JP2013220076A - 新型インフルエンザウイルス由来ヘマグルチニンタンパク質遺伝子が組み込まれたb5r遺伝子欠損組換えワクシニアウイルス - Google Patents

新型インフルエンザウイルス由来ヘマグルチニンタンパク質遺伝子が組み込まれたb5r遺伝子欠損組換えワクシニアウイルス Download PDF

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Abstract

【課題】新型インフルエンザウイルス(特に、H1亜型に属するパンデミックインフルエンザウイルス)感染による発症を阻止するために有効な組換えワクシニアウイルス、並びに当該組換えワクシニアウイルスを含む新型インフルエンザの予防薬及び治療薬等を提供する。
【解決手段】本発明にかかる組換えワクシニアウイルスは、ワクシニアウイルスのB5Rタンパク質遺伝子領域を、発現プロモーターと、H1亜型に属するパンデミックインフルエンザウイルス由来ヘマグルチニンタンパク質をコードするcDNAの全部又は一部とで組換えた、組換えワクシニアウイルスである。
【選択図】なし

Description

本発明は、新型インフルエンザの予防薬及び治療薬に関する。詳しくは、ワクシニアウイルスのB5Rタンパク質遺伝子(以下、「B5R遺伝子」と称することもある)領域が、新型インフルエンザウイルスのヘマグルチニンタンパク質遺伝子(以下、「HA遺伝子」と称することもある)で組換えられたB5R遺伝子欠損組換えワクシニアウイルス、ならびに当該組換えワクシニアウイルスを含む新型インフルエンザ用の予防薬及び治療薬に関する。
ワクシニアウイルスLC16m8株は、天然痘ワクチン(痘瘡ワクチン)として1975年に当時の厚生省に認可され、5万人以上の乳幼児に接種された実績を持つ安全かつ効果的な弱毒ワクチン株である。LC16m8株の弱毒性は、細胞への吸着・感染に関与すると考えられているLC16mO株のB5Rタンパク質遺伝子が一塩基欠損していることにより、全長のB5Rタンパク質が発現しないことに由来する(非特許文献1)。一方で、LC16m8株が複製・増殖を繰り返すうちに変異が生じ、このB5R遺伝子領域内に一塩基挿入が起こり、全長のB5Rタンパク質を発現する復帰ウイルスの出現とその増殖性の亢進がワクチン株としての安全性を担保する上で懸念されている。しかしながら、これまでにこのB5Rタンパク質遺伝子領域と外来遺伝子との相同組換えによりB5R遺伝子を欠失した組換え体が安全性を担保し、かつ外来遺伝子を良好に発現できるか否かについては報告されていない。
一方、2009年4月にメキシコから発生したと考えられているH1N1パンデミックインフルエンザウイルス(H1N1(2009) pdm)は、これまでの季節性インフルエンザウイルスと抗原性が大きく異なり、免疫を有していない人が多いことから、急速に全世界へと感染拡大した。H1N1(2009) pdm用ワクチンは、季節性インフルエンザワクチンと同一方法により製造された不活化スプリットワクチンである。このスプリットワクチンについても、不活化ワクチンであるため、必ずしも流行株に対してワクチン効果を発揮できるとは限らない。
現在、インフルエンザ治療薬としては、インフルエンザウイルスの出芽に重要であるノイラミニダーゼ(NA)の作用を阻害するタミフル及びリレンザがあるものの、発症後48時間以内の投薬が重要であるなど、その効果は限られている。その他、NA阻害剤の静注剤やインフルエンザウイルスのポリメラーゼ阻害剤などが開発中であるが、現在のところ臨床治験段階である。
このような現状から、流行予測が困難であるインフルエンザウイルスに対して、幅広くかつ長期にわたり効果を発揮できる予防薬及び治療薬の確立が強く望まれている。
Morikawa S. et al., An attenuated LC16m8 smallpox vaccine: analysis of full-genome sequence and induction of immune protection., J. Virol., 2005, vol. 79(18), p. 11873-11891
本発明が解決しようとする課題は、新型インフルエンザウイルス感染による発症を阻止するために有効な組換えワクシニアウイルス、並びに当該組換えワクシニアウイルスを含む新型インフルエンザの予防薬及び治療薬等を提供することにある。
本発明者らは、前記新型インフルエンザウイルス感染に関する解析及び検討結果をもとに、さらに鋭意研究を行った。その結果、ワクシニアウイルスのB5Rタンパク質遺伝子領域を新型インフルエンザウイルス抗原遺伝子に置換した組換えワクシニアウイルスをワクチンとして用いて免疫の活性化をもたらすことが、有力な新型インフルエンザウイルス感染予防法につながることを見出した。そして、本発明者らは、上記組換えワクシニアウイルスが、新型インフルエンザウイルスとしてのH1亜型に属するパンデミックインフルエンザウイルス(例えばH1N1(2009) pdm)の感染発症を阻止するのに有効であることを確認した。特に、H1N1(2009) pdmによる攻撃感染の3日前までに上記組換えワクシニアウイルスを単回接種することで発症を防御できることを確認し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)ワクシニアウイルスのB5Rタンパク質遺伝子領域の全部又は一部が、発現プロモーターと、H1亜型に属するパンデミックインフルエンザウイルス由来ヘマグルチニンタンパク質をコードするcDNAの全部又は一部とにより組換えられた、組換えワクシニアウイルス。
ここで、ワクシニアウイルスとしては、例えばLC16m8株が挙げられる。また、H1亜型に属するパンデミックインフルエンザウイルスとしては、例えばH1N1(2009) pdmが挙げられる。
上記HAタンパク質をコードするcDNAとしては、以下の(a)及び(b)のDNAを例示することができる。
(a) 配列番号1(H1亜型;カリフォルニア株のワクチン株の配列)またはその変異体である配列番号3に示す塩基配列からなるDNA
(b) 配列番号1又は3に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、H1亜型に属するウイルス株のHAタンパク質をコードするDNA
さらに、本発明の組換えワクシニアウイルスに含まれる発現プロモーターとしては、例えばハイブリッドプロモーターが挙げられる。具体的には、ハイブリッドプロモーターとしては、以下の(a)又は(b)のDNAからなるものを例示することができる。
(a) 配列番号2に示す塩基配列からなるDNA
(b) 配列番号2に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、プロモーター活性を有するDNA
(2)上記(1)の組換えワクシニアウイルスを含む医薬組成物。
上記医薬組成物は、新型インフルエンザの予防薬及び/又は治療薬、具体的にはH1亜型に属するパンデミックインフルエンザによるインフルエンザの予防薬及び/又は治療薬として使用することができる。
本発明によれば、新型インフルエンザ(特に、H1亜型に属するパンデミックインフルエンザウイルスによるインフルエンザ)の予防及び治療に有効であり、かつ増殖性が亢進する復帰ウイルスを出現させない、安全性の高い新規な組換えワクシニアウイルス、並びに、当該組換えワクシニアウイルスを含む医薬組成物、特に新型インフルエンザの予防薬及び治療薬(新型インフルエンザの予防及び治療用ワクチン)を提供することができる。
新型インフルエンザウイルスのHAタンパク質遺伝子を有する組換えワクシニアウイルスの作製のためのプラスミドベクター(pBMSF7c/ΔB5R-mIVR153トランスファーベクター等)の遺伝子構造を示す図である。左図は、H1N1(2009) pdm由来HAタンパク質遺伝子を弱毒ワクシニアウイルスLC16m8株のB5Rタンパク質遺伝子と組換えた組換えワクシニアウイルスを作製するために使用するベクターの構築図であり、右図は、従来の弱毒ワクシニアウイルスLC16m8株のHAタンパク質遺伝子領域へのH1N1(2009) pdm由来HAタンパク質遺伝子を挿入する組換えワクシニアウイルスを作製するためのベクターの構築図である。 ウエスタンブロット法により、rVVΔB5R-mIVR153等の感染細胞におけるH1N1(2009) pdm由来HAタンパク質の発現確認の結果を示す、PVDFメンブレンの写真である。 rVV-mIVR153とrVVΔB5R-mIVR153のワクチン効果の比較結果を示す図である。詳しくは、rVVΔB5R-mIVR153等を単回接種したBALB/cマウスへのH1N1(2009) pdm(詳しくはH1N1/2619)の攻撃感染による体重変化を示した図である。図中、「rVV-Empty」はrVV-Emptyを1×107 PFU/mouseで接種した場合、「rVV-mIVR153」はrVV-mIVR153を1×107 PFU/mouseで接種した場合、「rVVΔB5R-mIVR153」はrVVΔB5R-mIVR153を1×107 PFU/mouseで接種した場合の結果を示す。 rVV-mIVR153とrVVΔB5R-mIVR153の接種による抗体価を示す図である。詳しくは、BALB/cマウスにrVVΔB5R-mIVR153等を単回接種した後、採血し、得られた血清中のH1N1(2009) pdmのHAタンパク質に対する抗体価を、ELISA法により測定した結果を示す図である。 rVV-mIVR153とrVVΔB5R-mIVR153の接種による肺組織中ウイルス量の減少効果を示す図である。詳しくは、図3に示す実験スケジュールと同様に、BALB/cマウスにrVVΔB5R-mIVR153等を単回接種した後、H1N1(2009) pdm(詳しくはH1N1/2619)を感染させ、感染から3日後の肺組織中のウイルス量を測定した結果を示す図である。 rVV-mIVR153とrVVΔB5R-mIVR153の接種による肺炎軽減効果を示す図である。詳しくは、図3に示す実験スケジュールと同様に、BALB/cマウスにrVVΔB5R-mIVR153等を単回接種した後、H1N1(2009) pdm(詳しくはH1N1/2619)を感染させ、感染から9日後の肺の病理解析の結果を示す図である。 H1N1(2009) pdm(詳しくはH1N1/2619)による攻撃感染の3日前にrVV-mIVR153とrVVΔB5R-mIVR153を接種したことによるワクチン効果の比較を示す図である。詳しくは、図7の実験スケジュールに示すとおり、BALB/cマウスにrVVΔB5R-mIVR153等を単回接種してから3日後にH1N1(2009) pdmを感染させ、感染から9日後までの体重変化を示した図である。
以下、本発明にかかる組換えワクシニアウイルス及びその用途について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施し得る。なお、本明細書において引用した特許文献、非特許文献その他の刊行物は、参照として本明細書に組み込まれるものとする。
1.本発明の概要
各種ワクチンの中でも、生ワクチンは特に有効なものの一つであるが、一般に、新興ウイルスの弱毒性ワクチンを開発するには非常に長い期間が必要となることが知られており、このことは新型インフルエンザに関しても同様であると考えられる。
このような場合に採られる手法の一つとして、生ワクチンとして組換えワクシニアウイルス(以下、「rVV」と称することもある)を作製するという遺伝子工学的手法が知られている。例えば、本発明者らが開発した、狂犬病ウイルス用又はリンダペスト用の組換えワクシニアウイルスは、野外試験等において、優れた感染発症予防効果を発揮することが実証されている(例えば、Tsukiyama K. et al., Arch. Virol., 1989, vol. 107, p. 225-235参照)。
また本発明者らは、新型肺炎SARSに関して、その病原体として知られるSARS-CoVのcDNAを有する組換えワクシニアウイルスの作製に成功しており(WO 2006/038742)、優れた予防効果と再投与可能な製剤であることが確認されている(例えば、Kitabatake M. et al., Vaccine, 2007, vol. 25, p. 630-637 参照)。
rVVの作製に用いる組換え母体となるワクシニアウイルスとしては、安全性の確立されているワクチン株である必要があるが、そのようなワクチン株としてはワクシニアウイルスLC16m8株(例えば、臨床とウイルス, vol. 3, No. 3, p. 269, 1975参照)が知られている。LC16m8株はリスター株から分離されたものであって、実際に予防ワクチンとしての投与実績があり、かつ安全性及び有効性が確認されており、現在製造されている唯一のワクチン株である。しかしながら、LC16m8株の弱毒性を起因しているB5Rタンパク質の一塩基欠損は、ウイルスが複製増殖する中で、変異を起こし同遺伝子領域内に一塩基挿入した全長B5Rタンパク質を発現する復帰ウイルスの出現する可能性がある(例えば、Morikawa S. et al., J. Virol., 2005, vol. 79, p. 11873-11891 参照)。また本発明者らは、リンダペスト、HIV、SARS-CoV等に対する組換えワクシニアウイルスの開発検討の過程で、抗体産生能及び細胞性免疫の誘導能を非常に高めることのできる遺伝子発現プロモーターを用いることが、本発明のワクシニアウイルスに有効であることを見出した。具体的にはプラスミドベクターとしてpSFJ1-10やpSFJ2-16を用いることが好ましいことを見出した(例えば、Jin N-Y et al., Arch. Virol., 1994, vol. 138, p. 315-330;Elmowalid GA. et al., Pros. Natl. Acad. Sci., 2007, vol. 104, p. 8427-8432;特開平6-237773号報 参照)。
その結果、本発明者は、H1N1パンデミックインフルエンザウイルス(H1N1(2009) pdm)のヘマグルチニン(HA)タンパク質をコードする遺伝子を、発現プロモーターとともに、ワクシニアウイルスのB5Rタンパク質遺伝子と組換えることにより、H1N1(2009) pdm由来HAタンパク質を発現するB5Rタンパク質遺伝子欠損組換えワクシニアウイルスを作製し、LC16m8株の安全性を固定化し、且つ外来遺伝子の効率的な発現に成功したものである。
本発明にかかる組換えワクシニアウイルスの母体となるウイルスは、上記のとおりワクシニアウイルスである。そのゲノム中にH1N1(2009) pdmのHAタンパク質をコードするcDNA(当該cDNAの全部又は一部)がB5Rタンパク質遺伝子領域(当該遺伝子領域の全部又は一部)と組換えられたものが、本発明の組換えワクシニアウイルスである。H1N1(2009) pdmのHAタンパク質をコードするcDNA(当該cDNAの全部又は一部)をそれぞれ発現ユニットとし、それぞれワクシニアウイルスベクターに導入した。この発現ユニットをワクシニアウイルスLC16m8株のB5Rタンパク質遺伝子と相同組換えした。B5Rタンパク質遺伝子を欠損してもワクシニアウイルスLC16m8株の増殖活性には影響を与えないことはすでに知られている(PNAS, vol. 102, p. 4152-4157, 2005 参照)。むしろ、全長のB5Rタンパク質を発現する復帰ウイルスの出現可能性を無くすことができるため、安全なワクチン株を組換え母体ウイルスとして使用することができる。
組換えワクシニア生ワクチンは、狂犬病ウイルスやリンダペストウイルスに対するものが野外試験されており、その感染発症予防効果の優秀性が証明されている。
本発明者は、ハイブリットプロモーターの下流にH1N1(2009) pdmのHAタンパク質遺伝子を挿入し、これらの遺伝子を、弱毒ワクシニアウイルスLC16m8株のB5Rタンパク質遺伝子領域と組換えることで組換えワクシニアウイルス(rVV)を作製した。ハイブリッドプロモーターは、ポックスウイルスA型封入体(ATI)プロモーター及び複数反復するワクシニアウイルス7.5 kDaタンパク質(p7.5)前期発現プロモーターにより構成される(Jin N-Y et al., Arch. Virol., 1994, vol. 138, p. 315-330 参照)。このプロモーターは、北海道大学の志田壽利博士により開発され、同博士から提供を受けることも可能である。
作製したB5Rタンパク質遺伝子欠損LC16m8株由来rVVは、動物細胞に感染させることにより、H1N1(2009) pdmのHAタンパク質を大量に発現することが確認され、また動物個体に接種することでH1N1(2009) pdmのHAタンパク質に対する高力価の抗体が早期に産生することが併せて確認され、本発明を完成した。
2.新型インフルエンザウイルスのHAタンパク質遺伝子を有する組換えワクシニアウイルスの作製
H1N1(2009) pdmのHAタンパク質遺伝子は、すでに米国生物工学情報センター(NCBI; National Center for Biotechnology Information)により提供されるGenBankデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/genbank/)において、所定のアクセッション番号(Accession No.)により登録されている。例えば、GenBankアクセッション番号:FJ969540に、H1N1(2009) pdm(H1亜型に属するウイルス株)由来のHAタンパク質をコードする遺伝子(cDNA:配列番号1)が登録されている。
本発明の組換えワクシニアウイルスに含まれるHAタンパク質をコードする遺伝子(cDNA)としては、上記遺伝子のほか、HA凝集活性を有する限り、その一部やその変異配列も用いることができる。例えば、H1N1(2009) pdmのHAタンパク質をコードする遺伝子(cDNA)としては、配列番号1に示される塩基配列からなるDNAの一部の塩基を変異(置換変異)させたDNA(具体的には、配列番号3に示される塩基配列からなるDNA)も用いることができる。
これらHAタンパク質遺伝子(一部欠損・変異させた遺伝子も含む)は、すでにクローニングされ、プラスミドに挿入されている。従って、本発明の組換えワクシニアウイルスに含まれる遺伝子、すなわちH1N1(2009) pdmのHAタンパク質をコードするcDNAの全部(変異配列も含む)又はその一部は、通常の遺伝子工学的手法により得ることができる。例えば、遺伝子工学的手法として一般的に用いられているDNA合成装置を用いた核酸合成法を使用することができる。また、鋳型となる遺伝子配列を単離又は合成した後に、それぞれの遺伝子に特異的なプライマーを設計し、PCR装置を用いてその遺伝子配列を増幅するPCR法、又はクローニングベクターを用いた遺伝子増幅法を用いることができる。上記方法は、「Moleculer cloning, A Laboratory Manual 3rd ed.」(Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001))等を参照して行うことができる。得られたPCR産物の精製には公知の方法を用いることができる。また、変異配列、特に変異置換型のDNAについては、例えば、上記「Moleculer cloning, A Laboratory Manual 3rd ed.」や「Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987-1997)」等に記載の部位特異的変位誘発法に準じて調製することができる。具体的には、Kunkel法や Gapped duplex法等の公知手法により、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キットを用いて調製することができ、当該キットとしては、例えば、QuickChangeTM Site-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社製)、GeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社製)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Prime STAR(登録商標) Mutagenesis Basal kit、Mutan(登録商標)-Super Express Km等:タカラバイオ社製)等が好ましく挙げられる。
本発明の好ましい態様においては、上記プラスミドに挿入されているH1N1(2009) pdmのHAタンパク質遺伝子を、上記PCRの鋳型に用いることができる。そして、H1N1(2009) pdmのHAタンパク質遺伝子のcDNAを鋳型とし、各遺伝子特異的なプライマーを用いてPCRを行うことにより、H1N1(2009) pdmのHAタンパク質遺伝子領域を調製することができる。本発明においては、H1N1(2009) pdm(H1亜型に属するウイルス株)由来のHAタンパク質をコードする遺伝子として、配列番号3に示す塩基配列からなるDNAによりコードされる遺伝子を「mIVR153」と称する。
本発明においては、配列番号1及び3に示される塩基配列からなるDNAのほか、以下の各DNAも、上記各HAタンパク質遺伝子(例えばmIVR153等)のDNAとして使用することができる。
配列番号1に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、H1N1(2009) pdm由来のHAタンパク質をコードするDNA(変異型DNA)。
配列番号3に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、H1N1(2009) pdm由来のHAタンパク質をコードするDNA(mIVR153の変異型DNA)。
上記の各変異型DNAは、化学合成により得ることができ、あるいは、配列番号1及び3で表される塩基配列からなるDNA又はその断片をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーション、サザンブロット等の公知のハイブリダイゼーション法により、cDNAライブラリー及びゲノムライブラリーから得ることもできる。上記ハイブリダイゼーションにおけるストリンジェントな条件としては、例えば、0.1×SSC〜10×SSC、0.1%〜1.0%SDS及び20℃〜80℃の条件が挙げられ、より詳細には、37℃〜56℃で30分以上プレハイブリダイゼーションを行った後、0.1×SSC、0.1%SDS中、室温で10〜20分の洗浄を1〜3回行う条件が挙げられる。ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、「Molecular Cloning, A Laboratory Manual 3rd ed.」(Cold Spring Harbor Press (2001))等を参照することができる。
また、配列番号1に示す塩基配列と50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上又は99%以上の相同性を有し、かつ、H1N1(2009) pdm由来のHAタンパク質をコードするDNA(変異型DNA)や、配列番号3に示す塩基配列と50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、98%以上又は99%以上の相同性を有し、かつ、H1N1(2009) pdm由来のHAタンパク質をコードするDNA(mIVR153の変異型DNA)を用いることができる。
本発明の組換えワクシニアウイルスに含まれる発現プロモーターは、ワクシニアウイルスのB4Rタンパク質遺伝子の下流に挿入されるものであり、ポックスウイルスA型封入体(ATI)プロモーター及び複数反復するワクシニアウイルス7.5 kDaタンパク質(p7.5)前期発現プロモーターにより構成されるハイブリットプロモーター(ATI・p7.5ハイブリットプロモーター)である。このプロモーターは、適当なプラスミドに連結することができ、例えばpBMSF7cΔB5Rが知られている(Arch. Virol., 1994, vol. 138, p. 315-330;特開平6-237773号公報 参照)。
本発明において使用可能なハイブリッドプロモーターの塩基配列を配列番号2に示す。但し、本発明においては、配列番号2に示す塩基配列からなるDNAのほか、配列番号2に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、プロモーター活性を有するDNAも、発現プロモーター(特にハイブリッドプロモーター)として使用することができる。「ストリンジェントな条件」は前記と同様である。「プロモーター活性を有する」とは、構造タンパク質又は非構造タンパク質をコードする遺伝子の転写活性を有することを意味する。
このハイブリットプロモーターにより発現されるタンパク質は、ワクシニアウイルス感染前期から後期まで完全な糖修飾を受けた形で大量に発現することができる。本発明においては、pBMSF7cΔB5Rのハブリッドプロモーター下流に、H1亜型に属するパンデミックインフルエンザウイルス若しくはその変異体のHAタンパク質をコードするcDNA、又はその一部を挿入したプラスミドベクターを総称してpBMSF7cΔB5R-Flu HAといい、特に、配列番号3の塩基配列によりコードされるH1N1(2009) pdmのHAタンパク質遺伝子を挿入したプラスミドベクターをpBMSF7cΔB5R-mIVR153という。
これらのプラスミドベクターを、宿主であるワクシニアウイルスに導入することで、組換えワクシニアウイルス(rVV)を作製することができる。pBMSF7cΔB5R-Flu HAを用いて得られたrVVをrVVΔB5R-Flu HAといい、pBMSF7cΔB5R-mIVR153を用いて得られたrVVをrVVΔB5R-mIVR153と称することもある。
プラスミドベクターの宿主への導入は、公知の任意の手法を採用することができ、例えば、弱毒ワクシニアウイルスLC16m8株を感染した動物細胞中にプラスミドベクターpBMSF7cΔB5R-mIVR153を導入することにより、ワクシニアウイルスのB5R遺伝子領域において相同組換えを引き起こし、H1N1(2009) pdmのHAタンパク質遺伝子を発現する組換えワクシニアウイルス(rVVΔB5R-mIVR153)を作製することができる。
なお、rVVの作製に用いたワクシニアウイルスLC16m8株は、動物個体で増殖可能であるが、神経細胞における増殖性は極めて低い弱毒株である。日本では痘瘡ワクチンとして認可されており、約5万人の小児に接種の結果、重篤な副作用は発生していない(厚生省種痘研究班研究報告:臨床とウイルス, vol. 3, No. 3, p. 269, 1975 参照)。一方、免疫誘導能に関しては親株であるLister株と同等であることが報告されており、LC16m8株は安全で効果的なワクチンである。
作製した組換えワクシニアウイルス(rVV)は、ワクシニアウイルスのB5Rタンパク質遺伝子領域がインフルエンザウイルス由来のHAタンパク質遺伝子と組換えられているため、モルモット赤血球に対して凝集反応を示す。従って、rVVのスクリーニングは、rVVΔB5R-Flu HA を動物細胞に感染させ、これにより形成するプラークへのモルモット赤血球の凝集反応を指標にして行われる。目的のrVVは、赤血球凝集活性を持つレッドプラークを選別すればよい。
レッドプラークより得られたウイルスは、ウイルスゲノムを鋳型として本発明に用いたインフルエンザウイルスのHAタンパク質遺伝子特異的なプライマーによりPCRを行い、該インフルエンザウイルスのHAタンパク質遺伝子の導入を確認することができる。
rVV感染細胞におけるインフルエンザウイルス由来のHAタンパク質の発現は、例えば、rVVΔB5R-mIVR153を感染させた後の動物細胞をサンプルとして、ウエスタンブロット法により確認することができる。なお、抗体は、例えば、H1N1(2009) pdmのHAタンパク質由来のHAペプチド(a.a. 223-234(配列番号4:YSKKFKPEIAIR)等)を免疫して作製したウサギ抗血清を用いることができる。
3.新型インフルエンザの予防用及び治療用医薬組成物
本発明は、上記組換えワクシニアウイルスを含む、H1亜型に属するパンデミックインフルエンザウイルスによるインフルエンザ(新型インフルエンザ)の予防薬及び治療薬(予防用及び治療用医薬組成物)を提供する。また本発明は、上記組換えワクシニアウイルスを患者(被験者)に投与することを含む、上記新型インフルエンザの予防及び治療方法や、上記新型インフルエンザの予防及び治療のための上記組換えワクシニアウイルスの使用や、上記新型インフルエンザの予防薬及び治療薬を製造するための上記組換えワクシニアウイルスの使用等も提供することができる。
本発明の医薬組成物は、あらゆる公知の方法、例えば、筋肉、腹腔内、皮内又は皮下等の注射、あるいは鼻腔、口腔又は肺からの吸入、経口投与により生体に導入することができる。さらに、本発明の医薬組成物に含まれる組換えワクシニアウイルスと、既存の抗ウイルス薬(例えば、タミフル、リレンザ)を併用することも可能である。併用の態様は特に限定されるものではなく、本発明の組換えワクシニアウイルスと既存の抗ウイルス薬とを同時に投与することもでき、また、一方を投与後、一定時間経過後に他方を投与する方法により生体に導入することもできる。
また、本発明の医薬組成物は、賦形剤、増量剤、結合剤、滑沢剤等公知の薬学的に許容される担体、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等と混合することができる。
本発明の医薬組成物は、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤、液剤、シロップ剤等の経口投与剤、注射剤、外用剤、坐剤、点眼剤等の非経口投与剤などの形態に応じて、経口投与又は非経口投与することができる。好ましくは、皮内、筋肉、腹腔等への局部注射等が例示される。
投与量は、有効成分の種類、投与経路、投与対象、患者の年齢、体重、性別、症状その他の条件により適宜選択されるが、ウイルスの一日投与量としては、経口の場合は1,000〜1,000,000,000 PFU(plaque forming units)程度、好ましくは100,000〜100,000,000 PFU程度であり、非経口の場合は100〜1,000,000,000 PFU程度、好ましくは1,000〜100,000,000 PFU程度である。ウイルスは、1日1回投与することもでき、数回に分けて投与することもできる。
本発明の組換えワクシニアウイルスは、新型インフルエンザ予防用及び治療用ワクチンとして使用される。また、これまでに、H1N1(2009) pdmに対するワクチンの開発では、H1N1(2009) pdmに対する抗体と細胞障害性T細胞(CTL)に着目した研究が行われている。従って、予めワクチンとしての抗体価又は細胞性免疫活性を測定しておくことが好ましい。
例えば、作製した組換えワクシニアウイルス(rVVΔB5R-mIVR153)又は親株であるLC16m8株に対する抗体価は、これらのウイルス株をマウスに接種後、経時的に血清を回収し、血清のH1N1(2009) pdmのHAタンパク質に対するELISA価を測定することで得ることができる。rVVΔB5R-mIVR153を接種したマウスの血清は、接種2週間後からH1N1(2009) pdmのHAタンパク質に対する抗体価の上昇が認められる。
以上のとおり、本発明者らが作製した組換えワクシニアウイルス(rVVΔB5R-mIVR153)は、H1亜型に属するパンデミックインフルエンザウイルスであるH1N1(2009) pdmに対する液性免疫を誘導し得るものである。
以下に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。これらの実施例は説明のためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
組換えワクシニアウイルス(rVV)の作製
pBMSF7c/ΔB5RプラスミドのSbfI-SgfIサイト間に、H1N1(2009) pdmのHAタンパク質遺伝子を組み込むことにより、B4Rタンパク質遺伝子下流にATI・p7.5ハイブリットプロモーターとその下流に上記HAタンパク質遺伝子が挿入されたプラスミドベクターpBMSF7c/ΔB5R-mIVR153を作製した(図1)。具体的には、pBMSF7c/ΔB5R-mIVR153には、配列番号3に示される塩基配列からなるDNAをH1N1(2009) pdmのHAタンパク質遺伝子として挿入し、配列番号2に示される塩基配列からなるDNAをATI・p7.5ハイブリットプロモーターとして挿入した。また、pBMSF7cプラスミドのSbfI-SgfIサイト間に、同様にH1N1(2009) pdmのHAタンパク質遺伝子を組み込むことによりワクシニアウイルスタンパク質遺伝子領域にATI・p7.5ハイブリッドプロモーターとその下流に上記HAタンパク質遺伝子が挿入されたプラスミドベクターpBMSF7c-mIVR153を作製し、コントロールとした(図1)。
初代腎培養細胞を35mmディッシュに播種し、コンフルエントに達したところで、ワクシニアウイルス弱毒株LC16m8株を、moi=10で、30℃で1時間感染させた。なお、moi(multiplicity of infection)とは、細胞1個あたりのPFU(plaque forming units)をいう。感染後、ウイルス溶液を吸引除去し、細胞をPBS(-)で洗浄した。次いで、5倍希釈 TrypLE/0.5mM EDTA/PBS(-)により処理し、10%FCS/DMEM培地 抗生物質(-)、PBS(-)、HeBS bufferで洗浄後、細胞をHeBS buffer 600μlに懸濁した。プラスミドベクターpBMSF7c/ΔB5R-mIVR153の1.5μgを全量30μlになるようにHeBS bufferを用いて希釈し、細胞懸濁液に加えて混和し、氷上で10分間静置した。プラスミドベクターを加えた細胞懸濁液を10μlチップ型金電極で吸い上げ、エレクトロポレーター(Invitrogen社製)を用いてエレクトロポレーション(1200 V、パルス幅40 ms、パルス回数1回)を行った。エレクトロポレーション後、直ちに10%FCS/DMEM培地 抗生物質(-) 2 mlであらかじめ35 mmディッシュに播種しておいたRK13細胞又は初代腎培養細胞に、添加した。エレクトロポレーション2回分を35 mmディッシュに添加し、30℃で24時間培養した。H1N1(2009) pdmのHAタンパク質遺伝子をLC16m8のHA遺伝子領域に組み込んだプラスミドベクターpBMSF7c-mIVR153を同様に処理し、コントロールとして用いた。
24時間培養後、スクレーパーを用いて細胞をディッシュから剥がし、細胞懸濁液を回収し、冷水中において超音波処理(30 sec×4回)を行った後、遠心分離(2000 rpm、10 min)した。その上清をウイルス溶液として使用した。ウイルス溶液を5%FCS/MEM培地に希釈し、150 mmディッシュに播種しておいた初代腎培養細胞に30℃、1時間感染させた。ウイルス溶液を吸引除去した後、PBS(-)で細胞を洗浄した。5%FCS/0.5%メチルセルロース/MEM培地を添加して、30℃で96時間培養した。96時間培養後、上清を吸引除去し、PBS(-)で洗浄した。PBS(+)で希釈したモルモット赤血球溶液を150 mmディッシュに添加し、30℃で30 min培養した。赤血球溶液を吸引除去した後、細胞をPBS(+)で2回洗浄した。モルモット赤血球が吸着したプラークを、ピペットマンを用いて回収した。回収したプラークについて、PCRならびに遺伝子配列の決定により前記各HAタンパク質遺伝子の導入を確認した。遺伝子導入が確認されたプラークについてはプラーク精製を3回繰り返した。
3回プラーク精製したウイルスについて、小スケール培養を行った。3回目に得られたコロニーを500μlの5%FCS/MEM培地に懸濁し、冷水中で超音波処理を行った。遠心分離(2000 rpm、10 min)を行った後、上清250μlを60mmディッシュに播種しておいた初代腎培養細胞に添加し、30℃で1時間感染させた。感染後、2.5 mlの5%FCS/MEM培地を添加し、30℃で96時間培養した。96時間後にスクレーパーを用いて細胞をフラスコから剥がし、細胞懸濁液を回収した。回収した細胞懸濁液を冷水中で超音波処理(30 sec、4回)した後、遠心分離し、その上清をウイルス溶液として回収した。回収したウイルス溶液は、段階希釈して6ウェルプレートに播種しておいたRK13細胞又は初代腎培養細胞に添加し、30℃で1時間感染させた。ウイルス溶液を吸引除去した後、PBS(-)で細胞を2回洗浄した後、5%FCS/0.5%メチルセルロース/MEM培地を添加して、30℃で96時間培養した。96時間後に、ウェル中に形成されるプラーク数をカウントすることによりtiterを算出した。
この算出したtiterをもとに大スケール培養を行った。150 mmディッシュ10枚にRK13細胞又は初代腎培養細胞を播種し、コンフルエントに達したところで、組換えワクシニアウイルス溶液(2 ml)を、moi=0.1で、30℃で1時間感染させた。感染後、ウイルス溶液を吸引除去し、18 mlの5%FCS/MEM培地を添加し、30℃、96時間培養した。96時間後にスクレーパーを用いて細胞をフラスコからはがし、細胞懸濁液を回収し、-80℃で凍結保存した。この細胞懸濁液は凍結融解を1回行った後、冷水中で超音波処理(30 sec、4回)、遠心分離をし、その上清をウイルス溶液として回収した。このウイルス溶液を段階希釈して、6ウェルプレートに播種しておいたRK13細胞又は初代腎培養細胞に感染させて、上記と同様の方法により溶液中のウイルスtiterを算出した。titerを算出したこれらの各ウイルス溶液(組換えワクシニアウイル:rVVΔB5R-mIVR153、及びコントロール:rVV-mIVR153)を、以下の各実施例に示す種々の実験に使用した。
PCRによるHAタンパク質遺伝子の導入確認
実施例1に示したHAタンパク質遺伝子(cDNA:配列番号3)に特異的な以下のプライマー(インサート確認PCR用プライマー)を用い、得られた組換えワクシニアウイルスのゲノムを鋳型としてPCRを行うことにより、当該ウイルスゲノム中に各HAタンパク質遺伝子が導入されているか確認した。
インサート確認PCR用プライマーの塩基配列
<Fプライマー>
Fw: mIVR153-1889-S20
5’- AATGCGAACTGTTGGTTCT- 3’ (配列番号5)
(H1N1(2009) pdmのHAタンパク質遺伝子確認用)
<Rプライマー>
Rv: HA-6-R
5’- CTAGTTCTGAGAAACCAGAGG -3’ (配列番号6)
(H1N1(2009) pdmのHAタンパク質遺伝子確認用)
具体的には、反応液組成は、市販のポリメラーゼに添付の緩衝液50μlに対しDNAポリメラーゼ1 U、dNTP 0.3mM、Fプライマー 1μM、Rプライマー 1μMとし、サイクル条件は、融解を95℃で0.5分、アニーリングを58℃で0.5分、伸長を72℃で2分とするサイクルを計25サイクルとした。得られたPCR産物を、アガロースゲルを用いて電気泳動し、バンドを確認した。その結果、プライマー設計により予め想定した長さの単一のバンドが認められれば、組換えウイルスゲノム中にH1N1(2009) pdmのHAタンパク質遺伝子が導入されていることが分かり、一方、当該バンドが認められなければ、H1N1(2009) pdmのHAタンパク質遺伝子は導入されていないことが分かることになる。
ウエスタンブロット法によるH1N1(2009) pdmのHAタンパク質の発現確認
組換えワクシニアウイルスを、予め6ウェルプレートに播種しておいたRK13細胞に、moi=10で、30℃で1時間感染させた。感染後、ウイルス溶液を吸引除去し、PBS(-)により細胞を1回洗浄した。各ウェルに2 mlの5%FCS/MEM培地を添加し、30℃、18時間培養した。18時間後、培地を吸引除去し、PBS(-)により細胞を2回洗浄した。100μlの溶解 buffer(1% SDS、0.5% NP-40、0.15 M NaCl、10 mM Tris-HCl (pH 7.4))を添加して細胞を溶解させ、その溶液を1.5 mlのエッペンドルフチューブに移し入れた。回収した溶液は粘性がなくなるまで冷水中で超音波処理を行った。調製した溶液中のタンパク質量は、Lowry法により定量した。
電気泳動は、10% アクリルアミドゲルを用い、20μgのタンパク質に対して行った。電気泳動終了後、ゲルを取り出し、Semi-dry blotterを用いて2 mA/cm2で60分間通電し、ゲル中のタンパク質をPVDFメンブレンにトランスファーした。メンブレンをTBS-T溶液で洗浄した後、5%スキムミルク-TBS-T溶液につけてブロッキングを行った。ブロッキング終了後、メンブレンをTBS-T溶液で3回洗浄した。一次抗体は、H1N1(2009) pdmのHAタンパク質由来のHAペプチド(a.a. 223-234(配列番号4: YSKKFKPEIAIR)に対するウサギポリクローナル抗体を使用した。一次抗体との反応終了後、メンブレンをTBS-T溶液で3回洗浄した。二次抗体には抗ウサギIgG-linked HRPO(from Donkey、Amersham社製)を使用した。二次抗体との反応終了後、再度TBS-T溶液でメンブレンを3回洗浄し、Immobilon western検出用試薬(Millipore社製)をメンブレンに添加し、蛍光をCCDカメラで取り込み、画像解析した。
その結果、図2に示すように、rVVΔB5R-mIVR153の組換えウイルスゲノム中においてH1N1(2009) pdmのHAタンパク質が発現していることが分かった。
マウスへの組換えワクシニアウイルス接種実験(図3)
図3(上図)は、組換えワクシニアウイルス(rVVΔB5R-mIVR153等)の液性免疫誘導能の確認方法も示す図である。
実施例1で得られた組換えワクシニアウイルス(rVVΔB5R-mIVR153、rVV-mIVR153)又は空ベクターを挿入した組換えワクシニアウイルス(rVV-Empty)を、BALB/cマウス(雌)に1×107 PFUで経内皮接種(皮内接種(i.d.))した後、1、2、3及び4週間後に、眼窩静脈より採血を行った。採取した血液は、すべて血清分離剤を入れた0.5 mlチューブにとり、遠心分離(15000 rpm、10分間)して血清を分離回収した。血清は、後述するELISA試験を行うまで、-80℃に凍結保存した。
rVVΔB5R-mIVR153で免疫したマウス血清中のH1N1(2009) pdmのHAタンパク質に対する、ELISA法による抗体価測定
96ウェルプレートにH1N1(2009) pdmのHAタンパク質をコートしておき、凍結しておいた血清サンプルを100〜1000倍に希釈して添加し、4度で一晩静置した。96ウェルプレートをTBS-T溶液で洗浄した後、96ウェルプレートに抗マウスIgG-linked HRPO(from Sheep、Amersham社製)を二次抗体として添加した。室温で2時間反応させた後、再度TBS-T溶液で96ウェルプレートを3回洗浄した。発色液を100μl/wellで添加した。室温で30分間静置後、2M硫酸溶液を50μl/wellで添加して反応を停止した。マイクロプレートリーダーで490 nmの吸光度を測定した。
その結果、rVVΔB5R-mIVR153を接種したマウス血清中にH1N1(2009) pdmのHAタンパク質に対して高い抗体価の誘導が認められた(図4)。
rVVΔB5R-mIVR153のH1N1(2009) pdmインフルエンザに対する予防効果の検討
図4に示すように、rVVΔB5R-mIVR153接種による免疫誘導効果が確認されたため、これらワクチン接種マウスに対して、ワクチン接種から5週間後に、鼻からH1N1(2009) pdm(詳しくはH1N1/2619/2009株)を攻撃感染させた(図3(上図))。
上記攻撃感染から3日後の肺中のウイルス量を調べた結果、rVVΔB5R-mIVR153接種マウスでは、ワクチンを接種していないマウス(rVV-Empty接種マウス;以下同様)に比べて、肺組織中ウイルス量は1/1000程度まで減少していた(図5)。
また、上記攻撃感染後の経日的な体重変化を測定し、感染から9日後に剖検を行い、肺の病理解析を行った。
ワクチンを接種していないマウスでは、上記攻撃感染後、経日的に体重が減少していき、9日後には、約30%の低下が認められるのに対して、ワクチン接種群(rVV-mIVR153接種マウス、rVVΔB5R-mIVR153接種マウス;以下同様)では上記攻撃感染後の初期に一過性に体重減少が見られるものの、その後は速やかに体重が増加し、正常値付近にまで回復することが分かった(図3(下図))。
また、肺の病理解析の結果、図6に示すようにワクチン接種群では、パンデミックインフルエンザウイルス感染による肺炎を顕著に軽減できることが分かった。
rVVΔB5R-mIVR153のH1N1(2009) pdmインフルエンザに対するワクチン即効性効果の検討
図7の実験スケジュールに示すとおり、実施例1で得られた組換えワクシニアウイルス(rVVΔB5R-mIVR153、rVV-mIVR153)又は空ベクターを挿入した組換えワクシニアウイルス(rVV-Empty)を、BALB/cマウス(雌)に1×107 PFUで経内皮接種(皮内接種(i.d.))してから3日後に、鼻からH1N1(2009) pdm(詳しくはH1N1/2619/2009株)を攻撃感染させた。上記攻撃感染から9日後までの経日的な体重変化を測定した。
ワクチンを接種していないマウスでは、上記攻撃感染後、経日的に体重が減少していき、9日後には、約25%の低下が認められるのに対して、ワクチン接種群では、上記攻撃感染後の初期に一過性に体重減少が見られるものの、その後は速やかに体重が増加し、正常値付近にまで回復することが分かった(図7)。
配列番号3:組換えDNA
配列番号5:合成DNA
配列番号6:合成DNA

Claims (9)

  1. ワクシニアウイルスのB5Rタンパク質遺伝子領域の全部又は一部が、発現プロモーターと、H1亜型に属するパンデミックインフルエンザウイルス由来ヘマグルチニンタンパク質をコードするcDNAの全部又は一部とにより組換えられた、組換えワクシニアウイルス。
  2. ワクシニアウイルスがLC16m8株である、請求項1に記載の組換えワクシニアウイルス。
  3. H1亜型に属するパンデミックインフルエンザウイルスが、H1N1(2009) pdmである、請求項1又は2に記載の組換えワクシニアウイルス。
  4. ヘマグルチニンタンパク質をコードするcDNAが、以下の(a)〜(d)のDNAである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組換えワクシニアウイルス。
    (a) 配列番号3に示す塩基配列からなるDNA
    (b) 配列番号3に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、H1亜型に属するウイルス株由来のヘマグルチニンタンパク質をコードするDNA
    (c) 配列番号1に示す塩基配列からなるDNA
    (d) 配列番号1に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、H1亜型に属するウイルス株由来のヘマグルチニンタンパク質をコードするDNA
  5. 発現プロモーターがハイブリッドプロモーターである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組換えワクシニアウイルス。
  6. ハイブリッドプロモーターが、以下の(a)又は(b)のDNAからなるものである、請求項5に記載の組換えワクシニアウイルス。
    (a) 配列番号2に示す塩基配列からなるDNA
    (b) 配列番号2に示す塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、プロモーター活性を有するDNA
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載の組換えワクシニアウイルスを含む医薬組成物。
  8. H1亜型に属するパンデミックインフルエンザウイルスによるインフルエンザの予防薬である、請求項7に記載の医薬組成物。
  9. H1亜型に属するパンデミックインフルエンザウイルスによるインフルエンザの治療薬である、請求項7に記載の医薬組成物。
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