JP2014026742A - 膜電極接合体および燃料電池 - Google Patents

膜電極接合体および燃料電池 Download PDF

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Abstract

【課題】生成水逸散性向上と出力向上とを両立させる膜電極接合体および該膜電極接合体を備える燃料電池を供給する。
【解決手段】膜電極接合体は、カソードと、アノードと、固体高分子電解質膜12とを有し、前記カソードは触媒層14を有しており、前記カソードが有する触媒層が酸素還元触媒を含有し、前記酸素還元触媒が、触媒金属と触媒担体とから形成される複合粒子であり、前記触媒担体が、遷移金属元素M1、遷移金属元素M2、炭素、窒素および酸素から構成され、前記遷移金属元素M1、遷移金属元素M2、炭素、窒素および酸素の原子数の比が(1−a):a:x:y:z(ただし、0<a≦0.5、0<x≦7、0<y≦2、0<z≦3である。)である。さらに、前記カソードが有する触媒層が、高い撥水性を示す部分を有する。
【選択図】図1

Description

本発明は膜電極接合体および燃料電池に関し、詳しくは生成水逸散性に優れる膜電極接合体および該膜電極接合体を備える燃料電池に関する。
燃料電池は、化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する装置である。すなわち、水素、メタノール等の燃料と空気などの酸化剤ガスを電気化学的に酸化、還元させることにより電気を取り出すものである。
燃料電池は、用いる電解質の種類と運転温度によって、固体高分子型、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型等に分けられる。
この中でパーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂の電解質膜を用いて、アノードで水素ガスを酸化しカソードで酸素を還元して発電する固体高分子型燃料電池(以下、「PEFC」ともいう。)は出力密度が高い電池として知られている。また、燃料として水素の代わりにメタノール水溶液を用いた直接型メタノール燃料電池(以下、「DMFC」ともいう。)も近年になって注目されている。
これらの電極構造は、プロトン導電性の固体高分子電解質膜の表裏にカソードが有する触媒層およびアノードが有する触媒層を配し、その外側に反応物質の供給と集電の役目をする拡散層が配置された構造となっている。
カソードが有する触媒層およびアノードが有する触媒層は触媒担持カーボンと固体高分子電解質が適度に混ざり合ったマトリクスになっており、カーボン上の触媒と電解質および反応物質が接触する三相界面において電極反応がおこなわれる。また、カーボンのつながりが電子の通り道であり、電解質のつながりがプロトンの通り道となる。
電極反応としては、水素を燃料とし空気を酸化剤とするPEFCの場合、アノードが有する触媒層およびカソードが有する触媒層ではそれぞれ(1)及び(2)式に示す反応が起き、電気が取り出される。
2→2H++2e- ・・・(1)
2+4H++4e-→2H2O ・・・(2)
また、メタノール水溶液を燃料とするDMFCの場合、アノードが有する触媒層では(3)式に示す反応が起き、電気が取り出される。
CH3OH+H2O→CO2+6H++6e- ・・・(3)
PEFC、DMFCいずれの場合でもカソードが有する触媒層からは生成水が発生する。そして、その生成水は、流れる電流密度に比例して多くなる。特に、高電流密度で運転した時には、カソードが有する触媒層の表面および孔内に生成水が滞留する、いわゆるフラッディング現象が起こり、反応に必要な気体の拡散経路を阻害してしまい出力が著しく低下するという問題点があった。
このフラッディング現象を防ぐため、一般には、カソードが有する触媒層内に撥水性粒子、たとえばポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」ともいう。)粒子を分散させることにより、カソードが有する触媒層に撥水性を与えて生成水の逸散性を向上させている。
生成水逸散性の向上を目的に、例えば、特許文献1では、カソードが有する触媒層内の撥水性に濃度分布を持たせている。これは、カソードが有する触媒層と電解質膜の界面に近い程フラッディング現象が起こりやすいことを考慮して、カソードが有する触媒層内で電解質膜に近い触媒層程、撥水性を高めることにより生成水の逸散性を向上させている。
特許第3245929号公報
しかし、電解質膜の近傍の撥水性を高めることは、電解質膜の近傍の反応物質・触媒・電解質が接触する三相界面を減少させることであり、また、ガス拡散経路を遮断させることでもある。そのため、出力向上は限られたものになる。このように、生成水逸散性向上と出力向上とを両立させることは困難であった。
そこで、本発明は、生成水逸散性向上と出力向上とを両立させる膜電極接合体および該膜電極接合体を備える燃料電池を供給する。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、膜電極接合体を構成するカソードが有する触媒層が、酸素を還元する部分と、前記酸素を還元する部分に比較して高い撥水性を示す部分とを有する膜電極接合体は、生成水逸散性向上と出力向上とを両立させることが可能であることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、例えば、以下の[1]〜[8]に関する。
[1]
カソードと、アノードと、該カソードおよび該アノードの間に配置された固体高分子電解質膜とを有する膜電極接合体であって、
前記カソードは触媒層を有しており、
前記カソードが有する触媒層が酸素還元触媒を含有し、
前記酸素還元触媒が、触媒金属と触媒担体とから形成される複合粒子であり、
前記触媒担体が、遷移金属元素M1、遷移金属元素M2、炭素、窒素および酸素から構成され、
前記遷移金属元素M1、遷移金属元素M2、炭素、窒素および酸素の原子数の比(遷移金属元素M1:遷移金属元素M2:炭素:窒素:酸素)が(1−a):a:x:y:z(ただし、0<a≦0.5、0<x≦7、0<y≦2、0<z≦3である。)であり、
前記遷移金属元素M1が、チタン、ジルコニウム、ニオブおよびタンタルからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記遷移金属元素M2が、前記遷移金属元素M1以外の遷移金属であり、
前記触媒金属が、白金、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウムおよびレニウム、並びにこれらの2種以上からなる合金からなる群から選ばれる1種以上であり、
前記カソードが有する触媒層が、酸素を還元する部分と、前記酸素を還元する部分に比較して高い撥水性を示す部分とを有する膜電極接合体。
[2]
前記遷移金属元素M2が、鉄、ニッケル、クロム、コバルト、バナジウムおよびマンガンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする[1]に記載の膜電極接合体。
[3]
前記カソードが有する触媒層が、前記酸素還元触媒と、プロトン伝導性を有する高分子と、撥水性を持つ材料とを有し、前記撥水性を持つ材料が導電性を持つことを特徴とする[1]または[2]に記載の膜電極接合体。
[4]
前記高い撥水性を示す部分が、前記カソードが有する触媒層の面上を観察すると偏在していることを特徴とする[1]または[2]に記載の膜電極接合体。
[5]
前記カソードが有する触媒層が、超撥水性を示すことを特徴とする[1]または[2]に記載の膜電極接合体。
[6]
前記カソードが有する触媒層の水との接触角が150°以上である[1]または[2]に記載の膜電極接合体。
[7]
前記カソードと前記固体高分子電解質膜との間に拡散補助層を有することを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載の膜電極接合体。
[8]
[1]〜[7]のいずれか一項に記載の膜電極接合体を備えることを特徴とする燃料電池。
本発明の膜電極接合体は、生成水逸散性向上と出力向上とを両立させることが可能である。
燃料電池の一実施例を示す図である。 本発明の膜電極接合体の一態様を示す図である。 膜電極接合体の一態様を示す図である。 本発明の膜電極接合体の一態様を示す図である。 本発明の膜電極接合体の一態様の構成を説明する模式図である。 本発明の膜電極接合体の一態様の構成と作用を説明する図である。 拡散補助層の断面図を表す概念図である。 担体(1)の粉末X線回折スペクトルを示す。
次に本発明について具体的に説明する。
本発明の膜電極接合体は、カソードと、アノードと、該カソードおよび該アノードの間に配置された固体高分子電解質膜とを有する膜電極接合体であって、前記カソードは触媒層を有しており、前記カソードが有する触媒層が酸素還元触媒を含有し、前記酸素還元触媒が、触媒金属と触媒担体とから形成される複合粒子であり、前記触媒担体が、遷移金属元素M1、遷移金属元素M2、炭素、窒素および酸素から構成され、前記遷移金属元素M1、遷移金属元素M2、炭素、窒素および酸素の原子数の比(遷移金属元素M1:遷移金属元素M2:炭素:窒素:酸素)が(1−a):a:x:y:z(ただし、0<a≦0.5、0<x≦7、0<y≦2、0<z≦3である。)であり、前記遷移金属元素M1が、チタン、ジルコニウム、ニオブおよびタンタルからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記遷移金属元素M2が、前記遷移金属元素M1以外の遷移金属であり、前記触媒金属が、白金、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウムおよびレニウム、並びにこれらの2種以上からなる合金からなる群から選ばれる1種以上であり、前記カソードが有する触媒層が、酸素を還元する部分と、前記酸素を還元する部分に比較して高い撥水性を示す部分とを有する。なお、前記遷移金属元素M2が、鉄、ニッケル、クロム、コバルト、バナジウムおよびマンガンから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
以下、本発明の実施の形態について図面と共に詳細に説明するが、何れの実施の形態においても用いられる酸素還元触媒について、まず説明する。本発明に用いられる酸素還元触媒は、触媒金属と触媒担体とから形成される複合粒子であり、前記触媒担体が、遷移金属元素M1、遷移金属元素M2、炭素、窒素および酸素から構成され、前記遷移金属元素M1、遷移金属元素M2、炭素、窒素および酸素の原子数の比(遷移金属元素M1:遷移金属元素M2:炭素:窒素:酸素)が(1−a):a:x:y:z(ただし、0<a≦0.5、0<x≦7、0<y≦2、0<z≦3である。)であり、前記遷移金属元素M1が、チタン、ジルコニウム、ニオブおよびタンタルからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、前記遷移金属元素M2が、前記遷移金属元素M1以外の遷移金属、好ましくは鉄、ニッケル、クロム、コバルト、バナジウムおよびマンガンから選ばれる少なくとも1種であり、前記触媒金属が、白金、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウムおよびレニウム、並びにこれらの2種以上からなる合金からなる群から選ばれる1種以上である。
このような酸素還元触媒および該酸素還元触媒を構成する触媒担体の調製法としては、特に限定は無いが、例えば以下の方法が挙げられる。
[触媒担体の製造方法および酸素還元触媒の製造方法]
前記酸素還元触媒を構成する触媒担体の製造方法は、
(a)遷移金属化合物(1)と、窒素含有有機化合物(2)と溶媒とを混合して触媒担体前駆体溶液を得る工程、
(b)前記触媒担体前駆体溶液から溶媒を除去する工程、および
(c)前記工程(b)で得られた固形分残渣を500〜1100℃の温度で熱処理して触媒担体を得る工程
を含み、
前記遷移金属化合物(1)の一部または全部が、遷移金属元素としてチタン、ジルコニウム、ニオブおよびタンタルからなる群から選ばれる少なくとも1種である遷移金属元素M1を含む化合物であり、
前記遷移金属化合物(1)および前記窒素含有有機化合物(2)のうち少なくとも1つが酸素原子を有する
ことを特徴としている。
前記酸素還元触媒の製造方法は、
(a)遷移金属化合物(1)と、窒素含有有機化合物(2)と溶媒とを混合して熱処理物前駆体溶液を得る工程、
(b)前記熱処理物前駆体溶液から溶媒を除去する工程、
(c)前記工程(b)で得られた固形分残渣を500〜1100℃の温度で熱処理して熱処理物を得る工程、および
(d)前記熱処理物と触媒金属とを含む複合触媒を得る工程
を含み、
前記遷移金属化合物(1)の一部または全部が、遷移金属元素としてチタン、ジルコニウム、ニオブおよびタンタルからなる群から選ばれる少なくとも1種である遷移金属元素M1を含む化合物であり、
前記遷移金属化合物(1)および前記窒素含有有機化合物(2)のうち少なくとも1つが酸素原子を有する
ことを特徴としている。
ここで、前記酸素還元触媒の製造方法によって得られる複合触媒は、燃料電池用電極触媒として好適に用いられるものである。前記酸素還元触媒の製造方法を行う過程で得られる熱処理物は、触媒担体として機能しうるものである。すなわち、前記触媒担体の製造方法で得られる触媒担体と、前記酸素還元触媒の製造方法の過程で得られる熱処理物はモノとしては同義である。以下の説明においては、触媒担体と、熱処理物とを特に区別しない。
すなわち、前記酸素還元触媒の製造方法は、
上記触媒担体の製造方法により触媒担体を製造する工程、および
(d)前記触媒担体に触媒金属を担持して、担持触媒を得る工程
を含む
ことを特徴としている。
なお本明細書において、特段の事情がない限り、原子およびイオンを、厳密に区別することなく「原子」と記載する。
(工程(a))
工程(a)では、少なくとも遷移金属化合物(1)と、窒素含有有機化合物(2)と、溶媒とを混合して熱処理物前駆体溶液を得る。この熱処理物前駆体溶液は、触媒担体の製造方法において触媒担体前駆体溶液として位置づけられる。
ここで、工程(a)において、フッ素を含む化合物をさらに混合しても良い。
混合の手順としては、例えば、
手順(i):1つの容器に溶媒を準備し、そこへ前記遷移金属化合物(1)および前記窒素含有有機化合物(2)を添加し、溶解させて、これらを混合する手順や、
手順(ii):前記遷移金属化合物(1)の溶液および前記窒素含有有機化合物(2)の溶液を準備し、これらを混合する手順
が挙げられる。
各成分に対して溶解性の高い溶媒が異なる場合には、手順(i)が好ましい。また、前記遷移金属化合物(1)が、たとえば、後述する金属ハロゲン化物の場合には、手順(i)が好ましく、前記遷移含有化合物(1)が、たとえば、後述する金属アルコキシドまたは金属錯体の場合には、手順(ii)が好ましい。
前記遷移金属化合物(1)として後述する第1の遷移金属化合物および第2の遷移金属化合物を用いる場合の、前記手順(ii)における好ましい手順として、手順(ii'):前記第1の遷移金属化合物の溶液、ならびに前記第2の遷移金属化合物および前記窒素含有有機化合物(2)の溶液を準備し、これらを混合する手順が挙げられる。
混合操作は、溶媒への各成分の溶解速度を高めるために、撹拌しながら行うことが好ましい。
前記遷移金属化合物(1)の溶液と窒素含有有機化合物(2)の溶液とを混合する場合には、一方の溶液に対して他方の溶液を、ポンプ等を用いて一定の速度で供給することが好ましい。
また、前記窒素含有有機化合物(2)の溶液へ、前記遷移金属化合物(1)の溶液を少量ずつ添加する(すなわち、全量を一度に添加しない。)ことも好ましい。
前記熱処理物前駆体溶液には遷移金属化合物(1)と窒素含有有機化合物(2)との反応生成物が含まれると考えられる。溶媒へのこの反応生成物の溶解度は、遷移金属化合物(1)、窒素含有有機化合物(2)および溶媒等の組み合わせによっても異なる。
このため、たとえば遷移金属化合物(1)が金属アルコキシドまたは金属錯体の場合には、前記熱処理物前駆体溶液は、溶媒の種類、窒素含有有機化合物(2)の種類にもよるが、好ましくは沈殿物や分散質を含まず、含むとしてもこれらは少量(たとえば溶液全量の10重量%以下、好ましくは5重量%以下、より好ましくは1重量%以下。)である。また、前記熱処理物前駆体溶液は、好ましくは澄明であり、たとえばJIS K0102に記載された液体の透視度の測定法において測定された値が、好ましくは1cm以上、より好ましくは2cm以上、さらに好ましくは5cm以上である。
一方、たとえば遷移金属化合物(1)が金属ハロゲン化物の場合には、前記熱処理物前駆体溶液中には、溶媒の種類、窒素含有有機化合物(2)の種類にもよるが、遷移金属化合物(1)と窒素含有有機化合物(2)との反応生成物と考えられる沈殿物が生じやすい。
工程(a)では、オートクレーブ等の加圧可能な容器に前記遷移金属化合物(1)、前記窒素含有有機化合物(2)、溶媒を入れ、常圧以上の圧力をかけながら、混合を行ってもよい。
前記遷移金属化合物(1)と前記窒素含有有機化合物(2)と溶媒とを混合する際の温度は、たとえば、0〜60℃である。前記遷移金属化合物(1)および前記窒素含有有機化合物(2)から錯体が形成されると推測されるところ、この温度が過度に高いと、溶媒が水を含む場合に錯体が加水分解され水酸化物の沈殿を生じ、優れた熱処理物が得られないと考えられ、この温度が過度に低いと、錯体が形成される前に前記遷移金属化合物(1)が析出してしまい、優れた熱処理物が得られないと考えられる。ここで、この「熱処理物」は、触媒担体の製造方法から見ると、触媒担体として機能するものである。この観点から見ると、前記遷移金属化合物(1)と前記窒素含有有機化合物(2)と溶媒とを混合する際の温度が過度に高いと、優れた触媒担体が得られないと考えられ、この温度が過度に低いと、優れた触媒担体が得られないと考えられる。
前記熱処理物前駆体溶液は、好ましくは沈殿物や分散質を含まないが、これらを少量(たとえば溶液全量の5重量%以下、好ましくは2重量%以下、より好ましくは1重量%以下。)含んでいてもよい。
前記熱処理物前駆体溶液は、好ましくは澄明であり、例えばJIS K0102に記載された液体の透視度の測定法において測定された値が、好ましくは1cm以上、より好ましくは2cm以上、さらに好ましくは5cm以上である。
<遷移金属化合物(1)>
前記遷移金属化合物(1)の一部または全部は、遷移金属元素としてチタン、ジルコニウム、ニオブおよびタンタルからなる群から選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素(遷移金属元素M1)を含む化合物である。
遷移金属元素M1としては、チタン、ジルコニウム、ニオブおよびタンタルが挙げられる。これらの遷移金属元素を用いることが、コスト、および触媒担体に触媒金属を担持したときに得られる性能の観点、見方を変えれば、コストおよび得られる複合触媒の性能の観点から好ましい。これらは、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
前記遷移金属化合物(1)は、好ましくは、酸素原子およびハロゲン原子から選ばれる少なくとも1種を有しており、その具体例としては、金属リン酸塩、金属硫酸塩、金属硝酸塩、金属有機酸塩、金属酸ハロゲン化物(あるいは金属ハロゲン化物の中途加水分解物)、金属アルコキシド、金属ハロゲン化物、金属ハロゲン酸塩および金属次亜ハロゲン酸塩、金属錯体が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
酸素原子を有する遷移金属化合物(1)としては、金属アルコキシド、アセチルアセトン錯体、金属酸塩化物および金属硫酸塩が好ましく、コストの面から、金属アルコキシド、アセチルアセトン錯体がより好ましく、前記溶媒への溶解性の観点から、金属アルコキシド、アセチルアセトン錯体がさらに好ましい。
前記金属アルコキシドとしては、前記金属のメトキシド、プロポキシド、イソプロポキシド、エトキシド、ブトキシド、およびイソブトキシドが好ましく、前記金属のイソプロポキシド、エトキシドおよびブトキシドがさらに好ましい。前記金属アルコキシドは、1種のアルコキシ基を有していてもよく、2種以上のアルコキシ基を有していてもよい。
前記金属ハロゲン化物としては、金属塩化物、金属臭化物および金属ヨウ化物が好ましく、前記金属酸ハロゲン化物としては、前記金属酸塩化物、金属酸臭化物、金属酸ヨウ化物が好ましい。
前記遷移金属元素M1を含む遷移金属化合物の具体例としては、
チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトライソブトキシド、チタンテトラペントキシド、チタンテトラアセチルアセトナート、チタンオキシジアセチルアセトナート、トリス(アセチルアセトナト)第二チタン塩化物、四塩化チタン、三塩化チタン、オキシ塩化チタン、四臭化チタン、三臭化チタン、オキシ臭化チタン、四ヨウ化チタン、三ヨウ化チタン、オキシヨウ化チタン等のチタン化合物;
ニオブペンタメトキシド、ニオブペンタエトキシド、ニオブペンタイソプロポキシド、ニオブペンタブトキシド、ニオブペンタペントキシド、五塩化ニオブ、オキシ塩化ニオブ、五臭化ニオブ、オキシ臭化ニオブ、五ヨウ化ニオブ、オキシヨウ化ニオブ等のニオブ化合物;
ジルコニウムテトラメトキシド、ジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラブトキシド、ジルコニウムテトライソブトキシド、ジルコニウムテトラペントキシド、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、四塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、四臭化ジルコニウム、オキシ臭化ジルコニウム、四ヨウ化ジルコニウム、オキシヨウ化ジルコニウム等のジルコニウム化合物;
タンタルペンタメトキシド、タンタルペンタエトキシド、タンタルペンタイソプロポキシド、タンタルペンタブトキシド、タンタルペンタペントキシド、タンタルテトラエトキシアセチルアセトナート、五塩化タンタル、オキシ塩化タンタル、五臭化タンタル、オキシ臭化タンタル、五ヨウ化タンタル、オキシヨウ化タンタル等のタンタル化合物;
などが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
これらの化合物の中でも、得られる熱処理物、すなわち得られる触媒担体が均一な粒径の微粒子となり、その活性が高いことから、
チタンテトラエトキシド、四塩化チタン、オキシ塩化チタン、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラアセチルアセトナート、
ニオブペンタエトキシド、五塩化ニオブ、オキシ塩化ニオブ、ニオブペンタイソプロポキシド、
ジルコニウムテトラエトキシド、四塩化ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウム、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、
タンタルペンタメトキシド、タンタルペンタエトキシド、五塩化タンタル、オキシ塩化タンタル、タンタルペンタイソプロポキシド、およびタンタルテトラエトキシアセチルアセトナート、
が好ましく、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラアセチルアセトナート、ニオブエトキシド、ニオブイソプロポキシド、オキシ塩化ジルコニウム、ジルコニウムテトライソプロポキシド、およびタンタルペンタイソプロポキシドがさらに好ましい。
また、前記遷移金属化合物(1)として、遷移金属元素としてチタン、ジルコニウム、ニオブおよびタンタルからなる群から選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素M1を含む遷移金属化合物(以下「第1の遷移金属化合物」ともいう。)と共に、遷移金属元素として、前記遷移金属元素M1とは異なる元素であって、好ましくは鉄、ニッケル、クロム、コバルト、バナジウムおよびマンガンから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素M2を含む遷移金属化合物(以下「第2の遷移金属化合物」ともいう。)が併用される。第2の遷移金属化合物を用いると、触媒担体に触媒金属を担持したときに得られる性能、見方を変えると、得られる複合触媒の性能が向上する。
熱処理物、すなわち、触媒担体のXPSスペクトルの観察から、第2の遷移金属化合物を用いると、遷移金属元素M1(たとえばチタン)と窒素原子との結合形成が促進され、その結果、触媒担体に触媒金属を担持したときに得られる性能、見方を変えると、複合触媒の性能が向上するのではないかと推測される。
第2の遷移金属化合物中の遷移金属元素M2としては、コストと、触媒担体に触媒金属を担持したときに得られる性能とのバランスの観点、見方を変えると、コストと得られる複合触媒の性能とのバランスの観点から、鉄およびクロムが好ましく、鉄がさらに好ましい。
第2の遷移金属化合物の具体例としては、
塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、硫酸鉄(III)、硫化鉄(II)、硫化鉄(III)、フェロシアン化カリウム、フェリシアン化カリウム、フェロシアン化アンモニウム、フェリシアン化アンモニウム、フェロシアン化鉄、硝酸鉄(II)、硝酸鉄(III)、シュウ酸鉄(II)、シュウ酸鉄(III)、リン酸鉄(II)、リン酸鉄(III)フェロセン、水酸化鉄(II)、水酸化鉄(III)、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、四酸化三鉄、酢酸鉄(II)、乳酸鉄(II)、クエン酸鉄(III)等の鉄化合物;
塩化ニッケル(II)、硫酸ニッケル(II)、硫化ニッケル(II)、硝酸ニッケル(II)、シュウ酸ニッケル(II)、リン酸ニッケル(II)、ニッケルセン、水酸化ニッケル(II)、酸化ニッケル(II)、酢酸ニッケル(II)、乳酸ニッケル(II)等のニッケル化合物;
塩化クロム(II)、塩化クロム(III)、硫酸クロム(III)、硫化クロム(III)、硝酸クロム(III)、シュウ酸クロム(III)、リン酸クロム(III)、水酸化クロム(III)、酸化クロム(II)、酸化クロム(III)、酸化クロム(IV)、酸化クロム(VI)、酢酸クロム(II)、酢酸クロム(III)、乳酸クロム(III)等のクロム化合物;
塩化コバルト(II)、塩化コバルト(III)、硫酸コバルト(II)、硫化コバルト(II)、硝酸コバルト(II)、硝酸コバルト(III)、シュウ酸コバルト(II)、リン酸コバルト(II)、コバルトセン、水酸化コバルト(II)、酸化コバルト(II)、酸化コバルト(III)、四酸化三コバルト、酢酸コバルト(II)、乳酸コバルト(II)等のコバルト化合物;
塩化バナジウム(II)、塩化バナジウム(III)、塩化バナジウム(IV)、オキシ硫酸バナジウム(IV)、硫化バナジウム(III)、オキシシュウ酸バナジウム(IV)、バナジウムメタロセン、酸化バナジウム(V)、酢酸バナジウム、クエン酸バナジウム等のバナジウム化合物;
塩化マンガン(II)、硫酸マンガン(II)、硫化マンガン(II)、硝酸マンガン(II)、シュウ酸マンガン(II)、水酸化マンガン(II)、酸化マンガン(II)、酸化マンガン(III)、酢酸マンガン(II)、乳酸マンガン(II)、クエン酸マンガン等のマンガン化合物など
が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
これらの化合物の中でも、
塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、フェロシアン化カリウム、フェリシアン化カリウム、フェロシアン化アンモニウム、フェリシアン化アンモニウム、酢酸鉄(II)、乳酸鉄(II)、
塩化ニッケル(II)、酢酸ニッケル(II)、乳酸ニッケル(II)、
塩化クロム(II)、塩化クロム(III)、酢酸クロム(II)、酢酸クロム(III)、乳酸クロム(III)、
塩化コバルト(II)、塩化コバルト(III)、酢酸コバルト(II)、乳酸コバルト(II)、
塩化バナジウム(II)、塩化バナジウム(III)、塩化バナジウム(IV)、オキシ硫酸バナジウム(IV)、酢酸バナジウム、クエン酸バナジウム、
塩化マンガン(II)、酢酸マンガン(II)、乳酸マンガン(II)
が好ましく、
塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、フェロシアン化カリウム、フェリシアン化カリウム、フェロシアン化アンモニウム、フェリシアン化アンモニウム、酢酸鉄(II)、乳酸鉄(II)、塩化クロム(II)、塩化クロム(III)、酢酸クロム(II)、酢酸クロム(III)、乳酸クロム(III)がさらに好ましい。
<窒素含有有機化合物(2)>
前記窒素含有有機化合物(2)としては、前記遷移金属化合物(1)中の金属原子に配位可能な配位子となり得る化合物(好ましくは、単核の錯体を形成し得る化合物)が好ましく、多座配位子(好ましくは、2座配位子または3座配位子)となり得る(キレートを形成し得る)化合物がさらに好ましい。
前記窒素含有有機化合物(2)は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
前記窒素含有有機化合物(2)は、好ましくは、アミノ基、ニトリル基、イミド基、イミン基、ニトロ基、アミド基、アジド基、アジリジン基、アゾ基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、オキシム基、ジアゾ基、ニトロソ基などの官能基、またはピロール環、ポルフィリン環、イミダゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環などの環(これらの官能基および環をまとめて「含窒素分子団」ともいう。)を有する。
前記窒素含有有機化合物(2)は、含窒素分子団を分子内に有すると、工程(a)での混合を経て、前記遷移金属化合物(1)に由来する金属原子により強く配位することができると考えられる。
前記含窒素分子団の中では、アミノ基、イミン基、アミド基、ピロール環、ピリジン環およびピラジン環がより好ましく、アミノ基、イミン基、ピロール環およびピラジン環がさらに好ましく、アミノ基およびピラジン環が、担持した触媒金属の活性を特に高めることから、見方を変えると、得られる複合触媒の活性が特に高くなることから、特に好ましい。
前記窒素含有有機化合物(2)(ただし、酸素原子を含まない。)の具体例としては、メラミン、エチレンジアミン、トリアゾール、アセトニトリル、アクリロニトリル、エチレンイミン、アニリン、ピロール、ポリエチレンイミンなどが挙げられる。これらの内、対応する塩となりうるものは、対応する塩の形態のものであってもよい。これらの中でも、担持した触媒金属の活性を高めることから、見方を変えると、得られる複合触媒の活性が高いことからエチレンジアミンおよびエチレンジアミン・二塩酸塩が好ましい。
前記窒素含有有機化合物(2)は、好ましくは、さらに水酸基、カルボキシル基、アルデヒド基、酸ハライド基、スルホ基、リン酸基、ケトン基、エーテル基またはエステル基(これらをまとめて「含酸素分子団」ともいう。)を有する。前記窒素含有有機化合物(2)は、含酸素分子団を分子内に有すると、工程(a)での混合を経て、前記遷移金属化合物(1)に由来する金属原子により強く配位できると考えられる。
前記含酸素分子団の中では、カルボキシル基およびアルデヒド基が、担持した触媒金属の活性を特に高めることから、見方を変えると、得られる複合触媒の活性が特に高くなることから、特に好ましい。
分子中に酸素原子を含む前記窒素含有有機化合物(2)としては、前記含窒素分子団および前記含酸素分子団を有する化合物が好ましい。このような化合物は、工程(a)を経て、前記遷移金属化合物(1)に由来する金属原子に特に強く配位できると考えられる。
前記含窒素分子団および前記含酸素分子団を有する化合物としては、アミノ基およびカルボキシル基を有するアミノ酸、ならびにその誘導体が好ましい。
前記アミノ酸としては、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、ノルバリン、グリシルグリシン、トリグリシンおよびテトラグリシンが好ましい。担持した触媒金属の活性を高めることから、見方を変えると、得られる複合触媒の活性が高いことから、これらのうち、アラニン、グリシン、リシン、メチオニン、チロシンがより好ましく、担持した触媒金属の活性を極めて高くすることから、見方を変えると、得られる複合触媒が極めて高い活性を示すことから、アラニン、グリシンおよびリシンが特に好ましい。
分子中に酸素原子を含む前記窒素含有有機化合物(2)の具体例としては、上記アミノ酸等に加えて、アセチルピロールなどのアシルピロール類、ピロールカルボン酸、アセチルイミダゾールなどのアシルイミダゾール類、カルボニルジイミダゾール、イミダゾールカルボン酸、ピラゾール、アセトアニリド、ピラジンカルボン酸、ピペリジンカルボン酸、ピペラジンカルボン酸、モルホリン、ピリミジンカルボン酸、ニコチン酸、2−ピリジンカルボン酸、2,4−ピリジンジカルボン酸、8−キノリノール、およびポリビニルピロリドンが挙げられる。担持した触媒金属の活性を高めることから、見方を変えると、得られる複合触媒の活性が高いことから、これらのうち、2座配位子となり得る化合物、具体的にはピロール−2−カルボン酸、イミダゾール−4−カルボン酸、2−ピラジンカルボン酸、2−ピペリジンカルボン酸、2−ピペラジンカルボン酸、ニコチン酸、2−ピリジンカルボン酸、2,4−ピリジンジカルボン酸、および8−キノリノールが好ましく、2−ピラジンカルボン酸、および2−ピリジンカルボン酸がより好ましい。
工程(a)で用いられる前記遷移金属化合物(1)の金属元素の総原子数Aに対する、工程(a)で用いられる前記窒素含有有機化合物(2)の炭素の総原子数Bの比(B/A)は、工程(c)での熱処理時に二酸化炭素、一酸化炭素等の炭素化合物として脱離する成分を少なくすることが可能であり、すなわち触媒担体として機能しうる熱処理物の製造時に排気ガスを少量とすることができることから、好ましくは200以下、より好ましくは150以下、さらに好ましくは80以下、特に好ましくは30以下であり、担持した触媒金属の活性を良好にする観点、見方を変えると、良好な活性の複合触媒を得るという観点から、好ましくは1以上、より好ましくは2以上、さらに好ましくは3以上、特に好ましくは5以上である。
工程(a)で用いられる前記遷移金属化合物(1)の金属元素の総原子数Aに対する、工程(a)で用いられる前記窒素含有有機化合物(2)の窒素の総原子数Cの比(C/A)は、良好な活性の複合触媒を得るという観点から、好ましくは28以下、より好ましくは17以下、さらに好ましくは12以下、特に好ましくは8.5以下であり、担持した触媒金属の活性を良好にする観点、見方を変えると、良好な活性の複合触媒を得るという観点から、好ましくは1以上、より好ましくは2.5以上、さらに好ましくは3以上、特に好ましくは3.5以上である。
工程(a)で用いられる前記第1の遷移金属化合物と前記第2の遷移金属化合物との割合を、遷移金属元素M1の原子と遷移金属元素M2とのモル比(M1:M2)に換算して、M1:M2=(1−a'):a'で表すと、a'の範囲は、好ましくは0.01≦a'≦0.5、さらに好ましくは0.02≦a'≦0.4、特に好ましくは0.05≦a'≦0.3である。
<溶媒>
前記溶媒としては、たとえば水、アルコール類および酸類が挙げられる。アルコール類としては、エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノールおよびエトキシエタノールが好ましく、エタノールおよびメタノールさらに好ましい。酸類としては、酢酸、硝酸、塩酸、リン酸水溶液およびクエン酸水溶液が好ましく、酢酸および硝酸がさらに好ましい。これらは、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
前記遷移金属化合物(1)が金属ハロゲン化物の場合の溶媒としてはメタノールが好ましい。
<沈殿抑制剤>
前記遷移金属化合物(1)が、塩化チタン、塩化ニオブ、塩化ジルコニウム、塩化タンタルなど、ハロゲン原子を含む場合には、これらの化合物は一般的に水によって容易に加水分解され、水酸化物や、酸塩化物等の沈殿を生じやすい。よって、前記遷移金属化合物(1)がハロゲン原子を含む場合には、強酸を1重量%以上添加することが好ましい。たとえば酸が塩酸であれば、溶液中の塩化水素の濃度が5重量%以上、より好ましくは10重量%以上となるように酸を添加すると、前記遷移金属化合物(1)に由来する沈殿の発生を抑制しつつ、澄明な熱処理物前駆体溶液、すなわち、澄明な触媒担体前駆体溶液を得ることができる。
前記遷移金属化合物(1)が金属錯体であって、かつ前記溶媒として水を単独でまたは水と他の化合物とを用いる場合にも、沈殿抑制剤を用いることが好ましい。この場合の沈殿抑制剤としては、ジケトン構造を有する化合物が好ましく、ジアセチル、アセチルアセトン、2,5−ヘキサンジオンおよびジメドンがより好ましく、アセチルアセトンおよび2,5−ヘキサンジオンがさらに好ましい。
これらの沈殿抑制剤は、金属化合物溶液(前記遷移金属化合物(1)を含有し、前記窒素含有有機化合物(2)を含有しない溶液)100重量%中に好ましくは1〜70重量%、より好ましくは、2〜50重量%、さらに好ましくは15〜40重量%となる量で添加される。
これらの沈殿抑制剤は、熱処理物前駆体溶液100重量%中に好ましくは0.1〜40重量%、より好ましくは、0.5〜20重量%、さらに好ましくは2〜10重量%となる量で添加される。
前記沈殿抑制剤は、工程(a)の中でのいずれの段階で添加されてもよい。
工程(a)では、好ましくは、前記遷移金属化合物(1)および前記沈殿抑制剤を含む溶液を得て、次いでこの溶液と前記窒素含有有機化合物(2)とを混合して熱処理物前駆体溶液、すなわち、触媒担体前駆体溶液を得る。また、前記遷移金属化合物(1)として前記第1の遷移金属化合物および前記第2の遷移金属化合物を用いる場合であれば、工程(a)では、好ましくは、前記第1の遷移金属化合物および前記沈殿抑制剤を含む溶液を得て、次いでこの溶液と前記窒素含有有機化合物(2)および前記第2の遷移金属化合物とを混合して熱処理物前駆体溶液、すなわち、触媒担体前駆体溶液を得る。このように工程(a)を実施すると、前記沈殿の発生をより確実に抑制することができる。
(工程(b))
工程(b)では、工程(a)で得られた前記熱処理物前駆体溶液、すなわち、触媒担体前駆体溶液から溶媒を除去する。
溶媒の除去は大気下で行ってもよく、不活性ガス(例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム)雰囲気下で行ってもよい。不活性ガスとしては、コストの観点から、窒素およびアルゴンが好ましく、窒素がより好ましい。
溶媒除去の際の温度は、溶媒の蒸気圧が大きい場合には常温であってもよいが、触媒担体として機能しうる熱処理物の量産性の観点からは、好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上、さらに好ましくは50℃以上であり、工程(a)で得られる溶液中に含まれる、キレート等の金属錯体であると推定される熱処理物前駆体、すなわち、触媒担体前駆体を分解させないという観点からは、好ましくは250℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは110℃以下である。
溶媒の除去は、溶媒の蒸気圧が大きい場合には大気圧下で行ってもよいが、より短時間で溶媒を除去するため、減圧(たとえば、0.1Pa〜0.1MPa)下で行ってもよい。減圧下での溶媒の除去には、たとえばエバポレーターを用いることができる。
溶媒の除去は、工程(a)で得られた混合物を静置した状態で行ってもよいが、より均一な固形分残渣を得るためには、混合物を回転させながら溶媒を除去することが好ましい。
前記混合物を収容している容器の重量が大きい場合は、撹拌棒、撹拌羽根、撹拌子などを用いて、溶液を回転させることが好ましい。
また、前記混合物を収容している容器の真空度を調節しながら溶媒の除去を行う場合には、密閉できる容器で乾燥を行うこととなるため、容器ごと回転させながら溶媒の除去を行うこと、たとえばロータリーエバポレーターを使用して溶媒の除去を行うことが好ましい。
溶媒の除去の方法、あるいは前記遷移金属化合物(1)または前記窒素含有有機化合物(2)の性状によっては、工程(b)で得られた固形分残渣の組成または凝集状態が不均一であることがある。このような場合に、固形分残渣を、混合し、解砕して、より均一、微細な粉末としたものを後述の工程(c)で用いると、粒径がより均一な熱処理物、すなわち、粒径がより均一な触媒担体を得ることができる。
固形分残渣を混合し、解砕するには、たとえば、ロール転動ミル、ボールミル、小径ボールミル(ビーズミル)、媒体撹拌ミル、気流粉砕機、乳鉢、自動混練乳鉢、槽解機、ジェトミルを用いることができ、固形分残渣が少量であれば、好ましくは、乳鉢、自動混練乳鉢、またはバッチ式のボールミルが用いられ、固形分残渣が多量であり連続的な混合、解砕処理を行う場合には、好ましくはジェットミルが用いられる。
(工程(c))
工程(c)では、前記工程(b)で得られた固形分残渣を熱処理して熱処理物を得る。すなわち、触媒担体の製造方法においては、この工程(c)により、この熱処理物の形で触媒担体が得られる。
この熱処理の際の温度は、500〜1100℃であり、好ましくは600〜1050℃であり、より好ましくは700〜950℃である。
熱処理の温度が上記範囲よりも高すぎると、得られた熱処理物の粒子相互間においての焼結、粒成長がおこり、結果として熱処理物の比表面積が小さくなってしまうため、この粒子に触媒金属を担持したときに、塗布法により触媒層に加工する際の加工性、見方を変えると、この粒子と触媒金属とを含む複合触媒を塗布法により触媒層に加工する際の加工性が劣ってしまうことがある。一方、熱処理の温度が上記範囲よりも低過ぎると、担持した触媒金属の活性を充分に高めることができないおそれ、見方を変えると、高い活性を有する複合触媒を得ることができないおそれがある。
前記熱処理の方法としては、たとえば、静置法、攪拌法、落下法、粉末捕捉法が挙げられる。
静置法とは、静置式の電気炉などに工程(b)で得られた固形分残渣を置き、これを加熱する方法である。加熱の際に、量り取った前記固形分残渣は、アルミナボード、石英ボードなどのセラミックス容器に入れてもよい。静置法は、大量の前記固形分残渣を加熱することができる点で好ましい。
攪拌法とは、ロータリーキルンなどの電気炉中に前記固形分残渣を入れ、これを攪拌しながら加熱する方法である。攪拌法の場合は、大量の前記固形分残渣を加熱することができ、かつ、得られる熱処理物の粒子の凝集および成長を抑制することができる点で好ましい。さらに、撹拌法は、加熱炉に傾斜をつけることによって、触媒担体として機能しうる熱処理物を連続的に製造することが可能である点で好ましい。
落下法とは、誘導炉中に雰囲気ガスを流しながら、炉を所定の加熱温度まで加熱し、該温度で熱的平衡を保った後、炉の加熱区域である坩堝中に前記固形分残渣を落下させ、これを加熱する方法である。落下法は、得られる熱処理物の粒子の凝集および成長を最小限度に抑制できる点で好ましい。
粉末捕捉法とは、微量の酸素ガスを含む不活性ガス雰囲気中で、前記固形分残渣を飛沫にして浮遊させ、これを所定の加熱温度に保たれた垂直の管状炉中に捕捉して、加熱する方法である。
前記静置法で熱処理を行う場合には、昇温速度は、特に限定されないが、好ましくは1℃/分〜100℃/分程度であり、さらに好ましくは5℃/分〜50℃/分である。また、加熱時間は、好ましくは0.1〜10時間、より好ましくは0.5時間〜5時間、さらに好ましくは0.5〜3時間である。静置法において加熱を管状炉で行う場合、熱処理物粒子の加熱時間は、0.1〜10時間、好ましくは0.5時間〜5時間である。前記加熱時間が前記範囲内であると、均一な熱処理物粒子が形成される傾向がある。
前記攪拌法の場合、前記固形分残渣の加熱時間は、通常10分〜5時間であり、好ましくは30分〜2時間である。本法において、炉に傾斜をつけるなどして連続的に加熱を行う場合は、定常的な炉内のサンプル流量から計算された平均滞留時間を前記加熱時間とする。
前記落下法の場合、前記固形分残渣の加熱時間は、通常0.5〜10分であり、好ましくは0.5〜3分である。前記加熱時間が前記範囲内であると、均一な熱処理物が形成される傾向がある。
前記粉末捕捉法の場合、前記固形分残渣の加熱時間は、0.2秒〜1分、好ましくは0.2〜10秒である。前記加熱時間が前記範囲内であると、均一な熱処理物が形成される傾向にある。
前記静置法で熱処理を行う場合には、熱源としてLNG(液化天然ガス)、LPG(液化石油ガス)、軽油、重油、電気などを用いた加熱炉を熱処理装置として用いてもよい。
この場合、担体を製造する場合には前記固形分残渣を熱処理する際の雰囲気が重要であるので、燃料の炎が炉内に存在する、炉の内部から加熱する装置ではなく、炉の外部からの加熱する装置が好ましい。
前記固形分残渣の量が1バッチあたり50kg以上となるような加熱炉を用いる場合には、コストの観点から、LNG、LPGを熱源とする加熱炉が好ましい。
触媒活性の特に高い複合触媒を実現させる熱処理物、すなわち、担持した触媒金属の活性を特に高める触媒担体を得たい場合には、厳密な温度制御が可能な、電気を熱源とした電気炉を用いることが望ましい。
炉の形状としては、管状炉、上蓋型炉、トンネル炉、箱型炉、試料台昇降式炉(エレベーター型)、台車炉などが挙げられ、この中でも雰囲気を特に厳密にコントロールすることが可能な、管状炉、上蓋型炉、箱型炉および試料台昇降式炉が好ましく、管状炉および箱型炉が好ましい。
前記撹拌法を採用する場合も、上記の熱源を用いることができるが、撹拌法の中でもとくにロータリーキルンに傾斜をつけて、前記固形分残渣を連続的に熱処理する場合には、設備の規模が大きくなり、エネルギー使用量が大きくなりやすいので、LPG等燃料由来の熱源を利用することが好ましい。
前記熱処理を行う際の雰囲気としては、担持した触媒金属の活性を高める観点、見方を変えると、得られる熱処理物と触媒金属とを含む複合触媒の活性を高める観点から、その主成分が不活性ガスであることが好ましい。不活性ガスの中でも、比較的安価であり、入手しやすい点で窒素、アルゴン、ヘリウムが好ましく、窒素およびアルゴンがさらに好ましい。これらの不活性ガスは、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。なお、これらのガスは一般的な通念上不活性といわれるガスであるが、工程(c)の前記熱処理の際にこれらの不活性ガスすなわち、窒素、アルゴン、ヘリウム等が、前記固形分残渣と反応している可能性はある。
また、前記熱処理の雰囲気中に反応性ガスが存在すると、得られる触媒担体に触媒金属を担持したときにその性能をより高めること、言い換えると、得られる熱処理物と触媒金属とを含む複合触媒がより高い触媒性能を発現することがある。たとえば、熱処理を、窒素ガス、アルゴンガスもしくは窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガス、または窒素ガスおよびアルゴンガスから選ばれる一種以上のガスと水素ガス、アンモニアガスおよび酸素ガスから選ばれる一種以上のガスとの混合ガスの雰囲気で行うと、得られた触媒担体に触媒金属を担持したときに高い触媒性能を有する電極触媒が得られることがある。見方を変えると、熱処理をそのような雰囲気下で行うと、得られる熱処理物を含む複合触媒が、高い触媒性能を有することがある。
前記熱処理の雰囲気中に水素ガスが含まれる場合には、水素ガスの濃度は、たとえば100体積%以下、好ましくは0.01〜10体積%、より好ましくは1〜5体積%である。
前記熱処理の雰囲気中に酸素ガスが含まれる場合には、酸素ガスの濃度は、たとえば0.01〜10体積%、好ましくは0.01〜5体積%である。
また、前記遷移金属化合物(1)、前記窒素含有有機化合物(2)および前記溶媒の何れもが酸素原子を有さない場合には、前記熱処理は、好ましくは酸素ガスを含む雰囲気で行われる。
前記熱処理の後には、熱処理物を解砕してもよい。解砕を行うと、得られた熱処理物を触媒担体として用いたときにその触媒担体に触媒金属を担持して得られる担持触媒、すなわち、得られた熱処理物と触媒金属とを含む複合触媒を用いて電極を製造する際の加工性、および得られる電極の特性を改善できることがある。この解砕には、たとえば、ロール転動ミル、ボールミル、小径ボールミル(ビーズミル)、媒体撹拌ミル、気流粉砕機、乳鉢、自動混練乳鉢、槽解機またはジェトミルを用いることができる。電極触媒が少量の場合には、乳鉢、自動混練乳鉢、バッチ式のボールミルが好ましく、熱処理物を連続的に多量に処理する場合には、ジェットミル、連続式のボールミルが好ましく、連続式のボールミルの中でもビーズミルがさらに好ましい。
<熱処理物>
上述した熱処理物は、触媒金属とともに複合触媒を構成する成分であるに留まらず、触媒金属に対する相乗効果により複合触媒の活性をより高める役割も有している。この熱処理物は、触媒担体として機能しうるものである。
熱処理物を構成する遷移金属元素(ただし、遷移金属元素M1と遷移金属元素M2とを区別しない。)、炭素、窒素および酸素の原子数の比を、遷移金属元素:炭素:窒素:酸素=1:x:y:zと表すと、好ましくは、0<x≦7、0<y≦2、0<z≦3である。
触媒金属を担持したときにその活性を高めることから、言い換えると、複合触媒の活性を高めることから、xの範囲は、より好ましくは0.15≦x≦5.0、さらに好ましくは0.2≦x≦4.0であり、特に好ましくは1.0≦x≦3.0であり、yの範囲は、より好ましくは0.01≦y≦1.5、さらに好ましくは0.02≦y≦0.5であり、特に好ましくは0.03≦y≦0.4であり、zの範囲は、より好ましくは0.6≦z≦2.6であり、さらに好ましくは0.9≦z≦2.0であり、特に好ましくは1.3≦z≦1.9である。
また前記熱処理物は、前記遷移金属元素として、チタン、ジルコニウム、ニオブおよびタンタルからなる群から選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素M1、および前記遷移金属元素M1以外の遷移金属元素、好ましくは鉄、ニッケル、クロム、コバルト、バナジウムおよびマンガンから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素M2を含むが、前記熱処理物を構成する遷移金属元素M1、遷移金属元素M2、炭素、窒素および酸素の原子数の比を、遷移金属元素M1:遷移金属元素M2:炭素:窒素:酸素=(1−a):a:x:y:zと表すと、好ましくは、0<a≦0.5、0<x≦7、0<y≦2、0<z≦3である。このようにM2を含有する熱処理物を触媒担体として用いると、担持した触媒金属の活性をより高めることができる。言い換えると、このようにM2を含有する熱処理物を含む複合触媒は、より性能が高くなる。
担持した触媒金属の活性を高めることから、言い換えると、複合触媒の活性を高めることから、x、yおよびzの好ましい範囲は上述のとおりであり、aの範囲は、より好ましくは0.01≦a≦0.5、さらに好ましくは0.02≦a≦0.4、特に好ましくは0.05≦a≦0.3である。各元素比が上記範囲内にあると、酸素還元電位が高くなる傾向があり好ましい。
前記a、x、yおよびzの値は、後述する実施例で採用した方法により測定した場合の値である。
遷移金属元素M2(M1以外の遷移金属元素、好ましくは鉄、ニッケル、クロム、コバルト、バナジウムおよびマンガンより選択される少なくとも1種の金属元素)が存在することにより予想される効果は、以下のとおり推定される。
(1)遷移金属元素M2または遷移金属元素M2を含む化合物が、熱処理物を合成する際に、遷移金属元素M1原子と窒素原子との結合を形成するための触媒として作用している。
(2)遷移金属元素M1が溶出するような高電位、高酸化性雰囲気下で電極触媒を使用する場合であっても、遷移金属元素M2が不動態化することによって、遷移金属元素M1のさらなる溶出を防ぐ。
(3)工程(c)の熱処理の際に、熱処理物の焼結を防ぐ。
(4)遷移金属元素M1および遷移金属元素M2が存在することによって、双方の金属元素が隣接しあう部位において、電荷の偏りが生じ、金属元素として遷移金属元素M1のみを有する熱処理物ではなしえない、基質の吸着もしくは反応、または生成物の脱離が発生する。
前記熱処理物は、好ましくは、遷移金属元素、炭素、窒素および酸素の各原子を有し、前記遷移金属元素の酸化物、炭化物または窒化物単独あるいはこれらのうちの複数の結晶構造を有する。前記熱処理物に対する粉末X線回折分析による結晶構造解析の結果と、元素分析の結果とから判断すると、前記熱処理物は、前記遷移金属元素の酸化物構造を有したまま、酸化物構造の酸素原子のサイトを炭素原子または窒素原子で置換した構造、あるいは前記遷移金属元素の炭化物、窒化物または炭窒化物の構造を有したまま、炭素原子または窒素原子のサイトを酸素原子で置換した構造を有するか、あるいはこれらの構造を含む混合物ではないかと推測される。
<熱処理物のBET比表面積>
上記工程により得られる熱処理物は、比表面積が大きく、その比表面積は、BET法で算出したときに好ましくは30〜400m2/g、より好ましくは50〜350m2/g、さらに好ましくは100〜300m2/gである。
(工程(d))
工程(d)では、上記熱処理物と触媒金属とを含む複合触媒を得る。この工程(d)を、触媒担体の製造方法を基準として見ると、触媒担体の製造方法によって得られる触媒担体に触媒金属を担持して、担持触媒を得る工程と見ることもできる。
ここで前記熱処理物とともに複合触媒を構成する触媒金属、見方を変えると、触媒担体に担持される触媒金属は、燃料電池用電極触媒として機能しうる触媒金属であれば特に限定させるものではないが、好適な触媒金属として、白金、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウムおよびレニウム等が挙げられる。これらの触媒金属は、1種単独で用いてもよく、あるいは、2種以上を併用してもよい。また、これらの2種以上からなる合金であってもよい。さらに、複合触媒あるいは担持触媒を、直接メタノール型燃料電池に用いる場合、触媒金属としてパラジウムまたはパラジウム合金を用いることで、メタノールクロスオーバーによるカソード性能低下を好適に抑制することができる。
前記熱処理物と触媒金属とを含む複合触媒を得る方法、見方を変えれば、触媒担体に触媒金属を担持させる方法としては、実用に供することができるように得ることができれば特に制限はないが、触媒金属の前駆体を用い複合触媒を得る方法、見方を変えれば、触媒金属の前駆体を用いて触媒金属を担持させる方法が好適である。ここで、触媒金属の前駆体とは、所定の処理により前記触媒金属になりうる物質である。
この触媒金属の前駆体を用いて複合触媒を得る方法、見方を変えれば、この触媒金属の前駆体を触媒担体に担持させる方法としては、特に制限されるべきものではなく、従来公知の技術を適用した方法を利用し得る。例えば、
(1)触媒金属前駆体溶液中に前記熱処理物を分散させ、蒸発乾固する段階と、その後に熱処理を加える段階とを含む方法、
(2)触媒金属前駆体コロイド溶液中に前記熱処理物を分散させ、触媒金属前駆体コロイドを該熱処理物に吸着させることにより、触媒金属を熱処理物に担持させる段階を含む方法、
(3)熱処理物前駆体の原料となる金属化合物を1種あるいはそれ以上含む溶液と触媒前駆体コロイド溶液との混合溶液のpHを調整することにより熱処理物の前駆体を得ると同時に触媒前駆体コロイドを吸着させる段階と、それを熱処理する段階とを含む方法、
などが挙げられるが、これらに何ら制限されるべきものではない。
ここで、触媒金属前駆体溶液としては、上述したような触媒金属が、上記各段階を経て生成し得る(熱処理後に残る)ものであればよい。また、上記触媒金属前駆体溶液中の触媒金属前駆体の含有量は、特に制限されるべきものではなく、飽和濃度以下であればよい。ただし、低濃度では所望の担持量あるいは導入量になるまでに上記段階を繰り返して調整する必要があることから、適宜必要な濃度を決定する。触媒金属前駆体溶液中の触媒金属前駆体の含有量としては、0.01〜50重量%程度であるが、これに制限されるものではない。
特に好適な態様においては、工程(d)は、下記工程(d1)〜(d5)からなる:
(d1)40〜80℃の溶液に前記熱処理物を分散させ、水溶性触媒金属化合物を加え、該熱処理物に該水溶性触媒金属化合物を含浸させる工程、
(d2)前記工程(d1)で得られる溶液に塩基性化合物水溶液を加え、前記水溶性触媒金属化合物を非水溶性触媒金属化合物に転化させる工程、
(d3)前記工程(d2)で得られる溶液に還元剤を加え、前記非水溶性触媒金属化合物を触媒金属に還元する工程、
(d4)前記工程(d3)で得られる溶液をろ過し、残渣を洗浄、乾燥する工程、
(d5)前記工程(d4)で得られる粉体を150℃以上1000℃以下で熱処理する工程。
ここで、水溶性触媒金属化合物として、触媒金属の酸化物、水酸化物、塩化物、硫化物、臭化物、硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩、硫酸塩および各種錯体塩等が挙げられる。その具体例として、塩化白金酸、ジニトロジアンミン白金、塩化イリジウム、硝酸銀、塩化パラジウム、テトラアンミンパラジウム(II)塩化物などが挙げられるが、これらに何ら制限されるべきものではない。これらの水溶性触媒金属化合物は、1種単独で用いてもよく、あるいは、2種以上を併用してもよい。
上記工程(d1)において、上記溶液を構成する溶媒は、前記熱処理物に触媒金属を分散担持あるいは分散含浸させる媒体として機能する限り特に制限されないが、通常の場合、水およびアルコール類が好適に用いられる。アルコール類としては、エタノール、メタノール、ブタノール、プロパノールおよびエトキシエタノールが好ましく、エタノールおよびメタノールがさらに好ましい。これらは、1種単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。また、この溶液中の水溶性触媒金属化合物の含量は特に制限されるものではなく、飽和濃度以下であればよい。水溶性触媒金属化合物の具体的な含量は、0.01〜50重量%程度であるが、これに制限されるものではない。なお、前記熱処理物への前記水溶性触媒金属化合物の含浸時間は特に限定されるものではないが、10分〜12時間が好ましく、30分〜6時間がより好ましく、1〜3時間がさらに好ましい。
上記工程(d2)において、塩基性化合物水溶液を構成する塩基性化合物は、上記水溶性触媒金属化合物を非水溶性触媒金属化合物に転化させることができるものであれば特に制限されない。好適な塩基性化合物として、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウムなどが挙げられる。
上記工程(d3)に用いられる還元剤は、上記非水溶性触媒金属化合物を還元して触媒金属に変換することのできるものであれば特に制限されない。好適な還元剤として、ホルムアルデヒド水溶液、水素化ホウ素ナトリウム、ヒドラジン、エチレングリコール、エチレン、プロピレンなどが挙げられる。工程(d3)では、上記還元剤を添加後、40〜80℃で撹拌することにより、非水溶性触媒金属化合物の触媒金属への還元を行う。撹拌時間は特に限定されるものではないが、10分〜6時間が好ましく、30分〜3時間がより好ましく、1〜2時間がさらに好ましい。
上記工程(d4)において、ろ過の条件は特に限定されないが、洗浄後の溶液のpHが8以下になるまで行うことが好ましい。乾燥は空気中または不活性雰囲気下、40〜80℃で行う。
上記工程(d5)における熱処理は、例えば、窒素及び/またはアルゴンを含むガス雰囲気で行うことができる。さらに、前記ガスに、全ガスに対して0容量%より大きく5容量%以下となるように水素を混合して得られるガス雰囲気で熱処理することもできる。熱処理温度は、好ましくは300〜1100℃の範囲であり、より好ましくは500〜1000℃の範囲であり、さらに好ましくは700〜900℃の範囲である。
より具体的な方法の一例として、触媒金属として白金を用いる場合として、例えば以下の方法を挙げることができる。
熱処理物を蒸留水に加え、超音波洗浄機で30分間振とうさせた。この懸濁液をホットプレートで撹拌しながら、液温を80℃に維持し、炭酸ナトリウムを加える。
予め用意した塩化白金酸水溶液を、前記懸濁液に30分かけて加える。その後、液温80℃で2時間撹拌する。
次に、37%ホルムアルデヒド水溶液を上記懸濁液にゆっくり加える。その後、液温80℃で1時間撹拌する。
反応終了後、上記懸濁液を冷却し、ろ過する。
得られた粉末を4容量%水素/窒素雰囲気中、800℃で1時間熱処理することにより、複合触媒である含白金複合触媒が得られる。この含白金複合触媒は、前記触媒担体の製造方法を基準に、担持触媒である白金担持触媒と見ることもできる。
上記工程(d)を経た後に、燃料電池用電極に用いられる複合触媒が得られる。好適な態様としては、前記複合触媒の総重量に対して、前記触媒金属の占める割合が0.01〜50重量%である。
さらに、触媒金属としてパラジウムを用いて、直接メタノール型燃料電池に利用する場合として、例えば以下の方法を挙げることができる。
まず、熱処理物を蒸留水に加え、超音波洗浄機で30分間振とうさせ、得られる懸濁液をホットプレートで撹拌しながら、液温を80℃に維持する。
次いで、予め用意した塩化パラジウム水溶液を、前記懸濁液に30分かけて加えた後、液温80℃で2時間撹拌する。その後、1Mの水酸化ナトリウムを上記懸濁液のpHが11になるまでゆっくり加えてから、上記懸濁液に1Mの水素化ホウ素ナトリウムを、パラジウムが充分還元される量までゆっくり加え、その後、液温80℃で1時間撹拌する。反応終了後、上記懸濁液を冷却し、ろ過する。
得られた粉末を4容量%水素/窒素雰囲気中、300℃で1時間熱処理することにより、複合触媒である含パラジウム複合触媒が得られる。
上記工程(d)を経た後に、燃料電池用電極に用いられる複合触媒が得られる。好適な態様としては、前記複合触媒の総重量に対して、前記触媒金属の占める割合が0.01〜50重量%である。
<複合触媒>
前記酸素還元触媒として用いることができる複合触媒は、上述した複合触媒の製造方法により製造することができる。
前記複合触媒は、カソードが有する触媒層に含有される酸素還元触媒として好適に用いることができる。
前記複合触媒の製造方法によれば、比表面積の大きな複合触媒が製造され、複合触媒のBET法で算出される比表面積は、好ましくは30〜350m2/g、より好ましくは50〜300m2/g、さらに好ましくは100〜300m2/gである。
前記複合触媒の、下記実施例記載の測定法(A)に従って測定される酸素還元開始電位は、可逆水素電極を基準として好ましくは0.9V(vs.RHE)以上、より好ましくは0.95V(vs.RHE)以上、さらに好ましくは1.0V(vs.RHE)以上である。
複合触媒において、触媒金属(白金、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウムおよびレニウム、並びにこれらの2種以上からなる合金)、遷移金属元素M1(チタン、ジルコニウム、ニオブおよびタンタルからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素)および遷移金属元素M2(前記遷移金属元素M1以外の遷移金属、好ましくは鉄、ニッケル、クロム、コバルト、バナジウムおよびマンガンから選ばれる少なくとも1種の金属元素)が存在することにより予想される効果は、以下の通り推定される。
(1)複合触媒を構成する熱処理物が、基質の吸着もしくは反応、または生成物の脱離が起こるような助触媒として働くことにより、触媒金属の触媒作用が高められる。
(2)触媒金属と遷移金属元素M1および遷移金属元素M2の異種金属が隣接する部位において、電荷の偏りが生じ、それら単独ではなしえない、基質の吸着もしくは反応、または生成物の脱離が起こる。
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて述べる。
図1に膜電極接合体を備える燃料電池の一例を示す。
図1中、11がセパレータ、12が固体高分子電解質膜、13がアノードが有する触媒層、14がカソードが有する触媒層、15がガス拡散層、16がガスケットである。
ガス拡散層15、アノードが有する触媒層13およびカソードが有する触媒層14を固体高分子電解質膜12に接合し、一体化したものが、膜電極接合体(以下、「MEA」ともいう。)である。
セパレータ11のアノードが有する触媒層13及びカソードが有する触媒層14に面する部分には、溝が形成されており、アノード側には燃料を供給し、カソード側には酸素もしくは空気を供給する。
水素を燃料とし、空気を酸化剤とする場合、アノードが有する触媒層13及びカソードが有する触媒層14では、それぞれ(1)式及び(2)式に示す反応が起き、電気が取り出せる。
2→2H++2e- ・・・(1)
2+4H++4e-→2H2O ・・・(2)
また、メタノール水溶液を燃料とする場合、アノードが有する触媒層13では(3)式に示す反応が起き、電気が取り出せる。
CH3OH+H2O→CO2+6H++6e- ・・・(3)
(1)式または(3)式のアノードが有する触媒層13で生じたプロトンは、固体高分子電解質膜12を介してカソードが有する触媒層14へ移動する。
本発明の膜電極接合体が有するカソードおよびアノードは、触媒層およびガス拡散層15を有する。ガス拡散層15としては、電子伝導性を有し、ガスの拡散性が高く、耐食性の高いものであれば何であっても構わないが、一般的にはカーボンペーパー、カーボンクロスなどの炭素系多孔質材料や、軽量化のためにステンレス、耐食材を被覆したアルミニウム箔が用いられる。
次に、本発明のMEAの一例を図2に示す。また、従来のMEAを図3に示し、本発明との相違を比較し、本発明形態の特徴を説明する。
ただし、図2および3では、カソードおよびアノードが有するガス拡散層については図示していない。
先ず、従来のMEAの問題点について説明する。
図3中、31が固体高分子電解質膜、32がカソードが有する触媒層、33がアノードが有する触媒層、34が触媒金属、35が担持カーボン、36が撥水性粒子である。
従来のMEAは、D−E断面図に示すように、カソードが有する触媒層およびアノードが有する触媒層は、それぞれの電極が有する緻密な触媒層が固体高分子電解質膜31の上下に形成されている。カソードが有する触媒層32は拡大図Fで示すように、撥水性粒子36がカソードが有する触媒層32全体に分布している。
生成水は、触媒金属34が担持された担持カーボン35の隙間を移動することになるため、生成水の移動抵抗が大きい。また、撥水性粒子36自体は、電極反応に寄与しないため、その存在は電極反応が起こる場である反応物質・触媒・電解質の接触する三相界面を減少させて出力を低下させてしまう。
次に、本発明のMEAの一例を図2と共に説明する。
図2で表わされる本発明のMEAは、カソードが有する触媒層22が、酸素を還元する部分と、酸素を還元する部分に比較して高い撥水性を示す部分とを有している。該カソードが有する触媒層22は、高い撥水性を示す部分が固体高分子電解質膜21からカソードが有する触媒層22表面まで撥水性が均一であることを特徴とする。つまり、高い撥水性を示す部分は、カソードが有する触媒層22の面上を観察すると偏在している。
これにより、カソードが有する触媒層22が、撥水性を付与し生成水の逸散を行う部分と電極反応に寄与する部分とにわかれるため、電極反応と生成水逸散性とを両立させることが可能になり、出力を向上させることができる。
図2中、21は固体高分子電解質膜、22はカソードが有する触媒層、23はアノードが有する触媒層、24は触媒金属、25は触媒担体、26は撥水性粒子、27はカソードが有する触媒層のうち撥水性を付与した部分、28はカソードが有する触媒層22のうち27ではない部分である(A−B断面図参照)。
なお、カソードが有する触媒層は酸素還元触媒を含有するが、前記酸素還元触媒は、前記触媒金属24および触媒担体25から形成される。
カソードが有する触媒層22の拡大図をCに示す。カソードが有する触媒層22のうち撥水性を付与した部分27では、触媒金属24は存在する必要はない。生成水は、撥水性粒子を分散させて撥水性を付与した部分27に沿って移動することができるため、生成水の移動抵抗が小さい。また、撥水性粒子26は電極反応が起こる場には存在しないため、反応物質・触媒・電解質の接触する三相界面の減少は防ぐことができる。
このようなMEAの構造によって、高電流密度での運転時にも高出力を得ることが可能になる。
撥水性粒子26を分散させて撥水性を付与した部分27の個々の面積は、水の移動抵抗を低減するため10μm2以上であることが望ましく、また、触媒量が減少しない5000μm2以下の範囲が望ましい。
さらに、カソードが有する触媒層22の電極面積に対する、撥水性粒子を分散させて撥水性を付与した部分27の総面積の割合は0.01以上0.10以下の範囲が望ましい。
本形態で用いる固体高分子電解質膜21及び触媒層に含有する固体高分子電解質には、プロトン導電性を示す高分子材料を用い、例えば、パーフロロカーボン系スルホン酸樹脂やポリパーフロロスチレン系スルホン酸樹脂に代表されるスルホン酸化あるいはアルキレンスルホン酸化したフッ素系ポリマーやポリスチレン類が挙げられる。
その他に、ポリスルホン類、ポリエーテルスルホン類、ポリエーテルエーテルスルホン類、ポリエーテルエーテルケトン類、炭化水素系ポリマーをスルホン化した材料が挙げられる。
また、タングステン酸化物水和物、ジルコニウム酸化物水和物、スズ酸化物水和物、ケイタングステン酸、ケイモリブデン酸、タングストリン酸、モリブドリン酸などのプロトン導電性無機物を耐熱性樹脂にミクロ分散した複合固体高分子電解質膜を用いることもできる。
本発明の膜電極接合体のカソードが有する触媒層は、酸素還元触媒を含有し、該酸素還元触媒は、触媒金属24と触媒担体25とから形成され、例えば前述の方法により製造することができる。
図2で表わされる態様のMEAの製造方法としては特に限定は無いが、カソードが有する触媒層および隣接する固体高分子電解質膜は、例えば以下の方法で形成することができる。
前記酸素還元触媒、固体高分子電解質、および固体高分子電解質を溶解する溶媒を加えて混合し、ペーストIを作製する。
また、撥水性粒子、カーボン、固体高分子電解質、および固体高分子電解質を溶解する溶媒を加えて混合し、ペーストIIを作製する。
まず、ペーストIIを、PTFEフィルム等の剥離フィルム上に、スプレードライ法等により噴霧する。そして、その剥離フィルム上に、ペーストIをスクリーン印刷法あるいはアプリケータ法によって塗布してカソードが有する触媒層を形成する。
その後、80℃で乾燥させて溶媒を蒸発させる。カソードが有する触媒層及び固体高分子電解質膜をホットプレス法によって接合するか、あるいは、カソードが有する触媒層及び固体高分子電解質膜の間に固体高分子電解質膜の溶液を接着剤として加えて接合することより、カソードが有する触媒層および隣接する固体高分子電解質膜を製造することができる。
なお、膜電極接合体の他の部分については、従来の方法により製造することができる。
カソードが有する触媒層および隣接する固体高分子電解質膜を形成する別の方法を以下に述べる。
まず、酸素還元触媒と、固体高分子電解質、および固体高分子電解質を溶解する溶媒からなるペーストIを、PTFEフィルム等の剥離フィルム上にスプレードライ法等により噴霧する。
次に、その剥離フィルム上に、撥水性粒子、カーボン、固体高分子電解質、および固体高分子電解質を溶解する溶媒からなるペーストIIをスクリーン印刷法あるいはアプリケータ法によって塗布してカソードが有する触媒層を形成する。
その後、80℃で乾燥させて溶媒を蒸発させる。カソードが有する触媒層及び固体高分子電解質膜をホットプレス法によって接合するか、あるいは、カソードが有する触媒層および固体高分子電解質膜の間に固体高分子電解質膜の溶液を接着剤として加えて接合することより、カソードが有する触媒層および隣接する固体高分子電解質膜を製造することができる。
該態様における高い撥水性を付与した部分27は、カソードが有する触媒層22の面上を観察した場合には偏在している。これは、撥水性粒子26が、図2中、垂直方向にはほぼ均一であるが、面方向には分散することであり、面方向に撥水性の分布を持つことである。あるいは、固体高分子電解質膜21から表面までほぼ柱状につらなったものであり、カソードが有する触媒層22の表面上を観察すると島状に存在することである。
なお、高い撥水性を示す部分の個々の面積が10〜5000μm2の範囲であることが好ましい。つまり、該範囲では、逸散性を向上させ、強い撥水性を示す。
燃料電池は、化学エネルギーを直接電気エネルギーに変換する装置である。すなわち、水素、メタノール等の燃料と空気などの酸化剤ガスを電気化学的に酸化、還元させることにより電気を取り出すものである。
燃料電池は、用いる電解質の種類と運転温度とによって、固体高分子型、リン酸型、溶融炭酸塩型、固体酸化物型等に分けられる。
この中でパーフロロカーボンスルフォン酸系樹脂の電解質膜を用いて、アノードで水素ガスを酸化しカソードで酸素を還元して発電するPEFCは出力密度が高い電池として知られている。また、燃料として水素の代わりにメタノール水溶液を用いたDMFCも近年になって注目されている。
これらの電極構造は、プロトン伝導体である固体高分子電解質膜の両側に触媒層を配し、その外側に反応ガスの供給と集電の役目をするガス拡散層が配置された構造となっている。
触媒層は触媒担持カーボンと固体高分子電解質とが適度に混ざり合ったマトリクスになっており、カーボン上の触媒と電解質および反応物質が接触する三相界面において電極反応が行われる。
電極反応としては、水素を燃料とし、空気を酸化剤とするPEFCの場合、アノードおよびカソードではそれぞれ前記(1)および(2)式に示す反応が起き、電気が取り出せる。
また、メタノール水溶液を燃料とするDMFCの場合、アノードでは(3)式に示す反応が起き、電気が取り出せる。
PEFC、DMFCいずれの場合でも、高電流密度で運転した時には、カソードが有する触媒層の表面および孔内に生成水が滞留する、いわゆるフラッディング現象が起こり、反応に必要な気体の拡散経路を阻害してしまい出力が著しく低下するという問題点があったが、本形態を用いることにより解決する。
このフラッディング現象を防ぐため、触媒層内に撥水性粒子、たとえばPTFE粒子を分散させることにより、触媒層に撥水性を与えて生成水の逸散性を向上させている。
高電流運転時の電極内への水の滞留を防ぐには、撥水性粒子の混入量を増やして撥水性を高めることが考えられる。しかしながら、PTFE等の撥水性粒子は、電極反応には寄与しないため、その混入量を増加させると、反応物質・触媒・電解質の接触する三相界面が減少し、出力が低下してしまうという。また、PTFE等の撥水性粒子は導電性を持たないため、電子伝導性の低下にもつながる。更に、撥水性粒子自体が大きくガス拡散性がないため、撥水性粒子の混入量を増やすと、ガス拡散経路を遮断し電池出力をかえって低くする。こうした問題点を本発明は解決することができる。
電解質膜付近の撥水性を高めるということは、電解質膜付近の反応物質・触媒・電解質の接触する三相界面を減少させることであり、また、ガス拡散経路を遮断させることでもある。そのため、出力向上は限られたものになるが、本発明では、このように、困難であった生成水逸散性向上と高出力とを両立させること達成できる。
本発明では、カソード触媒内に、プロトン伝導経路,電子伝導経路およびガス拡散経路を遮断することなく、また、反応物質・触媒・電解質の接触する三相界面を減少させることなく、強い撥水性を付与し、高出力の燃料電池用電極を供給する。
なお、本発明は、燃料電池用電極の生成水逸散性を向上させた燃料電池の電極およびその製造方法に関するものである。
本発明は、固体高分子電解質とカーボン粒子と触媒金属とを含む燃料電池用電極において、カソードが有する触媒層が、酸化ガスを還元する部分と、酸化ガスを還元する部分に比べて高い撥水性を示す部分から成り、高い撥水性を示す部分が前記固体高分子電解質膜からカソードが有する触媒層表面まで撥水性が均一であることを特徴とする。これにより、カソードが有する触媒層が、撥水性を付与し生成水の逸散を行う部分と電極反応に寄与する部分にわかれるため、電極反応と生成水逸散性を両立させることが可能になり出力を向上させることができる。
本発明のMEAの別の例を以下説明する。
本発明のMEAの別の例としては、前記カソードが有する触媒層が、前記酸素還元触媒と、プロトン伝導性を有する高分子と、撥水性を持つ材料とを有し、前記撥水性を持つ材料が導電性を持つ態様が挙げられる。
該態様では、カソードが有する触媒層が、プロトン伝導性を有する高分子以外に、撥水性を持つ材料を有しており、該撥水性を持つ材料が導電性を持つことを特徴とする。
該導電性および撥水性を持つ材料としては、例えば、導電性をもつ炭素系撥水性粒子が挙げられる。
前記導電性および撥水性をもつ材料を用いることにより、カソードとしての電気抵抗を高めることなく、触媒層に撥水性を持たせることが可能であり、高出力のMEAを提供することができる。
導電性を持つ炭素系の撥水性材料として、(1)グラファイト層間化合物、(2)活性炭、(3)疎水性官能基を導入した炭素を用いることができる。以下、それぞれについて詳細に説明する。
グラファイトは炭素の結晶体であり、異方性の強い層状構造を有している。グラファイトは種々の物質と化合物を形成することが知られているが、それらはグラファイトの層状構造を保持しているので、グラファイト層間化合物と呼んでいる。グラファイト層間化合物は、グラファイトと反応物質との間の結合状態により三つの種類に分けることができる。一つ目は、共有結合型のもので、反応物質がグラファイトの炭素原子とσ結合をつくる系である。二つ目は、反応物質がグラファイトの平面構造を維持したまま層間に侵入されたものである。三つ目は、反応物質がグラファイト結晶中の格子欠陥や結晶粒界など物理的に特殊な状況にあるサイトと結合しているものである。三つ目の種類のグラファイト層間化合物は特殊な環境下で形成されるものなので、本発明に用いる導電性と撥水性を兼ね備えたグラファイト層間化合物としては、共有結合型と、平面構造を維持したまま反応物質が挿入される型を対象とする。
共有結合型のグラファイト層間化合物は、グラファイトの網目構造の平面性が失われて折れ曲がった波板構造を持ち、性質的にグラファイトと全く異なる。本発明に用いることができる共有結合型のグラファイト層間化合物の反応物質として、フッ素(フッ化グラファイト)、酸素(グラファイト酸)が挙げられるが、撥水性の観点から、より好ましくはフッ化グラファイトである。フッ化グラファイト(CmFn、ここでm、nは自然数である)は、水との接触角が約140°であり、PTFEの108°と比較して高い撥水性を持つ。そして、その撥水性は、n/m比を変化させても、若干の幅はあるものの高い撥水性を維持する。例えば、n/m=1のフッ化グラファイト(CmFn)の水との接触角は143°、n/m=0.58においては141°であり、フッ素含有量に大きく依存はしない。
一方、導電率に関しては、n/m比により大幅に変わる。n/m=1では白色であり導電性は持たないが、フッ素含有量を減らしていくと、色は白、灰、および黒色となり導電性を帯びるようになる。n/m=0.58においては、黒灰色であり、導電率を持つ。本発明では、n/m<1の導電性を持ったフッ化グラファイトを対象とする。また、導電性を持たないn/m=1でもその撥水性の高さから、PTFEに代わる撥水材として利用することも可能である。
グラファイトの平面構造を維持したまま反応物質が挿入されるグラファイト層間化合物では、その性質はグラファイト層の性質が大部分を決定しており、層間に挿入された物質がそれを修飾する形となる。グラファイトは、処理方法によっても異なるが、水との接触角が約90°近くであり比較的撥水性は高い。また、導電率に関しては、面内方向σa=2.5×104S/cm、C軸方向σc=8.3S/cmであり半金属に分類されている。グラファイトの平面構造を維持したまま反応物質が挿入されるグラファイト層間化合物では、グラファイトの比較的高い撥水性が維持される一方で、層間に挿入された物質種により導電率は大きく変化する。
層間に挿入された物質により、導電率が一桁増加して金属的になるものが多い。本発明に用いることができるグラファイトの平面構造を維持したまま反応種が挿入される型のグラファイト層間化合物の反応物質として、Li、Na、K等のアルカリ金属、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属、Sm、Eu、Yb等の希土類元素、Mn、Fe、Ni、Co、Zn、Mo等の遷移金属、Br2、ICl、IBr、等のハロゲン、HNO3、H2SO4、HF、HBF4等の酸、FeCl3、FeCl2、SbCl5等の塩化物、SbF5、AsF5等のフッ素化物が挙げられる。
より好ましくは、導電性・室温での安定性の観点から、SbF5、AsF5のグラファイト層間化合物が良い。SbF5、AsF5を挿入したグラファイト層間化合物ではC軸方向の導電率が大幅に上昇し、SbF5では1.8×105S/cm、AsF5では6.3×105S/cmとなり、グラファイトに比べて約一桁上昇する。
また、導電性を持つ炭素系の撥水性材料として、活性炭を用いることができる。活性炭は、ミクロ孔と呼ばれる直径0.002μm以下の細孔、メソ孔と呼ばれる直径0.002〜0.05μmの細孔、およびマクロ孔と呼ばれる直径0.05μm以上の細孔を有する多孔質炭素材料である。活性炭は、炭素材料の中でも低い表面エネルギーを持ち、そのため、強い撥水性を示す。また、活性炭は炭素材料であるため、導電性にも優れている。この活性炭を、カソードが有する触媒層中に撥水材として混在させることにより、導電性と撥水性を両立することが可能になる。
また、導電性を持つ炭素系の撥水性材料として、疎水性官能基を表面に導入した種々の炭素材料を用いることが可能である。カーボンブラック、炭素繊維といった炭素材料は導電性を持ち、その表面に疎水性官能基を導入することで撥水性を持たせることができる。疎水性の表面官能基としては、鎖状および環状炭化水素基、芳香族炭化水素基などを用いることができる。
次に本発明の導電性を持つ炭素系撥水性粒子を含んだMEAについて図4および図5を用いて説明する。図4(a)は本発明のMEAの平面図であり、図4(b)は図4(a)のA−A断面図であり、図5は図4(b)の点線円で示された部分Bの拡大模式図である。
ただし、図4では、カソードおよびアノードが有するガス拡散層については図示していない。
本発明は、MEAを構成するカソードが有する触媒層に、導電性を持つ炭素系撥水性粒子を混入していることを特徴とする。これにより、カソードが有する触媒層が、撥水性を付与しても電極の導電率が保たれるため、特に高電流密度時のIRドロップを低減することが可能になり、出力を向上させることができる。図4、5中、41は固体高分子電解質膜、42はカソードが有する触媒層、43はアノードが有する触媒層、44は触媒金属、45は触媒担体、46は導電性を持つ炭素系撥水性粒子である。カソードが有する触媒層の拡大図を図5に示す。
導電性を持つ炭素系撥水性粒子は電極反応に必要な電子の移動を妨げることないため、高電流密度時にもIRドロップが小さく、高出力を保てる。このような導電性を持つ炭素系撥水性粒子を含んだMEAによって、高電流密度での運転時にも高出力を得ることが可能になる。
導電性を持つ炭素系撥水性粒子の粒径は、分散性等の観点から、0.1〜10μmが望ましく、特に0.1〜2μmが好ましい。また、電極内に含まれる量としては、カソードが有する触媒層全体の重量に対して5〜30wt%が望ましく、特に5〜20%が好ましい。また、導電性を持つ炭素系撥水性粒子のカソードが有する触媒層内での分散方法に関しては電極平面方向に島状に分布させてもよい。
本発明で用いる固体高分子電解質膜41および触媒層が含有する固体高分子電解質には、プロトン導電性を示す高分子材料を用い、例えばパーフロロカーボン系スルホン酸樹脂やポリパーフロロスチレン系スルホン酸樹脂に代表されるスルホン酸化あるいはアルキレンスルホン酸化したフッ素系ポリマーやポリスチレン類が挙げられる。その他にポリスルホン類、ポリエーテルスルホン類、ポリエーテルエーテルスルホン類、ポリエーテルエーテルケトン類、炭化水素系ポリマーをスルホン化した材料が挙げられる。また、タングステン酸化物水和物、ジルコニウム酸化物水和物、スズ酸化物水和物、ケイタングステン酸、ケイモリブデン酸、タングストリン酸、モリブドリン酸などのプロトン導電性無機物を耐熱性樹脂にミクロ分散した複合固体高分子電解質膜を用いることもできる。
本発明の膜電極接合体のカソードが有する触媒層は、酸素還元触媒を含有し、該酸素還元触媒は、触媒金属44と触媒担体45とから形成され、例えば前述の方法により製造することができる。
本発明の導電性を持つ撥水材であるグラファイト層間化合物の合成方法は、(1)グラファイトと気相または液相の挿入物質とを接触させる方法である「粉末−気相/液相反応法」、(2)挿入物質を含む電解溶液をグラファイト電極を用いて電気分解する方法である「電解生成法」を用いることができる。例えば、フッ化グラファイト(CmFn、ここでm、nは自然数である)は、グラファイトとフッ素ガスとの反応により得ることができる。その反応の時間、および反応温度を制御することでn/m比を制御することが可能である。例えば、反応温度375℃、120時間反応によりn/m=0.53、反応温度500℃、120時間反応によりn/m=0.75、反応温度600℃、120時間反応によりn/m=1のフッ化グラファイト(CmFn)が生成した。
カソードが有する触媒層およびアノードが有する触媒層が接合された固体高分子電解質膜の作製の一例を以下に述べる。ここでは、グラファイト層間化合物であるフッ化グラファイト(CmFn)(ここでn/m=0.53)を用いた例を示す。まず、フッ化グラファイト、酸素還元触媒、固体高分子電解質、および固体高分子電解質を溶解する溶媒を加えて十分混合したカソード触媒ペーストを作製する。また、PtRu合金を担持したカーボン、固体高分子電解質、および固体高分子電解質を溶解する溶媒を加えて十分混合したアノード触媒ペーストを作製する。それらのペーストを、それぞれポリフルオロエチレン(PTFE)フィルム等の剥離フィルム上に、スプレードライ法等により噴霧し、80℃で乾燥させて溶媒を蒸発させ、カソードが有する触媒層およびアノードが有する触媒層を形成する。
次にそれらのカソードが有する触媒層およびアノードが有する触媒層を、固体高分子電解質膜を真ん中に挟んでホットプレス法によって接合し、剥離フィルムを剥がすことにより、カソードが有する触媒層およびアノードが有する触媒層が接合された固体高分子電解質膜を作製することができる。また、カソードが有する触媒層およびアノードが有する触媒層が接合された固体高分子電解質膜作製の別の一例として、上記のフッ化グラファイト、酸素還元触媒、固体高分子電解質、および固体高分子電解質を溶解する溶媒を加えて十分混合したカソード触媒ペーストと、PtRu合金を担持したカーボン、固体高分子電解質、および固体高分子電解質を溶解する溶媒を加えて十分混合したアノード触媒ペーストとを、スプレードライ法等により、直接固体高分子電解質膜に噴霧することでも作製することができる。
同様に、上記で示したフッ化グラファイトに代えて、その他のグラファイト層間化合物、活性炭、あるいは疎水性官能基を表面に導入した炭素材料を用いることにより、カソードが有する触媒層およびアノードが有する触媒層が接合された固体高分子電解質膜を作製することができる。
なお、膜電極接合体の他の部分(例えばガス拡散層)については、従来の方法により製造することができる。
本発明のMEAの別の例を以下説明する。
本発明のMEAの別の例としては、前記カソードが有する触媒層が、超撥水性を示すことを特徴とする。具体的には、カソードが有する触媒層の水との接触角が150°以上であることが好ましい。
該態様は、通常は、カソードが有する触媒層に、パーフルオロポリエーテル鎖を有するケイ素化合物、パーフルオロアルキル鎖を有するケイ素化合物及びフルオロアルキル鎖を有するケイ素化合物からなる群から選ばれた1種以上を含有させることにより、カソードが有する触媒層に超撥水性を付与する。そして、パーフルオロポリエーテル鎖を有するケイ素化合物、あるいはパーフルオロアルキル鎖を有するケイ素化合物、あるいはフルオロアルキル鎖を有するケイ素化合物が、式(1)で示される化合物のいずれかもしくは2種類以上が縮合反応することで、カソードが有する触媒層中に含有されることが好ましい。式(1)
[F{CF(CF3)−CF2O}n−CF(CF3)]−X−Si(OR13
{F(CF2CF2CF2O)n}−X−Si(OR23
{H(CF2n}−Y−Si(OR33
{F(CF2n}−Y−Si(OR43
式(1)において、Xはパーフルオロポリエーテル鎖とアルコキシシラン残基との結合部位、Yはパーフルオロアルキル鎖とアルコキシシラン残基との結合部位、及びR1、R2、R3、R4はアルキル基である。
これらの化合物は従来の撥水材以上の撥水性を示すために、カソードが有する触媒層にこれまで以上の撥水性を付与することが可能になる。すなわち、本発明によりカソードが有する触媒層に超撥水性を持たせることも可能である。超撥水性を持たせることで、カソードが有する触媒層に水が全く付着することがなくなるため、フラッディング現象が起こらなくなり、出力を向上させることができる。なお、本明細書における「超撥水」とは、接触角計等で表面に水を付着させようとした際でも水が付着しない性質を示す。具体的には、我々が実験したところ、接触角が157°以上の表面が超撥水性を示した。従って、本発明における超撥水性とは、水の接触角が150°以上であることを言う。
本発明による実施形態について図面を用いて詳しく述べる。図1に本発明の燃料電池の単位セルの構成の一例を示す。図1中、11がセパレータ、12が固体高分子電解質膜、13がアノードが有する触媒層、14がカソードが有する触媒層、15がガス拡散層、16がガスケットである。ガス拡散層15、アノードが有する触媒層13およびカソードが有する触媒層14を固体高分子電解質膜12に接合し、一体化したものが、膜電極接合体である。セパレータ11は導電性を有し、その材質は、緻密黒鉛プレート、黒鉛やカーボンブラックなどの炭素材料を樹脂によって成形したカーボンプレート、ステンレス鋼やチタン等の耐蝕性の優れた金属材料が望ましい。また、セパレータ11の表面を貴金属メッキし、又は耐食性、耐熱性の優れた導電性塗料を塗布し表面処理することも望ましい。
セパレータ11のアノードが有する触媒層13及びカソードが有する触媒層14に面する部分には溝が形成されており、アノード側には燃料を供給し、カソード側には酸素もしくは空気を供給する。水素を燃料とし、空気を酸化剤とする場合、アノード13及びカソード14ではそれぞれ(1)及び(2)式に示す反応が起き、電気が取り出せる。
2 → 2H+ + 2e- (1)
2 + 4H+ + 4e- → 2H2O (2)
また、メタノール水溶液を燃料とするDMFCの場合、アノード13では(3)式に示す反応が起き、電気が取り出せる。
CH3OH + H2O → CO2 + 6H+ + 6e- (3)
(1)あるいは(3)式のアノード13で生じたプロトンは固体高分子電解質膜12を介してカソード14へ移動する。
ガス拡散層15としては、電子伝導性を有し、ガスの拡散性が高く、耐食性の高いものであれば何であっても構わないが、一般的にはカーボンペーパー、カーボンクロスなどの炭素系多孔質材料や、軽量化のためにステンレス、耐食材を被覆したアルミニウム箔が用いられる。
図6に本発明の膜電極接合体の模式図を示す。61が固体高分子電解質膜、62がカソード触媒層、63がアノード触媒層、64が触媒金属、65が担体、66がケイ素化合物、67が生成水である。図6において、(a)はMEAの平面図、(b)はその断面図、(c)は(b)のI部の拡大図である。(c)に示すように、パーフルオロポリエーテル鎖を有するケイ素化合物、パーフルオロアルキル鎖を有するケイ素化合物、フルオロアルキル鎖を有するケイ素化合物のいずれか、又は上記化合物の少なくとも2種類以上がカソードが有する触媒層に存在する。
ただし、図6では、カソードおよびアノードが有するガス拡散層については図示していない。
これらの化合物は強い撥水性を示すため、カソードが有する触媒層表面の水との接触角は大きくなる。さらには超撥水性を付与することも可能であり、生成水は図6(c)のように水玉となる。その場合、生成水はカソードが有する触媒層に付着することがなくなり、飛散することでカソードが有する触媒層表面から逸散することになる。そのため、カソードが有する触媒層表面に生成水が滞留することはなくなる。これは、従来のように生成水との接触角を大きくし蒸発させやすくする方法と比較すると、生成水の逸散性が飛躍的に向上することになる。特に高電流密度時のフラッディング現象を防ぐことができるため、出力を向上させることができる。
(式1)で示される含フッ素化合物の具体的な例としては以下の化合物1〜12等があげられる。
(化合物1)
F{CF(CF3)−CF2O}n−CF(CF3)−CONH−(CH23−Si(OCH2CH33
(化合物2)
F{CF(CF3)−CF2O}n−CF(CF3)−CONH−(CH23−Si(OCH33
(化合物3)
F(CF2CF2CF2O)n−CF2CF2−CONH−(CH23−Si(OCH2CH33
(化合物4)
F(CF2CF2CF2O)n−CF2CF2−CONH−(CH23−Si(OCH33
(化合物5)
H(CF26−CONH−(CH23−Si(OCH2CH33
(化合物6)
H(CF26−CONH−(CH23−Si(OCH33
(化合物7)
H(CF28−CONH−(CH23−Si(OCH2CH33
(化合物8)
H(CF28−CONH−(CH23−Si(OCH33
(化合物9)
F(CF26−CH2CH2−Si(OCH33
(化合物10)
F(CF28−CH2CH2−Si(OCH33
(化合物11)
F(CF26−CH2CH2−Si(OCH2CH33
(化合物12)
F(CF28−CH2CH2−Si(OCH2CH33
このうち化合物1〜8は以下に示す合成方法により得られる。化合物9〜12はそれぞれ「1H,1H,2H,2H−パーフルオロオクチルトリメトキシシラン」、「1H,1H,2H,2H−パーフルオロオクチルトリエトキシシラン」、「1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリメトキシシラン」、「1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリエトキシシラン」としてヒドラス化学社より市販されている。またその他の市販材料としてはダイキン工業社製オプツールDSXが挙げられる。
(化合物1の合成)
デュポン社製クライトックス157FS−L(平均分子量2500)(25重量部)を3M社製PF−5080(100重量部)に溶解し、これに塩化チオニル(20重量部)を加え、攪拌しながら48時間還流する。そして塩化チオニルとPF−5080をエバポレーターで揮発させ、クライトックス157FS−Lの酸クロライド(25重量部)を得る。さらにこれにPF−5080(100重量部)、チッソ社製サイラエースS330(3重量部)、トリエチルアミン(3重量部)を加え、室温で20時間攪拌する。その後、反応液を昭和化学工業社製ラジオライト ファインフローAでろ過し、ろ液中のPF−5080をエバポレーターで揮発させ、化合物1(20重量部)を得る。
(化合物2の合成)
チッソ社製サイラエースS330(3重量部)の代わりにチッソ社製サイラエースS360(3重量部)を用いる以外は化合物1と同様にして化合物2(20重量部)を得る。
(化合物3の合成)
デュポン社製クライトックス157FS−L(平均分子量2500)(25重量部)の代わりにダイキン工業社製デムナムSH(平均分子量3500)(35重量部)を用いる以外は化合物1の合成と同様にして化合物3(30重量部)を得る。
(化合物4の合成)
チッソ社製サイラエースS330(3重量部)の代わりにチッソ社製サイラエースS360を用い、デュポン社製クライトックス157FS−L(平均分子量2500)(25重量部)の代わりにダイキン工業社製デムナムSH(平均分子量3500)(35重量部)を用いる以外は化合物1の合成と同様にして化合物4(30重量部)を得る。
(化合物5の合成)
デュポン社製クライトックス157FS−L(平均分子量2500)(25重量部)の代わりにダイキン工業社製7H−ドデカフルオロヘプタン酸(分子量346.06)(3.5重量部)を用いる以外は化合物1の合成と同様にして化合物5(3.5重量部)を得る。
(化合物6の合成)
デュポン社製クライトックス157FS−L(平均分子量2500)(25重量部)の代わりにダイキン工業社製7H−ドデカフルオロヘプタン酸(分子量346.06)(3.5重量部)を用い、チッソ社製サイラエースS330(3重量部)の代わりに、チッソ社製サイラエースS320(2重量部)を用いる以外は化合物1の合成と同様にして化合物6(3.5重量部)を得る。
(化合物7の合成)
デュポン社製クライトックス157FS−L(平均分子量2500)(25重量部)の代わりにダイキン工業社製9H−ヘキサデカフルオロノナン酸(分子量446.07)(4.5重量部)を用いる以外は化合物1の合成と同様にして化合物7(4.5重量部)を得る。
(化合物8の合成)
デュポン社製クライトックス157FS−L(平均分子量2500)(25重量部)の代わりにダイキン工業社製9H−ヘキサデカフルオロノナン酸(分子量446.07)(4.5重量部)を用い、チッソ社製サイラエースS330(3重量部)の代わりにチッソ社製サイラエースS320(2重量部)を用いる以外は化合物1の合成と同様にして化合物8(4.5重量部)を得る。
パーフルオロポリエーテル鎖を有するケイ素化合物、あるいはパーフルオロアルキル鎖を有するケイ素化合物、あるいはフルオロアルキル鎖を有するケイ素化合物、あるいは上記化合物を少なくとも2種類以上含むカソードが有する触媒層およびアノードが有する触媒層が接合された固体高分子電解質膜の作製方法としては、以下の2通りの方法が挙げられる。なお、膜電極接合体の他の部分(例えばガス拡散層)については、従来の方法により製造することができる。
(1)カソードが有する触媒層およびアノードが有する触媒層が接合された固体高分子電解質膜に直接処理をする。
(2)触媒に処理をした後、その処理した触媒を用いてカソードが有する触媒層およびアノードが有する触媒層が接合された固体高分子電解質膜を作製する。
(1)のカソードが有する触媒層およびアノードが有する触媒層が接合された固体高分子電解質膜に直接処理をする方法を以下に述べる。まず、カソードが有する触媒層表面に酸素プラズマ照射することで、カソードが有する触媒層表面に水酸基を導入する。この時の高周波電源の出力は50Wから200W、照射時間は30秒から300秒が望ましい。高周波電源の出力および照射時間を制御することで、導入する水酸基の濃度を制御することが可能である。
一方、あらかじめ、式(1)で示される含フッ素化合物をフッ素系の溶媒に溶解した溶液を作っておく。フッ素系溶媒として具体的には3M社製のFC−72、FC−77、PF−5060、PF−5080、HFE−7100、HFE−7200、デュポン社製のバートレルXF等が挙げられる。また、濃度は0.5重量%程度が好ましい。
その溶液中に、予めプラズマ処理等によりカソードが有する触媒層に水酸基を導入したカソードが有する触媒層およびアノードが有する触媒層が接合された固体高分子電解質膜を浸漬する。浸漬時間は5分程度で十分である。そして、その後、溶液から引き上げ、加熱することでカソードが有する触媒層表面の水酸基と、式(1)で示される含フッ素化合物を反応させる。加熱温度は100℃以上が望ましく、120℃以上とすればさらに敏速に反応を進行させることができる。加熱時間は100℃の場合は1時間程度、120℃の場合は15分程度、140℃の場合は10分程度が望ましい。ただし、250℃以上は含フッ素化合物および高分子電解質膜が熱分解するため好ましくない。その後、フッ素系の溶媒をかけて、余分な化合物を除去することで、含フッ素化合物を含むカソードが有する触媒層が得られる。
なお、式(1)で示される含フッ素化合物をフッ素系の溶媒に溶解した溶液を、水酸基を導入したカソードが有する触媒層に塗布しその後加熱することでも含フッ素化合物を含むカソードが有する触媒層を持つ膜電極接合体を作製することができる。その場合の塗布は、ハケ塗り、スピンコート法、スプレー法等を用いて行うことができる。以上のようにして反応させた含フッ素化合物はカソードが有する触媒層表面の水酸基と反応し、表面に化学結合を形成するので、カソードが有する触媒層表面から離脱することはない。
また、パーフルオロポリエーテル鎖を有するケイ素化合物、パーフルオロアルキル鎖を有するケイ素化合物及びフルオロアルキル鎖を有するケイ素化合物からなる群から選ばれた1種以上含むカソードが有する触媒層およびアノードが有する触媒層が接合された固体高分子電解質膜の作製方法としては、(2)触媒に処理をした後、その処理した触媒を用いてカソードが有する触媒層およびアノードが有する触媒層が接合された固体高分子電解質膜を作製するという方法でも作製できる。以下その作製方法について述べる。
まず、酸素還元触媒に酸素プラズマ照射することで、酸素還元触媒に水酸基を導入する。この時の高周波電源の出力は50Wから200W、照射時間は30秒から300秒が望ましい。高周波電源の出力および照射時間を制御することで、導入する水酸基の濃度を制御することが可能である。
一方、あらかじめ、式(1)で示される含フッ素化合物をフッ素系の溶媒に溶解した溶液を作っておく。フッ素系溶媒として具体的には3M社製のFC−72、FC−77、PF−5060、PF−5080、HFE−7100、HFE−7200、デュポン社製のバートレルXF等が挙げられる。また、濃度は0.5重量%程度が好ましい。その溶液中に、表面に水酸基を導入した酸素還元触媒を浸漬する。浸漬時間は5分程度で十分である。そして、その後、溶液から引き上げ、加熱することで酸素還元触媒表面の水酸基と、式(1)で示される含フッ素化合物を反応させる。
加熱温度は100℃以上が望ましく、120℃以上とすればさらに敏速に反応を進行させることができる。加熱時間は100℃の場合は1時間程度、120℃の場合は15分程度、140℃の場合は10分程度が望ましい。ただし、250℃以上は含フッ素化合物が熱分解するため好ましくない。その後、フッ素系の溶媒をかけて、余分な化合物を除去することで、パーフルオロポリエーテル鎖を有するケイ素化合物、あるいはパーフルオロアルキル鎖を有するケイ素化合物、あるいはフルオロアルキル鎖を有するケイ素化合物、あるいは上記化合物を少なくとも2種類以上を含む酸素還元触媒が得られる。
その後、この触媒を用いてカソードが有する触媒層およびアノードが有する触媒層が接合された固体高分子電解質膜を作製することで、カソードが有する触媒層にパーフルオロポリエーテル鎖を有するケイ素化合物、パーフルオロアルキル鎖を有するケイ素化合物及びフルオロアルキル鎖を有するケイ素化合物からなる群から選ばれた1種以上を含むカソードが有する触媒層およびアノードが有する触媒層が接合された固体高分子電解質膜を得ることができる。
カソードが有する触媒層およびアノードが有する触媒層が接合された固体高分子電解質膜の作製に関しては以下の方法で作製することができる。まず、酸素還元触媒、固体高分子電解質、および固体高分子電解質を溶解する溶媒を加えて十分混合したカソードおよびアノード触媒ペーストを作製する。それらのペーストを、それぞれポリフルオロエチレン(PTFE)フィルム等の剥離フィルム上に、スプレードライ法等により噴霧し、80℃で乾燥させて溶媒を蒸発させ、カソードおよびアノードが有する触媒層を形成する。次にそれらのカソードおよびアノードが有する触媒層を、固体高分子電解質膜を真ん中にはさんでホットプレス法によって接合し、剥離フィルムを剥がすことにより、カソードが有する触媒層およびアノードが有する触媒層が接合された固体高分子電解質膜を作製することができる。
また、カソードが有する触媒層およびアノードが有する触媒層が接合された固体高分子電解質膜作製の別の一例として、上記の酸素還元触媒、固体高分子電解質、および固体高分子電解質を溶解する溶媒を加えて十分混合したカソード触媒ペーストと、PtRu合金を担持したカーボン、固体高分子電解質、および固体高分子電解質を溶解する溶媒を加えて十分混合したアノード触媒ペーストとを、スプレードライ法等により、直接固体高分子電解質膜に噴霧することでも作製することができる。
本発明で用いる固体高分子電解質膜21及び触媒層に含有する固体高分子電解質には、プロトン導電性を示す高分子材料を用い、例えばパーフロロカーボン系スルホン酸樹脂やポリパーフロロスチレン系スルホン酸樹脂に代表されるスルホン酸化あるいはアルキレンスルホン酸化したフッ素系ポリマーやポリスチレン類が挙げられる。その他にポリスルホン類、ポリエーテルスルホン類、ポリエーテルエーテルスルホン類、ポリエーテルエーテルケトン類、炭化水素系ポリマーをスルホン化した材料が挙げられる。また、タングステン酸化物水和物、ジルコニウム酸化物水和物、スズ酸化物水和物、ケイタングステン酸、ケイモリブデン酸、タングストリン酸、モリブドリン酸などのプロトン導電性無機物を耐熱性樹脂にミクロ分散した複合固体高分子電解質膜を用いることもできる。
本発明の膜電極接合体のカソードが有する触媒層は、酸素還元触媒を含有し、該酸素還元触媒は、触媒金属34と触媒担体35とから形成され、例えば前述の方法により製造することができる。
本発明の膜電極接合体は、カソードと、固体高分子電解質膜との間に拡散補助層を有していてもよい。
拡散補助層を有すると、カソード、固体高分子電解質膜との境界付近に留まるカソード生成水および電解質膜透過水を効果的に取り除くことが可能であり、長期間安定して高い性能を発揮することが可能な膜電極接合体となるため好ましい。
拡散補助層は通常、撥水性樹脂基材と水素イオン伝導性樹脂部材よりなる、多孔質の部材によって構成される。すなわち、前記拡散補助層では、多孔質の撥水性樹脂よりなる部材を用いることにより、カソードにおいて生成する水蒸気及び電解質膜を透過してくる水蒸気が、カソードおよび/または電解質膜の近傍に凝縮するのを防止する。また、前記拡散補助層では、水素イオン伝導性樹脂部材により、電解質膜とカソードの間の水素イオンの移動を促進させることができる。
本発明の膜電極接合体が有するカソードおよびアノードはそれぞれ、前述のように触媒層およびガス拡散層を有するが、触媒層とガス拡散層とを積層するに際して、カーボン等の多孔質な層を介して両者を一体形状に成型することもできる。
アノードが有する触媒層に含有されるアノード触媒としては特に限定は無く、例えば炭素系粉末担体に白金とルテニウムあるいは白金/ルテニウム合金の微粒子を分散担持したものを用いてもよい。
なお、ガス拡散層を設ける場合には、本発明の膜電極接合体を、直接メタノール型燃料電池に用いることが好ましい。
拡散補助層に求められる代表的な特性としては、以下の(1)から(5)が挙げられる。
(1)アノード電極で発生した水素イオンを、電解質膜からカソード電極へ送るための水素イオン導電性
(2)アノード電極側から電解質膜を透過した水が、カソード電極へ浸透することを防ぐための撥水性
(3)カソード生成水を、カソード電極の電解質膜側から排出するための撥水性
(4)カソード電極内を拡散してきた空気の流れを、拡散補助層内に取り込むためのガス透過性
(5)上記(4)のカソード電極から拡散してきた空気の流れによって、カソード生成水をカソード電極の電解質膜側から排出するためのガス透過性
拡散補助層は上記の機能を発現させるためのもので、撥水性の多孔質材であり、さらに水素イオン導電性を有することを特徴とする。具体的には、拡散補助層は水素イオン伝導性樹脂部材と撥水材を包含する多孔体によって構成される。拡散補助層の詳細を図7により説明する。図7は拡散補助層の断面の概念図である。撥水性樹脂基材71の孔部分72に、水素イオン伝導性樹脂部材73が形成されている。水素イオン伝導性樹脂部材73は、撥水性樹脂基材71の孔部分72に、粒子状に分散していることが好ましい。これにより、撥水性樹脂基材71の表面積が大きくなり、撥水性を発現させることができる。
上記(1)から(5)の特性を満たすために、包含される水素イオン伝導性樹脂部材73や撥水性樹脂基材71を形成する撥水材、それぞれの添加量、拡散補助層の細孔直径、空孔率、ガス透過性や厚さ等を熟慮する必要がある。
拡散補助層は、限定的ではないが、好ましい空孔率や厚さを有する基材を選び、その基材に撥水材と水素イオン導電性樹脂部材73を含浸させて得ることができる。さらに作製プロセスの簡略化のためには、始めから好ましい空孔率や厚さを有する基材として、撥水性を示す材料で作られた多孔質の撥水性樹脂基材71を用いる方法が望ましい。例えば、パーフロロカーボンスルフォン酸樹脂のディスパージョンを、フッ素樹脂からなる多孔体に含浸させて、乾燥させることにより拡散補助層を作製することができる。
多孔質の撥水性樹脂基材71としては、撥水性を示す限りにおいて限定的ではないがポリエチレン,ポリプロピレン,ポリカーボネート等がある。他にナイロン,フェノール樹脂,アクリル樹脂等様々ある。しかしながら熱や汚れに強い点からポリテトラフロロエチレン(以下、PTFEと略記する)やテトラフロロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)等のフッ素樹脂からなる多孔体が最も好ましい。
水素イオン伝導性樹脂部材73としては、代表的な材料としてパーフロロカーボン系スルフォン酸樹脂,ポリパーフロロスチレン系スルフォン酸樹脂などに代表されるスルフォン酸化やアルキレンスルフォン酸化したフッ素系ポリマやポリスチレン類,ポリスルフォン類,ポリエーテルスルフォン類,ポリエーテルエーテルスルフォン類,ポリエーテルエーテルケトン類,その他の炭化水素系ポリマをスルフォン化した材料を用いることができる。
拡散補助層は電解質膜とカソード電極の間に設けられるために、拡散補助層における水素イオン伝導性樹脂部材の添加量は、膜電極接合体の抵抗に影響を及ぼす。添加する水素イオン伝導性樹脂部材の量としては、拡散補助層の体積に対して、体積パーセントで
30%から50%であることが望ましい。水素イオン伝導性樹脂部材の添加量が体積パーセントで29%よりも少ないと、電解質膜からカソード電極への水素イオンの移動に対して障害となる。水素イオン伝導性樹脂部材の添加量が、体積パーセントで51%よりも多いと、水素イオン伝導性樹脂部材は親水性が高いため、拡散補助層の親水性が高くなり、水蒸気結露によるガス拡散性の低下と、結露水停滞による排水性の低下に繋がる。従って、水素イオン伝導性樹脂部材の量を体積パーセントで30%から50%とすることにより、電解質膜から供給される水素イオンをカソード電極に供給することができ、式(2)の反応を速やかに進行させることができる。
カソード電極近傍からの水分の排出を促進するためには、細孔分布プロファイルが重要な要件である。拡散補助層の細孔分布は、水銀圧入法等の公知の方法により測定することができる。それによると、平均細孔直径が0.060μmから2.0μmの範囲にあることが望ましい。平均細孔直径が0.059μm 以下であると、細孔径が小さくなりすぎて、ガスの透過性が低下するため望ましくない。逆に、平均細孔直径が2.1μm 以上になると、ガスの透過性は向上するが、大きな細孔内の空間に凝縮した水滴が存在できるようになる。すなわち、細孔径が2.0μm 以下であれば、水は毛管凝縮しかできず、拡散補助層の基材が撥水性であれば、拡散補助層の細孔内への毛管凝縮は抑制される。しかし、平均細孔直径が2.1μm 以上になると、大きな細孔の中央部に凝縮した水滴が形成され、細孔が閉塞されてガスの透過性を低下させるため、拡散補助層としては望ましくない。
拡散補助層の空孔率はガス透過性に関係するため、拡散補助層の空孔率は20%から
40%であることが好ましい。拡散補助層の空孔率を20%から40%とすることにより、水素イオンに同伴して電解質膜から排出される水蒸気を、ガスの流れに同伴させて、カソード電極へ速やかに拡散できるようにすることができる。拡散補助層の空孔率が19%以下であると、ガスの拡散が阻害されるため好ましくない。また拡散補助層の空孔率が41%以上であると膜/電極接合体を作製する際に、加圧により変形して電解質膜とカソード電極層が直接接触するおそれがあるため好ましくない。
さらに、また、拡散補助層のガス透過性をカソード電極側より大きくすることにより、水素イオンに同伴して電解質膜から排出される水蒸気を、カソード電極へ速やかに拡散できるようにする。これにより、水がカソード電極層の細孔を閉塞して、電極反応が阻害されるのを抑制することができる。カソード電極のガス透過性はカソード電極の作り方によって様々であるが、おおよそ30cm3/m2・24h・atm(23℃、酸素、0%RHの条件下)程度の水準である。拡散補助層のガス透過性は、20000cm3/m2・24h・atm(23℃,酸素,0%RHの条件下)以上あることが好ましい。拡散補助層のガス透過性が、カソード電極のガス透過性より小さいと、カソード電極への酸素の供給が阻害されるため好ましくない。
拡散補助層の厚さは、15μm以上、200μm以下であることが好ましい。拡散補助層の厚さが14μm以下であると、拡散補助層の細孔部分の容積が小さすぎて、電解質膜あるいはカソード電極から水分を取り込む量が不充分であり、拡散補助層による排水性を低下させる。拡散補助層の厚さが210μm以上であると、拡散補助層の電気抵抗が大きくなり、膜/電極接合体の内部抵抗を増加させ、電池の出力を低下させるため望ましくない。より好ましくは、拡散補助層の厚さは15μm以上,40μm以下であることが望ましい。
なお、本形態の拡散補助層を用いることの付随する効果としては、メタノールクロスオーバの低減効果がある。拡散補助層がない場合には、メタノールは燃料タンクからアノード電極,電解質膜,カソード電極と順に透過してしまうが、拡散補助層がある場合には、電解質膜からカソード電極への透過が抑制される。また、拡散補助層に白金等のメタノールを分解する能力を持つ触媒金属を含ませることで、更にメタノールクロスオーバを低減させることもできる。
また本発明の燃料電池は、前記膜電極接合体を備えることを特徴としている。
本発明の複合触媒を用いた燃料電池は性能が高く、また、複合触媒の形態でなく単独で白金を触媒として用いた燃料電池と比較してきわめて安価であるという特徴を持つ。本発明の燃料電池は、発電機能、発光機能、発熱機能、音響発生機能、運動機能、表示機能および充電機能からなる群より選ばれる少なくとも一つの機能を有し燃料電池を備える物品の性能、特に携帯可能な物品の性能を向上させることができる。前記燃料電池は、好ましくは物品の表面または内部に備えられる。
<本発明の燃料電池を備えた物品の具体例>
本発明の燃料電池を備えることができる前記物品の具体例としては、ビル、家屋、テント等の建築物、蛍光灯、LED等、有機EL、街灯、屋内照明、信号機等の照明器具、機械、車両そのものを含む自動車用機器、家電製品、農業機器、電子機器、携帯電話等を含む携帯情報端末、美容機材、可搬式工具、風呂用品トイレ用品等の衛生機材、家具、玩具、装飾品、掲示板、クーラーボックス、屋外発電機などのアウトドア用品、教材、造花、オブジェ、心臓ペースメーカー用電源、ペルチェ素子を備えた加熱および冷却器用の電源が挙げられる。
次に本発明について実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
また、製造例における各種測定は、下記の方法により行った。
[分析方法]
1.粉末X線回折
理学電機株式会社製 ロータフレックスを用いて、試料の粉末X線回折を行った。
各試料の粉末X線回折における回折線ピークの本数は、信号(S)とノイズ(N)の比(S/N)が2以上で検出できるシグナルを1つのピークとしてみなして数えた。
なお、ノイズ(N)は、ベースラインの幅とした。
2.元素分析
炭素:試料約0.1gを量り取り、堀場製作所EMIA−110で測定を行った。
窒素・酸素:試料約0.1gを量り取り、Ni−Cupに封入後、ON分析装置で測定を行った。
遷移金属元素(チタンなど):試料約0.1gを白金皿に量り取り、酸を加えて加熱分解した。この加熱分解物を定容後、希釈し、ICP−MSで定量を行った。
3.BET比表面積
試料を0.15g採取し、全自動BET比表面積測定装置 マックソーブ((株)マウンテック製)で比表面積測定を行った。前処理時間、前処理温度は、それぞれ30分、200℃に設定した。
[製造例1]
酸素還元触媒(1)
1. 触媒担体(TiFeCNO)の製造
まず壱液として、グリシン10.043gおよび酢酸鉄(II)0.5818gを蒸留水120mlに溶解させる。
弐液として、アセチルアセトン5.118mlに氷浴しながら、チタンテトライソプロポキシド10mlをゆっくり滴下する。さらに、酢酸16mlを加える。
弐液を壱液に沈殿物が生成しないように加える。その後、弐液の入っていた容器を酢酸16mlで洗浄し、その洗浄液も壱液に加える。
上記澄明な溶液をエバポレーターを用い、乾固することにより、14.8gの前駆体を得た。
得られた前駆体1.0gを4容量%水素/窒素雰囲気中、890℃で15分熱処理することにより、TiFeCNO(以下「担体(1)」とも記す。)を0.28g得た
図8に担体(1)の粉末X線回折スペクトルを示すとともに、表1に、担体(1)を構成する構成元素の組成および、担体(1)の比表面積を示す。
2. 20wt%Pt担持TiFeCNOの製造
蒸留水100mlにTiFeCNO(担体(1))を800mg加え、超音波洗浄機で30分間振とうさせた。この懸濁液をホットプレートで撹拌しながら、液温を80℃に維持し、炭酸ナトリウム(和光純薬製)を688mg加えた。
予め、蒸留水50mlに塩化白金酸・6水和物(和光純薬製)を536mg(白金200mg相当)溶解させた溶液を作製した。この溶液を、前記懸濁液に30分かけて加えた(液温は80℃に維持)。その後、液温80℃で2時間撹拌した。
次に、37%ホルムアルデヒド水溶液(和光純薬製)5.0mlを上記懸濁液に5分かけて加えた。その後、液温80℃で1時間撹拌した。
反応終了後、上記懸濁液を冷却し、ろ過した。
得られた粉末を4容量%水素/窒素雰囲気中、800℃で1時間熱処理することにより、複合触媒として、20wt%Pt担持TiFeCNO(以下「酸素還元触媒(1)」とも記す。)を909mg得た。表2に、酸素還元触媒(1)の比表面積を示す。
[製造例2]
酸素還元触媒(2)
1. 50wt%Pd−Pt担持TiFeCNOの製造
蒸留水150mlにTiFeCNO(担体(1))を322mg加え、超音波洗浄機で30分間振とうさせた。この懸濁液をホットプレートで撹拌しながら、液温を80℃ に維持した。
この懸濁液とは別に、予め、蒸留水100mlにテトラアンミンパラジウム(H)塩化物(和光純薬工業製)を3.5g(パラジウム215mg相当)と塩化白金酸・6水和物(和光純薬工業製) 0.284g(白金107mg相当)とを溶解させた溶液を作製した。
そして、この溶液を、前記懸濁液に30分かけて加えた(液温は80℃ に維持)。その後、液温80℃ で2時間撹拌した。
次に、1Mの水酸化ナトリウムを上記懸濁液のpHが11になるまでゆっくり加えた後、この懸濁液に、1Mの水素化ホウ素ナトリウムを上記金属成分(すなわち、テトラアンミンパラジウム(H)塩化物および塩化白金酸・6水和物)が充分還元される量(水素化ホウ素ナトリウムと上記金属成分との比率が、金属モル比で10:1以上)ゆっくり加えた。その後、液温80℃ で1時間撹拌する。反応終了後、上記懸濁液を冷却し、ろ過する。
得られた粉末を4容量%水素/窒素雰囲気中、300℃で1時間熱処理することにより、複合触媒として、 50wt%Pd−Pt合金担持TiFeCNO(以下「酸素還元触媒(2)」とも記す。)を644mgを得た。表2に、酸素還元触媒(2)の比表面積を示す。
Figure 2014026742
Figure 2014026742
[実施例1]
カソード触媒層の作製は以下のように行った。酸素還元触媒(1)とパーフルオロイオン交換樹脂を溶媒(イソプロピルアルコールとイオン交換水との体積比1:1の混合溶媒)に溶解した溶液A(パーフルオロイオン交換樹脂の濃度5wt%)を、触媒対溶液Aの重量比が1:12となる割合で混合しペーストIを作製した。
また、PTFEディスパージョンとカーボンブラックを混合し乾燥することで、PTFEが分散したカーボンブラックを得た。PTFEとカーボンブラックの重量比は1:1とした。
そして、PTFEが分散したカーボンブラックと溶液A(濃度5wt%)を、重量比が1:12となる割合で混合しペーストIIを作製した。
ペーストIIをPTFEシートにスプレードライ法により噴霧した。そのPTFEシートに、ペーストIをアプリケータ法によって塗布し、ペーストIの溶媒を乾燥させてカソード触媒層を形成した。カソード触媒層中の触媒金属(Pt)量は単位面積当り1.0mg/cm2とした。また、ペーストIとペーストIIは重量比で9:1となるよう調整した。
アノード触媒層の作製は以下のように行った。カーボンブラックに原子比率が1:1の白金ルテニウム合金を50wt%担持した電極触媒と溶液A(濃度5wt%)を、電極触媒対溶液Aの重量比が1:12となる割合で混合し、ペーストIIIを作製する。そのペーストIIIをPTFEシートにアプリケータ法によって塗布しペーストIIIの溶媒を乾燥させることによりアノード触媒層を作製した。アノード触媒層中の触媒金属(PtRu)量は単位面積当り1.0mg/cm2とした。
上述のカソード触媒層、アノード触媒層を、固体高分子電解質膜としてパーフルオロイオン交換樹脂膜(厚み50μm)を間にはさみ、ホットプレスによってPTFEシートから転写し(ホットプレス温度は160℃、ホットプレス圧力は80kg/cm2とした)、次いでガス拡散層をアノード触媒層及びカソード触媒層の両面につけた本形態のMEAを作製した。
上記の本形態のMEAを用い、図1に示す燃料電池を作製した。カソードには空気を100ml/min の速度で供給した。また、アノードにはメタノール水溶液を3ml/min の速度で供給した。60℃においてI−V特性を測定した。
[実施例2]
導電性を持つ炭素系撥水性粒子として、グラファイト層間化合物であるフッ化グラファイト(CmFn)n/m=0.58を用いた。フッ化グラファイト(n/m=0.58)は、グラファイト(東海カーボン製)とフッ素ガスを、反応温度375℃、120時間反応させることにより合成した。フッ化グラファイトを含むカソード触媒層の作製は以下のようにおこなった。酸素還元触媒(2)とDuPont社のNafion(登録商標)を溶解したNafion溶液(濃度5wt%、アルドリッチ製)、およびフッ化グラファイトを、電極触媒、Nafion、フッ化グラファイトの重量%が、それぞれ72、18、10wt%となる割合で混合しカソード触媒ペーストを作製した。これは、電極触媒対Nafion比が4:1となる比である。
一方、アノード触媒層の作製は以下のようにおこなった。カーボンブラックに原子比率が1:1の白金ルテニウム合金を50wt%担持した電極触媒とNafion溶液(濃度5wt%、アルドリッチ製)を、電極触媒、Nafion溶液の重量%がそれぞれ、72.5、27.5wt%となる割合で混合し、アノード触媒ペーストを作製した。それらのカソード、アノード触媒ペーストをそれぞれ、PTFEシートにアプリケータ法によって塗布し、溶媒を乾燥させることによりカソード触媒層、アノード触媒層を作製した。カソード触媒層中の触媒金属(Pt/Pd)量は単位面積当たり1.0mg/cm2とした。また、アノード触媒層中のPtRu量は単位面積当たり1.0mg/cm2とした。
上述のカソード触媒層、アノード触媒層を、固体高分子電解質膜としてDuPont社のNafion膜(ナフィオン112(登録商標)、厚み50μm)を間にはさみ、ホットプレスによってPTFEシートから転写し(ホットプレス温度は160℃、ホットプレス圧力は80kg/cm2とした)、次いでガス拡散層をアノード触媒層及びカソード触媒層の両面につけた本形態のMEAを作製した。
上記の本発明のMEAを用い、カソードには空気を100ml/minの速度で供給した。また、アノードにはメタノール水溶液を3ml/minの速度で供給した。60℃においてI−V特性を測定した。
[実施例3]
酸素還元触媒(2)とDuPont社のNafion(登録商標)を溶解したNafion溶液(濃度5wt%、アルドリッチ製)、およびフッ化グラファイトを、電極触媒、Nafion、フッ化グラファイトの重量%が、それぞれ72、18、10wt%となる割合で混合し、カソード触媒ペーストを作製した。これは、電極触媒対Nafion比が4:1となる比である。
一方、アノード触媒層の作製は以下のように行った。カーボンブラックに原子比率が1:1の白金ルテニウム合金を50wt%担持した電極触媒とNafion溶液(濃度5wt%、アルドリッチ製)を、電極触媒、Nafion溶液の重量%がそれぞれ、72.5、27.5wt%となる割合で混合し、アノード触媒ペーストを作製した。それらのカソード、アノード触媒ペーストをそれぞれ、PTFEシートにアプリケータ法によって塗布し、溶媒を乾燥させることによりカソード触媒層、アノード触媒層を作製した。カソード触媒層中のPt量は単位面積当たり1.0mg/cm2とした。また、アノード触媒層中のPtRu量は単位面積当たり1.0mg/cm2とした。
上述のカソード触媒層、アノード触媒層を、固体高分子電解質膜としてDuPont社のNafion膜(ナフィオン112、厚み50μm)を間にはさみ、ホットプレスによってPTFEシートから転写し(ホットプレス温度は160℃、ホットプレス圧力は80kg/cm2とした)、次いでガス拡散層をアノード触媒層及びカソード触媒層の両面につけた本形態のMEAを作製した。
以上のように作製した膜電極接合体のカソード触媒層表面に、酸素プラズマ照射をした。照射に用いた装置はヤマト硝子社製プラズマ装置型番PDC210であり、チャンバー内の酸素導入前の圧力は0.1Torr以下、酸素導入後の圧力は0.5Torrとした。装置の高周波電源の出力は100W、プラズマ照射時間は150秒間とした。
一方、含フッ素化合物である化合物1を、3M社製のフッ素系溶媒であるフロリナートPF−5080に溶解させた溶液を調製した。溶液の濃度は0.5重量%とした。この溶液に、カソード触媒層表面に酸素プラズマ照射した膜電極接合体を5分間浸漬し、溶液から引き上げた後、120℃で15分間加熱した。その後、フロリナートPF−5080をかけて、余分な化合物1を除去した。以上のように処理した膜電極接合体のカソード触媒層表面の接触角を、接触角計を用いて測定した結果、接触角は160°となり超撥水性を示した。
なお、前記化合物1はF{CF(CF3)−CF2O}n−CF(CF3)−CONH−(CH23−Si(OCH2CH33である。
以上の膜電極接合体のI−V特性を測定した。カソード側は100ml/min空気を供給し、アノードにメタノール水溶液を10ml/minの速度で供給した。メタノール水溶液の濃度は10重量%とした。この測定セルを用いて25℃においてI−V特性を測定した。
実施例1の結果を表3に、実施例2、実施例3の結果を表4に示す。
Figure 2014026742
Figure 2014026742

Claims (8)

  1. カソードと、アノードと、該カソードおよび該アノードの間に配置された固体高分子電解質膜とを有する膜電極接合体であって、
    前記カソードは触媒層を有しており、
    前記カソードが有する触媒層が酸素還元触媒を含有し、
    前記酸素還元触媒が、触媒金属と触媒担体とから形成される複合粒子であり、
    前記触媒担体が、遷移金属元素M1、遷移金属元素M2、炭素、窒素および酸素から構成され、
    前記遷移金属元素M1、遷移金属元素M2、炭素、窒素および酸素の原子数の比(遷移金属元素M1:遷移金属元素M2:炭素:窒素:酸素)が(1−a):a:x:y:z(ただし、0<a≦0.5、0<x≦7、0<y≦2、0<z≦3である。)であり、
    前記遷移金属元素M1が、チタン、ジルコニウム、ニオブおよびタンタルからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
    前記遷移金属元素M2が、前記遷移金属元素M1以外の遷移金属であり、
    前記触媒金属が、白金、金、銀、銅、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウムおよびレニウム、並びにこれらの2種以上からなる合金からなる群から選ばれる1種以上であり、
    前記カソードが有する触媒層が、酸素を還元する部分と、前記酸素を還元する部分に比較して高い撥水性を示す部分とを有する膜電極接合体。
  2. 前記遷移金属元素M2が、鉄、ニッケル、クロム、コバルト、バナジウムおよびマンガンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の膜電極接合体。
  3. 前記カソードが有する触媒層が、前記酸素還元触媒と、プロトン伝導性を有する高分子と、撥水性を持つ材料とを有し、前記撥水性を持つ材料が導電性を持つことを特徴とする請求項1または2に記載の膜電極接合体。
  4. 前記高い撥水性を示す部分が、前記カソードが有する触媒層の面上を観察すると偏在していることを特徴とする請求項1または2に記載の膜電極接合体。
  5. 前記カソードが有する触媒層が、超撥水性を示すことを特徴とする請求項1または2に記載の膜電極接合体。
  6. 前記カソードが有する触媒層の水との接触角が150°以上である請求項1または2に記載の膜電極接合体。
  7. 前記カソードと前記固体高分子電解質膜との間に拡散補助層を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の膜電極接合体。
  8. 請求項1〜7のいずれか一項に記載の膜電極接合体を備えることを特徴とする燃料電池。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2016534226A (ja) * 2013-08-23 2016-11-04 コミサリヤ・ア・レネルジ・アトミク・エ・オ・エネルジ・アルテルナテイブ 水素製造装置のための活性層/膜の配列、および多孔質集電体に好適な前記配列を含む接合体、およびその配列の製造方法

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