JP2013515079A - 低レベルの病原性シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonasaeruginosa)感染症を有する患者のスタフィロコッカス(Staphylococcus)感染症を治療する方法 - Google Patents

低レベルの病原性シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonasaeruginosa)感染症を有する患者のスタフィロコッカス(Staphylococcus)感染症を治療する方法 Download PDF

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Abstract

本発明は、スタフィロコッカス感染症を有し、低レベルのシュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)も有する患者を治療する方法を提供する。本方法は、シュードモナスIII型分泌装置のアンタゴニスト、例えば抗PcrV抗体アンタゴニストを投与する工程を含む。

Description

関連出願の相互参照
本願は、参照により本明細書に組み入れられる2009年12月22日に出願した米国特許仮出願第61/288,977号の利益を主張するものである。
発明の背景
シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)(P.エルギノーサ(P. aeruginosa))は、健康な人々では疾病を引き起こすことはまれであるが、重篤な病気、免疫不全の個体または病原体の肺上皮細胞排除が不完全である個体、例えば嚢胞性線維症(CF)患者では重大な問題である、日和見病原体である。感染症はCFを有する個体にとって主要な問題であり、P.エルギノーサによる肺の慢性的な感染症は進行性の肺機能の喪失をもたらす。CF患者において、III型分泌装置(TTSS)を発現するP.エルギノーサ細胞の数は、肺におけるP. エルギノーサの総負荷量のごく一部であることが公知である。これは、CF患者が、何年間も彼らの肺中の高い細菌負荷に耐えることができる理由を説明しうる。しかし、TTSS発現細胞は、肺不全によって早過ぎる死をもたらす緩徐進行性の肺機能の喪失で重要な役割を果たすと考えられる。P.エルギノーサ感染による危険性がある他の個体は、人工呼吸器を付けている患者、好中球減少性癌患者、および熱傷患者を含み、ここで感染は急性であり、P.エルギノーサ細胞の多くはTTSSを発現する。
P.エルギノーサ感染症の危険性がある患者はまた、他の細菌感染症、例えばスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)(S.アウレウス(S. aureus))感染症も有する場合もある。患者内のP.エルギノーサ感染症およびS.アウレウス感染症のレベルは通常、反比例する、すなわちP.エルギノーサレベルが高いとS.アウレウスレベルは低くなると認識されている。具体的には、CF患者がP.エルギノーサに慢性的に感染している場合、S.アウレウスは、それほど頻繁ではないが痰から培養される。研究はさらに、P.エルギノーサが、化合物HQNQの産生によりS.アウレウスの増殖の抑制とアミノグリコシド耐性の増強とを同時に行うことを示している(O'Connell, Nature Reviews Microbiology, Vol. 5, February 2007(非特許文献1)、 Hoffman et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103:19890-19895, 2006(非特許文献2))。よって、P.エルギノーサのレベルを減少させる治療計画は、S.アウレウスに増殖の機会を与えると、通常考えられている。したがって、S.アウレウスとP.エルギノーサに同時感染した患者においてP.エルギノーサのレベルを減少させることは、患者に病的状態と死亡をもたらす、病原性S.アウレウス株が増加し得る環境を作り出すため、有害である場合がある。
細胞毒素が宿主細胞に注入されるP.エルギノーサの毒性メカニズムの1つは、III型分泌装置(TTSS)である。III型分泌装置は、宿主防御系を阻害し、上皮バリアを傷つけるという点で、重要な毒性因子である。活性化されると、III型分泌装置は、毒素を宿主細胞の細胞質内に移動させ、細胞円形化、リフティング(lifting)、および壊死による細胞死をもたらす。P.エルギノーサ感染症を治療する1つの方法は、TTSSを、例えば、「PcrV」と呼ばれるP.エルギノーサのTTSSのV抗原を標的とする。
TTSSを標的とする抗体は、P.エルギノーサ感染症を有する患者の治療のための治療剤として提案されている。本発明は、S.アウレウス感染症を有しかつP.エルギノーサに同時感染している患者は、P.エルギノーサのTTSSを選択的に標的とする作用物質で処置されると、S.アウレウスのレベルが減少するという驚くべき発見に一部基づく。これは、S.アウレウスのレベルは、P.エルギノーサレベルが減少している場合には上昇するという予想に反する。
O'Connell, Nature Reviews Microbiology, Vol. 5, February 2007 Hoffman et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103:19890-19895, 2006
発明の簡単な概要
本発明者らは、S.アウレウス感染症の治療を必要とするS.アウレウス感染症を有し、かつ低レベルのP.エルギノーサ感染症も有する患者が、シュードモナス(Pseudomonas)TTSSの選択的アンタゴニストで処置され、その結果、患者のS.アウレウスのレベルを減少させることができることを発見している。よって、1つの局面において、本発明は、低レベルP.エルギノーサ感染症を有する患者においてS.アウレウス感染症を治療する方法を提供し、該方法は、P.エルギノーサTTSSのPcrVアンタゴニスト、好ましくは抗PcrV抗体アンタゴニストを該患者のS.アウレウス負荷を効果的に減少させる量で投与する工程を含む。患者は、嚢胞性線維症を有するか、または人工呼吸器を付けていてもよい。いくつかの態様において、患者は好中球減少性癌患者である。いくつかの態様において、患者は熱傷患者である。患者を治療する方法は、S.アウレウス感染症を標的とする治療を行う工程をさらに含むことができる。いくつかの態様において、方法は、抗生物質、例えば、オキサシリン、ナフシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリンまたはフルクロキサシリンなどのペニシリナーゼ耐性ペニシリンを投与する工程を含む。いくつかの態様において、治療方法は、バンコマイシンまたはダプトマイシンを投与する工程をさらに含む。いくつかの態様において、患者は、抗生物質耐性S.アウレウス感染症を有する。いくつかの態様において、患者は、抗生物質耐性P.エルギノーサ感染症を有する。いくつかの態様において、S.アウレウス感染症とP.エルギノーサ感染症の両方が抗生物質耐性である。いくつかの態様において、患者は、嚢胞性線維症およびメチシリン耐性S.アウレウス感染症を有する。いくつかの態様において、患者は、嚢胞性線維症およびメチシリン感受性S.アウレウス感染症を有する。
追加的な局面において、本発明は、スタフィロコッカス・アウレウスおよびシュードモナス・エルギノーサに感染し人工呼吸器を付けた患者を治療する方法を提供し、ここで、スタフィロコッカス・アウレウスおよびシュードモナス・エルギノーサのレベルはそれぞれ、気管内吸引液中約103 cfu/mlもしくはそれ未満、または気管支肺胞洗浄液中約102 cfu/mlもしくはそれ未満であり、該方法は、III型分泌装置の抗PcrV抗体アンタゴニストを投与する工程を含む。
さらなる局面において、本発明は、スタフィロコッカス・アウレウスおよびシュードモナス・エルギノーサに感染した創傷を有する患者を治療する方法を提供し、ここで、スタフィロコッカス・アウレウスおよびシュードモナス・エルギノーサのレベルはそれぞれ、約103 cfu/g組織未満または約103 cfu/ml浸出液未満であり、該方法は、III型分泌装置の抗PcrV抗体アンタゴニストを投与する工程を含む。
いくつかの態様において、本発明の治療方法は、PcrVへの結合についてMab166と競合する抗PcrV抗体を投与する工程を含む。
いくつかの態様において、本発明の治療方法は、XがI、Q、Y、またはSであるNRGDIYYDFTYAMDXを含むVH CDR3;およびFW(S/G)TP、例えばQQFWSTPYT、QHFWGTPYT、またはQHFWSTPYTを含むVL CDR3を有する抗PcrV抗体を投与する工程を含む。いくつかの態様において、VH CDR3は、NRGDIYYDFTYAMDIである。いくつかの態様において、VH CDR3は、NRGDIYYDFTYAMDQである。いくつかの態様において、VH CDR3は、NRGDIYYDFTYAMDYである。いくつかの態様において、VH CDR3は、NRGDIYYDFTYAMDSである。いくつかの態様において、抗体は、図4に記載のVH領域および図5に記載のVL領域を含む。
いくつかの態様において、本発明の治療方法にしたがって投与された抗PcrV抗体は、Fabまたは全免疫グロブリン分子である。いくつかの態様において、抗体はペグ化されている。
プラセボ、3 mgの抗PcrV抗体(3 mg Ab)、または10 mgの抗PcrV抗体(10 mg Ab)による処置後14日目のCF患者の痰におけるスタフィロコッカス・アウレウスのレベルの減少を示すデータを提供する。 プラセボ、3 mgの抗PcrV抗体(3 mg Ab)、または10 mgの抗PcrV抗体(10 mg Ab)による処置の処置後28日目のCF患者の痰におけるスタフィロコッカス・アウレウスのレベルの減少を示すデータを提供する。 プラセボ、3 mgの抗PcrV抗体(3 mg Ab)、または10 mgの抗PcrV抗体(10 mg Ab)による処置の処置後56日目のCF患者の痰におけるスタフィロコッカス・アウレウスのレベルの減少を示すデータを提供する。 本発明で使用するための抗PcrV抗体の例示的なVH領域の配列を示す。CDR配列に下線を引いている。VH1配列をヒト生殖系列配列VH1-18に対して整列させる。VH3サブクラス抗体をヒト生殖系列配列VH3-30.3に対して整列させて示す。Jセグメントをヒト生殖系列のJH3またはJH6いずれかに対して整列させる。図4に示すVHセグメントはCDR3配列までの配列に対応する。 本発明で使用するための抗PcrV抗体の例示的なVL領域の配列を示す。CDR配列に下線を引いている。Vκサブクラス抗体をヒト生殖系列配列VKI L12に対して整列させて示す。Jセグメントをヒト生殖系列JK2に対して整列させる。Vλサブクラス抗体をヒト生殖系列配列Vl3 31に対して整列させて示す。Jセグメントをヒト生殖系列JL2に対して整列させる。
発明の詳細な説明
本明細書で用いられる、シュードモナス・エルギノーサとスタフィロコッカス・アウレウスの両方に感染した患者における「低レベル」のシュードモナスは、抗体によって治療されないシュードモナスのレベルを指す。よって、シュードモナスのレベルは、スタフィロコッカスのレベルより低い、すなわち、標準的なコロニー形成単位(cfu)数量化では、シュードモナスのコロニー形成単位/ml(cfu/ml)は、スタフィロコッカスのcfu/mlの約20%またはそれ未満である。慢性的なP.エルギノーサ感染症を有するCF患者では、TTSS発現P.エルギノーサ細菌は多くの場合、痰中で測定されるP.エルギノーサ総負荷量の約10%未満または約1%未満である。シュードモナス・エルギノーサとスタフィロコッカス・アウレウスの両方に感染した、CF患者などの患者における「低レベルのTTSS発現シュードモナス」は、TTSS発現シュードモナスのレベルがスタフィロコッカスのレベルの約10%またはそれ未満、典型的には約5%もしくは1%またはそれ未満であるレベルを指す。よって、TTSS発現シュードモナスcfuは、スタフィロコッカスcfuの約10%またはそれ未満である。いくつかの態様、例えば人工呼吸器を付けた患者において、低レベルのシュードモナス・エルギノーサは、気管内吸引液(ETA)試料において約103 cfu/ml未満である(例えば、Louis, et al., The Journal of Trauma: Injury, Infection, and Critical Care 66 : 1052-1059, 2009)。いくつかの態様において、低レベルのシュードモナス・エルギノーサは、気管支肺胞洗浄液(BAL)試料において約102 cfu/ml未満である。いくつかの態様、例えば嚢胞性線維症患者において、低レベルのシュードモナス・エルギノーサは、約105 cfu/g痰未満であり、ここで、TTSS発現シュードモナス・エルギノーサの割合は、シュードモナス・エルギノーサ細菌合計の10%またはそれ未満である。本発明の方法にしたがって処置される熱傷患者または好中球減少性癌患者は、102 cfu/g組織のシュードモナス・エルギノーサに対して103 cfu/gのスタフィロコッカス・アウレウスの力価を有する(例えば、Hendricks et al., J. Bone & Joint Surgery 83:855-861, 2001)。
「急性」スタフィロコッカス・アウレウス感染症などの「急性」感染症は、感染病原体のレベルが、治療を是認するのに十分である、例えば人工呼吸器を付けた患者のETAにおいて103 cfu/mlを上回るか、BALにおいて102 cfu/mlを上回るか、嚢胞性線維症患者において約105 cfu/g痰を上回るか、または創傷において103 cfu/g生検試料または浸出液を上回る、感染症を指す。本発明の文脈において、「急性」という用語は、突然発症する感染症を指すだけではなく、感染病原体、例えばS.アウレウスのレベルが治療を是認する量まで増加している慢性感染症、すなわち慢性感染症の増悪も包含する。「急性S.アウレウス感染症」という用語は、「高レベルS.アウレウス」感染症と同義に用いられる。よって、本発明によるPcrVアンタゴニストによって治療される低レベルのシュードモナス・エルギノーサを伴うスタフィロコッカス・アウレウス感染症を有する患者は、患者がS.アウレウス感染症について治療する必要があると判断される場合に、「高レベル」のS.アウレウスを有する。
本明細書において用いられる「抗体」は、結合タンパク質として機能的に定義され、かつ抗体を産生する動物の免疫グロブリンをコードする遺伝子のフレームワーク領域に由来するとして当業者に認識されるアミノ酸配列を含むと構造的に定義される、タンパク質を指す。抗体は、免疫グロブリン遺伝子または免疫グロブリン遺伝子の断片により実質的にコードされる1つまたは複数のポリペプチドからなることができる。認識される免疫グロブリン遺伝子は、κ、λ、α、γ、δ、εおよびμの定常領域遺伝子、ならびに種々の免疫グロブリン可変領域遺伝子を含む。軽鎖は、κまたはλのいずれかに分類される。重鎖は、γ、μ、α、δ、またはεに分類され、かつ順番にそれぞれ免疫グロブリンクラス、IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEを定義する。
典型的な免疫グロブリン(抗体)構造ユニットは、四量体を含むことが公知である。四量体はそれぞれ、同一の2組のポリペプチド鎖で構成され、各組とも1つの「軽」鎖(約25 kD)および1つの「重」鎖(約50 kD)を有する。各鎖のN末端は、主に抗原認識に関与する約100個から110個またはそれより多いアミノ酸の可変領域を定義する。可変軽鎖(VL)および可変重鎖(VH)という用語はそれぞれこれらの軽鎖および重鎖を指す。
本明細書において用いられる抗体という用語は、結合特異性を保持する抗体断片を含む。例えば、十分に特徴付けられた多数の抗体断片がある。従って、例えばペプシンは、ヒンジ領域内のジスルフィド結合に対してC末端の抗体を消化し、F(ab)'2、それ自体がジスルフィド結合によりVH-CH1(Fd)に連結されている軽鎖であるFabの二量体を生じる。F(ab)'2は、ヒンジ領域内のジスルフィド結合を切断することによって(Fab')2二量体をFab'一量体に変換する穏やかな条件下で、縮小される場合がある。Fab'一量体は本質的には、ヒンジ領域の全体または一部を伴うFabである(他の抗体断片のより詳細な記載についてはFundamental Immunology, W.E. Paul, ed., Raven Press, N.Y. (1993)参照)。様々な抗体断片が、インタクト抗体の消化の面から定義される一方で、当業者は、断片が化学的にまたは組換えDNA方法の使用によりデノボ合成されうることを理解すると考えられる。従って、「抗体」という用語はまた、抗体全体の改変または組換えDNA方法を用いた合成のいずれかにより生じる抗体断片を含む。
本発明の抗体は、可変重鎖領域および可変軽鎖領域が互いに連結されて(直接にまたはペプチドリンカーを介して)連続したポリペプチドを形成する、一本鎖Fv抗体(sFvまたはscFv)などの一本鎖抗体(一本鎖ポリペプチドとして存在する抗体)を含む、VH-VL二量体、VH二量体、またはVL二量体などの二量体を含む。一本鎖Fv抗体は、共有結合されたVH-VLヘテロ二量体であり、直接的に結合されるかまたはペプチドコードリンカーにより結合されるVHコード配列およびVLコード配列を含む核酸から発現させてもよい(例えば、Huston, et al. Proc. Nat. Acad. Sci. USA, 85:5879-5883, 1988)。VHおよびVLは一本鎖ポリペプチドとしてお互いに連結される一方で、VHドメインおよびVLドメインは非共有結合的に結合する。あるいは、抗体は、ジスルフィド安定化Fv(dsFv)などの別の断片であることができる。組換え技術を用いてなど、他の断片もまた作成されることができる。抗体V領域に由来する天然には凝集するが化学的に分離される軽鎖ポリペプチドおよび重鎖ポリペプチドを抗原結合部位の構造に実質的に類似する3次元構造に折りたたんだ分子に変換する、scFv抗体および多数の他の構造体は、当業者に公知である(例えば、米国特許第5,091,513号、同第5,132,405号、および同第4,956,778号参照)。いくつかの態様において、抗体は、ファージ上に示される抗体、または鎖を可溶性タンパク質、例えばscFv、Fv、Fab、(Fab')2として分泌するベクターを用いる組換え技術により産生される抗体、または鎖を可溶性タンパク質として分泌するベクターを用いる組換え技術により産生される抗体を含む。本発明における使用のための抗体はまた、ジ抗体(diantibody)およびミニ抗体も含みうる。さらに、本発明の抗体は、ラクダ科の動物に由来する抗体などの重鎖二量体を含む。ラクダ科の動物における重鎖二量体IgGのVH領域は、軽鎖による疎水性相互作用を作る必要がないため、通常は軽鎖と接触する重鎖内の領域が、ラクダ科の動物では親水性アミノ酸残基に変更される。重鎖二量体IgGのVHドメインはVHHドメインと呼ばれる。本発明の抗体は、単一ドメイン抗体(dAb)およびナノボディを含む(例えば、Cortez-Retamozo, et al., Cancer Res. 64:2853-2857, 2004参照)。
本明細書において用いられる「V領域」は、CDR3およびフレームワーク4を含む、フレームワーク1、CDR1、フレームワーク2、CDR2、ならびにフレームワーク3のセグメントを含む抗体可変領域ドメインを指し、それらのセグメントは、B細胞分化の過程で重鎖V領域遺伝子および軽鎖V領域遺伝子の再構成の結果としてVセグメントに加えられる。本明細書において用いられる「Vセグメント」は、V遺伝子によりコードされるV領域(重鎖または軽鎖)の領域を指す。重鎖可変領域のVセグメントは、FR1-CDR1-FR2-CDR2およびFR3をコードする。本発明の意図に関して、軽鎖可変領域のVセグメントは、FR3を経てCDR3まで及ぶと定義される。
本明細書において用いられる「Jセグメント」という用語は、CDR3およびFR4のC末端部分を含むコードされた可変領域のサブ配列を指す。内在性のJセグメントは、免疫グロブリンJ遺伝子によりコードされる。
本明細書において用いられる「相補性決定領域(CDR)」は、軽鎖可変領域および重鎖可変領域により確立される、4つの「フレームワーク」領域の間に割って入る各鎖における3つの超可変領域を指す。CDRは主に、抗原のエピトープへの結合に関与する。各鎖のCDRは、N末端から順に番号を付けられたCDR1、CDR2、およびCDR3を指し、また個々のCDRが位置している鎖により同定される。従って、例えばVHCDR3は、見出される抗体の重鎖の可変ドメイン中に位置するのに対し、VLCDR1は、見出される抗体の軽鎖の可変ドメインのCDR1である。
種々の軽鎖または重鎖のフレームワーク領域の配列は、種内で比較的保存されている。抗体のフレームワーク領域は、構成物軽鎖および構成物重鎖のフレームワーク領域の組み合わせであり、三次元空間においてCDRの位置を特定しかつ整列させるのに役立つ。
CDRおよびフレームワーク領域のアミノ酸配列は、当技術分野において周知の様々な定義、例えば、Kabat, Chothia, international ImMunoGeneTicsデータベース(IMGT)、およびAbMを用いて決定されうる (例えば、上記Johnson et al.,; ChothiaおよびLesk, 1987, Canonical structures for the hypervariable regions of immunoglobulins. J. Mol. Biol. 196, 901-917; Chothia C. et al., 1989, Conformations of immunoglobulin hypervariable regions. Nature 342, 877-883; Chothia C. et al., 1992, structural repertoire of the human VH segments J. Mol. Biol. 227, 799-817; Al-Lazikani et al., J.Mol.Biol 1997, 273(4)参照)。抗原結合部位の定義はまた、以下にも記載される:Ruiz et al., IMGT, the international ImMunoGeneTics database. Nucleic Acids Res., 28, 219-221 (2000); およびLefranc,M.-P. IMGT, the international ImMunoGeneTics database. Nucleic Acids Res. Jan l;29(l):207-9 (2001); MacCallum et al, Antibody-antigen interactions: Contact analysis and binding site topography, J. Mol. Biol., 262 (5), 732-745 (1996); およびMartin et al, Proc. Natl Acad. Sci USA, 86, 9268-9272 (1989); Martin, et al, Methods Enzymol., 203, 121-153, (1991); Pedersen et al, Immunomethods, 1, 126, (1992); およびRees et al, In Sternberg M.J.E. (ed.), Protein Structure Prediction. Oxford University Press, Oxford, 141-172 1996)。
「エピトープ」または「抗原決定基」は、抗体が結合する抗原の部位を指す。エピトープは、連続的なアミノ酸と、またはタンパク質の三次折りたたみ(tertiary folding)により近接して並ぶ非連続的なアミノ酸との両方から形成されうる。連続的なアミノ酸から形成されるエピトープは、典型的には変性溶媒への曝露に対して保持されるのに対し、三次折りたたみにより形成されるエピトープは、典型的には変性溶媒による処理によって失われる。エピトープは、特有の空間立体構造内に典型的には少なくとも3アミノ酸、およびより通常は少なくとも5または8〜10アミノ酸を含む。エピトープの空間立体構造を決定する方法は、例えばX線結晶学および二次元核磁気共鳴を含む。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology, Vol. 66, Glenn E. Morris, Ed (1996) 参照。
本発明の文脈で用いられる「最小必須の結合特異性決定基」または「MEBSD」という用語は、抗体の結合特異性を決定するために必要な、CDR領域内で最小の連続的なアミノ酸配列または非連続的なアミノ酸配列を指す。多くの場合、最小の結合特異性決定基は、抗体の重鎖および軽鎖のCDR3配列の一部分または全長内に存在する。
本明細書において用いられる「PcrV拮抗性抗体」または「シュードモナス・エルギノーサIII型分泌システムの抗PcrV抗体アンタゴニスト」という用語は、互換的に用いられ、PcrVに結合しかつIII型分泌システムを阻害する抗体を指す。阻害は、III型分泌システムを通じた分泌が、抗体アンタゴニストに曝露しなかった場合の分泌と比べて、少なくとも約10%少ない、例えば少なくとも約25%、50%、75%少ない、または完全に阻害された場合に起こる。「抗PcrV抗体」および「PcrV抗体」という用語は、特に指定がない限り、同意語として用いられる。
本発明の文脈において「PcrV III型分泌装置のアンタゴニスト」または「TTSSアンタゴニスト」は、アンタゴニストに曝露していない場合の分泌と比べて、少なくとも10%、典型的には少なくとも25%、50%、75%までTTSSによる分泌を阻害する作用物質を指す。
「平衡解離定数(KD)」という用語は、結合速度定数(ka、時間-1、M-1)で割った解離速度定数(kd、時間-1)を指す。平衡解離定数は、当技術分野において公知の任意の方法を用いて測定されうる。本発明の方法において用いられる抗体は、高親和性抗体である。そのような抗体は、500 nMより優れた親和性を有し、多くの場合50 nMまたは10 nMより優れた親和性を有する。従って、いくつかの態様において本発明の抗体は、500 nMから100 pMの範囲の、または50もしくは25 nMから100 pMの範囲の、または50もしくは25 nMから50 pMの範囲の、または50 nMもしくは25 nMから1 pM範囲の親和性を有する。
本明細書において用いられる「ヒト化抗体」は、ドナー抗体由来のCDRがヒトフレームワーク配列に移植されている免疫グロブリン分子を指す。ヒト化抗体はまた、フレームワーク配列内にドナー起源の残基を含んでもよい。ヒト化抗体はまた、ヒト免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部分を含むこともできる。ヒト化抗体はまた、レシピエント抗体内ならびに移入されるCDR配列内およびフレームワーク配列内のいずれにおいても見出されない残基を含んでもよい。ヒト化は、当技術分野において公知の方法を用いて行うことができ(例えば、Jones et al., Nature 321:522-525; 1986; Riechmann et al., Nature 332:323-327, 1988; Verhoeyen et al, Science 239:1534-1536, 1988); Presta, Curr. Op. Struct. Biol. 2:593-596, 1992; 米国特許第4,816,567号)、「超ヒト化(superhumanizing)」抗体(Tan et al., J. Immunol. 169: 1119, 2002)および「表面再構成(resurfacing)」(例えば、Staelens et al., Mol. Immunol. 43: 1243, 2006; およびRoguska et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA 91: 969, 1994)などの技術を含む。
本発明の文脈において「ヒューマニア化(humaneered)(商標)」抗体は、参照抗体の結合特異性を有する、遺伝子操作された(engineered)ヒト抗体を指す。本発明における使用のための「ヒューマニア化(商標)」抗体は、ドナー免疫グロブリンに由来する最小配列を含む免疫グロブリン分子を有する。典型的には、抗体は、参照抗体の重鎖のCDR3領域由来の結合特異性決定基(BSD)をコードするDNA配列にヒトVHセグメント配列を連結し、参照抗体由来の軽鎖CDR3 BSDにヒトVLセグメント配列を連結することにより「ヒューマニア化(商標)」する。「BSD」は、CDR3-FR4領域、または結合特異性を媒介するこの領域の一部分を指す。従って結合特異性決定基は、CDR3-FR4、CDR3、CDR3の最小必須の結合特異性決定基(抗体のV領域中に存在する場合に結合特異性を付与するCDR3より小さな任意の領域を指す)、Dセグメント(重鎖領域に関して)、または参照抗体の結合特異性を付与するCDR3-FR4の他の領域であることができる。ヒューマニア化のための方法は、米国特許出願公開第20050255552号および米国特許出願公開第20060134098号で提供される。
「ハイブリッド」という用語は、核酸またはタンパク質の部分に関連して用いられる場合、核酸またはタンパク質が本来は互いに同様の関連性において普通は見られない2つまたはそれ以上のサブ配列を含むことを意味する。例えば、「ハイブリッド」核酸は多くの場合、組換えで作製され、例えば新しい機能的な核酸を作るよう並べられた無関係の遺伝子に由来する、2つまたはそれ以上の配列を有する。同様に、「ハイブリッド」タンパク質は、本来は互いに同様の関連性において普通は見られない2つまたはそれ以上のサブ配列を指す。
「組換え」という用語は、例えば細胞、または核酸、タンパク質、もしくはベクターに関連して用いられる場合、細胞、核酸、タンパク質またはベクターが異種の核酸もしくはタンパク質の導入、または天然の核酸またはタンパク質の変更により改変されていること、または細胞がそのように改変されている細胞に由来することを意味する。従って、例えば組換え細胞は、発現下でまたは全く発現しない条件下で、細胞の天然の(非組換えの)形態の範囲内では見られない遺伝子を発現するか、またはそうでなければ異常発現される天然の遺伝子を発現する。本明細書における「組換え核酸」という用語は、一般には、例えばポリメラーゼおよびエンドヌクレアーゼを用いる核酸の操作により、元々はインビトロで形成された、本来普通は見出されない形態の核酸を意味する。このようにして、機能的に種々の配列の連結が達成される。従って、直線形態の単離された核酸と、または普通は連結しないDNA分子を連結させることによりインビトロで形成される発現ベクターとの両方とも、本発明の意図に関して、組換え体であると考えられる。組換え核酸が作製され、宿主細胞または宿主生物内に再導入された後は、組換え核酸は非組換えにより、すなわちインビトロ操作よりはむしろ宿主細胞のインビボ細胞機構を用いて複製される。しかしながらそのような核酸は、本発明の意図に関して、組換えで産生された後に続いて非組換えで複製されるが、依然として組換え体であると考えられることが理解される。同様に、「組換えタンパク質」は、組換え技術を用いて、すなわち上記に示す通り組換え核酸の発現によって作製されるタンパク質である。
タンパク質またはペプチドに「特異的に(または選択的に)結合する」または「特異的に(または選択的に)免疫反応性を示す」という語句は、タンパク質またはペプチドを指す場合、抗体が関心対象のタンパク質に結合する結合反応を指す。本発明の文脈において、抗体は典型的には、500 nMまたはそれ未満の親和性でPcrVに結合し、他の抗原に対しては5000 nMまたはそれを超える親和性を有する。
「同一の」またはパーセント「同一性」という用語は、2つまたはそれ以上のポリペプチド(または核酸)配列の文脈において、下記のデフォルトパラメーターによるBLASTまたはBLAST 2.0配列比較アルゴリズムを用いて、または手動整列化および目視による検査により測定された場合に(例えば、NCBIウェブサイトを参照)、同一であるか、または同一であるアミノ酸残基の特定のパーセンテージのアミノ酸配列(もしくはヌクレオチド) (すなわち、比較ウィンドウ(comparison window)または指定された領域に対して最大限一致するよう比較し整列させた場合、特定の領域に対して約60%の同一性、好ましくは70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性、またはより高い同一性)を有する、2つまたはそれ以上の配列またはサブ配列を指す。次いで、そのような配列を、「実質的に同一である」と言う。「実質的に同一である」配列はまた、欠失および/または付加を有する配列、ならびに置換を有する配列、ならびに天然に存在する変異体、例えば多型変異体または対立遺伝子変異体およびヒトが作製した変異体も含む。下記の通り、好ましいアルゴリズムはギャップなど明らかにすることができる。好ましくは、タンパク質配列同一性は、長さが少なくとも約25アミノ酸である領域にわたって、またはより好ましくは長さが50-100アミノ酸である領域にわたって、または1つのタンパク質の長さにわたって存在する。
本明細書において用いられる「比較ウィンドウ」は、典型的には20個から600個、一般的には約50個から約200個、より一般的には約100個から約150個からなる群より選択される数の連続した位置の1つのセグメントに対する参照を含み、ここで配列は、2つの配列を最適に整列させた後に、同一数の連続した位置の参照配列と比較されてもよい。比較のための配列の整列の方法は、当技術分野において周知である。比較のための配列の最適な整列は、例えばSmithおよびWaterman, Adv. Appl. Math. 2:482 (1981)の局所的相同性アルゴリズムにより、NeedlemanおよびWunsch, J. Mol. Biol. 48:443 (1970)の相同性整列化アルゴリズムにより、PearsonおよびLipman, Proc. Nat'l. Acad. Sci. USA 85:2444 (1988)の類似度の検索法により、これらのアルゴリズムのコンピュータ処理による実行により(the Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, WIにおけるGAP, BESTFIT, FASTA, およびTFASTA)、または手動整列化および目視による検査(例えばCurrent Protocols in Molecular Biology (Ausubel et al., eds. 1995 supplement)参照)により、実行されうる。
パーセント配列同一性および配列類似性を判定するのに適しているアルゴリズムの好ましい例は、BLASTおよびBLAST 2.0アルゴリズムを含み、それらはAltschul et al., Nuc. Acids Res. 25:3389-3402 (1977) およびAltschul et al., J. Mol. Biol. 215:403-410 (1990) に記載されている。BLASTおよびBLAST 2.0は、本明細書において記載されるパラメーターと共に用いられ、本発明の核酸およびタンパク質のパーセント配列同一性を判定する。BLASTNプログラム(ヌクレオチド配列のための)は、デフォルトとして、11の文字の長さ(W)、10の期待値(E)、M=5、N=-4および両鎖の比較を用いる。アミノ酸配列に関し、BLASTPプログラムは、デフォルトとして、3の文字の長さ、および10の期待値(E)を用い、かつBLOSUM62スコアリングマトリックス(HenikoffおよびHenikoff, Proc. Natl Acad. Sci. USA 89:10915 (1989)) は、50のアライメント(B)、10の期待値(E)、M=5、N=-4および両鎖の比較を用いる。
「単離された」、「精製された」または「生物学的に純粋である」という用語は、その天然の状態で見られる、通常は伴う構成要素を実質的にまたは本質的に含んでいない物質を指す。純度および均一性は典型的には、ポリアクリルアミドゲル電気泳動または高速液体クロマトグラフィーなどの化学的分析技術用いて判定される。調製物中に存在する優勢種であるタンパク質は、実質的に精製されている。「精製」という用語はいくつかの態様において、タンパク質が電気泳動ゲル中で本質的に1つのバンドを生じることを意味する。好ましくは、タンパク質が少なくとも85%純粋、より好ましくは少なくとも95%純粋、および最も好ましくは少なくとも99%であることを意味する。
「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」という用語は、本明細書において互換的に用いられ、アミノ酸残基のポリマーを指す。該用語は、1つまたは複数のアミノ酸残基が対応する天然に存在するアミノ酸の人工的な化学模倣体(mimetic)であるアミノ酸ポリマー、ならびに改変された残基を含む天然に存在するアミノ酸ポリマー、および非天然のアミノ酸ポリマーに適用する。
「アミノ酸」という用語は、天然に存在するアミノ酸および合成アミノ酸、ならびに天然に存在するアミノ酸と同様に機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣体を指す。天然に存在するアミノ酸は、遺伝暗号によりコードされるアミノ酸、ならびに後に修飾されるそれらのアミノ酸、例えばヒドロキシプロリン、γ-カルボキシグルタメート、およびO-ホスホセリンである。アミノ酸類似体は、天然に存在するアミノ酸と同様の基本化学構造、例えば、水素、カルボキシル基、アミノ基、およびホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、メチオニンメチルスフホニウムなどのR基に結合するα炭素を有する化合物を指す。そのような類似体は、修飾R基(例えばノルロイシン)または修飾ペプチド骨格を有してもよいが、天然に存在するアミノ酸と同様の基本化学構造を保持する。アミノ酸模倣体は、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様に機能する化合物を指す。
アミノ酸は本明細書において、一般に知られる3文字記号、またはIUPAC-IUB生化学命名法委員会(Biochemical Nomenclature Commission)が推奨する1文字記号のいずれかにより称されてもよい。同様にヌクレオチドは、それらの一般に認められた1文字コードにより称されてもよい。
「保存的に改変された変異体」は、アミノ酸配列と核酸配列との両方に適用する。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された変異体は、核酸が、本質的に同一のまたは関連する、例えば天然に連続した配列と同一のもしくは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする、または核酸がアミノ酸配列をコードしない、変異体を指す。遺伝暗号の縮重のため、多くのタンパク質は数多くの機能的に同一の核酸によりコードされる。例えば、コドンGCA、GCC、GCGおよびGCUは全て、アミノ酸アラニンをコードする。従って、コドンによりアラニンが特定される全ての位置で、コドンは、コードされるポリペプチドを変更することなく記載される別の対応するコドンに変更されうる。そのような核酸の変異は、「サイレント変異」であり、保存的に改変された変異体の一種である。本明細書において、ポリペプチドをコードする全ての核酸配列はまた、核酸のサイレント変異も表す。当業者は、ある文脈において核酸中の各コドン(通常メチオニンの唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンの唯一のコドンであるTGGを除く)が機能的に同一である分子を生じるよう改変されうることを認識している。従って、ポリペプチドをコードする核酸のサイレント変異は多くの場合、実際のプローブ配列ではなく、発現産物について表わされた配列に潜在的に含まれる。
アミノ酸配列に関して、当業者は、コードされる配列内の単一アミノ酸またはわずかな比率のアミノ酸を置換、付加または欠失する、核酸配列、ペプチド配列、ポリペプチド配列またはタンパク質配列に対する置換体、欠失体または付加体のそれぞれが、変更が化学的に類似のアミノ酸によるアミノ酸の置換をもたらす、「保存的に改変された変異体」であることを認識している。保存的な置換の表および機能的に類似のアミノ酸を提供するBLOSUMなどの置換マトリックスは、当技術分野において周知である。そのような保存的に改変された変異体は、多型の変異体、種間相同体、および本発明のアレルを除外するものではなく、多型の変異体、種間相同体、および本発明のアレルに加えられるものである。典型的な相互に保存的な置換は以下を含む:(1)アラニン(A)、グリシン(G); (2) アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E); (3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q); (4)アルギニン(R)、リシン(K); (5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V); (6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W); (7)セリン(S)、スレオニン(T);および(8)システイン(C)、メチオニン(M) (例えば、Creighton, Proteins (1984)参照)。
序論
本発明は、患者が、低レベルのP.エルギノーサおよび治療を是認するレベルのスタフィロコッカス・アウレウス、すなわち「高」レベルのスタフィロコッカス・アウレウスを有する、感染症の治療に対してP.エルギノーサ III型分泌装置に拮抗するPcrV抗体が用いられうるという、驚くべき発見に基づく。
スタフィロコッカス・アウレウス
スタフィロコッカス・アウレウスは、ブドウ球菌種のうち最も毒性が高いと考えられているグラム陽性細菌である。S.アウレウスは、コアグラーゼおよびプロテインAの存在によって他のブドウ球菌と区別され、標準的な微生物学的試験によって容易に診断することができる。S.アウレウスは、毒素媒介性メカニズムおよび毒素非媒介性メカニズムの両方を介して疾患を引き起こす。
スタフィロコッカス・アウレウスは、健康な人のうち最大50%の人の主に皮膚上に存在する。コロニー形成は、インスリン依存性糖尿病、HIVに感染した個体、血液透析を受けている患者、および湿疹などの皮膚損傷を有する人など特定のグループの人々、ならびに注射薬物使用者においてより高率である。さらに、好中球減少性個体(例えば、化学療法または放射線療法を受けている)、ならびに特定の細胞性免疫の先天性欠損を有する人は、感染症の危険性が高い。S.アウレウスはまた、原発性菌血症の原因としても認識され、皮膚・軟部組織の感染症、呼吸器感染症、および時には感染性心内膜炎でも見つかる。
スタフィロコッカス・アウレウスは、院内感染および手術創傷感染の主な原因であり、公知の抗生物質に対して次第に耐性を持ってきている。
ヒトに感染をもたらすブドウ球菌コロニー形成の一般的な部位は、鼻の前鼻孔である。これらの生物体はまた、特に人工器官およびカテーテル上に、バイオフィルムを形成することもできる。
菌血症は、血液中の生細菌の存在であり、血液培養により診断することができる。放置すると、侵入した細菌に対する宿主免疫応答により特徴付けられる敗血症および心内膜炎に進行し、死に至る可能性がある。臨床的には、敗血症は、呼吸性アルカローシス、発熱および低血圧により特徴付けられる。
S.アウレウスを含むスタフィロコッカスの多くの菌株は現在、ペニシリンに対して耐性を有する。感受性を有する少数(およそ<5%)のペニシリンのうち、オキサシリンおよびナフシリンなどのペニシリナーゼ耐性ペニシリンが、スタフィロコッカス・アウレウス感染症を有する患者を治療するために通常使用される。セファロスポリンが、S.アウレウス感染症を治療するために用いられてもよい。イミペネムなどのカルバペネムは、メチシリン感受性株(MSSA)に対して首尾よく用いることができるが、それらは、メチシリン耐性スタフィロコッカス・アウレウス(MRSA)に対しては有用でないと考えられる。
バンコマイシンは多くの場合、MRSAを含むメチシリン耐性スタフィロコッカス感染症の治療に用いられる。別の薬物、ダプトマイシンは、バンコマイシンと同様に、グラム陽性細菌に特異的なリポペプチドである。ダプトマイシンは、MRSAおよびバンコマイシン一部耐性S.アウレウスに対してある程度首尾よく用いられている(Moise et al. Lancet Inf. 9:617-624, 2009参照)。
S.アウレウスを治療するために用いられうる他の抗生物質は、キノロン、具体的には、フルオロキノロン、クロラムフェニコール、リネゾリド(オキサゾリジノン)、ミノサイクリン、キヌプリスチン/ダルホプリスチン(Q/D)およびトリメトプリム/スルファメトキサゾール(TMP-SMX)を含むが;これらの多くは、ブドウ球菌に対して静菌性であり、全般的な抗ブドウ球菌活性は低い。抗菌薬の組み合わせも、S.アウレウス感染症を治療するために首尾よく用いられており;これらは、リファンピン+アミノグリコシド(ゲンタマイシン)+フシジン酸;β-ラクタム+アミノグリコシド;バンコマイシン+ゲンタマイシン;バンコマイシン+リファンピンを含む。
ブドウ球菌感染症について、培養および培養物の感受性試験を行うことは、一般的に標準的な行為であるが、これは数日かかる。培養が行われるこれらの場合には、米国の医療行為において特定の治療ガイドラインが確立されている。
ペニシリン感受性ブドウ球菌感染症に対して、ペニシリンG、ナフシリン、オキサシリン、セファゾリンまたはバンコマイシンを用いることができる。
メチシリン感受性株に対して、ナフシリンまたはオキシシリン(oxicillin)、代替的にはセファゾリンまたはバンコマイシンを用いることができる。
メチシリン耐性株に対して、バンコマイシンが、以下の代替法と共に示されている:TMP-SMX、ミノサイクリン、シプロフロキサン、レボフロキサン、Q/D;皮膚感染症に対してリネゾリドまたはダプトマイシン。
部分的なまたは完全なバンコマイシン耐性を有するMRSAに対して:バンコマイシン+アミノグリコシド。
(例えば、Kasper, D.L, et al., eds: Harrison's Principles of Internal Medicine, 16th Ed., McGraw-Hill, 2005.参照)。
シュードモナス・エルギノーサ
P.エルギノーサは、標準的な臨床検査技術、例えば寒天上での分離培養を用いて培養物中において同定されるグラム陰性細菌である。それは自然界に広く存在しているが、多くは病院において感染する。集中治療室で、特に人工呼吸器で維持される患者において肺炎の一般的な原因である。感染は、好ましくは皮膚表面または粘膜表面などの湿潤環境で、通常コロニー形成から始まる。
P.エルギノーサは多くの場合、好中球減少性患者など免疫不全の患者で進行し、菌血症および敗血症性ショックをもたらす可能性がある。他の感染の一般的な部位は、尿路、胃腸管、肺、皮膚・軟部組織、ならびに留置静脈カテーテルを含み;感染はまた、中枢神経系、耳、眼、骨および関節でも起こる場合がある。それは、具体的には心臓弁などの人工器官上にバイオフィルムを形成する(心内膜炎を引き起こしうる)。熱傷患者もまた多くの場合、P.エルギノーサに感染しやすい。
P.エルギノーサ感染症の治療は、感染の部位、種類および感受性によって決まる。いくつかの場合において、組み合わせ療法が適切である。嚢胞性線維症では、例えば、多くの患者が慢性感染症を有しており、トブラマイシン吸入による間欠療法が増悪を減少させることが示されている。しかしながら、特定の抗生物質に対する微生物の耐性が報告されている。
以下はシュードモナス・エルギノーサを治療するために用いられうる抗生物質のリストである。
ペニシリン(ピペラシリン、ピペラシリン/タゾバクタム、メズロシリン、チカルシリン、チカルシリン/クラブラン酸)、
セファロスポリン(セフタジジム、セフォペラゾン、セフェピム)、
カルバペネム(イミペネム/シラスタチン;メロペネム)、
モノバクタム(アズトレオナム)、
アミノグリコシド(トブラマイシン、ゲンタマイシン、アミカシン)、
フルオロキノロン(シプロフロキサシン、レボフロキサシン)、および
他の抗生物質(ポリミキシンB、コリスチン)。
一般的な治療計画は以下を含む。
菌血症:ペニシリン+アミノグリコシド;ペニシリン+シプロフロキサシン;セファロスポリン、アズトレオナムまたはカルバペネム+アミノグリコシドまたはシプロフロキサシン、
CNS:セフタジジム、任意でアミノグリコシドを加える;セフェピム;シプロフロキサシン;アズトレオナム;メロペネム、
骨/関節:ペニシリン+(アミノグリコシドまたはシプロフロキサシン);セファロスポリン;アズトレオナム;フルオロキノロン;カルバペネム、
外耳炎:セファロスポリン;カルバペネム;シプロフロキサシン;セファロスポリン+アミノグリコシド、
角膜炎/角膜潰瘍(眼):トブラマイシン(局所)、任意でピペラシリンまたはチカルシリンと共に(局所);シプロフロキサシンまたはオフロキサシン(局所)、および
尿路:シプロフロキサシン;アミノグリコシド;ペニシリン;セファロスポリン;カルバペネム。
(例えば、Kasper, D.L, et al., eds: Harrison's Principles of Internal Medicine, 16th Ed., McGraw-Hill, 2005参照。)
本発明において、PcrVアンタゴニスト、例えば本明細書に記載の抗PcrV抗体は、急性S.アウレウス感染症を有する患者に投与される。いくつかの態様において、S.アウレウス感染患者は、抗PcrV抗体による治療と同時に、またはその前に、またはその後に、抗生物質療法も受ける。抗生物質療法は、S.アウレウス感染症を治療するために通常用いられる抗生物質の使用を含む。いくつかの態様において、患者は、グラム陽性生物体に対して選択的である抗生物質で治療される。いくつかの態様において、患者は、抗PcrV抗体およびバンコマイシンまたはダプトマイシンで治療される。いくつかの態様において、患者は、シュードモナス感染症の治療では用いられない抗生物質で治療される。いくつかの態様において、患者は、抗生物質がアミノグリコシド、例えばトブラマイシンではないという条件で、PcrVアンタゴニスト、例えば抗PcrV抗体アンタゴニストおよび抗生物質によって治療される。
患者を治療する方法
本発明は、P.エルギノーサ TTSSのアンタゴニストを投与する工程を含む、治療を是認するスタフィロコッカス・アウレウス感染症を有し、かつ低レベルのP.エルギノーサを有する患者を治療する方法を提供する。
典型的な態様において、アンタゴニストは、PcrV抗体アンタゴニストである。いくつかの態様において、治療される患者は、嚢胞性線維症、人工呼吸器関連肺炎(VAP)を有しているか、好中球減少性癌患者であるか、または熱傷患者である。本発明の方法による治療の候補となる患者は典型的には、(人工呼吸器を付けた患者の)気管内吸引液中約103/cfu/ml未満、または気管支肺胞洗浄液中約102 cfu/ml未満、またはCF患者において約105 g/痰未満であるP.エルギノーサのレベルを有する。慢性P.エルギノーサ感染症を有するCF患者では、TTSS発現P.エルギノーサ細菌は典型的には、痰で測定されるP.エルギノーサ総負荷量の10%未満である。患者がスタフィロコッカス・アウレウス感染症の治療を是認する、スタフィロコッカス・アウレウスに感染しかつ低レベルのシュードモナス・エルギノーサも有する他の患者、例えば、好中球減少性患者および熱傷患者なども、選択的PcrVアンタゴニスト、例えば抗PcrV抗体で治療することができる。
本発明の方法は、スタフィロコッカス感染症の治療に適した投与計画を用いて、スタフィロコッカス感染患者に対して薬学的組成物としての抗PcrV抗体を治療的有効量で投与する段階を含む。抗体組成物は、種々の薬物送達システムにおける使用のために製剤化されうる。
PcrV抗体は、注射用無菌等張水溶液などの患者への注入に適した溶液の状態で提供される。1つまたは複数の生理的に許容可能な賦形剤もしくは担体もまた、適切な製剤のために組成物中に含まれうる。本発明における使用に適した製剤は、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, 21st Edition, Philadelphia, PA, Lippincott Williams and Wilkins, 2005で見出される。
抗体は、許容可能な担体中に適切な濃度で溶解または懸濁される。いくつかの態様において、担体は、水溶性であり、例えば、水、生理食塩水およびリン酸緩衝生理食塩水などである。組成物は、pH調節剤、緩衝剤および浸透圧調節剤などの近似的生理条件に必要とされる補助的な薬学的物質を含んでもよい。
抗PcrV抗体は、スタフィロコッカス感染症を有する患者に、該患者において治癒するのにまたはスタフィロコッカスのレベルを少なくとも部分的に減少させるのに十分な量で投与される。このことを成し遂げるのに適切な量は、「治療的有効量」として定義される。治療的有効量は、治療に対する患者の反応をモニターする段階により判定される。治療的有効量を示す典型的なベンチマークは、患者における感染症の症状の緩解、例えば発熱の緩和、または患者におけるスタフィロコッカス・アウレウスのレベルの減少を含む。この使用に有効な量は、疾患の重傷度、および年齢、体重、性別、投与経路などの他の要因を含む患者の一般的な健康状態に依存すると考えられる。抗体および抗生物質の単回投与または複数回投与は、患者が必要としかつ耐えられるような用量および頻度に応じて投与されてもよい。任意の事象において、方法は、患者を有効に治療するのに十分な量のPcrV抗体および抗生物質を提供する。
いくつかの態様において、特に、抗生物質が患者に感染しているスタフィロコッカス・アウレウスに対して十分に有効ではない、すなわちスタフィロコッカス・アウレウスが抗生物質に対して多少の耐性を有している、例えばバンコマイシンに対して感受性が低下している場合に、抗体は、スタフィロコッカス・アウレウス感染症を治療するために通常用いられる抗生物質と組み合わせて患者に投与される。抗生物質は、抗体と同時に、または抗体による治療の前もしくは後に投与することができる。いくつかの態様において、抗生物質はバンコマイシンまたはダプトマイシンである。
III型分泌装置アンタゴニスト、例えば抗PcrV抗体は、スタフィロコッカス感染症を治療するための他の療法と組み合わせて投与されてもよい。
組み合わせ治療において、抗PcrV抗体は、他の作用物質の前にまたは後に、例えば、同日内に、同週内に、または同時に投与することができる。いくつかの態様において、アンタゴニストは、作用物質単独、例えば抗生物質単独による1回または複数回の初期治療の後に、作用物質と同時に投与される。
抗PcrV抗体は、静脈内経路、皮下経路、筋肉内経路、気管内経路または腹腔内経路を含むがこれに限定されない任意の適切な経路を通じて、注射または注入により投与されうる。いくつかの態様において、抗体は吸入により投与される。例示的な態様において、抗体は、例えば、注射用の滅菌等張水性生理食塩水中に10 mg/mlで2〜8℃において保存されてもよく、かつ、患者への投与の前に100 mlまたは200 mlのいずれかの注射用0.9%生理食塩水で希釈される。抗体は、0.2 mg/kgから10 mg/kgの間の用量で1時間にわたって静脈内注入により投与される。他の態様において、抗体は、15分から2時間の期間にわたって静脈内注入により投与される。さらに他の態様において、投与手法は、皮下ボーラス注射による。
TTSSアンタゴニストの用量は、患者に対して有効な治療を提供するために選択される。抗PcrV抗体については、多くの場合、用量は、0.1 mg/kg体重未満から25 mg/kg体重までの範囲、または患者1人あたり1 mg〜2 gの範囲である。好ましくは、用量は、1〜10 mg/kgまたはおよそ50 mg〜1000 mg/患者の範囲である。用量は、抗体の薬物動態(例えば、循環血液中の抗体の半減期)および薬力学的反応(例えば、抗体の治療効果の持続期間)によって、例えば、1日あたり1回から1週間に1回までの範囲であってよい、適切な頻度で繰り返されてもよい。いくつかの態様において、抗体は、約7日から約25日の間のインビボ半減期を有し、かつ、抗体投与は、1週間あたり1回繰り返される。
さらなる態様において、抗体はペグ化される。例えば、本発明の抗体は、例えば本明細書において記載の方法を用いてペグ化され、P.エルギノーサに感染した患者へ投与されてもよい。
抗生物質
いくつかの態様において、抗体は、抗生物質を組み合わせて投与され、スタフィロコッカス・アウレウス感染症を治療する。
いくつかの態様において、スタフィロコッカス・アウレウス感染症を治療する方法は、ペニシリン、例えば、ナフシリン、オキサシリン、フルクロキサシリン、チカルシリン、ジクロキサシリン、アズロシリン、ペニシリンまたはピペラシリンなどの抗生物質と併用して、抗PcrV抗体を投与する工程を含む。当技術分野において理解されている通り、ピペラシリンなどウレイドペニシリン抗生物質は典型的には、タゾバクタムなどのペニシリナーゼ阻害剤を含む形態で投与される。使用できる他の抗生物質は、マクロライド、セファロスポリンを含む。MRSA感染症の治療のために、用いられる抗生物質は、キノロン、クリンダマイシン(リンコサミド)、キヌプリスチン/ダルホプリスチン、コトリモキサゾール(トリメトプリム/スルファメトキサゾールとしても通常知られている)、リネゾリド、およびバンコマイシン、テラバンシンおよびテイコプラニンなどのグリコペプチド;ダプトマイシンなどのリポペプチド、クロラムフェニコール、リファンピシン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、チゲサイクリンなどのグリシルサイクリン、キヌプリスチン/ダルホプリスチン(Q/D)およびトリメトプリム/スルファメトキサゾール(TMP-SMX)ならびに当技術分野において公知の抗生物質の組み合わせを含む(例えば、序論部分を参照)。
抗生物質を投与する方法は、当技術分野において周知である。例えば、抗生物質は通常、経口的に投与されるか、あるいは注射により、例えば静脈内に、皮下に、筋肉内に、非経口的に、気管内にまたは脊髄経路もしくは表皮経路を用いて投与される。いくつかの態様において、抗生物質は、吸入による投与のためにエアロゾル化されうる。
抗PcrV抗体
本発明は、III型分泌装置の機能的アンタゴニストを用いるスタフィロコッカス・アウレウス感染症の治療の方法に関する。本節は、本発明の治療計画で使用されうる抗体、例えば遺伝子操作された抗体の例を提供する。
本発明における使用のための抗体は典型的には、ヒト生殖系列のVH配列およびVL配列に対して高度な相同性を有する可変領域を含む。重鎖および軽鎖のCDR3配列は、抗PcrVモノクローナル抗体Mab166(Frank et al., J. Infectious Dis. 186: 64-73、2002; および米国特許第6,827,935号)由来の1組の結合特異性決定基(BSD)を含み、かつ本発明の抗体は、PcrVタンパク質における中和エピトープに対する結合についてMab166と競合する(例えば、米国特許第6,827,935号参照)。
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗体は、アミノ酸配列NRGDIYYDFTYを有する、CDRH3内の最小必須の結合特異性決定基を有する。いくつかの態様において、そのような抗体は、XがI、S、またはQである重鎖CDR3配列NRGDIYYDFTYA(M/F)DXを有する。
いくつかの態様において、本発明における使用のための抗体は、アミノ酸FWXTP(ここでXはSまたはGのいずれかであってもよい)を有する、CDRL3内の最小必須の結合特異性決定基を有する。BSDがCDR3の一部を形成し、付加配列を用いてCDR3を完成しかつFR4配列を付加する、完全なV領域が作製される。典型的には、CDR3のBSDを除く部分および完全なFR4は、ヒト生殖系列配列で構成される。好ましい態様において、BSDを除くCDR3-FR4配列は、ヒト生殖系列配列と各鎖において多くても2アミノ酸だけ異なる。
ヒト生殖系列Vセグメントレパートリーは、51個の重鎖Vセグメント、40個のκ軽鎖Vセグメント、および31個のλ軽鎖Vセグメントからなり、合計3,621組の生殖系列V領域を産生する。加えて、これらのVセグメントの多くに安定な対立遺伝子変異体が存在するが、生殖系列レパートリーの構造的多様性へのこれらの変異体の寄与は限られている。全てのヒト生殖系列Vセグメント遺伝子の配列は、公知であり、the MRC Centre for Protein Engineering, Cambridge, United Kingdomにより提供されるV-ベースデータベース(ワールドワイドウェブ上、vbase.mrc-cpe.cam.ac.ukで)(Chothia et al., 1992, J Mol Biol 227:776-798; Tomlinson et al., 1995, EMBO J 14:4628-4638; Cook et al. (1995) Immunol. Today 16: 237-242; およびWilliams et al., 1996, J Mol Biol 264:220-232参照); またはthe international ImMunoGeneTics database(IMGT)中でアクセスされうる。これらの配列は、本発明の使用のための遺伝子操作された抗体におけるヒト生殖系列セグメントの参照源として用いられうる。
本発明で用いることができる高親和性の遺伝子操作された抗体の例は、米国特許出願公開第20090191186号で提供される。よって、本発明の使用のための抗体は、WO/2009/073631に記載された抗PcrV抗体の重鎖および/または軽鎖を含むことができる。いくつかの態様において、抗体は、XがI、Q、Y、またはSであるNRGDIYYDFTYAMDXを含む重鎖CDR3;およびFW(S/G)TPを含む軽鎖CDR3、例えば配列QQFWSTPYT、QHFWGTPYT、またはQHFWSTPYTを有するCDR3を有する。いくつかの態様において、そのような抗体は、図5に示すVL領域のVセグメント配列に対して少なくとも90%の同一性、または少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、965、97%、98%、99%、または100%の同一性を有するVH領域Vセグメントを含む。
本発明の任意の治療方法における使用のための抗体は、図4に示す任意のVH領域を図5に示す任意のVL領域と組み合わせて含んでもよい。よって、いくつかの態様において、本発明の使用のための抗体は、SEQ ID NO:1のVH領域およびSEQ ID NO:2のVL領域;またはSEQ ID NO:3のVH領域およびSEQ ID NO:4のVL領域;またはSEQ ID NO:5のVH領域およびSEQ ID NO:6のVL領域;またはSEQ ID NO:7のVH領域およびSEQ ID NO:8のVL領域;またはSEQ ID NO: 11のVH領域およびSEQ ID NO: 12のVL領域;またはSEQ ID NO:9のVH領域およびSEQ ID NO: 10のVL領域;またはSEQ ID NO:13のVH領域およびSEQ ID NO: 10のVL領域;またはSEQ ID NO: 13のVH領域およびSEQ ID NO:4のVL領域;またはSEQ ID NO:13のVH領域およびSEQ ID NO:37のVL領域;またはSEQ ID NO:21のVH領域およびSEQ ID NO: 18のVL領域;またはSEQ ID NO: 17のVH領域およびSEQ ID NO:18のVL領域;またはSEQ ID NO:26のVH領域およびSEQ ID NO:24のVL領域;またはSEQ ID NO:25のVH領域およびSEQ ID NO:24のVL領域;またはSEQ ID NO:23のVH領域およびSEQ ID NO:24のVL領域;またはSEQ ID NO:35のVH領域およびSEQ ID NO:36のVL領域;またはSEQ ID NO:29のVH領域およびSEQ ID NO:20のVL領域;またはSEQ ID NO:29のVH領域およびSEQ ID NO:28のVL領域;またはSEQ ID NO:29のVH領域およびSEQ ID NO:30のVL領域;またはSEQ ID NO:29のVH領域およびSEQ ID NO:34のVL領域;またはSEQ ID NO:3のVH領域およびSEQ ID NO:32のVL領域を含む。
本発明において用いられる抗体は、任意の形式で存在することができる。例えば、いくつかの態様において、抗体は、完全定常領域、例えばヒト定常領域を含むインタクト免疫グロブリンであることができるか、またはインタクト抗体の断片または誘導体、例えばFab、Fab'、F(ab')2、scFv、Fv、またはナノボディもしくはラクダ類の抗体などの単一ドメイン抗体であることができる。
PcrV抗体の調製
本明細書において記載されるS.アウレウス感染患者を治療するために用いられる抗PcrV抗体は、III型分泌システムに拮抗する活性を抗体が保持することを確認するために試験されてもよい。アンタゴニスト活性は、細胞毒性アッセイ法を含む多くのエンドポイントを用いて測定されうる。例示的なアッセイ法は、例えば米国特許第6,827,935号に記載される。感染症を治療するために投与される抗体は、Mab166のIII型分泌経路アンタゴニスト活性の少なくとも75%、好ましくは80%、90%、95%、または100%を好ましくは保持する (米国特許第6,827,935号)。
高親和性抗体は、結合活性および親和性を測定するための周知のアッセイ法を用いて同定されてもよい。そのような技術は、ELISA法、ならびに表面プラズモン共鳴またはインターフェロメトリーを用いる結合測定を含む。例えば、親和性は、ForteBio(Mountain View, CA)Octetバイオセンサーも用いるバイオレイヤー(biolayer)インターフェロメトリーにより測定されうる。
本発明の方法における使用のための抗体は、Mab166とPcrVへの結合について競合しうる。Mab166が結合するPcrVの領域は、同定されている(米国特許第6,827,935号)。Mab166に結合するPcrVまたはその断片は、競合的結合アッセイ法で使用されうる。PcrVへの結合について抗体がMab166を阻止するかまたはMab166と競合する能力は、抗体がMab166と同じエピトープに結合するか、またはMab166が結合するエピトープに近接するエピトープ、例えば重複するエピトープに結合することを意味する。他の態様において、本明細書において記載される抗体、例えば、上記のVH領域とVL領域との組み合わせを含む抗体は、別の抗体がPcrVへの結合において競合するかどうかを評価するための参照抗体として用いられうる。試験抗体の存在下で参照抗体の抗原への結合を、少なくとも30%まで、通常少なくとも約40%、50%、60%または75%まで、大抵は少なくとも約90%まで減少させた場合、試験抗体は、参照抗体の結合を競合的に阻害すると見なされる。ELISAならびにイムノブロットなどの他のアッセイ法を含む多くのアッセイ法が、結合を評価するために使用されうる。
典型的な態様において、P. エルギノーサ III型分泌システムに拮抗する本発明の方法において用いられる抗体は、PcrVへの高親和性結合を示す。抗体と抗原との間の高親和性結合は、抗体の親和性が500もしくは100 nM未満、例えば50 nM未満、または25 nM未満、または10 nM未満、または1 nM未満、例えば約100 pM未満である場合に存在する。本発明の抗体は、例えばELISA、表面プラズモン共鳴アッセイ法またはインターフェロメトリーを用いてFabとしてアッセイする場合、典型的には50 nMまたはそれ未満、多くの場合10 nMまたはそれ未満の親和性を有する。
いくつかの態様において、本明細書において記載されるS.アウレウス感染患者集団を治療するために用いられる抗体は、細胞毒性アッセイ法においてMab166より強力である。
抗体は、原核生物発現システムと真核生物発現システムとの両方を含む、多くの発現システムを用いて産生されてもよい。多くのそのようなシステムは、商業的供給者から広く入手可能である。抗体がVH領域とVL領域との両方を含む態様において、VH領域およびVL領域を、単一のベクターを用いて、例えばジシストロニックな発現ユニット内でまたは異なるプロモーターの制御下で、発現させてもよい。他の態様において、VH領域およびVL領域は、異なるベクターを用いて発現させてもよい。本発明の抗体は、N末端のメチオニンの有無にかかわらず発現させてもよい。従って、本明細書において記載のVH領域またはVL領域は任意で、N末端にメチオニンを含んでもよい。
本発明の方法において用いられる抗体は、Fab、Fab'、F(ab')2、scFv、またはdABを含む、多くの形式で産生されてもよい。本明細書において記載される抗PcrV抗体はまた、ヒト定常領域を含むことができる。軽鎖の定常領域は、ヒトのκ定常領域またはλ定常領域であってもよい。重鎖定常領域は、多くの場合γ鎖定常領域、例えばγ-1、γ-2、γ-3、またはγ-4定常領域である。他の態様において、抗体はIgAであってもよい。
いくつかの態様において、抗体は、ヒトに投与される場合、「非免疫原性」である。本明細書で用いられる「非免疫原性」という用語は、ヒトに投与される場合、抗PcrV抗体に対して抗体産生を誘発しないPcrV抗体を指す。抗体は、公知のアッセイ法、例えば電気化学発光イムノアッセイ法を用いて、免疫原性について評価されうる。そのようなアッセイ法は、患者に投与された抗PcrV抗体と反応し、患者、例えば患者由来の血清試料中に存在する抗体のレベルを検出する。アッセイ法は、例えば抗体を投与されていない個体由来の対照試料と比較して、抗PcrV抗体に対する検出可能な抗体が試料中に存在しない場合、抗体が非免疫原性であることを示すと考えられる。
抗体のペグ化
いくつかの態様において、例えば抗体が断片である場合、抗体は、別の分子、例えばポリエチレングリコール(ペグ化)または血清アルブミンに結合され、インビボにおける半減期を延長することができる。抗体断片のペグ化の例は、Knight et al. Platelets 15:409, 2004 (abciximabについて); Pedley et al., Br. J. Cancer 70:1126, 1994 (抗CEA抗体について); Chapman et al., Nature Biotech. 17:780, 1999; およびHumphreys, et al., Protein Eng. Des. 20: 227,2007)で提供される。
いくつかの態様において、S.アウレウス感染症を治療するために用いられる抗PcrV抗体は、Fab'断片の形態である。全長軽鎖は、VL領域のヒトκ定常領域またはヒトλ定常領域への融合により産生される。いずれの定常領域も任意の軽鎖に対して用いることができるが、典型的な態様において、κ定常領域がVκ可変領域と組み合わせて用いられ、かつλ定常領域がVλ可変領域と共に用いられる。
Fab'の重鎖は、ヒト重鎖定常領域配列、第1定常(CH1)ドメインおよびヒンジ領域に対する、本発明のVH領域の融合により産生されるFd断片である。重鎖定常領域配列は、任意の免疫グロブリンクラス由来でありうるが、IgG由来である場合が多く、かつIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4由来であることができる。本発明における使用のためのFab'抗体はまた、ハイブリッド配列であってもよく、例えばヒンジ配列が1つの免疫グロブリンサブクラス由来で、CH1ドメインが異なるサブクラス由来であってもよい。好ましい態様において、CH1ドメインおよびヒンジ配列を含む重鎖定常領域は、ヒトIgG1由来である。
いくつかの態様において、Fab'分子は、ペグ化できる。ペグ化方法は周知である。例えば、抗体は、ヒンジ領域において、例えばポリエチレングリコール誘導体への結合に適しているシステイン残基においてペグ化されてもよい。ペグ化の他の方法、例えばPEGがヒンジに導入されない方法も公知である。例えば、上記のHumphreysらは、Fabの重鎖と軽鎖の間の鎖間ジスルフィド結合の破壊によるヒンジ領域外のシステイン残基のペグ化のための方法を記載している。
ペグ化されたFab'の精製、ならびに未反応のmPEG-マレイミドおよび多数のペグ分子を含有するFab'分子からの所望のモノペグ化Fab'またはジペグ化Fab'の分離のための方法は、当技術分野において公知である。そのような方法は、例えば、サイズ排除クロマトグラフィーまたはイオン交換クロマトグラフィーを含む。
抗体模倣体
低レベルのP.エルギノーサ(人工呼吸器を付けた患者の気管内吸引液(ETA)中約104 /ml未満、または気管支肺胞洗浄液(BAL)中約102 /ml未満、またはCF患者において約105 /g痰未満)、および治療を是認するS.アウレウス感染症を有する患者はまた、抗体ではないP.エルギノーサ TTSSアンタゴニストで治療されてもよい。よって、TTSSアンタゴニストは、抗体と同様の様式でPcrVを標的としかつそれに結合する「抗体模倣体」であってもよい。これら「抗体模倣物(mimic)」のいくつかは、抗体の可変領域のタンパク質フレームワークの代替として非免疫グロブリンタンパク質骨格を用いる。例えば、Kuら(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 92(14):6552-6556 (1995) )は、シトクロムb562の2つのループがウシ血清アルブミンに対する結合のためにランダム化されかつ選択されているシトクロムb562に基づく抗体の代替物を開示している。個々の変異体は、抗BSA抗体と同様にBSAに選択的に結合することが判明した。
米国特許第6,818,418号および同第7,115,396号は、フィブロネクチンまたはフィブロネクチン様タンパク質骨格および少なくとも1つの可変ループを特徴とする抗体模倣物を開示している。アドネクチン(Adnectin)として公知のこれらのフィブロネクチンに基づく抗体模倣物は、任意の標的リガンドに対する高い親和性および特異性を含む、自然抗体および遺伝子操作された抗体と同じ特徴の多くを示す。これらのフィブロネクチンに基づく抗体模倣物の構造は、IgG重鎖の可変領域の構造に類似する。したがって、これらの模倣物は、天然の抗体のものと性質および親和性の点で類似する抗原結合特性を呈する。さらに、これらのフィブロネクチンに基づく抗体模倣物は、抗体および抗体断片を上回る一定の利益を示す。例えば、これらの抗体模倣物は、天然の折り畳み安定性についてジスルフィド結合に依存しておらず、したがって、通常抗体を分解する条件下で安定である。さらに、これらのフィブロネクチンに基づく抗体模倣物の構造は、IgG重鎖の構造に類似しているため、ループのランダム化および混合の工程は、インビボでの抗体の親和性成熟の工程に類似する工程をインビトロで用いてもよい。
Besteら(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 96(5):1898-1903 (1999) )は、リポカリン骨格に基づく抗体模倣物(Anticalin(登録商標))を開示している。リポカリンは、タンパク質の末端に4つの超可変ループを有するβ-バレルによって構成される。ループは、ランダム変異誘発に供され、かつ、例えばフルオレセインとの結合について選択された。3つの変異体は、フルオレセインに特異的結合を示し、1つの変異体は抗フルオレセイン抗体のものと同様の結合を示した。さらなる解析は、ランダム化された位置が全て可変性であることを明らかにし、Anticalin(登録商標)が抗体の代替物として用いるのに適していることを示した。よって、Anticalin(登録商標)は、典型的には160から180残基の小さな一本鎖ペプチドであり、製造コストの低下、保存安定性の向上および免疫学的反応の低下を含むいくつかの点で抗体より優れている。
米国特許第5,770,380号は、結合部位として用いられる複数の可変ペプチドループが付着した、カリックスアレーンの剛性非ペプチド有機骨格を用いる合成抗体模倣体を開示している。ペプチドループは全て、互いにカリックスアレーンの幾何学的に同じ側から突出する。この幾何学的高次構造のため、全てのループが結合に利用でき、リガンドへの結合親和性を増加させる。しかしながら、他の抗体模倣物と比べて、カリックスアレーンに基づく抗体模倣物は、ペプチドのみで構成されていることはなく、したがって、プロテアーゼ酵素により攻撃されにくい。骨格も純粋にペプチド、DNAまたはRNAだけで構成されていることはなく、この抗体模倣物が、極限環境条件で比較的安定であり、かつ長い存続期間を有していることを意味する。さらに、カリックスアレーンに基づく抗体模倣物は比較的小さいことから、免疫学的反応を生じる可能性が少ない。
Muraliら(Cell Mol Biol 49(2):209-216 (2003))は、抗体をより小さなペプチド模倣体に小型化するための方法を記載し、抗体の代替物として有用でもありうる「抗体様結合ペプチド模倣体」(ABiP)と名付けている。
非免疫グロブリンタンパク質フレームワークに加えて、抗体特性はまた、RNA分子と非天然オリゴマーとを含む化合物(例えば、プロテアーゼ阻害剤、ベンゾジアゼピン、プリン誘導体およびβターン模倣物)において模倣されてもいる。したがって、TTSSの非抗体アンタゴニストは、そのような化合物も含むことができる。
実施例1. 抗PcrV抗体によるCF患者の治療
P.エルギノーサTSSSのヒューマニア化抗体アンタゴニストの単回静脈内注射により、CF患者を治療した。抗体を0日目に3 mg/kgまたは10 mg/kgいずれかの用量で投与した。治療後に指定された時間で患者から誘発喀痰を採取し、寒天プレート上に蒔くことにより、細菌数を測定した。24時間30℃でのインキュベーションの後に、スタフィロコッカス・アウレウス(Sa)のコロニーを計数した。図1〜3は、抗PcrV抗体による治療後、14日目、28日目および56日目に採取した痰試料のスタフィロコッカス・アウレウスレベルの減少を示す。治療は、スタフィロコッカス・アウレウスのレベルを3 logも減少させた。
実施例2. 抗PcrV抗体による人工呼吸器を付けた患者の治療
シュードモナス・エルギノーサによる呼吸器官コロニー形成を有する(0日目において>103 cfu/mlであるが<106 cfu/ml ETA)人工呼吸器を付けた患者に、3もしくは10 mg/kgの抗PcrV抗体、またはプラセボをI.V.で投与した。患者を投与後28日間評価した。気管内吸引液(ETA)試料または気管支肺胞洗浄液(BAL)試料を寒天プレート上に蒔き、細菌量を測定した。結果は、シュードモナス・エルギノーサによる呼吸器官コロニー形成を有する患者の11/39がスタフィロコッカス・アウレウスのコロニー形成を発生したことを示す。抗体で治療された患者の5/11で、スタフィロコッカス・アウレウスの力価がシュードモナス・エルギノーサの力価を上回り、これらの患者の4/5で、ETAおよび/またはBAL液のスタフィロコッカス・アウレウスが減少(1/4)または完全に排除(3/4)されていた。これらの結果は、高い力価のスタフィロコッカス・アウレウスと低い力価のシュードモナス・エルギノーサとによりコロニー形成された患者において抗スタフィロコッカス作用を発揮する抗PcrV抗体と一致する。
前記の本発明は、理解を明確にするために例示と実施例によって多少詳しく記載されているが、当業者は本発明の教示を踏まえ、ある一定の変更および改変が添付の特許請求の範囲の精神または範囲から逸脱することなく行われてもよいことを容易に理解すると考えられる。
本明細書において引用される刊行物、アクセッション番号、特許および特許出願は全て、それぞれが参照により組み込まれると具体的かつ個別に示されているかのように、参照により本明細書に組み込まれる。
本発明における使用のためのPcrV抗体の例示的な抗PcrVのV領域
Figure 2013515079
Figure 2013515079
Figure 2013515079
λ軽鎖を有する例示的な抗体のV領域
Figure 2013515079
さらなるVL領域:
Figure 2013515079
Figure 2013515079

Claims (15)

  1. 低レベルのシュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)感染症を有する患者においてスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)感染症を治療する方法であって、シュードモナス・エルギノーサIII型分泌装置(TTSS)の抗PcrV抗体アンタゴニストを、該患者においてスタフィロコッカス・アウレウス負荷を効果的に減少させる量で投与する工程を含む方法。
  2. 前記患者が、嚢胞性線維症を有するか、人工呼吸器を付けているか、好中球減少性癌患者であるか、または熱傷患者である、請求項1記載の方法。
  3. TTSS発現シュードモナス・エルギノーサのレベルが、シュードモナス負荷量の10%または10%超である、請求項1または2記載の方法。
  4. ペニシリナーゼ耐性ペニシリンを投与する工程をさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
  5. グラム陽性選択的抗生物質を投与する工程をさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
  6. 前記グラム陽性選択的抗生物質がバンコマイシンまたはダプトマイシンである、請求項5記載の方法。
  7. 前記患者が嚢胞性線維症を有し、かつ前記方法が、抗生物質がアミノグリコシドではないという条件で該抗生物質を投与する工程をさらに含む、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
  8. スタフィロコッカス・アウレウスおよびシュードモナス・エルギノーサのレベルがそれぞれ、気管内吸引液中約103 cfu/mlもしくはそれ未満、または気管支肺胞洗浄液中約102 cfu/mlもしくはそれ未満である、スタフィロコッカス・アウレウスおよびシュードモナス・エルギノーサに感染し人工呼吸器を付けた患者を治療する方法であって、III型分泌装置の抗PcrV抗体アンタゴニストを投与する工程を含む方法。
  9. スタフィロコッカス・アウレウスおよびシュードモナス・エルギノーサのレベルがそれぞれ、約103 cfu/g組織未満または約103 cfu/ml浸出液未満である、スタフィロコッカス・アウレウスおよびシュードモナス・エルギノーサに感染した創傷を有する患者を治療する方法であって、III型分泌装置の抗PcrV抗体アンタゴニストを投与する工程を含む方法。
  10. 前記抗PcrV抗体が、PcrVへの結合についてMab166と競合する、請求項1〜9のいずれか一項記載の方法。
  11. 前記抗体が、XがI、Q、Y、またはSであるNRGDIYYDFTYAMDXを含むVH CDR3、およびFW(S/G)TPを含むVL CDR3を有する、請求項10記載の方法。
  12. 前記VL領域CDR3が、配列QQFWSTPYT、QHFWGTPYTまたはQHFWSTPYTを有する、請求項11記載の方法。
  13. 前記抗体が、図4に記載のVH領域および図5に記載のVL領域を含む、請求項10記載の方法。
  14. 前記抗体がFab'である、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
  15. 前記抗体がペグ化されている、前記請求項のいずれか一項記載の方法。
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