JP2014014288A - Hsf1とrpa1との相互作用阻害ペプチド - Google Patents
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Abstract
【解決手段】HSF1のwing領域がRPA1のssDNA結合ドメインと相互作用することを見出した。さらに、HSF1におけるwing領域のアミノ酸置換や、RPA1のssDNA結合ドメインのアミノ酸置換により、HSF1とRPA1との複合体の形成、つまりHSF1とRPA1との相互作用を阻害すると、腫瘍細胞の一つであるメラノーマ細胞の増殖が顕著に抑制されることを見出し、本発明を完成した。
【選択図】図6
Description
の相互作用阻害活性を有するペプチドおよびこのペプチドをコードするDNAや、かかるDNAを含んだ組換えベクターや、かかるペプチドを含んでなるHSF1とRPA1との相互作用阻害剤や、かかるペプチドを含んでなる抗腫瘍剤や、かかるペプチドに特異的に結合する抗体や、かかるペプチドを非ヒト動物に投与することを特徴とする腫瘍の予防・治療法や、抗腫瘍剤のスクリーニング方法に関する。
HSFは哺乳動物細胞において3種類(HSF1、HSF2、HSF4)が明らかにされているが、このうち、HSF1が、はじめてがん治療のターゲットとして示唆されたのは前立腺がんにおけるその発現上昇の発見にさかのぼる(非特許文献1)。この発見は特定のがんにおけるHSF1発現量とがんとの相関関係を示したものであり、特別な例と考えられていた。しかし、2007年のDaiらの発見により、HSF1はがん治療のターゲットとして大きな注目を集めることとなった(非特許文献2)。彼らは、様々ながん細胞株の増殖がHSF1ノックダウンにより顕著に抑制されることを示し、がん細胞の増殖がHSF1に依存することを示した。ここで重要なことは、正常な細胞増殖はHSF1のノックダウンの影響は受けず、これはがん細胞に特異的な作用であったことである。発明者らも、新しくメラノーマ細胞株の増殖がHSF1に依存することを明らかにした(非特許文献3)。つまり、HSF1をターゲットとしてがん細胞の増殖を抑制する化合物を見いだすことができれば、がんの治療に大きく貢献できると考えられた。その後、大規模な臨床解析が行われ、乳がんや肝細胞がんの患者組織でもHSF1の活性化ががん細胞の悪性度と関連することが明らかとなってきた(非特許文献4、5)。
ここで、「HSF1とRPA1の相互作用阻害活性を有するペプチド」は、HSF1とRPA1の相互作用を阻害する活性を有するペプチドであれば、その具体的な作用機構は特に限定されないが、HSF1のwing領域とRPA1のssDNA結合ドメインとの相互作用阻害活性を有することが好ましく、HSF1の87位のグリシンとRPA1のssDNA結合ドメインとの相互作用阻害活性を有することがより好ましく、HSF1の87位のグリシンとRPA1の238位若しくは269位との相互作用阻害活性を有することが特に好ましい。また、本発明において「相互作用」とは、「タンパク質分子間での非共有結合による複合体形成」を意味する。
かかる融合ペプチドは、常法により作製することができ、Ni−NTAとHisタグの親和性を利用した本発明のペプチドの精製や、本発明のペプチドの検出や、本発明のペプチドに対する抗体の定量や、その他当該分野の研究用試薬としても有用である。
本発明のDNAの取得方法や調製方法は特に限定されるものでなく、本明細書中に開示した配列番号1又は配列番号2に示されるアミノ酸配列情報に基づいて適当なプローブやプライマーを調製し、それらを用いて当該DNAが存在することが予測されるcDNAライブラリーをスクリーニングすることにより目的のDNAを単離する、あるいは常法に従って化学合成により調製することができる。
また、上記「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつHSF1とRPA1との相互作用阻害活性を有するペプチドをコードするDNA」とは、DNA又はRNAなどの核酸をプローブとして使用し、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラークハイブリダイゼーション法、あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより得られるDNAであって、かつHSF1とRPA1との相互作用阻害活性を有するペプチドをコードするDNAを意味する。
ハイブリダイゼーションは、モレキュラークローニング第2版等に記載されている方法に準じて行うことができ、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNAとしては、プローブとして使用するDNAの塩基配列と一定以上の相同性を有するDNAが挙げることができ、例えば60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有するDNAを好適に例示することができる。
発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製可能であるものや、あるいは宿主細胞の染色体中へ組込み可能であるものが好ましく、また、本発明のDNAを発現できる位置にプロモーター、エンハンサー、ターミネーター等の制御配列を含有しているものを好適に使用することができる。発現ベクターとしては、動物細胞用発現ベクター、酵母用発現ベクター、細菌用発現ベクター等を用いることができるが、動物細胞用発現ベクターを用いた組換えベクターが好ましい。
動物細胞用のプロモーターとしては、例えば、サイトメガロウイルス(ヒトCMV)のIE(immediate early)遺伝子のプロモーター、SV40の初期プロモーター、レトロウイルスのプロモーター、メタロチオネインプロモーター、ヒートショックプロモーター、SRαプロモーター等を挙げることができる。
酵母用のプロモーターとしては、例えば、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター、gal1プロモーター、gal10プロモーター、ヒートショックタンパク質プロモーター、MFα1プロモーター、CUP1プロモーター等のプロモーターを挙げることができる。
細菌用のプロモーターとしては、例えば、trpプロモーター(P trp)、lacプロモーター(P lac)、PLプロモーター、PRプロモーター、PSEプロモーター等の、大腸菌やファージ等に由来するプロモーター、SP01プロモーター、SP02プロモーター、penPプロモーター等を挙げることができる。
本発明の抗体は、HSF1とRPA1との相互作用部位に特異的に結合することにより、HSF1とRPA1との相互作用を特異的に阻害することが考えられる。また、本発明の抗体は、上記本発明のペプチドとの抗原抗体反応により、組織細胞、血清などにおけるHSF1又はRPA1遺伝子にかかわる疾患の検出に用いることができる。本発明の抗体を用いた免疫学的測定には、例えばRA法、ELISA法、FRET法等公知の免疫学的測定法を用いることができる。
投与方法としては、注射(静脈内、筋肉内、皮下、皮内、腹腔内等)、経口、経皮、吸入などを挙げることができ、これらの投与方法に応じて適宜製剤化することができる。また、選択し得る剤形も特に限定されず、例えば注射剤(溶液、懸濁液、乳濁液、用時溶解用固形剤等)、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、リポ化剤、軟膏剤、ゲル剤、外用散剤、スプレー剤、吸入散剤等から広く選択することができる。また、これらの製剤調製にあたり、慣用の賦形剤、安定化剤、結合剤、滑沢剤、乳化剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、その他着色剤、崩壊剤等、通常医薬に用いられる成分を使用することができる。また、投与量も適宜選択することができる。
このような本発明のスクリーニング方法によれば、抗腫瘍剤を効率良くスクリーニングすることができる。被検物質の存在下で、HSF1とRPA1との相互作用阻害活性を検出する方法としては、例えば、ELISA法やFRET法を挙げることができる。
1)ライブラリーの化合物をリコンビナントタンパク質とともに一定の濃度でELISA用の96ウェルプレートに添加し、吸光度を測定してHSF1とRPA1の相互作用と競合する活性があるかどうかを調べ、次に、競合活性を認めたものについて、濃度を変えて活性を調べる方法が挙げられる。
2)ヒトメラノーマ細胞(HMV-1、MeWo)は、HSF1のノックダウンによる細胞増殖が顕著に阻害される。この細胞に、HSF1-RPA1相互作用への競合活性をもつ化合物を添加して、細胞増殖を評価する方法、あるいはヌードマウスにヒトメラノーマ細胞等を接種して腫瘍を作らせる実験系を用いて、マウスに化合物を投与して腫瘍増殖をin vivoで評価する方法が挙げられる。
1)His−HSF1、及びGST−RPA1の精製リコンビナントタンパク質を準備し、テルビウム(Tb)標識抗His抗体でHSF1を色素標識し、アロフィコシアニン(APC)標識抗GST抗体でRPA1を色素標識する。そして、TbとAPCとの蛍光相互作用を、TecanインフィニットM1000モノクロメーター方式プレートリーダーを用いて検出装置で取得する。HSF1とRPA1のリコンビナントタンパク質は、相互作用部位を含むいくつかの断片を作成し、蛍光相互作用が最適なものを同定することでTR−FRET法を確立する。次に、化合物ライブラリーの中から蛍光相互作用を阻害するものをスクリーニングする。
2)がん細胞の増殖における活性の評価はELISA法のときと同様に行うことができる。
例に限定されるものではない。
これまでに、本発明者らは、HSF1とRPA1との相互作用によるHSF1−RPA1複合体が存在し、ヌクレオソーム構造をとるDNAに結合できることを明らかにしている(藤本ら、「HSF1−RPA1複合体はヌクレオソーム構造をとるDNAにアクセスする」、第34回日本分子生物学会年会プログラムp161, 2011)。今回、HSF1とRPA1とがどの領域を介して相互作用するかを以下の方法により詳細に検討した。
大腸菌でのGST融合タンパク質の発現ベクターを構築するために、hHSF1(ACCESSION番号;NM_005526 XM_937718、VERSION番号;NM_005526.2 GI:132626772)、hHSF1の変異体(HSF1−N1、HSF1−N2、HSF1−N3、HSF1−C1、HSF1−C2、HSF1−C3)(配列番号5〜11)、マウスRPA1(mRPA1)、mRPA1の変異体(RPA1−N1、RPA1−N2、RPA1−N3、RPA1−N4、RPA1−N5、RPA1−C1、RPA1−C2、RPA1−C3、RPA1−C4)(配列番号12〜21)。のcDNAをpGEX-2Tベクター(GE Healthcare社製)へ挿入したまた、C末端にヒスチジン(His)標識したタンパク質の発現ベクターの構築のために、cDNAをpET21a(Novagen社製)へ挿入した。
発現ベクターを導入された大腸菌にイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド(IPTG)を0.2mMまたは0.4mMとなるように加え、37℃で2時間または25℃で10時間インキュベートし、リコンビナントタンパク質を誘導した。その抽出液から、Glutathione Sepharose 4B(GE Healthcare社製)、あるいはNi Sepharose6 Fast Flow(GE Healthcare社製)のアフィニティーカラムを用いてGSTあるいはHis標識されたリコンビナントタンパク質を精製した。それらをNTバッファー(50mM Tris−HCl,pH7.5,150mM NaCl,1mM EDTA,0.5% NP40,1mM PMSF,1μg/ml leupeptin,1μg/ml statin)の中で混合し、Glutathione Sepharose 4BカラムでGST融合タンパク質とともに共沈降するHis標識タンパク質をHSF1、HSF2、HSF4、あるいはRPA1によるウエスタンブロッティングにより検出した。沈降してきたGSTタンパク質はGST抗体(sc-33613、Santa Cruz社製)を用いたウエスタンブロッティングにより検出した。
大腸菌で合成したGST−マウスRPA1の野生型(GST−RPA1)、及びGST−マウスRPA1欠損変異体(GST−N1〜N5、GST−C1〜C4)を精製し、同じく大腸菌で合成して精製したヒトHSF1(HSF1−His)を混合し、Glutathione-sepharose 4BカラムでGST融合RPA1タンパク質を沈降し、HSF1−Hisが共沈降するかどうか調べた(GST-pull down assay)。沈降してきたタンパク質複合体をSDS−PAGEで分離し、抗HSF1抗体(α−mHSF1j)または抗GST抗体(sc-33613、Santa Cruz社製)を用いてウエスタンブロッティングを行った。抗HSF1抗体は、以下の文献の記載に従って作成した(Fujimoto et al., J. Biol. Chem.283, 29961-29970, 2008)。
図1上段に大腸菌で合成したGST−マウスRPA1の野生型(GST−RPA1)、及び欠損変異体(GST−N1〜N5,GST−C1〜C4)の構造を示し、図1下段にウエスタンブロッティングの結果を示す。ウエスタンブロッティングの結果より、N4、N5、C3、C4では抗HSF1抗体によるバンドが検出されず、HSF1が共沈降していなかった。従って、図1のC4の右下に記載した横線に示すように、マウスRPA1の1本鎖DNA結合ドメイン(ssDNA結合ドメイン)A−Bにおける228位から391位のアミノ酸がヒトHSF1と相互作用することが明らかとなった。
図2上段に合成したGST−HSF1の野生型(GST−HSF1)、及び欠損変異体N1−N3,GST−C1〜C3)の構造を示し、図2下段にウエスタンブロッティングの結果を示す。ウエスタンブロッティングの結果より、N1、N2、N3では抗RPA1抗体によるバンドが検出されず、RPA1が共沈降していなかった。従って、図2のC3の下側に記載した横線に示すように、ヒトHSF1のDNA結合ドメイン(DBD)における1位から120位のアミノ酸がマウスRPA1と相互作用することが明らかとなった。
HSF1とPRA1との相互作用領域をさらに特定するために、他のHSF群との相互作用を調べた。
大腸菌で合成したGST、マウスRPA1の野生型(GST−RPA1)、及び欠損変異体(GST−N5)を精製し、同じく大腸菌で合成して精製したヒトHSF1(HSF1−His)、HSF2(HSF2−His)、HSF4(HSF4−His)を混合し、Glutathione-sepharose 4Bカラムを用いてGST-pull down assayを行った。沈降してきたタンパク質複合体をSDS−PAGEで分離し、抗HSF1抗体(α−mHSF1j)、抗HSF2抗体(α−mHSF2−4)、抗HSF4抗体(α−hHSF4b)を用いてウエスタンブロッティングを行った。α−mHSF1j、α−mHSF2−4及びα−hHSF4bについては、以下の文献の記載に従って作成した(Fujimoto et al., J. Biol. Chem. 283, 29961-29970, 2008)。
結果を図3上段Aに示す。マウスRPA1はヒトHSF1と共にヒトHSF4とは相互作用するが、ヒトHSF2とは相互作用しないことが明らかとなった。
次に、ヒトHSF1、HSF2、HSF4のDNA結合ドメインのアミノ酸配列を比較した。図3下段Bにおいて、すべてで一致するアミノ酸を黒背景、2つのみで一致するアミノ酸を灰色背景で示し、αヘリックス(H1−H3)、βシート(β1−β4)、84位から96位の13アミノ酸からなるwing領域、linkerを示す。数字はアミノ酸の位置を示す。ドットで示すアミノ酸の位置は、HSF1とHSF4で一致するが、HSF2とは異なるものを示す。
真核細胞のHSF群のDNA結合ドメインはwinged helix−turn−helix型の構造を持ち進化の過程でよく保存されている。そのドメインを構成するアミノ酸のうち、ヒトHSF1とヒトHSF4で一致するが、ヒトHSF2で異なるものは15カ所になる。その中から類似のアミノ酸を除いた10カ所の場所のヒトHSF1のアミノ酸をそれぞれヒトHSF2のアミノ酸に置換し(図3下段Bのドット)、HEK293細胞でのマウスRPA1との相互作用を以下の方法で調べた。
C末端にHA標識した野生型ヒトHSF1(hHSF1−HA)、変異体(E85D−HA:85位のグルタミン酸をアスパラギン酸、G87S−HA:87位のグリシンをセリン、P92Q−HA:92位のプロリンをグルタミン、G87A−HA:87位のグリシンをアラニンに置換)を挿入したヒトHSF1−HAのcDNA(配列番号22〜26)をPCRにより作製し、pcDNA3.1/Neoベクター(Invitrogen社製)へ挿入して細胞での発現ベクターを構築した。
本発明の実施例に用いる野生型及びHSF1−/−マウス胎児線維芽細胞(MEF)、HEK293、ヒトメラノーマ細胞株MeWo、HMV−1及び上皮系がん細胞HeLaは、10%胎児血清を含むDMEM培地中で、5%CO2、37℃の条件下で培養した。
HEK293細胞へヒトHSF1−HAあるいはその変異体の発現ベクターをリン酸カルシウム法で導入して細胞抽出液を作製した。その後抗HA抗体を用いて免疫沈降を行い、沈降したタンパク質を用いて抗RPA抗体、あるいは抗HA抗体でウエスタンブロットした。
次に、HSF1欠損(−/−)MEF細胞(Inouye et al. J. Biol. Chem. 282, 33210-33217, 2007)へ(3)ベクターの作製に記載したcDNA(配列番号22〜26)およびGFPのcDNA(配列番号27)をpShuttle-CMVベクター(Stratagene社製)へ挿入して作製したアデノウイルスベクターを用いて野生型ヒトHSF1、変異体、またはコントロールとしてGFPを発現させた。この細胞あるいは野生型MEF細胞の抽出液を作製し、32P−HSEオリゴヌクレオチドをプローブとしてゲルシフトアッセイを行うことでDNA結合活性を調べた。HSF1の結合活性(HSF1)とフリー(free)のプローブの位置を示す。また、ウエスタンブロットによりHSF1、GFP、β−アクチン(actin)のタンパク質量を調べた。結果を図4Bに示す。
このwing領域はDNA結合ドメインの一部であるが、その変異はDNA結合活性には影響を及ぼさないことが明らかとなった。つまり、wing領域はHSF1と相互作用する役割を特異的に担うことが強く示された。
真核細胞HSF1のDNA結合ドメインのアミノ酸配列を比較した(図4C)。すべての種で一致するアミノ酸を黒背景、一部の種で一致するアミノ酸を灰色背景で示す。h、ヒト;m、マウス;c、ニワトリ;Ce、線虫;Sc、出芽酵母。数字はアミノ酸の位置を示す。ドットで示すアミノ酸の位置は、HSF1とHSF4で一致するが、HSF2とは異なるものを示す。黒ドットは、wing領域のうちすべての種で保存されたアミノ酸(グリシン、ヒトHSF1の87番目のアミノ酸)を示す。
興味深いことに、この87番目のグリシンは、酵母からヒトまですべての種のHSF1で保存されており、HSF1−RPA複合体が真核細胞で普遍的であることを示唆する。
HSF1−RPA1複合体が遺伝子発現制御を行っているかを明らかにする目的で、まずマウス胎児線維芽細胞(MEF)において、以下の方法によりマウスHSF1(mHSF1)又はマウスRPA1(mRPA1)それぞれの遺伝子ノックダウン後にDNAマイクロアレイ解析を行った。
本発明の実施例に用いるヒトHSF1(hHSF1)、マウスHSF1(mHSF1)、そしてマウスRPA1(mRPA1)に対するショートヘアピンRNA(shRNA)のアデノウイルス発現ベクターは、以下の文献の記載に従って作製した(Fujimoto et al. Mol. Biol. Cell 21, 106-116, 2010)。MEF細胞に、作製したAd-sh-mHSF1あるいはAd-sh-mRPA1(1×108pfu/ml)を2時間感染させ、新しい培地に交換して70時間維持して細胞を回収した。RNeasy Mini Kit(Qiagen社製)を用いてRNAを抽出し、GeneChip Mouse Gene 1.0 ST Array(28,853遺伝子をカバー)(Affymetrix社製)を用いて遺伝子発現解析を行った。遺伝子のfold−changeの解析には、ソフトウエアーPartek Genomics Suite 6.5(Partek社製)を用いた。
遺伝子発現を確認するために、まずMEF細胞に作製したAd-sh-SCR、Ad-sh-mHSF1あるいはAd-sh-mRPA1(1×108pfu/ml)を2時間感染させ、新しい培地に交換して22時間維持した。次に、Ad-GFP、Ad-hHSF1-HA、Ad-hHSF1G87S-HA、Ad-hHSF1G87A-HAを2時間感染させて新しい培地に交換して46時間維持した。これらの細胞を回収してTrizol(Invitrogen社製)を用いてRNAを回収し、以下の文献の記載に従ってRT−PCRを行った(Inouye et al. J.Biol. Chem. 282, 33210-33217, 2007)。一部の細胞からはタンパク質を抽出してウエスタンブロッティングを行った。
結果を図5Aに示す。発現が1.3倍以下となるものは、mRPA1ノックダウンで1,670遺伝子、mHSF1ノックダウンで564遺伝子であった。驚くべきことに、mHSF1ノックダウンで発現低下する遺伝子のうち、70%もの遺伝子がmRPA1ノックダウンで発現低下していた。このことは、同じ遺伝子の発現をHSF1−RPA複合体が制御することを示唆している。
ノックダウンによって発現が2.0倍以下となる顕著なものは33遺伝子あり、そのうち5遺伝子(Sncaip、Lrrn4、Fmod、Abi3bp、Slc44a5)についてその発現をさらに詳細に検討した(図5B、C)。
HSF1をノックダウンした細胞へ、やはりアデノウイルスを用いて野生型ヒトHSF1、変異型HSF1(G87S−HA、G87A−HA)、あるいはコントロールとしてGFPを発現させた。これらの細胞からRNAを抽出してRT−PCR法により遺伝子発現を調べた。HSF1、RPA1、GFP、β−アクチンの量はウエスタンブロッティングで調べた。結果を図5Cに示す。まず、mHSF1あるいはmRPA1のノックダウンは確かにそれらの遺伝子発現を低下させた。mHSF1をノックダウンしたMEF細胞へ、hHSF1を再導入すると発現は元のレベルまで回復した。しかし、hHSF1G87SあるいはhHSF1G87Aの再導入は遺伝子発現を回復させることはなかった。この結果は、HSF1−RPA1複合体による遺伝子発現の調節にwing領域を介した相互作用が必要であることが示された。
HSF1−RPA1の特異的な相互作用とがん細胞の増殖とが関連するかを調べた。
(1)がん細胞の増殖と腫瘍形成
ヒトメラノーマ細胞株MeWo、HMV−1及び上皮系がん細胞HeLaに、まずSCR(scramble RNA)あるいはHSF1shRNAを発現するアデノウイルスベクターを2時間感染させて培地を替えて22時間維持した。次に、GFP、野生型HSF1(hHSF1−HA)、あるいは変異体(G87S−HA、G87A−HA)のアデノウイルス発現ベクターを2時間感染させ、培地を替えて46時間維持した(この時点で合計72時間)。この細胞をまき直して時間を追って細胞数を計測した(図6上段)。*印は有為差を示す(p<0.01、ANOVA検定)。また、ウエスタンブロッティングにより合計72時間の時点でのHSF1、GFP、β−アクチンの発現量を調べた(図6下段)。さらに、HMV-1細胞を用いて胸腺を持たないヌードマウスへの移植実験を行った。上記の通り処理した細胞(2×106 in 100ml PBS)を等量のマトリゲル(BD Biosciences社製)と混合し、23ゲージの注射針を用いて5週齢のヌードマウスの皮下へ注入した。腫瘍の容量(高さ×幅2÷2)は皮下中の後28日まで計測した。28日後には腫瘍を取り出し重量を計測した。
ヒトメラノーマ細胞株であるMeWo、HMV−1及び上皮系がん細胞HeLaにおいてHSF1をノックダウンすると増殖が著しく低下したが(図6上段)、これらの細胞へhHSF1を再導入すると増殖はかなりのレベルまで回復した。ところが、hHSF1G87SあるいはhHSF1G87Aの再導入は細胞増殖をまったく回復させることはなかった。つまり、ヒトメラノーマ細胞の増殖にwing領域を介した相互作用、特に87位のグリシンを介した相互作用が必要であることが示された。なお、野生型のhHSF1を再導入した場合でも全体としては完全なレベルにまでは回復しないのは、遺伝子導入高率には、個々の細胞によって差があるためである。
図7Aは、代表的な腫瘍を形成したマウス及び摘出した腫瘍の写真(28日後)を2個体ずつ示し、図7Bは、腫瘍の容量変化の時間経過を示し、(*印は有為差を示す(p<0.01、ANOVA検定))、図7Cは、腫瘍の重量(28日後)を示す。Barは平均値を示す。本実験から、マウスにおいてもヒトメラノーマ細胞の増殖にwing領域を介した相互作用、特に87位のグリシンを介した相互作用が必要であることが示された。個体での腫瘍形成には、細胞増殖以外にも血管形成、細胞浸潤など宿主との相互作用を含む多くの要因が関係している。この実験結果は、複合的な要因が関連するヒトのがんの進展においてHSF1が重要な役割を担うことを強く示すだけでなく、HSF1-RPA1相互作用阻害剤のがん進展への抑制効果を実証する優れた実験系を提供する。
これまでの結果から、HSF1-RPA1相互作用を阻害する化合物はがん細胞の増殖を抑制できることが示された。そこで、HSF1のwing領域あるいはRPA1のssDNA結合ドメインA−Bがこのような化合物のターゲットとなりうるかを明らかに知るために、ELISA法を用いてHSF1-RPA1相互作用の競合実験を行った。
96−ウェルプレートに精製したHSF1-His(1μg/ウェル)を固相化し、GSTあるいはGST-RPA1(0.25,0.5,1.0,1.5,2.0μg)を混合した。ウサギ抗GST抗体(sc-33613、Santa Cruz社製)及びペルオキシダーゼ結合した抗ウサギIgG抗体(Catalog番号:55676、 Cappel社製)で処理し、o-phenylenediamineを基質として発色させて吸光度(490nm)を測定した。競合実験を行う際は、ヒトRPA1の228位から391位のペプチドからなるRPA1であるRPA1(228−391)あるいはヒトRPA1の238位及び269位のフェニルアラニンをアラニンに変異させた変異体RPA1−AroA(228−391)をGST-RPAとともに96−ウェルプレートへ混合した。
一方、HSF1の一部分との競合実験を行うために、96−ウェルプレートに精製したRPA1−His(1μg/ウェル)を固相化し、HSF1−His(0.25,0.5,1.0,1.5,2.0μg)と共にHSF1−DBD(1−129)−Hisあるいはその87位のグリシンをセリンに変異させた変異体HSF1−DBDG87S−His、または配列番号1に記載の13アミノ酸からなる合成ペプチドHSF1−wingあるいは配列番号1の4番目のグリシン残基をセリンに変異させた変異体HSF1−wing−mu(純度90%以上、株式会社スクラム社委託品)を混合した。一次抗体には抗HSF1抗体を用いた。結果を図8に示す。
また、ELISA法によりRPA1−His(1μg)とHSF1−His0.25,0.5,1.0,1.5,2.0μg)の相互作用を定量化した(図8C)。図8Cから分かるように、HSF1−Hisは0.5μgで定量性があった。次に、RPA1−His(1μg)とHSF1−His(0.5μg)の相互作用に対するHSF1−DBD−Hisあるいはその変異体HSF1−DBDG87S−Hisの競合活性を調べた(図8D)。HSF1−HisとHSF1−DBD−HisあるいはHSF1−DBDG87S−HisRPA1(228−391)のモル比を示す。
さらに、RPA1−His(1μg)とHSF1−His(0.5μg)の相互作用に対する合成ポリペプチドHSF1−wingあるいはその変異体HSF1−wing−mu(ともに13アミノ酸からなる)の競合活性を調べた。HSF1−wingあるいはHSF1−wing−muのモル比を示す。B、D、Eともに*はP<0.01を示している(図8E)。
これらの結果、RPA1のssDNA結合ドメイン(アミノ酸228から391)だけでなく、13アミノ酸からなる短い合成ペプチドHSF1−wingもHSF1−RPA1相互作用と競合することが明らかとなった。この結果は、HSF1のwing領域及びRPA1のssDNA結合ドメインA−BがHSF1−RPA1相互作用を阻害する化合物のターゲットとなりうることを示している。
Claims (10)
- 以下の(A)〜(F)のいずれかのペプチド又はその塩。
(A)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド;
(B)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、配列番号1の4番目のグリシン残基を除く、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつHSF1(heat shock factor 1)とRPA1(replication protein A 1)との相互作用阻害活性を有するペプチド;
(C)配列番号1に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつHSF1とRPA1との相互作用阻害活性を有するペプチド;
(D)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチド;
(E)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつHSF1とRPA1との相互作用阻害活性を有するペプチド;
(F)配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつHSF1とRPA1との相互作用阻害活性を有するペプチド; - ペプチドが、HSF1のwing領域とRPA1のssDNA結合ドメインとの相互作用阻害活性を有することを特徴とする請求項1記載のペプチド又はその塩。
- 以下の(A)〜(F)のいずれかのペプチドをコードするDNA。
(A)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチド;
(B)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、配列番号1の4番目のグリシン残基を除く、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつHSF1(heat shock factor 1)とRPA1(replication protein A 1)との相互作用阻害活性を有するペプチド;
(C)配列番号1に示されるアミノ酸配列と少なくとも90%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつHSF1とRPA1との相互作用阻害活性を有するペプチド;
(D)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチド;
(E)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつHSF1とRPA1との相互作用阻害活性を有するペプチド;
(F)配列番号2に示されるアミノ酸配列と少なくとも85%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつHSF1とRPA1との相互作用阻害活性を有するペプチド; - 請求項3記載のDNAを含み、かつHSF1とRPA1との相互作用阻害活性を有するペプチドを発現することができる組換えベクター。
- 請求項1又は2記載のペプチド又はその塩を含んでなるHSF1とRPA1との相互作用阻害剤。
- 請求項1又は2記載のペプチド又はその塩を含んでなる抗腫瘍剤。
- 請求項1又は2記載のペプチド又はその塩に特異的に結合する抗体。
- 請求項1又は2記載のペプチド又はその塩を非ヒト動物に投与することを特徴とする腫瘍の予防・治療法。
- 次の工程(A)、(B)を順次備えたことを特徴とする、抗腫瘍剤のスクリーニング方法。
(A)HSF1とRPA1とを、被検物質の存在下に接触させ、HSF1とRPA1との相互作用阻害活性を検出する工程;
(B)対照と比較して前記相互作用阻害活性が高い被検物質を選択する工程; - HSF1とRPA1との接触が、HSF1のwing領域とRPA1のssDNA結合ドメインとの接触であることを特徴とする、請求項9記載のスクリーニング方法。
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JPN6016011051; Mol. Cell Biol. vol.15, no.6, 1995, pp.3354-3362 * |
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