JP2014034544A - 中枢神経細胞可塑性増強剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】認知機能障害の治療や予防への応用が期待できる神経細胞可塑性増強剤及びその用途を提供することを課題とする。
【解決手段】(1)膜貫通糖タンパク質nmb、(2)膜貫通糖タンパク質nmb遺伝子を保持する発現ベクター、又は(3)膜貫通糖タンパク質nmbの発現を上昇させる化合物を有効成分として含む、神経細胞可塑性増強剤が提供される。
【選択図】なし

Description

本発明は中枢神経細胞可塑性増強剤及びその用途に関する。
近年、我が国では、急速な高齢化社会を迎え、認知症などの中枢変性疾患の罹患率は増加の一途をたどっている。特に認知症高齢者人口は2020年には300万人を越える勢いである。認知症の主症状として記憶障害があり、患者の生活の質(Quality Of Life)低下に繋がっている。このような現状の中、記憶のメカニズムの解明や記憶学習能を増強する因子を同定することは認知症の治療薬あるいは予防薬の開発に非常に意義のあることであり、認知症をはじめとする記憶障害を伴う疾患の治療の飛躍的な進歩へと繋がることが期待される。
現在、認知症の治療薬には、一般に、塩酸ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミンなどのアセチルコリンエステラーゼ阻害剤が使用されている。また、NMDA受容体拮抗薬(例えば塩酸メマンチン)も使用されることがある。このように認知症の治療薬はいくつか開発され、臨床応用されているものの、患者によっては十分な治療効果が得られないことや副作用が生ずることも多い。そのため、認知症や記憶障害の治療・予防に有効な医薬の提供に対する社会的ニーズは依然として高い。
国際公開第2012/053305号パンフレット
Xiaozhong Qian et al., Mol Oncol. 2008 Jun;2(1):81-93. Tsui KH et al., Prostate. 2012 Jan 30. doi: 10.1002/pros.22494. Maaneet Singh et al., Critical ReviewTM in Eukaryotic Gene Expression, 20(4):341-357(2010) Harumi Furochi et al., J Med Invest. 2007 Aug;57:248-54. Takayuki Ogawa et al., Am J Physiol Cell Physiol 289:C697-C707, 2005.
本発明は、認知機能障害の治療や予防への応用が期待できる神経細胞可塑性増強剤及びその用途を提供することを課題とする。
上記課題の下で検討を進める中で本発明者らは膜貫通糖タンパク質nmb(glycoprotein(transmenbrane)nmb;GPNMB)に着目した。GPNMBは比較的最近になって注目された分子である。GPNMBに関していくつかの研究報告(例えば非特許文献1〜3)があるものの、正常脳でのGPNMBの生理学的役割については未だ報告がなされていない。尚、本発明者らの研究グループは筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis:ALS)のバイオマーカーとしてGPNMBが有用であることを報告した(特許文献1)。
このような状況下、正常脳でのGPNMBの生理学的役割を明らかにすることは、学術研究上はもとより、医療技術の発展の点からも重要且つ非常に意義のあることであるといえる。そこで本発明者らは、GPNMB強制発現モデルマウス(非特許文献4、5を参照)を用いて各種実験を行った。その結果、当該モデルマウスではGPNMBの過剰発現に伴い記憶学習能が向上していることが判明するとともに、GPNMBの作用機序に関して重要且つ興味深い知見が得られた。そして、実験結果を総合的に判断することによって、(1)GPNMBが神経細胞の可塑性を増強する作用を有すること、(2)GPNMBを用いれば神経細胞の可塑性増強を介して、記憶学習能を高めることができること、即ち、GPNMBが認知機能障害の改善に有効であること、(3)生体内に存在するGPNMBの発現を上昇させることも、GPNMB自体と同様、神経細胞の可塑性増強及びそれを介した認知機能障害の改善に有効といえること、(4)GPNMBの発現上昇作用を示す化合物を探索すること(即ちスクリーニング)も、認知機能障害の改善に有効な新たな治療手段の提供に繋がるものであり、それ自体、大きな価値を有すること、が導き出された。
以下に示す発明は、主として、上記の成果及び考察に基づくものである。
[1]以下の(1)〜(3)のいずれかを有効成分として含む、神経細胞可塑性増強剤:
(1)膜貫通糖タンパク質nmb;
(2)膜貫通糖タンパク質nmb遺伝子を保持する発現ベクター;
(3)膜貫通糖タンパク質nmbの発現を上昇させる化合物。
[2]膜貫通糖タンパク質nmbが、配列番号1〜6のいずれかのアミノ酸配列又は該アミノ酸配列に等価なアミノ酸配列を含む、[1]に記載の神経細胞可塑性増強剤。
[3]膜貫通糖タンパク質nmb遺伝子が、配列番号7又は8に示す塩基配列又は該塩基配列に等価な塩基配列を含む、[1]に記載の神経細胞可塑性増強剤。
[4][1]〜[3]のいずれか一項に記載の神経細胞可塑性増強剤を含む、認知機能障害に対する医薬。
[5]認知機能障害の患者に対して、以下の(1)〜(3)のいずれかを有効成分として含む医薬を投与するステップを含む、認知機能障害の治療法:
(1)膜貫通糖タンパク質nmb;
(2)膜貫通糖タンパク質nmb遺伝子を保持する発現ベクター;
(3)膜貫通糖タンパク質nmbの発現を上昇させる化合物。
[6]GPNMBの発現を上昇させる作用を被験物質が示すか否かを調べることを特徴とする、神経細胞可塑性増強物質のスクリーニング方法。
[7]以下のステップ(i)〜(iii)を含む、[6]に記載のスクリーニング方法:
(i)GPNMBが発現している細胞を被験物質存在下で培養するステップ;
(ii)前記細胞におけるGPNMBの発現レベルを測定するステップ;及び
(iii)測定結果に基づき被験物質の有効性を判定するステップであって、GPNMBの発現レベルの上昇が認められることが有効性の指標となるステップ。
[8]被験物質非存在下であること以外はステップ(i)と同一の条件下で培養した細胞(コントロール群)を用意し、該コントロール群のGPNMBの発現レベルと比較してステップ(iii)における有効性の判定を行う、[7]に記載のスクリーニング方法。
[9]GPNMBの発現低下を抑制する作用を被験物質が示すか否かを調べることを特徴とする、神経細胞可塑性増強物質のスクリーニング方法。
[10]以下のステップ(I)〜(III)を含む、[9]に記載のスクリーニング方法:
(I)GPNMBが発現している細胞を、GPNMBの発現を低下させる化合物存在下且つ被験物質存在下で培養するステップ;
(II)前記細胞におけるGPNMBの発現レベルを測定するステップ;及び
(III)測定結果に基づき被験物質の有効性を判定するステップであって、GPNMBの発現レベル低下の抑制が認められることが有効性の指標となるステップ。
[11]被験物質非存在下であること以外はステップ(I)と同一の条件下で培養した細胞(コントロール群)を用意し、該コントロール群のGPNMBの発現レベルと比較してステップ(III)における有効性の判定を行う、[10]に記載のスクリーニング方法。
GPNMB過剰発現マウス(GPNMB Tgマウス)海馬におけるGPNMBの局在(上段)とGPNMB Tgマウス海馬におけるGPNMBの発現量(下段)。**p < 0.01 対 WT、スチューデントのt検定による。 新規環境下における活動量及び鬱様行動へのGPNMBの効果。 記憶学習能に対するGPNMB効果。## p < 0.01 対 訓練試行、*p < 0.05 対 WT、スチューデントのt検定による。 海馬におけるグルタミン酸感受性及びAMPA受容体に対するGPNMBの効果(上段)と海馬におけるNMDA酸受容体に対するGPNMBの効果(下段)。 海馬CA1領域におけるスパイン数へのGPNMB効果。 マウスの受動回避学習に対する、組換えヒトGPNMB脳室内投与の効果。 マウス海馬におけるグルタミン酸感受性及びグルタミン酸受容体に対する、組換えヒトGPNMB脳室内投与の効果。 予測されるGPNMBの作用機序カスケード。
本発明の第1の局面は神経細胞可塑性増強剤(以下、説明の便宜上「増強剤」と呼ぶ)に関する。「神経細胞可塑性増強剤」とは、脳に存在する神経細胞(ニューロン)の可塑性を高めることができる薬剤をいう。脳では神経細胞がシナプスを介した神経回路網を構築し、情報処理を行う。神経細胞の可塑性は神経回路網の構築、維持、機能の発揮に重要である。記憶や空間学習能に関わる海馬において神経細胞の可塑性が損なわれると記憶学習能に支障を来す。本発明の神経細胞可塑性増強剤は、例えば、海馬の神経細胞の可塑性の増強を介して、記憶学習能を増強させ得る。
本発明の増強剤は、本発明者らの検討がもたらした知見、即ち膜貫通糖タンパク質nmb(glycoprotein(transmenbrane)nmb)(以下の説明では、慣例に従い、その遺伝子シンボル「GPNMB」を用いて当該分子を表す)が神経細胞の可塑性を増強する作用を有する事実に基づき、有効成分として(1)GPNMBタンパク質、(2)GPNMB遺伝子を保持する発現ベクター又は(3)GPNMBの発現を上昇させる化合物を含む。尚、本発明の増強剤は通常(1)〜(3)のいずれかのみを含むが、これらの中の二以上の成分を含むことを妨げるものではない。
ここで、理論に拘泥するわけではないが、本発明の増強剤が利用すると考えられる、GPNMBの作用機序(予測)を示す(図8を参照)。まず、神経細胞表面において膜貫通型で存在しているGPNMBはADAM10などの酵素によって切断を受け遊離型GPNMB(細胞外ドメインのみのGPNMB)になる(1)。遊離型GPNMBは近くの神経細胞もしくは産生された神経細胞自身に受容体を介して作用する(2)。受容体の活性化を介してGSK3βが不活性型のリン酸化GSK3βになる(3)。リン酸化GSK3βはグルタミン酸と反応し細胞内へ移行しようとするAMPA受容体の細胞内への移行を阻害する。結果として細胞表面のAMPA受容体量は増加し、グルタミン酸反応性は増大する(4)。グルタミン酸反応性が一定以上上昇した際にはもう一つのグルタミン酸受容体のNMDA受容体に結合しているMg2+がNMDA受容体から解離し、NMDA受容体が機能する(5)。機能したNMDA受容体を介してカルシウムイオンが細胞内に流入する(6)。流入したカルシウムイオンはカルモジュリンと複合体を形成しCaMK2αを活性型のリン酸化CaMK2αに変化させる(7)。リン酸化CaMK2αはGluR1のリン酸化を促進することにより、AMPA受容体の活性化と細胞膜表面への移行を促進する(8)。さらに神経伝達物質によってシナプス後電位が発生するとGluR1の合成が促進される(9)。尚、3〜8の過程は、遊離型GPNMB存在下でのみ活性化される経路である可能性がある。また、9の過程では、一度合成されたGluR1はGPNMBがなくても24時間は分解されずに保存されている。
(1)膜貫通糖タンパク質nmb(GPNMB)
GPNMBは、はメラノサイト特異的タンパク質Pmel17に相同性を示す膜貫通型の糖タンパク質である。GPNMBには二つの転写バリアント、即ち572アミノ酸からなるアイソフォームaと560アミノ酸からなるアイソフォームbが存在する。特定の癌腫(メラノーマ、グリオーマ、乳癌など)においてGPNMBが高発現していることが報告されており、メラノーマや乳癌に対する抗体療法の標的としてGPNMBは注目されている。尚、GPNMBのアイソフォームaのアミノ酸配列及びそれをコードするヌクレオチド配列をそれぞれ配列表の配列番号1(NCBIのACCESSION: NP_001005340、DEFINITION: transmembrane glycoprotein NMB isoform a precursor [Homo sapiens].)及び配列番号7(NCBIのACCESSION: NM_001005340、DEFINITION: Homo sapiens glycoprotein (transmembrane) nmb (GPNMB), transcript variant 1, mRNA.)に示す。同様にGPNMBのアイソフォームbのアミノ酸配列及びそれをコードするヌクレオチド配列をそれぞれ配列表の配列番号4(NCBIのACCESSION: NP_002501、DEFINITION: transmembrane glycoprotein NMB isoform b precursor [Homo sapiens].)及び配列番号8(NCBIのACCESSION: NM_002510、DEFINITION: Homo sapiens glycoprotein (transmembrane) nmb (GPNMB), transcript variant 2, mRNA.)に示す。
本発明の有効成分の一つであるGPNMBタンパク質として、前駆体(配列番号1、4)の他、シグナルペプチドが切断された成熟体や特定の領域のみ(即ち断片)を用いることにしてもよい。アイソフォームaの成熟体のアミノ酸配列を配列番号2に示す。同様にアイソフォームbの成熟体のアミノ酸配列を配列番号5に示す。また、特定の領域の例として、アイソフォームaの細胞外領域(配列番号3)、アイソフォームbの細胞外領域(配列番号6)を挙げることができる。尚、GPNMBには、195番アミノ酸S(セリン)のC(システイン)への置換、197番アミノ酸N(アスパラギン)のH(ヒスチジン)への置換、294番アミノ酸S(セリン)のF(フェニルアラニン)への置換、324番アミノ酸P(プロリン)のL(リジン)への置換、538番アミノ酸S(セリン)のR(アルギニン)への置換等の天然バリアントの存在も知られており、これらバリアント或いはその断片(例えば細胞外領域)をGPNMBタンパク質として用いることにしてもよい。
上記の各タンパク質(アイソフォームa、bの前駆体、成熟体、断片など)のアミノ酸配列と等価なアミノ酸配列を含むポリペプチドをGPNMBタンパク質として用いることもできる。ここでの「等価なアミノ酸配列」とは、基準となるアミノ酸配列(例えば配列番号1〜6のいずれか)と一部で相違するが、当該相違がタンパク質の機能(神経細胞可塑性に対して有効な作用)に実質的な影響を与えていないアミノ酸配列のことをいう。従って、基準となるアミノ酸配列と、それに等価なアミノ酸配列との間には機能上の実質的な同一性が認められる。機能上の実質的な同一性の有無を判定するためには、例えば、後述の実施例に記載した実験系(動物モデルによる評価)を用い、神経細胞可塑性に対する作用・効果の点において二つのアミノ酸配列の間に実質的な差がないことを確認すればよい。
「アミノ酸配列の一部で相違する」とは、典型的には、アミノ酸配列を構成する1〜数個(上限は例えば3個、5個、7個、10個)のアミノ酸の欠失、置換、若しくは1〜数個(上限は例えば3個、5個、7個、10個)のアミノ酸の付加、挿入、又はこれらの組合せによりアミノ酸配列に変異(変化)が生じていることをいう。ここでのアミノ酸配列の相違は上記機能の大幅な低下がない限り許容される。この条件を満たす限りアミノ酸配列が相違する位置は特に限定されず、また複数の位置で相違が生じていてもよい。ここでの複数とは例えば全アミノ酸の約30%未満に相当する数であり、好ましくは約20%未満に相当する数であり、さらに好ましくは約10%未満に相当する数であり、より一層好ましくは約5%未満に相当する数であり、最も好ましくは約1%未満に相当する数である。即ち等価アミノ酸配列は、基準となるアミノ酸配列と例えば約70%以上、好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、より一層好ましくは約95%以上、最も好ましくは約99%以上の配列同一性を有する。
基準となるアミノ酸配列と等価アミノ酸配列との間の相違が保存的アミノ酸置換基によって生じていることが好ましい。ここでの「保存的アミノ酸置換」とは、あるアミノ酸残基を、同様の性質の側鎖を有するアミノ酸残基に置換することをいう。アミノ酸残基はその側鎖によって塩基性側鎖(例えばリシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)のように、いくつかのファミリーに分類されている。保存的アミノ酸置換は好ましくは、同一のファミリー内のアミノ酸残基間の置換である。
ところで、二つのアミノ酸配列又は二つの核酸配列(以下、これらを含む用語として「二つの配列」を使用する)の配列同一性(%)は例えば以下の手順で決定することができる。まず、最適な比較ができるよう二つの配列を並べる(例えば、第一の配列にギャップを導入して第二の配列とのアライメントを最適化してもよい)。第一の配列の特定位置の分子(アミノ酸残基又はヌクレオチド)が、第二の配列における対応する位置の分子と同じであるとき、その位置の分子が同一であるといえる。配列同一性は、その二つの配列に共通する同一位置の数の関数であり(すなわち、配列同一性(%)=同一位置の数/位置の総数 × 100)、好ましくは、アライメントの最適化に要したギャップの数及びサイズも考慮に入れる。
二つの配列の比較及び同一性の決定は数学的アルゴリズムを用いて実現可能である。配列の比較に利用可能な数学的アルゴリズムの具体例としては、Karlin及びAltschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-68に記載され、Karlin及びAltschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-77において改変されたアルゴリズムがあるが、これに限定されることはない。このようなアルゴリズムは、Altschulら (1990) J. Mol. Biol. 215:403-10に記載のNBLASTプログラム及びXBLASTプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。本発明の核酸分子に等価なヌクレオチド配列を得るには例えば、NBLASTプログラムでscore = 100、wordlength = 12としてBLASTヌクレオチド検索を行えばよい。基準となるアミノ酸配列に等価なアミノ酸配列を得るには例えば、XBLASTプログラムでscore = 50、wordlength = 3としてBLASTポリペプチド検索を行えばよい。比較のためのギャップアライメントを得るためには、Altschulら (1997) Amino Acids Research 25(17):3389-3402に記載のGapped BLASTが利用可能である。BLAST及びGapped BLASTを利用する場合は、対応するプログラム(例えばXBLAST及びNBLAST)のデフォルトパラメータを使用することができる。詳しくは例えばNCBIのウェブページを参照されたい。配列の比較に利用可能な他の数学的アルゴリズムの例としては、Myers及びMiller (1988) Comput Appl Biosci. 4:11-17に記載のアルゴリズムがある。このようなアルゴリズムは、例えばGENESTREAMネットワークサーバー(IGH Montpellier、フランス)またはISRECサーバーで利用可能なALIGNプログラムに組み込まれている。アミノ酸配列の比較にALIGNプログラムを利用する場合は例えば、PAM120残基質量表を使用し、ギャップ長ペナルティ=12、ギャップペナルティ=4とすることができる。
二つのアミノ酸配列の同一性を、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムを用いて、Blossom 62マトリックスまたはPAM250マトリックスを使用し、ギャップ加重=12、10、8、6、又は4、ギャップ長加重=2、3、又は4として決定することができる。また、二つの核酸配列の同一性を、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムを用いて、ギャップ加重=50、ギャップ長加重=3として決定することができる。
GPNMBは、本明細書又は添付の配列表が開示する配列情報を参考にして、標準的な遺伝子工学的手法、分子生物学的手法、生化学的手法などを用いることによって容易に調製することができる。例えば、GPNMBをコードするDNAで適当な宿主細胞(例えば大腸菌、酵母)を形質転換し、形質転換体内で発現されたタンパク質を回収することにより調製することができる。回収されたタンパク質は目的に応じて適宜精製される。このように組換えタンパク質としてGPNMBを得ることにすれば種々の修飾が可能である。例えば、GPNMBをコードするDNAと他の適当なDNAとを同じベクターに挿入し、当該ベクターを用いて組換えタンパク質の生産を行えば、任意のペプチドないしタンパク質が連結された組換えタンパク質からなるGPNMBを得ることができる。また、糖鎖及び/又は脂質の付加や、あるいはN末端若しくはC末端のプロセッシングが生ずるような修飾を施してもよい。以上のような修飾により、組換えタンパク質の抽出、精製の簡便化、又は生物学的機能の付加等が可能である。
質的均一性及び純度の面などから、GPNMBを遺伝子工学的手法によって調製することが好ましい。しかしながら、GPNMBの調製法は遺伝子工学的手法によるものに限られない。例えば、天然材料から標準的な手法(破砕、抽出、精製など)によってGPNMBを調製することもできる。
(2)GPNMB遺伝子を保持する発現ベクター
本発明の一態様では、GPNMB遺伝子を保持する発現ベクターを有効成分とする。「発現ベクター」とは、それに挿入された核酸を目的の細胞(宿主細胞)内に導入することができ、且つ当該細胞内において発現させることが可能なベクターをいう。本発明に係る発現ベクターでは、GPNMB遺伝子が発現可能に保持されることになる。GPNMB遺伝子を標的細胞に導入し、標的細胞内で発現させることが可能である限り、ベクターの種類は特に限定されない。ここでの「ベクター」にはウイルスベクター及び非ウイルスベクターが含まれる。ウイルスベクターを用いた遺伝子導入法は、ウイルスが細胞へと感染する現象を巧みに利用するものであり、高い遺伝子導入効率が得られる。ウイルスベクターとしてアデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、センダイウイルスベクター等が開発されている。
非ウイルスベクターとしてリポソーム、正電荷型リポソーム(Felgner, P.L., Gadek, T.R., Holm, M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 84:7413-7417, 1987)、HVJ(Hemagglutinating virus of Japan)-リポソーム(Dzau, V.J., Mann, M., Morishita, R. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 93:11421-11425, 1996、Kaneda, Y., Saeki, Y. & Morishita, R., Molecular Med. Today, 5:298-303, 1999)等が開発されている。本発明における発現ベクターをこのような非ウイルス性ベクターとして構築してもよい。また、YACベクター、BACベクター等を利用することにしてもよい。
アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターではベクターに組み込んだ外来遺伝子が宿主染色体へと組み込まれ、安定かつ長期的な発現が期待できる。レトロウイルスベクターの場合はウイルスゲノムの宿主染色体への組み込みには細胞の分裂が必要であることから非分裂細胞への遺伝子導入には適さない。一方、レンチウイルスベクターやアデノ随伴ウイルスベクターは非分裂細胞においても感染後に外来遺伝子の宿主染色体への組み込みが生ずる。従って、これらのベクターは非分裂細胞において安定かつ長期的に外来遺伝子を発現させるために有効である。
各ウイルスベクターは既報の方法に従い又は市販される専用のキットを用いて作製することができる。例えば、アデノウイルスベクターの作製はCOS-TPC法や完全長DNA導入法などで行うことができる。COS-TPC法は、目的のcDNA又は発現カセットを組み込んだ組換えコスミドと、親ウイルスDNA-末端タンパク質複合体(DNA-TPC)を293細胞に同時トランスフェクションし、293細胞内でおこる相同組換えを利用して組換えアデノウイルスを作製する方法である(Miyake,S., Makimura,M., Kanegae,Y., Harada,S., Takamori,K., Tokuda,C., and Saito,I. (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 93, 1320.)。一方、完全長DNA導入法は、目的の遺伝子を挿入した組換えコスミドを制限消化処理した後、293細胞にトランスフェクションすることによって組換えアデノウイルスを作製する方法である(寺島美保、近藤小貴、鐘ヶ江裕美、斎藤泉(2003)実験医学 21(7)931.)。COS-TPC法はAdenovirus Expression Vector Kit (Dual Version)(タカラバイオ株式会社)、Adenovirus genome DNA-TPC(タカラバイオ株式会社)を利用して行うことができる。また、完全長DNA導入法は、Adenovirus Expression Vector Kit (Dual Version)(タカラバイオ株式会社)を利用して行うことができる。
一方、レトロウイルスベクターは以下の手順で作製することができる。まず、ウイルスゲノムの両端に存在するLTR(Long Terminal Repeat)の間のパッケージングシグナル配列以外のウイルスゲノム(gag、pol、env遺伝子)を取り除き、そこへ目的の遺伝子を挿入する。このようにして構築したウイルスDNAを、gag、pol、env遺伝子を構成的に発現するパッケージング細胞に導入する。これによって、パッケージングシグナル配列をもつベクターRNAのみがウイルス粒子に組み込まれ、レトロウイルスベクターが産生される。
アデノベクターを応用ないし改良したベクターとして、ファイバータンパク質の改変により特異性を向上させたもの(特異的感染ベクター)や目的遺伝子の発現効率向上が期待できるguttedベクター(ヘルパー依存性型ベクター)などが開発されている。本発明の発現ベクターをこのようなウイルスベクターとして構築してもよい。
発現ベクターに挿入されるGPNMB遺伝子は好ましくは配列番号7(GenBank(NCBI), DEFINITION: Homo sapiens glycoprotein (transmembrane) nmb (GPNMB), transcript variant 1, mRNA., ACCESSION: NM_001005340 REGION: 162..1880)、配列番号8(GenBank(NCBI), DEFINITION: Homo sapiens glycoprotein (transmembrane) nmb (GPNMB), transcript variant 2, mRNA., ACCESSION: NM_002510 REGION: 162..1844)に記載の塩基配列からなる。但し、当該塩基配列に等価な塩基配列かならなるDNA(以下、「等価DNA」と呼ぶ)をGPNMB遺伝子として用いることもできる。ここでの「等価な塩基配列」とは、基準の塩基配列(配列番号7又は8)と一部で相違するが、当該相違によってそれがコードするタンパク質の機能(神経細胞可塑性増強に対して有効な作用)が実質的な影響を受けていない塩基配列のことをいう。等価DNAの具体例は、基準の塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAである。ここでの「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。このようなストリンジェントな条件は当業者に公知であって例えばMolecular Cloning(Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)やCurrent protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al., 1987)を参照して設定することができる。ストリンジェントな条件として例えば、ハイブリダイゼーション液(50%ホルムアミド、10×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、5×Denhardt溶液、1% SDS、10% デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いて約42℃〜約50℃でインキュベーションし、その後0.1×SSC、0.1% SDSを用いて約65℃〜約70℃で洗浄する条件を挙げることができる。更に好ましいストリンジェントな条件として例えば、ハイブリダイゼーション液として50%ホルムアミド、5×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、1×Denhardt溶液、1%SDS、10%デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いる条件を挙げることができる。
等価DNAの他の具体例として、基準の塩基配列に対して1若しくは複数の塩基の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含む塩基配列からなり、神経細胞可塑性増強に対して有効なタンパク質をコードするDNAを挙げることができる。塩基の置換や欠失などは複数の部位に生じていてもよい。ここでの「複数」とは、当該DNAがコードするタンパク質の立体構造におけるアミノ酸残基の位置や種類によっても異なるが例えば2〜40塩基、好ましくは2〜20塩基、より好ましくは2〜10塩基である。以上のような等価DNAは例えば、制限酵素処理、エキソヌクレアーゼやDNAリガーゼ等による処理、位置指定突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)やランダム突然変異導入法(Molecular Cloning, Third Edition, Chapter 13 ,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)による変異の導入などを利用して、塩基の置換、欠失、挿入、付加、及び/又は逆位を含むように基準の塩基配列を有するDNAを改変することによって得ることができる。また、紫外線照射など他の方法によっても等価DNAを得ることができる。
等価DNAの更に他の例として、SNP(一塩基多型)に代表される多型に起因して上記のごとき塩基の相違が認められるDNAを挙げることができる。
GPNMB遺伝子は、本明細書又は添付の配列表が開示する配列情報を参考にし、標準的な遺伝子工学的手法、分子生物学的手法、生化学的手法などを用いることによって調製することができる。例えば、GPNMB遺伝子に対して特異的にハイブリダイズ可能なオリゴヌクレオチドプローブ・プライマーを適宜利用することによってヒトcDNAライブラリーよりGPNMB遺伝子を単離(及び増幅)することができる。オリゴヌクレオチドプローブ・プライマーとしては、例えば、配列番号7又は8に示す塩基配列に相補的なDNA又はその連続した一部が用いられる。オリゴヌクレオチドプローブ・プライマーは市販の自動化DNA合成装置などを用いて容易に合成することができる。尚、GPNMB遺伝子を調製するために用いるライブラリーの作製方法については、例えばMolecular Cloning, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkが参考になる。
ヒトcDNAライブラリーに代えてヒト以外の哺乳動物細胞(例えば、サル、マウス、ラット、ブタ、ウシ)由来のcDNAライブラリーを用いれば等価DNAを調製可能である。
(3)GPNMBの発現を上昇させる化合物
本発明者らの検討の結果、GPNMBの発現の上昇が、神経細胞の可塑性を増強する手段として有効であることが判明した。従って、GPNMBの発現を上昇させる作用を示す化合物についても、GPNMB自体と同様に、神経細胞可塑性増強剤の有効成分として有用であるといえる。そこで、本発明の一態様では、GPNMBの発現を上昇させる化合物(以下、「GPNMB発現上昇化合物」と呼ぶ)を有効成分とする。GPNMB発現上昇化合物の例を挙げると、イマチニブ(チロシンキナーゼ阻害剤)、ダサチニブ(チロシンキナーゼ阻害剤)、ニロチニブ(チロシンキナーゼ阻害剤)、IL-10、CD40L、SB203580(P38阻害剤)、FR180204(ERK阻害剤)、GW5074(RAFK阻害剤)、553013(RAFK阻害剤)、444939(MEK阻害剤)、PD98059(MEK阻害剤)、U0126(MEK阻害剤)、ゲルダナマイシン(HSP90阻害剤)、塩化アンモニウム(NH4Cl2)、クロロキン、BMP-2、Dlx3、Dlx5b、bFGF、血小板由来成長因子(PDGF)、ドキソルビシン、TFE3である(各化合物のGPNMBに対する作用については、Cancer Immunol Immunother. 2012 Feb;61(2):193-202.; Mol Oncol. 2008 Jun;2(1):81-93.; J Cell Physiol. 2007 Jan;210(1):26-37.; J Cell Physiol. 2012 Jan;227(1):390-9.; Am J Physiol Cell Physiol. 2005 Sep;289(3):C697-707.; FEBS Lett. 2007 Dec 22;581(30):5743-50.; Prostate. 2012 Jan 30. doi: 10.1002/pros.22494.; PLoS One. 2010 Dec 29;5(12):e15793.を参照)。
本発明の第2の局面は、本発明の神経細胞可塑性増強剤を含む、認知機能障害に対する医薬を提供する。「認知機能障害に対する医薬」とは認知機能障害の予防又は治療に用いられる医薬のことをいう。「認知機能障害」は認知症や統合失調症等の患者に認められる症状の一つである。本発明の医薬は、認知機能障害を伴う又は認知機能障害に起因する疾病や病態、例えば認知症、統合失調症、アルツハイマー病、パーキンソン病、うつ病、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、ダウン症、躁うつ病、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、虚弱X症候群、自閉症、アスペルガー症候群、脳卒中等に起因する認知障害、外傷に起因する認知障害等の治療に利用され得る。
本発明の医薬の製剤化は常法に従って行うことができる。製剤化する場合には、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を含有させることができる。賦形剤としては乳糖、デンプン、ソルビトール、D-マンニトール、白糖等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。無痛化剤としてはベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等と用いることができる。
GPNMB遺伝子を保持する発現ベクターを有効成分とした場合、薬学的に許容可能な媒体を組み合わせて製剤化するとよい。「薬学的に許容可能な媒体」とは、発現ベクターの薬効(即ち認知機能障害に対する有効性)に実質的な影響を与えることなく発現ベクターの投与や保存等に関して利点ないし恩恵をもたらす物質をいう。「薬学的に許容可能な媒体」として、脱イオン水、超純水、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、5%デキストロース水溶液等を例示できる。本発明の組成物に、懸濁剤、無痛化剤、安定剤(アルブミンやPrionex(登録商標、ペンタファームジャパン)等)、保存剤、防腐剤など、その他の成分を含有させてもよい。
GPNMB遺伝子を保持する発現ベクターがウイルスベクターの形態の場合、生体適合性のポリオル(例えばpoloxamer407など)を併用することが好ましい。ポリオルの使用によってウイルスベクターの形質導入率を10〜100倍に上昇させ得る(March et al., Human Gene Therapy 6:41-53, 1995)。従って、ポリオルを併用することにすればウイルスベクターの投与量を低く抑えることができる。尚、本発明の医薬の一成分としてポリオルを使用することにしても、本発明の医薬とは別にポリオル(又はそれを含む組成物)を調製することにしてもよい。後者の場合、本発明の医薬を投与するときにポリオル(又はそれを含む組成物)を併せて投与することになる。
製剤化する場合の剤形は特に限定されない。剤形の例は錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、注射剤、外用剤、及び座剤である。
本発明の医薬には、期待される治療効果(又は予防効果)を得るために必要な量(即ち治療上有効量)の有効成分が含有される。本発明の医薬中の有効成分量は一般に剤形によって異なるが、所望の投与量を達成できるように有効成分量を例えば約0.1重量%〜約99重量%の範囲内で設定する。
本発明の医薬はその剤形に応じて経口投与又は非経口投与(静脈内、動脈内、皮下、皮内、筋肉内、又は腹腔内注射、経皮、経鼻、経粘膜、脳内注射など)によって対象に適用される。これらの投与経路は互いに排他的なものではなく、任意に選択される二つ以上を併用することもできる(例えば、経口投与と同時に又は所定時間経過後に静脈注射等を行う等)。
ここでの「対象」は特に限定されず、ヒト及びヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ニワトリ、ウズラ等である)を含む。好ましい一態様では本発明の医薬はヒトに対して適用される。
本発明の医薬の投与量は、期待される治療効果が得られるように設定される。治療上有効な投与量の設定においては一般に患者の症状、年齢、性別、及び体重などが考慮される。尚、当業者であればこれらの事項を考慮して適当な投与量を設定することが可能である。例えば、GPNMBタンパク質を有効成分とした場合、例えば、成人(体重約60kg)を対象として一日当たりの有効成分量が約0.1mg〜約1,000mgとなるよう投与量を設定することができる。投与スケジュールとしては例えば1日1回〜数回、2日に1回、或いは3日に1回などを採用できる。投与スケジュールの作成においては、患者の症状や有効成分の効果持続時間などを考慮することができる。
以上の記述から明らかな通り本出願は、認知機能障害の患者に対して本発明の医薬を治療上有効量投与することを特徴とする、認知機能障害の治療法も提供する。
本発明の第3の局面は神経細胞可塑性増強物質をスクリーニングする方法に関する。本発明のスクリーニング方法によって選抜された化合物は、神経細胞可塑性増強剤の有効成分として有望であり、認知機能障害を伴う又は認知機能障害に起因する疾病や病態、例えば認知症、統合失調症、アルツハイマー病、パーキンソン病、うつ病、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、ダウン症、躁うつ病、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、虚弱X症候群、自閉症、アスペルガー症候群、脳卒中等に起因する認知障害、外傷に起因する認知障害等の治療に利用され得る。本発明のスクリーニング方法では、「GPNMBの発現増強が、神経細胞の可塑性を増強する手段として有効である」との知見に基づき、「GPNMBの発現レベルの上昇が認められること」又は「GPNMBの発現レベル低下の抑制が認められること」を指標として被験物質の有効性を判断する。即ち、本発明のスクリーニング方法は、GPNMBの発現増強作用を被験物質が示すか否か、或いはGPNMBの発現レベル低下に対する抑制作用を被験物質が示すか否かを調べることを特徴とする。本発明の一態様では、以下のステップを実施する。
(i)GPNMBが発現している細胞を被験物質存在下で培養するステップ;
(ii)前記細胞におけるGPNMBの発現レベルを測定するステップ;及び
(iii)測定結果に基づき被験物質の有効性を判定するステップであって、GPNMBの発現レベルの上昇が認められることが有効性の指標となるステップ。
ステップ(i)ではGPNMBが発現している細胞(以下、「GPNMB発現細胞」と呼ぶ)を用意し、これを被験物質の存在下で培養する。当該細胞としては、神経細胞(ニューロン)、アストロサイト、ミクログリア、マクロファージ、髄鞘細胞等を用いることができる。生体から新たに調製した細胞又はその継代細胞を用いても、或いは市販の細胞株などを用いてもよい。GPNMBを強制発現するように操作した細胞(遺伝子組換え細胞)を使用することもできる。細胞の生物種は特に限定されない。生物種の例を挙げると、マウス、ラット、ヒトである。
被験物質としては様々な分子サイズの有機化合物又は無機化合物を用いることができる。有機化合物の例として、核酸、ペプチド、タンパク質、脂質(単純脂質、複合脂質(ホスホグリセリド、スフィンゴ脂質、グリコシルグリセリド、セレブロシド等)、プロスタグランジン、イソプレノイド、テルペン、ステロイド、ポリフェノール、カテキン、ビタミン(B1、B2、B3、B5、B6、B7、B9、B12、C、A、D、E等)を例示できる。医薬や栄養食品等の既存成分或いは候補成分も好ましい被検物質の一つである。植物抽出液、細胞抽出液、培養上清などを被検物質として用いてもよい。2種類以上の被験物質を同時に添加することにより、被験物質間の相互作用、相乗作用などを調べることにしてもよい。被験物質は天然物由来であっても、或いは合成によるものであってもよい。後者の場合には例えばコンビナトリアル合成の手法を利用して効率的なスクリーニング系を構築することができる。
GPNMB発現細胞を被験物質存在下で培養するためには、例えば、GPNMB発現細胞を培養皿に播種して所定時間(例えば10分〜24時間)経過した後、被験物質を培養液に添加するか或いは被験物質を添加した培養液に交換すればよい。播種後、直ちに被験物質の添加或いは被験物質を添加した培養液への交換を実施することにしてもよい。また、被験物質を予め添加した培養液を用いることにし、播種と同時に「被験物質が培養液中に存在した状態」が形成されるようにしてもよい。
被験物質存在下での培養時間は特に限定されないが、例えば10分〜72時間、好ましくは30分〜24時間とする。尚、最適な培養時間は予備実験によって決定することができる。
本明細書で言及しない事項(培地、培養温度など)については、使用する細胞の培養に一般的な培養条件に従えばよい。培養条件は、過去の報告や成書を参考にして、或いは予備実験を通じて決定すればよい。尚、培養温度は通常37℃とする。
ステップ(ii)では、ステップ(i)を経たGPNMB発現細胞、即ち被験物質存在下で所定時間培養したGPNMB発現細胞のGPNMB発現レベルを測定する。GPNMB発現レベルの測定法は特に限定されない。例えば、GPNMB遺伝子のmRNA量をRT-PCRで定量することや、GPNMBタンパク質の量を免疫学的に測定することによって測定可能である。
ステップ(iii)ではステップ(ii)の測定結果に基づき被験物質の有効性を判定する。本発明では、被験物質が有効であることの指標として「GPNMBの発現レベルの上昇が認められること」を採用する。即ち、GPNMBの発現レベルの上昇を認めた場合に被験物質は有効であると判定し、GPNMBの発現レベルの上昇を認めない場合に被験物質は有効でないと判定する。複数の被験物質を用いた場合には、発現レベルの上昇の程度に基づき、各被験物質の有効性を比較評価することができる。
ステップ(iii)での判定結果に基づき有効な被験物質が選抜される。通常は、比較対象として、被験物質非存在下(その他の条件はステップ(i)と同一とする)で培養したGPNMB発現細胞(以下、「コントロール群」と呼ぶ)を用意し、そのGPNMB発現レベルも並行して測定する。そして、当該コントロール群のGPNMB発現レベルと試験群のGPNMB発現レベルを比較することによって、GPNMBの発現レベルを被験物質が上昇させたか否か判断する。このようにコントロール群との比較によって被験物質の有効性を判定すれば、より信頼性の高い判定結果が得られる。
本発明のスクリーニング方法によって選択された物質が十分な薬効を有する場合には、当該物質をそのまま神経細胞可塑性増強剤の有効成分として使用することができる。一方で十分な薬効を有しない場合には化学的修飾などの改変を施してその薬効を高めた上で、神経細胞可塑性増強剤の有効成分として使用することができる。勿論、十分な薬効を有する場合であっても、更なる薬効の増大を目的として同様の改変を施してもよい。
本発明の他の一態様では、「GPNMBの発現レベル低下の抑制が認められること」を指標として被験物質の有効性を判断する。当該態様では、以下のステップを実施する。尚、以下で特に言及しない事項については、上記態様(ステップ(i)〜(iii)を含むスクリーニング方法)と同様であるため、その説明を省略する。
(I)GPNMBが発現している細胞を、GPNMBの発現を低下させる化合物存在下且つ被験物質存在下で培養するステップ
(II)前記細胞におけるGPNMBの発現レベルを測定するステップ
(III)測定結果に基づき被験物質の有効性を判定するステップであって、GPNMBの発現レベル低下の抑制が認められることが有効性の指標となるステップ
ステップ(I)では、GPNMB発現細胞を用意し、これをGPNMBの発現を低下させる化合物(以下、「GPNMB発現低下化合物」と呼ぶ)の存在下且つ被験物質の存在下で培養する。GPNMB発現低下化合物としては、例えば、INF-γ、TNF、Msx2、アンドロゲン、FLCN等(各化合物のGPNMBに対する作用については、Cancer Immunol Immunother. 2012 Feb;61(2):193-202.、; J Cell Physiol. 2012 Jan;227(1):390-9.; Prostate. 2012 Jan 30. doi: 10.1002/pros.22494.; PLoS One. 2010 Dec 29;5(12):e15793.を参照)を利用できる。
GPNMB発現細胞をGPNMB発現低下化合物存在下且つ被験物質存在下で培養するためには、例えば、GPNMB発現細胞を培養皿に播種して所定時間(例えば10分〜24時間)経過した後、GPNMB発現低下化合物と被験物質を培養液に添加するか或いはGPNMB発現低下化合物と被験物質を添加した培養液に交換すればよい。播種後、直ちにGPNMB発現低下化合物と被験物質の添加或いはGPNMB発現低下化合物と被験物質を添加した培養液への交換を実施することにしてもよい。また、GPNMB発現低下化合物と被験物質を予め添加した培養液を用いることにし、播種と同時に「GPNMB発現低下化合物と被験物質が培養液中に存在した状態」が形成されるようにしてもよい。
ステップ(II)では、ステップ(I)を経たGPNMB発現細胞、即ちGPNMB発現低下化合物存在下且つ被験物質存在下で所定時間培養したGPNMB発現細胞のGPNMB発現レベルを測定する。GPNMB発現レベルの測定法は上記の通りである。
ステップ(III)ではステップ(II)の測定結果に基づき被験物質の有効性を判定する。この態様では、被験物質が有効であることの指標として「GPNMBの発現レベル低下の抑制が認められること」を採用する。即ち、GPNMBの発現レベル低下の抑制を認めた場合に被験物質は有効であると判定し、GPNMBの発現レベル低下の抑制を認めない場合に被験物質は有効でないと判定する。複数の被験物質を用いた場合には、抑制の程度に基づき、各被験物質の有効性を比較評価することができる。
ステップ(III)での判定結果に基づき有効な被験物質が選抜される。通常は、比較対象として、被験物質非存在下(その他の条件はステップ(I)と同一とする)で培養したGPNMB発現細胞(以下、「コントロール群」と呼ぶ)を用意し、そのGPNMB発現レベルも並行して測定する。そして、当該コントロール群のGPNMB発現レベルと試験群のGPNMB発現レベルを比較することによって、GPNMBの発現レベル低下を被験物質が抑制したか否か判断する。このようにコントロール群との比較によって被験物質の有効性を判定すれば、より信頼性の高い判定結果が得られる。
正常脳でのGPNMBの生理学的役割については未だ報告がなされていない。そのため、正常脳でのGPNMBの生理的役割、とりわけ記憶への関与を解明することは非常に意義のあることである。そこで、GPNMB強制発現モデルマウス(非特許文献4、5を参照)を利用して以下の実験を行うことにした。
1.方法・材料
(1)実験動物
GPNMB過剰発現マウス(以下Tgマウス)は徳島大学大学院HBS研究部生体システム栄養科学部門栄養医科学講座生体栄養学二川健教授より譲与された。6週齡雄性ICRマウスは日本SLC株式会社より購入した。全てのマウスは設定温度: 23℃、設定湿度: 55%、明暗各12時間(照明:午前8:00〜午後8:00)に維持された岐阜薬科大学の動物飼育舎で飼育した。プラスチック製ケージを用い、自由給水下に固形飼料(CE-2;日本クレア)にてマウスを飼育した。実験を行うにあたっては、岐阜薬科大学動物飼育・動物実験委員会に動物実験承認申請を行い、許可を受けた。また、遺伝子組み換え動物については、岐阜薬科大学生命倫理・バイオセーフティー委員会に遺伝子組み換え実験申請を行い、許可を得た。
(2)試薬
本試験に用いた試薬は以下の通りである。尚、組換えヒトGPNMB Fcキメラ(R&D systems)は、GPNMBの細胞外フラグメント(Lys23〜Asp486)にヒトIgG1断片(Pro100からLys330)がリンカープロテイン(IEGRMD)を介して結合した構造を有する。
パラホルムアルデヒド(和光純薬工業株式会社)、イソフルラン(メルク・ホエイ株式会社)、スクロース(和光純薬工業株式会社)、リン酸水素二ナトリウム・12水和物(ナカライテスク株式会社)、リン酸二水素ナトリウム・2水和物(ナカライテスク株式会社)、塩化カリウム(和光純薬工業株式会社)、塩化ナトリウム(キシダ化学株式会社)、ペントバルビタールナトリウム(大日本製薬株式会社)、O.C.T.コンパウンド(サクラ精機株式会社)、メタノール(和光純薬工業株式会社)、組換えヒトGPNMB Fcキメラ(R&D systems)
(3)行動試験
全ての行動試験は午前9時から午後5時の間に行なった。但し、自発運動量測定試験は午後1時から2日後の午後1時までの48時間をかけて行なった。
(4)オープンフィールド試験
オープンフィールド装置(縦30cm×横30cm×高さ30cm)の壁に向かってマウスを配置した。本試験では20分間のマウスの総移動量と装置の中央部(縦15cm×横15cm)の滞在時間を測定し、それぞれ新規環境下の活動量と鬱様行動の指標とした。データ解析用ソフトEthoVision XT system(Noldus社)を用いて結果を解析した。
(5)自発運動量測定試験
試験には自発運動データ収録・解析システム装置を用いた。赤外ビーム式センサー(NS-AS01; 株式会社ニューロサイエンス)を飼育ケージに装着し、接続中継ユニット8CH (NS-HUB01; 株式会社ニューロサイエンス)を介して48時間の自発運動量をデータ収録解析システム (NS-DAS-32; 株式会社ニューロサイエンス)で測定した。結果は10分ごとの運動量としてデータ解析用コンピュータユニット(マルチデジタル32ポートカウンタシステム; 株式会社ニューロサイエンス)を用いて解析した。測定は午後1時から2日後の午後1時までの48時間行なった。
(6)モリス水迷路試験
円形のプール(直径120cm×高さ45cm)に水深が31cmになるように水(水温23±2℃)を入れた。試験は前訓練施行、訓練試行及びプローブ試行の3部に分けて行なった。
前訓練試行:マウスを試験装置の中央部の水面に放ち、60秒間泳がせた。
訓練試行:前訓練施行の翌日から5日間訓練施行を行なった。装置を4つの区画に分け、透明な退避用プラットホーム(直径10cm)をターゲット(target)エリアの中央、水面下5mmの場所に設置した。装置内の任意の4ヶ所を開始点とし、その内の1ヶ所にマウスを放ち、プラットホームに到達するまでを1回の試行とした。本試行を60分間隔で1日4回行なった。尚、各マウスはプラットホームに到達後30秒間その場に滞在させた後に回収し、体の水分を十分に拭き取りヒーターを用いて十分に保温した。60秒以内にプラットホームに到達しなかったマウスは実験実施者によりプラットホームに誘導し、同様に30秒間滞在させた後、回収した。マウスがプラットホームに到達するまでの時間をストップウォッチを用いて記録し、プラットホームに到達しなかったマウスは到達時間60秒として計算した。1日あたりの試行回数4回の平均値を空間学習の指標とした。
プローブ試行:最後の訓練試行の1日後にプローブ試行を行なった。装置内からプラットホームを撤去し、反対(opposite)エリアの中央にマウスを放ち120秒間装置内を探索させた。マウスが泳いだ軌跡をEtho Vision XTを用いて記録し、ターゲットエリアに滞在した割合を長期記憶の指標として評価した。
(7)新規物質探索試験
試験にはオープンフィールド試験装置を用いた。初日の馴化試行ではマウスをオープンフィールドに置き、15分間自由に探索行動させた。2日目の獲得試行ではオープンフィールドの中央に2つの同様の物質(立方体)を壁から5cm離れた位置で左右対称に設置し、マウスを10分間自由に探索行動させた。獲得試行24時間後の保持試行では左側の物質を別の新規の物質(円柱)に交換し、同様に10分間マウスを自由に探索行動させた。獲得試行及び保持試行における10分間のマウスのそれぞれの物質に対する探索時間を測定し、総探索時間に対する新規物質への探索時間の割合から記憶能力を評価した。
(8)受動回避試験
実験装置(株式会社ニューロサイエンス)は、床にグリッドを取り付けられた、白色光で照らした明室(15.5cm×9.6cm×18.0cm)と暗室(32cm×32cm×27cm)からなり、2室の間はプラスチック製のドアで仕切られている。試験は前訓練試行、訓練試行及び保持試行の3部で構成されている。
前訓練試行:ドアを閉じた状態でマウスを明室に入れ、30秒間明室に馴化させ、その後ドアを開け、マウスの後肢が完全に暗室に入った後ドアを閉めた。30秒間暗室に順化させた後、マウスを装置から回収した。
訓練試行:前訓練試行の翌日にドアを閉じた状態でマウスを明室に入れた。30秒後ドアを開け、マウスの後肢が完全に暗室に入った後ドアを閉めた。その3秒後にマウスに電気刺激(0.25mA, 2秒間)を負荷した。電気刺激の30秒後にマウスを暗室から回収し、飼育ケージに戻した。
保持試行:訓練試行の翌日にドアを閉じた状態でマウスを明室に入れた。30秒後ドアを開け、マウスの後肢が完全に暗室に入るまでの時間を測定した。
組換えヒトGPNMB(5ng又は50ng)はリン酸緩衝液(PBS; pH 7.4)に溶解し、6週齡ICRマウスに訓練試行終了後20分以内にイソフルラン麻酔下で脳室内に投与した。
(9)組織切片作製
12週齡マウスをペントバルビタール麻酔し、4%パラホルムアルデヒド含有の0.1M リン酸緩衝液(PB; pH 7.4)を左心室内に注入し灌流固定した。10分後に脳を取り出し、同液にて一晩放置した。翌日、25%スクロース含有0.1M PB (pH 7.4)に24時間放置した。その後、O. C. T.コンパウンドにて脳を包埋し、液体窒素により凍結させた。凍結した脳から、クリスタットを用いて-20℃で厚さ20μmの切片を作製し、MASコーティングされたスライドグラスに載せ、-80℃で保存した。
(10)免疫染色
切片を-80℃より取り出し-20℃で1時間放置した後、室温で1時間乾燥させた。その後、PBSに浸してO. C. T.コンパウンドを洗浄し、反応液の流出を防ぐためsuper PAP pen (Zymed社)にて切片の周囲を囲んだ。1.5% 正常ウマ血清で1時間ブロッキングした後、一次抗体を4℃で一晩反応させた。その後、二次抗体を遮光下で1時間反応させ、FluoromountTMを用いて封入した。尚、一次抗体にはヤギ抗GPNMBポリクローナル抗体(R&D systems)、マウス抗NeuNモノクローナル抗体(Millipore)又はマウス抗GFAP(Glial fibrillary acidic protein)モノクローナル抗体(Millipore)を使用した。二次抗体にはAlexa fluor 488 F (ab’) 2 fragment of rabbit anti-mouse IgG (H+L) (Invitrogen)又はAlexa fluor 546 F (ab’) 2 fragment of rabbit anti-goat IgG (H+L) (Invitrogen)を用いた。
(11)ウェスタンブロット
断首によりマウスを安楽死させた後、海馬を取り出し、プロテアーゼ阻害剤カクテル(protease inhibitor cocktail)(Sigma)及びホスファターゼ阻害剤II/III(phosphatase inhibitor II/III)(Sigma)を含むRIPA緩衝液(Sigma)を加え、ホモジナイズ後、組織抽出液を回収した。4℃、12000 gで20分間遠心し、上清をSDSサンプル溶液に懸濁後、5分間煮沸した。5-20% SDS-PAGEゲルを用いて電気泳動した。1次抗体[rabbit anti-AMPA-selective glutamate receptor 1 (GluR1) polyclonal antibody (1:1000, Signalway antibody Co., Ltd, USA), rabbit anti-phospho-GluR1 (Ser 845) polyclonal antibody (1:1000, Millipore), rabbit anti-phospho-glycogen synthase kinase (GSK) 3β (Ser 9) (1:1000, Cell signaling) monoclonal antibody, rabbit anti-GSK 3βmonoclonal antibody (1:1000, Cell signaling), rabbit anti- phospho-calcium/calmodulin-dependent protein kinase 2α(CaMK2α) (Thr 286) polyclonal antibody (1:1000, Santa cruz biotechnology), rabbit anti-CaMK2 polyclonal antibody (1:1000, Santa cruz biotechnology), rabbit anti-GluRε1 (NR2A) polyclonal antibody (1:1000, 株式会社フロンティア・サイエンス), rabbit anti-GluR1ζ (NR1) polyclonal antibody (1:1000, 株式会社フロンティア・サイエンス), rabbit anti-GluRε2 (NR2B) polyclonal antibody (1:1000, 株式会社フロンティア・サイエンス), mouse anti-actin monoclonal antibody (1:5000, Santa cruz biotechnology)]及びHRPが結合した2次抗体を用いて抗体反応を行い、Super signal West Femto Maximum sensitivity Substrate (Pierce Biotechnology)に5分間振盪した後、LAS-4000 mini (富士フイルム株式会社)で撮影した。
(12)ゴルジ染色法
ゴルジ染色はFD Rapid GolgiStain kit (FD NeuroTechnologies)を用い、マニュアルに従い行なった。まず、O.C.T.コンパウンドにて脳を包埋し、液体窒素により凍結させた。その後、凍結した脳から、クリスタットを用いて-20℃で厚さ100μmの切片を作製し、MASコーティングされたスライドグラスに載せ、室温で保存した。
(13)統計学的解析
実験成績は平均値±標準誤差で示した。統計学的な比較はSTAT VIEW (SAS)を用いてスチューデントのt検定(Student’s t-test)あるいはダネット検定(Dunnett’s test)で行なった。危険率が5%未満を有意差ありとした。
2.結果・考察
(1)GPNMB Tgマウス海馬におけるGPNMBの局在の検討
Tgマウスの脳の凍結切片を用いてGPNMBの海馬における局在を免疫染色法により検討した。GPNMBは海馬CA1、CA3及び歯状回領域において、神経のマーカーであるNeuNと共局在していることが確認され、さらにアストロサイトのマーカーであるGFAPと共局在していることが確認された(図1a)。
(2)GPNMB Tgマウス海馬におけるGPNMBの発現量の検討
Tgマウスの海馬を摘出し、ウェスタンブロット法により海馬におけるGPNMB量を検討した。結果、Tgマウスでは野生型マウス(以下、WTマウス)と比較してGPNMBの発現量の増大が確認された(図1b、c)。
(3)GPNMB Tgマウスを用いた新規環境下における活動量及び鬱様行動への効果の検討
Tgマウスを用いて、新規環境下の活動量及び鬱様行動の評価系として汎用されている自発運動量測定試験及びオープンフィールド試験を行い、GPNMBの活動量及び鬱様行動への効果を検討した。結果、両試験系において、TgマウスにWTマウスと比較して有意な活動量の変化は認められなかった。また、オープンフィールド試験を用いた鬱様行動の変化についても有意な変化は認められなかった(図2)。
(4)GPNMB Tgマウスを用いた記憶学習能に対する効果の検討
Tgマウスを用いて、記憶学習能の評価系として汎用されているモリス水迷路試験及び新規物質探索試験を行い、GPNMBの記憶学習能に対する効果を検討した。結果、両試験系において、TgマウスにはWTマウスと比較して記憶学習能の有意な増強が確認された(図3)。
(5)GPNMB Tgマウスを用いた海馬におけるグルタミン酸感受性及びグルタミン酸受容体に対する効果の検討
Tgマウスの海馬を摘出し、海馬におけるCaMK2、GluR1及びGSK3βのリン酸化及び非リン酸化タンパク質の発現量をウェスタンブロット法により測定した。結果、Tgマウスの海馬ではWTマウスと比較してCaMK2、GluR1及びGSK3βのリン酸化、並びにGluR1の非リン酸化タンパク質の発現量の有意な増加が確認された(図4)。もう一つのグルタミン酸受容体であるNMDA受容体のサブユニット(NR2B、NR2A、NR1)には変化が認められなかった(図4)。
(6)GPNMB Tgマウスを用いた海馬CA1領域におけるスパイン数への効果の検討
スパイン数への効果を検討するためにゴルジ染色用キットのFD Rapid GolgiStain kitを用いてゴルジ染色を行い、海馬CA1領域における神経のスパイン数を計測した。結果、TgマウスにWTマウスと比較したスパインの数に有意な変化は認められなかった(図5)。
(7)組換えヒトGPNMB脳室内投与によるマウスの受動回避学習に対する効果の検討
受動回避試験の獲得試行後にイソフルラン麻酔下で組換えヒトGPNMB(5ng又は50ng)を6週齡雄性ICRマウスの脳室内に投与し、組換えヒトGPNMBの記憶学習能に対する効果を検討した。結果、GPNMB 50ngを投与した群においてPBS投与群と比較して記憶学習能の有意な増強が確認された。一方、保持試行終了24時間後のオープンフィールド試験において、新規環境下での活動量には変化がなかった(図6)。
(8)組換えヒトGPNMB脳室内投与によるマウス海馬におけるグルタミン酸感受性及びグルタミン酸受容体に対する効果の検討
受動回避試験の獲得試行後にイソフルラン麻酔下で組換えヒトGPNMB 50 ngを雄性ICRマウスの脳室内に投与した。投与24時間後、マウスの海馬を摘出し、海馬におけるCaMK2、GluR1及びGSK3βのリン酸化、並びに非リン酸化タンパク質の発現量をウェスタンブロット法により測定した。結果、GPNMB投与マウスの海馬ではPBS投与マウスと比較してGluR1の非リン酸化タンパク質の発現量の有意な増加が確認された。しかし、CaMK2、GluR1及びGSK3βのリン酸化には変化が認められなかった(図7)。
4.まとめ
GPNMB過剰発現マウスでは記憶学習能が向上していた。この結果と整合するように、GPNMBの投与により記憶学習能を増強させることが可能であった。GPNMBは脳神経細胞の可塑性の増強を介して記憶学習能を高めると考えられる。尚、上記の結果から予測される、GPNMBの作用機序カスケードを図8に示す。
本発明の神経細胞可塑性増強剤は認知機能障害の治療や予防に利用され得る。本発明は、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤やNMDA受容体拮抗薬とは異なる作用機序によって治療効果を発揮する。従って、従来の医薬との併用による相加的ないし相乗的効果も期待できる。
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。

Claims (11)

  1. 以下の(1)〜(3)のいずれかを有効成分として含む、神経細胞可塑性増強剤:
    (1)膜貫通糖タンパク質nmb;
    (2)膜貫通糖タンパク質nmb遺伝子を保持する発現ベクター;
    (3)膜貫通糖タンパク質nmbの発現を上昇させる化合物。
  2. 膜貫通糖タンパク質nmbが、配列番号1〜6のいずれかのアミノ酸配列又は該アミノ酸配列に等価なアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の神経細胞可塑性増強剤。
  3. 膜貫通糖タンパク質nmb遺伝子が、配列番号7又は8に示す塩基配列又は該塩基配列に等価な塩基配列を含む、請求項1に記載の神経細胞可塑性増強剤。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の神経細胞可塑性増強剤を含む、認知機能障害に対する医薬。
  5. 認知機能障害の患者に対して、以下の(1)〜(3)のいずれかを有効成分として含む医薬を投与するステップを含む、認知機能障害の治療法:
    (1)膜貫通糖タンパク質nmb;
    (2)膜貫通糖タンパク質nmb遺伝子を保持する発現ベクター;
    (3)膜貫通糖タンパク質nmbの発現を上昇させる化合物。
  6. GPNMBの発現を上昇させる作用を被験物質が示すか否かを調べることを特徴とする、神経細胞可塑性増強物質のスクリーニング方法。
  7. 以下のステップ(i)〜(iii)を含む、請求項6に記載のスクリーニング方法:
    (i)GPNMBが発現している細胞を被験物質存在下で培養するステップ;
    (ii)前記細胞におけるGPNMBの発現レベルを測定するステップ;及び
    (iii)測定結果に基づき被験物質の有効性を判定するステップであって、GPNMBの発現レベルの上昇が認められることが有効性の指標となるステップ。
  8. 被験物質非存在下であること以外はステップ(i)と同一の条件下で培養した細胞(コントロール群)を用意し、該コントロール群のGPNMBの発現レベルと比較してステップ(iii)における有効性の判定を行う、請求項7に記載のスクリーニング方法。
  9. GPNMBの発現低下を抑制する作用を被験物質が示すか否かを調べることを特徴とする、神経細胞可塑性増強物質のスクリーニング方法。
  10. 以下のステップ(I)〜(III)を含む、請求項9に記載のスクリーニング方法:
    (I)GPNMBが発現している細胞を、GPNMBの発現を低下させる化合物存在下且つ被験物質存在下で培養するステップ;
    (II)前記細胞におけるGPNMBの発現レベルを測定するステップ;及び
    (III)測定結果に基づき被験物質の有効性を判定するステップであって、GPNMBの発現レベル低下の抑制が認められることが有効性の指標となるステップ。
  11. 被験物質非存在下であること以外はステップ(I)と同一の条件下で培養した細胞(コントロール群)を用意し、該コントロール群のGPNMBの発現レベルと比較してステップ(III)における有効性の判定を行う、請求項10に記載のスクリーニング方法。
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