JP2014006982A - 端子対およびその設計方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】雄型端子と雌型端子とからなる端子対において、高温での耐久後にも、端子接点部の接触荷重に対する接触抵抗の特性が低い値で安定していることで、高い接続信頼性を備える端子対を提供すること、及びそのような端子対を高精度かつ簡便に設計することができる端子対の設計方法を提供すること
【解決手段】雄型コネクタ端子と雌型コネクタ端子とが接触する接点部に印加される荷重が、室温以上の所定温度で放置した後に接点部において測定した接触荷重−接触抵抗特性を両対数表示したグラフにおいて、観測される下凸構造の変曲点の接触荷重以上である端子対とする。
【選択図】図2
【解決手段】雄型コネクタ端子と雌型コネクタ端子とが接触する接点部に印加される荷重が、室温以上の所定温度で放置した後に接点部において測定した接触荷重−接触抵抗特性を両対数表示したグラフにおいて、観測される下凸構造の変曲点の接触荷重以上である端子対とする。
【選択図】図2
Description
本発明は、雄型端子と雌型端子よりなる端子対及びその設計方法に関するものである。
電気部品等を接続する雄型コネクタ端子と雌型コネクタ端子の組よりなる端子対において、両者が接触する接点部の接触荷重−接触抵抗特性は、コネクタ端子の電気的特性として極めて重要である。端子材料の選定や形状の設計に当たり、接点部における接触抵抗をできる限り低減することが望まれるとともに、接触荷重の変動に対して、接触抵抗の値が安定していることが望まれる。これにより、電気的特性が安定し、高い接続信頼性を有するコネクタ端子を得ることができる。
例えば、特許文献1においては、第一の端子と第二の端子との接点部に、互いに異なる少なくとも2方向から加わる力の合力を荷重として作用させるような構造を有する電気コネクタにおいて、接点部の接触面積と接触抵抗の関係を実験的に求め、接触面積をそれ以上増加させても接触抵抗が実質的に変化しなくなる接触面積が採用されている。また、特許文献2においては、ボルト状の電気接続部品にナットで締め付けて接続する形式の接続端子において、接触荷重を与える締結トルクと接触抵抗との関係を実験的に調べて、それ以上締結トルクを増大させても接触抵抗が実質的に減少しない安定領域を求め、その安定領域内に締結トルクの値があるように設定される。
低く安定した接触抵抗を実現するために、上記のように、端子対の接点部における接触荷重と接触抵抗の関係を実験的に求め、それ以上接触荷重を大きくしても、接触抵抗がほとんど変化しない安定領域の接触荷重を求めた上で、そのような接触荷重を有する端子形状を設計するという方法をとることは可能である。しかしながら、金属表面の接触抵抗は、酸化被膜の形成の程度など、表面の状態に大きく依存し、高温での使用を経た後など、耐久後に接点部の表面の状態が変化すると、接点部の接触荷重−接触抵抗特性が初期のものとは変わってしまう場合がある。高温での耐久を経ると、表面に酸化物が形成され、接触抵抗が上昇する傾向がある。すると、初期状態において、安定領域にある接触荷重を備えるように端子対が設計されていたとしても、耐久後にはもはやその接触荷重が安定領域に存在しない可能性もある。すると、接触抵抗の絶対値が大きくなるのみならず、接触荷重の微小な増減に伴って、接触抵抗が大きく変動することになり、端子対の電気的特性が不安定となる。
また、上記のように接触荷重−接触抵抗特性の実験結果から安定領域の接触荷重を求める場合、接触荷重に対して接触抵抗がほとんど変化しない領域を識別することになるが、接触荷重に対して接触抵抗が急激に変化する領域からほとんど変化しない領域への切り替わりは、ある接触荷重範囲にわたって、なだらかに漸次的に起こる。よって、安定領域に切り替わる接触荷重を一意に定めることは困難である。つまり、安定領域で端子対を使用するために必要な最低限の接触荷重を、上記の方法で過不足なく高精度に見積もることは困難である。
本発明が解決しようとする課題は、雄型端子と雌型端子とからなる端子対において、高温での耐久後にも、端子接点部における接触荷重に対する接触抵抗の特性が低い値で安定していることで、高い接続信頼性を備える端子対を提供すること、及びそのような端子対を高精度かつ簡便に設計することができる端子対の設計方法を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明にかかる第一の端子対は、雄型コネクタ端子と雌型コネクタ端子とからなり、前記雄型コネクタ端子と前記雌型コネクタ端子とが接触する接点部に印加される荷重が、室温以上の所定温度で放置した後に前記接点部において測定した接触荷重−接触抵抗特性を両対数表示したグラフにおける下凸構造の変曲点の接触荷重以上であることを要旨とする。
また、本発明にかかる第二の端子対は、雄型コネクタ端子と雌型コネクタ端子とからなり、前記雄型コネクタ端子と前記雌型コネクタ端子とが接触する接点部に印加される荷重が、室温以上の所定温度で放置した後に前記接点部において測定した接触荷重−接触抵抗特性を両対数表示したグラフにおいて求められる、下凸構造の変曲点よりも低荷重側の測定点に対する第一の近似直線の外挿線と前記下凸構造の変曲点よりも高荷重側の測定点に対する第二の近似直線の外挿線との交点の接触荷重以上であることを要旨とする。
ここで、接触荷重の常用対数値を横軸とし、接触抵抗の常用対数値を縦軸とした前記接触荷重−接触抵抗特性を両対数表示したグラフにおいて、前記第一の近似直線の傾きが−1であり、前記第二の近似直線の傾きが−0.5であることが好ましい。
また、前記端子対は、前記雄型コネクタ端子と前記雌型コネクタ端子の前記接点部を含む領域の最表面にスズめっき層が形成され、2.7N以上の接触荷重を有するものであると良い。
一方、上記課題を解決するため、本発明にかかる第一の端子対の設計方法は、雄型コネクタ端子と雌型コネクタ端子よりなる端子対の設計方法において、前記雄型コネクタ端子と前記雌型コネクタ端子とが接触する接点部に印加される接触荷重を、室温以上の所定温度で放置した後に前記接点部において測定した接触荷重−接触抵抗特性を両対数表示したグラフにおける下凸構造の変曲点の接触荷重以上とすることを要旨とする。
また、本発明にかかる第二の端子対の設計方法は、雄型コネクタ端子と雌型コネクタ端子よりなる端子対の設計方法において、前記雄型コネクタ端子と前記雌型コネクタ端子とが接触する接点部に印加される接触荷重を、室温以上の所定温度で放置した後に前記接点部において測定した接触荷重−接触抵抗特性を両対数表示したグラフにおいて求められる、下凸構造の変曲点よりも低荷重側の測定点に対する第一の近似直線の外挿線と前記下凸構造の変曲点よりも高荷重側の測定点に対する第二の近似直線の外挿線との交点の接触荷重以上とすることを要旨とする。
ここで、接触荷重の常用対数値を横軸とし、接触抵抗の常用対数値を縦軸とした前記接触荷重−接触抵抗特性を両対数表示したグラフにおいて、前記第一の近似直線の傾きが−1であり、前記第二の近似直線の傾きが−0.5であることが好ましい。
上記本発明の第一の端子対において、室温以上の一定温度での耐久後に測定した接触荷重−接触抵抗特性の両対数表示における下凸構造の変曲点よりも高荷重側が、耐久後の端子対について、それ以上に接触荷重を増加させても接触抵抗がほとんど変化しない安定領域となる。よって、本発明の第一の端子対によると、耐久後の接触抵抗が、接触荷重−接触抵抗特性の安定領域にあるので、耐久後にも低く安定した接触荷重が得られ、高い接続信頼性が達成される。
さらに、安定領域の内外では、接触荷重に対する接触抵抗の依存性が異なるが、上記本発明の第一の端子対においては、接触荷重−接触抵抗特性を両対数表示して、その変曲点における接触荷重を安定領域の下限の接触荷重とみなしている。そしてそれ以上の接触荷重が端子対に付与されているため、接触荷重−接触抵抗特性を線形表示して安定領域を見積もる場合よりも、安定領域の下限の接触荷重が正確に見極められている。よって、安定した低い接触抵抗を与える接触荷重が、高確度に達成されている。
また、接触荷重−接触抵抗特性の測定結果を両対数表示したプロットにおいて、測定点のばらつきなどのために変曲点を正確に見極めることが難しい場合もあるが、本発明の第二の端子対によれば、第一の近似直線の外挿線と第二の近似直線の外挿線の交点を変曲点に代替して安定領域を見積もるため、測定点のばらつきなどの要因に影響されず、安定した低い接触抵抗を与える接触荷重を有する端子対を得ることができる。
ここで、第一の近似直線の傾きが−1であり、第二の近似直線の傾きが−0.5であると、それぞれ、被膜抵抗による接触抵抗成分と集中抵抗による接触抵抗成分の理論式に合致した傾きとなる。よって、被膜抵抗の寄与と集中抵抗の寄与を分離して、集中抵抗が支配的である領域を安定領域として、その領域の接触荷重を有する端子対を得ることができる。集中抵抗は、接触荷重に対して大きさがほとんど変化せず、さらに、端子対の最表面の金属種が同じならば、高温での耐久の条件や端子母材の種類にもほとんど依存しないという性質を有するので、安定して低い接触抵抗を有する端子対が高確度に得られる。
また、両コネクタ端子の接点部を含む領域の最表面にスズめっき層が形成されている場合に、接点部が2.7N以上の接触荷重を有していると、汎用性の高いスズめっき端子対において、端子対の素材や構造の詳細によらず、接触抵抗が低く安定した端子対を得ることができる。
一方、上記本発明にかかる端子対の設計方法によると、上記のような、接触抵抗が低く安定した高信頼性を有する端子対を、高精度に、かつ簡便に設計することができる。
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。
本発明にかかる端子対は、導電部材によって形成された雄型コネクタ端子と雌型コネクタ端子よりなる。雄型コネクタ端子と雌型コネクタ端子の材質及び形状は特に限定されず、それぞれ接点部を有し、それら接点部において相互に接触することによって、電気的接続が形成される。
雄型コネクタ端子の接点部と雌型コネクタ端子の接点部が接触した時、それらの間の接触面と垂直な方向に接触荷重が印加される。この接触荷重によって、両接点間の電気的接触が安定に保持される。接触荷重を印加する手段は特に限定されないが、例えば、筒型の形状を有する雌型コネクタ端子に雄型コネクタ端子が挿入される形式の端子対において、雄型コネクタ端子を挟圧保持するための弾性を有する接触片を雌型コネクタ端子内に備え、その弾性によって接点部に接触荷重を印加することができる。
接点部の接触抵抗は、端子対の電気的特性を支配する重要なパラメータであるが、接触抵抗は、印加される接触荷重に大きく依存する。よって、十分に低く、安定した接触抵抗が達成されるような接触荷重を備えるように、端子対を設計する必要がある。
また、接触抵抗値は、導体表面における酸化物等の絶縁被膜の状態によって変化するので、高温での耐久を経ない初期の端子対と、高温での耐久を経た後の端子対では、接触抵抗が異なる場合がある。自動車用コネクタ端子対のように、高温環境での使用が想定される端子対においては、想定される室温以上の高温での耐久後の接触抵抗が十分に低く、安定した値となるように、接触荷重を設定し、端子対を設計する必要がある。
そこで、本発明においては、高温耐久後のコネクタ端子対について、接触荷重−接触抵抗特性を計測し、その結果に基づいて、低い値で安定した接触抵抗を与えるような接触荷重を端子対に付与する。ここで、接触荷重−接触抵抗特性は、実際に端子対を製造して計測しても、例えば端子対を模したエンボス形状の接点と金属平板との間の接点部のように、接点部のモデルを使用して計測してもどちらでもよい。
平板状部材に接触させたエンボス状部材の接点部に印加する接触荷重を増加させながら接触抵抗を測定し、接触荷重を横軸に、接触抵抗を縦軸に、それぞれ線形にとってプロットすると、図1(a)に示したように、接触荷重の増加に従って、接触抵抗が単調減少する。ここで、比較的接触荷重が小さい領域においては、荷重の増加に伴って、接触抵抗値が急激に減少するが、比較的接触荷重が大きい領域においては、接触荷重を増加させても、接触抵抗がほとんど変化しない状態となっている。この高荷重側の接触抵抗がほとんど変化しない領域は、安定領域と称される。このような接触荷重−接触抵抗特性の挙動の起源は、以下のように説明される。なお、図1及び図2に示す測定結果は、後述する実施例における、高温耐久後の端子対に対する測定結果の一部を抜き出したものである。
導体間の接触抵抗の主な発生要因は、被膜抵抗と集中抵抗に分けられる。被膜抵抗とは、導体表面に形成された酸化被膜等の絶縁性被膜の存在により発生する接触抵抗である。接触荷重を大きくすると、絶縁被膜の物理的な破壊により、被膜抵抗が小さくなる。一方、集中抵抗とは、導体表面の微視的な凹凸に由来し、巨視的な(見かけの)接触面積のうち、微小面積に形成される真実接触の箇所のみを経由して電流が流れることによるものである。接触荷重を大きくすると、巨視的な接触面の中で真実接触を形成する面積の総和が増加するので、集中抵抗が減少する。ただし、接触荷重の印加によって微視的な凹凸形状に変化が生じるようなことはほとんどないので、接触荷重に対する集中抵抗値の依存性は、被膜抵抗の依存性よりも小さい。
上記のような集中抵抗及び被膜抵抗の接触荷重に対する依存性は、特許文献2に示されるように、既にモデルを用いて定式化されている。それによると、平らな接触面を有する2つの導体を接触させた場合に、集中抵抗と被膜抵抗の総和である接触抵抗Rkは、下記の式(1)によって記述される。
ここで、Fは接触荷重、Sは見かけの接触面積、Kは表面粗度、Hは硬度、ρは金属抵抗率、ρfは被膜抵抗率、dは絶縁被膜の厚さである。
式(1)において、右辺第1項が集中抵抗の寄与を表し、第2項が被膜抵抗の寄与を表す。式(1)から分かるように、集中抵抗は接触荷重Fに対して−1/2乗の依存性を示すのに対し、被膜抵抗は荷重Fに対して−1乗の依存性を示す。つまり、接触荷重Fが小さい領域では、全接触抵抗に占める被膜抵抗の寄与が大きくなるのに対し、接触荷重Fが大きい領域では、全接触荷重に占める集中抵抗の寄与が大きくなる。
図1(a)において、低荷重側の接触抵抗が急激に減少している領域においては、被膜抵抗の寄与が支配的であり、高荷重側の接触抵抗がほとんど変化しない領域(安定領域)においては、集中抵抗の寄与が支配的であると考えられる。
端子対の接点部における接触抵抗は、できる限り低減されることが望ましいのに加え、接触荷重の変動に対してできる限り安定していることが望ましい。接触荷重がわずかに変動しただけで接触抵抗が大きく変動すると、安定な電気的特性が保証されず、好ましくない。そこで、低荷重側の被膜抵抗が支配的な領域ではなく、高荷重側の集中抵抗が支配的な安定領域に接触荷重が存在するように、端子対を設計する必要がある。ここで、接触荷重を大きくしすぎると、端子挿入力が大きくなりすぎるなどの現象が発生し、好ましくないので、安定領域の低荷重側の境界、つまり、被膜抵抗が支配的な領域と集中抵抗が支配的な領域の境界を、高精度に見極める必要がある。
しかしながら、接触抵抗が被膜抵抗と集中抵抗の総和である以上、両者の寄与を完全に分離することは単純には行えない。実際に、図1(a)においては、確からしいと考えられる安定領域の境界を便宜的に点線で示してはいるが、低荷重側の接触抵抗が急激に低下する領域と、高荷重側の接触抵抗がほとんど変化しない領域は緩やかに接合され、この点線で表示した位置に被膜抵抗が支配的な領域と集中抵抗が支配的な領域の境界が存在するかどうかを断定することはできない。つまり、表示した位置よりも低荷重側又は高荷重側にその境界が存在する可能性がある。
集中抵抗と被膜抵抗では、接触荷重に依存する次数がそれぞれ−1/2次及び−1次と異なることに着目し、両者の寄与の分離を図るため、接触荷重−接触抵抗特性を両対数表示したものが図1(b)である。両対数表示においては、依存関係の次数が曲線の傾きとして現れる。図1(b)を見ると、破線で表示した位置に明確な下凸構造の変曲点が現れ、その低荷重側と高荷重側で、曲線の傾きが大きく変化しており、接触荷重に対する依存の次数が異なる2つの接触抵抗成分が変曲点の両側にそれぞれ存在していることが分かる。
図中に、下凸構造の変曲点よりも低荷重側についての近似直線を実線で示し、高荷重側にについての近似直線を破線で示す。接触荷重、接触抵抗とも常用対数で表示した場合に、低荷重側の近似直線の傾きは−1となり、高荷重側の近似直線の傾きは−0.5となっている。つまり、変曲点よりも低荷重側の領域においては、被膜抵抗の寄与が支配的であり、集中抵抗の寄与はほぼ無視できる。一方、変曲点よりも高荷重側の領域においては、集中抵抗の寄与が支配的であり、被膜抵抗の寄与はほぼ無視できる。
そこで、本発明の第一の実施形態にかかる端子対は、上記変曲点の位置を、安定領域の低荷重側の境界であると定め、これより高荷重側の領域の接触荷重を有するように設計されるものである。
接触荷重−接触抵抗特性の両対数表示において、変曲点、つまり2次の微係数が0となる点が明確に確認できる場合には、その変曲点の位置を安定領域の境界点とすればよい。しかし、式(1)中の各パラメータの大小関係等の要因によって被膜抵抗の寄与と集中抵抗の寄与の分離が明確でない場合や、測定データのばらつきが大きい場合などには、変曲点の位置を明確に決定するのが困難なこともある。
そこで、本発明の第二の実施形態にかかる端子対は、変曲点が存在すると考えられる領域よりも低荷重側の近似直線の外挿線と、それよりも高荷重側の近似曲線の外挿線が交差する点をもって、安定領域の低荷重側の境界と定め、これより高荷重側の領域の接触荷重を有するように設計されるものである。この交点における接触荷重は、変曲点における接触荷重と概ね一致するはずであり、実際に、図1(b)では、2つの近似直線の交点の位置は、変曲点の位置とほぼ一致している。
ここで、変曲点よりも低荷重側及び高荷重側の近似直線の傾きは、上記のように理想的にはそれぞれ−1及び−1/2となるはずである。しかし、測定誤差の影響や式(1)の導出に使用されている近似モデルからの逸脱の影響などによって、実際の測定結果において、それらの傾きが−1及び−1/2からある程度外れる場合もありうる。このような場合にも、変曲点よりも低荷重側の比較的負の傾きが大きい近似直線と、高荷重側の比較的負の傾きが小さい近似直線の外挿線の交点をもって、安定領域の境界と定め、それよりも高い接触荷重を端子対の接点部に付与すれば、接触抵抗の安定性の高い端子対を得ることができる。
一般に、端子対を高温に放置した際には、接点部表面に絶縁性の酸化被膜が形成され、初期状態よりも接触抵抗、特に被膜抵抗が上昇しているはずである。そこで、端子対の使用条件で想定される温度に端子対を放置した後に、接触荷重−接触抵抗特性を計測し、上記のように、両対数表示における変曲点の位置又は2つの近似直線の交点の位置をもって安定領域の境界を判断し、それ以上の接触荷重を与えるように端子対を設計すれば、高温耐久前後を通じて、低く安定した接触抵抗を達成できる。もし、高温放置を経ない初期状態の端子対に対して、上記と同様の方法で接触荷重を設定したとすれば、端子対が一旦高温状態を経ると、酸化被膜の成長によって被膜抵抗の寄与が増大し、その設定した接触荷重が、被膜抵抗の寄与が大きい領域に位置するようになる可能性がある。すると、設計時に意図した低く安定した接触抵抗はもはや達成されなくなる。
上記のようにして端子対に付与すべき接触荷重が決定されれば、公知の設計方法により、その接触荷重を実現できる端子対の具体的な形状や寸法を適宜決定すればよい。例えば、弾性を有する接触片を使用して接点部に接触荷重を印加する形式の端子対においては、その接触片の板厚や板幅を上げることで弾性が上昇し、大きな接触荷重が印加されるようになる。あるいは、1支点のばねよりも2支点のばねを使用すれば、大きな接触荷重を印加することができる。
上記のように、被膜抵抗と集中抵抗の接触荷重に対する依存性の差を原理として、接触荷重−接触抵抗特性の両対数表示における下凸変曲点の位置、またはその低荷重側及び高荷重側における近似直線の外挿線の交点の位置が、安定領域の境界点と定められるという性質は、特定の金属種における特定の物性を利用したものではない。よって、金のように表面酸化被膜が形成されない金属を除いては、いかなる導電部材よりなる端子対に対しても当てはまる。一般的な端子の最表面を形成するのに採用される代表的な金属種としては、スズ、ニッケル、銅などが挙げられるが、これらのいずれを接点部の最表面の材料として用いても、上記実施形態にかかる端子対の構成が適用可能である。
ところで、高温耐久の温度や時間等の条件が異なれば、耐久後の接触荷重−接触抵抗特性も異なるはずである。また、同じ設計に基づいて製造した端子を同条件で耐久させた場合であっても、複数の端子間で接触荷重−接触抵抗特性に有限のばらつきが存在するはずである。よって、ある端子について、ある条件で高温耐久を経て、その変曲点又は近似曲線の外挿線の交点から安定領域を見積もったとしても、別の端子については、また別の耐久条件を経た場合については、その安定領域が適用できないのではないかという懸念も生じる。
そこで、ある同一の端子対について、高温での耐久時間を異ならせて測定した接触荷重−接触抵抗特性の両対数表示を、図2に示す。これを見ると、低荷重側の接触抵抗値は耐久条件の差によって大きくばらついているが、耐久条件によらず、下凸変曲点を有し、さらにその位置は、接触荷重2〜3N近傍に集中している。つまり、耐久条件の差によらず、安定領域の低荷重側の境界を与える接触荷重がほぼ一致し、その境界よりも高い接触荷重を、本願発明の端子対に要求される接触荷重として採用することができる。
ここで、低荷重側の接触抵抗にばらつきが大きいのは、高温での耐久の時間の長短により、接点部表面に形成される酸化被膜の厚さが異なるからである。つまり、高温で放置される時間が長いほど、厚い酸化被膜が形成され、低荷重側で支配的となる被膜抵抗の値が大きくなるからである。よって、もし端子対の接触荷重を接触荷重が小さく、被膜抵抗の寄与が大きい領域に設定したとすれば、接触抵抗の絶対値が大きくなってしまうのみならず、端子ごとあるいは耐久条件ごとの接触抵抗値のばらつきが大きくなってしまい、耐久後の端子対の接続信頼性が低下してしまう。
一方で、下凸変曲点及びそれより高荷重側の安定領域では、接触抵抗値のばらつきは非常に小さい。この領域では酸化被膜の厚みによらず、すでに酸化被膜の破壊が起こっており、接触抵抗における酸化被膜の寄与がほとんどないことによる。集中抵抗は、式(1)のように、金属種の粗度と硬度に依存するが、これらは高温耐久の履歴にはほとんど依存しない。よって、安定領域に接触荷重が存在するように端子対を製造すれば、低い接触抵抗が得られるのみならず、端子ごとあるいは耐久条件ごとの接触抵抗値のばらつきが抑制され、耐久を経た後も接続信頼性に優れた端子対を得ることができる。
また、集中抵抗は、最表面の金属種さえ同じであれば、母材の種類や、めっき等で最表面の金属層を形成する方法にもほとんど依存しないので、上記のように接触荷重−接触抵抗特性の両対数表示における変曲点又は近似曲線の外挿線の交点から決定した安定領域の境界における接触荷重の値も、それらにほとんど依存しない。よって、ある条件で形成した端子対に対して、安定領域の境界の接触荷重を決定することができれば、最表面に露出する金属種が同じである限り、その知見を母材の種類や最表層の形成方法を異ならせた素材よりなる端子対にも適用できる。
最表面にスズめっき層を有する端子対の場合、その安定領域の境界は2.7N近傍に存在する。よって、最表面にスズめっき層を有する端子対において、接触荷重を2.7N以上、または確実を期すため3N以上とすれば、低く安定した接触抵抗を達成することができる。
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
[実施例]
0.25mmの板厚を有するCu合金基板の表面に、厚さ約1μmの銅めっき層を形成し、さらにその表面に厚さ1.5μmのスズめっき層を形成した。これを270度でリフロー処理し、実施例にかかるめっき部材を得た。
0.25mmの板厚を有するCu合金基板の表面に、厚さ約1μmの銅めっき層を形成し、さらにその表面に厚さ1.5μmのスズめっき層を形成した。これを270度でリフロー処理し、実施例にかかるめっき部材を得た。
[試験方法]
(耐久後の接触抵抗の測定)
まず、実施例のめっき部材より作成した試験片を、120℃で放置した。放置時間を異ならせた試験片を複数準備したが、放置時間は、数分〜120時間の範囲とした。試験を行った試験片は77個であった。
(耐久後の接触抵抗の測定)
まず、実施例のめっき部材より作成した試験片を、120℃で放置した。放置時間を異ならせた試験片を複数準備したが、放置時間は、数分〜120時間の範囲とした。試験を行った試験片は77個であった。
上記で高温放置した各試験片について、接触抵抗を四端子法によって測定した。電極となる試験片の形状は、一般的なコネクタ端子対のモデルとなるように、一方を20mm四方の平板とし、一方を10mm四方の平板に半径1mmのエンボスを形成したものとした。平板部材を水平に保持し、鉛直方向からエンボスの頂部を接触させ、鉛直方向から接触荷重を印加した。この際、0〜40Nの荷重を増加させる方向に印加した。荷重印加速度は、0.1mm/min.であった。また、接触抵抗測定における開放電圧は20mV、通電電流は10mAとした。
(変曲点の評価)
上記で得られた試験片ごとの測定結果を、横軸を接触荷重の常用対数、縦軸を接触抵抗の常用対数としてプロットした。プロット曲線から、下凸構造の変曲点を検出し、その変曲点における接触加荷重を記録した。
上記で得られた試験片ごとの測定結果を、横軸を接触荷重の常用対数、縦軸を接触抵抗の常用対数としてプロットした。プロット曲線から、下凸構造の変曲点を検出し、その変曲点における接触加荷重を記録した。
[試験結果及び考察]
図3に、77個の試験片に対して得られた変曲点の接触荷重をヒストグラム表示したものを示す。これによると、接触荷重が2.5N以上2.9N未満の領域に存在する試験片の個数が最も多い。それよりも高荷重領域及び低荷重領域にも接触荷重が分布してはいるが、約0.6Nの小さな標準偏差で、接触抵抗が2.5N以上2.9N未満の領域にデータ点が集中しており、上記方法で求められる変曲点の接触荷重を、平均値として約2.7Nであると決定することができる。
図3に、77個の試験片に対して得られた変曲点の接触荷重をヒストグラム表示したものを示す。これによると、接触荷重が2.5N以上2.9N未満の領域に存在する試験片の個数が最も多い。それよりも高荷重領域及び低荷重領域にも接触荷重が分布してはいるが、約0.6Nの小さな標準偏差で、接触抵抗が2.5N以上2.9N未満の領域にデータ点が集中しており、上記方法で求められる変曲点の接触荷重を、平均値として約2.7Nであると決定することができる。
ここで、接触荷重の分布は、接触荷重2.5N以上2.9N未満を中心にほぼ左右対称であり、純粋に統計的なばらつきによるものであると考えられる。つまり、高温放置の時間が異なることなどを原因とした系統的な分布ではないと考えられる。
これらのことより、複数の試験片について、高温放置の時間が異なっていても、接触荷重−接触抵抗特性の両対数表示における変曲点の接触荷重、つまり安定領域の低荷重側の境界における接触荷重は、統計誤差の範囲で、2.7Nとなると結論できる。よって、端子対の接点部における接触荷重を2.7N以上、さらに確実性を期すならば3N以上とすれば、低く安定した接触抵抗を達成することができる。
Claims (7)
- 雄型コネクタ端子と雌型コネクタ端子とからなり、前記雄型コネクタ端子と前記雌型コネクタ端子とが接触する接点部に印加される荷重が、室温以上の所定温度で放置した後に前記接点部において測定した接触荷重−接触抵抗特性を両対数表示したグラフにおける下凸構造の変曲点の接触荷重以上であることを特徴とする端子対。
- 雄型コネクタ端子と雌型コネクタ端子とからなり、前記雄型コネクタ端子と前記雌型コネクタ端子とが接触する接点部に印加される荷重が、室温以上の所定温度で放置した後に前記接点部において測定した接触荷重−接触抵抗特性を両対数表示したグラフにおいて求められる、下凸構造の変曲点よりも低荷重側の測定点に対する第一の近似直線の外挿線と前記下凸構造の変曲点よりも高荷重側の測定点に対する第二の近似直線の外挿線との交点の接触荷重以上であることを特徴とする端子対。
- 接触荷重の常用対数値を横軸とし、接触抵抗の常用対数値を縦軸とした前記接触荷重−接触抵抗特性を両対数表示したグラフにおいて、前記第一の近似直線の傾きが−1であり、前記第二の近似直線の傾きが−0.5であることを特徴とする請求項2に記載の端子対。
- 前記雄型コネクタ端子と前記雌型コネクタ端子の前記接点部を含む領域の最表面にスズめっき層が形成され、2.7N以上の接触荷重を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の端子対。
- 雄型コネクタ端子と雌型コネクタ端子よりなる端子対の設計方法において、前記雄型コネクタ端子と前記雌型コネクタ端子とが接触する接点部に印加される接触荷重を、室温以上の所定温度で放置した後に前記接点部において測定した接触荷重−接触抵抗特性を両対数表示したグラフにおける下凸構造の変曲点の接触荷重以上とすることを特徴とする端子対の設計方法。
- 雄型コネクタ端子と雌型コネクタ端子よりなる端子対の設計方法において、前記雄型コネクタ端子と前記雌型コネクタ端子とが接触する接点部に印加される接触荷重を、室温以上の所定温度で放置した後に前記接点部において測定した接触荷重−接触抵抗特性を両対数表示したグラフにおいて求められる、下凸構造の変曲点よりも低荷重側の測定点に対する第一の近似直線の外挿線と前記下凸構造の変曲点よりも高荷重側の測定点に対する第二の近似直線の外挿線との交点の接触荷重以上とすることを特徴とする端子対の設計方法。
- 接触荷重の常用対数値を横軸とし、接触抵抗の常用対数値を縦軸とした前記接触荷重−接触抵抗特性を両対数表示したグラフにおいて、前記第一の近似直線の傾きが−1であり、前記第二の近似直線の傾きが−0.5であることを特徴とする請求項6に記載の端子対の設計方法。
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Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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WO2020054390A1 (ja) * | 2018-09-12 | 2020-03-19 | 株式会社オートネットワーク技術研究所 | 接続端子及びコネクタ |
Citations (1)
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JP2010196084A (ja) * | 2009-02-23 | 2010-09-09 | Mitsubishi Shindoh Co Ltd | 導電部材及びその製造方法 |
-
2012
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Patent Citations (1)
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