JP2014044092A - 犬リンパ腫の診断方法及び診断キット - Google Patents
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Abstract
【解決手段】(a)犬被検体から採取した試料におけるDEPDC1B遺伝子、DEPDC1Bタンパク質、DEPDC1遺伝子又はDEPDC1タンパク質の発現量を測定する工程;(b)非リンパ腫の犬対照から採取した試料におけるDEPDC1B遺伝子、DEPDC1Bタンパク質、DEPDC1遺伝子又はDEPDC1タンパク質の発現量を測定する工程;(c)犬被検体から採取した試料におけるDEPDC1B遺伝子、DEPDC1Bタンパク質、DEPDC1遺伝子又はDEPDC1タンパク質の発現量と、非リンパ腫の犬対照から採取した試料における対応する遺伝子又はタンパク質の発現量とを比較する工程;(d)上記比較結果から犬被検体が犬リンパ腫に罹患しているかどうか判定する工程;を備える。
【選択図】なし
Description
リンパ腫とは白血球の1種であるリンパ球が腫瘍性に増殖する悪性腫瘍であり、犬におけるリンパ腫の発生年齢は6ヶ月齢から15歳齢と幅広い範囲で認められるが、一般的には中〜高齢(5〜10歳齢)のころに発生し、性別差は無い。発生リスクの高い犬種はボクサー、ゴールデンレトリーバー、バッセトハウンドなどが挙げられている。リンパ腫は全身をめぐる血液の細胞である白血球が癌化するため、体のほぼすべての組織に発生する可能性がある。その発生する場所の違いにより症状や治療に対する反応、予後が異なる場合があるため、発生場所により、多中心型、胸腺型、消化器型、皮膚型、節外型などに分類される。
しかしながら、感染症などにより、ある抗原刺激に対してB細胞又はT細胞が反応性かつモノクローナルに増殖した場合にも、腫瘍ではないのにクローン性が検出されてしまう、偽陽性のケースが存在することから、この検査は犬リンパ腫の検出というよりは、病理組織学的検査に追加し、犬リンパ腫の型の判定に用いられるに過ぎない。
一方、DEPDC1遺伝子は、別名ではDEPDC1A(DEP domain containing 1A)とも呼ばれ、ヒト膀胱癌において高発現していること、膀胱癌細胞の増殖にDEPDC1遺伝子発現が関与していることが知られている[Oncogene, (2007)Sep 27;26(44):p6448-55(非特許文献5)]ほか、ヒト乳管癌組織上でのDEPDC1過剰発現[Mol Cancer, (2011)Feb 11;10(1):15,(非特許文献6)]や、ヒト肺腺癌の一部のケースにおけるDEPDC1高発現と予後不良との相関も報告されており[Cancer Res, (2012)Jan 1;72(1):100-11,(非特許文献7)]、DEPDC1B遺伝子と同様、DEPDC1遺伝子はヒトにおける癌との関連性が知られている。しかし、両遺伝子とも、犬における機能や性質、犬の腫瘍における発現の報告は、未だに例が無い。
ヒトにおいて顕著に進んでいる癌研究ではあるが、ヒトでの発症機序が全て犬に当てはまるわけではない。例えば、ヒトにおいては、肥満と動物性脂肪分の高い食餌は大腸癌のリスクを高めるが、犬において、多くの愛玩犬が高脂肪食を与えられ肥満であるにも関らず犬の大腸癌は稀であることから、罹患する癌の傾向や感受性が、ヒトと犬では異なることが説明できる[SCIENTIFIC AMERICAN, (2006)Dec;295(6):p94-101(非特許文献8)]。
したがって、本発明の一つの目的は、犬における固形癌の診断等に有効な固形癌細胞の測定技術、殊に固形癌の進行に相関する臨床的指標を利用した上記測定技術を提供することにあり、本発明の解決すべき課題とした。
なお、本発明の犬リンパ腫の診断方法には、犬リンパ腫の有無を判定する方法や、犬リンパ腫の有無を判定するためのデータを収集する方法や、犬リンパ腫治療の予後を予測するためのデータを収集する方法が含まれる。
なお、上記定量PCR法を用いて検出する場合、ribosomal protein L32(RPL32)、β-アクチン、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ、リボソームタンパク質P1などのハウスキーピング遺伝子を内部標準として用いてもよい。
上記抗体としては、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、抗イヌ抗体、キメラ抗体などの抗体であってもよく、また、この中には、F(ab’)2、Fab、diabody、Fv、ScFv、Sc(Fv)2などの抗体の一部からなる抗体断片も含まれる。
1−1 犬被検体及び組織試料
リンパ腫罹患犬由来腫瘍細胞は、山口大学動物医療センター又は東京大学動物医療センターに来院した犬のうち、細胞診又は病理組織学検査に基づいて高悪性度リンパ腫と診断された犬23頭から腫瘍細胞を含む組織試料を採取することにより単離した。それぞれの犬から採取した腫瘍細胞を含む組織試料は直ちに凍結し、RNA抽出を行うまで−80℃で保存した。健常犬由来脾臓組織試料は、山口大学獣医内科学研究室において保存されている健常ビーグル由来脾臓組織試料を用いた。
1−2 リンパ球分離
山口大学動物医療センターにて飼育している健常ビーグル犬3頭より抗凝固剤(EDTA)を用いて末梢血液を採取し、Lymphoprepを用いた密度勾配遠心法により末梢血単核球を回収した。T細胞特異的な細胞分子マーカーCD3に対する抗体(マウス抗イヌCD3抗体(CA17.2A12))や、B細胞特異的な細胞分子マーカーCD21に対する抗体(マウス抗イヌCD21抗体(CA2.1D6))や、かかる抗体に結合する抗マウス抗体マイクロビーズ(Miltenyi社製)を用いたMACS Separation Columns (Miltenyi社製)により、末梢血単核球からCD3陽性分画及びCD21陽性分画をそれぞれ採取した。CD3陽性T細胞やCD21陽性B細胞が分離できたことは、フローサイトメトリー(CyFlow Space、Partec社製)により確認した。
1−3 RNA抽出
凍結保存したリンパ腫罹患犬由来腫瘍細胞試料(3例)からTRI reagent又はISOGENIIを用いて使用法に従い、トータルRNAを抽出した。なお、コントロールとして、上記実施例1の「2.リンパ球分離」の項目に記載の方法により単離した健常犬由来CD3陽性T細胞を用いた。
1−4 cDNAマイクロアレイ
抽出したトータルRNAを基に作製したcDNAを用い、マイクロアレイ(Agilent Whole Canine Genome Oligo Microarrays 4x44K)(Agilent社製)により、mRNAの発現解析を定法にしたがって行った。
1−5 結果
コントロールと比べmRNAの発現上昇が認められた3,303遺伝子のうち、84遺伝子が3倍以上発現上昇しており、かかる84遺伝子の中にはDEPDC1B遺伝子とDEPDC1遺伝子が含まれていることが明らかとなった(図1)。この結果は、DEPDC1B遺伝子及びDEPDC1遺伝子は、犬リンパ腫に特異的に高発現する遺伝子であることを示している。
さらに、DEPDC1B及びDEPDC1遺伝子のmRNAの発現を定量的に解析するために、リアルタイムPCR法による解析を行った。
2−1 細胞株
本実施例において犬リンパ腫細胞株12種類(17−71、3132、CL−1、CLBL−1、CLC、CLGL−90、CLK、CLL 1390、Ema、GL−1、Nody−1、及びUL−1)を用いた。このうち犬リンパ腫細胞株4種類(17−71、3132、CLGL−90、及びCLL 1390)は、I10培地(IMDMに最終濃度10%のFetal Bovine Serum(FBS)、100U/ml及び100μg/mlのペニシリン/ストレプトマイシン(P&S)、L-glutamineを添加したもの)を用いて培養し、また、犬リンパ腫細胞株8種類(CL−1、CLBL−1、CLC、CLK、Ema、GL−1、Nody−1、及びUL−1)は、R10培地(RPMI 1640に最終濃度10%のFBS、100U/ml及び100μg/mlのP&S、55μMの2−メルカプトエタノール(2−ME)を添加したもの)を用いて培養した。また、培養は5%のCO2、37℃インキュベーター内で行った。
2−2 リアルタイムPCR法
上記犬リンパ腫細胞株12種類の他、上記実施例1で単離したリンパ腫罹患犬由来腫瘍細胞22例(上記実施例1のマイクロアレイに用いた2例を含む)から上記実施例1に記載の方法によりトータルRNAを抽出し、Turbo DNA-free(Ambion社製)を用いてDNase処理を行い、添付の使用マニュアルに従ってSuperscriptII(Invitrogen社製)を用いたcDNA合成を行った。なお、コントロールとして、上記実施例1で単離した健常犬由来のTリンパ球とBリンパ球各2例の他、山口大学獣医内科学研究室において保存されている健常犬(ビーグル)由来リンパ節組織試料2例及び脾臓組織試料4例を用いた。各試料より合成したcDNAをQuantiTect SYBER Green PCR Kit(QIAGEN)を用いた定量的PCR法に使用した。なお、定量PCR法に用いるDEPDC1B遺伝子を増幅するプライマーセット(配列番号5及び6)やDEPDC1遺伝子を増幅するプライマーセット(配列番号3及び4)の他、内部標準として用いるハウスキーピング遺伝子(ribosomal protein L32[RPL32])を増幅するプライマーセット(配列番号7及び8)は、イヌの塩基配列に基づいて設計した(表1参照)。95℃15分間のプレヒーティング後、94℃15秒間の熱変性、60℃30秒間のアニーリング、72℃30秒間の相補鎖合成を1サイクルとし、計40サイクルに機器(Applied Biosystems StepOne PCR system[Applied Biosystems社製])を設定しPCR反応を行った。得られたデータの解析は、StepOne software V.2.2.2.(life technologies社製)を用いて行った。
2−3 シークエンス解析
それぞれのリアルタイムPCR産物に対して、BigDyeR Terminator v3.1 Cycle Sequencing kit(ABI社製)を用いてシークエンス解析を行った。この解析にて、リアルタイムPCRにおいて目的とする遺伝子(DEPDC1BやDEPDC1遺伝子)が増幅されていることを確認した。
2−4 結果
図2に示すように、ハウスキーピング遺伝子(RPL32)と比較して健常犬由来Tリンパ球でのDEPDC1遺伝子の発現量は1/50、DEPDC1B遺伝子の発現量は1/28、Bリンパ球でのDEPDC1遺伝子の発現量は1/85、DEPDC1B遺伝子の発現量は1/595、健常犬由来リンパ節組織試料でのDEPDC1遺伝子の発現量は1/194、DEPDC1B遺伝子の発現量は1/109、脾臓組織試料でのDEPDC1B遺伝子の発現量は1/287であり、脾臓組織試料においてDEPDC1遺伝子の発現は認められなかった。一方、ハウスキーピング遺伝子(RPL32)と比較して12種類の犬リンパ腫細胞株でのDEPDC1遺伝子の発現量は4.7倍、DEPDC1B遺伝子の発現量は6.9倍、リンパ腫罹患犬由来腫瘍細胞でのDEPDC1遺伝子の発現量は1/3.9、DEPDC1B遺伝子の発現量は2.9倍と両遺伝子の著しい発現上昇が認められた。さらに、リンパ腫罹患犬由来腫瘍細胞22例のうち、低〜中分化型リンパ腫を示す20例については、健常試料と比べすべてDEPDC1B及びDEPDC1遺伝子の発現が高かったのに対して(図2中の四角で囲った部分)、リンパ腫罹患犬由来腫瘍細胞22例のうち、高分化型リンパ腫を示す2例については、正常試料と同程度の発現量を示した(図2中の丸で囲った部分)。これらの結果は、上記実施例1のマイクロアレイの結果を支持するとともに、DEPDC1BやDEPDC1遺伝子が低〜中分化型リンパ腫組織に特異的に発現することを示している。
Claims (8)
- 以下の(a)〜(d)の工程を備えたことを特徴とする犬リンパ腫の診断方法。
(a)犬被検体から採取した試料におけるDEPDC1B遺伝子、DEPDC1Bタンパク質、DEPDC1遺伝子及びDEPDC1タンパク質から選ばれる少なくとも1つの発現量を測定する工程;
(b)非リンパ腫の犬対照から採取した試料におけるDEPDC1B遺伝子、DEPDC1Bタンパク質、DEPDC1遺伝子及びDEPDC1タンパク質から選ばれる少なくとも1つの発現量を測定する工程;
(c)犬被検体から採取した試料におけるDEPDC1B遺伝子、DEPDC1Bタンパク質、DEPDC1遺伝子及びDEPDC1タンパク質から選ばれる少なくとも1つの発現量と、非リンパ腫の犬対照から採取した試料における対応する遺伝子又はタンパク質の発現量とを比較する工程;
(d)犬被検体から採取した試料におけるDEPDC1B遺伝子、DEPDC1Bタンパク質、DEPDC1遺伝子及びDEPDC1タンパク質から選ばれる少なくとも1つの発現量が、非リンパ腫の犬対照から採取した試料における対応する遺伝子又はタンパク質の発現量に比して多い場合に、犬被検体が犬リンパ腫に罹患していると判定する工程; - 遺伝子の発現量として、mRNAの発現量を測定することを特徴とする請求項1記載の犬リンパ腫を診断する方法。
- 遺伝子の発現量を、その遺伝子に相補的な塩基配列からなるヌクレオチド又はその一部配列を含むヌクレオチドを固相化したマイクロアレイを用いて測定することを特徴とする請求項1又は2記載の犬リンパ腫を診断する方法。
- 遺伝子の発現量を、その遺伝子塩基配列からなるヌクレオチド又はその一部配列を含むヌクレオチドをターゲットとしたリアルタイムPCR法により測定する、請求項1又は2記載の犬リンパ腫を診断する方法。
- タンパク質の発現量を、そのタンパク質に対する抗体を用いて測定することを特徴とする請求項1又は2のいずれか記載の犬リンパ腫を診断する方法。
- 免疫組織化学染色又は蛍光免疫組織化学染色により測定することを特徴とする請求項5記載の犬リンパ腫を診断する方法。
- 犬被検体の犬リンパ腫悪性度又は犬リンパ腫分化度の程度を判定することを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の診断する方法。
- DEPDC1B遺伝子、DEPDC1Bタンパク質、DEPDC1遺伝子及びDEPDC1タンパク質から選ばれる少なくとも1つの発現量の測定手段を備えた、犬リンパ腫の診断キット。
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