JP2013227296A - 抗インフルエンザウイルス剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、インフルエンザ変異株に対しても効果を失わず、インフルエンザの予防及び治療に有効な医薬及びインフルエンザウイルスの吸着剤を提供することを課題とした。
【解決手段】リンカー部分を介して、ヘマグルチニン結合能を有するレセプター擬似シアロ糖鎖部分と、疎水性部分と、ポリマー部分とが結合した化合物が、ウイルス表面にまとわりつくことによってヘマグルチニン及びシアリダーゼの両方を阻害し、ウイルスの細胞表面への吸着、ウイルスの出芽、感染等の機構をも阻害することを見いだし、本発明を完成するに至った。
【選択図】図14

Description

本発明は、ヘマグルチニン結合能を有するレセプター擬似シアロ糖鎖部分がリンカー部分を介して疎水性部分及びポリマー部分と結合した化合物又はその塩や、それらを有効成分とするインフルエンザ予防及び/又は治療薬等に関る。
世界保健機関(WHO)はブタ由来新型インフルエンザウイルス(H1N1)の世界的な感染拡大を受け、警戒レベルを最も高いフェーズ6に引き上げ、パンデミック(世界的大流行)を宣言した。また、高病原性鳥インフルエンザウイルス(H5N1)は世界15ヶ国でトリからヒトへの伝播が起こり、致死率約60%、200人を超える死者を出しており、インフルエンザの予防及び治療は世界的急務である。
インフルエンザウイルスはA、B、C型が存在し、B型、C型は主に人から分離されるが、A型は動物間で伝播し変異を繰り返しながら病原性やヒトへの適応性を獲得する、世界に最も広く分布する人獣共通感染症ウイルスである。インフルエンザウイルス膜には2種類のスパイク糖タンパク質、三量体のヘマグルチニン(HA)及び四量体のノイラミニダーゼ(NA)が存在する。インフルエンザウイルスはそのHAと宿主細胞表面のシアロ糖鎖との相互作用により感染する。そして、増殖したウイルスは、NAがもつシアリダーゼ活性によって宿主の細胞表面のシアル酸を切断して、宿主細胞から遊離する。A型ウイルスには多くの亜種が存在し、HAの種類としてH1〜H16、NAの種類としてN1〜9が同定されており、この組み合わせだけでも144種に上り、さらに、これらのHA型、NA型が同一であっても、感染経路や症状が異なる多種の突然変異ウイルスが増え続けている(非特許文献1)。
抗インフルエンザ薬として、ノイラミニダーゼ阻害薬、M2イオンチャネル阻害薬が臨床で使用されているが、HA機能阻害薬は未だ臨床で用いられる薬剤として開発されたものはない。またRNAポリメラーゼ阻害薬も開発中であるが、未だ臨床では用いられるには至っていない。現在、抗インフルエンザ薬として用いられているNA阻害剤として、タミフル(商品名)(ロシュ社、一般名;リン酸オセルタミビル)やリレンザ(商品名)(グラクソ・スミスクライン社、一般名;ザナミビル水和物)、イナビル(商品名)(第一三共社、一般名;ラニナミビルオクタン酸エステル水和物)、ラピアクタ(商品名)(塩野義製薬社、一般名;ペラミビル水和物)がある。NAはウイルスの増殖サイクルに必須の、感染細胞からのウイルスの出芽、放出に関わる酵素であり、NAの阻害により他の細胞への感染を防ぐ。NAはA型、B型インフルエンザ共に存在し、その活性部位の相同性も高いことから、NA阻害剤は両方の型に有効でありインフルエンザ治療の有効な方法であると考えられ広く用いられていた。しかし、突然変異株に対しては有効な治療効果をあげることができないという問題があり、2012年、既にタミフル耐性株が世界流行を始めている。したがって、これまでにない全く新しい作用機序をもつ次世代抗インフルエンザウイルス薬の開発は緊急を要する課題である。
また、インフルエンザに対しての予防方法として、インフルエンザHAワクチンも広く用いられている。インフルエンザワクチンには高熱などの症状を軽くし、合併症による入院や死亡を減らすことができるとして、特に高齢者や基礎疾患を有する人にはワクチン接種による予防が勧められる。より効果の高いワクチンへの改良開発が進められているが、季節ごとに将来流行するウイルス株を予想することがむずかしいこと、また新型インフルエンザの大流行が予想される中で、新型インフルエンザが発見されていない段階でのワクチン生産は出来ないため、大流行に対応しきれないことが懸念されている。
インフルエンザ治療薬としては、シアル酸誘導体であるNeu5Ac3αF−DSPEがNAを阻害し、H3N2型ウイルスHAを阻害したものの、H1N1型ウイルスHAに対しては阻害活性が見られなかったこと、かかる阻害としては、インフルエンザウイルスの細胞膜への吸着、及びインフルエンザウイルス感染による細胞変性効果を抑制したことが開示されている(特許文献1)。また、スフィンゴ糖脂質を含む生分解性ポリマーからなるポリマー化合物が、H1N1型ウイルスのHAと安定して結合し阻害することが開示している(特許文献2)。特許文献3にはヒトパラインフルエンザウイルス等のHA糖タンパク質を標的としたシアリダーゼ阻害活性を有する新規シアル酸誘導体が開示されているが、HAのみをターゲットとするため、インフルエンザ変異株には効果が弱くなるという問題があった。したがって、インフルエンザ変異株に対しても効果を失わず、インフルエンザの予防及び治療に有効な医薬の開発が望まれていた。
また、インフルエンザの予防という観点から、体内に侵入する前のインフルエンザウイルスを補足、不活化するという考えもできる。現在、インフルエンザをはじめとする多くの感染性疾患について、飛行機等の不特定多数の人々が一定時間、同一の空間で過ごす場所で、パンデミックを起こす可能性が指摘されている。
このため、空気中に浮遊するインフルエンザウイルスを除去する効果的な素材の開発が望まれる。
特開2001−131074号公報 特許第3390965号公報 特開2006−241024号公報
防菌防黴, vol 39, No.10, p55-65 (2011)
本発明の課題は、インフルエンザ変異株に対しても効果を失わず、インフルエンザの予防又は治療に有効な医薬や、環境からインフルエンザウイルスを除去する素材等を提供することにある。
本発明者らは、鋭意検討の結果、リンカー部分を介して、ヘマグルチニン結合能を有するレセプター擬似シアロ糖鎖部分と、疎水性部分と、ポリマー部分とが結合した化合物が、ウイルス表面にまとわりつくことによってHA及びNA両方を阻害し、ウイルスの細胞表面への吸着、ウイルスの出芽、感染等の機構をも阻害することを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は〔1〕下記の式(I)
(式中、Sは、ヘマグルチニン結合能を有するレセプター擬似シアロ糖鎖部分であり、Lは5オングストローム以上の構造を有するリンカー部分であり、Cは分岐構造や2重結合を有しても良い炭素数3〜35のアルキル基である疎水性部分であり、Pは鎖長100オングストローム以上のポリマー部分を表す)で示される化合物又はその塩や、〔2〕ヘマグルチニン結合能を有するレセプター擬似シアロ糖鎖部分が、Neu5Acα2−6Galβ1−4(3)GlcNAcβ1構造を含むことを特徴とする前記〔1〕に記載の化合物又はその塩や、〔3〕ポリマー部分が、ポリグルタミン酸であることを特徴とする前記〔1〕又は〔2〕に記載の化合物又はその塩や、〔4〕リンカー部分が、リジンであることを特徴とする前記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の化合物又はその塩に関する。
また、本発明は〔5〕下記の式(II)
(式中、PGAは式(III)
を表し、m及びnは、mは整数であって(m+1)nが50〜1000である。)で示される化合物又はその塩を有効成分とする前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の化合物又はその塩や、〔6〕前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の化合物又はその塩を有効成分とする、インフルエンザウイルスヘマグルチニン機能及びシアリダーゼの阻害剤や、〔7〕前記シアリダーゼがノイラミニダーゼであることを特徴とする〔6〕に記載の阻害剤や、〔8〕前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の化合物又はその塩を有効成分とする、インフルエンザウイルスの感染、吸着及び出芽阻害剤や、〔9〕前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の化合物又はその塩を有効成分とする、インフルエンザ予防又は治療薬に関する。
また、本発明は、〔10〕前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の化合物又はその塩を有効成分とするインフルエンザウイルス吸着材や、〔11〕前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の化合物又はその塩を担持させたインフルエンザウイルスの吸着材や、〔12〕前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の化合物又はその塩を担持させたインフルエンザウイルスの変異を調べるためのキットや、〔13〕前記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の化合物又はその塩を有効成分とするインフルエンザウイルスの生体内動態を調べるためのキットに関する。
本発明によれば、インフルエンザウイルスのヘマグルチニン機能及びシアリダーゼ活性を阻害して、ウイルスの細胞表面への吸着、ウイルスの出芽、及び感染等の複数の機構を阻害する化合物又はその塩を提供することができる。また、本発明の化合物又はその塩は、インフルエンザウイルスの機能及びシアリダーゼ活性を阻害することから、インフルエンザ変異株に対しても効果を失わず、出現した耐性株に対して適用可能なインフルエンザ予防又は治療薬等として提供することができる。さらに、本発明の化合物又はその塩を、インフルエンザウイルスの吸着剤や吸着材として用いることで、住環境からのインフルエンザウイルスの低減及び除去能を有する様々な製品として提供することができる。
本発明のインフルエンザ予防及び治療薬の構造の一例を表す図である。 本発明のインフルエンザ予防及び治療薬の合成方法の例の概略を表す図である。 化合物3のNMRスペクトルを示す。 糖鎖1%導入ポリグルタミン酸化合物のキャピラリー電気泳動結果を示す図である。 糖鎖1%導入ポリグルタミン酸化合物のH−NMRの結果を示す図である。 糖鎖5%導入ポリグルタミン酸化合物のキャピラリー電気泳動結果を示す図である。 糖鎖5%導入ポリグルタミン酸化合物のH−NMRの結果を示す図である。 糖鎖10%導入ポリグルタミン酸化合物のキャピラリー電気泳動結果を示す図である。 糖鎖10%導入ポリグルタミン酸化合物のH−NMRの結果を示す図である。 本発明の化合物がA型2009年パンデミック株(A/Narita/1/2009 (H1N1);上段)並びに、A香港型株(A/Yamaguchi/20/2006 (H1N1);中段)及びAソ連型(A/Aichi/75/2008 (H3N2);下段)の季節性ウイルス全てにおいてシアリダーゼ活性を強く阻害したことを示す図である。 A)0.07mg/mL濃度の本発明の化合物の各種ウイルスに対するシアリダーゼ阻害活性と、B)各濃度段階の化合物の、季節性ウイルスAソ連型(A/Aichi/75/2008 (H3N2))に対するシアリダーゼ阻害活性とIC50を示す。 本発明の化合物(糖鎖導入率5%のポリグルタミン酸化合物)がA)2009年パンデミック株(A/Narita/1/2009 (H1N1))、B)季節性インフルエンザウイルス株(A/Yamaguchi/20/2006 (H1N1)と結合することを示す図である。 本発明の化合物(糖鎖導入率5%のポリグルタミン酸化合物)がC)季節性インフルエンザウイルス株(A/Aichi/75/2008 (H3N2))、D)B型臨床分離株(B/Aichi/3/2008)と結合することを示す図である。 本発明のインフルエンザウイルス阻害機構を模式的に表す図である。
本発明の化合物又はその塩は、下記の式(I)
(式中、Sは、ヘマグルチニン結合能を有するレセプター擬似シアロ糖鎖部分であり、Lは5オングストローム以上の構造を有するリンカー部分であり、Cは分岐構造や2重結合を有しても良い炭素数35以下のアルキル基である疎水性部分であり、Pは鎖長100オングストローム以上のポリマー部分を表す)で示される化合物又はその塩であれば特に制限されない。
本発明の化合物における「ヘマグルチニン結合能を有するレセプター擬似シアロ糖鎖部分」としては、ヘマグルチニンを介したインフルエンザウイルスへの結合能を有していればよく、具体的にはヘマグルチニン結合能を有するシアロ糖鎖を含んでいればよい。シアロ糖鎖とは、シアル酸(NeuAc)とガラクトース(Gal)とN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)が結合した糖鎖化合物である。シアル酸(NeuAc)は、ガラクトース(Gal)とN−アセチルグルコサミン(GlcNAc)からなる基幹領域(タイプ1(Galβ1−3GlcNAc:一型糖鎖を構成)、又は、タイプ2(Galβ1−4GlcNAc:二型糖鎖を構成))に、α2−6結合か、α2−3結合することができる。本発明のレセプター擬似シアロ糖鎖部分としては、シアル酸がα−グリコシド結合で隣接するガラクトースのグリコシド体に結合しており、シアル酸とガラクトース間の結合位置は3位もしくは6位であればよく、ヒトに投与する場合はガラクトース6位にシアル酸が結合していることが好ましい。さらに結合性を増強するために、ガラクトースに隣接してN−アセチルグルコサミンのグリコシド体が結合していることがより好ましく、この結合はβ−グリコシド結合であって、結合位置は3位もしくは4位であることが好ましい。そして、これらの構造を有していれば、グルコサミン残基の隣にはさらに糖鎖などが結合していても良い。これらの中でも、本発明におけるレセプター擬似シアロ糖鎖としては、Neu5Acα2−6Galβ1−4(3)GlcNAcβ1−構造や、Neu5Acα2−3Galβ1−4(3)GlcNAcβ1−構造を含む例を挙げることができる。Neu5Acα2−3Galとは、N−アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)が、ガラクトース(Gal)とα2−3結合した構造であり、ヒトパラインフルエンザウイルス1型(hPIV−1)と、3型(hPIV−3)は、Neu5Acα2−3Galを有する糖鎖と結合することが知られている。
さらに、本発明の化合物のレセプター擬似シアロ糖鎖部分は、以下に示すリンカー部分を介して疎水性部分とポリマー部分に結合されるため、その末端には反応性の官能基を有する。この場合の官能基とは、リンカー部分に存在する官能基と化学反応などにより結合しうるものであればよく、例えばアミノ基、アジド基、カルボキシル基、アセチレン基、チオール基、アルデヒド基、ヒドロキシ基、α,β−不飽和エステル及びα,β−不飽和アミドを含むα,β−不飽和カルボニル基などを挙げることができる。本発明におけるレセプター擬似シアロ糖鎖部分のヘマグルチニン結合能は、レセプター擬似シアロ糖鎖又はインフルエンザウイルスあるいはヘマグルチニンタンパク質を適宜担体に結合させ、もう一方を添加して結合させた後洗浄し、いずれかを検出することにより確認することができ、かかる検出法としてはELISA法、ウェスタンブロッティング法、免疫蛍光染色法などの常法の他、インフルエンザウイルスをシアリダーゼ活性測定などにより検出する方法を挙げることができる。
本発明の化合物における「ポリマー部分」としては、生体にとって毒性がない、あるいは、毒性が低いポリマーであって、本発明の化合物がインフルエンザウイルス表面に結合した場合に、空間的阻害効果を発揮できればよく、好ましくは20オングストローム以上、より好ましくは50オングストローム以上、さらに好ましくは80オングストローム以上であって、最も好ましくは鎖長が100オングストローム以上である。生体にとって毒性がないポリマーとしては、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、ヒドロキシエチルアクリルアミド、スチレン−マレイン酸共重合体などのポリマーを挙げることができ、このポリマーはホモポリマーであっても、1種又は2種以上の複数種類のモノマーが適宜結合したヘテロポリマーであってもよく、その組成、結合順序等も特に制限されない。この「ポリマー部分」の分子量も、本発明の化合物がインフルエンザウイルス表面に結合した場合に、空間的阻害効果を発揮できる限り特に制限されないが、例えば数平均分子量が1,000〜150,000の範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは30,000〜100,000の範囲内であり、より好ましくは45,000〜85,000の範囲内であり、最も好ましくは、55,000〜70,000の範囲である。「ポリマー部分」としては、ポリグルタミン酸やヒドロキシエチルアクリルアミドを好適に例示することができ、中でも、好ましくは重合度50〜1000、より好ましくは重合度300〜800、さらに好ましくは重合度400〜700、最も好ましくは重合度500〜600のポリグルタミン酸や、重合度540程度のポリグルタミン酸を好適に例示することができる。ここで、ポリグルタミン酸は、好ましくはα−ポリグルタミン酸である。また、かかるポリマー部分は、上記ヘマグルチニン結合能を有するレセプター擬似シアロ糖鎖部分と疎水性部分を結合したリンカー部分の官能基と化学反応などにより結合するための官能基を有していてもよい。かかる官能基の数としては、構成するユニット構造の好ましくは1%以上であり、例えば以下の官能基、アミノ基、アジド基、カルボキシル基、アセチレン基、チオール基、アルデヒド基、ヒドロキシ基、α,β−不飽和エステル及びα,β−不飽和アミドを含むα,β−不飽和カルボニル基などを例示することができ、本発明のポリマー部分を、本発明の他の構成要素と結合するためには、好ましくは末端修飾されたポリマーであって、具体的にはN末端アセチル化ポリグルタミン酸であるポリマー部分を使用することができる。また、かかるポリマー部分は糖鎖修飾を受けていてもよく、好ましくは1〜50%、より好ましくは2〜30%、さらに好ましくは3〜10%、中でも5%の糖鎖導入率のポリマー部分を用いる例を好適に例示することができる。
また、塗料や合成繊維等を構成するポリマーを上記「ポリマー部分」として利用することができる。この場合、「ポリマー部分」の分子量は、本発明の化合物のレセプター擬似シアロ糖鎖部分がインフルエンザウイルスを吸着することができる限り特に制限されないが、例えば数平均分子量が1,000〜150,000の範囲内であることが好ましく、2,000〜100,000の範囲内であることがより好ましい。また、高分子化合物中の本発明の化合物の割合は、モル比で1%〜50%、好ましくは2%〜30%、さらに好ましくは3%〜10%である。
本発明の化合物における「リンカー部分」としては、上記ヘマグルチニン結合能を有するレセプター擬似シアロ糖鎖部分と、以下に説明する疎水性部分と、ポリマー部分とをつなぐ役割を果たすものであればよく、すなわちこれらの3者を結合するため少なくとも3つの反応点を有するものであればよい。かかるリンカー部分の長さとしては好ましくは1オングストローム以上、より好ましくは3オングストローム以上、さらに好ましくは5オングストローム以上であれば良く、前記3者各々と、官能基により、化学反応などにより結合する。官能基としては、アミノ基、アジド基、カルボキシル基、アセチレン基、チオール基、アルデヒド基、ヒドロキシ基、α,β−不飽和エステル及びα,β−不飽和アミドを含むα,β−不飽和カルボニル基などを例示することができ、各構成部分と化学反応により適切に結合しうる組み合わせであれば良い。具体的には、本発明のリンカー部分としては、リジン、オルニチン、2,6−ジアミノヘキサン酸、3,5−ジアミノ安息香酸、3,4−ジアミノ安息香酸、1,2−ジアミノヘキサンカルボン酸などを挙げることができ、中でも、3官能性アミノ酸のアミノ酸残基として、例えば、リジン、オルニチンなどを好適に用いることができる。
本発明の化合物における「疎水性部分」としては、疎水性相互作用により本発明の化合物同士や本発明の化合物とインフルエンザウイルスとの結合が増強される限り特に制限されず、具体的には、ステロイド化合物、分岐構造や不飽和結合を有しても良いアルキル基等を例示することができ、コレステロール、コレスタン酸、コール酸、又は、炭素数1〜50、より好ましくは炭素数1〜40、さらに好ましくは炭素数3〜35のアルキル基を好適に例示することができる。分岐構造や不飽和結合の個数及び位置は特に限定されず、また、そのようなアルキル基が他の分子、例えばグリセロール、ヒドロキシ酢酸、ヒドロキシプロピオン酸、エチレングリコール、エタノールアミン、アミノ酸を含む多官能性化合物などに結合していても良い。前記アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第二級ブチル、第三級ブチル、イソブチル、アミル、イソアミル、第三級アミル、ペンチル、ヘキシル、へプチル、2−ヘプチル、イソヘプチル、第三級ヘプチル、n−オクチル、イソオクチル、第三級オクチル、2-エチルヘキシル、ノニル、イソノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコシル、ベヘニル、トリコシル等の直鎖型又は分岐型のアルキル基などを挙げることができる。また、かかる疎水性部分はリンカー部分の官能基と化学反応などにより結合するための官能基を有し、官能基としては例えばアミノ基、アジド基、カルボキシル基、アセチレン基、チオール基、アルデヒド基、ヒドロキシ基、α,β−不飽和エステル及びα,β−不飽和アミドを含むα,β−不飽和カルボニル基などを例示することができる。中でも、好ましくはアミノ基とアミド結合を形成するカルボキシル基挙げることができる。
本発明の化合物は、それぞれ独立したヘマグルチニン結合能を有するレセプター擬似シアロ糖鎖部分と、リンカー部分と、疎水性部分と、ポリマー部分とを材料として、これらを順次結合することにより合成することも、あらかじめ複数部分を一体として合成した部分化合物同士や、部分化合物と他の部分とを結合することにより合成することもできる。また、各部分は、1分子として合成されたものであっても、複数分子を組み合わせて合成されたものであってもよく、例えば完成して初めて各部分を成すものであってもよく、完成化合物がリンカー部分を介して、ヘマグルチニン結合能を有するレセプター擬似シアロ糖鎖部分と、疎水性部分と、ポリマー部分とが結合したものであればよい。例えば、図2で示されるように、ブロック2、11、18の3つの化合物からターゲット1の化合物のように本発明の化合物を合成することも、ブロック2、11、18、5の4つの化合物からターゲット2の化合物のように本発明の化合物を合成することもできる。
本発明の化合物は、当業者に良く知られている標準的な化学的方法にて調製すればよい。各構成要素の結合は、各要素がもつ官能基の種類等により適宜選択され、適宜官能基の保護や脱保護等の工程を含むことができる。以下に、本発明の化合物の一般的な合成方法を例示するが、本発明の化合物の合成方法としては、これに限定されるものではない。本発明の化合物中の各部位は、式(IV)で示されるレセプター擬似シアロ糖鎖部分、
式(V)で示される疎水性部分、
式(VI)で示されるポリマー部分、
式(VII)で示されるリンカー部分、
で表すことができ、それぞれが有する結合性官能基R、R、R、R1a、R2a及びR3aはR−R1a、R−R2a、R−R3aの結合を形成することができる基である。また、レセプター擬似シアロ糖鎖部分の反応性官能R、疎水性部分の反応性官能R、ポリマー部分の反応性官能R、リンカー部の反応性官能基R1a、R2a及びR3aは、例えば表1に示された結合性官能基とし、表1に示されたR−R1a、R−R2a、R−R3aの結合を形成することができる。R、R、R、R1a、R2a及びR3aは、RとR1a、RとR2a、及びRとR3aが表1に示される結合を形成できる組み合わせであれば、同じ官能基が複数個所で用いられても、全て異なる官能基であってもよい。反応に関わる官能基R、R、R、R1a、R2a及びR3aがアミノ基(−NH)である場合、これらはカルボキシル基(−COOH)又はアルデヒド基(−CHO)と反応し、アミド又はイミンを形成することができる。
アミノ基の保護基としては、メチルカルバメート、エチルカルバメート、9−フルオレニルメチルカルバメート(Fmoc)及びFmoc誘導体に代表されるカルバメート類や、フタルイミド、4−ニトロフタルイミド等のフタルイミド類等を挙げることができるが、保護基の導入のしやすさ、除去のしやすさの点からFmocが好ましい。また、アジド基は、トリフェニルホスフィン等のホスフィン化合物を還元剤として用いるシュタウディンガー反応や、ヒドロホウ素化ナトリウム等の温和なヒドリドを用いて還元することで、対応するアミノ基へと容易に変換することができるため、アジド基をアミノ基の前駆体として用いることもできる。
アミドの形成方法としては、アミノ基を持つ部位とカルボキシル基を持つ部位とN−ヒドロキシスクシニミド、N−ヒドロキシフタルイミド、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール等のカルボキシル基の活性化剤をジクロロメタンやN,N−ジメチルホルムアミド等の有機溶媒に溶解させ、ジシクロヘキシルカルボジイミドや1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドやその塩酸塩等の脱水剤を共存させ反応させることによって、目的のアミド形成を行う方法を挙げることができる。この他にも、あらかじめカルボキシル基をN−ヒドロキシスクシニミド、N−ヒドロキシフタルイミド、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール等との活性エステルとした後に、アミンと有機溶媒中で反応させることで、アミドの形成を行うこともできる。
イミンの形成方法としては、アミノ基を持つ部位とカルボキシル基を持つ部位とをジクロロメタンやトルエンなどの有機溶媒に溶解させ、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、アルミナ等の脱水剤を共存させることで脱水縮合反応を行い、目的のイミンを形成する方法が挙げられる。この他にも、アミノ基を持つ部位とカルボキシル基を持つ部位とをベンゼンやトルエン等の芳香族系溶媒に溶解し、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、カンファースルホン酸等の不揮発性の酸を触媒として用い、ディーン・スターク反応装置を用いることで脱水縮合することにより、目的のイミンを形成することができる。
反応に関わる官能基R、R、R、R1a、R2a又はR3aのいずれかがアジド基(−N)である場合、これらはアセチレン基と反応し、1,2,3−トリアゾールを形成することができる。また、アジド基は安定な官能基であるので、通常保護基を必要としない。
1,2,3−トリアゾールの形成反応としては、アジド基を持つ部位とアセチレン基を持つ部位とを有機溶媒又は水中に溶解することで、これらの官能基が1,3−双極子環化付加反応(フィスゲン反応)することで、目的の1,2,3−トリアゾールを形成する方法を挙げることができる。この反応は触媒がなくても進行するが、1価の銅イオンを触媒とすることで速やかに反応が完結する(クリックケミストリー)。
反応に関わる官能基R、R、R、R1a、R2a又はR3aのいずれかがカルボキシル基(−COOH)である場合、これらはアミノ基(−NH)又はヒドロキシル基(−OH)と反応し、アミド又はエステルを形成することができる。
カルボキシル基の保護基としては、メチルエステル、9−フルオレニルメチルエステル、メトキシメチルエステル、メチルチオメチルエステル、ベンジルオキシメチルエステル、トリクロロエチルエステル、トリメチルシリルエチルエステル、テトラヒドロフラニルエステル、tert−ブチルエステル等のエステル類や、tert−ブチルジメチルシリルエステル、tert−ブチルジフェニルシリルエステル、トリイソプロピルシリルエステル等のシリルエステル類等を挙げることができる。アミドの形成方法としては上述の通りである。
エステルの形成方法としては、カルボキシル基を持つ部位とヒドロキシル基を持つ部位とをジクロロメタンやN,N−ジメチルホルムアミド等の有機溶媒に溶解させ、カルボキシル基の活性化剤、及び触媒としての4−N,N−ジメチルアミノピリジンの共存下で反応を行うことで、目的のエステルを形成する反応を挙げることができる。カルボキシル基の活性化剤としては、ジシクロヘキシルカルボジイミドや1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドやその塩酸塩等のカルボジイミド類、2,4,6−トリクロロ塩化ベンゾイル(山口法)、1−メチル−6−ニトロ安息香酸(椎名法)、2−ハロ−N−アルキルピリジニウム塩(向山縮合試薬)等の活性化剤を用いることができ、必要に応じてトリブチルアミン等の有機塩基を適宜用いても良い。
反応に関わる官能基R、R、R、R1a、R2a又はR3aのいずれかがチオール基(−SH)である場合、これらは、結合パートナーのチオール基(−SH)と反応し、ジスルフィド結合を形成することができる。また、チオール基は、α,β−不飽和エステル及びα,β−不飽和アミドを含むα,β−不飽和カルボニル基(−COCHCH=CH)とマイケル反応により、スルフィドを形成することが出来る。チオール基は安定な官能基であるので、通常保護基を必要としない。
ジスルフィド結合の形成方法としては、二つのチオール基を持つ部位を溶媒中で混合し、酸化することによってジスルフィド結合を形成させても良いが、この場合、望みでないホモダイマーの形成を避けることが出来ない。そのため、一方のチオール基を持つ化合物を1−クロロベンゾトリアゾールで活性化した後に、もう一方のチオール基を持つ化合物とベンゾトリアゾールを反応溶液に加えることで、選択的に望みのジスルフィド結合を形成することができる。この際、過剰量のチオウレアを添加することで、効率よく反応を進行させることもできる。
スルフィドの形成方法としては、チオール基を持つ部位とα,β−不飽和カルボニル基を持つ部位とを、有機溶媒中、ルイス酸触媒の存在下、反応させることによって、望みのスルフィド結合を形成することができる。
反応に関わる官能基R、R、R、R1a、R2a又はR3aのいずれかがヒドロキシル基(−OH)である場合、これらは、カルボキシル基(−COOH)と反応し、エステルを形成することができる。
ヒドロキシル基の保護基としては、メトキシメチルエーテル、メチルチオメチルエーテル、4−メトキシベンジルメチルエーテル、o−ニトロベンジルオキシメチルエーテル、トリクロロエトキシメチルエーテル、テトラヒドロピラニルエーテル、アリルエーテル、ベンジルエーテル、4−メトキシベンジルエーテル等のエーテル類、トリメチルシリルエーテル、トリエチルシリルエーテル、トリイソプロピルシリルエーテル、tert−ブチルジメチルシリルエステル、tert−ブチルジフェニルシリルエステル等のシリルエーテル類、アセチルエステルやピバロイルエステル等のエステル類、9−フルオレニルメチルエステルカルボネート、ビニルカルボネート、2−(トリメチルシリル)エチルカルボネート、2,2,2−トリクロロエチルカルボネート、tert−ブチルカルボネート等の炭酸エステル類を挙げることができる。エステルの形成方法としては上述の通りである。
反応に関わる官能基R、R、R、R1a、R2a又はR3aのいずれかががアルデヒド基(−CHO)である場合、これらは、アミノ基(−NH)と反応し、イミンを形成することができる。アルデヒド基は通常安定であるために、保護基を必要としないが、保護基を用いるとすれば、1,2−エタンジオール、1,3−プロパンジオール、2−トリメチルシリル−1,3−プロパンジオール、o−カテコール等のジオール類を用いて対応するアセタールへと導く方法がある。イミンの形成方法としては上述の通りである。
反応に関わる官能基R、R、R、R1a、R2a又はR3aのいずれかがアセチレン基である場合、これらは、アジド基(−N)と反応し、1,2,3−トリアゾールを形成することができる。アセチレン基は通常安定であるために保護基を必要としない。1,2,3−トリアゾールの形成方法としては上述の通りである。
反応に関わる官能基R、R、R、R1a、R2a又はR3aのいずれかが、α,β−不飽和エステル及びα,β−不飽和アミドを含むα,β−不飽和カルボニル基(−COCHCH=CH)である場合、これらは、チオール基(−SH)と反応し、スルフィドを形成することができる。α,β−不飽和カルボニル基は通常安定であるために保護基を必要としない。スルフィドの形成方法としては上述の通りである。
本発明の化合物としては、例えば下記の式(II)を例示することができる。
式中、PGAは式(III)
を表し、(m+1)n=50〜1000に当てはまるm及びnが望ましい。m及びnは整数である。これらは、以下の方法や実施例に記載の方法で合成することが出来る。
また、本発明の化合物は、以下の方法で合成することもできる。例えば下記の図2のブロック2とブロック11のカップリングは、ブロック11のカルボキシル基をN−ヒドロキシスクシニミド、N−ヒドロキシフタルイミド、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール等との活性エステルに導いた後に、ブロック2と反応させることで、ブロック2とブロック11からなるアミド誘導体(ブロック[2+11])を得ることができる。式(VIII)にはN−ヒドロキシスクシニミド用いたブロック2とブロック11のカップリングを示した。
また、ブロック[2+11]は、ブロック2とブロック11と1−ヒドロキシベンゾトリアゾールとをジクロロメタン等の溶媒に溶解し、そこにジシクロヘキシルカルボジイミド等の脱水剤を添加し、これらを脱水縮合することで得ることもできる。
この、ブロック[2+11]は、リジン由来のNωがFmocで保護されているので、このFmoc基をアミンで除去することで、ブロック[2+11]の脱Fmoc体を得ることができる。この反応に用いるアミンは、特に制限はないが、好適にはトリエチルアミン、ピペリジン、ピペラジン及びモルホリンを挙げることができる。こうして得たブロック[2+11]の脱Fmoc体は、ブロック18に対応するポリグルタミン酸ナトリウムを4-(4,6-Dimethoxy-1,3,5-triazin-2-yl)-4-methylmorpholinium Chloride(DMTMM)を用いて活性化させることで、効率よく反応させることができ、式(IX)に示すように、目的化合物(ブロック[2+11+18])を得ることができる。このとき、反応中でのブロック[2+11]とブロック18との混合比を変えることで、糖鎖導入率が異なる化合物を合成することができる。
ブロック[2+11]とブロック18とのカップリングについても、上記の例に限られるものではなく、例えば、ブロック[2+11]の脱Fmoc体と、あらかじめカルボキシル基がN−ヒドロキシスクシニミドで活性化されているブロック18反応させることで、目的化合物(ブロック[2+11+18])を得ることができる。また、ブロック[2+11]の脱Fmoc体と、N−ヒドロキシスクシニミドで活性化されていないブロック18に対応するポリマーとをジクロロメタン等の溶媒に溶解し、そこにジシクロヘキシルカルボジイミド等の脱水剤を添加し、これらを脱水縮合することでブロック[2+11+18]を得ることもできる。
その他に、本発明の化合物として例えば以下の式(X)で表されるリンカー部と糖鎖部の間にポリエーテルを含むスペーサーを介する化合物を挙げることができ、以下の方法で合成することができる。
式中、PGAは式(III)
を表し、m及びnは整数であって、(m+1)nは好ましくは50〜1000、さらに好ましくは300〜800、さらに好ましくは400〜700、最も好ましくは500〜600である例を挙げることができる。中でも(m+1)nが560程度である化合物を好適に例示することができ、以下の方法で合成することができる。
図2のブロック5とブロック11のカップリングは、ブロック5のアジド基を(a)トリフェニルホスフィン等のホスフィン化合物を還元剤として用いるシュタウディンガー反応や、(b)ヒドロホウ素化ナトリウム等の温和なヒドリドを用いて還元することで、対応するアミンへと還元する。このアミンとブロック11と1−ヒドロキシベンゾトリアゾールとをジクロロメタン等の溶媒に溶解し、そこにジシクロヘキシルカルボジイミド等の脱水剤を添加し、これらを脱水縮合することで、式(XI)に示すように、ブロック5とブロック11からなるアミド誘導体(ブロック[5+11])を得ることができる。
前述のように、ブロック11のカルボキシル基をN−ヒドロキシスクシニミド、N−ヒドロキシフタルイミド、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール等との活性エステルに導いた化合物を、ブロック5を還元したアミンと反応させることで、ブロック[5+11]を得ることもできる。
また、ブロック[5+11]は、カルボキシル基がメチルエステルとなっているため、これを水酸化リチウム、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムなどの塩基を用いて選択的に加水分解し、ブロック[5+11]の脱メチル体を得ることができる。この際、好適な条件としては、水酸化リチウム水溶液を塩基として用い、THF中にて低温で反応することを挙げることができる。こうして得たブロック[5+11]の脱メチル体とブロック2と1−ヒドロキシベンゾトリアゾールとをジクロロメタン等の溶媒に溶解し、そこにジシクロヘキシルカルボジイミド等の脱水剤を添加し、これらを脱水縮合することで、式(XII)に示すように、ブロック2とブロック[5+11]からなるアミド誘導体(ブロック[2+5+11])を得ることができる。
この、ブロック[2+5+11]のNωがFmoc基を、上述のようにアミンで除去し、ブロック18に対応するポリグルタミン酸ナトリウムを4-(4,6-Dimethoxy-1,3,5-triazin-2-yl)-4-methylmorpholinium Chloride(DMTMM)を用いて活性化させることで、効率よく反応させることができ、式(XIII)に示すように、目的化合物(ブロック[2+5+11+18])を得ることができる。同様にして、反応物の混合比を変えることで、糖鎖導入率が異なる化合物を合成することができる。
本発明の化合物の塩としては、生体に投与した際に毒性がなければ良く、酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩等が挙げられ、酸付加塩としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の各無機酸塩、金属塩としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等の各アルカリ金属塩、マグネシウム、カルシウム等の各アルカリ土類金属塩、アルミニウム、亜鉛等の各金属塩が、アンモニウム塩としては、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム等の各塩が、有機アミン塩としては、トリエチルアミン、ピペリジン、モルホリン、トルイジンなどの塩の形態を例示することができ、水和物や溶媒和物として存在していてもよい。また、本発明の化合物は、水酸基、カルボキシル基、アミノ基などが適宜の保護基で保護されていてもよい。このような保護基は特に限定されず、当業者に利用可能なものならばいかなるものを用いてもよい。さらに、本発明の化合物は光学活性体やジアステレオ異性体などの純粋な形態の異性体、又はそれらの任意の混合物(例えばラセミ体やジアステレオ異性体混合物)として存在していてもよい。ここで説明した物質はいずれも本発明の範囲に包含される。
本発明の化合物又はその塩は、ウイルスとの結合後にウイルスの生体内及び細胞内移動、細胞内移行又は局在化等を視覚的に追跡できるように蛍光性官能基を有していてもよい。このような蛍光性官能基はいずれの部分に付加されていてもよいが、例えば、スペーサー部分に導入されていることが好ましい。蛍光性官能基の種類は特に限定されないが、例えば、BODIPY基(4,4-difluoro-5,7-dimethyl-4-bora-3α,4α-diaza-s-indacene-3-propionic acid)、rhodamine、Cy3、Cy5、FITCなどを用いることができる。
本発明の化合物又はその塩は、リンカー部分を介して結合した、HA結合能を有するレセプター擬似シアロ糖鎖部分と、疎水性部分と、ポリマー部分とからなる化合物又はその塩であって、以下の3ステップにより効果的にインフルエンザウイルスを阻害することができる(図14)。
ステップ1)HA機能の阻害:HA結合能を有するレセプター擬似シアロ糖鎖部分が、HAレセプター結合ポケットと特異的に結合;
ステップ2)結合の増強:疎水性相互作用による、インフルエンザウイルスと本発明の化合物の結合;
ステップ3)空間的阻害:ポリマー部分が、疎水性相互作用によってNAスパイクなどウイルス粒子を取り囲み阻害;
このように、本発明の化合物又はその塩は、全てのA型インフルエンザウイルスへマグルチニン亜型(H1−H16)及びノイラミニダーゼ亜型(N1−N9)、並びに全てのB型インフルエンザウイルスに共通した天然のレセプターである、シアロ糖鎖レセプターの疑似分子である。そのため、現在および過去に流行した全てのA,B型インフルエンザウイルスに対して吸着能を持つのみならず、今後、流行するかもしれない全ての新型のA型及びB型インフルエンザウイルスに対しても強い吸着能を有する。また、本発明の化合物又はその塩は、ウイルスのヘマグルチニン(HA)に結合するだけでなくウイルス表面にまとわりつくことによって、ヘマグルチニンスパイク機能の阻害に加えて、ノイラミニダーゼ(NA)スパイクのシアリダーゼ活性も強く阻害する(図14)。HA及びNAを阻害することにより、ウイルスの細胞表面への吸着、ウイルスの出芽、ウイルスの感染等の複数の機構を阻害することができる。HA及びNAへの変異が同時に生じることは極めてまれであるため、HA及びNAを阻害する本発明の化合物は、耐性株が極めて出来にくい設計の化合物であるといえる。したがって本発明の化合物は、インフルエンザ変異株に対しても効果を有すると考えられる。
また、本発明の化合物のレセプター擬似シアロ糖鎖部分が、インフルエンザウイルスのシアリダーゼによってシアル酸が切断されても、露出したガラクトース残基は、宿主のマクロファージによって捕捉され、ウイルス自体がマクロファージにより貪食されるために、宿主内での増殖を抑制することができる。
したがって、本発明の化合物又はその塩は、インフルエンザウイルスヘマグルチニン機能阻害剤や、インフルエンザウイルスシアリダーゼ阻害剤や、インフルエンザウイルスヘマグルチニン機能及びシアリダーゼ阻害剤や、インフルエンザウイルス感染阻害剤や、インフルエンザウイルスの細胞表面への吸着阻害剤や、インフルエンザウイルス出芽阻害剤や、インフルエンザウイルスの感染、吸着及び出芽阻害剤(これらを以下、「本発明の阻害剤」ということもある。)や、インフルエンザ予防及び/又は治療薬(以下、「本発明の予防又は治療薬」ということもある。)として利用することができる。本発明の化合物又はその塩は、同時にHA機能及びNAを阻害しうることから、中でも、インフルエンザウイルスヘマグルチニン機能及びシアリダーゼ阻害剤として好適に利用することができる。また、本発明の化合物は、上記3ステップの効果を有し、インフルエンザウイルスの感染、吸着及び出芽いずれのステップをも阻害することができることから、インフルエンザウイルスの予防及び治療のいずれにも効果を有する。したがって、本発明の化合物又はその塩は、インフルエンザ予防薬や、インフルエンザ治療薬や、インフルエンザ予防及び治療薬、すなわちインフルエンザ予防及び/又は治療薬として好適に利用することができる。本発明の化合物又はその塩は、HA機能及びNAを阻害することにより、ウイルスの宿主細胞への吸着、出芽、及び感染を阻害することができ、NA阻害剤である従来抗インフルエンザ薬タミフルやリレンザよりも効果的に、インフルエンザを予防及び/又は治療することができる。
また、別の様態として、本発明は、本発明の化合物又はその塩を、本発明の阻害剤や、インフルエンザ予防及び/又治療薬として使用する方法や、インフルエンザウイルスヘマグルチニンを阻害するための本発明の化合物又はその塩や、インフルエンザウイルスシアリダーゼを阻害するための本発明の化合物又はその塩や、インフルエンザウイルスヘマグルチニン及びシアリダーゼを阻害するための本発明の化合物又はその塩や、インフルエンザウイルスの感染を阻害するための本発明の化合物又はその塩や、インフルエンザウイルスの吸着を阻害するための本発明の化合物又はその塩や、インフルエンザウイルスの出芽を阻害するための本発明の化合物又はその塩や、インフルエンザウイルスの感染、吸着及び出芽を阻害するための本発明の化合物又はその塩や、インフルエンザを予防、インフルエンザを治療、又はインフルエンザを予防及び治療するための本発明の化合物又はその塩等も含む。
本発明の化合物又はその塩や、本発明のインフルエンザ予防又は治療薬や本発明の阻害剤の適用対象は、HA結合能を有するレセプター擬似シアロ糖鎖部分と結合するレセプタータンパク質を有するウイルスであればよく、インフルエンザウイルスを好適に例示することができる。インフルエンザウイルスとしては、A型、B型、C型いずれでも良く、A型及びB型を好適に例示することができ、インフルエンザウイルスのHA型やNA型も特に制限されない。また対象となるウイルスは、ヒトに感染できるものであればよく、他にブタやトリへの感染能力を有するウイルスでもよい。投与対象は、ヒトへの感染能を有するインフルエンザウイルスに感染する可能性のある、又は感染したことが予想される、あるいは感染した哺乳類、例えば、ヒト、サル、ブタ、イヌ、ウマ、ヒツジ、ネコ、ウサギ、ラット、マウス、ハムスター、フェレットなどの生体を挙げることができ、好ましくはヒトである。また、本発明の阻害剤は、前記投与対象として挙げた個体から単離した体液、組織、細胞などの生体サンプルに投与することができる。上記レセプター擬似シアロ糖鎖部分で認識できるものであれば、ウイルスやバクテリアなどの微生物感染症に用いることも可能であり、このためにレセプター擬似シアロ糖鎖部分を適宜選択することもできる。
本発明のインフルエンザ予防又は治療薬や、本発明の阻害剤としては、本発明の化合物又は生理学的に許容されるその塩を単独で用いてもよいが、薬理学的及び製剤学的に許容しうる製剤用添加物・担体を用いて本発明の化合物又はその塩を有効成分として含む医薬組成物とすることが好ましい。本発明のインフルエンザ予防又は治療薬や、本発明の阻害剤の生体への投与経路は特に制限されず、経口投与の他、注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤、経粘膜吸収剤、経皮吸収剤、点鼻剤、点耳剤などを用いて非経口的に投与することもできる。本発明のインフルエンザ予防又は治療薬は、経口投与とする場合は、錠剤、カプセル剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、またはシロップ剤などの経口投与用製剤として調製することができる。さらに本発明の阻害剤を、体液、組織、細胞等の生体サンプルへ投与する場合は、生体サンプルへ直接添加することも、また細胞培養液や組織保存液等へ添加することができる。かかる生体サンプルは、防腐剤、緩衝液、pH調整剤等を添加されていても良い。本発明のインフルエンザ予防又は治療薬や、本発明の阻害剤の剤形は特に制限されず、保存性や操作の容易性から適宜選択することができ、粉末、錠剤、液体等を挙げることができる。粉末や錠剤の場合は適宜溶媒へ溶解して液体に調製することができる。
本発明のインフルエンザ予防又は治療薬や、本発明の阻害剤における、薬理学的及び製剤学的に許容しうる製剤用添加物・担体としては、例えば、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機物質が挙げられ、例えば賦形剤、滑沢剤、pH調整剤、結合剤、崩壊剤、溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤、吸収促進剤等の基材が挙げられる。また水、水溶液または水混和性液体、例えば、グリセリンまたはポリエチレングリコール等を用いることができる。本発明のインフルエンザ予防又は治療薬や、本発明の阻害剤の投与量は、投与対象の個体の健康状態、症状、他の合併症状の有無、体質、年齢、予防や治療の目的など種々の条件に応じて適宜増減することができ、かかる投与量は1〜複数回に分けて投与することもでき、また投与期間も前記症状等に応じて適宜選択することができる。本発明のインフルエンザ予防又は治療薬の投与量としては、一日あたり、0.001μg/kg体重〜1g/kg体重、好ましくは0.01μg/kg体重〜100mg/kg体重、より好ましくは0.1μg/kg体重〜10mg/kg体重を例示することができる。また、本発明のインフルエンザ予防又は治療薬や本発明の阻害剤の生体サンプルへの投与量、投与回数、投与期間も適宜調整することができ、一日あたり、0.1pM〜1mM、好ましくは1pM〜100μM、より好ましくは0.1nM〜10μMを例示することができる。
本発明の他の様態として、本発明の化合物又はその塩を有効成分とするインフルエンザウイルスの吸着剤や、本発明の化合物又はその塩を担持させたインフルエンザウイルスの吸着材を挙げることができる。上記本発明のインフルエンザウイルスの吸着剤は、通常、単体で用いる、溶液タイプの吸着剤として用いられる他、前記本発明のインフルエンザウイルスの吸着材の原料として用いられる。溶液タイプの吸着剤を調製するための媒質としては、本発明の化合物又はその塩が溶解する限りいかなる媒質を用いることができるが、具体的には水、低級アルコール、エチレングリコールや、これらの混合溶液が挙げられる。なかでも、水とエタノールの混合溶液又は水とイソプロパノールの混合溶液を媒質として用いることが好ましい。溶液中の本発明の化合物又はその塩の濃度は、インフルエンザウイルスを吸着できる限り特に限定されないが、例えば、0.00001〜0.01重量%、好ましくは0.00005〜0.005重量%、より好ましくは0.0001〜0.001重量%である。このインフルエンザウイルス吸着用の溶液には、必要に応じて、分散剤、香料、着色料、抗酸化剤等を含めることができる。
インフルエンザウイルス吸着用溶液の使用方法としては、この溶液をスプレー等で噴霧し、空気中に浮遊するインフルエンザウイルスを吸着、除去する方法や、この溶液にインフルエンザウイルスを含む空気をバブリングし、インフルエンザウイルスを除去した清浄な空気を取りだす方法を例示することができる。
このインフルエンザウイルス吸着用の溶液を用いて、本発明の化合物又はその塩を基剤に担持させたインフルエンザウイルスの吸着材を製造することもできる。例えば、布、紙、木材等の基剤をこの溶液に浸漬することによって、これら布、紙、木材等の基剤を本発明の化合物又はその塩を担持させたインフルエンザウイルスの吸着材とすることができる。こうして得たインフルエンザウイルス吸着材を原材料として、フィルタ、マスク、タオル、布地、カーテン、壁紙、建材等の製品を製造することができる。他方、インフルエンザウイルス吸着用の溶液を含浸することができないような基材、たとえば、プラスチック、金属、ガラス等の基材には、この溶液をスプレー、塗布等によりコーティングすることにより、本発明の化合物又はその塩を担持させることができる。本発明の化合物はポリマー部分を有するため、基材の表面と静電的に相互作用することから容易に担持させることができる。
また、本発明の化合物又はその塩を高分子化合物に担持させたインフルエンザウイルスの吸着材を製造することもできる。かかる担持の形態としては、本発明の化合物又はその塩と高分子化合物との共有結合による担持や、高分子化合物の表面と本発明の化合物又はその塩のポリマー部分とが非共有結合的に相互作用することによって付着させる担持を挙げることができる。そのような高分子化合物としては、いかなる高分子化合物をも用いることができるが、例えば、アクリル酸エステル、アクリル−スチレン共重合体、アクリル−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル系共重合体、アクリル−シリコーン−アクリル樹脂系、エチレン−塩化ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、あるいはエポキシ系、ウレタン系、メラミン系などのポリマーを具体的には挙げることができる。当業者は、目的とする使用状態及び使用状況に応じて、適宜好ましい高分子化合物を選択することができる。
本発明の化合物又はその塩と高分子化合物との共有結合による担持形態の場合、前述したように、かかる高分子化合物(ポリマー)を本発明の化合物の「ポリマー部分」とすることができる。本発明の化合物又はその塩と高分子化合物とを共有結合させるには、例えば、高分子化合物を構成する単量体と本発明の化合物又はその塩のポリマー部分を重合することにより行うことができる。この他にも、高分子化合物表面の反応性官能基と本発明の化合物又はその塩を反応させることで共有結合させることも可能である。
高分子化合物に本発明の化合物又はその塩が担持されたインフルエンザウイルスの吸着材は、例えば、塗料、プラスチック材料、合成繊維等として用いることができる。例えば、塗料として用いる場合には、塗膜がインフルエンザウイルスの吸着材として機能する。プラスチック材料として用いる場合には、表面がインフルエンザウイルスの吸着材として機能する。合成繊維として用いる場合には、インフルエンザウイルスの吸着作用を有するフィルタ、マスク、タオル、カーテン等として利用される。
また本発明の化合物又はその塩は、インフルエンザウイルスに対するヒト型レセプターの擬似シアロ糖鎖部分を有する。そのため、鳥インフルエンザウイルスがヒト型レセプターへの結合性を変異によって獲得したことをモニタリングするデバイス(キット)として利用することもできる。また、様々なウイルス混合物の中から、ヒト型レセプターのシアロ糖鎖への結合性を持つウイルスや微生物のみを選択的に吸着、分離精製する素材としての用途もある。さらに蛍光分子や高分子に結合することで、インフルエンザウイルスと結合した本発明の化合物又はその塩の生体内、細胞内移動、局在を調べる素材として、用いることができる。
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は実施例によって限定されることはない。
以下の方法で本発明の化合物、Neu5Acα(2−6)Galβ(1−4)GlcNAcon PGA(糖鎖導入率:5%)を製造した。合成スキームを以下に示す。
[化合物3の合成]
上記化合物1(450mg、0.627mmol/東京化成工業製)と化合物2(750mg、0.987mmol/東京化成工業製)をDMF/MeOH(1/1、60ml)に溶解し、18時間攪拌した。反応終了をTLC(AcOEt/MeOH/HO/AcOH=4/2/1/0.5)にて確認後、減圧濃縮した。得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(CHCl/MeOH=3/1→2/1→1/1)に供し、上記化合物3(273mg、32%)を得た。
化合物3のRf値:0.63(AcOEt/MeOH/H2O/AcOH=4/2/1/0.5)HPTLCplates , Silica gel 60 F254による。化合物3のNMRスペクトルを図3に示す。
[化合物4の合成]
化合物3(260mg、0.191mmol)をMeOH(12ml)に溶解し、EtN(0.6ml)を加え、20時間攪拌した。反応終了をTLC(AcOEt/MeOH/HO/AcOH=4/2/1/0.5)にて確認後、減圧濃縮した。得られた残渣をゲルろ過カラムクロマトグラフィー(LH−20、MeOH)に供し、化合物4(211、mg、97%)を得た。
[化合物5の合成]
化合物4(158mg、0.139mmol)とポリグルタミン酸Na(平均分子量84,600、419mg、2.77mmol(グルタミン酸Naとして))をHO(100ml)に溶解し、THF(50ml)及びDMTMM:4-(4,6-Dimethoxy-1,3,5-triazin-2-yl)-4-methylmorpholinium Chloride(385mg、1.39mmol)を加え、2時間攪拌した。反応終了をTLC(AcOEt/MeOH/HO/AcOH=4/2/1/0.5)にて確認後、EtOHを加えて減圧濃縮した。得られた残渣を5%NaHCO水溶液(80ml)に溶解し、ゲルろ過カラムクロマトグラフィー(G−25、MeOH)に供し、化合物5(530mg、92%)を得て、本発明の5%の糖鎖を含有するポリマー性化合物(以下、「糖鎖導入率5%のポリグルタミン酸化合物」ともいう)を得た。
同様の方法において、化合物4を0.0278mol使用することにより本発明の1%の糖鎖を含有するポリマー性化合物を、化合物4を0.278mol使用することにより本発明の10%の糖鎖を含有するポリマー性化合物を得た。
実施例1により合成した糖鎖導入率1%、5%、10%のポリグルタミン酸(ポリマー性)化合物をNMR及びキャピラリー電気泳動により確認した。糖鎖1%導入ポリグルタミン酸化合物とポリグルタミン酸のキャピラリー電気泳動結果を図4に、糖鎖1%導入ポリグルタミン酸化合物とポリグルタミン酸のH−NMRの結果を図5に示す。H−NMRにおいて、Lysに導入したアラキジン酸の末端メチルとグルタミン酸α−Hの各シグナル強度比が0.03H(CH3):1Hであった。このことより、糖鎖導入率が1%であることが支持された。電気泳動において、テーリングは見られず、原料であるPGAとは明らかな差異が見られた。糖鎖導入率1%ポリグルタミン酸の特徴を以下に示す。
・糖鎖導入量:1分子あたり5.8個(=560Glu×5%)
・平均分子量:116,520(=84,600+(1140×28))
・1μgあたりの糖鎖モル数:1[μg]/116,520×5.6[Glu]=6.15×10−5[μmol]
糖鎖5%導入ポリグルタミン酸化合物(糖鎖導入率5%ポリグルタミン酸化合物 )とポリグルタミン酸のキャピラリー電気泳動結果を図6に、糖鎖5%導入ポリグルタミン酸化合物とポリグルタミン酸のH−NMRの結果を図7に示す。H−NMRにおいて、Lysに導入したアラキジン酸の末端メチルとグルタミン酸α−Hの各シグナル強度比が0.18H(CH3):1Hであった。このことより、糖鎖導入率が約5%であることが支持された。電気泳動において、糖鎖導入率が上がりテーリングする傾向が見られた。また、原料であるPGAとはわずかな差異が見られた。糖鎖導入率5%ポリグルタミン酸化合物の特徴を以下に示す。
・糖鎖導入量:1分子あたり28個(=560Glu×5%)
・平均分子量:116,520(=84,600+(1140×28))
・1μgあたりの糖鎖モル数:1[μg]/116,520×28[Glu]=2.40×10−4[μmol]
糖鎖10%導入ポリグルタミン酸化合物とポリグルタミン酸のキャピラリー電気泳動結果を図8に、糖鎖10%導入ポリグルタミン酸化合物とポリグルタミン酸のH−NMRの結果を図9に示す。H−NMRにおいて、Lysに導入したアラキジン酸の末端メチルとグルタミン酸α−Hの各シグナル強度比が0.32H(CH3):1Hであった。このことより、糖鎖導入率が10%であることが支持された。電気泳動において、糖鎖導入率が上がりテーリングする傾向が見られた。また、原料であるPGAとは明らかな差異が見られた。糖鎖導入率10%ポリグルタミン酸化合物の特徴を以下に示す。
・糖鎖導入量:1分子あたり28個(=560Glu×5%)
・平均分子量:116,520(=84,600+(1140×56))
・1μgあたりの糖鎖モル数:1[μg]/116,520×56[Glu]=3.77×10−4[μmol]
なお、1μg中の糖鎖のみの重量(NeuLacNAc、分子量674)は、前記導入率1%、5%、10%でそれぞれ0.04μg、0.16μg、0.25μgであった。
以下、糖鎖導入率1、5、又は10%のポリグルタミン酸化合物である本発明の化合物を、単に糖鎖導入率1、5、又は10%のポリグルタミン酸化合物とも記載する。
本発明の化合物の性質を以下の方法で調べた。
[実験材料]
1)ウイルス
ウイルスはA型2009年パンデミック株A/Narita/1/2009 (H1N1)、季節性ウイルスであるA香港型株A/Yamaguchi/20/2006 (H1N1)及びAソ連型A/Aichi/75/2008 (H3N2)、B型臨床分離株B/Aichi/3/2008 (64HAU)を用いた。Seed virusを5%Fetal bovine serum(FBS、SIGMA社製)Minimum essential medium(MEM、Invitrogen社製)培地、5%CO条件下、37℃で培養したLewis lung carcinoma-monkey kidney(LLC−MK2)細胞に接種し、室温で1時間感染させた後、1μg/mlのアセチルトリプシン(SIGMA社製)と0.1%Bovine Serum Albumin(BSA、ナカライテスク社製)を含有するMEM培地で5%CO条件下34℃、3日間培養した。ウイルスを含む培養上清を4℃で2時間遠心分離(25,000rpm)した。上清を除去後、沈殿したウイルスを少量のPhosphate buffered saline(PBS)に懸濁し、50%グリセロール−PBS溶液に重層し、4℃で2時間遠心分離(38,000rpm)した後、PBSに懸濁して用いた。又は、ウイルスの培養及び精製方法は特開2006−241024号公報、や他の文献など)に記載の方法と同様に行った。
[細胞毒性試験]
本発明の化合物の細胞毒性について以下の方法で調べた。
1)方法
MDCK細胞をトリプシン(トリプシン−EDTA、invitrogen社製)で剥離し、血球計算板で細胞数を計算して増殖用培地で2×10cells/mlとした細胞懸濁液を調製した。96穴プレートに前記細胞懸濁液(100μl/well)を加え、COインキュベーターで、37℃、一晩培養した。その翌日、化合物サンプル(ストック:20mg/ml)を培地で0.1〜10mg/mlの濃度に希釈した。96穴プレートの培地を除去し、上記の希釈したサンプル液を100μl/well加えた。対照として、サンプルを加えていない培地を用いた。各化合物サンプル濃度について、3穴サンプルを調整し使用した。72時間後に、生細胞数を、trypan blue exclusion法で計算した。対照の細胞数を100%とした時のサンプル添加区の%を計算し、片対数グラフ上で50%増殖阻害濃度(CC50)を求めた。
2)結果
0〜1mg/mlの濃度で細胞毒性は見られず、化合物サンプルのCC50は、6.5±0.14mg/mlとなった。
[赤血球凝集阻止活性(HA阻害活性)試験]
以下のインフルエンザ株に対する本発明の化合物のHA阻害活性を、赤血球凝集阻止活性を指標に調べた;2009年パンデミック株A/Narita/1/2009 (H1N1)、パンデミックと同じ亜型のヒト感染性の季節性インフルエンザウイルスA/Aichi/28/2008 (H1N1)(A/HongKong型)、A/Aichi/75/2008 (H3N2)パンデミックと異なる亜型のヒト感染性の季節性ウイルス(A/ソ連型)。
1)方法
ウイルス赤血球凝集阻害活性は以下の通り行った。赤血球凝集阻害活性の測定は、96ウェルマイクロプレート(会社名BD Falcon(登録商標);製品名Microtest(登録商標)96-well Assay Plate、Black Flat Bottom、Enhanced Surface、Nonsterile No Lid)、モルモット赤血球を用いて行った。なお、陽性対照としてフェツイン(fetuin)を用いた。本発明の化合物(糖鎖導入率5%のポリグルタミン酸化合物)又はフェツインの0.01%(w/v)ゼラチン含有PBS溶液(初濃度2mM、順次倍ずつに希釈)に各ウイルス混濁液(4HAU、4赤血球凝集単位)を100μl添加し、4℃で1時間保温した後、0.5%モルモット赤血球−PBS混濁液を滴下(0.5mL/well)し、さらに4℃で1時間保温した。凝集阻害活性は凝集を完全に阻害する化合物の濃度、すなわちモルモット赤血球凝集最小阻止濃度を調べた。
2)結果
モルモット赤血球凝集最小阻止濃度を表2に示す。値が小さいほど阻害活性が高いことを示す。
本発明の化合物(糖鎖導入率5%のポリグルタミン酸化合物)は、用いた全てのヒト臨床分離株A型インフルエンザウイルス(A型2009年パンデミック株(H1N1)、季節性株(A香港型H3N2、Aソ連型H1N1)の赤血球凝集、すなわちへマグルチニン(HA)機能を阻害した。中でも、2009年パンデミック株に対して強い赤血球凝集阻害活性を示し、季節性インフルエンザウイルス株に対しても、陽性対照のフェツインよりも強い赤血球凝集阻害活性を示した。それに対し、鳥(カモ)ウイルスに対しては、赤血球凝集阻害活性を示さなかった。
[シアリダーゼ阻害活性試験]
以下のウイルスに対する本発明の化合物のシアリダーゼ阻害活性を調べた;ヒト臨床分離株A型インフルエンザウイルス(A型2009年パンデミック株(H1N1)、又は季節性株(A香港型H3N2、Aソ連型H1N1)。
1)方法
蛍光測定用96ウェルマイクロプレート(会社名BD Falcon(登録商標);製品名Microtest(登録商標) 96-well Assay Plate、Black Flat Bottom、Enhanced Surface、 Nonsterile No Lid)に100mM酢酸緩衝液(pH4.6)で20μg/mlに希釈したウイルス−PBS懸濁液2μlと6.67×10−2〜6.67×10−6mg/mLの間で希釈した試験化合物懸濁液1μl及び超純粋(ミリQ水)1μlを混和し、氷上で1時間反応させた。さらに、0.4mM 4−MU 1μlを加えシェイカーで撹拌した後、37℃、30分間反応させ、100mM炭酸ナトリウム緩衝液(pH10.8)100μlを加え反応を停止した。各反応液を、マルチラベルカウンター(会社名パーキンエルマーライフサイエンスジャパン株式会社;機器名Wallac 1420 ARVOsxマルチラベルカウンター)を用いて、励起波長355nm、蛍光波長460nmで測定した。試験化合物として、糖鎖1%導入ポリグルタミン酸を含む本発明の化合物、糖鎖5%導入ポリグルタミン酸を含む本発明の化合物、糖鎖10%導入ポリグルタミン酸を含む本発明の化合物を用いた。
2)結果
結果を図10に示す。試験化合物はいずれも、A型2009年パンデミック株(H1N1)、A香港型H3N2、及びAソ連型H1N1全てのインフルエンザウイルスに対してシアリダーゼ阻害活性を強く阻害した。図11のAに0.07mg/mL(70ug/ml、分子量10万として:0.7nM)の濃度における本発明の化合物(糖鎖導入率5%のポリグルタミン酸化合物)の各ウイルスに対するシアリダーゼ阻害活性を示す。また図11のBのグラフに、季節性ウイルスAソ連型(A/Aichi/75/2008 (H3N2))における、試験化合物濃度と阻害活性の関係を示す。季節性ウイルスAソ連型(A/Aichi/75/2008 (H3N2))に対するIC50は糖鎖導入率1%のポリグルタミン酸化合物で0.0080mg/ml、糖鎖導入率5%のポリグルタミン酸化合物で0.0052mg/ml、糖鎖導入率10%のポリグルタミン酸化合物で0.0022mg/mlであった。低濃度において本発明の化合物は効果的にシアリダーゼ阻害活性を示すことがわかった。
本発明の化合物(糖鎖導入率5%のポリグルタミン酸化合物)の2009年パンデミック株に対するIC50は〜60μg/ml、すなわち0.6nMオーダーであった。また、季節性株(A香港型、H3N2;Aソ連型、H1N1)に対するIC50は2.2−8.0μg/ml、すなわち0.022−0.08nMオーダーであった。これらは、IC50がいずれも1nMオーダーであるタミフル、リレンザの10〜100倍、シアリダーゼ阻害活性が高いといえる。
[インフルエンザとの結合試験]
以下の各インフルエンザウイルスに対する本発明の化合物の結合につて調べた;2009年パンデミック株(A/Narita/1/2009 (H1N1))、季節性インフルエンザウイルス株(A/Yamaguchi/20/2006 (H1N1)、季節性インフルエンザウイルス株(A/Aichi/75/2008 (H3N2))、B型臨床分離株(B/Aichi/3/2008)。
1)方法
マイクロタイタープレートの各ウェルに、0〜200ng/wellの糖鎖導入率5%のポリグルタミン酸化合物のエタノール希釈溶液(50μl)を添加し、プレートを37℃で静置してエタノールを蒸発させた。次に、5%ウシ血清アルブミンを含有するリン酸緩衝液(pH7.0)を各ウェルに200μlずつ加えて12時間以上静置した。このプレートをリン酸緩衝液で洗浄した後、0.2%BSAを含有するリン酸緩衝液で64HAUに調製した各ヒトインフルエンザウイルスの懸濁液を各ウェルに50μlずつ加え、4℃で12時間反応させた。ウェルをリン酸緩衝液で洗浄した後、プレートに結合したウイルスのシアリダーゼ活性を、上記と同様の方法で測定した。
2)結果
結果を図12及び図13に示す。その結果、本発明の化合物(糖鎖導入率5%のポリグルタミン酸化合物)は、2009年パンデミック株(A/Narita/1/2009 (H1N1))、季節性インフルエンザウイルス株(A/Yamaguchi/20/2006 (H1N1)、季節性インフルエンザウイルス株(A/Aichi/75/2008 (H3N2))、B型臨床分離株(B/Aichi/3/2008)いずれにも結合することが示された。
この結果より、本発明の化合物は生体におけるインフルエンザウイルスの増殖を抑制するのみならず、ウイルスが生体に侵入する前に吸着することができることが分かった。
[感染阻害濃度試験]
以下の各インフルエンザウイルスに対する本発明の化合物の感染阻害濃度を調べた;2009年パンデミック株A/Narita/1/2009 (H1N1)、季節性株A/Yamaguchi/20/2006 (H1N1)、季節性株A/Aichi/75/2008 (H3N2)、実験室株B/Lee/40、臨床分離株B/Aichi/3/2008 (Yamagata like strain)、鳥の低病原性株A/Mallard/Hokkaido/24/2009 (H5N1)、季節性株A/Aichi/102/2008 (H3N2)。
ウイルス感染阻害アッセイは、Nongluk Sriwilaijaroen, et al., Food Chem., 127 (2011) 1-9)の方法を用いて、以下のように行った。
1)材料(MDCK SIAT-1細胞)
MDCK細胞に、シアル酸転移酵素であるSIAT−1遺伝子(薬剤耐性遺伝子を導入してあるため抗生物質G418を添加して培養する)を導入し、インフルエンザウイルスのヒト型レセプター糖鎖であるNeu5Acα2-6Gal結合の糖鎖を強制発現させた細胞である。
1)方法
MDCK SIAT-1細胞をコンフルエントになるまで培養した(これをコンフルエント細胞と呼ぶ)。コンフルエント細胞から、培養液を除去し、培養液に含まれる血清、抗生物質G418を除去した。コンフルエント細胞及びウイルス(例えば、A/Narita/1/2009 H1N1、MOI:0.03 Plaque-forming units (pfu)/cell)を異なる量の阻害剤、2mM L-glutamine及びペニシリン(100U/ml)−ストレプトマイシン(100mg/ml)を含むMEM培地とともに各々37℃又は4℃で1時間あらかじめ保温した。1時間後、コンフルエント細胞から阻害剤含有培地を除去し、あらかじめ4℃で1時間阻害剤を含む培養液で処理したウイルスー阻害剤培地と置き換え、37℃、1時間、COインキュベータ内で保温する。その後、細胞を培地で1回洗い、同じ阻害剤濃度及び2μg/mlのアセチルトリプシンを付加した培地を加えてCOインキュベータで24時間37℃培養する。その後、感染細胞をメタノールで固定化し、感染細胞のウイルス抗原を蛍光定量法(Nongluk Sriwilaijaroenら、Virology Journal, 6, 124 (2009))により蛍光発色させ、DEPDA−CN蛍光光度計で測定した。すなわち、阻害剤処理感染細胞及び未処理対照感染細胞を一次抗体であるマウス抗インフルエンザウイルスヌクレオプロテイン抗体(4E6)と反応後、二次抗体であるβ−ガラクトシダーゼ標識抗マウス抗体と反応させ、結合した2次抗体量を、基質である4−メチルウンベリフェリル−β−ガラクトシド(MU−Gal)を加え、遊離した4−メチルウンベリフェロン(MU)を励起波長336nm及び透過波長490nmで測定することにより測定した。
さらに、ウイルス感染場所(infectious foci:感染細胞におけるウイルス抗原発現部位)をマウス抗インフルエンザウイルスヌクレオプロテイン抗体(一次抗体)及びHRP(Horseradish peroxidase)結合ヤギ抗マウスIgGポリクローナル抗体(二次抗体、Nichirei Bioscience社製)と反応させ、結合した二次抗体を、100mMクエン酸緩衝液(pH6.0)に溶解したH及びN,N’−ジエチル−p−フェニレンジアミンジヒドロクロライド(DEPDA)及び4−クロロ−1−ナフトール(4−CN)により水に不溶な青色に発色可視化させ、目視あるいは写真撮影を行った。
2)結果
結果を表3に示す。
本発明の化合物(糖鎖導入率5%のポリグルタミン酸化合物)は、試験した全てのインフルエンザウイルス(A型:2009年パンデミックウイルス(H1N1)、季節性ウイルス(H1N1、H3N2)、B型ウイルス)の感染を阻害し、感染阻害濃度(IC50)は、10−7M(季節性A型、B型ウイルス)〜10−8M(2009年Aパンデミック株)であった。さらに、前記のとおり本発明の化合物はウイルスのへマグルチニン(HA)スパイク機能を強く阻害し、ノイラミニダーゼ(NA)スパイクのシアリダーゼ活性も強く阻害する(0.6nM〜0.02nMオーダーであり、タミフル、リレンザより約10〜100倍強力)。すなわち、本発明の化合物はウイルスの感染、吸着、出芽の3つを阻害するmulti functional inhibitorである。従来の阻害剤は、ノイラミニダーゼスパイクのみを阻害、あるいはM2イオンチャネルのみ阻害(B型には効かない)することから、耐性株が世界流行している。しかし、HA、NA、増殖性に関わる機能分子の変異が同時に起こることは極めて少ないことから、本発明の化合物については、耐性株が極めて出来にくい設計といえる (図14)。
本発明は、インフルエンザ治療薬及び予防薬の分野や、インフルエンザの感染、吸着、出芽阻害剤の分野、及びインフルエンザウイルスを環境から除去する素材を提供する分野に好適に利用することができる。

Claims (13)

  1. 下記の式(I)


    (式中、Sは、ヘマグルチニン結合能を有するレセプター擬似シアロ糖鎖部分であり、Lは5オングストローム以上の構造を有するリンカー部分であり、Cは分岐構造や2重結合を有しても良い炭素数3〜35のアルキル基である疎水性部分であり、Pは鎖長100オングストローム以上のポリマー部分を表す)で示される化合物又はその塩。
  2. ヘマグルチニン結合能を有するレセプター擬似シアロ糖鎖部分が、Neu5Acα2−6Galβ1−4(3)GlcNAcβ1構造を含むことを特徴とする請求項1に記載の化合物又はその塩。
  3. ポリマー部分が、ポリグルタミン酸であることを特徴とする請求項1又は2に記載の化合物又はその塩。
  4. リンカー部分が、リジンであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の化合物又はその塩。
  5. 下記の式(II)


    (式中、PGAは式(III)


    を表し、m及びnは、mは整数であって(m+1)nが50〜1000である。)で示される化合物又はその塩を有効成分とする、請求項1〜4のいずれかに記載の化合物又はその塩。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の化合物又はその塩を有効成分とする、インフルエンザウイルスのヘマグルチニン機能及びシアリダーゼ阻害剤。
  7. シアリダーゼがノイラミニダーゼであることを特徴とする、請求項6に記載の阻害剤。
  8. 請求項1〜5のいずれかに記載の化合物又はその塩を有効成分とする、インフルエンザウイルスの感染及び出芽、並びに細胞表面への吸着阻害剤。
  9. 請求項1〜5のいずれかに記載の化合物又はその塩を有効成分とする、インフルエンザ予防又は治療薬。
  10. 請求項1〜5のいずれかに記載の化合物又はその塩を有効成分とするインフルエンザウイルスの吸着剤。
  11. 請求項1〜5のいずれかに記載の化合物又はその塩を担持させたインフルエンザウイルスの吸着材。
  12. 請求項1〜5のいずれかに記載の化合物又はその塩を担持させたインフルエンザウイルスの変異を調べるためのキット。
  13. 請求項1〜5のいずれかに記載の化合物又はその塩を有効成分とするインフルエンザウイルスの生体内動態を調べるためのキット。
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