以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。また、以下では、イオン注入が行われる物体として半導体ウエハを例として説明するが、他の物質や部材であってもよい。
はじめに、本実施の形態に係るハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置について説明する。半導体製造工程では、導電性を変化させる目的、半導体ウエハの結晶構造を変化させる目的などのため、半導体ウエハにイオンを入射する工程が標準的に実施されている。この工程で使用される装置は、一般にイオン注入装置と呼ばれる。
イオン注入装置は、イオン源で発生したイオンをイオンビームとしてイオン注入領域まで輸送する装置である。ここで、枚葉式イオン注入装置とは、そのイオン注入領域に半導体ウエハを1枚ずつ設置し、その半導体ウエハへイオンを注入した後、改めて別の半導体ウエハを1枚ずつ設置し、その過程を繰り返すことにより、当初処理を予定していた枚数の半導体ウエハにイオンを注入するイオン注入装置のことをいう。そして、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置とは、枚葉式イオン注入装置の中でも、イオン源からイオン注入領域までのイオンビームを輸送する空間上で、イオンに電場若しくは磁場を作用させて、結果的にイオン注入領域空間内でイオンビームを一方向に走査し、加えて、そのイオンビームの走査方向に直交する方向に、半導体ウエハを走査(移動)する、イオン注入装置のことをいう。
なお、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置においては、イオンビームは一方向に走査され、そのイオンビームの走査方向に直交(交差)する方向に半導体ウエハが走査される。しかしながら、半導体ウエハへのイオン注入を考える際には、半導体ウエハを仮想的に固定して、イオンビームの相対的な挙動を考えればよい。すなわち、半導体ウエハのメカニカルな走査により、半導体ウエハはイオンビームに対して一方向に走査されるが、半導体ウエハを固定した仮想的な空間で考えると、イオン注入領域空間まで輸送されたイオンが、イオンビームの走査と半導体ウエハのメカニカルな走査によって、イオン注入領域空間内で仮想的な平面状のイオン注入領域を作成しながら、結果的に半導体ウエハにイオンが注入されると考えることができる。
言い換えると、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置とは、イオン源で発生したイオンをイオンビームとしてイオン注入領域空間まで輸送し、そのイオン注入領域空間内で半導体ウエハにイオンを注入する。その場合、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置は、イオンビームの輸送中において、イオンに周期的に変動する電場若しくは周期的に変動する磁場を作用させて、イオン注入領域空間内でイオンビームを一方向に走査し、その走査方向に直交する方向に、半導体ウエハを走査する。そして、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置は、この二種類の走査を用いることで、半導体ウエハに対して注入されるイオンについて、その相対的な関係が、仮想的な平面状のイオン注入領域と見なすことができるイオン注入装置であるとも言える。
また、以下、イオンビームを走査する方向をXスキャン方向、半導体ウエハを走査する方向をYスキャン方向と呼ぶことがある。さらに、Yスキャン方向との用語に関しては、前述の仮想的な平面状のイオン注入領域の中で、イオンビームを走査する方向に直交する方向についても、Yスキャン方向との用語を用いることがある。このように「Yスキャン方向」は、現実の空間において半導体ウエハをメカニカルに走査する方向でもあり、前述の仮想的な平面状のイオン注入領域の中で、イオンビームを走査する方向に直交する方向でもある。しかしながら、これらの区別は、半導体ウエハを、現実空間の状況のように駆動するものとして考えるか、あるいは、前述の仮想的な平面状のイオン注入領域の中で固定して考えるかの差であり、その方向の意味内容は同一であり、かつ文脈の中でどちらの意味で使用しているかも明らかであるので、以下、特に区別せずに記述する。
近年の半導体製造においては、イオン注入装置に対する要求がその目的に合わせて多様化している。ここで、原理的には通常のイオン注入装置でその要求を達成することは可能であるが、工学的要請及び市場経済的理由から、通常開発されているイオン注入装置でその要求の達成が困難な場合が有り得る。
その代表例として、半導体ウエハの大きさの制限と、それに対応するイオン注入装置の開発上の制限が挙げられる。以下、詳しく述べる。
現在、最も良く使われる半導体ウエハはシリコン製半導体ウエハである。シリコン製半導体ウエハにおいては、現在直径300mmの半導体ウエハが半導体デバイス量産工場で広く採用されている。また現在、直径450mmの半導体ウエハの採用について、世界中で検討が進んでいる状況である。一方、直径300mmより小さなシリコン製半導体ウエハに関しては、一部で直径200mmの半導体ウエハが量産に使用されているが、その市場シェアは徐々に下がっている。また、直径150mmのシリコン製半導体ウエハもわずかに量産工場で使用されてはいる。
この事情は、シリコン製以外の半導体ウエハでは大きく異なる。例えば現在、主にワイドギャップ半導体パワーデバイスの生産用として、炭化シリコン(SiC)製半導体ウエハや、窒化ガリウム(GaN)製半導体ウエハが用いられることがある。このようなシリコン製以外の半導体ウエハでは、その大口径化が難しく、量産工程としては直径100mm以下の半導体ウエハ使用が一般的であると言ってよい。
ところが、イオン注入装置開発の立場から考える場合、この広範囲な半導体ウエハ直径の存在は市場経済的側面に反する。すなわち、古くはシリコン製半導体ウエハもその直径が100mm以下であった時代がある訳なので、炭化シリコン(SiC)製半導体ウエハや、窒化ガリウム(GaN)製半導体ウエハ向けのイオン注入装置を開発、製作することは原理的には可能である。しかし、イオン注入装置開発には多大な費用が必要であり、前述の広範囲な半導体ウエハ直径に対応する別個のイオン注入装置の開発は、市場経済的には決して望ましいものではない。したがって、「大は小を兼ねる」との考え方にのっとり、より大口径のシリコン製半導体ウエハの直径、例えば直径300mmに合わせてイオン注入装置を開発し、その装置をシリコン製以外のワイドギャップ半導体用の半導体ウエハ、例えば直径100mmの半導体ウエハに適用することが行われる。
ここで、直径300mmの半導体ウエハ用に開発されたハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置を用いて、直径100mmの半導体ウエハへイオン注入を行う場合について考える。
この場合、直径300mmの半導体ウエハを保持できる機構があれば、適切な半導体ウエハのホルダを用いることにより、直径100mmの半導体ウエハを保持することは比較的簡単にできる。ところが、イオンビームの走査及び半導体ウエハの走査を、直径100mmの半導体ウエハに適合させることは難しい。以下、その理由を説明する。
通常、イオン注入は、半導体ウエハの全面に行うことが求められる。したがって、直径300mmウエハの場合、その300mmの直径を超える範囲でイオンビームを走査する必要があり、かつ半導体ウエハもメカニカルに走査する必要がある。無論、直径100mmウエハの場合では、その100mmの直径を超える範囲でイオンビームを走査する必要があり、かつ半導体ウエハもメカニカルに走査する必要がある。
ところが、半導体ウエハの外側にイオンビームが走査される場合、このイオンビームは半導体ウエハには注入されないので、半導体ウエハへのイオン注入との観点からは無駄なイオンとなる。このことは、半導体ウエハがメカニカルに走査されることによって、イオンがその方向に対して半導体ウエハの外側になる場合も同様である。あるいは、前述の仮想的な平面状のイオン注入領域の中を考え、そのイオン注入領域の中で半導体ウエハの外側にある領域が無駄であると考えてもよい。
ここで、通常の直径300mmの半導体ウエハ用に開発されたハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置では、特に工夫がなされていないので、直径300mmウエハの場合に合わせてイオンビームの走査の方法や半導体ウエハのメカニカルな走査の方法が定められる。したがって、直径100mmウエハの場合でも、同じように直径300mmウエハの場合に合わせてイオンビームの走査の方法や半導体ウエハのメカニカルな走査の方法が定められる。通常の場合、このような走査をする必要があることを含め、これらの状況については、後で詳述するが、ここで重要なことは、通常の直径300mmの半導体ウエハ用に開発されたハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置では、イオンの走査手法や半導体ウエハのメカニカルな走査手法が、決まっていることである。
この場合、確かに、「大は小を兼ねる」との考え方にのっとり、より大口径のシリコン製半導体ウエハの直径、この場合は直径300mmに合わせてイオンを走査し、あるいは半導体ウエハをメカニカルに走査することで、直径100mmの半導体ウエハの全面にイオン注入を行うことは可能である。あるいは、前述の仮想的な平面状のイオン注入領域の中を考え、その中で、直径300mmの半導体ウエハが占める面積が、直径100mmの半導体ウエハが占める面積より大きく、かつ、直径300mmの半導体ウエハが占める領域が直径100mmの半導体ウエハが占める領域を完全に包含していると考えてもよい。しかしながら、確かに、「大は小を兼ね」ており、原理的にはこの手法で、直径300mmの半導体ウエハ用に開発されたハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置を用いて、直径100mmの半導体ウエハの全面にイオンを注入することは可能であるが、量産用半導体製造工程では、この手法は採用できない。その理由については後で詳述するが、要するに、イオン注入の効率が悪すぎるために、実用に耐えないからである。
すなわち、前述のイオン注入領域空間内で設定される、仮想的な平面状のイオン注入領域の形状及びその面積が同一の場合、量産用半導体製造工程において、直径300mmの半導体ウエハ用に開発されたハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置を用いて、直径100mmの半導体ウエハへイオン注入を行うことは困難である。したがって、量産用半導体製造工程において、直径300mmの半導体ウエハ用に開発されたハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置を用いて、直径100mmの半導体ウエハへイオン注入を行うためには、仮想的な平面状のイオン注入領域の形状及びその面積について、工夫を加えなければならない。
加えて、後で詳述するが、例えば、直径300mmの半導体ウエハ用に開発されたハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置を用いて、直径100mmの半導体ウエハへイオン注入を行う場合に、実用に耐えるようなイオン注入の効率を確保しようとすると、仮想的な平面状のイオン注入領域の面積を小さくする必要がある。この場合、直径300mmの半導体ウエハを保持しているプラテンと呼ばれる母材の面積に比べ、直径100mmの半導体ウエハへイオン注入が行われる場合の仮想的な平面状のイオン注入領域の面積を小さくする必要がある。したがって、直径100mmの半導体ウエハへのイオン注入中には、イオンビームは母材から外側に出ることはなく、直径100mmの半導体ウエハへのイオン注入中にイオンビームの電流値を測定することはできない。
このようなイオン注入領域空間内で設定される、仮想的な平面状のイオン注入領域の形状及びその面積の重要性は、直径が大きく異なる半導体ウエハに対して同一のハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置を用いてイオン注入を実施しようとする場合のみに明らかになる訳ではない。
例えば、イオン注入の効率を向上する際にも、前記仮想的な平面状のイオン注入領域の形状及びその面積の重要性が顕在化する。以下、その理由を簡単に説明する。
シリコン製半導体ウエハは、通常円形をしている。ここで、通常のハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置において、特に工夫がなされていない場合には、イオンの走査と半導体ウエハのメカニカルな走査とは独立に行われる。この場合、仮想的な平面状のイオン注入領域の形状が四角形状になることは、容易に理解できる。すなわち、円い半導体ウエハに対して、四角い仮想的な平面状のイオン注入領域となるが、四角形の4つの頂点付近に、他の理由がない限り、明らかに無駄なイオン注入領域が生じる。通常のハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置では、この部分にもイオンを注入しているので、イオン注入の効率の観点から、まだ向上の余地があると言える。
後で詳述するが、イオン注入効率の観点から、仮想的な平面状のイオン注入領域の形状を半導体ウエハの形状に近づける工夫も幾つか提案されている。もちろん、その際、仮想的な平面状のイオン注入領域の面積も小さい方が、イオン注入効率が向上することは言うまでもない。すなわち、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置を用いて効率良いイオン注入を実施する場合に、仮想的な平面状のイオン注入領域の形状及びその面積が重要であることは、明らかである。
以上、具体的な例示によって、イオン注入領域空間内で設定される、仮想的な平面状のイオン注入領域の形状及びその面積の重要性を指摘してきた。この重要性は、前述の具体的な例示に留まるものではなく、一般性を持っている。言い換えると、他の目的に対しても、仮想的な平面状のイオン注入領域の形状及びその面積が重要である場合が有り得ることは、容易に推察できよう。特に指摘しておきたい点としては、現在用いられているハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置において、イオン注入領域空間内で設定される、仮想的な平面状のイオン注入領域の形状及びその面積を制御することが、工学的要請及び市場経済的理由から、強く求められている。あるいは、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置において、仮想的な平面状のイオン注入領域の形状及びその面積は、その重要な要素の一つであると言ってもよい。
このように考えると、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置における、イオン注入領域空間内で設定される、仮想的な平面状のイオン注入領域の形状及びその面積の制御は、その目的や具体的な要請にかかわらず、技術的には統一的に考えればよい。すなわち、仮想的な平面状のイオン注入領域の形状及びその面積の制御が、その目的にかかわらず、ある範囲内で可能であることが重要である。
また、イオン注入自身にも当然ながら重要な要素がある。例えば、注入するイオン種、注入するイオンのエネルギー、半導体ウエハに対するイオンの注入角度、注入するイオンの総量(以下、「イオン注入ドーズ量」と呼ぶことがある。)などは、特に重要な要素である。さらに、注入するイオンが半導体ウエハに与えるダメージ量も、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置を用いたイオン注入にとって、重要な要素となる。
特に、注入するイオンが半導体ウエハに与えるダメージ量について付言すると、このダメージ量は、半導体ウエハの温度によって変化することが知られている。したがって、ダメージ量は、半導体ウエハを保持しているプラテンと呼ばれる母材の温度や、イオンビームが半導体ウエハの或る地点を通過する周期、すなわち、イオンビームを一方向に走査するその走査の周波数に依存することが知られている。つまり、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置において、半導体ウエハを保持しているプラテンと呼ばれる母材の温度や、イオンビームを一方向に走査するその走査の周波数もまた、イオン注入における重要な要素であると言える。
さらにまた、既に説明したイオン注入における重要な要素が、半導体ウエハの面内で均一であることも重要である。なぜなら、半導体製造工程では、半導体ウエハ全面に同一性能の半導体デバイスを製作することが重要であり、したがって、イオン注入における重要な要素が、半導体ウエハの面内で均一であることが必要とされるからである。特に、前述のイオン注入ドーズ量が半導体ウエハの全面で均一であることは重要であるとされている。
以上をまとめると、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置にとって、仮想的な平面状のイオン注入領域の形状及びその面積とともに、イオン注入自身の重要な要素な要素として、具体的には、イオン種、イオンエネルギー、イオン注入角度、イオン注入ドーズ量、半導体ウエハを保持している母材の温度、イオンビーム走査周波数が挙げられる。特に、イオン注入ドーズ量についてはその半導体ウエハ内の均一性もまた重要な要素として挙げられることになる。後で詳しく説明するが、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置にとって、仮想的な平面状のイオン注入領域の形状及びその面積を制御する際には、特にイオンビーム走査周波数とイオン注入ドーズ量の半導体ウエハ内の均一性の維持が、工夫を要する。
さらに、既に説明したように、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置にとって、注入中のイオンビームの電流量の測定を必須とすることなく、仮想的な平面状のイオン注入領域の形状及びその面積を制御できるとよい。
したがって、以下に述べる本実施の形態に係るハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置は、イオンの注入中にイオンビームの電流値測定を必須とすることなく、上述のイオン注入における重要な要素を半導体ウエハの面内で均一に保ちながら、仮想的な平面状のイオン注入領域の形状及びその面積を制御できる。
図1(a)は、本実施の形態に係るハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置の概略構成を示す平面図、図1(b)は、本実施の形態に係るハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置の概略構成を示す側面図である。
本実施の形態に係るハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置(以下、適宜「イオン注入装置」と呼ぶ場合がある。)100は、イオン源1から引出電極2により引き出されたイオンビームが、半導体ウエハ9に至るビームライン上を通るように構成されている。そして、ビームラインに沿って、質量分析磁石装置3、質量分析スリット4、ビームスキャナー5、ウエハ処理室(イオン注入室)が配設されている。ウエハ処理室内には、半導体ウエハ9を保持する半導体ウエハ保持装置10が配設されている。半導体ウエハ9は非常に薄いので、図1では、半導体ウエハ9と半導体ウエハ保持装置10を区別せずに図示している。イオン源1から引き出されたイオンビームは、ビームラインに沿ってウエハ処理室のイオン注入位置に配置された半導体ウエハ保持装置10上の半導体ウエハ9に導かれる。
イオンビームは、ビームスキャナー5を用いて、一方向、すなわちXスキャン方向に往復スキャンされ、パラレルレンズ6の機能により、平行化された後、半導体ウエハ9まで導かれる。ここで、図1に示すビームスキャナー5は、電場タイプのビームスキャナー5、すなわち周期的に変動する電場を作用させてイオン注入領域空間内でイオンビームを一方向に走査しているビームスキャナーである。なお、これは例であって、磁場タイプのビームスキャナー、すなわち周期的に変動する磁場を作用させてイオン注入領域空間内でイオンビームを一方向に走査しているビームスキャナーを用いてもよい。また、図1では、ビームスキャナー5に電圧を加えない場合にはイオンビームがスキャンされず、ビームスキャナー5に正負の電圧を加えることによって、ビームがXスキャン方向に往復スキャンされるように図示している。しかしながら、これは例であって、ビームスキャナー5への電圧の掛け方は種々考えられる。例えば、図1において、イオン源1からビームスキャナー5までのビームライン上に、イオンビームへ電磁気学的な力を加える機器を配設することによって、ビームスキャナー5に電圧を加えない場合に、図1(a)においてビームが下方にスキャンされるように構成することも考えられる。なお、本実施の形態では簡単のために、以下、ビームスキャナー5に電圧を加えない場合にはイオンビームがスキャンされず、ビームスキャナー5に正負の電圧を加えることによって、ビームがXスキャン方向に往復スキャンされる場合について説明する。
また、既に説明したように、本実施の形態に係るイオン注入装置は、イオンビームの走査方向すなわちXスキャン方向に対して、その直交する方向すなわちYスキャン方向に、半導体ウエハ9をメカニカルに走査して、イオンを半導体ウエハ9に打ち込む。図1に示すイオン注入装置100では、角度エネルギーフィルタ7を用いてイオンビームを曲げ、イオンエネルギーの均一性を高めているが、これは例であって、角度エネルギーフィルタ7を用いなくてもよい。
本実施の形態では、半導体ウエハ9への注入前に、イオンビームの計測を行う。図1に示したイオン注入装置100では、イオンビームの計測のために、ビーム測定装置8を用いる。図1では、半導体ウエハ9へのイオン注入中に、半導体ウエハ9と幾何学的に干渉する位置に可動するビーム測定装置8を図示している。ここで、図1では、ビーム測定装置8は可動するように書かれているが、これは例であって、非可動タイプのビーム測定装置8を用いてもよい。また、イオンビームの注入前に、半導体ウエハ9の位置におけるイオンビームの形状やその強度を測定し、もって実際の半導体ウエハ9へのイオン注入の際におけるイオンビームの形状やその強度を見積もるとよい。
したがって、ビーム測定装置8は、半導体ウエハ9へのイオン注入中において半導体ウエハ9と幾何学的に干渉する位置に置かれることが好ましい。しかしながら、ビーム測定装置8を半導体ウエハ9へのイオン注入中において半導体ウエハ9と幾何学的には干渉しない位置に、すなわち、該ビームラインにおいて半導体ウエハ9の位置よりやや上流側や、該ビームラインにおいて半導体ウエハ9の位置よりやや下流側に置くことも可能である。さらに、複数個のビーム測定装置8を用いて、実際の半導体ウエハ9へのイオン注入の際におけるイオンビームの形状やその強度を見積もってもよい。なお、以下の説明では、簡略のために、可動タイプのビーム測定装置8を用いて説明する。
図2は、図1に示すイオン注入装置100における半導体ウエハ9の周辺をさらに詳しく説明する概略図である。図2で示すように、イオン注入装置100における半導体ウエハ9の周辺は、半導体ウエハ保持装置10、ウエハ回転装置11、ウエハ昇降装置12などから構成されており、これらをメカニカルスキャン装置13(図3参照)と呼ぶことがある。図2では、イオンビームLは紙面に対して垂直な方向に走査される。言い換えると、Xスキャン方向は、図2では紙面に対して垂直な方向である。そして、図2において、イオンビームは半導体ウエハ保持装置10上に保持されている半導体ウエハ9に照射される。半導体ウエハ保持装置10は、ウエハ昇降装置12により図内矢印方向に往復駆動される。その結果、半導体ウエハ保持装置10上に保持されている半導体ウエハ9は、図内矢印方向に往復駆動される。イオン注入装置100は、このような動作により、半導体ウエハ9にイオンを注入する。
ここで、図3を参照して、半導体ウエハ9へのイオン注入時における、イオン注入装置100の動作をさらに詳しく説明する。図3は、イオン注入装置100の動作を説明するための図である。図3において、イオンビームは横方向にスキャンされ、半導体ウエハ9は半導体ウエハ保持装置10に保持され、縦方向にスキャンされる。図3では、半導体ウエハ9の最上位置と最下位置を示し、さらにメカニカルスキャン装置13の動作範囲を図示することで、イオン注入装置100の動作を説明している。ここで、図3では、イオンビームがビームスキャナー5によって走査される様子を例示している。このように、ビームスキャナー5によって、Xスキャン方向に走査されたイオンビームのことを「スキャンドイオンビーム」と呼ぶことがある。ここで、図3では横長のイオンビームが走査され、スキャンドイオンビームの状態で半導体ウエハ9に照射される態様を示しているが、これは例示であって、ビームスキャナー5によってスキャンされるイオンビームは、図3に示すような横長とは限らず、縦長であってもよく、円形に近い形状であってもよい。
ここで図4を参照して、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置にて、行われるイオン注入方法の例について説明する。図4は、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置におけるイオン注入方法を説明するための図である。図4では、イオンビームの走査方向を図上横方向で示し、また、イオン注入領域空間内でイオンビームが走査される範囲を「ビームスキャン長」として示している。
ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置は、図3に示したように、ビームスキャン方向に直交する方向に半導体ウエハ9をメカニカルにスキャンして、イオンを半導体ウエハ9に打ち込む。図4において、半導体ウエハ9へのイオン注入を考える際には、イオンビームと半導体ウエハ9との相対運動が問題となるので、理解の便宜上、あたかも半導体ウエハ9が静止しているとし、イオンビームの仮想的な注入領域(以下、「仮想イオン注入領域14」と呼ぶ)を考えればよい。後で詳しく説明するが、イオン注入装置は、イオン注入領域空間内で物体にイオンを注入する装置であり、その物体は半導体ウエハ9に限らず半導体ウエハ保持装置10であってもよく、あるいはそれ自身では半導体ウエハの保持機構がなく他の機器を介して半導体ウエハ9を保持する機器でもよい。これらの場合においても、理解の便宜上、あたかも半導体ウエハ保持装置10に代表されるこれら物体が静止しているとし、仮想イオン注入領域14を考えればよい。まとめると、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置において、注入されるイオンと物体に対する相対的な関係が、仮想イオン注入領域14として、仮想的な平面状のイオン注入領域と見なすことができる場合に関する。したがって、以下の説明では、すべて半導体ウエハ9や半導体ウエハ保持装置10に代表される物体が仮想的に静止しているとして、説明を進める。この場合、図4において、仮想イオン注入領域14の縦方向の長さは、ウエハがメカニカルに走査される長さに相当するので、以降「ウエハスキャン長」として示すことにする。
ここで注意しておくべき点は、仮想イオン注入領域14の全体に対して、スキャンドイオンビームを構成するイオンビームの重心が到達すること、及び、仮想イオン注入領域14の境界線は、スキャンドイオンビームを構成するイオンビームの重心が到達する、上下左右方向の限界線であると見なすことができることである。また、図4では、ウエハのメカニカルに走査される方向の位置にかかわらず、ビームスキャン長は一定である。イオンビームを一方向に走査するその走査の周波数を変更することなく、また、イオンの注入中にイオンビームの電流値測定を行うことなく、前イオン注入ドーズ量を半導体ウエハ9の全面で均一であるようにしようとすると、本実施の形態に係るイオン注入方法やイオン注入装置を用いない場合には、図4に示すように、ビームスキャン長を一定にする必要がある。
図4において、半導体ウエハ9の全面にイオン注入を行う場合を考えると、少なくとも仮想イオン注入領域14が半導体ウエハ9を完全に包含する必要がある。したがって図4のように、仮想イオン注入領域14が長方形形状である場合には、半導体ウエハ9の全面にイオンを注入するためには、ビームスキャン長及びウエハスキャン長が、半導体ウエハ9の直径より大きい必要がある。さらに、上記スキャン長に対する条件だけでは、確かに半導体ウエハ9の全面にイオンを注入することはできるが、この条件のみでのハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置で注入される、半導体ウエハ9へのイオン注入ドーズ量が半導体ウエハ9の全面で均一であることが保証される訳ではない。すなわち、仮想イオン注入領域14において、半導体ウエハ9に単位時間、単位面積あたりに注入されるイオン注入量が一定になるように、ビームスキャン方向のイオン注入量均一性及びウエハスキャン方向のイオン注入量均一性を確保しなければならない。
本実施の形態に係るイオン注入装置100では、ビーム測定装置8を用いて注入前にイオンビームを必要に応じて計測し、さらにまた必要に応じてビームスキャナー5に与える周期的に変動する電場又は磁場を微調整することにより、Xスキャン方向のイオン注入量均一性を確保する。Yスキャン方向のイオン注入量均一性に関しては、ビーム変動が発生していない場合には、メカニカルスキャン装置13を用いて半導体ウエハ9を等速度でスキャンすることによって、その均一性を確保している。これら2次元のイオン注入量均一性を確保することで、半導体ウエハ9に単位時間、単位面積あたりに注入されるイオン注入量が一定になるようにしている。
ここで図5を参照して、Xスキャン方向のイオン注入量均一性を確保するために行われる、ビームスキャナー5に与える周期的に変動する電場又は磁場の微調整について説明する。図5は、ビームスキャナー5に与える周期的に変動する電場の例を示した図である。図5では、図1に例示した電場タイプのビームスキャナー5について詳しく説明するが、これは例であって、図5を用いた説明は、磁場タイプのビームスキャナー5にも、電場を磁場と読み替えることによってほぼそのまま適用される。また、本実施の形態では、簡略化のために、ビームスキャナー5に電圧を加えない場合にはイオンビームがスキャンされず、ビームスキャナー5に正負の電圧を加えることによって、ビームがXスキャン方向に往復スキャンされる場合について、図5を参照して説明する。
図1で説明したように、電場タイプのビームスキャナー5は、イオン注入領域空間内でイオンビームを一方向に走査する目的のために、例えば図1で示したようなビームラインにおいて、そのイオンビームの輸送中に、周期的に変動する電場をイオンに作用させる機器である。ここで周期的に変動する電場として、図5の点線のように時間の関数として周期的に繰り返される三角形形状(以下、三角形状電場16と呼ぶことがある)を与えるだけでは、現在半導体デバイスの量産に用いられるハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置において、Xスキャン方向のイオン注入量均一性を確保することはできない。したがって、現在半導体デバイス量産に用いられるハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置においては、Xスキャン方向のイオン注入量均一性を確保するために、半導体ウエハ9へのイオン注入前に、イオンビームのビーム電流計測値の空間位置依存性を用いて、図5の実線のように、周期的に変動する電場を、電場タイプのビームスキャナー5に与えることが通常である。ここで、周期的に変動する電場は、時間の関数として三角形状電場16、すなわち周期的に繰り返される三角形形状を基準とし、その三角形形状に加えて、周期的に変動する電場に摂動を加えた電場である。以下、図5の実線で表された電場を、摂動含有電場17と呼ぶことがある。このことによって、半導体ウエハ9に単位時間、単位面積あたりに注入されるイオン注入量が一定になるようにしている。
なお、「空間位置依存性」とは、例えば、イオンビームのビーム電流計測値の場所(走査方向の位置)による差と捉えることができる。空間位置依存性は、例えば、可動タイプのファラディーカップ型ビーム測定装置を用いて、その場所場所に応じたビーム電流値を連続的に(ビーム測定装置を止めずに)測定することで算出される。具体的な算出方法は種々あり得るが、特に限定される訳ではない。例えば、最初はイオンビームの走査を、当初設定されている初期パラメータに基づいて実行し、ビーム測定装置によって測定されたビーム電流計測値に基づいて、初期パラメータを補正し、再度イオンビームの走査を行う。そして、この処理を、ビーム電流計測値と理想値との差が、許容される値以下となるまで繰り返し、摂動含有電場17を算出してもよい。
したがって、例えば図5では、電場タイプのビームスキャナー5に与えられる電場としては、図5の実線のような摂動含有電場17が選ばれる。ここで図5では、摂動含有電場17の最小値は−V_scan(V)であり、その最大値はV_scan(V)である。半導体ウエハ9へのイオン注入では、通常、Xスキャン方向については、左右対称な仮想イオン注入領域14が選ばれるので、電場タイプのビームスキャナー5に与えられる電場の最大値と最小値は、その絶対値を同じくする場合が通常である。もちろん、電場タイプのビームスキャナー5に与えられる電場の最大値と最小値の絶対値が異なる場合でも、図5で説明した議論は成り立つ。
ここで、周期的に変動する電場に摂動を加える時間的な周期についてつけ加える。電場繰り返し周期をT_scan(sec)とすると、一般にその電場に摂動を加える周期はT_scan/N(sec)で与えられる。ここでNは整数値である。現在半導体デバイスの量産に用いられるハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置において、Xスキャン方向のイオン注入量均一性を確保するために、周期的に変動する電場として、摂動含有電場を、電場タイプのビームスキャナー5に与える場合においては、その効果と制御可能性を比較考量すると、Nの値は16から16384の間の整数値、好ましくは64から512の間の整数値、を取るようにするのがよい。例えば、時間の関数として周期的に繰り返される、三角形形状を基準として電場タイプのビームスキャナー5に与えられる電場の周期、すなわちイオンビームのスキャン周期が4msecである場合を例に取ると、その電場に摂動を加える周期は0.25msecから0.24μsecの間、好ましくは0.063msecから7.8μsecの間を取るようにするのがよい。
ここで、電場タイプのビームスキャナー5に与えられる電場と、Xスキャン方向のイオンビームの位置について説明する。図1から明らかなように、電場タイプのビームスキャナー5に与えられる電場とXスキャン方向のイオンビームの位置との間には、相関関係がある。具体的に例示すると、図5に例示したような、ビームスキャナー5に電圧を加えない場合にイオンビームがスキャンされず、ビームスキャナー5に正負の電圧を加えることによって、ビームがXスキャン方向に往復スキャンされる場合において、例えば図1(a)において、ビームスキャナー5に正の電圧を加えるとイオンビームが下方に動く場合については、ビームスキャナー5に正の電圧を加えれば加えるほど、Xスキャン方向のイオンビームの位置は下方に移動し、逆にビームスキャナー5に負の電圧を加えれば加えるほど、Xスキャン方向のイオンビームの位置は上方に移動する。その相関関係が、比例関係になるか、2次関数型の相関関係を取るか、あるいはさらに複雑な関数に基づく相関関係を取るかは、ビームスキャナー5の形状によって異なるが、いずれにせよ、数学的に単調関数型の相関関係があることは変わらない。したがって、ビームスキャナー5に与える電圧とXスキャン方向のイオンビームの位置との間に、ビームスキャナー5の形状によって定められる対応関係が生じる。したがって、その対応関係を用いることで、電場タイプのビームスキャナー5に与える電圧強度を制御し、Xスキャン方向のイオンビームの位置を制御することで、例えば図4に示したような、仮想イオン注入領域14のビームスキャン長を制御することができる。
なお、図1(a)において、ビームスキャナー5に正の電圧を加えるとイオンビームが上方に動く場合について、あるいは、ビームスキャナー5に電圧を加えない場合にイオンビームがスキャンされるように、イオン源1からビームスキャナー5までのビームライン上に、イオンビームへ電磁気学的な力を加える機器を配設した場合においても、ビームスキャナー5に与える電圧とXスキャン方向のイオンビームの位置との間に、ビームスキャナー5の形状によって定められる対応関係が生じることは、言うまでもない。
ここで図6を参照して、例えば、直径300mmの半導体ウエハ用に開発されたハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置を用いて、直径100mmの半導体ウエハへイオン注入を行う場合のような、そのハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置に本来対応した半導体ウエハ9よりも小さな半導体ウエハ(以下、「小型半導体ウエハ15」と呼ぶ。)に、イオンを注入する場合の問題点について説明する。
まず、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置において、その当初の対象物たる半導体ウエハ9よりも小さな小型半導体ウエハ15を、ウエハ処理室内でビームライン上に設置する手法について説明する。図6は、半導体ウエハ保持装置10を小型半導体ウエハ15用に改造した場合を示した図である。しかし、小型半導体ウエハ15をウエハ処理室内でビームライン上に設置する手法はこの限りではなく、例えば、半導体ウエハ保持装置10と小型半導体ウエハ15の間にその変換用アダプタを配設してもよいし、半導体ウエハ保持装置10に小型半導体ウエハ15を粘着性テープを用いて貼り付けてもよいし、半導体ウエハ9に小型半導体ウエハ15を粘着性テープを用いて貼り付けておき、その半導体ウエハ9を半導体ウエハ保持装置10に保持させてもよい。
ここで、図6において、小型半導体ウエハ15の全面にイオン注入を行う場合を考えると、仮想イオン注入領域14が小型半導体ウエハ15を完全に包含する必要がある。ところが、図6から明らかなように、図6に図示した長方形形状の仮想イオン注入領域14では、小型半導体ウエハ15の面積に比べて明らかに大きすぎる。この理由は、ここで考えているハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置が、小型半導体ウエハ15よりも大きな半導体ウエハ9に対応しているからである。したがって、半導体ウエハ保持装置10も小型半導体ウエハ15に比べて大きいところ、長方形形状の仮想イオン注入領域14を考える限り、半導体ウエハ9に対応した大きさにせざるを得ず、結果的に長方形形状の仮想イオン注入領域14が、小型半導体ウエハ15の面積に比べて大きくなってしまうためである。小型半導体ウエハ15の外側の仮想イオン注入領域14は、小型半導体ウエハ15の外側にイオンビームが走査されているか、または小型半導体ウエハ15が半導体ウエハ保持装置10とともにメカニカルに走査された結果、イオンがメカニカルに走査された方向に対して小型半導体ウエハ15の外側に走査されていることと同様であることになり、この場合、小型半導体ウエハ15の外側に走査されるイオンビームは小型半導体ウエハ15には注入されない。したがって、小型半導体ウエハ15へのイオン注入との観点からは、小型半導体ウエハ15の外側に走査されるイオンビームは無駄なイオンとなる。
ここで、図6では、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置を用いて、そのハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置に対応した半導体ウエハ9よりも小型半導体ウエハ15に、イオンを注入する場合を考えているが、ここでは半導体ウエハ9へのイオン注入と同様のイオン注入方式を用いるのみで、特に工夫がなされていない。すなわち、上記ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置に対応した半導体ウエハ9に合わせたイオンビームの走査の方法や半導体ウエハ保持装置10のメカニカルな走査の方法が用いられており、特に工夫がなされていない。
この場合、確かにハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置の半導体ウエハ9への注入技術をそのまま適用し、小型半導体ウエハ15の全面に、単位時間、単位面積あたりに注入されるイオン注入量が一定になるように注入することは可能である。すなわち、「大は小を兼ねる」との考え方にのっとり、原理的にはこの手法で、例えば図5に図示したように、半導体ウエハ9に対処するための長方形形状の仮想イオン注入領域14を用いて、小型半導体ウエハ15にイオンを注入すれば、小型半導体ウエハ15の全面に、単位時間、単位面積あたりに注入されるイオン注入量が一定になるようにイオンを注入することはできる。
しかし、そのイオン注入効率は非常に悪く、量産用半導体製造工程では実用に耐えない。そのイオン注入効率の悪さは、図6からも明らかであるが、さらに詳しく以下に例示する。ここで例えば、半導体ウエハ9として直径300mmの半導体ウエハを考え、直径300mmの半導体ウエハ用に開発されたハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置において、小型半導体ウエハ15として直径100mmの半導体ウエハを考え、上記ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置を用いて、直径100mmの半導体ウエハにイオンを注入することを考える。ここで直径100mmの半導体ウエハの面積は、直径300mmの半導体ウエハの面積の9分の1である。ここで、直径300mmの半導体ウエハ用に開発されたハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置の長方形形状の仮想イオン注入領域14の面積は、少なくとも直径300mmの半導体ウエハの面積よりは大きくしなければならないから、直径100mmの半導体ウエハの面積に比べると、結果的に少なくとも9倍以上、典型的には10倍以上の長方形状の仮想イオン注入領域となる。さらに、通常の仮想イオン注入領域14の形状は長方形であり、半導体ウエハの形状は円形であるから、直径100mmの半導体ウエハの面積に比べた仮想イオン注入領域14の面積はその分さらに大きくなる。加えて、仮想イオン注入領域14の境界線は、スキャンドイオンビームを構成するイオンビームの重心が到達する、上下左右方向の限界線であると見なすことができる。実際のイオンビームは図4に示したように有限の幅を持つから、直径100mmの半導体ウエハの面積に比べた仮想イオン注入領域14の面積は、さらにその分大きくなる。このように、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置に対応した半導体ウエハ9よりも小さな小型半導体ウエハ15に、特に工夫をせずにイオンを注入する場合には、小型半導体ウエハ15の面積に比べて仮想イオン注入領域14の面積が大きすぎ、そのイオン注入効率が非常に悪く、量産用半導体製造工程では実用に耐えない。
したがって、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置に対応した半導体ウエハ9よりも小さな小型半導体ウエハ15に、量産用半導体製造工程で実用に耐えるようなイオン注入効率で、イオンを注入するためには、小型半導体ウエハ15の形状に即するように、仮想イオン注入領域14の形状や面積を変更する必要がある。
ここで図7を参照して、本実施の形態に係る仮想イオン注入領域14について説明する。図7は、本実施の形態に係る仮想イオン注入領域14の形状を説明するための図である。本実施の形態では、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置に対応した半導体ウエハ9よりも小さな小型半導体ウエハ15に、量産用半導体製造工程で実用に耐えるようなイオン注入効率でイオンを注入するために、小型半導体ウエハ15の形状に即するように、仮想イオン注入領域14の形状や面積を変更する。図7のように小型半導体ウエハ15が1枚である場合には、例えば図7に示した仮想イオン注入領域14が適切と考えられる。すなわち、仮想イオン注入領域14の形状としては、小型半導体ウエハ15の形状に近似した形状、すなわち正二十角形よりも頂点数が多い多角形形状に近似できる形状、または円形形状が適切であると考えられる。また、仮想イオン注入領域14の面積としては、小型半導体ウエハ15の面積よりは大きいが、大きくともその数倍に留まる面積が適切であると考えられる。ここで重要なことは、図7から明らかなように、小型半導体ウエハ15の形状に即するように、長方形形状ではない仮想イオン注入領域14の形状を選択する場合には、ビームスキャン長が一意に決まらず、少なくとも複数個のビームスキャン長が必要なことである。図6では最大ビームスキャン長を明示したが、図7の例では、ビームスキャン長が最大ビームスキャン長であるのは小型半導体ウエハ15の中央付近のみであり、それ以外の場所ではビームスキャン長は最大ビームスキャン長以下の長さになっている。
また、図7の例では、仮想イオン注入領域14は小型半導体ウエハ15を完全に包含しているが、一方半導体ウエハ保持装置10との関係では、仮想イオン注入領域14は半導体ウエハ保持装置10に完全に包含されている。あるいは、半導体ウエハ保持装置10が形作る平面領域が、仮想イオン注入領域14すなわち仮想的な平面状のイオン注入領域を包含していると表現してもよい(以下、「仮想的な平面状のイオン注入領域」を適宜「仮想イオン注入領域14」と呼ぶことがある。)。この場合、小型半導体ウエハ15へのイオン注入中にイオンは半導体ウエハ保持装置10の外側に出ることはない。この場合、イオン注入中にはイオンビームの電流値の測定が不可能であるので、このような仮想イオン注入領域14を作成する際に、イオンビームの電流値の測定が不要なイオン注入方法を用いない限り、図7のように小型半導体ウエハ15の形状に即するように、仮想イオン注入領域14の形状や面積を変更することはできないことになる。したがって、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置に対応した半導体ウエハ9よりも小さな小型半導体ウエハ15に、量産用半導体製造工程で実用に耐えるようなイオン注入効率でイオンを注入するために、小型半導体ウエハ15の形状に即するように、仮想イオン注入領域14の形状や面積を変更するためには、イオンの注入中に、イオンビームの電流値の測定が必須ではないイオン注入方法を用いなければならない。
既に説明したように、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置において、その当初の対象物たる半導体ウエハ9よりも小さな小型半導体ウエハ15を、ウエハ処理室内でビームライン上に設置する手法は、図6や図7で示したように、半導体ウエハ保持装置10を小型半導体ウエハ15用に改造した場合には限らないのであって、例えば、半導体ウエハ保持装置10と小型半導体ウエハ15の間にその変換用アダプタを配設してもよいし、半導体ウエハ保持装置10に小型半導体ウエハ15を粘着性テープを用いて貼り付けてもよいし、半導体ウエハ9に小型半導体ウエハ15を粘着性テープを用いて貼り付けておき、その半導体ウエハ9を半導体ウエハ保持装置10に保持させてもよい。したがって、図7で例示した半導体ウエハ保持装置10は、半導体ウエハ9であることも有り得る。この場合、図7に類似した状況では、仮想イオン注入領域14は半導体ウエハ9に完全に包含されている。あるいは、半導体ウエハ9にイオンを注入する場合に、半導体ウエハ9が形作る平面領域が、仮想イオン注入領域14を包含していると表現してもよい。この場合、小型半導体ウエハ15へのイオン注入中に、イオンは半導体ウエハ9の外側に出ることはなく、注入開始から注入終了まで、イオンビームが半導体ウエハ9に注入され続けると言ってもよい。
ここで重要なことは、仮想イオン注入領域14の形状や面積を変更しても、小型半導体ウエハ15の全面に、単位時間、単位面積あたりに注入されるイオン注入量が一定になるように注入すること、すなわち、イオン注入ドーズ量が小型半導体ウエハ15の全面で均一であることが必要であることである。
既に図5を用いて説明したように、仮想イオン注入領域14が長方形形状の場合、現在半導体デバイス量産に用いられるハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置においては、Xスキャン方向のイオン注入量均一性を確保するために、周期的に変動する電場に摂動を加えた電場を、電場タイプのビームスキャナー5に与えることが通常である。このことによって、半導体ウエハ9に単位時間、単位面積あたりに注入されるイオン注入量が一定になるようにしている。この状況は、小型半導体ウエハ15への注入の際も変わらない。そのため、仮想イオン注入領域14が長方形形状の場合は、図5と同様の手法で、小型半導体ウエハ15に単位時間、単位面積あたりに注入されるイオン注入量が一定になるようにすることができる。しかし、仮想イオン注入領域14の形状が長方形形状以外の場合には、小型半導体ウエハ15に単位時間、単位面積あたりに注入されるイオン注入量が一定になるようにするためには、工夫が必要である。
さらにもう一つの重要なこととして、仮想イオン注入領域14の形状や面積を変更しても、イオンビームを一方向に走査するその走査の周波数を変更することが困難なこと、すなわち、電場繰り返し周期を変更することが困難なことである。
ここで、図8を参照して、複数個のビームスキャン長に対応したビームスキャン長の変更手法の例を説明する。図8は、電場タイプのビームスキャナー5に与えられる、周期的に変動する電場一周期分を取り出した図である。既に説明したように、現在半導体デバイス量産に用いられるハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置においては、摂動含有電場を、電場タイプのビームスキャナー5に与えており、図8の実線はその摂動含有電場17が加えられた電場を表している。
ここで、複数個のビームスキャン長を設定するために、図8でビームスキャナー5に与えられた電圧が、最大値V_scan0(V)、最小値−V_scan0(V)である場合における、仮想イオン注入領域14の最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長を設定する手法を考える。既に図5を用いて説明したように、ビームスキャナー5に与える電圧とXスキャン方向のイオンビームの位置との間に生じる、ビームスキャナー5の形状によって定められる対応関係を用いて、ビームスキャナー5に与える電圧強度を制御し、Xスキャン方向のイオンビームの位置を制御することで、仮想イオン注入領域14のビームスキャン長を制御することができる。
例えば、図8において、仮想イオン注入領域14の最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長が実現できるように、ビームスキャナー5に与える電圧として、最大値V2(V)、最小値V1(V)を与えたときに、ビームスキャナー5に与える電圧とXスキャン方向のイオンビームの位置との間に生じる、ビームスキャナー5の形状によって定められる対応関係から、最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長の両端のイオンビーム位置を制御することができるとする。この場合、図8において、時刻T1でビームスキャナー5に与える電圧が最大値V2(V)となり、時刻T2でビームスキャナー5に与える電圧が最小値V1(V)となり、時刻T3でビームスキャナー5に与える電圧が最小値V1(V)となり、時刻T4でビームスキャナー5に与える電圧が最大値V2(V)となることになる。
ここで、図9を参照して、仮想イオン注入領域14の最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長を実現するための例を説明する。図9は、ビームスキャナーに与える電場と時間との関係の例を示した図である。既に説明したように、最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長の両端のイオンビーム位置は、例えば図8の場合だと、ビームスキャナー5に与える電圧として、最大値V2(V)、最小値V1(V)で表せる。したがって、該最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長を実現化するためには、ビームスキャナー5に与える電圧として、V2(V)以上の電圧は許されず、またV1(V)以下の電圧も許されない。そこで、仮想イオン注入領域14の最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長を実現するために、例えば図9のように時間的に変化する電圧をビームスキャナー5に与えることが考えられる。図9の実線で表される電場は、三角形状電場16との形状の差が大きすぎ、時間の関数として三角形状電場16、すなわち周期的に繰り返される三角形形状を基準とし、その三角形形状に加えて、周期的に変動する電場に摂動を加えた電場を、電場タイプのビームスキャナー5に与えているとは言えないので、摂動含有電場17とは言えないが、非常に大きな補正を三角形状電場16に加えていると考えることができるので、擬似摂動含有電場18として扱ってよい。
図9の擬似摂動含有電場18を簡単に説明すると、ビームスキャナー5に与える電圧として、時刻T1まで最大値V2(V)の一定値であり、時刻T1から時刻T2まで図8で仮想イオン注入領域14の最大ビームスキャン長に対して得られた摂動含有電場17をそのまま用い、時刻T2から時刻T3まで最小値V1(V)の一定値であり、時刻T3から時刻T4まで図8で仮想イオン注入領域14の最大ビームスキャン長に対して得られた摂動含有電場17をそのまま用い、時刻T4からは、最大値V2(V)の一定値である、擬似摂動含有電場18である。
この場合、確かにビームスキャナー5に与える電圧は最大値V2(V)、最小値V1(V)の間にあり、また、電場繰り返し周期はT_scan(sec)のままであるから、イオンビーム走査周波数は変更されていない。しかし、図9の擬似摂動含有電場18では、例えば、時刻T2から時刻T3までビームスキャナー5に与える電圧は最小値V1(V)の一定値を取り、したがって、イオンビームはXスキャン方向にスキャンされずその場で留まっているだけであり、イオン注入効率が向上している訳ではない。
すなわち、図9に示した擬似摂動含有電場18では、確かにイオンビーム走査周波数を変更することなく、仮想イオン注入領域14の最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長を実現することはできている。しかしながら、イオン注入効率の向上は達成できないので、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置に対応した半導体ウエハ9よりも小さな小型半導体ウエハ15に、量産用半導体製造工程で実用に耐えるようなイオン注入効率でイオンを注入するために、イオンビーム走査周波数を変更することなく、小型半導体ウエハ15の形状に即するように、仮想イオン注入領域14の最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長を実現するという目的に合致しない。
ここで、図10を参照して、仮想イオン注入領域14の最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長を実現するための手法の別の例を説明する。図10は、ビームスキャナーに与える電場と時間との関係の別の例を示した図である。図10においても、図9を用いて既に説明したように、最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長の両端のイオンビーム位置は、例えば図10の場合だと、ビームスキャナー5に与える電圧として、最大値V2(V)、最小値V1(V)で表せるので、該最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長を実現化するためには、ビームスキャナー5に与える電圧として、V2(V)以上の電圧は許されず、またV1(V)以下の電圧も許されない。そこで、仮想イオン注入領域14の最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長を実現するために、例えば図10のように時間的に変化する電圧をビームスキャナー5に与えることが考えられる。
図10の摂動含有電場17を簡単に説明すると、ビームスキャナー5に与える電圧として、時刻T5まで、図8で時刻T1から時刻T2まで設定された、仮想イオン注入領域14の最大ビームスキャン長に対して得られた摂動含有電場17をそのまま用い、時刻T5から時刻T6まで、図8で時刻T3から時刻T4まで設定された、仮想イオン注入領域14の最大ビームスキャン長に対して得られた摂動含有電場17をそのまま用いる、摂動含有電場17である。
この場合、確かにビームスキャナー5に与える電圧は最大値V2(V)、最小値V1(V)の間にあり、また、イオンビームはXスキャン方向に常にスキャンされ続ける訳なので、イオン注入効率の向上は達成できうる。しかし、図10の摂動含有電場17では、電場繰り返し周期がT_scan(sec)より短くなってしまう。
すなわち、図10に示した摂動含有電場17では、確かにイオン注入効率の向上が達成されうる状況で、仮想イオン注入領域14の最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長を実現することはできている。しかしながら、イオンビーム走査周波数が変更されてしまうので、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置に対応した半導体ウエハ9よりも小さな小型半導体ウエハ15に、量産用半導体製造工程で実用に耐えるようなイオン注入効率でイオンを注入するために、イオンビーム走査周波数を変更することなく、小型半導体ウエハ15の形状に即するように、仮想イオン注入領域14の最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長を実現するという目的に合致しない。
以上の説明で明らかなように、図9に示した擬似摂動含有電場18や、図10に示した摂動含有電場17では、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置に対応した半導体ウエハ9よりも小さな小型半導体ウエハ15に、量産用半導体製造工程で実用に耐えるようなイオン注入効率でイオンを注入するために、イオンビーム走査周波数を変更することなく、小型半導体ウエハ15の形状に即するように、仮想イオン注入領域14の最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長を実現することはできない。
ここで、図11を参照して、本実施の形態に係るイオン注入方法において、仮想イオン注入領域14の最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長を実現するために、ビームスキャナー5に与える電圧を求める手法を説明する。図11は、本実施の形態に係る変換摂動含有電場の例を示した図である。図11においても、図9や図10を用いて既に説明したように、最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長の両端のイオンビーム位置は、例えば図11の場合だと、ビームスキャナー5に与える電圧として、最大値V2(V)、最小値V1(V)で表せるので、該最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長を実現化するためには、ビームスキャナー5に与える電圧として、V2(V)以上の電圧は許されず、またV1(V)以下の電圧も許されない。本実施の形態では、図11では点線で示した仮想イオン注入領域14の最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長を実現化する際にビームスキャナー5に与える変換摂動含有電場19は、図11では実線で示した仮想イオン注入領域14の最大ビームスキャン長に対して得られた摂動含有電場17の一部をそのまま用いるのではなく、摂動含有電場17を変換して新たに作成する。
ここで、図11において、最大ビームスキャン長に対して得られた摂動含有電場17を、最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長に対する変換摂動含有電場19に変換する方法を詳しく説明する。既に図9や図10を用いて説明したように、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置に対応した半導体ウエハ9よりも小さな小型半導体ウエハ15に、量産用半導体製造工程で実用に耐えるようなイオン注入効率でイオンを注入するために、仮想イオン注入領域14の最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長を実現しながら、電場繰り返し周期を変更しないこと、すなわちイオンビーム走査周波数を変更しないことが求められる。この要請を満たすために、本実施の形態では、時刻T1から時刻T2まで設定された、仮想イオン注入領域14の最大ビームスキャン長に対して得られた摂動含有電場17を、時刻0から時刻T_scan/2まで時間的に引き伸ばし、この手法で得られる電場を、時刻0から時刻T_scan/2まで最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長に対する変換摂動含有電場19aとする。また、時刻T3から時刻T4まで設定された、仮想イオン注入領域14の最大ビームスキャン長に対して得られた摂動含有電場17を時刻T_scan/2から時刻T_scanまで時間的に引き伸ばして得られる電場を、時刻T_scan/2から時刻T_scanまで最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長に対する変換摂動含有電場19bとする。その結果として、仮想イオン注入領域14の最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長を実現するために、ビームスキャナー5に与える、変換摂動含有電場19を得ることができる。
数学的に表現すると、最大ビームスキャン長に対して得られた摂動含有電場17(V_norm)が時間tの関数として、V_norm=f(t)の関係式で表される場合、最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長に対する変換摂動含有電場19(V_trans)は、時刻T_scan/2までは、V_trans=f(at+T1)の関係式で、その後時刻T_scanまでは、V_trans=f(b×(t−T_scan/2)+T3)の関係式で表される。ここで、a=(2×(T2−T1))/T_scanであり、b=(2×(T4−T3))/T_scanである。
今まで図11を用いて説明したことからも明らかなように、最大ビームスキャン長に対して得られた摂動含有電場17を、最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長に対する変換摂動含有電場19に変換する方法は、摂動含有電場17と、ビームスキャナー5に与える電圧とXスキャン方向のイオンビームの位置との間にビームスキャナー5の形状によって定められる対応関係が得られれば、それのみで最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長に対する変換摂動含有電場19を得ることができる。言い換えると、最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長に対しては、小型半導体ウエハ15へのイオン注入前に、イオンビームのビーム電流計測値の空間位置依存性を用いて、摂動含有電場17を直接求める必要はない。あるいは、図7に示したような、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置に対応した半導体ウエハ9よりも小さな小型半導体ウエハ15に、量産用半導体製造工程で実用に耐えるようなイオン注入効率でイオンを注入するために、小型半導体ウエハ15の形状に即する仮想イオン注入領域14の形状を実現化するために用いられる、複数個のイオン走査振幅の中で、最も長いイオン走査振幅以外のイオン走査振幅に対する、周期的に変動する電場が、最も長いイオン走査振幅に対する摂動含有電場17から、計算により、自動的に求められると表現してもよい。
図11を用いて説明した本実施の形態による、仮想イオン注入領域14の最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長を実現するために、ビームスキャナー5に与える電圧を求める手法は、仮想イオン注入領域14のビームスキャン長として、その最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長であれば一般的に成り立つ手法であり、複数個の、仮想イオン注入領域14の最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長を得ることができることは明らかである。また、図11を用いた説明から明らかなように、本実施の形態による仮想イオン注入領域14の最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長を実現するために、ビームスキャナー5に与える電圧を求める手法は、V1(V)とV2(V)の大小関係のみをその前提としており、ビームスキャナー5に与える電圧の正負は前提としていない。このことは、最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長の両端に対応するXスキャン方向の二つのビームスキャン終端位置は、ビームスキャナー5に電圧を加えない場合に比べ、図1において片方が下方に位置し片方が上方に位置するように構成することもできれば、双方とも下方に位置するように構成することもできれば、あるいはまた双方とも上方に位置するように構成することもできることを意味する。
また、図11を用いて説明した本実施の形態による手法は、イオン注入領域空間内でイオンビームを一方向に走査する目的で与えられる、周期的に変動する磁場を用いたビームスキャナー5でも同様であることは明らかである。
このように、図11で説明した、最大ビームスキャン長に対して得られた摂動含有電場17を、最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長に対する変換摂動含有電場19に変換する本実施の形態に係る方法を用いることで、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置に対応した半導体ウエハ9よりも小さな小型半導体ウエハ15に、量産用半導体製造工程で実用に耐えるようなイオン注入効率でイオンを注入する場合において、小型半導体ウエハ15の形状に即するように、仮想イオン注入領域14の最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長を実現するという目的のために、イオン注入効率の向上が達成されうる状況で、イオンビーム走査周波数を変更することなく、Xスキャン方向のイオン注入量均一性を確保しながら、仮想イオン注入領域14の最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長を実現することが可能となる。
さらに本実施の形態では、メカニカルスキャン装置13を用いて行われる、小型半導体ウエハ15のメカニカルなスキャン速度に制御を加えることで、Yスキャン方向のイオン注入量均一性に関しても、その均一性を確保し、変換摂動含有電場19によるXスキャン方向のイオン注入量均一性の確保と相まって、小型半導体ウエハ15に単位時間、単位面積あたりに注入されるイオン注入量が一定になるようにしている。以下、詳しく説明する。
ここで、図12を参照して、同一のイオンビーム走査周波数において、異なるビームスキャン長を用いる場合のイオン注入量について説明する。図12は、イオンビームの走査速度及び電場繰り返し周期と、ビームスキャン長との関係を示した図である。なお、既に図11で説明したように、実際の小型半導体ウエハ15へのイオン注入では、Xスキャン方向のイオン注入量の均一性を確保するために、摂動含有電場17及び変換摂動含有電場19を用いているが、図12ではその摂動が十分小さいとして説明する。図12の説明において、摂動の大きさが無視できない場合についても、その論旨が同一であることは言うまでもない。
図12において、横軸は電場繰り返し周期を表し、縦軸はイオンビーム走査速度を表す。既に説明したように、電場繰り返し周期はイオンビーム走査周波数の逆数であり、一定値T_scanとなる。また、一般的にはビームスキャン長はイオン走査速度の時間積分で表される。図12では、最大ビームスキャン長S0に対するイオン走査速度をv_0で表し、最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長S1に対するイオン走査速度をv_1で表している。図12から明らかなように、同一のイオンビーム走査周波数において、異なるビームスキャン長を用いる場合には、イオン走査速度も変化してしまう。したがって、仮想イオン注入領域14が長方形の場合に用いられる、Yスキャン方向のイオン注入量均一性を確保するために、メカニカルスキャン装置13を用いて小型半導体ウエハ15を等速度でスキャンする手法を用いては、ビームスキャン長に応じて上記イオン走査速度が変化しているので、それに合わせて、単位時間、単位面積あたりに注入されるイオン注入量も変化してしまい、Yスキャン方向のイオン注入量均一性が確保されなくなってしまう。
そこで、本実施の形態では、イオン注入中に、ビームスキャン長に応じて、周期的に変動する電場を切り替える際に、同時に小型半導体ウエハ15をスキャンする速度を切り替えることで、単位時間、単位面積あたりに注入されるイオン注入量を同一にし、Yスキャン方向のイオン注入量均一性を確保することで、単位時間、単位面積あたりに注入されるイオンの注入量を一定に保つようにしている。以下、詳しく説明する。
ここで、図13を参照して、本実施の形態による、単位時間、単位面積あたりに注入されるイオン注入量の均一性を確保する手法について、概略的に説明する。図13は、イオンビームの走査速度、ウエハの走査速度及び電場繰り返し周期と、イオン注入量との関係を示した図である。イオン注入装置でのイオン注入量を考える場合、通常は1次元的、すなわちイオンビームの走査速度のみを考えればよいが、正確には、2次元的に扱わなければいけない。例えば、図7の例では、小型半導体ウエハ15はメカニカルスキャン装置13によって、イオンビームの走査方向すなわちXスキャン方向に対して、その直交する方向すなわちYスキャン方向にメカニカルに走査されるので、メカニカルスキャン装置13によって制御されるウエハスキャン速度を考慮に入れなければならない。仮想イオン注入領域14が長方形の場合には、小型半導体ウエハ15を等速度でスキャンする手法を用いることにより、Yスキャン方向のイオン注入量均一性が確保されるので、ウエハスキャン速度の考慮があたかもなされていないように取り扱われるだけなのである。
ここで、イオンビーム走査周波数、ビームスキャン長、ウエハ走査速度の関係を一度に考察するためには、図13のように、一辺を注入時間t、一辺をイオン走査速度v_s、一辺をウエハ走査速度V_sとする3次元空間を用いることが便利である。ここで一般に、イオン注入量は、イオン走査速度v_sとウエハ走査速度V_sの積、v_s×V_sに反比例する。
既に図12を用いて説明したように、最大ビームスキャン長S0に対するイオン走査速度はv_0であり、最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長S1に対するイオン走査速度はv_1であるから、これら2個のビームスキャン長に対する、2個のイオン走査速度は必ず異なる。本実施の形態では、この異なるイオン走査速度に対して、ウエハスキャン速度を意図的に変更することによって、イオン注入量を一定にしている。図13の場合、積v_0×V_0と積v_1×V_1が一定になるように、最大ビームスキャン長S0に対するウエハ走査速度V_0と最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長S1に対するウエハ走査速度V_1との関係を定めることにより、イオン注入量が一定になる。すなわち、本実施の形態によると、異なるイオン走査振幅に対応して、小型半導体ウエハ15をメカニカルに走査する速度、すなわちウエハ走査速度をそれぞれ変化させ、単位時間、単位面積あたりに注入されるイオンの注入量を一定に保つことができる。
最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長S1に対するウエハ走査速度V_1は、最大ビームスキャン長S0に対するウエハ走査速度V_0より速くなる。したがって、最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長S1に対するウエハ走査速度V_1の、最大ビームスキャン長S0に対するウエハ走査速度V_0に対する比は、1以上の数値になる。この数値は、ウエハ走査速度に対する補正係数と見なすことができる。
さらにまた、最大ビームスキャン長S0に対するウエハ走査速度V_0を基準とする、最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長S1に対するウエハ走査速度V_1に対する補正係数は、最大ビームスキャン長S0に対して得られた摂動含有電場17を、最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長に対する変換摂動含有電場19に変換するために、計算により、周期的に変動する電場が自動的に求められるときに、同時に計算により求めることができる。このことは、既に図11及び図13を用いた説明から明らかである。
図12や図13を用いた説明は、図1に例示した電場タイプのビームスキャナー5について行われたものだが、これは例であって、図12や図13を用いた説明は、磁場タイプのビームスキャナー5にも、電場を磁場と読み替えることによってほぼそのまま適用される。
また、図13を用いて説明した、仮想イオン注入領域14の最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長に対して、単位時間、単位面積あたりに注入されるイオンの注入量を一定に保つために行われる、ウエハ走査速度の意図的な変更に関する手法は、仮想イオン注入領域14のビームスキャン長として、その最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長であれば一般的に成り立つ手法であり、複数個の、仮想イオン注入領域14の最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長を得ることができることは明らかである。
このように、本実施の形態では、図11を用いて説明した、最大ビームスキャン長に対して得られた摂動含有電場17を、最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長に対する変換摂動含有電場19に変換する方法を複数回用いることで、最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長を複数種類設定する。そして、図13を用いて説明した、それぞれの最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長に対して、ウエハ走査速度を複数種類設定し、もって最大ビームスキャン長に対するウエハ走査速度を基準とした複数個のウエハ走査速度に対する補正係数を取得し、複数種類のビームスキャン長を切り替えながら、小型半導体ウエハ15に対するイオン注入を行う。これにより、注入中のイオンビーム走査周波数を一定に保ちながら、単位時間、単位面積あたりに小型半導体ウエハ15に注入されるイオンの注入量を一定に保ち、図7に示したように、小型半導体ウエハ15の位置に応じてイオン走査振幅を変更しながら、量産用半導体製造工程で実用に耐えるようなイオン注入効率でイオンを注入することが可能となる。すなわち、本実施の形態によって、半導体ウエハ9よりも半径が小さい小型半導体ウエハ15を半導体ウエハ9に設置し、あるいは添付し、小型半導体ウエハ15へのイオン注入開始時からイオン注入終了時まで、ビーム電流計測を行うことなく、小型半導体ウエハ15を含む半導体ウエハ9にイオンを照射し続け、小型半導体ウエハ15に単位時間、単位面積あたりに注入されるイオンの注入量を一定に保つことができることは明らかである。
また、今までの説明において、小型半導体ウエハ15のメカニカルな走査について、イオン注入中に中断する必要はないのであるから、本実施の形態では、小型半導体ウエハ15の走査を中断することなく、小型半導体ウエハ15の位置に応じてイオン走査振幅を変更しながら、量産用半導体製造工程で実用に耐えるようなイオン注入効率でイオンを注入することが可能となっている。
さらにまた、既に説明したように、最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長に対する変換摂動含有電場19への変換には、小型半導体ウエハ15への注入前に行われる最大ビームスキャン長に対して得られた摂動含有電場17と、ビームスキャナー5に与える電圧とXスキャン方向のイオンビームの位置との間にビームスキャナー5の形状によって定められる対応関係が得られることが必要である。また、最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長に対するウエハ走査速度、あるいは最大ビームスキャン長に対するウエハ走査速度を基準とした、最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長に対するウエハ速度の補正係数の導出には、最大ビームスキャン長に対して得られた摂動含有電場17と、最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長に対する変換摂動含有電場19が必要である。すなわち、小型半導体ウエハ15へのイオン注入中において、イオンビームの電流値の測定は不要である。そのため、本実施の形態では、小型半導体ウエハ15へのイオン注入中に、イオンビーム電流値を測定することなく、小型半導体ウエハ15の位置に応じてイオン走査振幅を変更しながら、量産用半導体製造工程で実用に耐えるようなイオン注入効率でイオンを注入することが可能となっている。
ここで重要なことは、仮想イオン注入領域14の形状や面積は、図7で示した形状や面積に限らないことである。以下、具体的な状況を示し、仮想イオン注入領域14として、どのような形状や面積が求められるか示す。その後、本実施の形態に係る方法が、これら求められる仮想イオン注入領域14の形状や面積に、対応することが可能であることを示すことにする。
ここで図14を参照して、まず、仮想イオン注入領域14の面積について、図7で示した面積と異なる面積が求められる場合について説明する。既に説明したように、例えば図7では、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置に対応した半導体ウエハ9よりも小さな小型半導体ウエハ15に、量産用半導体製造工程で実用に耐えるようなイオン注入効率でイオンを注入するために、小型半導体ウエハ15の形状に即するように、仮想イオン注入領域14の形状を円形に近似できる形状に制御し、かつ仮想イオン注入領域14の面積を小型半導体ウエハ15の面積に適応するように制御する場合を表している。このように、半導体ウエハの形状に即するように仮想イオン注入領域14の形状を円形に近似できる形状に制御し、もってイオン注入効率を向上することは、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置に対応した半導体ウエハ9よりも小さな小型半導体ウエハ15にイオンを注入する場合に限らないのであって、例えば図12のように、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置に対応した半導体ウエハ9自身にイオンを注入する場合においても、半導体ウエハの形状に即するように仮想イオン注入領域14の形状を円形に近似できる形状に制御し、もってイオン注入効率を向上することは可能である。
図14は、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置に対応した半導体ウエハ9自身にイオンを注入する場合において、本実施の形態による仮想イオン注入領域14の例を示した図である。既に説明したように、半導体ウエハ9にイオンを注入する際には、半導体ウエハ9の全面に、単位時間、単位面積あたりに注入されるイオン注入量が一定になるように注入することが重要である。ここで、半導体ウエハ9に対する仮想イオン注入領域14の形状は、小型半導体ウエハ15に対する仮想イオン注入領域14の形状と相似形をしており、単に面積が変わるだけである。そこで、図12に例示した半導体ウエハ9の形状に即するように仮想イオン注入領域14の形状を円形に近似できるように制御する場合における、半導体ウエハ9の全面に対するイオン注入量均一性の実現化手法については、既に説明した小型半導体ウエハ15の形状に即するように仮想イオン注入領域14の形状を円形に近似できるように制御する場合における、小型半導体ウエハ15の全面に対するイオン注入量均一性の実現化手法と変わらない。ただし、半導体ウエハ9が仮想イオン注入領域14に完全に包含されている。あるいは、半導体ウエハ9にイオンを注入する場合に、仮想イオン注入領域14が、半導体ウエハ9が形作る平面領域を包含していると表現してもよい。
以上、図7と図14を用いた説明から明らかなように、本実施の形態に係る方法を用いると、半導体ウエハ9にイオンを注入する場合に、半導体ウエハ9が形作る平面領域が、仮想イオン注入領域14を包含しており、注入開始から注入終了まで、イオンビームが半導体ウエハ9に注入され続けるようにも構成できるし、仮想イオン注入領域14が、半導体ウエハ9が形作る平面領域を包含しているようにも構成できる。これらの複数の構成手法は、その目的によって使い分けられる。さらに加えて、図9において半導体ウエハ9を保持する半導体ウエハ保持装置10(図示せず)を考えると、半導体ウエハ保持装置10と半導体ウエハ9の形状及び面積はほぼ同じであるから、図14のイオン注入方法は、仮想イオン注入領域14が、半導体ウエハ保持装置10が形作る平面領域を包含しているイオン注入方法であると表現することもできる。
ここで図15を参照して、仮想イオン注入領域14の面積及び形状について、図7や図14で示した面積及び形状と異なる面積及び形状が求められる場合について説明する。図15では、半導体ウエハ9に対応したハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置において、半導体ウエハ9よりも小さな5個の小型半導体ウエハ15に、量産用半導体製造工程で実用に耐えるようなイオン注入効率でイオンを注入するために、5個の小型半導体ウエハ15の形状に即するように、仮想イオン注入領域14の形状や面積を適切に制御する場合を説明する。
図15は、半導体ウエハ保持装置10に、5個の小型半導体ウエハ15を配置した状態を示した図である。5個の小型半導体ウエハ15の配置方法は種々に考えられるが、例えば、図15のような5個の小型半導体ウエハ15の配置方法が考えられる。この場合、この5個の小型半導体ウエハ15に、量産用半導体製造工程で実用に耐えるようなイオン注入効率でイオンを注入するために、5個の小型半導体ウエハ15の形状に即する仮想イオン注入領域14の形状は、例えば図15のように擬似鼓形形状であると言える。
もちろん、5個の小型半導体ウエハ15の配置方法は図15に限らないのであって、5個の小型半導体ウエハ15に、量産用半導体製造工程で実用に耐えるようなイオン注入効率でイオンを注入するために、5個の小型半導体ウエハ15の形状に即する仮想イオン注入領域14の形状は、図15のような擬似鼓形形状に限らないことは言うまでもない。
既に説明したように、最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長に対する変換摂動含有電場19への変換には、小型半導体ウエハ15への注入前に行われる最大ビームスキャン長に対して得られた摂動含有電場17と、ビームスキャナー5に与える電圧とXスキャン方向のイオンビームの位置との間にビームスキャナー5の形状によって定められる対応関係が得られることが必要である。また、最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長に対するウエハ走査速度、あるいは最大ビームスキャン長に対するウエハ走査速度を基準とした、最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長に対するウエハ速度の補正係数の導出には、最大ビームスキャン長に対して得られた摂動含有電場17と、最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長に対する変換摂動含有電場19のみが必要である。ここで、最大ビームスキャン長が半導体ウエハ保持装置10のYスキャン方向上、どこにあるかは特に条件として必要ではない。
すなわち、図14を用いた説明では、半導体ウエハ保持装置10のYスキャン方向において、最大ビームスキャン長が中央付近にあるが、図15では半導体ウエハ保持装置10のYスキャン方向において、最大ビームスキャン長が両端にある。本実施の形態では、イオンの注入中にイオンビームの電流値測定を行うことなく、仮想イオン注入領域14の形状及びその面積の制御を行うことができるので、図14や図15を用いた説明のように、最大ビームスキャン長が半導体ウエハ保持装置10のYスキャン方向において、いずれの位置にあってもよい。
図15の場合を、仮想イオン注入領域14と半導体ウエハ保持装置10の包含関係で表現すると、半導体ウエハ保持装置10が形作る平面領域と、仮想イオン注入領域14の関係が、それぞれ互いに他を包含していないということができる。
次に、図16を参照して、仮想イオン注入領域14の面積及び形状について、さらに異なる面積及び形状が求められる場合について説明する。図16は、半導体ウエハ保持装置10に、3個の小型半導体ウエハ15を配置した状態を示した図である。ここで図16では、半導体ウエハ9に対応したハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置において、半導体ウエハ9よりも小さな3個の小型半導体ウエハ15に、量産用半導体製造工程で実用に耐えるようなイオン注入効率でイオンを注入するために、3個の小型半導体ウエハ15の形状に即するように、仮想イオン注入領域14の形状や面積を適切に制御する場合を説明する。
3個の小型半導体ウエハ15の配置方法は種々に考えられるが、例えば、図16のような3個の小型半導体ウエハ15の配置方法が考えられる。この場合、この3個の小型半導体ウエハ15に、量産用半導体製造工程で実用に耐えるようなイオン注入効率でイオンを注入するために、3個の小型半導体ウエハ15の形状に即する仮想イオン注入領域14の形状は、例えば図16のように擬似D型形状であると言える。
図16の場合を、仮想イオン注入領域14と半導体ウエハ保持装置10の包含関係で表現すると、半導体ウエハ保持装置10が形作る平面領域と、仮想イオン注入領域14の関係が、それぞれ互いに他を包含していないということができるが、3個の小型半導体ウエハ15の配置方法によっては、仮想イオン注入領域14が半導体ウエハ保持装置10に完全に包含しているように構成できることは明らかである。
なお、3個の小型半導体ウエハ15に、量産用半導体製造工程で実用に耐えるようなイオン注入効率でイオンを注入するために、3個の小型半導体ウエハ15の形状に即する仮想イオン注入領域14の形状は、図16のような擬似D型形状に限らないことは言うまでもない。
以上、説明したように、仮想イオン注入領域14の最大ビームスキャン長よりも短いビームスキャン長を実現するために、ビームスキャナー5に与える電圧を求める手法は、V1(V)とV2(V)の大小関係のみをその前提としており、ビームスキャナー5に与える電圧の正負は前提としていない。したがって、図16のように、小型半導体ウエハ15のYスキャン中心軸に対して、左右非対称の仮想イオン注入領域14も実現可能である。
また、本実施の形態では、仮想イオン注入領域14と半導体ウエハ保持装置10の包含関係及び、仮想イオン注入領域14と半導体ウエハ9の包含関係を様々に取ることができる。これは、イオンの注入中にイオンビームの電流値測定を全く行うことなく、仮想イオン注入領域14の形状及びその面積の制御を行うことができるためである。また、本実施の形態では、仮想イオン注入領域14の形状及びその面積を種々に制御できる。なお、本実施の形態に係るイオン注入装置では、イオンの注入中にイオンビームの電流値測定を行うことなく、仮想イオン注入領域14の形状及びその面積の制御を行うことができるが、このことは、イオンの注入中にイオンビームの電流値測定を行ってはならないということを意味せず、行う必要がないということである。したがって、仮想イオン注入領域14と半導体ウエハ保持装置10の包含関係及び、仮想イオン注入領域14と半導体ウエハ9の包含関係に応じて、可能であればイオンの注入中にイオンビームの電流値測定を行ってもよい。
また、今までの説明から明らかなように、本実施の形態では、仮想イオン注入領域14の形状について、イオン走査方向のイオン走査振幅を複数種類設定し、走査される物体の位置に応じて、イオン走査振幅を変更しながらイオン注入を行う。そのため、本実施の形態では、今まで例示して挙げてきたような種々の仮想イオン注入領域14を選択することが可能となる。具体的には、仮想的な平面状のイオン注入領域形状、すなわち仮想イオン注入領域14として、図7や図14のように正二十角形よりも頂点数が多い多角形形状に近似できる形状、または円形形状を選択することが可能であり、あるいは、図15のように擬似鼓形形状を選択することが可能であり、あるいは、図16のように擬似D形形状を選択することが可能であるイオン注入方法であると言える。
なお、仮想イオン注入領域14の形状は、これまで例示した形状に限らない。例えば、上下非対称な仮想イオン注入領域14も実現可能である。
以上、説明してきたように、本実施の形態に係るイオン注入方法によって、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置において、注入中のイオンビーム走査周波数を一定に保ち、また、単位時間、単位面積あたりに注入されるイオンの注入量を一定に保ちながら、イオン注入を行う半導体ウエハの大きさや、同時注入する枚数に対し、それぞれの状況に応じてウエハ生産性を向上させることができる。
以下、本発明の幾つかの態様を挙げる。
ある態様のイオン注入方法は、イオン源で発生したイオンをイオンビームとしてイオン注入領域空間まで輸送し、イオン注入領域空間内で物体にイオンを注入する場合に、イオンビームの輸送中にイオンに、周期的に変動する電場若しくは周期的に変動する磁場を作用させて、イオン注入領域空間内でイオンビームを一方向に走査し、その走査方向に直交する方向に、物体を走査し、この二種類の走査を用いることで、物体に対して注入されるイオンについて、イオンの物体に対する相対的な関係が、仮想的な平面状のイオン注入領域と見なすことができる場合において、仮想的な平面状のイオン注入領域で単位時間、単位面積あたりに注入されるイオンの注入量を一定に保ちながら、かつ、イオンビームを一方向に走査するその走査の周波数を一定に保ちながら、仮想的な平面状のイオン注入領域の形状について、イオン走査方向のイオン走査振幅が複数種類設定され、物体の走査を中断することなく、走査される物体の位置に応じて、イオン走査振幅を変更しながら、イオン注入を行う。このイオン注入方法は、イオン注入領域空間におけるイオンの注入中に、イオンビームの電流値の測定を常には行わない、あるいは全く行わないことを特徴としている。
また、イオン注入領域空間内でイオンビームを一方向に走査する目的で与えられる、イオンビームの輸送中にイオンに作用する、周期的に変動する電場若しくは周期的に変動する磁場について、複数個のイオン走査振幅の中で、最も長いイオン走査振幅に対する、周期的に変動する電場若しくは周期的に変動する磁場を基準とし、その基準から、複数個のイオン走査振幅の中で、最も長いイオン走査振幅以外のイオン走査振幅に対する、周期的に変動する電場若しくは周期的に変動する磁場を求め、走査される物体の位置に応じて、周期的に変動する電場若しくは周期的に変動する磁場を切り替えることにより、イオン走査振幅を変更すること、その周期的に変動する電場若しくは周期的に変動する磁場が、時間の関数として、周期的に繰り返される三角形形状を基準とし、注入前に、イオンビームのビーム電流計測値の空間位置依存性を用いて、周期的に繰り返される三角形形状に加えて、周期的に変動する電場若しくは周期的に変動する磁場に摂動を加えた制御関数を求める。こと、さらに、複数個のイオン走査振幅の中で、最も長いイオン走査振幅以外のイオン走査振幅に対する、周期的に変動する電場若しくは周期的に変動する磁場が、計算により、自動的に求められることもまた、その特徴のひとつである。
また、ある態様のイオン注入装置は、イオン源で発生したイオンをイオンビームとしてイオン注入領域空間まで輸送し、イオン注入領域空間内で物体にイオンを注入するイオン注入装置について、イオンビームの輸送中にイオンに、周期的に変動する電場若しくは周期的に変動する磁場を作用させて、イオン注入領域空間内でイオンビームを一方向に走査し、その走査方向に直交する方向に、物体を走査し、この二種類の走査を用いることで、物体に対して注入されるイオンについて、イオンの物体に対する相対的な関係が、仮想的な平面状のイオン注入領域と見なすことができる場合において、仮想的な平面状のイオン注入領域で単位時間、単位面積あたりに注入されるイオンの注入量を一定に保ちながら、かつ、イオンビームを一方向に走査するその走査の周波数を一定に保ちながら、仮想的な平面状のイオン注入領域の形状について、イオン走査方向のイオン走査振幅が複数種類設定され、物体の走査を中断することなく、走査される物体の位置に応じて、イオン走査振幅を変更しながら、イオン注入を行うことが可能なイオン注入装置である。このイオン注入装置は、イオン注入領域空間におけるイオンの注入中に、イオンビームの電流値の測定が不要なイオン注入装置であることを特徴としている。
上述のイオン注入方法またはイオン注入装置は、仮想的な平面状のイオン注入領域で単位時間、単位面積あたりに注入されるイオンの注入量を一定に保つために、イオン走査方向の複数種類のイオン走査振幅の中で最も長いイオン走査振幅を選択し、最も長いイオン走査振幅に対して、注入前にイオンビームのビーム電流計測値の空間位置依存性を用いて、イオン走査方向のイオン注入量均一性を確保する制御関数を求め、最も長いイオン走査振幅に対する制御関数から、複数種類のイオン走査振幅に対する制御関数を、計算により自動的に求めてもよい。
また、上述の注入方法またはイオン注入装置は、イオンビームを一方向に走査するその走査の周波数を一定に保ちながら、仮想的な平面状のイオン注入領域で単位時間、単位面積あたりに注入されるイオンの注入量を一定に保つために、複数種類のイオン走査振幅に対する複数種類の制御関数から、周期的に変動する電場若しくは周期的に変動する磁場を求めてもよい。そして、走査される物体の位置に応じて、周期的に変動する電場若しくは周期的に変動する磁場を切り替えることにより、イオン走査振幅を変更しながら、イオン注入を行ってもよい。
また、上述のイオン注入方法またはイオン注入装置は、複数個のイオン走査振幅に対応して、物体を走査する速度をそれぞれ変化させ、仮想的な平面状のイオン注入領域で単位時間、単位面積あたりに注入されるイオンの注入量を一定に保ってもよい。
また、上述のイオン注入方法またはイオン注入装置は、イオン走査方向の複数種類のイオン走査振幅の中で最も長いイオン走査振幅を選択した場合に、仮想的な平面状のイオン注入領域の中で、最も長いイオン走査振幅の位置がいずれの位置にでも設定可能に構成されていてもよい。
また、上述のイオン注入方法またはイオン注入装置は、物体として、半導体ウエハホルダを用い、半導体ウエハホルダに半導体ウエハを設置し、ビーム電流計測を行うことなく、半導体ウエハに単位時間、単位面積あたりに注入されるイオンの注入量を一定に保つように構成されていてもよい。
また、他の態様のイオン注入方法は、イオンビームを走査するとともに、イオンビームの走査方向と交差する方向にウエハを走査させるハイブリッドスキャンによるイオン注入方法である。そして、この方法は、イオン注入の際のイオンビームの走査速度および物体の走査速度を予め設定する工程と、設定されたイオンビームの走査速度(例えば、図13に示すv_0やv_1)および物体の走査速度(例えば、図13に示すV_0やV_1)に基づいてイオンを注入する工程と、を有する。予め設定する工程は、イオンビームの走査周波数(1/(T_scan))が一定に保たれるように、イオン照射される物体の表面形状に応じて変化するイオンビームの走査振幅(ビームスキャン長S0やS1)のそれぞれに基づいてイオンビームの走査速度(例えば、図13に示すv_0やv_1)を複数設定し、物体の表面に注入される単位面積当たりのイオン注入量が一定に保たれるように、イオンビームの走査速度に対応した物体の走査速度(例えば、図13に示すV_0やV_1)を設定する。
この態様によると、イオンビームの電流量を測定しなくてもイオン注入量を一定に保つことができる。
上述のイオン注入方法は、物体の全体をイオンビームで走査する間の所定のタイミングでイオンビームの電流量を測定する工程を更に有してもよい。また、この工程においては、イオンビームの電流量を測定する回数は、イオンビームで物体を走査する回数よりも少ないとよい。例えば、物体の全体をN回で走査できる場合、ビーム測定装置8で測定しうる機会はN回あることになる。しかしながら、仮想イオン注入領域14の形状がイオンビームの走査方向と平行な一辺を有する長方形でない場合(ウエハのような円形の場合)、イオンビームがビーム測定装置8の位置に到達するまでに、仮想イオン注入領域14以外の領域を走査する時間が増加し、イオン注入効率が低下してしまう。そこで、イオンビームの電流量の測定を、イオンビームの走査毎に行う必要がない(N−1)回以下とし、イオンビームの電流量の測定を減らすとよい。これにより、例えば、イオンビームの電流量に基づいたフィードバック制御を可能としつつ、イオンビームの走査毎にイオンビームの電流量を測定する場合と比較して、イオン注入に寄与しない時間を削減でき、イオン注入効率を向上できる。また、測定したイオンビームの電流量に基づいてイオン注入量の精度を高めることができる。
また、イオンビームの電流量の測定は、物体の外側に配置された装置、例えば、サイドカップ電流測定器で行われる。つまり、イオンビームの走査方向において、物体の幅が最も広い領域よりも外側に装置が配置される。そのため、物体の幅が狭い領域をイオンビームが走査しているタイミングで、イオンビーム電流量を測定しようとすると、物体の外側をイオンビームが走査する時間が増加するため、イオン注入効率が低下する。そこで、上述のイオン注入方法は、取り得るイオンビームの走査振幅のうち最も大きな走査振幅で走査されているタイミングで、イオンビームの電流量を測定してもよい。これにより、物体の外側をイオンビームが走査する時間を低減できる。
また、上述のイオン注入方法は、取り得るイオンビームの走査振幅のうち最も大きな走査振幅で走査されるイオンビームを制御するための第1制御関数を算出する工程と、最も大きな走査振幅以外の走査振幅で走査されるイオンビームを制御する第2制御関数を第1制御関数に基づいて算出する工程と、を有してもよい。
第1制御関数は、例えば、図11に示す摂動含有電場17を表す関数であり、第1制御関数を算出する工程は、例えば、ビーム測定装置8の計測結果に基づいて摂動含有電場17を算出してもよい。また、図11に示す変換摂動含有電場19を表す関数であり、第2制御関数を第1制御関数に基づいて算出する工程は、例えば、図11に示す摂動含有電場17の関数を変換するだけで、特段の測定を必要とせずに摂動含有電場17を算出してもよい。なお、第2制御関数は、例えば、対応するイオンビームの走査振幅が摂動含有電場17の走査振幅よりも小さい。
これにより、第1制御関数を算出すれば、最も大きな走査振幅以外の走査振幅で走査されるイオンビームを制御する第2制御関数を簡便に算出できる。なお、第2制御関数は、対応する走査振幅の大きさに応じて複数算出されてもよい。上述のイオン注入方法においては、第1制御関数が、周期的に変動する電場または磁場を表す関数であってもよい。
また、上述のイオン注入方法は、第1制御関数および第2制御関数は、イオンビームの制御電圧の時間変化であり、第1制御関数の制御電圧の最大値と最小値との差をΔV1、第2制御関数の制御電圧の最大値と最小値との差をΔV2、とすると、第2制御関数は、ΔV2<ΔV1を満たすように、かつ、当該第2制御関数の制御電圧の最大値(図11に示すV2)から最小値(図11に示すV1)まで漸減する時間(図11に示すT_scan/2)が、第1制御関数の制御電圧が最大値(V_scan0)から最小値(−V_scan0)まで漸減する時間と等しくなるように設定されていてもよい。これにより、イオンビームの走査周波数を一定に保ちつつ、イオンビームの走査速度を変化させることができる。
また、上述のイオン注入方法は、第1制御関数を算出する工程は、イオンを注入する工程より前に行われてもよい。これにより、イオンを注入する工程における制御を簡略化できる。
また、他の態様のイオン注入装置100は、物体であるウエハを保持する保持部としての半導体ウエハ保持装置10と、ウエハの表面でイオンビームを走査するように構成された走査部としてのビームスキャナー5と、半導体ウエハ保持装置10をイオンビームの走査方向と交差する方向へ移動させる移動部としてのウエハ昇降装置12と、イオン注入の際のイオンビームの走査速度および物体の走査速度が予め設定され、設定されたイオンビームの走査速度および物体の走査速度に基づいてビームスキャナー5およびウエハ昇降装置12の動作を制御する制御部110(図2参照)と、を備える。制御部110は、イオンビームの走査周波数(1/(T_scan))が一定に保たれるように、物体の表面形状に応じてイオンビームの走査振幅を変化させながら、該走査振幅に対応して変化する所定の走査速度でイオンビームを走査するようにビームスキャナー5を制御し、イオンビームの走査速度に対応して変化するウエハの走査速度で物体を移動させるようにウエハ昇降装置12を制御する。
この態様によると、イオンビームの電流量を測定しなくてもイオン注入量を一定に保つことができる。
以上に例示されたイオン注入方法やイオン注入装置によれば、更に以下の作用効果を奏することが可能である。例えば、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置において、仮想的な平面状のイオン注入領域の形状として、五角形よりも頂点数が多い多角形形状に近似できるイオン注入形状を得ることができる。特にそのイオン注入形状例を具体的に挙げると、二十角形よりも頂点数が多い多角形形状に近似できる形状、または円形形状、または擬似D形形状、または擬似鼓形形状、または擬似星型形状、または擬似五角形形状、または擬似六角形形状を得ることができる。
また、ハイブリッドスキャン型枚葉式イオン注入装置において、仮想的な平面状のイオン注入領域の形状及びその面積を制御することができる。
また、イオンの注入中にイオンビームの電流値測定を行うことなく、上記仮想的な平面状のイオン注入領域の形状及びその面積の制御を行うことができる。
また、イオンビームを一方向に走査するその走査の周波数を変更することなく、上記仮想的な平面状のイオン注入領域の形状及びその面積の制御を行うことができる。
また、イオン注入ドーズ量が、半導体ウエハの全面で均一であるようにしながら、上記仮想的な平面状のイオン注入領域の形状及びその面積の制御を行うことができる。
また、物体へのイオン注入を中断することなく、上記仮想的な平面状のイオン注入領域の形状及びその面積の制御を行うことができる。特に、物体が半導体ウエハである場合、半導体ウエハの走査を中断することなく、半導体ウエハのイオン注入領域の形状及びその面積の制御を行うことができる。また、半導体ウエハにイオンを注入する場合に、注入開始から注入終了まで、イオンビームを半導体ウエハに照射させ続けることもできる。
以上、本発明を上述の実施の形態を参照して説明したが、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、各実施の形態の構成を適宜組み合わせたものや置換したものについても本発明に含まれるものである。また、当業者の知識に基づいて実施の形態における組合せや処理の順番を適宜組み替えることや各種の設計変更等の変形を実施の形態に対して加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうる。