JP2014081360A - タンパク質のチオール基の酸化還元状態を検出する方法、並びにそれに用いられる試薬及びキット - Google Patents

タンパク質のチオール基の酸化還元状態を検出する方法、並びにそれに用いられる試薬及びキット Download PDF

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Abstract

【課題】タンパク質のチオール基の酸化還元状態を、タンパク質の分子質量によらず、高い精度で検出する方法を提供する。
【解決手段】タンパク質の還元状態にあるチオール基と特異的に結合可能な核酸マレイミドをタンパク質と混合する。混合後のタンパク質の分子質量をポリアクリルアミドゲル電気泳動で測定し、測定された分子質量に基づいて、チオール基の酸化還元状態を決定する。更には、核酸とマレイミドとの間に開裂性連結基を配置し、電気泳動による分離後に核酸を切り離すことにより、ゲルから膜へのタンパク質転写効率が向上する。
【選択図】なし

Description

本発明は、タンパク質のチオール基の酸化還元状態を検出する方法、並びにそれに用いられる試薬及びキットに関する。より具体的には、本発明は、タンパク質のシステイン残基等が有するチオール基の酸化還元状態を高感度及び高精度で検出する方法、並びに斯かる方法に用いられる試薬及びキットに関する。
タンパク質のシステイン残基等が有するチオール基の存在形態には、遊離した状態(−SH)と、ジスルフィド結合(−S−S−)の形成等により酸化された状態とがある。前者を還元状態、後者を酸化状態という場合がある。
従来、タンパク質のシステイン残基等が有するチオール基の酸化還元状態の検出としては、比色定量法と、分子質量の増加に基づく方法とが挙げられる。
比色定量法は、検出対象となるタンパク質を試薬と反応させ、吸光度の変化に基づいてチオール基の酸化還元状態を測定する手法である。試薬としては、5,5’−ジチオビス(2−ニトロ安息香酸)(5,5'-Dithiobis(2-nitrobenzoic acid):DTNB)等が用いられる。しかし、比色定量法では、溶液系の吸光度を基準とするため、得られる値は必ずしも整数とはならず、正確な定量は困難であった。また、チオール基の酸化還元状態が異なる複数種のタンパク質分子が混在する場合、その組成を調べることは不可能であった。
一方、分子質量の増加に基づく方法としては、検出対象となるタンパク質をチオール基修飾試薬と混合し、チオール基を当該試薬で修飾するという手法が用いられる。ここで、チオール基修飾試薬として、還元状態のチオール基(遊離チオール基)のみに特異的に結合し、酸化状態のチオール基には結合できない試薬を使うことで、タンパク質のチオール基の還元状態(即ち、修飾可能な遊離チオール基の数)に応じた分子質量の増加が生じる。斯かる分子質量の増加は、例えばポリアクリルアミドゲル電気泳動(Poly-Acrylamide Gel Electrophoresis:PAGE)等の電気泳動によって、容易に測定することが可能である。こうして得られた分子質量から、チオール基修飾による分子質量増加を求めることにより、タンパク質一分子当たりの還元状態のチオール基(遊離チオール基)の数を求めることができる。
チオール基修飾試薬としては通常、マレイミド基を有する化合物が用いられる。従来の当該試薬の例として、非特許文献1(Kobayashi et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, (1997), Vol.94, pp.11857-11862)に記載の4−アセトアミド−4’−マレイミジルスチルベン−2,2’−ジスルホン酸(4-acetamido-4'-maleimidylstilbene-2,2'-disulfonic acid:AMS)が挙げられる。
しかしながら、AMSは分子質量が約536Daと小さいため、特に大型(例えば50kDa超)のタンパク質を検出対象とする場合には、タンパク質修飾後の電気泳動による分子質量決定時に、チオール基修飾数に応じた分子質量の増加が有意差として現れず、検出精度が不十分であるという課題があった。
従来の試薬の別の例としては、非特許文献2(Mori et al., J. Bacteriol., (2004), Vol.186, No.12, pp.3960-3969)に記載のポリエチレングリコール(Polyethylenglycol:PEG)マレイミドが挙げられる。PEGマレイミドは、分子質量が通常5kDa以上と、AMSよりも遥かに大きいため、チオール基の修飾による分子質量の増加も大きくなる。このため、大型タンパク質のチオール基の酸化還元状態の検出には、AMSよりもPEGマレイミドの方が適している。
しかしながら、PEGは重合度が不均一であり、その分子質量にばらつきがある。このため、PEGマレイミドにより修飾されたタンパク質を電気泳動で分離した場合、得られるバンドがブロードになってしまい、分子質量を厳密に決定できない場合がある。
また、PEGマレイミド修飾タンパク質の電気泳動による移動度は、その分子質量と十分に比例しない。このため、市販の汎用の分子質量マーカーを用いて各修飾タンパク質の分子質量を求めても、正確な分子質量を求めることができず、修飾されたチオール基の数(即ち、遊離チオール基の数)を逆算することができない。よって、遊離チオール基数を決定するためには、測定対象タンパク質のチオール基数のみを変化させた変異体を予め作製し、これを分子質量マーカーとして用いる必要がある。
このように、PEGマレイミドは、分子質量にばらつきがある上に、修飾タンパク質の電気泳動による移動度がその分子質量と十分に相関しないため、やはり検出精度が不十分であるという課題があった。
また、PEGマレイミド修飾タンパク質を電気泳動で分離した後、ゲルから膜に転写し、抗体を用いて標的タンパク質を検出するウエスタンブロッティング法に適用した場合、膜への転写効率が著しく低下するという課題があった。
Proc. Natl. Acad. Sci. USA, (1997), Vol.94, pp.11857-11862 J. Bacteriol., (2004), Vol.186, No.12, pp.3960-3969
以上の背景から、タンパク質のチオール基の酸化還元状態を検出する際に、タンパク質の分子質量によらず高い精度で検出が可能な、優れたチオール基修飾試薬の開発が望まれている。
本発明者等は上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、チオール基修飾試薬として核酸マレイミドを使用することにより、タンパク質のチオール基の酸化還元状態を、タンパク質の分子質量によらず高い精度で検出することが可能となることを見出した。更には、核酸とマレイミドとの間に開裂性連結基を配置し、電気泳動による分離後に核酸を切り離すことにより、ゲルから膜へのタンパク質転写効率を向上させることが可能となり、ウエスタンブロッティング法へも好適に適用可能となることを見出して、本発明に到達した。
従って、本発明の主旨は、タンパク質のチオール基の酸化還元状態を検出する方法であって、タンパク質を核酸マレイミドと混合し、混合後のタンパク質の分子質量を測定し、測定された分子質量に基づいて、チオール基の酸化還元状態を決定することを含む方法に存する。
ここで、混合後のタンパク質の分子質量の増加に基づいて、タンパク質が有する還元状態のチオール基の数を決定することにより、チオール基の酸化還元状態を決定することが好ましい。
また、核酸マレイミドが、末端にマレイミド基を有する一本鎖の核酸であることが好ましく、また、DNAマレイミドであることが好ましい。
また、混合物のタンパク質の分子量の測定を電気泳動により行うことが好ましく、電気泳動がポリアクリルアミドゲル電気泳動であることが好ましい。
また、核酸マレイミドが、核酸とマレイミドとの間に開裂性連結基を有するとともに、電気泳動後に開裂性連結基を開裂させて核酸を切り離し、次いでタンパク質を膜に転写することを更に含むことが好ましい。
また、本発明の別の主旨は、タンパク質のチオール基を修飾するための試薬であって、核酸マレイミドを溶媒中に含む試薬に存する。
また、核酸マレイミドが、末端にマレイミド基を有する一本鎖の核酸であることが好ましく、また、DNAマレイミドであることが好ましい。
また、核酸マレイミドが、核酸とマレイミドとの間に開裂性連結基を有することが好ましい。
また、本発明の別の主旨は、タンパク質のチオール基の酸化還元状態を検出するためのキットであって、上述の試薬と、タンパク質の分子量決定のための少なくとも一種の電気泳動用試薬とを含むキットに存する。
本発明によれば、チオール基修飾試薬として核酸マレイミドを使用することにより、タンパク質のチオール基の酸化還元状態を、タンパク質の分子量によらず高い精度で検出することが可能となる。また、核酸とマレイミドとの間に開裂性連結基を有する核酸マレイミドを用いれば、電気泳動分離後に核酸を切り離し、ゲルから膜へのタンパク質転写効率を向上させることができ、ウエスタンブロッティング法にも好適に適用できる。
図1は、実施例2で得られた、マレイミド試薬による修飾数の異なる修飾タンパク質を電気泳動した結果を示すゲル写真である。 図2は、実施例3で得られた、マレイミド試薬によるタンパク質の修飾数と電気泳動による移動度の変化との関係を表すグラフである。 図3は、実施例4で得られた、マレイミド試薬によるタンパク質の修飾数と電気泳動による移動度の変化との関係を表すグラフである。 図4(a)は、実施例5で得られた、マレイミド試薬による修飾タンパク質の電気泳動結果を示すゲル写真であり、図4(b)は、電気泳動後、UV照射を行うことなく修飾タンパク質をゲルから膜へ転写し、化学発光分析法により可視化した写真と、電気泳動後、ゲルにUV照射を行った上で、修飾タンパク質をゲルから膜へ転写し、化学発光分析法により可視化した写真であり、図4(c)は、電気泳動後、UV照射を行うことなく修飾タンパク質をゲルから膜へ転写し、CBB染色法により可視化した写真と、電気泳動後、ゲルにUV照射を行った上で、修飾タンパク質をゲルから膜へ転写し、CBB染色法により可視化した写真である。何れの図においても、レーン1は未反応タンパク質であり、レーン2はDNAマレイミドにより修飾したタンパク質であり、レーン3はDNA−PC−マレイミドにより修飾したタンパク質であり、レーン4はPEGマレイミドにより修飾したタンパク質である。
1.概要
本発明では、タンパク質のチオール基の酸化還元状態を検出するに際し、チオール基修飾試薬として核酸マレイミドを使用し、遊離チオール基を修飾した上で、その分子質量を測定し、得られた分子質量の変化に基づいて検出を行うことを特徴とする。
上述のように、従来の試薬であるAMSは、分子質量が小さいため、大型のタンパク質を検出対象とする場合には、検出精度が十分でないという課題があった。このため、より大きな分子質量を有するチオール基修飾試薬が求められる。
一方、別の従来の試薬であるPEGマレイミドは、分子質量が大きく、大型のタンパク質の検出には適しているものの、分子質量にばらつきがあり、しかも電気泳動による移動度と分子質量との相関が不十分であるために、やはり検出精度が十分でないという課題があった。PEGの分子質量が不均一となるのは、PEGの合成がラジカル重合で行われることによると考えられる。また、電気泳動移動度と分子質量との相関性が不十分となるのは、明らかではないが、PEGは非荷電性物質であるため、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)等の荷電性物質と結合せず、電気泳動中に負電荷を与えないことによるものと考えられる。よって、分子質量をより正確・均一に制御可能な手法で合成でき、且つ、電気泳動時に十分な負電荷を付与し得るチオール基修飾試薬を開発することが好ましい。
本発明者等は、これらの要請を満たすチオール基修飾試薬となり得るマレイミド化合物を探索すべく鋭意検討した結果、意外にも核酸マレイミドに到達した。
核酸マレイミドは、核酸合成時に塩基の数を調整することにより、その分子質量を広範な範囲内で制御することが可能である。よって、大型(例えば50kDa超)のタンパク質を検出対象とする場合でも、それに応じて核酸マレイミドのサイズも大型(例えば5〜10kDa程度)に調整することができ、十分な検出精度を以ってチオール基の酸化還元状態を検出することが可能となる。
また、核酸は塩基配列を制御しながら合成を行うため、所望の分子質量を有する分子を確実に作製することができ、PEGのように重合に伴う分子質量のばらつきがない。しかも、核酸マレイミドは負荷電分子であるため、電気泳動時の移動度と分子質量との相関が極めて高い。よって、PEGマレイミドよりも遥かに高い精度で、タンパク質のチオール基の酸化還元状態を検出することが可能となる。
このように、核酸マレイミドをチオール基修飾試薬として用いてタンパク質のチオール基の酸化還元状態を検出することにより、タンパク質の分子質量によらず、タンパク質のチオール基の酸化還元状態を高い精度で検出することが可能となる。
なお、核酸マレイミドは物質としては公知であり、例えばKanayama et al., Biomacromolecules (2009), Vol.10, pp.805-813 には、アフィニティーキャピラリー電気泳動による一塩基多型のジェノタイピングへの応用が報告されている。しかし、核酸マレイミドをチオール基修飾試薬として、タンパク質のチオール基酸化還元状態の検出に利用することは、本発明者等の知る限り、何れの公知文献等にも開示も示唆もされておらず、極めて斬新な発想である。
2.核酸マレイミド
本発明では、タンパク質のチオール基の酸化還元状態を検出する際に、チオール基修飾試薬として核酸マレイミドを使用することを特徴とする。
核酸マレイミドを構成する核酸としては、任意の核酸を使用することができる。具体的には、DNA(デオキシリボ核酸)でもRNA(リボ核酸)でもよく、更にはGNA(グルコース核酸)、LNA(ロックド核酸)、BNA(架橋核酸)、PNA(ペプチド核酸)、TNA(トレオース核酸)等の核酸アナログでもよいが、通常はDNA又はRNAである。中でも分子の安定性の観点から、DNAが好ましい。また、一部又は全部のヌクレオチドとして、核酸塩基、糖、リン酸ジエステルの何れかに修飾を加えた人工ヌクレオチドを含む核酸(人工核酸)を用いることも可能である。
核酸は通常は一本鎖又は二本鎖であり、何れを使用することも可能である。但し、二本鎖核酸は、温度変化によって変性(一本鎖への分離)及びアニーリング(二本鎖の再形成)を生じ、分子質量測定に影響を与える可能性があるため、温度変化を生じる条件下で使用する場合には、一本鎖の核酸を使用することが好ましい。
核酸の長さも任意である。但し、扱いの容易性の観点等から、通常5塩基以上、中でも10塩基以上、更には15塩基以上が好ましい。上限は特に制限されないが、通常は100塩基以下、中でも50塩基以下が好適である。
なお、上述のとおり、チオール基修飾試薬の分子質量は、タンパク質のチオール基酸化還元状態の検出精度に影響を与える。例えば、大型(例えば50kDa超)のタンパク質を検出対象とする場合に、小型のチオール基修飾試薬であるAMS(分子質量約536Da)を用いると、チオール基修飾数に応じた分子質量の増加が有意差として現れない場合がある。よって、検出対象となるタンパク質の大きさに応じて、核酸の長さを適宜調節することが好ましい。例えば、大型(例えば約50kDa超)のタンパク質を検出対象とする場合は、核酸の分子質量を約1kDa以上、中でも約5kDa以上とすることが好ましい。
核酸の塩基配列は任意であるが、特に一本鎖の核酸を使用する場合には、相補鎖を形成するとチオール基修飾反応や分子質量測定に影響を与える可能性があるので、相補的な部分配列ができるだけ少ない塩基配列を用いることが好ましい。このような好ましい塩基配列を決定するための具体的な手法としては、例えばNUPACKサーバー等の核酸二次構造予測アルゴリズムが挙げられる。
なお、塩基配列の異なる複数種の核酸を併用してもよい。但し、チオール基修飾に応じた分子質量増分から遊離チオール基数を正確に求める観点からは、複数種の核酸を用いる場合でも、そのサイズは同一とすることが好ましい。
核酸の合成法も任意であり、従来公知の手法を適宜選択して合成可能である。例としてはリン酸ジエステル法、アミダイド法、H−ホスホネート法、チオホスファイト法が挙げられる。
核酸に対するマレイミド基の結合数も任意であるが、タンパク質の遊離チオール基との反応による分子質量増分から遊離チオール基の数を正確に求める観点からは、1分子の核酸に対して決まった数のマレイミド基が結合することが好ましい。特に、核酸マレイミドによるタンパク質の架橋を避ける観点からは、核酸1分子当たり1つのマレイミド基を有することが好ましい。
マレイミド基は、核酸を構成するヌクレオチドの塩基、糖、リン酸ジエステルの何れかに結合していてもよく、核酸の末端に結合していてもよい。但し、核酸マレイミド合成の容易性と、核酸に対するマレイミド基の導入数を正確に制御する観点からは、核酸の末端に結合することが好ましい。中でも、核酸1分子当たり1つのマレイミド基を付与する観点からは、核酸の一方の末端にマレイミド基が結合する構造が特に好ましい。
核酸にマレイミド基を導入する手法も任意であり、従来公知の手法を任意に用いることが可能であるが、通常は核酸に対して任意のリンカーを介してマレイミド基を連結する。具体例としては、核酸内の修飾所望部位(例えば5’末端等)にアミノ基を付与した上で、N−ヒドロキシスクシンイミド(N-Hydroxysuccinimide:NHS)及びマレイミド基を各末端に有するクロスリンカー(例えばSM(PEG)、SMCC等)を用いて反応させる手法が挙げられる。
マレイミド基導入後、得られた核酸マレイミドを精製する。更に、濃縮等の後処理を加えてもよい。斯かる後処理の例としては、余剰のクロスリンカーの除去のための陰イオン交換クロマトグラフィーあるいは逆相クロマトグラフィーによる精製、エタノール沈殿による脱塩・濃縮、透析による脱塩、凍結乾燥による濃縮等の手法が好ましい。
3.酸化還元状態の検出方法
本発明の一態様によれば、タンパク質のチオール基の酸化還元状態を検出する方法が提供される。
本発明の方法は、タンパク質を上述の核酸マレイミドと混合し、混合後のタンパク質の分子質量を測定し、得られた分子質量に基づいて、チオール基の酸化還元状態を決定するものである。タンパク質を核酸マレイミドと混合すると、タンパク質が有するチオール基のうち、還元状態のチオール基(遊離チオール基)のみが核酸マレイミドで修飾され、タンパク質中の遊離チオール基の数に応じた分子質量の増加が生じる。よって、混合後のタンパク質の分子質量を測定し、チオール基修飾による分子質量増加を求めることにより、タンパク質一分子当たりの還元状態のチオール基(遊離チオール基)の数を求めることができる。
タンパク質を核酸マレイミドと混合する手法は任意であるが、通常は溶媒の存在下に両者を混合すればよい。溶媒としては、タンパク質及び核酸マレイミドを共に溶解することが可能であって、タンパク質の遊離チオール基と核酸マレイミドとの反応に好ましからぬ影響を与えないものであれば、その種類は任意であるが、通常は中性pHの緩衝液(Tris−HCl等)が用いられる。一方、チオール基を有する試薬(例えばジチオトレイトール(dithiothreitol:DTT)や2−メルカプトエタノール)等は、タンパク質の遊離チオール基と核酸マレイミドとの反応に干渉するおそれがあるので、使用を避けることが好ましい。なお、2種以上の溶媒を混合して用いてもよい。
反応系中におけるタンパク質及び核酸マレイミドの濃度等も制限されず、タンパク質及び核酸マレイミドの種類等に応じて適宜設定すればよい。例えば、反応系におけるタンパク質の濃度は、通常0.1〜10μg/μL、中でも0.1〜1μg/μLの範囲が好適であり、DNAマレイミドの濃度は、100μM〜5mMの範囲が好適である。
反応系中におけるタンパク質と核酸マレイミドとの比率も制限されない。但し、タンパク質の遊離チオール基が核酸マレイミドで十分に修飾されるように、系内のタンパク質のチオール基の総数に対する核酸マレイミドのマレイミド基の総数の比が、通常1以上、中でも2以上、更には5以上となるように、両者の比率を調節することが好ましい。
なお、反応溶媒に無機塩を添加することにより、タンパク質と核酸マレイミドとの反応効率が向上する場合がある。理由は定かではないが、核酸マレイミド中のリン酸基の負電荷が遮蔽されるためではないかと考えられる。よって、無機塩としては、一価の酸と一価の塩基とからなる塩、例えばNaCl、KCl等が好ましい。また、複数の無機塩を併用してもよい。無機塩の濃度は、通常100mM〜1M、中でも300mM〜1Mの範囲が好適である。
反応温度は制限されないが、通常は4〜50℃、中でも25〜37℃の範囲が好適である。反応時間も制限されず、反応温度等の諸条件に応じて適宜調節すればよい。具体例として、常温で反応させる場合、反応時間は通常30分〜10時間の範囲が好ましい。一方、4℃程度の温度で反応させる場合は、一晩以上反応させることが好ましい。
混合物のタンパク質の分子量の測定手法も任意であるが、通常は電気泳動法が用いられる。
電気泳動法の種類に制限はなく、タンパク質のサイズや種類等に応じて、公知の方法の中から適宜選択すればよい。中でもゲル電気泳動が好ましく、例としては、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)、ビス・トリス(BT)ゲル電気泳動等が挙げられる。特にBTゲル電気泳動が好ましい。
電気泳動時のバッファーは、ゲルの種類、タンパク質のサイズや種類等に応じて、適宜選択すればよい。例としては、トリス/グリシン(Tris-Glycine)バッファー、MESバッファー、MOPSバッファー等が挙げられる。(これらの詳細な組成の例については、後述の実施例を参照のこと。)。
また、市販のゲル電気泳動キット(例えばインビトロジェン(Invitrogen)社製 NuPAGE(登録商標)Novex ゲルシステム)を用いてもよい。
電気泳動のその他の条件(ゲル濃度、泳動電圧、泳動時間等)や操作手順も任意であり、タンパク質の分子量や種類、ゲルの種類、バッファーの種類や組成等の各種条件に応じて適宜選択すればよい。
電気泳動後のゲルにおけるタンパク質のバンドの検出法も任意である。例としては、CBB染色法、銀染色法、イミダゾール亜鉛染色法等が挙げられる。これらの手法は、各種条件等に応じて適宜設定すればよい。
以上の手順により電気泳動でタンパク質を分離した後、得られたゲル上のバンドから修飾タンパク質の分子質量を決定し、修飾前のタンパク質の分子質量からの増分を求めることにより、タンパク質1分子当たりの核酸マレイミドの結合数、惹いては還元状態のチオール基(遊離チオール基)の数を求めることができる。電気泳動ゲルの各バンドの分子質量を決定する手法は任意であるが、ゲルの何れかのレーンに分子質量マーカーをロードしておき、その移動度を基準として各バンドの分子質量を求めることが好ましい。
なお、従来のPEGマレイミドによりタンパク質を修飾した場合、上述のように、電気泳動による移動度が分子質量と十分に相関しなかったため、修飾タンパク質の分子質量を決定するには、測定対象タンパク質のチオール基数のみを変更した変異体を予め作製しておき、これを分子質量マーカーとして用いる必要があった。一方、本発明では、核酸マレイミドにより修飾されたタンパク質は分子質量に応じた移動度を示すため、汎用の分子質量マーカーを用いて修飾タンパク質の分子質量を決定できるという利点がある。
4.ウエスタンブロッティングへの応用
なお、核酸マレイミドにより修飾したタンパク質を上述のように電気泳動で分離した後、ゲルから膜に転写し、抗体を用いて標的タンパク質を検出するウエスタンブロッティング法等の用途に用いることも可能である。この場合、核酸とマレイミドとの間に開裂性連結基を有する核酸マレイミドを用いることが好ましい。これにより、電気泳動後に開裂性連結基を開裂させて核酸部分を除去し、ゲルから膜へのタンパク質転写効率を向上させることが可能となる。
従来のPEGマレイミドを用いる場合、上述のように、PEGマレイミド修飾タンパク質を電気泳動で分離した後、ゲルから膜に転写し、抗体を用いて標的タンパク質を検出するウエスタンブロッティング法に適用すると、膜への転写効率が著しく低下するという課題があった。その原因について、本発明者等は、タンパク質に連結された分子量の大きいPEG部分が転写を妨げているものと推測した。本発明の核酸マレイミドについても、分子量の大きい核酸部分がタンパク質に連結されることにより、同様の課題が予想される。そこで、開裂可能なリンカー(開裂性連結基)で核酸とマレイミドとを連結し、電気泳動後に当該リンカーを開裂させて核酸を切り離してからゲルから膜へのタンパク質転写を行うことにより、転写効率を向上させることが可能となる。
開裂性連結基としては、紫外線照射、化学反応、酵素反応等の刺激により開裂し得る部分を含む連結基であれば、その種類は限定されない。
紫外線照射により開裂し得る連結基(紫外線開裂性連結基:PC(photo-cleavable)基)としては、ニトロフェニルエチル基、o−ニトロベンジル基、(クマリン−4−イル)メチル基、7−ニトロインドリニル基等を含むリンカーが挙げられる。紫外線開裂性連結基を含む核酸マレイミドを用いる場合は、電気泳動後のゲルに紫外線を照射することにより、リンカーを開裂して核酸を切り離すことができる。
なお、紫外線開裂性連結基を有する核酸マレイミドは、例えば後述の実施例に記載の手法や、当該方法に適宜修正を加えた手法により作製できる。
化学反応により開裂し得る連結基(化学反応開裂性連結基)としては、ジスルフィド結合を含むリンカーが挙げられる。斯かるジスルフィド結合を含む核酸マレイミドを用いる場合は、還元剤によってジスルフィド結合を還元・切断することにより、核酸を切り離すことができる。還元剤としては、ジチオスレイトール(Dithiothreitol:DTT)、ジチオエリトリトール(Dithioerythritol:DTE)、トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(Tris(2-carboxyethyl)phosphine:TCEP)、β−メルカプトエタノール(beta-Mercaptoethanol:β−ME)等の低分子還元剤が例示される。ゲル内の核酸マレイミド修飾タンパク質に還元剤を接触させる手法としては、例えば還元剤を含むバッファーに電気泳動後のゲルを浸潤させる手法が挙げられる。
なお、核酸とマレイミドとの間にジスルフィド結合を有する核酸マレイミドは、例えば以下の手法により作製できる。まず、核酸−NHとNHS−ジスルフィド−アジドとを反応させて、核酸−ジスルフィド−アジド(第1の中間体)を形成する。一方、SM(PEG)とNH−シクロアルキンとを反応させて、マレイミド−シクロアルキン(第2の中間体)を形成する。核酸−ジスルフィド−アジド(第1の中間体)のアジドとマレイミド−シクロアルキン(第2の中間体)のシクロアルキンとを結合反応させることにより、ジスルフィド結合を有する核酸マレイミドを作製できる。
酵素反応により開裂し得る連結基(酵素反応開裂性連結基)としては、トロンビン、第Xa因子等の配列特異的ペプチダーゼが特異的に認識するアミノ酸配列(認識配列)を含むリンカーが挙げられる。斯かる認識配列を含む核酸マレイミドを用いる場合は、対応するトロンビン、第Xa因子等の配列特異的ペプチダーゼを用いて認識配列を切断することにより、核酸を切り離すことができる。ゲル内の核酸マレイミド修飾タンパク質にペプチダーゼを接触させる手法としては、例えばペプチダーゼを含むバッファーに電気泳動後のゲルを浸潤させる手法が挙げられる。
なお、酵素反応開裂性連結基を有する核酸マレイミドは、例えば後述の実施例に記載の手法や、当該方法に適宜修正を加えた手法により作製できる。
また、核酸マレイミドの核酸部分を、デオキシリボヌクレアーゼ(DNase)やリボヌクレアーゼ(RNase)等の核酸分解酵素により直接分解して除去してもよい。この場合には、核酸とマレイミドとの間に開裂性連結基を配置する必要はない。但し、核酸の切り離し効率の観点からは、核酸とマレイミドとの間に上述の開裂性連結基を配置しておき、当該連結器の開裂によって核酸を切り離す手法の方が効率的である。
ところで、以上の技術思想は、従来のチオール基修飾試薬であるPEGマレイミドにも適用可能である。即ち、PEGとマレイミドとの間に開裂性連結基を有するPEGマレイミドを用いてタンパク質を修飾し、これを電気泳動によって分離した後に、開裂性連結基を開裂させてPEG部分を切り離してから、ゲルから膜へのタンパク質転写を行えばよい。これにより、分子量の大きなPEG部分によってタンパク質の転写が妨害されるのを避けることができ、転写効率を向上させることが可能となる。
5.試薬
本発明の一態様によれば、タンパク質チオール基を修飾するための試薬が提供される。
本発明の試薬は、上述の核酸マレイミドを溶媒中に含む。溶媒は、核酸マレイミドを安定な状態で溶解することが可能であって、タンパク質の遊離チオール基と核酸マレイミドとの反応に好ましからぬ影響を与えないものであれば、その種類は任意であるが、通常は中性pHの緩衝液(Tris−HCl等)が用いられる。
本発明の試薬は、その他の任意の成分を含んでいてもよい。その他の成分の例としては、上述の無機塩(好ましくは一価の酸と一価の塩基との塩)や、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリセロール等が挙げられる。
本発明の試薬は、溶媒に核酸マレイミド及びその他の任意の成分を溶解させることにより調整される。各成分の比率は任意であるが、本試薬を反応系に適量加えることにより、各成分が上記好適な濃度範囲となるように適宜調整し、試薬は乾燥状態で保存することが好ましい。調製後の試薬は、バイアルやビン等の容器に入れた状態で、使用時まで冷蔵又は冷凍保存してもよい。
6.キット
本発明の一態様によれば、タンパク質のチオール基の酸化還元状態を検出するためのキットが提供される。
本発明のキットは、上述の本発明の試薬と、タンパク質の分子質量決定のための少なくとも一種の電気泳動用試薬とを含む。電気泳動用試薬としては、例えばゲル調製用試薬(電気泳動ゲルの成分のうち1種又は2種以上を含む試薬)、バッファー調製用試薬(電気泳動バッファーの成分のうち1種又は2種以上を含む試薬)、タンパク質検出用試薬(電気泳動ゲル内のバンドを検出するための1種又は2種以上の成分を含む試薬)等が挙げられる。これらは通常、何れも適切な容器に入れた状態で、キットとして提供される。
更に、本発明のキットは、電気泳動を実施するための一以上の部材(電気泳動槽等)、及び/又は、これらの試薬や部材を用いて電気泳動を実施するための指示書等を含んでいてもよい。
以下に実施例を示し、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は決して以下の実施例に限定されるものではなく、適宜変更を加えて実施することが可能である。
実施例1:DNAマレイミドの調製
以下の手順によりDNAマレイミドを調製した。
まず、マレイミド基を導入するための足場として、24塩基からなる一本鎖DNAを、アミダイト法により合成した。その塩基配列は以下のとおりである(配列番号1)。
5’−TACCTCTCCCTAACTACACAACCT−3’
上記一本鎖DNAの5’末端に、ポリエチレンリンカー(CHを介してアミノ基を付加した。得られたアミノ基付与DNAの構造を以下に示す。下記式中、「DNA」は上記一本鎖DNAを指し、その5’末端側のリン酸単位−O−P(=O)(−O)−は、上記一本鎖DNAの5’末端側塩基Tのリン酸単位を指す。
上記のアミノ基付与DNAに、N−ヒドロキシスクシンイミド(N-Hydroxysuccinimide:NHS)及びマレイミド基を各末端に有するクロスリンカーであるSM(PEG)(フナコシ株式会社製)を反応させることにより、マレイミド基を導入した。具体的には、200μM 一本鎖DNA、12.5mM SM(PEG)、10mM HEPES−NaOH、1mM EDTA(pH7.65)を含む全量200μlの反応系を調製し、30℃で30分間反応させることにより、一本鎖DNAの5’末端にマレイミド基を導入した。その後、1M Tris−HCl(pH7.5)50μlを加えて反応をクエンチした。反応液全量を、陰イオン交換クロマトグラフィーカラムDEAE−Toyopearl(東ソー株式会社製)にアプライし、50mM Tris−HCl、1mM EDTA、100mM NaCl(pH7.5)のバッファー1mlによる洗浄を3回繰り返した。続いて、50mM Tris−HCl、1mM EDTA、500mM NaCl(pH7.5)からなる溶離剤400μlを用いてDNAマレイミドをカラムから溶出し、エタノール沈殿による脱塩・濃縮を行って精製することにより、5’末端にリンカーを介してマレイミド基を有する一本鎖DNAであるDNAマレイミド(核酸マレイミド)を得た。得られたDNAマレイミドの構造式を以下に示す。
実施例2:DNAマレイミドとAMSとの検出感度の比較
実施例1で調製したDNAマレイミド又はAMS(インビトロジェン社製)をチオール基修飾試薬(マレイミド試薬)として用い、タンパク質のチオール基の酸化還元状態の検出を行った。
検出対象タンパク質としてはチオドキシンを用いた。チオドキシンは分子質量約12kDaのタンパク質で、システイン残基のチオール基を1分子当たり3つ有する。ここで、チオール基修飾数と分子質量増加との関係を調べるため、1分子当たり3つのチオール基を有する天然のチオドキシンの他に、1分子当たりのチオール基数を2つ、1つ、又は0に減らした変異体を作製し、これらを用いて実験を行った。なお、各変異体の作製は、メガプライマー法で行った。
DNAマレイミドと各タンパク質との反応は、1M NaCl、2μgのタンパク質、1% SDS、200μM DNAマレイミドを含む10μLの反応液を調製し、37℃で90分間反応させることにより行った。
AMSと各タンパク質との反応は、反応液におけるAMSの濃度を5mMとした他は、DNAマレイミドとタンパク質との反応と同じ条件で行った。
反応後、各反応物を電気泳動により分離した。電気泳動法としてはBisTrisゲル電気泳動法(BT/MES)を用いた。ランニングバッファーはMESバッファーを用い、その組成は50mM MES、50mM TRIS、1mM EDTA、0.1% SDSとした。ポリアクリルアミドゲルの組成は15% アクリルアミド、360mM BisTris(pH6.8)とした。電気泳動は、30mAの定電流を印加して行った。バンドの検出はCBB染色法により行った。
得られた電気泳動ゲル写真を図1に示す。図1から、チオール基修飾試薬としてAMSを用いた場合、チオール基の修飾数に応じた分子質量の変化は極めて小さく、遊離チオール基の数の判定は極めて困難であるのに対して、チオール基修飾試薬としてDNAマレイミドを用いた場合は、チオール基の修飾数が異なると分子質量にも大きな差が現れ、遊離チオール基の数を容易に判定できることが分かる。この結果から、チオール基修飾試薬としてDNAマレイミドを用いることにより、大型のタンパク質についても、遊離チオール基の数を高い精度で検出できることが明らかである。
実施例3:DNAマレイミドとPEGマレイミドとの検出精度の比較
実施例1で調製したDNAマレイミド又はPEGマレイミド(シグマアルドリッチ社製:分子質量約5kDa)をチオール基修飾試薬(マレイミド試薬)として用い、タンパク質のチオール基の酸化還元状態の検出を行った。
検出対象タンパク質としては、実施例2と同様のチオドキシンを用いた。ここで、チオール基修飾数と分子質量増加との関係を調べるため、1分子当たりチオール基を3つ有する天然体の他に、実施例2と同様の手法で作製された、1分子当たりのチオール基数を2つ、1つ又は0に減らした各変異体を用いて、実験を行った。
DNAマレイミドとタンパク質との反応は、実施例2と同様の条件で行った。
PEGマレイミドとタンパク質との反応は、反応液におけるAMSの濃度を5mMとした他は、DNAマレイミドとタンパク質との反応と同じ条件で行った。
反応後、各反応物を電気泳動により分離した。電気泳動は、BT/MES又はNuPAGEで行った。
BT/MESの条件は、BTゲル濃度を12%又は15%アクリルアミドとした他は、実施例2と同様である。
NuPAGEは、インビトロジェン(Invitrogen)社製 NuPAGE(登録商標)Novex ゲルシステムを用い、製造者の指示に従ってゲル及びバッファーを調製した。ゲル濃度は12%とした。
その他の電気泳動の条件は、実施例2と同じとした。
図2は、上記実験により得られた、マレイミド試薬(DNAマレイミド又はPEGマレイミド)によるタンパク質の修飾数と電気泳動による移動度の変化との関係を表すグラフである。図2から、チオール基修飾試薬としてPEGマレイミドを用いた場合、電気泳動の種類やゲル濃度が異なると、分子質量の増加率に著しいばらつきが生じるのに対して、チオール基修飾試薬としてDNAマレイミドを用いた場合には、全ての電気泳動条件下において、分子質量はほぼ同じ挙動を示した。この結果から、チオール基修飾試薬としてDNAマレイミドを用いることにより、電気泳動条件によらず、酸化状態のチオール基の数を高い精度で検出できることが明らかである。
実施例4:DNAマレイミドの検出精度の検討
実施例1で調製したDNAマレイミドをチオール基修飾試薬(マレイミド試薬)として用い、タンパク質のチオール基の酸化還元状態の検出を行った。検出対象タンパク質としては、下記の表1に示すタンパク質を用いた。
なお、チオール基修飾数と分子質量増加との関係を調べるため、チオドキシンについては、実施例2と同様、1分子当たり3つのチオール基を有する天然体、及び、1分子当たりのチオール基数を2つ、1つ又は0に減らした各変異体を用いた。一方、他のタンパク質については、タンパク質に対するDNAマレイミドのモル比率を調整することにより、タンパク質1分子当たりのチオール基の修飾数を1つずつ減らした反応系を作成した。
DNAマレイミドと各タンパク質との反応条件は、実施例2と同様の条件で行った。
反応後、各反応物を電気泳動により分離した。電気泳動としては、検出対象タンパク質に応じて、上記の表1に示す手法、即ちBT/MES、NuPAGE、又はBT/MOPSを用いた。BT/MES及びNuPAGEは、実施例3と同じ条件で実施した。
BT/MOPSは、BTゲル及び3−モルホリノプロパンスルホン酸(3-(N-morpholino)propanesulfonic acid:MOPS)バッファーを用いた電気泳動法である。MOPSバッファーの組成は、50mM MOPS、50mM Tris−HCl、1mM EDTA、0.1%SDSとした。BTゲルの組成は8%、10%、12%、15% アクリルアミド、360mM BisTris(pH6.8)とした。
各電気泳動法におけるゲル濃度は、上記の表1に示す値とした。その他の電気泳動の条件は、実施例2と同じとした。
図3は、上記実験により得られた、マレイミド試薬(DNAマレイミド)によるタンパク質の修飾数と電気泳動による移動度の変化との関係を表すグラフである。DNAマレイミドは、タンパク質の種類や電気泳動法によらず、ほぼ同一の分子質量増加を示すことが分かる。この結果から、チオール基修飾試薬としてDNAマレイミドを用いることにより、タンパク質の種類や電気泳動法によらず、酸化状態のチオール基の数を高い精度で検出できることが明らかである。
実施例5:DNA−PC(photo-cleavable)−マレイミドの検討
・DNA−PC−マレイミドの作成
以下の手順によりDNA−PC(photo-cleavable)−マレイミドを調製した。
まず、マレイミド基を導入するための足場として、実施例1と同様に、配列番号1の24塩基からなる一本鎖DNAを、アミダイト法により合成した。上記一本鎖DNAの5’末端に、PC(photo-cleavable)基であるニトロフェニルエチル基及びポリエチレンリンカー(CHを介してアミノ基を付加した。得られたアミノ基付与PC(photo-cleavable)−DNAの構造を以下に示す。下記式中、「DNA」は上記一本鎖DNAを指し、その5’末端側のリン酸単位−O−P(=O)(−O)−は、上記一本鎖DNAの5’末端側塩基Tのリン酸単位を指す。
上記のアミノ基付与PC−DNAに、実施例1と同様の手順により、N−ヒドロキシスクシンイミド(N-Hydroxysuccinimide:NHS)及びマレイミド基を各末端に有するクロスリンカーであるSM(PEG)(フナコシ株式会社製)を反応させ、マレイミド基を導入した。得られたDNA−PC−マレイミド(核酸−PC−マレイミド)の構造式を以下に示す。
・タンパク質修飾と紫外線照射・シグナル検出
上記DNA−PC−マレイミドを用い、タンパク質の修飾を行った。タンパク質としてはシステインを6つ有する85kDaのタンパク質を用いた。DNA−PC−マレイミドとタンパク質との反応は、実施例2に記載の手順に従って行った。また、実施例1のDNAマレイミド及び実施例3のPEGマレイミドについても、同様の手順によるタンパク質修飾反応に供した。
得られた各反応物を、電気泳動により分離した。ゲル上に、未反応タンパク質、DNAマレイミドとの反応物、DNA−PC−マレイミドとの反応物、PEGマレイミドとの反応物、及びマーカーを、各々ゲルの左右にロードし、電気泳動に供した。その他の条件は、実施例2に記載の手順に従って行った。
電気泳動後、左右のゲルを分離し、一方のみにトランスイルミネーター(富士フィルム社製LAS-3000mini)で10分間、365nmの紫外線を照射した。
その後、紫外線照射ゲル及び未照射ゲルの各々について、セミドライ式装置でPVDF膜に転写(100mAで50分)を行い、抗Hisタグ抗体(QIAGEN社製)を用いて標識した後に、ECLプライム・ウェスタンブロッティング検出系(GEヘルスケア社製)を用いて、化学発光分析法によりシグナルを検出した。また、タンパク質を転写したPVDF膜をCBB染色法によって可視化した。
図4(a)は、各マレイミド試薬(DNA−PC−マレイミド、DNAマレイミド、PEGマレイミド)による修飾タンパク質の電気泳動結果を示すゲル写真であり、図4(b)の左の図は、電気泳動後、紫外線照射を行うことなく修飾タンパク質をゲルから膜へ転写し、化学発光分析法により可視化した写真であり、図4(b)の右の図は、電気泳動後、ゲルに紫外線照射を行った上で、修飾タンパク質をゲルから膜へ転写し、化学発光分析法により可視化した写真であり、図4(c)の左の図は、電気泳動後、紫外線照射を行うことなく修飾タンパク質をゲルから膜へ転写し、CBB染色法により可視化した写真であり、図4(c)の左の図は、電気泳動後、ゲルに紫外線照射を行った上で、修飾タンパク質をゲルから膜へ転写し、CBB染色法により可視化した写真である。何れの図においても、レーン1は未反応タンパク質であり、レーン2はDNAマレイミドにより修飾したタンパク質であり、レーン3はDNA−PC−マレイミドにより修飾したタンパク質であり、レーン4はPEGマレイミドにより修飾したタンパク質である。
図4(a)と図4(b)の左の図との対比によれば、紫外線非照射の場合には、マレイミド試薬で修飾していない未反応タンパク質のみが膜上で可視化・検出されたことから、未反応タンパク質のみが膜に転写されたことが分かる。マレイミド試薬で修飾したタンパク質が転写されなかったのは、分子量の大きなDNA部分又はPEG部分が転写を阻害したことによるものと考えられる。
一方、図4(a)と図4(b)の右の図との対比によれば、紫外線を照射した場合には、マレイミド試薬で修飾していない未反応タンパク質に加えて、DNA−PC−マレイミドで修飾したタンパク質についても、同程度の強度で膜上で可視化・検出された。このことから、紫外線照射によりDNA部分がゲル中で切り離され、未反応タンパク質と同様に膜に転写されたものと考えられる。
図4(a)と図4(c)の左の図との対比によれば、紫外線非照射の場合には、マレイミド試薬で修飾したタンパク質は、未反応のタンパク質よりも、シグナルが弱いことから、マレイミド試薬で修飾したタンパク質が転写されにくいことが分かる。
一方、図4(a)と図4(c)の右の図との対比によれば、紫外線を照射した場合には、マレイミド試薬で修飾していない未反応タンパク質に加えて、DNA−PC−マレイミドで修飾したタンパク質についても、同程度の強度で膜上で可視化・検出された。
本発明は、タンパク質のチオール基の酸化還元状態の検出が求められる各種産業分野、例えば医薬、医療、食品、化粧品等において有用であり、その利用価値は高い。

Claims (12)

  1. タンパク質のチオール基の酸化還元状態を検出する方法であって、
    タンパク質を核酸マレイミドと混合し、
    混合後のタンパク質の分子質量を測定し、
    測定された分子質量に基づいて、チオール基の酸化還元状態を決定することを含む、方法。
  2. 混合後のタンパク質の分子質量の増加に基づいて、タンパク質が有する還元状態のチオール基の数を決定することにより、チオール基の酸化還元状態を決定する、請求項1に記載の方法。
  3. 核酸マレイミドが、末端にマレイミド基を有する一本鎖の核酸である、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 核酸マレイミドがDNAマレイミドである、請求項1〜3の何れか一項に記載の方法。
  5. 混合物のタンパク質の分子質量の測定を電気泳動により行う、請求項1〜4の何れか一項に記載の方法。
  6. 電気泳動がポリアクリルアミドゲル電気泳動である、請求項5に記載の方法。
  7. 核酸マレイミドが核酸とマレイミドとの間に開裂性連結基を有するとともに、
    電気泳動後に開裂性連結基を開裂させて核酸を切り離し、次いでタンパク質を膜に転写することを更に含む、請求項5又は6に記載の方法。
  8. タンパク質のチオール基を修飾するための試薬であって、核酸マレイミドを溶媒中に含む試薬。
  9. 核酸マレイミドが、末端にマレイミド基を有する一本鎖の核酸である、請求項8に記載の試薬。
  10. 核酸マレイミドがDNAマレイミドである、請求項8又は9に記載の試薬。
  11. 核酸マレイミドが核酸とマレイミドとの間に開裂性連結基を有する、請求項8〜10の何れか一項に記載の試薬。
  12. タンパク質のチオール基の酸化還元状態を検出するためのキットであって、請求項8〜11の何れか一項に記載の試薬と、タンパク質の分子質量決定のための少なくとも一種の電気泳動用試薬とを含むキット。
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