JP2013256459A - ムコン酸の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】
ムコン酸水溶液からムコン酸を晶析する場合において、効率よくムコン酸を回収する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】
ムコン酸水溶液にムコン酸に対してギ酸が5.0重量%以上含まれているムコン酸水溶液を用いることを特徴とする、ムコン酸の晶析方法により、ムコン酸の過飽和を安定化することができ、ムコン酸の回収率を向上することができる。
【選択図】なし

Description

本発明は、ムコン酸水溶液を晶析することによるムコン酸の製造方法に関する。
ムコン酸は共役二重結合を有する二塩基性カルボン酸であり、水素化還元によりアジピン酸に変換、あるいはアセチレンまたはエチレンと反応させた後、酸化することによりテレフタル酸に変換できる。アジピン酸はヘキサメチレンジアミンのようなジアミン類との重合によりポリアミドを製造する際の原料であり、また、テレフタル酸はブタンジオールやエチレングリコールなどのジオールとの重合によりポリエステルを製造する際の原料であり、ムコン酸をスタートとするポリマーは、環境負荷の少ない植物由来ポリマーとして近年注目が高まっている他、ムコン酸そのものも食品添加物や医薬品、化粧品などの原料として利用可能である。このような用途に使用するムコン酸は、ポリマー原料とする場合には、その機能性向上に不可欠な高重合度の達成が必須であり、そのためには、高純度のムコン酸が求められる。また、食品添加物や医薬品の場合にも安全性の観点から、高純度のムコン酸が必要とされる。
微生物発酵によるムコン酸の生産は、グリーンケミストリーの観点からも実用化が期待される技術である。一般的に、ムコン酸を微生物発酵によって製造するためには、培地を至適pHに保つために、アルカリ性物質を添加しながら行われる。そのため、ムコン酸を蓄積させた培養液中では、一般に、ムコン酸は陽イオン成分との塩の形で存在する。
また、ムコン酸塩発酵液からムコン酸を精製する方法としては、ムコン酸発酵終了後の培養液に酸性物質(例えば、硫酸)を添加して、ムコン酸塩をフリー体のムコン酸に変換後、塩基性樹脂に脱吸着といった精製操作によりムコン酸溶液を分離する方法が考えられるが、塩基性樹脂の脱吸着によりムコン酸溶液を得ることができるが、同時に発酵液由来の不純物(有機酸)も脱吸着されるため、ムコン酸のみを分離することが困難であるという課題がある。そこで、ムコン酸培養液をマクロポーラス非イオン性吸着樹脂に通導し、不純物を除去した後、塩基性イオン交換樹脂に吸着させアルカリ性溶液により溶出し塩酸等の酸により酸析する方法が開示されているが、pH5.0以下の水に対するムコン酸の溶解度が1g/Lと低いため、ムコン酸の回収率は十分ではなかった(特許文献1)。
特開平2−145537号公報
本発明は、ムコン酸水溶液からムコン酸を晶析する場合において、ムコン酸を高効率で回収する方法を提供することを課題とする。
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、一定量のギ酸を含むムコン酸水溶液中ではムコン酸の過飽和が安定化され、飽和溶解度を超える濃度まで濃縮することが可能となり、晶析操作におけるムコン酸の回収率を向上させる効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は次の(1)〜(5)から構成される。
(1)ムコン酸に対してギ酸が5.0重量%以上含まれているムコン酸水溶液を晶析に供することを特徴とする、ムコン酸の製造方法。
(2)ムコン酸水溶液中のムコン酸量に対するギ酸量が5.0〜40.0重量%である、(1)に記載のムコン酸の製造方法。
(3)ムコン酸水溶液のムコン酸濃度が0.15〜5.0重量%である、(1)または(2)に記載のムコン酸の製造方法。
(4)晶析温度が30℃以下である、(1)から(3)のいずれかに記載のムコン酸の製造方法。
(5)ムコン酸水溶液を逆浸透膜に通じて濾過することにより得られる濃縮液を晶析に供する、(1)から(4)のいずれかに記載のムコン酸の製造方法。
本発明により、ムコン酸水溶液中のムコン酸の過飽和を安定化することができ、ムコン酸水溶液からムコン酸を晶析する際にムコン酸を高効率で回収することができる。
cis,cis−ムコン酸に対してギ酸が0、3.0、5.0、9.8、35.0重量%含まれるcis,cis−ムコン酸の保温時間1時間における溶解度曲線。 cis,cis−ムコン酸に対してギ酸が0、3.0、5.0、9.8、35.0重量%含まれるcis,cis−ムコン酸の保温時間2時間における溶解度曲線。 cis,cis−ムコン酸に対してギ酸が0、3.0、5.0、9.8、35.0重量%含まれるcis,cis−ムコン酸の保温時間6時間における溶解度曲線。
本発明は、ギ酸を含むムコン酸水溶液からムコン酸を晶析することによるムコン酸の製造方法であって、ムコン酸に対してギ酸を5重量%以上含んでいるムコン酸水溶液を用いることを特徴としている。
本発明における「ムコン酸」とは、ムコン酸であれば特に限定されず、trans,trans−ムコン酸、trans,cis−ムコン酸、cis,cis−ムコン酸またはそれらの混合物であってもよいが、cis,cis−ムコン酸であることが好ましい。
本発明における「ムコン酸水溶液」とは、ムコン酸を含む水溶液のことを意味する。ムコン酸が含まれている水溶液であれば特に限定されず、水にムコン酸を添加した溶液であってもよく、また、当業者にとって公知のムコン酸発酵微生物の発酵培養よって生産されるムコン酸塩発酵培養液に酸性物質(例えば、硫酸)を添加して得られるムコン酸水溶液であってもよいが、本発明においてはムコン酸塩発酵培養液から得られるムコン酸水溶液が好ましく、cis,cis−ムコン酸塩発酵培養液から得られるcis,cis−ムコン酸水溶液がより好ましい。
ムコン酸発酵培養で使用される微生物は特に限定されないが、例えば、発酵工業においてよく使用される酵母、大腸菌、コリネ型細菌などのバクテリア、糸状菌、放線菌などが挙げられる。動物細胞、昆虫細胞等の培養細胞も、本発明で使用される微生物に含まれる。使用する微生物は、自然環境から単離されたものでもよく、また、突然変異や遺伝子組換えによって一部性質が改変されたものであってもよい。公知のムコン酸発酵法の具体例としては、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)の嫌気培養(発酵工学雑誌、第55巻 第2号)や、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas Putida)(ATCC31916)を用いたトルエンからの微生物学的酸化によるムコン酸製造(特開昭58−400932号公報)、アルスロバクター属(Arthrobacter)の細菌による安息香酸からのcis,cis−ムコン酸発酵(特開平2−145537号公報)などが知られている。
ムコン酸発酵培養では、発酵培養液のpH調整のために適宜アルカリ性物質、具体的には塩基性物質が添加されることによって、ムコン酸塩発酵培養液が調製される。添加されるアルカリ性物質としては特に限定されないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウムまたはアンモニアが好ましく用いられ、その結果として培養液には、ムコン酸ナトリウム、ムコン酸カリウム、ムコン酸カルシウム、ムコン酸マグネシウム、ムコン酸アルミニウムまたはムコン酸アンモニウムが形成される。
ムコン酸塩発酵培養液からムコン酸水溶液を調製する方法としては、例えばムコン酸塩発酵培養液に酸性物質を添加して陽イオン成分を難溶性塩として除去する方法が挙げられる。ムコン酸塩発酵培養液に添加する酸性物質としては、ムコン酸塩発酵培養液に含まれる陽イオンを難溶性塩として除去できるような酸性物質であればよく、具体的には、陽イオンがナトリウムである場合、硫酸やリン酸を添加することで、硫酸ナトリウムやニリン酸ナトリウムが沈殿する。また、陽イオンがカリウムである場合には、硝酸やクロム酸を添加することで硝酸カリウムやニクロム酸カリウムが生成し、前記陽イオンがマグネシウムの場合には、二酸化炭素を通じたり、シュウ酸を添加したりすることで炭酸マグネシウムやシュウ酸マグネシウムができる。さらに、該陽イオンがカルシウムである場合、硫酸、二酸化炭素、シュウ酸によって、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、シュウ酸カルシウムなどの難溶性塩を生成し、アンモニウムイオンの場合には、二酸化炭素を通じることで炭酸水素アンモニウムを生じる。難溶性塩の除去方法としては、例えば、沈殿・濾別によって除去する方法や、微量に溶解した難溶性塩についてはイオン交換、電気透析、ナノ濾過膜処理などの方法が挙げられる。
本発明においては「ムコン酸に対してギ酸が5.0重量%以上含まれているムコン酸水溶液」を晶析に供することを特徴とする。「ムコン酸に対してギ酸が5.0重量%以上含まれているムコン酸水溶液」は、ムコン酸水溶液中のムコン酸量およびギ酸量を測定した結果、ムコン酸に対するギ酸量が5重量%以上含まれているムコン酸水溶液であればよく、測定した結果、5.0重量%未満であれば適宜ムコン酸水溶液にギ酸を添加すればよい。ムコン酸水溶液におけるムコン酸量に対するギ酸量が5.0重量%未満だとムコン酸の過飽和の安定性が不十分であり、晶析操作におけるムコン酸の回収率向上の効果が小さい。また、ムコン酸水溶液におけるムコン酸に対するギ酸量の上限は、ムコン酸が過飽和で安定化する範囲においては特に限定されないが、40.0重量%を超えると、晶析操作において回収したムコン酸結晶中にギ酸が巻き込まれてしまうことがあり、それによりムコン酸の純度を向上するためにムコン酸結晶の洗浄を繰り返し行う必要があるため、好ましくは40.0重量%である。なお、ムコン酸水溶液に含まれるムコン酸およびギ酸は高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって定量することができ、ムコン酸水溶液に含まれるムコン酸およびギ酸の重量から、ムコン酸水溶液におけるムコン酸に対するギ酸量を測定することができる。
また、晶析に供するムコン酸水溶液は、ムコン酸が0.15〜5.0重量%溶解したものが好ましい。0.15重量%以上であれば晶析による回収率高めることができるが、5.0重量%を超えると、スラリー濃度が高すぎて晶析槽内部を均一に撹拌できない場合があり、操作性に問題が生じる場合がある。なお、ムコン酸濃度が0.15重量%未満の場合は、濃縮操作によりムコン酸濃度を0.15重量%以上に高めた後に晶析することが好ましい。ムコン酸濃度の濃縮方法は、エバポレーターに代表される濃縮装置で加熱、減圧により水を蒸発させたり、逆浸透膜に通じて濾過することによって非透過液側にムコン酸を濃縮する方法が挙げられるが、濃縮に要するエネルギーを低減できることから、逆浸透膜による濃縮方法が好ましい。
ムコン酸濃縮のための逆浸透膜の膜素材としては、一般に市販されている酢酸セルロース系ポリマー、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ビニルポリマー、ポリスルホンなどの高分子素材を使用することができるが、該1種類の素材で構成される膜に限定されず、複数の膜素材を含む膜であってもよい。またその膜構造は、膜の少なくとも片面に緻密層を持ち、緻密層から膜内部あるいはもう片方の面に向けて徐々に大きな孔径の微細孔を有する非対称膜や、非対称膜の緻密層の上に別の素材で形成された非常に薄い機能層を有する複合膜のどちらでもよい。
本発明で好ましく使用される逆浸透膜としては、酢酸セルロール系のポリマーを機能層とした複合膜(以下、酢酸セルロース系の逆浸透膜ともいう)またはポリアミドを機能層とした複合膜(以下、ポリアミド系の逆浸透膜ともいう)が挙げられる。ここで、酢酸セルロース系のポリマーとしては、酢酸セルロース、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、酪酸セルロース等のセルロースの有機酸エステルの単独もしくはこれらの混合物並びに混合エステルを用いたものが挙げられる。ポリアミドとしては、脂肪族および/または芳香族のジアミンをモノマーとする線状ポリマーまたは架橋ポリマーが挙げられる。また、とりわけポリアミド系の逆浸透膜はムコン酸の阻止率が高く、ムコン酸の回収率が高いことから、本発明においてはポリアミド系の逆浸透膜がより好ましく用いられる。
膜形態としては、平膜型、スパイラル型、中空糸型など適宜の形態のものが使用できる。
本発明で使用される好ましい逆浸透膜の具体例としては、例えば、東レ株式会社製のポリアミド系逆浸透膜UTC−70、SU−710、SU−720、SU−720F、SU−710L、SU−720L、SU−720LF、SU−720R、SU−710P、SU−720P、SU−810、SU−820、SU−820L、SU−820FA、SU−610、SU−620、TM800、TM800C、TM800A、TM800H、TM800E、TM800L、東レ株式会社製の酢酸セルロース系逆浸透膜SC−L100R、SC−L200R、SC−1100、SC−1200、SC−2100、SC−2200、SC−3100、SC−3200、SC−8100、SC−8200、日東電工株式会社製のNTR−759HR、NTR−729HF、NTR−70SWC、ES10−D、ES20−D、ES20−U、ES15−D、ES15−U、LF10−D、アルファラバル製のRO98pHt、RO99、HR98PP、CE4040C−30D、NF99、NF99HF、GE製のA Series、GE Sepa、OSMO BEV NF Series、HL Series、Duraslick Series、MUNI RO Series、MUNI NF Series、MUNI RO LE Series、Duratherm RO HF Series、CK Series、DK Series、Seasoft Series、Duratherm RO HF Series、Duratherm HWS Series、PRO RO Series、PRO RO LE Series、SAEHAN CSM製のBLFシリーズ、BLRシリーズ、BEシリーズ、KOCH製のSelRO Series、Filmtec製のBW30−4040、TW30−4040、XLE−4040、LP−4040、LE−4040、SW30−4040、SW30HRLE−4040、NF45、NF90、NF200、NF400などが挙げられる。
逆浸透膜に通じる際の操作圧力は、1MPaより低ければ膜透過速度が低下し、8MPaより高ければ膜の損傷に影響を与えるため、1〜8MPaの範囲であることが好ましい。また、濾過圧が1〜7MPa以下の範囲であれば、膜透過流束が高いことから、水を効率的に透過させることができ、膜の損傷に影響を与える可能性が少ないことからより好ましく、2〜6MPa以下の範囲であることがさらに好ましい。
逆浸透膜によるムコン酸濃縮時の液温は特に限定されるものではないが、好ましくは30〜60℃、より好ましくは35〜55℃に調整することが好ましい。逆浸透膜による濃縮は、通常、固形分が析出しない濃度まで濃縮できるが、ムコン酸の飽和溶解度は、温度が高くなるほど大きくなるため、ムコン酸を含んだ培養液の温度が30℃以上であれば、ムコン酸を析出させずに高濃度の濃縮液を調整することができる。一方、逆浸透膜に通じる操作温度が60℃を越えると、逆浸透膜の構造変化により次第に透水性が低下し、長期間の逆浸透膜濾過運転に支障をきたす場合がある。
晶析に供するムコン酸水溶液の温度条件は特に制限はないが、35℃以上が好ましく、40℃以上より好ましいである。ムコン酸水溶液におけるムコン酸水溶液温度が35℃未満だとムコン酸の過飽和の安定性が不十分であり、晶析操作におけるムコン酸の回収率向上の効果が小さい。なお、晶析に供するムコン酸水溶液は高温であればあるほどムコン酸水溶液の過飽和は安定するが、高温側ほど多量のエネルギーを必要とするため、温度条件の上限は80℃であることが好ましい。
一方、晶析工程における冷却温度(以下、晶析温度という。)としては、ムコン酸が析出する飽和溶解度以下の温度条件まで冷却すればよいが、ムコン酸が0.15〜0.5重量%溶解したものを晶析する場合、ムコン酸水溶液を、具体的には、晶析温度条件は35℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。なお、低温であればあるほどムコン酸回収率を上げることができるが、低温ほど多量の冷却エネルギーを必要とするため、晶析温度条件の下限は10℃が好ましい。
晶析により得られたムコン酸スラリーは、固液分離操作により結晶と母液に分離される。固液分離方法は特に限定されないが、具体例として、遠心分離、加圧濾過、吸引濾過、クロスフロー濾過などが挙げられる。なお、固液分離後の母液には、飽和溶解度以下のムコン酸が含まれるため、母液を再度晶析操作に供することでムコン酸の回収率を向上することができる。具体例として、母液を逆浸透膜に通じることで晶析操作によって回収できなかったムコン酸を濃縮・回収できるので、該濃縮液を晶析操作に供することで母液に含まれるムコン酸を回収することができる。
ギ酸はムコン酸と比較して溶解度が高いことから、ムコン酸晶析温度では結晶として析出せず、晶析に供するムコン酸水溶液中に含まれるギ酸のほぼ全量がムコン酸晶析母液側に含まれる。即ち、一旦ムコン酸水溶液にギ酸を添加すれば、再度添加する必要がなく、母液をリサイクルすることで、連続晶析操作においても一定のムコン酸回収率向上効果が得られる。
一方、固液分離後の結晶には極微量のギ酸および他の不純物、特にムコン酸が微生物の発酵培養液由来である場合は、発酵培地成分や副産物が結晶に付着することがあるため、結晶を洗浄することで純度の高いムコン酸を得ることができる。結晶の洗浄は、固液分離中、または固液分離後いずれの過程でもよい。洗浄剤としては、純水を使用してもよいが、純水洗浄の場合、ムコン酸が一部溶解し、回収率が低下する場合があるために、回収対象とするムコン酸と同一のムコン酸の飽和水溶液で洗浄することで、回収率の低下を抑制できる。また、純水またはムコン酸飽和水溶液で結晶を洗浄した後の洗浄液を再度晶析操作に供することでもムコン酸回収率の低下を抑制できる。
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下で使用されるムコン酸は全てcis,cis−ムコン酸である。
参考例1 ギ酸を含むムコン酸水溶液の飽和溶解度測定
ムコン酸(シグマアルドリッチ社製)2gに純水100g添加し、2.0重量%cis,cis-ムコン酸水溶液を調整した。さらに、ムコン酸に対してギ酸(シグマアルドリッチ社製)が0重量%、3.0重量%、5.0重量%、9.8重量%、35.0重量%含まれるムコン酸水溶液を調製し、これらを試験液とした。調製した試験液を20℃、30℃、40℃、50℃で保温しながら、400rpmで攪拌した。各温度における保温時間2時間経過後のムコン酸スラリーを0.2μmフィルターで濾過し、濾液中のムコン酸を測定し、飽和溶解度とした。なお、ムコン酸水溶液中のムコン酸濃度およびギ酸濃度は、高速液体クロマトグラフィー(株式会社島津製作所製)により以下の条件により測定した。
カラム:Synergie HydroRP(Phenomenex製)
移動相:5%アセトニトリル水溶液(流速1.0mL/min)
検出方法:UV(210nm)
温度:40℃。
結果は図1〜3に示す通りであり、ムコン酸に対してギ酸を5.0重量%以上含んだ場合、保温時間6時間経過しても溶解度が低下しないことから、過飽和が安定化することが示された。即ち、過飽和の安定性を利用することで結晶の析出を抑制して高濃度に濃縮することができるため、晶析操作による回収率を高められることが示された。
実施例1、2 ムコン酸に対してギ酸を5.0重量%含むムコン酸水溶液の晶析
ムコン酸(シグマアルドリッチ社製)5.0gに純水245g、ギ酸(シグマアルドリッチ社製)0.1g添加し、2.0重量%ムコン酸水溶液を調整した。50℃、400rpmで2時間攪拌し、定性濾紙No2(アドバンテック社製)で吸引濾過により固液分離し、溶解していないムコン酸を除去し、母液を回収した。回収した母液中のムコン酸濃度、ギ酸濃度は参考例1と同様に高速液体クロマトグラフィーで測定した。その結果、回収した母液中のムコン酸濃度は0.8重量%であり、ムコン酸に対するギ酸量は5.0重量%であった。回収した母液を試験液とし、これを2つに分けてそれぞれ20℃、30℃に冷却し、400rpm、2時間攪拌した。析出したスラリーを定性濾紙No2(アドバンテック社製)で吸引濾過によりウエット結晶と母液に固液分離した。ウエット結晶中のムコン酸量は、参考例1と同様に高速液体クロマトグラフィーで測定し、ムコン酸回収率を以下の式1の方法で算出した。結果を表1(a)、(b)に示す。
ムコン酸回収率(%)=100×ウエット結晶中のムコン酸量(g)/試験液中のムコン酸量(g)・・・(式1)。
実施例3、4 ムコン酸に対してギ酸を9.8重量%含むムコン酸水溶液の晶析
ムコン酸(シグマアルドリッチ社製)4.0gに純水170g、ギ酸(シグマアルドリッチ社製)0.2g添加し、2.3重量%ムコン酸水溶液を調整した。50℃、400rpmで2時間攪拌し、定性濾紙No2(アドバンテック社製)で吸引濾過により固液分離し、溶解していないムコン酸を除去し、母液を回収した。回収した母液中のムコン酸濃度、ギ酸濃度は参考例1と同様に高速液体クロマトグラフィーで測定した。その結果、回収した母液中のムコン酸濃度は0.9重量%であり、ムコン酸に対するギ酸量は9.8重量%であった。回収した母液を試験液として、実施例1、2と同様の方法でムコン酸を晶析・固液分離し、ムコン酸回収率を式1の方法で算出した。結果を表1(c)、(d)に示す。
実施例5、6 ムコン酸に対してギ酸を35.0重量%含むムコン酸水溶液の晶析
ムコン酸(シグマアルドリッチ社製)4.5gに純水175g、ギ酸(シグマアルドリッチ社製)0.6g添加し、2.5重量%ムコン酸水溶液を調整した。50℃、400rpmで2時間攪拌し、定性濾紙No2(アドバンテック社製)で吸引濾過により固液分離し、溶解していないムコン酸を除去し、母液を回収した。回収した母液中のムコン酸濃度、ギ酸濃度は参考例1と同様に高速液体クロマトグラフィーで測定した。その結果、回収した母液中のムコン酸濃度は1.0重量%であり、ムコン酸に対するギ酸量は35.0重量%であった。回収した母液を試験液として、実施例1、2と同様の方法でムコン酸を晶析・固液分離し、ムコン酸回収率を式1の方法で算出した。結果を表1(e)、(f)に示す。
比較例1、2 ギ酸を含まないムコン酸水溶液の晶析
ムコン酸(シグマアルドリッチ社製)2.8gに純水175g添加し、1.6重量%ムコン酸水溶液を調整した。50℃、400rpmで2時間攪拌し、定性濾紙No2(アドバンテック社製)で吸引濾過により固液分離し、溶解していないムコン酸を除去し、母液を回収した。回収した母液中のムコン酸濃度、ギ酸濃度は参考例1と同様に高速液体クロマトグラフィーで測定した。その結果、回収した母液中のムコン酸濃度は0.7重量%であり、ムコン酸に対するギ酸量は0重量%であった。回収した母液を試験液として、実施例1、2と同様の方法でムコン酸を晶析・固液分離し、ムコン酸回収率を式1の方法で算出した。結果を表1(g)、(h)に示す。
比較例3、4 ムコン酸に対してギ酸を3.0重量%含むムコン酸水溶液の晶析
ムコン酸(シグマアルドリッチ社製)8.6gに純水470g、ギ酸(シグマアルドリッチ社製)0.1g添加し、1.8重量%ムコン酸水溶液を調整した。50℃、400rpmで2時間攪拌し、定性濾紙No2(アドバンテック社製)で吸引濾過により固液分離し、溶解していないムコン酸を除去し、母液を回収した。回収した母液中のムコン酸濃度、ギ酸濃度は参考例1と同様に高速液体クロマトグラフィーで測定した。その結果、回収した母液中のムコン酸濃度は0.7重量%であり、ムコン酸に対するギ酸量は3.0重量%であった。回収した母液を試験液として、実施例1、2と同様の方法でムコン酸を晶析・固液分離し、ムコン酸回収率を式1の方法で算出した。結果を表1(i)、(j)に示す。
Figure 2013256459
表1の実施例1〜6に示すように、ムコン酸に対するギ酸濃度が高いほど試験液中のムコン酸濃度が高く、晶析操作によるムコン酸回収率が高いことが示された。一方、比較例1〜4に示すように、ムコン酸に対するギ酸濃度が0、3.0重量%においては試験液中のムコン酸濃度に変化はなく、晶析操作によるムコン酸の回収率は変わらないことが示された。
比較例5、6 ムコン酸に対して酢酸を10.0重量%含むムコン酸水溶液の晶析
ムコン酸(シグマアルドリッチ社製)5.4gに純水278g、酢酸(ナカライテスク社製)0.2g添加し、1.9重量%ムコン酸水溶液を調整した。50℃、400rpmで2時間攪拌し、定性濾紙No2(アドバンテック社製)で吸引濾過により固液分離し、溶解していないムコン酸を除去し、母液を回収した。回収した母液中のムコン酸濃度、酢酸濃度は参考例1と同様に高速液体クロマトグラフィーで測定した。その結果、回収した母液中のムコン酸濃度は0.7重量%であり、ムコン酸に対する酢酸量は10.0重量%であった。回収した母液を試験液として、実施例1、2と同様の方法でムコン酸を晶析・固液分離し、ムコン酸回収率を式1の方法で算出した。結果は表2に示す通りであり、ギ酸に替えて同じモノカルボン酸である酢酸を含んだムコン酸を晶析しても、試験液中のムコン酸濃度に変化はなく、また、ムコン酸回収率の向上に効果がないことが示された。
Figure 2013256459

Claims (5)

  1. ムコン酸に対してギ酸が5.0重量%以上含まれているムコン酸水溶液を晶析に供することを特徴とする、ムコン酸の製造方法。
  2. ムコン酸水溶液中のムコン酸量に対するギ酸量が5.0〜40.0重量%である、請求項1に記載のムコン酸の製造方法。
  3. ムコン酸水溶液のムコン酸濃度が0.15〜5.0重量%である、請求項1または2に記載のムコン酸の製造方法。
  4. 晶析温度が30℃以下である、請求項1から3のいずれかに記載のムコン酸の製造方法。
  5. ムコン酸水溶液を逆浸透膜に通じて濾過することにより得られる濃縮液を晶析に供する、請求項1から4のいずれかに記載のムコン酸の製造方法。
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