JP2014103906A - 部位特異的組換え系を利用した遺伝子導入方法およびそのためのキット - Google Patents

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Abstract

【課題】PITT法に代表される部位特異的組換え系を応用した遺伝子導入方法において、染色体への遺伝子の挿入効率を向上させる手段を提供する。
【解決手段】宿主細胞の染色体の所定の遺伝子座およびドナーベクターのそれぞれに設けられている、所定の認識配列に対応した部位特異的組換え酵素をコードする遺伝子のmRNAを、前記ドナーベクターと共に、前記宿主細胞に導入する。その際に、2種類以上の部位特異的組換え系を併用すると、染色体への遺伝子の挿入効率をより向上させることが可能である。
【選択図】なし

Description

本発明は、PITT(pronuclear injection-based targeted transgenesis)法に代表される、部位特異的組換え系を利用して宿主細胞に遺伝子を導入するための方法、およびその方法に用いられる発現ベクター等を含むキットに関する。
遺伝子機能解析や、病態解析・治療薬開発に有用な疾患モデル動物開発を行う上で、細胞や個体への外来遺伝子導入技術は必須である。トランスジェニック(Tg)マウスは、それらの目的の為に頻繁に使用されており、医学・生物学を含む幅広い分野で不可欠なツールとなっている。その作製法は、受精卵に目的遺伝子を顕微注入する方法が一般的である。この場合、遺伝子の挿入位置やコピー数を制御できないので、結果として、得られたTg系統間で導入遺伝子発現がばらつく(目的遺伝子が全く発現しないことも)ことが多々あり、約10%の確率で、挿入部位に存在する他の遺伝子を潰している場合もある。そのために5系統以上のTg系統を樹立し、期待通りの遺伝子発現を示しているか、各Tg系統間で表現型は統一されているか等を調べる必要がある。各系統から次世代を取り、それぞれ複数の個体を用いて解析をすることになるため、労力、コスト、スペース、時間の全てにおいて負担が大きい。また、複数コピーがタンデムに並んで挿入された場合のエピジェネティックな影響から、一度樹立した系統であっても、発現の安定性に問題があることが報告されている(世代を経る度に発現が減少する、個体間で発現がばらつく等)。これは実験結果に大きく影響しうることから、発現の再現性が保証されるTgマウス作製システムの確立が望まれている。しかし、1980年にTg作製手法が開発されて以来、最近まで大きな技術的革新はなく、未だランダム挿入に基づくTg作製が頻繁に行われている現状である。
発明者らは近年、上述したランダム挿入に基づくTgマウス作製法の問題点の克服を目指し、受精卵(前核)への顕微注入を介して特定のゲノム領域(Rosa26座位)に1コピーの目的遺伝子を導入するPronuclear injection-based Targeted Transgenesis (PITT)法を開発した(非特許文献1,2,3)。これには、Cre-loxP部位特異的組換え系を利用する(図1)。すなわち、ドナーベクター上の目的遺伝子を挟む変異型loxPと、前記特定のゲノム領域にあらかじめ導入されている変異型loxPとの間で、ドナーベクターと共に受精卵へ顕微注入したプラスミドから発現したCreの作用により部位特異的組換えが起きる。
このようなPITT法で作製されたターゲットTgマウスは、基本的に全て期待通りの遺伝子発現を示すことから、従来のランダム挿入に基づいてTgマウスを作製するときのように複数系統から理想的なものを選ぶ労力やコストを要せず、結果として使用するマウス個体数の削減に繋がる為、動物愛護の点からも優れている。しかしながら、これまでのPITT法の遺伝子挿入効率は産仔の約5%程度であり、従来法の効率(10〜20%)と比較してやや低いという難点があった。
Ohtsuka M, Ogiwara S, Miura H, Mizutani A, Warita T, Sato M, Imai K, Hozumi K, Sato T, Tanaka M, Kimura M, Inoko H (2010) Pronuclear injection-based mouse targeted transgenesis for reproducible and highly efficient transgene expression. Nucleic Acids Res 38:e198 Ohtsuka M, Miura H, Nakaoka H, Kimura M, Sato M, Inoko H (2012) Targeted transgenesis through pronuclear injection of improved vectors into in vitro fertilized eggs. Transgenic Res 21:225-226 Ohtsuka M, Miura H, Sato M, Kimura M, Inoko H and Gurumurthy C. B. (2012) PITT: Pronuclear Injection-Based Targeted Transgenesis, a Reliable Transgene Expression Method in Mice. Exp. Anim. 61(5), 489502
本発明は、PITT法に代表される、部位特異的組換え系を応用した遺伝子導入方法において、染色体への遺伝子の挿入効率を向上させることを目的とする。
発明者は、PITT法においてこれまでプラスミドDNAとして注入していたCre遺伝子をmRNAの形態で受精卵に注入することにより、遺伝子の挿入効率が大幅に改善することを見出した。さらに、複数の部位特異的組換え系を併用することにより、遺伝子の挿入効率をさらに向上できる可能性があることを見出した。
すなわち本発明は、一つの側面において染色体への遺伝子の挿入効率が改善された遺伝子導入方法を提供し、もう一つの側面においてその方法を実施するために好適なキットを提供する。それぞれの発明には、具体的には下記の発明が包含される。
[1] 宿主細胞の染色体上の所定の遺伝子座にあらかじめ設けられている、2箇所に配置された同一の部位特異的組換え酵素(R)によって認識される配列(r1)および(r2)ならびに当該認識配列に挟まれた任意配列(n)を含む領域(T)と、ドナーベクター上に設けられている、2箇所に配置された前記部位特異的組換え酵素(R)によって認識される配列(r1’)および(r2’)ならびに当該認識配列に挟まれた目的遺伝子(g)およびpolyA付加シグナル(a)を含む領域(D)との間で、前記部位特異的組換え酵素(R)による部位特異的組換えを起こすことより、前記目的遺伝子(g)を前記宿主細胞の染色体に挿入する遺伝子導入方法であって、前記部位特異的組換え酵素(R)をコードする遺伝子のmRNAを、前記ドナーベクターと共に、前記宿主細胞に導入する工程を含むことを特徴とする方法。
[2] 前記宿主細胞が受精卵である、[1]に記載の方法。
[3] 前記宿主細胞がマウス由来である、[1]または[2]に記載の方法。
[4] 前記マウスがC57BL/6N系統である、[1]〜[3]のいずれか一項に記載のPITT法。
[5] 前記宿主細胞への導入が顕微注入法によって行われる、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の方法。
[6] 前記認識配列(r)がloxPまたはその変異型であり、前記部位特異的組換え酵素(R)がCreまたはその変異型である、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の方法。
[7] 前記目的遺伝子(g)を前記宿主細胞の染色体に挿入するために、および/またはその他の目的のために、2種類以上の部位特異的組換え系を併用する、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の方法。
[8] 前記2種類以上の部位特異的組換え系が、Cre-loxP系に加えて、φc31インテグラーゼ系および/またはFLP-FRT系を含む、[1]〜[7]のいずれか一項に記載の方法。
[9] 2箇所に配置された部位特異的組換え酵素(R)によって認識される領域(r1’)および(r2’)ならびに当該認識領域に挟まれた目的遺伝子(g)およびpolyA付加シグナル(a)を含む領域(D)を備えたドナーベクターまたはその作製用部材と、前記部位特異的組換え酵素(R)をコードする遺伝子のmRNAまたはその調製用部材とを含むことを特徴とする、遺伝子導入用キット。
[10] さらに、下記(i)および(ii)の少なくとも一方を含む、[9]に記載のキット:
(i)染色体上の所定の遺伝子座にあらかじめ、2箇所に配置された同一の部位特異的組換え酵素(R)によって認識される配列(r1)および(r2)ならびに当該認識配列に挟まれた任意配列(n)からなる領域(T)が設けられている宿主細胞あるいはその作製用部材;
(ii)前記部位特異的組換え酵素(R)をコードする遺伝子のmRNAを、前記ドナーベクターと共に、前記宿主細胞に導入するための部材。
[11] 前記ドナーベクター、mRNA溶液または宿主細胞が、前記目的遺伝子(g)を前記宿主細胞の染色体に挿入するために、および/またはその他の目的のために、2種類以上の部位特異的組換え系を併用する実施形態に対応するものである、[9]または[10]に記載のキット。
部位特異的組換え系を応用した遺伝子導入方法において、本発明に従い、部位特異的組換え酵素をmRNAの形態で宿主細胞に導入することにより、染色体への遺伝子の挿入効率を向上させることができる。また、染色体に遺伝子を挿入するために複数の部位特異的組換え系を併用することにより、挿入効率をさらに向上させることが可能となる。
従来のPITT法によるターゲットTgマウス作製法の概略。 本発明のPITT法によるターゲットTgマウス作製法の概略。 新たにデザインしたPITT用コンストラクトおよびES細胞へのターゲティング。(上)新たにデザインしたコンストラクトは、従来用いられていた変異loxP配列(JT15/JTZ17, lox2272)に加えて、変異FRT配列(F14, F15)およびφC31インテグラーゼのattP配列を有する。これを用いて、BACクローンを改変することによりターゲティングベクターを作製し、E14.1 ES細胞のRosa26座位に挿入した。同様に、C57BL/6N系統由来のES細胞にもターゲティングし、当該系統の種マウスを作製した。(下)野生型アリルおよびノックインアリルによるeGFP蛍光強度の測定結果。ノックインアリルからのeGFP蛍光が確認できる。 新たなコンストラクトを用いた遺伝子挿入法(1):変異loxP配列(JT15/JTZ17, lox2272)を介した挿入。Cre-loxP系を用いて遺伝子を挿入した後、FLP-FRT系で余分な配列を除去することができる。 新たなコンストラクトを用いた遺伝子挿入法(2):φC31インテグラーゼを介した挿入。φC31インテグラーゼを用いて遺伝子を挿入した後、FLP-FRT系で余分な配列を除去することができる。最終的な構造は図4と同一である。 新たなコンストラクトを用いた遺伝子挿入法(3):変異FRT配列(F14, F15)を介した挿入。FLP-FRT系を用いて遺伝子を挿入することもできる。最終的な構造は図4および図5と同一である。 各組換え系における遺伝子挿入効率の比較(参考例1)の実験方法の概要。 各組換え系における遺伝子挿入効率の比較(参考例1)の実験結果。 各組換え系における遺伝子挿入効率の比較(参考例2)の実験方法の概要およびその結果。 参考例1で用いたpAOM(a)、pBFD(b)およびpBFG(c)のベクターマップ。
本発明の遺伝子導入方法に用いられる、ターゲティングベクターおよびドナーベクターの基本的な構成や作製方法、増幅方法、細胞への導入方法、発現方法などに関する実施形態(プロトコール)は、当業者にとって公知の技術的事項であり、本発明において準用することができる。特に、PITT法に関する詳細は、前記非特許文献1〜3を参照することができる。
−遺伝子導入方法−
本発明の遺伝子導入方法は、宿主細胞の染色体上の所定の遺伝子座にあらかじめ設けられている、2箇所に配置された同一の部位特異的組換え酵素(R)によって認識される配列(r1)および(r2)ならびに当該認識配列に挟まれた任意配列(n)からなる領域と、ドナーベクター上に設けられている、2箇所に配置された前記部位特異的組換え酵素(R)によって認識される配列(r1)および(r2)ならびに当該認識配列に挟まれた目的遺伝子(g)およびpolyA付加シグナル(a)を含む領域との間で、部位特異的組換えを起こすことより、前記目的遺伝子(g)を前記宿主細胞の染色体に挿入する遺伝子導入方法であって、前記部位特異的組換え酵素(R)をコードする遺伝子のmRNA溶液を、前記ドナーベクターと共に、前記宿主細胞に導入する工程を含むことを特徴とする。
本発明の遺伝子導入方法について、以下の記載では主に、実験動物として汎用されており、遺伝子の挿入効率の高さなどの点から好ましい、マウスの受精卵に対して顕微注入法を用いて行う場合の実施形態に言及する。しかしながら、本発明はそのような実施形態に限定されるものではなく、染色体の所定の遺伝子座にあらかじめ所定の領域が設けられている宿主細胞全般に対して、また様々な導入方法において、下記の記載を準用することができる。
[宿主細胞調製工程]
本発明では、導入工程において、染色体の所定の遺伝子座にあらかじめ、2箇所に配置された同一の部位特異的組換え酵素(R)によって認識される配列(r1)および(r2)ならびに当該認識配列に挟まれた任意配列(n)からなる領域(T)が設けられている宿主細胞を用いる。そのような宿主細胞は、たとえば、前記領域(T)とともにその両側に設けられた相同領域(h1)および(h2)を含むターゲティングベクターを用いて、染色体の所定の遺伝子座(野生型アリル)との間で相同組換えを起こさせる、つまりノックインアリルに転換することを通じて作製することができる。このようにして部位特異的組換え酵素の認識配列(r1)および(r2)の染色体上の位置が特定されていることにより、最終的に目的遺伝子を安定的に染色体内に挿入することが可能となる。
(ターゲティングベクター)
前述したようなノックインアリルを作製する際に用いられるターゲティングベクターは、2箇所に配置された同一の部位特異的組換え酵素(R)によって認識される配列(r1)および(r2)ならびに当該認識配列に挟まれた任意配列(n)を含む領域(T)と、その両側に設けられた相同領域(h1)および(h2)を備える。また、領域(T)は、必要に応じて、前記部位特異的組換え酵素(R)とは異なる部位特異的組換え酵素に対応する認識配列をさらに含んでいてもよい。このようなターゲティングベクターは、たとえばプラスミドを用いて、常法に従って作成することができる。
・認識配列
ターゲティングベクターの領域(T)は少なくとも、目的遺伝子を染色体に挿入する操作に直接的に関与する部位特異的組換え酵素(R)に対応する認識配列として、任意配列(n)を挟んで5’末端側(上流)に配置される認識配列(r1)と、3’末端側(下流)に配置されるもう一つの認識配列(r2)とを含む。
また、領域(T)は必要に応じてさらに、前記目的遺伝子(g)を前記宿主細胞の染色体に挿入するために、および/またはその他の目的のために、部位特異的組換え酵素(R)以外の一または複数の部位特異的組換え酵素に対応する認識配列を、適切な位置に含んでいてもよい。
ターゲティングベクター側の部位特異的組換え酵素の認識配列(r1)および(r2)は、染色体に組み込まれた後に、目的遺伝子組換え工程で導入されるドナーベクターが有する認識配列(r1’)および(r2’)との間で適切な組換えが起きるように設計する必要がある。また、複数の部位特異的組換え系を併用する場合は、前記組換え後にさらに、染色体に残されているターゲティングベクター由来の認識配列と、染色体に挿入されたドナーベクター由来の認識配列との間で所望の部位特異的組換えが起きるよう(たとえば不要な領域を切除できるよう)、適切に設計する必要がある。
ここで、部位特異的組換え酵素(R)の認識配列には大抵バリエーション(通常型およびいくつかの変異型)があるが、同一の部位特異的組換え酵素(R)が認識できるものであれば、一つの部位特異的組換え系において複数の種類の認識配列を用いることができる。ただし、ターゲティングベクターの5’末端側の認識配列(r1)と3’末端側の認識配列(r2)は、それらの間で部位特異的組換えが起きてそれらで挟まれた領域がループ状に切り出される(両認識配列が同方向の場合)または逆位でつなぎ直される(両認識配列が逆方向の場合)ことを避けるために、異なる種類の認識配列とすることが好ましい。
部位特異的組換え酵素およびその認識配列の組み合わせからなる系は宿主細胞において機能するものを用いればよく、特に限定されるものではない。たとえば、哺乳動物細胞においては、Dre-rox系、Cre-loxP系、FLP-FRT系、φC31インテグラーゼ系(attP、attBによる)などを利用することができる。
Cre-loxP系については、部位特異的組換え酵素(Cre)の認識配列として、通常型のloxP配列のほか、変異型のJT15/JTZ17、lox2272などの配列を用いることができる。JT15およびJTZ17は「近い変異型」であり、これらの間で組換えが可能である。なお、部位特異的組換え酵素として、通常型のCreの他、改良型のiCreなどを用いることもできる。
FLP-FRT系については、部位特異的組換え酵素(FLP)の認識配列として、通常型のFRT配列のほか、変異型のF14、F15などの配列を用いることができる。
・任意配列(n)
任意配列(n)は、本発明の方法において部位特異的組換えが起きたときにそれを検出することのできる、マーカー遺伝子およびpolyA付加配列を含むことが一般的である。
マーカー遺伝子としては、一般的にレポーター遺伝子や薬剤耐性遺伝子(真核細胞用)として知られているもの、たとえば、a)励起光を照射したときに特定の蛍光を発する蛍光タンパク質(GFP、eGFP、tdTomoatoなど)をコードする遺伝子、b)特定の基質から発色物質等を生成する酵素(ホタル、ウミシイタケル、ガウシア(カイアシ)等のルシフェラーゼ、βガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)など)をコードする遺伝子、c)特定の薬剤(ネオマイシン、ハイグロマイシン、ピューロマイシン、ブラストサイジン、など)への耐性を賦与する遺伝子が挙げられる。
polyA付加シグナル(a)は、任意配列に含まれる遺伝子(マーカー遺伝子)の転写を正常に終結させてそのmRNAの3'末端をポリアデニル化するための配列であり、その遺伝子の下流に配置される。polyA付加シグナルは特に限定されるものではなく、公知のものの中から適切なものを選択すればよいが、たとえばSV40由来のpolyA付加シグナルが挙げられる。また、ニワトリβアクチン遺伝子のプロモーターおよびサイトメガロウイルスIEエンハンサー、ならびにウサギβグロビン遺伝子のpolyA付加シグナルの組み合わせからなるCAGプロモーター発現カセットは強力な発現カセットとして知られており、これに用いられているpolyA付加シグナルを用いることも好適である。
・相同領域(h)
相同領域(h1)および(h2)は、染色体上の特定の位置(遺伝子座位)に、相同組換えによって上記所定の領域(T)を挿入するためのものである。これらの塩基配列は、染色体上の相同組換えの対象地点の塩基配列に基づいて、それぞれ適切な長さで設計すればよい。たとえば、任意配列を挟んで、一方の相同領域(h1)を比較的短めの配列、もう一方の相同領域(h2)を比較的長めの配列にすることができる。
(ターゲティングベクターの導入方法)
上述したようなターゲティングベクターは、公知の手法を用いて細胞に導入することができる。ターゲティングベクターを導入する細胞としては、ES細胞や受精卵が挙げられる。ターゲティングベクターの導入方法としては、ウイルスベクターを用いる方法、細胞融合法、顕微注入(マイクロインジェクション)法、エレクトロポレーション法、リポソームやポリエチレンイミンを用いるトランスフェクションなどが挙げられる。たとえば、ES細胞にエレクトロポレーションでターゲティングベクターを導入する方法が好適である。
ターゲティングベクターの導入工程の後、常法に従い、ターゲティングベクターを取り込んでいる細胞を選択する。たとえば、選択マーカーとしてネオマイシン耐性遺伝子を用いている場合は、G418を用いて選択すればよい。必要に応じてさらに、PCR、サザンブロッティング等によりターゲティングベクターが導入されていることを確認する。
このようにして選択された細胞を用いて個体を発生させると、生殖細胞も含めて個体の全細胞がノックインアリルを有するキメラマウスが得られるので、常法に従い、野生型マウスと交配してヘテロマウスを得て、さらにヘテロマウス同士でクロス交配することによりホモマウスが得られる。そのようなホモマウス(種マウス)の雄と野生型動物の雌とを交配することにより、ノックインアリルと野生型アリルとをヘテロで有する受精卵が得られる。また、種マウスの雄および雌を交配することによりノックインアリルをホモで有する受精卵を得てもよいし、自然交配だけでなく、採取した未受精卵と精子との体外受精(IVF)を用いて受精卵を得てもよい。このような受精卵は、特にトランスジェニック動物の作製する場合などにおいて、本発明の遺伝子導入方法を適用するための宿主細胞として好適である。
なお、そのようなトランスジェニック動物がマウスの場合、本明細書においてそれを「種マウス」と称することがある。たとえば、世界的基準であるC57BL/6N(B6N)系統のマウスから、上記の種マウスや受精卵を作製することは、均一の遺伝的背景において再現性ある遺伝子発現をするターゲットTgマウスを用いて、質の高い解析を行うことができるようになるため好ましい。
[目的遺伝子組換え工程]
(ドナーベクター)
導入工程において用いられるドナーベクターは、2箇所に配置された同一の部位特異的組換え酵素(R)によって認識される配列(r1')および(r2')ならびに当該認識配列に挟まれた目的遺伝子(g)およびpolyA付加シグナル(a)を含む領域(D)を備える。また、領域(D)は、必要に応じて、前記部位特異的組換え酵素(R)とは異なる部位特異的組換え酵素に対応する認識配列をさらに含んでいてもよい。このようなドナーベクターは、たとえばプラスミドを用いて、常法に従って作成することができる。
・認識配列
ドナーベクターの領域(D)は少なくとも、目的遺伝子を染色体に挿入する操作に直接的に関与する部位特異的組換え酵素(R)に対応する認識配列として、目的遺伝子(g)等を挟んで5’末端側(上流)に配置される認識配列(r1’)と、3’末端側(下流)に配置されるもう一つの認識配列(r2’)とを含む。
また、領域(D)は必要に応じてさらに、前記目的遺伝子(g)を前記宿主細胞の染色体に挿入するために、および/またはその他の目的のために、部位特異的組換え酵素(R)以外の一または複数の部位特異的組換え酵素に対応する認識配列を、適切な位置に含んでいてもよい。
ドナーベクター側の部位特異的組換え酵素の認識配列(r1’)および(r2’)は、あらかじめ染色体に挿入されている(ターゲティングベクター由来の)認識配列(r1)および(r2)との間で適切な組換えが起きるように設計する必要がある。また、複数の部位特異的組換え系を併用する場合は、前記組換え後にさらに、染色体に残されているターゲティングベクター由来の認識配列と、染色体に挿入されたドナーベクター由来の認識配列との間で所望の部位特異的組換えが起きるよう(たとえば不要な領域を切除できるよう)、適切に設計する必要がある。
ターゲティングベクターについて前述したことと同様、ドナーベクターの5’末端側の認識配列(r1')と3’末端側の認識配列(r2')も、それらの間で部位特異的組換えが起きてそれらで挟まれた領域がループ状に切り出される(両認識配列が同方向の場合)または逆位でつなぎ直される(両認識配列が逆方向の場合)ことを避けるために、異なる種類の認識配列とすることが好ましい。
一方、ドナーベクターの5’末端側の認識配列(r1')は、染色体の5’末端側の認識配列(r1)と、同一であるか、近い変異型(たとえばJT15/JTZ17)であることが好ましい。同様に、ドナーベクターの3’末端側の認識配列(r2')は、染色体の3’末端側の認識配列(r2)と、同一であるか、近い変異型であることが好ましい。
その上で、ドナーベクターの目的遺伝子(g)が意図した方向のまま(逆位を起こさず)染色体に挿入され、転写されるよう、ドナーベクターの5’末端側の認識配列(r1')の方向および染色体の5’末端側の認識配列(r1)の方向、ならびにドナーベクターの3’末端側の認識配列(r2')および染色体の3’末端側の認識配列(r2)の方向は、それぞれ同方向に揃える必要がある。ただし、ドナーベクターの5’末端側の認識配列(r1')の方向および3’末端側の認識配列(r2')の方向は、用いる変異型認識配列の組み合わせによっては(たとえばJT15/JTZ17とlox2272の組み合わせの場合)相違していても所期の通り機能するので、必ずしも一致させる必要はない。
・目的遺伝子(g)およびpolyA付加シグナル(a)
目的遺伝子(g)は、どのような目的、用途で遺伝子を宿主細胞の染色体に挿入するのかに応じて、適宜選択することができ、特に限定されるものではない。また、polyA付加配列については、ターゲティングベクターにおいて述べたことと同様である。
なお、染色体上の適切な位置に目的遺伝子(g)を挿入することにより、その遺伝子座のプロモーターを用いて目的遺伝子(g)を発現させることが可能になる(逆に言えば、所定の位置に目的遺伝子(g)が挿入された場合のみ、それを発現させて、挿入を検出することができる)が、そのような実施形態にしない場合は、目的遺伝子(g)のプロモーターをドナーベクターの領域(D)に含めておき、目的遺伝子(g)とともに染色体に挿入された当該プロモーターによって発現させるようにしてもよい。
(mRNA)
本発明において、部位特異的組換え酵素(R)の遺伝子は、mRNAの形態で宿主細胞に導入する。
所望の部位特異的組換え酵素(R)のmRNAは、cDNAを作製ないし入手した後mRNAを増幅させるなど、常法に従って調製することができる。なお、各種の部位特異的組換え酵素の遺伝子の塩基配列は各種のデータベース等により検索することが可能である。
mRNAを宿主細胞に導入する際には、一般的には適切な濃度に調整されたmRNA溶液を用いる。mRNA溶液の適切な濃度は、用いる部位特異的組換え酵素(R)の種類やベクターの構成などによって変動する可能性があるので、それらに応じて適宜設定すればよい。たとえば、後記実施例に示すように、受精卵に対して所定のドナーベクターおよびiCreを顕微注入法により導入する場合、5ng/μl未満とすることが好ましい。mRNA溶液の濃度が5ng/μl以上の場合、部位特異的組換え酵素(R)の毒性のためか、胚が正常に発生しない場合がある。
(ドナーベクターおよびmRNAの導入方法)
上述したようなドナーベクターおよび部位特異的組換え酵素(R)のmRNAは、公知の手法を用いて宿主細胞に導入することができるが、本発明においては、前述したような手法により得られるノックインアリルと野生型アリルとをヘテロまたはホモで有する受精卵に対して、顕微注入法により導入することが好適である。あるいは、試験的な目的の場合などには、ES細胞等にターゲティングベクターを導入し、ノックインアリルが形成されていることを確認したのち、その培養細胞に続けてドナーベクターおよび部位特異的組換え酵素(R)のmRNAを導入するようにしてもよい。
宿主細胞内に導入されたmRNAは翻訳されて、所定の部位特異的組換え酵素(R)を発現する。その作用により、それぞれ部位特異的組換え酵素の認識配列で挟まれているドナーベクターの所定の領域(D)と染色体上の所定の領域(T)とが組み換えられ、目的遺伝子が染色体内に挿入される。この目的遺伝子は、領域(D)に含まれているプロモーターまたは挿入された位置にある遺伝子座のプロモーターによって発現する。
また、複数の部位特異的組換え系を併用する実施形態においては、その目的遺伝子(g)を宿主細胞の染色体に挿入するために利用するのか、その他の目的(不要な配列の削除等)のために利用するのかに応じて、適切な時期に、部位特異的組換え酵素(R)以外の部位特異的組換え酵素(RR)のmRNAを宿主細胞に導入すればよい。たとえば、目的遺伝子を宿主細胞の染色体に挿入するために併用するのであれば、部位特異的組換え酵素(R)のmRNAと他の部位特異的組換え酵素(RR)のmRNAとを混合して導入してもよい。一方、目的遺伝子が染色体に挿入された後、不要な配列を削除するといったような目的で併用するのであれば、たとえば、目的遺伝子が染色体に挿入されたことが確認された後に、他の部位特異的組換え酵素(RR)のmRNAを追加で導入するようにしてもよい。
(部位特異的組換えの機構)
部位特異的組換え系を、目的遺伝子(g)を染色体に挿入するための一組だけ用いる場合の機構は次の通りである。
染色体側(ターゲティングベクター側)の認識配列(r1)とドナーベクター側の認識配列(r1’)との間、染色体側(ターゲティングベクター側)の認識配列(r2)とドナーベクター側の認識配列(r2’)との間で、それぞれ部位特異的組換えが起きて、染色体側(ターゲティングベクター側)の任意配列(n)がドナーベクターに乗り移り、ドナーベクター側の目的遺伝子(g)が染色体に乗り移る。
また、部位特異的組換え系を、目的遺伝子(g)を染色体に挿入するための一組に加えて、その他の目的のためにさらに一組または複数組用いる(合計で二組以上用いる)こともできる。この場合の機構として、図4、図5および図6に示すような実施形態が考えられる。これらは、共通する3組の認識配列を用いつつ、最初および次に用いる部位特異的組換え酵素を相違させることにより異なる挙動を示す。
なお、図5の実施形態は、染色体、ドナーベクターそれぞれに2つの認識配列を必要とする部位特異的組換え酵素ではなく、染色体、ドナーベクターそれぞれに1つの認識配列があればよいインテグラーゼを用いて目的遺伝子を染色体に挿入する方法である。したがって、このような様式のみによって目的遺伝子を染色体に挿入する場合は本発明には該当しないことになるが、染色体、ドナーベクターそれぞれに2つの認識配列を必要とする部位特異的組換え酵素によって目的遺伝子を染色体に挿入する様式と併用することは、本発明に含まれるので、あわせて説明することとする。
まず、図4では、JT15がこれまでの説明における認識配列(r1)に相当し、JTZ17が(r1’)に相当し、lox2272が(r2)および(r2’)に相当する。これらに部位特異的組換え酵素としてCre等を作用させると、染色体上およびドナーベクター上のJT15およびJTZ17の間と、染色体上およびドナーベクター上のlox2272同士の間のそれぞれで部位特異的組換えが起きて、目的遺伝子(g)に相当するGOIが染色体に挿入される。このとき、いくつかの認識部位(attP、JT15とJTZ17が融合した配列、およびこれらを挟む2つのF14、ならびにlox2272とこれを挟む2つのF15)がGOIとともに染色体上に挿入されるないし残されることになる。そこで、F14およびF15に対応する部位特異的組換え酵素としてFLPo等を作用させると、F14およびF15を1つずつ残して、それ以外の不要な配列を染色体上から取り除くことができる。この実施形態では、組換えのための段階と、不要な配列を削除するための段階の、2段階で工程が完了する。
一方、図5では、attPおよびattBを用いてGOIを染色体に挿入する。φ31インテグラーゼを作用させると、染色体上のattPおよびドナーベクター上のattBによる組み込みが起きて、目的遺伝子(g)に相当するGOIが染色体に挿入される。このとき、図4とは異なる様式により、染色体上の任意配列(eGFP等)およびいくつかの認識部位がGOIとともに染色体上に挿入されるないし残されることになる。そこで、図4と同様、F14およびF15に対応する部位特異的組換え酵素としてFLPo等を作用させると、F14およびF15を1つずつ残して、それ以外の不要な配列を染色体上から取り除くことができる。この実施形態でも、組換えのための段階と、不要な配列を削除するための段階の、2段階で工程が完了する。
また、図6では、F14がこれまでの説明における認識配列(r1)および(r1’)に相当し、F15が(r2)および(r2’)に相当する。これらに部位特異的組換え酵素としてFLPo等を作用させると、染色体上およびドナーベクター上のF14同士の間と、染色体上およびドナーベクター上のF15同士の間のそれぞれで部位特異的組換えが起きて、目的遺伝子(g)に相当するGOIが染色体に挿入される。この実施形態では、不要な領域を削除する必要がなく、一段階で工程を完了させることができる。
(遺伝子導入方法の適用場面)
本発明の遺伝子導入方法をどのような目的、用途において適用するかは特に限定されるものではない。たとえば、外来性遺伝子を全身または局所的(組織特異的)に発現する動物個体、いわゆるトランスジェニック動物を作製する際に用いることが好適である。また、遺伝子機能の解析やモデル動物作製のために、生体の全身または局所的に遺伝子を導入する(尾静注での肝臓への導入、胎児脳への導入等)ことも好適である。この際、目的遺伝子を染色体に挿入することで、細胞内で恒常的に当該目的遺伝子を発現させることが可能となるので、先天性もしくは慢性疾患に関する遺伝子を長期的に発現させたり、あるいは逆に、標的遺伝子の発現をmiRNAまたはsiRNAを介したRNAiにより抑制(ノックダウン)したりすることが可能となる。
−遺伝子導入用キット−
本発明の遺伝子導入用キットは、上述したような遺伝子導入方法を実施する上で好適な各種の部材により構成することができる。
このようなキットは、基本的に、前述したようなドナーベクター自体またはそれを作製するための部材(所望の目的遺伝子、部位特異的組換え酵素の認識配列、制限酵素部位等を含むオリゴヌクレオチドを作製するための部材や、そのようなオリゴヌクレオチドを挿入できる制限酵素部位を備えた基本的なベクター等)と、部位特異的組換え酵素(R)をコードする遺伝子のmRNAまたはそれを調製するための部材(部位特異的組換え酵素の遺伝子を含む二本鎖cDNAおよびmRNA増幅用の試薬、mRNA溶液を適切な濃度にするための希釈液等)とを含む。
このキットはさらに、前述したような宿主細胞自体またはそれを作製するための部材(前述したようなターゲティングベクター、組み込みを確認するための選択マーカーに対応した発光基質や薬剤、あるいは種マウス等)、mRNAをドナーベクターと共に宿主細胞に導入するための部材(たとえば顕微注入法用の試薬や器具等)、あるいはこれらの両方を含んでいてもよい。
また、前述したように、目的遺伝子(g)を宿主細胞の染色体に挿入するために、および/またはその他の目的のために、2種類以上の部位特異的組換え系を併用する実施形態に用いるキットとするためには、それに対応するよう、ドナーベクター、mRNA溶液、宿主細胞などを設計することができる。たとえば、ドナーベクターおよび宿主細胞(ないしその作製用のターゲティングベクター)は、所定の領域に所定の順序で、複数の部位特異的組換え酵素に対応する認識配列を有するものとすることができる。また、mRNAは、それらに用いられている複数の部位特異的組換え酵素のそれぞれに対応したものとすることができる。
そのほかにも、本発明のキットには、本発明を実施する上で用いられる各種の部材や、本発明のキットの使用方法(本発明による遺伝子導入方法)のプロトコールを記載した説明書などを、必要に応じて含んでいてもよい。
[実施例1]
まずコドンが最適化されたimproved Cre (iCre)遺伝子をmRNA合成用ベクター(pcDNA3.1-poly(A83):山縣博士より供与)にクローニングし、iCre mRNAを合成した。次に、iCre mRNAをCreレポーターコンストラクト(CAG-loxP-eGFP-pA-loxP-tdTomato-pA)と共に1細胞期胚の前核と細胞質に注入し、iCreが働くことの確認と、mRNAの至適濃度の検討を行った。mRNAを導入した胚の全てが赤蛍光を発していたことから、iCreが期待通りに働くことが分かった。同時に、5 ng/μl以上の濃度では、Creの毒性のためか胚が正常に発生しないことが明らかとなった。
そこで、5 ng/μl未満の濃度のiCre mRNAを用いて実際にPITT法を行い、transgeneの挿入効率を調べた。具体的には、tdTomato発現カセットを有するドナーベクター(pAOM: CAGプロモーター-tdTomato-polyA(図10(a)参照); 14 kb)とiCre mRNAを共注入した胚を13.5日胚期で回収し、遺伝子挿入の有無を蛍光とDNA解析で調べた。3回の独立した実験を行った結果、回収した胚の約25%に目的遺伝子の挿入が見られた。このことから、Cre遺伝子をmRNAの形で注入することでPITT効率が大幅に改善する可能性が示された。
次に、0.75-2 ng/μlのiCre mRNAを用いてPITT法で実際にTgマウスの作製を行った。その結果、pBFD(Thy1プロモーター-Dre遺伝子-polyA:図10(b)参照)、pBFG(HLA遺伝子、ヒトβ2ミクログロブリン遺伝子、H2-K1遺伝子の融合遺伝子の発現カセットを含む。図10(c)参照)の両方のドナーベクターに関して、Tgマウス作製に成功した(それぞれ26.7% (4/15) と 6.6% (1/15))。これにより、従来法(4-5%)よりも高い効率(約20%)でPITT法によるTgマウス作製が可能となったと言える。
[参考例1]
図7に示すドナーベクター(tdTomato遺伝子cDNA、polyA付加シグナル、変異loxP配列、変異FRT配列、attP配列を有する)を作製し、各組換え酵素発現コンストラクトと共にタグ付加ES細胞へ導入した。なお、図7中の「タグ付加ES細胞」は、図3と同様の方法で作製した、129/Ola系統由来のE14tg2a ES細胞を改変して作製したタグ付きES細胞である。また、各組換え酵素発現コンストラクトは、いずれもベクターの形態である。導入3日後にFACS解析を行い、赤色蛍光発現細胞の有無、及びその割合を調べた。殆どの場合、目的の遺伝子座位に挿入された時のみ赤蛍光を発現すると期待される。
結果は図8に示す通りである。3種類の組換え系での比較(φC31、iCre、FLPoそれぞれを単独で用いた場合)より、本実験系における遺伝子挿入効率は、φC31 ≧ iCre ≫ FLPoの順であった。また、2種類の組換え系とその組み合わせでの比較(φC31またはiCreそれぞれ単独で、あるいはこれら両方を用いた場合)より、iCreとφC31を同時に供給することにより効率が上がる結果が得られた。独立した4回の実験で結果の再現性が認められた。
以上の傾向、すなわち複数の部位特異的組換え系を併用したときに挿入効率が上昇することは、部位特異的組換え酵素をmRNAの形態でES細胞等の宿主細胞に導入した場合も同様であると考えられる。また、上記の実験で用いたES細胞(E14tg2a)と同様、C57BL/6N系統由来のES細胞にもターゲティングし、当該系統の種マウスを作製済みであり、そちらについても同様の傾向を示すものと考えられる。
[参考例2]
図9(上)に示すように、2種類の組換え系について、認識配列の数を増やした際の効率について検証した。すなわち、ドナーベクターの”attB-JTZ17"の領域を、タンデムに6個繋げたJTZ17(左)またはattB配列(右)に置換したベクターを作製し、それらを用いた際の挿入効率について調べた。結果は、図9(下)に示す通りである。本実験系においては効率の改善は認められなかった。

Claims (11)

  1. 宿主細胞の染色体上の所定の遺伝子座にあらかじめ設けられている、2箇所に配置された同一の部位特異的組換え酵素(R)によって認識される配列(r1)および(r2)ならびに当該認識配列に挟まれた任意配列(n)を含む領域(T)と、
    ドナーベクター上に設けられている、2箇所に配置された前記部位特異的組換え酵素(R)によって認識される配列(r1’)および(r2’)ならびに当該認識配列に挟まれた目的遺伝子(g)およびpolyA付加シグナル(a)を含む領域(D)との間で、
    前記部位特異的組換え酵素(R)による部位特異的組換えを起こすことより、前記目的遺伝子(g)を前記宿主細胞の染色体に挿入する遺伝子導入方法であって、
    前記部位特異的組換え酵素(R)をコードする遺伝子のmRNAを、前記ドナーベクターと共に、前記宿主細胞に導入する工程を含むことを特徴とする方法。
  2. 前記宿主細胞が受精卵である、請求項1に記載の方法。
  3. 前記宿主細胞がマウス由来である、請求項1または2に記載の方法。
  4. 前記マウスがC57BL/6N系統である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のPITT法。
  5. 前記宿主細胞への導入が顕微注入法によって行われる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
  6. 前記認識配列(r)がloxPまたはその変異型であり、前記部位特異的組換え酵素(R)がCreまたはその変異型である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
  7. 前記目的遺伝子(g)を前記宿主細胞の染色体に挿入するために、および/またはその他の目的のために、2種類以上の部位特異的組換え系を併用する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
  8. 前記2種類以上の部位特異的組換え系が、Cre-loxP系に加えて、φc31インテグラーゼ系および/またはFLP-FRT系を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
  9. 2箇所に配置された部位特異的組換え酵素(R)によって認識される領域(r1’)および(r2’)ならびに当該認識領域に挟まれた目的遺伝子(g)およびpolyA付加シグナル(a)を含む領域(D)を備えたドナーベクターまたはその作製用部材と、
    前記部位特異的組換え酵素(R)をコードする遺伝子のmRNAまたはその調製用部材とを含むことを特徴とする、遺伝子導入用キット。
  10. さらに、下記(i)および(ii)の少なくとも一方を含む、請求項9に記載のキット:
    (i)染色体上の所定の遺伝子座にあらかじめ、2箇所に配置された同一の部位特異的組換え酵素(R)によって認識される配列(r1)および(r2)ならびに当該認識配列に挟まれた任意配列(n)からなる領域(T)が設けられている宿主細胞あるいはその作製用部材;
    (ii)前記部位特異的組換え酵素(R)をコードする遺伝子のmRNAを、前記ドナーベクターと共に、前記宿主細胞に導入するための部材。
  11. 前記ドナーベクター、mRNA溶液または宿主細胞が、前記目的遺伝子(g)を前記宿主細胞の染色体に挿入するために、および/またはその他の目的のために、2種類以上の部位特異的組換え系を併用する実施形態に対応するものである、請求項9または10に記載のキット。
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