JP2014100141A - 多能性幹細胞培養方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】ヒトES/iPS細胞株の未分化性を維持しながら、その「分化指向性」に多様性を付加し、あわせて、その「分化指向性」を正確に判定するためのバイオマーカーと組み合わせたヒトES/iPS細胞培養法及びそのための培養キットを提供する。
【解決手段】ヒトES/iPS細胞を、ヒトFGFCを有効成分として含むヒトES/iPS細胞増殖用培地を用いることで、その未分化性を維持しながら、嗅覚又は味覚受容体への分化指向性を付与する。また、ヒトFGFCを有効成分として含むヒトES/iPS細胞増殖培地と共に、未分化マーカー検出のための蛍光標識rBC2LCNレクチン、及び望みの分化指向性に対応した遺伝子発現を検出可能な抗体又は核酸を組み合わせることで、ヒトES/iPS細胞に対して、未分化性を維持しながら、多様な分化指向性を付与するためのヒトES/iPS細胞培養用キットが提供できた。
【選択図】なし

Description

本発明は、酸性繊維芽細胞成長因子(acidic Fibloblast Growth Factor;aFGF、以下FGF1という)タンパク質の特定の一部領域を、塩基性繊維芽細胞成長因子(basic Fibloblast Growth Factor;bFGF、以下FGF2という)タンパク質の対応する領域に置換したキメラタンパク質(FGF-C(1211)、以下FGFCという)を有効成分として含む、幹細胞のうちでも多能性幹細胞であるES細胞又はiPS細胞(以下ES/iPS細胞という)の培養液、又は培養液添加剤に関する。特に、ヒトES/iPS細胞の未分化性維持及び増殖促進に用いた場合に、ヒトES/iPS細胞の未分化性を安定に維持することができるヒトES/iPS細胞の培養方法に関する。また、各ES/iPS細胞が有する分化指向性に多様性を与えることができるヒトES/iPS細胞の培養方法に関する。
ES/iPS細胞は体を構成するあらゆる細胞に分化できる性質やその未分化性を維持しながら増殖できる性質により注目を集め、創薬スクリーニングや疾患メカニズム解明への応用のみならず、再生医療の材料として世界中で研究が進められている。
2010年に世界で初めてのヒトES細胞を用いた第1相臨床試験が米国で急性脊髄損傷に対して始まり、2011年には網膜変性疾患に対するヒトES細胞を用いた臨床研究の成果が発表される(非特許文献1)など、ヒトES/iPS細胞を用いた再生医療研究は飛躍的な発展を続けている。
とりわけ、日本発の新たなヒト多能性幹細胞であるiPS細胞は、受精胚を使用しないなどの理由から倫理的な障壁が低く、且つ自家組織からも樹立できるという極めて大きなメリットがあり、再生医療現場からも大きな期待を集めている。我が国では、理化学研究所 発生・再生科学総合研究センターや先端医療センターなどが、加齢黄斑変性症の患者を対象に、iPS細胞を使った臨床研究を2013年度から開始する計画であり、慶応大学も2016年に脊髄損傷患者に対しての臨床研究を始める方針である。
このように、ES/iPS細胞の臨床応用が開始されるなか、品質と安全性を確保して細胞を供給する体制に関しては十分に整備がなされていない。
ES/iPS細胞の未分化性、分化能、増殖能などの品質には、培養条件、保存条件などが影響を与える。このため適切な方法に基づかずに管理されたES/iPS細胞は、生産者や使用者ごとに違った品質になる可能性がある。このことは、幹細胞治療の信頼性の低下、治療による健康被害の発生などの弊害を及ぼす原因となる。そのため、信頼性や再現性の高い維持培養法が必要である。
一方、同じく多能性幹細胞である体性幹細胞の種類や特性は、ES/iPS細胞と比べて多種多様ではあるが、臨床への適用が既存技術として存在する。しかしながら、移植に適した品質の細胞を安定的に得ることが容易ではないため、安定的な培養方法の確立はきわめて重要な課題となっている。
現在、ES/iPS細胞を培養する場合には、未分化性維持および細胞増殖の目的で、FGF2または、FGF2の断片、誘導体、改変体、相同体、類似体(以下、改変体等とよぶ)を添加して培養するのが一般的である。また体性幹細胞に対しても、FGF2は増殖剤として有効性が認められている(非特許文献2)。FGF2は、FGF1と同様にFGFファミリーに属する繊維芽細胞成長因子であり、FGF1と同様、多くの細胞に増殖や遊走を引き起こす性質などFGF1と共通の性質を多く有しているが、FGF1がヘパリンの存在下で初めてその完全な生物活性を発揮し得るのに対し、FGF2はヘパリン非依存性であるため細胞への安全性が高いことから、広くFGF2医薬組成物としての検討も進んでいる。
一方で、FGF2タンパク質は、タンパク質分解酵素で分解されやすく、室温から体温程度の温度に相当する約20〜40℃の温度領域での安定性が低いため、培養添加剤として培地に投与した際に培養細胞への増殖活性が速やかに失われるという問題点や、保存容器の壁面に吸着しやすく凝集体を形成しやすいため、培養液中からFGF2タンパク質が消滅しやすいと言う問題点があり、有用な増殖活性が不安定であって培養添加剤としての改良が求められていた。
このような背景の下、多能性幹細胞に対する未分化性維持活性、細胞増殖活性及びヘパリン非依存性などFGF2活性としての利点を失うことなく、それら性質の安定性も向上したFGF2代替物及びそれを有効成分とする培養添加剤や培養液の開発が望まれていた。
本発明者らは、以前に細胞増殖活性及びヘパリン非依存性などFGF2活性としての利点を失うことなく、それら性質の安定性も向上したFGF2代替医薬組成物として、FGF1の特定の一部領域を、FGF2の対応する領域に置換したキメラタンパク質FGFCを有効成分とする創傷治癒促進又は放射線障害の予防治療用などのFGF2代替医薬組成物を開発した(特許文献2)が、その際、当該FGFCが腸管上皮幹細胞に対する増殖促進作用を有することを見出していた(非特許文献11)。
このように、FGFCタンパク質に対しては、腸管上皮幹細胞のみならず、幹細胞一般についても増殖促進作用を有することが期待されることから、FGF2に代替可能な幹細胞増殖促進用培地成分としての期待も高まっていた。
しかし、ヒトES/iPS細胞株の培地成分としてFGFCタンパク質を実際に用いた例はなく、実際にヒトES/iPS細胞本来の未分化性及び多能性を維持したまま安定して培養可能であるか否かは不明であった。
さらに、ヒトES/iPS細胞株の性質は、未分化状態であると判定された細胞株の中でも、何に分化しやすいかという「分化指向性」等の性質が細胞株ごとに異なることが知られており、また、従来のFGF2もしくはその改変体含有培地で長期に亘って培養された場合に、望みの分化指向性からどんどん遠ざかってしまう場合もあり、臨床応用にあたっては、この分化指向性が結果に大きく影響することが懸念されている。特に、ES/iPS細胞による再生治療では、目的の細胞や臓器に効率的に分化しやすい細胞株を選ぶことが好ましいため、未分化状態を維持しつつ、「分化指向性」に多様性のあるヒトES/iPS細胞を提供することが切望されていた。
しかしながら、ES/iPS細胞の細胞株間の「分化指向性」も含めた性質の差を見分けられるようなバイオマーカーはほとんど報告されていないため、現状では、目的の細胞や臓器に効率的に分化しやすい細胞株を選ぶことは困難である。
これらの問題を解決するためには、ES/iPS細胞株の未分化性を維持しつつ、「分化指向性」に積極的に多様性を与えるような培養添加剤や培養液の開発とあわせて、それぞれのES/iPS細胞株の「分化指向性」を正確に判定するためのバイオマーカーの開発も必要である。
したがって、「分化指向性」に多様性を付加できる培養添加剤又は培養液と、ES/iPS細胞株の「分化指向性」を判定可能なバイオマーカーとを組み合わせた、「分化指向性」を一定に制御できるES/iPS細胞培養法の確立が望まれていた。
特許第2733207号明細書 国際公開2009/048119
Schwartz SD,Hubschman JP,Heilwell G,Franco-Cardenas V,Pan CK,Ostrick RM,Mickunas E,Gay R,Klimanskaya I,Lanza R.Embryonic stem cell trials for macular degeneration: a preliminary report.Lancet.2012 Feb 25;379(9817):713-20. GlaserT,PollardSM,SmithA,Bruestle O.Tripotential differentiation of adherently expandable neural stem (NS) cells.PLoS ONE.2007 Mar 14;2(3):e298. Imamura T,Friedman SA,Gamble S,Tokita Y,Opalenik SR,Thompson JA,Maciag T.Identification of the domain within fibroblast growth factor-1 responsible for heparin-dependence.Biochim Biophys Acta.1995 Apr 28; 1266(2): 124-30. Forough R,Engleka K,Thompson JA,Jackson A,Imamura T,Maciag T.Differential expression in Escherichia coli of the alpha and beta forms of heparin-binding acidic fibroblast growth factor-1: potential role of RNA secondary structure.Biochim Biophys Acta.1991 Nov 11;1090(3):293-8. Tateno H,Toyota M,Saito S,Onuma Y,Ito Y,Hiemori K,Fukumura M,Matsushima A,Nakanishi M,Ohnuma K,Akutsu H,Umezawa A,Horimoto K,Hirabayashi J,Asashima M.,J Biol Chem.2011 Jun 10;286(23):20345-53. Sulak O,Cioci G,Delia M,Lahmann M,Varrot A,Imberty A,Wimmerova M.,Structure.2010 Jan 13;18(1):59-72. Tang C,Lee AS,Volkmer JP,Sahoo D,Nag D,Mosley AR,Inlay MA,Ardehali R,Chavez SL,Pera RR,Behr B,Wu JC,Weissman IL,Drukker M.,Nat Biotechnol.2011 Aug 14;29(9):829-34. International Stem Cell Initiative.Characterization of human embryonic stem cell lines by the International Stem Cell Initiative.Nat Biotechnol.2007 Jul;25(7):803-16. Bock C,Kiskinis E,Verstappen G,Gu H,Boulting G,Smith ZD,Ziller M,Croft GF,Amoroso MW,Oakley DH,Gnirke A,Eggan K,Meissner A.Reference Maps of human ES and iPS cell variation enable high-throughput characterization of pluripotent cell lines.Cell 2011 Feb 4;144(3):439-52. Motomura K,Hagiwara A,Komi-Kuramochi A,Hanyu Y,Suzuki M,Kimura M,Oki J,Nakayama F,Akashi M,Imamura T.,An FGF1:FGF2 chimeric growth factor exhibits universal FGF receptor specificity,enhanced stability and augmented activity useful for epithelial proliferation and radioprotection.Biochim Biophys Acta.2008 Dec;1780(12):1432-40. Nakayama F,Hagiwara A,Umeda S,Asada M,Gotoh M,Oki J,Suzuki M,Imamura T,Akashi M.Post treatment with an FGF chimeric growth factor enhances epithelial cell proliferation to improve recovery from radiation-induced intestinal damage.Int J Radiat Oncol Biol Phys.2010 Nov 1;78(3):860-7. Takahashi K, Tanabe K, Ohnuki M, Narita M, Ichisaka T, et al. (2007) Induction of pluripotent stem cells from adult human fibroblasts by defined factors, Cell. 131:861-72.
本発明の課題は、ヒトES/iPS細胞株の未分化性を維持しながら、その「分化指向性」に多様性を与えるような培養添加剤や培養液を提供することであり、あわせて、その「分化指向性」を正確に判定するためのバイオマーカーと組み合わせたES/iPS細胞培養法及びそのための培養キットを提供しようというものである。
本発明者らは、上記したように、以前にFGF1/FGF2キメラタンパク質FGFCが、FGF2と同様なヘパリン非依存的な細胞増殖活性を有し、かつ安定性も向上した医薬組成物としてFGF2に代替して用いられること(特許文献2、非特許文献10)と共に、腸管上皮幹細胞の増殖促進作用も見出していた(非特許文献11)。ここで、「FGFC」というとき、FGF1タンパク質のアミノ酸配列の41〜83位のうち少なくとも62〜78位を含む部分配列が、FGF2タンパク質のアミノ酸配列における対応する領域の部分配列に置換されたキメラタンパク質を指している。当該FGFCはFGF2と同等の医薬組成物としての活性を保持し、ヘパリン非依存性であり、しかも培養容器、保存容器の器壁などへの吸着性が低く、かつ室温〜体温(約20〜40℃)における活性の安定性と共に、トリプシン分解に対する抵抗性が高い。
本発明者らは、当該FGFCを、多能性幹細胞であるヒトES/iPS細胞の増殖促進のための培養添加物として用いたところ、FGF2と同様に未分化能を維持したまま、ヒトES/iPS細胞の増殖促進能を発揮することがわかった。そして、本発明者らが以前に開発したES/iPS細胞株の未分化性を正確に判定するためのバイオマーカー(特願2012−041418)と共に、「分化指向性」を予測するための各種バイオマーカーとを組み合わせたバイオマーカーセットにより、培養後のES細胞株の未分化性及び分化指向性を測定したところ、驚くべきことに、完全に未分化性を維持し、しかも「嗅覚又は味覚受容体分化指向性」がコントロールのFGF2を培養添加物として用いた場合のES/iPS細胞株と異なっていた。このことから、分化指向性に変化を与える特性は、FGFC特異的な性質であることがわかった。
このような知見を得たことで、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下を包含する。
〔1〕 ヒトES/iPS細胞の未分化能を維持しつつ、かつ分化指向性に多様性が付与されたヒトES/iPS細胞の製造方法であって、
ヒトES/iPS細胞を、ヒト由来FGFCを有効成分として含むヒトES/iPS細胞増殖用培地を用いて培養することを特徴とする、製造方法。
〔2〕 前記ヒトFGFCが、以下の(1)〜(3)のいずれかのアミノ酸配列からなるポリペプチドである、前記〔1〕に記載の製造方法;
(1)配列番号1もしくは配列番号2に示されるアミノ酸配列、
(2)配列番号1もしくは配列番号2に示されるアミノ酸配列のN末端から1〜21アミノ酸のいずれかの部分配列が削除されたアミノ酸配列、又は当該部分配列を削除したN末端にMet(M)もしくはMetAla(MA)を付加したアミノ酸配列、
(3)前記(1)または(2)のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列であって、かつ配列番号1もしくは2における83位の位置のアミノ酸のAsp(D)が保持されているアミノ酸配列。
〔3〕 前記製造方法において、培養中のヒトES/iPS細胞に対して蛍光標識rBC2LCNレクチンを未分化マーカーとして用い、ヒトES/iPS細胞の未分化能が維持されていることを確認する工程を含むことを特徴とする、前記〔1〕又は〔2〕に記載の製造方法。
〔4〕 さらに、望みの分化指向性に対応した遺伝子発現を検出する工程を含むことを特徴とする、前記〔3〕に記載の製造方法。
〔5〕 ヒトES/iPS細胞に対して、未分化能を維持しつつ増殖を促進し、かつ分化指向性に多様性を付与するための方法であって、
ヒトES/iPS細胞を、FGFCを有効成分として含むヒトES/iPS細胞増殖用培地を用いて培養することを特徴とする、方法。
〔6〕 ヒトES/iPS細胞増殖用培地が、有効成分としてさらにFGF2を含むことを特徴とする、前記〔5〕に記載の方法。
〔7〕 前記FGFCが、以下の(1)〜(3)のいずれかのアミノ酸配列からなるポリペプチドである、前記〔5〕又は〔6〕に記載の方法;
(1)配列番号1もしくは配列番号2に示されるアミノ酸配列、
(2)配列番号1もしくは配列番号2に示されるアミノ酸配列のN末端から1〜21アミノ酸のいずれかの部分配列が削除されたアミノ酸配列、又は当該部分配列を削除したN末端にMet(M)もしくはMetAla(MA)を付加したアミノ酸配列、
(3)前記(1)または(2)のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列であって、かつ配列番号1もしくは2における83位の位置のアミノ酸のAsp(D)が保持されているアミノ酸配列。
〔8〕 前記方法において、培養中のヒトES/iPS細胞に対して蛍光標識rBC2LCNレクチンを未分化マーカーとして用い、ヒトES/iPS細胞の未分化能が維持されていることを確認する工程を含むことを特徴とする、前記〔5〕〜〔7〕のいずれかに記載の方法。
〔9〕 さらに、望みの分化指向性に対応した遺伝子の発現を検出する工程を含むことを特徴とする、前記〔8〕に記載の方法。
〔10〕 FGFC、又はFGFCと共にFGF2を有効成分として含むことを特徴とするヒトES/iPS細胞増殖用培地であって、前記〔5〕〜〔9〕のいずれかに記載の方法に用いるためのヒトES/iPS細胞増殖用培地。
〔11〕 ヒトES/iPS細胞に対して未分化能を維持しつつ、分化指向性の多様性を付与するためのヒトES/iPS細胞増殖用キットであって、下記(1)及び(2)を含むキット;
(1)FGFCを有効成分として含むことを特徴とするヒトES/iPS細胞用培地、
(2)蛍光標識rBC2LCNレクチン。
〔12〕 ヒトES/iPS細胞が神経系細胞への分化指向性を獲得したか否かを判定するための試薬として、さらに下記(3)を含む前記〔11〕に記載のキット;
(3)嗅覚もしくは味覚受容体遺伝子発現を検出可能な抗体又は核酸。
本発明のFGFCを、FGF2を有効成分とする培養液または培養液添加物に代替して培養液組成物(培地成分)として用いることで、FGF2が有効性を示す多能性幹細胞の増殖促進活性及び未分化性維持活性を発揮できる。その上で、当該FGFCは、ES/iPS細胞に対してFGF2並びにFGF2改変体等を培養液組成物として使用する場合と異なった「分化指向性」を与える作用があるため、従来法と併用することで、ES/iPS細胞の多能性を高める上で欠かせない培養液組成物となりうる。また、当該FGFCは、従来のFGF2並びにFGF2改変体等以上に、温度及びタンパク質分解酵素に対する安定性が高く、培養容器への非特異的な吸着が少ないため、多能性幹細胞の培養時の培地交換等の頻度を減らし、また従来のFGF2よりも添加量を削減することが出来るため、大幅なコストダウン/省力化を実現できる。そして低吸着性故に溶液を容器に保存した場合の濃度が低下しにくく、キット化しやすい点でも優れた特徴を有するものである。
さらに、本発明では、ES/iPS細胞株の未分化性を正確に判定するためのバイオマーカーと共に「分化指向性」を予測するための各種バイオマーカーとを組み合わせて用いることで、培養後のES/iPS細胞株の未分化性及び分化指向性が正確に判定できる。一定の「分化指向性」を持ったES/iPS細胞取得法を確立することができた。
FGFCを用いて培養したヒトES細胞の未分化マーカー蛍光染色 FGFCを用いて培養したヒトES細胞の未分化マーカー遺伝子の発現解析 FGFCを用いて培養したヒトiPS細胞の未分化マーカー遺伝子の発現解析 FGFCを用いて培養したヒトES細胞の嗅覚受容体マーカー遺伝子発現解析 FGFCを用いて培養したヒトES細胞の味覚受容体マーカー遺伝子発現解析 FGFCを用いて培養したヒトES細胞およびiPS細胞の未分化マーカー蛍光染色 FGFCを用いて培養したヒトiPS細胞およびiPS細胞の全遺伝子の発現解析 FGFCを用いて培養したヒトES細胞の未分化マーカー蛍光染色 FGFCを用いて培養したヒトES細胞の全遺伝子の発現解析 FGFCを用いて培養したヒトES細胞の分化マーカー遺伝子の発現解析
1.本発明の「FGF1/FGF2キメラタンパク質(FGFC)」
(1−1)本発明のFGFCの構造上の特徴
本発明においてFGFCというとき、特許文献2で示されたFGFCと同様のFGF1/FGF2キメラ構造を有しており、そのアミノ酸配列は、FGF1タンパク質のアミノ酸配列において、41〜83位の配列のうち少なくとも62〜78位を含む部分配列が、FGF2タンパク質の対応する位置のアミノ酸配列に置換されており、他の領域はFGF1のアミノ酸配列から構成されている。すなわちFGF1及びFGF2をコードするcDNAをカセットフォーマットで作成した後、cDNA上でキメラを作成し、それを大腸菌、酵母、動物細胞などの発現系を用いて発現させることにより得ることができる。
上記のキメラタンパク質の基本となるFGF1タンパク質およびFGF2タンパク質としては、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ウマ等の哺乳動物のFGFのいずれでも可能であるが、本発明のES/iPS細胞培養のための培地成分としては、ヒト由来FGFCが好ましい。
また、特許文献2においては、FGFCとして、83位アミノ酸が、Lys(K)、Glu(E)及びAsp(D)の3通りの場合のキメラタンパク質が実際に製造されたが、特に83位アミノ酸がAsp(D)の場合が、各種FGF受容体刺激活性が高く、容器で保管する際の溶液濃度安定性、温度安定性、トリプシン分解抵抗性などの優れた性質を有することが観察されており、本発明のFGFCとしても、83位アミノ酸はAsp(D)であることが好ましい。
したがって、本発明において単に「FGFC」又は「ヒト由来FGFC」というとき、ヒト由来FGF1タンパク質のアミノ酸配列において、41〜83位の配列のうち少なくとも62〜78位を含む部分配列が、ヒトFGF2タンパク質の対応する位置のアミノ酸配列に置換されているヒト由来FGFCであり、かつ83位アミノ酸がAsp(D)である場合を指す。すなわち、請求項中の「ヒト由来FGFC」の用語は、「ヒト由来FGF1タンパク質のアミノ酸配列において、41〜83位の配列のうち少なくとも62〜78位を含む部分配列が、ヒトFGF2タンパク質の対応する位置のアミノ酸配列に置換されており、かつ83位アミノ酸がAsp(D)であるヒト由来FGFC」を指す。
そして、これらキメラタンパク質を作製する際に、FGF1cDNAの全長翻訳産物のN末端〜21位のアミノ酸は、動物組織からFGF1タンパク質抽出時に得られる短縮体アイソフォームと同様に、N末端の21アミノ酸を削除する方が、発現量が高く取り扱いやすい。そして、N末端側を大腸菌で生産する際の翻訳とメチオニンの翻訳後切断のためにMetAlaを付加するような改変も常套手段である。そしてこれらのN末端の違いによってFGF1としての活性に影響が無いことは、既に知られているので、本発明において「FGFC」というとき、N末端21アミノ酸を含む全長タイプ、削除した短縮体アイソフォーム及び当該短縮体N末端にMetAla(MA)を付加したトランケート体のいずれのタイプも包含される。ただし、大腸菌宿主での大量発現を意図する場合は、N末端を削除された短縮体又はそのN末端にMetAla(MA)を付加したトランケート体が、発現量が高く溶解性も高いために好ましい。特に83位がAsp(D)のタイプは、形質転換大腸菌を培養し、その菌体破砕物の可溶性画分から、簡単に活性体(封入体でなく正確にフォールディングされたもの)を単離精製できるので最も好ましい。
以上のように、本発明における「FGFC」の典型的なアミノ酸配列は、配列番号1(FGFC1)もしくは配列番号2(FGFC2)に示されるアミノ酸配列,それらのN末端から1〜21アミノ酸のいずれかの部分配列が削除されたアミノ酸配列、又は当該部分配列を削除したN末端にMet(M)もしくはMetAla(MA)を付加したアミノ酸配列で表される。ここで、FGFC1及びFGFC2は、いずれもヒト由来FGFC1/FGFC2から作製したFGFCであり、非特許文献3、特許文献1での呼称はそれぞれFGF-C(1211)、FGFC(1(1/2)11)である。さらに、配列番号1もしくは2における83位の位置のアミノ酸のAsp(D)が保持されていれば、上記それぞれのアミノ酸配列において、他の1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されていてもよい。なお、数個とは、1〜20個、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜5個のことをいう。
すなわち、本発明で用いられる典型的な「FGFC」は、以下の(1)〜(3)のいずれかのアミノ酸配列からなるポリペプチドとして表現することもできる。
(1)配列番号1もしくは配列番号2に示されるアミノ酸配列、
(2)配列番号1もしくは配列番号2に示されるアミノ酸配列のN末端から1〜21アミノ酸のいずれかの部分配列が削除されたアミノ酸配列、又は当該部分配列を削除したN末端にMet(M)もしくはMetAla(MA)を付加したアミノ酸配列、
(3)前記(1)または(2)のいずれかのアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列であって、かつ配列番号1もしくは2における83位の位置のアミノ酸のAsp(D)が保持されているアミノ酸配列。
本発明の実施例1〜2で用いたFGFCは、FGFC1(配列番号1)のN末端から21アミノ酸の部分配列を削除したN末端にMetAla(MA)を付加したアミノ酸配列である。
(1−2)本発明のFGFCの性質上の特徴
本発明では、FGFCを、当該FGFCの有する下記の性質上の特徴を利用し、多能性幹細胞であるES/iPS細胞の性質の維持と増殖促進及び一定の分化指向性を制御可能な培養添加物として用いる。
(1)FGF受容体の全てのサブタイプを刺激する(FGF1と類似)。その結果、FGF2が刺激することができないシグナルパスウェイも刺激することができる。
(2)ヘパリンに依存せずに高活性を発揮できる(FGF2と類似)。
(3)培養容器、保存容器の器壁などへの吸着性が低い。(FGF1とFGF2は高吸着性)
(4)室温〜体温(約20〜40℃)における活性の安定性が高い(FGF1とFGF2は低安定性)
(5)トリプシン分解に対する抵抗性が高い(FGF1とFGF2は易分解性)
本発明の培地成分の有効成分として含有させるFGFCは、その2/3以上をFGF1由来タンパク質で構成されたFGF2とのキメラタンパク質でありながら、FGF2と同様に、通常の細胞に対してはヘパリンの添加なしに細胞増殖活性を発揮できる上、FGF1と同様に、FGF2が刺激することのできないFGFR2bを含む全てのサブタイプのFGF受容体を活性化することができることが判明した。本発明では、ES/iPS細胞を、FGFCを用いて培養することで、FGF2と同様に、ES/iPS細胞本来の多能性(未分化性)を維持したまま、増殖を促進できた。さらに、FGF2含有培地で培養した場合には免疫応答細胞への分子指向性が確認できるのに対して、FGFC含有培地での培養では、「嗅覚又は味覚受容体活性」という神経系細胞への分化指向性が確認できたことからみて、FGF2による分子指向性とは異なり、かつ一定の分化指向性を与える作用が確認できている。このようなFGFCがES/iPS細胞の分化指向性に変化を与える作用は、特にFGF2と併用して、様々な配合割合によるES/iPS細胞用培養液組成物(培地)を作製することにより、ES/iPS細胞に対して多様な一定の分化傾向を持たせることができることを意味する。FGFCは、このようなES/iPS細胞の分化指向性のバリエーションの豊富化を可能にする培養液組成物の有効成分、又は培地用添加物として有用である。
また、FGFCは、FGF1やFGF2に比べてタンパク質分解酵素に対する抵抗性が高い。このため、生体内で速やかに分解されて失活してしまうFGF1やFGF2に比べて、添加時の有効濃度が長時間維持されることになり、添加時にはより低濃度でも同等の活性を発揮することが期待できる。
さらに、FGFCは、室温〜体温(約20〜40℃)の温度条件下での安定性が高く、しかも37℃下でのタンパク質分解酵素耐性が高いので、高活性を実現できる。すなわち多様な生体細胞や他の培地成分に含まれるタンパク質分解酵素による不活性化の影響を最小限にすることが出来る。
また、FGFCは、培養液組成物を容器に保存した場合の濃度が低下しにくい、という優れた特性を有しているため、安定した高活性の培養液組成物が提供できる。
2.本発明の「FGF1/FGF2キメラタンパク質(FGFC)」の調製法
本発明のFGFCとしては、上述のように、(非特許文献3、特許文献1)において開示されたFGF-C(1211)又はFGF-C(1(1/2)11)の製造用オリゴヌクレオチドを用いて、(非特許文献4)の手法を適用することもできるが、本発明においては、特許文献2に記載の方法に従って調製した。具体的には、以下の通りである。
(a)FGF1およびFGF2cDNA、あるいはこれらの人工的な一部改変物について、一方のFGF-cDNAより適当な制限酵素を用いてDNA断片を切り出し、あるいはPCRなどの方法によって新規にDNA断片を作成した後、制限酵素末端を切り出し、他方のFGF-cDNAの適当な部位にDNAリガーゼを用いて結合させればよい。この場合、読み取り枠を合わせるためにオリゴヌクレオチドを挿入したり、同じ制限酵素部位を作るために一部の塩基配列を改変したりしてもよい。
(b)一方のFGF-cDNAより適当な制限酵素を用いてDNA断片を切り出し、これを他方のcDNAの相同部位を同じ制限酵素で切断した部位にDNAリガーゼを用いて結合させることができる。すなわち、アミノ酸相同性でFGF1とFGF2の配列を並べた場合に相当する領域をコードするDNA断片を入れ換えることになる。制限酵素として、1種あるいは2種以上の制限酵素が用いられる。PCRによる部位特異的変異処理についての基本的な操作は発明者らの既に発表した方法による[Imamura,T.et al.,Science 249,1567-1570 (1990)]。
cDNAを組み込むプラスミドとしては、宿主内で複製保持されるものであれば、いずれも使用することができるが、例えば大腸菌由来のpBR322、pUC18、及びこれらを基に構築されたpET-3cなどを挙げることができる。
プラスミドに組み込む方法としては、例えばT.Maniatisら、Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Laboratory,p.239 (1982)に記載の方法などが挙げられる。
クローン化された遺伝子は、発現に適したベクター中のプロモーターの下流に連結して発現型ベクターを得ることができる。ベクターとしては、上記の大腸菌由来のプラスミド(pBR322、pBR325、pUC12、pUC13、pET-3)、枯草菌由来のプラスミド(pUB110、pTP5、pC194)、酵母由来のプラスミド(pSH19、pSH15)由来のプラスミド、あるいはλファージなどのバクテリオファージやこの誘導体およびレトロウイルス、ワクシニアウイルスなどの動物ウイルス、あるいは昆虫ウイルスなどが挙げられる。
本発明のFGFCの遺伝子はその5'末端に翻訳開始コドンとしてのATGを有し、また3'末端には翻訳終始コドンとしてのTAA、TGAまたはTAGを有してもよい。さらに当該遺伝子を発現させるにはその上流にプロモーターを接続する。本発明で用いられるプロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。
また、形質転換する宿主が大腸菌である場合には、trpプロモーター、lacプロモーター、rec Aプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーター、T7プロモーターなどが、宿主が枯草菌である場合には、SP01プロモーター、SP02プロモーター、penPプロモーターなど、宿主が酵母である場合には、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどが例示できる。また、宿主が動物細胞である場合には、SV40由来のプロモーター、レトロウイルスのプロモーターなどが例示できる。
このようにして構築されたFGFCをコードする塩基配列を有する組み換えDNAを含むベクターを用いて、当該ベクターを保持する形質転換体を製造する。
宿主としては、大腸菌[例えばBL21,BL21(DE3),BL21(DE3)pLysS,BL21(DE3)pLysE]、枯草菌(例えばBacillus subtilis DB105)、酵母(例えばPichia pastoris,Saccharomyces cerevisiae)、動物細胞(例えばCOS cell,CHO cell,BHK cell,NIH3T3 cell,BALB/c3T3 cell,HUVE cell,LEII cell)、昆虫細胞などが挙げられる。
上記の形質転換は、それぞれの宿主について一般的に行われている方法で行う。または一般的でなくとも適用可能な方法ならばよい。例としては、宿主が大腸菌ならばカルシウム法その他の方法により作成したコンピテントセルに組み換えDNAを含むベクターを温度ショック法あるいはエレクトロポレーション法により導入する。宿主が酵母であればリチウム法その他の方法により作成したコンピテントセルに組み換えDNAを含むベクターを温度ショック法あるいはエレクトロポレーション法により導入する。宿主が動物細胞であれば、増殖期等の細胞に組み換えDNAを含むベクターをリン酸カルシウム法、リポフェクション法あるいはエレクトロポレーション法により導入する。
このようにして得られたFGFCをコードする塩基配列を有する組み換えDNAを含むベクターを保持する形質転換体が得られる。当該形質転換体を培養液に培養することにより、FGFCを産生させる。
形質転換体を培養する場合、培養に使用される培養液としては、一般的に用いられているDulbecco's MEMに動物血清を加えたものなどを用いることができるが、再生治療に供する際には、動物由来血清フリーの培養液で培養することが好ましい。その際の培養条件としては、例えば、約32〜37℃で、5%CO2、100%湿度の条件で約24時間〜2週間培養する。必要により気相の条件を変えたり攪拌を加えたりすることができる。
上記培養物からFGFCを培養菌体あるいは細胞から抽出するに際しては、培養後、ホモジェナイザー、フレンチプレス、超音波、リゾチームおよび/または凍結融解によって菌体あるいは細胞を破壊することにより菌体外に目的のタンパク質を溶出させ、可溶性の画分からFGFCを得る。また目的のFGFCが不溶性画分に含まれる場合は菌体あるいは細胞を破壊後、遠心分離により不溶性画分を回収し、塩酸グアニジンなどを含む緩衝液などによって可溶性にして回収する方法も用いうる。このほか塩酸グアニジンなどのタンパク質変性剤を含む緩衝液によって直接菌体あるいは細胞を破壊し、菌体外に目的のFGFCを溶出させる方法もある。
上記上澄み液からFGFCを精製するには、公知の分離・精製法を適切に組み合わせて行うことができる。これらの公知の分離、精製法としては、塩析、溶媒沈殿、透析、限外濾過、ゲル濾過、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、等電点電気泳動などが使用されうる。さらに、多くのFGFCについては、ヘパリンセファロースを担体としたアフィニティークロマトグラフィー法が適用できる。
このようにして得られた標品は通常は、4℃以下で冷蔵保存するが、FGFCの活性が損なわれない限りにおいて−20℃以下で冷凍することもできる。また標品は、透析、凍結乾燥を行い、乾燥粉末とすることもできる。
上記のようにして得られたFGFCは、FGF2並びにFGF2改変体等が従来用いられている、もしくは検討されている培養添加剤または培養液のすべてに対して、同等またはそれ以上の効果を有する組成物として使用できる。たとえば、ES/iPS細胞の未分化性維持と増殖のための培養液があげられる。
さらに、本発明のFGFCは、FGF1と比較した場合に、室温(25℃)の温度条件下での安定性が高く、しかも体温(37℃)条件下でのタンパク質分解酵素に対する耐性が高いことから、タンパク質分解酵素による不活性化の影響を最小限にすることができる。また、容器で保管する際の溶液濃度が低下しにくい、という特性を有しているため、安定した高活性の培養添加剤および培養液が提供できる。
本発明のFGFCは、FGF2と比較した場合に、ES/iPS細胞の未分化性を同等に維持する作用があり、しかもES細胞の持つ「分化指向性」等の性質を変化させる特性を持つことから、多能性幹細胞に対する未分化性維持活性は維持しつつ、「分化指向性」等の性質を目的に合わせて変化させたり、付加したり、制限するような培養液、培養添加剤を提供できる。
また、ES/iPS細胞の「分化指向性」のバリエーションを豊富化させるために、従来から広く用いられていたFGF2(もしくはその改変体)含有培養液において、FGF2(もしくはその改変体)の全部もしくは1部をFGFCに代替して調整することができる。市販されているFGF2(もしくはその改変体)含有培養液を用いる場合は、当該培養液に対してFGFCを添加しても良い。FGF2とFGFCとの配合比率は、望みの分化指向性にあわせて任意の配合割合で調整することができる。このように、FGFCは、FGF2と様々な割合で配合することで未分化性維持活性が保持され、かつそれぞれにES/iPS細胞に対して異なる分化指向性を付与する培養液が調整できることから、長期培養(具体的には、40〜60日程度の培養)によってES/iPS細胞に多様な分化傾向を持たせることができた。すなわち、FGFCを配合することによって、ES/iPS細胞に対する望みの「分化指向性」を付与できる培養液を調整できる可能性が高まったといえる。
3.本発明の「FGF1/FGF2キメラタンパク質(FGFC)」を用いたES/iPS細胞の培養法
ES/iPS細胞の培養方法としては、培養容器内での接着細胞培養法が一般的に用いられる。接着培養に際しては、フィーダー細胞や細胞外基質抽出物等のコート剤でコートした、もしくは無コートのプラスチックディッシュにES/iPS細胞を接着させる場合、及びビーズ表面などに接着して培養容器内に浮遊させる場合がある。また、培養液中にES/iPS細胞を懸濁して直接浮遊させる浮遊細胞培養法もありうる。
培養に使用される培養液としては、一般的に用いられているDulbecco's MEMに動物血清を加えたものなどを用いることができるが、再生治療に供する際には、血清フリーの人工合成血清で培養することが好ましい。その際の培養条件としては、例えば、約32〜37℃で、5%CO2、100%湿度の条件で約24時間〜2週間培養する。必要により気相の条件を変えたり攪拌を加えたりすることができる。
上記FGFCを、溶液中のES/iPS細胞に供給する方法は、培養容器内で基材に接着した状態で幹細胞を培養している場合は、当該FGFCをその表面を覆っている溶液中に供給すれば、フィーダー細胞等の存在非存在には影響されずに、幹細胞に供給される。また、懸濁状態で培養している場合であっても、溶液中に当該FGFCを供給すれば、幹細胞に供給できる。また、必要に応じ、培養液、緩衝液、生理食塩水等で液交換をすることで簡単にFGFCをとりのぞくことができる。
FGFCは、その2/3以上をFGF1由来タンパク質で構成されたFGF2とのキメラタンパク質でありながら、FGF2と同様に、通常の細胞に対してはヘパリンの添加なしに細胞増殖活性を発揮できる上、FGF1と同様に、FGF2が刺激することのできないFGFR2bを含む全てのサブタイプのFGF受容体を活性化することができることが判明した。このため、これまでのFGF2またはその改変体等を添加して培養する方法と同様の手法で、未分化状態を維持させることができると共に、ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞の細胞株ごとに異なっている「分化指向性」を、FGF2またはその改変体とは異なる「分化指向性」に揃えるための有効な培養液組成物となりうる。
また、FGFCは、FGF1やFGF2に比べてタンパク質分解酵素に対する抵抗性が高い。このため、生体内で速やかに分解されて失活してしまうFGF1やFGF2に比べて、添加時の有効濃度が長時間維持されることになり、添加時にはより低濃度でも同等の活性を発揮することが期待できる。
そして、従来から広く用いられていたFGF2(もしくはその改変体)含有培養液において、FGF2(もしくはその改変体)の1部をFGFCに代替して調整した培養液組成物、すなわちFGFC及びFGF2を種々の割合で含む培養液組成物(培地)を調整することで、「分化指向性」の多様性が高まる。望みの「分化指向性」を獲得したか否かは、当該分化指向性に対応する遺伝子群を検出可能なプローブ、プライマーなどの核酸試薬、その発現産物検出用抗体などで簡単に判定できるので、FGFC及びFGF2の配合割合を適宜調製し直すことでさらに望みの「分化指向性」に近づけることができる。
このような適用においてFGFCは、室温〜体温(約20〜40℃)の温度条件下での安定性が高く、しかも37℃下でのタンパク質分解酵素耐性が高いので、高活性を実現できる。すなわち多様な生体障害における浸出液に含まれるタンパク質分解酵素による不活性化の影響を最小限にすることが出来る。
また、FGFCは、溶液を容器に保存した場合の濃度が低下しにくい、という優れた医薬製剤特性を有しているため、安定した高活性の培養液組成物が提供できる。
4.本発明に用いる未分化能判定用バイオマーカーについて
本発明者らは、以前、レクチンマイクロアレイを用いて、5種類の異なる体細胞(皮膚、胎児肺、子宮内膜、胎盤動脈、羊膜)から作製したヒトiPS細胞(114検体)と、ヒトES細胞(9検体)の糖鎖プロファイルを網羅的に解析した。その結果、元の体細胞が組織毎に異なる糖鎖プロファイルを持っていたにもかかわらず、作製されたiPS細胞は、いずれもほぼ同じ糖鎖プロファイルを示し、初期化遺伝子の導入により一様にES細胞と類似の糖鎖構造に収束化することを見出した。ヒトES・iPS細胞とヒト体細胞とのレクチンアレイデータを詳細に解析した結果によると、未分化のヒトES・iPS細胞では、体細胞と比較してα2-6Sia、α1-2Fuc、タイプ1 LacNAcの発現量が顕著に増加していることが推定されたため、その点をさらに、DNAアレイを用いた糖転移酵素遺伝子の発現解析を用いた方法によって当該推定を裏付けた(非特許文献5)。本発明者らの開発したrBC2LCNレクチン(YP_002232818)を形質転換大腸菌で発現させた組換え体であり、複合糖鎖の非還元末端の「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc」並びに、「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc」糖を認識するレクチンである(非特許文献5,6)。
Drukkerらのチームにより、「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc」を認識する抗体が、未分化状態のES細胞及びiPS細胞を認識することが見出され(非特許文献7)、本発明者らの上記知見が裏付けられた。しかし、Drukkerらの上記抗体は「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc (=Hタイプ1構造)」には特異的に反応するものの、「Fucα1-2Galβ1-3GalNAc」とは反応しない。このことは、本発明者らのrBC2LCNレクチンと比較すると、未分化幹細胞のうち「Fucα1-2Galβ1-3GalNAc」もしくは「Fucα1-2Galβ1-3GalNAc含有糖鎖」を検出することができないことであるから、未分化幹細胞マーカーを検出するために用いた場合には、識別性の観点では、本発明者らのrBC2LCNレクチンには及ばないことが予測される。
このように、本発明者らによって未分化幹細胞と分化細胞とを識別する未分化糖鎖マーカーとなる糖鎖構造を確定することに成功し、当該未分化幹細胞マーカーを正確に識別するためにrBC2LCNレクチンがきわめて有効である可能性が高いことも確認できた。
未分化状態を維持したES細胞やiPS細胞と強く反応した。また、レチノイン酸存在下で培養して分化させたES細胞やiPS細胞とは全く反応しなかったのに対して、レチノイン酸非存在下で未分化状態を維持したES細胞やiPS細胞とは特異的に強く反応した。rBC2LCNレクチンが、このようなリガンドへの強い特異性と共に強い親和性を兼ね備えていることは、従来のレクチンの常識を超えたものであり、発明者ら自身が予想もしなかった結果である。また、上記実験結果は、上記「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc/GalNAc」の未分化糖鎖マーカーが、未分化幹細胞の細胞表面には常に存在しているのに対し、分化誘導により分化が進行するにつれ減少して、完全に分化すると当該未分化糖鎖マーカーは消失してしまうことを示すものでもあり、蛍光標識化したrBC2LCNレクチンは、未分化幹細胞特異的に発現している「Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc/GalNAc」糖鎖を検出するための優れた「未分化幹細胞特異的標識プローブ」として機能することが期待できる。本発明者らのさらなる実験により、当該蛍光標識rBC2LCNレクチンを「未分化幹細胞特異的標識プローブ」として用いた場合に、未分化幹細胞に対する染色性は均一で安定的、且つ再現性高く、バックグラウンドはほとんど観察されず、感度、特異性、細胞表面マーカーであること、など実用的に使用する場合に想定されるあらゆる性能において、従来用いられてきた未分化マーカー(SSEA4、Tra-1-60、Tra-1-81、Nanog、Oct3/4)に対する抗体を遥かに凌ぐものであったことが確認できた。
このことは、本発明の蛍光標識rBC2LCNレクチンに対しては、抗体を用いた免疫組織化学法では従来から用いられている簡便な技術をそのまま適用できることを示すものである。すなわち、ES細胞、iPS細胞などの未分化状態を評価する場合、未分化幹細胞を分化誘導する際の分化状態を評価する場合には、本発明の蛍光標識rBC2LCNレクチンを用いた細胞・組織染色を行い、蛍光の有無・強度を確認すればよい。その際、培養細胞をプラスチックディッシュなどの基材上に接着して用いる方法のみならず、未分化状態の幹細胞を溶液中に懸濁し、浮遊状態で蛍光標識可能であることを確認できたので、フローサイトメトリー測定法が適用でき、より確実な未分化状態の評価システムを提供できるようになった。また、蛍光標識した溶液中の細胞に対してセルソーターを適用することで、蛍光標識された未分化幹細胞と、染色されなかった分化の進んだ細胞とを、効率的に高速分取可能であることも確認できた。(特願2012−041418)
本発明においては、本発明者らの上記先願明細書(特願2012−041418)に記載のES/iPS細胞の未分化状態の評価方法に従って、蛍光標識rBC2LCNレクチンを用いてES/iPS細胞の細胞・組織染色を行い、FGFC含有培養液で培養後のES/iPS細胞の蛍光の有無・強度を確認した。
5.培養後のES/iPS細胞における未分化状態の維持の確認方法
本発明者らはES細胞の代表例として、京都大学・中辻らによって樹立されたKhES1株を、またiPS細胞の代表例として京都大学・山中らによって樹立されたhiPS201B7株を用いた。それらの株をFGFC存在下、もしくはFGF2(bFGF)存在下で10継代培養し、凍結幹細胞ペレットを作製し、長期培養の結果、未分化状態が維持されているかの確認を行った。確認方法は以下の2つの方法を用いて行った。
(1)4.で述べたrBC2LCN染色及び、汎用的な未分化判別抗体(Nanog、Oct3/4、Tra-1-60、Tra-1-81、SSEA4)染色、アルカリホスファターゼ染色がされていることを確認した。
(2)DNAマイクロアレイを用いた遺伝子発現解析を行い、未分化マーカー(Nanog、TDGF、GABRB3、DNMT3B、GDF3、POU5F1、FGF4、GAL、LEFT1、IFITM1、NODAL、TERT、UTF1、FOXD3、LEFT2、LIN28A、LIN28B、GRB7、PODXL、CD9、BRIX1)の発現が維持されていることを検証した(非特許文献8)。
6.多能性未分化細胞の「分化指向性」判定方法について
「分化指向性」判定用バイオマーカーに関しては、現在研究が世界中で急速に進められおり、未だ「分化指向性」を確実に判定可能な「分化指向性」判定用バイオマーカーの確立には至っていない。しかしながら、幹細胞を長く未分化状態を維持しながら培養している際に、その一部はエピジェネティックな修飾を受けた遺伝子発現としてわずかながら漏れ出ることが観察されており、幹細胞の「分化指向性」が各細胞種のマーカー遺伝子のエピジェネティックな修飾に規定されている旨の報告がなされている(非特許文献9)。
本発明者らは、網羅的な遺伝子の解析により、多能性未分化細胞が、FGFC含有培地と、同時に比較実験を行ったFGF2含有培地とでは、特定の遺伝子群に注目すると異なる発現パターンを示す作用を確認した。例えば、FGFC含有培地で培養したヒトES細胞(KhES1株)では、FGF2含有培地では見られなかった「嗅覚受容体遺伝子」「味覚受容体遺伝子」をわずかに発現していることが検出できた。一方、FGF2含有培地では、免疫応答遺伝子の発現性がわずかに高い。このES/iPS細胞に対する遺伝子発現の変化は、FGF2をFGFCに代替させたことによって引き起こされた「嗅覚受容体及び味覚受容体」が属する感覚神経系細胞への分化指向性の変化と考えられる。FGF2とは異なるタイプの分化指向性を与える作用は、本発明のFGFC含有培地に特異的な特性であるということができる。
また、同時に、嗅覚受容体及び/又は味覚受容体遺伝子発現を観察することで、ES/iPS細胞に対する神経系細胞への分化指向性の獲得の有無を判定可能であることから、嗅覚受容体及び/又は味覚受容体遺伝子は、神経系細胞への分化指向性についての優れたバイオマーカーとなりうることを意味する。
すなわち、本発明において提供されるFGFC含有培地と蛍光標識rBC2LCNレクチンとを組み合わせたES/iPS細胞培養法及びそのための培養キットは、ES/iPS細胞株の未分化能が維持されていることをモニタリングしながらES/iPS細胞株を増殖させかつ、「分化指向性」に変化を与えるための培養法、及び培養キットである。
さらに、「嗅覚受容体遺伝子」や「味覚受容体遺伝子」といった神経系細胞マーカー遺伝子を組み合わせることによって、当該マーカー遺伝子の発現上昇を観察することで、培養後のES/iPS細胞株が、望み通りの神経系細胞への「分化指向性」を獲得したか否かを正確に判定することができるものである。
7.本発明のヒトES/iPS細胞に対する分化指向性に多様性を付与するためのキット
本発明のヒトES/iPS細胞に対して未分化能を維持しつつ、分化指向性に多様性を付与するためのキットは、少なくとも下記(1)及び(2)を含む。さらに、望みの「分化指向性」を獲得したか否かを判定するために、当該分化指向性に対応する遺伝子群を検出可能な抗体、核酸などの試薬を含めても良い。例えば、神経系細胞への分化指向性を付与させようという場合は、下記(1)〜(3)を含むことが好ましい。
(1)FGFCを有効成分として含むことを特徴とするヒトES/iPS細胞増殖用培地。
(2)蛍光標識rBC2LCNレクチン。
(3)嗅覚もしくは味覚受容体遺伝子発現を検出可能な抗体又は核酸。
ここで、嗅覚もしくは味覚受容体遺伝子発現を検出可能な抗体とは、具体的には、Anti-Olfactory Receptor OR6N1 pAb(MBL,LS-A3227)等があげられ、また、嗅覚もしくは味覚受容体遺伝子発現を検出可能な核酸とは、嗅覚もしくは味覚受容体遺伝子とハイブリダイズするプローブ又はこれら遺伝子を増幅可能なプライマーである。ヒト嗅覚もしくは味覚受容体遺伝子の遺伝子配列は、GenBank等公的核酸データベースから、例えばOlfactory Receptor OR1N2であれば、RefSeqがNM_001004457として取得できるので、適切なプローブ又はプライマーを合成可能である。
すなわち、ここで、「嗅覚もしくは味覚受容体遺伝子発現を検出可能な抗体又は核酸」は、神経系細胞への分化指向性を獲得したか否かを判定するためのバイオマーカーに相当する。
その他、各ES/iPS細胞株の「分化指向性」を判定するためのバイオマーカーとしては、外胚葉、中胚葉、内胚葉組織の各種分化マーカーが想定される。
以下に実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
本発明におけるその他の用語や概念は、当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものであり、本発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。また、各種の分析などは、使用した分析機器又は試薬、キットの取り扱い説明書、カタログなどに記載の方法を準用して行った。
なお、本明細書中に引用した技術文献、特許公報及び特許出願明細書中の記載内容は、本発明の記載内容として参照されるものとする。
なお、本発明の各実施例で用いたFGFCキメラタンパク質は、本発明の典型的なキメラタンパク質のFGFC1(配列番号1)のN末端から21アミノ酸の部分配列を削除したN末端にMetAla(MA)を付加したアミノ酸配列である。
〔実施例1〕FGFCを用いたヒトES細胞の培養
本実施例で用いたヒトES細胞(KhES1株)は京都大学再生医科学研究所から分譲を受けた。コントロールの細胞は、Suemoriらの手法(Suemori H,Yasuchika K,Hasegawa K,Fujioka T,Tsuneyoshi N,Nakatsuji N.(2006) Biochem Biophys Res Commun 345,926-932)の方法に従い培養した。FGF2を用いた通常の培養液(0.1mM 2-mercaptoethanol(Sigma)、MEM non-essential amino acids (Invitrogen)、5ng/ml recombinant human basic FGF (PeproTech)および20% KSR(Invitrogen)を添加した1:1 mixture of Dulbecco’s modified Eagle’s medium(DMEM) and Ham’s nutrient mixture F-12(Sigma))の中のrecombinant human basic FGF(PeproTech)(すなわち、FGF2)の代わりに、FGFCを終濃度5ng/mlとなるように添加した培養液を使用し、FGF2を用いた通常の培養液との比較培養を行った。
10継代の培養後、細胞は4%パラホルムアルデヒドで固定し、PBSで洗浄した後、未分化のES細胞の一般的な診断マーカーであるアルカリホスファターゼ染色法(AP)とrBC2LCN染色法及び抗体染色法を行い、FGF2を加えた培養液で培養した場合とFGFCを加えた培養液で培養した場合で、KhES1株の未分化性が維持されているかどうか確認した。rBC2LCN染色は、Cy3で直接標識したrBC2LCNを反応させ、蛍光顕微鏡により染色像を得た。抗体染色は、抗Nanog抗体、抗Oct3/4抗体、SSEA-4抗体、Tra-1-60抗体、Tra-1-81抗体を反応させた後、二次抗体であるanti-mouse IgM-Alexa488、anti-mouse IgG-Alexa488またはanti-rabbit IgG-Alexa594をさらに反応させ、蛍光顕微鏡により染色像を得た(図1)。
rBC2LCN染色、抗体染色とアルカリホスファターゼ染色(AP)は、FGF2を用いた通常の培養液で培養されたES細胞を強く染色した(図1A)。また、rBC2LCN染色、抗体染色とアルカリホスファターゼ染色(AP)は、FGFCを用いた培養液で培養されたES細胞も同様に強く染色した(図1B)。このことから、通常使用されている培養液中でFGFCキメラタンパク質はFGF2の代用としてヒトES細胞の未分化性マーカーの発現を維持する活性を発揮し機能すること、その強さはFGF2と同等であることが実証された。
〔実施例2〕キメラタンパク質を用いて培養したヒトES細胞の遺伝子発現解析
本実施例で用いたヒトES細胞(KhES1株、KhES3株)は京都大学再生医科学研究所から分譲を受けた。実施例1と同じ方法で、KhES1株を、培養液中のFGF2の代わりに、FGFCキメラタンパク質を終濃度5ng/mlとなるように添加した培養液を使用し、FGF2を用いた通常の培養液との比較培養を行った。培養開始時(ES1_0)、FGFC添加培地で5継代培養時(ES1_FGFC_5)、FGFC添加培地で10継代(ES1_FGFC_10)、FGF2を用いた通常の培養液で5継代培養時(ES1_bFGF_5)、FGF2を用いた通常の培養液で10継代(ES1_bFGF_10)、FGF2を用いた通常の培養液で培養したKhES3細胞(ES3)から、RNAを抽出し、cDNAマイクロアレイ(SurePrint G3 Human GE マイクロアレイキット 8x60K(Agilent))で網羅的な遺伝子発現の解析を行った。マイクロアレイの結果からES細胞の未分化マーカー遺伝子の発現を解析し、遺伝子ごとの発現量をグラフで表示した(図2)。KhES3株の未分化マーカー遺伝子の発現と、KhES1株の5サンプルの未分化マーカー遺伝子の発現との相関と比較して、KhES1株のES1_0、ES1_FGFC_5、ES1_FGFC_10、ES1_bFGF_5、ES1_bFGF_10サンプルの未分化マーカー遺伝子の発現量には大きな差は見られなかった。
このことから、FGFCをFGF2の代用として添加した培養液は、通常使用されている培養液と比較して、未分化マーカー遺伝子の発現の変化を引き起こさず、ヒトES細胞の未分化性を維持しながら培養できることが実証された。
さらに、マイクロアレイの結果から未分化マーカー遺伝子以外の遺伝子の発現を、ES1_0とES1_FGFC_10とES1_bFGF_10とで比較し、FGFCを添加した培養液で10継代(ES1_bFGF_10)のサンプルでのみ発現量が2倍以上変動している遺伝子を抽出し発現変動遺伝子リストを作製した。そうしてみると、発現変動遺伝子リスト中でもきわだって「olfactory receptor activity(嗅覚受容体活性)」と「taste receptor activity(味覚受容体活性)」というGO Termが付与された遺伝子の変動量が大きく特徴的であった。すなわち「olfactory receptor activity(嗅覚受容体活性)」や「taste receptor activity(味覚受容体活性)」を有する遺伝子が、FGF2含有培地で培養したES細胞と比べて、FGFC含有培地で培養したES細胞において、多量に発現していた(図4A,B)。一方、FGF2で培養した場合、それらの遺伝子の発現は、FGFCで培養した場合と比較して非常に低い量に抑えられていたのに対し、IL5遺伝子、IL12A遺伝子などの発現量が高く、免疫応答細胞分化指向性が付与されると解される。
このことは、FGFCが、FGF2並びにFGF2改変体等を培養液組成物として使用する場合と比較して、ES細胞の未分化性をFGF2並びにFGF2改変体等と同等に維持する作用があり、その上、FGF2が付与する分化指向性とは異なる別の分化指向性を付与することができること、本実施例の場合は、「olfactory receptor activity(嗅覚受容体活性)」と「taste receptor activity(味覚受容体活性)」の性質を変化させ、ES細胞の持つ「分化指向性」を「嗅覚又は味覚受容体活性」という分化指向性にそろって変化させる作用があることが実証された。
〔実施例3〕キメラタンパク質を用いて培養したヒトiPS細胞の遺伝子発現解析
本実施例で用いたヒトiPS細胞(hiPS201B7株、hiPS253G1株)は理化学研究所細胞バンクから分譲を受けた。実施例1と同じ方法で、hiPS201B7株を、培養液中のFGF2の代わりに、FGFCキメラタンパク質を終濃度10ng/mlとなるように添加した培養液を使用し、FGF2を用いた通常の培養液との比較培養を行った。培養開始時(201B7_0)、FGFC添加培地で5継代培養時(201B7_FGFC_5)、FGFC添加培地で10継代(201B7_FGFC_10)、FGF2を用いた通常の培養液で5継代培養時(201B7_bFGF_5)、FGF2を用いた通常の培養液で10継代(201B7_bFGF_10)、FGF2を用いた通常の培養液で培養したhiPS253G1細胞(253G1)から、RNAを抽出し、cDNAマイクロアレイ(SurePrint G3 Human GE マイクロアレイキット 8x60K(Agilent))で網羅的な遺伝子発現の解析を行った。マイクロアレイの結果からiPS細胞の未分化マーカー遺伝子の発現を解析し、遺伝子ごとの発現量をグラフで表示した(図3)。hiPS253G1株の未分化マーカー遺伝子の発現と、hiPS201B7株の5サンプルの未分化マーカー遺伝子の発現との相関と比較して、hiPS201B7株の201B7_0、201B7_FGFC_5、201B7_FGFC_10、201B7_bFGF_5、201B7_bFGF_10サンプルの未分化マーカー遺伝子の発現量には大きな差は見られなかった。
このことから、FGFCをFGF2の代用として添加した培養液は、通常使用されている培養液と比較して、未分化マーカー遺伝子の発現の変化を引き起こさず、ヒトiPS細胞の未分化性を維持しながら培養できることが実証された。
〔実施例4〕FGFCを用いたヒトES細胞およびヒトiPS細胞の無フィーダー培養
本実施例で用いたヒトES細胞(H1(WA01)株)はthe WiCell International Stem Cell (WISC) Bankから分譲を受けた。本実施例で用いたヒトiPS細胞(201B7株)は理化学研究所細胞バンクから分譲を受けた。コントロールの細胞は、the WiCell Research Institute(www.wicell.org)の方法に従い培養した。FGF2を用いた通常の培養液(Essential 6 Medium (life technologies)、2ng/ml TGF-beta 1 (R&D Systems)、100ng/ml of recombinant human basic FGF (PeproTech))の中のrecombinant human basic FGF (PeproTech)(すなわち、FGF2。bFGFともいう。)の代わりに、FGFCを終濃度100ng/mlとなるように添加した培養液を使用し、FGF2を用いた通常の培養液との比較培養を行った。
4日間の培養後、細胞は4%パラホルムアルデヒドで固定し、PBSで洗浄した後、未分化のES細胞の一般的な診断マーカーであるアルカリホスファターゼ染色法(AP)とBC2LCN染色法及び抗体染色法を行い、FGF2を加えた培養液で培養した場合とFGFCを加えた培養液で培養した場合で、H1(WA01)株および201B7株の未分化性が維持されているかどうか確認した。BC2LCN染色は、Cy3で直接標識したBC2LCNを反応させ、蛍光顕微鏡により染色像を得た。抗体染色は、抗Nanog抗体、抗Oct3/4抗体、SSEA-4抗体、Tra-1-60抗体、Tra-1-81抗体を反応させた後、二次抗体であるanti-mouse IgM-Alexa488、anti-mouse IgG-Alexa488またはanti-rabbit IgG-Alexa594をさらに反応させ、蛍光顕微鏡により染色像を得た(図5)。
BC2LCN染色、抗体染色とアルカリホスファターゼ染色(AP)は、FGF2を用いた通常の培養液で培養されたES細胞を強く染色した(図5A)。また、BC2LCN染色、抗体染色とアルカリホスファターゼ染色(AP)は、FGFCを用いた培養液で培養されたES細胞も同様に強く染色した(図5B)。さらにiPS細胞においても、BC2LCN染色、抗体染色とアルカリホスファターゼ染色(AP)は、FGF2を用いた通常の培養液で培養された細胞を強く染色した(図5C)。また、BC2LCN染色、抗体染色とアルカリホスファターゼ染色(AP)は、FGFCを用いた培養液で培養されたiPS細胞も同様に強く染色した(図5D)。このことから、通常使用されている培養液中でFGFCキメラタンパク質はFGF2の代用として、無フィーダー培養においても、ヒトES細胞およびヒトiPS細胞の未分化性マーカーの発現を維持する活性を発揮し機能すること、その強さはFGF2と同等であることが実証された。
〔実施例5〕キメラタンパク質を用いて培養したヒトES細胞およびiPS細胞の遺伝子発現解析
本実施例で用いたヒトES細胞(H1(WA01)株)はthe WiCell International Stem Cell (WISC) Bankから分譲を受けた。本実施例で用いたヒトiPS細胞(201B7株)は理化学研究所細胞バンクから分譲を受けた。実施例1と同じ方法で、H1(WA01)株および201B7株を、培養液中のFGF2の代わりに、FGFCキメラタンパク質を終濃度100ng/mlとなるように添加した培養液を使用し、FGF2を用いた通常の培養液との比較培養を行った。FGFC添加培地で4日間培養時(ES_FGFC_4およびiPS_FGFC_4)、FGF2を用いた通常の培養液で4日間培養時(ES_bFGF_4およびiPS_bFGF_4)からRNAを抽出し、cDNAマイクロアレイ(SurePrint G3 Human GE マイクロアレイキット 8x60K (Agilent))で網羅的な遺伝子発現の解析を行った。マイクロアレイの結果からヒト全遺伝子の発現パターンの相関を、ES細胞およびiPS細胞それぞれのサンプル間で解析した。その結果、全遺伝子の発現量に関して、ES_FGFC_4とES_bFGF_4の間、およびiPS_FGFC_4とiPS_bFGF_4の間で殆ど差異はなかった(図6)。
このことから、このことは、FGFCが、FGF2並びにFGF2改変体等を培養液組成物として使用する場合と比較して、ES細胞およびiPS細胞の性質が変化しないことが示された。
〔実施例6〕FGFCを用いたヒトES細胞の無フィーダー長期培養後の解析
本実施例で用いたヒトES細胞(H1(WA01)株)はthe WiCell International Stem Cell (WISC) Bankから分譲を受けた。ヒトES細胞(H1(WA01)株)細胞は、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター幹細胞研究支援・開発室のマトリゲルを用いた無フィーダー培養法(ヒト多能性幹細胞培養実習プロトコール(維持培養を中心とした導入講習用資料Web版)2010.9)に従い培養した。培養液(0.08mM 2-mercaptoethanol(Sigma)、MEM non-essential amino acids(Invitrogen)、2mM L-glutamine(Invitrogen)、および20% KSR(Invitrogen)を添加した1:1 mixture of Dulbecco’s modified Eagle’s medium(DMEM) and Ham’s nutrient mixture F-12(Sigma))で、マイトマイシンC処理したマウス胎児繊維芽細胞を一晩培養し、培養後の培養液を回収してフィルター滅菌したものに、recombinant human basic FGF (Wako)(すなわち、FGF2)の代わりに、FGFCを終濃度5ng/mlとなるように添加した培養液を使用し、FGF2を用いた通常の培養液との比較培養を行った。
10継代の培養後、細胞は4%パラホルムアルデヒドで固定し、PBSで洗浄した後、未分化のES細胞の一般的な診断マーカーであるアルカリホスファターゼ染色法(AP)とBC2LCN染色法及び抗体染色法を行い、FGF2を加えた培養液で培養した場合とFGFCを加えた培養液で培養した場合で、H1(WA01)株の未分化性が維持されているかどうか確認した。BC2LCN染色は、Cy3で直接標識したBC2LCNを反応させ、蛍光顕微鏡により染色像を得た。抗体染色は、抗Nanog抗体、抗Oct3/4抗体、SSEA-4抗体、Tra-1-60抗体、Tra-1-81抗体を反応させた後、二次抗体であるanti-mouse IgM-Alexa488、anti-mouse IgG-Alexa488またはanti-rabbit IgG-Alexa594をさらに反応させ、蛍光顕微鏡により染色像を得た(図7)。
BC2LCN染色、抗体染色とアルカリホスファターゼ染色(AP)は、FGF2を用いた通常の培養液で培養されたES細胞を強く染色した(図7A)。また、BC2LCN染色、抗体染色とアルカリホスファターゼ染色(AP)は、FGFCを用いた培養液で培養されたES細胞も同様に強く染色した(図7B)。このことから、通常使用されている培養液中でFGFCキメラタンパク質はFGF2の代用としてヒトES細胞の未分化性マーカーの発現を維持する活性を発揮し機能すること、その強さはFGF2と同等であることが実証された。
〔実施例7〕FGFCを用いたヒトES細胞の無フィーダー長期培養後の多分化能の解析
本実施例で用いたヒトES細胞(H1(WA01)株)はthe WiCell International Stem Cell (WISC) Bankから分譲を受けた。本実施例で用いたiPS細胞(253G1株)は理化学研究所バイオリソースセンターから分譲を受けた。ヒトES細胞(H1(WA01)株)は、実施例6と同じ方法で、H1(WA01)株を、培養液中のFGF2の代わりに、FGFCキメラタンパク質を終濃度5ng/mlとなるように添加した培養液を使用し、FGF2を用いた通常の培養液で培養したES細胞との胚葉体形成による多分化能比較解析を行った。
FGF2およびFGFCを用いた培養液で10継代の培養したヒトES細胞(H1(WA01)株)を用いて、胚葉体形成を行った。胚葉体形成は、Takahashiらの手法(Takahashi K, Tanabe K, Ohnuki M, Narita M, Ichisaka T, et al. (2007) Cell. 131:861-872)の方法に従い作製し、15日間浮遊培養した。胚葉体形成直前、FGFCを用いた通常の培養液で10継代培養時(ES_FGFC_10)、およびFGF2を用いた通常の培養液で10継代培養時(ES_bFGF_10)からRNAを抽出し、また、それぞれのES細胞を用いて胚葉体形成し15日間培養した胚葉体(ES_FGFC_EBおよびES_bFGF_EB)からRNAを抽出し、cDNAマイクロアレイ(SurePrint G3 Human GE マイクロアレイキット 8x60K (Agilent))で網羅的な遺伝子発現の解析を行った。
また、iPS細胞(253G1株)はヒト多能性幹細胞の遺伝子発現の比較対象として、Tatenoらの手法(Tateno H , Toyoda M , Saito S , Onuma Y , Ito Y , Hiemori K , Fukumura M , Matsushima A , Nakanishi M , Ohnuma K , Akutsu H , Umezawa A , Horimoto K , Hirabayashi J , Asashima M. (2011) J Biol Chem. 286, 20345-20353)により培養し、RNAを抽出し、cDNAマイクロアレイ(SurePrint G3 Human GE マイクロアレイキット 8x60K (Agilent))で網羅的な遺伝子発現の解析を行った(iPS)。
マイクロアレイの結果からヒト全遺伝子の発現パターンの相関を、胚葉体形成直前のそれぞれのサンプル間で解析した。その結果、ES_FGFC_10とES_bFGF_10のサンプル間で、全遺伝子の発現量に関して、殆ど差異はなかった(図8A)。
一方、分化指向性については、ES_FGFC_10の場合及びES_bFGF_10の場合では異なっていることが観察された。前者の場合は、感覚神経への指向性が検出された。後者の場合は、特に分化指向性が検出されなかった。
さらに、胚葉体のマイクロアレイの結果から、三胚葉の分化マーカー遺伝子(PAX6、KRT14、PPARG、GSC、SOX17、CDX2)の発現を解析し、遺伝子ごとの発現量をグラフで表示した(図8B)。その結果、ES_FGFC_EBとES_bFGF_EBサンプルの両方で、胚葉体形成直前のFGF2を用いた通常の培養液で10継代培養したES細胞(ES_bFGF_10)よりも、分化マーカー遺伝子の発現量が増加していた。このことは、FGFCを用いた培養液で培養されたES細胞も、通常のFGF2を用いた通常の培養液で培養されたES細胞と同様に、多分化能が維持できることを示す。しかもES_FGFC_EBとES_bFGF_EBサンプルを分化指向性という観点から比較したところ、ES_FGFC_EBにおいて、よりPax6、Dlx5、Dlx6といった感覚神経分化に関与する遺伝子が高発現しており、改めてFGFCを用いて培養したヒトES細胞(H1(WA01)株)は、感覚神経への分化指向性を獲得したことが示された。
このことから、FGFCをFGF2の代用として添加した培養液は、通常使用されている培養液と比較して、未分化マーカー遺伝子の発現の変化を引き起こさず、さらに、ヒトES細胞の多分化能を維持しながら培養できることが実証された。
本発明のFGFC含有幹細胞増殖培地を用いてヒトES/iPS細胞の未分化性維持と増殖促進に用いることで、ES/iPS細胞の未分化性を維持しながら安定安価に培養することができ、かつES/iPS細胞の分化指向性等の性質を、従来のFGF2含有幹細胞増殖用培地とは異なる一定の分化指向性に揃えることができるので、幹細胞生物学研究分野、幹細胞治療による再生医療分野、幹細胞自動培養装置、幹細胞自動分化装置等において有用である。

Claims (12)

  1. ヒトES/iPS細胞の未分化能を維持しつつ、かつ分化指向性に多様性が付与されたヒトES/iPS細胞の製造方法であって、
    ヒトES/iPS細胞を、ヒト由来FGFCを有効成分として含むヒトES/iPS細胞増殖用培地を用いて培養することを特徴とする、製造方法。
  2. 前記ヒトFGFCが、以下の(1)〜(3)のいずれかのアミノ酸配列からなるポリペプチドである、請求項1に記載の製造方法;
    (1)配列番号1もしくは配列番号2に示されるアミノ酸配列、
    (2)配列番号1もしくは配列番号2に示されるアミノ酸配列のN末端から1〜21アミノ酸のいずれかの部分配列が削除されたアミノ酸配列、又は当該部分配列を削除したN末端にMet(M)もしくはMetAla(MA)を付加したアミノ酸配列、
    (3)前記(1)または(2)のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列であって、かつ配列番号1もしくは2における83位の位置のアミノ酸のAsp(D)が保持されているアミノ酸配列。
  3. 前記製造方法において、培養中のヒトES/iPS細胞に対して蛍光標識rBC2LCNレクチンを未分化マーカーとして用い、ヒトES/iPS細胞の未分化能が維持されていることを確認する工程を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の製造方法。
  4. さらに、望みの分化指向性に対応した遺伝子発現を検出する工程を含むことを特徴とする、請求項3に記載の製造方法。
  5. ヒトES/iPS細胞に対して、未分化能を維持しつつ増殖を促進し、かつ分化指向性に多様性を付与するための方法であって、
    ヒトES/iPS細胞を、FGFCを有効成分として含むヒトES/iPS細胞増殖用培地を用いて培養することを特徴とする、方法。
  6. ヒトES/iPS細胞増殖用培地が、有効成分としてさらにFGF2を含むことを特徴とする、請求項5に記載の方法。
  7. 前記FGFCが、以下の(1)〜(3)のいずれかのアミノ酸配列からなるポリペプチドである、請求項5又は6に記載の方法;
    (1)配列番号1もしくは配列番号2に示されるアミノ酸配列、
    (2)配列番号1もしくは配列番号2に示されるアミノ酸配列のN末端から1〜21アミノ酸のいずれかの部分配列が削除されたアミノ酸配列、又は当該部分配列を削除したN末端にMet(M)もしくはMetAla(MA)を付加したアミノ酸配列、
    (3)前記(1)または(2)のアミノ酸配列において、1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入、又は付加されたアミノ酸配列であって、かつ配列番号1もしくは2における83位の位置のアミノ酸のAsp(D)が保持されているアミノ酸配列。
  8. 前記方法において、培養中のヒトES/iPS細胞に対して蛍光標識rBC2LCNレクチンを未分化マーカーとして用い、ヒトES/iPS細胞の未分化能が維持されていることを確認する工程を含むことを特徴とする、請求項5〜7のいずれかに記載の方法。
  9. さらに、望みの分化指向性に対応した遺伝子の発現を検出する工程を含むことを特徴とする、請求項8に記載の方法。
  10. FGFC、又はFGFCと共にFGF2を有効成分として含むことを特徴とするヒトES/iPS細胞増殖用培地であって、請求項5〜9のいずれかに記載の方法に用いるためのヒトES/iPS細胞増殖用培地。
  11. ヒトES/iPS細胞に対して未分化能を維持しつつ、分化指向性の多様性を付与するためのヒトES/iPS細胞増殖用キットであって、下記(1)及び(2)を含むキット;
    (1)FGFCを有効成分として含むことを特徴とするヒトES/iPS細胞用培地、
    (2)蛍光標識rBC2LCNレクチン。
  12. ヒトES/iPS細胞が神経系細胞への分化指向性を獲得したか否かを判定するための試薬として、さらに下記(3)を含む請求項11に記載のキット;
    (3)嗅覚もしくは味覚受容体遺伝子発現を検出可能な抗体又は核酸。
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