JP2013252056A - コウジ菌菌糸固定化担体を用いるオリゴ糖の製造方法 - Google Patents

コウジ菌菌糸固定化担体を用いるオリゴ糖の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】簡便、効率的、安全かつ低コストのオリゴ糖の製造方法を提供する。
【解決手段】ステップ1:β−フルクトフラノシダーゼを保持するコウジ菌菌糸固定化担体に、第1の糖基質及び第2の糖基質を接触させるステップ、ステップ2:前記接触後のコウジ菌菌糸固定化担体において、菌糸に保持されたβ−フルクトフラノシダーゼによる糖転移反応を行い、第1の糖基質及び第2の糖基質からオリゴ糖を生成するステップ、ステップ3:オリゴ糖を精製するステップを含むオリゴ糖の製造方法。
【選択図】図1

Description

本発明は、コウジ菌菌糸固定化担体を用いるオリゴ糖の製造方法に関する。
従来から、各種タイプの生理的に役に立つ機能を発揮する単糖及びオリゴ糖類が開発されてきた。これら糖類のほとんどは機能性甘味料として使用され、その多くはバイオマス多糖類の酵素分解または自然界に豊富に存在するオリゴ糖類の酵素的変換で調製されている。最近、バイオマス多糖類であるキチンの加水分解により得られる単糖であるN-アセチル-D-グルコサミン(GlcNAc)に関し、この糖類の摂取がヒアルロン酸及びコンドロイチンなどのムコ多糖の生産を増加させることが動物実験により確認された。このことから、本単糖の摂取による皮膚の老化防止や変形性関節症の改善が期待されている。
GlcNAcを構成糖として含むオリゴ糖としては、ラクト-N-ビオース I [β-D-ガラクトピラノシル(1 →3)-α-N-アセチル-D-グルコサミン]やN-アセチルラクトサミン[β-D-ガラクトピラノシル(1 →4)-α-N-アセチル-D-グルコサミン]などのヒトミルクオリゴ糖由来の二糖類が知られており、これらについては腸内ビフィズス菌の増殖効果や病原菌の腸管細胞への接着阻害効果が報告されている。また、D−フルクトースとGlcNAcからなる二糖類としてN−アセチルスクロサミン [β-D-フルクトフラノシル-(2 →1) -α-N-アセチル-D-グルコサミニド]が知られているが、本オリゴ糖は天然には存在せず希少糖であることから、その生理機能については全く調べられていない。現在までに、N−アセチルスクロサミンの製造については、D-フルクトースと非常に高価な基質であるUDP-N-アセチル-D-グルコサミン (ウリジン2リン酸N-アセチル-D-グルコサミン)を原料として用い、精製した希少なスクロース合成酵素の作用を利用した方法(非特許文献1)、8工程にわたる有機合成による方法(非特許文献2)が知られているのみであり、両者ともコストと手間がかかるという問題がり、本オリゴ糖を簡便かつ安価に製造するのには適していない。したがって、現在までにN−アセチルスクロサミンの簡易製造方法は確立されていない。
スクロースに対し加水分解及び糖転移(D-フルクトース転移)活性を有する酵素として、β-フルクトフラノシダーゼが知られている。この酵素の糖転移活性を利用することにより、フラクトオリゴ糖の一種である1-ケストース[β-D-フルクトフラノシル-(2→1)-β-D-フルクトフラノシル-(2 →1) −α-D-グルコピラノシド]が、Aspergillus oryzae (以下「A. oryzae」と表記することがある。)の酵素を利用してスクロースから生産された(非特許文献3から5)。その他のアスペルギルス属を利用したフラクトオリゴ糖の生産方法としては、アルギン酸カルシウムに固定化したAspergillus japonicusの全細胞系を用いる方法(非特許文献6)、Aspergillus sp 27Hの全細胞系を用いる方法(非特許文献7)、Aspergillus sp. N74の全細胞系を用いる方法が知られている(非特許文献8)。
Arthrobacter由来のβ-フルクトフラノシダーゼによって、ラクトスクロース[β- D- ガラクトピラノシル-(1→4) −α-D-グルコピラノシル-(1 →2) −β-D-フルクトフラノシド]が、スクロース及びラクトースから生産されたことが知られている(非特許文献9から12)。
全細胞系によるその他のオリゴ糖の合成方法としては、スクロース−6−アセテート(D−フルクトースと6−O−保護されたグルコースからなる二糖)の合成が知られている(特許文献1)。
特表2009-508518
Romer et al. Adv. Synth. Catal., 345, 684-686(2003) Koto et al. Carbohydrate Research, 109, 276-281(1982) Kurakake et al. J. Agric. Food Chem., 58, 488-492(2010) Sangeetha et al. Process Biochemistry, 40, 1085-1088(2005) Sangeetha et al. Appl Microbiol Biotechnol, 65, 530-537(2004) Cruz et al. Bioresource Technology, 65, 139-143(1998) Fernandez et al. J. Chem. Technol. Biotechnol., 79, 268-272(2004) Oscar et al. Proceedings of European Congress of Chemical Engineering(ECCE-6), Copenhagen, 16-20(2007) Pilgrim et al. Biosci. Biotechnol. Biochem., 65(4), 758-765(2001) Park et al. Biotechnology Letters, 27, 495-497(2005) Kawase et al. Chemical Engineering Science, 56, 453-458(2001) Mikuni et al. J. Appl. Glycosci., 47, No. 3 & 4, 281-285(2000)
本発明は、簡便、効率的、安全かつ低コストのオリゴ糖の製造方法を提供することを課題とする。
本発明は下記のオリゴ糖の製造方法を提供する。
(1)下記ステップ1から3を少なくとも含むオリゴ糖の製造方法;
ステップ1:β−フルクトフラノシダーゼを保持するコウジ菌菌糸固定化担体に、第1の糖基質及び第2の糖基質を接触させるステップ、
ステップ2:前記接触後のコウジ菌菌糸固定化担体において、菌糸に保持されたβ−フルクトフラノシダーゼによる糖転移反応を行い、第1の糖基質及び第2の糖基質からオリゴ糖を生成するステップ、
ステップ3:オリゴ糖を精製するステップ。
(2)第1の糖基質、第2の糖基質及びオリゴ糖が、下記(A)から(D)のいずれかの組み合わせである、上記(1)に記載のオリゴ糖の製造方法;
A:第一の糖基質:スクロース、第二の糖基質:N-アセチル-D-グルコサミン(以下、GlcNAcと表記することがある)、オリゴ糖:N−アセチルスクロサミン、
B:第1の糖基質:スクロース、第2の糖基質:N−アセチル-D-ガラクトサミン(以下、GalNAcと表記することがある)、オリゴ糖:β-D-フルクトフラノシル-(2 →1) -α-N-アセチル-D-ガラクトサミニド、
C:第1の糖基質:スクロース、第2の糖基質:スクロース、フルクトース、オリゴ糖:フラクトオリゴ糖、フルクトースオリゴ糖
D:第1の糖基質:スクロース、第2の糖基質:ラクトース、オリゴ糖:ラクトスクロース。
(3)コウジ菌菌糸固定化担体が、下記ステップにより製造されるものである、上記(1)又は(2)に記載の製造方法;
a:担体を含む培地中でコウジ菌を培養するステップ、
b:前記培養後の培地からコウジ菌菌糸固定化担体を分取するステップ、
c:コウジ菌菌糸固定化担体を乾燥するステップ。
(4)担体が珪藻土(以下、「セライト」と表記することがある)又は発泡性真珠岩粒(以下、「パーライト粒」と表記することがある)から選択される、上記(3)に記載の製造方法。
(5)下記ステップにより製造されるコウジ菌菌糸固定化担体;
a:担体を含む培地中でコウジ菌を培養するステップ、
b:前記培養後の培地からコウジ菌菌糸固定化担体を分取するステップ、
c:コウジ菌菌糸固定化担体を乾燥するステップ。
(6)担体が珪藻土又は発泡性真珠岩粒から選択される上記(5)に記載のコウジ菌菌糸固定化担体。
本発明は、β−フルクトフラノシダーゼを保持するコウジ菌菌糸を全細胞触媒として利用することにより、煩雑な酵素抽出を経ることなく、効率的、簡便かつ低コストでオリゴ糖を製造することができる。特にN-アセチルスクロサミンは従来簡易製造法が確立されていなかったことから、本発明の意義は大きい。また、コウジ菌は食品製造にも用いられている日本における一般的な菌類であることから、製造したオリゴ糖の安全性は極めて高い。さらに、本発明は酵素を含む菌糸を利用することから、酵素を結果物のオリゴ糖を含む反応混合物から容易に取り除くことができるという利点もある。
A.oryzae NBRC100959株乾燥菌糸とセライト535からなる顆粒によるスクロースとGlcNAcの間の糖転移反応の概略。図中、化合物の量、濃度、収率等は実施例1の場合を示す。 A.oryzae NBRC100959株乾燥菌糸とセライト535からなる顆粒。(A)顆粒の写真。(B)顆粒の電子顕微鏡写真。 A.oryzae NBRC100959株乾燥菌糸から抽出されたβ-フルクトフラノシダーゼのカラムクロマトグラフィーによる分画。 糖転移反応によるN-アセチルスクロサミン生産に関わるβ-フルクトフラノシダーゼの確認。AはF1を、BはF2のβ-フルクトフラノシダーゼ画分を用いた場合の結果を示す。標準の糖は以下の通り;S1(スクロース)、S2(D-グルコース)、S3(D-フルクトース)、S4(GlcNAc)、S5(N-アセチルスクロサミン)、S6(1-ケストース)及びS7(ニストース)。矢印aはN-アセチルスクロサミンを表す。 スクロースとGlcNAcの反応混合物中の化合物のシリカゲル薄層クロマトグラフィー(以下、「TLC」と表記することがある)データ。標準の糖は以下の通り;S1(スクロース)、S2(D-グルコース)、S3(D-フルクトース)、S4(GlcNAc)、S5(1-ケストース)及びS6(ニストース)。矢印aは未知の反応生成物を表す(化合物a)。 核磁気共鳴分光法による糖転移産物の同定。(A)1Hおよび13C 核磁気共鳴分光法(以下、「NMR」と表記することがある)データ及び化合物の構造。1H NMRデータ[化学シフト(ppm); 多重度; カップリング定数(Hz)]と、13C NMRの化学シフト(ppm)を、それぞれ矢印及び破線矢印で示す。湾曲した両矢印は異核間多結合相関分光法(以下、「HMBC」と表記することがある)におけるクロスピークを示す。(B)化合物a(N-アセチルスクロサミン)におけるGlcNAcの アノマー水素とのHMBC NMR 交差ピーク。H1とC1-6のピークは、N-アセチルスクロサミンのGlcNAc残基のアノマー水素と環炭素を示す。C1'-6'のピークは、N-アセチルスクロサミンのD-フルクトースの環炭素を示す。破線はH1のピークと、C3、C5及びC2'とのピークの間の交差を示す。横軸:13C NMRデータ(ppm)、縦軸:1H NMRデータ(ppm)を示す。 糖転移反応混合物における糖組成。GlcNAc以外の反応混合物の中の糖の高速液体クロマトグラフィー(以下、「HPLC」と表記することがある)分析で得られた総ピーク面積を100%として示す。 各種アスペルギルス株を用いて作成した乾燥菌糸とセライト535からなる顆粒によるN-アセチルスクロサミン生産の相対的な割合。実施例1で(乾燥A. oryzae NBRC100959菌糸を使用)生産されたN-アセチルスクロサミンの反応溶液中の相対的な割合を100%として表記。 乾燥A.oryzae NBRC100959株菌糸とパーライトからなる粒。(A)パーライト粒の電子顕微鏡写真。(B)固相培養(方法1)によって得られた菌糸固定化パーライト粒の電子顕微鏡写真。(C)液体培養(方法2)によって得られた菌糸固定化パーライト粒の電子顕微鏡写真。 乾燥A.oryzae NBRC100959株菌糸固定化パーライト粒によるN-アセチルスクロサミンの生成を示す図(TLCデータとHPLC分析による糖組成分析データ)。(A)方法1によって得られた菌糸固定化パーライト粒を用いた結果 (B)方法2によって得られた菌糸固定化パーライト粒を用いた結果。TLCにおける標準の糖は以下の通り; S1(GlcNAc)、S2(D-グルコース)、S3(D-フルクトース)、S4(スクロース)、S5(1-ケストース)及びS6(ニストース)及びS7(N-スクロサミン)。 乾燥A.oryzae NBRC100959株菌糸から放出されるβ-フルクトフラノシダーゼ。A;方法1によって得られた菌糸を用いた結果、B;方法2によって得られた菌糸を用いた結果。 各種アスペルギルス株を用いて作成した菌糸固定化パーライト粒によるN-アセチルスクロサミン生産の相対的な割合。 フラクトオリゴ糖生産に使用した乾燥A.oryzae NBRC100959株菌糸固定化パーライト粒の電子顕微鏡写真(A)と反応の概略(B)。 カラムリアクターを用いたN−アセチルスクロサミンの連続生産。A:カラムリアクター装置の図を示す。B:反応液中のN-アセチルスクロサミン濃度のHPLCによる定量結果。 乾燥A.oryzae NBRC100959株菌糸固定化パーライト粒によるスクロースからのフラクトオリゴ糖の生産と同定。(A) TLCデータ。標準の糖は以下の通り;S1(D-グルコース)、S2(D-フルクトース)、S3(スクロース)、S4(1-ケストース)及びS5(ニストース)。(B) HPLC分析による糖組成分析データ。
本発明のオリゴ糖の製造方法は、下記ステップ1から3を少なくとも含むことを特徴とする。
ステップ1:β−フルクトフラノシダーゼを保持するコウジ菌菌糸固定化担体に、第1の糖基質及び第2の糖基質を接触させるステップ。
ステップ2:前記接触後のコウジ菌菌糸固定化担体において、菌糸に保持されたβ−フルクトフラノシダーゼによる糖転移反応を行い、第1の糖基質及び第2の糖基質からオリゴ糖を生成するステップ。
ステップ3:オリゴ糖を精製するステップ。
以下、各ステップについて説明する。
(1)ステップ1
ステップ1は、β−フルクトフラノシダーゼを保持するコウジ菌菌糸固定化担体に、第1の糖基質及び第2の糖基質を接触させるステップである。
ステップ1におけるコウジ菌としては、所望のオリゴ糖の生成を触媒するβ−フルクトフラノシダーゼを産生するものである限り特に限定されないが、代表的にはAspergillus oryzaeに属するコウジ菌を用いることができる。Aspergillus oryzaeに属するコウジ菌としては、例えばNBRC100959(Aspergillus oryzae (Ahlburg) Cohn var. brunneus Murakami)、NBRC100537(Aspergillus oryzae (Ahlburg) Cohn)、NBRC4079(Aspergillus oryzae (Ahlburg) Cohn)、NBRC4290(Aspergillus oryzae (Ahlburg) Cohn)、NBRC5238(Aspergillus oryzae (Ahlburg) Cohn)、NBRC5239(Aspergillus oryzae (Ahlburg) Cohn var. brunneus Murakami)、NBRC5240(Aspergillus oryzae (Ahlburg) Cohn)、NBRC8871(Aspergillus oryzae (Ahlburg) Cohn)、NBRC30102(Aspergillus oryzae (Ahlburg) Cohn var. brunneus Murakami)及びNBRC30103(Aspergillus oryzae (Ahlburg) Cohn var. brunneus Murakami)が例示され、これらはいずれも(独)製品評価技術基盤機構(千葉、日本)のバイオテクノロジーセンターより一般に入手することができる。
第1の糖基質、第2の糖基質は、所望のオリゴ糖を得るために用いる基質を意味し、例えば所望のオリゴ糖がN−アセチルスクロサミンの場合、第1の糖基質としてスクロース、第2の糖基質としてGlcNAcを用いることができる。この場合の酵素反応の略図を、実施例1を例として図1に示す。所望のオリゴ糖がβ-D-フルクトフラノシル-(2 →1) -α-N-アセチル-D-ガラクトサミニドである場合、第1の糖基質としてスクロース、第2の糖基質としてGalNAcを用いることができる。所望のオリゴ糖がフラクトオリゴ糖の場合、第1の糖基質としてスクロース、第2の糖基質としてスクロース及びフルクトースを用いることができ、1−ケストース、ニストース、フラクトシルニストース及びフルクトースのみからなるフルクトースオリゴ糖(フルクトビオース、フルクトトリオース、フルクトテトラオース)を生成できる。
なお、第2の糖基質はβ−フルクトフラノシダーゼによる加水分解により結果的に得られる化合物であってもよい。例えば、第2の糖基質としてフルクトースを用いる場合、反応溶液中に添加する化合物としてはスクロースを採用し、β−フルクトフラノシダーゼによる加水分解により生じるフルクトースを第2の糖基質としてコウジ菌菌糸固定化担体に接触させることもできる。所望のオリゴ糖がラクトスクロースの場合、第1の糖基質としてスクロース、第2の糖基質としてラクトースを用いることができる。しかし、これらはあくまでも例示であり、コウジ菌由来のβ−フルクトフラノシダーゼによって触媒される基質とオリゴ糖の組み合わせであれば、当業者が適宜選択の上、本発明に適用することができる。なお、第1の糖基質及び第2の糖基質との用語は、フルクトースを転移させる側の糖基質とフルクトースを受取り結合する側の糖基質を便宜上区別するために用いられるに過ぎず、第1の糖基質及び第2の糖基質のいずれにあたるかは、例えばそれぞれの糖基質を添加する順序、量比等によって決定されるものではない。
コウジ菌菌糸固定化担体の製造方法は特に限定されないが、例えば下記ステップにより製造することができる。
a:担体を含む培地中でコウジ菌を培養するステップ、
b:前記培養後の培地からコウジ菌菌糸固定化担体を分取するステップ、
c:コウジ菌菌糸固定化担体を乾燥するステップ。
担体としては、表面に凹凸がある多孔性物質でありコウジ菌菌糸を反応しやすい状態に保持することができるものであれば特に限定されないが、例えば珪藻土やパーライト粒を好ましく用いることができる。
具体的方法としては、例えば珪藻土を担体として用いる場合、コウジ菌胞子の懸濁液を珪藻土含有培養液に加え、菌糸を適温にて増殖させ、コウジ菌糸と珪藻土から成る顆粒(コウジ菌菌糸固定化珪藻土)を得、培養液をろ過してコウジ菌菌糸固定化珪藻土を分取し、アセトン処理等に例示される脱水処理、乾燥処理を行い、コウジ菌菌糸固定化担体を製造することができる。より詳細には後述する実施例を参照されたい。実施例により、調製されたコウジ菌菌糸固定化担体が、顆粒状の形態を有し、乾燥菌糸と珪藻土の分散により顆粒中に多くの空間を形成することが確認された。また、β-フルクトフラノシダーゼが乾燥コウジ菌菌糸の細胞壁に存在することも確認され、この状態が菌糸のβ-フルクトフラノシダーゼが反応混合物の中の基質と接触するのに好都合であることを確認した。
一方、例えばパーライト粒を担体として用いる場合、コウジ菌胞子の懸濁液をパーライト粒を含む培養液に加え、菌糸を適温にて増殖させ、表面に菌糸が生えたパーライト粒を得、培養液をろ過してコウジ菌菌糸固定化パーライト粒を分取し、アセトン処理等に例示される脱水処理、乾燥処理を行い、コウジ菌菌糸固定化担体を製造することができる。より詳細には後述する実施例を参照されたい。実施例により、調製されたコウジ菌菌糸固定化担体が、コウジ菌菌糸がパーライト粒を幾重にも囲んで多くの空間を形成していることが確認され、この状態が菌糸のβ-フルクトフラノシダーゼが反応混合物の中の基質と接触するのに好都合であることを確認した。
コウジ菌菌糸固定化担体に糖基質を接触させる方法は特に限定されないが、例えばバッチ法、カラムリアクター法が例示される。詳しくは後述の実施例を参照されたい。連続生産によるオリゴ糖の大量生産を行う観点ではカラムリアクター法が特に望ましく、この場合、担体としては例えばパーライト粒等、物理的に強固なものを用いることが望ましい。
(2)ステップ2
ステップ2は、前記接触後のコウジ菌菌糸固定化担体において、菌糸に保持されたβ−フルクトフラノシダーゼによる糖転移反応を行い、第1の糖基質及び第2の糖基質からオリゴ糖を生成するステップである。
第1の糖基質及び第2の糖基質のモル比は特に限定されないが、例えば第1の糖基質としてスクロースを、第2の糖基質としてGlcNAcを用いてN−アセチルスクロサミンを生成する場合、スクロース対GlcNAcのモル比が、1:1から1:5の範囲が好ましく、1:2から1:4の範囲がより好ましく、1:3が最も好ましい。β-D-フルクトフラノシル-(2 →1) -α-N-アセチル-D-ガラクトサミニド及びラクトスクロースの生成についても同様である。フラクトオリゴ糖の生成については、重量/容量で10%から50%の範囲が好ましく、30%がより好ましい。
酵素反応は、例えばクエン酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)に例示される緩衝液を酵素反応溶液として適宜選択し、当該酵素反応溶液中に糖基質及びコウジ菌菌糸固定化担体を、適当な条件下で共存させることにより行うことができる。基質溶液中に添加するコウジ菌菌糸固定化担体の量は、反応時間の都合によって当業者が適宜調節することができる。酵素反応の条件は特に限定されないが、例えば25℃から30℃で穏やかな震とうさせる等、当業者が適宜選択することができる。
(3)ステップ3
ステップ3は、オリゴ糖を精製するステップである。精製とは、ステップ2により生成したオリゴ糖をコウジ菌菌糸固定化担体を含む混合物から分離する操作を意味する。オリゴ糖の精製は、例えば反応混合物の濾過によるコウジ菌菌糸固定化担体の除去とそれにより得られた上清からのカラムクロマトグラフィーによる分離等、当業者が適宜選択する方法により行うことができ、精製の程度は特に限定されない。
以下、本発明を実施例により詳述するが、本発明の範囲はこれにより限定されるものではない。
コウジ菌(NBRC100959株)菌糸固定化珪藻土を用いたN-アセチルスクロサミンの製造
方法:
(1)材料
GlcNAcはシグマ-アルドリッチ(セントルイス、MO、米国)からを購入した。スクロース、D-グルコース、D-フルクトース、1-ケストース、ニストース及びセライト 535は、和光純薬株式会社(大阪、日本)から入手した。他のすべての化学物質は分析グレードのものを使用した。糸状菌細胞壁溶解酵素Yatalaseはタカラバイオ(滋賀、日本)から購入した。アスペルギルス属株は、(独)製品評価技術基盤機構(千葉、日本)のバイオテクノロジーセンターから入手した。

(2)A.oryzae菌糸固定化担体の調製
コウジ菌胞子(A. oryzae NBRC100959)の懸濁液 500 μLを、重量/容量にして2%のスクロース、0.5%のペプトン、0.2%のNaNO3、0.1%のK2HPO4、0.05%のMgSO4・7H2O、0.05%のKCl、0.001%のFeSO4・7H2O及び4.0 gのセライト 535を含む100 mLの培地(pH 5.5)に加えた。菌糸は28℃で72時間震とう(135 rpm)して増殖させた。得られたA. oryzae菌糸とセライト 535から成る含水小粒は、No.5A濾紙(桐山製作所、東京、日本)を用いた吸引濾過で回収し、100 mlの冷アセトンに再懸濁し、30分間氷上に静置した。これらの操作は二度繰り返した。脱水した小粒を濾紙を用いた吸引濾過で回収した後、室温で吸引器を用いて緩やかな減圧下で乾燥し、乾燥A. oryzae NBRC100959菌糸及びセライト 535から成る顆粒を入手した(図2)。顆粒の電子顕微鏡的観察は、卓上顕微鏡TM-1000(日立ハイテクノロジーズ、東京、日本)を用いて行った。これらの操作で菌は死滅したが、菌糸の細胞壁中に存在するβ−フルクトフラノシダーゼの活性は保たれた。顆粒中の乾燥菌糸の含有量は20.6%であった。

(3)オリゴ糖の生産及び精製
20 mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH5.5) 100 mL中のスクロース(10g、29.2 mmol)とGlcNAc(19.4 g、87.7 mmol)の混合物に、700mgの乾燥A. oryzae NBRC100959菌糸を含む上記の顆粒を加えた。混合物は30℃で穏やかな震とう条件下でインキュベートした。酵素反応中、特定の間隔で、薄層クロマトグラフ法(TLC)及び高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)によって、オリゴ糖生産の進捗状況をモニターした。TLCプレート[Silica Gel 60N、230-400 mesh(E.メルク、ダルムシュタット、ドイツ)]は、8:3:1(容量/容量)のn-BuOH-Pyridine-H2Oを移動相溶剤として用いて二度展開した。プレートの上の化合物は、重量/容量にして2.4%のH3(PMo12O40)・n H2O、5%のH2SO4及び1.5%のH3PO4を含む水溶液をスプレーし、加熱することで可視化した。HPLC分析は、COSMOSIL Sugar-Dカラム(250×4.6 mm、ナカライテスク、京都、日本)により、移動相溶媒として77:23(容量/容量)のCH3CN-H2Oを用いて行った[検出器;RI-71示差屈折率計(昭和電工社)、ポンプ; LC-10ASポンプ(島津製作所)]。
8時間のインキュベーションの後、No.5A濾紙(桐山製作所、東京、日本)を用いて顆粒を取り除き、反応生成物を含む上清を得た。得られた溶液は、活性炭 (粒径; 63-300 μm、和光純薬、サイズ; 直径5.7 cm×高さ41 cm、溶剤; H2O) カラムに供し、酵素反応産物は5%(容量/容量)のエタノール水溶液で溶出した。酵素反応産物を含む画分を回収した後、エバポレーターを用いて濃縮した。次に、オリゴ糖はUltraPack NH-40Cカラム[山善、大阪、日本; サイズ; 直径5 cm×高さ30 cm、溶剤;5:2(容量/容量)の2-PrOH-H2O]を用いたカラムクロマトグラフィーでさらに精製した。オリゴ糖を含む画分を回収し、エバポレーターを用いて濃縮した後、凍結乾燥を行なうことで白色粉末を得た。

(4)オリゴ糖の構造同定と特性評価
酵素反応産物を、1H及び13C NMR及び質量分析(MS)によって評価した。試料の1H及び13C NMRスペクトルをVXR-400分光計(バリアン、パロアルト、カリフォルニア、米国)を用い25℃においてD2O中で記録した。各シグナルの化学シフト(ppm)はトリメチルシランからのダウンフィールド シフトで表した。質量スペクトルは、陽イオンダイレクトESI条件下でZQ4000 LC-MS装置(ウォーターズ、ミルフォード、マサチューセッツ、米国)を用いて記録した。比旋光性は、P-1030偏光計(Jasco、東京、日本)を用い、20℃においてH2O中で測定した。融点は、MP-21キャピラリー装置(ヤマト科学、東京、日本)で測定した。

(5)β-フルクトフラノシダーゼの部分精製とオリゴ糖生産性の確認
2.59 gの乾燥A. oryzae NBRC100959菌糸を含む上記の顆粒を、0.6M (NH4)2SO4及び250 mg Yatalaseを含む10 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH6.0) 300 mLに懸濁し、30℃で穏やかな震とう条件下でインキュベートした。3時間の震とう後、セライト及び菌糸残渣をNo.5A濾紙(桐山製作所、東京、日本)を用いて懸濁液から取り除き、得られた上清をDismic-25CSシリンジフィルター・ユニット(孔径; 0.2 μm、Advantec MFS、東京、日本)を用いてさらに濾過し、20 mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 5.5)に対して透析した。得られた溶液中のタンパク質は、硫安塩析(30-90%飽和)によって分画し、生じた沈殿は遠心(3,200 × g、4℃、15分)によって回収した。β-フルクトフラノシダーゼを含む沈殿物は、10 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.0)に溶解し、同緩衝液に対して透析した。得られた粗酵素溶液は、10 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.0)であらかじめ平衡化したTOYOPEARL SuperQ-650M樹脂カラム(直径1.5 cm×高さ30 cm、東ソー、東京、日本)に供した。酵素は同緩衝液中0から0.25 M NaClの直線勾配により溶出した(図3)。本カラムクロマトグラフィーによって得られた2種類のβ-フルクトフラノシダーゼの画分(以下、最初に溶出された酵素画分をF1、2番目に溶出された酵素画分をF2とする)は、それぞれ回収後にAmicon Ultra-15 10K遠心限外濾過装置により濃縮し、粗酵素溶液として用いた。
100μL のF1粗酵素溶液 (1.3ユニット)とF2粗酵素溶液(3.1ユニット)を、それぞれスクロース(100 mg、292 μmol)とGlcNAc(194 mg、877μmol)のを含む20mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 5.5) 1 mLに添加し、生成する糖転移反応生成物をTLCにより確認した(TLCの展開及び発色条件は上記と同様)。

(6)β-フルクトフラノシダーゼ活性の測定
糖転移に関わるβ-フルクトフラノシダーゼも、低濃度(1%以下)のスクロース溶液中では加水分解活性を示す。そこで、β-フルクトフラノシダーゼの加水分解活性は、基質として低濃度のスクロースを用いることで測定し、スクロースから放出された還元糖の量を測定することによってモニターした。酵素溶液(50 μL)を50 μLの0.4%(重量/容量)スクロースを含む100 mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 5.5)に加え、混合物は30℃でインキュベーションした。インキュベーション後、酵素反応は95℃で5分間加熱することで停止させた。反応混合物の中の還元糖の量はソモギ・ネルソン法で決定した。1酵素活性単位(1ユニット)は、アッセイ条件下において1分間当り1 μmol のD-グルコースと同等な還元糖を遊離するのに必要な酵素の量とした。

結果及び考察:
(1)A. oryzae固定化担体の調製
A. oryzae NBRC100959のβ-フルクトフラノシダーゼが、液体培養の後に得られた菌糸から真菌細胞壁溶解酵素Yatalase処理によって遊離した。これらの事実は、β-フルクトフラノシダーゼがA.oryzae菌糸の細胞壁に存在することを示す。そこで、高濃度基質糖中における本酵素の糖転移作用を利用してD-フルクトースとGlcNAcから成るオリゴ糖をスクロースとGlcNAcから合成するために、活性型のβ-フルクトフラノシダーゼを含む乾燥A.oryzae菌糸を全細胞触媒として使用した。効率的に酵素反応を実行するのに適当な菌糸の状態を調べたところ、A.oryzae NBRC100959菌糸とセライト 535の混合物のアセトン処理と乾燥によって得られる顆粒(図2A)が、高い糖転移活性を示すことがわかった。電子顕微鏡的観察から、乾燥菌糸とセライトの分散によって、顆粒中に多くの空間が形成されたことを確認した(図2B)。この状態が、菌糸中のβ-フルクトフラノシダーゼが反応混合物中の基質と接触するのに好都合であると考える。

(2)オリゴ糖の生産、同定及び特性評価
10%(重量/容量)のスクロースと19.4%(重量/容量)GlcNAc(モル比; スクロース:GlcNAc=1:3)を含む20mM Naクエン酸塩緩衝液(pH5.5)100 mL中に、乾燥A.oryzae NBRC100959株菌糸を含む上記顆粒を加え、オリゴ糖合成を行った。反応混合物のTLC分析(図5)では、スクロースが減少するのに従って、スクロース加水分解物(D-グルコース及びD-フルクトース)とスクロース間の糖転移産物(主にケストース)以外に、未知の産物が確認された(図5中、矢印aで示す)。この未知の産物(化合物a)を反応混合物から2種類のカラムクロマトグラフィーを用いて精製し、その構造をMSとNMR分光学を用いて特定した。化合物aのESIMSにおいて、分子イオン [M+H]+ は384 m/zの値を示した。この結果は、化合物aがD-フルクトースとGlcNAcからなる二糖類であることを示している。化合物aの1H及び13C NMRデータは図6Aに示す。GlcNAcのグリコシド結合の位置はHMBC-NMR実験で検出した。GlcNAcのアノマー水素(H1)が、GlcNAcの3位と5位の炭素(C3、C5)及びD-フルクトースの2位の炭素(C2')と共にクロスピークを示した (図6B)。 また、GlcNAcのアノマー水素(H1)と2位の炭素に結合する水素(H2)の間の結合定数は、4.0 Hzであった(図6A)。これらの結果から、化合物aを、β-D-フルクトフラノシル-(2 →1) -α-N-アセチル-D-グルコサミニド(N-アセチルスクロサミン)と特定することができた。 図7に示されているように、この二糖類は主要な糖転移産物であり、8時間の反応後のスクロースからの単離収率(モル収率)は22.1%であった。得られたN-アセチルスクロサミンの比旋光度 ([α]D)と融点は、それぞれ80.7o(c 0.96、H2O)と62-66℃であった。本二糖類については、少なくとも8 gが2 mlの水に溶けて高い粘性を示す無色のシロップを生成した。A. oryzae NBRC100959の乾燥菌糸にはF1とF2の2種類のβ-フルクトフラノシダーゼが存在しており(図3)、F1の酵素がスクロースとGlcNAcから糖転移反応によりN-アセチルスクロサミンを生産することが明らかとなった(図4)。
株の異なるコウジ菌菌糸固定化珪藻土を用いたN-アセチルスクロサミンの製造
アスペルギルス属の他の株(NBRC100537、NBRC4079、NBRC4290、NBRC5238、NBRC5239、NBRC5240、NBRC8871、NBRC30102及びNBRC30103)を用い、実施例1と同様の方法によりN-アセチルスクロサミンを調整した。乾燥菌糸及びセライト 535からなる顆粒中の各アスペルギルス属株の乾燥菌糸の含有量は以下の通りだった; NBRC100537;19.0%、NBRC4079;19.0%、NBRC4290;24.4%NBRC5238;17.5%、NBRC5239;18.9%、NBRC5240;19.9%、NBRC8871;7.73%、NBRC30102; 31.2%、及びNBRC30103; 25.0%。8時間の反応後のスクロースとGlcNAcからのN-アセチルスクロサミンの単離収率(スクロースからのモル収率)を、実施例1の場合を100%とした相対的割合として図8に示す。この結果、いずれの株もNBRC100959株と同等あるいはそれ以上にN-アセチルスクロサミンを生産できることが分かった。
コウジ菌菌糸固定化パーライト粒を用いたN-アセチルスクロサミンの製造(NBRC100959株)
方法:
(1)材料
GlcNAcはシグマ-アルドリッチ(セントルイス、MO、米国))からを購入した。スクロース、D-グルコース、D-フルクトース、1-ケストース及びニストースは、和光純薬株式会社(大阪、日本)から入手した。粒状(直径2〜5 mm)のパーライトは、広田商店(栃木、日本)から入手した。他のすべての化学物質は分析グレードのものを使用した。TLCプレート(Silica Gel 60、0.25 mm)はメルク(ダルムシュタット、ドイツ)から購入した。アスペルギルス属株は、(独)製品評価技術基盤機構(千葉、日本)のバイオテクノロジーセンターから入手した。

(2)A. oryzae菌糸固定化担体の調製
A.oryzae菌糸の培養には、重量/容量にして2%のスクロース、0.5%のペプトン、0.2%のNaNO3、0.1%のK2HPO4、0.05%のMgSO4・7H2O、0.05%のKCl及び0.001%のFeSO4・7H2Oを含む液体培地を使用した。 A. oryzae菌糸をパーライト粒に固定化するために次の2つの方法を行った。

方法1:固相培養
1 gのパーライト粒中に3.9 mLの上記培地を染込ませた後、A. oryzae NBRC100959の胞子懸濁液0.1 mLを均一に加え、3日間28℃で静置した。静置後、表面にA. oryzae菌糸が繁殖したパーライト粒は、No.5A濾紙(桐山製作所、東京、日本)を用いた吸引濾過で回収した。次に、これを30分間冷アセトン 50 mLに浸し、濾紙を用いて吸引濾過で回収した。この操作は二度繰り返した。得られた脱水A. oryzae菌糸が付着したビーズは、室温で吸引器を用いて減圧乾燥した。乾燥菌糸固定化パーライト中の乾燥菌糸の含有量は、20%であった。乾燥A. oryzae菌糸が固定されたパーライト粒の電子顕微鏡的観察は、卓上顕微鏡TM-1000(日立ハイテクノロジーズ、東京、日本)を用いて行った。

方法2:液体培養
A. oryzae NBRC100959の胞子懸濁液 0.1 mLを1 gのパーライト粒を含む9.9 mLの上記培地に加え、80回転/分の震とう条件下、混合物を3日間28℃でインキュベーションした。インキュベーションの後、表面にA. oryzae菌糸が繁殖したパーライト粒は、No.5A濾紙(桐山製作所、東京、日本)を用いた吸引濾過で回収した。次に、これを30分間冷アセトン 50 mLに浸し、濾紙を用いて吸引濾過で回収した。この操作は二度繰り返した。得られた脱水A. oryzae菌糸が付着したビーズは、室温で吸引器を用いて減圧乾燥した。乾燥菌糸固定化パーライト中の乾燥菌糸の含有量は、20%であった。乾燥A. oryzae菌糸が固定されたパーライト粒の電子顕微鏡的観察は、卓上顕微鏡TM-1000(日立ハイテクノロジーズ、東京、日本)を用いて行った。

(3)N-アセチルスクロサミンの生産及び精製
(バッチ方式)
スクロース(1g、2.92mmol)とGlcNAc(1.94g、8.77mmol)を含む20 mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 5.5) 10 mLに、100mgの乾燥A. oryzae NBRC100959株菌糸が付着したパーライト粒を加え、混合物を30℃で穏やかな震とう下でインキュベーションした。N-アセチルスクロサミンは反応液から2種類のカラムクロマトグラフィーで精製した。
まず、反応液を活性炭 (粒径; 63-300μm、和光純薬)カラム(サイズ; 直径2.5 cm×高さ20 cm、溶剤; H2O)に供した。次に、N-アセチルスクロサミンを10%(容量/容量)のEtOH水溶液でカラムから溶出した。本オリゴ糖を含む画分を回収しエバポレーターで濃縮した後、UltraPack NH-40Cカラム[山善、大阪、日本; サイズ;直径2.0 cm×高さ30 cm、溶剤; 2-PrOH-H2O 5:2(容量/容量)]を用いたクロマトグラフィーによってN-アセチルスクロサミンを精製した。N-アセチルスクロサミンを含む画分を回収し、エバポレーターで濃縮した後、試料を凍結乾燥した。

(4)N-アセチルスクロサミンの分析
TLCとHPLCによってN-アセチルスクロサミン生産をモニターした。 TLCプレートは、移動相溶剤として8:3:1のn-BuOH-Pyridine-H2O (容量/容量/容量)を用い二度展開した。プレートの上の化合物は、重量/容量にして2.4%のH3(PMo12O40)・n H2O、5%のH2SO4及び1.5%のH3PO4を含む水溶液をスプレーし、加熱することで可視化した。HPLC分析は、COSMOSIL Sugar-Dカラム(250×4.6 mm、ナカライテスク、京都、日本)により、移動相溶媒として77:23(容量/容量)のCH3CN-H2Oを用いて行った[検出器;RI-71示差屈折率計(昭和電工社)、ポンプ; LC-10ASポンプ(島津製作所)]。1H NMRにより得られたN-アセチルスクロサミンの構造を確認した。試料の1H NMRスペクトルは、VXR-400分光計(バリアン、パロアルト、カリフォルニア、米国)を用いて25℃においてD2O中で記録した。各シグナルの化学シフト(ppm)はトリメチルシランからのダウンフィールド シフトで表した。

(5)β-フルクトフラノシダーゼの部分的な精製
500mgの乾燥A. oryzae NBRC100959株の菌糸が固定化されたパーライト粒を、0.6 Mの(NH4)2SO4と50 mgのYatalaseを含む10 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.0)中に懸濁した。懸濁液は30℃で穏やかな震とう下でインキュベーションした。3時間の震とう後、残った菌糸固定化パーライト粒を、No.5A濾紙(桐山製作所、東京、日本)を用いた吸引濾過で取り除き、得られた上清のタンパク質を、硫安塩析(30-90%飽和)によって分画し、生じた沈殿は遠心(3,200 × g、4℃、15分)によって回収した。β-フルクトフラノシダーゼを含む沈殿物は、10 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.0)に溶解し、同緩衝液に対して透析した。得られた粗酵素溶液は、10 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.0)であらかじめ平衡化したTOYOPEARL SuperQ-650M樹脂カラム(直径2 cm×高さ20 cm、東ソー、東京、日本)に供した。酵素は同緩衝液中0から0.3 M NaClの直線勾配により溶出した。
β-フルクトフラノシダーゼの加水分解活性は、基質として低濃度のスクロースを用いることで測定し、スクロースから放出された還元糖の量を測定することによってモニターした。酵素溶液(50 μL)を50 μLの0.4%(重量/容量)スクロースを含む100 mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 5.5)に加え、混合物は30℃でインキュベーションした。インキュベーション後、酵素反応は95℃で5分間加熱することで停止させた。反応混合物の中の還元糖の量はソモギ・ネルソン法で決定した。1酵素活性単位(1ユニット)は、アッセイ条件下において1分間当り1 μmol のD-グルコースと同等な還元糖を遊離するのに必要な酵素の量とした。

結果及び考察:
(1)A. oryzae菌糸固定化担体の調製
乾燥A. oryzae菌糸だけを詰めたカラムに高濃度のスクロースとGlcNAcを含む溶液を通すことによって、N-アセチルスクロサミンを生産しようとした。しかし、目詰まりによりカラムに連続的に溶液を通すのは困難であった。この問題を解決するために、A. oryzae菌糸が固定化された粒状担体をカラムに詰めることにした。A. oryzae菌糸を固定化するためにパーライト粒を選んだ(図9A-1)。パーライト粒は多孔性であり表面に多くの凹凸を有するので、菌糸は容易に付着すると考えた(図9A-2)。A. oryzae NBRC100595を用い、固相培養及び液体培養の2つの方法で菌糸固定化パーライト粒の生産を行った(上記方法(2)の方法1及び2)。両方の培養方法で、NBRC100959株の菌糸はパーライト粒に付着しその表面で良好に生育した。液体培養では、菌糸は液体培地中で成長したが(図9C-1)、固相培養においては主に空気中で成長した(図9B-1) 。菌糸はアセトン処理と乾燥処理で死滅したが、細胞壁のβ-フルクトフラノシダーゼの活性は保たれた。それぞれの乾燥菌糸サンプルの電子顕微鏡的観察により、NBRC100595株の乾燥菌糸が重なり合ってパーライト粒を幾重にも囲んでいることを確認した(図9B-2、図9C-2)。方法1で調製したビーズ中の乾燥菌糸の含有量は約17%(重量/重量)、方法2で調製したものは約20%(重量/重量)であった。

(2)バッチ方式によるN-アセチルスクロサミン生産の確認
N-アセチルスクロサミンの生産性を、10%(重量/重量)のスクロースと19.4%(重量/重量)のGlcNAc(モル比; スクロース:GlcNAc=1:3)を含む緩衝液に、乾燥A. oryzae NBRC100595菌糸固定化パーライト粒を加えたバッチ方式で調べた。固相培養によって調製した菌糸固定化パーライト粒を添加した反応混合物のTLCとHPLCによる分析では、スクロース加水分解物(グルコースとフルクトース)が主要な反応生成物として観測された(図10A-1、2)。他方、液体培養で調製した菌糸固定化パーライト粒を用いた場合、N-アセチルスクロサミンと思われる化合物の生産が確認された[図10B-1(矢印a)]。この化合物の1H NMRシグナルは、N-アセチルスクロサミンのもの(図7A)と完全に一致した。これらの事実から、液体培養で作られたA. oryzae NBRC100959菌糸固定化パーライト粒が、スクロースとGlcNAcからN-アセチルスクロサミンを生産できることを確認した。図10B-2に示すHPLC分析データは、1-ケストースやニストースなどのフラクトオリゴ糖も生成したが、N-アセチルスクロサミンが主要な糖転移反応産物であることを示す。異なる培養方法で調製された2種類のA. oryzae菌糸固定化パーライト粒の間に、そのような違いが生じた原因を調べるために、それぞれのパーライト粒の乾燥A. oryzae菌糸に含まれるβ-フルクトフラノシダーゼついて調べた。前述のように、我々は、A. oryzae NBRC100959の乾燥菌糸にはF1とF2の2種類のβ-フルクトフラノシダーゼが存在しており(図3)、F1の酵素がスクロースとGlcNAcから糖転移反応によりN-アセチルスクロサミンを生産することが明らかにした(図4)。固相培養によって育てられた菌糸はF2を主なβ-フルクトフラノシダーゼとして有し(図11A)、液体培養で育てられた菌糸ではF1の含有量がF2より多かった(図11B)。この結果から、カラムリアクターを用いたN-アセチルスクロサミンの生産に、液体培養法で作成した乾燥A.oryzae菌糸固定化パーライト粒を以降の実験に用いることにした。
アスペルギルス属の他の株(NBRC100537、NBRC4079、NBRC4290、NBRC5238、NBRC5240、NBRC8871、NBRC30102、NBRC30103)を用い、実施例3の方法2の液体培養と同様の方法によりN-アセチルスクロサミンを調整した。ビーズ中の各アスペルギルス属株の乾燥菌糸の含有量は以下の通りだった; NBRC100537; 21.9%、NBRC4079; 16.7%、NBRC4290; 19.4%、NBRC5238; 16.7%、NBRC5239; 21.9%、NBRC5240; 23.7%、NBRC8871; 30.6%、NBRC30102; 23.1%、NBRC30103; 19.4%。16時間の反応後のスクロースからのN-アセチルスクロサミンの単離収率(モル収率)を、実施例3の方法2の場合を100%とした相対的割合として図12に示す。この結果、いずれの株もNBRC100959株と同等あるいはそれ以上にN-アセチルスクロサミンを生産できることが分かった。
カラムリアクターを用いたN-アセチルスクロサミンの連続生産
A.oryzae NBRC4290菌糸固定化パーライト粒を詰めたカラム(直径2 cm×高さ20 cm)に10%(重量/容量)のスクロースと19,4%(重量/容量)を含む20 mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 5.5)を約100 mL/日の流速で流し、カラムリアクターによるN-アセチルスクロサミンの連続生産を行なった。図14Aにカラムリアクター装置の図を示す。反応液中のN-アセチルスクロサミンはHPLCにて定量した。その結果、上記の小カラムでもN-アセチルスクロサミンの生産量は約2.5 〜4.0 g/日となり、少なくとも30日以上の安定した連続生産が可能であった(図14B)。このことは、本システムを用いることによりN-アセチルスクロサミンの大量生産が可能であることを示す。
バッチ方式によるコウジ菌菌糸固定化パーライト粒を用いたフラクトオリゴ糖の生産(NBRC100959株)
フラクトオリゴ糖の生産性を、30%(重量/重量)のスクロースを含む緩衝液に、液体培養法によって調製した乾燥A. oryzae NBRC100595菌糸固定化パーライト粒を加えたバッチ方式で調べた。TLCの結果から、1-ケストースおよびニストースの生産が確認された(図15A)。また、HLC分析の結果(図15B)から、1-ケストースは主要な糖転移反応生成物であることが分かった。これらの事実から、液体培養で作られたA. oryzae NBRC100959菌糸固定化パーライト粒が、高濃度スクロース溶液中で1-ケストースを主とするフラクトオリゴ糖を生産できることを確認した。
本発明は、簡便、効率的かつ低コストのオリゴ糖の製造方法に利用できる。

Claims (6)

  1. 下記ステップ1から3を少なくとも含むオリゴ糖の製造方法;
    ステップ1:β−フルクトフラノシダーゼを保持するコウジ菌菌糸固定化担体に、第1の糖基質及び第2の糖基質を接触させるステップ、
    ステップ2:前記接触後のコウジ菌菌糸固定化担体において、菌糸に保持されたβ−フルクトフラノシダーゼによる糖転移反応を行い、第1の糖基質及び第2の糖基質からオリゴ糖を生成するステップ、
    ステップ3:オリゴ糖を精製するステップ。
  2. 第1の糖基質、第2の糖基質及びオリゴ糖が、下記(A)から(D)のいずれかの組み合わせである、請求項1に記載のオリゴ糖の製造方法;
    (A)第1の糖基質:スクロース、第2の糖基質:N−アセチル-D-グルコサミン、オリゴ糖:N−アセチルスクロサミン、
    (B)第1の糖基質:スクロース、第2の糖基質:N−アセチル-D-ガラクトサミン、オリゴ糖:β-D-フルクトフラノシル-(2 →1) -α-N-アセチル-D-ガラクトサミニド、
    (C)第1の糖基質:スクロース、第2の糖基質:スクロース、フルクトース、オリゴ糖:フラクトオリゴ糖、フルクトースオリゴ糖
    (D)第1の糖基質:スクロース、第2の糖基質:ラクトース、オリゴ糖:ラクトスクロース。
  3. コウジ菌菌糸固定化担体が、下記ステップにより製造されるものである、請求項1又は2に記載の製造方法;
    (a)担体を含む培地中でコウジ菌を培養するステップ、
    (b)前記培養後の培地からコウジ菌菌糸固定化担体を分取するステップ、
    (c)コウジ菌菌糸固定化担体を乾燥するステップ。
  4. 担体が珪藻土又はパーライト粒から選択される、請求項3に記載の製造方法。
  5. 下記ステップにより製造されるコウジ菌菌糸固定化担体;
    (a)担体を含む培地中でコウジ菌を培養するステップ、
    (b)前記培養後の培地からコウジ菌菌糸固定化担体を分取するステップ、
    (c)コウジ菌菌糸固定化担体を乾燥するステップ。
  6. 担体が珪藻土又はパーライト粒から選択される、請求項5に記載のコウジ菌菌糸固定化担体。
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