JP2014016377A - 音声信号処理装置、方法及びプログラム - Google Patents

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Abstract

【課題】 目的音声の振幅によらずに、目的音声区間を正しく検出できる音声信号処理装置を提供する。
【解決手段】 入力音声信号に遅延減算処理を施して、第1、第2の所定方位に死角を有する第1、第2の指向性信号を形成し、これら2つの指向性信号を用いてコヒーレンスを得る。そして、コヒーレンスと目的音声区間判定閾値とを比較して、入力音声信号が、目的音声区間か非目的音声区間かを判定すると共に、コヒーレンスと、目的音声区間判定閾値より大きいハングオーバー付与閾値とを比較して、上述の判定結果が目的音声区間から非目的音声区間へ変化しても、所定のハングオーバー長だけ、目的音声区間という判定結果を継続させる。
【選択図】 図1

Description

本発明は音声信号処理装置、方法及びプログラムに関し、例えば、携帯電話、テレビ会議などの、音声信号に対して目的音声区間検出などの処理を行う通信装置又は通信ソフトウェアに適用し得るものである。
目的音声区間検出とは、入力信号から目的話者が発生した発話信号の区間(以下、このような発話信号を目的音声と呼び、その区間を目的音声区間と呼ぶ)か否かを判定し、目的音声区間以外の非目的音声区間と区別する技術のことである(なお、目的音声以外を非目的音声と呼んでいる)。この判定結果に基づいて、後段で、音声符号化処理や雑音抑圧処理などを適宜稼動させるため、目的音声区間検出には高い精度が要求される。一般的な音声検出方法は、特許文献1に記載されているように、目的音声のレベルは変動し、非目的音声区間のレベルは定常的であることを前提として、入力された音声信号レベルの瞬時値と長期平均値とを比較し、瞬時値が長期平均値に所定の閾値以上の差をつけて上回っている区間を目的音声区間とみなす、というものである。
ところで、非目的音声は、話者以外の人間の声である「妨害音声」と、オフィスノイズや道路ノイズなどのような「背景雑音」とに分けられる。妨害音声も人間の音声なので、レベル変動は目的音声と同じよう挙動を持つため、従来の手法では、妨害音声の区間も目的音声区間に含まれてしまう、という課題がある。このため、この従来手法を音声符号化処理に適用した場合、妨害音声の特性も符号化後のパラメータに反映されてしまう。また、この従来手法を雑音抑圧処理に適用した場合には、妨害音声区間の信号は除去されず、十分な抑圧性能が得られなくなる。
このような課題は、目的音声区間検出部で参照する特徴量を、入力された音声信号レベルの変動から、コヒーレンスに変更することで改善される。コヒーレンスとは、簡単に述べれば、入力信号の到来方向を意味する特徴量である。携帯電話などの利用を想定した場合、話者の音声(目的音声)は正面から到来し、妨害音声は正面以外から到来する傾向が強いので、到来方向に着目することで、従来は不可能だった目的音声と妨害音声との区別が可能となる。
図10は、目的音声区間検出機能にコヒーレンスを用いる場合の構成を示すブロック図である。
一対のマイクm_1、m_2のそれぞれから、図示しないAD変換器を介して入力信号s1(n)、s2(n)を取得する。なお、nはサンプルの入力順を表すインデックスであり、正の整数で表現される。本文中では、nが小さいほど古い入力サンプルであり、大きいほど新しい入力サンプルであるとする。
FFT部10は、マイクm_1及びm_2から入力信号系列s1(n)及びs2(n)を受け取り、その入力信号s1及びs2に高速フーリエ変換(あるいは離散フーリエ変換)を行うものである。これにより、入力信号s1及びs2を周波数領域で表現することができる。なお、高速フーリエ変換を実施するにあたり、入力信号s1(n)及びs2(n)から、所定のN個のサンプルからなる分析フレームFRAME1(K)及びFRAME2(K)を構成して適用する。入力信号s1(n)から分析フレームFRAME1(K)を構成する例を以下の(1)式に示すが、分析フレームFRAME2(K)も同様である。
Figure 2014016377
なお、Kはフレームの順番を表すインデックスであり、正の整数で表現される。本文中では、Kが小さいほど古い分析フレームであり、大きいほど新しい分析フレームであるとする。また、以降の動作説明において、特に但し書きがない限りは、分析対象となる最新の分析フレームを表すインデックスはKであるとする。
FFT部10は、分析フレームごとに高速フーリエ変換処理を施すことで、周波数領域信号X1(f,K)、X2(f,K)に変換し、得られた周波数領域信号X1(f,K)及びX2(f,K)をそれぞれ、対応する第1の指向性形成部11、第2の指向性形成部12に与える。なお、fは周波数を表すインデックスである。また、X1(f,K)は単一の値ではなく、(2)式に示すように、複致の周波数f1〜fmのスペクトル成分から構成されるものである。X2(f,K)や後述するB1(f,K)及びB2(f,K)も同様である。
X1(f,K)={(f1,K),(f2,K),…,(fm,K)} …(2)
第1の指向性形成部11では、周波数領域信号X1(f,K)及びX2(f,K)から特定方向に指向性が強い信号B1(f,K)を形成し、第2の指向性形成部12では、周波数領域信号X1(f,K)及びX2(f,K)から特定方向(上述の特定方向とは異なる)に指向性が強い信号B2(f,K)を形成する。特定方向に指向性が強い信号B1(f,K)、B2(f,K)の形成方法としては既存の方法を適用でき、例えば、(3)式を適用して右方向に指向性が強いB1(f,K)や(4)式を適用して左方向に指向性が強いB2(f,K)が形成できる。(3)式及び(4)式では、フレームインデックスKは演算に関与しないので省略している。
Figure 2014016377
これらの式の意味を、(3)式を例に、図11及び図12を用いて説明する。図11(A)に示した方向θから音波が到来し、距離lだけ隔てて設置されている一対のマイクm_1及びm_2で捕捉されたとする。このとき、音波が一対のマイクm_1及びm_2に到達するまでには時間差が生じる。この到達時間差τは、音の経路差をdとすると、d=l×sinθなので、音速をcとすると(5)式で与えられる。
τ=l×sinθ/c …(5)
ところで、入力信号s1(n)にτだけ遅延を与えた信号s1(t−τ)は、入力信号s2(t)と同一の信号である。従って、両者の差をとった信号y(t)=s2(t)−s1(t−τ)は、θ方向から到来した音が除去された信号となる。結果として、マイクロフォンアレーm_1及びm_2は図11(B)のような指向特性を持つようになる。
なお、以上では、時間領域での演算を記したが、周波数領域で行っても同様なことがいえる。この場合の式が、上述した(3)式及び(4)式である。今、一例として、到来方向θが±90度であることを想定する。すなわち、第1の指向性形成部11からの指向性信号B1(f)は、図12(A)に示すように右方向に強い指向性を有し、第2の指向性形成部12からの指向性信号B2(f)は、図12(B)に示すように左方向に強い指向性を有する。
以上のようにして得られた指向性信号B1(f)、B2(f)に対し、コヒーレンス計算部13で、(6)式、(7)式のような演算を施すことでコヒーレンスCOHが得られる。(6)式におけるB2(f)はB2(f)の共役複素数である。また、フレームインデックスKは、(6)式、(7)式の演算には関与しないので、(6)式、(7)式ではフレームインデックスKの記載を省略している。
Figure 2014016377
目的音声区間検出部14では、図13に示すように、コヒーレンスCOH(K)を取得すると(ステップS100)、コヒーレンスCOH(K)を目的音声区間判定閾値Θと比較し(ステップS101)、コヒーレンスCOH(K)が目的音声区間判定閾値Θ以上であれば目的音声区間とみなして判定結果変数VAD_RES(K)に1.0を代入し(ステップS102)、コヒーレンスCOH(K)が目的音声区間判定閾値Θより小さければ非目的音声区間(妨害音声、背景雑音の区間)とみなして判定結果変数VAD_RES(K)には0.0を代入し(ステップS103)、判定結果変数VAD_RES(K)を出力する(ステップS104)。そして、次のフレームの処理に移行する(ステップS105)。後段の音声符号化処理や雑音抑圧処理は、この結果に基づいて、目的音声区間か否かに応じた所定の処理を行う。例えば、後段でボイススイッチ処理を行う場合であれば、図5に示すように、判定結果変数VAD_RES(K)の値を確認し(ステップS150)、判定結果変数VAD_RES(K)が1.0であると(目的音声区間であると)、ゲインVS_GAINとして1.0を設定し(ステップS151)、判定結果変数VAD_RES(K)が0.0であると(非目的音声区間であると)、ゲインVS_GAINとして1.0未満の任意の正の数値αを設定し(ステップS152)、得られたゲインVS_GAINを入力信号input(s1(n)若しくはs2(n))に乗算することでボイススイッチ後信号outputを得る(ステップS153)。これにより、非目的音声区間の信号を抑圧することができる。
ここで、コヒーレンスCOHの大小で目的音声区間を検出する背景を簡単に述べておく。コヒーレンスCOHの概念は、右から到来する信号と左から到来する信号の相関と言い換えられる(上述した(6)式はある周波数成分についての相関を算出する式であり、(7)式は全ての周波数成分の相関値の平均を計算している)。従って、コヒーレンスCOHが小さい場合とは、2つの指向性信号B1及びB2の相関が小さい場合であり、反対にコヒーレンスCOHが大きい場合とは相関が大きい場合と言い換えることができる。そして、相関が小さい場合の入力信号は、入力到来方向が右又は左のどちらかに大きく偏った場合か、偏りがなくても雑音のような明確な規則性の少ない信号の場合である。そのため、コヒーレンスCOHが小さい区間は妨害音声区間あるいは背景雑音区間(非目的音声区間)であるといえる。一方、コヒーレンスCOHの値が大きい場合は、到来方向の偏りがないため、入力信号が正面から到来する場合であるといえる。今、目的音声は正面から到来すると仮定しているので、コヒーレンスCOHが大きい場合は目的音声区間といえる。
特開平07−181991号公報
しかしながら、コヒーレンスCOHは、目的音声区間であっても小振幅部では値が小さくなるため、上述した従来の手法では、正面から到来する目的音声であっても、コヒーレンスCOHの値が小さくなって非目的音声区間と誤判定されることも生じる。
そのため、目的音声の振幅の大小によらずに、目的音声区間を正しく検出することができる音声信号処理装置、方法及びプログラムが望まれている。
第1の本発明は、入力音声信号から目的音声の区間と非目的音声の区間とを切り分ける音声信号処理装置において、(1)入力音声信号に遅延減算処理を施すことで、第1の所定方位に死角を有する指向性特性を付与した第1の指向性信号を形成する第1の指向性形成部と、(2)入力音声信号に遅延減算処理を施すことで、前記第1の所定方位とは異なる第2の所定方位に死角を有する指向性特性を付与した第2の指向性信号を形成する第2の指向性形成部と、(3)前記第1及び第2の指向性信号を用いてコヒーレンスを得るコヒーレンス計算部と、(4)前記コヒーレンスと目的音声区間判定閾値とを比較して、入力音声信号が、目的方位から到来している目的音声の区間か、それ以外の非目的音声区間かを判定すると共に、前記コヒーレンスと、前記目的音声区間判定閾値より大きいハングオーバー付与閾値とを比較して、前記目的音声区間判定閾値を用いた比較による判定結果が目的音声区間から非目的音声区間へ変化しても、所定のハングオーバー長だけ、目的音声区間という判定結果を継続させる目的音声区間検出・ハングオーバー付与部とを有することを特徴とする。
第2の本発明は、入力音声信号から目的音声の区間と非目的音声の区間とを切り分ける音声信号処理方法において、(1)第1の指向性形成部は、入力音声信号に遅延減算処理を施すことで、第1の所定方位に死角を有する指向性特性を付与した第1の指向性信号を形成し、(2)第2の指向性形成部は、入力音声信号に遅延減算処理を施すことで、前記第1の所定方位とは異なる第2の所定方位に死角を有する指向性特性を付与した第2の指向性信号を形成し、(3)コヒーレンス計算部は、前記第1及び第2の指向性信号を用いてコヒーレンスを計算し、(4)目的音声区間検出・ハングオーバー付与部は、計算された前記コヒーレンスと目的音声区間判定閾値とを比較して、入力音声信号が、目的方位から到来している目的音声の区間か、それ以外の非目的音声区間かを判定すると共に、前記コヒーレンスと、前記目的音声区間判定閾値より大きいハングオーバー付与閾値とを比較して、前記目的音声区間判定閾値を用いた比較による判定結果が目的音声区間から非目的音声区間へ変化しても、所定のハングオーバー長だけ、目的音声区間という判定結果を継続させることを特徴とする。
第3の本発明の音声信号処理プログラムは、コンピュータを、(1)入力音声信号に遅延減算処理を施すことで、第1の所定方位に死角を有する指向性特性を付与した第1の指向性信号を形成する第1の指向性形成部と、(2)入力音声信号に遅延減算処理を施すことで、前記第1の所定方位とは異なる第2の所定方位に死角を有する指向性特性を付与した第2の指向性信号を形成する第2の指向性形成部と、(3)前記第1及び第2の指向性信号を用いてコヒーレンスを得るコヒーレンス計算部と、(4)前記コヒーレンスと目的音声区間判定閾値とを比較して、入力音声信号が、目的方位から到来している目的音声の区間か、それ以外の非目的音声区間かを判定すると共に、前記コヒーレンスと、前記目的音声区間判定閾値より大きいハングオーバー付与閾値とを比較して、前記目的音声区間判定閾値を用いた比較による判定結果が目的音声区間から非目的音声区間へ変化しても、所定のハングオーバー長だけ、目的音声区間という判定結果を継続させる目的音声区間検出・ハングオーバー付与部として機能させることを特徴とする。
本発明によれば、目的音声の振幅の大小によらずに、目的音声区間を正しく検出することができる。
第1の実施形態に係る音声信号処理装置の構成を示すブロック図である。 第1の実施形態の音声信号処理装置における目的音声区間検出・ハングオーバー付与部の動作を示すフローチャートである。 第2の実施形態に係る音声信号処理装置の構成を示すブロック図である。 第2の実施形態の音声信号処理装置におけるハングオーバーカウンタ初期化閾値制御部の内部構成を示すブロック図である。 図4の初期化閾値記憶部の構成例を示す説明図である。 第2の実施形態の音声信号処理装置におけるハングオーバーカウンタ初期化閾値制御部の動作を示すフローチャートである。 第3の実施形態に係る音声信号処理装置の構成を示すブロック図である。 第3の実施形態の音声信号処理装置におけるハングオーバーカウンタ初期値制御部の内部構成を示すブロック図である。 図8の初期値記憶部の構成例を示す説明図である。 目的音声検出機能にコヒーレンスを用いる場合の構成を示すブロック図である。 図10の指向性形成部からの指向性信号の性質を示す説明図である。 図10の2つの指向性形成部による指向性の特性を示す説明図である。 図10の目的音声区間検出部の処理を示すフローチャートである。 ボイススイッチ処理の流れを示すフローチャートである。
(A)第1の実施形態
以下、本発明による音声信号処理装置、方法及びプログラムの第1の実施形態を、図面を参照しながら説明する。第1の実施形態は、コヒーレンスCOHに基づいて目的音声区間を検出するにつき、目的音声の振幅が小さくても目的音声区間を正しく検出できるようにハングオーバー機能を導入したものである。
(A−1)第1の実施形態の構成
図1は、第1の実施形態に係る音声信号処理装置の構成を示すブロック図であり、上述した図10との同一、対応部分には同一符号を付して示している。ここで、一対のマイクm_1及びm_2を除いた部分は、CPUが実行するソフトウェア(音声信号処理プログラム)として実現することも可能であるが、機能的には、図1で表すことができる。
図1において、第1の実施形態に係る音声信号処理装置1は、従来と同様なマイクm_1、m_2、FFT部10、第1指向性形成部11、第2の指向性形成部12及びコヒーレンス計算部13に加え、目的音声区間検出・ハングオーバー付与部15を有する。目的音声区間検出・ハングオーバー付与部15は、従来の目的音声区間検出部14に代えて設けられたものである。
ここで、マイクm_1、m_2、FFT部10、第1指向性形成部11、第2の指向性形成部12及びコヒーレンス計算部13は、従来と同様な機能を担っているので、その機能説明は省略する。
目的音声区間検出・ハングオーバー付与部15は、コヒーレンスCOHに基づいて目的音声区間か非目的音声区間かを判定させると共に、目的音声区間であるという判定結果を一定時間だけ保持させるようにしたものである。目的音声区間検出・ハングオーバー付与部15の具体的な機能については、後述する動作説明の項で明らかにする。
(A−2)第1の実施形態の動作
次に、第1の実施形態の音声信号処理装置1の動作を、図面を参照しながら、全体動作、目的音声区間検出・ハングオーバー付与部15における詳細動作の順に説明する。
一対のマイクm_1及びm_2から入力された信号s1(n)、s2(n)はそれぞれ、FFT部10によって時間領域から周波数領域の信号X1(f,K)、X2(f,K)に変換された後、第1及び第2の指向性形成部11及び12のそれぞれによって、所定の方位に死角を有する指向性信号B1(f,K)、B2(f,K)が生成される。そして、コヒーレンス計算部13において、指向性信号B1(f,K)及びB2(f,K)を適用して、(6)式及び(7)式の演算が実行され、コヒーレンスCOH(K)が算出される。
目的音声区間検出・ハングオーバー付与部15においては、コヒーレンスCOH(K)に基づいて目的音声区間か非目的音声区間かが判定されると共に、目的音声区間であるという判定結果は一定時間だけ保持され、そのようにして形成された判定結果変数VAD_RES(K)が後段に出力される。
次に、目的音声区間検出・ハングオーバー付与部15の動作を説明する。図2は、目的音声区間検出・ハングオーバー付与部15の動作を示すフローチャートであり、上述した図13との同一、対応ステップには同一符号を付して示している。
目的音声区間検出・ハングオーバー付与部15は、コヒーレンスCOH(K)を受信すると(ステップS100)、コヒーレンスCOH(K)とハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψと比較する(ステップS200)。そして、コヒーレンスCOH(K)が閾値Ψ以上であると、目的音声区間であると判定し、判定結果変数VAD_RES(K)に1.0を、ハングオーバーカウンタcounterにはカウンタ初期値LENGTHを代入する(ステップS201)。ここで、カウンタ初期値LENGTHは、どの程度の期間、目的音声区間判定結果変数(VAD_RES(K)=1.0)を保持するかを制御する変数であり、設計者が任意の値を定めれば良い。
一方、コヒーレンスCOH(K)が閾値Ψより小さいと、目的音声区間検出・ハングオーバー付与部15は、コヒーレンスCOH(K)と目的音声区間判定閾値Φ(但しΨ>Φ)と比較する(ステップS202)。そして、コヒーレンスCOH(K)が閾値Φ以上であると、ハングオーバーカウンタcounterを操作することなく、判定結果変数VAD_RES(K)に1.0を代入することだけを行う(ステップS203)。
目的音声区間検出・ハングオーバー付与部15は、コヒーレンスCOH(K)が閾値Φより小さいと、ハングオーバーカウンタcounterが正か否かを判定する(ステップS204)。そして、ハングオーバーカウンタcounterが正であればコヒーレンスCOH(K)は小さくても目的音声区間と判定し、判定結果変数VAD_RES(K)に1.0を代入すると共に、ハングオーバーカウンタcounterを1デクリメントする。
一方、コヒーレンスCOH(K)が閾値Φより小さい上に、ハングオーバーカウンタcounterが0以下であれば、目的音声区間検出・ハングオーバー付与部15は、非目的音声区間と判定し、判定結果変数VAD_RES(K)に0.0を代入する(ステップS206)。
その後、目的音声区間検出・ハングオーバー付与部15は、判定結果変数VAD_RES(K)を後段に出力し(ステップS104)、次のフレームの処理に移行する(ステップS105)。
以上のような処理を通じて、一旦、コヒーレンスCOH(K)が閾値Ψ以上となってハングオーバーカウンタcounterにカウンタ初期値LENGTHが代入されると、コヒーレンスCOH(K)が閾値Φより小さくなっても、ハングオーバーカウンタcounterが正である期間だけ、コヒーレンスCOH(K)が閾値Φ以上である場合と同様な判定結果変数VAD_RES(K)が継続して出力される。
(A−3)第1の実施形態の効果
第1の実施形態によれば、コヒーレンスCOHに基づいて目的音声区間を検出するにつき、コヒーレンスCOHが大きい状態から小さい状態に移行したときには、コヒーレンスCOHが目的音声区間判定閾値Φより小さくても、所定期間だけ目的音声と判定させるようにしたので、目的音声の振幅が小さくてコヒーレンスCOHが小さくなっても目的音声区間を正しく検出することができる。
これにより、第1の実施形態の音声処理装置を、テレビ会議システムや携帯電話などの通信装置に適用することで、通話音質の向上が期待できる。また、第1の実施形態を、ボイススイッチ、音源分離、音声符号化などの音声信号処理機能と併用することで、これらの機能によって得られる効果をさらに向上させることができる。
(B)第2の実施形態
次に、本発明による音声信号処理装置、方法及びプログラムの第2の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
第2の実施形態は、第1の実施形態で生じる可能性がある不都合を解消しようとしたものである。
背景雑音が重畳されると、目的音声区間でのコヒーレンスは極大値が小さくなり、極小値が大きくなる、という挙動をする。極大値が小さくなるのは、音声信号よりも波形の規則性が低い背景雑音の影響も反映されてコヒーレンス値が算出されてしまうためである。また、極小値が大きくなるのは、背景雑音は規則性が低いとはいえ無音の場合よりは規則性が出るためである。
このため、第1の実施形態をそのまま適用した場合、背景雑音によっては、コヒーレンスCOH(K)がハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψを上回る頻度が下がり、十分にハングオーバーが付与きれなくなってしまい、目的音声区間判定に誤判定が生じる。
第2の実施形態は、このような第1の実施形態の不都合を解消するために、背景雑音重畳時には、目的音声区間におけるコヒーレンスCOH(K)のばらつきが小さくなるという特徴を用いて、ハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψを目的音声区間のコヒーレンスCOH(K)のばらつきに応じて適応的に制御することとした。第2の実施形態では、コヒーレンスCOH(K)のばらつきを表す指標として分散を用いている。
(B−1)第2の実施形態の構成
図3は、第2の実施形態に係る音声信号処理装置の構成を示すブロック図であり、上述した第1の実施形態に係る図1との同一、対応部分には同一符号を付して示している。
図3において、第2の実施形態に係る音声信号処理装置1Aは、第1の実施形態と同様なマイクm_1、m_2、FFT部10、第1指向性形成部11、第2の指向性形成部12、コヒーレンス計算部13及び目的音声区間検出・ハングオーバー付与部15に加え、ハングオーバーカウンタ初期化閾値制御部16を有する。
ここで、マイクm_1、m_2、FFT部10、第1指向性形成部11、第2の指向性形成部12、コヒーレンス計算部13及び目的音声区間検出・ハングオーバー付与部15は、第1の実施形態と同様な機能を担っているので、その機能説明は省略する。
ハングオーバーカウンタ初期化閾値制御部16は、コヒーレンスCOH(K)と、目的音声区間検出結果変数VAD_RES(K)とに基づき、目的音声区間におけるコヒーレンスの分散を算出し、算出した分散に基づいて、ハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψを定めて目的音声区間検出・ハングオーバー付与部15に設定するものである。
上述したように、背景雑音が重畳されると、目的音声区間におけるコヒーレンスの極大値は小さくなり、極小値は大きくなることから、目的音声区間ではコヒーレンスの分散が小さくなるといえる。従って、目的音声区間におけるコヒーレンスの分散が大きければ背景雑音は重畳されておらず、反対に分散が小さければ背景雑音が重畳されている、という判定が可能となる。従って、目的音声区間におけるコヒーレンスの分散の値に応じて、ハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψを制御すれば、背景雑音重畳時の目的音声区間の誤判定を改善することができる。
図4は、ハングオーバーカウンタ初期化閾値制御部16の内部構成を示すブロック図である。
図4において、ハングオーバーカウンタ初期化閾値制御部16は、コヒーレンス・判定結果受信部21、閾値更新制御部22、分散計算部23、ハングオーバーカウンタ初期化閾値照合部24、初期化閾値記憶部25及びハングオーバーカウンタ初期化閾値送信部26を有する。
コヒーレンス・判定結果受信部21は、コヒーレンス計算部13からコヒーレンスCOH(K)を目的音声区間検出・ハングオーバー付与部15から判定結果変数VAD_RES(K)を受け取るものである。
閾値更新制御部22は、判定結果変数VAD_RES(K)を参照して目的音声区間か否かを判定し、目的音声区間でのみ、分散計算部23、ハングオーバーカウンタ初期化閾値照合部24及び初期化閾値記憶部25を有効に機能させるものである。閾値更新制御部22は、非目的音声区間では、直前のハングオーバーカウンタ初期化閾値を維持させるものである。
分散計算部23は、目的音声区間におけるコヒーレンスの分散variance(K)を計算するものである。ここで、最古サンプルまでの時間差は変動することがあるが所定サンプル数のコヒーレンスを用いて分散を計算するようにしても良く、また、サンプル数は変動することがあるが所定期間内のサンプルを用いて分散を計算するようにしても良い。
初期化閾値記憶部25は、コヒーレンスの分散varianceの範囲と、ハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψの値とを対応付けて記憶しているものである。図5は、初期化閾値記憶部25の構成例を示す説明図である。分散varianceがA以上B未満の範囲は、ハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψの値としてαが対応付けられ、分散varianceがB以上C未満の範囲は、ハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψの値としてβ(α<β)が対応付けられ、分散varianceがC以上D未満の範囲は、ハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψの値としてγ(β<γ)が対応付けられている。
以上のようなA<B<C<D、α<β<γという大小関係にすることにより、分散が小さい(背景雑音が重畳されている)場合には、ハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψを小さくすることができ、目的音声区間中でのハングオーバー効果が損なわれることを防止できる。
ハングオーバーカウンタ初期化閾値照合部24は、分散計算部23が計算したコヒーレンスの分散variance(K)をキーとして、初期化閾値記憶部25を照合し、その分散variance(K)の値が属する範囲に対応付けられているハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψの値を取り出すものである。
ハングオーバーカウンタ初期化閾値送信部26は、ハングオーバーカウンタ初期化閾値照合部24が得たハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψの値、若しくは、直前(K−1)フレームのハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψの値を、目的音声区間検出・ハングオーバー付与部15に送信するものである。
第2の実施形態の目的音声区間検出・ハングオーバー付与部15は、ハングオーバーカウンタ初期化閾値制御部16からのハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψ(K)を適用して、ハングオーバー付与機能を実行するものである。
(B−2)第2の実施形態の動作
次に、第2の実施形態の音声信号処理装置1Aの動作を、図面を参照しながら、全体動作、ハングオーバーカウンタ初期化閾値照合部24における詳細動作の順に説明する。
一対のマイクm_1及びm_2から入力された信号s1(n)、s2(n)はそれぞれ、FFT部10によって時間領域から周波数領域の信号X1(f,K)、X2(f,K)に変換された後、第1及び第2の指向性形成部11及び12のそれぞれによって、所定の方位に死角を有する指向性信号B1(f,K)、B2(f,K)が生成される。そして、コヒーレンス計算部13において、指向性信号B1(f,K)及びB2(f,K)を適用して、(6)式及び(7)式の演算が実行され、コヒーレンスCOH(K)が算出される。
ハングオーバーカウンタ初期化閾値制御部16においては、コヒーレンスCOH(K)と、目的音声区間検出結果変数VAD_RES(K)とに基づき、目的音声区間におけるコヒーレンスの分散が算出され、さらに、算出された分散に基づいて、ハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψが定められて目的音声区間検出・ハングオーバー付与部15に与えられる。
目的音声区間検出・ハングオーバー付与部15においては、コヒーレンスCOH(K)に基づいて、目的音声区間か非目的音声区間かが判定されると共に、コヒーレンスCOH(K)がハングオーバーカウンタ初期化閾値制御部16から与えられたハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψ(K)以上のときには、目的音声区間であるという判定結果が一定時間だけ保持され(上述した図2参照)、そのようにして形成された判定結果変数VAD_RES(K)が後段に出力される。
次に、ハングオーバーカウンタ初期化閾値制御部16の動作を説明する。図6は、ハングオーバーカウンタ初期化閾値制御部16の動作を示すフローチャートである。
コヒーレンス計算部13からのコヒーレンスCOH(K)及び目的音声区間検出・ハングオーバー付与部15からの判定結果変数VAD_RES(K)がコヒーレンス・判定結果受信部21によって受信される(ステップS250)。そして、閾値更新制御部22によって、判定結果変数VAD_RES(K)が参照されて、目的音声区間か否かが判定される(ステップS251)。この判定は、言い換えると、ハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψを見直す目的音声区間か、直前のハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψを継続(流用)する非目的音声区間かの判定になっている。
判定結果変数VAD_RES(K)が目的音声区間であることを表す値になっていると、分散計算部23によって、入力されたコヒーレンスCOH(K)も利用されて、目的音声区間におけるコヒーレンスの分散variance(K)が計算される(ステップS252)。そして、ハングオーバーカウンタ初期化閾値照合部24によって、初期化閾値記憶部25から、算出された分散variance(K)に応じたハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψ(K)が得られる(ステップS253)。
一方、判定結果変数VAD_RES(K)が目的音声区間であることを表す値になっていると、閾値更新制御部22によって、直前フレームで適用されていた初期化判定閾値が、今回のフレームにおいてもハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψ(K)として設定される(ステップS254)。
以上のようにして、パラメータKで定まる現フレームについてのハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψ(K)が得られると、ハングオーバーカウンタ初期化閾値送信部26によって、目的音声区間検出・ハングオーバー付与部15に送信され(ステップS255)、その後、次のフレームの処理に移行する(ステップS256)。
(B−3)第2の実施形態の効果
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様な効果に加え、以下のような効果を奏することができる。
第2の実施形態によれば、目的音声に対する背景雑音の重畳に応じて、ハングオーバーカウンタ初期化閾値を適切な値に設定できるので、過不足のないハングオーバー効果を得られるようになる。
(C)第3の実施形態
次に、本発明による音声信号処理装置、方法及びプログラムの第3の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
第3の実施形態は、第2の実施形態で生じる可能性がある不都合を解消しようとしたものである。
第2の実施形態では、ハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψを目的音声区間での分散によって制御することで、背景雑音の重畳時でもハングオーバー期間が十分に付与されるように改善した。ところで、ハングオーバーカウンタ初期値LENGTHが一定なまま、ハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψを変動させた場合、次のような現象が起きる場合がある。
現象1;ハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψが大きくなったら、付与されるハングオーバー期間が不足し、目的音声区間の一部が非目的音声区間と誤判定される。これは、コヒーレンスCOHがハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψを上回る頻度が減るので、ハングオーバーカウンタcounterが初期化される頻度が下がり、ハングオーバー期間がめったに付与されなくなるためである。
現象2;ハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψが小さくなったら、ハングオーバー期間が過剰に付与され、目的音声区間直後の非目的音声区間が目的音声区間と誤判定される。これは、コヒーレンスCOHがハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψを上回る頻度が増すようになるので、ハングオーバーカウンタcounterが頻繁に初期化されるようになり、その結果、付与されるハングオーバー期間がどんどん延長されるためである。
以上のことから、ハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψに応じてハングオーバーカウンタ初期値LENGTHを制御することで、付与されるハングオーバー期間をさらに適切に設定できることが分かる。第3の実施形態は、ハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψに応じてハングオーバーカウンタ初期値LENGTHを制御するようにして、さらなる性能改善を図ったものである。
(C−1)第3の実施形態の構成
図7は、第3の実施形態に係る音声信号処理装置の構成を示すブロック図であり、上述した第2の実施形態に係る図3との同一、対応部分には同一符号を付して示している。
図7において、第3の実施形態に係る音声信号処理装置1Bは、第2の実施形態と同様なマイクm_1、m_2、FFT部10、第1指向性形成部11、第2の指向性形成部12、コヒーレンス計算部13、目的音声区間検出・ハングオーバー付与部15及びハングオーバーカウンタ初期化閾値制御部16に加え、ハングオーバーカウンタ初期値制御部17を有する。
ここで、マイクm_1、m_2、FFT部10、第1指向性形成部11、第2の指向性形成部12、コヒーレンス計算部13、目的音声区間検出・ハングオーバー付与部15及びハングオーバーカウンタ初期化閾値制御部16は、第2の実施形態と同様な機能を担っているので、その機能説明は省略する。
ハングオーバーカウンタ初期値制御部17は、ハングオーバーカウンタ初期化閾値制御部16から与えられたハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψ(K)に応じたハングオーバーカウンタ初期値LENGTH(K)を得て、目的音声区間検出・ハングオーバー付与部15に与えるものである。
図8は、ハングオーバーカウンタ初期値制御部17の内部構成を示すブロック図である。
図8において、ハングオーバーカウンタ初期値制御部17は、初期化閾値受信部31、ハングオーバーカウンタ初期値照合部32、初期値記憶部33及びハングオーバーカウンタ初期値送信部34を有する。
初期化閾値受信部31は、ハングオーバーカウンタ初期化閾値制御部16から出力されたハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψ(K)を受信するものである。
初期値記憶部33は、ハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψの範囲と、ハングオーバーカウンタ初期値LENGTHの値とを対応付けて記憶しているものである。図9は、初期値記憶部33の構成例を示す説明図である。ハングオーバーカウンタ初期化閾値ΨがT1以上T2未満の範囲は、ハングオーバーカウンタ初期値LENGTHの値としてL1が対応付けられ、ハングオーバーカウンタ初期化閾値ΨがT2以上T3未満の範囲は、ハングオーバーカウンタ初期値LENGTHの値としてL2(L1<L2)が対応付けられ、ハングオーバーカウンタ初期化閾値ΨがT3以上T4未満の範囲は、ハングオーバーカウンタ初期値LENGTHの値としてL3(L2<L3)が対応付けられている。
ここで、T1<T2<T3<T4及びL1<L2<L3という大小関係により、ハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψが小さい場合には、過剰なハングオーバー期間が付与されないように小さいハングオーバーカウンタ初期値LENGTHが設定され、ハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψが大きい場合には、付与されるハングオーバー期間が不足しないように大きいハングオーバーカウンタ初期値LENGTHが設定されるようになる。
ハングオーバーカウンタ初期値照合部32は、初期化閾値受信部31が受信したハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψ(K)をキーとして、初期値記憶部33を照合し、その初期化閾値Ψ(K)の値が属する範囲に対応付けられているハングオーバーカウンタ初期値LENGTHの値を取り出すものである。
ハングオーバーカウンタ初期値送信部34は、ハングオーバーカウンタ初期値照合部32が得たハングオーバーカウンタ初期値LENGTHを現フレームに係る初期値LENGTH(K)として、目的音声区間検出・ハングオーバー付与部15に送信するものである。
第3の実施形態の目的音声区間検出・ハングオーバー付与部15は、ハングオーバーカウンタ初期化閾値制御部16からのハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψ(K)とハングオーバーカウンタ初期値制御部17からのハングオーバーカウンタ初期値LENGTH(K)とを適用して、ハングオーバー付与機能を実行するものである。
(C−2)第3の実施形態の動作
次に、第3の実施形態の音声信号処理装置1Bの動作を、図面を参照しながら、全体動作、ハングオーバーカウンタ初期値制御部17における詳細動作の順に説明する。
一対のマイクm_1及びm_2から入力された信号s1(n)、s2(n)はそれぞれ、FFT部10によって時間領域から周波数領域の信号X1(f,K)、X2(f,K)に変換された後、第1及び第2の指向性形成部11及び12のそれぞれによって、所定の方位に死角を有する指向性信号B1(f,K)、B2(f,K)が生成される。そして、コヒーレンス計算部13において、指向性信号B1(f,K)及びB2(f,K)を適用して、(6)式及び(7)式の演算が実行され、コヒーレンスCOH(K)が算出される。
ハングオーバーカウンタ初期化閾値制御部16においては、コヒーレンスCOH(K)と、目的音声区間検出結果変数VAD_RES(K)とに基づき、目的音声区間におけるコヒーレンスの分散が算出され、さらに、算出された分散に基づいて、ハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψ(K)が定められて目的音声区間検出・ハングオーバー付与部15及びハングオーバーカウンタ初期値制御部17に与えられる。
ハングオーバーカウンタ初期値制御部17においては、ハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψ(K)に応じたハングオーバーカウンタ初期値LENGTH(K)が得られ、目的音声区間検出・ハングオーバー付与部15に与えられる。
目的音声区間検出・ハングオーバー付与部15においては、コヒーレンスCOH(K)に基づいて、目的音声区間か非目的音声区間かが判定されると共に、コヒーレンスCOH(K)がハングオーバーカウンタ初期化閾値制御部16から与えられたハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψ(K)以上のときには、目的音声区間であるという判定結果が、ハングオーバーカウンタ初期値制御部17からのハングオーバーカウンタ初期値LENGTH(K)で定める期間だけ保持され(上述した図2参照)、そのようにして形成された判定結果変数VAD_RES(K)が後段に出力される。
次に、ハングオーバーカウンタ初期値制御部17の動作を説明する。フローチャートの図示は省略するが。ハングオーバーカウンタ初期値制御部17の内部構成を示した上述した図8は、ハングオーバーカウンタ初期値制御部17の動作を示すフローチャートと見ることもできる。
初期化閾値受信部31において、ハングオーバーカウンタ初期化閾値制御部16からのハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψ(K)が受信される。そして、ハングオーバーカウンタ初期値照合部32によって、初期値記憶部33から、受信されたハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψ(K)に応じたハングオーバーカウンタ初期値LENGTH(K)が得られ、ハングオーバーカウンタ初期値送信部34によって、目的音声区間検出・ハングオーバー付与部15に送信され、その後、次のフレームの処理に移行する。
(C−3)第3の実施形態の効果
第3の実施形態によれば、第2の実施形態と同様な効果に加え、以下のような効果を奏することができる。
第3の実施形態によれば、ハングオーバーカウンタ初期化閾値と対応する最適なハングオーバーカウンタ初期値を用いることができるので、過不足のないハングオーバー効果が得られる。
(D)他の実施形態
上記各実施形態では、目的音声区間判定閾値Φが1つのものを示したが、目的音声区間判定閾値として複数の閾値を設け、ハングオーバー操作を変えるようにしても良い。例えば、目的音声区間判定閾値としてΦ1及びΦ2(Φ1>Φ2)を設け、コヒーレンスCOH(K)が目的音声区間判定閾値Φ1以上のときは判定結果変数VAD_RES(K)に1.0を設定し、コヒーレンスCOH(K)が目的音声区間判定閾値Φ2以上Φ1未満のときは判定結果変数VAD_RES(K)に1.0を設定すると共に、ハングオーバーカウンタcounterを1デクリメントし(counter=counter−1)、コヒーレンスCOH(K)が目的音声区間判定閾値Φ2未満であってハングオーバーカウンタcounterが正のときは判定結果変数VAD_RES(K)に1.0を設定すると共に、ハングオーバーカウンタcounterを2デクリメントし(counter=counter−2)、コヒーレンスCOH(K)が目的音声区間判定閾値Φ2未満であってハングオーバーカウンタcounterが0若しくは負のときは判定結果変数VAD_RES(K)に0.0を設定するようにしても良い。なお、ハングオーバーカウンタcounterをソフトウェアで実現している場合には、デクリメントの単位量として、整数ではない小数を適用するようにしても良い。
上記第2及び第3の実施形態においては、フレーム毎に、ハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψ(K)を見直すものを示したが、ハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψ(K)の見直し周期はこれに限定されるものではない。例えば、10フレーム毎にハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψ(K)を見直すようにしても良く、1秒毎にハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψ(K)を見直すようにしても良い。
同様に、ハングオーバーカウンタ初期値LENGTH(K)の見直し周期もフレーム毎に限定されるものではない。また、ハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψ(K)の見直し周期と、ハングオーバーカウンタ初期値LENGTH(K)の見直し周期とが一致していなくても良く、後者の周期が長くても良い。例えば、ハングオーバーカウンタ初期値LENGTH(K)の見直しを2分毎に1回行うようにしても良い。
上記第2及び第3の実施形態においては、算出されたコヒーレンスの分散をそのままハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψ(K)の決定に用いるものを示したが、分散を正規化して、ハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψ(K)の決定に用いるようにしても良い。例えば、入力音声信号の平均レベルの大小によって分散も変動することを考慮し、分散を入力信号レベル(例えば平均レベル)で正規化した上で、ハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψ(K)の決定に用いる。
上記第2及び第3の実施形態においては、コヒーレンスのばらつきを表す指標として分散を適用するものを示したが、他の指標を適用するようにしても良い。例えば、標準偏差を適用しても良く、コヒーレンスの瞬時値と平均値との差の絶対値の総和を適用しても良く、変動係数を適用しても良い。
上記第3の実施形態においては、ハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψ(K)に応じて、ハングオーバーカウンタ初期値LENGTH(K)を変更(制御)するものを示したが、ハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψ(K)に応じてハングオーバー長を制御できる方法であれば他の方法を適用するようにしても良い。例えば、ハングオーバーカウンタ初期値LENGTHを固定したまま、ハングオーバーカウンタcounterをデクリメントする際のデクリメントの単位量を、ハングオーバーカウンタ初期化閾値Ψ(K)に応じて変更(制御)して、ハングオーバー長を変更(制御)するようにしても良い。
上記各実施形態においては、分散に応じたハングオーバーカウンタ初期化閾値の取得や、ハングオーバーカウンタ初期化閾値に応じたハングオーバーカウンタ初期値の取得を変換テーブル(記憶部)を用いて行うものを示したが、他の方法で取得するようにしても良い。例えば、変換式を適用して、分散に応じたハングオーバーカウンタ初期化閾値や、ハングオーバーカウンタ初期化閾値に応じたハングオーバーカウンタ初期値を得るようにしても良い。
上記第3の実施形態においては、ハングオーバーカウンタ初期化閾値からハングオーバーカウンタ初期値を得るものを示したが、ハングオーバーカウンタ初期化閾値を得る元であるコヒーレンスの分散から、ハングオーバーカウンタ初期値を得るようにしても良い。例えば、コヒーレンスの分散の範囲に対応付けて、ハングオーバーカウンタ初期化閾値及びハングオーバーカウンタ初期値を記述した変換テーブルを用意しておき、コヒーレンスの分散に応じたハングオーバーカウンタ初期化閾値及びハングオーバーカウンタ初期値を同時に得るようにしても良い。
上記各実施形態において、周波数領域の信号で処理していた処理を、可能ならば時間領域の信号で処理するようにしても良く、逆に、時間領域の信号で処理していた処理を、可能ならば周波数領域の信号で処理するようにしても良い。
上記各実施形態では、一対のマイクが捕捉した信号を直ちに処理する場合を示したが、本発明の処理対象の音声信号はこれに限定されるものではない。例えば、記録媒体から読み出した一対の音声信号を処理する場合にも、本発明を適用することができ、また、対向装置から送信されてきた一対の音声信号を処理する場合にも、本発明を適用することができる。
m_1、m_2…マイク、10…FFT部、11…第1指向性形成部、12…第2の指向性形成部、13…コヒーレンス計算部、15…目的音声区間検出・ハングオーバー付与部、16…ハングオーバーカウンタ初期化閾値制御部、17…ハングオーバーカウンタ初期値制御部、21…コヒーレンス・判定結果受信部、22…閾値更新制御部、23…分散計算部、24…ハングオーバーカウンタ初期化閾値照合部、25…初期化閾値記憶部、26…ハングオーバーカウンタ初期化閾値送信部、31…初期化閾値受信部、32…ハングオーバーカウンタ初期値照合部、33…初期値記憶部、34…ハングオーバーカウンタ初期値送信部。

Claims (7)

  1. 入力音声信号から目的音声の区間と非目的音声の区間とを切り分ける音声信号処理装置において、
    入力音声信号に遅延減算処理を施すことで、第1の所定方位に死角を有する指向性特性を付与した第1の指向性信号を形成する第1の指向性形成部と、
    入力音声信号に遅延減算処理を施すことで、前記第1の所定方位とは異なる第2の所定方位に死角を有する指向性特性を付与した第2の指向性信号を形成する第2の指向性形成部と、
    前記第1及び第2の指向性信号を用いてコヒーレンスを得るコヒーレンス計算部と、
    前記コヒーレンスと目的音声区間判定閾値とを比較して、入力音声信号が、目的方位から到来している目的音声の区間か、それ以外の非目的音声区間かを判定すると共に、前記コヒーレンスと、前記目的音声区間判定閾値より大きいハングオーバー付与閾値とを比較して、前記目的音声区間判定閾値を用いた比較による判定結果が目的音声区間から非目的音声区間へ変化しても、所定のハングオーバー長だけ、目的音声区間という判定結果を継続させる目的音声区間検出・ハングオーバー付与部と
    を有することを特徴とする音声信号処理装置。
  2. 目的音声区間におけるコヒーレンスのばらつきを表す統計量を得て、得られた統計量に応じて、前記目的音声区間検出・ハングオーバー付与部が適用する前記ハングオーバー付与閾値を制御するハングオーバー付与閾値制御部をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の音声信号処理装置。
  3. 前記ハングオーバー付与閾値制御部は、
    目的音声区間と判定された複数のコヒーレンスからコヒーレンスの分散を計算するコヒーレンス分散計算部と、
    コヒーレンス分散とハングオーバー付与閾値との対応関係を記憶している第1の記憶部と、
    算出されたコヒーレンス分散に応じたハングオーバー付与閾値を前記第1の記憶部から取得するハングオーバー付与閾値照合部と
    を有することを特徴とする請求項2に記載の音声信号処理装置。
  4. 前記目的音声区間検出・ハングオーバー付与部が適用する前記ハングオーバー付与閾値に応じて、前記目的音声区間検出・ハングオーバー付与部が付与する前記ハングオーバー長を制御するハングオーバー長制御部をさらに備えることを特徴とする請求項2又は3に記載の音声信号処理装置。
  5. 前記ハングオーバー長制御部は、
    ハングオーバー付与閾値とハングオーバー長の対応関係を記憶している第2の記憶部と、
    前記目的音声区間検出・ハングオーバー付与部が適用する前記ハングオーバー付与閾値に応じたハングオーバー長を前記第2の記憶部から取得するハングオーバー長照合部と
    を有することを特徴とする請求項4に記載の音声信号処理装置。
  6. 入力音声信号から目的音声の区間と非目的音声の区間とを切り分ける音声信号処理方法において、
    第1の指向性形成部は、入力音声信号に遅延減算処理を施すことで、第1の所定方位に死角を有する指向性特性を付与した第1の指向性信号を形成し、
    第2の指向性形成部は、入力音声信号に遅延減算処理を施すことで、前記第1の所定方位とは異なる第2の所定方位に死角を有する指向性特性を付与した第2の指向性信号を形成し、
    コヒーレンス計算部は、前記第1及び第2の指向性信号を用いてコヒーレンスを計算し、
    目的音声区間検出・ハングオーバー付与部は、計算された前記コヒーレンスと目的音声区間判定閾値とを比較して、入力音声信号が、目的方位から到来している目的音声の区間か、それ以外の非目的音声区間かを判定すると共に、前記コヒーレンスと、前記目的音声区間判定閾値より大きいハングオーバー付与閾値とを比較して、前記目的音声区間判定閾値を用いた比較による判定結果が目的音声区間から非目的音声区間へ変化しても、所定のハングオーバー長だけ、目的音声区間という判定結果を継続させる
    ことを特徴とする音声信号処理方法。
  7. コンピュータを、
    入力音声信号に遅延減算処理を施すことで、第1の所定方位に死角を有する指向性特性を付与した第1の指向性信号を形成する第1の指向性形成部と、
    入力音声信号に遅延減算処理を施すことで、前記第1の所定方位とは異なる第2の所定方位に死角を有する指向性特性を付与した第2の指向性信号を形成する第2の指向性形成部と、
    前記第1及び第2の指向性信号を用いてコヒーレンスを得るコヒーレンス計算部と、
    前記コヒーレンスと目的音声区間判定閾値とを比較して、入力音声信号が、目的方位から到来している目的音声の区間か、それ以外の非目的音声区間かを判定すると共に、前記コヒーレンスと、前記目的音声区間判定閾値より大きいハングオーバー付与閾値とを比較して、前記目的音声区間判定閾値を用いた比較による判定結果が目的音声区間から非目的音声区間へ変化しても、所定のハングオーバー長だけ、目的音声区間という判定結果を継続させる目的音声区間検出・ハングオーバー付与部と
    して機能させることを特徴とする音声信号処理プログラム。
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