、
    前記補正値を用いて前記放射温度計の測定温度を補正して前記ロータの表面温度の計測値を得るのは、回転機械の起動時または停止時であることを特徴とする回転機械のロータ温度計測方法。
  4. 請求項2において、
    前記ロータの表面温度と前記ロータの近傍の静止体壁面温度がほぼ等しくなる運転状態として、温度が異なる複数の運転状態を設定し、
    前記複数の運転状態における前記放射温度計の測定温度と前記静止体温度計の測定温度との複数の関係に基づき、前記補正値を前記非接触温度計の測定温度の関数として定め、
    前記放射温度計の測定温度に基づき得られた前記補正値を用いて前記放射温度計の測定温度を補正して前記ロータの表面温度の計測値を得ることを特徴とする回転機械のロータ温度計測方法。
  5. ロータと前記ロータの周囲を覆う静止体壁面を有する回転機械のロータ温度計測装置であって、
    前記ロータの表面に対向して設置した放射温度計と、
    前記非接触温度計近傍の前記静止体壁面に設置した静止体温度計と、
    前記放射温度計からの測定温度の電気信号と前記静止体温度計からの測定温度の電気信号を受け取り、両者の測定温度の比を求める比較器と、
    前記比較器で得られた比を記憶する記憶装置を備え、
    前記放射温度計は、前記記憶装置に記憶された比を受け取り、この比を用いて補正した測定温度を出力することを特徴とする回転機械のロータ温度計測装置。
  6. 請求項5において、前記比較器は、前記ロータの表面温度と前記ロータ近傍の前記静止体壁面温度がほぼ等しくなる運転状態における測定温度を前記放射温度計と前記静止体温度計からそれぞれ取得して比を求め、得られた比を前記記憶装置に送ることを特徴とする回転機械のロータ温度計測装置。
  7. 請求項5において、
    前記放射温度計は、前記ロータの表面に対向して設置した放射温度計センサ部と、前記放射温度計センサ部からのセンサ信号を電気信号に変換する放射温度計信号処理部とを有し、
    前記静止体温度計は、前記放射温度計センサ部近傍の前記静止体壁面に設置した静止体温度計センサ部と、前記静止体温度計センサ部からのセンサ信号を電気信号に変換する静止体温度計信号処理部とを有することを特徴とする回転機械のロータ温度計測装置。
  8. 請求項5において、前記回転機械は、タービンであり、
    前記放射温度計は、タービンの初段の前に設置されていることを特徴とする回転機械のロータ温度計測装置。
  9. 請求項5において、
    前記放射温度計と前記静止体温度計のセットを、前記ロータの軸方向に複数個所設けたことを特徴とする回転機械のロータ温度計測装置。
  10. 請求項7において、前記静止体温度計センサ部は、複数設けられていることを特徴とする回転機械のロータ温度計測装置。
  11. 請求項7において、前記放射温度計センサ部は、先端部に黒色もしくは暗灰色の円筒上のカバーが取り付けられていることを特徴とする回転機械のロータ温度計測装置。
  12. ロータと前記ロータの周方向に設けられた複数の動翼からなる回転部と、前記ロータ及び前記動翼を内包するケーシングと前記ケーシングの内周側に周方向に複数設けられ、前記動翼と段落を構成する静翼とからなる静止体とを有し、
    請求項5〜11の何れかに記載の回転機械のロータ温度計測装置を備えたことを特徴とする蒸気タービン。
  13. 請求項12において、前記ロータは、前記放射温度計に対向するロータ表面が黒色もしくは暗灰色に処理されていることを特徴とする蒸気タービン。
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