JP2014025119A - 平版印刷版用アルミニウム合金板及びその製造方法 - Google Patents

平版印刷版用アルミニウム合金板及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】画像部の耐汚れ性及び粗面化処理後の外観の均一性に優れた平版印刷版用アルミニウム合金板、特に機上現像型印刷版に適したアルミニウム合金板とその製造方法を提供する。
【解決手段】Fe:0.05〜0.30mass%、Si:0.05〜0.20mass%、Cu0.001〜0.05mass%、Ti0.005〜0.05mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなる平版印刷版用アルミニウム合金板において、当該アルミニウム合金板表面において円相当直径1.0μm以上の金属間化合物のうち、AlFeが0〜500個/mmであることを特徴とする平版印刷版用アルミニウム合金板、ならびに、その製造方法。
【選択図】図1

Description

本発明は、粗面化処理を施したアルミニウム合金板表面に陽極酸化処理を施し、さらに感光性物質を塗布して形成される平版印刷版に使用されるアルミニウム合金板に関し、より詳細には、画像部の耐汚れ性及び粗面化処理後の外観の均一性に優れた平版印刷版用アルミニウム合金板、特に機上現像型印刷版に適したアルミニウム合金板とその製造方法に関する。
一般に平版印刷版は、アルミニウム板又はアルミニウム合金板の表面に粗面化処理、陽極酸化処理などの表面処理を施してなる支持体上に、感光性物質を塗布したものである。このような平版印刷版のうちで通常広く用いられているものは、予め支持体上に感光性物質が塗布され直ちに焼き付けられる状態にある、いわゆるPS(Pre−Sensitized)版である。
このような平版印刷版を印刷版として実際に使用するにあたっては、露光、現像、ガム引き等の製版処理を施す。現像処理において、感光層が溶解せずにインクを受容する親油性画像部となることにより画像部が形成される。一方、現像処理において、感光層が除去されてアルマイト層が露出することにより、湿し水を受容する親水性非画像部となることにより非画像部が形成される。このようにして画像部と非画像部が形成された印刷版は、印刷機の回転する円筒形版胴に巻付けられ、湿し水の存在下でインクを画像部上に付着させ、ゴムブランケットに転写して紙面に印刷される。
従来、平版印刷版用途のアルミニウム合金板としては、JIS1050、JIS1100、JIS3003等のアルミニウム合金が主として用いられていた。通常、これらのアルミニウム合金板は、表面を機械的方法、化学的方法及び電気化学的方法のいずれか一つ、又は二つ以上を組合せた工程による粗面化処理方法により粗面化され、その後、好ましくは陽極酸化処理が施され、必要に応じて更に親水化処理が施されて平版印刷版用支持体とされる。このような平版印刷版用支持体の表面に感光塗膜を設け、画像を露光しこれを現像することにより印刷原版が得られる。
前述のような印刷版を得るまでの工程中、粗面化処理は、平版印刷版用支持体表面に感光層との密着性や保水性を付与するために重要な処理である。この粗面化処理により粗面化された面(粗面化面)の状態は、印刷原版の性能に著しく大きな影響を及ぼす。粗面化面には、均一で緻密なピットが形成されていることが要求される。また、粗面化処理後の粗面化面の外観の均一性も、印刷原版の品質の優劣を判断する重要な要素の一つであり、粗面化後にムラの無い均一な表面が形成されることが要求される。
ところで近年になり、地球環境への配慮から、従来の平版印刷版の製版処理で施していた現像処理工程とガム引き工程を必要としない機上現像型平版印刷版が注目されている。現像処理工程を省略可能とする方法の一つとして、露光済みの印刷版原版を印刷機のシリンダーに装着し、シリンダーを回転しながら湿し水とインクを供給することによって、印刷版原版の不要感光層を除去する機上現像と呼ばれる方法が挙げられる(特許文献1)。これは、印刷原版を露光後、そのまま印刷機に装着し、通常の印刷過程の中で処理を完了させる方式である。そのため、現像処理工程を省略することが可能で、現像処理に使用する薬剤やその廃液を削減することができる。
一方、上述のような機上現像方式の感光層では、Al−Fe系化合物、特にAlFeを起点とする腐食が発生し易く、その腐食箇所が印刷時の汚れの原因になる。そのため、AlFeの分散をより確実かつ十分に減少させて、粗面化処理後の外観の均一性や耐汚れ性を従来よりも一層向上させたアルミニウム合金材料が必要となる。
上述のようにAlFeを減少させた印刷版用アルミニウム合金板の製造方法としては、特許文献2や特許文献3に記載の方法が提案されている。
特許文献2において提案される方法は、鋳塊に対する均質化処理を省略するか、或いは、480℃以下の温度で4時間以内の均質化処理を行ない、熱間圧延前の加熱温度を550℃以下とするものである。これにより、アルミニウム合金中にAlFeやAlFeなどの準安定相のAl−Fe系化合物を分散させ、安定相であるAlFeの分散を抑制するものである。
特許文献3において提案される方法は、均質化処理を省略するか、或いは、500℃未満の温度で均質化処理を行うものである。これにより、アルミニウム合金中におけるAlFeの分散を抑制し、準安定相を分散させるものである。
特許文献2、3において提案される方法はいずれも、アルミニウム合金中のFe含有量を0.1〜0.6%の範囲内と規定している。しかしながら、本発明者等の実験によれば、Fe含有量を規制するだけではアルミニウム合金中のAlFeの分散抑制効果が不十分であり、良好な耐汚れ性が得られないことが判明した。また、これらの提案方法では、均質化処理温度が低いため十分な均質化効果が得られず、熱間圧延工程において粗大な母結晶が生成され易く、更に熱間圧延条件が規定されていないため最終再結晶粒が粗大となり易い。その結果、粗面化処理後の外観が不均一となる問題があった。
特開2007−090850号公報 特開2005−232596号公報 特開2003−253366号公報
本発明は以上の事情を背景としてなされたもので、特に機上現像型印刷版に適したアルミニウム合金板として、AlFeの分散をより確実かつ十分に抑制し、これにより優れた耐汚れ性を備えるとともに、粗面化処理後の外観も十分に均一な印刷版となる、平版印刷版用アルミニウム合金板の提供を目的とする。
本発明者等は、前述のような課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、アルミニウム合金中のFe及びSiの含有量を厳密に調整し、併せて製造プロセス、特に均質化処理工程と熱間圧延工程の条件を厳密に規制することによって前記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
具体的には、本発明は請求項1において、Fe:0.05〜0.30mass%、Si:0.05〜0.20mass%、Cu0.001〜0.05mass%、Ti0.005〜0.05mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなる平版印刷版用アルミニウム合金板において、当該アルミニウム合金板表面において円相当直径1.0μm以上の金属間化合物のうち、AlFeが0〜500個/mmであることを特徴とする平版印刷版用アルミニウム合金板とした。
本発明は請求項2において、請求項1に記載の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法において、Fe:0.05〜0.30mass%、Si:0.05〜0.20mass%、Cu0.001〜0.05mass%、Ti0.005〜0.05mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金を半連続鋳造する半連続鋳造工程と;鋳塊を均質化する均質化処理工程と;鋳塊を熱間圧延する熱間圧延工程と;熱間圧延材を冷間圧延する冷間圧延工程と;を備え、前記半連続鋳造工程において、Fe含有量であるCFe(mass%)、Si含有量であるCSi(mass%)及び鋳造凝固時の冷却速度であるCR(K/秒)が、下記式(1)の関係を満たし、前記各工程を通して、鋳塊又は圧延材に対する500℃以上における入熱量Hを1000(K・時)以下とすることを特徴とする平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法とした。
0.7≦CFe/CSi≦1.5×log(CR)+2.5 (1)
更に本発明は請求項3では請求項2において、前記冷間圧延工程の前又は途中に、焼鈍工程を備えるものとした。
本発明によれば、AlFeの分散量が少なく、印刷版として優れた耐汚れ性を備え、かつ、粗面化処理後の外観が均一であり、高い商品価値を有する平版印刷版用アルミニウム合金板、ならびに、当該アルミニウム合金板を確実かつ安定して製造する方法が提供される。このような平版印刷版用アルミニウム合金板は、耐汚れ性に特に優れるため、機上現像型印刷版用アルミニウム合金板として好適に用いることができる。
500℃以上の温度範囲における入熱量を模式的に示すグラフである。 鋳造から最終冷間圧延の間に施された熱処理における入熱量を模式的に示すグラフである。
以下本発明について、さらに詳細に説明する。
本発明に係る平版印刷版用アルミニウム合金板は、Fe:0.05〜0.30mass%、Si:0.05〜0.20mass%、Cu0.001〜0.05mass%、Ti0.005〜0.05mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなり、当該アルミニウム合金板表面において円相当直径1.0μm以上の金属間化合物のうち、AlFeを0〜500個/mmとするものである。先ず本発明で用いるアルミニウム合金の成分組成限定理由について説明する。
Fe:
Fe含有量は、アルミニウム合金中に分散するAl−Fe系、Al−Fe−Si系の金属間化合物の相と分布密度に影響し、再結晶時の結晶粒挙動及び機械的強度に大きな影響を与える。Fe含有量が0.05mass%(以下、単に「%」と記す)未満では、再結晶時の結晶粒径が粗大となって粗面化処理により生成されるピットが不均一となる。その結果、粗面化処理後の外観に面質ムラが発生して外観が不均一となるだけでなく、機械的強度が低下して平版印刷版を印刷機の版胴に取り付ける際に版切れを起こし易くなる。また、高速で大部数の印刷を行なう際にも、同様に版切れを起こし易くなる。また、Fe含有量を0.05%未満とするためには、高純度の地金を使用する必要が生じるので、製造コストの点からも好ましくない。一方、Fe含有量が0.30%を超えると、アルミニウム合金中に存在するAl−Fe系やAl−Fe−Si系の金属間化合物が全体として多量となり、印刷時の汚れの原因となるAlFeも多量になる。以上により、Fe含有量は、0.05〜0.30%の範囲内とする。なお、好ましいFe含有量は、0.10〜0.20%の範囲内である。
Si:
Si含有量が0.05%未満では、粗面化処理後のピットが不均一となる。その結果、粗面化処理後に面質ムラが発生し、外観が不均一となる。一方、Si含有量が0.20%を超えると、単体Siの析出が生じ易くなる。ここで単体Siとは、合金に含有されているSiのうち、合金中に固溶せずにSi粒子として析出しているものを指す。このような単体Siは、陽極酸化皮膜中に残存して皮膜欠陥を形成する。その結果、この皮膜欠陥が印刷時に非画像部の汚れ発生の起点となり、印刷時の汚れの原因となる。また、Si含有量が0.20%を超えると、粗大なAl−Fe−Si系の金属間化合物が生成され易い。その結果、粗面化処理後のピットが不均一となり易い。以上により、Si含有量は、0.05〜0.20%の範囲内とする。なお、好ましいSi含有量は、0.07〜0.15%の範囲内である。
Cu:
Cuは、電解グレ−ニング性に大きな影響を及ぼす元素である。Cu含有量が0.001%未満では、粗面化処理後のピットが不均一になる。その結果、粗面化処理後に面質ムラが発生し、外観が不均一となる。一方、Cu含有量が0.05%を超えても粗面化処理後のピットが不均一となり、粗面化処理後に面質ムラが発生し外観が不均一となる。また、粗面化処理後の色調が黒味を帯び過ぎて商品価値を損なう。以上により、Cu含有量は、0.001〜0.05%の範囲内とする。なお、好ましいCu含有量は0.005〜0.04%の範囲内である。
Ti:
Tiも、電解グレ−ニング性に大きな影響を及ぼし、かつ、アルミニウム合金鋳塊の組織状態にも大きな影響を及ぼす元素である。Ti含有量が0.005%未満では、粗面化処理後のピットが不均一になる。その結果、粗面化処理後に面質ムラが発生し、外観が不均一となる。また、鋳塊の結晶粒が微細化されずに粗大な結晶粒組織が形成されるため、マクロ組織に圧延方向に沿う帯状の筋が発生する。その結果、粗面化処理後にも帯状の筋が残存し、平版印刷版には不適である。一方、Ti含有量が0.05%を超えると、前述の外観の不均一や帯状筋の残存の防止といった効果が飽和する。更に、粗大なAl−Ti系の金属間化合物が形成されてその化合物が圧延板に筋状に分布する。その結果、陽極酸化皮膜に欠陥が生じ、感光層の欠陥となって印刷汚れが発生する。以上により、Ti含有量は0.005〜0.05%の範囲内とする。なお、好ましいTi含有量は、0.005〜0.04%の範囲内である。
その他の成分:
一般に、アルミニウム合金板においては、鋳塊結晶組織を微細化して圧延板のキメ、ストリ−クを防止するために、Tiを微量のBと組合せて添加する場合がある。本発明に係る平版印刷版用アルミニウム合金板においても、Tiとともに微量のBを添加してもよい。但し、B含有量が1ppm未満では、圧延板におけるキメやストリ−クの防止効果が得られ難い。一方、B含有量が30ppmを超えると、B添加の効果が飽和するだけでなく、粗大なTiB粒子による線状欠陥が生じ易くなりなる。従って、B添加量は1〜30ppmの範囲内とするのが好ましい。
Mgは、大部分がアルミニウムに固溶して、常温での支持体の強度を向上させる効果を有し、更に耐熱軟化性を向上させる作用も有する元素である。そこで、所望の支持体強度と耐熱軟化性を得るために、Mg含有量は0%を超え、かつ、0.5%以下とするのが好ましい。この含有範囲では、平版印刷版用アルミニウム合金板としてその特性を損なうことはない。
粗面化処理後のピットの均一性は、所謂電解グレイニング性と称される。より低電流密度での電解操作により、更に微細化されたピットの均一性を得るために、In:0.0001〜0.02%、Sn:0.0001〜0.02%、Be:0.0001〜0.02%、Pb:0.0001〜0.02%及びNi:0.001〜0.03%から選択される1種又は2種以上をアルミニウム合金に含有させてもよい。
不可避的不純物:
JIS1050相当の不純物量、すなわち、Mn0.05%以下、Zn0.05%以下、Zr0.05%以下、Cr0.05%以下、その他成分の合計が0.05%以下であれば、これら不可避的不純物がアルミニウム合金に含有されていてもよい。このような不可避的不純物とその含有量であれば、平版印刷版用アルミニウム合金板の特性を損なうことはない。
AlFeのサイズと分布密度:
本発明に係る平版印刷版用アルミニウム合金板においては、アルミニウム合金の成分組成を上述のように調整するだけでなく、最終板の状態における金属間化合物AlFeのサイズと分布密度を以下のように規定する必要があり、その理由について説明する。
本発明に係るアルミニウム合金板は、Fe、Si、Cu及びTiを必須元素として含有するアルミニウム合金板中に、Al−Fe系やAl−Fe−Si系の金属間化合物が分散した金属組織を呈する。これらの金属間化合物の相は、主に合金組成、鋳造凝固時の冷却速度、製造過程の均質化処理、熱間圧延前の加熱、熱間圧延や焼鈍での熱履歴によって決定される。
通常、アルミニウム合金を製造する過程で溶湯から凝固する鋳塊は、平衡状態よりも遥かに早い冷却速度で凝固する。そのため、FeやSiは平衡状態図から予想される以上にAl中に過飽和固溶し、また、これら化合物の安定相に加えて状態図には現れない準安定相も生成される。このような準安定相は、本発明で用いるアルミニウム合金では、AlFe、AlFe、AlFe、AlFe等の準安定相である。一般に、アルミニウム合金鋳塊は熱間圧延に先立って均質化処理が施され、その後焼鈍によって機械的特性が調整される。この均質化処理工程においては、鋳塊中に存在する準安定相が安定相へと相変化する。Al−Fe系金属間化合物の安定相としては高温で安定なAlFeが挙げられ、また、Al−Fe−Si系金属間化合物としては、AlFeよりも低温で安定なα−AlFeSi(AlFeSi)又はβ−AlFeSi(AlFeSi)が挙げられる。
本発明者等の研究によれば、AlFe、α−AlFeSi(AlFeSi)、β−AlFeSi(AlFeSi)のうちで、高温で安定なAlFeを起点として腐食が進行し、印刷時の汚れの原因となることが判明した。そして、本発明者等の更なる研究により、円相当直径1.0μm以上のAlFeのアルミニウム合金板表面における分布密度を0〜500個/mmとすることにより、極めて優れた耐汚れ性を示すことが判明した。この分布密度が500個/mmを超える場合には、AlFeがアルミニウム合金板中に多く分散している状態となり、AlFeに起因する耐汚れ性に劣る。また、AlFeの分布密度は極力少ないことが好ましく、0〜200個/mmが好ましい。なお、最も好ましくは、この分布密度が0個/mmである。
AlFeのサイズと分布密度は、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM、例えば日本電子株式会社製JSM−6460LA)、ならびに、エネルギー分散型X線分光分析装置(Energy Dispersive X−ray Spectroscopy:EDS、例えば日本電子株式会社、EX2300BU)を用いて、アルミニウム合金板試料の表面観察と定性分析により求められる。AlFeのサイズと分布密度の測定を行なうには、後述する表面処理(前処理や電解粗面化処理)を施したアルミニウム合金板試料を用いて測定するのが望ましい。しかしながら、微細な疵や粗面化処理による凹凸が存在するために観察、分析に支障をきたす場合がある。その場合は、表面の平滑化処理を行ったアルミニウム合金板試料で測定を行ってもよい。平滑化処理方法としては、機械的研磨、電解研磨手法等が挙げられる。また、研磨深さは1〜10μmとし、表面処理によってエッチングされる深さと同等することが重要である。
上記のアルミニウム合金板試料の金属間化合物のサイズと分布密度を、SEMとEDSによる反射電子像を用いて測定する。円相当直径1.0μm以上の金属間化合物に含有されるAl含有量、Fe含有量及びSi含有量を、半定量分析測定する。このとき、相対強度の値に、原子番号補正(Atomic Number、Z)、吸収補正(Absorption、A)、蛍光補正(fluorescence、F)を施すZAF補正によって、上記各元素の真の含有量を求める。EDSによる金属間化合物の成分の測定条件は、加速電圧を15kVとする。照射電流、時間は金属間化合物のFe含有量とSi含有量が十分に検出できるような条件を適宜選択すればよい。金属間化合物中のSi含有量(mass%)とFe含有量(mass%)の比(CSi/CFe)が0.05〜0.8の金属間化合物はAl−Fe−Si系化合物(α−AlFeSi、β−AlFeSi)とする。また、CSi/CFeが0.05未満の金属間化合物は、全Al−Fe系化合物とする。このようにして、アルミニウム合金板表面における、Al−Fe−Si系化合物(α−AlFeSi、β−AlFeSi)の分布密度(個/mm)、ならびに、全Al−Fe系化合物の分布密度(個/mm)が求められる。
前述の通り、全Al−Fe系化合物には、AlFe、AlFe、AlFe、AlFe、AlFeが含まれるが、特性X線の発生領域とAl−Fe系化合物サイズによって、Al−Fe系化合物中のAl含有量(mass%)とFe含有量(mass%)の比(CAl/CFe)が変化する。従って、全Al−Fe系化合物のうち、AlFe、AlFe、AlFe、AlFe、AlFeのそれぞれの識別は困難であり、これら各化合物の分布密度(個/mm)は求められない。そこで、X線回折装置(例えば、リガク(株)、RINT2000)を用いて、表面処理又は平滑化処理を施したアルミニウム合金中に含有されるAl−Fe系化合物を特定する。測定条件としては、電流:200mA、電圧:50kV、DS:1.0°、SS:1℃、RS:0.15mm、サンプリング幅:0.010°、走査速度:1℃/分とし、グラファイトモノクロメータを使用する。X線回折結果より、AlFe、AlFe、AlFe、AlFe、AlFeそれぞれの積分強度を求め、全Al−Fe系化合物に対するAlFeの積分強度比を算出してこの積分強度比をAlFe率とした。そして、上記で求めたアルミニウム合金板表面における円相当直径1.0μm以上の全Al−Fe系化合物の分布密度にこのAlFe率を掛け合わせた積を、AlFeの分布密度(個/mm)とした。
次に、本発明に係る平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法について説明する。本発明に係る平版印刷版用アルミニウム合金板は、Fe:0.05〜0.30mass%、Si:0.05〜0.20mass%、Cu0.001〜0.05mass%、Ti0.005〜0.05mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金を半連続鋳造する半連続鋳造工程と;鋳塊を均質化する均質化工程と;鋳塊を熱間圧延する熱間圧延工程と;熱間圧延材を焼鈍する焼鈍工程と;焼鈍した圧延材を冷間圧延する冷間圧延工程と;を備える。そして、半連続鋳造工程において、Fe含有量であるCFe(mass%)、Si含有量であるCSi(mass%)及び鋳造凝固時の冷却速度であるCR(K/秒)が、下記式(1)の関係を満たす。更に、前記各工程を通して、鋳塊又は圧延材に対する500℃以上における入熱量Hが1000(K・時)以下に規制される。
0.7≦CFe/CSi≦1.5×log(CR)+2.5 (1)
アルミニウム合金中の金属間化合物は、鋳造凝固時に晶出する晶出物と、鋳造後の熱処理によって過飽和固溶元素が析出する析出物とに分類される。また、前述の通り、熱処理条件によって、金属間化合物相は安定相へと変態する。AlFe起因の汚れを防止するには、AlFeの晶出と析出、かつ、AlFe安定相への変態を抑制することが重要である。一般に、晶出物のサイズは析出物に比べて大きいため、特にAlFeの晶出と晶出物のAlFe安定相への変態を抑制することが好ましい。更に好ましくはAlFeの析出を抑制することである。本発明者等は鋭意研究を重ねた結果、アルミニウム合金中のFe含有量、Si含有量及び鋳造凝固時の冷却速度を厳密に調整することによって、AlFe晶出を抑制できることを見出した。更に、鋳造工程から冷間圧延工程(最終)までの工程を通して、鋳塊又は圧延材が500℃以上において受ける熱量の合計である入熱量Hを制御することで、AlFeの晶出と析出、ならびに、AlFe安定相への変態を抑制できることを見出した。以下にこれらの製造方法について詳細に説明する。
Fe含有量とSi含有量、ならびに、凝固時の冷却速度の関係式:
上記成分組成範囲内に調整されたアルミニウム合金溶湯は、DC鋳造やホットトップ鋳造、電磁鋳造法といった半連続鋳造法の常法に従って鋳造される。鋳塊の表層近傍では、平衡状態よりも遥かに早い冷却速度で凝固するため、FeやSiは、Al中に過飽和固溶し、また、安定相に加えて状態図に現れない準安定相が生成され易い。一方で、鋳塊の厚さ方向の内部ほど冷却速度が遅くなり、安定相であるAlFeが晶出し易い。鋳塊表層近傍でも凝固時の冷却速度によってはAlFeが晶出し、それが原因で汚れが発生する。そのため、Fe含有量とSi含有量、ならびに、凝固時の冷却速度を厳密に制御する必要がある。
具体的には、Fe含有量(mass%)であるCFeとSi含有量(mass%であるCSiとの比CFe/CSi、ならびに、鋳造凝固時の冷却速度CR(K/秒)が、下記式(1)を満たすことによって、Al−Fe−Si系化合物が多く晶出し、AlFe晶出物を減少させることができる。
0.7≦CFe/CSi≦1.5×log(CR)+2.5 (1)
ここで、鋳造凝固時の冷却速度CRとは、最終板厚のアルミニウム合金板の粗面化処理後の表面に相当する厚さ位置での冷却速度である。一般に、DC鋳造法による鋳塊の冷却速度は0.1〜20(K/秒)程度であり、鋳塊厚さ位置によって冷却速度CRが変化する。そのため、鋳造速度や鋳塊のサイズ、冷却水量、鋳造時の溶湯温度等の鋳造条件、鋳塊の面削量、粗面化処理、ならびに、粗面化処理前のエッチング処理量によって、冷却速度CRを調整する。CFe/CSi>1.5×log(CR)+2.5の場合には、AlFe晶出物が多量となり、AlFe起因の印刷汚れが発生する。一方、CFe/CSi<0.7の場合には、Si含有量が過剰となって単体Siが析出し易くなる。単体Siは、陽極酸化皮膜中に残存して皮膜欠陥を形成し、この欠陥が印刷時に非画像部の汚れ発生の起点となって印刷時の汚れの原因となる。なお、好ましくは、0.9≦CFe/CSi≦1.5×log(CR)+2.2である。
入熱量H:
鋳造工程から冷間圧延(最終)までの工程を通して鋳塊又は圧延材を加熱処理することにより、過飽和固溶しているFeやSiが析出し、或いは、アルミニウム合金鋳塊に含有される金属間化合物相が相変態する。特にアルミニウム合金中に分散しているAlFeやAlFeなどの準安定相のAl−Fe系金属間化合物やAl−Fe−Si系金属間化合物は、保持温度が高い程、また500℃以上での保持時間が長い程、相変態が促進される。また、鋳塊中のFeやSiは過飽和固溶状態にあるため、500℃以上の熱処理によってAlFeが析出する。そこで、上記式(1)のようにCFe/CSiを規制すると共に、鋳塊又は圧延材が500℃以上において受ける熱量の合計である入熱量Hを制御することで、AlFeへの相変態とAlFeの析出とを最小限に留めることができる。具体的には、入熱量Hは下記式(2)で表される。
Figure 2014025119
式(2)中において、hnkは、鋳造されてから最終板厚とする冷間圧延されるまでの間に施されたn番目における500℃以上の温度範囲での熱処理時間の積分値を表わす。kは500〜550℃の温度範囲を更に細かく分割した温度領域を表わす。具体的には、図1に示すように、k=1は500℃以上510℃未満、k=2は510℃以上520℃未満、k=3は520以上530℃未満、k=4は530以上540℃未満、k=5は540以上550℃以下の温度範囲を表わす。また、アルミニウム合金中に分散しているAlFeやAlFeなどの準安定相のAl−Fe系化合物やAl−Fe−Si系化合物は、保持温度が高い程、AlFeへ変態し易い。そのため、上記k=1〜5の各温度範囲でのAlFeへの変態のし易さとして係数akを用いた。ここで、a1=0.9、a2=1、a3=1.2、a4=1.5、a5=2とした。図2に示すように、鋳造されてから最終冷間圧延されるまでの間に施される熱処理工程(工程数N)の熱処理時間の積分値の総和が入熱量Hとなる。なお、それぞれの熱処理工程に関して、前述の通り、500〜550℃の温度範囲で更に細かく温度範囲が分割されており、各温度範囲でのAlFeへの変態のし易さakを考慮している。
上記式(2)で規定されるように、入熱量Hが1000(℃・時)以下の範囲内では、AlFeへの変態とAlFeの析出が抑制される。入熱量Hが1000を超える場合には、AlFeへの変態とAlFeの析出が促進され、AlFe起因の汚れが発生する。好ましい入熱量Hは、600(℃・時)以下の範囲内である。鋳造工程から最終冷間圧延工程を通して500℃以上に加熱されることがない場合、或いは、500℃以上に加熱される時間が非常に短時間である場合には、入熱量Hは0(℃・時)となる。
本発明に係る平版印刷版用アルミニウム合金板は、基本的には、鋳造工程、均質化処理、熱間圧延(熱間粗圧延工程及び熱間仕上圧延工程)、焼鈍工程及び冷間圧延工程をこの順序で行って製造される。なお、冷間圧延工程の途中又は後に更なる焼鈍工程を設けてもよい。ここで、熱間仕上圧延終了温度によっては、熱間仕上圧延工程と冷間圧延工程との間と、冷間圧延工程途中又はその後の焼鈍工程を省略することができる。
鋳造工程:
所定の成分組成範囲内に調整したアルミニウム合金溶湯は、DC鋳造やホットトップ鋳造、電磁鋳造法などの通常の半連続鋳造法よって鋳造される。
均質化処理工程:
鋳造された鋳塊は、均質化処理工程にかけられる。均質化処理は、450〜550℃の温度範囲で1〜24時間保持するのが好ましい。この条件において、準安定相のAl−Fe系化合物やAl−Fe−Si系化合物からAlFeへの相変態やAlFe析出を抑制し、Al−Fe−Si系化合物をアルミニウム合金板中に分散させることができる。鋳塊組織は、鋳造時の急速冷却により不均一な金属組織となっているが、均質化処理を行うことにより、不均一な鋳塊組織が均一化され、また偏析部や過飽和状態の成分を拡散させる。その結果、アルミニウム合金板の全体にわたって均一な鋳塊を得ることができる。
均質化処理温度が450℃未満又は保持時間が1時間未満では、均質化の効果が不十分となり、粗面化処理後の外観が不均一となる場合がある。一方、均質化処理温度が550℃を超えると、準安定相のAl−Fe系金属間化合物やAl−Fe−Si系金属間化合物がAlFeに相変態し、或いは、AlFeが析出して、AlFe起因の汚れの原因となる場合がある。更に、均質化処理の保持時間が24時間を超えると、均質化の効果が飽和するので製造コストの観点から好ましくない。なお、より好ましい均質化処理条件は、470〜530℃で2〜10時間保持するものである。
熱間圧延工程:
鋳塊を均質化処理後に室温まで一度冷却し、次いで、熱間圧延開始温度まで加熱するための加熱処理(熱間圧延前の加熱)を行なってから熱間圧延工程にかけてもよく、これに代わって、鋳塊を均質化処理後に熱間圧延開始温度まで冷却してから熱間圧延工程にかけてもよい。これら二つの法方のいずれにおいても金属間化合物相に及ぼす影響は少ないため、いずれを採用してもよい。また、熱間圧延工程は、熱間粗圧延工程とこれに続く熱間仕上圧延工程からなる。
熱間圧延の温度、時間及び圧下条件は、アルミニウム合金板表面における金属間化合物の析出や結晶粒に大きな影響を及ぼす。すなわち、アルミニウム合金板中に固溶しているFeやSiは、熱間圧延により導入される転位密度の高い部分に集中的に析出し易く、また、熱間圧延により導入される転位を駆動力としてアルミニウム合金板に再結晶が生じる。そこで、熱間圧延の温度、時間及び圧下条件を、以下のように制御することにより、金属間化合物や再結晶の制御が可能となる。
熱間粗圧延開始温度は、350〜480℃の範囲内が好ましい。熱間粗圧延開始温度が480℃を超えると、AlFeの析出が生じ易くなる場合がある。また、熱間圧延中に粗大再結晶粒が生じ易くなり、粗面化後のスジ状外観不良の原因となる場合がある。そこで、熱間粗圧延開始温度は480℃以下が好ましい。なお、熱間粗圧延開始温度が350℃未満では、安定した熱間圧延を行うことが困難となる場合がある。以上により、熱間粗圧延開始温度(すなわち、熱間圧延前の加熱温度)は、350〜480℃の範囲内が好ましい。なお、より好ましい熱間粗圧延開始温度は370〜450℃である。
熱間粗圧延終了温度は、340〜410℃の範囲内が好ましい。後述する熱間粗圧延終了から熱間仕上圧延開始までの温度保持によって、熱間粗圧延後にアルミニウム合金板が再結晶化してスジ状外観不良が軽減する。熱間粗圧延終了温度が340℃未満では未再結晶化の領域が一部発生し、粗面化後の外観不良の原因となる場合がある。熱間粗圧延終了温度が410℃を超えると粗大再結晶粒が生じ、粗面化後のスジ状外観不良の原因となる場合がある。
熱間粗圧延工程での最終圧下における歪速度を、8〜20/秒の範囲内とすることが好ましい。これにより、Al−Fe−Si系化合物を析出させ、また粗面化後の外観を均一とすることができる。歪速度が8/秒未満では、熱間粗圧延後の再結晶粒が粗大化して、粗面化後の外観不良の原因となる場合がある。熱間圧延においてはロール表面に形成される、アルミニウムとその酸化物、ならびに、圧延油から成るロールコーティングが、アルミニウム合金板の表面品質や圧延に大きな影響を及ぼす。熱間粗圧延での最終圧下における歪速度が20/秒を超えると、ロール表面に形成されるロールコーティングが多量になり、過剰なロールコーティングがロールからアルミニウム合金板へと埋め込まれてアルミニウム合金板の表面品質が損なわれる場合がある。以上により、熱間粗圧延での最終圧下における歪速度は8〜20/秒の範囲内が好ましく、10〜15/秒の範囲内がより好ましい。
熱間粗圧延工程後に連続して、圧延材を熱間仕上圧延工程にかける。熱間粗圧延終了から熱間仕上圧延開始までの保持時間、すなわち、熱間粗圧延終了から熱間仕上圧延開始までの間、圧延材を熱間粗圧延終了温度のまま20〜300秒保持することで、熱間粗圧延後に圧延材が微細再結晶化する。保持時間が20秒未満では、未再結晶化の領域が一部発生し、粗面化後の外観不良の原因となる場合がある。保持時間が300秒を超えると、粗大再結晶粒が生じ、粗面化後のスジ状外観不良の原因となる場合がある。
熱間仕上圧延終了温度は、200〜350℃の範囲内が好ましい。熱間仕上圧延終了温度を200℃以上300℃未満の範囲内とする場合には、熱間仕上圧延工程と冷間圧延工程の間に焼鈍工程を設ける必要がある。また、冷間圧延工程の途中又はその後に更なる焼鈍工程を設けてもよい。一方、熱間仕上圧延終了温度を300℃以上350℃以下の範囲内とする場合には、後述するように熱間仕上圧延工程と冷間圧延工程の間の焼鈍工程を省略することができる。また、冷間圧延工程の前又は途中に焼鈍工程を設けてもよい。以下に、詳細に説明する。
まず、熱間仕上圧延終了温度を200℃以上300℃未満の範囲内とする場合には、熱間仕上圧延工程と冷間圧延工程との間に焼鈍工程を設ける必要がある。また、冷間圧延工程後に更なる焼鈍工程を設けてもよい。焼鈍工程を経た圧延材は、後述の熱間圧延終了温度を300〜350℃の範囲内として焼鈍工程を省略して全体を自己再結晶化させた圧延材と比べて、低温加工され歪が蓄積される。そのため、焼鈍時の再結晶粒が微細となり、粗面化後の外観の均一性が更に増す。
このように熱間仕上圧延終了温度を200℃以上300℃未満の範囲内とする場合には、熱間圧延終了温度が200℃未満では圧延油が蒸発しきれずに圧延材表面に残留し、表面汚れや腐食を起こす場合がある。一方、熱間圧延終了温度が300℃を超えると、熱間圧延中に蓄積される転位密度が不十分となる。そのため、焼鈍により結晶粒が十分に微細化せず、粗面化処理後の外観が不均一となる場合がある。また、圧延材表層部の一部で再結晶化が生起し、粗面化後の外観の均一性が損なわれる場合がある。なお、より好ましい熱間圧延終了温度は230〜280℃の範囲内である。
ここで、熱間仕上圧延工程と冷間圧延工程の間に焼鈍工程を行なう上で、熱間仕上圧延工程での最終圧延パスにおける歪速度が50〜200/秒の範囲では、Al−Fe−Si系化合物を析出させることができ、また熱間仕上圧延終了温度が200℃以上300℃未満と低温であるため歪が蓄積され易いので熱間仕上圧延後の焼鈍により再結晶粒が微細となる。この最終圧延パスにおける歪速度が50/秒未満では歪の蓄積が不十分なため、熱間仕上圧延後の焼鈍において再結晶粒が粗大となり粗面化後の外観の均一性が損なわれる場合がある。一方、この最終圧延パスにおける歪速度が200/秒を超えると、ロール表面に形成されるロールコーティングが多量になる。その結果、過剰なロールコーティングがロールから圧延材に埋め込まれて材料の表面品質を損なう場合がある。なお、より好ましい最終圧延パスにおける歪速度は70〜170/秒である。
また、熱間仕上圧延終了板厚は、1.5〜5.0mmが好ましい。この終了板厚が1.5mm未満では、安定した平面性を有する熱間圧延板が得られないため、最終板でも平面性に劣る場合がある。この終了板厚が5.0mmを超えると、熱間仕上圧延後においても比較的高温で保持され易いため回復が進み、熱間圧延板の歪の蓄積量が減少する。このように歪量が減少することにより、焼鈍時の再結晶粒が粗大となる場合がある。また、焼鈍時の板厚から製品板厚までの冷間圧延率が大きくなるため、再結晶粒が大きく伸ばされ、それに伴い結晶粒面積が大きくなる。その結果、粗面化後の外観が不均一となる場合があり、また製造コストの点から好ましくない。
また、熱間仕上圧延後の冷間圧延工程の途中又はその後に焼鈍工程を行う場合は、熱間仕上圧延終了板厚、ならびに、熱間仕上圧延工程での最終パスにおける歪速度は特に限定されるものではないが、熱間圧延終了板厚は2.0〜10.0mmの範囲が好ましく、熱間仕上圧延工程での最終圧延パスにおける歪速度は10〜200/秒が好ましい。終了板厚が2.0mm未満では、熱間仕上圧延終了から焼鈍開始までの冷間圧延率が小さくなり歪の蓄積が不十分となるため、焼鈍工程での結晶粒微細化効果が十分でない場合がある。一方、終了板厚が10.0mmを超えると、熱間仕上圧延終了板厚から製品板厚までの冷間圧延機に通板する回数が多くなるため、製造コストの面から不利である。なお、より好ましい熱間仕上圧延板厚は3.0〜8.0mmである。
次に、熱間仕上圧延終了温度を300℃以上350℃以下の範囲内とする場合には、熱間圧延上がりの熱を利用する自己再結晶化が可能となり、熱間圧延終了後においてアルミニウム合金板全体を微細な再結晶組織とすることができる。また、このような自己再結晶化により、熱間圧延後の焼鈍が不要となるため製造コストの削減を図ることができる。この場合、熱間仕上圧延における最終圧延パスでの歪速度は80〜200/秒、熱間仕上圧延終了板厚が2.0〜5.0mmの範囲とするのが好ましい。
熱間仕上圧延終了温度を300℃以上350℃以下の範囲内とする場合には、熱間仕上圧延終了温度が300℃未満では、熱間圧延材表面が部分的に再結晶化して粗面化処理後の外観が不均一となる場合がある。また、熱間圧延材の表層部が全面的に再結晶化したとしても、圧延材の厚さ方向の中央部では部分的に再結晶化が生じ、層状組織が一部に残存する。その結果、安定した強度を有するアルミニウム合金板を量産することが困難となる場合がある。一方、熱間仕上圧延終了温度が350℃を超えると十分な転位が導入されず、熱間圧延材の表面部の結晶粒が粗大となり、粗面化処理後の外観が不均一となる場合がある。なお、より好ましい熱間仕上圧延終了温度は310〜340℃の範囲内である。
また、熱間仕上圧延工程での最終パスにおける歪速度を80〜200/秒とすることが好ましい。これにより、再結晶粒が微細となりAl−Fe−Si系化合物を析出させることができる。この歪速度が80/秒未満では、熱間仕上圧延後の再結晶粒が粗大となり、粗面化後の外観の均一性が損なわれる場合がある。一方、この歪速度が200/秒を超えると、ロール表面に形成されるロールコーティングが多量になり、過剰なロールコーティングがロールから圧延材に埋め込まれて材料の表面品質を損なう場合がある。なお、より好ましい歪速度は100〜170/秒である。
熱間仕上圧延終了板厚は、粗面化後の外観の均一性に大きな影響を及ぼすため2.0〜5.0mmとするのが好ましい。この終了板厚が2.0mm未満では、熱間仕上圧延後の圧延板の冷却速度が大きいため未再結晶化の領域が一部発生し、粗面化後の外観の均一性が損なわれる場合があり、また安定した強度を有するアルミニウム合金板を量産することが困難な場合がある。一方、終了板厚が5.0mmを超えると熱間仕上圧延後も高温に保持され、再結晶粒が粗大になる場合がある。また、製品板厚までの圧下率が大きくなるため、製造コストの点から好ましくない。更に、製品板厚までの圧下率が大きくなると、熱間仕上圧延後の再結晶粒が大きく伸ばされ、それに伴い結晶粒面積が大きくなる。その結果、粗面化後の外観が不均一となる場合がある。より好ましい熱間仕上圧延の終了板厚は、2.5〜4.0mmである。
冷間圧延工程:
熱間仕上圧延工程後に冷間圧延工程にかけ、その後に焼鈍工程にかける場合は、前記冷間圧延工程における圧下率を30〜80%とするのが好ましい。このような圧下率を設定することにより、その後の焼鈍工程において結晶粒が微細となる。この圧下率が30%未満では歪の蓄積量が不十分であり、焼鈍処理により微細な再結晶粒が得られず均一な粗面化後の外観が得られない場合がある。一方、圧下率が80%を超えると歪の蓄積量が大きくなり、後工程の焼鈍時に蓄積された歪が駆動力となってFeやSiの拡散が促進されるため、AlFeが析出し易くなる場合がある。なお、より好ましい圧下率は40〜70%である。熱間仕上圧延工程と冷間圧延工程の間に焼鈍工程にかける場合と比較すると、焼鈍前の歪の蓄積量が大きいため結晶粒が微細となり、粗面化後の外観の均一性が更に増す。なお、熱間仕上圧延工程と冷間圧延工程の間に焼鈍工程にかける場合には、冷間圧延の圧下率を30〜80%とすることが好ましい。
焼鈍工程:
前述のように、熱間仕上圧延終了温度を200℃以上300℃未満の範囲内とする場合には、熱間仕上圧延工程と冷間圧延工程の間に焼鈍工程を設ける必要がある。また、冷間圧延工程の途中又はその後に更なる焼鈍工程を設けてもよい。これらの焼鈍工程は、連続焼鈍炉によって行なってもよく、これに代わってバッチ炉で行なってもよい。連続焼鈍炉での焼鈍条件は、温度400〜550℃で保持時間0〜30秒とするのが好ましい。一方、バッチ炉での焼鈍条件は、温度300〜500℃で保持時間1〜10時間とするのが好ましい。これらの条件により、結晶粒が微細化され粗面化処理後の外観が均一となる。また、アルミニウム合金板中の元素、特にFeとSiの固溶と析出に大きな影響を及ぼし、最終板におけるAlFeの分散状態を本発明で規定する範囲内に調整するのに有効に機能する。以下に、連続焼鈍炉とバッチ炉での焼鈍工程について詳述する。
上述のように、連続焼鈍炉による焼鈍工程では、焼鈍条件を温度400〜550℃で保持時間0〜30秒とするのが好ましい。保持温度が400℃未満では十分な結晶粒微細化の効果が得られない場合がある。一方、550℃を超えると、AlFeが析出して、AlFe起因の汚れの原因となる場合がある。保持時間が30秒を超えると結晶粒微細化の効果が飽和し、製造コストの点で好ましくない。また、30秒を超えると入熱量Hに及ぼす影響は少ないものの、焼鈍前に蓄積された歪が駆動力となり焼鈍時のFeやSiの拡散が促進される。その結果、AlFeが析出し易くなる場合がある。なお、より好ましい連続焼鈍工程における焼鈍条件は、温度480〜550℃で保持時間0〜15秒である。ここで焼鈍時間0秒とは、焼鈍温度到達後に保持せず、直ちに冷却することを意味する。
また、上述のように、バッチ炉による焼鈍工程では、焼鈍条件を温度300〜500℃で保持時間1〜10時間とするのが好ましい。保持温度が300℃未満では単体Siが析出し易く、結晶粒微細化の効果が十分に得られない場合がある。また、保持時間が1時間未満では、結晶粒微細化の十分な効果が得られない場合がある。一方、温度が500℃を超え、或いは、保持時間が10時間を超えると結晶粒が粗大化し、粗面化処理後の外観が不均一となる場合がある。更に、前工程で導入された歪が駆動力となってFeやSiの拡散が促進されるため、AlFeが析出し易い場合がある。なお、より好ましいバッチ炉による焼鈍条件は、温度350〜450℃で保持時間2〜8時間である。
最終冷間圧延工程:
上述の冷間圧延工程において、最終板厚まで仕上げる段階の圧延工程を最終冷間圧延工程という。この最終冷間圧延工程の条件は特に限定されるものではなく、常法に従えばよい。最終冷間圧延工程での圧下率は、次のように規定される。すなわち、冷間圧延工程の途中において焼鈍を行わない場合は、冷間圧延工程の開始から最終冷間圧延工程の終了までの圧延率とする。一方、冷間圧延工程の途中において焼鈍を行なわれる場合は、焼鈍終了後から最終冷間圧延工程の終了までの圧延率とする。最終冷間圧延工程での圧下率は、必要な製品板強度や板厚に応じて定めればよく、通常70〜95%とする。なお、最終冷間圧延工程の後にレベラ−矯正を行ってもよい。
アルミニウム合金板表面の結晶粒径は粗面化処理性に大きな影響を及ぼし、粗面化処理後の外観の面質ムラや処理ムラの原因となる。そのため、結晶粒径を小さくすることが好ましく、上記に詳述した製造方法により結晶粒径が微細なアルミニウム合金板が得られる。
合金板表面に沿った方向であって圧延方向に直交する方向におけるアルミニウム合金板の平均結晶粒径(「円相当直径」であり、以下において同じ)は、150μm以下であるのが好ましい。但し、この平均結晶粒径が150μm以下を満たしていても、結晶粒の変動幅によっては外観不均一が生じる場合がある。そこで、上記圧延方向に直交する方向におけるアルミニウム合金板の結晶粒径の最大値を、300μm以下とするのが好ましい。この圧延方向に直交する方向におけるアルミニウム合金板の平均結晶粒径が150μmを超える場合、或いは、最大結晶粒径が300μmを超える場合には、粗面化処理後の外観に面質ムラが発生し外観不均一となる場合がある。より好ましくは、平均結晶粒径が150μm以下で、かつ、最大結晶粒径が200μm以下である。
以上に詳述した平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法により、円相当直径1.0μm以上のAlFeの分散密度が0〜500個/mmの範囲内にあるアルミニウム合金板を確実かつ容易に得ることができる。
なお、上記製造方法によって製造されたアルミニウム合金板を平版印刷版の支持体とするためには、粗面化、陽極酸化等のための表面処理をアルミニウム合金板に施す。この表面処理方法は、特に限定されるものではなく常法に従えばよい。また、このような表面処理を施した印刷版用アルミニウム合金板の支持体をPS版とするには、平版印刷版用の感光層を表面に塗布、乾燥させる必要がある。
以下に、本発明例と比較例に基づいて、本発明の好適な実施の態様を具体的に説明する。なお、これらは本発明の例示に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
表1〜3のNo.1〜89に示す各成分組成の合金をDC鋳造した後に、鋳塊の温度が500℃以下となるように、表1に示す冷却速度CR(K/秒)で水冷した。その後、表1〜3に示す入熱量となるように500〜550℃の温度範囲で均質化処理工程にかけた。室温まで冷却した後、この鋳塊の面削を行った後に、開始温度430℃、終了温度370℃、最終圧下での歪速度10/秒の熱間粗圧延工程にかけた。この熱間粗圧延工程終了温度のまま熱間仕上圧延開始までの40秒間、圧延材を保持し、熱間仕上圧延工程にかけた。No.1〜10及びNo.32〜49に関しては、熱間仕上圧延条件は、終了温度330℃、最終圧下での歪速度120/秒、終了板厚3.0mmとした。その後、焼鈍を施さずに、0.3mmまで冷間圧延を施してアルミニウム合金板試料を作製した。No.11〜16及びNo.50〜60に関しては、熱間仕上圧延条件は、終了温度250℃、最終圧下での歪速度50/秒、終了板厚2.5mmとした。その後、冷間圧延を施す前に、バッチ炉で温度450℃、保持時間2時間の焼鈍を施した後、0.3mmまで冷間圧延を施してアルミニウム合金板試料を作製した。No.17〜21及びNo.61〜70に関しては、熱間仕上圧延条件は、終了温度250℃、最終圧下での歪速度50/秒、終了板厚2.5mmとした。その後、冷間圧延を施す前に、連続焼鈍炉で温度520℃、保持時間0秒(保持無し)の焼鈍を施した後、0.3mmまで冷間圧延を施してアルミニウム合金板試料を作製した。No.22〜26及びNo.71〜80に関しては、熱間仕上圧延条件は、終了温度250℃、最終圧下での歪速度50/秒、終了板厚4mmとした。その後、1.5mmまで冷間圧延を施した後、連続焼鈍炉で温度500℃、保持時間0秒(保持無し)の焼鈍を施し、0.3mmまで冷間圧延を施してアルミニウム合金板試料を作製した。No.27〜31及びNo.81〜89に関しては、熱間仕上圧延条件は、終了温度250℃、最終圧下での歪速度50/秒、終了板厚4mmとした。その後、1.5mmまで冷間圧延を施した後、バッチ炉で温度390℃、保持時間4時間の焼鈍を施し、0.3mmまで冷間圧延を施してアルミニウム合金板試料を作製した。
Figure 2014025119
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上記のようにして作製したアルミニウム合金板試料を用いて、下記(1)に従ってAlFeのサイズと分布密度を測定した。更に、下記(2)に従って粗面化後の外観を評価し、下記(3)に従って印刷時の汚れ発生の有無により汚れ性を評価した。
(1)上述した方法に従いSEM及びEDXを用いて、アルミニウム合金板試料表面における円相当径1.0μm以上のAlFeの分布密度を測定した。結果を表4〜6に示す。
Figure 2014025119
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(2)毛径0.3mmの束植ナイロンブラシ3本とメジアン径25μmのパミス−水懸濁液(比重1.1g/cm3)を用いて、上記アルミニウム合金板試料の表面を砂目立てし、水で洗浄した。この試料を70℃の25質量%水酸化ナトリウム水溶液に25秒間浸漬してエッチングを行ない、水洗した。次いで、水洗した試料を60℃の20%硝酸水溶液に20秒間浸漬し、水洗した。この水洗後において、砂目立て表面のエッチング量は約10g/mであった。
次に、60Hzの交流電源を用いてアルミニウム合金板試料に電気化学的な粗面化処理を施した。液温50℃の硝酸1質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含有する)を、電解溶液に用いた。交流電源波形としては、電流値がゼロからピークに達するまでの時間TPが0.8m秒、duty比1:1の台形の矩形波交流を用いた。対電極にはカーボン電極を用い、補助アノードにはフェライトを用いた。電流密度は電流のピーク値で30A/dm、補助陽極には電源から流れる電流の5%を分流させた。硝酸電解における電気量は、アルミニウム合金板試料が陽極時において175C/dmであった。
このようにして電気化学的な粗面化処理を施したアルミニウム合金板試料を、水で洗浄した。次いで、水洗したアルミニウム合金板試料を50℃の5質量%水酸化ナトリウム水溶液に20秒浸漬してエッチング処理を行ない、水洗した。アルミニウム溶解量は、0.5g/m2であった。
次に、液温50℃の塩酸0.5質量%水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含有する)を電解溶液に用いて、上記硝酸水溶液の交流電解と同様の方法で、アルミニウム合金板に電気化学的な粗面化処理を施した。なお、アルミニウム合金板が陽極時の電気量は50C/dmとした。
このようにして電気化学的な粗面化処理を施したアルミニウム合金板試料を、水で洗浄した。次いで、水洗したアルミニウム合金板試料に、15質量%硫酸水溶液(アルミニウムイオンを0.5質量%含有する)を電解液として、電流密度15A/dmで2.5g/mの直流陽極酸化処理を施し、試料表面に陽極酸化皮膜を形成した。これを水洗し、乾燥し、更に、30℃の珪酸ナトリウム2.5質量%水溶液で10秒処理した。次いで、試料を硫酸水溶液浴中で洗浄した。このようにして粗面化処理したアルミニウム合金板試料の外観を目視観察して、粗面均一性を評価した。粗面が均一なものを◎、粗面均一性がやや劣るが許容範囲内のものを○、粗面均一性が劣るものを×とした。◎と○を合格とし、×を不合格とした。なお、粗面均一性だけでなく線状欠陥が発生した場合も外観不良とした。評価結果を表4〜6に示す。
(3)上記のようにして粗面化処理したアルミニウム合金板試料の支持体上に、特開2007−090850号公報の実施例1に記載されるように、下塗り層、画像形成層及び保護層を塗布し平版印刷版原版を作製した。作製した平版印刷版原版を、60℃相対湿度75%に設定した恒温恒湿槽中に2週間放置した後、現像処理することなく、(株)小森コーポレーション製印刷機LITHRONE26の版胴に取り付けた。Ecolity−2(富士フイルム(株)製)/水道水=2/98(容量比)の湿し水と、Values−G(N)墨インキ(大日本インキ化学工業(株)製)とを用い、LITHRONE26の標準自動印刷スタート方法により、湿し水とインキとを供給して機上現像を行った。その後、毎時10000枚の印刷速度で、特菱アート(76.5kg)紙を1000枚印刷した。印刷後、非画像部に表れたAlFeと単体Siの汚れ発生の有無を目視で確認し、印刷時の汚れ性を評価した。汚れが発生しなかったものを◎、汚れが発生したものの許容範囲内のものを○、許容範囲外のものを×とした。◎と○を合格とし、×を不合格とした。なお、AlFeと単体Siの汚れ以外にも、感光層の欠陥などに基づく汚れ性も評価した。また、印刷途中あるいは印刷後に版切れの有無を目視で確認した。結果を表4〜6に示す。
本発明例1〜31では、円相当径1.0μm以上のAlFeの分布密度、粗面均一性及び汚れ性がいずれも合格であった。
比較例32〜37では、Fe含有量が少ないため、粗面化処理後の外観に面質ムラが発生し、外観が不均一となった。更に、機械的強度が低いため版切れが発生した。また、Si含有量が少ないため、粗面化処理後のピットが不均一となって、粗面化処理後に面質ムラが発生し外観が不均一となった。
比較例38〜40では、Si含有量が多いため、単体Siを起因とする汚れが発生した。また、粗大なAl−Fe−Si系金属間化合物が生成され、粗面化処理後のピットが不均一となった。
比較例41〜52では、Si含有量が少ないため、粗面化処理後のピットが不均一となって、粗面化処理後に面質ムラが発生し外観が不均一となった。
比較例53では、Cu含有量が少ないため、粗面化処理後のピットが不均一となって、粗面化処理後に面質ムラが発生し外観が不均一となった。
比較例54では、Cu含有量が多いため、粗面化処理後のピットが不均一となって、粗面化処理後に面質ムラが発生し外観が不均一となった。また、粗面化処理後の色調が黒味を帯びすぎて商品価値が損なわれた。
比較例55では、Ti含有量が少ないため、粗面化処理後のピットが不均一になり、また鋳塊の結晶粒が微細化されずに粗大な結晶粒組織になるため、マクロ組織に圧延方向に沿う帯状の筋が発生し粗面化処理後にも帯状の筋が残存した。
比較例56では、Ti含有量が多いため、粗大なAl−Ti系金属間化合物が形成されてその化合物が圧延板に筋状に分布した。その結果、陽極酸化皮膜に欠陥が生じ、感光層の欠陥となって、印刷汚れが発生した。
比較例57では、Fe/Siの比が小さいため、単体Siが析出して汚れが発生した。
比較例58では、Fe含有量が多いため、円相当径1.0μm以上のAlFeの分布密度が大きくなってAlFeを起点とする汚れが発生した。また、Si含有量が多いため、単体Siを起因とする汚れが発生した。更に、粗大なAl−Fe−Si系金属間化合物が生成され、粗面化処理後のピットが不均一となって、粗面化処理後に面質ムラが発生し外観が不均一となった。
比較例59〜63では、Fe含有量が多いため円相当径1.0μm以上のAlFeの分布密度が大きくなって、AlFeを起点とする汚れが発生した。
比較例64では、Fe/Siが冷却速度の関係式よりも大きくなったため円相当径1.0μm以上のAlFeの分布密度が大きくなり、AlFeを起点とする汚れが発生した。
比較例65〜75では、Fe/Siが冷却速度の関係式よりも大きくなったため円相当径1.0μm以上のAlFeの分布密度が大きくなり、AlFeを起点とする汚れが発生した。また、Si含有量が少ないため、粗面化処理後のピットが不均一となって粗面化処理後に面質ムラが発生し、外観が不均一となった。
比較例76、77では、Fe/Siが冷却速度の関係式よりも大きくなったため円相当径1.0μm以上のAlFeの分布密度が大きくなり、AlFeを起点とする汚れが発生した。また、Si含有量が多いため、単体Siを起因とする汚れが発生した。更に、粗大なAl−Fe−Si系金属間化合物が生成され、粗面化処理後のピットが不均一となって、粗面化処理後に面質ムラが発生し外観が不均一となった。
比較例78〜87では、Fe/Siが冷却速度の関係式よりも大きくなったため円相当径1.0μm以上のAlFeの分布密度が大きくなり、AlFeを起点とする汚れが発生した。
比較例88は、入熱量Hが大きいためAlFe変態が生じ、AlFeを起点とする汚れが発生した。
本発明によって、特に機上現像型印刷版に適したアルミニウム合金板として、AlFeの分散がより確実かつ十分に抑制され、これにより優れた耐汚れ性を備えるとともに、粗面化処理後の外観の均一性に優れたな印刷版となる、平版印刷版用アルミニウム合金板が得られる。
n1・・・n番目の処理工程での500℃以上の熱処理において、式(2)のk=1における熱処理時間の積分値
n2・・・n番目の処理工程での500℃以上の熱処理において、式(2)のk=2における熱処理時間の積分値
n3・・・n番目の処理工程での500℃以上の熱処理において、式(2)のk=3における熱処理時間の積分値
n4・・・n番目の処理工程での500℃以上の熱処理において、式(2)のk=4における熱処理時間の積分値
n5・・・n番目の処理工程での500℃以上の熱処理において、式(2)のk=5における熱処理時間の積分値
n6・・・n番目の処理工程での500℃以上の熱処理において、式(2)のk=6における熱処理時間の積分値
・・・1番目の処理工程での500℃以上の熱処理による入熱量
・・・2番目の処理工程での500℃以上の熱処理による入熱量
・・・n番目の処理工程での500℃以上の熱処理による入熱量

Claims (3)

  1. Fe:0.05〜0.30mass%、Si:0.05〜0.20mass%、Cu0.001〜0.05mass%、Ti0.005〜0.05mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなる平版印刷版用アルミニウム合金板において、当該アルミニウム合金板表面において円相当直径1.0μm以上の金属間化合物のうち、AlFeが0〜500個/mmであることを特徴とする平版印刷版用アルミニウム合金板。
  2. 請求項1に記載の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法において、Fe:0.05〜0.30mass%、Si:0.05〜0.20mass%、Cu0.001〜0.05mass%、Ti0.005〜0.05mass%を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金を半連続鋳造する半連続鋳造工程と;鋳塊を均質化する均質化処理工程と;鋳塊を熱間圧延する熱間圧延工程と;熱間圧延材を冷間圧延する冷間圧延工程と;を備え、前記半連続鋳造工程において、Fe含有量であるCFe(mass%)、Si含有量であるCSi(mass%)及び鋳造凝固時の冷却速度であるCR(K/秒)が、下記式(1)の関係を満たし、前記各工程を通して、鋳塊又は圧延材に対する500℃以上における入熱量Hを1000(K・時)以下とすることを特徴とする平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法。
    0.7≦CFe/CSi≦1.5×log(CR)+2.5 (1)
  3. 前記冷間圧延工程の前又は途中に焼鈍工程を備える、請求項2に記載の平版印刷版用アルミニウム合金板の製造方法。
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