JP2013220520A - 切削工具用の基材 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明の目的は、被覆膜との密着性に優れた切削工具用の基材を提供することにある。
【解決手段】本発明の切削工具用の基材は、超硬合金からなるものであって、該基材は、表面領域層を含み、該表面領域層は、金属Coと、CoとWとの複合炭化物と、炭素とを含むことを特徴とする。
【選択図】なし
【解決手段】本発明の切削工具用の基材は、超硬合金からなるものであって、該基材は、表面領域層を含み、該表面領域層は、金属Coと、CoとWとの複合炭化物と、炭素とを含むことを特徴とする。
【選択図】なし
Description
本発明は、切削工具用の基材に関する。
最近の切削加工の動向として、地球環境保全の観点から切削油剤を用いないドライ加工が求められていること、被削材が多様化していること、加工能率を一層向上させるため切削速度がより高速になってきていることなどが挙げられる。このため、切削加工に用いられる切削工具において、加工時の刃先温度は高温になる傾向にあり、工具材料に要求される特性は一段と厳しくなっている。
特に工具表面に形成される被覆膜(セラミックスコーティング膜や硬質層などとも呼ばれる)は、このような要求特性を満たすために非常に重要なファクターとなっている。このような被覆膜に要求される特性として、高硬度(耐摩耗性)および高温での安定性(耐酸化性)に加え、基材との強固な密着性が挙げられる。
基材に対する被覆膜の密着性を向上させるために、特開平05−237707号公報(特許文献1)では、超硬合金からなる基材に対して複数の被覆膜が形成され、その第一層にWおよびCoを拡散させることが提案されている。また特開2002−331403号公報(特許文献2)では、基材表面に突起が形成され、その突起の粒界に被覆膜を偏析させることによりアンカー効果を持たせることが提案されている。
特許文献1では、第一層の被覆温度が700〜800℃と低温のため、基材と被覆膜との密着性を十分に向上させることはできなかった。また特許文献2では、被覆膜は基材表面の突起に沿って凹凸上に成長するが、均一に結晶成長しないため耐摩耗性や強度が低下する問題があった。
本発明は、上記のような現状に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、被覆膜との密着性に優れた切削工具用の基材を提供することにある。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、切削工具用の基材の表面領域の状態、すなわち表面領域層の組成を制御することが重要であるとの知見が得られ、この知見に基づきさらに検討を重ねることにより本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明の切削工具用の基材は、超硬合金からなるものであって、該基材は、表面領域層を含み、該表面領域層は、金属Coと、CoとWとの複合炭化物と、炭素とを含むことを特徴とする。
ここで、該表面領域層は、総炭素量が15〜50原子%であることが好ましく、FCC(Face Centered Cubic lattice:面心立方格子)型の結晶構造を有することが好ましい。
また、該基材は、炭化タングステンと、鉄族元素の1種以上と、第3成分とを含む超硬合金であって、該第3成分は、周期律表の4族元素(Ti、Zr、Hfなど)、5族元素(V、Nb、Taなど)、6族元素(Cr、Mo、Wなど)、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる少なくとも1種の化合物、および/または周期律表の4族元素、5族元素、6族元素、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であることが好ましい。
また、本発明は、上記の切削工具用の基材と、該基材の表面に形成された被覆膜とを含む表面被覆切削工具にも係わり、該被覆膜は、周期律表の4族元素(Ti、Zr、Hfなど)、5族元素(V、Nb、Taなど)、6族元素(Cr、Mo、Wなど)、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物によって構成されることを特徴とする。
また、該被覆膜は、一または二以上の層で形成され、そのうち少なくとも一層は、Ti、Zr、およびHfからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物によって構成されることが好ましい。
本発明の切削工具用の基材は、上記の構成を有することにより、その表面に形成される被覆膜との密着性に優れるという極めて優れた効果を有する。したがって、本発明の基材の表面に被覆膜が形成されてなる表面被覆切削工具は、切削加工において長寿命を達成したものとなる。
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
<切削工具用の基材>
本発明の切削工具用の基材は、超硬合金からなるものであり、その表面部に表面領域層を含み、該表面領域層は、金属Coと、CoとWとの複合炭化物と、炭素とを含むことを特徴とする。本発明の基材は、このような表面領域層を備えたことにより、当該表面に形成される被覆膜に対して極めて優れた密着性を有したものとなる。これは、恐らく基材と被覆膜との間で炭素等の構成元素の相互拡散が積極的に発生し、基材の表面領域層から被覆膜にかけて組成が連続的に変化するような構成となることにより達成されるものと推測される。
<切削工具用の基材>
本発明の切削工具用の基材は、超硬合金からなるものであり、その表面部に表面領域層を含み、該表面領域層は、金属Coと、CoとWとの複合炭化物と、炭素とを含むことを特徴とする。本発明の基材は、このような表面領域層を備えたことにより、当該表面に形成される被覆膜に対して極めて優れた密着性を有したものとなる。これは、恐らく基材と被覆膜との間で炭素等の構成元素の相互拡散が積極的に発生し、基材の表面領域層から被覆膜にかけて組成が連続的に変化するような構成となることにより達成されるものと推測される。
ここで、該表面領域層は、該基材の全表面に形成されることが好ましいが、本発明の効果が奏される限り一部の表面においてこの表面領域層が存在しなかったとしても本発明の範囲を逸脱するものではない。
本発明の切削工具用の基材は、超硬合金により構成されるものである。超硬合金としては、従来公知のものをいずれも用いることができるが、特に炭化タングステンと、鉄族元素の1種以上と、第3成分とを含む超硬合金が好ましく、該第3成分は、周期律表の4族元素、5族元素、6族元素、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる少なくとも1種の化合物、および/または周期律表の4族元素、5族元素、6族元素、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素であることが好ましい。このような組成の基材を用いることにより、耐摩耗性と靱性とを兼備することができるという効果が得られる。
ここで、鉄族元素とは、鉄、ニッケル、コバルトの総称である。また、上記第3成分の具体例としては、TiC、ZrC、HfC、VC、NbC、TaC、Cr3C2、Mo2C、TiN、TiCN等を挙げることができる。
<表面領域層>
本発明の切削工具用の基材は、表面領域層を含み、該表面領域層は、金属Coと、CoとWとの複合炭化物と、炭素とを含むことを特徴とする。当該表面領域層がこのような組成を有することにより、上述の通り、被覆膜との間で炭素等の構成元素の相互拡散が積極的に発生し、この表面領域層から被覆膜にかけて組成が連続的に変化するような構成となることにより、被覆膜との密着性が飛躍的に向上したものとなる。
本発明の切削工具用の基材は、表面領域層を含み、該表面領域層は、金属Coと、CoとWとの複合炭化物と、炭素とを含むことを特徴とする。当該表面領域層がこのような組成を有することにより、上述の通り、被覆膜との間で炭素等の構成元素の相互拡散が積極的に発生し、この表面領域層から被覆膜にかけて組成が連続的に変化するような構成となることにより、被覆膜との密着性が飛躍的に向上したものとなる。
ここで、当該表面領域層は、基材の表面部において上記の組成を有する領域として定義されるものであるが、通常、基材の表面から0.1〜5μm程度の厚み(深さ)を有する領域となる。このような表面領域層の存在の確認およびその厚みは、当該基材の破断面(切断後の断面)を走査型電子顕微鏡とEDS(エネルギー分散型X線分析装置)分析とを組み合わせて観察することにより測定することができる。なお、この方法により表面領域層の総炭素量の測定が困難である場合は、透過型電子顕微鏡を用いたEDS分析で測定することができる。
なお、当該表面領域層は、上記のような測定方法で特定することができるが、この表面領域層と内部領域(表面領域層以外の領域)との境界が特に明確でない場合などは、当該基材の表面において上記の組成を備える限り、本発明の表面領域層が形成されているものとみなされる。
このような表面領域層は、基材内部の組成に比し、一般に金属Coの存在割合が低くなるが、その一方でCoとWとの複合炭化物を含有するため、Coの総量自体としては基材内部よりも若干多くなる傾向を示す。なお、当該表面領域層に含まれるCoとWとの複合炭化物は、CoとWの両者を含む炭化物であり、たとえばCo3W6C、Co6W6C、Co4W2C、Co3W9C4等を挙げることができる。
また、本発明の表面領域層は、上記組成における全構成成分(原子)に対して、総炭素量が15〜50原子%であることが好ましい。なお、本発明において表面領域層が「金属Coと、CoとWとの複合炭化物と、炭素とを含む」という場合の「炭素」とは、炭化物等の化合物を構成しない原子状の炭素をいう。また、「総炭素量」とは、このような原子状の炭素と複合炭化物を構成する炭素との合計量をいう。この総炭素量が15原子%未満では基材と被覆膜との間での炭素の相互拡散の効果が十分でない場合があり、50原子%を超えると表面領域層自体の強度が低下する場合がある。より好ましい総炭素量は、25〜45原子%である。
また、本発明の表面領域層は、FCC型の結晶構造を有することが好ましい。これにより、基材の表面領域層の直上に形成される被覆膜の組織を均一微細に成膜させることができ、以って基材と被覆膜との密着性をさらに向上させることができる。なお、基材内部、表面領域層、および被覆膜の結晶構造は、透過型電子顕微鏡を用いたX線回析で測定することができる。
また、本発明の表面領域層は、その表面に金属Coが露出する領域が存在することが好ましい。これにより基材の表面領域層の直上に形成される被覆膜の組織をより均一微細に成膜させることができる。詳細なメカニズムは不明であるものの、このように金属Coが露出すると基材と被覆膜との間での炭素の相互拡散がより積極的に発生する。このため、基材と被覆膜との密着性をさらに向上させることができる。ここで、金属Coが露出する割合は、表面領域層の全表面に対して面積にして20〜70%を占めることが好ましい。この金属Coが露出する割合が20%未満では、基材の表面領域層の直上に形成される被覆膜の組織に不均一が生じる場合があり、十分な密着力が得られない場合がある。また、その割合が70%を超えると表面領域層自体の強度が低下する場合がある。
<表面領域層の形成方法>
本発明の表面領域層は、既に焼結されている超硬合金からなる基材に対して、高温加熱工程と低温炭素拡散工程とからなる複合工程を、一回以上行なうことにより形成することができる。
本発明の表面領域層は、既に焼結されている超硬合金からなる基材に対して、高温加熱工程と低温炭素拡散工程とからなる複合工程を、一回以上行なうことにより形成することができる。
ここで、高温加熱工程とは、基材に対し、圧力5〜100hPa、好ましくは20〜70hPa、温度800〜1250℃、好ましくは900〜1050℃として、Ar、H2、N2、TiCl4、CO等の気体を導入し、15分間以上保持する工程をいう。この工程により、基材の表面上にCoとWとの複合炭化物が形成されることになる。
また、低温炭素拡散工程とは、上記の高温加熱工程を経た基材に対し、圧力5〜100hPa、好ましくは20〜70hPa、温度700〜900℃、好ましくは800〜850℃として、H2、CH4、C2H4、C2H6等の浸炭性の気体を合計20L/min以下の流量で導入し、30分間以上保持する工程をいう。この工程により、上記の高温加熱工程で形成されたCoとWとの複合炭化物の一部がCoとWCに再度分解されることになる。この際、上記気体および基材内部から表面領域層中に炭素が拡散することにより、表面領域層中での総炭素量が増加することとなる。
なお、この低温炭素拡散工程において、使用する気体の種類と流量、温度状態、および保持時間を適宜選択することで、CoとWとの複合炭化物をCoとWCに再度分解させる量を任意に変更でき、これにより表面領域層の結晶構造を制御することができる。表面領域層の結晶構造は、CoとWとの複合炭化物をCoとWCに再度分解させる速度によって決定されるが、上記の圧力条件を低くするとCoとWとの複合炭化物がCoとWに再度分解される速度が遅くなり、またその圧力条件を高くするとその速度が早くなる傾向を示す。また、上記の温度条件を低くするとCoとWとの複合炭化物がCoとWに再度分解される速度が遅くなり、またその温度条件を高くするとその速度が早くなる傾向を示す。
このように上記の条件を適宜調節することにより、表面領域層の結晶状態をFCC型の結晶構造とすることができる。また、低温炭素拡散工程に用いる気体の種類と流量によって表面領域層に拡散する時間当たりの炭素量が変化することから、保持時間を調節することにより、表面領域層の総炭素量を15〜50原子%とすることができる。
<表面被覆切削工具>
本発明は、表面被覆切削工具にも係わり、本発明の表面被覆切削工具は、上記の切削工具用の基材と、該基材の表面に形成された被覆膜とを含むものである。
本発明は、表面被覆切削工具にも係わり、本発明の表面被覆切削工具は、上記の切削工具用の基材と、該基材の表面に形成された被覆膜とを含むものである。
このような表面被覆切削工具としては、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップなどを挙げることができる。
本発明の表面被覆切削工具において、被覆膜は基材の全面を被覆することが好ましいが、基材の一部がこの被覆膜で被覆されていなかったり、被覆膜の構成が部分的に異なっていたとしても本発明の範囲を逸脱するものではない。このような被覆膜は、一または二以上の層で形成することができる。
<被覆膜>
上記の被覆膜は、切削工具としての耐摩耗性や耐欠損性等の諸特性を向上させたり、使用済刃先の識別性を付与するために形成されるものである。このような被覆膜としては、この種の表面被覆切削工具の基材表面に形成される従来公知の被覆膜を特に限定することなく採用することができるが、周期律表の4族元素、5族元素、6族元素、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物によって構成されることが好ましい。このような化合物としては、たとえばTiN、TiC、TiCN、TiNO、TiCNO、TiB2、TiO2、TiBN、TiBNO、ZrC、ZrO2、HfC,HfN、TiAlN、AlCrN、CrN、VN,TiSiN、TiSiCN、AlTiCrN、TiAlCN、ZrCN、ZrCNO、AlN、TiZrCN、TiAlC、NbC、NbN、NbCN、Al2O3、AlCN、ZrN、Mo2C、WC、W2C、TaN、TaCN、TaC、HfO2、HfN等を挙げることができる。
上記の被覆膜は、切削工具としての耐摩耗性や耐欠損性等の諸特性を向上させたり、使用済刃先の識別性を付与するために形成されるものである。このような被覆膜としては、この種の表面被覆切削工具の基材表面に形成される従来公知の被覆膜を特に限定することなく採用することができるが、周期律表の4族元素、5族元素、6族元素、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物によって構成されることが好ましい。このような化合物としては、たとえばTiN、TiC、TiCN、TiNO、TiCNO、TiB2、TiO2、TiBN、TiBNO、ZrC、ZrO2、HfC,HfN、TiAlN、AlCrN、CrN、VN,TiSiN、TiSiCN、AlTiCrN、TiAlCN、ZrCN、ZrCNO、AlN、TiZrCN、TiAlC、NbC、NbN、NbCN、Al2O3、AlCN、ZrN、Mo2C、WC、W2C、TaN、TaCN、TaC、HfO2、HfN等を挙げることができる。
さらに、本発明の被覆膜は、一または二以上の層で形成され、そのうち少なくとも一層は、Ti、Zr、およびHfからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物によって構成されることが好ましい。このような組成の被覆膜を形成することにより、基材との密着性をさらに向上させることができる。なお、このような化合物としては、たとえばTiN、TiC、TiCN、TiCNO、TiAlN、ZrN、ZrCNO、HfN、HfCN等を挙げることができる。
なお、本発明の被覆膜において、上記基材の直上に形成される層は立方晶系の結晶構造を有することが好ましく、FCC型の結晶構造を有していることがより好ましい。上記のように基材の表面領域層がFCC型の結晶構造を有する場合、両者の密着力がより一層向上するためである。
このような被覆膜の厚みは特に限定されないが、たとえば0.5〜40μm、より好ましくは1〜25μmとすることができる。また、このような被覆膜は、物理蒸着(PVD)法や化学蒸着(CVD)法など従来公知の形成方法(成膜方法)を特に限定することなく採用することができるが、とりわけ化学蒸着法により形成することが好ましい。化学蒸着法を採用すると成膜温度が800〜1050℃と比較的高く、物理蒸着法などと比較しても基材との密着性に優れるためである。
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
<実施例1>
2.0質量%のTaC、10.0質量%のCo、および残部WCからなる組成(ただし不可避不純物を含む)の原料粉末を、十分に混合した後所望の形状となるようにプレス成型し、続けて真空雰囲気中で1450℃、1時間焼結し、その後平面研削処理および刃先稜線に対してSiCブラシによる刃先処理を行なうことにより、フライス加工用刃先交換型切削チップとして「SNMT13T3AGSN−G」(住友電工ハードメタル(株)製)の形状を有するものと、旋削加工用刃先交換型切削チップとして「CNMG12008−GU」(住友電工ハードメタル(株)製)の形状を有するものとの2種の基材を作製した。
2.0質量%のTaC、10.0質量%のCo、および残部WCからなる組成(ただし不可避不純物を含む)の原料粉末を、十分に混合した後所望の形状となるようにプレス成型し、続けて真空雰囲気中で1450℃、1時間焼結し、その後平面研削処理および刃先稜線に対してSiCブラシによる刃先処理を行なうことにより、フライス加工用刃先交換型切削チップとして「SNMT13T3AGSN−G」(住友電工ハードメタル(株)製)の形状を有するものと、旋削加工用刃先交換型切削チップとして「CNMG12008−GU」(住友電工ハードメタル(株)製)の形状を有するものとの2種の基材を作製した。
次いで、上記のように作製された基材をCVD炉内にセットし、温度950℃、圧力50hPa、H2流量3L/min、Ar流量2L/minの条件下で60分間保持した(高温加熱工程)。
続いて、上記の高温加熱工程を経た基材を引続きCVD炉内にセットしたまま、温度850℃、圧力50hPa、CH4流量10L/min、H2流量5L/minの条件下で30分間保持した(低温炭素拡散工程)。
このようにして超硬合金からなる切削工具用の基材(形状の異なるもの2種)を作製した。続いて、各基材を引続きCVD炉内にセットしたまま、以下の表1の構成の被覆膜(すなわち基材直上に0.3μmのTiN層、6.1μmのTiCN層、4.2μmのAl2O3層、0.5μmのTiN層をこの順で形成する構成)を従来公知のCVD法で形成することにより、基材とその表面に形成された被覆膜とを含む表面被覆切削工具を作製した。
上記で作製した各表面被覆切削工具を、被覆膜表面の法線を含む平面で切断し、その断面を走査型電子顕微鏡(商品名:「SU6600」、日立ハイテクノロジーズ社製)とEDS分析装置(商品名:「INCA Energy series」、OXFORD INSTRUMENTS社製)により観察したところ、本発明の組成を有する表面領域層が厚み0.5μmで形成されていることおよびこの表面領域層における金属Coの露出割合(表面領域層の全表面に対する面積比)が52%であることが確認できた。また同断面において、収束イオンビーム加工装置を用いて十分に薄片化した試料を作成し、この試料について透過型電子顕微鏡(商品名:「JEM−2100F/Cs」、日本電子社製)とEDS分析装置(商品名:「JED−2300 series」、日本電子社製)と付属のソフトウェアを用いて、表面領域層中の総炭素量を測定したところ、総炭素量は30原子%であった。さらに上記試料について透過型電子顕微鏡を用いてX線回折を行なったところ、表面領域層がFCC型の結晶構造を有していることが確認できた。
<実施例2〜5および比較例1〜3>
実施例1における高温加熱工程と低温炭素拡散工程の条件を変更すること、および被覆膜の構成を変更することを除き、他は全て実施例1と同様にして実施例2〜5および比較例1〜3の表面被覆切削工具を得た。なお、この場合、表面領域層の厚みは、高温加熱工程で使用する気体の流量を増加させる方法、保持時間を延長する方法、またはこれら二つを組み合わせる方法により厚くでき、高温加熱工程で使用する気体の流量を減少させる方法、保持時間を短縮する方法、またはこれら二つを組み合わせる方法により薄くした。また、表面領域層の総炭素量は、低温炭素拡散工程に用いる気体の種類と流量によって表面領域層に拡散する時間当たりの炭素量が変化することから、気体の種類と流量を任意に選択したうえで、保持時間を増加することにより増加でき、保持時間を減少することにより減少した。また、表面領域層における金属Coの露出割合は、低温炭素拡散工程における気体の種類と流量を変化させることにより調整した。同じ気体を用いる場合には、流量を低くすることで金属Coの露出割合は減少し、流量を高くすることで露出割合は増加した。また気体の種類によっても金属Coの露出割合は増減し、例えばC2H4はCH4に比べ金属Coの露出割合を増加させる効果が大きい。
実施例1における高温加熱工程と低温炭素拡散工程の条件を変更すること、および被覆膜の構成を変更することを除き、他は全て実施例1と同様にして実施例2〜5および比較例1〜3の表面被覆切削工具を得た。なお、この場合、表面領域層の厚みは、高温加熱工程で使用する気体の流量を増加させる方法、保持時間を延長する方法、またはこれら二つを組み合わせる方法により厚くでき、高温加熱工程で使用する気体の流量を減少させる方法、保持時間を短縮する方法、またはこれら二つを組み合わせる方法により薄くした。また、表面領域層の総炭素量は、低温炭素拡散工程に用いる気体の種類と流量によって表面領域層に拡散する時間当たりの炭素量が変化することから、気体の種類と流量を任意に選択したうえで、保持時間を増加することにより増加でき、保持時間を減少することにより減少した。また、表面領域層における金属Coの露出割合は、低温炭素拡散工程における気体の種類と流量を変化させることにより調整した。同じ気体を用いる場合には、流量を低くすることで金属Coの露出割合は減少し、流量を高くすることで露出割合は増加した。また気体の種類によっても金属Coの露出割合は増減し、例えばC2H4はCH4に比べ金属Coの露出割合を増加させる効果が大きい。
一方、比較例1〜3の表面被覆切削工具は、実施例1の高温加熱工程と低温炭素拡散工程とを実施せず、基材表面には表面領域層が形成されなかった。
各実施例および各比較例の表面被覆切削工具における被覆膜の構成、表面領域層の厚み、表面領域層中の総炭素量、表面領域層の結晶構造、表面領域層における金属Coの露出割合(表面領域層の全表面に対する面積比を示し、単位は「%」である)を以下の表1に示す。なお、各測定値は、実施例1と同様にして求めたものである。
なお、表1中、被覆膜の構成は、左側のものから順に基材上に積層していることを示し、括弧内の数値(μm)は各層の厚みを示している。
<評価>
上記のようにして作製した各実施例および各比較例の表面被覆切削工具(フライス加工用刃先交換型切削チップおよび旋削加工用刃先交換型切削チップ)について、以下に示す2種の切削試験を行なうことにより評価を行なった。その結果を以下の表2に示す。
上記のようにして作製した各実施例および各比較例の表面被覆切削工具(フライス加工用刃先交換型切削チップおよび旋削加工用刃先交換型切削チップ)について、以下に示す2種の切削試験を行なうことにより評価を行なった。その結果を以下の表2に示す。
<切削試験1:フライス耐摩耗性評価>
表面被覆切削工具としてフライス加工用刃先交換型切削チップを用い、被削材=SCM435(長さ300mm×幅100mmのブロック材)、切削速度=250m/min、送り量=0.30mm/t、切込み量=1.5mm、切削油なし、という切削条件で切削を行ないフライス耐摩耗性評価を行なった。切削時間が15分間となった時点での逃げ面の平均摩耗幅Vb(mm)を測定した。平均摩耗幅Vbが小さいものほど、耐摩耗性に優れていることを示している。
表面被覆切削工具としてフライス加工用刃先交換型切削チップを用い、被削材=SCM435(長さ300mm×幅100mmのブロック材)、切削速度=250m/min、送り量=0.30mm/t、切込み量=1.5mm、切削油なし、という切削条件で切削を行ないフライス耐摩耗性評価を行なった。切削時間が15分間となった時点での逃げ面の平均摩耗幅Vb(mm)を測定した。平均摩耗幅Vbが小さいものほど、耐摩耗性に優れていることを示している。
<切削試験2:旋削耐摩耗性評価>
表面被覆切削工具として旋削加工用刃先交換型切削チップを用い、被削材=SCM415(直径350mm×長さ500mm)、切削速度=200m/min、送り量=0.3mm/t、切込み量=1.5mm、切削油=水溶性切削液、という切削条件で切削を行ない旋削耐摩耗性評価を行なった。切削時間が30分間となった時点での逃げ面の平均摩耗幅Vb(mm)を測定した。平均摩耗幅Vbが小さいものほど、耐摩耗性に優れていることを示している。
表面被覆切削工具として旋削加工用刃先交換型切削チップを用い、被削材=SCM415(直径350mm×長さ500mm)、切削速度=200m/min、送り量=0.3mm/t、切込み量=1.5mm、切削油=水溶性切削液、という切削条件で切削を行ない旋削耐摩耗性評価を行なった。切削時間が30分間となった時点での逃げ面の平均摩耗幅Vb(mm)を測定した。平均摩耗幅Vbが小さいものほど、耐摩耗性に優れていることを示している。
表2より明らかなように、実施例の表面被覆切削工具は、比較例の表面被覆切削工具に比較して耐摩耗性が向上しており、工具寿命が著しく向上していることが確認できた。これにより、本発明の表面被覆切削工具が高速加工において十分対応できることが確認できた。これは、本発明の切削工具用の基材が本発明の構成を有することにより、被覆膜との密着性が向上したことに起因したものであることは明らかである。
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
Claims (6)
- 超硬合金からなる切削工具用の基材であって、
前記基材は、表面領域層を含み、
前記表面領域層は、金属Coと、CoとWとの複合炭化物と、炭素とを含む、切削工具用の基材。 - 前記表面領域層は、総炭素量が15〜50原子%である、請求項1に記載の切削工具用の基材。
- 前記表面領域層は、FCC型の結晶構造を有する、請求項1または2に記載の切削工具用の基材。
- 前記基材は、炭化タングステンと、鉄族元素の1種以上と、第3成分とを含む超硬合金であって、
前記第3成分は、周期律表の4族元素、5族元素、6族元素、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる少なくとも1種の化合物、および/または周期律表の4族元素、5族元素、6族元素、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である、請求項1〜3のいずれかに記載の切削工具用の基材。 - 請求項1〜4のいずれかに記載の切削工具用の基材と、該基材の表面に形成された被覆膜とを含み、
前記被覆膜は、周期律表の4族元素、5族元素、6族元素、Al、およびSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物によって構成される、表面被覆切削工具。 - 前記被覆膜は、一または二以上の層で形成され、そのうち少なくとも一層は、Ti、Zr、およびHfからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素、および硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物によって構成される、請求項5に記載の表面被覆切削工具。
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