以下、図面を参照しながら実施形態について説明する。なお、同一の又は対応する要素には全図を通じて同一の符号を付して重複する詳細な説明を省略する。
(レーザ加工装置の概要構成)
図1は、実施形態に係るレーザ加工装置1の構成を概念的に示す斜視図である。図1に示すレーザ加工装置1は、例えば薄膜太陽電池の製造工場でパターニング処理に好適に利用される。レーザ加工装置1をパターニング処理に利用する場合、ワーク90には、基板91の片面に薄膜層92を成膜して成る板状又はフィルム状の部材が適用され、レーザ光は、薄膜層92の表面とは反対側の面(以降、「入射面90a」と称する)に入射する。薄膜層92には、基板91の片面上に直接成膜される透明電極層や、透明電極層の表面上に成膜される光電変換層等が含まれる。
本実施形態に係るレーザ加工装置1は、入射面90aと略平行な面内における一方向Y(以降、「搬送方向Y」と称す)にワーク90を定速で搬送する。同時に、レーザ光80を入射面90aに対し略垂直に入射させ、そのレーザ光80を入射面90aと略平行な面内で搬送方向Yに交差する一方向(以降、「加工方向X」)に走査する。すなわち、レーザ光80が、ワーク90上で、加工方向Xに延びる走査線81に沿って直線移動する。
レーザ光80は、走査線81上で直線移動している間、薄膜層92付近で合焦し続ける。これにより薄膜層92の表層が走査線81に沿って除去され、薄膜層92に直線溝状のスクライブ線93が形成される。レーザ光80の走査は、搬送方向Yに位置を変えながら複数回行われ、それにより単一のワーク90に複数本のスクライブ線93が形成される。複数本のスクライブ線93は、搬送方向Yに等間隔をおいて配置され且つ加工方向Xに平行に延びる。
本実施形態では、加工方向Xが搬送方向Yに対して直交する。ただし、この交差角は一例であり適宜変更可能である。本実施形態では、入射面90aを水平に向けた状態でワーク90が搬送される。そのため、加工方向X及び搬送方向Yが水平に向けられ、レーザ光80のワーク90への入射方向が鉛直方向Zに略一致する。ただし、このワーク90の姿勢は一例であり適宜変更可能である。なお、入射方向を鉛直方向Zに極力一致させるように装置を構成した点については、後に詳述する。
レーザ加工装置1は、ワーク90の搬送を止めずにレーザ光80を走査し続けて複数本のスクライブ線93を形成することができ、これによりタクトタイムの向上が図られる。このようにしてスクライブ線93を形成する場合、レーザ光80の実走査方向X´が、搬送中のワーク90に視点をおいた座標系(以降、「ワーク座標系」と称す)でのレーザ光80の走査方向に対して傾斜している必要がある。
「実走査方向X´」は、光走査装置(例えば、後述のレーザ走査ヘッド10)に視点をおいた座標系(以降、「ヘッド座標系」と称す)でのレーザ光80の走査方向である。光走査装置は、典型的には地面に定置されるが、案内レールを用いる等して可動に構成されていてもよい。よって、実走査方向X´は、典型的には地面から見た走査方向に一致するが、必ずしもそうでなくてよい。「加工方向X」は、ワーク座標系でのレーザ光80の走査方向に一致する。ワーク90の搬送を止めてスクライブ線93を形成してもよく、その場合、実座標系とワーク座標系との区別がなくなるので、加工方向Xは実走査方向X´にも一致する。
ワーク90の搬送を止めずにスクライブ線93を形成する場合、ワーク90の搬送速度を一定とすると共に実走査方向X´の直線性を保ち、更にスクライブ線93の直線性をも保つためには、実座標系でのレーザ光80の走査速度(以降、「実走査速度」と称す)を一定とする必要がある。そうすれば、ワーク座標系でのレーザ光80の走査速度も一定となり、ワーク90の搬送速度が一定であることと相俟って(ワーク座標系での)走査線の直線性が保たれ、その結果スクライブ線93の直線性が保たれる。レーザ光80の走査速度を一定に保つように装置を構成した点については、後に詳述する。
次に、レーザ加工装置1の全体構成を説明する。図1に示すように、レーザ加工装置1は、主に、搬送装置2と、レーザ発振器5と、レーザ走査ヘッド10とを備える。搬送装置2は、ワーク90を支持してワーク90を搬送方向Yに搬送する搬送機構3と、搬送機構3を駆動する搬送アクチュエータ4とを備える。搬送機構3の構造は特に限定されず、例えば、図示のとおり搬送方向Yに間隔をおいて並ぶ複数本のローラを有してもよい。この場合、搬送アクチュエータ4は、ローラの全部又は一部を同期して回転駆動するように構成及び制御された1以上の電気モータであってもよい。レーザ発振器5は、ミリ秒〜マイクロ秒オーダのパルス幅(すなわち、キロヘルツ〜メガヘルツオーダの周波数)でパルスレーザを発振する。レーザ光80は、固体レーザでも液体レーザでも気体レーザでもよい。レーザ発振器5から入射面90aに至るまでの光路上には、レーザ光80が焦点を結ぶことができるように、レンズ6が設けられている。図1では、レンズ6を光学的にレーザ発振器5とレーザ走査ヘッド10との間に配置した場合を例示しているが、レンズ6の配置は特に限定されない。
搬送装置2は、ワーク90を定速で搬送する。レーザ発振器5は、一定パルス幅(周波数)でパルスレーザを発振する。これにより、搬送装置2及びレーザ発振器5を簡便に制御することができ、搬送装置2及びレーザ発振器5が安定的に動作する。よって、レーザ加工装置1の動作信頼性が高くなる。レーザ光80は、走査線81上において、或るパルスレーザの照射領域が1パルス前に発振されたパルスレーザの照射領域とオーバーラップするように走査され、それにより加工方向Xに途切れずに連続するスクライブ線93が形成される。レーザ光の走査速度が一定に保たれれば、走査線全体にわたって被り代を一定に保つことができ、レーザ加工装置1の加工精度が向上する。レーザ光80の走査速度を一定に保つように装置を構成した点については、後に詳述する。
レーザ走査ヘッド10は、レーザ発振器5からのレーザ光80をワーク90に照射して、そのレーザ光80をワーク90上において加工方向Xに延びる走査線81に沿って走査する。そのために、レーザ走査ヘッド10は、レーザ光80を投光中心C周りに等速で角移動させながら放射する投光部11と、投光部11から放射されたレーザ光80を走査線81上に導くべく反射する反射面20を有した反射部12とを備える。
投光部11は、レーザ光80を投光中心C周りに角移動させながら放射する偏向器と、当該偏向器を駆動する投光アクチュエータ17とを備える。偏向器には、図示のとおりポリゴンミラー16を好適に適用可能であるが、その他のもの(例えば、ガルバノミラー)を適用してもよい。ポリゴンミラー16は正多角柱状の外形を有し、複数の反射鏡面がポリゴンミラー16の側面それぞれに設けられている。また、ポリゴンミラー16は、中心軸線周りに回転可能である。本実施形態では、ポリゴンミラー16が8つの反射鏡面を有し、これら反射鏡面がポリゴンミラー16の軸線方向に見たときに正八角形を成すが、ポリゴンミラー16の反射鏡面数は8に限定されない。投光アクチュエータ17は、例えば電気モータであり、ポリゴンミラー16をポリゴンミラー16の中心軸線周りに回転駆動する。
投光アクチュエータ17は等速で動作するように制御される。これにより、ポリゴンミラー16も等速で回転駆動され、ひいては、ポリゴンミラー16からのレーザ光も投光中心C周りに等速で角移動する。これにより、投光部11を簡便に制御することができるし、ポリゴンミラー16及び投光アクチュエータ17が安定的に動作する。よって、レーザ加工装置1の動作信頼性が高くなる。
反射部12は、ポリゴンミラー16からのレーザ光を反射するミラー19を備え、ミラー19には、ポリゴンミラー16からのレーザ光80が上記回転範囲(720/N[deg])で角移動しながら入射する。ミラー19は、ポリゴンミラー16からのレーザ光80を反射する反射面20を有する。反射面20からのレーザ光は、ワーク90の入射面90aに下から入射し、ワーク90の走査線81上に照射される。
本実施形態では、レンズ6からポリゴンミラー16までの間、ポリゴンミラー16から反射面20までの間、反射面20からワーク90までの間に光学素子が特段設けられていないが、適宜追加可能である。例えば、光路折曲げのためのミラー又はプリズムや、レーザ光を変形させるためのシリンドリカルレンズ等の光学素子を適宜追加可能である。シリンドリカルレンズを設ける場合、加工方向X(実走査方向X´)に長尺となり搬送方向Yに短尺となるようレーザ光を扁平化するのが好ましい。これにより、スクライブ線93の幅を小さくすることができ、ワーク90に微細なパターニング処理を施すことができる。また、走査速度を高くしても被り代を確保することができるようになり、加工速度の高速化とスクライブ線93の連続性担保との両立を図ることができる。
本実施形態では、光路折曲げのための光学素子が特段設けられていないところ、レーザ走査ヘッド10は物理的に搬送機構3よりも下に配置され、レーザ走査ヘッド10からのレーザ光80が入射面90aに上向きに入射する。そこで、本実施形態では、ポリゴンミラー16がミラー19よりも上に配置され、ミラー19の反射面20が上に向いている。レーザ発振器5からのレーザ光80は、ポリゴンミラー16に概ね上向きに入射し、ポリゴンミラー16からのレーザ光80は、反射面20に概ね下向きに入射する。反射面20からのレーザ光80は、上向きに射出されて入射面90aに入射する。レーザ光80は、実座標系では実走査方向X´にワーク座標系では加工方向Xに直線的に走査されるので、ポリゴンミラー16の中心軸線は、実座標系では実走査方向X´に直交する方向に向けられ、ワーク座標系では加工方向Xに直交する方向(搬送方向Y)に向けられる。ミラー19の反射面20は、実座標系では実走査方向X´に延びるように配置され、ワーク座標系では加工方向Xに延びるように配置される。
以降では、この装置の配置と光路の向きを前提にして説明する場合もあるが、これは単なる一例に過ぎず、レーザ走査ヘッド10及び搬送機構3の位置関係やレーザ走査ヘッド10への光学素子の追加に応じて、適宜変更可能である。
レーザ走査ヘッド10は、構成要素を収容するための筐体13を備える。ポリゴンミラー16及びミラー19は筐体13内に収容され、筐体13の上部には反射面20からのレーザ光80を筐体13外に放出するためのスリット13aが設けられている。レンズ6が筐体13内に収容されていてもよい。本実施形態では、筐体13が地面に定置されるが、筐体13は可動に構成されていてもよい。
レーザ発振器5からのレーザ光は、ポリゴンミラー16に入射し、入射したレーザ光が或る反射鏡面を通過する間、ポリゴンミラー16は360/N[deg]だけ等速で回転する(N:ポリゴンミラーの反射鏡面数)。この間、レーザ光は、当該反射鏡面を通過することとなり、当該反射鏡面に対する入射角を変えながら当該反射鏡面上で反射し続ける。反射したレーザ光は、当該反射鏡面上の投光中心C周りに720/N[deg]の回転範囲で等速で角移動する(N:ポリゴンミラーの反射鏡面数)。投光中心Cは、ポリゴンミラー16におけるレーザ光の反射点でもあり、ポリゴンミラー16の回転に応じて当該反射鏡面上で移動する。ポリゴンミラー16で反射したレーザ光80は、或る平面(以降、「角移動平面」と称す)内で角移動する。角移動平面は、例えば、ポリゴンミラー16の中心軸線に直交する平面でもよい。ポリゴンミラー16への入射光路が傾斜している場合、角移動平面は、この光路の傾斜を考慮して当該直交平面に対して傾斜した平面でもよい。
レーザ光80が1枚の反射鏡面を通過するのを微細に見れば、まず、レーザ光80は当該反射鏡面と当該反射鏡面にミラー回転方向順側に連続する前反射鏡面とが成す始点稜部に入射することで通過を開始し、その後ポリゴンミラー16が360/Nだけ回転するまで当該反射鏡面を通過し、当該反射鏡面と当該反射鏡面にミラー回転方向逆側に連続する次反射鏡面とが成す終点稜部に入射することで通過を終了する。レーザ光80は、当該反射鏡面の通過を終了すると次反射鏡面の通過を開始する。隣り合う2つの反射鏡面が成す稜部は、ミラー回転方向順側の反射鏡面にとっては終点稜部に相当し、ミラー回転方向逆側の反射鏡面にとっては始点稜部に相当する。
本実施形態では、投光中心Cが始点稜部に位置するとき(すなわち、1枚の反射鏡面の通過を開始するとき)に、レーザ光80が走査線81の始点81Aを照射してスクライブ線93の始点93Aを形成し、投光中心Cが終点稜部に位置するとき(すなわち、1枚の反射鏡面の通過を終了するとき)に、レーザ光80が走査線81の終点81Bを照射してスクライブ線93の終点93Bを形成する。レーザ光80が1枚の反射鏡面を通過する間に、始点81Aを終点81Bに結ぶ1本の走査線81に沿ってレーザ光80が走査され、始点93Aを終点93Bに結ぶ1本のスクライブ線93が形成される。
(反射面の形状)
次に、反射面20の形状について説明する。反射面20は、レーザ光80の角移動平面で断面をとったときに放物線とは似て非なる曲線を成している。当該断面の法線方向に見たとき、ポリゴンミラー16からのレーザ光は、反射面20上では断面曲線に沿って走査され、断面曲線上で反射してワーク90の入射面20aへと向かうこととなる。反射面20の断面曲線は、放物線と同様にして頂点を有する線対称の曲線であり、対称軸線が頂点を通過する。本実施形態では、対称軸線が鉛直方向Zに延びて断面曲線が下に凸であるが、反射面20の断面曲線はどの方向に凸であってもよい。本実施形態では、断面曲線が、頂点から横方向又は横軸方向(実座標系では実走査方向X´、ワーク座標系では加工方向X)に離れるほど、縦方向又は縦軸方向(鉛直方向Z)において走査線81と光学的に近付く側(上側)へと切り立っている。
本実施形態では、ポリゴンミラー16に入射したレーザ光80が1枚の反射鏡面を通過する間にレーザ光80が1本の走査線81に沿って走査されるが、投光中心Cが始点稜部と終点稜部との中間点(反射鏡面の中間点)に位置するとき、ポリゴンミラー16からのレーザ光80は反射面20の頂点に入射し、そこから反射したレーザ光80がワーク90の入射面90aに入射する。このとき、レーザ光80は、走査線の始点81Aと終点81Bとの中間点を照射する。投光中心Cが始点稜部に位置するとき、反射面20のうち頂点から横方向に離れた横方向一端部(図1紙面の右側端部)に入射し、そこから反射したレーザ光80が走査線の始点81Aを照射する。投光中心Cが終点稜部に位置するとき、反射面20のうち頂点から横方向に離れた横方向他端部(図1紙面の左側端部)に入射し、そこから反射したレーザ光80が走査線81の終点81Bを照射する。
ここで、反射面20が放物面であったと仮定する。ここでいう「放物面」は、いわゆる回転放物面ではなく少なくともその断面が放物線を成す面であり、例えばレーザ光80の角移動平面で断面をとったときに放物線を成す面である。以降では、説明便宜のため、当該放物線の頂点、焦点及び準線を、放物面の頂点、焦点及び準線とそれぞれ称する場合もある。
放物線の横軸方向は、本実施形態に係る反射面20と同様、実座標系では実走査方向X´に向けられてワーク座標系では加工方向Xに向けられ、放物線の縦軸方向は鉛直方向Zに向けられるとする。そして、投光中心Cが、放物面の焦点上に配置され、走査線が、放物面の準線と平行に配置されるとする。この場合、放物線の数学的定義に従って、投光中心Cから走査線上の任意照射点までの光路長は等しくなる。よって、レーザ光をワーク上で合焦させ続けることができる。また、放物線の数学的定義に従って、放物面からのレーザ光の光路は鉛直上向きとなり、レーザ光はワークに垂直に入射する。
しかし、レーザ光が等速で角移動すると、放物面からのレーザ光は走査線上では非等速で移動する。特に、レーザ光が放物面の頂点から離れた箇所で反射した場合に、放物面の頂点付近で反射したときと比べ、レーザ光が走査線上で速く移動する。つまり、レーザ光の走査速度が、走査線の中間点付近と比べ、走査線81の始点付近及び終点付近において速くなる。レーザ光が非等速で走査されると、被り代を一定の大きさに保つことができず、加工ムラが顕在化する。ワーク90の定速搬送と同時にレーザ光を走査する場合においては、実座標系でレーザ光を直線的に走査してもワーク座標系でレーザ光の直進性を保てなくなり、その結果としてスクライブ線は湾曲する。
本実施形態に係る反射面20の断面曲線は、放物線を縦軸方向において頂点とは反対側へと切り立たせるように放物線を変形させることで得られる曲線を成している。このようにして反射面20は、放物面を切り立たせるよう変形させて走査線81上でのレーザ光80の移動速度を略一定に保つ非放物形状を有している。
放物面をこのように変形すると、反射面20に放物面を採用した場合と比べ、投光中心Cから放射されたレーザ光80が、頂点から横方向に離れた箇所において頂点により近い位置で反射する。これにより、走査線の始点付近及び終点付近での走査速度を抑えるよう修正される。その結果、レーザ光の走査速度を略一定に保つことができる。すると、被り代の大きさを一定に保つことができ、スクライブ線93の直進性を保つこともできる。しかも、ワーク90の搬送速度、パルスレーザの周波数及びレーザ光80の角速度はいずれも一定であるので、搬送装置2、レーザ発振器5及び投光部11の安定動作を実現しつつ、レーザ光80の等速性を保つことができている。
反射面20は放物面を変形した非放物形状を有するところ、投光中心Cは、依然として基準とされた放物面の焦点上に配置され、走査線は基準とされた放物面の準線に平行に配置される。逆に言えば、反射面20の断面曲線と頂点を共有すると共に同方向に凸である放物線を定義したとき、当該放物線の焦点上に投光中心Cが配置され、当該放物線の準線上に走査線が配置される。このため、反射面20は非放物形状を有しながらも、反射面20に放物面を採用したときに得られるメリットも享受することができる。
この非放物形状は、放物面の頂点から横方向に離れるほど縦方向において当該頂点とは反対側へと大きく切り立つようにして放物面を変形させることで得られる。逆にいえば、頂点付近では大きく変形されていない。このように、変形箇所及び変形程度が横方向に勾配を持っている。反射面20に放物面を採用したときに得られるメリットを損なわないことと、反射面に放物面を採用したときに生じるデメリットを解消することとの両立を図ることができる。レーザ光の走査速度は、放物面の頂点付近で反射した場合の走査速度に合うようにして、好適に是正される。
反射面20の非放物形状は連続した曲面であり、反射面20は、レーザ光の角移動平面で断面をとったときに連続曲線を成す。例えば、曲線に沿って複数の平板鏡面を並べて配置した場合には、組付け時の累積誤差が重なって寸法公差が大きくなる可能性があるし、隣接する平板鏡面の継ぎ目でケラレが生じる可能性がある。上記構成の採用により、反射面20を小さい寸法公差内で光学配置することができるし、ケラレを解消することができる。
このように本実施形態に係る反射面20の形状は、放物面と比較することでその特徴及び作用効果を容易に把握可能になる。以降の説明では、反射面20の比較対象となり且つ反射面20を得る変形前の基準となる面を「基準放物面」と称する。
図2は、反射面20及び基準放物面70の形状を示す概念図である。図2では、説明の便宜のため、加工方向Xを横軸にとり、鉛直方向Zを縦軸にとった二次元直交座標系(ワーク座標系)を用いる。また、ここでは、レーザ光80の角移動平面が、当該二次元直交座標系によって定義されるZX平面と平行な平面、すなわち、ポリゴンミラー16の中心軸線に直交する平面であるとする。
図2に示すように、走査線81及びスクライブ線93は、横軸に平行な直線で表され、反射面20及び基準放物面70は下に凸である。原点Oに、投光中心Cと基準放物面70の焦点Fとが位置し、反射面20及び基準放物面70の対称軸線が縦軸上で重なる。
焦点Fと頂点との距離がaであれば、頂点を座標(0,a)、基準放物面70の断面放物線を曲線:Z=−X2/4a+a(a<0)として表すことができる。走査線81の始点81Aと終点81Bの中間点は縦軸上に位置する。
一方、反射面20の断面曲線は、基準放物面70と同様にして偶関数で表されて縦軸を基準に線対称である。このため、反射面20の断面曲線を最適化したり、その形状及び作用効果を考察又は評価するにあたっては、対称軸線に対していずれか一方の側のみについて行えばそれで足りる。
基準放物面70の断面放物線は2次多項式で表されるが、反射面20の断面曲線は4次以上の偶数次多項式で表される。これにより反射面20は、前述したとおり、基準放物面70の頂点から横軸方向に離れるほど縦軸方向において当該頂点とは反対側(本例では基準放物面70及び反射面20が下に凸であるので、上側)に切り立たせるように基準放物面70を変形させた非放物形状を有することとなる。
反射面20に放物面を採用したときに得られるメリットを損なわず反射面20に放物面を採用したときに生じるデメリットを解消するとの作用が得られるのであれば、反射面20の断面曲線は、高次多項式以外の偶関数(例えば、余弦関数)で表されてもよい。高次多項式で表す場合、上記作用を得るようにして、反射面20を容易に最適化することができる。
本実施形態では、反射面20の断面曲線が次式(1)の6次多項式で表される。ただし、反射面20の断面曲線は4次多項式で表されてもよく、8次以上の偶数次多項式で表されてもよい。反射面20の断面曲線が6次多項式で表されると、反射面20に放物面を採用した場合に得られるメリットの享受と、反射面20に放物面を採用した場合に生じるデメリットの解消との両立が容易になる。
反射面20の断面曲線を表す式では、奇数次項が省略される。これにより反射面20の線対称性を保つことができ、また、反射面20が基準放物面70から不必要に大きく変形するのを防ぐことができる。更に、奇数次項を考慮しないことで、上記作用を得るようにして、反射面20を容易に最適化することができる。
特に、本実施形態では、式(1)において、2次及びそれより低次の項が基準放物面70を表す式を成す。すなわち、式(1)における2次項の係数C2が基準放物面70を表す式の2次項の係数と等しく、式(1)における定数項C3が基準放物面70を表す式の定数項と等しく、そのため、式(1)を次式(2)で表すことができる。
このように、反射面20の断面曲線を表す多項式のうち、2次及びそれより低次の項が、基準放物面70の断面放物線を表す式を成していると、2次よりも高次の項(本実施形態では、6次項:C0X6、4次項:C1X4)のみが、当該基準放物面70の変形に寄与し、基準放物面70の断面放物線を表す式への補正項として機能する。このように、変形に寄与する項が、基準放物面70の断面放物線を表す式と完全に分別され、基準放物面70の断面放物線を表す式を構成する2次及びそれより低次の項はそのまま維持される。このため、反射面20に基準放物面70を採用したときに得られるメリットを損なわず反射面20に基準放物面70を採用したときに生ずるデメリットを解消した非放物形状を実現することができる。また、変形に寄与する項、すなわち最適な係数を導出すべき項を、2次よりも高次の項のみに絞っている。このため、かかる非放物形状を容易に最適化することができる。例えば、本実施形態では、反射面20の断面曲線が奇数次項を有しない6次多項式で表され、最適な係数を導出すべき項を6次項と4次項の2つに絞っているので、非放物形状を容易に最適化することができる。
(非放物形状の最適化)
次に、図2を参照しながら非放物形状を最適化する手順について説明する。まず、初期パラメータを決定する。初期パラメータには、ポリゴンミラー16の反射鏡面数、投光中心Cから基準放物面70の頂点までの距離、投光中心Cから走査線81までの距離、走査線81の長さ等が含まれる。ポリゴンミラー16の反射鏡面数は、投光中心C周りのレーザ光の回転範囲を決めるためのパラメータである。投光中心Cから頂点までの距離は、基準放物面70の断面放物線を表す式を決めるためのパラメータであり、更に本実施形態では、反射面20の断面曲線を表す多項式において2次及びそれより低次の項を固定するためのパラメータであるとの意義も有している。
次に、投光中心C周りに角移動する投光中心Cからのレーザ光80の光路を単位回転量θ毎に定義し、定義された光路それぞれに対応する直線の方程式を導出する。ここで、投光中心Cから真下にレーザ光が放射された時点をt0とする。この場合、時点t0での光路が縦軸に重なる。第2象限において縦軸から反時計回りに数えてn本目の直線が、時点t0からn×θだけ回転した時点での光路に対応し、直線:Z=−tan(90−nθ)X で表される。
次に、反射面20の断面曲線と、投光中心Cからの光路それぞれとの交点P1,P2,…Pnの座標を求める。この段階で、式(2)における6次項の係数C0と4次項の係数C1は未定である。反射面20の断面曲線は非線形方程式で表されるところ、交点P1,P2,…Pnの座標は、ニュートン・ラフソン法(Newton-Raphson method)等に代表される近似計算法を用いて導出することができる。近似精度は演算繰返し回数に応じて変わるところ、本実施形態では、光学設計に活用することに照らして5〜7回の繰返し演算が行われる。これにより近似精度が好適に担保される。反射面20の断面曲線は偶数次多項式で表されるので、繰返し演算を容易に行うことができ、交点座標を高精度且つ容易に導出することができる。
次に、交点P1,P2,…Pn毎に反射レーザ光路を表す直線の方程式を導出する。そのためにまず、当該交点P1,P2,…Pnでの反射面20の法線の傾きを求める。法線は入射レーザ光路と反射レーザ光路との線対称軸となる。次に、法線の傾きと入射レーザ光路に対応する直線の傾きとから、反射レーザ光路を表す直線の傾きを求める。次に、求めた傾きと交点P1,P2,…Pnの座標とから、当該直線の方程式を導出する。
次に、反射レーザ光路を表す直線それぞれと走査線81を表す直線との交点Q0,Q1,…Qnの座標を求める。この交点群Q0,Q1,…Qnは、単位回転量θ毎の走査線81上でのレーザ光80の照射点を表す。縦軸と走査線81を表す直線との交点Q0は、時点t0で投光中心Cから放射されたレーザ光の走査線上での照射点である。当該交点Q0から横軸方向右側に数えて1つ目の交点Q1は、時点t0からθだけ回転した後の時点で投光中心Cから放射されたレーザ光の走査線上での照射点である。この隣接2点Q0,Q1間の距離S1は、レーザ光が単位回転量θだけ角移動する間におけるレーザ光の走査線81上での走査距離に相当する。
次に、走査線81上における隣接2点間の距離S1,S2,…Snをそれぞれ算出する。そして、算出された距離S1,S2,…Sn同士を所定誤差範囲内に収めるようにして、反射面20の断面曲線を表す式を導出する。誤差の評価法に関し、本実施形態では、時点t0から単位回転量θだけ角移動する間の走査距離S1を基準距離とし、残りの走査距離S2,S3,…Snそれぞれと基準距離S1との距離比を算出する。全走査距離S1,S2,…Snが、同じ時間が経過する間におけるレーザ光の走査距離であるので、距離比を算出することは速度比を算出することと同等である。そして、n−1個の距離比(速度比)全てが所望の閾値未満となるとの条件を満たすように、反射面20の断面曲線を表す式を導出する。こうすれば、走査線81の始点81A及び終点81B付近の走査速度を、時点t0から単位回転量θだけ角移動する間におけるレーザ光の走査速度を基準にして許容誤差範囲内に収めることができる。
本実施形態では、式(2)における6次項の係数C0の値と4次項の係数C1の値を調整することにより、上記条件を満たす式が導出される。一方、2次及びそれより低次の項は、調整のために値を変える対象とせず、基準放物面70を表す式と同一に維持する。このような調整手法を採ると、基準放物面70の頂点から横軸方向に離れるほど基準放物面70に対して大きく変形する一方、基準放物面70の頂点付近で変形が小さくなって反射面20は基準放物面70と頂点を共有するようになる。その一方で、C0及びC1の調整の根拠となる誤差は、走査距離S1を基準として評価されるところ、当該走査距離S1は時点t0から単位回転量θだけ角移動する間における走査距離である。C0及びC1を調整しても基準放物面70の頂点付近の形状は変化しないので、当該走査距離S1も大きく変化しない。一方、C0及びC1を調整すると、基準放物面70の頂点から横方向に離れた箇所で変形量が大きくなる。このため、走査距離S1を規定する照射点Q0,Q1から横軸方向に離れた照射点であるほど、すなわち、走査線81の中間点から離れた照射点であるほど、当該照射点により規定される走査距離を大きく補正することができる。
このように、頂点付近で反射したレーザ光の走査距離を基準とした誤差評価を採用すると共に、反射面20の断面曲線を表す式の導出に際して2次よりも高次の項の係数のみを調整するとの手法を採用することで、誤差を許容範囲内に収めるようにして、反射面20の断面曲線を表す式を合理的且つ簡便に導出することができる。
なお、係数C0及び係数C1の最適値の導出には、多項式最適化法を用いるのが有用である。この多項式最適化法では、例えば、隣接2点間における走査加速度を算出し、算出された走査加速度又はそれを二乗した値を積算し、その積算値が最小となるような係数C0及びC1を一般化簡約勾配法(GRG(Generalized Reduced Gradient)法)で探索する、という手法を用いてもよい。GRG法に替えて準ニュートン法を用いてもよい。本件発明者の検証によれば、このように探索されたC0及びC1を用いて上記のように走査距離S1を基準とした速度比を評価したところ、全速度比をパターニング処理用のレーザ加工装置1で要求される許容誤差範囲内に収めることができるケースがあるとわかった。
次に、投光中心Cから走査線81上の照射点それぞれまでの距離を算出する。そして、算出された距離同士が所望の誤差範囲内に収まっているか否かを判定する。この距離は、投光中心Cから照射点までの光路長である。反射面20に基準放物面70を採用したときには数学的定義に従って光路長が一定になるが、反射面20が非放物形状であれば光路長に誤差が生ずる。そこで、その誤差が許容範囲内であるか否かが確認される。許容範囲はパターニング処理用のレーザ加工装置に要求される精度に応じて適宜設定され、誤差が許容範囲外であれば、誤差が許容範囲内に収まるように式(2)が修正される。本件発明者の検証によれば、レーザ光の走査速度の等速性を保つように反射面20の断面曲線を表す式が上記のようにして導出されれば、光路長も要求される許容誤差範囲内に収めることができ、当該式の修正が不要になるケースがあることがわかった。
次に、反射レーザ光路を表す直線の傾きが許容範囲内にあるか否かを判定する。この傾きは、対応する照射点におけるレーザ光のワークへの入射角の正接である。反射面に基準放物面70を採用したときには数学的定義に従って入射角が90度になって傾きが無限大となるところ、反射面20を非放物形状とすると入射角が90度に対して傾斜するので、その傾斜が許容範囲内であるか否かが確認される。許容範囲の設定や誤差が許容範囲外である場合の取扱いについては、上記光路長と同様である。また、本件発明者による検証により、式の修正が不要になるケースがあることも上記光路長と同様である。
以上、実施形態について説明したが、上記構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜変更、追加及び削除することができる。
(実施例)
最後に、上記最適化の手順を経て得られた反射面20の形状の一例を表1,2にまとめる。全実施例において、交点座標の導出には、ニュートン・ラフソン法を用いて7回繰返し演算した。係数C0及びC1は、走査加速度の二乗の積算値を最小にする値をGRG法で探索することにより導出された。
表1に示すとおり、実施例1〜3では、ポリゴンミラーの反射鏡面数を8、単位回転量を4.5度とした。実施例1では、放物面の焦点距離を1、放物面焦点から走査線までの距離を2とした。実施例2では、放物面の焦点距離を1、放物面焦点から走査線までの距離を0.5とした。実施例3では、放物面の焦点距離を1、放物面焦点から走査線までの距離を0.5とし、反射面の断面曲線を表す式のうち2次項の係数C2及び定数項C3をこれに応じて変更した。実施例1では、速度比を最大で0.08%の誤差に収めることができた。同時に、光路長を最大で0.03%の誤差に収めることができ、レーザ光のワーク90への入射角の垂直に対する傾斜角を最大で2.331度に収めることができた。実施例2では、速度比を最大で0.14%の誤差に収めることができた。同時に、光路長を最大で−0.15%の誤差に収めることができ、レーザ光のワーク90への入射角の垂直に対する傾斜角を最大で3.173度に収めることができた。実施例3では、速度比を0.03%の誤差に収めることができた。同時に、光路長を最大で−0.15%の誤差に収めることができ、レーザ光のワーク90への入射角の垂直に対する傾斜角を最大で1.524度に収めることができた。速度比に関しては実施例3、光路長に関しては実施例1、入射角に関しては実施例3でそれぞれ最適化されることがわかった。
表2に示すとおり、実施例4〜6では、ポリゴンミラーの反射鏡面数を6、単位回転量を6度とした。放物面の焦点距離と放物面焦点から走査線までの距離とに関し、実施例4〜6は、実施例1〜3とそれぞれ同じ条件としている。それぞれと同じ条件としている。実施例4〜6においては、速度比、光路長及び入射角のいずれに関しても、実施例6で最適化されることがわかった。実施例1〜3と実施例4〜6との比較から、ポリゴンミラーの反射鏡面数に応じて基準放物面の断面放物線を表す式を最適化することで、速度比、光路長及び入射角を最適化することができるとの考察を得られた。
実施例1〜6から、上記最適化の手順を経て得られた反射面20を採用すれば、ポリゴンミラー16を等速で回転させながらレーザ光の等速性を保つことができ、しかも基準放物面70を反射面に採用したときに得られるメリットをも十分に享受することができるとわかった。