JP2013216635A - Trem−1活性阻害剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】TREM−1活性阻害剤や、該活性阻害剤を有効成分として含有するTREM−1の活性化に起因する炎症性障害の予防又は治療剤を提供すること。
【解決手段】本願発明者は、マウスTREM−1の機能的リガンドがマウスシアル酸結合性免疫グロブリン様レクチン−G(Siglec−G)であること、ヒトTREM−1の機能的リガンドが、免疫細胞表面受容体である白血球免疫グロブリン様受容体A1(LILR A1)、及び白血球免疫グロブリン様受容体B2(LILR B2)であることを明らかにした。上記TREM−1リガンドに対する中和抗体又はその抗体断片、あるいは上記TREM−1リガンドを標的とする機能性核酸を用いることによって、TREM−1活性阻害剤や、TREM−1の活性化に起因する炎症性障害の予防又は治療剤を提供することができる。
【選択図】なし

Description

本発明は、TREM−1リガンドに対する中和抗体又はその抗体断片、あるいはTREM−1リガンドを標的とする機能性核酸を有効成分として含有するTREM−1活性阻害剤や、該活性阻害剤を有効成分として含有するTREM−1の活性化に起因する炎症性障害の予防又は治療剤に関する。
TREM−1(Triggering receptor expressed on myeloid cells-1)は免疫グロブリン様細胞表面受容体ファミリーに属する受容体であり、ITAM(immunoreceptor tyrosine-based activation motif)含有アダプター分子であるDAP12(DNAX activation protein 12)を介して免疫細胞の機能調節に関与すると考えられている(非特許文献1及び2)。TREM−1は、好中球及び、単球/マクロファージのサブセット上に発現しており、これらの細胞におけるTREM−1発現は各種のTLR(Toll-like receptor)を介した刺激によって促進される(非特許文献1、3、及び4)。また、アゴニスト抗体によるTREM−1の活性化は、マクロファージ及び好中球からの複数の炎症性サイトカイン及びケモカインの産生をもたらすこと、さらに、この応答は、TLRライゲーションをはじめとする他の自然免疫刺激と相乗的に作用して、炎症性応答を増幅させることが報告されている(非特許文献3〜6)。
TREM−1の活性化が、細菌感染症、炎症性腸炎、膠原病等の疾患に関与することは、実験的に明らかにされている。例えば、LPS誘導性又は細菌誘導性敗血症性ショックがみられるマウスに、TREM−1の細胞外領域とIgとの融合タンパク質(TREM−1−Ig)、又は合成TREM−1ペプチドを投与した場合、投与しない場合に比較して長時間生存することが明らかにされている(非特許文献3及び7)。また、炎症性大腸炎は腸における細菌性の損傷がその発症機序に重要な役割を果たしていることが知られる疾患であるところ、炎症性大腸炎モデルマウスにTREM−1アンタゴニストペプチドを投与してTREM−1からのシグナル伝達を遮断した結果、炎症性大腸炎が軽減されることが確認された(非特許文献8)。さらに、関節リウマチのモデルマウスであるコラーゲン誘導関節炎(CIA)マウスの関節由来の滑膜マクロファージには、TREM−1が豊富に発現しており、CIAマウスに可溶性TREM−1−Ig遺伝子を導入して、TREM−1の機能を阻害すると、誘導抗原に対するT細胞及びB細胞免疫応答を妨害することなく、CIAに対して有意な治療効果をもたらすことが明らかにされている(非特許文献9及び特許文献1)。
以上のような研究結果は、TREM−1の活性化が、細菌感染症、炎症性腸炎、膠原病等の病態生理に重要な役割を果たしていることを強く示唆するものである。また、非特許文献3には、敗血症モデルにおけるTREM−1の遮断が、細菌感染症の抑制を妨害することなく炎症性サイトカインの産生を減弱させることが明らかにされていることから、TREM−1の活性化を阻害することによって、微生物感染症に対する免疫防御を維持したままで、リウマチ等の治療を行うことが可能であると考えられる。しかし、TREM−1の天然のリガンド(以下、「TREM−1リガンド」と称する場合がある)は同定されておらず、TREM−1リガンドの生理的役割や、TREM−1リガンドとTREM−1との相互作用を阻害する物質についてはほとんど研究されていなかった。
特開2011−93806号公報
J Immunol 164: 4991-4995, 2000 Nat Immunol 7: 1266-1273, 2006 Nature 410: 1103-1107, 2001 J Immunol 170: 3812-3818, 2003 J Immunol 180: 3520-3534, 2008 J Leukoc Biol 80: 1454-1461, 2006 J Exp Med 200:1419-1426, 2004 J Clin Invest. 117:3097-3106, 2007 Arthritis Rheum 60:1615-1623, 2009
本発明の課題は、TREM−1活性阻害剤や、該活性阻害剤を有効成分として含有するTREM−1の活性化に起因する炎症性障害の予防又は治療剤を提供することにある。
本発明者は、まず、以下のような実験によってマウス及びヒトTREM−1のリガンドを同定した。すなわち、本発明者は、マウスTREM−1と特異的に結合するA20細胞、及びヒトTREM−1に特異的に結合するヒト末梢血単核細胞(PBMC)から、2種類のcDNA発現ライブラリを構築し、それぞれのライブラリを導入したBa/F3細胞から、マウスTREM−1に結合する細胞及びヒトTREM−1に結合する細胞を単離して、遺伝子の解析を行った。そして、解析の結果、マウスTREM−1の機能的リガンドがシアル酸結合性免疫グロブリン様レクチン−G(sialic acid binding Ig-like lectin G;Siglec−G;配列番号1)であること、ヒトTREM−1の機能的リガンドが、免疫細胞表面受容体である白血球免疫グロブリン様受容体A1(Leukocyte immunoglobulin-like receptor A1;LILR A1;配列番号2)、及び白血球免疫グロブリン様受容体B2(Leukocyte immunoglobulin-like receptor B2;LILR B2;配列番号3)であることを明らかにした。Siglec−Gは、生理学的機能が不明なオーファンリガンドとして以前から知られており、また、LILR A1及びLILR B2は、ヒト主要組織適合性複合体クラスI分子(MHCI)と結合するヒト免疫系細胞表面受容体であることが知られていたが(Tissue Antigens 64: 215-225, 2004)、これらの分子はいずれもTREM−1との関連について全く知られていなかった。
続いて、本発明者は、上記TREM−1リガンドに対する抗体が、TREM−1の活性化に起因する疾患に対する予防又は治療効果を有するかどうかを検討した。すなわち、本発明者は、マウスTREM−1リガンドであるSiglec−Gに対する中和抗体(抗Siglec−G中和抗体)を作製して、かかる抗体をCIAマウス(関節リウマチモデルマウス)に投与した。そして、抗Siglec−G中和抗体投与後のCIAマウス病態の変化を観察し、抗Siglec−G中和抗体がCIAの症状を改善する効果を有することを明らかにした。また、抗Siglec−G中和抗体を投与したマウスにおけるT細胞及びB細胞応答を調べた結果、抗Siglec−G中和抗体の投与による獲得免疫の減弱は認められなかった。これらの実験結果から、本発明者は、TREM−1リガンドの中和抗体を投与することによって、感染症に対する免疫防御を低下させることなく、TREM−1の活性化に起因する疾患を予防及び治療できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、(1)(a)TREM−1リガンドに対する中和抗体又はその抗体断片;(b)TREM−1リガンドを標的とする機能性核酸;の(a)又は(b)を有効成分として含有するTREM−1活性阻害剤や、(2)TREM−1リガンドが、LILR A1又はLILR B2である前記(1)記載の活性阻害剤や、(3)中和抗体が、ヒト抗体、キメラ抗体、又はヒト化抗体である前記(1)又は(2)記載の活性阻害剤や、(4)抗体断片が、F(ab’)、Fab、diabody、Fv、ScFv、又はSc(Fv)である前記(1)又は(2)記載の活性阻害剤や、(5)中和抗体又はその抗体断片が、PEG化された中和抗体又はその抗体断片である前記(1)〜(4)のいずれかに記載の活性阻害剤や、(6)機能性核酸が、siRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、核酸アプタマー、リボザイム、又はデコイである前記(1)〜(5)のいずれかに記載の活性阻害剤に関する。
また、本発明は、(7)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の活性阻害剤を有効成分として含有する、TREM−1の活性化に起因する炎症性障害の予防又は治療剤や、(8)炎症性障害が、膠原病、細菌感染症、又は炎症性腸疾患である前記(7)記載の予防又は治療剤や、(9)膠原病が、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、全身性硬化症、シェーグレン症候群、多発性筋炎、皮膚筋炎、リウマチ熱、又は結節性多発性動脈炎である前記(8)記載の予防又は治療剤や、(10)細菌感染症が、敗血症又は細菌性大腸炎である前記(8)記載の予防又は治療剤や、(11)炎症性腸疾患が、潰瘍性大腸炎又はクローン病である前記(8)記載の予防又は治療剤に関する。
本発明によれば、TREM−1リガンドによるTREM−1の活性化を特異的に阻害することが可能であり、TREM−1の活性化に起因する炎症性障害の予防又は治療を安全且つ効果的に行うことができる。
マウスB細胞及びBa/F3細胞形質導入株へのTREM−1−Hisの結合を示す図である。図1aは、マウス脾細胞を、FITCで標識した抗B220 mAb及びビオチン化TREM−1−Hisで染色し、次いでPEストレプトアビジンで染色した結果を示す。図1bは、B細胞株A20及びK46をビオチン化対照Ig(塗りつぶし)又はビオチン化TREM−1−His(塗りつぶしなし)で染色し、次いでPEストレプトアビジンで染色した結果を示す。図1c〜eは、IRES−GFP(モック)又はSiglec−G−IRES−GFPをコードするレトロウイルスを、Ba/F3細胞に形質導入し、親のBa/F3細胞とモック(c)又はSiglec−G形質導入株(d、e)との混合物を、ビオチン化TREM−1−His(c、d)又はTREM−1−GST(e)で染色し、次いでPEストレプトアビジンで染色した結果を示す。 Siglec−G刺激によるマクロファージからのTNF−α分泌を示す図である。図2aは、Siglec−G−Ig単独、又はSiglec−G−Ig及びTREM−1−Hisによってコーティングされたマイクロタイタープレートで、腹腔マクロファージを24時間培養し、培養上清中のTNF−α濃度をELISAにより調べた結果を示す。図2bは、腹腔マクロファージをLPS単独で刺激した場合と、LPSと固定化されたSiglec−G−Igとで刺激した場合のTNF−α濃度を調べた結果を示す。 抗Siglec−Gモノクローナル抗体の作製について示す図である。図3aは、IRES−GFP(モック)又はSiglec−G−IRES−GFP(Siglec−G)をコードするレトロウイルスをBa/F3細胞に形質導入し、親のBa/F3及びモック又はSiglec−G形質導入株の混合物を、ビオチン化抗Siglec−G mAbで染色し、次いでPEストレプトアビジンで染色した結果を示す。図3bは、Siglec−Gを発現するBa/F3細胞を、抗Siglec−G mAbでプレインキュベートし、ビオチン化TREM−1−Hisで染色した結果を示す。網掛したヒストグラム(I)は、ビオチン化TREM−1−Hisで染色し、次いでPEストレプトアビジンで染色した細胞を、太線(II)は、TREM−1−Hisで染色する前に抗Siglec−G mAbでプレインキュベートした細胞のヒストグラムをそれぞれ示している。対照ラットIgによるプレインキュベートは、TREM−1−HisのSiglec−G発現Ba/F3細胞への結合を阻害しなかった(データは示さず)。また、点線(III)は、バックグラウンド染色を示す。 抗Siglec−G mAbのCIAマウス(関節リウマチモデルマウス)に及ぼす影響を示す図である。図4aは、CIAは完全フロイントアジュバント(CFA)とエマルジョン化したII型コラーゲン(CII)を用いた、一次免疫(0日目)及び二次免疫(21日目)を行ってCIAを誘導したマウスに、100μgの対照ラットIg(○)又は50μg(□)、100μg(△)の抗Siglec−G mAbを1日おきに、0日目〜41日目の間腹腔内注射した結果を示す。図4b〜eは、CIA誘導後41日目のマウスの後肢の中足指節関節を、ヘマトキシリン及びエオシン染色(b、c)並びに軟X線写真(d、e)により調べた結果を示す。図中、コントロール(b、d)は、Igで処理した対照マウス由来の関節を示し、抗Siglec−G mAb(c、e)は、100μgの抗Siglec−Gで処理したマウス由来の関節をそれぞれ示す。また、スケールバーは100μmである。図4fは、関節炎の重症度を組織学的にスコア化した結果を示す。図4gは、関節の骨侵食を、X線写真でスコア化した結果を示す。図4f及び4gにおいて、スコアは、独立した観察者により決定された。値は、各群のマウスの総スコアの平均±SDである。また、図f及びgにおいて、白抜きカラムは対照群を、塗りつぶしカラムは抗Siglec−G mAb治療群をそれぞれ示す。図4hは、対照Ig50μg(○)又は、抗Siglec−G mAb50μg(□)を1日おきに、26日目〜40日目の間、2つの群のマウスに腹腔内注射し、関節炎スコアの変化を調べた結果を示す図である(*p<0.05)。 CII特異的T細胞及びB細胞応答に対する抗Siglec−G mAb治療の効果を示す図である。図5aは、対照Ig(白抜きカラム)又は抗Siglec−G mAb100μg(塗りつぶしカラム)で治療したCIAマウスから41日目に単離した全脾細胞を、示されている量のCIIの存在下又は非存在下にて72時間培養し、培養物を、[H]チミジンでパルスし、取り込まれた放射線を測定した結果を示す。図5bは、対照Ig(白抜きカラム)又は抗Siglec−G mAb100μg(塗りつぶしカラム)で治療したCIAマウスの、抗−CII、IgG、IgG1、IgG2a、及びIgG2bの血中濃度を、32日目及び41日目にELISAで測定した結果を示す。この実験においては、関節炎マウス由来の血清の混合物で構成される標準血清を段階希釈にて各プレートに添加し、標準曲線を得た。標準血清を1ユニットと定義し、血清試料の抗体力価を、前記標準曲線により決定した。データは、2つの実験由来の各群における平均±SDとして示す。 ヒトTREM−1−Hisを用いてヒトPBMCのフローサイトメトリー分析を行った結果を示す図である。ヒトPBMCを、ビオチン化ヒトTREM−1−Hisと反応(室温、30分間)させて洗浄した後に、さらに、ストレプトアビジン−PE及びPC5標識抗CD19抗体と反応(氷上、30分間)させて洗浄し、フローサイトメトリー解析を行った。図中、横軸はヒトTREM−1−Hisの結合を、縦軸はCD19の発現をそれぞれ表す。 LILR A1及びLILR B2と、ヒトTREM−1−Hisとの結合を示す図である。IRES−GFPベクターを用いて、モック、LILR A1、又はLILR B2を発現するBa/F3細胞を作製した。作製した細胞を、ビオチン化ヒトTREM−1−Hisと反応(室温、30分間)させて洗浄した後に、さらに、ストレプトアビジン−PEと反応(氷上、30分間)させて洗浄し、フローサイトメトリー解析を行った。図中、横軸はGFPの発現を、縦軸はヒトTREM−1−Hisの結合をそれぞれ表す。
本発明のTREM−1活性阻害剤としては、(a)TREM−1リガンドに対する中和抗体又はその抗体断片;(b)TREM−1リガンドを標的とする機能性核酸;の(a)又は(b)を有効成分として含有するものであれば特に制限されず、ここで、「TREM−1リガンド」とは、TREM−1に結合することによってTREM−1を活性化させ、TREM−1の細胞内シグナル伝達経路を介した細胞の応答を引き起こすことのできる内在性の生理活性物質を意味し、かかるTREM−1リガンドは、ヒト、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、トリ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジー等の哺乳動物に由来するTREM−1リガンドであればどのようなものであってもよいが、具体的には、例えば、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるLILR A1(NCBI Reference Sequence: NP_006854.1)、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるLILR B2(NCBI Reference Sequence: NP_001074447.1)等のヒトTREM−1リガンドや、配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるSiglec−G(NCBI Reference Sequence: NP_766488.2)等のマウスTREM−1リガンドを好適に挙げることができ、中でも、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるLILR A1、配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるLILR B2等のヒトTREM−1リガンドを特に好適に挙げることができる。
本発明における「TREM−1リガンドに対する中和抗体(以下、「本中和抗体」と称する場合がある)」とは、TREM−1リガンドに特異的に結合して、TREM−1リガンドのTREM−1活性化作用を阻害又は抑制する抗体を意味し、上記本中和抗体としては、具体的には、例えば、LILR A1に特異的に結合して、LILR A1によるヒトTREM−1リガンドの活性化を阻害又は抑制する抗LILR A1中和抗体や、LILR B2に特異的に結合して、LILR B2によるヒトTREM−1リガンドの活性化を阻害又は抑制する抗LILR B2中和抗体や、Siglec−Gに特異的に結合して、Siglec−GによるマウスTREM−1リガンドの活性化を阻害又は抑制する抗Siglec−G中和抗体等を好適に挙げることができる。また、本発明における「TREM−1リガンドに対する中和抗体の抗体断片(以下、「本抗体断片」と称する場合がある)」とは、上記本中和抗体の可変領域の一部又は全部を含む抗体断片であって、TREM−1リガンドに特異的に結合して、TREM−1リガンドのTREM−1活性化作用を阻害又は抑制する抗体断片を意味し、本抗体断片としては、具体的には、例えば、上記抗LILR A1中和抗体の可変領域の一部又は全部を含む抗体断片であって、LILR A1に特異的に結合して、LILRAによるヒトTREM−1リガンドの活性化を阻害又は抑制する抗LILR A1中和抗体の抗体断片や、上記抗LILR B2中和抗体の可変領域の一部又は全部を含む抗体断片であって、LILR B2に特異的に結合して、LILB2によるヒトTREM−1リガンドの活性化を阻害又は抑制する抗LILR B2中和抗体の抗体断片や、上記抗Siglec−G中和抗体の可変領域の一部又は全部を含む抗体断片であって、Siglec−Gに特異的に結合して、Siglec−GによるマウスTREM−1リガンドの活性化を阻害又は抑制する抗Siglec−G中和抗体の抗体断片等を好適に挙げることができる。上記本中和抗体は、どのような種類の抗体であってもよいが、ヒト抗体、キメラ抗体、又はヒト化抗体であることが好ましく、また、上記本中和抗体の断片は、どのような種類の抗体断片であってもよいが、F(ab’)、Fab、diabody、Fv、ScFv、又はSc(Fv)等であることが好ましい。
上記本中和抗体は、慣用のプロトコールに従って作製することができる。例えば、上記ヒト抗体は、インビトロにおいてTREM−1リガンドによって感作されたヒトリンパ球と、ヒトミエローマ細胞(例えば、U266等)とを融合させて得られるハイブリドーマの中から、TREM−1リガンドと特異的に結合して、TREM−1リガンドのTREM−1活性化作用を阻害又は抑制する所望のヒト抗体を産生するハイブリドーマを適宜選択することによって作製することができる。さらに、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物に、抗原となるTREM−1リガンドを投与し、前述の方法に従って所望のヒト抗体を取得してもよい(例えば、特公平1−59878、WO93/12227、WO92/03918、WO94/02602、WO94/25585、WO96/34096、WO96/33735等を参照のこと)。また、上記キメラ抗体は、例えば、抗TREM−1リガンド抗体を産生するハイブリドーマ細胞から、V領域をコードするDNAを慣用方法により単離して配列決定し、該DNA断片とヒト抗体定常領域をコードするDNAとを連結して発現ベクターに導入し、宿主細胞(例えば、大腸菌、COS細胞、CHO細胞、ミエローマ細胞等)にトランスフェクトすることによって作製することができる。さらに、上記ヒト化抗体は、例えば、マウス抗TREM−1リガンド抗体のCDR領域をコードするDNAと、ヒト抗体定常領域をコードするDNAとを連結させて、適当なベクターに組み込み、該ベクターを用いて形質転換した形質転換体より調製することができる。(例えば、EP239400、WO96/02576等を参照のこと)。また、上記「ヒト抗体定常領域」は、定常領域を構成するアミノ酸配列における欠失、置換、付加等により、Fc受容体又は補体と結合しないヒト抗体定常領域であってもよく、このようなFc受容体又は補体と結合しないヒト抗体定常領域コードするDNAは、例えば、特許第465968号等に記載されたFc受容体結合部位に変異が導入された変異体の遺伝子情報に基づいて作製することができる。
また、上記本抗体断片は、慣用のプロトコールに従って作製することができる。例えば、上記F(ab’)、Fab、diabody、及びFvは、ヒト又はヒト以外の動物に由来する抗TREM−1リガンド抗体の全長抗体を、パパイン、ペプシン等のタンパク質分解酵素を用いて消化することによって作製するか(例えば、WO94/29348、及び以下の実施例を参照のこと)、又は、これらの抗体断片をコードするDNAを構築し、該DNAを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現さることによって作製することができる(例えば、J. Immunol. 152, 2968-2976, 1994、Methods Enzymol. 178, 476-496, 1989、Methods Enzymol. 178, 497-515, 1989、Methods Enzymol. 121, 652-663, 1986、Methods Enzymol. 121, 663-669, 1986、Trends Biotechnol. 9, 132-137, 1991等を参照のこと)。さらに、上記ScFv及びSc(Fv)は、H鎖可変領域及びL鎖可変領域からなるFvの片方の鎖のC末端に、他方のN末端を適当なペプチドリンカーを挟んで連結し一本鎖化することによって作製することができる。より具体的には、例えば、上記中和抗体のH鎖可変領域及びL鎖可変領域をコードするDNAとペプチドリンカー(例えば、(GGGGS)等)をコードするDNAを用いてscFv抗体をコードするDNAを構築し、これを適当なベクターに組み込み、該ベクターを用いて形質転換した形質転換体より調製することができる。
上記本中和抗体及び本抗体断片は、ヒト抗体ライブラリを用いて単離することもできる(例えば、Nature, 348, 552-554, 1990等を参照のこと)。より具体的には、例えば、ファージディスプレイ法により、ヒト抗体の可変領域をscFvとしてファージの表面に発現させ、TREM−1リガンドを固定化したプレートを用いて、TREM−1リガンドに結合するファージを選択し、選択されたファージの遺伝子を解析することによって、TREM−1リガンドに結合する抗体の可変領域をコードする遺伝子を同定することができる。これらの遺伝子配列を用いれば、ヒト抗TREM−1リガンド中和抗体及びその抗体断片を作製することができる(例えば、WO92/01047、WO92/20791、WO93/06213、WO93/11236、WO93/19172、WO95/01438、WO95/15388等を参照のこと)。
さらに、上記本中和抗体及び本抗体断片は、任意の水溶性重合体によって修飾されていてもよく、具体的には、例えば、PEG化された中和抗体又はその抗体断片、フコシル化された中和抗体又はその抗体断片、グリコシル化された中和抗体又はその抗体断片等を好適に挙げることができるが、中でも、PEG化された中和抗体又はその抗体断片を特に好適に挙げることができる。また、上記本中和抗体は、定常領域を構成するアミノ酸配列における欠失、置換、付加等により、Fc受容体又は補体と結合しないものであってもよい。
本発明における「TREM−1リガンドを標的とする機能性核酸(以下、「本機能性核酸」と称する場合がある)」とは、TREM−1リガンドの発現又は機能を特異的に抑制する核酸を意味し、上記本機能性核酸は、天然型、天然修飾型、合成型ヌクレオチドのいずれであってもよく、また、DNA、RNA、あるいはそれらのキメラ体であってもよいが、具体的には、TREM−1リガンドをコードする遺伝子のセンス鎖に特異的に結合して、該遺伝子の分解又は翻訳抑制を引き起こす核酸(例えば、siRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド等)や、TREM−1リガンドに特異的に結合して、TREM−1リガンドのTREM−1活性化作用を阻害又は抑制する核酸(例えば、核酸アプタマー、リボザイム等)や、TREM−1リガンドをコードする遺伝子の転写調節に関与する因子に特異的に結合して、該遺伝子の転写を抑制する核酸(例えば、デコイ等)を好適に挙げることができる。より具体的には、上記本機能性核酸としては、LILR A1の発現又は機能を特異的に抑制するsiRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、核酸アプタマー、リボザイム、又はデコイや、LILR B2の発現又は機能を特異的に抑制するsiRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、核酸アプタマー、リボザイム、又はデコイや、Siglec−Gの発現又は機能を特異的に抑制するsiRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、核酸アプタマー、リボザイム、又はデコイを好適に例示することができ、中でも、LILR A1の発現を特異的に抑制するsiRNAや、LILR B2の発現を特異的に抑制するsiRNAや、Siglec−Gの発現を特異的に抑制するsiRNAを特に好適に例示することができる。
上記本機能性核酸は、生体内で分解されにくいように修飾した核酸であることが好ましく、特に、機能性核酸がRNAの場合は、細胞内のRNaseに対して分解されにくいように、メチル化処理やチオリン酸化処理などの抗RNase処理されていることが好ましく、核酸のリボースの2’位のメチル化処理や、核酸の骨格の結合のチオリン酸化処理がさらに好ましい。メチル化やチオリン酸化を行うヌクレオチドの数や位置は、核酸が有する発現抑制活性に若干影響を与える場合があるため、メチル化やチオリン酸化を行うヌクレオチドの数や位置等の態様には、好ましい態様が存在する。この好ましい態様は、修飾対象となる核酸の配列によっても異なるため一概にいうことはできないが、修飾後の核酸の発現抑制活性を確認するによって、好ましい態様を容易に調べることができる。
上記本機能性核酸は、TREM−1リガンドをコードする遺伝子のDNA配列や、その転写調節領域のDNA配列などの情報に基づいて公知の方法により設計することができる。例えば、siRNAであれば、特開2005−168485号記載の方法を、核酸アプタマーであれば、Nature, 346(6287), 818-22, 1990等に記載の方法を、リボザイムであれば、FEBS Lett, 239, 285, 1988; タンパク質核酸酵素, 35, 2191, 1990; Nucl Acids Res, 17, 7059, 1989等に記載の方法を用いて、TREM−1リガンドを標的とする機能性核酸を設計することができる。また、上記本機能性核酸は、公知の方法等を用いて調製することができる。例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチドやリボザイムは標的遺伝子のcDNA配列又はゲノミックDNA配列に基づいてmRNAもしくは初期転写産物の標的配列を決定し、市販のDNA/RNA自動合成機(アプライド・バイオシステムズ社、ベックマン社等)を用いて、これに相補的な配列を合成することにより調製することができ、また、デコイやsiRNAは、センス鎖及びアンチセンス鎖をDNA/RNA自動合成機でそれぞれ合成し、適当なアニーリング緩衝液中、約90〜約95℃で約1分程度変性させた後、約30〜約70℃で約1〜約8時間アニーリングさせること等により調製することができる。また、核酸アプタマーは、特開2007−014292号記載の方法等により調製することができる。
上記本発明のTREM−1活性阻害剤は、活性阻害の対象となるTREM−1と、同一の種類の動物に由来するTREM−1リガンドに対する中和抗体又は抗体断片を含有するか、あるいは、活性阻害の対象となるTREM−1と、同一の種類の動物に由来するTREM−1リガンドを標的とする機能性核酸を含有することが好ましい。具体的には、例えば、活性阻害の対象となるTREM−1が、ヒトTREM−1である場合には、本発明のTREM−1活性阻害剤が、LILR A1やLILR B2等のヒトTREM−1リガンドに対する中和抗体又はその抗体断片か、あるいは、LILR A1やLILR B2等ヒトTREM−1リガンドを標的とする機能性核酸を含有することが好ましく、また、活性阻害の対象となるTREM−1が、マウスTREM−1である場合には、本発明のTREM−1活性阻害剤が、Siglec−G等のマウスTREM−1リガンドに対する中和抗体又はその抗体断片か、あるいは、Siglec−G等のマウスTREM−1リガンドを標的とする機能性核酸を含有することが好ましい。本発明のTREM−1活性阻害剤は、上記本中和抗体、上記本抗体断片、及び上記本機能性核酸から選択される1又は複数を含有することができ、また、本発明のTREM−1活性阻害剤は、インビボ又はインビトロにおいて使用することができる。
本発明の、TREM−1の活性化に起因する炎症性障害の予防又は治療剤(以下、「本発明の予防又は治療剤」と称する場合がある)としては、上記本発明のTREM−1活性阻害剤を有効成分として含有するものであれば特に制限されず、上記「TREM−1の活性化に起因する炎症性障害」とは、TREM−1及び/又はTREM−1リガンドの発現の増加や、TREM−1を介した細胞内シグナル伝達経路の活性化の亢進が認められる炎症性障害を意味し、かかる「TREM−1の活性化に起因する炎症性障害」としては、具体的には、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、全身性硬化症、シェーグレン症候群、多発性筋炎、皮膚筋炎、リウマチ熱、結節性多発性動脈炎等の膠原病や、敗血症、細菌性大腸炎等の細菌感染症や、潰瘍性大腸炎、クローン病等の炎症性腸疾患を好適に例示することができる。本発明の予防又は治療剤は、ヒト、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、トリ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジー等の哺乳動物であればどのようなものであっても投与対象とすることできるが、本発明の予防又は治療剤に含まれるTREM−1活性阻害剤が、投与対象となる動物と、同一の種類の動物に由来するTREM−1リガンドに対する中和抗体又は抗体断片を含有するか、あるいは、投与対象となる動物と、同一の種類に由来するTREM−1リガンドを標的とする機能性核酸を含有することが好ましい。具体的には、例えば、投与対象がヒトである場合には、本発明の予防又は治療剤に含まれるTREM−1活性阻害剤が、LILR A1やLILR B2等のヒトTREM−1リガンドに対する中和抗体又はその抗体断片か、あるいは、LILR A1やLILR B2等のヒトTREM−1リガンドを標的とする機能性核酸を含有するTREM−1活性阻害剤であることが好ましく、また、投与対象がマウスである場合には、本発明の予防又は治療剤に含まれるTREM−1活性阻害剤が、Siglec−G等のマウスTREM−1リガンドに対する中和抗体又はその抗体断片か、あるいはSiglec−G等のマウスTREM−1リガンドを標的とする機能性核酸を含有するTREM−1活性阻害剤であることが好ましい。
本発明の予防又は治療剤は、薬理学的に許容される公知の担体又は希釈剤等からなる補助成分や、炎症性障害の治療及び予防のための他の生理活性物質をさらに含有していてもよい。また、本発明の予防又は治療剤は、投与対象が炎症性障害であると判断された後に、治療を目的として投与してもよいし、投与対象が炎症性障害であると判断される前に、予防を目的として投与してもよい。本発明の予防又は治療剤の投与方法としては、特に制限されないが、例えば、注射投与(静脈内、筋肉内、動脈内等)、経口投与、経皮投与、経粘膜投与、経直腸投与、経腔投与等を好適に挙げることができる。
また、本発明の他の態様としては、(a)TREM−1リガンドに対する中和抗体又はその抗体断片;(b)TREM−1リガンドを標的とする機能性核酸;の(a)又は(b)のTREM−1活性阻害剤製造のための使用や、(a)TREM−1リガンドに対する中和抗体又はその抗体断片;(b)TREM−1リガンドを標的とする機能性核酸;の(a)又は(b)を有効成分として含有するTREM−1活性阻害剤を、TREM−1の活性化に起因する炎症性障害の予防又は治療を必要とする患者に投与することにより、TREM−1の活性化に起因する炎症性障害を予防又は治療する方法や、TREM−1の活性化に起因する炎症性障害を予防又は治療するための、(a)TREM−1リガンドの中和抗体又はその抗体断片;(b)TREM−1リガンドを標的とする機能性核酸;の(a)又は(b)を有効成分として含有するTREM−1活性阻害剤や、TREM−1の活性化に起因する炎症性障害の予防又は治療剤の製造における、(a)TREM−1リガンドの中和抗体又はその抗体断片;(b)TREM−1リガンドを標的とする機能性核酸;の(a)又は(b)を有効成分として含有するTREM−1活性阻害剤の使用にも関する。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
以下の(1)〜(9)に記載の材料及び方法を用いて、後述の実施例2〜9を行った。
[材料と方法]
(1)マウス及びラット
6週齢雄DBA/1Jマウス、雌ICRヌードマウス、及び雌SDラットを、Japan Charles River Breeding Laboratoriesから購入し、東京医科歯科大学の動物施設で維持した。以下の実施例に記載された全ての工程及び動物実験は、東京医科歯科大学の動物実験委員会で検討、承認された。
(2)融合タンパク質の作製
マウスTREM−1の細胞外領域(aa1〜201)をコードする遺伝子を、マウスIgG2aのFc領域(aa237〜469)をコードする遺伝子、又は6×ヒスチジン(His)と連結させた。また、ヒトTREM−1の細胞外領域(aa1〜200)をコードする遺伝子を6×ヒスチジン(His)と連結させた。これらの組換え遺伝子をそれぞれ、レトロウイルスpMX IRES緑色蛍光タンパク質(GFP)ベクター(東京大学、北村博士から譲受)にサブクローニングした。それらのベクターを、pCMV−VSV−G(水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質)ベクターとともに、リン酸カルシウムトランスフェクション法によって、Plat−Eパッケージング細胞株にコトランスフェクションし、組換えウイルスを作製した(Gene therapy 7:1063-1066, 2000)。上記組換えウイルスを用いてCHO(チャイニーズハムスター卵巣細胞系)を処理し、Aria II cell sorter(BD Biosciences社製)を用いてGFP発現細胞を選択した(J Immunol 183:438-444, 2009)。次に、上記培養上清に含まれる、マウスTREM−1細胞外領域とマウスIgG2aFc領域との融合タンパク質(以下、「マウスTREM−1−Ig」と称する場合がある)、マウスTREM−1細胞外領域と6×Hisとの融合タンパク質(以下、「マウスTREM−1−His」と称する場合がある)、及びヒトTREM−1細胞外領域と6×Hisとの融合タンパク質(以下、「ヒトTREM−1−His」と称する場合がある)をそれぞれ、プロテインGアガロースゲル及びHisPur Cobalt Resin(Fisher Thermo社製)を用いて精製した。さらに、精製されたマウスTREM−1−His及びヒトTREM−1−Hisを、EZ連結スルホ−NHS−LC−LC−ビオチン(Fisher Thermo)を用いてビオチン標識し、ビオチン化マウスTREM−1−His及びビオチン化ヒトTREM−1−Hisを作製した。
また、TREM−1−Igの作製と同様の方法によって、マウスSiglec−Gの細胞外部分(aa1〜544)をコードする遺伝子と、マウスIgG2aのFc部分をコードする遺伝子とを連結させ(Genomics 82:521-530, 2003)、マウスSiglec−G細胞外部分とマウスIgG2aFc領域との融合タンパク質(以下、「Siglec−G−Ig」と称する場合がある)を作製した。また、マウスTREM−1細胞外部分(aa1〜201)の遺伝子と、グルタチオンS−トランスフェラーゼ(GST)をコードする遺伝子とを連結させて、GST融合タンパク質(以下、「マウスTREM−1−GST」と称する場合がある)を作製した。マウスTREM−1−GSTの作製は、原核生物発現系に関する他文献の記載に従って行った(Methods in molecular biology 681:259-280, 2011)。
(3)Ba/F3細胞形質導入株及びCHO細胞形質導入株の作製
全長Siglec−G cDNA、マウスTREM−1 cDNA、全長LILR A1 cDNA又は全長LILR B2 cDNAをそれぞれ、pMX IRES GFPベクターにサブクローニングした。上記CHO形質導入株と同様の方法によって、これらの組換えベクターをproB細胞株(Ba/F3)に導入して、Siglec−G形質導入proB細胞(Ba/F3)株(以下、「Ba/F3/Siglec−G」と称する場合がある)、及びマウスTREM−1形質導入proB細胞(Ba/F3)株(以下、「Ba/F3/マウスTREM−1」と称する場合がある)、LILR A1形質導入proB細胞(Ba/F3)株(以下、「Ba/F3/LILR A1」と称する場合がある)、LILR B2形質導入proB細胞(Ba/F3)株(以下、「Ba/F3/LILR B2」と称する場合がある)を作製した。
(4)発現クローニング
Gateway vector conversion システム、及びCloneminer II cDNAライブラリ構築キット(Invitrogen社製)を用い、A20B細胞リンパ腫細胞由来のcDNA(American Type Culture Collection)をpMXベクター(東京大学、北村博士から譲受)にサブクローニングした(Proc Natl Acad Sci USA 79: 3604-3607, 1982)。構築したライブラリベクターを用いてBa/F3細胞の形質導入を行った。そして、Aria II cell sorter(BD Biosciences社製)を用いて、マウスTREM−1−Hisに結合した形質導入細胞をソーティングした。また、同様の方法によって、ヒトPBMC由来のcDNAからレトロウイルス発現ライブラリベクターを作製してBa/F3細胞の形質導入を行い、ヒトTREM−1−Hisに結合した形質導入細胞をソーティングした。
(5)抗Siglec−G mAbの作製
Siglec−G発現Ba/F3細胞(Ba/F3/Siglec−G)をSDラットに免疫することにより、抗Siglec−G mAbを作製した。免疫脾細胞をP3U1骨髄腫細胞と融合することにより、ハイブリドーマを作製した後、それらの培養上清を調べ、Ba/F3/Siglec−Gに結合し、かつ形質導入されていないBa/F3細胞に結合しない抗体の存在についてスクリーニングした。腹水からmAbを精製するため、選別されたハイブリドーマをICRヌードマウスの腹腔に注入した。
(6)FACS分析
マウスTREM−1L発現細胞のフローサイトメトリー解析には、ビオチン化マウスTREM−1−His、FITC結合抗マウスB220mAb(BD Biosciences社製)、及び対照Ig(BD Biosciences社製)を用いた。また、ヒトTREM−1L発現細胞のフローサイトメトリー解析には、ビオチン化ヒトTREM−1−His、ストレプトアビジン−PE(e-bioscience社製)、及び細胞表面マーカーとしてPC5標識抗CD19抗体(Beckman Coulter社製)を用いた。フローサイトメトリー解析は、FACSCalibur(BD Biosciences社製)又はAccuri cytometer(Accuri cytometers社製)を、Flow Joソフトウェア(Tree Star社製)とともに用いて行った。
(7)マウスTREM−1及びSiglec−Gの架橋
段階希釈されたSiglec−G−Igのみ、又は、段階希釈されたSiglec−G−Ig及びTREM−1−Igによりプレコーティングされた平底のマイクロタイターウェル中で、常在性腹腔マクロファージをインキュベートした(Arthritis Rheum 60:1615-1623, 2009)。24時間後、培養上清を収集して、ELISAキット(R&D systems社製)によりTNF−αを定量した。
(8)抗体によるCIAの治療
Iwai et al.(J Immunol 169:4332-4339, 2002)の記載に従ってマウスにCIAを誘導し、四肢の腫れを0〜4に等級付けした(0=腫れなし、1=足指関節の腫れ、又は局所的赤み、2=手関節又は足関節の軽度の腫れ、3=肢全体の重度の腫れ、及び4=変形又は強直)。また、四肢の総スコアを、関節炎スコアとして用いた。さらに、以下の組織学的及び放射線学的パラメータも評価して、0〜2に等級付けした。滑膜の炎症(0=正常、1=局所的炎症性浸潤、及び2=細胞の組織構造の大半を占める炎症性浸潤);骨の破壊(0=正常、1=小さい領域の骨の破壊、及び2=広範囲の骨の破壊)(Arthritis Rheum 52:3004-3014, 2005;Arthritis Res Ther 7:R1348-1359, 2005)。T細胞の増殖を評価するため、初回免疫から41日後(41日目)のマウス由来の全脾臓細胞を用い、100μg/ml変性(60℃、30分)ウシコラーゲンタイプII(CII)の存在下又は非存在下で培養した。Iwai et al.(J Immunol 169:4332-4339, 2002)のとおりに、[H]チミジンの取り込みによりT細胞増殖を測定した。また、32日目及び41日目に血清試料を収集して、Iwai et al.(J Immunol 169:4332-4339, 2002)に記載のとおりに抗CII IgG抗体をELISAで定量した。
(9)統計的分析
抗CII抗体の力価及びH−チミジンの取り込みを、対応のあるスチューデントt−検定で比較した。関節炎スコア、組織学的スコア、及び放射線学的スコアをマン−ホイットニーのU検定で分析した。
[B細胞におけるマウスTREM−1リガンドの発現]
マウスTREM−1−Hisを用いてマウス脾細胞のフローサイトメトリー分析を行い、マウス脾細胞にマウスTREM−1の潜在的リガンドが発現しているかどうかを調べた。図1aに示すように、フローサイトメトリー分析の結果、マウスTREM−1−HisがB220陽性脾細胞に顕著に結合することが明らかとなった。この結果から、B細胞にマウスTREM−1のリガンド(以下、「マウスTREM−1−L」と称する場合がある)が発現していることが明らかとなった。
[マウスTREM−1−Lの同定]
マウスTREM−1−L cDNAを含むレトロウイルスcDNAライブラリを構築するために、Bリンパ芽球細胞株におけるマウスTREM−1−Lの発現について調べた。図1bに示すように、フローサイトメトリー分析の結果、マウスTREM−1−Hisは、A20及びK46B細胞株に結合した。この結果に基づいて、A20細胞由来レトロウイルスcDNA発現ライブラリを構築し、Ba/F3細胞に導入した。なお、Ba/F3細胞は、レトロウイルス遺伝子導入の前にはマウスTREM−1−His結合について陰性であった(データは示さず)。
マウスTREM−1−Hisに結合したBa/F3形質導入株を3回ソーティングした後、かかるソーティングされた細胞は一様に、マウスTREM−1−His結合陽性となった。導入されたcDNAを識別するため、これらの細胞から単離したmRNAをcDNAに転換し、上記レトロウイルスベクター配列のフランキング領域を特定する上流及び下流のオリゴヌクレオチドプライマーを用いてPCRを行った。PCR産物の配列を決定し、上記陽性細胞が、マウスシアル酸結合性免疫グロブリン様レクチン(Siglec)−Gの全長cDNAを有することが示された。
さらに、Siglec−GがマウスTREM−1−Hisと相互作用することを確認するために、レトロウイルスを用いてBa/F3細胞に全長Siglec−G cDNAを形質導入し、マウスTREM−1−Hisに結合するかどうかについて調べた。図1c及びdに示すように、モックを形質導入したBa/F3細胞及び形質導入しなかった細胞と異なり、Siglec−Gを形質導入した細胞はマウスTREM−1−Hisに結合した。また、図1eに示すように、大腸菌発現系を用いて作製したマウスTREM−1の細胞外部分とGSTとの組換え融合タンパク質もまた、Siglec−G形質導入細胞に結合した。このことは注目すべきことである。原核生物系により作製された融合タンパク質には糖鎖形成が欠如しているので、マウスTREM−1のシアル酸と、シアル酸と結合することが知られているSiglec−Gのシアロ接着(sialoadhesion)Vセットドメインとの間の相互作用は、この結合に関与していないはずである。
[Siglec−G刺激によるマクロファージのTNF−α産生]
アゴニスト抗マウスTREM−1抗体は、特にLPSで同時に刺激した場合にマクロファージからのTNF−αの放出を促進する(J Immunol 164:4991-4995, 2000)。この事実は、炎症の増幅因子としてのマウスTREM−1のライゲーションの役割を示すものである。Siglec−GがマウスTREM−1を介して同様に作用できるかどうかを調べるため、マウス腹腔マクロファージを、Siglec−G−Igでコーティングしたマイクロタイターウェル中でインキュベートした。図2aに示すように、Siglec−G−Igによる処理は、TNF−αの産生を増大させた。また、このようなTNF−αの産生の増大は、Siglec−G−IgとマウスTREM−1−Hisとを共にインキュベートすることにより抑制された。これらの結果から、Siglec−Gが、マウスTREM−1を介してマクロファージを刺激することが示された。さらに、図2bに示すように、LPS単独でもマクロファージからのTNF−α産生を刺激したが、固定したSiglec−G−Igによる同時刺激は、TNF−αの分泌をさらに増加させた。これらの結果から、Siglec−GがマウスTREM−1の機能的リガンドである可能性が示唆された。
[抗Siglec−Gモノクローナル抗体の作製]
ヒトの疾患の動物モデルにおける遮断抗体の投与はしばしば、特定のリガンド−受容体相互作用の病理学的役割を明らかにする。抗Siglec−Gモノクローナル抗体を作製するために、ラットをSiglec−G発現Ba/F3細胞で免疫し、免疫脾臓B細胞を単離した。これらの細胞を用いてハイブリドーマを樹立した結果、16の融合クローンが、Siglec−G形質導入株に結合し、かつ親のBa/F3細胞に結合しない抗体を産生した(図3a)。また、Siglec−G形質導入株を、いくつかの抗Siglec−G mAbクローンとともにプレインキュベートすると、Siglec−G形質導入株のマウスTREM−1−Hisへの結合が遮断された(図3b)。抗Siglec−G mAbによりマウスTREM−1のSiglec−Gへの結合が阻害されたことも、マウスTREM−1がSiglec−Gに直接結合することを示唆する。これらのアンタゴニストmAbクローンの1つを、以下のインビボの実験に用いた。
[抗Siglec−G遮断mAbを用いたマウスのコラーゲン誘導関節炎(CIA)の治療]
Murakami et al.(Arthritis Rheum 60:1615-1623, 2009)には、インビボにおいて、マウスTREM−1の活性化をマウスTREM−1−Igで遮断することにより、関節リウマチのマウスモデルであるCIAの治療に成功したことが記載されている。上記実施例4により作製された抗Siglec−G mAbが、CIAに対して、マウスTREM−1−Igと同様の効果を示すかどうかを確認した。まず、DBA/1JマウスにウシCIIを免疫し、二次免疫の日(21日目)から20日間、50μg若しくは100μgの抗Siglec−G mAb又は100μgの対照Igを腹腔内注射することにより治療した。この結果、抗Siglec−G mAbの投与は、CIAの臨床症状を改善させることが明らかとなった(図4a)。また、41日目の対照マウス由来の関節を病理組織学的に検査すると、単核細胞の浸潤、滑膜の過形成、軟骨破壊、及び骨の侵食が認められるが(図4b及びf)、抗Siglec−G mAbで治療したマウスでは、これらの特徴は抑制されることが明らかとなった(図4c及びf)。さらに、放射線検査の結果、抗Siglec−G mAbでの治療により、骨の侵食が抑制されていることが示された(図4d、e及びg)。
次に、抗Siglec−G mAbによる治療が関節炎の発症後にも有効であるかどうか検討するため、当施設におけるCIA発症の平均日である26日目から、同様の治療を開始した(J Immunol 169:4332-4339, 2002)。この治療プロトコールは、関節炎の臨床症状を低減させるのにも有効であった(図4h)。これらの結果は、マウスTREM−1−IgによるCIAの治療結果と類似しており、CIAの病理におけるマウスTREM−1/Siglec−G経路の役割が重要であることを示すものである。
[T細胞及びB細胞応答に対する抗Siglec−G mAb治療の効果]
マウスTREM−1のライゲーションは、単球の樹状細胞への分化を引き起こし、獲得免疫を惹起する(J Immunol 170:3812-3818, 2003)。獲得免疫におけるSiglec−G遮断の役割を検討するため、CII−特異的T細胞及びB細胞応答の予防的治療における抗Siglec−G mAbの効果を調べた。41日目に、100μgの抗Siglec−G mAbで治療したマウス及び対照マウスから単離した脾細胞は同程度に、CIIに対して良好に反応して増殖した(図5a)。抗−CII、IgG、IgG1、IgG2a、及びIgG2b抗体の血中濃度は、32日目及び41日目に2つの群で一致した(図5b)。以上のことから、抗Siglec−G mAb治療は、獲得免疫を減弱させないことが明らかとなった。また、これらの結果は、マウスTREM−1−Ig投与の結果と類似していた。TREM−1のリガンドは複数の可能性があるが、CIAの病理においてSiglec−Gは、主要なリガンドである可能性がある。
[B細胞におけるヒトTREM−1リガンドの発現]
ヒトTREM−1−Hisを用いてヒトPBMCのフローサイトメトリー分析を行い、ヒトPBMCにヒトTREM−1の潜在的リガンドが発現しているかどうかを調べた。図6に示すように、フローサイトメトリー分析の結果、ヒトTREM−1−Hisが、CD19陽性細胞(B細胞)に結合することが明らかとなった。この結果から、ヒトB細胞にマウスTREM−1のリガンド(以下、「ヒトTREM−1−L」と称する場合がある)が発現していることが明らかとなった。
[ヒトTREM−1−Lの同定]
ヒトPBMC由来のmRNAを用いて作製したレトロウイルスcDNAライブラリを、Ba/F3細胞に導入した。ビオチン化ヒトTREM−1−Hisに結合したBa/F3形質導入株をセルソーターで単離した。さらに、このソーティングを3回繰り返すことによって、ヒトTREM−1−L発現細胞を濃縮した。得られたヒトTREM−1−L発現細胞からゲノムDNAを抽出し、遺伝子導入に用いたベクターに特異的プライマーを用いたPCRにより導入遺伝子を増幅した。PCR産物をゲル抽出した後に、シークエンスを解析した結果、導入遺伝子がLILR B2であることが明らかとなった。また、ホモロジー解析を行った結果、LILR B2にホモロジーのある遺伝子としてLILR A1を同定した。さらに、LILR A1及びLILR B2と、ヒトTREM−1−Hisとの相互作用を確認するために、Ba/F3細胞に全長LILR A1 cDNA又は全長LILR B2 cDNAを形質導入し、マウスTREM−1−Hisに結合するかどうかについて調べた。図7に示すように、フローサイトメトリー分析の結果、LILR A1とLILR B2のいずれもがヒトTREM−1−Hisと結合することが明らかとなった。以上の結果から、LILR A1及びLILR B2が、ヒトTREM−1のリガンドであることが示唆された。

Claims (11)

  1. 以下の(a)又は(b)を有効成分として含有するTREM−1活性阻害剤。
    (a)TREM−1リガンドに対する中和抗体又はその抗体断片;
    (b)TREM−1リガンドを標的とする機能性核酸;
  2. TREM−1リガンドが、LILR A1又はLILR B2である請求項1記載の活性阻害剤。
  3. 中和抗体が、ヒト抗体、キメラ抗体、又はヒト化抗体である請求項1又は2記載の活性阻害剤。
  4. 抗体断片が、F(ab’)、Fab、diabody、Fv、ScFv、又はSc(Fv)である請求項1又は2記載の活性阻害剤。
  5. 中和抗体又はその抗体断片が、PEG化された中和抗体又はその抗体断片である請求項1〜4のいずれかに記載の活性阻害剤。
  6. 機能性核酸が、siRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、核酸アプタマー、リボザイム、又はデコイである請求項1〜5のいずれかに記載の活性阻害剤。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載の活性阻害剤を有効成分として含有する、TREM−1の活性化に起因する炎症性障害の予防又は治療剤。
  8. 炎症性障害が、膠原病、細菌感染症、又は炎症性腸疾患である請求項7記載の予防又は治療剤。
  9. 膠原病が、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、全身性硬化症、シェーグレン症候群、多発性筋炎、皮膚筋炎、リウマチ熱、又は結節性多発性動脈炎である請求項8記載の予防又は治療剤。
  10. 細菌感染症が、敗血症又は細菌性大腸炎である請求項8記載の予防又は治療剤。
  11. 炎症性腸疾患が、潰瘍性大腸炎又はクローン病である請求項8記載の予防又は治療剤。
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CN114144435A (zh) * 2019-07-15 2022-03-04 百时美施贵宝公司 针对人trem-1的抗体及其用途

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