JP2014070644A - 伝動用vベルト - Google Patents

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Abstract

【課題】高負荷を伝達する用途において、補強剤の割合が少なくても、耐久性を向上でき、伝達効率に優れるコグドVベルトを提供する。
【解決手段】ベルトの長手方向に延びる心線2の少なくとも一部と接する接着ゴム層1と、この接着ゴム層1の一方の面に形成された伸張ゴム層4と、接着ゴム層1の他方の面に形成され、その内周面にベルトの長手方向に沿って所定の間隔をおいて形成された複数のコグ部6を有し、かつその側面でプーリに摩擦係合する圧縮ゴム層3とを備えた伝動用ベルトにおいて、接着ゴム層、伸張ゴム層及び圧縮ゴム層を、いずれも水素化ニトリルゴム及び共架橋剤を含む加硫ゴム組成物で形成する。また、伸張ゴム層及び圧縮ゴム層のいずれの層もゴム硬度(デュロメータータイプD)を50〜70°に調整し、接着ゴム層のゴム硬度を30〜60°に調整する。さらに、伸張ゴム層及び圧縮ゴム層において、水素化ニトリルゴム及び共架橋剤の合計100質量部に対して15質量部以下の補強剤を含有させる。
【選択図】図1

Description

本発明は、圧縮ゴム層において内周面に沿って所定間隔で複数の凸部(コグ部)を有し、高負荷用の変速ベルトに適したコグドVベルト(ダブルコグドVベルトも含む)に関する。
従来から、自動2輪車やATV(四輪バギー)、スノーモービルなどの用途に向けられるCVT(無段変速)用のVベルトとしてコグドVベルトが用いられている。コグドVベルトは、ベルトに厚みをもたせることができるため、ベルト側面の単位面積当たりにかかる側圧を小さくすることができ、しかも屈曲性に優れるという利点を有している。ベルトの背面側(伸張ゴム層)にもコグを有するダブルコグドVベルトは、更にベルトに厚みを持たせることができる。
近年、2輪自動車やATV、スノーモービルの大排気量化などに伴って、高負荷化が進んでおり、また、CVTシステムのコンパクト化への要求もあり、ベルトの厚みを厚くすることによる対応は限界に近づいていた。
また、CVTに使用されるベルトの環境温度が高くなっており、従来、動力伝動に用いられるベルトは、主として天然ゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴムなどが使用されてきたが、高温雰囲気下では、硬化した圧縮ゴム層で早期にクラックが生じるという問題が発生した。
特開平8−93858号公報(特許文献1)には、ダブルコグドVベルトにおいて、上コグ(伸張ゴム層)側の厚みを下コグ(圧縮ゴム層)側の厚みに対して0.1〜0.5倍に調整することにより、上コグ側のベルトが破断する上コグ飛び現象を抑制できる無断変速機用Vベルトが開示されている。さらに、この文献には、上コグ側の材質硬度を下コグ側の材質硬度よりも大きくし、ベルトが大きな側圧を受けたときにベルトが皿形状に弾性変形するディッシング現象を抑制し、動力伝達効率を向上できることも記載されている。すなわち、このVベルトでは、伸張ゴム層の硬度を圧縮ゴム層の硬度よりも高くすると、ディッシング(変速プーリに挟持されたVベルトが一対のプーリ片から大きな側圧を受けてベルトが凹状に変形する現象)が発生したときに最も変形の大きくなる伸張ゴム層側でベルトの変形をし難くすることで、より効果的にディッシングを防止できる。この文献には、接着材層は、天然ゴム、スチレン・ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、ブチルゴム、クロロスルホン化エチレン、ポリウレタンゴムなどが記載されている。
しかし、このVベルトでは、伸張ゴム層の硬度を高くすることで心線が埋設されている部分との間で変形の差が大きくなるためか、ベルトの上下剥離が生じ易かった。
特開平10−238596号公報(特許文献2)には、伸張ゴム層及び圧縮ゴム層の少なくとも一方のゴム硬度を90〜96°(JIS−A)とし、接着ゴム層のゴム硬度を83〜89°(JIS−A)に調整したコグドVベルトが開示されている。このコグドVベルトでは、ゴム硬度を前記範囲に調整することにより、プーリからの側圧に耐えてベルトの伝動効率を高めると共に、接着ゴム層における心線の飛び出しやセパレーションを防止している。詳しくは、心線を埋設した接着ゴム層の硬度を低く設定することによって、接着ゴム層が伸張ゴム層や圧縮ゴム層の変形に追従し易くなり、心線の飛び出しやセパレーションを抑制できるとともに、伸張ゴム層と圧縮ゴム層の硬度を高く設定することでディッシングも抑制できる。この文献には、各層のゴム組成物として、クロロプレンゴム及び金属酸化物を含む加硫ゴム組成物が記載されている。さらに、この文献では、伸張及び圧縮ゴム層において、クロロプレンゴム100質量部に対して40〜60質量部の補強性充填剤が配合され、接着ゴムにおいても、クロロプレンゴム100重量部に対して30〜50質量部の補強性充填剤が配合されている。
しかし、このVベルトでは、ベルトを構成するゴム材料の硬度を高すぎ、屈曲性を損なうためか、ベルト表面に亀裂が発生し易く、ベルトの切断も起こり易い。
特開2009−150538号公報(特許文献3)には、圧縮ゴム層及び伸張ゴム層を有しベルト長手方向に沿って心線を埋設したコグドVベルトにおいて、伸張ゴム層のゴム硬度(JIS−A)が85〜92であり、圧縮ゴム層のゴム硬度(JIS−A)が90〜98であり、圧縮ゴム層のゴム硬度が伸張ゴム層のゴム硬度よりも3〜10以上高いコグドVベルトが開示されている。この文献には、伸張ゴム層及び圧縮ゴム層のゴム組成物として、水素化ニトリルゴム又は水素化ニトリルゴムに不飽和カルボン酸金属塩を配合したゴム組成物が記載され、接着ゴム層の詳細については記載されていない。さらに、この文献では、圧縮及び伸張ゴム層において、ゴム成分100質量部に対して、カーボンブラック、アラミド短繊維、酸化亜鉛及び酸化マグネシウムが合計で22質量部以上配合されている。
しかし、このコグドVベルトでも、ベルトを構成するゴム材料(特に圧縮ゴム層)の硬度を高すぎ、屈曲性を損なうためか、ベルト表面に亀裂が発生し易く、ベルトの切断も起こり易い。
特開平8−93858号公報(請求項1及び2、段落[0018][0019][0025]) 特開平10−238596号公報(特許請求の範囲、段落[0008]) 特開2009−150538号公報(特許請求の範囲、実施例)
従って、本発明の目的は、高負荷を伝達する用途において、補強剤の割合が少なくても、耐久性を向上でき、かつ高い伝達効率も保持できるコグドVベルトを提供することにある。
本発明の他の目的は、ベルトの曲げ剛性、耐側圧性を維持し、内部発熱を小さくし、ディッシングの発生を抑制して耐久性を維持できるコグドVベルトを提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、ベルトの屈曲性を備え、耐熱性及び耐油性も向上できるコグドVベルトを提供することにある。
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、コグドVベルトの接着ゴム層、伸張ゴム層及び圧縮ゴム層を水素化ニトリルゴム及び共架橋剤を含む加硫ゴム組成物で形成し、前記伸張ゴム層及び前記圧縮ゴム層の補強剤の割合を少量に調整し、かつ前記各層のゴム硬度を調整することにより、補強剤の割合が少なくても、耐久性を向上でき、かつ高い伝達効率も保持できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の伝動用ベルトは、ベルトの長手方向に延びる心線の少なくとも一部と接する接着ゴム層と、この接着ゴム層の一方の面に形成された伸張ゴム層と、前記接着ゴム層の他方の面に形成され、その内周面にベルトの長手方向に沿って所定の間隔をおいて形成された複数の凸部を有し、かつその側面でプーリに摩擦係合する圧縮ゴム層とを備えた伝動用ベルトであって、前記接着ゴム層、前記伸張ゴム層及び前記圧縮ゴム層が、いずれも水素化ニトリルゴム及び共架橋剤を含む加硫ゴム組成物で形成されており、前記伸張ゴム層及び前記圧縮ゴム層のいずれの層も、温度170℃、圧力2.0MPaで20分間プレス加硫したとき、ゴム硬度(デュロメータータイプD)が50〜70°である加硫ゴム組成物で形成され、前記接着ゴム層が、温度170℃、圧力2.0MPaで20分間プレス加硫したとき、ゴム硬度(デュロメータータイプD)が30〜60°である加硫ゴム組成物で形成され、かつ前記伸張ゴム層及び前記圧縮ゴム層のいずれの層も水素化ニトリルゴム及び共架橋剤の合計100質量部に対して15質量部以下の補強剤を含む。前記伸張ゴム層及び前記圧縮ゴム層は、いずれの層においても前記接着ゴム層よりも大きいゴム硬度(例えば、6〜30°、好ましくは7〜28°高いゴム硬度)を有していてもよい。前記伸張ゴム層及び前記圧縮ゴム層は、いずれの層においても接着ゴム層よりも水素化ニトリルゴムに対する共架橋剤の割合が大きくてもよい。前記伸張ゴム層及び前記圧縮ゴム層において、共架橋剤の割合は水素化ニトリルゴム及び共架橋剤の合計量に対して40〜70質量%であってもよく、前記接着ゴム層において、共架橋剤の割合は水素化ニトリルゴム及び共架橋剤の合計量に対して5〜40質量%であってもよい。前記共架橋剤は複数のラジカル重合性基を有する共架橋剤(特に不飽和カルボン酸金属塩)であってもよい。前記伸張ゴム層及び前記圧縮ゴム層のいずれの層も、温度170℃、圧力2.0MPaで20分間プレス加硫したとき、JIS K6394に準じて周波数10Hzで測定された70℃の貯蔵弾性率(E’)が200〜300MPaであり、かつ損失係数(Tanδ)が0.05〜0.2である加硫ゴム組成物で形成されていてもよい。前記伸張ゴム層及び前記圧縮ゴム層のいずれの層も水素化ニトリルゴム及び共架橋剤の合計100質量部に対して1〜10質量部の補強剤を含んでいてもよい。前記補強剤は短繊維及び無機充填剤を含んでいてもよい。
なお、本明細書では、「補強剤」とは、硬質の材質で形成され、ゴム成分を補強可能な添加剤を意味し、加硫ゴム組成物を補強するために慣用的に使用される補強剤(補強の目的で添加される充填剤など)に加えて、架橋助剤などの他の目的で添加される添加剤(酸化亜鉛、酸化マグネシウムなどの無機材料など)も含む意味で用いる。
本発明では、コグドVベルトの接着ゴム層、伸張ゴム層及び圧縮ゴム層を水素化ニトリルゴム及び共架橋剤を含む加硫ゴム組成物で形成され、前記伸張ゴム層及び前記圧縮ゴム層の補強剤の割合が少量に調整され、かつ前記各層のゴム硬度が調整されているため、補強剤の割合が少なくても、耐久性を向上でき、かつ高い伝達効率も保持できる。そのため、長期間使用しても、ベルトの摩耗や亀裂、心線の剥離などを抑制できる。また、ベルトの曲げ剛性、耐側圧性を維持し、内部発熱を小さくし、ディッシングの発生を抑制して耐久性を維持できる。さらに、ベルトの屈曲性を備え、耐熱性及び耐油性も向上できる
図1は、コグドVベルトの一例を示す概略断面図である。 図2は、実施例で作製されたダブルコグドVベルトの概略斜視図である。 図3は、実施例での耐久走行試験を説明するための概略図である。
[伝動用ベルト]
本発明の伝動用ベルトは、ベルトの長手方向に延びる心線の少なくとも一部と接する接着ゴム層と、この接着ゴム層の一方の面に形成された伸張ゴム層と、前記接着ゴム層の他方の面に形成され、その内周面にベルトの長手方向に沿って所定の間隔をおいて形成された複数の凸部(コグ部)を有し、かつその側面でプーリに摩擦係合する圧縮ゴム層とを備えていればよい。このような伝動用ベルトには、圧縮ゴム層にのみ前記コグ部が形成されたコグドベルト、圧縮ゴム層に加えて、伸張ゴム層の外周面にも同様のコグ部が形成されたダブルコグドベルトが含まれる。コグドベルトは、圧縮ゴム層の側面がプーリと接するVベルト(特に、ベルト走行中に変速比が無段階で変わる変速機に使用される変速ベルト)が好ましい。コグドVベルトとしては、例えば、ローエッジコグドVベルト、ローエッジダブルコグドVベルトなどが挙げられる。
図1は、本発明の伝動用Vベルト(ローエッジコグドVベルト)の一例を示す概略断面図である。この例では、伝動用Vベルト1は、接着ゴム層1内に心線2が埋設されており、接着ゴム層1の一方の表面には圧縮ゴム層3が積層され、接着ゴム層1の他方の表面には伸張ゴム層4が積層されている。なお、心線2は上下一対の接着ゴムシートに挟持された形態で一体に埋設されている。さらに、圧縮ゴム層3には補強布5が積層され、コグ付き成形型によりコグ部6が形成されている。各コグ部6のベルト長手方向における断面形状は山形状(略半円状)又は台形状である。すなわち、各コグ部1aは、ベルト厚み方向において、コグ底部から断面山形状又は台形状に突出している。圧縮ゴム層3と補強布5との積層体は、補強布と圧縮ゴム層用シート(未加硫ゴムシート)との積層体を加硫することにより一体に形成されている。なお、ベルト幅方向における断面形状は、ベルト外周側から内周側に向かってベルト幅が小さくなる台形状である。
コグ部6の高さやピッチは、慣用のコグドVベルトと同様である。圧縮ゴム層では、コグ部の高さは、圧縮ゴム層全体の厚みに対して50〜95%(特に60〜80%)程度であり、コグ部のピッチ(隣接するコグ部の中央部同士の距離)は、コグ部の高さに対して50〜250%(特に80〜200%)程度である。伸張ゴム層にコグ部を形成する場合も同様である。
(心線)
心線は、少なくともその一部が接着ゴム層と接していればよく、接着ゴム層が心線を埋設する形態に限定されず、接着ゴム層と伸張ゴム層との間、接着ゴム層と圧縮ゴム層との間に心線を埋設する形態であってもよい。
心線を構成する繊維としては、例えば、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維など)、ポリアミド繊維(ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維、ポリアミド46繊維、アラミド繊維など)、ポリアルキレンアリレート系繊維[ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維などのポリC2−4アルキレンC6−14アリレート系繊維など]、ビニロン繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維などの合成繊維;綿、麻、羊毛などの天然繊維;炭素繊維などの無機繊維などが例示できる。これらのうち、高モジュラスの点から、ポリエステル繊維、アラミド繊維などの合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維などの無機繊維などが汎用され、ベルトスリップ率を低下できる点から、PET繊維やPEN繊維などのポリエステル繊維、アラミド繊維が特に好ましい。ポリエステル繊維はマルチフィラメント糸であってもよい。マルチフィラメント糸で構成される心線の繊度は、例えば、2000〜10000デニール(特に4000〜8000デニール)程度であってもよい。心線は、ゴム成分との接着性を改善するため、慣用の接着処理、例えば、レゾルシン−ホルマリン−ラテックス液(RFL液)による接着処理に供してもよい。
心線としては、通常、マルチフィラメント糸を使用した撚りコード(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚りなど)を使用できる。心線の平均線径(撚りコードの繊維径)は、例えば、0.5〜3mm、好ましくは0.6〜2mm、さらに好ましくは0.7〜1.5mm程度であってもよい。心線はベルトの長手方向に埋設され、ベルトの長手方向に平行に所定のピッチで並列的に配設してもよい。
(伸張ゴム層及び圧縮ゴム層)
伸張ゴム層及び圧縮ゴム層は、いずれも水素化ニトリルゴム及び共架橋剤を含む加硫ゴム組成物で形成されており、後述するゴム硬度、共架橋剤及び補強剤の割合を充足する限り、両層は、同一の加硫ゴム組成物で形成されていてもよく、異なる加硫ゴム組成物で形成されていてもよいが、簡便性や生産性などの点から、両層は同一の加硫ゴム組成物で形成されていてもよい。
(1)水素化ニトリルゴム
水素化ニトリルゴム(HNBR)とは、従来のニトリルゴム(アクリロニトリル−ブタジエンゴム)の利点である耐油性を維持しつつ、熱老化中の硫黄の再結合反応によるゴム弾性の老化を防ぐため、従来のニトリルゴムが有する不飽和結合(炭素・炭素二重結合)を化学的に水素化することによって、熱老化中の再結合反応の発生を抑制し、耐熱性を改良したゴムである。
水素化ニトリルゴムとしては、適度な二重結合を有する不飽和ゴム(ポリマー分子鎖中に炭素・炭素二重結合(C=C結合)からなる不飽和結合を有するゴム)を用いることにより、架橋性を向上でき、補強剤の割合が少なくても、ベルトの耐久性を向上できる。水素化ニトリルゴムの不飽和結合の量は、ヨウ素価を用いて評価できる。すなわち、ヨウ素価とは、不飽和結合の量を表す指標であり、ヨウ素価が高いほど、ポリマー分子鎖中に含まれる不飽和結合の量が多いことを表す。
水素化ニトリルゴムのヨウ素価(中心値)は、例えば、7〜30mg/100mg、好ましくは10〜29mg/10mg、さらに好ましくは11〜28mg/100mg(特に15〜28mg/100mg)程度である。水素化ニトリルゴムのヨウ素価が小さすぎると、水素化ニトリルゴム同士の架橋反応が十分ではなく、各ゴム層の剛性が低くなるため、ベルト走行時にディッシングしやすくなりなる虞がある、一方、水素化ニトリルゴムのヨウ素価が大きすぎると、不飽和結合の量が過剰に多くなり、各ゴム層の耐熱性の低下や酸化による劣化が進行してベルト寿命が短くなる虞がある。
本明細書では、ヨウ素価の測定方法としては、測定試料に対して過剰のヨウ素を加えて完全に反応(ヨウ素と不飽和結合との反応)させ、残ったヨウ素の量を酸化還元滴定により定量することにより求めることができる。
水素化ニトリルゴムにおけるアクリロニトリル含量(中心値)は、例えば、10〜50質量%、好ましくは20〜45質量%、さらに好ましくは30〜42質量%(特に35〜40質量%)程度である。アクリロニトリル含量が少なすぎると、耐熱性や耐油性、耐摩耗性が低下し、アクリロニトリル含量が多すぎると、架橋が困難となり、ベルトの耐久性が低下する。
水素化ニトリルゴムは、重合成分であるアクリロニトリル及びブタジエンに加えて、慣用の共重合成分(例えば、メタクリロニトリル、(メタ)アクリル酸、2−メチル−5−ビニルピリジンなどのビニル系化合物、イソプレン、メチルブタジエン、ペンタジエンなどのジエン系化合物など)を含んでいてもよい。
(2)共架橋剤
本発明では、前記水素化ニトリルゴムと共架橋剤(架橋助剤、又は共加硫剤co-agent)とを組み合わせることにより、水素化ニトリルゴムを架橋し、ベルトの耐久性を向上できる。
共架橋剤(架橋助剤、又は共加硫剤co-agent)としては、慣用の共架橋剤、例えば、複数のラジカル重合性基を有する架橋剤などを利用できる。複数のラジカル重合性基を有する架橋剤としては、例えば、多官能(メタ)アクリレート[例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなど]、不飽和カルボン酸の金属塩[例えば、(メタ)アクリル酸マグネシウム、(メタ)アクリル酸カルシウム、(メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸アルミニウムなど]、多官能(イソ)シアヌレート[例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート(TAC)など]、ポリジエン(例えば、1,2−ポリブタジエンなど)などが挙げられる。これらの共架橋剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
これらの共架橋剤のうち、ベルトの架橋性を向上できる点から、不飽和カルボン酸の金属塩が好ましい。不飽和カルボン酸金属塩とは、1又は2以上のカルボキシル基を有する不飽和カルボン酸と金属とがイオン結合した化合物である。不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸などの不飽和モノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸などの不飽和ジカルボン酸が例示できる。これらの不飽和カルボン酸は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの不飽和カルボン酸のうち、(メタ)アクリル酸などの不飽和モノカルボン酸が好ましい。
金属としては、周期表第2族金属(マグネシウム、カルシウムなど)、第4族金属(チタン、ジルコニウムなど)、第8族金属(鉄など)、第10族金属(ニッケルなど)、第11族金属(銅など)、第12族金属(亜鉛など)、第13族金属(アルミニウムなど)、第14族金属(鉛など)などの多価金属が例示できる。これらの金属は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの金属のうち、マグネシウム、カルシウム、亜鉛などの二価金属、アルミニウムなどの三価金属(特に亜鉛などの二価金属)が好ましい。
これらのうち、2官能のラジカル重合性基を有するモノカルボン酸二価金属塩、例えば、メタクリル酸亜鉛などの(メタ)アクリル酸亜鉛、メタクリル酸マグネシウムなどの(メタ)アクリル酸マグネシウム(特にメタクリル酸亜鉛)が好ましい。
共架橋剤は、水素化ニトリルゴムと別個に圧縮ゴム層又は伸張ゴム層用組成物に配合してもよく、予めゴム中に共架橋剤が微分散された水素化ニトリルゴム組成物(市販品など)を用いてもよい。さらに、不飽和カルボン酸金属塩では、不飽和カルボン酸(例えば、(メタ)アクリル酸など)と金属化合物(例えば、酸化物、炭酸塩、水酸化物など)とを別個に水素化ニトリルゴム中に配合して、ゴム中で塩を形成させてもよい。
伸張ゴム層及び圧縮ゴム層は、いずれの層においても接着ゴム層よりも水素化ニトリルゴムに対する共架橋剤の割合が大きい方が好ましい。伸張ゴム層及び圧縮ゴム層における共架橋剤の割合を、接着ゴム層よりも大きくすることにより、伸張ゴム層及び圧縮ゴム層のゴム強度と、両層と接着ゴム層との密着性とを両立でき、ベルトの耐久性を向上できる。
伸張ゴム層及び圧縮ゴム層において、共架橋剤(特に不飽和カルボン酸金属塩)の割合は、水素化ニトリルゴム及び共架橋剤の合計量に対して、例えば、40〜70質量%、好ましくは30〜60質量%、さらに好ましくは35〜50質量%(特に40〜50質量%)程度である。不飽和カルボン酸金属塩の割合が少なすぎると、伸張ゴム層及び圧縮ゴム層に十分な硬度が得られないため、ベルトは変形してディッシングし易くなり耐久性が低下する。また、低架橋になるため、耐摩耗性も低下する。一方、不飽和カルボン酸金属塩の割合が多すぎると、伸張ゴム層及び圧縮ゴム層の硬度が過剰に高くなるため、各ゴム層の変形は少ないものの、ベルトの耐屈曲疲労性が低下する。また、接着ゴム層との接着性も低下するため、耐久性が低下する。
(3)補強剤
伸張ゴム層及び圧縮ゴム層は、ベルトの耐久性を向上させるために、補強剤を含んでいてもよい。補強剤としては、加硫ゴム組成物の補強剤として慣用的に使用される補強剤、例えば、無機材料、高融点樹脂で形成された補強剤などを使用できる。このような補強剤には、短繊維、無機充填剤が含まれる。
短繊維としては、例えば、前記心線の項で例示された繊維などを例示できる。これらの短繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。前記繊維のうち、合成繊維や天然繊維、特に合成繊維(ポリアミド繊維、ポリアルキレンアリレート系繊維など)が好ましく、剛直で高い強度、モジュラスを有する点から、少なくともアラミド繊維を含む短繊維が特に好ましい。
短繊維の平均長さは、例えば、1〜20mm、好ましくは2〜15mm、さらに好ましくは3〜10mm程度であり、平均繊維径は、例えば、5〜50μm、好ましくは7〜40μm、さらに好ましくは10〜35μm程度である。短繊維は、心線と同様に接着処理(又は表面処理)されていてもよい。
前述のように、伸張ゴム層及び圧縮ゴム層には、ベルトの耐久性を向上させるために、短繊維を配合してもよいが、配合する場合であっても、通常の伝動ベルトに比べて、その割合は少量である。本発明では、短繊維の割合が少量であっても、ベルトに要求される耐久性を保持でき、ベルトの伝達効率を向上できる。短繊維の割合は、水素化ニトリルゴム及び共架橋剤の合計100質量部に対して、例えば、1〜10質量部、好ましくは2〜8質量部、より好ましくは2〜5質量部である。短繊維の割合が少なすぎると、伝動面の摩擦係数が上昇して粘着磨耗による発音が発生する可能性があるため、少量でも短繊維を含有するのが好ましい。一方、短繊維の割合が多すぎると、各ゴム層を構成するゴム組成物の貯蔵弾性率E´が過剰に高くなってほとんど変形しなくなり、変形による噛み合い位置の調整ができず、ゴム層への損傷が大きくなる。
無機充填剤としては、例えば、炭素質材料(カーボンブラック、グラファイトなど)、金属化合物又は合成セラミックス(酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウムなどの金属酸化物、ケイ酸カルシウムやケイ酸アルミニウムなどの金属ケイ酸塩、炭化ケイ素や炭化タングステンなどの金属炭化物、窒化チタン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素などの金属窒化物、炭酸マグネシウムや炭酸カルシウムなどの金属炭酸塩、硫酸カルシウムや硫酸バリウムなどの金属硫酸塩など)、鉱物質材料(ゼオライト、ケイソウ土、焼成珪成土、活性白土、アルミナ、シリカ、タルク、マイカ、カオリン、セリサイト、ベントナイト、モンモリロナイト、スメクタイト、クレーなど)などが挙げられる。これらの無機充填剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
これらの無機充填剤のうち、カーボンブラックなどの炭素質材料、シリカなどの鉱物質材料などが汎用される。
無機充填剤の形状は、粒状、板状、不定形状などである。無機充填剤の平均粒径は、種類に応じて、10nm〜10μm程度の範囲から適宜選択でき、カーボンブラックの場合、10〜500nm、好ましくは20〜300nm、さらに好ましくは30〜100nm程度であってもよい。
無機充填剤の割合は、水素化ニトリルゴム及び共架橋剤の合計100質量部に対して15質量部以下であってもよく、例えば、10質量部以下、好ましくは1〜10質量部、さらに好ましくは2〜8質量部程度である。無機充填剤(特にカーボンブラック)の割合が多すぎると、各ゴム層を構成するゴム組成物の発熱が大きくなり、前記ゴム組成物の耐熱性が低下するため、熱老化により亀裂が発生し易くなる。
補強剤(特に、短繊維及び無機充填剤の総量)の割合は、水素化ニトリルゴム及び共架橋剤の合計100質量部に対して15質量部以下であってもよく、例えば、1〜15質量部、好ましくは12質量部以下(例えば、1〜12質量部)、更に好ましくは10質量部以下(特に1〜10質量部)で配合される。補強剤の割合が多すぎると、硬度が高くなり、貯蔵弾性率(E´)、Tanδが大きくなって内部発熱が起こり易くなり、さらには屈曲性が低下するため、伝達効率も低下し、また耐久性も低下する。
(4)伸張ゴム層及び圧縮ゴム層の硬度
伸張ゴム層及び圧縮ゴム層を構成するゴム組成物は、温度170℃、圧力2.0MPaで20分間プレス加硫したとき、ゴム硬度(デュロメータータイプD)が50〜70°であるゴム組成物であり、本発明では、両層の硬度がこの範囲にあるため、高負荷を伝達する用途に用いる場合であっても、ディッシングの発生を抑制でき、屈曲によるロスも小さいため、伝達効率の向上が可能となる。両層の硬度は、好ましくは55〜68°、さらに好ましくは58〜67°(特に60〜65°)程度であってもよい。硬度が小さすぎると、高負荷伝動時のディッシングが発生し、伝達効率が低下し、耐摩耗性も低下する。一方、硬度が大きすぎると、内部発熱が大きく、ベルトの耐屈曲疲労性が低下するために伝達効率が低下し、また心線との接着性が低下により、耐久性が低下する。
なお、前記条件で測定したゴム組成物の硬度は、伝動用ベルトの伸張ゴム層及び圧縮ゴム層の硬度(伝動用ベルトにおける最終品の硬度)に実質的に等しい。また、本明細書では、ゴム硬度は、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
(5)伸張ゴム層及び圧縮ゴム層の粘弾性
伸張ゴム層及び圧縮ゴム層を構成するゴム組成物は、内部発熱が起こりにくく、ディッシングの発生も押さえることができ、ベルトの耐久性が向上できる点から、温度170℃、圧力2.0MPaで20分間プレス加硫したとき、所定の粘弾性[JIS K6394に準じて周波数10Hzで測定された70℃の貯蔵弾性率(E’)及び損失係数(Tanδ)]を有するのが好ましい。
すなわち、前記貯蔵弾性率(E’)は、例えば、180〜400MPa、好ましくは200〜300MPa、さらに好ましくは205〜280MPa(特に210〜250MPa)程度である。E’とは、周期振動を与える動的状態の試験から得られる弾性率であり、歪と同位相の弾性応力の比率として定義される。E’が高いほど物体は変形しにくくなり、高負荷条件のような強い外部の力でも変形量は小さくなるので、亀裂や切断などを抑制できるが、高すぎる場合は、接着ゴム層との接着が低下する。一方、E’が低くすぎると、物体は変形し易くなるため、小さな外部力でも物体は容易に切断、破壊が起こる。
前記損失係数(Tanδ)は、例えば、0.01〜0.3、好ましくは0.05〜0.2、さらに好ましくは0.08〜0.15(特に0.09〜0.12)程度である。Tanδとは、損失弾性率(E’’)をE’で除した値であり、振動1サイクルの間に熱として散逸されるエネルギーと貯蔵される最大エネルギーとの比の尺度となっている。すなわち、Tanδはゴム組成物に加えられる振動エネルギーが熱として散逸され易さを表すものであり、Tanδが大きすぎると、外部から加えられるエネルギーの多くが熱に変換されるため、ゴム組成物は自己発熱により温度が高くなり、耐熱性が低下する。一方、Tanδが低すぎると、発熱量は低く抑えられるため、ゴム組成物の耐熱性は向上する。
なお、前記条件で測定したゴム組成物の粘弾性は、伝動用ベルトの伸張ゴム層及び圧縮ゴム層の粘弾性(伝動用ベルトにおける最終品の粘弾性)に実質的に等しい。また、本明細書では、貯蔵弾性率(E’)及び損失係数(Tanδ)は、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
(6)加硫剤又は架橋剤
伸張ゴム層及び圧縮ゴム層を形成するための加硫ゴム組成物は、加硫剤又は架橋剤(又は架橋剤系)を含んでいてもよい。
加硫剤又は架橋剤としては、例えば、金属酸化物(酸化マグネシウム、酸化亜鉛など)、有機過酸化物、硫黄系加硫剤(末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、塩化硫黄など)などが例示できる。これらの架橋剤又は加硫剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用してもよい。
これらのうち、有機過酸化物が好ましい。有機過酸化物としては、通常、ゴム、樹脂の架橋に使用されている有機過酸化物、例えば、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイド(例えば、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、1,1−ジ−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)−ヘキサン、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシ−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルパーオキサイドなど)などが挙げられる。これらの有機過酸化物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。さらに、有機過酸化物は、熱分解による1分間の半減期が150〜250℃(例えば、175〜225℃)程度の過酸化物が好ましい。
加硫剤又は架橋剤(特に有機過酸化物)の割合は、水素化ニトリルゴム及び共架橋剤の合計100質量部に対して、固形分換算で、1〜10質量部、好ましくは1.2〜8質量部、さらに好ましくは1.5〜6質量部(例えば、2〜5質量部)程度である。
(7)他の添加剤
伸張ゴム層及び圧縮ゴム層を形成するための加硫ゴム組成物は、必要に応じて、慣用の添加剤、加硫助剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、軟化剤(パラフィンオイル、ナフテン系オイル、プロセスオイルなどのオイル類など)、加工剤又は加工助剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィン、脂肪酸アマイドなど)、老化防止剤(酸化防止剤、熱老化防止剤、屈曲き裂防止材、オゾン劣化防止剤など)、着色剤、粘着付与剤、可塑剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(紫外線吸収剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤、熱安定剤など)、潤滑剤、難燃剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
これらの添加剤の割合は、種類に応じて慣用の範囲から選択でき、例えば、水素化ニトリルゴム及び共架橋剤の合計100質量部に対して、加工剤(ステアリン酸など)の割合は0.1〜5質量部(特に0.5〜3質量部)程度であってもよく、老化防止剤の割合が0.5〜10質量部(特に1〜7質量部)程度であってもよい。
圧縮ゴム層の厚みは、例えば、2〜25mm、好ましくは3〜16mm、さらに好ましくは4〜12mm程度である。伸張ゴム層の厚みは、例えば、0.8〜10mm、好ましくは1.2〜6.5mm、さらに好ましくは1.6〜5.2mm程度である。
(接着ゴム層)
接着ゴム層も、水素化ニトリルゴム及び共架橋剤を含む加硫ゴム組成物で形成されている。水素化ニトリルゴムとしては、伸張ゴム層及び圧縮ゴム層の項で記載された水素化ニトリルゴムを利用できる。水素化ニトリルゴムは、伸張ゴム層及び圧縮ゴム層の水素化ニトリルゴムと異なっていてもよいが、同一のゴムを使用する場合が多い。
共架橋剤としては、伸張ゴム層及び圧縮ゴム層の項で記載された共架橋剤を利用できる。接着ゴム層においても、伸張ゴム層及び圧縮ゴム層と同様に、不飽和カルボン酸の金属塩が好ましいが、前述のように、接着ゴム層では、接着性の向上のために、伸張ゴム層及び圧縮ゴム層よりも水素化ニトリルゴムに対する共架橋剤の割合が小さい方が好ましい。
接着ゴム層において、共架橋剤(特に不飽和カルボン酸金属塩)の割合は、水素化ニトリルゴム及び共架橋剤の合計量に対して、例えば、5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%、さらに好ましくは12〜20質量%程度である。不飽和カルボン酸金属塩の割合が少なすぎると、接着ゴム層の硬度が低下し、心線のピッチラインが乱れ、ベルトの耐久性が低下する。一方、不飽和カルボン酸金属塩の割合が多すぎると、心線との接着性が低下する。
接着ゴム層を構成するゴム組成物は、温度170℃、圧力2.0MPaで20分間プレス加硫したとき、ゴム硬度(デュロメータータイプD)が30〜60°であるゴム組成物であり、本発明では、接着ゴム層の硬度がこの範囲にあるため、高負荷を伝達する用途に用いる場合であっても、ディッシングの発生を抑制でき、屈曲によるロスも小さいため、伝達効率の向上が可能となる。接着ゴム層の硬度は、好ましくは32〜55°、さらに好ましくは35〜50°(特に38〜48°)程度であってもよい。硬度が小さすぎると、心線に接着ゴム層が侵入し易くなって、心線の並びが悪くなってピッチラインが乱れることによりベルトの耐久性が低下する。一方、硬度が大きすぎると、共架橋剤(特に不飽和カルボン酸金属塩)の割合が多くなって心線との接着性が低下するため、心線−接着ゴム間剥離が発生し易くなる。
なお、前記条件で測定したゴム組成物の硬度は、伝動用ベルトの接着ゴム層の硬度(伝動用ベルトにおける最終品の硬度)に実質的に等しい。
本発明では、伸張ゴム層及び圧縮ゴム層は、両層ともに、接着ゴム層よりも大きいゴム硬度を有するのが好ましい。具体的には、接着層のゴム硬度と、伸張ゴム層又は圧縮ゴム層のゴム硬度との差(伸張ゴム層又は圧縮ゴム層のゴム硬度−接着層のゴム硬度)は、例えば、6〜30°、好ましくは7〜28°(例えば、7〜25°)、さらに好ましくは10〜26°(特に15〜25°)程度である。硬度差が小さすぎると、圧縮ゴム層や伸張ゴム層の硬度が小さくなるため、高負荷伝動時のディッシングが発生し、伝達効率が低下する。また、不飽和カルボン酸金属塩含有量の量が減少するために、耐摩耗性が低下する。一方、硬度差が大きすぎると、圧縮ゴム層と接着ゴム層との界面、また伸張ゴム層と接着ゴム層との界面で、剥離が発生し易くなる。
接着ゴム層を形成するための加硫ゴム組成物も、伸張ゴム層及び圧縮ゴム層の項で記載された無機充填剤、加硫剤又は架橋剤(又は架橋剤系)、慣用の添加剤を含んでいてもよい。接着ゴム層では、さらに[レゾルシン−ホルムアルデヒド共縮合物、アミノ樹脂、これらの共縮合物(レゾルシン−メラミン−ホルムアルデヒド共縮合物など)など]を含んでいてもよい。
これらの添加剤の割合も伸張ゴム層及び圧縮ゴム層と同様であるが、無機充填剤の割合は、水素化ニトリルゴム及び共架橋剤の合計100質量部に対して、例えば、1〜50質量部、好ましくは3〜40質量部、さらに好ましくは5〜30質量部(特に10〜25質量部)程度であってもよい。さらに、接着ゴム層は、通常、短繊維を含まない。
接着ゴム層の厚みは、ベルトの種類に応じて適宜選択でき、例えば、0.4〜3.0mm、好ましくは0.6〜2.2mm、さらに好ましくは0.8〜1.4mm程度であってもよい。
(補強布)
伝動用Vベルトにおいて、補強布を使用する場合、圧縮ゴム層の表面に補強布を積層する形態に限定されず、例えば、伸張ゴム層の表面(接着ゴム層と反対側の面)に補強布を積層してもよく、圧縮ゴム層及び/又は伸張ゴム層に補強層を埋設する形態であってもよい。補強布は、例えば、織布、広角度帆布、編布、不織布などの布材(好ましくは織布)などで形成でき、必要であれば、前記接着処理、例えば、RFL液で処理(浸漬処理など)したり、接着ゴムを前記布材にすり込むフリクションや、前記接着ゴムと前記布材とを積層(コーティング)した後、圧縮ゴム層及び/又は伸張ゴム層の表面に積層してもよい。
なお、本明細書では、圧縮ゴム層又は伸張ゴム層の表面に補強布が積層された場合、補強布も含めた形態で(すなわち、圧縮ゴム層又は伸張ゴム層と補強布との積層体を)、圧縮ゴム層又は伸張ゴム層と定義する。
[伝動用ベルトの製造方法]
本発明の伝動用ベルトの製造方法は、特に限定されず、各層の積層工程(ベルトスリーブの製造方法)に関しては、慣用の方法を利用できる。
例えば、補強布(下布)と圧縮ゴム層用シート(未加硫ゴム)からなる積層体を、前記補強布を下にして歯部と溝部とを交互に配した平坦なコグ付き型に設置し、温度60〜100℃(特に70〜80℃)程度でプレス加圧することによってコグ部を型付けしたコグパッド(完全には加硫しておらず、半加硫状態にあるパッド)を作製した後、このコグパッドの両端をコグ山部の頂部から垂直に切断してもよい。さらに、円筒状の金型に歯部と溝部とを交互に配した加硫ゴム製の内母型を被せ、この歯部と溝部に係合させてコグパッドを巻き付けてコグ山部の頂部でジョイントし、この巻き付けたコグパッドの上に第1の接着ゴム層用シート(下接着ゴム:未加硫ゴム)を積層した後、心線を螺旋状にスピニングし、この上に第2の接着ゴム層用シート(上接着ゴム:前記接着ゴム層用シートと同じ)、伸張ゴム層用シート(未加硫ゴム)、補強布(上布)を順次巻き付けて成形体を作製してもよい。その後、加硫ゴム製のジャケットを被せて金型を加硫缶に設置し、温度120〜200℃(特に150〜180℃)程度で加硫してベルトスリーブを調製した後、カッターなどを用いて、V状に切断加工してもよい。
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下の例において、各物性における測定方法又は評価方法、実施例に用いた原料を以下に示す。なお、特にことわりのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
[加硫ゴム組成物の物性]
(1)硬度
表1及び2の未加硫の接着ゴム層用シート、圧縮ゴム層用シート及び伸張ゴム層用シートを、温度170℃、時間20分でプレス加硫(圧力2.0MPa)を行い、加硫ゴムシート(長さ100mm、幅100mm、厚み2mm)を作製した。JIS K6253に準じ、加硫ゴムシートを3枚重ね合わせた積層物を試料とし、デュロメータD形硬さ試験機を用いて硬度を測定した。なお、圧縮ゴム層については、表3に示す変速のゴム硬度についてもデュロメータD形硬さ試験機を用いて測定した。
(2)粘弾性
ゴム組成物の加硫物の特性として、70°C温度条件下で、E’及びTanδを測定した。JIS K6394に準じてサンプルを作製した。加硫は、ベルトと同様に加硫温度170°C、加硫時間20分でプレス加硫(圧力2.0MPa)を行った。粘弾性の測定条件は、下記の通りである。
(測定条件)
・試験機名:(株)上島製作所製「粘弾性測定装置VR7121」
・試料サイズ:厚み2mm×幅4mm×長さ40mm
・測定温度範囲:−40°C〜150°C
・昇温速度:1℃/分
・初期歪:1%
・動歪:0.5%
・周波数:10Hz
・歪方向:短繊維平行方向
E’及びTanδの測定方法としては、前記試料サイズのサンプルを、粘弾性測定装置のチャック部にチャック間距離15mmとしてチャッキングし、初期歪1%を与えた。次に、−40°Cの雰囲気温度で5分間程度放置し、10Hzの周波数を1.6秒間与えることで0.5%歪を更に与えた。次に、1°Cずつ昇温させ、1°Cにつき0.5%の動歪を与えながら150°C迄昇温させ、70°C時点でのE´及びTanδを求めた。
[ベルトの物性]
(1)伝達効率試験
伝達効率試験では、図3にレイアウトを示すように、ローエッジコグドベルト(サイズ:上幅26.7mm、厚さ12.2mm、外周長1023mm)21を、駆動プーリ22がφ72mm、従動プーリ23がφ170mm、軸間距離305mmの2軸に懸架し、駆動側の回転数2,000〜4,000rpm、軸荷重400N、駆動側トルク0〜最大50Nmで変量させ、変速比2.2、室温雰囲気下で各々の駆動プーリの回転数にて従動プーリのトルクを増加させていった際の伝達効率を下記式に基づいて評価した。本試験では駆動プーリの回転数2,000rpmで従動プーリのトルク20N時の伝達効率を求めた。
伝達効率=(Dn回転数×Dnトルク)×100/(Dr回転数×Drトルク)
(2)耐久性
2時間走行させた後のベルトの外観変化及び寸法変化を測定して、耐久性を評価した。
(試験条件)
・試験機:2軸耐久試験機(駆動プーリ:プーリ径82.8mm、従動プーリ:プーリ径165.6mm)
・評価ベルトサイズ:サイズ:上幅26.7mm、厚さ12.2mm、外周長1023mm
・荷重:400N
・変速比:2.2(LOW条件)
・回転数:駆動側4000rpm
・トルク:駆動側20Nm
・雰囲気温度:65℃
[原料]
HNBR:水素化ニトリルゴム、日本ゼオン(株)製「ゼットポール2020」
MA−Zn含有HNBR:メタクリル酸亜鉛を50質量%含む水素化ニトリルゴム、日本ゼオン(株)製「Zeoforte ZSC2295」
アラミド短繊維:帝人テクノプロダクツ(株)製「テクノーラ」、カット糸、平均繊維長3mm、平均繊維径12μm
カーボンブラック:HAFカーボンブラック、東海カーボン(株)製「シースト3」
老化防止剤:精工化学(株)製「ノンフレックスOD3」
有機過酸化物:1,3−ビス(t−ブチルペルオキシドイソプロピル)ベンゼン、日油(株)製「パーブチルP」
心線:1,000デニールのPET繊維を2×3の撚り構成で、上撚り係数3.0、下撚り係数3.0で緒撚りしたトータルデニール6,000のコードを接着処理した繊維。
実施例1〜7及び比較例1〜3
(ゴム層の形成)
表1(伸張ゴム層、圧縮ゴム層)及び表2(接着ゴム層)のゴム組成物は、それぞれ、バンバリーミキサーなど公知の方法を用いてゴム練りを行い、この練りゴムをカレンダーロールに通して圧延ゴムシート(伸張ゴム層用シート、圧縮ゴム層用シート、接着ゴム層用シート)を作製した。
実施例及び比較例で得られた加硫ゴム組成物の物性の評価結果も表1及び2に示す。
Figure 2014070644
Figure 2014070644
(変速ベルトの製造)
モールドに装着したコグ形状のついた加硫ゴム製の内母型の表面に、予め所定厚みの圧縮ゴム層用シートにコグ部を型付け成形したシート状のコグパッドを巻き付けてジョイントした後、下部接着ゴム用シート、心線、上部接着ゴム用シート、そして平坦な伸張ゴム層を順次巻き付けて成形体を作製した。続いて、成形体の表面に、コグ形状のついた加硫ゴム製の外母型とジャケットを被せてモールドを加硫缶に設置し、温度160℃、時間40分、0.9MPaで加硫してベルトスリーブを得た。尚、加硫条件は未加硫の接着ゴム層用シート、圧縮ゴム層用シート及び伸張ゴム層用シートの加硫に類似する条件を選択した。このスリーブをカッターによってV状に切断して変速ベルトに仕上げた。すなわち、図2に示す構造のダブルコグドVベルトを作製した。詳しくは、心線12を埋設した接着ゴム層11の両面に、それぞれ圧縮ゴム層13及び伸張ゴム層14が形成されたローエッジコグドVベルトにおいて、圧縮ゴム層13及び伸張ゴム層14のいずれにも、それぞれコグ部16,17が形成されているベルト(サイズ:上幅26.7mm、厚さ12.2mm、外周長1023mm、圧縮ゴム層のコグ部16の高さ6.0mm及びピッチ10.3mm、伸張ゴム層のコグ部17の高さ2.8mm及びピッチ5.6mm)を作製した。尚、このベルトでは、補強布を伸張ゴム層14及び圧縮ゴム層13の表面に装着していない。
実施例及び比較例で得られたベルトの評価結果を表3に示す。
Figure 2014070644
表3の結果から明らかなように、実施例のベルトは、高負荷を伝達する用途に用いる場合であってもディッシングの発生を抑制でき、屈曲によるロスも小さいため、伝達効率の向上が可能となった。
これに対して、比較例1のベルトは、伸張ゴム層及び圧縮ゴム層のD硬度も45°と低いため、高負荷伝動時のディッシングが発生し、伝達効率が低下した。また、硬度減(不飽和カルボン酸金属塩含有量減)により、耐摩耗性が低下した。
比較例2のベルトは、接着ゴム層の硬度が高く、屈曲性が低下するため、伝達効率が低下した。また、接着ゴム層中のゴム成分中における不飽和カルボン酸金属塩の含有量が多く、心線との接着性が低下するため、耐久性が低下した(心線−ゴム間剥離が発生した)。
比較例3のベルトは、伸張ゴム層及び圧縮ゴム層における補強剤(アラミド繊維及びカーボンブラック)の割合が多いため、硬度、弾性率、Tanδが大きく、さらには屈曲性が低下した。そのため、耐久性も低下した(高硬度化で溝部の谷部から亀裂が発生した)。
なお、変速ベルトを構成する圧縮ゴム層のゴム硬度を測定したが、表1に示す圧縮ゴム層の硬度と略同一であった。
本発明の伝動用ベルトは、断面がV字形状であり、ベルトの内周側(圧縮ゴム層)に所定間隔で複数の凸部(コグ部)を設けたコグドVベルトや、断面がV字形状であり、ベルトの内周側及び外周側(伸張ゴム層)の両方に複数の凸部(コグ部)を設けたダブルコグドVベルト)に利用できる。特に、ベルト走行中に変速比が無段階で変わる変速機に使用されるベルト(変速ベルト)に適用するのが好ましい。
1,11…接着ゴム層
2,12…心線
3,13…圧縮ゴム層
4,14…伸張ゴム層
5…補強布
6,16,17…コグ部

Claims (10)

  1. ベルトの長手方向に延びる心線の少なくとも一部と接する接着ゴム層と、この接着ゴム層の一方の面に形成された伸張ゴム層と、前記接着ゴム層の他方の面に形成され、その内周面にベルトの長手方向に沿って所定の間隔をおいて形成された複数の凸部を有し、かつその側面でプーリに摩擦係合する圧縮ゴム層とを備えた伝動用ベルトであって、
    前記接着ゴム層、前記伸張ゴム層及び前記圧縮ゴム層が、いずれも水素化ニトリルゴム及び共架橋剤を含む加硫ゴム組成物で形成されており、
    前記伸張ゴム層及び前記圧縮ゴム層のいずれの層も、温度170℃、圧力2.0MPaで20分間プレス加硫したとき、ゴム硬度(デュロメータータイプD)が50〜70°である加硫ゴム組成物で形成され、
    前記接着ゴム層が、温度170℃、圧力2.0MPaで20分間プレス加硫したとき、ゴム硬度(デュロメータータイプD)が30〜60°である加硫ゴム組成物で形成され、かつ
    前記伸張ゴム層及び前記圧縮ゴム層のいずれの層も水素化ニトリルゴム及び共架橋剤の合計100質量部に対して15質量部以下の補強剤を含む伝動用ベルト。
  2. 伸張ゴム層及び圧縮ゴム層が、いずれの層においても接着ゴム層よりも大きいゴム硬度を有する請求項1記載の伝動用ベルト。
  3. 伸張ゴム層及び圧縮ゴム層が、いずれの層においても接着ゴム層よりも6〜30°高いゴム硬度を有する請求項1又は2記載の伝動用ベルト。
  4. 伸張ゴム層及び圧縮ゴム層が、いずれの層においても接着ゴム層よりも7〜28°高いゴム硬度を有する請求項1〜3のいずれかに記載の伝動用ベルト。
  5. 伸張ゴム層及び圧縮ゴム層が、いずれの層においても接着ゴム層よりも水素化ニトリルゴムに対する共架橋剤の割合が大きい請求項1〜4のいずれかに記載の伝動用ベルト。
  6. 伸張ゴム層及び圧縮ゴム層において、共架橋剤の割合が水素化ニトリルゴム及び共架橋剤の合計量に対して40〜70質量%であり、接着ゴム層において、共架橋剤の割合が水素化ニトリルゴム及び共架橋剤の合計量に対して5〜40質量%である請求項1〜5のいずれかに記載の伝動用ベルト。
  7. 共架橋剤が複数のラジカル重合性基を有する請求項1〜6のいずれかに記載の伝動用ベルト。
  8. 共架橋剤が不飽和カルボン酸金属塩である請求項1〜7のいずれかに記載の伝動用ベルト。
  9. 伸張ゴム層及び圧縮ゴム層のいずれの層も、温度170℃、圧力2.0MPaで20分間プレス加硫したとき、JIS K6394に準じて周波数10Hzで測定された70℃の貯蔵弾性率(E’)が200〜300MPaであり、かつ損失係数(Tanδ)が0.05〜0.2である加硫ゴム組成物で形成されている請求項1〜8のいずれかに記載の伝動用ベルト。
  10. 伸張ゴム層及び圧縮ゴム層のいずれの層も水素化ニトリルゴム及び共架橋剤の合計100質量部に対して1〜10質量部の補強剤を含み、かつ前記補強剤が短繊維及び無機充填剤を含む請求項1〜9のいずれかに記載の伝動用ベルト。
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