JP2014082061A - 導電性積層フィルム - Google Patents

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Abstract

【課題】特殊な樹脂や第3成分を添加しなくても高い導電性を発現し、しかも機械的強度の高い導電性積層フィルムを提供する。
【解決手段】本発明の導電性積層フィルムは、脂肪族セルロースエステル(A)と、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、単層グラフェン、多層グラフェン、フラーレン及びカーボンブラックからなる群より選択された少なくとも1種の炭素材料(B)とを含む導電性材料から形成された導電性セルロース系樹脂フィルム層(I)と、非導電性フィルム層(II)とを少なくとも有することを特徴とする。非導電性フィルム層(II)は脂肪族セルロースエステル(C)を含むセルロース系樹脂フィルム層であるのが好ましい。
【選択図】なし

Description

本発明は、導電性フィルム層と非導電性フィルム層(絶縁性層)の少なくとも2層を含む導電性積層フィルム、及び基材上に該導電性積層フィルムを有する導電性部材に関する。前記導電性積層フィルム、導電性部材は、例えば電気・電子機器の筐体などに使用される電磁波・電子波遮断フィルム、電磁波・電子波遮断用部材等として有用である。
従来、導電性フィルムとして、カーボン(例えばケッチンブラック)などを樹脂に添加したフィルムが知られている。また、ポリピロールなど導電性高分子からなるフィルムも公知である。電磁波・電子波遮断用に用いられるフィルムとしては、透明フィルム上に金属を蒸着したフィルムや導電性蒸着膜を形成したフィルムが知られている。
一方、カーボンナノチューブ(CNT)を用いた導電性フィルムも公知であり、導電性層の性能を向上させるために、カーボンナノチューブを添加し、さらにポリピロールなど導電性高分子を使用したり、あるいは鉄・コバルトなどの第3成分を添加することが行われている(非特許文献1〜5参照)。すなわち、従来、カーボンナノチューブと樹脂を混合し、高導電性を発現するためには特殊な樹脂の使用、あるいは第3成分の添加が必要であった。
他方、導電性付与の目的では以前よりカーボンブラックが使用されている。しかし、得られる導電性は10Ω・cmオーダーであり、導電性が非常に低い。上記CNTを用いる場合には、CNTの添加によりフィルムが脆くなるという欠点があり、導電性を向上させようとCNTの添加量を増加すると、機械的な強度が低下し、機械的な強度を保とうとすると導電性が高くできないというジレンマがあった。
Progress in Polymer Science, 35, (2010), 357 J. Polym. Sci. Part A Polym. Chem., 2006, 44, 5283 ChemPhysChem, 2004, 5, 998 Appl. Phys. Lett., 2003, 82, 1290 Curr. Appl. Phys., 2004, 4, 577
従って、本発明の目的は、特殊な樹脂や第3成分を添加しなくても高い導電性を発現するとともに、高い機械的強度を有する導電性積層フィルム、及び該導電性積層フィルムを備えた導電性部材を提供することにある。
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、マトリックス樹脂としての脂肪族セルロースエステルにカーボンナノチューブ等の炭素材料を分散配合した導電性材料から得られる導電性樹脂フィルム層と、非導電性フィルム層(絶縁性層)とを積層すると、特殊な樹脂や第3成分を添加しなくても高い導電性を発現するとともに、高い機械的強度を有する導電性積層フィルムが得られることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、脂肪族セルロースエステル(A)と、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、単層グラフェン、多層グラフェン、フラーレン及びカーボンブラックからなる群より選択された少なくとも1種の炭素材料(B)とを含む導電性材料から形成された導電性セルロース系樹脂フィルム層(I)と、非導電性フィルム層(II)とを少なくとも有する導電性積層フィルムを提供する。
前記非導電性フィルム層(II)は脂肪族セルロースエステル(C)を含むセルロース系樹脂フィルム層であるのが好ましい。
前記導電性セルロース系樹脂フィルム層(I)の厚みは、例えば1〜5μmである。
前記導電性セルロース系樹脂フィルム層(I)の表面抵抗率は、好ましくは1×10〜1×10Ω/□であり、さらに好ましくは1×10〜1×10Ω/□である。
前記導電性セルロース系樹脂フィルム層(I)を形成する導電性材料中の炭素材料(B)の含有量は、導電性材料全体の0.5〜80重量%であるのが好ましい。
前記脂肪族セルロースエステル(A)は酢酸セルロースであるのが好ましい。
前記炭素材料(B)は単層カーボンナノチューブ及び/又は多層カーボンナノチューブであるのが好ましい。
前記脂肪族セルロースエステル(C)は酢酸セルロースであるのが好ましい。
本発明は、また、基材上に前記の導電性積層フィルムを有する導電性部材を提供する。
本発明の導電性積層フィルム及び導電性部材は、導電性層が、脂肪族セルロースエステルと特定の炭素材料とを含む導電性材料により形成されているので、特殊な樹脂や第3成分を用いなくても高い導電性を発現するとともに、非導電性フィルム層を積層しているので機械的強度が高い。また、本発明の導電性積層フィルムや導電性部材は、例えば、脂肪族セルロースエステルとカーボンナノチューブ等の炭素材料の粉末とを溶媒中で混合した後、基材等の表面に塗布し乾燥するという簡便な操作で導電性フィルム層を形成できるため、極めて簡易に且つ低コストで製造できるという利点も有する。
本発明の導電性積層フィルムは、脂肪族セルロースエステル(A)と、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、単層グラフェン、多層グラフェン、フラーレン及びカーボンブラックからなる群より選択された少なくとも1種の炭素材料(B)とを含む導電性材料から形成された導電性セルロース系樹脂フィルム層(I)と、非導電性フィルム層(II)とを少なくとも有している。
本発明の導電性積層フィルムにおいて、導電性セルロース系樹脂フィルム層(I)と非導電性フィルム層(II)とは、直接積層されていてもよく、プライマー層を介して積層されていてもよい。また、本発明の導電性積層フィルムは、導電性セルロース系樹脂フィルム層(I)の少なくとも片面に非導電性フィルム層(II)を有していればよく、例えば、導電性セルロース系樹脂フィルム層(I)の両面に非導電性フィルム層(II)を有していてもよく、また、非導電性フィルム層(II)の両面に導電性セルロース系樹脂フィルム層(I)を有していてもよい。さらに、導電性セルロース系樹脂フィルム層(I)と非導電性フィルム層(II)が、それぞれ複数個、例えば交互に積層されていてもよい。また、本発明の導電性積層フィルムは、必要に応じて、導電性セルロース系樹脂フィルム層(I)及び非導電性フィルム層(II)以外のフィルム層を有していてもよい。
[脂肪族セルロースエステル(A)]
本発明では、導電性セルロース系樹脂フィルム層(I)(導電性フィルム層)を形成するための導電性材料を構成する成分(マトリックス樹脂成分)として、脂肪族セルロースエステル(A)を用いる。
脂肪族セルロースエステル(A)としては、特に限定されず、セルロースの水酸基に種々の脂肪族アシル基が導入されたセルロースエステルを使用できる。脂肪族アシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基等の炭素数が1〜10程度(好ましくは2〜4)の脂肪族アシル基(特に、飽和脂肪族アシル基)が挙げられる。
脂肪族セルロースエステル(A)として、例えば、酢酸セルロース(セルロースアセテート)、セルロースプロピオネート、セルロースブチレートなどが挙げられる。また、脂肪族セルロースエステル(A)は、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等の混合アシレートであってもよい。
脂肪族セルロースエステル(A)の中でも、酢酸セルロースが好ましく、特に、アセトンなどへの溶剤溶解性や、樹脂としての成形性等の観点から、セルロースジアセテートが好ましい。一般に、アセチル基総置換度が2以上2.6未満のものをセルロースジアセテートと称している。以下、酢酸セルロースについて主に説明する。
酢酸セルロースの中でも、特に、炭素材料を配合して樹脂組成物としたときの導電性の点から、アセチル基総置換度(平均置換度)が2.27〜2.56であるセルロースジアセテート(酢化度52.9〜57.0のセルロースジアセテート)が好ましい。アセチル基総置換度が2.27未満であったり、2.56より大きい場合には、前記樹脂組成物の導電性が低下する傾向となる。
また、酢酸セルロース(セルロースジアセテート等)の6位置換度は、特に限定されないが、好ましくは0.65〜0.85である。6位置換度が0.65より低い場合には、反応が不均一になりやすく、濾過性が悪く、破断伸度が低くなりやすい。6位置換度が0.85より高い場合には、6位水酸基による水素結合が少なくなるため、破断伸度が低くなりやすい。また、酢酸セルロースの6位置換度が0.65より低かったり、0.85より高い場合には、炭素材料を配合して樹脂組成物としたときの導電性が低下する傾向となり、また、該樹脂組成物が脆くなりやすい。酢酸セルロースの6位置換度は、より好ましくは0.68〜0.85、特に好ましくは0.70〜0.85である。
酢酸セルロース(セルロースジアセテート等)のグルコース環の2,3,6位の各アセチル基置換度は、手塚(Tezuka,Carbonydr.Res.273,83(1995))の方法に従いNMR法で測定できる。すなわち、酢酸セルロース試料の遊離水酸基をピリジン中で無水プロピオン酸によりプロピオニル化する。得られた試料を重クロロホルムに溶解し、13C−NMRスペクトルを測定する。アセチル基の炭素シグナルは169ppmから171ppmの領域に高磁場から2位、3位、6位の順序で、そして、プロピオニル基のカルボニル炭素のシグナルは、172ppmから174ppmの領域に同じ順序で現れる。それぞれ対応する位置でのアセチル基とプロピオニル基の存在比から、元の酢酸セルロースにおけるグルコース環の2,3,6位の各アセチル置換度を求めることができる。アセチル置換度は、13C−NMRのほか、H−NMRで分析することもできる。
なお、酢酸セルロースの平均置換度を求める最も一般的な方法は、ASTM−D−817−91(セルロースアセテートなどの試験方法)における酢化度の測定方法である。ASTMに従い求めた酢化度(結合酢酸量)を、次式(1)でアセチル基総置換度に換算してもよい。
DS=162.14×AV×0.01/(60.052−42.037×AV×0.01) (1)
上記式において、DSはアセチル基総置換度であり、AVは酢化度(%)である。なお、上記の酢化度から換算して得られるアセチル基総置換度と前記のNMR測定値との間には若干の誤差が生じることが普通である。本明細書においては、酢酸セルロースのアセチル基総置換度及び6位置換度の値は前記NMR測定値を採用する。
酢酸セルロースの分散度(重量平均分子量Mwを数平均分子量Mnで除した分子量分布Mw/Mn)は、特に限定されないが、好ましくは3.0超7.5以下である。分散度Mw/Mnが3.0以下の場合には、分子の大きさが物理的に揃いすぎ、このため、破断伸度が低くなりやすい。分散度Mw/Mnが7.5より大きい場合には未反応物が多く存在し、このため、破断伸度が低くなりやすい。また、酢酸セルロースの分散度Mw/Mnが3.0以下であったり、7.5より大きい場合には、炭素材料を配合して樹脂組成物としたときの導電性が低下する傾向となり、また、該樹脂組成物が脆くなりやすい。酢酸セルロースは、異なる平均分子量と分散度を有する酢酸セルロースを複数混合することにより、重量平均分子量Mw、分散度Mw/Mnを所望の好ましい範囲に調整することもできる。
酢酸セルロース等の脂肪族セルロースエステル(A)の重量平均分子量Mwは、特に限定されないが、通常、100,000〜300,000であり、好ましくは130,000〜250,000、さらに好ましくは150,000〜235,000である。重量平均分子量Mwが低すぎると粘度が低くなりやすく、破断伸度が低くなる傾向がある。また、重量平均分子量Mwが高くなりすぎると、濾過性が悪くなりやすい。
酢酸セルロース等の脂肪族セルロースエステル(A)の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)および分散度(Mw/Mn)は、高速液体クロマトグラフィーを用いて公知の方法で求めることができる。
酢酸セルロースの酢化度分布半価幅は、特に限定されないが、好ましくは1.0〜2.3(酢化度%)である。酢化度分布半価幅が1.0より小さい場合、また、酢化度分布半価幅が2.3より大きい場合には、破断伸度が低くなりやすい。酢酸セルロースの酢化度分布半価幅が1.0より小さかったり、2.3より大きい場合には、炭素材料を配合して樹脂組成物としたときの導電性が低下する傾向となり、また、該樹脂組成物が脆くなりやすい。酢酸セルロースの酢化度分布半価幅は、より好ましくは1.5〜2.3であり、特に好ましくは1.9〜2.3である。
酢酸セルロースとしては、アセチル基総置換度の均一な酢酸セルロース(特に、セルロースジアセテート)であるのが好ましい。アセチル基総置換度の均一性を評価するのに、酢酸セルロースの分子間置換度分布曲線或いは酢化度分布曲線の最大ピークの半価幅の大きさを指標とすることができる。なお、「半価幅」は、酢化度(置換度)を横軸(x軸)に、この酢化度(置換度)における存在量を縦軸(y軸)としたとき、チャートのピークの高さの半分の高さにおけるチャートの幅であり、分布のバラツキの目安を表す指標である。
置換度分布半価幅は、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)分析により求めることができる。すなわち、異なる置換度を有する複数の酢酸セルロースを標準試料として用いて所定の測定装置および測定条件でHPLC分析を行い、これらの標準試料の分析値を用いて作成した較正曲線[セルロースエステルの存在量と、置換度(酢化度)との関係を示す曲線、通常、二次曲線(特に放物線)]から、酢酸セルロースの組成分布半価幅を求めることができる。
より具体的には、置換度分布半価幅は、所定の処理条件で測定したHPLC(逆相HPLC)における酢酸セルロースの溶出曲線の横軸(溶出時間)を置換度(0〜3)に換算することにより得ることができる。
溶出時間を置換度に換算する方法としては、例えば、特開2003−201301号公報(段落番号[0037]〜[0040])に記載の方法などを利用できる。例えば、溶出曲線を置換度(分子間置換度)分布曲線に変換する際には、複数(例えば、4種以上)の置換度の異なる試料を用いて、同じ測定条件で溶出時間を測定し、溶出時間(T)から置換度(DS)を求める換算式(変換式)を得てもよい。すなわち、溶出時間(T)と置換度(DS)との関係から、最小二乗法によりキャリブレーションカーブの関数(通常は、下記の2次式(2))を求める。
DS=aT+bT+c (2)
(式中、DSはエステル置換度であり、Tは溶出時間であり、a、bおよびcは変換式の
係数である)
そして、上記のような換算式により求めた置換度分布曲線(酢酸セルロースの存在量を縦軸とし、置換度を横軸とする酢酸セルロースの置換度分布曲線)において、認められた平均置換度に対応する最大ピーク(E)に関し、以下のようにして置換度分布半価幅を求める。すなわち、ピーク(E)の低置換度側の基部(A)と、高置換度側の基部(B)に接するベースライン(A−B)を引き、このベースラインに対して、最大ピーク(E)から横軸に垂線をおろす。垂線とベースライン(A−B)との交点(C)を決定し、最大ピーク(E)と交点(C)との中間点(D)を求める。中間点(D)を通って、ベースライン(A−B)と平行な直線を引き、分子間置換度分布曲線との二つの交点(A’、B’)を求める。二つの交点(A’、B’)から横軸まで垂線をおろして、横軸上の二つの交点間の幅を、最大ピークの半価幅とする。
このような置換度分布半価幅は、試料中の酢酸セルロースの分子鎖について、その構成する高分子鎖一本一本のグルコース環の水酸基がどの程度エステル化されているかにより、保持時間(リテンションタイムとも称される)が異なることを反映している。したがって、理想的には、保持時間の幅が、(置換度単位の)組成分布の幅を示すことになる。しかしながら、高速液体クロマトグラフには分配に寄与しない管部(カラムを保護するためのガイドカラムなど)が存在する。それゆえ、測定装置の構成により、組成分布の幅に起因しない保持時間の幅が誤差として内包されることが多い。この誤差は、上記の通り、カラムの長さ、内径、カラムから検出器までの長さや取り回しなどに影響され、装置構成により異なる。
このため、前記酢酸セルロースの置換度分布半価幅は、通常、下記式(3)で表される補正式に基づいて、補正値Zとして求めることができる。このような補正式を用いると、測定装置(および測定条件)が異なっても、同じ(ほぼ同じ)値として、より正確な置換度分布半価幅を求めることができる。
Z=(X−Y1/2 (3)
(式中、Xは所定の測定装置および測定条件で求めた置換度分布半価幅(未補正値)、Yは前記Xと同じ測定装置および測定条件で求めた総置換度3の酢酸セルロースの置換度分布半価幅を示す。)
上記式において、「総置換度3の酢酸セルロース」とは、セルロースのヒドロキシル基の全てがエステル化(アセチル化)されたセルロースエステル(例えば、セルローストリアセテートでは酢化度62.5%のセルローストリアセテート)を示し、セルロースのアシル化後であって、熟成前において得られる脱アシル化されていない完全置換物に相当し、実際には(又は理想的には)置換度分布半価幅を有しない(すなわち、置換度分布半価幅0の)セルロースエステルである。
上記の通り、酢酸セルロースの分子間置換度分布曲線は、逆相HPLCにおける酢酸セルロースの溶出曲線を得て、溶出曲線の横軸(溶出時間)をアセチル総置換度(0〜3)に換算することにより得ることができる。同様に、酢化度分布曲線も逆相HPLCにおける酢酸セルロースの溶出曲線から得ることができ、これから、酢化度分布半価幅を、置換度分布半価幅と同様に得ることができる。
酢酸セルロースの粘度平均重合度は、特に限定されないが、通常、100〜250であり、好ましくは120〜230である。粘度平均重合度が小さすぎると、破断伸度が低くなりやすい。粘度平均重合度が大きすぎると、濾過性が悪くなりやすい。
粘度平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)により測定できる。なお、溶媒は酢酸セルロース(セルロースジアセテート等)の置換度などに応じて選択できる。例えば、メチレンクロライド/メタノール=9/1(重量比)の混合溶液に酢酸セルロースを溶解し、所定の濃度c(2.00g/L)の溶液を調製し、この溶液をオストワルド粘度計に注入し、25℃で粘度計の刻線間を溶液が通過する時間t(秒)を測定する。一方、前記混合溶媒単独についても上記と同様にして通過時間to(秒)を測定し、下記式(4)〜(6)に従って、粘度平均重合度を算出できる。
ηrel=t/to (4)
[η]=(lnηrel)/c (5)
DP=[η]/(6×10−4) (6)
(式中、tは溶液の通過時間(秒)、toは溶媒の通過時間(秒)、cは溶液の酢酸セルロース濃度(g/L)、ηrelは相対粘度、[η]は極限粘度、DPは平均重合度を示す)
酢酸セルロースの6%粘度は、特に限定されないが、通常、20〜400mPa・sであり、好ましくは40〜250mPa・sである。6%粘度が高すぎると濾過性が悪くなる場合があり、また分子量分布を高く維持することが難しくなりやすい。
酢酸セルロースの6%粘度は、下記の方法で測定できる。
三角フラスコに乾燥試料3.00g、95%アセトン水溶液を39.90g入れ、密栓して約1.5時間攪拌する。その後、回転振盪機で約1時間振盪して完溶させる。得られた6wt/vol%の溶液を所定のオストワルド粘度計の標線まで移し、25±1℃で約15分間整温する。計時標線間の流下時間を測定し、次式(7)により6%粘度を算出する。
6%粘度(mPa・s)=流下時間(s)×粘度計係数 (7)
粘度計係数は、粘度計校正用標準液[昭和石油社製、商品名「JS−200」(JIS Z 8809に準拠)]を用いて上記と同様の操作で流下時間を測定し、次式(8)より求める。
粘度計係数
={標準液絶対粘度(mPa・s)×溶液の密度(0.827g/cm)}
/{標準液の密度(g/cm)×標準液の流下秒数(s)} (8)
[脂肪族セルロースエステル(A)の製造]
脂肪族セルロースエステル(A)は公知の方法により製造できる。また、市販品を用いることもできる。以下、脂肪族セルロースエステルの代表的な例として酢酸セルロース(特にセルロースジアセテート)の製造法について説明する。
セルロースジアセテート等の酢酸セルロースは、例えば、(A)活性化工程(前処理工程)、(B)アセチル化工程、(C)アセチル化反応の停止工程、(D)熟成工程(加水分解工程)、(E)熟成反応の停止工程、及び(F)分別工程により製造できる。
[原料セルロース]
原料セルロースとしては、木材パルプ(針葉樹パルプ、広葉樹パルプ)、リンターパルプ(コットンリンターパルプなど)などの種々のセルロース源を用いることができる。これらのパルプは、通常、ヘミセルロースなどの異成分を含有している。従って、本明細書において、用語「セルロース」は、ヘミセルロースなどの異成分も含有する意味で用いる。木材パルプとしては、広葉樹パルプ及び針葉樹パルプから選択された少なくとも一種が使用でき、広葉樹パルプと針葉樹パルプとを併用してもよい。また、リンターパルプ(精製綿リンターなど)と木材パルプとを併用してもよい。本発明では重合度の高いセルロース、例えば、リンターパルプ、特にコットンリンターパルプが使用でき、セルロースとしては、少なくとも一部はリンターパルプで構成されたセルロースを使用するのが好ましい。セルロースの結晶化度の指標となるα−セルロース含有量(重量基準)は、98%以上(例えば、98.5〜100%、好ましくは99〜100%、さらに好ましくは99.5〜100%程度)である。セルロースは、通常、セルロース分子及び/又はヘミセルロース分子に結合した状態などで多少のカルボキシル基を含有しているものであってもよい。
[(A)活性化工程]
活性化工程(又は前処理工程)では、セルロースをアセチル化溶媒(アセチル化工程の溶媒)で処理し、セルロースを活性化させる。アセチル化溶媒としては、通常酢酸が用いられるが、酢酸以外の溶媒(塩化メチレンなど)を用いたり、酢酸と酢酸以外の溶媒(塩化メチレンなど)の混合溶媒を用いることもできる。通常、原料セルロースはシート状の形態で供給される場合が多いため、セルロースを乾式で解砕処理し、活性化処理(又は前処理)する。
活性化工程の時間(処理時間)は、例えば、少なくとも10hr(600分)以上、好ましくは20hr以上、より好ましくは50hr以上、より良く好ましくは60hr程度である。活性化工程の時間が60hrを大きく越える場合(例えば100hr)には分子量(重合度)が所望するものが得られ難くなり、生産効率が低下しやすい。また、活性化工程を10hr未満とした場合には、次工程のエステル化工程(アセチル化工程)を最適化しても、分子量分布が大きくならず破断伸度が低下しやすい。前処理(活性化工程)の時間を長くする(少なくとも10hrとする)ことにより、酢化反応前のセルロースの重合度(分子量)を低下させる効果が得られる。重合度の低いセルロースを使うことで、酢酸セルロースを目的の重合度(粘度)とするための酢化時間を短縮できる。分散度は、酢化反応における均一解重合の進行に伴い、狭くなるので、前処理時間を長くしたセルロースを原料として、短い酢化反応時間で、目的の重合度(粘度)の酢酸セルロースを調製することで、通常の方法よりも分散度の広い酢酸セルロースを得ることが出来る。
活性化工程におけるアセチル化溶媒の使用量は、原料セルロース100重量部当たり、例えば10〜100重量部、好ましくは15〜60重量部程度である。活性化工程における温度は、例えば10〜40℃、好ましくは15〜35℃の範囲である。
[(B)アセチル化工程]
前記活性化処理により活性化されたセルロースを用いて、アセチル化溶媒中、アセチル化触媒の存在下、アセチル化剤でアセチル化されたセルロースアセテート(特に、セルローストリアセテート)を生成することができる。なお、アセチル化工程に付す活性化されたセルロースは、前処理条件の異なるパルプをブレンドした混合物であってもよい。混合物を用いることにより、最終的に得られるセルロースジアセテートの分散度を広くすることができる。
アセチル化触媒としては、強酸、特に硫酸が使用できる。アセチル化工程でのアセチル化触媒(特に、硫酸)の使用量は、前記活性化工程でのアセチル化触媒の使用量を含めて合算で、原料セルロース100重量部に対して1〜20重量部程度であればよく、特にアセチル化触媒が硫酸の場合には7〜15重量部(例えば7〜14重量部、好ましくは8〜14重量部、より好ましくは9〜14重量部)程度である。
アセチル化剤としては、酢酸クロライド等の酢酸ハライドであってもよいが、通常、無水酢酸が使用される。アセチル化工程でのアセチル化剤の使用量は、例えば、セルロースの水酸基に対して1.1〜4当量、好ましくは1.1〜2当量、さらに好ましくは1.3〜1.8当量程度である。また、アセチル化剤の使用量は、原料セルロース100重量部当たり、例えば200〜400重量部、好ましくは230〜350重量部である。
アセチル化溶媒としては、前記のように、酢酸、塩化メチレンなどが使用される。2種以上の溶媒(例えば、酢酸と塩化メチレン)を混合して用いてもよい。アセチル化溶媒の使用量は、例えば、セルロース100重量部に対して50〜700重量部、好ましくは100〜600重量部、さらに好ましくは200〜500重量部程度である。特に、セルローストリアセテートを得る場合には、アセチル化工程でのアセチル化溶媒としての酢酸の使用量は、セルロース100重量部に対して30〜500重量部、好ましくは80〜450重量部、さらに好ましくは150〜400重量部(例えば、250〜380重量部)程度である。
アセチル化反応は、慣用の条件、例えば0〜55℃、好ましくは20〜50℃、さらに好ましくは30〜50℃程度の温度で行うことができる。アセチル化反応は、初期において、比較的低温[例えば、10℃以下(例えば、0〜10℃)]で行ってもよい。このような低温での反応時間は、例えば、アセチル化反応開始から30分以上(例えば、40分〜5時間、好ましくは60〜300分程度)であってもよい。また、アセチル化時間(総アセチル化時間)は、反応温度等によっても異なるが、例えば20分〜36時間、好ましくは30分〜20時間の範囲である。特に、少なくとも30〜50℃の温度で30分〜95分程度反応させるのが好ましい。アセチル化時間は重要であり、アセチル化時間が95分以下の条件で行った場合に、得られるセルロースアセテートの6%粘度すなわち重合度が低下することがなく、特に好ましい。また、アセチル化反応の完了(又は終点)は加水分解反応又はアルコール分解反応の開始(又は開始点)でもある。
[(C)アセチル化反応の停止工程]
アセチル化反応の終了後、反応系に残存するアセチル化剤を失活(クエンチ)させるため、反応系に反応停止剤を添加する。この操作により、少なくとも前記アセチル化剤(特に酸無水物)が失活させられる。前記反応停止剤は、アセチル化剤を失活可能であればよく、通常、少なくとも水を含んでいる場合が多い。
反応停止剤は、例えば、水と、アセチル化溶媒(酢酸など)、アルコール及び中和剤から選択された少なくとも一種とで構成してもよい。より具体的には、反応停止剤としては、例えば、水単独、水と酢酸との混合物、水とアルコールとの混合物、水と中和剤との混合物、水と酢酸と中和剤との混合物、水と酢酸とアルコールと中和剤との混合物などが例示できる。
中和剤としては、塩基性物質、例えば、アルカリ金属化合物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩;酢酸ナトリウム、酢酸カリウム等のアルカリ金属カルボン酸塩;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等のナトリウムアルコキシドなど)、アルカリ土類金属化合物(例えば、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩;酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム等のアルカリ土類金属カルボン酸塩;マグネシウムエトキシド等のアルカリ土類金属アルコキシドなど)などを使用できる。これらの中和剤の中でも、アルカリ土類金属化合物、特に、酢酸マグネシウム等のマグネシウム化合物が好ましい。中和剤は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。なお、中和剤によりアセチル化触媒(硫酸等)の一部が中和される。
アセチル化反応の停止時間は少なくとも10分未満であることが好ましく、5分未満がより好ましい。アセチル化反応停止の時間が長い場合には6位置換度が高くなりやすく、この場合、グルコース環に結合した水酸基による分子間水素結合が少なくなるので破断伸度が低下しやすくなる。
[(D)熟成工程(加水分解工程)]
前記アセチル化反応を停止した後、生成したセルロースアセテート[セルローストリアセテート;アセチル総置換度が2.6以上(2.6〜3.0)のセルロースアセテート]を酢酸中で熟成[加水分解(脱アセチル化)]することにより、アセチル総置換度及び置換度分布を調整したセルロースジアセテートを得ることができる。この反応において、アセチル化に利用したアセチル化触媒(特に硫酸)の一部を中和し、残存するアセチル化触媒(特に硫酸)を熟成触媒として利用してもよく、中和することなく残存した全てのアセチル化触媒(特に硫酸)を熟成触媒として利用してもよい。好ましい態様では、残存アセチル化触媒(特に硫酸)を熟成触媒として利用してセルロースアセテート(セルローストリアシレート)を熟成[加水分解(脱アセチル化)]する。なお、熟成において、必要に応じて新たに溶媒等(酢酸、塩化メチレン、水、アルコールなど)を添加してもよい。中和剤としては、アセチル化反応の停止工程で例示のものが好ましく使用できる。
セルロースジアセテートの製造の熟成工程においては、セルローストリアセテートを、酢酸中、前記セルローストリアセテート100重量部に対して0.56〜8.44重量部のアセチル化触媒(熟成触媒;特に硫酸)と、前記酢酸に対して50モル%以上65モル%未満の水の存在下、40〜90℃の温度範囲で加水分解することが好ましい。
熟成工程における水の量(熟成水分量)は、酢酸に対して、例えば50モル%以上65モル%未満とすることができる。酢酸に対して50モル%以上65モル%未満の水を存在させることにより、6位アセチル置換度の高くないセルロースジアセテートを生成させることができ好ましい。水分の存在量が65モル%以上である場合には、得られるセルロースジアセテートの濾過度が低下しやすい。アセチル化触媒としては、硫酸が好ましい。なお、上記のアセチル化触媒の量、及び水の量は、バッチ反応の場合は熟成反応開始時の量を基準としたものであり、連続反応の場合は仕込み量を基準としたものである。
熟成工程における酢酸の量は、セルローストリアセテート100重量部に対して56〜1125重量部が好ましく、より好ましくは112〜844重量部、さらに好ましくは169〜563重量部程度である。また、熟成工程における酢酸の量は、アセチル化反応において原料として用いたセルロース100重量部に対しては、100〜2000重量部が好ましく、より好ましくは200〜1500重量部、さらに好ましくは300〜1000重量部程度である。
熟成工程における、アセチル化触媒(熟成触媒;特に硫酸)の量は、セルローストリアセテート100重量部に対して例えば0.56〜8.44重量部であり、より好ましくは0.56〜5.63重量部、さらに好ましくは0.56〜2.81重量部、特に好ましくは1.69〜2.81重量部である。また、アセチル化反応において原料として用いたセルロース100重量部に対しては、1〜15重量部が好ましく、より好ましくは1〜10重量部、さらに好ましくは1〜5重量部、特に好ましくは3〜5重量部である。アセチル化触媒(熟成触媒)の量が少ない場合は、加水分解の時間が長くなりすぎ、セルロースアセテートの分子量の低下を引き起こすことがある。一方、アセチル化触媒(熟成触媒)の量が多すぎると、熟成温度に対する解重合速度の変化の度合いが大きくなり、熟成温度がある程度低くても解重合速度が大きくなり、分子量が大きいセルロースジアセテートが得られにくくなる。
セルロースジアセテートの製造工程では、アセチル化終了後のセルローストリアセテートを単離することなく、アセチル化終了後の反応溶液に上記反応停止剤を添加し、更に中和剤を添加してアセチル化触媒の一部を中和し、残存するアセチル化触媒を熟成工程における加水分解触媒として利用し、所定の量の水を加えて熟成工程を行ってもよい。この場合、上記のセルローストリアセテート100重量部に対するアセチル化触媒、酢酸及び水の量としては、アセチル化工程が終了した段階で、原料セルロースが全て完全三置換のセルローストリアセテートに変換されているものとして、表記した数値である。上記のセルローストリアセテート100重量部当りのアセチル化触媒、酢酸、及び水の量はアセチル化工程開始時の原料セルロースを基準に計算されることが好ましく、原料セルロース100重量部当りでは、上記のセルローストリアセテート100重量部当りのアセチル化触媒、酢酸、及び水の量に対して1.777を乗じた数値(重量部)となる。
なお、熟成で用いられるアセチル化触媒の量は、反応系に添加されたアセチル化触媒の化学当量を反応系に添加された中和剤の化学当量から減じた上で、アセチル化触媒の1グラム当量を乗じた値に上記と同様に1.777を乗じた数値が原料セルロースを基準としたアセチル化触媒の量(重量基準)となる。
同様に、水の量はアセチル化工程終了時に反応系に添加された水、熟成開始時に添加された水などの熟成工程時までに反応系に添加された水の量に1.777を乗じた数値が原料セルロースを基準にした水の量(重量基準)となる。
酢酸の場合であれば、前処理(活性化工程)、アセチル化工程、熟成工程で反応系に添加された酢酸の量に更に、無水酢酸が加水分解して生じた酢酸の量を加えて、1.777を乗じた数値が原料セルロースを基準にした酢酸の量(重量基準)となる。
熟成温度(加水分解温度)は例えば40〜90℃であり、好ましくは50〜90℃、より好ましくは60〜90℃(例えば65〜90℃)である。熟成温度が高すぎると、アセチル化触媒の量にもよるが、解重合速度が高くなりやすく、セルロースアセテートの分子量が低下し易い。一方、熟成温度が低すぎる場合には、加水分解反応の反応速度が低下しやすく生産性を阻害しやすい。
[(E)熟成反応の停止工程]
所定のセルロースジアセテートを生成させた後、熟成反応を停止させる。すなわち、前記熟成(加水分解反応、脱アセチル化)の後、必要により前記中和剤(好ましくは前記アルカリ土類金属化合物、特に、水酸化カルシウム等のカルシウム化合物)を添加してもよい。反応生成物(セルロースジアセテートを含むドープ)を析出溶媒(水、酢酸水溶液など)に投入して生成したセルロースジアセテートを分離し、水洗などにより遊離の金属成分や硫酸成分などを除去してもよい。なお、水洗の際に前記中和剤を使用することもできる。このような方法により、セルロースジアセテートの重合度の低下を抑制しつつ、不溶物又は低溶解性成分(未反応セルロース、低アセチル化セルロースなど)の生成を低減できる。
[(F)分別工程]
上記の工程で得られたセルロースジアセテートは、分別して精製してもよい。分別により酢化度分布半価幅をより狭いものとすることができる。分別の方法については、特開平09−77801号公報に記載されている方法が利用できる。原理としては高酢化度のセルロースアセテートの良溶媒(例えば塩化メチレン)に溶解して、遠心分離でゲル状の沈降物を得る、これを低酢化度のセルロースアセテートの良溶媒(例えばメチルアルコール)にて洗浄して、セルロースジアセテート成分のみを精製する。遠心分離と共に、又は遠心分離に代えて、珪藻土等を用いて精密濾過をして精製してもよい。
具体的には、セルロースアセテートを、高酢化度成分、低酢化度成分に各々に選択性がある溶媒系で沈澱分別あるいは溶解分別を行う。高酢化度成分に対する選択溶解性が高い溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム等の塩化メチレンなどが例示される。低酢化度成分に対する選択溶解性が高い溶媒としては、メタノール、アセトン/メタノール(2/8、重量比)などが例示される。前述したように不溶物の形成には高酢化度成分、低酢化度成分の両方が関係するため、十分に溶解する酢酸セルロースを調製するには両成分を除去することが重要である。
以上、酢酸セルロースの製造法について詳細に説明したが、酢酸セルロース以外の脂肪族セルロースエステルについては、文献公知の方法および上記方法を適宜参照して製造することができる。
[炭素材料(B)]
本発明では、導電性セルロース系樹脂フィルム層(I)に導電性を付与するため、前記導電性材料中に添加する導電性フィラーとして、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、単層グラフェン、多層グラフェン、フラーレン及びカーボンブラックからなる群より選択された少なくとも1種の炭素材料(B)を用いる。単層及び多層カーボンナノチューブ、単層及び多層グラフェン、フラーレン、カーボンブラックは、炭素原子からなる点で共通し、セルロース系樹脂に配合することで該樹脂組成物に高い導電性を付与できる。カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレンは炭素同素体である。
カーボンナノチューブには、チューブを形成するグラファイト膜(グラフェンシート)が一層である単層カーボンナノチューブと、多層である多層カーボンナノチューブがある。多層カーボンナノチューブの層数は、例えば2〜50、好ましくは3〜30である。カーボンナノチューブとしては、原料、製造法に制限されるものではない。
カーボンナノチューブの直径(外径)は、平均径として、通常、0.5〜180nmであり、好ましくは0.7〜100nm、さらに好ましくは1〜50nmである。カーボンナノチューブの長さは、平均長さとして、通常、0.2μm〜2000μm、好ましくは0.3μm〜1000μm、さらに好ましくは0.5μm〜100μm、特に好ましくは1μm〜50μmである。カーボンナノチューブのアスペクト比は、5以上が好ましく、50以上がより好ましい。
グラフェンは、1原子の厚さのsp結合炭素原子のシートであり、単層グラフェンと多層グラフェンがある。多層グラフェンの層数は、例えば2〜200程度、好ましくは3〜50である。グラフェンの面方向の最大寸法は、例えば、1〜100μm程度である。
フラーレンは数十個又はそれ以上の数の炭素原子で構成されるクラスターである。代表的なフラーレンはC60フラーレンである。
カーボンブラックは直径3〜500nm程度の炭素の微粒子である。カーボンブラックとしては、原料、製造法に制限されるものではない。
本発明において、炭素材料(B)の前記導電性材料中の含有量は、広い範囲で選択でき、例えば0.5〜80重量%、好ましくは1〜70重量%、さらに好ましくは3〜60重量%である。本発明では、炭素材料(B)の含有量が少量でも高い導電性を示す。また、炭素材料(B)が多く含まれていても成形性に優れる。
[導電性セルロース系樹脂フィルム層(I)]
本発明において、導電性セルロース系樹脂フィルム層(I)の形成には、任意の方法が採用される。例えば、脂肪族セルロースエステル(A)と、炭素材料(B)と、溶媒と、必要に応じて分散剤及びその他の添加剤とを、汎用の混合機に供給して均一に混合して導電性材料(導電性樹脂組成物)を調製した後、該導電性材料を、例えば基材等[非導電性フィルム層(II)であってもよい]の表面に塗布し、乾燥する方法などが挙げられる。
前記溶媒としては、脂肪族セルロースエステル(A)を溶解する溶媒であればよく、脂肪族セルロースエステルの種類に応じて、水、有機溶剤、これらの混合物を使用できる。有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、イソブチルケトン、メチルt−ブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の鎖状又は環状エーテル;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン(NMP)等の非プロトン性極性溶媒;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン系溶剤;これらの混合物などが挙げられる。
これらの溶媒の中でも、例えば脂肪族セルロースエステル(A)としてセルロースジアセテート等を用いる場合には、アセトンなどのケトンを少なくとも含む溶媒が好ましい。
溶媒の使用量は、脂肪族セルロースエステル(A)の種類や量、炭素材料(B)の種類や量等に応じて適宜選択できるが、脂肪族セルロースエステル(A)100重量部に対して、通常、10〜3000重量部、好ましくは20〜2000重量部であり、炭素材料(B)100重量部に対して、通常、200〜3000重量部、好ましくは300〜2000重量部である。
前記分散剤としては、炭素材料(B)の分散性を高めるものであれば特に限定されず、例えば、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等の界面活性剤が挙げられる。
分散剤のより具体的な例として、例えば、ソルスパース3000、ソルスパース9000、ソルスパース13000、ソルスパース16000、ソルスパース17000、ソルスパース18000、ソルスパース20000、ソルスパース21000、ソルスパース24000、ソルスパース26000、ソルスパース27000、ソルスパース28000、ソルスパース32000、ソルスパース32500、ソルスパース32550、ソルスパース33500、ソルスパース35100、ソルスパース35200、ソルスパース36000、ソルスパース36600、ソルスパース38500、ソルスパース41000、ソルスパース41090、ソルスパース20000(以上、ルーブリゾール社製);ディスパロン1850、ディスパロン1860、ディスパロン2150、ディスパロン7004、ディスパロンDA−100、ディスパロンDA−234、ディスパロンDA−325、ディスパロンDA−375、ディスパロンDA−705、ディスパロンDA−725、ディスパロンPW−36(以上、楠本化成社製);ディスパービック101、ディスパービック102、ディスパービック103、ディスパービックP104、ディスパービックP104S、ディスパービック220S、ディスパービック106、ディスパービック108、ディスパービック109、ディスパービック110、ディスパービック111、ディスパービック112、ディスパービック116、ディスパービック140、ディスパービック142、ディスパービック160、ディスパービック161、ディスパービック162、ディスパービック163、ディスパービック164、ディスパービック166、ディスパービック167、ディスパービック168、ディスパービック170、ディスパービック171、ディスパービック174、ディスパービック180、ディスパービック182、ディスパービック183、ディスパービック184、ディスパービック185、ディスパービック2000、ディスパービック2001、ディスパービック2050、ディスパービック2070、ディスパービック2095、ディスパービック2150、ディスパービックLPN6919、ディスパービック9075、ディスパービック9077(以上、ビックケミー社製);EFKA 4008、EFKA 4009、EFKA 4010、EFKA 4015、EFKA 4020、EFKA 4046、EFKA 4047、EFKA 4050、EFKA 4055、EFKA 4060、EFKA 4080、EFKA 4400、EFKA 4401、EFKA 4402、EFKA 4403、EFKA 4406、EFKA 4408、EFKA 4300、EFKA 4330、EFKA 4340、EFKA 4015、EFKA 4800、EFKA 5010、EFKA 5065、EFKA 5066、EFKA 5070、EFKA 7500、EFKA 7554(以上、チバスペシャリティー社製)等が挙げられる。これらの分散剤は単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。分散剤としては、上記以外の分散剤を用いてもよい。
分散剤の使用量は、炭素材料(B)の種類や量等に応じて適宜選択できるが、炭素材料(B)100重量部に対して、通常、5〜500重量部、好ましくは20〜200重量部、さらに好ましくは30〜150重量部である。
前記分散剤以外の添加剤としては、導電性セルロース系樹脂フィルム層(I)の導電性を損なわないものであればよく、例えば、脂肪族セルロースエステル(A)以外の樹脂、充填材[炭素材料(B)を除く]、光安定剤、着色剤、流動改質剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、滑剤、可塑剤、離型剤、難燃剤などが挙げられる。これらの添加剤(分散剤以外の添加剤)の使用量は、前記導電性材料中の含有量として、それぞれ、30重量%以下が好ましく、より好ましくは15重量%以下、さらに好ましくは5重量%以下である。これらの添加剤(分散剤以外の添加剤)の総添加量は、前記導電性材料中の含有量として、30重量%以下が好ましく、より好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下である。
なお、前記導電性材料を調製する際、まず、炭素材料(B)を溶媒に分散させて炭素材料(B)の分散液を調製し、次いで、前記分散液に脂肪族セルロースエステル(A)を加えて前記溶媒に溶解させて導電性材料を得る方法が好ましい。また、炭素材料(B)を溶媒に分散させて炭素材料(B)の分散液を調製するとともに、脂肪族セルロースエステル(A)を溶媒に溶解させた脂肪族セルロースエステル溶液を調製し、前記炭素材料(B)の分散液と前記脂肪族セルロースエステル溶液とを混合することにより導電性材料を得る方法も好ましい。これらの方法によれば、脂肪族セルロースエステル(A)からなるマトリックス樹脂中に、炭素材料(B)が複数個集まった集合体がほぼ均一に分散した状態が形成されるためか、導電性に極めて優れた導電性セルロース系樹脂フィルム層(I)を得ることができる。
混合機としては、例えば、ヘンシェルミキサー、ビーズミル、プラストミル、バンバリーミキサー、押出機などが挙げられる。
前記基材としては、特に制限はなく、種々の材質のものを使用できる。基材の材質として、例えば、ガラス、金属、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等のポリマー、紙、これらの積層体などが挙げられる。
前記導電性材料の塗布手段は特に制限はなく、種々のコーター、印刷機、押出機等を用いることができる。
本発明における導電性セルロース系樹脂フィルム層(I)が、他の汎用樹脂を用いた樹脂フィルム層と比較して高い導電性を発現する理由は必ずしも明らかではないが、脂肪族セルロースエステル(A)と炭素材料(B)とが適度の親和性を有しており、導電性が発現されやすい分散状態が形成されるためと考えられる。
こうして得られる導電性セルロース系樹脂フィルム層(I)の表面抵抗率は、通常、1×10〜1×10Ω/□であり、より好ましくは1×10〜1×10Ω/□であり、さらに好ましくは1×10〜1×10Ω/□である。
また、導電性セルロース系樹脂フィルム層(I)の厚み(膜厚)は、通常、10μm以下(例えば0.5〜10μm)であるが、好ましくは0.5〜5μm、さらに好ましくは0.5〜3μmである。
[非導電性フィルム層(II)]
本発明において、非導電性フィルム層(II)としては、特に制限はなく、公知のフィルム層(非導電性フィルム層或いは絶縁性フィルム層)を用いることができる。非導電性フィルム層(II)の表面抵抗率は、通常、1×10Ω/□より大きく、好ましくは0.5×10Ω/□以上、さらに好ましくは1×10Ω/□以上である。
非導電性フィルム層(II)の材質としては、特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等のいずれであってもよい。前記材質として、例えば、セルロース系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、エチレンビニルアルコール等が例示される。
これらの中でも、非導電性フィルム層(II)を構成する樹脂として、導電性セルロース系樹脂フィルム層(I)との密着性の観点から、セルロース系樹脂が好ましい。セルロース系樹脂としては、例えば、セルロースモノアセテート、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート等のセルロースエステル;セルロースカーバメート;セルロースエーテルなどが挙げられる。なかでも、非導電性フィルム層(II)を構成する樹脂として、特に、脂肪族セルロースエステル(C)を含むセルロール系樹脂が好ましい。
脂肪族セルロースエステル(C)としては、前記脂肪族セルロースエステル(A)と同様のものが挙げられる。本発明の導電性積層フィルムにおいて、導電性セルロース系樹脂フィルム層(I)中の脂肪族セルロースエステル(A)と、非導電性フィルム層(II)中の脂肪族セルロースエステル(C)は、異なる樹脂であってもよいが、前記2層の密着性、導電性積層フィルムの生産効率及びコストの点から、同一樹脂のものが好ましい。同一の樹脂とは、脂肪族セルロースエステル(A)と脂肪族セルロースエステル(C)とがともに酢酸セルロースである場合などをいう。脂肪族セルロースエステル(A)と脂肪族セルロースエステル(C)は、ともにセルロースジアセテートであるのが特に好ましい。
非導電性フィルム層(II)を構成する樹脂として「脂肪族セルロースエステル(C)を含むセルロール系樹脂」を用いる場合、脂肪族セルロースエステル(C)の量は、非導電性フィルム層(II)を構成する樹脂全体の50重量%以上が好ましく、80重量%以上がより好ましく、90重量%以上が特に好ましい。
本発明において、非導電性フィルム層(II)は任意の方法で形成できる。例えば、非導電性フィルム層(II)を構成する樹脂(セルロース系樹脂等)と溶媒を含む樹脂組成物を、基材等[導電性セルロース系樹脂フィルム層(I)であってもよい]の表面に塗布し、乾燥する方法などが挙げられる。
前記溶媒としては、非導電性フィルム層(II)を構成する樹脂を溶解する溶媒であればよく、その樹脂の種類に応じて、水、有機溶剤、これらの混合物を使用できる。有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、イソブチルケトン、メチルt−ブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等の鎖状又は環状エーテル;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン(NMP)等の非プロトン性極性溶媒;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン系溶剤;これらの混合物などが挙げられる。
これらの溶媒の中でも、非導電性フィルム層(II)を構成する樹脂としてセルロースジアセテート等を用いる場合には、アセトンなどのケトンを少なくとも含む溶媒が好ましい。
溶媒の使用量は、非導電性フィルム層(II)を構成する樹脂の種類や量等に応じて適宜選択できるが、該樹脂100重量部に対して、通常、10〜3000重量部、好ましくは20〜2000重量部である。
混合機としては、例えば、ヘンシェルミキサー、ビーズミル、プラストミル、バンバリーミキサー、押出機などが挙げられる。
基材としては前記のものを使用できる。また、非導電性フィルム層(II)を構成する樹脂を含む樹脂組成物の塗布手段としては、特に制限はなく、種々のコーター、印刷機、押出機等を用いることができる。
[導電性積層フィルムの製造]
本発明の導電性積層フィルムは、積層フィルムの製造に用いられる公知乃至慣用の方法を利用して製造することができる。例えば、基材(基板)の表面に、前記導電性材料を塗布し、乾燥して、導電性セルロース系樹脂フィルム層(I)を形成し、次いで、その上に、非導電性フィルム層(II)を構成する樹脂を含む樹脂組成物を塗布し、乾燥して、非導電性フィルム層(II)を形成し、その後これらのフィルム積層体を基材から剥離することにより本発明の導電性積層フィルムを製造できる。また、基材(基板)の表面に、非導電性フィルム層(II)を構成する樹脂を含む樹脂組成物を塗布し、乾燥して、非導電性フィルム層(II)を形成し、次いで、その上に、前記導電性材料を塗布し、乾燥して、導電性セルロース系樹脂フィルム層(I)を形成し、その後これらのフィルム積層体を基材から剥離することにより本発明の導電性積層フィルムを製造することもできる。
[導電性部材]
本発明の導電性部材は、基材上に前記の導電性積層フィルムを有している。基材上にプライマー層を介して導電性積層フィルムが積層されていてもよい。本発明の導電性部材の製造法としては特に制限はなく、例えば、前記導電性積層フィルムの製造法において、基材上に導電性積層フィルムを形成した状態のものを本発明の導電性部材とすることができる。また、本発明の導電性部材は、例えば前記の方法で得た導電性積層フィルムを、別の基材上に転写等により積層することで製造することもできる。
本発明の導電性積層フィルム及び導電性部材は、特殊な樹脂や鉄やコバルト成分等の第3成分を用いなくても極めて高い導電性を発現するとともに、機械的強度が高い。そのため、一般的な導電材料としての用途のほか、高導電性のものは電磁波遮断材料(電磁波遮断フィルム又はシート等)として使用できる。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
(製造例1)
αセルロース含量98.4wt%の広葉樹前加水分解クラフトパルプをディスクリファイナーで綿状に解砕した。100重量部の解砕パルプ(含水率8%)に26.8重量部の酢酸を噴霧し、良くかき混ぜた後、前処理として60時間静置し活性化した(活性化工程)。活性化したパルプを、323重量部の酢酸、245重量部の無水酢酸、13.1重量部の硫酸からなる混合物に加え、40分を要して5℃から40℃の最高温度に調整し、110分間酢化した。中和剤(24%酢酸マグネシウム水溶液)を、硫酸量(熟成硫酸量)が2.5重量部に調整されるように3分間かけて添加した。さらに、反応浴を75℃に昇温した後、水を添加し、反応浴水分(熟成水分)を44mol%濃度とした。なお、熟成水分濃度は、反応浴水分の酢酸に対する割合をモル比で表わしたものに100を乗じてmol%で示した。その後、85℃で100分間熟成を行ない、酢酸マグネシウムで硫酸を中和することで熟成を停止し、セルロースジアセテートを含む反応混合物を得た。得られた反応混合物に希酢酸水溶液を加え、セルロースジアセテートを分離した後、水洗・乾燥・水酸化カルシウムによる安定化をしてセルロースジアセテートを得た。
製造例1で得られたセルロースジアセテートの酢化度(%)、6%粘度(mPa・s)、粘度平均重合度、6位置換度、組成分布半価幅(酢化度%)(=酢化度分布半価幅(%))、重量平均分子量Mw、分散度Mw/Mn、破断伸度を以下のようにして測定した。結果は、以下のとおりである。
酢化度:55.3%
6%粘度:60mPa・s
粘度平均重合度:154
6位置換度:0.75
酢化度分布半価幅(%):2.2酢化度%
重量平均分子量Mw:173000
分散度(Mw/Mn):5.0
破断伸度:14%
<酢化度>
製造例で得られたセルロースジアセテートの酢化度を、ASTM−D−817−91(セルロースアセテートなどの試験方法)における酢化度の測定方法により求めた。酢化度測定で用いた高速液体クロマトグラフィー分析条件を以下に示す。
高速液体クロマトグラフィー条件:
溶離液:アセトン/水/メタノール(4/3/1、容量比)から15分間を要して、アセトンへグラジェント
カラム:ハミルトン社製 PRP−1(4.1×150mm)
温度:35℃
流速:0.8ml/min
試料溶液:0.2% アセトン溶液
注入量:10μl
検出器:VAREX社 MK111(エバポレイティブ・チューブ温度105℃,窒素流量2.4l/min)
<6%粘度>
製造例で得られたセルロースジアセテートの乾燥試料3.00gと、95%アセトン水溶液39.90gを三角フラスコに入れ、密栓して約1.5時間攪拌した。その後、回転振盪機で約1時間振盪して完溶させた。得られた6wt/vol%の溶液を所定のオストワルド粘度計の標線まで移し、25±1℃で約15分間整温した。計時標線間の流下時間を測定し、前記の式(7)により6%粘度を算出した。
6%粘度(mPa・s)=流下時間(s)×粘度計係数 (7)
粘度計係数は、粘度計校正用標準液[昭和石油社製、商品名「JS−200」(JIS Z 8809に準拠)]を用いて上記と同様の操作で流下時間を測定し、前記の式(8)より求めた。
粘度計係数
={標準液絶対粘度(mPa・s)×溶液の密度(0.827g/cm)}
/{標準液の密度(g/cm)×標準液の流下秒数(s)} (8)
<粘度平均重合度>
製造例で得られたセルロースジアセテートを、メチレンクロライド/メタノール=9/1(重量比)の混合溶液に溶解し、所定の濃度c(2.00g/L)の溶液を調製し、この溶液をオストワルド粘度計に注入し、25℃で粘度計の刻線間を溶液が通過する時間t(秒)を測定した。一方、前記混合溶媒単独についても上記と同様にして通過時間to(秒)を測定し、前記の式(4)〜(6)に従って、粘度平均重合度を算出した。
ηrel=t/to (4)
[η]=(lnηrel)/c (5)
DP=[η]/(6×10−4) (6)
(式中、tは溶液の通過時間(秒)、toは溶媒の通過時間(秒)、cは溶液のセルロースジアセテート濃度(g/L)、ηrelは相対粘度、[η]は極限粘度、DPは平均重合度である)
<6位置換度>
製造例で得られたセルロースジアセテートの遊離水酸基をピリジン中で無水プロピオン酸によりプロピオニル化し、得られた試料を重クロロホルムに溶解したものの13C−NMRスペクトルを測定し、それぞれ対応する位置でのアセチル基とプロピオニル基の存在比から、元のセルロースジアセテートにおけるグルコース環の2,3,6位の各アセチル置換度を求めた。
<酢化度分布半価幅(%)>
製造例で得られたセルロースジアセテートの酢化度分布半価幅(%)は、上記酢化度分析において得られた溶出曲線の半価幅から求めた。すなわち、あらかじめ平均酢化度50%、52%、55%、60%程度の酢酸セルロースを用い溶出ピーク時間対平均酢化度の関係について、時間に関する2次関数で較正曲線を作成した。試料の溶出曲線から、ピーク高さに対して1/2の高さを与える2点の溶出時間をもとめ、較正曲線から2点の溶出時間に相当する酢化度を算出した。得られた酢化度の差の絶対値を酢化度分布半価幅(%)とした。
<重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、分散度(Mw/Mn)>
次の条件でGPC分析を行い、Mw及びMnを測定した。これらの値から、Mw/Mnを決定した。GPC装置として、商品名「Shodex GPC SYSTEM-21H」を用いた。
溶媒: アセトン
カラム: GMHxl(東ソー)2本、同ガードカラム
流速: 0.8ml/min
温度: 29℃
試料濃度:0.25%(wt/vol)
注入量: 100μl
検出: RI(商品名「RI-71S」)
標準物質:PMMA(分子量1890、6820、27600、79500、207400、518900、772000)
<破断伸度>
破断伸度は以下の方法で測定した。
製造例で得られたセルロースジアセテートを、メチレンクロライド:メタノール=9:1(重量比)の混合溶媒に、15wt%固形分濃度になるように溶解した。この溶液をバーコーターを用いてガラス板上に流延し、厚さ75〜85μmのフィルムを得た。このフィルムを、引張り試験機(オリエンテック(株)製、「UCT−5T」)および環境ユニット(オリエンテック(株)製、「TLF−U3」)を用いて、室温(約22℃)で、5cm/分の速度で引っ張り、破断するときの伸度(%)を求めた。
実施例1
製造例1で得られたセルロースジアセテート40重量部とアセトン100重量部とを十分に撹拌し、セルロースジアセテートをアセトンに溶解させ、セルロースジアセテート溶液を得た。
得られたセルロースジアセテート溶液1gと、カーボンナノチューブ分散液[(ナノシル社製、カーボンナノチューブ(CNT)のNMP(N−メチルピロリドン)溶液、カーボンナノチューブ含有量1.5重量%;カーボンナノチューブの種類:多層;平均外径15nm;平均長さ3.5μm]13.5gを混合機(アズワン社製、「ペンシルミキサーDX」)にて混合し、さらにこれにNMP(N−メチルピロリドン)13.5g添加し、カーボンナノチューブ/セルロースジアセテート混合液を調製した。
調製したカーボンナノチューブ/セルロースジアセテート混合液を、ガラス基板上に、ワイヤーバーを用いて塗布し、熱風乾燥機を用いて乾燥し、導電性フィルム層を形成した。冷却後、製造例1で得られたセルロースジアセテートとアセトンから調製した12重量%セルロースジアセテート−アセトン溶液を、前記導電性フィルム層上に、2mmのスペーサーを設置した後、ワイヤーバーを用いて塗布し、室温で乾燥することにより、非導電性フィルム層(絶縁層)を形成した。非導電性フィルム層(絶縁層)が乾燥したことを確認し、ガラス基板から積層フィルムを剥離することで、導電性積層フィルムを作製した。
実施例2
製造例1で得られたセルロースジアセテート40重量部とアセトン100重量部とを十分に撹拌し、セルロースジアセテートをアセトンに溶解させ、セルロースジアセテート溶液を得た。
得られたセルロースジアセテート溶液1gと、カーボンナノチューブ分散液[(ナノシル社製、カーボンナノチューブ(CNT)のNMP溶液、カーボンナノチューブ含有量1.5重量%;カーボンナノチューブの種類:多層;平均外径15nm;平均長さ3.5μm]27gを(アズワン社製、「ペンシルミキサーDX」)にて混合し、カーボンナノチューブ/セルロースジアセテート混合液を調製した。
調製したカーボンナノチューブ/セルロースジアセテート混合液を、ガラス基板上に、ワイヤーバーを用いて塗布し、熱風乾燥機を用いて乾燥し、導電性フィルム層を形成した。冷却後、製造例1で得られたセルロースジアセテートとアセトンから調製した12重量%セルロースジアセテート−アセトン溶液を、前記導電性フィルム層上に、2mmのスペーサーを設置した後、ワイヤーバーを用いて塗布し、室温で乾燥することにより、非導電性フィルム層(絶縁層)を形成した。非導電性フィルム層(絶縁層)が乾燥したことを確認し、ガラス基板から積層フィルムを剥離することで、導電性積層フィルムを作製した。
<膜厚測定>
実施例で得られた導電性積層フィルムから切片を切り出し、走査電子顕微鏡(日本電子社製、「JSM−6700F」)を用いて観測し、導電性フィルム層の膜厚を2点間距離から算出した。結果を表1に示す。なお、非導電性フィルム層の膜厚を同様にして測定したところ、実施例1、2とも、40μmであった。
<外観>
実施例で得られた導電性積層フィルムにおける導電性フィルム層の外観を目視観察した。その結果を表1に示す。
<表面抵抗率の測定>
実施例で得られた導電性積層フィルムの導電性フィルム層表面の表面抵抗率を、JIS K7194に準拠し、四探針法により測定した。測定装置として、商品名「ロレスタ」(MCP−T610型)(三菱化学アナリテック社製)を用いた。結果を表1に示す。

Claims (10)

  1. 脂肪族セルロースエステル(A)と、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、単層グラフェン、多層グラフェン、フラーレン及びカーボンブラックからなる群より選択された少なくとも1種の炭素材料(B)とを含む導電性材料から形成された導電性セルロース系樹脂フィルム層(I)と、非導電性フィルム層(II)とを少なくとも有する導電性積層フィルム。
  2. 非導電性フィルム層(II)が脂肪族セルロースエステル(C)を含むセルロース系樹脂フィルム層である請求項1記載の導電性積層フィルム。
  3. 導電性セルロース系樹脂フィルム層(I)の厚みが1〜5μmである請求項1又は2記載の導電性積層フィルム。
  4. 導電性セルロース系樹脂フィルム層(I)の表面抵抗率が1×10〜1×10Ω/□である請求項1〜3の何れか1項に記載の導電性積層フィルム。
  5. 導電性セルロース系樹脂フィルム層(I)の表面抵抗率が1×10〜1×10Ω/□である請求項1〜4の何れか1項に記載の導電性積層フィルム。
  6. 導電性セルロース系樹脂フィルム層(I)を形成する導電性材料中の炭素材料(B)の含有量が、導電性材料全体の0.5〜80重量%である請求項1〜5の何れか1項に記載の導電性積層フィルム。
  7. 前記脂肪族セルロースエステル(A)が酢酸セルロースである請求項1〜6の何れか1項に記載の導電性積層フィルム。
  8. 前記炭素材料(B)が単層カーボンナノチューブ及び/又は多層カーボンナノチューブである請求項1〜7の何れか1項に記載の導電性積層フィルム。
  9. 前記脂肪族セルロースエステル(C)が酢酸セルロースである請求項2記載の導電性積層フィルム。
  10. 基材上に請求項1〜9の何れか1項に記載の導電性積層フィルムを有する導電性部材。
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