JP2013236565A - 多能性幹細胞を利用した毒性の判定方法 - Google Patents

多能性幹細胞を利用した毒性の判定方法 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は、正確に、低コスト且つ短期間で被験物質の毒性を判定する方法を提供することを主な目的とする。
【解決手段】下記工程を含む被検物質の毒性を判定する方法により実現される:
(1)細胞機能関連遺伝子の少なくとも1種が欠損又は改変され、且つ当該細胞機能関連遺伝子が担う細胞機能が変化した多能性幹細胞を被検物質に暴露する工程、
(2)前記多能性幹細胞の生育機能の異常の有無を確認する工程、及び
(3)前記多能性幹細胞の生育機能に異常をきたした被検物質が毒性を有すると判定する工程。
【選択図】なし

Description

本発明は、特定の細胞機能関連遺伝子が欠損又は改変され、且つ当該細胞機能関連遺伝子が担う細胞機能が変化した多能性幹細胞を用いて、被検物質の毒性を判定する方法に関する。
化学物質の毒性を判定するため、微生物や哺乳動物を使用する評価系が確立されている。微生物を用いた試験は費用が安く簡便であるという利点があるものの、ヒトとの差があまりにも大きいため、実際の効果が疑問視されている。また、動物を用いた試験は費用がかかることに加え、動物愛護の観点からも縮小される方向にある。更に、動物を用いた試験は、動物個体への総体的な毒性を確認することはできるが、毒性メカニズムを捉えることが困難である。
従って、近年では動物の培養細胞を用いた試験が盛んに研究され、実際に使用され始めている(例えば、特許文献1及び2を参照)。しかしながら、培養細胞系には、通常、細胞増殖が簡単な癌細胞等の株化した細胞を用いるために、細胞に染色体異常が起こっている場合が多く、正確に毒性を評価しているとは言い難いのが現状である。このような背景から、適正に毒性を評価することができる、簡便且つ低コストの試験方法が求められていた。
一方、DNAに損傷を与え、その結果遺伝子に変異を生じるとされている化合物が多数知られている。このような変異が細胞増殖に関係する遺伝子に起こった場合、癌発生の原因になると考えられている。これまで、発癌物質はどのような場合も癌を発生させ、発癌物質に閾値は存在しないと考えられてきた。しかしながら、生体には様々なDNA修復遺伝子が存在し、発癌物質により生じた変異を修復して発癌の危険性を回避するようにはたらくことが明らかとなりつつある。従って、このような機構が作用すれば、ある一定濃度までは発癌物質による発癌の可能性は回避されると考えられる。すなわち、発癌物質に対する閾値が存在すると予測されている。実際に、DNA修復遺伝子であるH2AXやアポトーシスに関与するp53の欠損は、胸腺リンパ腫の発生をそのタンパク質量に従って早めることが報告されている(例えば、非特許文献1及び2)。しかしながら、このような化合物の閾値を正確に決定する方法はこれまで知られていなかった。
特開2010-11843 特表2010-505399
Celeste A, Difilippantonio S, Difilippantonio MJ, Fernandez-Capetillo O, Pilch DR, Sedelnikova OA, Eckhaus M, Ried T, Bonner WM, Nussenzweig A. HYPERLINK "http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12914701" H2AX haploinsufficiency modifies genomic stability and tumor susceptibility. Cell. 114: 371-383, 2003 Bassing CH, Suh H, Ferguson DO, Chua KF, Manis J, Eckersdorff M, Gleason M, Bronson R, Lee C, Alt FW. HYPERLINK "http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12914700" Histone H2AX: a dosage-dependent suppressor of oncogenic translocations and tumors. Cell. 114: 359-370, 2003.
本発明は、適正に、低コスト且つ短期間で被験物質の毒性を判定する方法を提供することを主な目的とする。更に、本発明は被検物質の毒性濃度閾値の決定方法、毒性を有する物質に対する抵抗性を示す、又は感受性を増す細胞機能関連遺伝子の同定方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、例えば、遺伝毒性のある被検物質に濃度閾値があるとすれば、当該濃度閾値の決定にはDNA損傷に対するDNA修復機構が関与すると仮定した。そこで、DNA修復遺伝子を欠損したマウスES細胞を用いて、被検物質が当該細胞に対する毒性を生じる濃度に低下がみられるか観察したところ、DNA修復遺伝子を欠損させたマウスES細胞は野生型に比べて生存率が低下する濃度が異なり、野生型マウスES細胞に比べて低い濃度で細胞死が引き起こされることを見出した。すなわち、このような方法によれば、野生型細胞を使用した場合には看過されてしまっていた細胞へのダメージをより正確に検出することができ、厳密な毒性の評価が可能であることを見出した。
更に、本発明者らは前記方法によれば、細胞を暴露する被検物質の濃度を変化させ、濃度による細胞の反応を比較することによって当該被検物質の毒性濃度閾値を決定することが可能であることも見出した。本発明は、これらの知見に基づいて更に研究を重ねた結果完成されたものである。すなわち、本発明は以下の方法を提供する。
項1.下記工程を含む被検物質の毒性を判定する方法:
(1)細胞機能関連遺伝子の少なくとも1種が欠損又は改変され、且つ当該細胞機能関連遺伝子が担う細胞機能が変化した多能性幹細胞を被検物質に暴露する工程、
(2)前記多能性幹細胞の生育機能の異常の有無を確認する工程、及び
(3)前記多能性幹細胞の生育機能に異常をきたした被検物質が毒性を有すると判定する工程。
項2.被検物質の毒性濃度閾値を決定するために行われる項1に記載の方法であって、
前記工程(1)が、細胞機能関連遺伝子の少なくとも1種が欠損又は改変され、且つ当該細胞機能関連遺伝子が担う細胞機能が低下した多能性幹細胞を、少なくとも2以上の異なる濃度の被検物質に暴露する工程であり、
前記工程(3)が、被検物質が前記多能性幹細胞の生育機能に異常をきたした濃度と、異常をきたさなかった濃度に基づいて該被検物質の毒性濃度閾値を決定する工程である、方法。
項3.前記工程(2)において、細胞の生存率を評価することを含む、項1又は2に記載の方法。
項4.前記多能性幹細胞として、同一濃度の被検物質に暴露された野生型多能性幹細胞に比べて低い生存率を示す多能性幹細胞を選択して使用する、項2に記載の方法。
項5.毒性を有する物質に対する抵抗性を示す、又は感受性を増す細胞機能関連遺伝子を同定するために行われる項1に記載の方法であって、
前記工程(1)が、細胞機能関連遺伝子の少なくとも1種が欠損又は改変され、且つ当該細胞機能関連遺伝子が担う細胞機能が低下した多能性幹細胞を毒性を有する物質に暴露する工程であり、
前記工程(3)が、前記多能性幹細胞の生存率が、細胞機能関連遺伝子が欠損又は改変されていない細胞よりも低い場合には前記細胞機能関連遺伝子が毒性を有する物質に対して抵抗性を示す遺伝子であると決定し、
前記多能性幹細胞の生存率が、細胞機能関連遺伝子が欠損又は改変されていない細胞よりも高い場合には前記細胞機能関連遺伝子が毒性を有する物質に対して感受性を増す遺伝子であると決定する工程である、方法。
項6.前記細胞機能関連遺伝子が、DNA修復関連遺伝子、アポトーシス関連遺伝子、薬物代謝関連遺伝子、活性酸素除去関連遺伝子、細胞周期調節遺伝子、シグナル伝達遺伝子及び酸素保持に関連する遺伝子からなる群より選択される少なくとも1種である、項1〜5のいずれかに記載の方法。
項7.前記細胞機能関連遺伝子が、シトクロムP450、P53、SOD、ヒストンH2AX、Ku80及びサイトグロビンからなる群より選択される少なくとも1種である、項1〜6のいずれかに記載の方法。
項8.前記多能性幹細胞がiPS細胞又はES細胞である項1〜7のいずれかに記載の方法。
項9.前記被検物質が、メチルニトロソウレア、メチルメタンスルホン酸、メチルコラントレン、ベンツピレン、メルファラン、ジエチルニトロサミン、ベンツアントラセン、リトコリン酸、フォルボールエステル、フェノバルビタール、オカダ酸、チオアセタミド、塩化メタピリレン、ペリレン、ブチルヒドロキシアニソール、カプロラクタム、ジメチルフォルムアミド、フェナントレン、ピレン、ジニトロクロロベンゼン、ジニトロベンゼンスルホン酸、トリニトロクロロベンゼン、オキサゾロン、フルオレセインイソチオシアネート、トルエンジイソシアネート、パラフェニレンジアミン、フォルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、ニッケル、及びコバルトからなる群より選択される少なくとも1種である、項1〜8のいずれかの方法。
本発明の方法は、特定の細胞機能関連遺伝子を欠損又は改変させ、当該遺伝子が担う細胞機能が変化した状態の多能性幹細胞を使用することを特徴とする。本発明の方法によれば、従来の野生型細胞を用いた評価系では看過されていた可能性のある毒性を検出し、適正に評価することができる。また、本発明の方法は、多能性幹細胞を利用することから、多大なコスト及び時間を要する動物実験の欠点を克服することができる。従って、本発明の方法によれば、適正に、簡易且つ短期間に被験物質の毒性の判定を行うことが可能である。
更に、本発明の方法において多能性幹細胞に暴露する被験物質の濃度を変化させることにより、各濃度における細胞の挙動を観察し、細胞に生育異常が認められた濃度を当該被験物質の閾値と決定することができる。従来、癌発生の原因となる化合物に閾値は存在しないとされており、閾値を決定する方法も知られていなかったが、本発明によりそのような化合物の閾値を決定する方法が提供される。
また、本発明の方法は多能性幹細胞を用いることから、被験物質に暴露された多能性幹細胞を更に培養して特定の組織若しくは器官、又は個体に分化、発生させることもできる。例えば被験物質に暴露されたES細胞を受精卵に導入し、胚盤胞まで培養して偽妊娠個体の子宮内に移植することにより、その後の個体発生の経過を観察することも可能である。従って、本発明の方法によれば、被験物質の発生毒性、催奇性、生殖毒性等をも評価することが可能であり、これらの毒性に関する被験物質の濃度閾値を決定することもできる。
更に、本発明によれば、毒性を有する物質に対する抵抗性を示す、又は感受性を増す細胞機能関連遺伝子を同定する方法も提供される。本方法により同定された細胞機能遺伝子が担う細胞機能や遺伝子の情報等を、細胞に対して毒性を生じるメカニズムや、細胞や生体が有している毒性に対する防御機構の解析に利用することができる。
従来、細胞を用いた毒性評価はすでに樹立された培養細胞株を使用することが主流となっていた。しかしながら、培養細胞は、通常、染色体に何らかの変異を生じており、被験物質に暴露させたとしても適正な判断が困難であった。一方、後述する実施例においても確認されているように、本発明の方法で使用される多能性幹細胞は特定の遺伝子を欠損又は改変させたとしても正常な染色体を維持することが可能であり、正確な評価に使用できる細胞として安定に維持・管理することができる。従って、本発明の方法によれば適正な毒性評価が可能である。
更に、細胞毒性を示す被検物質のなかには、癌に対して有効にその増殖を抑える抗癌剤(例えばシスプラチン)としての可能性をもつものもあり、本発明の方法により毒性を有すると判定された化合物、又は細胞毒性の濃度閾値が決定された化合物を抗癌剤等に使用ことができる。従って、本発明の方法は、抗癌作用等を有する被検物質の探索にも有用である。
H2AX遺伝子欠損に伴うタンパク質発現に関するウエスタンブロット解析の結果を示す写真である。 ヒストン2HAX遺伝子欠損ES細胞株を用いた被験物質の毒性評価の結果を表すグラフである。 p53遺伝子遺伝子欠損ES細胞株を用いた被験物質の毒性評価の結果を表すグラフである。
被検物質の毒性を判定する方法
本発明は、被検物質の毒性を判定する方法に関し、以下の工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする。
(1)細胞機能関連遺伝子の少なくとも1種が欠損又は改変され、且つ当該細胞機能関連遺伝子が担う細胞機能が変化した多能性幹細胞を被検物質に暴露する工程、
(2)前記多能性幹細胞の生育機能の異常の有無を確認する工程、及び
(3)前記多能性幹細胞の生育機能に異常をきたした被検物質が毒性を有すると判定する工程。
以下、本発明の方法の各工程について詳述する。
工程(1)について
工程(1)においては、細胞機能関連遺伝子の少なくとも1種が欠損又は改変され、且つ当該細胞機能関連遺伝子が担う細胞機能が変化した多能性幹細胞を被検物質に暴露する。
ここで、細胞機能とは、細胞生存の維持に必要とされる機能を指し、例えば、細胞の増殖、分化、修復、代謝、細胞間の情報伝達等が含まれる。
このような細胞の機能に関連する遺伝子としては、ヒストン2HAX、NBS1、BRCA1、53BP1、FANCD2、Chk2、MSH2、MSH3、MSH6、MLH1、PMS1、PMS2、PMS3、Ku80、Ku70、PKSc、ERCC4、Atm、Rad51、Rad52、Rad50、MSH2(MutS homologue 2)、Apexエンドヌクレアーゼ、Lig4、メチルグアニン-DNAメチルトランスフェラーゼ(MGMT)等のDNA修復関連遺伝子;p53、Rb、BRCA1、BRCA2、BAX、Bcl2等のアポトーシス関連遺伝子;シトクロム450遺伝子(CYP)1A1、CYP1A2、CYP1B1、CYP2A6、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、CYP3A4、CYP3A5、CYP3A7、アルコールデヒドロゲナーゼ、アルデヒドデハイドロゲナーゼ、ジヒドロキシピリミジンデヒドロゲナーゼ、NADPH-シトクロムP450レダクターゼ、DT−ジアホラーゼ、エステラーゼ、エポキシドヒドラーゼ、カテコールO-メチルトランスフェラーゼ、グルタチオーネS−トランスフェラーゼ、ヒスタミンメチルトランスフェラーゼ、N-アセチルトランスフェラーゼ、スルフォトランスフェラーゼ、チオプリンメチルトランスフェラーゼ、ウリジン5'-トリホスフェートグルクロンシルトランスフェラーゼ等の薬物代謝関連遺伝子;SOD(スーパーオキシドディスムターゼ)、カタラーゼ、ペルオキシレドキシン、チオレドキシン、チオレドキシンレダクターゼ、グルタチオン、グルタチオンレダクターゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ、グルタチオンS-トランスフェラーゼ等の活性酸素除去関連遺伝子;Pol I、Pol II、Pol III等の転写関連遺伝子;TGF-β、FGF、BMP、IGF、BMP等の細胞増殖及び分化・発生に関連する遺伝子;UBC9等のユビキチンによるタンパク分解遺伝子;メタロプロテアーゼ(MMP)、TIMP(tissue inhibitor of metalloprotease)、カドヘリンと、カテニン(αカテニン、βカテニン、γカテニン)、ヒアルロン酸レセプターファミリ(CD44)、インテグリンファミリー、セレクチンファミリー、シアロムチンファミリー等の癌転移関連遺伝子;IgG、IgA、IgM、IgD、IgE、等の免疫グロブリン、T細胞受容体(TCR)、Toll様受容体等の免疫関連遺伝子;サイクリン(サイクリンA、サイクリンD、サイクリンE等)、cdc25C、p21WAF、p16INK4、CDK(CDK1、CDK2、CDK4、CDK6等)、E2FCDKN3、p15ink4B、p16ink4A、p19ink4D、p27kip1、p21cip1、p57kip2等の細胞周期調節遺伝子;Gタンパク、受容体チロシンキナーゼ、Raf、Ras、MEK、MAPK、MEKK、JAK、STAT、PLC、PKC等のシグナル伝達遺伝子;サイトグロビン、ニューログロビン、ヘモグロビン、ミオグロビン等の酸素保持に関連する遺伝子などが挙げられる。但し、本発明において細胞機能関連遺伝子はこれらに限定されず、公知の遺伝子及び今後明らかとなる新規遺伝子についても細胞機能関連遺伝子に包含され得る。
本発明において欠損又は改変される細胞機能関連遺伝子として好ましくは、DNA修復関連遺伝子、アポトーシス関連遺伝子、薬物代謝関連遺伝子、活性酸素除去関連遺伝子、細胞周期調節遺伝子、シグナル伝達遺伝子、酸素保持に関連する遺伝子等、好ましくはDNA修復関連遺伝子及びアポトーシス関連遺伝子が挙げられる。より具体的には、例えば、シトクロムp450、p53、SOD、ヒストンH2AX、Ku80、サイトグロビン等が挙げられ、好ましくはヒストンH2AX及びp53が挙げられる。
本発明の方法において使用される多能性幹細胞は、細胞の自己増殖能を損なわない限りにおいて、上記細胞機能関連遺伝子の少なくとも1種を欠損又は改変しているものであり、2種以上が組み合わされて欠損又は改変されていていてもよい。欠損又は改変される細胞機能関連遺伝子が2種以上である場合、その組み合わせは特に限定されず、毒性の判定の目的において適宜選択され得、同じカテゴリーに属する遺伝子(例えばDNA修復関連遺伝子)から2種以上を組み合わせてもよく、異なるカテゴリーに属する遺伝子(例えばDNA修復関連遺伝子とアポトーシス関連遺伝子)を組み合わせて欠損又は改変させてもよい。本発明において2種以上の遺伝子を欠損又は改変させて毒性の判定を行う場合は、例えば、遺伝子の少なくとも1種をDNA修復関連遺伝子の中から選択することができる。
更に、本発明においては、異なるカテゴリーの遺伝子がそれぞれ欠損又は改変された多能性幹細胞を複数種組み合わせるか、又は複数の異なるカテゴリーの遺伝子が欠損又は改変された1種類の多能性幹細胞を細胞パネルとして用い、被験物質に暴露してもよい。このような細胞パネルを利用することにより、被験物質がどのようなメカニズムで毒性を生じるか予測することができ、被験物質を毒性メカニズムによって分類することが可能である。
例えば、DNA末端結合修復に必要なKu70及びKu80遺伝子を欠損又は改変させた多能性幹細胞であれば、このような多能性幹細胞を被検物質に暴露することにより、細胞の感度がKu70及びKu80のいずれか一方を欠損又は改変したES細胞と変わらなければ、これら2種の遺伝子は、この被検物質に起因するDNA損傷に対して同一の修復メカニズムで関与すると結論できる。また、Ku80およびRad52遺伝子(DNA損傷に対して相同組換え修復を行う)を欠損又は改変させた多能性幹細胞であれば、このような多能性幹細胞を被検物質に暴露することにより、細胞の感度がKu70及びRad52のいずれか一方を欠損又は改変したES細胞よりも高ければ(即ち、生存率が低下すれば)、これら2種の遺伝子は、この被検物質に起因するDNA損傷に対して異なった修復メカニズムで関与するということを明らかにできる。
本発明においては、上記遺伝子の少なくとも1種を欠損又は改変させた多能性幹細胞を使用することを1つの特徴とする。「多能性幹細胞」は、細胞分裂を経ても同じ分化能を維持し、理論上すべての生体中の組織(細胞)に分化することができる細胞のことを意味する。多能性幹細胞としては、例えばES細胞(胚性幹細胞)、iPS細胞(人工多能性幹細胞)、ES細胞と体細胞との融合細胞などが挙げられる。中でも、ES細胞は永久的に安定して培養することが可能であり、正常な染色体を維持することができる。また、iPS細胞は、ヒトからも倫理的問題がなく作製でき、正常な染色体のものを選択できる。従って、このような観点から、本発明においてはES細胞、iPS細胞が好ましい多能性幹細胞として挙げられる。本発明において使用される多能性幹細胞は、上記に限定されず、今後新たに作製され得る多能性を有する細胞を利用することができる。また、多能性幹細胞としてこれらの細胞を所望の段階まで分化させて得られる分化細胞を使用することもできる。多能性幹細胞の分化は、多能性幹細胞や目的とする分化細胞の種類等に応じて従来公知の方法から分化誘導剤、条件等を設定して行うことができる。
また、本明細書中に記載される「多能性幹細胞」の由来は、ヒト及び非ヒト動物(例えば、マウス、ラット、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、サル、イヌ、ネコ、トリなど)であり特に限定はされない。
「ES細胞」は、一般的には、初期胚をフィーダー細胞と共に培養し、増殖した内部細胞塊由来の細胞をばらばらにして、更に、植え継ぐ操作を繰り返し、最終的に「ES細胞株」として樹立することができる。このように、ES細胞は、受精卵から取得することが多いが、例えば脂肪組織、絨毛膜絨毛、羊水、胎盤、精巣細胞等の初期胚以外から取得され、ES細胞に類似した特徴を持ち、且つ分化多能性を有するES細胞様の細胞も知られている。本発明においては、このようなES細胞様細胞を前記多能性幹細胞として使用することもできる。
ES細胞については数種が公的機関によって提供され、あるいは市販されている。マウスES細胞の例として、ES-E14TG2a細胞(ATCC)、ES-D3細胞等(ATCC)、H1細胞(理研バイオリソースセンター、つくば市、日本)、B6G-2細胞(理研バイオリソースセンター、つくば市、日本)、R1細胞(Samuel Lunenfeld Research Institute、トロント、カナダ)、マウスES細胞(129SV、カタログ番号R-CMTI-1-15、R-CMTI-1A)(大日本住友製薬株式会社、大阪、日本)、マウスES細胞(C57/BL6、カタログ番号R-CMTI-2A(大日本住友製薬株式会社、大阪、日本)を挙げることができる。サルES細胞については、京都大学再生医科学研究所付属幹細胞医学研究センターなどから入手可能である。ヒトES細胞については京都大学再生医科学研究所付属幹細胞医学研究センター、WiCell Research Institute(マディソン、米国)、ES Cell International Pte Ltd(シンガポール)などから入手可能である。
また、新たに樹立したES細胞を本発明に適用することもできる。ES細胞の樹立方法は確立されており、例えばマウスES細胞の樹立方法についてはNagy. A. et al. eds.: Manipulating the Mouse Embryo, A Laboratory Manual, Third Edition, Cold spring Harbor Laboratory Press, 2003、実験医学別冊 培養細胞実験ハンドブック(羊土社);Teramura, T.,Takihara, T., Kishi, N., Mihara, T., Kawata, N., Takeuchi, H., Takenoshita, M., Matsumoto, K., Saeki, K., Iritani, A., Sagawa, N., Hosoi, Y. (2007) Cloning and Stem Cells, 485-493等を参照することができる。サルES細胞の樹立方法であればSuemori H, Tada T, Torii R, et al., Dev Dyn 222, 273-279, 2001等を参照することができる。ヒトES細胞の樹立方法であればWassarman, P.M. et al.: Methods in Enzymology, Vol.365(2003)等を参照することができる。
また、「iPS」細胞とは、人工多能性幹細胞若しくは誘導多能性幹細胞とも称される分化多能性を獲得した細胞のことで、体細胞(例えば、線維芽細胞など)へ分化多能性を付与する数種類の転写因子(以下、ここでは「分化多能性因子」と称する)をコードする遺伝子を導入することにより、ES細胞と同等の分化多能性を獲得した細胞のことである。「分化多能性因子」としては、すでに多くの因子が報告されており、特に限定されないが、例えば、Octファミリー(例えば、Oct3/4)、Soxファミリー(例えば、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15及びSox17など)、Klfファミリー(例えば、Klf4、Klf2など)、Mycファミリー(例えば、c-Myc、N-Myc、L-Mycなど)、Nanog、LIN28等を挙げることができる。iPS細胞の樹立方法については、多くの文献が発行されているため、それらを参考にすることができる(例えば、Takahashiら,Cell 2006,126:663-676;Okitaら,Nature 2007,448:313-317;Wernigら,Nature 2007,448:318-324;Maheraliら,Cell Stem Cell 2007,1:55-70;Parkら,Nature 2007,451:141-146;Nakagawaら,Nat Biotechnol 2008,26:101-106;Wernigら,Cell Stem Cell 2008,10:10-12;Yuら, Science 2007,318:1917-1920;Takahashiら,Cell 2007,131:861-872;Stadtfeldら,Science 2008 322:945-949等)。
本発明において「細胞機能関連遺伝子の欠損」とは、染色体からDNAの一部あるいは全部が失われ、復帰変異が認められないことをいう。復帰変異には、「塩基配列が元に戻る場合」と「元の塩基配列ではないが、コードしているアミノ酸配列が戻る場合」の両方が包含される。また、「細胞機能関連遺伝子の改変」とは、細胞機能関連遺伝子において、例えば、アミノ酸置換を生じるミスセンス変異が導入されていること、終始コドンが導入されていること(ナンセンス変異)、1〜2塩基を付加又は欠失するフレームシフト変異が導入されていることを指す。このような遺伝子の改変により、転写効率や転写特性の変化、スプライシングの変化、タンパク質合成の停止、アミノ酸配列における1個又は複数個のアミノ酸残基の置換、欠失、付加若しくは挿入等が生じる。アミノ酸配列にアミノ酸残基が置換、欠失、付加若しくは挿入が導入される箇所については、細胞機能を変化させ得る位置であれば特に限定されないが、例えば、各細胞機能遺伝子がコードする各タンパク質の活性部位であることが好ましい。
本発明において、「細胞機能の変化」とは、正常な細胞機能を担う細胞機能関連遺伝子が欠損あるいは改変されることによって、本来の細胞機能関連遺伝子によってコードされるタンパク質の合成が減少あるいは増加することにより、あるいはアミノ酸の置換、挿入、欠失などによりタンパクの機能が低下あるいは亢進することにより、例えば、細胞の増殖、分化、修復、代謝、細胞間の情報伝達等が変化することを指す。
特定の遺伝子を欠損又は改変させた多能性幹細胞を作製する方法としては、従来公知の方法を採用することができる。通常、遺伝子を欠損又は改変させるためには相同組換えを利用するが、哺乳動物細胞においてそのような人工的な組換えは、ES細胞やiPS細胞以外ではほとんど起こらない。従って、目的の細胞機能関連遺伝子が欠損又は改変された多能性幹細胞が効率よく得られるという観点からもES細胞やiPS細胞を使用することが好ましい。
多能性幹細胞において前述の細胞機能関連遺伝子の少なくとも1種を欠損又は改変させる方法としては、従来公知の方法を採用することができ特に限定されないが、例えば、多能性幹細胞がES細胞である場合、Mansour, S. L., K. R. Thomas and M. R. Capecchi (1988). Disruption of the proto-oncogene int-2 in mouse embryo-derived stem cells: A general strategy for targeting mutations to nonselectable genes. Nature336:348-352.等に記載される方法に基づいて行うことができる。ES細胞において目的の細胞機能関連遺伝子を欠損又は改変させる方法としてより具体的には、次のような方法が例示される。欠損又は改変させるマウス遺伝子配列を両端に有し、その間にネオマイシン耐性遺伝子のような薬剤選択できる遺伝子を挿入したターゲティングベクターを作製する。これを野生型のマウスES細胞にエレクトロポーレーション法により電気的に導入する。細胞をネオマイシン含有培地のなかで培養し、ネオマイシン耐性のES細胞のコロニーを選択的に形成させる。これらのコロニーの中から相同組換えにより目的の遺伝子が欠損又は改変されたES細胞をサザンブロット法により確認し、選択して得ることができる。また、同様の操作により、iPS細胞において目的の細胞機能関連遺伝子を欠損又は改変させることもできる。
さらに、このようにして得られた目的の細胞機能関連遺伝子が欠損又は改変したES細胞を正常なマウス受精卵にマイクロインジェクション等により注入する。ES細胞を胚盤胞まで発生させた後、偽妊娠雌マウスの子宮にこれを移植するとES細胞由来の細胞を持つキメラマウスが生まれる。このマウスを野生型マウスと交配することにより目的の遺伝子の一方を欠損又は改変したヘテロマウスを得ることができる。このヘテロマウスの雄と雌を交配して妊娠したマウスの初期胚を採取し、初期胚由来の細胞を培養することによって野生型ES細胞、又はヘテロ若しくはホモの遺伝子欠損又は改変ES細胞を樹立することができ、ホモの遺伝子欠損又は改変ES細胞を本発明の方法において使用することができる。あるいは、このように目的の遺伝子の一方が欠損又は改変されたヘテロマウスを交配して得られるマウスからホモの遺伝子欠損又は改変マウスを選択し、その体細胞から前述のiPS細胞の樹立方法によって目的の遺伝子が欠損又は改変されたiPS細胞を得ることもできる。
上述の遺伝子が欠損又は改変された多能性幹細胞は、従来公知の方法及び条件に従って培養することができる。培養方法としては、多能性幹細胞が生育可能な条件であれば特に限定されず、各細胞種に応じて従来公知の方法から適宜選択することができるが、例えば、ES細胞であればGene Targeting; A Practical Approach, edited by Alexandra L. Joynerに記載される培養方法、iPS細胞であればTakahashiら,Cell 2006,126:663-676;Okitaに記載される培養方法を採用することができる。
多能性幹細胞を暴露する被験物質は、天然及び非天然のあらゆる物質が包含され、従来公知の毒性を有する物質や毒性の疑われる物質、又は今後明らかとなる新規物質であってもよい。また、本発明によれば、前述の多能性幹細胞を使用することにより、従来に比べて更に精度の高い評価を行うことができることから、既に安全性が確認されている物質を本発明の被験物質として採用してもよい。
被験物質の例としては、メチルニトロソウレア(MNU)、メチルメタンスルホン酸(MMS)、エタンスルホン酸メチル(EMS)、N-メチル-N'-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(MNNG)等のアルキル化剤;BrdU等の塩基類似化合物;ニトロソアミン、ジエチルニトロサミン(DEN)、ニトロソグアニジン等のニトロソ化合物;シスプラチン、マイトマイシンC等のDNA架橋剤;臭化エチジウム、ダウノマイシン、アドリアマイシン等のDNAインターカレーター;C14、K40、Mn54、Co60、Kr85、Sr90、Y90、Tc99、I127、I131、Cs134、Cs137、Ra226、Rn222、Pu237、Pu239等の放射性物質:タール色素、サッカリン、サリチル酸等の食品添加物;ベンズ[a]アントラセン、クリセン、ベンゾ[b]フルオランテン、ベンゾ[j]フルオランテン、ベンゾ[k]フルオランテン、ベンツ[a]ピレン、コロネン、ジベンズ[a,h]アントラセン、インデノ[1,2,3-cd]ピレン、オバレン、メチルコラントレン等の多環芳香族炭化水素;2,3,7,8-TCDD、1,2,3,7,8-PeCDD、1,2,3,4,7,8-HxCDD、1,2,3,6,7,8-HxCDD、1,2,3,7,8,9-HxCDD、1,2,3,4,6,7,8-HpCDD、OCDD等のPCDD、2,3,7,8-TCDF、1,2,3,7,8-PeCDF、2,3,4,7,8-PeCDF、1,2,3,4,7,8-HxCDF、1,2,3,6,7,8-HxCDF、1,2,3,7,8,9-HxCDF、2,3,4,6,7,8-HxCDF、1,2,3,4,6,7,8-HpCDF、1,2,3,4,7,8,9-HpCDF等のPCDF、3,3',4,4'-TCB(77)、3,4,4',5-TCB(81)、3,3',4,4',5-PeCB(126)、3,3',4,4',5-PeCB (126)等のコプラナーPCB、2,3,3',4,4'-PeCB(105)、2,3,4,4',5-PeCB(114)、2,3',4,4',5-PeCB(118)、2',3,4,4',5-PeCB(123)、2,3,3',4,4',5-HxCB(156)、2,3,3',4,4',5'-HxCB(157)、2,3,4,4',5,5'-HxCB (167)、2,3,3',4,4',5,5'-HpCB(189)等のモノオルト置換PCBなどのダイオキシン類;アフラトキシン、ゼアラレノン、T-2トキシン、HT-2トキシン、フモニシン等のかび毒;ノニルフェノール、4-オクチルフェノール、ビスフェノールA等の環境ホルモン;鉛、クロム、カドミウム、ニッケル、コバルト、メチル水銀、ヒ素等の重金属;メルファラン、ベンツアントラセン等の発癌イニシエーター;リトコリン酸、フォルボールエステル、フェノバルビタール、オカダ酸、チオアセタミド、塩化メタン等の発癌プロモーター;ピリレン、ペリレン、塩化メタピリレン、ブチルヒドロキシアニソール、カプロラクタム、ジメチルフォルムアミド、フェナントレン、ピレン等の発がんイニシエーターおよびプロモーター;ジニトロクロロベンゼン、ジニトロベンゼンスルホン酸、トリニトロクロロベンゼン、オキサゾロン、フルオレセインイソチオシアネート、トルエンジイソシアネート、パラフェニレンジアミン、フォルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、ニッケル、コバルト等の接触過敏症と関連する物質;レチノイン酸等の発生毒性に関連する物質などが挙げられるが、これらに限定されない。
上記被検物質の中で、例えばメチルニトロソウレア、メチルメタンスルホン酸、メチルコラントレン、ベンツピレン、メルファラン、ジエチルニトロサミン、ベンツアントラセン、リトコリン酸、フォルボールエステル、フェノバルビタール、オカダ酸、チオアセタミド、塩化メタピリレン、ペリレン、ブチルヒドロキシアニソール、カプロラクタム、ジメチルフォルムアミド、フェナントレン、ピレン、ジニトロクロロベンゼン、ジニトロベンゼンスルホン酸、トリニトロクロロベンゼン、オキサゾロン、フルオレセインイソチオシアネート、トルエンジイソシアネート、パラフェニレンジアミン、フォルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、ニッケル、コバルトが好ましい被検物質として挙げられる。
本発明においては、上記化合物を被験物質としてそれぞれ単独で多能性幹細胞に暴露させてその毒性を判定してもよく、2種以上を組み合わせて暴露し、それら被験物質の組み合わせによる毒性を判定してもよい。また、例えば、排気ガス、煙草の煙、ディーゼル燃料、重油、鉱物油等の複数の化合物を含有する混合物として存在するものを対象として、その毒性を判定するために使用してもよい。
暴露の方法は、被験物質の状態によって適宜選択することができ、多能性幹細胞が被験物質に接触する状態であれば特に限定されないが、通常、培地への添加によって行われる。また、被験物質が気体である場合には、その気体を充満させたチャンバー中に多能性幹細胞が播種されたシャーレを置くか、又は液体培地中にバブリングすることによって多能性幹細胞と接触させることができる。
多能性幹細胞に暴露する際の被検物質の濃度は、被検物質の種類に応じて適宜設定され得るが、通常、培養液中の濃度として0.0000001〜50%、好ましくは0.00001〜1%、より好ましくは0.0001〜0.1%が挙げられる。
被験物質への暴露を行う際の培養条件は、多能性幹細胞が被験物質以外から影響を受けない条件であれば特に限定されず、前述の培養方法より適宜選択すればよく、多能性幹細胞の生育が可能な培地中に被検物質を所定濃度添加してインキュベートすればよい。より適正な毒性の判定のため、例えば、ES細胞やiPS細胞であれば20% KSR(KnockOutTM Serum Replacement:ライフテクノロジー社製)及び103unit/ml LIF(Leukemia Inhibitory Factor、ESGRO mLIF:ミリポア社製)を含有する生育培地中で、37℃、5%CO2の条件下で培養することが望ましい。また、播種する細胞数を複数設定して培養し、それぞれを被検物質に暴露してもよい。このようなハイスループットな系を利用することにより、効率よく被検物質毒性評価及び毒性濃度閾値の決定を行うことができる。また、必要に応じてマウス胎児由来初代培養線維芽細胞等の公知のフィーダー細胞を使用してもよい。
多能性幹細胞を被検物質暴露する際、培地中の被験物質の濃度を一定に保つため、培地交換の際に所定濃度の被験物質を含有する培地を用いてもよい。また、被験物質を含む培地に多能性幹細胞を所定期間(少なくとも約6日間)培養するが、同様の所定濃度の被験物質を含有する培地を用いて、1〜5日毎、好ましくは1〜2日毎に置換する方法を採用してもよい。
暴露する期間は特に限定されず、細胞の生育異常が観察されるのに十分な期間であれば特に限定されないが、通常10日程度、好ましくは7日程度、より好ましくは6日程度である。
工程(2)について
工程(1)において被験物質に暴露された多能性幹細胞の生育機能の異常の有無を確認する。
本発明において生育機能の異常とは、細胞が正常に生育している状態ではないと判断され得る指標であれば特に限定されないが、例えば、コロニー形成能の低下(すなわち、形成されるコロニー数の減少)、細胞数の変動、細胞死、細胞形状の変化等が包含される。
これらの生育機能の異常は、細胞機能関連遺伝子を欠損又は改変していない多能性幹細胞(即ち野生型多能性幹細胞)をコントロールとし、被検物質に暴露された、前記細胞機能関連遺伝子が欠損又は改変され、且つ細胞機能関連遺伝子が担う細胞機能が変化した多能性幹細胞と比較することにより確認することができる。また、被験物質に暴露されていない前記前記細胞機能関連遺伝子が欠損又は改変され、且つ細胞機能関連遺伝子が担う細胞機能が変化した多能性幹細胞と比較することによって確認してもよい。
本発明における細胞の生育機能の異常を細胞数の変動とする場合は、細胞数の減少に基づくものでもよく、細胞数の増加(増殖)に基づくものでもよい。例えば、被験物質を暴露する前と暴露した後の細胞数又はコロニー数に基づいて細胞の生存率を算出し、これを細胞生育機能の異常を判断する指標として用いることが簡便であり好ましい。
細胞の生育機能の異常を検出する方法としては、従来公知の検出方法の中から適宜選択すればよく、例えば、細胞数を直接計数する方法、増殖可能な細胞からできたコロニーを数える方法、特定の物質を光学的方法または放射標識化合物により定量して間接的に生存率又は死亡率を見積もる方法等が挙げられる。
具体的には、例えば、生細胞を対象とする場合であればギムザ染色、MTTアッセイ、ATP量の測定、トリチウム標識チミジンの取り込みの測定、フローサイトメトリー等がある。また、死細胞を対象とする場合であれば、乳酸脱水素酵素(LDH)の定量、トリパンブルーによる染色等を利用することができる。
本発明においては、ギムザ染色によって細胞を染色し、形成されたコロニー生存率として計測する方法が簡便であり好ましい。また、更に簡便には、形成されたコロニーを直接目視により計測するか、透過光、反射光などを利用した方法を採用することもできるが、これらに限定されない。
また、本発明において生育機能の異常として、細胞の染色体の転座又は断裂の割合の増加を指標とすることもできる。染色体の転座又は断裂の割合を評価する方法としては、被験物質に暴露された多能性幹細胞をスライドグラスのうえに展開し、核の染色体をin situ hybridization法により、特定の染色体を特定の色素で可視化することによって染色体の転座座又は断裂を検出し、一定数の細胞核のなかにある異常な染色体の転座数又は断裂数を決定することができる。例えば、第1染色体に対してFITC(緑色)で標識されたプローブ、さらに第2染色体に対してテキサスレッド(赤色)標識されたプローブを設計し、これらのプローブを用いてin situ hybridizationを行って、緑色あるいは赤色の染色体が断裂した状態(染色体の断裂)、緑色と赤色の染色体が結合した状態(第一、第二染色体間での転座)、緑色と赤色の染色体あるいはその断片が他の染色体に結合した状態(第一、第二染色体の他の染色体との転座)、あるいはそれらの状態が同時に複数回起こった状態(複雑な転座)を顕微鏡で観察し、転座の割合を計測し、評価することが可能である。
工程(3)について
工程(3)においては、多能性幹細胞の生育機能に異常をきたした被検物質が毒性を有すると判定する。
毒性の判定基準としては、上記生育機能の異常を判断する指標によって適宜設定され得るが、被験物質を暴露する前(濃度0%)での生存率を100%として、被験物質暴露後の生存率40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは90%を超える生存率が維持される場合に毒性がなく安全であると判定することができる。また、細胞の染色体の転座の割合の増加を指標とする場合は、被験物質を暴露する前(被検物質の濃度0%)での転座率を0%として、例えば、被験物質暴露後の転座率が1%以下、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.1%以下が維持される場合に毒性がなく安全であると判定することができる。
毒性濃度閾値の決定方法
本発明は、前記「被検物質の毒性を判定する方法」を被検物質の毒性濃度閾値を決定するために行うことも可能である。毒性濃度閾値の決定を目的として前記被検物質の毒性を判定する方法を実施する場合、
前記工程(1)が、細胞機能関連遺伝子の少なくとも1種が欠損又は改変され、且つ当該細胞機能関連遺伝子が担う細胞機能が低下した多能性幹細胞を、少なくとも2以上の異なる濃度の被検物質に暴露する工程であり、
前記工程(3)が、被検物質が前記多能性幹細胞の生育機能に異常をきたした濃度と、異常をきたさなかった濃度に基づいて該被検物質の毒性濃度閾値を決定する工程である。
本発明の毒性濃度閾値の決定方法においては、前述の細胞機能関連遺伝子の少なくとも1種が欠損又は改変され、且つ当該細胞機能関連遺伝子が担う細胞機能が低下した多能性幹細胞として、同一濃度の被検物質に暴露された野生型多能性幹細胞(細胞機能関連遺伝子が欠損又は改変されていない多能性幹細胞)に比べて低い生存率を示す多能性幹細胞を選択して用いることができる。このような多能性幹細胞を使用して毒性濃度の決定を行うことにより、既に毒性の知られている被験物質であっても、その具体的な閾値をより一層正確に決定することができる。本発明の毒性濃度閾値の決定方法において、被験物質、細胞機能遺伝子、多能性幹細胞、培養条件、生育機能の異常等については上述の通りである。
本発明の毒性濃度閾値の決定方法においては、少なくとも2以上の異なる濃度の被験物質に前記多能性幹細胞を暴露する。被験物質の濃度は特に限定されず、細胞への影響に基づいて適宜設定することができるが、通常、培養液中の濃度として0.0000001〜50%、好ましくは0.00001〜1%、より好ましくは0.0001〜0.1%程度の範囲が挙げられ、この範囲内から選択することができる。
本発明の方法においては、前記濃度の被験物質に暴露された多能性幹細胞が生育機能に異常を呈した最小の濃度を、当該被験物質の毒性濃度閾値として決定する。より具体的には、例えば、被検物質に暴露された多能性幹細胞の生存率が90%未満に低下した時の濃度を毒性濃度閾値と決定してもよい。多能性幹細胞の生育機能の異常、ならびにその検出及び判定方法については上記の通りである。
毒性を有する物質に対して抵抗性を示す、又は感受性を増す細胞機能関連遺伝子を同定する方法
本発明においては、前記「被検物質の毒性を判定する方法」を、毒性を有する物質に対して抵抗性を示す、又は感受性を増す細胞機能関連遺伝子を同定するために実施することもできる。このような目的で前記被検物質の毒性を判定する方法を実施する場合、前記工程(1)が、細胞機能関連遺伝子の少なくとも1種が欠損又は改変され、且つ当該細胞機能関連遺伝子が担う細胞機能が低下した多能性幹細胞を毒性を有する物質に暴露する工程であり、
前記工程(3)が、前記多能性幹細胞の生存率が、細胞機能関連遺伝子が欠損又は改変されていない細胞(野生型多能性幹細胞)よりも低い場合には前記細胞機能関連遺伝子が毒性を有する物質に対して抵抗性を示す遺伝子であると決定し、
前記多能性幹細胞の生存率が、細胞機能関連遺伝子が欠損又は改変されていない細胞(野生型多能性幹細胞)よりも高い場合には前記細胞機能関連遺伝子が毒性を有する物質に対して感受性を増す遺伝子であると決定する工程である。
このような方法によって同定された遺伝子を、毒性を有する物質が細胞に毒性を及ぼすメカニズムや、細胞(生体)における毒性に対する防御機構の解明に利用することができる。
後述される実施例に示されるように、例えば、細胞機能関連遺伝子として、切断されたDNAを修復するという機能を有するヒストンH2AX遺伝子を欠損させた多能性幹細胞は発癌性物質に暴露された場合、野生型多能性幹細胞に比べて発癌性物質に対して高い感受性を示す。即ち、ヒストンH2AXは、正常に発現されることにより毒性を有する物質に対して抵抗性を示す細胞機能関連遺伝子として同定される。また、細胞機能関連遺伝子としてp53遺伝子を欠損させた多能性幹細胞では、本来p53遺伝子が担っているアポトーシスが起こらないために、発癌性物質に暴露されても細胞死が引き起こされない。即ち、p53遺伝子は、毒性を有する物質に対する感受性を増す細胞機能関連遺伝子と同定される。
毒性を有する物質としては、野生型細胞に暴露した際に生存率の低下することが確認されている従来公知のものから適宜選択して使用することができる。また、前述の毒性を判定する方法により毒性が認められた物質を用いてもよい。多能性幹細胞に暴露する際の毒性を有する物質の濃度は、その種類に応じて適宜設定され得るが、通常、培養液中の濃度として0.0000001〜50%、好ましくは0.00001〜1%、より好ましくは0.0001〜0.1%が挙げられる。また、細胞機能遺伝子、多能性幹細胞、細胞機能の亢進、細胞培養の条件等については上述の通りである。
その他
上記の被験物質に暴露された多能性幹細胞を、更に分化、発生させて異常を確認することにより、組織レベル、個体レベル等での毒性の判定や毒性濃度閾値の決定を行うことができる。多能性幹細胞を用いた個体発生の方法は従来公知の方法から細胞の種類等に従って適宜選択すればよいが、例えば、ES細胞を被験物質に暴露させた後にマイクロインジェクション等の方法によって受精卵に導入し、胚盤胞まで発生させて偽妊娠マウスの子宮に移植し、個体発生の経過を観察することによって被験物質の分化、発生への影響を解析することができる。組織や個体レベルでの異常は、遺伝子、染色体、外観、代謝機能等を観察することにより確認することができ、被験物質の催奇性、発生毒性、生殖毒性等の解析を行うことができる。
また、上述の多能性幹細胞を被検物質に暴露した際の遺伝子発現の変化をDNAチップなどの方法で検定することにより遺伝子レベルでの被検物質による影響を評価し、毒性の判定や毒性濃度閾値の決定を行うことができる。DNAチップを用いた遺伝子発現の測定方法は従来公知の方法に従って行うことができる。
また、細胞毒性を有する化合物は、抗癌剤として使用可能な場合がある。従って、本発明の方法により細胞毒性を有すると判定された化合物、又は細胞毒性の濃度閾値が決定された化合物を抗癌剤として使用することができる。よって、本発明の方法は抗癌剤のスクリーニング等の目的においても有用である。
以下、試験例等に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
試験例1.ヒストンH2AX欠損マウスES細胞に対する被検物質の細胞毒性評価
ヒストンH2AX遺伝子欠損マウスES細胞の作製
DNA二重鎖切断は、放射線照射やアルキル化剤により起こる。このとき、ヒストンH2AX遺伝子がリン酸化され、その後、Ku70、Ku80などの遺伝子産物による非相同的な末端結合により修復される経路と、Rad51をはじめとした遺伝子産物による相同組換えによる修復経路がある。ヒストンH2AX遺伝子は、この両方の経路に関与すると考えられている。
ヒストンH2AX遺伝子欠損マウスを、通常の遺伝子ノックアウトの手法により作製した。より具体的には、マウスES細胞(R1株:Andras Nagy博士より入手)に、ヒストンH2AX遺伝子の前後に部位特異的組換え配列loxPとネオマイシン耐性遺伝子を組み込んだターゲティングベクターをエレクトロポーレーションにより導入した。ネオマイシン耐性コロニーのなかからサザンブロット法により相同組換えES細胞を確認した。この細胞を偽妊娠マウスの子宮に移植し、キメラマウスを得た。更にC57BL/6マウスとの交配によりヘテロマウスを得た。
ヘテロマウス(ヒストンH2AX遺伝子型;+/-)の雄と雌を交配した。妊娠確認後、妊娠マウスから初期胚を取り出し、20% KSR(KnockOutTM Serum Replacement:ライフテクノロジー社製)及び分化抑止剤である103unit/ml LIF(Leukemia Inhibitory Factor、ESGRO mLIF:ミリポア社製)を含有する生育培地の中で、約1週間37℃、5% CO2の条件下で培養した。いずれの初期胚からも細胞株が樹立できた。それぞれの細胞株から、一部の細胞を取ってPCR法で野生型ヒストンH2AX遺伝子座の検出を(フォワードプライマー(配列番号1:5'-GAGACTCTTACCGGCCTGTGGAC-3');リバースプライマー(配列番号2:5'-GGATCTTCGTGGATTACATAGCC-3')にて行い、欠損型ヒストンH2AX遺伝子座の検出をフォワードプライマー(配列番号3:5'-CCAGGTGGGCTTGTAGCCTC-3');リバースプライマー(配列番号4:5'- GGATCTTCGTGGATTACATAGCC -3')を使用して行い、ES細胞のヒストンH2AX遺伝子の遺伝子型を決定した。その結果、野生型(+/+)、ヘテロ型(+/-)、ホモ型(-/-)のすべてのクローンが存在することがわかった。これらの細胞株を凍結保存し、後述する被検物質の細胞毒性の測定に用いた。
H2AX遺伝子欠損に伴うタンパク質発現の有無を調べるために、それぞれの細胞株から単離したタンパク質を用いてウエスタンブロット解析を行った。その結果、野生型ES細胞に比較して、ヒストンH2AXヘテロ遺伝子型では、ヒストンH2AXタンパク質の量はほぼ半減していた。更に、ホモのヒストンH2AX遺伝子欠損ES細胞では、ヒストンH2AXタンパク質は全く発現していないことが確かめられた。リン酸化されたヒストンH2AX(γH2AXとよぶ)に対する抗体を用いても同様の結果が得られ、ホモのヒストンH2AX遺伝子欠損ES細胞には、ヒストンH2AXタンパク質が存在しないことが確かめられた。ウエスタンブロット解析の結果を図1に示す。
タンパク質発現に加え、これらの細胞株について染色体数の解析を行った。その結果、ヒストンH2AX遺伝子の欠損細胞株において、正常マウスと同じく40本の染色体がみられ、いずれの細胞株もほぼ正常な染色体をもつことが確認できた。すなわち、本試験例により作製されたマウスES細胞はH2AX遺伝子を欠損させているにもかかわらず、染色体数に異常がないことが示された。
H2AX遺伝子欠損マウスES細胞に対する被検物質の細胞毒性
H2AX遺伝子に関して野生型(+/+)と、遺伝子欠損型(-/-)のマウスES細胞株を用いて、被検物質に対する細胞毒性を検討した。被検物質として発癌に関する遺伝毒性のある被検物質(発癌のイニシエーターとも呼ばれる)Methyl methanesulfonate (MMS)、Diethylnitrosa mine (DEN)、N-Nitroso-N-Methlurea (MNU)を用いた。
野生型(ヒストンH2AX +/+)ES細胞と、ヒストンH2AX遺伝子の両方を欠損したホモ(ヒストンH2AX -/-)のES細胞を、マウス胎児由来線維芽細胞をフィーダー細胞として培養したシャーレ(直径6cm)の上に播種し、ES細胞培養用の20% KSR(KnockOutTM Serum Replacement:ライフテクノロジー社製)及び分化抑止剤である103unit/ml LIF(Leukemia Inhibitory Factor、ESGRO mLIF:ミリポア社製)を含有する生育培地中で、37℃、5% CO2インキュベーター内で24時間培養した後、各濃度の被検物質を添加した同様の培地に交換した。被検物質の濃度によって500,1000,5000又は10000個/シャーレの細胞数で播種した。被検物質の種類及び濃度、細胞株、細胞数(個/シャーレ)の組合せを下表1に示す。表1中の数値は細胞数を示し、細胞数について−は実施していないことを表す。また、表1及び2において、細胞株について+/+は野生型のES細胞株を表し、-/-はヒストン2HAX遺伝子欠損ES細胞株を表す。

細胞を播種した翌日、前述の被検物質を0%、0.001%、0.002%、0.005%、0.01%、0.02%、0.05%、0.1%、0.2%、又は0.5%の濃度で含む培地で培地交換した後、細胞を1週間培養した。培養中、各濃度の被検物質を含有する培地を用いて1日おきに培地交換を行い、被験物質が所定の濃度に保たれるようにした。その後、得られたコロニーをギムザ染色し、6cm ディッシュ上に形成されたコロニー数を目視により測定した。結果を下表2及び図2に示す。表2中の数値は生存率を表し、−は実施していないことを表す。被検物質濃度0%の場合の細胞生存率を1.00とした。また、各被検物質濃度について、細胞の生存率がグラフ上で0.9(即ち生存率90%)になった濃度を被検物質が細胞に対して毒性を示す濃度の閾値とした。
結果より、MNUに暴露した場合、野生型ES細胞(H2AX+/+)は濃度0.002%までは、生存率が0.96であり、細胞毒性を示さなかった。しかし、濃度0.005%では、0.713と生存率が低下した。更に、濃度0.01%にMNUを増加するとコロニーが検出できなかった。一方、ヒストンH2AX遺伝子欠損ES細胞(H2AX-/-)では、MNUの濃度0.002%で生存率が0.676に低下し、更に0.005%では、0.089と生存率は極度に低下した。この結果から、ヒストンH2AX遺伝子の欠損は、MNUによる細胞毒性の感受性を高めることが示された。
また、MMSに暴露した場合、野生型ES細胞(H2AX+/+)は、濃度0.002%で細胞毒性を示し、生存率は0.414に低下した。ヒストンH2AX遺伝子欠損ES細胞(H2AX-/-)でも、濃度0.001%〜0.002%で生存率が0.735〜0.226に低下した。従って、ヒストンH2AX遺伝子の欠損によりMMSに対する細胞の感受性が上昇していることが示された。しかし、その程度は、MNUの方が強いことが示された。
更に、DENについては、野生型ES細胞(H2AX+/+)、ヒストンH2AX遺伝子欠損ES細胞(H2AX-/-)のいずれにおいても細胞毒性が低く、濃度0.05%までは、0.8以上の生存率を維持した。また、濃度0.02%では、ともに、0.582〜0.592まで生存率が低下したが、ヒストンH2AX遺伝子欠損の影響は見られなかった。
以上の結果より、被検物質の種類によって、野生型のES細胞の細胞毒性を示す最低の濃度(閾値)が異なり、それぞれのリスクを評価できることが示された。また、ヒストンH2AX遺伝子の欠損により、暴露する被検物質の種類によって、感受性の高まるものと変わらないものがあった。即ち、ヒストンH2AX遺伝子の欠損によって被検物質に対する閾値が変化することが示された。このことは、被検物質に起因する細胞毒性を防御する遺伝子が存在し、被検物質の種類によって、その遺伝子も異なることを示している。このような試験方法を利用することにより、被検物質の毒性メカニズムや生体の防御機構の解明につながると考えられる。
試験例2.p53遺伝子欠損マウスES細胞に対する被検物質の細胞毒性評価
p53遺伝子は、細胞がDNAに損傷を受けたときに細胞の細胞周期を停止してDNA修復に向かわせたり、あるいは細胞にアポトーシスを起こさせたりする遺伝子として知られている。
p53遺伝子欠損マウスES細胞の作製
p53遺伝子欠損ES細胞は、オリエンタル酵母株式会社より入手したp53遺伝子の一方を欠損しているヘテロ型(p53+/-)マウスの雄と雌を交配し、妊娠したマウスから初期胚を取り出して培養し、Teramura, T.,Takihara, T., Kishi, N., Mihara, T., Kawata, N., Takeuchi, H., Takenoshita, M., Matsumoto, K., Saeki, K., Iritani, A., Sagawa, N., Hosoi, Y. (2007) Cloning and Stem Cells, 485-493に記載される方法に従ってマウスES細胞を樹立することによって作製された。更に、これらの細胞株から一部の細胞を取り出して、PCR法で野生型p53遺伝子座の検出を(フォワードプライマー(配列番号5:5'-ATAGGTCGGCGGTTCAT-3');リバースプライマー(配列番号6:5'-CCCGAGTATCTGGAAGACAG-3')にて行い、欠損型p53遺伝子座の検出をフォワードプライマー(配列番号7:5'-ATAGGTCGGCGGTTCAT-3');リバースプライマー(配列番号8:5'-GTATCGCCGCTCCCGATTCG-3')を使用して行い、ES細胞のp53遺伝子型(野生型(+/+)又はホモの欠損型(-/-))を決定した。
P53遺伝子欠損マウスES細胞に対する被検物質の細胞毒性
マウスp53遺伝子に関して野生型(+/+)と、遺伝子欠損型(-/-)のES細胞株を用いて、被検物質に対する細胞毒性を検討した。被検物質としてMethyl methanesulfonate (MMS)、Diethylnitrosamine (DEN)、N-Nitroso-N-Methlurea (MNU)を用いた。
野生型(p53 +/+)ES細胞と、ヒストンH2AX遺伝子の両方を欠損したホモ(p53 -/-)のES細胞を、マウス胎児由来線維芽細胞をフィーダー細胞として培養したシャーレ(直径6cm)の上に播種し、ES細胞培養用の20% KSR(KnockOutTM Serum Replacement:ライフテクノロジー社製)及び分化抑止剤である103unit/ml LIF(Leukemia Inhibitory Factor、ESGRO mLIF:ミリポア社製)を含有する生育培地で培養した。その後、0%、0.001%、0.002%、0.005%、0.01%、0.02%、0.05%、0.1%、0.2%又は0.5%の各濃度のMNU、DEN又はMMSを含有する培地で1週間培養し、コロニーをギムザ染色し、6cm ディッシュ上に形成されたコロニー数を目視により測定した。培養中、各濃度の被検物質を含有する培地を用いて1日おきに培地交換を行い、被験物質が所定の濃度に保たれるようにした。被検物質の濃度によって500又は10000個/シャーレの細胞数で播種した。被検物質の種類及び濃度、細胞株、細胞数(個/シャーレ)の組合せを下表3に示す。表3中の数値は細胞数を示し、細胞数について−は実施していないことを表す。また、表3及び4において、細胞株について+/+は野生型のES細胞株を表し、-/-はp53遺伝子欠損ES細胞株を表す。
以上の結果を下表4及び図3に示す。表4中の数値は生存率を表し、−は実施していないことを表す。被検物質濃度0%の場合の細胞生存率を1.00とした。また、各被検物質濃度について、細胞の生存率がグラフ上で0.9(即ち生存率90%)になった濃度を、被検物質が細胞に対して毒性を示す濃度の閾値とした。
結果より、MNUに暴露した場合、野生型ES細胞(p53+/+)は、濃度0.005%で0.234と生存率が低下していた。更に、MNUの濃度を0.01%に増加するとコロニーが検出できなかった。一方、p53遺伝子欠損ES細胞(-/-)では、NMUの濃度0.002%で生存率が0.366まで低下し、濃度0.005%で0.019と更に低下した。また、野生型及びp53遺伝子欠損型のいずれのES細胞でもNMUの濃度が0.01%以上の場合、コロニー形成は認められなかった。この結果から、p53遺伝子の欠損は、MNUによる細胞毒性の感受性を高めることが示された。
また、MMSに暴露した場合、野生型及びp53遺伝子欠損型のいずれのES細胞も濃度0.002%で生存率が0.36〜0.50に低下した。また、両者ともMMSの濃度0.005%以上では、コロニー形成は見られなかった。
更に、DENに暴露した場合、野生型及びp53遺伝子欠損型いずれのES細胞においても細胞毒性が低いが、野生型ではDEN濃度0.2%でコロニー形成がみられなかったのに対して、p53遺伝子欠損型ではDEN濃度0.2%で生存率0.216と低いがコロニー形成が認められた。
これらのことから、欠損させる遺伝子によって、被検物質による細胞毒性を示す最低の濃度(閾値)への影響が異なることが示された。
また、p53遺伝子欠損によってDENの細胞に対する毒性が低下しているが、これはp53遺伝子欠損によってアポトーシスが阻害され、細胞が被検物質に強くなった(即ち耐性を獲得した)ことを示している可能性がある。
(3)まとめ
以上の結果より、ヒストンH2AX遺伝子欠損ES細胞とp53遺伝子欠損ES細胞株では同じ被験物質に暴露した場合でもそれぞれ反応傾向が異なることが示された。即ち、被験物質に暴露される細胞の遺伝子型の違いが細胞毒性の感受性に影響を与えることが明らかとなった。従って、野生型細胞を利用する被験物質の毒性評価においては、従来は細胞毒性を生じないとされていた濃度であっても、実際には細胞機能に影響を与えており、毒性が存在する場合もあると考えられる。即ち、本発明の方法により、特定の細胞機能に関連する遺伝子を欠損させた多能性幹細胞を使用し、被検物質に暴露して細胞の生育機能に対する影響を確認することによって、適正な毒性評価ができることが示された。また、このような結果を、欠損又は改変された細胞機能遺伝子が担う既知の細胞機能等に基づいて、被検物質が細胞に対して毒性を生じるメカニズムや、被検物質に対する細胞の防御機構の解明に利用することも可能である。
更に、前述のような遺伝子型による感受性の相違は、遺伝子型によって細胞毒性がもたらされる最低濃度が異なる(即ち毒性濃度閾値が存在する)ことを示すものである。即ち、DNA修復、薬物代謝等に関連する特定の細胞機能に関連する遺伝子を欠損させた多能性幹細胞を、複数の濃度の被験物質に暴露することによって、その被検物質が毒性を生じる最低濃度を見極めることができ、より正確な毒性濃度閾値の決定が可能であることが示された。
以上より、また
配列番号1は、ヒストンH2AX(+/+)検出用フォワードプライマーである。
配列番号2は、ヒストンH2AX(+/+)検出用リバースプライマーである。
配列番号3は、ヒストンH2AX(-/-)検出用フォワードプライマーである。
配列番号4は、ヒストンH2AX(-/-)検出用リバースプライマーである。
配列番号5は、p53(+/+)検出用フォワードプライマーである。
配列番号6は、p53(+/+)検出用リバースプライマーである。
配列番号7は、p53(-/-)検出用フォワードプライマーである。
配列番号8は、p53(-/-)検出用リバースプライマーである。

Claims (8)

  1. 下記工程を含む被検物質の毒性を判定する方法:
    (1)細胞機能関連遺伝子の少なくとも1種が欠損又は改変され、且つ当該細胞機能関連遺伝子が担う細胞機能が変化した多能性幹細胞を被検物質に暴露する工程、
    (2)前記多能性幹細胞の生育機能の異常の有無を確認する工程、及び
    (3)前記多能性幹細胞の生育機能に異常をきたした被検物質が毒性を有すると判定する工程。
  2. 被検物質の毒性濃度閾値を決定するために行われる請求項1に記載の方法であって、
    前記工程(1)が、細胞機能関連遺伝子の少なくとも1種が欠損又は改変され、且つ当該細胞機能関連遺伝子が担う細胞機能が低下した多能性幹細胞を、少なくとも2以上の異なる濃度の被検物質に暴露する工程であり、
    前記工程(3)が、被検物質が前記多能性幹細胞の生育機能に異常をきたした濃度と、異常をきたさなかった濃度に基づいて該被検物質の毒性濃度閾値を決定する工程である、方法。
  3. 前記工程(2)において、細胞の生存率を評価することを含む、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記多能性幹細胞として、同一濃度の被検物質に暴露された野生型多能性幹細胞に比べて低い生存率を示す、細胞機能関連遺伝子の少なくとも1種が欠損又は改変され、且つ当該細胞機能関連遺伝子が担う細胞機能が低下した多能性幹細胞を選択して使用する、請求項2に記載の方法。
  5. 毒性を有する物質に対する抵抗性を示す、又は感受性を増す細胞機能関連遺伝子を同定するために行われる請求項1に記載の方法であって、
    前記工程(1)が、細胞機能関連遺伝子の少なくとも1種が欠損又は改変され、且つ当該細胞機能関連遺伝子が担う細胞機能が低下した多能性幹細胞を毒性を有する物質に暴露する工程であり、
    前記工程(3)が、前記多能性幹細胞の生存率が、細胞機能関連遺伝子が欠損又は改変されていない細胞よりも低い場合には前記細胞機能関連遺伝子が毒性を有する物質に対して抵抗性を示す遺伝子であると決定し、
    前記多能性幹細胞の生存率が、細胞機能関連遺伝子が欠損又は改変されていない細胞よりも高い場合には前記細胞機能関連遺伝子が毒性を有する物質に対して感受性を増す遺伝子であると決定する工程である、方法。
  6. 前記細胞機能関連遺伝子が、DNA修復関連遺伝子、アポトーシス関連遺伝子、薬物代謝関連遺伝子、活性酸素除去関連遺伝子、細胞周期調節遺伝子、シグナル伝達遺伝子及び酸素保持に関連する遺伝子からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
  7. 前記細胞機能関連遺伝子が、シトクロムP450、P53、SOD、ヒストンH2AX、Ku80及びサイトグロビンからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
  8. 前記多能性幹細胞がiPS細胞又はES細胞である請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
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