JP2014001788A - 高圧流体供給システム - Google Patents

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Abstract

【課題】流体タンクのタンクライナと強度部材との間の隙間が拡大等してしまうことを防止することができ、車両の燃費の悪化やコストの増大をも抑止することができる高圧流体供給システムを提供する。
【解決手段】高圧流体供給システム1は、タンクライナ11及びタンクシェル12を有する流体タンク10を備えており、その端部の配管13には、流体タンク10内の圧力等を測定するセンサ部14が設置されている。このセンサ部14には、制御部2及び警報装置3が順に接続されている。制御部2は、流体タンク10の内部の圧力測定値Pmを、所定の式(1)から算出された圧力pと同じかそれよりも高い圧力である閾値P1,P2と比較し、その結果に応じて例えば警報を発報する等の制御を行う。これにより、タンクライナ11とタンクシェル12との間の隙間10sが拡大してしまうこと等を未然に防止することができる。
【選択図】図2

Description

本発明は、流体供給システム、特に高圧流体の供給システムに関する。
燃料電池自動車(FCV)や圧縮天然ガス自動車(CNGV)等の車両に搭載された燃料ガスを貯留するための流体タンクを備えるシステムとして、例えば特許文献1には、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製の高圧ガスタンクに電気誘導加熱コイルを巻回したものが記載されている。このシステムは、電気誘導加熱コイルに電流を流すことにより、高圧ガスタンクを構成するシェルの胴壁やその内壁面に設けられている内部ライナ(樹脂ライナ等)を加温するように構成された高圧タンク用の加温システムである。
また、この加温システムは、高圧ガスタンク内の燃料ガスの消費によって高圧ガスタンク内が減圧されることに加え、高圧ガスタンク内にガス吸収材が設置されている場合に、そのガス吸収材の吸熱に起因して高圧ガスタンクの内部の温度(燃料ガス、構成部材、及び、それらの雰囲気温度)が低温(例えば、寒冷環境では−60℃以下)となったときに、高圧ガスタンクの構成部品が収縮して生じる機械的応力の悪影響等を抑止することを企図したものである。
特表2011−505525号公報
ところで、本発明者の知見によれば、上述したような高圧ガスタンクの構成部品の収縮に起因する事象としては、例えば、高圧ガスタンクの製造時に内部ライナと強度部材が剥離してしまい、さらに、上述の如く、運転時の減圧や構成部材の吸熱による温度低下により、その剥離が拡大したり進展したりしてしまうといった問題点が挙げられる。そのようにして、内部ライナと強度部材との剥離が顕著になると、場合によっては、高圧ガスタンクから燃料ガスが漏洩するおそれもある。
しかし、かかる不都合を解消するべく、特許文献1に記載された高圧タンク用加温システムの如く、収縮した内部ライナ等の部材を膨張させるべく高圧ガスタンクの全体を加温するには、数十kg程度の物体を加熱することになるので、相当な熱エネルギが必要となる。この場合、その熱エネルギを発生させるための電力が必要になり、燃料電池自動車や圧縮天然ガス自動車等の車両の燃費が顕著に悪化してしまう。
一方、特許文献1に記載された高圧タンク用加温システムとは異なり、高圧ガスタンクの全体ではなく内部ライナのみを加温することも想起されるが、そのような加温システムを構成することは高圧ガスタンクの構造上、非常に難しく、現実的ではない。さらに、高圧ガスタンクを加温するための熱発生源(熱源)を設置することは、システムの全体重量や材料コスト及び製造コストの増大を招いてしまうという問題もある。
そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、高圧流体を貯留する流体タンクにおけるタンクライナ(内部ライナ)とその外側の強度部材との間に隙間が生じても、それが拡大したり進展してしまったりすることを防止することができ、しかも、その高圧ガスタンクを搭載した車両の燃費の悪化、並びに、システムの全体重量及びコストの増大を抑止することが可能な高圧流体供給システムを提供すること目的とする。
上記課題を解決するために本発明による高圧流体供給システムは、タンクライナ、及び、そのタンクライナの外側に設けられた強度部材を有し、且つ、内部に高圧流体が貯留される流体タンクから、その高圧流体を外部へ供給するシステムであって、流体タンクの内部の圧力を測定する圧力測定部と、その圧力測定部によって測定された流体タンクの内部の圧力測定値に基づいて流体タンクに対する所定の制御を行う制御部とを備えており、制御部が、流体タンクの内部の下限圧力として(適宜)設定される、又は、予め設定された閾値を有しており、流体タンクの内部の圧力測定値とその閾値とを比較した結果に基づいて流体タンクに対する所定の制御を行うものである。また、その圧力pは、下記式(1);
p=u・t/2r2・E(T)/(1−ν) …(1)、
で表される関係によって算出された圧力pに対し、その圧力と同じかそれよりも高い圧力に相当する値である。
このように構成された高圧流体供給システムにおいては、流体タンクの内部の圧力が、圧力測定部によって測定(モニタ)されており、例えば、流体タンクの温度が低下したり、内部に貯留された高圧流体が流体タンクの外部へ放出されたりしたときの流体タンクの内部の圧力も、連続的、断続的、又は定期的に測定される。このとき、制御部は、圧力の閾値と流体タンクの内部の圧力測定値とを比較し、例えば圧力測定値が圧力の閾値以下となったり、圧力測定値が高圧流体供給システムの運転上不都合がある程度に閾値を下回ったりした場合に、流体タンクに対して所定の制御を行う。
なお、流体タンクに対する所定の制御としては、特に制限されず、例えば、流体タンクからの高圧流体の供給を調整(運転モードの変更を含む)したり、場合によっては、その供給を自動停止(瞬時でも徐々にでもよい)したりすることが挙げられる。また、そのような高圧流体の供給制御に替えて、或いは、並行して、適宜の警報を発するようにしてもよい。
その場合の警報の発報は、例えば、当該高圧流体供給システムが搭載された車両のユーザが認知することができるような形態でもよいし、その場合に燃料ガス等の高圧流体の供給を手動で調整するようにユーザを促すことが可能な形態でもよいし、或いは、ユーザには分からないようにバックグラウンドで制御処理を行うための発報形態としてもよく、また、制御部から例えば遠隔管理システムに通報するような制御であっても構わない。さらに、そのときの警報の内容も、特に限定されず、例えば、圧力測定値が圧力の閾値以下になったことを直接的に知らせるものでもよいし、或いは、高圧流体の供給の調整又は停止とともに、かかる供給調整や供給停止を行う旨又は行ったことを知らせるものでもよい(例えば、如何なる条件であろうと、燃料ガス等の高圧流体の供給停止中を知らせるランプを点灯させる等)。
具体的には、圧力pは、上記の温度Tが、−60℃、−70℃、若しくは、−80℃、或いは、−60℃〜−80℃の範囲内の温度、又は、当該高圧流体供給システムが使用される環境で想定される最低温度であるときの値である。後者の高圧流体供給システムの使用環境で想定される最低温度としては、例えば、高圧流体供給システムが搭載される車両が販売された地域における過去の最低温度や、かかる車両の製造者等が想定する使用条件下における流体タンクの最低温度等が挙げられる。
そして、上記圧力p(最低圧力)は、式(1)に示すとおり、予め測定又は評価が可能な大気圧下におけるタンクライナと強度部材との間の隙間量uに対して、タンクライナの肉厚t、そのタンクライナの曲部における曲率半径r、温度T、その温度Tにおけるタンクライナの弾性係数E(T)、及び、タンクライナの構成材料のポアソン比νを言わば補正した値である。つまり、圧力pは、流体タンクの内部の温度が低下した場合でも、例えば流体タンクの製造時に、その流体タンクを構成するタンクライナと強度部材との間に生じてしまった隙間が、大気圧下に比して有意に(不都合が発生する可能性がある程度にまで)拡大及び進展してしまうことを防止することができる圧力の下限値である。
以上のいずれの構成においても、制御部が有する圧力の閾値を、式(1)から算出された圧力p、又は、それよりも高い圧力に設定すれば、制御部は、流体タンクのタンクライナと強度部材との間の隙間が不都合な程度にまで拡大及び進展してしまう以前に所定の制御を行うことができ、またそれにより、かかる隙間の拡大及び進展、延いては流体タンクからの高圧流体の漏洩のおそれといった不都合の発生を未然に且つ確実に防止することができる。
このとき、高圧流体供給システムが使用される環境温度や使用条件、流体タンクの形状等の寸法パラメータ、及び、その内部に貯留される高圧流体の種類や物性等によって、流体タンクの内部の温度範囲が想定できるような場合には、例えば、その温度範囲の下限値を上記温度Tとして式(1)から圧力pを予め算出し、その圧力pと同じか又はそれよりも高い圧力を閾値(下限圧力)として予め決定しておくことが可能である。つまり、この場合、閾値として、予め決定された定数(固定値)を用いることができる。
または、流体タンクの内部の温度を測定(モニタ)し、その温度測定値を上記温度Tとして用いて式(1)から圧力pを都度算出し、その圧力pと同じか又はそれよりも高い圧力を都度閾値(下限圧力)として決定するようにすることも可能である。つまり、この場合、閾値として、適宜決定される変数(変動値)を用いることができる。
或いは、高圧流体供給システムが流体タンクの内部の温度を測定する温度測定部を更に備えており、閾値が、流体タンクの内部の温度測定値(E(T)における温度T)に対して算出された圧力pと同じかそれよりも高い圧力に相当する値であってもよい。
さらに、制御部は、流体タンクの内部の温度測定値を流体タンクの周囲温度に応じて補正するように構成されていてもよい。
またさらに、制御部は、流体タンクの内部の圧力測定値が閾値を所定回数(例えば1回)下回ったときに、所定の制御行うように構成されていても好適である。
以上のことから、本発明の高圧流体供給システムによれば、流体タンクにおけるタンクライナとその外側の強度部材との間に隙間が生じてしまっても、その隙間が不都合な程度にまで拡大及び進展してしまうこと、及び、それに起因する高圧流体の漏洩のおそれを未然に且つ確実に防止することができる。しかも、従来の如く付加的な熱発生源(熱源)を追設する必要がないので、本発明の高圧流体供給システムを搭載した車両の燃費の悪化、並びに、システムの全体重量及びコストの増大を抑止することも可能となる。
本発明による高圧流体供給システムの好適な一実施形態の構成を概略的に示す模式断面図である。 図1に示す高圧流体供給システムの一部を示す模式断面図である。 図1に示す高圧流体供給システムにおいて、流体タンクの内部の圧力測定値と閾値とに基づいて警報を発報する手順の一例を示すフロー図である。 流体タンクにおける温度T(℃)に対する圧力p(MPa)の変化の一例を示すグラフである。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態のみに限定する趣旨ではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
図1は、本発明による高圧流体供給システムの好適な一実施形態の構成を概略的に示す構成図(一部模式断面図)であり、図2は、図1に示す高圧流体供給システムの一部を示す模式断面図である。
高圧流体供給システム1は、例えば、燃料電池自動車(FCV)や圧縮天然ガス自動車(CNGV)等の高圧流体としての高圧ガスを燃料とする車両に搭載されるものであり、燃料ガス等の高圧流体を貯留するための流体タンク10を備える。この流体タンク10は、両端部が略半球中空状をなす円筒形状を有しており、例えば同形状を有し且つ樹脂材料からなるタンクライナ11の外側に、それを覆うように例えばCFRP製のタンクシェル12(強度部材)が設けられたものである。かかる構造により、流体タンク10の内部に高圧流体を貯留するための内部空間Kが画成されている。また、その内部空間Kに、高圧流体を吸蔵するための適宜の吸収材(図示せず)が設けられていてもよい。
さらに、流体タンク10の一方端部の胴壁には、流体タンク10の内部空間Kと連通するように、配管13の一方端部13aが貫入設置されている。この配管13の他方端部は、図示しない燃料電池や内燃機関に延設されている。また、配管13における一方端部13aの近傍には、流体タンク10の内部(内部空間K)の圧力及び温度を測定するためのセンサ部14(圧力測定部及び温度測定部)が設置されている。
またさらに、センサ部14は、制御部2に電気的に接続されている。制御部2は、センサ部14によって測定された流体タンク10の内部空間のKの圧力測定値及び温度測定値を記憶することが可能であり、また、制御部2からの出力信号に基づいてアラート信号等の警報を発報する警報装置3に電気的に接続されている。
ここで、流体タンク10の製造時には、タンクライナ11とタンクシェル12との間、特に、流体タンク10の端部における屈曲部において、両者が互いに剥離してしまい、隙間10s(図2参照)が略不可避的に生じてしまう傾向にある。すなわち、タンクライナ11の周囲にタンクシェル12を形成するには、通常、未硬化のCFRP材をタンクライナ11の外壁に塗布等した後に、その未硬化のCFRP材を加熱硬化させる。その加熱硬化工程における加熱時には、タンクライナ11と硬化途中のCFRP材(タンクシェル12の前駆体)は、双方が同程度、熱膨張する。
しかし、加熱を終了して冷却する際には、硬化されたCFRP材は、その熱膨張係数が硬化途中に比して小さくなるので、硬化形成されたタンクシェル12よりもタンクライナ11の熱収縮量が大きくなってしまい、両者が剥離する箇所が生じてしまう。特に、応力が集中し易い屈曲部において、隙間10sが生じ易くなる傾向にある。図2は、こうして生じてしまった隙間10sを有する流体タンク10の大気圧下における状態を示す。
そして、タンクライナ11とタンクシェル12との間の隙間10sは、高圧流体供給システム1が搭載された車両の運転時において、その使用環境や使用条件に応じて流体タンク10の温度が低下したときに、更に大きくなり得る。例えば、外気温が氷点下まで低下すれば、その外気によって流体タンク10全体が更に冷却され、こうなると、タンクライナ11がタンクシェル12に比して更に収縮してしまう。また、既述のとおり、流体タンク10内の高圧流体の消費(例えば燃料電池や内燃機関への供給)や、そのときに流体タンク10の内部空間K内に配された部材による吸熱によって、流体タンク10が更に冷却された場合も同様である。
これに対し、本発明者は、上述したような加熱硬化工程によって形成されたタンクシェル12を有する流体タンク10に生じた隙間10sの大気圧下における隙間量u(流体タンク10の曲部におけるタンクライナ11とタンクシェル12との離間距離)を、ダイヤルゲージやX線CT等を用いて種々測定し、また、流体タンク10の使用条件(圧力、温度等)とその隙間量uとの関係を詳細に測定評価した。その結果、流体タンク10の内部に所定の圧力を印加することにより、タンクライナ11の収縮を有効に抑えて隙間10sの拡大及び進展を抑止することが可能であることを見出した。
すなわち、流体タンク10の内部に印加されるべき下限圧力を設定し、流体タンク10の内部の圧力がその下限圧力を下回らない、或いは、下回った場合に下限圧力以上の圧力に復帰するような所定の制御を、流体タンク10に対して行うようにすることにより、隙間10sの拡大及び進展を抑止することが可能となる。
そして、本発明者は、更に鋭意研究を重ね、かかる隙間10sの拡大及び進展を抑止可能な下限圧力(つまり閾値)として、下記式(1);
p=u・t/2r2・E(T)/(1−ν) …(1)、
で表される関係から算出された圧力pと同じかそれよりも高い圧力を用い得ることを見出した。
この式(1)から算出される圧力pは、大気圧下におけるタンクライナ11とタンクシェル12(強度部材)との間の隙間量uに比例し、タンクライナ11の肉厚tに比例し、タンクライナ11の曲部における曲率半径rに反比例し、温度Tにおけるタンクライナ11の弾性係数E(T)に比例し、且つ、タンクライナの構成材料のポアソン比νに反比例するいわゆる薄肉球殻モデルの一つとして記述されるものである。
式(1)におけるそれらのパラメータのうち、隙間量uとしては、前述の如く、大気圧下におけるタンクライナ11とタンクシェル12との間の隙間10sの大きさを、ダイヤルゲージやX線CT等を用いて測定した標準的な値(定数でも変数でもよい)を用いることができる。また、タンクライナ11の弾性係数E(T)は、温度Tに依存する変数であり、一般に低温になるほど大きくなる値であるが、例えば、温度Tとしては、弾性係数E(T)にとって保守的な数値(想定される温度の下限値等)を定数として用いてもよいし、センサ部14によって測定した流体タンク10の内部の温度測定値を変数として用いてもよい。前者は、手法としてより簡便であり、後者は、圧力pをより緻密に算出することができる利点を有する。
また、制御部2は、上述の如く上記式(1)で表される関係によって算出された圧力p(隙間10sの拡大及び進展を抑止することができる最低圧力)と同じか、又は、その圧力pよりも高い圧力に相当する値である閾値を有している。ここで、図3は、高圧流体供給システム1において、流体タンク10の内部の圧力測定値と閾値とに基づいて所定の制御(ここでは一例として「警報の発報」を行う手順の一例を示すフロー図である。この例では、まず、閾値として、予め決定された閾値P1を用いる(ステップS1)か、或いは、流体タンク10の内部の温度測定値(式(1)中のE(T)における温度Tとする)に応じて圧力pを算出し、その圧力pに基づいて閾値P2を都度決定する(ステップS2)かを、適宜又は予め選択することができる。
ステップS1で用いる閾値P1は、例えば、高圧流体供給システム1が使用される環境温度や使用条件、流体タンク10の形状等の寸法パラメータ、及び、その内部空間Kに貯留される高圧流体の種類や物性等によって、流体タンク10の温度範囲を想定できるような場合に特に有用である。この場合、例えば、その温度範囲の下限値を式(1)中の弾性係数E(T)における温度Tとして式(1)から圧力pを予め算出しておく。そして、その圧力pと同じかそれよりも高い圧力を、閾値P1として予め決定しておくことができる。それから、制御部2は、その閾値P1を、予め決定された定数(固定値)として、メモリ等の適宜の記憶手段に保持しておくことが可能である。そして、ステップS1においては、必要に応じて、その記憶されている閾値P1を、制御部2の例えば演算装置に読み込む。
ここで、温度Tとしては、例えば、−60℃、−70℃、若しくは、−80℃、或いは、−60℃〜−80℃の範囲内の温度、又は、高圧流体供給システム1が使用される環境で想定される最低温度が挙げられる。後者の高圧流体供給システム1の使用環境で想定される最低温度としては、上述の如く、高圧流体供給システム1が搭載される車両が販売された地域における過去の最低温度や、かかる車両の製造者等が想定する使用条件下における流体タンク10の最低温度等を例示することができる。
また、具体的には、上に例示した−60℃、−70℃、及び、−80℃のうち、「−60℃」は、アメリカ大陸(除くカナダ)、アジア(除くロシア)、及び、ヨーロッパの最低気温(例えばロシアのクラノヤルスク地方の最低気温の記録は−55℃)をカバーすることができる値であり、それらの地域によって例えばFCVの主要市場の大部分が網羅される。一方、「−70℃」は、北アメリカ大陸の最低気温の記録(カナダのユーコン準州における−63℃)、及び、アジアの最低気温の記録(ロシアのサハ共和国における−67.8℃)をカバーすることができる値である。他方、「−80℃」は、例えばFCVの利用が想定される略全ての地域の最低気温をカバーすることができる値である。
さらに、図4は、流体タンク10における温度T(℃)に対し、式(1)から算出される圧力p(MPa)の変化の一例を示すグラフである。この例を用いて、閾値P1の決定例について説明すると、流体タンク10の内部の温度Tの下限値が例えば−60℃であれば、その温度に対して式(1)から算出される圧力pは、図4より、約3.4(MPa)となる。そして、閾値P1としては、その約3.4(MPa)又はそれよりも高い圧力を設定することができる。同様に、温度Tの下限値が−70℃であれば、図4より、圧力pが約3.7(MPa)となり、閾値P1としては、その約3.7(MPa)又はそれよりも高い圧力を設定することができる。また、温度Tの下限値が−80℃であれば、図4より、圧力pが約3.9(MPa)となり、閾値P1としては、その約3.9(MPa)又はそれよりも高い圧力を設定することができる。
一方、ステップS2で用いる閾値P2は、流体タンク10の内部の温度測定値に応じて決定される。この場合、制御部2は、センサ部14によって測定された流体タンク10の内部の温度測定値を式(1)中の弾性係数E(T)における温度Tとして読み込む(ステップS21)。また、制御部2は、メモリ等の適宜の記憶手段に保持されていた式(1)における各パラメータの値を読み込み、且つ、弾性係数E(T)のテーブルや関数式等に温度Tを代入して、その温度における弾性係数E(T)を計算する(ステップS22)。それから、式(1)に各パラメータの値を代入して圧力pを算出する(ステップS23)。そして、例えば、その圧力p又はそれよりも高い圧力を、閾値P2として決定する(ステップS24)。
ここで、再び、図4に示す例を用いて、閾値P2の決定例について説明すると、流体タンク10の内部の温度測定値が例えば−30℃であった場合、その温度に対して式(1)から算出される圧力pは、図4より、約2.5(MPa)となる。よって、閾値P2として、その約2.5(MPa)又はそれよりも高い圧力を設定することができる。このようにして、流体タンク10の内部の温度測定値に応じて式(1)から算出される圧力pが変化するので、制御部2は、流体タンク10の周囲温度に応じて閾値P2を適宜変更して決定することができる。
次いで、ステップS1,S2のいずれを実行した場合にも、ステップS3へ移行し、制御部2は、センサ部14によって測定された流体タンク10の内部の圧力測定値Pmを読み込む。それから、制御部2は、流体タンク10の内部の圧力測定値Pmと閾値P1,P2とを比較し、圧力測定値Pmが、閾値P1以下、又は、閾値P2以下であるか否かを判定する(ステップS4)。圧力測定値Pmが、閾値P1以下、又は、閾値P2以下である場合(図示において「Yes」)、制御部2は、その判定信号を警報装置3に出力し、警報装置3がアラート信号を例えば点灯する(警報の発報)。一方、圧力測定値Pmが、閾値P1よりも大きい、又は、閾値P2よりも大きい場合(図示において「No」)、制御部2は、処理をステップS3に戻し、ステップS3,S4を繰り返す。
このように構成された高圧流体供給システム1によれば、制御部2が、圧力の閾値P1又は閾値P2と流体タンク10の内部の圧力測定値Pmとを比較し、その圧力測定値Pmが閾値P1,P2以下となったときに、警報装置3を用いてアラート信号等の警報を発報する。そして、その閾値P1,P2は、上記式(1)で表される関係によって求められる圧力pに基づいて決定される値(つまり、圧力p又はそれよりも大きい値)である。また、その圧力pは、流体タンク10の内部の温度が低下した場合でも、流体タンク10の製造時にタンクライナ11とタンクシェル12との間に生じてしまった隙間10sが、大気圧下に比して有意に(不都合が発生する可能性がある程度にまで)拡大及び進展してしまうことを防止することができる圧力の下限値である。
したがって、制御部2による上記の判定(ステップS4)を行って警報を発報することにより、流体タンク10のタンクライナ11とタンクシェル12との間の隙間10sが不都合な程度にまで拡大及び進展してしまうこと、延いては流体タンク10からの高圧流体の漏洩のおそれといった不都合の発生を、未然に且つ確実に防止することができる。
しかも、上述した制御部2による制御により、従来の如く付加的な熱発生源(熱源)を追設する必要が全くないので、高圧流体供給システム1を搭載した車両の燃費の悪化、並びに、システムの全体重量及びコスト(材料コスト、製造コスト、及び保守コストの全て)の増大を抑止することもできる。
なお、上述したとおり、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない限度において様々な変形が可能である。例えば、制御部2が発報装置3を兼ねていてもよい。また、流体タンク10が、タンクライナ11とタンクシェル12との間に、例えば炭素繊維等からなる中間層部材を有していてもよい。さらに、センサ部14における圧力センサと温度センサは、別体に設けられていてもよく、制御部2が、図3に示すステップS1,S2のうちステップS1のみを実行する場合には、温度センサを設けなくてもよい。またさらに、式(1)から算出される圧力pの値自体を閾値P1,P2として設定してもよい。
さらにまた、センサ部14で得た流体タンク10の内部の温度測定値を、例えば、流体タンク10の周囲の外気温で補正してもよい。なお、センサ部14は、当然に、外気温によって冷却又は加温された流体タンク10の温度を測定しているが、そのセンサ部14による温度測定値を、別途測定した外気温を用いて、例えば、外気から流体タンク10への熱伝導や熱輻射、流体タンク10の構成部材及び高圧流体の比熱等を勘案して補正し、その補正値を温度Tとして用い、式(1)から圧力pを算出してもよい。こうすれば、より厳密な閾値P2の決定を行うことができる。
また、ステップS5のアラート信号の点灯(警報の発報)に替えて、又は、それに加えて、前述の如く、制御部2によって流体タンク10からの高圧流体の供給を調整したり、その供給を停止したりしてもよい。また、警報の発報としても、アラート信号の点灯に替えて、又は、それに加えて、例えば、高圧流体供給システム1が搭載された車両のユーザに対して燃料ガス等の高圧流体の供給を調整又は停止するように促すランプ等を点灯してもよく、或いは、ユーザには分からないようにバックグラウンドで制御部2による制御処理を行ってもよく、さらには、制御部2から例えば遠隔管理システムに通報するような制御を行ってもよい。また、そのときの警報の内容も、特に限定されず、例えば、圧力測定値Pmが圧力の閾値P1,P2以下になったことを直接的に知らせるものでもよいし、或いは、高圧流体の供給の調整又は停止とともに、かかる供給調整や供給停止を行う旨又は行ったことを知らせるものでもよい。
以上説明したとおり、本発明による高圧流体供給システムは、流体タンクにおけるタンクライナとその外側の強度部材との間の隙間が拡大及び進展してしまうことを未然に防止することができ、且つ、車両の燃費の悪化、並びに、システムの全体重量及びコストの増大を抑止することが可能であるので、流体関連技術、殊に高圧流体を扱う機器、車両等の可動システム、設備等、及び、それらの製造に広く且つ有効に利用することができる。
1:高圧流体供給システム
2:制御部
3:警報装置
10:流体タンク
11:タンクライナ
12:タンクシェル(強度部材)
13:配管
13a:配管13の一方端部
14:センサ部(圧力測定部、温度測定部)
K:内部空間
p:圧力
P1,P2:閾値(下限圧力)
Pm:圧力測定値
t:タンクライナ11の肉厚
u:隙間量
r:タンクライナ11の曲部における曲率半径

Claims (5)

  1. タンクライナ、及び、該タンクライナの外側に設けられた強度部材を有し、且つ、内部に高圧流体が貯留される流体タンクから、該高圧流体を外部へ供給する高圧流体供給システムであって、
    前記流体タンクの内部の圧力を測定する圧力測定部と、
    前記圧力測定部によって測定された前記高圧流体タンクの内部の圧力測定値に基づいて前記流体タンクに対する所定の制御を行う制御部と、
    を備えており、
    前記制御部は、前記流体タンクの内部の下限圧力として設定される、又は、予め設定された閾値を有しており、前記流体タンクの内部の圧力測定値と前記閾値とを比較した結果に基づいて前記流体タンクに対する所定の制御を行うものであって、
    前記閾値は、下記式(1);
    p=u・t/2r2・E(T)/(1−ν) …(1)、
    u:大気圧下における前記タンクライナと前記強度部材との間の隙間量、
    t:前記タンクライナの肉厚、
    r:前記タンクライナの曲部における曲率半径、
    E(T):温度Tにおける前記タンクライナの弾性係数、
    ν:前記タンクライナの構成材料のポアソン比、
    で表される関係によって算出された圧力pに対し、該圧力pと同じか、又は、該圧力pよりも高い圧力に相当する値である、
    高圧流体供給システム。
  2. 前記圧力pは、前記温度Tが、−60℃、−70℃、若しくは、−80℃、或いは、−60℃〜−80℃の範囲内の温度、又は、当該高圧流体供給システムが使用される環境で想定される最低温度であるときの値である、
    請求項1記載の高圧流体供給システム。
  3. 前記流体タンクの内部の温度を測定する温度測定部を更に備えており、
    前記圧力pは、前記流体タンクの内部の温度測定値に対して算出された値である、
    請求項1記載の高圧流体供給システム。
  4. 前記制御部は、前記流体タンクの内部の温度測定値を流体タンクの周囲温度に応じて補正する、
    請求項3記載の高圧流体供給システム。
  5. 前記制御部は、前記流体タンクの内部の圧力測定値が前記閾値を所定回数下回ったときに、前記流体タンクに対する所定の制御を行う、
    請求項1記載の高圧流体供給システム。
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