JP2013237781A - インクジェット記録用インク組成物、インクジェット記録方法、インクジェット記録装置 - Google Patents

インクジェット記録用インク組成物、インクジェット記録方法、インクジェット記録装置 Download PDF

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憲司 北田
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Abstract

【課題】耐擦性及び密着性に優れ、さらには硬化性にも優れたインクジェット記録用インク組成物を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表され、重量平均分子量が1,000〜10,000であるウレタン(メタ)アクリレート及び該ウレタン(メタ)アクリレートを含む構造単位を有する架橋ウレタン(メタ)アクリレートのうち少なくともいずれかと、前記ウレタン(メタ)アクリレート及び前記架橋ウレタン(メタ)アクリレート以外の紫外線硬化型樹脂と、光ラジカル重合開始剤と、水と、を含む、インクジェット記録用インク組成物である。
【選択図】なし

Description

本発明は、インクジェット記録用インク組成物、当該インク組成物を用いるインクジェット記録方法、及び当該記録方法を利用するインクジェット記録装置に関する。
従来、紙などの被記録媒体に、画像データ信号に基づき画像を形成する記録方法として、種々の方式が利用されてきた。このうち、インクジェット方式は、安価な装置で、必要とされる画像部のみにインクを吐出し被記録媒体上に直接画像形成を行うため、インクを効率良く使用でき、ランニングコストが安い。さらに、インクジェット方式は騒音が小さいため、記録方法として優れている。
近年、優れた耐水性、耐溶剤性、及び耐擦過性などを有する画像を被記録媒体の表面に形成するため、紫外線を照射すると硬化する光硬化型のインク組成物を用いて、インクジェット方式による記録が行われている。
例えば、特許文献1は、C.I.ピグメントブルー15:3、高分子分散剤(スチレン/2−エチルヘキシルアクリレート/n−ブチルアクリレート/スチレンスルホン酸=64/16/15/5)、ジエチレングリコール、及びイオン交換水を混合して調製した顔料分散液と、単官能モノマー(2−エチルヘキシルカルビトールアクリレート):2官能モノマー(ネオペンチルグリコールジアクリレート):3官能以上のモノマー(ペンタエリスルトールテトラアクリレート)=50:35:15(質量比)の組成を有する光重合性モノマーA及びダロキュアー1173を酢酸エチルに溶解させて超音波分散することにより調製した光重合化合物分散液と、エチレングリコールと、粘度調整剤(グリセリン)と、表面張力調整剤(ドデシル硫酸ナトリウム)と、pH調整剤(アンモニア)と、水と、を混合して調製したシアンインクを開示している(特許文献1の段落0120〜0122)。
例えば、特許文献2は、特許文献1と同様に、所定の顔料分散液と、所定の光重合化合物分散液と、エチレングリコールと、粘度調整剤(グリセリン)と、表面張力調整剤(ドデシル硫酸ナトリウム)と、pH調整剤(アンモニア)と、水と、を混合して調製した、表面張力35mN/m以下のシアンインクを開示している(特許文献2の段落0116〜0118)。
例えば、特許文献3は、C.I.ピグメントイエロー128、高分子分散剤(スチレン/2−エチルヘキシルアクリレート/n−ブチルアクリレート/スチレンスルホン酸=64/16/15/5)、ジエチレングリコール、及びイオン交換水を混合して調製した顔料分散液と、ポリエステルジアクリレート(2官能、酸価10以下)及びダロキュアー1173を酢酸エチルに溶解させて超音波分散することにより調製した光重合化合物分散液と、エチレングリコールと、粘度調整剤(グリセリン)と、表面張力調整剤(ドデシル硫酸ナトリウム)と、pH調整剤(アンモニア)と、水と、を混合して調製したイエローインクを開示している。なお、当該イエローインク中の光重合性モノマーがエマルジョン状態で存在しており、イエローインクの50℃における粘度が13mPa・s、表面張力が31mN/mであることも開示している(特許文献3の段落0110〜0112)。
特許第4411852号明細書 特開2004−285161号公報 特開2004−285216号公報
しかしながら、特許文献1〜3が開示する各インクを用いてインクジェット記録を行うと、得られる各記録物は耐擦性及び密着性のうち少なくともいずれかに劣るという問題が生じる。
そこで、本発明は、耐擦性及び密着性に優れたインクジェット記録用インク組成物を提供することを目的の一つとする。
また、本発明は、上記インクジェット記録用インク組成物に用いるインクジェット記録方法及び当該記録方法を利用するインクジェット記録装置を提供することも目的の一つとする。
本願発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討したところ、特許文献1〜3が開示する各インクは、樹脂エマルションが光重合開始剤(ダロキュアー1173)を内包していることが確認されたが、当該樹脂エマルションの膜が非常に柔らかいため、インクの耐擦性が特に劣ることを知見した。そこで、インク中の樹脂に起因した密着性を上記各インクと同等以上にしつつ、インクの耐擦性を優れたものとするインク組成を検討した結果、樹脂エマルションを形成可能な所定の構造及び分子量を有するウレタン(メタ)アクリレート、並びに当該ウレタン(メタ)アクリレート以外の紫外線硬化型樹脂などを混合することにより、密着性に優れるとともに、十分な膜硬度が得られ耐擦性にも優れたインク組成物が得られることを知見した。
以上の知見に基づき、本願発明者らはさらに検討を重ねた。その結果、重量平均分子量が1,000〜10,000であって所定の構造を有するウレタン(メタ)アクリレート、及び当該ウレタン(メタ)アクリレートを含む構造単位を有する架橋ウレタン(メタ)アクリレートのうち少なくともいずれかと、当該ウレタン(メタ)アクリレート及び当該架橋ウレタン(メタ)アクリレート以外の紫外線硬化型樹脂と、光ラジカル重合開始剤と、水と、を含むインクジェット記録用インク組成物により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は下記のとおりである。
[1]
下記一般式(1)で表され、重量平均分子量が1,000〜10,000であるウレタン(メタ)アクリレート及び該ウレタン(メタ)アクリレートを含む構造単位を有する架橋ウレタン(メタ)アクリレートのうち少なくともいずれかと、前記ウレタン(メタ)アクリレート及び前記架橋ウレタン(メタ)アクリレート以外の紫外線硬化型樹脂と、光ラジカル重合開始剤と、水と、を含む、インクジェット記録用インク組成物。
[化1]
1−O−(CONH−B1−NH−COO−C1−O)n−CONH−B1−NH−COO−D1 …(1)
(式(1)中、nは1〜30の自然数を表し、A1はヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートの残基を表し、B1はジイソシアネートの残基を表し、C1は炭素数6〜20である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオールの残基を表し、D1はポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルの残基を表す。)
[2]
前記紫外線硬化型樹脂は、最低造膜温度が20℃以下であり、かつ、重量平均分子量が2,500以上である、[1]に記載のインクジェット記録用インク組成物。
[3]
前記紫外線硬化型樹脂を分散状態で含む、[1]又は[2]に記載のインクジェット記録用インク組成物。
[4]
前記紫外線硬化型樹脂が紫外線硬化型ウレタン樹脂である、[1]又は[2]に記載のインクジェット記録用インク組成物。
[5]
発光ダイオードから紫外線が照射されることにより硬化可能な、[1]〜[4]のいずれかに記載のインクジェット記録用インク組成物。
[6]
前記光ラジカル重合開始剤がアシルホスフィンオキサイド化合物を含む、[1]〜[5]のいずれかに記載のインクジェット記録用インク組成物。
[7]
[1]〜[6]のいずれかに記載のインクジェット記録用インク組成物を被記録媒体の被記録面に付着させるインク付着工程と、
該付着させたインクジェット記録用インク組成物に紫外線を照射して該インク組成物を硬化させる硬化工程と、を含む、インクジェット記録方法。
[8]
[7]に記載のインクジェット記録方法により記録を行う、インクジェット記録装置。
本発明における光硬化型水性エマルションを巨視的に示す模式図である。 本発明における光硬化型水性エマルションを微視的に示す模式図である。
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本明細書において、「硬化」とは、重合性化合物を含むインクに光を照射すると、重合性化合物が重合してインクが固化することをいう。「硬化性」とは、光を感応して硬化する性質をいい、光重合性とも称される。「耐擦性」とは、インクの硬化物を擦った時に、硬化物が剥離しにくく傷がつきにくい性質をいう。「密着性」とは、インクの塗膜が素地から剥離しにくい性質をいう。「吐出安定性」とは、ヘッドのノズルの目詰まりがなく常に安定したインクの液滴をノズルから吐出させる性質をいう。「保存安定性」とは、インクを保存したときに、保存前後における粘度が変化しにくい性質をいう。
本明細書において、「ベタ画像」とは、記録解像度で規定される最小記録単位領域である画素の全ての画素に対してドットを記録し、被記録媒体の記録領域がインクで覆われ被記録面が見えていない画像を意味し、「ベタ印刷」とは当該画像の印刷を意味する。「記録物」とは、被記録媒体上にインクが記録されて硬化物が形成されたものをいう。なお、本明細書における硬化物は、硬化膜や塗膜を含む、硬化された物質(画像)を意味する。
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びそれに対応するメタクリレートのうち少なくともいずれかを意味し、「(メタ)アクリル」はアクリル及びそれに対応するメタクリルのうち少なくともいずれかを意味し、「(メタ)アクリロイル」はアクリル及びそれに対応するメタクリルのうち少なくともいずれかを意味する。
[インクジェット記録用インク組成物]
本発明の一実施形態は、インクジェット記録用インク組成物(以下、「インク組成物」という。)に係る。当該インク組成物は、インクジェット記録に用いられるものであるとともに、紫外線が照射されると硬化(光重合)する性質を有する光硬化型(紫外線硬化型)のインク組成物である。
上記のインク組成物は、下記一般式(1)で表され且つ重量平均分子量が1,000〜10,000であるウレタン(メタ)アクリレート及び当該ウレタン(メタ)アクリレートを含む構造単位を有する架橋ウレタン(メタ)アクリレートのうち少なくともいずれかと、当該ウレタン(メタ)アクリレート及び当該架橋ウレタン(メタ)アクリレート以外の紫外線硬化型樹脂と、光ラジカル重合開始剤と、水と、を含むものである。
このように、当該インク組成物の液性は、いわゆる無溶媒系ではなく、いわゆる溶媒系、さらに言えば水性又は溶剤系に属する。
以下、本実施形態のインク組成物に含まれるか、又は含まれ得る添加剤(成分)を説明する。
〔1.重合性化合物〕
上記インク組成物は重合性化合物を含む。当該重合性化合物は、後述する光ラジカル重合開始剤の作用により、光照射時に重合されて、印刷されたインクを硬化させるものである。当該重合性化合物は、少なくとも所定のウレタン(メタ)アクリレートを含む。本明細書における「所定のウレタン(メタ)アクリレート」は、一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレート及び当該ウレタン(メタ)アクリレートを含む構造単位を有する架橋ウレタン(メタ)アクリレートのうち少なくともいずれかである。当該インク組成物は、これらのウレタン(メタ)アクリレートを含むことにより、耐擦性及び密着性が優れたものとなる。
<1−1.一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレート>
本実施形態のインク組成物は下記一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレートを含み得る。これにより、自己乳化能及び乳化性が優れたものとなる。
[化2]
1−O−(CONH−B1−NH−COO−C1−O)n−CONH−B1−NH−COO−D1 …(1)
上記式(1)中、nは1〜30の自然数を表し、A1はヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートの残基を表し、B1のジイソシアネートの残基を表し、C1は炭素数6〜20である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオールの残基を表し、D1はポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルの残基を表す。
上記の残基とは、上記一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレートの材料の構造において、ウレタン結合を形成する官能基を除いた部分のことであり、具体的には、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートではヒドロキシル基を除いた部分(A1で表される。)、ジイソシアネートではイソシアネート基を除いた部分(B1)、ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルではヒドロキシル基を除いた部分(D1)である。
上記一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、1,000〜10,000であり、好ましくは2,000〜8,000である。重量平均分子量が上記範囲内である場合、ミセルを形成しやすく自己乳化性に優れたものとなり、さらに、疎水性物質をミセル内に内包しやすくなるという有利な効果が得られる。これは、上記一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレートとしたことで、親水性と疎水性との良好なバランスが得られたためであると考えられる。
上記一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による分子量分布を測定することによって算出することができる。本明細書における重量平均分子量とは、標準ポリスチレン分子量換算による重量平均分子量のことであり、GPC(HLC−8220〔商品名〕、東ソー社(TOSOH CORPORATION)製)に、カラム:TSK−gel SuperHZM−M(排除限界分子量:4×106、分子量分画範囲:266〜4×106、理論段数:16,000段/本、充填剤材質:スチレン系共重合体、充填剤粒径:3μm)を3本直列として用いることにより測定される。
上記一般式(1)中、nは1〜30の自然数を表す。なお、nの具体的な数値は、上記の重量平均分子量を調整することにより決まる。
(1−1−1.ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート)
上記のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートは、上記一般式(1)におけるA1の構造を与える化合物である。ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートは、上記一般式(1)への重合性基の導入のために用いられる。具体的にいえば、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイル基を1個以上有し、かつ、ヒドロキシル基を1個有する化合物であって、このヒドロキシル基がジイソシアネートのうちの一個のイソシアネート基とウレタン化反応することによって(メタ)アクリロイル基がウレタン(メタ)アクリレートの主鎖の片末端に導入される。少なくとも1個の(メタ)アクリロイル基の導入によって光重合(光硬化)が可能となり、さらに、2個以上の(メタ)アクリロイル基の導入によって光重合速度が高まるとともに、硬化物の硬度が高まるという有利な効果が得られる。
単官能であるモノヒドロキシモノ(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、及びポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。
2官能であるモノヒドロキシジ(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えば、グリセロールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
3官能以上であるモノヒドロキシポリ(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えば、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、及びジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートが挙げられる。
これらの中でも、特に低粘度を有する乳化物を得られるため、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートが好ましく、ポリプロピレングリコールモノアクリレートがより好ましい。一方、特に硬化性に優れた乳化物を得られるため、ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートとして、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート及びジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートのうち少なくともいずれかが好ましい。
上記のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(1−1−2.ジイソシアネート)
上記のジイソシアネートは、上記一般式(1)におけるB1の構造を与える化合物である。当該ジイソシアネートは、一分子内に反応性のイソシアネート基を2個有する有機ジイソシアネートを指す。
分子中にイソシアネート基を3個以上有する有機ポリイソシアネートを用いて合成されたウレタン(メタ)アクリレートは、高分子量となりやすく、粘度が高くなる傾向にある。これらのウレタン(メタ)アクリレートで3個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネートを主骨格にして少なくとも1個の親水性基を有する分子鎖と少なくとも2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する分子鎖が分岐した構造の分子中に親水性部を持ったものを水に乳化させた乳化物(エマルション)も、粘度が高くなる傾向がある。
これに対して、一分子中にイソシアネート基を2個有するジイソシアネートを用いて合成されたウレタン(メタ)アクリレートは、ジイソシアネートに由来する構造とジオールに由来する構造が直線上に配列する直鎖構造となり、上記一般式(1)に表したように片末端にポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテル由来の親水性部があり、もう一方の末端に1個以上の(メタ)アクリロイル基と1個のヒドロキシル基を有する(メタ)アクリレート由来の構造に分子内に2個のヒドロキシル基を有する非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオール由来の構造がジイソシアネートを介してウレタン結合で結合された疎水部が配置した構造であることから、水への乳化性が特に優れたものとなり、乳化物(エマルション)の粘度を従来のウレタン(メタ)アクリレートの乳化物に比べ大幅に下げることができる。
ジイソシアネートとしては、特に限定されないが、例えば、イソホロンジイソシアネートなどの脂環式炭化水素骨格を有するジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族炭化水素骨格を有するジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、及びジフェニルメタンジイソシアネートなどの芳香族炭化水素骨格を有するジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート及び水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートなどの水素添加芳香族炭化水素骨格を有するジイソシアネートが挙げられる。
これらの中でも、ウレタン(メタ)アクリレートの硬化物が日光(紫外線)によって黄変しにくくなるという有利な効果が得られるため、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、及び水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートからなる群より選択される一種以上が好ましい。
上記のジイソシアネートは、一分子内及び分子間において、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(1−1−3.炭素数6〜20である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオール)
上記の炭素数6〜20である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオールの残基は、上記一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレートの材料の構造において、ウレタン結合を形成する官能基を除いた部分のことであり、具体的には炭素数6〜20である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオールではヒドロキシル基を除いた部分(C1)である。
当該ジオールは、上記一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレートの疎水部の疎水性の度合いを調整するために導入される。上記ジオールは良好な疎水性を得られるものが選択される。具体例としては、一分子内に2個のヒドロキシル基を有する脂肪族、脂環族、及び芳香族のジオールからなる群より選ばれる1種以上のジオールが好ましく用いられ、中でも良好な疎水性を示すジオールがより好ましい。具体的に言えば、当該非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオールの炭素数が6〜20であることにより、この疎水性が特に優れたものとなる。
また、上記ジオールは、使用目的や使用用途に応じて、当該ウレタン(メタ)アクリレートの剛直性又は柔軟性を制御するのに適するもので、かつ、良好な疎水性を示すものを選択することもできる。
上記の脂肪族ジオールとしては、分子中に芳香族構造及び脂環族構造を有しないジオールであれば、特に限定されず公知のものを使用できる。具体例として、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,15−ペンタデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,19−ノナデカンジオール、1,20−エイコサンジオール、ポリプロピレングリコール(例えば、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール)、脂肪族ポリカーボネートポリオール、脂肪族ポリエステルポリオール、脂肪族ポリカプロラクトンジオールなどが挙げられる。
上記の芳香族ジオールとしては、分子中に芳香族構造を有するものであれば、特に限定されず公知のものを使用できる。具体例として、ビフェニル−4,4'−ジオール、1,4−ベンゼンジオール、ビスフェノールA、エチレンオキサイド変性ビスフェノールA、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールA、芳香族ポリカーボネートポリオール、芳香族ポリエステルポリオールなどが挙げられる。
上記の脂環族ジオールとしては、分子中に脂環族構造を有するものであれば、特に限定されず公知のものを使用できる。具体例として、水素添加ビスフェノールA、エチレンオキサイド変性水素添加ビスフェノールA、プロピレンオキサイド変性水素添加ビスフェノールA、1,4−シクロヘキサンジオール、トリシクロデカンジメタノール、脂環族ポリカーボネートポリオール、脂環族ポリエステルポリオールなどが挙げられる。
これらの中でも、水への乳化が良好になり、かつ、ウレタン(メタ)アクリレートの硬化物が日光(紫外線)によって黄変しにくくなるため、脂肪族ジオール及び脂環族ジオールが好ましい。脂肪族ジオールの中では、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,15−ペンタデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,19−ノナデカンジオール、1,20−エイコサンジオール、ポリプロピレングリコール、脂肪族ポリカーボネートポリオール、脂肪族ポリエステルポリオール、及び脂肪族ポリカプロラクトンジオールからなる群より選ばれる1種以上がより好ましい。また、脂環族ジオールの中では、水素添加ビスフェノールA、エチレンオキサイド変性水素添加ビスフェノールA、プロピレンオキサイド変性水素添加ビスフェノールA、1,4−シクロヘキサンジオール、及びトリシクロデカンジメタノールからなる群より選ばれる1種以上がより好ましい。
上記のジオールは、一分子内及び分子間において、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(1−1−4.ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテル)
上記のポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、上記一般式(1)におけるD1の構造を与える化合物である。ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、ポリオキシアルキレングリコールの1つのヒドロキシル基がアルキル基で封鎖された化合物であって、下記一般式(2)で表される。
[化3]
HO−(CH2CH2O)m−R …(2)
上記式(2)中、Rはアルキル基であり、mは9〜90の自然数を表す。
このヒドロキシル基がジイソシアネートのうちの一個のイソシアネート基とウレタン化反応によってウレタン(メタ)アクリレートの主鎖の片末端に導入される。これによって、ウレタン(メタ)アクリレートは直鎖状の主鎖の片末端に親水性部を持ち、もう一方の末端に1個以上の重合性基である(メタ)アクリロイル基と疎水性基とから構成される疎水部が配置する両親媒性物質の構造となるため、水への乳化性が特に優れたものとなる。
また、ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、親水性を自由に調整できるという有利な効果が得られるため、分子内にポリオキシエチレン構造を含むことが好ましい。
ポリオキシエチレン構造はオキシエチレン基の繰り返し構造である。オキシエチレン基の平均の繰り返し数、すなわち上記一般式(2)におけるmは、ウレタン(メタ)アクリレートの水への乳化が良好となるように親疎水のバランスを調整して決定され、9〜90の自然数が好ましく、9〜60の自然数がより好ましく、9〜30の自然数がさらに好ましい。
ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレングリコールモノメトキシエーテル、ポリエチレングリコールモノエトキシエーテル等のポリエチレングリコールモノアルキルエーテルが挙げられる。
また、ポリオキシエチレン構造に加えて他のポリオキシアルキレン構造も分子内に含むポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルも使用可能である。その際、末端アルキル基側にポリオキシエチレン構造が位置していることが、乳化にとって好ましい。この場合にポリオキシエチレン構造とともに使用できるポリオキシアルキレン構造には、ポリオキシプロピレン構造、ポリオキシテトラメチレン構造が挙げられる。ポリオキシエチレン構造とともに使用するポリオキシアルキレン構造のオキシアルキレン基の繰り返し数は当該ウレタン(メタ)アクリレートの親疎水バランスを考慮して適宜決定される。
ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルの末端アルキル基、すなわち上記一般式(2)のRとしては、炭素数の少ないアルキル基ほど疎水性が一層低下し乳化性に一層優れるため、メチル基、エチル基、又はプロピル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
上記のポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
<1−2.架橋ウレタン(メタ)アクリレート>
本実施形態のインク組成物は、上記一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレートとともに、又はこれに代えて、当該ウレタン(メタ)アクリレートを含む構成単位を有する架橋ウレタン(メタ)アクリレートを含み得る。一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレートを構成単位として有する架橋ウレタン(メタ)アクリレート(以下、単に「架橋ウレタン(メタ)アクリレート」ともいう。)により、インクの硬化性に優れ、かつ、エマルションの保存安定性に優れたものとなる。
(架橋剤)
上記の架橋ウレタン(メタ)アクリレートは、上述の一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレートと2官能以上の架橋剤とを反応させることにより、得ることができる。
架橋剤を用いることにより、ウレタン(メタ)アクリレートを高分子量化することができる。これにより、硬化性に一層優れ、かつ、エマルションの保存安定性に一層優れた架橋ウレタン(メタ)アクリレートを得ることができる。
また、溶剤系や無溶剤系(無溶媒系)でなく、O/Wエマルション中のオイル系(油相)で反応を実施することにより、ゲル化を防止することができる。
上記の2官能以上の架橋剤は、(メタ)アクリロイル基と付加反応するものであるため、疎水性であることが好ましい。換言すれば、上記の2官能以上の架橋剤は、エマルション内の油相において、一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレート中の(メタ)アクリロイル基にマイケル付加することで、当該ウレタン(メタ)アクリレートを架橋化する。
このような(メタ)アクリロイル基と反応する架橋剤として、分子内にチオール基やアミノ基などを有するものが挙げられる。中でも、反応を速やかに進行させることができるため、多官能チオール化合物及び多官能アミン化合物のうち少なくともいずれかが好ましく、多官能チオール化合物がより好ましい。
上記2官能以上の架橋剤の具体例として、特に限定されないが、メルカプト基含有化合物及びアミノ基含有化合物が挙げられる。中でも、水への溶解度が低く、かつ、水分散時に油相内に取り込みやすいため、メルカプト基含有化合物が好ましい。
上記メルカプト基含有化合物としては、特に限定されないが、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)(以下、「PEMP」ともいう。)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、トリス−[(3−メルカプトプロピオニルオキシ)−エチル]−イソシアヌレート、テトラエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、及びトリメチロールプロパントリス(3−メルカプトブチレート)が挙げられる。
上記2官能以上の架橋剤の含有量は、(メタ)アクリロイル基含有樹脂の総質量(100質量%)に対して、3〜10質量%であることが好ましく、5〜8質量%であることがより好ましい。
なお、本明細書における「(メタ)アクリロイル基含有樹脂」とは、上記架橋剤により架橋される(メタ)アクリロイル基を含有する樹脂全てを意味する。したがって、当該(メタ)アクリロイル基含有樹脂には、上記の一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレート、及び後述の分子内に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物が共に含まれる。
また、架橋ウレタン(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、その構成単位である上記一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレートが上述した範囲内の重量平均分子量を有していればよく、さらに制限されることはないが、2,000〜8,000であると好ましい。
以上で説明してきた、架橋ウレタン(メタ)アクリレートを含むウレタン(メタ)アクリレートは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
以上で説明してきた、上記一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレート及び上記架橋ウレタン(メタ)アクリレートの含有量は、インク組成物の総質量(100質量%)に対して、1〜60質量%が好ましく、5〜50質量%がより好ましく、5〜40質量%がさらに好ましく、5〜20質量%がさらにより好ましく、5〜15質量%が特に好ましい。当該含有量が上記範囲内であると、インク組成物として用いる場合に、塗膜を形成でき、かつ、良好な膜強度や密着性等の塗膜性能を得ることができる。また、上記一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレート及び上記架橋ウレタン(メタ)アクリレートのMFTは、特に制限されるものではないが、これらのウレタン(メタ)アクリレートをエマルションとしたときの安定性、及び硬化性が一層優れたものとなるため、60℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、80℃以上がさらに好ましく、90℃以上がさらにより好ましい。
<1−3.ウレタン(メタ)アクリレートの製造方法>
以上で説明してきたウレタン(メタ)アクリレートのうち、一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレートの製造方法を説明する。当該ウレタン(メタ)アクリレートは、前記ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートと、前記ジイソシアネートと、前記炭素数6〜20である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオールと、前記ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルと、を反応させることで得られる。より詳細にいえば、ウレタン(メタ)アクリレートの製造方法は、第1の工程と第2の工程と第3の工程とを含む。
第1の工程では、前記ジイソシアネートと、炭素数6〜20である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオールと、を反応させ下記一般式(1a)で表される、ウレタン結合を有する第1の反応物を得る。
[化4]
OCN−(B1−NHCOO−C1−O)n−CONH−B1−NCO …(1a)
この第1の工程において、上記ジイソシアネートと、上記炭素数6〜20である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオールと、のモル比は、好ましくは5:1〜5:4であり、より好ましくは5:2〜5:3である。
第2の工程では、前記第1の反応物と、前記ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルと、を反応させ下記一般式(1b)で表される第2の反応物を得る。
[化5]
OCN−(B1−NHCOO−C1−O)n−CONH−B1−NH−COO−D1 …(1b)
この第2の工程において、上記第1の反応物と、上記ポリオキシアルキレングリコールと、のモル比は、水への乳化が良好となるため、好ましくは1:0.5〜1:1である。
第3の工程では、前記第2の反応物と、前記ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートと、を反応させる。この第3の工程において、上記第2の反応物と、上記ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートと、のモル比は、好ましくは1:1.5〜1:1であり、より好ましくは1:1.4〜1:1.2である。
<1−4.架橋ウレタン(メタ)アクリレートの製造方法>
架橋ウレタン(メタ)アクリレートの製造方法は、上記の架橋ウレタン(メタ)アクリレートを製造する方法である。当該製造方法は、上記の第1工程〜第3工程を経て得られた一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレートと、上述の2官能以上の架橋剤と、を反応させることにより、当該ウレタン(メタ)アクリレートを架橋するという、第4の工程を含むものである。
また、第4の工程では、上記一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレートに加えて、上述の分子内に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物も上記2官能以上の架橋剤と反応させてもよい。
第4の工程では、定着用ウレタン(メタ)アクリレートをさらに添加してもよい。特に基材がポリ塩化ビニル(以下、単に「PVC」とも言う。)からなる場合、定着用ウレタン(メタ)アクリレートをさらに添加することが好ましい。具体的には、PVC基材を用いた場合、塗膜(後述)にPVC基材への密着性が要求される。そこで、定着用ウレタン(メタ)アクリレートを添加することにより、基材への密着性がより良好なものとなることから、当該定着用ウレタン(メタ)アクリレートの使用は好ましいといえる。
なお、PVC以外、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)からなる基材を用いる場合は、粒子が細分化されるという理由で、硬化性が一層良好になるとともにエマルションの保存安定性に一層優れるため、定着用ウレタン(メタ)アクリレートの含有量(添加量)は低い方がよく、その分だけ分子内に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物の含有量が多い方がよい。
第4の工程では、上記一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレート及び(存在する場合は)上記分子内に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物の含有量と、上記2官能以上の架橋剤の含有量とが、質量換算で、好ましくは100:1〜100:10、より好ましくは100:5〜100:8である。含有量の比が上記範囲の下限以上であると、硬化性及び保存安定性が一層優れたものとなる。また、含有量の比が上記範囲の上限以下であると、不溶物の発生を防止でき、かつ、系内の(メタ)アクリロイル基の消失を防止して硬化性を一層良好に維持することができる。
このように、上記第4の工程は、上記一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレート、多官能チオールモノマー等の2官能以上の架橋剤と、任意成分としての、分子内に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物、定着用ウレタン(メタ)アクリレート、好ましくはチオキサントン系を含む光重合開始剤、及び蛍光増白剤からなる群より選択される一種以上と、を混合して水を滴下し乳化させる(水分散させる)。得られた乳化液を、例えば80℃で6時間加温することにより、マイケル付加反応が促進されて、架橋ウレタン(メタ)アクリレートが得られる。
このとき、(メタ)アクリロイル基を有する化合物と架橋剤とが反応して、(メタ)アクリロイル基を有する化合物は架橋化する。換言すれば、架橋剤は、ウレタン(メタ)アクリレートとだけ反応するのではなく、(メタ)アクリロイル基を有する化合物と反応するものである。したがって、架橋ウレタン(メタ)アクリレートの構造は、一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレート同士が架橋してなる化合物、一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレートと内包物である(メタ)アクリロイル基含有化合物とが架橋してなる化合物、及び内包物である(メタ)アクリロイル基含有化合物同士が架橋してなる化合物といった、種々の架橋物が共存し得る。ここで、当該内包物とは、エマルションを形成してミセル構造を得た場合の、ミセル内部に存在する物を意味する。
なお、上述のように(メタ)アクリロイル基を有する化合物と架橋剤とが反応する際、(メタ)アクリロイル基を有する化合物のうち、全てが架橋化する場合と一部が架橋化し残部は架橋せず残留する場合とがある。また、上記マイケル付加反応をさらに促進するため、触媒を用いてもよい。
<1−5.定着用ウレタン(メタ)アクリレート>
本実施形態のインク組成物は、定着用ウレタン(メタ)アクリレートを含んでもよい。これにより、PVC基材上にエマルションを含む塗膜を形成する場合に、当該塗膜の定着性(密着性)がより優れたものとなる。
なお、当該定着用ウレタン(メタ)アクリレートは、上記で説明してきた所定のウレタン(メタ)アクリレートとは異なるものである。
上記の定着用ウレタン(メタ)アクリレートは、後述するように、ジイソシアネート、芳香族骨格を有したジオール成分、及びヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートから構成される。
また、上記の定着用ウレタン(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、1,000〜10,000であることが好ましく、3,000〜8,000であることがより好ましい。重量平均分子量が上記範囲内である場合、PVC基材に対する塗膜の密着性に優れるとともに、エマルションの安定性も良好なものとなる。なお、定着用ウレタン(メタ)アクリレートが所定の分子量を有しており後述の紫外線硬化型樹脂に該当するものであって、且つインク組成物中に含まれる場合、当該定着用ウレタン(メタ)アクリレートは、後述の紫外線硬化型樹脂の性質を備えているものであり、且つ後述の紫外線硬化型樹脂に含まれるものとする。
(1−5−1.ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート)
ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートは、重合性基の導入のために用いられる。具体的には、本実施形態において使用するヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイル基を1個以上有し、かつ、ヒドロキシル基を1個有する化合物であって、イソシアネート基とウレタン化反応することによって(メタ)アクリロイル基が定着用ウレタン(メタ)アクリレートの主鎖の両末端に導入される。少なくとも1個の(メタ)アクリロイル基の導入によって硬化(光重合)が可能となり、さらに、2個以上の(メタ)アクリロイル基の導入によって硬化速度を増大させることができ、かつ、硬化物の硬度を高めることができる。
モノヒドロキシモノ(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、及びジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートが挙げられる。
上記のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(1−5−2.ジイソシアネート)
ジイソシアネートとしては、特に限定されないが、例えば、イソホロンジイソシアネート等の脂環式炭化水素骨格を有するジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族炭化水素骨格を有するジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、及びジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族炭化水素骨格を有するジイソシアネート、並びに水素添加キシリレンジイソシアネート及び水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の水素添加芳香族炭化水素骨格を有するジイソシアネートが挙げられる。
これらの中でも、定着用ウレタン(メタ)アクリレートの硬化物が日光(紫外線)によって黄変しにくくなるため、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、及び水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートからなる群より選択される一種以上が好ましい。
上記のジイソシアネートは、一分子内及び分子間において、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(1−5−3.芳香族骨格を有したジオール成分)
芳香族骨格を有したジオールとしては、分子中に芳香族構造を有していれば、特に限定されず公知のものを使用できる。具体例として、ビフェニル−4,4'−ジオール、1,4−ベンゼンジオール、ビスフェノールA、エチレンオキサイド変性ビスフェノールA、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールA、芳香族ポリカーボネートポリオール、及び芳香族ポリエステルポリオール等が挙げられる。
これらの中でも、PVC基材への密着性が一層良好となるため、芳香族ポリエステルポリオールが好ましい。芳香族ポリエステルポリオールの中では、イソフタレートがより好ましい。
上記のジオールは、一分子内及び分子間において、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記の定着用ウレタン(メタ)アクリレートの含有量は、PVC基材への密着性及び水分散後の安定性に一層優れるため、光硬化型水性エマルションの総質量(100質量%)に対して、0.5〜4質量%が好ましく、1〜3質量%がより好ましい。
<1−6.上記以外の重合性化合物>
本実施形態のインク組成物は、以上で説明してきた重合性化合物の他にも、重合性化合物を含んでもよい。そのような重合性化合物として、ラジカル重合性基を有する化合物が挙げられる。このラジカル重合性基を有する化合物は、特定の波長(域)の光照射により発生した後述の開始剤ラジカルの攻撃を受けて連鎖的に反応する。同時に、これらと同じ均一場に存在する上記所定のウレタン(メタ)アクリレートのアクリロイル基も同様に連鎖的に反応する。こうして、インク組成物は被記録媒体上で硬化膜を形成する。
上記のラジカル重合性基を有する化合物におけるラジカル重合性基としては、以下に限定されないが、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、ビニルエーテル基、及びメルカプト基が挙げられる。
インク組成物に含有されるラジカル重合性基を有する化合物においては、特に(メタ)アクリロイル基をその構造中に1個以上有するものが好ましく、アクリロイル基をその構造中に有するものがさらに好ましい。ラジカル重合性基を有する化合物は、分子量が数百程度の単量体から、二量体から数量体で分子量が数千程度までのオリゴマー、分子量が数千以上のポリマーを含む。
ここで、上記のうち所定の分子量を有するラジカル重合性基を有する化合物は、その性質上、後述する紫外線硬化型樹脂に含まれるものであるため、ここでの説明を省略する。また、本実施形態における重合性化合物は、重合性基を有する分散剤も含むが、ここでの説明を省略する。
(メタ)アクリロイル基を分子内に1個有するラジカル重合性基を有する化合物としては、特に限定されないが、例えば、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ラクトン変性可とう性(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート及びイソボルニル(メタ)アクリレートが挙げられる。
(メタ)アクリロイル基を分子内に2個有するラジカル重合性基を有する化合物としては、特に限定されないが、例えば、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのEO(エチレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO(プロピレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、及びポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
これらの中でも、ラジカル重合性基を有する化合物としては、光重合性に優れるため、分子内に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物がより好ましい。
(メタ)アクリロイル基を分子内に3個以上有するラジカル重合性基を有する化合物としては、特に限定されないが、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、グリセリンエトキシトリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、エピクロルヒドリン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレート、テトラペンタエリスリトールデカ(メタ)アクリレート、ポリペンタエリスリトールポリ(メタ)アクリレート、及びカプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが挙げられる。
また、上記した分子内に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、オリゴ(メタ)アクリレート、アルキド(メタ)アクリレート、及びポリオール(メタ)アクリレート等の分子量が数千程度までのオリゴマーで(メタ)アクリロイル基を3個以上有するもの、分子中に3個以上のアクリロイル基を有する分子量が数千程度までのオリゴマー又は分子量が数万程度までのポリマー、デンドリマータイプの(メタ)アクリレート等が挙げられる。
上記所定のウレタン(メタ)アクリレート以外の重合性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
また、上記所定のウレタン(メタ)アクリレート以外の重合性化合物の含有量は、インク組成物に優れた光重合性(硬化性)を付与するため、インク組成物の総質量(100質量%)に対し、1〜60質量%が好ましく、5〜50質量%がより好ましく、5〜20質量%がさらに好ましく、5〜15質量%がさらにより好ましい。
〔2.紫外線硬化型樹脂〕
本実施形態のインク組成物は、上述したウレタン(メタ)アクリレート及び架橋ウレタン(メタ)アクリレート以外の紫外線硬化型樹脂を含む。当該紫外線硬化型樹脂は、上述の重合性化合物としての性質を有する樹脂である(ただし、本明細書では便宜上、重合性化合物と紫外線硬化型樹脂とを区別する。)。当該「樹脂」は、重量平均分子量が1,000以上のポリマーを意味する。
上記の紫外線硬化型樹脂の最低造膜温度(Minimum Film forming Temperature;MFT)は、耐擦性が優れたものとなるため、50℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましく、30℃以下がさらに好ましく、20℃以下がさらにより好ましく、5℃以下が特に好ましい。MFTは、樹脂が熱により変形する最も低い温度を示すものであるとともに、例えばガラス転移温度(Tg)よりも樹脂の再分散性の優劣を把握しやすい。樹脂の再分散性に優れたインク組成物であると、インクが固着しないため吐出安定性が優れたものとなる。また、インク組成物に含まれる紫外線硬化型樹脂のMFTは、インク組成物が膜化を開始するインク膜化温度に相当する。
なお、本明細書におけるMFTは、ISO 2115:1996(標題:プラスチック−ポリマー分散−白色点温度及びフィルム形成最低温度の測定)により測定することができる。
さらに、上記の紫外線硬化型樹脂の重量平均分子量は、耐擦性が優れたものとなるため、2,500以上が好ましく、2,500〜10,000がさらに好ましい。当該重量平均分子量が2,500以上であると、膜形成時(造膜時)の重量平均分子量が十分大きいことから、塗膜特性(耐擦性)がより良好となるためと推測される。なお、当該推測は本発明の範囲を何ら限定するものではない。また、上記の紫外線硬化型樹脂の最低造膜温度及び重量平均分子量がそれぞれ上記範囲内である場合、耐擦性が一層優れたものとなるため、好ましい。
紫外線硬化型樹脂としては、単官能、2官能、及び3官能以上の多官能といった種々の重合性基を有する樹脂が使用可能である。重合性基を形成する成分の具体例としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、及びマレイン酸などの不飽和カルボン酸並びにそれらの塩又はエステル、ウレタン、アミド及びその無水物、アクリロニトリル、スチレン、種々の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、及び不飽和ウレタン、N−ビニル化合物、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、オキセタン(メタ)アクリレート、及びポリエステル(メタ)アクリレートが挙げられる。なお、紫外線硬化型樹脂を作製するための材料として、上記「1.重合性化合物」に挙げたものを適宜使用することができる。
紫外線硬化型樹脂の具体例としては、以下に限定されないが、光硬化型脂肪族ウレタン樹脂、光硬化型芳香族ウレタン樹脂、光硬化型アクリル樹脂、光硬化型ウレタン(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの中でも、耐擦性が一層優れたものとなるため、紫外線硬化型ウレタン樹脂及び紫外線硬化型アクリル樹脂のうち少なくともいずれかが好ましい。これらの中でも、耐擦性がより一層優れたものとなるため、紫外線硬化型ウレタン樹脂がより好ましい。
紫外線硬化型樹脂は、硬化性や吐出安定性がより良好となるため、分散状態でインク組成物に含まれることが好ましく、中でも、エマルションの形態で(即ち樹脂エマルションとして)インク組成物に含まれることが、硬化性が一層優れたものとなるため、より好ましい。
紫外線硬化型樹脂が分散状態でインク組成物に含まれる場合、当該紫外線硬化型樹脂は分散剤としての機能を有する化合物であってもよいし、分散剤によって又は自己分散によって分散している化合物(ディスパージョン、分散体)であってもよい。つまり、本明細書において、分散状態の紫外線硬化型樹脂は、分散液を構成可能な化合物であればよい。また、紫外線硬化型樹脂が分散状態でインク組成物に含まれ、かつ、上述した所定のウレタン(メタ)アクリレートが分散状態でインク組成物に含まれる場合、これらは、同一の分散粒子中に含まれる(同一の分散粒子としてインク組成物中に含まれる。)ものでもよく、別々の分散粒子中に含まれる(別々の分散粒子としてインク組成物中に含まれる。)ものでもよい。これらのうち、分散安定性がより良好となるため、後者が好ましい。
上記分散状態の紫外線硬化型樹脂としては、上記の具体例で示した成分の分散剤及び分散体のうち少なくともいずれかが挙げられる。
上記分散状態の紫外線硬化型樹脂の市販品としては、Laromer8949(水系の光硬化型脂肪族ウレタン樹脂分散体、MFT=5℃、Mw=2,500、固形分60%)、Laromer8983(水系の光硬化型芳香族ウレタン樹脂分散体、MFT=0℃、Mw=10,000、固形分60%)、Laromer9016(コアシェル構造を有する水系の光硬化型アクリル樹脂分散体、MFT0℃、Mw>100,000、固形分60%)(以上、BASF社製商品名)が挙げられる。
また、上記のうち、紫外線硬化型樹脂がエマルションの形態でインク組成物に含まれる場合、紫外線硬化型樹脂は、乳化能を有する化合物であってもよいし、乳化能を有する化合物とともにエマルションの形態でインク組成物に含まれる化合物であってもよい。つまり、本明細書において、エマルションの形態の紫外線硬化型樹脂(以下、「樹脂エマルション」ともいう。)は、エマルション粒子の内包物である重合性基を有する化合物(重合性化合物)と、エマルションの外周を構成し、重合性基を有する両親媒性ウレタンアクリレートと、のうち少なくともいずれかであればよい。
上記樹脂エマルションとしては、上記の具体例で示した成分のエマルションの形態としたものが挙げられる。
上記樹脂エマルションの市販品としては、EM−90(光硬化型ウレタンアクリレートの自己乳化型エマルション、官能基数6、MFT>50℃、Mw=2,000、固形分40%)、EM−92(光硬化型ウレタンアクリレートの自己乳化型エマルション、官能基数4、MFT>50℃、Mw=1,700、固形分40%)(以上、荒川化学工業社製商品名)が挙げられる。
紫外線硬化型樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
紫外線硬化型樹脂の含有量は、硬化性及び吐出安定性が優れたものとなるため、インク組成物の総質量(100質量%)に対し、1質量%以上60質量%未満が好ましく、5〜50質量%がより好ましく、5〜20質量%がさらに好ましく、5〜15質量%がさらにより好ましい。当該含有量は少ない方が吐出安定性に優れるが、吐出安定性は紫外線硬化型樹脂の種類などにもよる。そのため、含有量の上限は上記の範囲に限られるものではなく、硬化性がより優れたものとなる点で言えば、含有量は多い方が好ましい。また、上述した所定のウレタン(メタ)アクリレートと、紫外線硬化型樹脂との含有量の比は、密着性及び耐擦性が一層優れたものとなる点で、3:1〜1:2がよく、2:1〜2:3がよりよい。
〔3.光硬化型水性エマルション〕
上述の重合性化合物は、好ましくは分散状態で、より好ましくはエマルションの形態で、本実施形態のインク組成物に含まれる。これらのうちエマルションの形態について、以下でより詳しく説明する。なお、以下で説明する光硬化型水性エマルションは、少なくとも、上述した所定のウレタン(メタ)アクリレートを含むエマルションである。
本実施形態のインク組成物中で、重合性化合物として、少なくとも上述した所定のウレタン(メタ)アクリレートと、後述の光ラジカル重合開始剤と、が光硬化型水性エマルションを形成していることが好ましい。この場合、溶媒(特に水や水溶性有機溶剤)存在下での紫外線照射による硬化性に優れ、かつ、臭いを効果的に抑制することができる。上記光硬化型水性エマルションは、上記所定のウレタン(メタ)アクリレートによって溶媒中に乳化分散された、他の重合性化合物及び光ラジカル重合開始剤と、から構成されてもよい。
両親媒性直鎖型ウレタン(メタ)アクリレートのエマルションに少なくとも光ラジカル重合開始剤及び重合性化合物を内包させることにより、硬化性が優れたものとなる。上記ウレタン(メタ)アクリレートは両親媒性物質であることから、その分子構造を直鎖型構造にすることにより、安定で分散性に優れ、かつ、低粘度となるという有利な効果を奏する光硬化型水性エマルションを得ることが可能となる。
光硬化型水性エマルションに起因した上述の効果は、以下の理由によってもたらされたものと考えられる。
図1は、光硬化型水性エマルションを巨視的に説明する示す模式図であり、図2は、光硬化型水性エマルションを微視的に示す説明する模式図である。ウレタン(メタ)アクリレートは図1及び図2に示すように水中で疎水性部をコアに向け親水性部を水相に向けてシェル層を成してミセルを形成し、水中で重合性化合物(好ましくはラジカル重合性(メタ)アクリレート)と光ラジカル重合開始剤とを内包したミセルを形成することができると考えられる。
これは、上記ウレタン(メタ)アクリレートの分子構造に起因するものと考えられる。つまり、ミセル形成時において、ウレタン(メタ)アクリレートの分子構造は、主鎖が分岐している場合、又は主鎖の両末端に疎水部をもつ場合と比較して、立体障害が小さく、屈曲したコンフォメーションをとることもないと考えられる。そのため、親水性部を水相に向けて規則正しく密に配向することが可能となると考えられる。したがって、密に配向したミセルであれば、ウレタン結合間の水素結合が有効に働いてミセルの形成強度(パッキング性)が増大するため、ミセルの安定性及び分散性に寄与すると考えられる。
よって、光硬化型水性エマルションは、重合性化合物(好ましくはラジカル重合性(メタ)アクリレート)と光ラジカル重合開始剤とをミセル中に含む場合にも、安定性に優れ、良好な光重合性が得られると考えられる。
また、光硬化型水性エマルションは、本技術分野に属する当業者であれば、後記の実施例欄で行った方法を適宜改良・変更することにより、適当な方法を選択することができ、乳化重合法、高圧乳化法、転相乳化法等、公知の方法を採用すればよい。また、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて各種公知の乳化剤、分散剤を用いてもよい。
なお、乳化重合法とは、界面活性剤のような両親媒性物質を水相中に添加しておき、そこに油相を加える方法である。高圧乳化法とは、水相、油相及び界面活性剤のような両親媒性物質を予備混合し、ホモジナイザー等の高圧乳化機にて乳化し水性エマルションを得る方法である。転相乳化法とは、界面活性剤のような両親媒性物質を油相中に溶解・分散させ、そこに水相を添加してO/W型エマルションを得るという方法である。乳化の途中で連続相が水から油へと変化(転相)するので、転相乳化と呼ばれる。ここで、上記の界面活性剤としては、以下に限定されないが、例えば、アルキルスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸エステルナトリウム、アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アルキルアミノ脂肪酸ナトリウム、及びアルキルトリメチルアンモニウム塩が挙げられる。
また、本実施形態のインク組成物中で、一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレート及び架橋ウレタン(メタ)アクリレートのうち少なくともいずれか、重合性化合物、並びに光ラジカル重合開始剤が光硬化型水性エマルションを形成している場合、当該エマルションの平均粒径は30〜2,000nmであることが好ましく、50〜1,000nmであることがより好ましい。光硬化型水性エマルションの平均粒径が上記範囲内であると、吐出安定性が一層良好なものとなる。
光硬化型水性エマルションの平均粒径は、一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレート及び架橋ウレタン(メタ)アクリレートの分子サイズを変更することによって調整することが可能である。したがって、一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレート及び架橋ウレタン(メタ)アクリレートの材料を適宜変更すればよい。また、光硬化型水性エマルションの平均粒径は、公知の方法により調整することも可能であり、例えば、光硬化型水性エマルション調製時の攪拌速度や乳化剤などを適宜改良、変更すればよい。
なお、本明細書における平均粒径とは、体積基準とした場合の、累積50%粒子径を意味し、動的光散乱法によって測定される。当該平均粒径は、例えば、マイクロトラックUPA150(Microtrac Inc.社製商品名)を使用して測定することができる。
また、上記の架橋ウレタン(メタ)アクリレートを用いて光硬化型水性エマルションを調製する場合、エマルションの形成及び架橋反応の間の前後関係はいずれであってもよい。中でも、エマルション状態にした後に架橋反応を行うとゲル化を効果的に防止できるため、乳化後のエマルション状態で架橋反応を行うことが好ましい。
なお、架橋剤による架橋反応の相手は、上記一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレートに限らず、上述の分子内に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物など、その他の内包物もあり得る。
このように、ウレタン(メタ)アクリレートを用いた光硬化型水性エマルションを含有するインク組成物は、粘度が低く、硬化性に優れ、水の存在下でも光硬化可能で、かつ、耐加水分解性に優れる。特に、上記のウレタン(メタ)アクリレートが形成するミセル中に重合性化合物と光ラジカル重合開始剤とを含む形態において、優れた硬化性と、所定濃度の水の存在下においても光硬化するという従来の光硬化型水性エマルションにはない性能と、を得ることができる。また、光硬化型水性エマルションのミセルを形成するウレタン(メタ)アクリレートは、その構造から密に配向でき、さらに、その構造の疎水性部分にウレタン結合(ウレタン基)を有することから、配列したウレタン(メタ)アクリレート間に水素結合による強い結合力が働くと考えられる。そのため、ミセルの内包物が漏出し難く、加水分解し難い安定な乳化物が得られたと考えられる。
また、光硬化型水性エマルションが、光重合性(硬化性)に優れる上、所定の濃度の水の存在下においても光で重合(硬化)する理由は明らかとはなっていないが、以下のように推察している。光硬化型水性エマルションは上述したように水中で上記のウレタン(メタ)アクリレートがコアに重合性化合物と光ラジカル重合開始剤とを内包して球状ミセルを形成した状態であり、この状態では光を照射しても重合(硬化)はしない。光硬化型水性エマルションを被記録媒体に塗布して乾燥して所定の濃度にすると、水が残存した状態でも光照射によって重合(硬化)することができ、被記録媒体に対しても良好な密着性が得られる。これは、水の濃度が低下することで、上記の球状ミセルが重合性化合物と光ラジカル重合開始剤を内部に保持した状態でラメラ状の層構造体を形成する。そして、この層構造体に光が照射されることで層構造体内部の光ラジカル重合開始剤が開始剤ラジカルとなり、この開始剤ラジカルが均一場内にあるラジカル重合性基を有する化合物と上記ウレタン(メタ)アクリレートのアクリロイル基とを攻撃して連鎖反応を引き起こしたことによるものと推察する。この推察は、光硬化性水性エマルションの硬化性を説明するために行ったものであって、本実施形態における光硬化性水性エマルションを限定するものではない。
〔4.光ラジカル重合開始剤〕
本実施形態のインク組成物は、光ラジカル重合開始剤を含む。当該光ラジカル重合開始剤は、紫外線が照射されることにより受け取る光(紫外線)のエネルギーによって、活性種であるラジカルを生成し、上記重合性化合物の光重合を開始させるものである。これにより、被記録媒体の表面に存在するインクが硬化して、画像(印字を含む。以下同じ。)を形成することができる。その際、紫外線(UV)を用いることにより、安全性に優れ、且つ光源ランプのコストを抑えることができる。
上記光ラジカル重合開始剤は、紫外線等の活性エネルギー線が照射されることによる光開裂や水素引抜き等によって、ラジカル(光ラジカル重合開始剤ラジカル)が生成し、ウレタン(メタ)アクリレートや架橋ウレタン(メタ)アクリレート及びラジカル重合性基を有する化合物(好ましくはラジカル重合性(メタ)アクリレート)を攻撃することで光ラジカル重合を引き起こす。
上記光ラジカル重合開始剤としては、以下に限定されないが、例えば、芳香族ケトン類、アシルホスフィンオキサイド化合物、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物(チオキサントン化合物、チオフェニル基含有化合物など)、α−アミノアルキルフェノン化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びアルキルアミン化合物が挙げられる。
これらの中でも、インクの硬化性を一層優れたものとすることができるため、光ラジカル重合開始剤は、アシルホスフィンオキサイド化合物及びチオキサントン化合物のうち少なくともいずれかを含むことが好ましく、アシルホスフィンオキサイド化合物を含むことがより好ましく、アシルホスフィンオキサイド化合物からなることがさらに好ましい
上記光ラジカル重合開始剤は、ウレタン(メタ)アクリレートにより水中に乳化分散される際、良好な乳化分散性を示すため、特に疎水性の光ラジカル重合開始剤であることが好ましい。
疎水性の光ラジカル重合開始剤の具体例としては、以下に限定されないが、アセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、ベンゾフェノン、2−クロロベンゾフェノン、p,p'−ジクロロベンゾフェノン、p,p'−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−プロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル、ベンジルメチルケタール、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドキシ−2−メチルプロピオニル)ベンジル]フェニル}2−メチルプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタノン−1、2−ジメチルアミノ−2−(4−メチルベンジル)−1−(4−モルフォリン−4−イル−フェニル)ブタン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]2−モルフォリノプロパン−1−オン、チオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−オン、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、メチルベンゾフィルフォーメート、アゾビスイソブチリロニトリル、ベンゾイルペルオキシド、及びジ−tert−ブチルペルオキシドが挙げられる。
光ラジカル重合開始剤の市販品としては、例えば、IRGACURE 651(2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン)、IRGACURE 184(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)、DAROCUR 1173(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン)、IRGACURE 2959(1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン)、IRGACURE 127(2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル]−2−メチル−プロパン−1−オン}、IRGACURE 907(2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン)、IRGACURE 369(2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1)、IRGACURE 379(2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン)、DAROCUR TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド)、IRGACURE 819(ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド)、IRGACURE 784(ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム)、IRGACURE OXE 01(1.2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)])、IRGACURE OXE 02(エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム))、IRGACURE 754(オキシフェニル酢酸、2−[2−オキソ−2−フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステルとオキシフェニル酢酸、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルエステルの混合物)(以上、BASF社製)、Speedcure TPO、Speedcure DETX(2,4−ジエチルチオキサントン)、Speedcure ITX(2−イソプロピルチオキサントン)(以上、Lambson社製)、KAYACURE DETX−S(2,4−ジエチルチオキサントン)(日本化薬社(Nippon Kayaku Co., Ltd.)製)、Lucirin TPO、LR8893、LR8970(以上、BASF社製)、及びユベクリルP36(UCB社製)などが挙げられる。
上記光ラジカル重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
光ラジカル重合開始剤の含有量は、インクの総質量(100質量%)に対し、0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜8質量%がより好ましい。含有量が当該範囲内であると、紫外線硬化速度を十分に発揮させ、かつ、光ラジカル重合開始剤の溶け残りや光ラジカル重合開始剤に由来する着色を避けることができる。
〔5.溶媒〕
本実施形態のインク組成物は、溶媒として、少なくとも水を含み、さらに有機溶剤を含んでもよい。
<5−1.水>
上記の水としては、特に制限されることなく、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は超純水を用いることができる。水の含有量は特に制限されることなく、必要に応じて適宜決定すればよい。水を含むことで、有機溶剤を少なくすることにより環境に配慮したインクとすることや、上記重合性化合物の分散性を良くする点で好ましい。
<5−2.有機溶剤>
上記有機溶剤の中でも、水溶性有機溶剤が好ましい。また、水と水溶性有機溶剤とを併用することがより好ましい。インク組成物が当該水溶性有機溶剤を含むことにより、ヘッドのノズル近傍での目詰まり防止やインクの被記録媒体への浸透性や滲みを適度に制御したり、インクの乾燥性を付与したりすることができる。
水溶性有機溶剤は、ドット抜けのない安定した吐出安定性や、広範囲なメディア上での適切な濡れ広がりという有利な効果が得られるため、極性溶媒(極性溶剤)及び浸透性溶剤のうち少なくともいずれかを含有することが好ましい。
極性溶媒として、特に限定されないが、2−ピロリドン、N−メチルピロリドン、ε−カプロラクタム、ジメチルスルホキシド、スルホラン、モルホリン、N−エチルモルホリン、及び1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンが挙げられる。極性溶媒を添加することにより、インク組成物中におけるカプセル化顔料粒子の分散性が向上するという効果が得られ、インクの吐出安定性を良好にすることができる。
極性溶媒は、複素環式化合物であることが好ましく、これらの中でも2−ピロリドン、N−メチルピロリドン、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ピラゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリン、2H−ピラン、4H−ピランが好ましく、2−ピロリドンがより好ましい。
また、浸透性溶剤として、特に限定されないが、1,2−アルカンジオール、アセチレングリコール、アルキレングリコール、アルキレングリコールアルキルエーテル、及びグリコールエーテルが挙げられる。これらの中でも1,2−アルカンジオールを用いることにより印刷本紙及びプラスチックフィルム等のインクを吸収し難いか、又は吸収しない被記録媒体に印字したときに、他の浸透性溶剤を用いたときよりも記録物の凝集ムラを低減させることができる。1,2−アルカンジオールの中でも、特に1,2−ヘキサンジオールにおいて、かかる効果は顕著である。
また、水溶性有機溶剤は、2−ピロリドン、グリコールエーテル、1,2−アルカンジオール、アルキレングリコール、アルキレングリコールアルキルエーテルからなる群より選択される1種以上を含有することが好ましい。
1,2−アルカンジオールの具体例としては、特に限定されないが、1,2−オクタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,2−ペンタンジオール、及び4−メチル−1,2−ペンタンジオールが挙げられる。
アルキレングリコールの具体例としては、特に限定されないが、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、及びジプロピレングリコールモノエチルエーテルが挙げられる。
また、常温常圧下で液体であるアルキレングリコールアルキルエーテルとしては、特に限定されないが、例えば、メチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、i−ブチル、ヘキシル、及び2−エチルヘキシルの脂肪族、並びに二重結合を有するアリル及びフェニルの各基をベースとするエチレングリコール系エーテルとプロピレングリコール系エーテルとが挙げられる。これらは、無色で臭いも少なく、分子内にエーテル基とヒドロキシル基とを有しているので、アルコール類及びエーテル類の両方の特性を備えた、常温で液体の成分である。また、片方のヒドロキシル基だけを置換したモノアルキルエーテル型と両方のヒドロキシル基を置換したジアルキルエーテル型があり、これらを複数種組み合わせて用いることができる。
上記アルキレングリコールアルキルエーテルの具体例としては、特に限定されないが、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(TEGmBE)、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、及びジプロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、並びに、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、及びポリエチレングリコールジメチルエーテル等のアルキレングリコールジアルキルエーテルが挙げられる。
また、それらの誘導体として、アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテートも使用可能である。上記アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテートとしては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエーテルアセテート、ジプロピレンモノエチルエーテルアセテートが挙げられる。
有機溶剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。水と併用しない場合には、水溶性有機溶剤以外の有機溶剤を使用してもよい。
有機溶剤は、インクの適正な物性値(粘度等)、印刷品質、及び信頼性を確保するため、インク組成物の総質量(100質量%)に対し、1〜40質量%含まれることが好ましく、2〜30質量%がより好ましい。
〔6.蛍光増白剤〕
本実施形態のインク組成物は、蛍光増白剤を含んでもよい。これにより、硬化性が一層優れたものとなる。
上記の蛍光増白剤は、増感剤に分類される。蛍光増白剤は、紫外〜短波(可視)である300〜450nm付近にピーク波長を有する光を吸収可能であり、且つ400〜500nm付近にピーク波長を有する蛍光を発光可能な、無色ないし弱く着色した化合物である。蛍光増白剤は、蛍光性白化剤(Fluorescent Whitening Agent)としても知られている。蛍光増白剤の物理的原理及び化学性の記述は、Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry,Sixth Edition,Electronic Release,Wiley−VCH 1998に示されている。
上記蛍光増白剤は、活性エネルギー線により励起状態となり、他の物質、例えばラジカル発生剤や酸発生剤などと、例えばエネルギー移動や電子移動といった相互作用をすることにより、ラジカルや酸等の有用基の発生を促すことができる。このような相互作用が生じ得る場合として、例えば、蛍光増白剤分子の三重項励起状態のエネルギー準位とラジカル発生剤や酸発生剤の三重項励起状態のエネルギー準位とが非常に近接しており、かつ、ラジカル発生剤や酸発生剤の三重項励起状態のエネルギー準位の方が僅かに低い場合が挙げられる。実際には、蛍光増白剤が350nm〜450nmの波長帯の照射光を捕集でき、かつ、蛍光増白剤分子の三重項励起状態のエネルギー準位がラジカル発生剤や酸発生剤の三重項状態のエネルギー準位と上記所定の関係を持つ必要がある。そのため、一重項励起状態及び三重項励起状態のエネルギー準位が互いに近接している必要がある。したがって、ラジカル発生剤や酸発生剤との相互作用の観点から蛍光増白剤を用いるとともに、照射波長に対するインク液としてのラジカルや酸の発生効率という観点から蛍光増白剤の吸収波長帯に対して光ラジカル重合開始剤の吸収波長帯が重なることが挙げられる。この場合、本実施形態における蛍光増白剤は光ラジカル重合開始剤の開裂可能な吸収波長帯と少なくとも一部重複する波長帯に吸収領域を有する。
蛍光増白剤として、特に限定されないが、ナフタレンベンゾオキサゾリル誘導体、チオフェンベンゾオキサゾリル誘導体、スチルベンベンゾオキサゾリル誘導体、クマリン誘導体、スチレンビフェニル誘導体、ピラゾロン誘導体、スチルベン誘導体、ベンゼン及びビフェニルのスチリル誘導体、ビス(ベンザゾールー2−イル)誘導体、カルボスチリル、ナフタルイミド、ジベンゾチオフェン−5,5'−ジオキシドの誘導体、ピレン誘導体、及びピリドトリアゾールが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記の蛍光増白剤の市販品としては、例えば、BASF社製のTINOPAL OB及びクラリアントジャパン社製のHOSTALUX KCB(1,4−ビス(2−ベンゾオキサゾリル)ナフタレン)等が挙げられる。
上記の蛍光増白剤は、波長帯360nm〜420nmにおける蛍光増白剤の所定濃度当たりの最大吸光度が前記波長帯における光ラジカル重合開始剤の前記所定濃度と同じ濃度当たりの最大吸光度よりも大きいことを特徴とする。この特徴を満たすことにより、硬化性の極めて優れたインク組成物が得られることを本願発明者らは見出した。
光ラジカル重合開始剤及び蛍光増白剤が上記の特徴を満たすための設計方法としては、用いようとする光ラジカル重合開始剤及び蛍光増白剤それぞれの吸収スペクトル、及びその最大吸光度、即ちピーク波長を解析する。その後、光ラジカル重合開始剤及び蛍光増白剤それぞれの最大吸光度の関係が上記の特徴を満たすかどうかを確認すればよい。
なお、蛍光増白剤及び光ラジカル重合開始剤の吸収スペクトルを測定する際に用いられる光源として、紫外発光ダイオード(LED)を使用する場合、360nm〜420nmの波長帯に発光ピークを有するLEDが使用可能である。LEDの波長は1個のものを使用する場合に限らず、複数の発光ピークを有するように複数のLEDを組み合わせて使用してもよい。例えば、365nm、385nm、395nm、及び405nmのピーク波長を有するLEDのうちの複数を組み合わせても使用してもよい。
上記蛍光増白剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、蛍光増白剤は、光硬化型水性エマルションの総質量(100質量%)に対して、0.01質量%〜0.5質量%含まれることが好ましい。含有量が上記範囲内であると、光硬化性が良好なものとなり、蛍光増白剤自身が及ぼし得る、硬化膜の色相への影響を軽減できる。
〔7.色材〕
本実施形態のインク組成物は、色材を含んでもよい。色材は、顔料及び染料のうち少なくとも一方を用いることができる。
<7−1.顔料>
色材として顔料を用いることにより、インクの耐光性を向上させることができる。顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用することができる。
無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタンを使用することができる。
有機顔料としては、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、染色レーキ(塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料が挙げられる。
更に詳しく言えば、ブラックインクに使用されるカーボンブラックとしては、No.2300、No.900、MCF88、No.33、No.40、No.45、No.52、MA7、MA8、MA100、No.2200B等(以上、三菱化学社(Mitsubishi Chemical Corporation)製)、Raven 5750、Raven 5250、Raven 5000、Raven 3500、Raven 1255、Raven 700等(以上、コロンビアカーボン(Carbon Columbia)社製)、Rega1 400R、Rega1 330R、Rega1 660R、Mogul L、Monarch 700、Monarch 800、Monarch 880、Monarch 900、Monarch 1000、Monarch 1100、Monarch 1300、Monarch 1400等(キャボット社(CABOT JAPAN K.K.)製)、Color Black FW1、Color Black FW2、Color Black FW2V、Color Black FW18、Color Black FW200、Color B1ack S150、Color Black S160、Color Black S170、Printex 35、Printex U、Printex V、Printex 140U、Special Black 6、Special Black 5、Special Black 4A、Special Black 4(以上、デグッサ(Degussa)社製)、Microlith Black 0066 K(旧Microlith Black C−K、BASF社製)が挙げられる。
ホワイトインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントホワイト 6、18、21が挙げられる。
イエローインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントイエロー 1、2、3、4、5、6、7、10、11、12、13、14、16、17、24、34、35、37、53、55、65、73、74、75、81、83、93、94、95、97、98、99、108、109、110、113、114、117、120、124、128、129、133、138、139、147、151、153、154、167、172、180が挙げられる。
マゼンタインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントレッド 1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、14、15、16、17、18、19、21、22、23、30、31、32、37、38、40、41、42、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、57:1、88、112、114、122、123、144、146、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、179、184、185、187、202、209、219、224、245、又はC.I.ピグメントヴァイオレット 19、23、32、33、36、38、43、50が挙げられる。
シアンインクに使用される顔料としては、C.I.ピグメントブルー 1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:34、15:4、16、18、22、25、60、65、66、C.I.バットブルー 4、60が挙げられる。
また、マゼンタ、シアン、及びイエロー以外の顔料としては、例えば、C.I.ピグメント グリーン 7,10、C.I.ピグメントブラウン 3,5,25,26、C.I.ピグメントオレンジ 1,2,5,7,13,14,15,16,24,34,36,38,40,43,63が挙げられる。
上記顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記の顔料を使用する場合、その平均粒子径は300nm以下が好ましく、50〜200nmがより好ましい。平均粒子径が上記の範囲内にあると、インクにおける吐出安定性や分散安定性などの信頼性に一層優れるとともに、優れた画質の画像を形成することができる。ここで、本明細書における平均粒子径は、動的光散乱法により測定される。
<7−2.顔料の分散>
上記顔料は、分散剤により水に分散させて得られる顔料分散液として、あるいは、顔料粒子表面に化学反応を利用して親水性基を導入した自己分散型の表面処理顔料を水に分散させて得られるか、又は、ポリマーで被覆された顔料を水に分散させて得られる顔料分散液として、インクに添加されることが好ましい。
前者、即ち分散剤により水に分散させて得られる顔料分散液を調製するのに用いられる分散剤として、特に限定されないが、例えば、高分子分散剤(にかわ、ゼラチン、カゼイン、アルブミン、などのタンパク質類、アラビアゴム、トラガントゴムなどの天然ゴム類、サポニンなどのグルコシド類、アルギン酸及びプロピレングリコールエステル、アルギン酸トリエタノールアミン、アルギン酸アンモニウムなどのアルギン酸発酵体メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、エチルヒドロキシセルロースなどのセルロース誘導体、ポリビニルアルコール類、ポリピロリドン類、ポリアクリル酸、アクリル酸−アクリルニトリル共重合体、アクリル酸カリウム−アクリルニトリル共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体、アクリル酸−アクリル酸エステル共重合体などのアクリル系樹脂、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−m−メチルスチレン−アクリル酸共重合体、などのスチレン−アクリル樹脂、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン−アクリル酸共重合体、酢酸ビニル−エチレン共重合体、酢酸ビニル−脂肪酸ビニルエチレン共重合体、酢酸ビニル−マレイン酸エステル共重合体、酢酸ビニル−クロトン共重合体、酢酸ビニル−アクリル酸共重合体などの酢酸ビニル系共重合体及びそれらの塩など)や界面活性剤(各種アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤など)を使用することができる。
一方、後者のうち上記の親水性基を導入した自己分散型の表面処理顔料は、顔料の表面にカルボキシル基及びその塩が直接結合するような表面処理により、分散剤なしに水に分散又は溶解が可能とされたものである。具体的には、真空プラズマなどの物理的処理や次亜塩素酸ナトリウムやオゾン等の酸化剤を用いた化学的処理により、官能基または官能基を含んだ分子を顔料の表面にグラフトさせることによって得ることができる。一つの顔料粒子にグラフトされる官能基は単一でも複数種であってもよい。グラフトされる官能基の種類及びその程度は、インク中での分散安定性、色濃度、及びインクジェットヘッド前面での乾燥性等を考慮しながら適宜決定されてよい。
また、後者のうち上記のポリマーで被覆された顔料は、特に限定されないが、例えば、重合性基を有する分散剤を用いて顔料を分散させた後、その分散剤と共重合可能なモノマー(共重合性モノマー)と、光ラジカル重合開始剤と、を用いて水中で乳化重合を行うことにより、得ることができる。このポリマーの中でも、二重結合としてアクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、及びアリル基のうち少なくともいずれかを有するモノマーやオリゴマーが、光ラジカル重合開始剤を使用する公知の重合法に従って重合されたものが、好適に使用可能である。上記の乳化重合は、一般的な方法を用いることができ、重合は乳化剤の存在下で水溶性の光ラジカル重合開始剤の熱分解で発生するフリーラジカルにより進行する。
ここで、上記重合性基を有する分散剤は、本実施形態における紫外線硬化型樹脂に含まれるものであり、既に詳細に説明したため、ここでの説明は省略する。
上記分散剤は、それぞれ1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
<7−3.染料>
色材として染料を用いることができる。染料としては、特に限定されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料、及び塩基性染料が使用可能である。前記染料として、例えば、C.I.アシッドイエロー 17,23,42,44,79,142、C.I.アシッドレッド 52,80,82,249,254,289、C.I.アシッドブルー 9,45,249、C.I.アシッドブラック 1,2,24,94、C.I.フードブラック 1,2、C.I.ダイレクトイエロー 1,12,24,33,50,55,58,86,132,142,144,173、C.I.ダイレクトレッド 1,4,9,80,81,225,227、C.I.ダイレクトブルー 1,2,15,71,86,87,98,165,199,202、C.I.ダイレクドブラック 19,38,51,71,154,168,171,195、C.I.リアクティブレッド 14,32,55,79,249、C.I.リアクティブブラック 3,4,35が挙げられる。
上記染料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
色材の含有量は、優れた隠蔽性及び色再現性が得られるため、インクの総質量(100質量%)に対して、1〜20質量%が好ましい。
〔8.界面活性剤〕
本実施形態のインク組成物は、界面活性剤を含んでもよい。この界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、シリコーン系界面活性剤として、ポリエステル変性シリコーンやポリエーテル変性シリコーンを用いることができ、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン又はポリエステル変性ポリジメチルシロキサンを用いることが特に好ましい。具体例としては、BYK−331、BYK−333、BYK−375、BYK−347、BYK−348、BYK−349、BYK−UV3500、3510、3530、3570(以上、ビックケミー・ジャパン社(BYK Japan KK)製)を挙げることができる。
界面活性剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
界面活性剤は、メディア上でのドット広がりという有利な効果が得られるため、インク組成物の総質量(100質量%)に対し、0.01〜3質量%含まれることが好ましく、0.02〜2質量%含まれることが好ましい。
〔9.その他の添加剤〕
本実施形態のインク組成物は、上記に挙げた添加剤以外の添加剤(成分)を含んでもよい。このような成分としては、特に制限されないが、例えば従来公知の、重合促進剤、重合禁止剤、浸透促進剤、及び湿潤剤(保湿剤)、並びにその他の添加剤があり得る。上記のその他の添加剤として、例えば従来公知の、pH調整剤、定着剤、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、キレート剤、及び増粘剤が挙げられる。
[インク組成物の調製方法]
本実施形態のインク組成物は、例えば、顔料と、界面活性剤と、上記所定のウレタン(メタ)アクリレート及び当該ウレタン(メタ)アクリレートの架橋体(架橋ウレタン(メタ)アクリレート)のうち少なくともいずれかと、重合性化合物と、光ラジカル重合開始剤と、紫外線硬化型樹脂と、水と、を混合することによって得ることができる。また、上記のうちウレタン(メタ)アクリレート、架橋ウレタン(メタ)アクリレート、重合性化合物、及び光ラジカル重合開始剤は、上述のとおり、光硬化型水性エマルションを形成していることが好ましい。
本実施形態のインク組成物において、ウレタン(メタ)アクリレート及び架橋ウレタン(メタ)アクリレートのうち少なくともいずれかと、重合性化合物と、光ラジカル重合開始剤と、を含有する光硬化型水性エマルションを用いる場合、当該光硬化型水性エマルションの不揮発分(固形分)の含有量と顔料の固形分の含有量との質量比は、1:1〜100:1とすることができる。質量比を上記範囲内とすることにより、インクに含有される顔料濃度によらず、膜強度(耐擦性)及び密着性に優れた塗膜を得ることができ、さらに吐出安定性にも優れたインクを得ることができる。好ましくは、上記質量比を3:1〜70:1の範囲とすることで、上記の効果をより一層向上させることができる。
このように、本実施形態によれば、耐擦性及び密着性に優れ、さらには硬化性にも優れたインクジェット記録用インク組成物を提供することができる。より詳しく言えば、構造、重量平均分子量、及び最低造膜温度を所与のものとしたウレタン(メタ)アクリレート及びその架橋体のうち少なくともいずれかを構成材料とし、かつ、光ラジカル重合開始剤などを内包する光硬化型樹脂エマルションと、紫外線硬化型樹脂と、を共に含有するインクとすることにより、インクの膜硬度が増大して耐擦性が顕著に優れたものとなる。
[インクジェット記録方法]
本発明の一実施形態は、インクジェット記録方法に係る。当該インクジェット記録方法は、上記実施形態のインクジェット記録用インク組成物を用いてインクジェット記録を行うものであり、インク付着工程及び硬化工程を含むものである。このようにして、被記録媒体上で硬化したインク組成物により、硬化膜が形成される。
以下、まず被記録媒体について説明し、続いてこれらの工程を中心として説明する。
〔1.被記録媒体〕
被記録媒体には、インクの浸透が困難な非吸収性被記録媒体から、インクの浸透が容易な吸収性被記録媒体まで、様々な吸収性能を持つものが存在する。これらの中でも、上記インク付着工程において用いられる被記録媒体としてはインク非吸収性又は低吸収性の被記録媒体が好ましい。これにより、インクの裏抜けが抑制され、発色性の高い記録画像が得られる。
上記の「インク非吸収性又は低吸収性の被記録媒体」とは、インクの受容層(受理層)を備えていないか、あるいは、受容層としての機能を十分発揮できない程度の厚みしか有しない受容層を備えた被記録媒体をいう。より定量的にいうと、この「インク非吸収性又は低吸収性の被記録媒体」とは、被記録面が、ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m2以下である被記録媒体のことをいう。
上記のブリストー法は、「JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法2000年版」の規格No.51「紙及び板紙−液体吸収性試験方法−ブリストー法」に記載されている。このブリストー法とは、要するに、ミリ秒単位の短時間における液体の被記録媒体表面への濡れ、及び、これに続く、液体の被記録媒体中への浸透挙動を測定する方法であり、ヘッドボックスから液体を回転ホイール上の試験片に動的に転移させ、吸収時間及び転移量から吸収係数Ka[単位:mL/m2・(msec1/2)]が求められる。
インク非吸収性の被記録媒体として、以下に限定されないが、例えば、インクジェット記録用に表面処理されていない、即ちインク受容層を有していないプラスチックフィルムや紙などの基材上に、プラスチックがコーティングされているもの及びプラスチックフィルムが接着されているものが挙げられる。上記のプラスチックとして、以下に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル(塩ビ、PVC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリエチレン、及びポリプロピレンが挙げられる。
インク低吸収性の被記録媒体として、以下に限定されないが、例えば、塗工紙、並びに微塗工紙、アート紙、コート紙、マット紙、及びキャスト紙などの印刷用紙(記録用紙)が挙げられる。
上記の塗工紙は、表面に塗料を塗布し、美感や平滑さを高めた紙のことをいう。前記塗料は、タルク、パイロフィライト、クレー(カオリン)、酸化チタン、炭酸マグネシウム、及び炭酸カルシウム等の顔料と、デンプン及びポリビニルアルコール等の接着剤と、を混合することにより調製することができる。上記塗料は、紙の製造工程中でコーターを用いて塗布する。コーターには、抄紙機と直結することで抄紙及び塗工を一工程とするオンマシン式と、抄紙を別工程とするオフマシン式とがある。
上記の微塗工紙とは、塗料の塗工量が12g/m2以下である記録用紙のことをいう。上記のアート紙とは、上質紙(上級記録用紙)に40g/m2前後の塗料を塗工した記録用紙のことをいう。上記のコート紙とは、20g/m2〜40g/m2程度の塗料を塗工した記録用紙のことをいう。上記のキャスト紙とは、キャストドラムを用いて、アート紙やコート紙の表面に圧力をかけることで、金属光沢性や平滑性がより優れるように仕上げられた記録用紙のことをいう。
〔2.インク付着工程〕
上記のインク付着工程は、上記インク組成物を被記録媒体の被記録面に付着させることを含む。インクを被記録面に付着させる方法としては、以下に限定されないが、例えば、バーコーター等を用いた塗布、スプレー等による噴霧、インクジェット記録装置に備えられたヘッドから被記録媒体に向けて行われる吐出が挙げられる。
上記のうち、吐出についてさらに説明する。上記インク付着工程において、吐出時のインクの粘度を、好ましくは25mPa・s以下、より好ましくは5〜20mPa・sとする。インクの粘度が、インクの温度を室温として、あるいはインクを加熱しない状態として、上記のものであれば、インクの温度を室温として、あるいはインクを加熱せずに吐出させればよい。一方、インクを所定の温度に加熱することにより、粘度を好ましい値とした上で吐出させてもよい。このようにして、一層良好な吐出安定性が実現される。
吐出方法としては、従来公知の方式を使用でき、中でも圧電素子の振動を利用して液滴を吐出させる方法(電歪素子の機械的変形によりインク滴を形成するヘッドを用いた記録方法)を用いると優れた記録を行うことができる。吐出時のインクの液滴重量は、特に限定されないが、1〜20ngであることが好ましく、インクの記録解像度は、特に限定されないが、720dpi×720dpi〜1440dpi×1440dpiであることが好ましい。液滴重量及び記録解像度が上記範囲内であると、高精細な記録画像が得られる。
さらに、インク組成物を被記録媒体上に塗布(印刷)する際の膜厚は、良好な硬化性が得られるため、1〜25μmが好ましい。そして、インクジェット記録装置のヘッドから吐出されたインクの液滴が被記録媒体の被記録面に着弾(付着)することで、インクの塗膜、即ち画像が形成される。
〔3.硬化工程〕
上記の硬化工程は、上記のインク付着工程により被記録面に付着したインク組成物に紫外線を照射して、当該インク組成物を硬化させることを含む。本工程は、インク付着工程を経た画像に向けて光(紫外線)を照射することにより硬化するものである。
具体的には、光の照射によって、重合性化合物の重合反応が開始する。また、インク組成物に含まれる光ラジカル重合開始剤が光の照射により分解して、ラジカル、酸、及び塩基などの開始種を発生し、重合性化合物の重合反応が、その開始種の機能によって促進される。このとき、インク組成物において光ラジカル重合開始剤と共に増感色素が存在すると、系中の増感色素が活性放射線を吸収して励起状態となり、光ラジカル重合開始剤と接触することによって光ラジカル重合開始剤の分解を促進させ、より高感度の硬化反応を達成させることができる。
光源としては、水銀ランプやガス・固体レーザー等が主に利用されており、光硬化型インクジェット用インク組成物の硬化に使用される光源としては、水銀ランプ、メタルハライドランプが広く知られている。その一方で、現在環境保護の観点から水銀フリー化が強く望まれており、GaN系半導体紫外発光デバイスへの置き換えは産業的、環境的にも非常に有用である。さらに、紫外線発光ダイオード(UV−LED)及び紫外線レーザーダイオード(UV−LD)は小型、高寿命、高効率、低コストであり、光硬化型インクジェット用光源として期待されている。これらの中でも、UV−LEDが好ましい。
以上の理由から、上記実施形態のインクジェット記録用インク組成物は、発光ダイオード(LED)、中でも紫外線発光ダイオード(UV−LED)から紫外線が照射されることにより硬化可能であることが好ましい。
上記の照射の際の発光ピーク波長は、360〜420nmの範囲が好ましく、380〜400nmの範囲がより好ましい。発光ピーク波長が上記範囲内であると、UV−LEDの入手が容易であるとともに安価であることから好適である。
なお、発光ピーク波長は、上記の好ましい波長範囲内に1つあってもよいし複数あってもよい。複数ある場合であっても上記発光ピーク波長を有する紫外線の全体の照射エネルギー量を上記の照射エネルギーとする。
上記で照射される紫外線のピーク強度(照射ピーク強度)は、100〜4,000mW/cm2が好ましく、500〜2,000mW/cm2がより好ましく、800〜2,000mW/cm2がさらに好ましい。照射ピーク強度が上記範囲内の場合、硬化性が一層優れたものとなり、照射機のコストを抑えることができ、かつ、光源からの発熱や洩れ光がヘッドに影響することを防止できることから吐出安定性が一層優れたものとなる。
なお、本明細書における照射ピーク強度は、紫外線強度計UM−10、受光部UM−400(いずれもコニカミノルタセンシング社(KONICA MINOLTA SENSING,INC.)製)を用いて測定された値を用いることができる。ただし、これは照射ピーク強度の測定方法を制限するという意味でなく、従来公知の測定方法が利用可能である。
また、上記の照射の際の照射エネルギーは、1,000mJ/cm2以下が好ましく、500mJ/cm2以下がより好ましい。当該照射エネルギーが上記範囲内であると、硬化性が一層優れたものとなり、かつ、照射に必要な照射部のコストを抑えることができる。
なお、本明細書における照射エネルギーは、照射開始から照射終了までの時間に照射ピーク強度を乗じて算出される。照射は1回の照射によって記録物の使用が可能な程度に十分な硬化が行われてもよいし、又は、複数回の照射によって記録物の使用が可能な程度に十分な硬化が行われてもよい。照射エネルギーの下限は、十分な硬化が行われるものであればよく、特に限られるものではないが、10mJ/cm2以上であるとよい。
以上で説明してきた照射ピーク強度、照射エネルギー、及び発光ピーク波長が好ましい範囲内である場合、後述するインク組成物の組成に起因して低エネルギー且つさらに高速での硬化が可能となる。また、当該インク組成物の組成によって照射時間を短縮することができ、この場合は印刷速度が増大する。他方、当該インク組成物の組成によって照射ピーク強度を減少させることもでき、この場合、装置の小型化やコストの低下が実現する。
〔4.上記以外の工程〕
本実施形態のインクジェット記録方法は、上記の工程以外にさらに別の工程を含んでもよい。例えば、インク付着工程後であって硬化工程前、及び硬化工程後の少なくとも一方に加熱工程を実施することが挙げられる。当該加熱工程は、得られるインクの画像を十分に乾燥する役割を果たすものである。当該加熱工程における加熱の方法や条件は、特に制限されることなく、インクの組成や記録環境に応じて適宜決めればよい。
このように、本実施形態によれば、耐擦性及び密着性に優れ、さらには硬化性にも優れたインクジェット記録用インク組成物を用いるインクジェット記録方法を提供することができる。
[インクジェット記録装置]
本発明の一実施形態は、インクジェット記録装置、即ちプリンターに係る。当該記録装置は、上記実施形態のインクジェット記録方法を利用するものである。
プリンターの種類として、ラインプリンター及びシリアルプリンターが挙げられ、本実施形態ではいずれのプリンターも使用可能である。ラインプリンター及びシリアルプリンターは互いにプリンターの方式が異なる。簡潔にいえば、ラインプリンターは、被記録媒体の幅に相当する長さ(被記録媒体幅)のラインヘッドを備えるものであり、ヘッドが(ほぼ)移動せずに固定されて、1パス(シングルパス)で印刷が行われるものである。一方、シリアルプリンターは、ヘッドが被記録媒体の搬送方向(以下「副走査方向」ともいう。)と直交した方向(以下「主走査方向」ともいう。)に往復移動(シャトル移動)しながら、通常2パス以上(マルチパス)で印刷が行われるものである。
より具体的に説明すると、ラインプリンターは、被記録媒体を所定の方向(副走査方向)に一度走査するだけで画像を形成するものである。そのため、ラインプリンターは、シリアルプリンターと比較して印刷速度が顕著に大きい。一方、シリアルプリンターは、ラインプリンターと比較して1パス当たりのインク吐出量が少なく、パス数(主走査回数)が2回以上のマルチパス印刷が可能であるため、2回以上に分けてインクを塗り重ねて画像を形成することができ、画質の一層優れた画像とすることができる。
なお、「パス」とは、ヘッドが記録物に対して移動し、ヘッドに搭載した光源(光照射装置)からインク塗膜に向けて光照射した回数を意味する。
以下、本発明の実施形態を実施例によってさらに具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
[使用材料]
下記の実施例及び比較例において使用した材料は、以下の通りである。
〔ウレタンアクリレートの合成材料〕
(A:ヒドロキシル基含有アクリレート)
・重量平均分子量が400のポリプロピレングリコールモノアクリレート(ブレンマーAP400〔商品名〕、日油社製)(以下、「PPGアクリレート」という。)
・ペンタエリスリトールトリアクリレート(アロニックスM−305〔商品名〕、東亞合成社製)
・ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(アロニックスM−403〔商品名〕、東亞合成社製、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートとして50〜60質量%)
(B:ジイソシアネート)
・イソホロンジイソシアネート(以下、「IPDI」という。)
(C:炭素数6〜20である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオール)
・1,12−ドデカンジオール・重量平均分子量が400のポリプロピレングリコール(ユニオールD−400[商品名]、日油社製)
(D:ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテル)
・重量平均分子量が400のポリエチレングリコールモノメチルエーテル(メトキシPEG400〔商品名〕、東邦化学工業社(TOHO Chemical Industry Co.,Ltd.)製)(以下、「メトキシPEG400」という。)
・重量平均分子量が1000のポリエチレングリコールモノメチルエーテル(メトキシPEG1000〔商品名〕、東邦化学工業社製)(以下、「メトキシPEG1000」という。)
・重量平均分子量が2000のポリエチレングリコールモノメチルエーテル(ユニオックスM−2000〔商品名〕、日油社製)(以下、「メトキシPEG2000」ともいう。)
〔架橋ウレタンアクリレートの合成材料〕
上記に加えて、さらに架橋剤として、ペンタエリスリトールテトラキス−3−メルカプトプロピオネート(架橋チオール、以下「PEMP」ともいう。)を用いた。
〔顔料分散液〕
・Cab−o−jet−300(自己分散型ブラック顔料分散液、固形分濃度15質量%、Cabot Corporation製、以下「自己分散顔料分散液」ともいう。)
〔重合性化合物〕
(1.樹脂エマルション)
・光硬化型水性エマルション(d−2)(以下「EM d−2」ともいう。製造方法は後述の合成例3を参照)
・光硬化型水性エマルション(d−6)(以下「EM d−6」ともいう。製造方法は後述の合成例4を参照)
・光硬化型水性エマルション(e−6a)(以下「EM e−6a」ともいう。製造方法は後述の合成例5を参照)
なお、当該光硬化型水性エマルションは、重合性化合物が内包されていることから、「重合性化合物」欄に記載した。
(2.その他の重合性化合物)
・ビスコート802(多官能モノマー、大阪有機化学工業社製)
〔紫外線硬化型樹脂〕
・Laromer8949(水系の光硬化型脂肪族ウレタン樹脂分散体、BASF社製商品名、MFT=5℃、Mw=2,500、固形分60%、以下「LR8949」ともいう。)
・Laromer8983(水系の光硬化型芳香族ウレタン樹脂分散体、BASF社製商品名、MFT=0℃、Mw=10,000、固形分60%、以下「LR8983」ともいう。)
・EM−92(光硬化型ウレタンアクリレートの自己乳化型エマルション、荒川化学工業社製商品名、官能基数4、MFT>50℃、Mw=1,700、固形分40%)
・EM−90(光硬化型ウレタンアクリレートの自己乳化型エマルション、荒川化学工業社製商品名、官能基数6、MFT>50℃、Mw=2,000、固形分40%)
・Laromer9016(コアシェル構造を有する水系の光硬化型アクリル樹脂分散体、BASF社製商品名、MFT0℃、Mw>100,000、固形分60%、以下「LR9016」ともいう。)
なお、上記の各紫外線硬化型樹脂に含まれる光硬化型脂肪族ウレタン樹脂、光硬化型芳香族ウレタン樹脂、及び光硬化型ウレタンアクリレートはいずれも、前述の一般式(1)で表されるウレタン(メタ)アクリレート及び当該ウレタン(メタ)アクリレートを含む構造単位を有する架橋ウレタン(メタ)アクリレートには該当しない。
〔光ラジカル重合開始剤〕
・アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤(DAROCUR TPO〔商品名〕、BASF社製、以下「DAROCUR TPO分散体」ともいう。)
〔蛍光増白剤〕
・1,4−ビス(2−ベンゾオキサゾリル)ナフタレン)(HOSTALUX KCB〔商品名〕、クラリアントジャパン社(Clariant (Japan) K.K.)製)(以下「KCB」ともいう。)
〔水溶性有機溶剤〕
・プロピレングリコール
・1,2−ヘキサンジオール
〔界面活性剤〕
・ポリエーテル変性シロキサン(BYK−349〔商品名〕、BYK社製)
・ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン(BYK−333〔商品名〕、BYK社製)
[ウレタンアクリレートの構造及び合成]
〔1.ウレタンアクリレートの構造〕
下記の実施例及び比較例において使用したウレタンアクリレートは、その構造が上記一般式(1)で表されるウレタンアクリレートを使用した。
〔2.両親媒性ウレタンアクリレートの合成〕
(2−1.合成例1:両親媒性ウレタンアクリレート(d)の合成)
撹拌装置、冷却管、滴下ロート、及び空気導入管を備えた反応容器に、444.6質量部のIPDI及び202.3質量部の1,12−ドデカンジオールを仕込み、攪拌を行いながら、0.26質量部のオクチル酸スズを加え、反応容器内の温度を90℃まで昇温し、1.5時間反応させた。その後、700.0質量部のメトキシPEG1000及び0.54質量部のオクチル酸スズを加え、さらに1.5時間反応させた。次いで、当該反応容器に、1300.0質量部のジペンタエリスリトールペンタアクリレート、1.32質量部のメトキノン、及び1.06質量部のオクチル酸スズを仕込み、混合し、空気のバブリング下で反応容器内の温度を85℃まで昇温し、3時間反応させた後、冷却して、上記一般式(1)で表される両親媒性ウレタンアクリレート(d)を得た。このウレタンアクリレート(d)の重量平均分子量は5,600であった。
(2−2.合成例2:両親媒性ウレタンアクリレート(e)の合成)
合成例1と同様の反応容器に、444.6質量部のIPDI(2モル)と400.0質量部の重量平均分子量が400のポリプロピレングリコールを仕込み、攪拌を行いながら、0.34質量部のオクチル酸スズを加え、反応容器内の温度を90℃まで昇温し、1.5時間反応させた後、1400.0質量部のメトキシPEG2000及び0.90質量部のオクチル酸スズを加え、さらに1.5時間反応させた。次いで、当該反応容器に、1300質量部のジペンタエリスリトールペンタアクリレート、1.77質量部のメトキノン及び2.13質量部のオクチル酸スズを仕込み、混合し、空気のバブリング下で反応容器内の温度を85℃まで昇温し、3時間反応させた後、冷却して、上記一般式(1)で表される両親媒性ウレタンアクリレート(e)を得た。このウレタンアクリレート(e)の重量平均分子量は9,000であった。
[光硬化型水性エマルションの調製]
〔1.合成例3:光硬化型水性エマルション(d−2)の調製〕
合成例1と同様の反応容器に、上記で得られた両親媒性ウレタンアクリレート(d)27.5質量部、ポリペンタエリスリトールポリアクリレート9.2質量部、及び光ラジカル重合開始剤(TPO)3.3質量部を仕込み、攪拌を行いながら容器内の温度を80℃に昇温し、2時間保温した。次に、容器内の温度を50℃まで冷却した後、攪拌しながら60質量部の脱イオン水を加え、40℃で1時間保温することにより、不揮発分(両親媒性ウレタンアクリレート(d)、ポリペンタエリスリトールポリアクリレート、及び光ラジカル重合開始剤(TPO))が40%の光硬化型水性エマルション(d−2)を得た。このエマルションをGPC測定したところ、重量平均分子量5,500のウレタン(メタ)アクリレートが確認された。また、上記ISO 2115:1996により測定されたMFTは90℃であった。なお、組成表を下記表1に示すとともに、以下の表において光硬化型水性エマルション(d−2)を「EM d−2分散体」又は「d−2」と示した。
〔2.合成例4:光硬化型水性エマルション(d−6)の調製〕
合成例1と同様の反応容器に、上記で得られた両親媒性ウレタンアクリレート(d)26.2質量部、ポリペンタエリスリトールポリアクリレート8.7質量部、光ラジカル重合開始剤(TPO)3.3質量部を仕込み、攪拌を行いながら容器内の温度を80℃に昇温し、2時間保温した。次に、容器内の温度を50℃まで冷却した後、攪拌しながら1.7質量部の架橋剤(PEMP)を加え、そのまま15分間攪拌を続けた。その後、60質量部の脱イオン水を加え、50℃で1時間保温した後、容器内の温度を80℃に昇温し、6時間保温することにより、不揮発分(両親媒性ウレタンアクリレート(d)、ポリペンタエリスリトールポリアクリレート、光ラジカル重合開始剤(TPO)、及び架橋剤(PEMP))が約40%の光硬化型水性エマルション(d−6)を得た。このエマルションをGPC測定したところ、重量平均分子量8,500の架橋ウレタン(メタ)アクリレートが確認された。また、上記ISO 2115:1996により測定されたMFTは90℃であった。なお、組成表を下記表1に示すとともに、以下の表において光硬化型水性エマルション(d−6)を「EM d−6分散体」又は「d−6」と示した。
〔3.合成例5:光硬化型水性エマルション(e−6a)の調製〕
合成例1と同様の反応容器に、上記で得られた両親媒性ウレタンアクリレート(e)23.1質量部、ポリペンタエリスリトールポリアクリレート7.7質量部、光ラジカル重合開始剤(TPO)5.0質量部、光ラジカル重合開始剤(DETX)1.7質量部、蛍光増白剤(KCB)0.06質量部を仕込み、攪拌を行いながら容器内の温度を80℃に昇温し、2時間保温した。次に、容器内の温度を50℃まで冷却した後、攪拌しながら2.5質量部の架橋剤(PEMP)を加え、そのまま15分間攪拌を続けた。その後、60質量部の脱イオン水を加え、50℃で1時間保温した後、容器内の温度を80℃に昇温し、6時間保温することにより、不揮発分(両親媒性ウレタンアクリレート(e)、ポリペンタエリスリトールポリアクリレート、定着用ウレタンアクリレート、光ラジカル重合開始剤(TPO、DETX)、蛍光増白剤(KCB)、及び架橋剤(PEMP))が約40%の光硬化型水性エマルション(e−6a)を得た。このエマルションをGPC測定したところ、重量平均分子量18,000の架橋ウレタン(メタ)アクリレートが確認された。また、上記ISO 2115:1996により測定されたMFTは90℃であった。なお、組成表を下記表1に示すとともに、以下の表において光硬化型水性エマルション(e−6a)を「EM e−6a分散体」又は「e−6a」と示した。
Figure 2013237781
[実施例1〜8、比較例1〜4]
〔インク組成物の調製〕
下記表2に記載の成分を、下記表2に記載の組成(単位は質量%)となるように添加し、これを高速水冷式撹拌機により撹拌することにより、インク組成物を調製した。
ここで、表2中、「インク中の光硬化型水性エマルション中の樹脂の含有率」は、光硬化型水性エマルション濃度に光硬化型水性エマルション中の樹脂の含有率を乗じて算出した。例えば、実施例1は、16.3×(36.7/100)=6.0(%)となり、実施例3は、18×(33.3/100)=6.0(%)となる。
また、表2中、「インク中の紫外線硬化型樹脂の含有率」は、樹脂添加量に樹脂の固形分濃度を乗じて算出した。例えば、実施例1は、10.0×(60/100)=6.0(%)となり、実施例5は、15.0×(40/100)=6.0(%)となる。
なお、光硬化型水性エマルションd−2,d−6,及びe−6aは、一般式(1)で表される上記所定のウレタン(メタ)アクリレートを含むが紫外線硬化型樹脂を含まない。そのため、光硬化型水性エマルションd−2,d−6,又はe−6aを含むが紫外線硬化型樹脂を含まないインク組成物(下記表2の比較例1〜3)は、比較例に相当する。

Figure 2013237781
[評価項目]
各実施例及び各比較例で得られたインク組成物について、以下の方法により硬化性、密着性、及び耐擦性を評価した。
〔1.硬化性〕
綿棒加重タック性評価を行った。被記録媒体としてPVCフィルムを用いた。具体的には、PVCフィルムの表面にバーコーターを用いて、インクの塗膜の膜厚が20μmとなるように、上記で調製した各インク組成物をそれぞれ塗布した。その後、50℃で3分間塗膜を乾燥し、それから紫外線を照射した。その際、紫外線照射ランプとしてLEDを用いた。その後、塗膜表面を綿棒で擦り、着色のない照射エネルギーを硬化エネルギーとして評価した。
なお、照射エネルギー[mJ/cm2]は、光源(LED)から照射される被照射表面における照射強度[mW/cm2]を測定し、これと照射継続時間[s]との積から求めた。照射強度の測定は、紫外線強度計UM−10、受光部UM−400(いずれもコニカミノルタセンシング社(KONICA MINOLTA SENSING, INC.)製)を用いて行った。評価基準は以下のとおりである。硬化エネルギーが低いほど硬化性に優れていることを示すものである。評価結果を下記表3に示す。
A:インクの硬化エネルギーがPVCフィルムで300mJ/cm2以下であった。
B:インクの硬化エネルギーがPVCフィルムで300mJ/cm2より大きく、1,000mJ/cm2以下であった。
C:インクの硬化エネルギーがPVCフィルムで1,000mJ/cm2より大きかった。
〔2.密着性〕
PETフィルム及びPVCフィルムの各々の表面にバーコーターを用いて、インクの塗膜の膜厚が20μmとなるように、上記で調製した各インク組成物をそれぞれ塗布した。その後、50℃で3分間塗膜を乾燥し、それから紫外線を照射した。その際、紫外線照射ランプとしてLEDランプを用いた。
このようにして得られた、PETフィルムの塗膜及びPVCフィルム上の塗膜をそれぞれ用いて、テープ剥離試験を行った。具体的には、セロハンテープ(登録商標)(CT24、ニチバン社(Nichiban Co., Ltd.)製)を、上記の塗膜上に指の腹で押し付けて密着させた後、このセロハンテープを剥がした。このとき、各フィルム上の塗膜(インク)が剥離したか否かで評価を行った。
評価基準は以下のとおりである。評価結果を下記表3に示す。
A:PETフィルム及びPVCフィルムのいずれにおいても、インクがテープで剥離されなかった。
B:PETフィルムにおいてインクはテープで剥離されなかったが、PVCフィルムにおいてインクがテープで剥離した。
C:PETフィルム及びPVCフィルムのいずれにおいても、インクがテープで剥離した。
〔3.耐擦性〕
PETフィルム及びPVCフィルムの各々の表面にバーコーターを用いて、インクの塗膜の膜厚が20μmとなるように、上記で調製した各インク組成物をそれぞれ塗布した。その後、50℃で3分間塗膜を乾燥し、それから紫外線を照射した。その際、紫外線照射ランプとしてLEDランプを用いた。
このようにして得られた、PETフィルムの塗膜及びPVCフィルム上の塗膜をそれぞれ用いて、耐擦性の評価を行った。耐擦性の評価は、JIS K5701(ISO 11628)(平版印刷に用いられるインク、展色試料、及び印刷物を試験する方法について規定。)に準じて、学振式摩擦堅牢度試験機(テスター産業社(TESTER SANGYO CO., LTD.)製)を用いて行った。評価方法は、塗膜の表面に金巾を乗せ、荷重500gをかけて50往復擦り、擦った後の上記塗膜の表面の剥離や傷を目視で観察したものである。
評価基準は以下のとおりである。評価結果を下記表3に示す。
A:PETフィルム及びPVCフィルムのいずれにおいても、色材が剥がれた傷は見られなかった。
B:PETフィルムにおいて色材が剥がれた傷はなかったが、PVCフィルムにおいて色材が剥がれた傷があり、メディアの下地が見えた。
C:PETフィルム及びPVCフィルムのいずれにおいても、色材が剥がれた傷があり、フィルムの下地が見えた。
Figure 2013237781
以上の結果より、一般式(1)で表され、重量平均分子量が1,000〜10,000であるウレタン(メタ)アクリレート及び当該ウレタン(メタ)アクリレートを含む構造単位を有する架橋ウレタン(メタ)アクリレートのうち少なくともいずれかと、紫外線硬化型樹脂と、光ラジカル重合開始剤と、水と、を含むインク組成物(各実施例)は、そうでないインク組成物(各比較例)に比して、耐擦性及び密着性に優れ、さらには硬化性にも優れることが明らかとなった。

Claims (8)

  1. 下記一般式(1)で表され、重量平均分子量が1,000〜10,000であるウレタン(メタ)アクリレート及び該ウレタン(メタ)アクリレートを含む構造単位を有する架橋ウレタン(メタ)アクリレートのうち少なくともいずれかと、前記ウレタン(メタ)アクリレート及び前記架橋ウレタン(メタ)アクリレート以外の紫外線硬化型樹脂と、光ラジカル重合開始剤と、水と、を含む、インクジェット記録用インク組成物。
    [化1]
    1−O−(CONH−B1−NH−COO−C1−O)n−CONH−B1−NH−COO−D1 …(1)
    (式(1)中、nは1〜30の自然数を表し、A1はヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートの残基を表し、B1はジイソシアネートの残基を表し、C1は炭素数6〜20である非環式炭化水素又は環式炭化水素のジオールの残基を表し、D1はポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルの残基を表す。)
  2. 前記紫外線硬化型樹脂は、最低造膜温度が20℃以下であり、かつ、重量平均分子量が2,500以上である、請求項1に記載のインクジェット記録用インク組成物。
  3. 前記紫外線硬化型樹脂を分散状態で含む、請求項1又は2に記載のインクジェット記録用インク組成物。
  4. 前記紫外線硬化型樹脂が紫外線硬化型ウレタン樹脂である、請求項1又は2に記載のインクジェット記録用インク組成物。
  5. 発光ダイオードから紫外線が照射されることにより硬化可能な、請求項1〜4のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インク組成物。
  6. 前記光ラジカル重合開始剤がアシルホスフィンオキサイド化合物を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インク組成物。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載のインクジェット記録用インク組成物を被記録媒体の被記録面に付着させるインク付着工程と、
    該付着させたインクジェット記録用インク組成物に紫外線を照射して該インク組成物を硬化させる硬化工程と、を含む、インクジェット記録方法。
  8. 請求項7に記載のインクジェット記録方法により記録を行う、インクジェット記録装置。
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