JP2014014382A - 移植用足場材 - Google Patents

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Abstract

【課題】 神経線維伸長や血管新生を促進する再生医療用の移植用足場材であって、挿入時に組織に与える障害が少なく、生体内で食細胞に貪食されうる新たな移植用足場材を提供すること。
【解決手段】 生分解性高分子からなる繊維状構造体の一端に針状磁性体を結合させてなる移植用足場材、または生分解性高分子からなる繊維状構造体の内腔に針状磁性体を挿入させてなる移植用足場材、ならびにその作製方法および使用方法が開示される。本発明の移植用足場材は、磁場発生装置を用いて、組織中の治療すべき損傷部位に容易に挿入することができる。
【選択図】 なし

Description

本発明は、神経線維伸長や血管新生を促進する再生医療用の移植用足場材に関する。
脳や脊髄の損傷により神経線維が障害を受けた場合、神経細胞が自然に再生して損傷が修復されることはない。生体反応により損傷部位にグリア瘢痕と呼ばれる硬く柔軟性を欠いた線維組織が生じ、神経線維がこれを超えて伸長することができないためである。また、生体内には神経細胞の成長を阻害する因子(例えば、Nogo、MAG、OMgpなど)が存在し、これらの因子の作用により神経線維の伸長が阻害される。
このため、神経細胞の再生を促進するために、損傷部位に生分解性高分子の繊維や極細のワイヤーからなる足場を移植して、足場に沿って神経細胞が伸長できるようにする技術が提案されている。
特開2005−270237には、ポリ乳酸(PLG)、ポリグリコール酸(PGA)、乳酸−グリコール酸共重合体(PLGA)などの生分解性ポリマーと、シュワン細胞または神経細胞からなる組成物を神経再生用材料として使用することが開示されている。
特開2005−517573には、ポリ乳酸(PLG)、ポリグリコール酸(PGA)、乳酸−グリコール酸共重合体(PLGA)などの生分解性ポリマーの表面にNGFやBDNFなどの神経成長因子を担持した足場が開示され、これらの因子が神経細胞の伸長を助けることが示されている。
特開2007−177074には、ポリ乳酸(PLG)などの生分解性ポリマーにコラーゲンを含有させた組成物を、板状、糸状、網状などの構造に成型した神経再生ガイドが開示されており、これをラット坐骨神経切断部に移植し、坐骨神経の再生を確認している。
Biomaterials, vol.29, No.9, pp1998-1206 (2008)には、生分解性のポリ−β−ヒドロキシブチレート(PHB)の繊維布にフィブロネクチンまたはラミニンを付着させた足場上でシュワン細胞がよく増殖すること、PHB繊維布/フィブロネクチン/シュワン細胞からなる足場を脊髄損傷ラットの脊髄欠損部位に移植したところ、繊維布内で神経線維が伸長したことが開示されている。
Clin med J. vol.123, No.17, pp2424-31 (2010) には、神経幹細胞(NSC)およびシュワン細胞を付着させたPLGAの足場をラットの脊髄損傷部位に移植したところ、ラットの運動能(BBBスコア)が回復したことが開示されている。
Tissue Eng Part B Rev. vol.17, No.3, pp177-94 (2011)には、脊髄損傷の修復のための足場について、その材質や作成技術などを概説している。生分解性の足場材料として、ヒアルロン酸、アルギン酸、コラーゲン、ポリ乳酸、PGA、およびPLGA、ならびにこれらの組み合わせが挙げられている。
しかしながら、生分解性高分子からなる繊維状足場は、組織の損傷部位に挿入する際に当該繊維より太い針を用いるか、あるいは臓器を切開して当該繊維を埋設する必要があり、組織に与える障害が大きいという欠点がある。
国際公開WO2001/061474には、磁性体からなる複数のナノワイヤを互いに連結して筒状またはかご状に成型した連結磁性体、ならびにその製造方法および注入方法が開示されている。
特開2008−007478には、神経線維の伸展用薬剤を表面に結合させた磁性体からなるナノワイヤを体内の神経細胞近傍に注入し、体外からこのナノワイヤに磁力を与えて誘導し、所定位置で鎖状にして配置することにより、神経線維の伸展用薬剤の位置を制御する方法が開示されている。
しかしながら、磁性体からなるナノワイヤは、サイズが小さいと速やかに食細胞に貪食されて、長期的な神経回路の構築の足場としての機能を果たせず、一方、サイズが大きいと除去が困難であるという欠点がある。
また、血管新生は癌治療、糖尿病、リウマチにおいて重要な治療のターゲットである。外科的治療(目的部位に血管を敷設)と共に血管新生制御物質のドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発は世界的な研究テーマであるが、決定打となる技術は未だ開発されていない。その理由は血管新生・構築の足場となる素材の性能が満足できるレベルまで達していないこと、長期間目的の部位のみに栄養因子を供給し続けるDDSが確立されていないこと、足場埋設時の組織破壊と患部の血流障害による創傷治癒遅延、などが挙げられる。
血管新生療法として、VEGFやbFGFなどの成長因子あるいはその遺伝子を目的部位に注入する方法や、ゼラチンハイドロゲルやコラーゲンゲルなどの生体吸収性分子に付着された成長因子を注入する方法が取られている。
しかしながら、成長因子あるいはその遺伝子を直接注入する方法においては、長期間目的の部位のみに成長因子などを供給できない問題がある。ゲルによる3次元構造体は、ゲルの体積が大きくならざるを得ず、生体組織が反応できる表面積は非常に小さくなる一方で、ゲル埋め込みによる手術侵襲とデットスペースによる膿汁貯留と感染症の危険が不可避となる。
特開2005−270237 特開2005−517573 特開2007−177074 国際公開WO2001/061474 特開2008−007478
Biomaterials, vol.29, No.9, pp1998-1206 (2008) Clin med J. vol.123, No.17, pp2424-31 (2010) Tissue eng Part B Rev. vol.17, No.3, pp177-94 (2011)
本発明は、神経線維伸長や血管新生を促進する再生医療用の移植用足場材であって、挿入時に組織に与える障害が少なく、感染の危険も少ない、また生体内で食細胞に貪食されうる新たな移植用足場材を提供することを目的とする。
本発明のさらなる目的は、安全性の面から体内で溶解吸収され、感染症や異物反応(炎症、免疫反応)の危険性を最小限に抑えることができる素材の足場構造体を提供することであり、このような足場構造体は、必要に応じて、栄養因子結合、細胞結合、遺伝子導入を同時に可能とする複数の機能を持つ。本発明の別の目的は、移植用足場を体内に正確に移植する為の方法を提供することである。
本発明者らは、針状磁性体を繊維状構造体の一端に結合させた再生医療用の移植用足場材や、比較的長い針状磁性体を繊維状構造体の内腔に挿入させた移植用足場材を用いることにより、神経伸長用の足場となる繊維状構造体を、磁石を利用して脳や脊髄内の障害部位に容易に挿入しうることを見出した。
すなわち、本発明は、下記の[1]〜[12]を提供する:
[1] 生分解性高分子からなる繊維状構造体の一端に針状磁性体を結合させてなる移植用足場材、または生分解性高分子からなる繊維状構造体の内腔に針状磁性体を挿入させてなる移植用足場材;
[2] 生分解性高分子が、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、グリコール酸/乳酸共重合体からなる群より選択される、[1]に記載の移植用足場材;
[3] 繊維状構造体にラミニン、フィブロネクチンおよびポリリジンからなる群より選択される細胞接着分子が結合されている、[1]または[2]に記載の移植用足場材;
[4] ラミニンが三次元ラミニンである[3]記載の移植用足場材;
[5] 繊維状構造体にへパリン、またはヘパラン硫酸が結合されている、[1]または[2]に記載の移植用足場材;
[6] 針状磁性体の材質がFeCrCoまたはニッケルまたは磁性ステンレスまたは鉄である、[1]−[5]のいずれかに記載の移植用足場材;
[7] 繊維状構造体が3次元網目構造を有する、[1]−[6]のいずれかに記載の移植用足場材;
[8]繊維状構造体に遺伝子導入用ベクターが、結合されている[1]〜[7]のいずれかに記載の移植用足場材;
[9] 繊維状構造体に神経栄養因子、神経接着分子、神経線維成長促進因子が結合されている、[1]−[7]のいずれかに記載の移植用足場材;
[10]繊維状構造体に血管新生因子、血管内皮細胞増殖分化因子が結合されている、[1]−[7]のいずれかに記載の移植用足場材;
[11] 繊維状構造体に、神経細胞、シュワン細胞、グリア細胞、神経幹細胞、iPS細胞、血管系細胞からなる群より選択される細胞が結合されている、[1]−[7]のいずれかに記載の移植用足場材;
[12] [1]−[11]のいずれかに記載の移植用足場材を、高感度磁気センサーを用いて目的の部位へ誘導することを特徴とする、移植用足場材の位置制御方法。
生分解性高分子繊維を神経損傷部位に留置するためには糸の先端に針を付ける必要があるが、本発明の足場材を用いる方法によれば、糸先に太い針を付ける必要がなく、組織には糸の直径と同一の大きさの穴ができるのみであるため、繊維構造体の留置にともなう出血や組織損傷を最小限に抑えることができる。生分解性高分子繊維の内腔に針状磁性体を挿入する場合も同様である。また、本発明の足場材は、安全性の面から体内で溶解吸収される素材であって、感染症や異物反応(炎症、免疫反応)の危険性を最小限に抑えることができる。さらに、移植用足場材を、高感度磁気センサーを用いて目的の位置へ誘導することにより、体内に正確に移植することも可能となる。
図1は、ラミニンを結合していないPGA足場における神経細胞の培養結果を示す。 図2は、ラミニンを結合させたPGA足場における神経細胞の培養結果を示す。 図3は、神経伸長用足場材を外部磁石を用いてゼリー内に挿入する方法を示す。 図4は、神経伸長用足場材を外部磁石を用いてゼリー内に挿入したときのワイヤの軌跡を示す。 図5は、ラミニン搭載PGA足場を脊髄損傷ラットの病変部位に障害部をまたいで移植する模式図を示す。 図6は、脊髄損傷ラットに足場構造体あるいは足場構造体と胎児神経組織由来細胞とを同時に移植したときのラットの運動機能を示す。 図7は、脊髄損傷ラットに足場構造体あるいは足場構造体と胎児神経組織由来細胞とを同時に移植したときの免疫組織学的染色の結果を示す。 図8は、PGA内腔に金属線が挿入されたPGA足場材における針状磁性体と繊維状構造体の結合方法を示す。 図9は、PGA内腔に金属線が挿入されたPGA足場材における海馬神経細胞の接着の評価についての培養結果を示す。 図10は、PGA内腔に金属線が挿入されたPGA足場材における海馬神経細胞の接着の評価についてデジタル蛍光顕微鏡にて撮影した結果である。 図11は、PGA足場構造体にヘパリンを結合し、さらにAAVを搭載して培養細胞にウイルスベクターを感染させた結果を示す。
本発明の神経伸長用足場材は、生分解性高分子からなる繊維状構造体の一端に針状磁性体を結合させた構造、または比較的長い針状磁性体を繊維状構造体の内腔に挿入させた構造を有する。
生分解性高分子とは、生体内で酵素の作用により加水分解されうる天然または合成の高分子をいい、例えば、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、グリコール酸/乳酸共重合体、ポリε−カプロラクトン、乳酸/ε−カプロラクトン共重合体、ポリヒドロキシ酪酸、ゼラチン、架橋ゼラチン、コラーゲン、アルギン酸、キチン、キトサン、ヒアルロン酸、セルロース、デンプン、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、ポリリジンなどを挙げることができる。本発明においては特に、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、グリコール酸/乳酸共重合体を用いることが好ましい。
これらの生分解性高分子からなる繊維の単糸直径は、挿入すべき組織の特性および損傷の程度に応じて適宜選択することができ、例えば直径200μm以下であってもよく、100μm以下であってもよく、さらに直径10μm以下であってもよい。好ましくは直径1〜100μmがよい。編み込み完成系の直径は、使用目的により変えればよく、最大10000μmまで可能である。線維は単線で使用してもよく、束ねて使用してもよく、あるいは筒状やかご状に成型して使用してもよい。
足場となる繊維状構造体は糸状構造をなし、極細な単糸を立体的に編み上げることにより製造する。これにより足場のデットスペースは極小となる。複数の単糸を編むことでもよいし、性質の異なる複数の単糸を編み込むことにより、足場構造体に多くの機能を付与することもできる。編み込む単糸を寄り合わせて(2本から1000本程度)、複合構造を持つ3次元糸状構造体を制作する。単糸の構造は、円形、中空、多角形、有突起など目的により選択可能である。糸を紡ぐ方法は、使用目的に応じて使い分けしてもよい。
編み込み完成系は、通常の裁縫糸のように編み込んで編み目の大きさや編み構造を制御してもよいし、編み込んだ微細な網目状構造体を短冊状に切断して使用してもよい。足場構造体の内部に空洞を作ることにより、足場表面積拡大、デットスペース減少、移植細胞数の飛躍的増加、糸の吸収促進などの利点が望める。その制作方法として、単糸を芯とする場合、芯構造は何でもよく、金属線、プラスチックス線など、芯の回りに紡いで完成後に芯を除去することにより空洞のあるマイクロ足場を制作する。また、形状記憶素材により足場構造体を制作する場合は、単糸の形状では、単糸として円錐形の使用例を示すが、現在の製糸技術のもとでは中空、微細凹凸、多角形、突起構造など様々な形状の単糸を制作することが可能である。
繊維状構造体には細胞接着分子が結合されていてもよい。細胞接着分子とは、生分解性高分子への神経細胞の接着を促進する分子をいい、例えば、ラミニン、フィブロネクチンおよびポリリジンが挙げられる。繊維状構造体への細胞接着分子の結合は、化学結合によるものであっても、物理的結合、例えば吸着によるものであってもよい。例えば、中枢神経系の場合にはラミニン水溶液(1〜1000μg/ml)にPGA足場を室温にて2〜16時間浸漬させ、次にPGA足場を蒸留水で洗浄し、乾燥することにより、ラミニンが結合したPGA足場を形成することができる。
また、繊維状構造体にはヘパリンやヘパラン硫酸が結合されていてもよい。へパリンとヘパラン硫酸はアデノ随伴ウイルスなどのウイルスと結合親和性をもち、ウイルスベクターを繊維に効率的に結合させる機能をもつことが知られている。
本発明の移植用足場材の針状磁性体は、直径が200μm以下の極細磁石である。針状磁性体の直径は、挿入すべき組織の特性および損傷の程度に応じて適宜選択することができ、例えば、直径100μm以下であってもよく、さらに直径10μm以下であってもよい。好ましくは、針状磁性体の直径は繊維状構造体の直径より小さくなるよう選択される。針状磁性体の長さは、挿入すべき組織の特性および損傷の程度に応じて適宜選択することができ、繊維状構造体の一端に針状磁性体を結合させた構造の場合、例えば100μm〜200mmである。好ましくは100μm〜1mmである。比較的長い針状磁性体を繊維状構造体の内腔に挿入させた構造の場合、例えば100μm〜300mmである。好ましくは100mm〜200mmである。
磁場を使用せずに用手的に移植用足場材を組織に挿入・敷設する場合には、内腔に挿入する芯材の長さは移植する足場材の体内敷設長よりも長くすることができ、材質も非磁性金属あるいはテフロン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの有機素材を使用することもできる。芯材の直径はたとえば100μm〜2000μmであり、臓器の種類や足場敷設部位などの目的に応じて選択できる。
針状磁性体の材料としては、例えば、鉄、金、銅、鉛、ニッケル、白金、ならびにこれらの合金、あるいは磁性ステンレスワイヤ等の任意の金属材料を用いることができる。FeCrCoやニッケルまたは磁性ステンレスまたは鉄が特に好ましい。
針状磁性体は、金属材料としてFeCrCoを使用する場合、市販FeCrCo線を熱により引き延ばしナノワイヤを形成する。直径は50μm、100μm、または200μmが好ましい。直径が50〜200μm範囲の市販ニッケル線(ニラコ社製なと)を使用してもよい。
針状磁性体を繊維状構造体に結合させるためには、磁石を足場糸に差し込み、200〜250度程度で数秒加熱し、糸を溶解させ磁石線と接着する。また、薬剤で接着してもよい。
比較的長い針状磁性体を繊維状構造体の内腔に挿入した構造体を制作する方法として、まず芯として比較的長い金属棒やプラスチックス、又は糸を入れて繊維状構造体を編み、編み終わった後に芯を抜き針状磁性体を挿入することで目的の構造体が形成される。糸の芯を使用する場合、太い糸を使用してもよいし編んだ物でもよい。芯の直径は、繊維状構造体の収縮率が高い為針状磁性体の直径と比較して少し小さめの寸法を選択すればよい。
針状磁性体と繊維状構造体との結合は、針状磁性体の長さを繊維状構造体の長さより少し長めに制作し、一方の端のみ糊剤や熱融着により結合させる。糊剤として例えば.5% の濃度でポリ乳酸(PLLA)とクロロホルムを混合した糊剤を使用してよい。熱融着の場合、200℃程度のハンダコテを繊維状構造体にあて融着してもよい。別途機械的に結合させる方法も考えられる。
針状磁性体と繊維状構造体を1ケ所結合することで、外部磁場により針状磁性体と繊維状構造体を同時に制御できる。
また、繊維状構造体には、神経細胞や血管新生の成長を促進するタンパク質やウイルスが結合されていてもよい。神経細胞の成長を促進するタンパク質としては、例えば、神経成長因子(たとえばNGF、ニューロトロフィン−3、ニューロトロフィン−4)、神経栄養因子(線維芽細胞増殖因子ファミリー分子、肝細胞増殖因子)などが挙げられる。
血管新生の成長を促進するタンパク質としては、VEGF、bFGF、またはケモカインなどが挙げられる。また、ウイルスベクターとしては、神経細胞の成長を促進するタンパク質をコードする遺伝子を組み込んだ遺伝子導入用のウイルスベクターや、血管新生の成長を促進するタンパク質をコードする遺伝子を組み込んだ遺伝子導入用のウイルスベクターを用いることができる。例としては、センダイウイルスベクター、レンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、およびアデノ随伴ウイルスベクター等が挙げられる。
さらに、繊維状構造体にはシュワン細胞が結合されていてもよい。シュワン細胞は多くの神経成長因子を産生するとともに、フィブロネクチンやラミニンなどの細胞外基質成分を産生するため、神経再生や脊髄損傷部位の再生を促進することが知られている(例えば、Biomaterials, vol.29, No.9, pp1998-1206 (2008))。シュワン細胞を繊維状構造体の表面で増殖させる方法は当該技術分野において知られている。
本発明の移植用足場材は、磁場発生装置を用いて、組織中の治療すべき神経損傷部位に挿入し、留置することができる。
磁場発生装置としては、例えば、WO2001/061474に開示される磁場制御装置を用いることができる。磁場発生装置は、電磁石と発生する磁場を制御する制御装置とを備え、先端に誘導針を有する。誘導針は、先端部分で電磁石から発生した磁場の磁束密度を高めるための磁性金属の針である。誘導針を、本発明の足場材を挿入すべき標的組織の付近に密着させるかまたは挿入した後、制御装置を操作して磁場を発生させる。磁場の強度と誘導針の位置を調節することにより、針状磁性体を誘導して、本発明の移植用足場材を所望の位置に挿入することができる。また、挿入時に高感度磁気センサーを利用することにより、針状磁性体からなる先端部の正確な位置をモニターすることができる。高感度磁気センサーを利用した手術中のモニター方法として、例えばホール素子、磁気インピーダンス効果を利用したMIセンサー、SQUID磁気センサーの利用が考えられる。
本発明の移植用足場材を挿入した後、針状磁性体は、磁石として無害な鉄系磁石を用いる場合には挿入部位にそのまま留置してもよいし、針状磁性体部分を体外に導き出したのちに、針状磁性体部分と繊維状構造体部分とをはさみ等で切断して、繊維状構造体部分のみを体内に留置してもよい。安全性を考慮すると繊維状構造体部分のみを体内に留置した方が好ましい。
比較的長い針状磁性体を繊維状構造体の内腔に挿入させた構造の場合、足場糸の表面積は増加し、移植用足場系全長に磁力線を挿入することが可能となるため強力な磁場誘導効果が得られる。さらに太い針状磁性体を用いれば物理的な力での足場敷設も可能となる。足場敷設後には、針状磁性体と繊維状構造体の結合箇所を体外に導き出したのちに、結合部分をはさみ等で切断して、内腔に挿入した磁石線を抜去することも可能である。また、金属線は生体組織に比して硬いため、内腔に挿入した金属線の先端を斜めにカットすることにより用手的に足場構造体を組織に挿入することも可能である。
中枢神経(脳、脊髄)に繊維状構造体を敷設する場合には、繊維状構造体の編み上げに使用した芯材を抜去して、代わりにFeCrCoまたはニッケル線などの材質の磁性体を内腔に挿入することが出来る。その際、堅い芯材を使用すると種々の臓器への刺入も可能である。
本発明の移植用足場材を培養液中に保持することが可能なので、移植用足場材と細胞を細胞培養装置で培養し、3次元構造を取る神経や血管などの組織を足場糸の周囲に構築後、生体内に移植・敷設してもよい。
このようにして、本発明の移植用足場材を神経損傷部位に留置することにより、神経細胞が繊維状構造体に沿って伸長し、損傷部位が修復されて、神経のネットワークが再構築される。このことにより、事故や疾患で失われた神経機能、例えば、運動機能、感覚機能、自律神経機能の回復が可能となる。
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
(実施例1)PGA足場繊維状構造体への接着分子ラミニンの搭載
ラミニンを10μg/mlで0.1N-リン酸バッファ(pH7.2)に溶解し、PGA繊維を浸漬した(室温、16時間)。次に、PGA繊維を前記のリン酸バッファで洗浄し、乾燥させラミニン結合PGA足場とした。このときラミニンは三次元構造を有している。
このようにして形成した足場繊維状構造体の上で、ラット脳由来神経細胞を3日間培養後走査電子顕微鏡で観察した。図1は未処理のPGA足場、図2はラミニンを結合させたPGA足場である。結果より、未処理のPGA足場では神経細胞は接着できないが、ラミニンを結合させたPGA足場では多数の神経細胞が接着し神経線維を進展させている。図1は未処理のPGA足場を、図2はラミニンを結合させたPGA足場を示す。
(実施例2)移植用足場構造体の磁場による敷設例
磁石としては市販のFeCrCoワイヤを用いた。磁石を足場糸に差し込み、200〜250度程度で数秒加熱し糸を溶解させて、足場糸と磁石を結合させた。
市販の寒天ゼリーを使用して、脊髄を模したゼリーを作製した。ゼリーの硬度は食品硬度測定装置(島津製作所)にて測定した。直径100ミクロンの金属線を10mmのゼリー表面に垂直に立て、ゼリーにむけて金属線を下ろしていく。ゼリーが崩壊して金属線がゼリー内に進入する瞬間の力を測定すると、0.71Nであった。
図3に、外部磁石を用いるゼリー内挿入の方法を示す。磁性ワイヤをゼリー内に配置し、永久磁石を磁性ワイヤに近づけていき、ワイヤが磁石に付着した距離を測定した。永久磁石の発生地場から吸引力を算出した。磁性ワイヤをゼリー内にて永久磁石の磁極に垂直に配置したときの磁性ワイヤ角度を0度とする。使用磁石は0.3Teslaのネオジム永久磁石である。
永久磁石の先端に針状磁性体を取り付けて、磁場を形成した。図4のように、脊髄を模倣したゼリー内において極細磁性体(鉄クロム系磁石線と糸状PGA足場構造体を接合したもの)を誘導することができる。外部磁石先端部と極細磁石線の当初の距離は10mmであり、ゼリー内を極細磁石線(および足場構造体)が外部磁石による磁場の作用で移動、吸引された状態である。
(実施例3)ラミニン搭載PGA足場を脊髄損傷ラットの病変部位に移植した例
ラット脊髄外傷モデルにおいて、障害部をまたいで足場構造体あるいは足場構造体と胎児神経組織由来細胞とを同時に移植し、ラットの運動機能を評価した(図5)。
脊髄損傷ラットは次のようにして作成した。全身麻酔下で、SD種の雌ラット(体重180-220グラム)の脊髄を第10胸椎において露出し、鋭利な眼科用ハサミにて脊髄(背側)を半切することにより脊髄損傷を作成した。損傷部分を閉じて皮膚を縫合した。齧歯類において脳からの運動制御神経系は主に脊髄背側を通過するため、本法により受傷部分以下の運動機能は著明に障害されて両下肢を引きずって移動するようになる(BBBスコアでは、ほとんどの動物がゼロ点)。時間経過または治療による運動機能の変化をBBBスコアにより測定した。
実施例2と同様にして、FeCrCoワイヤを結合したPGA繊維を作成し、ラミニンを結合させた。なお、PGAの単繊維は直径10、20ミクロンのものを使用し、4〜8本をよりあわせた。
胎生17日のラット胎児から後根神経節(脊髄外側部に存在)を顕微鏡下で取り出し、神経細胞用培養液(DMEM:F12=1:1、 Sigma社)中で細切した。脊髄損傷部分は浮腫のため正常脊髄に比して著明に軟化・膨潤しており、PGA足場を簡単に損傷部分に敷設することが可能である。同様に脊髄損傷部分にラット胎児後根神経節を移植することもきわめて容易である。
1. 脊髄損傷のみの群(対照群)
2. 脊髄損傷+PGA足場のみ移植群
3. 脊髄損傷+ラット胎児後根神経節のみ移植群
4. 脊髄損傷+ラット胎児後根神経節+PGA足場移植群
の4群を作成した(脊髄損傷の28日後まで解析に用いたのはそれぞれの群につき5匹)。
下記の論文に従い、脊髄損傷動物の運動機能を脊髄損傷後経時的に観察した(1、7、14、21、28日後)。
BBB score = マヒの評価スコア
点数が大きいほど運動機能が正常に近い。ゼロ点は完全なマヒである
BBB SCALE(Basso DM, Beattie MS,Bresnahan JC. A sensitive and reliablelocomotor rating scale for open field testing in rats. J Neurotrauma.1995;12:1-21)
結果を図6に示す。移植28日後、もっとも運動機能回復効果が大きかったのは、PGA足場と胎児神経節細胞を移植した群であり、未治療群に比して有意に運動機能改善効果が得られた(p<0.05)。脊髄損傷のみで全く治療しなかった群(未治療群)はもっとも回復が悪かった。PGA足場のみ移植群および、胎児神経細胞のみ移植群は、その中間であった。
4週間後に、脊髄損傷部を免疫組織学的染色方法を用いて病理組織学的に観察した。脊髄損傷から28日後、動物はペントバルビタール麻酔により安楽死させ、4%-パラフォルムアルデヒド液(リン酸バッファに溶解したもの)を動脈に注入して灌流固定し、脊髄を取り出した、取り出した脊髄は上記のパラフォルムアルデヒド液に浸漬して後固定後、凍結切片を作成して組織学的検討をおこなった。抗神経線維マウスモノクローナル抗体(Abcam社)により神経線維と神経細胞を認識させ、つぎに蛍光ラベル抗マウス抗体を反応させ、共焦点顕微鏡(Zeiss社)により観察した。
結果を図7に示す。ラットに脊髄損傷(脊髄背面から脊髄を半分に切断し、4週間後まで運動機能を測定)を加え、ラミニン搭載PGA足場を用いたものである。足場に胎児神経組織由来細胞を移植した場合、足場内部に移植細胞が入り込んでいるのが観察される。
1. 脊髄損傷のみの未治療群では、脊髄損傷部は空洞となっており、神経繊維は存在しない。赤い線状あるいは点状に見えるのが神経線維(損傷部以外では赤い神経線維がたくさん見える)。
2. 胎児細胞移植のみ→胎児細胞は緑色に見える(胎児細胞はgreen fluorescent protein(GFP)を発現しているトランスジェニック動物由来であるため、緑色蛍光を発している)。しかし、神経線維は脊髄損傷部分の中には入ることができず、損傷部位は空洞となっている。また、胎児細胞(緑色蛍光)もひとかたまりになって存在しているのみであり、脊髄損傷部分に広がることができない。つまり、細胞移植のみでは、脊髄損傷部分をまたぐような神経線維連絡を構築することができない(つまり、細胞移植のみでは、十分な治療効果が得られない)。
3. PGA足場移植のみ→脊髄損傷による空洞をまたいでPGA足場が敷設されている。足場に接して神経線維(赤色)が存在しているが、脊髄損傷による空洞も見られる。なおPGA足場は青色(非特異的蛍光)として描出されている。
4. 胎児細胞移植+PGA足場移植→脊髄損傷部は足場と移植細胞で満たされている。脊髄損傷による空洞もほとんど認められなくなっている。神経線維(赤色および黄色=赤+緑の蛍光が重なってみえるため)が足場に沿って伸びているが、その数は3のPGA足場移植のみの場合よりも遙かに多いことに注目できる。
(実施例4)ポリリジンを用いた海馬神経細胞の接着の評価について
比較的長い針状磁性体を繊維状構造体の内腔に挿入させた構造の場合、芯として100μmの磁性線(鉄線)を使用し、その回りに繊維状構造体を編み、編み終わった後に芯を抜去し神経細胞を培養した。
針状磁性体と繊維状構造体の結合方法は、図8に示すように2通り検討した。図8上図は針状磁性体と繊維状構造体を熱融着で結合した例であり、図8下図は針状磁性体が突き抜けないようPGA製キャップをかぶせ、針状磁性体と繊維状構造体を5% の濃度でポリ乳酸(PLLA)とクロロホルムを混合した糊剤で結合した例である。以下の検討は、糊剤で結合した足場構造体を用いた。実施例2で示したラミニンの代わりにポリリジンを結合させた。
海馬神経細胞は次のようにして培養した。胎生19日のラット胎児より顕微鏡を用いて海馬を切り出し、HANKS(-) 10mlで洗浄後、Digestion solution ( 2.5% トリプシン 200ul + DNase solution 200ul)を加えた(37℃、10min)。20%ウシ胎児血清/HANKS(-)を10ml加え(トリプシン反応停止)、HANKS(-) 10mlで洗浄した。細胞を培養液(Gibco社NeurobasalにGibco社のB27栄養因子をGibco社の指示濃度になるよう添加したもの)にうつし、ピペッティング操作で細胞を分散し、培養皿に1.7X104cell/wellになるように蒔き、足場構造体(長さ5mm)とともに37度で3日間培養した。尚、培養前に内腔を作る時に用いた芯材は抜去している。
培養細胞(足場構造体)を定法通り4%パラフォルムアルデヒド液で固定し、免疫組織化学的染色法にて神経細胞を同定した。抗神経線維マウスモノクローナル抗体(Sigma)溶液に培養細胞(足場構造体)を室温で3時間浸漬し、0.1N-リン酸緩衝液(pH7.4)にて洗浄後、蛍光色素ラベル抗マウスIgG抗体(Sigma)を室温で1時間反応、さらに上記緩衝液でよく洗浄後、デジタル蛍光顕微鏡にて撮影した。顕微鏡画面において足場構造体の単位面積あたりの神経細胞数を画像解析ソフト(ImageJ)で測定した。
結果を図9、及び図10に示す。図9左図(下段は拡大図である)で示すように、ポリリジン未処理の糸状足場材を用いた場合には神経細胞は糸状足場材に全く接着できず、ごくまれに糸状足場材の単糸の交差部の隙間に嵌り込んだ神経細胞をかろうじて確認できる程度である.その場合、神経細胞の形態はきわめて不良であり神経線維も殆ど伸張することができない.これに対して、図9右図(下段は拡大図である)で示すようにポリリジンを表面に結合する糸状足場材には多数の神経細胞が接着し、足場材に内腔を構築することで、足場材を形成する一本一本の素材糸の周囲に無数の神経線維が絡みついていることがわかる。
図10は蛍光顕微鏡による観察結果である。足場材上に進展しているものが神経線維であることを、免疫染色(neurofilament染色)により証明した。足場材が内腔を持つことにより表面積が2倍以上となり、栄養因子や酸素が糸の内部にも浸透し、内腔の神経細胞が酸欠にならずに生存可能となる。また、内腔の神経細胞は宿主の細胞にじゃまされずに神経繊維を伸ばせる。よって健康な神経細胞の培養、あるいは脳脊髄への移植、その結果としての移植細胞の高い生着率が得られることになる。
(実施例5)PGA足場構造体にヘパリンを結合し、さらにAAVを搭載して培養細胞にウイルスベクターを感染させた。
ラミニンの代わりにヘパリンを用いて、実施例2と同様にしてPGA足場構造体にヘパリンを結合させた。ヘパリン10mg/mlリン酸バッファの濃度にて、PGA足場に室温で16時間反応させたあと、リン酸バッファでPGA足場を十分に洗浄後、乾燥させた。
上記のヘパリン結合PGA繊維をAAV溶液(ウイルス液0.1マイクロリットルを含むリン酸バッファ)に浸漬し、37度にて1時間反応させ、リン酸バッファで洗浄後、細胞とともに培養した。細胞培養条件は実施例4と同様である。なお、用いたAAV液におけるウイルス濃度は、1×1012 viral particle/mlである。
293細胞を培養皿一面に培養し、その上にAAVを搭載したPGA足場構造体を乗せ、3週間培養した。AAVには蛍光蛋白GFPの遺伝子をコードするAAVベクターが組み込まれているため、感染してGFPを発現する細胞は緑色蛍光を発する。
図11に示されるように、足場構造体に触れた細胞のみが緑色蛍光を発していた。このことは、AAVが足場構造体からほとんど離脱しないこと、およびAAVが活性を持った状態で足場構造体に結合していることを明示している。
本発明の移植用足場材は、神経損傷の治療、および血管新生を促進する再生医療に有用である。

Claims (12)

  1. 生分解性高分子からなる繊維状構造体の一端に針状磁性体を結合させてなる移植用足場材、または生分解性高分子からなる繊維状構造体の内腔に針状磁性体を挿入させてなる移植用足場材。
  2. 生分解性高分子が、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、グリコール酸/乳酸共重合体からなる群より選択される、請求項1に記載の移植用足場材。
  3. 繊維状構造体にラミニン、フィブロネクチンおよびポリリジンからなる群より選択される細胞接着分子が結合されている、請求項1または2に記載の移植用足場材。
  4. ラミニンが三次元ラミニンである請求項3に記載の移植用足場材。
  5. 繊維状構造体にヘパリン、またはヘパラン硫酸が結合されている、請求項1または2に記載の移植用足場材。
  6. 針状磁性体の材質がFeCrCo、またはニッケルまたは磁性ステンレスまたは鉄である、請求項1−5のいずれかに記載の移植用足場材。
  7. 繊維状構造体が3次元網目構造を有する、請求項1−6のいずれかに記載の移植用足場材。
  8. 繊維状構造体に遺伝子導入用ベクターが結合されている、請求項1−7のいずれかに記載の移植用足場材。
  9. 繊維状構造体に神経栄養因子、神経接着分子、神経線維成長促進因子が結合されている、請求項1−7のいずれかに記載の移植用足場材。
  10. 繊維状構造体に血管新生因子、血管内皮細胞増殖分化因子が結合されている、請求項1−7のいずれかに記載の移植用足場材。
  11. 繊維状構造体に、神経細胞、シュワン細胞、グリア細胞、神経幹細胞、iPS細胞、血管系細胞からなる群より選択される細胞が結合されている、請求項1−7のいずれかに記載の移植用足場材。
  12. 請求項1−11のいずれかに記載の移植用足場材を、高感度磁気センサーを用いて目的の部位へ誘導することを特徴とする、移植用足場材の位置制御方法。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2016195642A (ja) * 2015-04-02 2016-11-24 グンゼ株式会社 神経再生チューブ及び神経再生チューブの製造方法
US10610618B2 (en) 2013-12-16 2020-04-07 Eisai R&D Management Co., Ltd. Revascularization graft material
CN110960732A (zh) * 2019-11-18 2020-04-07 北京理工大学 一种具有中央灌流系统的活体神经支架及其制造方法

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