ここで、SOCは、蓄電池に蓄えられている電気の残量(残容量)を、満充電時の蓄電容量で割った値を、パーセンテージで表したものである。このSOCは、蓄電池の蓄電容量がゼロの場合に0%となり、蓄電池の蓄電容量がSOCの推定時における蓄電容量の上限値(満充電時の蓄電容量に相当)に等しい場合に100%となる。
また、蓄電池の充電や放電が繰り返されると、蓄電池を構成する電池セルが経年変化により劣化し、これが蓄電池の劣化として現れるため、その結果、蓄電池の蓄電容量の上限値は、この蓄電池の劣化に伴って低下する。このため、例えば、性能が同一である蓄電池同士であっても、製造時期やこれまでの充放電の状況などが異なることによって、これら蓄電池の劣化状況に違いがあると、満充電時の蓄電容量に差が生ずることとなる。したがって、SOCの値が同一であっても、蓄電池の劣化状況が異なっていれば、蓄電池の蓄電容量は異なることとなる。よって、SOCを正確に推定するためには、蓄電池の劣化を考慮する必要がある。
しかしながら、上述の充電電流と放電電流とを積算してSOCを推定する手法において、蓄電池の劣化を考慮する場合、SOC推定のための演算が複雑化してしまい、蓄電池のSOCの推定に時間がかかってしまっていた。一方、上述の充電電流と放電電流とを積算してSOCを推定する手法において、蓄電池の劣化を考慮しない場合、蓄電池のSOCの推定にかかる時間を短縮できるものの、蓄電池が劣化するに従って、SOCの推定値とSOCの現実の値とが乖離してしまい、SOCの推定精度が低下していた。
また、上述の充電電流と放電電流とを積算してSOCを推定する手法では、充電電流および放電電流を測定する必要がある。しかしながら、電流を測定する電流センサには、測定誤差が存在する。このため、例えば微少な充電電流や放電電流が流れる期間が長期化すると、充電電流の積算値や放電電流の積算値に対する電流センサの測定誤差の影響が大きくなってしまう。したがって、SOCの推定値とSOCの現実の値とが乖離してしまい、SOCの推定精度が低下する場合があった。
以上のように、上述の充電電流と放電電流とを積算してSOCを推定する手法には、SOCの推定を高精度かつ短時間で行うことは困難であるという課題があった。
一方、OCVとSOCとの関係は、蓄電池が劣化しても変化しない。このため、上述のOCVとSOCとの関係を用いてSOCを推定する手法では、蓄電池が劣化しても、SOCの推定値とSOCの現実の値とが乖離してしまうのを防止できる。しかしながら、上述のOCVとSOCとの関係を用いてSOCを推定する手法では、図6を用いて後述するように、OCVの測定を高精度かつ短時間で行うことは困難であった。
図6は、充電後または放電後における蓄電池のOCVの経時変化を示す図である。図6では、波形a〜dの4つの波形が示されている。
波形aおよび波形bは、時刻t0以前の期間において放電状態であった蓄電池のOCVについて、この放電が時刻t0において終了した後の変化を示す。ただし、時刻t0以前の期間において蓄電池に流れていた放電電流について、波形aにおける放電電流は、波形bにおける放電電流より大きい。
波形cおよび波形dは、時刻t0以前の期間において充電状態であった蓄電池のOCVについて、この充電が時刻t0において終了した後の変化を示す。ただし、時刻t0以前の期間において蓄電池に流れていた充電電流について、波形dにおける充電電流は、波形cにおける充電電流より大きい。
図6に示すように、蓄電池の充電または放電が終了すると、終了後すぐに蓄電池のOCVが安定するのではなく(なお、安定した状態のOCVを真のOCVと称する。)、時間が経過するに従って蓄電池のOCVが安定して真のOCVに近づく。これは、蓄電池の充電または放電が終了してから、蓄電池の内部における化学反応が落ち着くまでに、時間がかかるためである。このため、OCVの測定を高精度かつ短時間に行うことは困難であった。なお、蓄電池の内部における化学反応が落ち着くまでとは、例えば蓄電池を構成する電池セルがリチウムイオン電池セルである場合には、蓄電池の内部におけるリチウムイオンの移動が落ち着いて平衡状態になるまで、ということである。
以上のように、上述のOCVとSOCとの関係を用いてSOCを推定する手法には、OCVの測定を高精度かつ短時間で行うことが困難であるため、SOCの推定を高精度かつ短時間で行うことが困難であるという課題があった。
そこで、本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、SOCの推定を高精度かつ短時間に行うことのできる充電状態推定装置、充電状態推定方法、およびプログラムを提供することを目的とする。
本発明は、上述の課題を解決するために、以下の事項を提案している。なお、理解を容易にするために、本発明の実施形態に対応する符号を付して説明するが、これに限定されるものではない。
(1) 本発明は、蓄電池(例えば、図1の蓄電池10に相当)の充電状態(例えば、後述のSOCに相当)を推定する充電状態推定装置(例えば、図1の制御部60に相当)であって、前記蓄電池の電圧を測定する電圧測定手段(例えば、図2の電圧測定部64に相当)と、前記電圧測定手段による測定結果に基づいて、前記蓄電池の開回路電圧(例えば、後述のOCVに相当)を推定する開回路電圧決定手段(例えば、図2のOCV決定部66に相当)と、前記開回路電圧決定手段により推定された前記蓄電池の開回路電圧に基づいて、当該蓄電池の充電状態を推定する充電状態推定手段(例えば、図2のSOC推定部67に相当)と、を備え、前記電圧測定手段は、予め定められた第1の規定時間(例えば、後述の規定時間に相当)だけ、予め定められた特定充電電流(例えば、後述の特定充電電流に相当)で前記蓄電池の充電を行い、当該充電を行った際の当該蓄電池の電圧を測定するとともに、予め定められた第2の規定時間(例えば、後述の規定時間に相当)だけ、予め定められた特定放電電流(例えば、後述の特定放電電流に相当)で前記蓄電池の放電を行い、当該放電を行った際の当該蓄電池の電圧を測定することを特徴とする充電状態推定装置を提案している。
ここで、蓄電池の真のOCVに対する、充電または放電した際の蓄電池の電圧の乖離度は、それぞれ、蓄電池に流れる充電電流または放電電流の電流値に応じて変化する。
そこで、(1)の充電状態推定装置は、電圧測定手段により、第1の規定時間だけ特定充電電流で蓄電池の充電を行い、充電を行った際の蓄電池の電圧を測定するとともに、第2の規定時間だけ特定放電電流で蓄電池の放電を行い、放電を行った際の蓄電池の電圧を測定する。また、開回路電圧決定手段により、電圧測定手段による測定結果に基づいて、蓄電池の開回路電圧を推定する。このため、開回路電圧決定手段において、蓄電池の真のOCVに対する、充電または放電した際の蓄電池の電圧の乖離度と、蓄電池に流れる充電電流または放電電流の電流値と、の関係を用いることで、蓄電池の真のOCVを推定でき、その結果、蓄電池の真のOCV、または、真のOCVに相当するOCVを求めることができる。このため、SOCの推定を高精度に行うことができる。
また、(1)の充電状態推定装置は、上述のように、開回路電圧決定手段において、蓄電池の真のOCVに対する、充電または放電した際の蓄電池の電圧の乖離度と、蓄電池に流れる充電電流または放電電流の電流値と、の関係を用いることで、蓄電池の真のOCVを推定できる。このため、蓄電池の内部における化学反応が落ち着くまで待つことなく、蓄電池の真のOCVを推定できる。したがって、蓄電池の真のOCVを短時間に推定できる。よって、SOCの推定を短時間に行うことができる。
(2) 本発明は、(1)の充電状態推定装置について、前記特定充電電流をIm、前記特定放電電流をIn、前記充電を行った際の蓄電池の電圧をVm、前記放電を行った際の蓄電池の電圧をVn、推定すべき前記蓄電池の開回路電圧をV0とすると、前記開回路電圧決定手段は、下記数式(1)または下記数式(2)により、前記蓄電池の開回路電圧を推定することを特徴とする充電状態推定装置を提案している。
ここで、上述のように、蓄電池の真のOCVに対する、充電または放電した際の蓄電池の電圧の乖離度は、それぞれ、蓄電池に流れる充電電流または放電電流の電流値に応じて変化する。具体的には、(1)の充電状態推定装置において、特定充電電流をIm、特定放電電流をIn、充電を行った際の蓄電池の電圧をVm、放電を行った際の蓄電池の電圧をVn、推定すべき蓄電池の開回路電圧をV0とすると、上述の数式(1)および数式(2)の関係が成り立つ。
そこで、(2)の充電状態推定装置は、(1)の充電状態推定装置において、開回路電圧決定手段により、上述の数式(1)または数式(2)を用いることとした。このため、蓄電池の真のOCVを推定でき、上述した効果と同様の効果を奏することができる。
(3) 本発明は、(1)または(2)の充電状態推定装置について、前記特定充電電流の下限値を設定して、前記測定結果に対する前記測定した蓄電池に流れる電流の測定誤差の影響の度合いを、予め定められたレベル以下にする(例えば、図2の電流測定部68による充電電流の測定結果に対する測定誤差の影響が無視または許容できるようにすることに相当)充電電流下限値設定手段(例えば、図2の電流設定部63に相当)を備えることを特徴とする充電状態推定装置を提案している。
ここで、上述のように、蓄電池の真のOCVに対する、充電した際の蓄電池の電圧の乖離度は、蓄電池に流れる充電電流の電流値に応じて変化する。このため、蓄電池の真のOCVを正確に推定するためには、蓄電池に流れる充電電流の電流値を、正確に測定して、正確に把握する必要がある。ところが、蓄電池に流れる充電電流を測定する電流センサといった機器には、測定誤差が存在する場合がある。したがって、蓄電池に流れる充電電流の測定誤差により、蓄電池に流れる充電電流を正確に把握できず、その結果、蓄電池の真のOCVを正確には推定できないおそれがある。
そこで、(3)の充電状態推定装置は、(1)または(2)の充電状態推定装置において、充電電流下限値設定手段により、特定充電電流の下限値を設定して、蓄電池に流れる充電電流の測定結果に対する測定誤差の影響の度合いを、予め定められたレベル以下にすることとした。このため、蓄電池に流れる充電電流の測定結果に対する測定誤差の影響の度合いを無視または許容できる範囲内にすることができるので、その結果、蓄電池の真のOCVを正確に推定できる。
(4) 本発明は、(1)〜(3)のいずれかの充電状態推定装置について、前記特定充電電流の上限値を設定して、前記蓄電池に電流が流れることによって生じる温度変化による当該蓄電池の電圧の変化を、予め定められたレベル以下にする(例えば、図2の電圧測定部64により蓄電池10の電圧を測定する際に、温度変化による蓄電池10の電圧の変化が無視または許容できるようにすることに相当)充電電流上限値設定手段(例えば、図2の電流設定部63に相当)を備えることを特徴とする充電状態推定装置を提案している。
ここで、蓄電池に充電電流が流れると、蓄電池の内部抵抗により蓄電池の温度が上昇し、蓄電池の温度は、蓄電池に流れる充電電流が大きくなるに従って、大きく上昇する。また、蓄電池の温度が上昇すると、蓄電池の電圧が変化する場合がある。
そこで、(4)の充電状態推定装置は、(1)〜(3)のいずれかの充電状態推定装置において、充電電流上限値設定手段により、特定充電電流の上限値を設定して、蓄電池に充電電流が流れることによって生じる温度変化による蓄電池の電圧の変化を、予め定められたレベル以下にすることとした。このため、蓄電池の温度上昇による蓄電池の電圧の変化を抑制することができるので、その結果、蓄電池の真のOCVをより正確に推定できる。
(5) 本発明は、(1)〜(4)のいずれかの充電状態推定装置について、前記特定放電電流の下限値を設定して、前記測定結果に対する前記測定した蓄電池に流れる電流の測定誤差の影響の度合いを、予め定められたレベル以下にする(例えば、図2の電流測定部68による放電電流の測定結果に対する測定誤差の影響が無視または許容できるようにすることに相当)放電電流下限値設定手段(例えば、図2の電流設定部63に相当)を備えることを特徴とする充電状態推定装置を提案している。
ここで、上述のように、蓄電池の真のOCVに対する、放電した際の蓄電池の電圧の乖離度は、蓄電池に流れる放電電流の電流値に応じて変化する。このため、蓄電池の真のOCVを正確に推定するためには、蓄電池に流れる放電電流の電流値を、正確に測定して、正確に把握する必要がある。ところが、蓄電池に流れる放電電流を測定する電流センサといった機器には、測定誤差が存在する場合がある。したがって、蓄電池に流れる放電電流の測定誤差により、蓄電池に流れる放電電流を正確に把握できず、その結果、蓄電池の真のOCVを正確には推定できないおそれがある。
そこで、(5)の充電状態推定装置は、(1)〜(4)のいずれかの充電状態推定装置において、放電電流下限値設定手段により、特定放電電流の下限値を設定して、蓄電池に流れる放電電流の測定結果に対する測定誤差の影響の度合いを、予め定められたレベル以下にすることとした。このため、蓄電池に流れる放電電流の測定結果に対する測定誤差の影響の度合いを無視または許容できる範囲内にすることができるので、その結果、蓄電池の真のOCVを正確に推定できる。
(6) 本発明は、(1)〜(5)のいずれかの充電状態推定装置について、前記特定放電電流の上限値を設定して、前記蓄電池に電流が流れることによって生じる温度変化による当該蓄電池の電圧の変化を、予め定められたレベル以下にする(例えば、図2の電圧測定部64により蓄電池10の電圧を測定する際に、温度変化による蓄電池10の電圧の変化が無視または許容できるようにすることに相当)放電電流上限値設定手段(例えば、図2の電流設定部63に相当)を備えることを特徴とする充電状態推定装置を提案している。
ここで、蓄電池に放電電流が流れると、蓄電池の内部抵抗により蓄電池の温度が上昇し、蓄電池の温度は、蓄電池に流れる放電電流が大きくなるに従って、大きく上昇する。また、蓄電池の温度が上昇すると、蓄電池の電圧が変化する場合がある。
そこで、(6)の充電状態推定装置は、(1)〜(5)のいずれかの充電状態推定装置において、放電電流上限値設定手段により、特定放電電流の上限値を設定して、蓄電池に放電電流が流れることによって生じる温度変化による蓄電池の電圧の変化を、予め定められたレベル以下にすることとした。このため、蓄電池の温度上昇による蓄電池の電圧の変化を抑制することができるので、その結果、蓄電池の真のOCVをより正確に推定できる。
(7) 本発明は、(1)〜(6)のいずれかの充電状態推定装置について、前記蓄電池に流れる電流を測定する電流測定手段(例えば、後述の電流測定部68に相当)を備え、前記充電状態推定手段は、前記電流測定手段により測定された電流値が予め定められた閾値(例えば、後述の閾値に相当)以上であれば、前記開回路電圧決定手段により推定された前記蓄電池の開回路電圧に基づいて当該蓄電池の充電状態を推定するとともに、前記蓄電池に流れる充電電流と放電電流とを積算して当該蓄電池の充電状態を推定し(例えば、上述の充電電流と放電電流とを積算する手法を用いてSOCを推定することに相当)、前記充電電流と放電電流とを積算して推定した充電状態に対して、前記開回路電圧に基づいて推定した充電状態で補正することを特徴とする充電状態推定装置を提案している。
(7)の充電状態推定装置は、(1)〜(6)のいずれかの充電状態推定装置において、電流測定手段により、蓄電池に流れる電流を測定することとした。また、電流測定手段により測定された電流値が予め定められた閾値以上であれば、充電状態推定手段により、2種類の手法で蓄電池の充電状態をそれぞれ推定し、一方の推定結果に対して、他方の推定結果で補正することとした。具体的には、まず、開回路電圧決定手段により推定された蓄電池の開回路電圧に基づいて蓄電池の充電状態を推定するとともに、蓄電池に流れる充電電流と放電電流とを積算して蓄電池の充電状態を推定することとした。次に、充電電流と放電電流とを積算して推定した充電状態に対して、開回路電圧に基づいて推定した充電状態で補正することとした。このため、SOCの推定をより高精度に行うことができる。
(8) 本発明は、(1)〜(7)のいずれかの充電状態推定装置について、前記蓄電池に流れる電流を測定する電流測定手段(例えば、後述の電流測定部68に相当)を備え、前記充電状態推定手段は、前記電流測定手段により測定された電流値が予め定められた閾値(例えば、後述の閾値に相当)未満であれば、前記開回路電圧決定手段により推定された前記蓄電池の開回路電圧に基づいて当該蓄電池の充電状態を推定するとともに、前記蓄電池に流れる充電電流と放電電流とを積算して当該蓄電池の充電状態を推定し(例えば、上述の充電電流と放電電流とを積算する手法を用いてSOCを推定することに相当)、前記開回路電圧に基づいて推定した充電状態に対して、前記充電電流と放電電流とを積算して推定した充電状態で補正することを特徴とする充電状態推定装置を提案している。
(8)の充電状態推定装置は、(1)〜(7)のいずれかの充電状態推定装置において、電流測定手段により、蓄電池に流れる電流を測定することとした。また、電流測定手段により測定された電流値が予め定められた閾値未満であれば、充電状態推定手段により、2種類の手法で蓄電池の充電状態をそれぞれ推定し、一方の推定結果に対して、他方の推定結果で補正することとした。具体的には、まず、開回路電圧決定手段により推定された蓄電池の開回路電圧に基づいて蓄電池の充電状態を推定するとともに、蓄電池に流れる充電電流と放電電流とを積算して蓄電池の充電状態を推定することとした。次に、開回路電圧に基づいて推定した充電状態に対して、充電電流と放電電流とを積算して推定した充電状態で補正することとした。このため、SOCの推定をより高精度に行うことができる。
(9) 本発明は、(1)〜(8)のいずれかの充電状態推定装置について、前記蓄電池は、リチウムイオン電池であることを特徴とする充電状態推定装置を提案している。
(9)の充電状態推定装置は、蓄電池としてリチウムイオン電池を適用することとした。リチウムイオン電池の電圧は、蓄電池の温度による変化が比較的小さい。このため、蓄電池の真のOCVをさらに正確に推定できる。
(10) 本発明は、蓄電池(例えば、図1の蓄電池10に相当)の充電状態(例えば、後述のSOCに相当)を推定する充電状態推定方法であって、前記蓄電池の電圧を測定する第1のステップ(例えば、図5のステップS3、S4の処理に相当)と、前記第1のステップにおける測定結果に基づいて、前記蓄電池の開回路電圧(例えば、後述のOCVに相当)を推定する第2のステップ(例えば、図5のステップS8の処理に相当)と、前記第2のステップにおいて推定した前記蓄電池の開回路電圧に基づいて、当該蓄電池の充電状態を推定する第3のステップ(例えば、図5のステップS9の処理に相当)と、を備え、前記第1のステップでは、予め定められた第1の規定時間(例えば、後述の規定時間に相当)だけ、予め定められた特定充電電流(例えば、後述の特定充電電流に相当)で前記蓄電池の充電を行い、当該充電を行った際の当該蓄電池の電圧を測定するとともに、予め定められた第2の規定時間(例えば、後述の規定時間に相当)だけ、予め定められた特定放電電流(例えば、後述の特定放電電流に相当)で前記蓄電池の放電を行い、当該放電を行った際の当該蓄電池の電圧を測定することを特徴とする充電状態推定方法を提案している。
ここで、蓄電池の真のOCVに対する、充電または放電した際の蓄電池の電圧の乖離度は、それぞれ、蓄電池に流れる充電電流または放電電流の電流値に応じて変化する。
そこで、(10)の充電状態推定方法では、まず、第1の規定時間だけ特定充電電流で蓄電池の充電を行い、充電を行った際の蓄電池の電圧を測定するとともに、第2の規定時間だけ特定放電電流で蓄電池の放電を行い、放電を行った際の蓄電池の電圧を測定する。次に、上述の測定した蓄電池の電圧に基づいて、蓄電池の開回路電圧を推定する。このため、蓄電池の真のOCVに対する、充電または放電した際の蓄電池の電圧の乖離度と、蓄電池に流れる充電電流または放電電流の電流値と、の関係を用いることで、蓄電池の真のOCVを推定できる。また、蓄電池の内部における化学反応が落ち着くまで待つことなく、蓄電池の真のOCVを推定できる。したがって、上述した効果と同様の効果を奏することができる。
(11) 本発明は、蓄電池(例えば、図1の蓄電池10に相当)の充電状態(例えば、後述のSOCに相当)を推定する充電状態推定方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、前記蓄電池の電圧を測定する第1のステップ(例えば、図5のステップS3、S4の処理に相当)と、前記第1のステップにおける測定結果に基づいて、前記蓄電池の開回路電圧(例えば、後述のOCVに相当)を推定する第2のステップ(例えば、図5のステップS8の処理に相当)と、前記第2のステップにおいて推定した前記蓄電池の開回路電圧に基づいて、当該蓄電池の充電状態を推定する第3のステップ(例えば、図5のステップS9の処理に相当)と、をコンピュータに実行させ、前記第1のステップでは、予め定められた第1の規定時間(例えば、後述の規定時間に相当)だけ、予め定められた特定充電電流(例えば、後述の特定充電電流に相当)で前記蓄電池の充電を行わせ、当該充電を行った際の当該蓄電池の電圧を測定させるとともに、予め定められた第2の規定時間(例えば、後述の規定時間に相当)だけ、予め定められた特定放電電流(例えば、後述の特定放電電流に相当)で前記蓄電池の放電を行わせ、当該放電を行った際の当該蓄電池の電圧を測定させるためのプログラムを提案している。
ここで、蓄電池の真のOCVに対する、充電または放電した際の蓄電池の電圧の乖離度は、それぞれ、蓄電池に流れる充電電流または放電電流の電流値に応じて変化する。
そこで、(11)のプログラムをコンピュータを用いて実行することで、まず、第1の規定時間だけ特定充電電流で蓄電池の充電を行い、充電を行った際の蓄電池の電圧を測定するとともに、第2の規定時間だけ特定放電電流で蓄電池の放電を行い、放電を行った際の蓄電池の電圧を測定する。次に、上述の測定した蓄電池の電圧に基づいて、蓄電池の開回路電圧を推定する。このため、蓄電池の真のOCVに対する、充電または放電した際の蓄電池の電圧の乖離度と、蓄電池に流れる充電電流または放電電流の電流値と、の関係を用いることで、蓄電池の真のOCVを推定できる。また、蓄電池の内部における化学反応が落ち着くまで待つことなく、蓄電池の真のOCVを推定できる。したがって、上述した効果と同様の効果を奏することができる。
本発明によれば、SOCの推定を高精度かつ短時間に行うことができる。
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて、詳細に説明する。なお、以下の実施形態における構成要素は適宜、既存の構成要素などとの置き換えが可能であり、また、他の既存の構成要素との組み合わせを含む様々なバリエーションが可能である。したがって、以下の実施形態の記載をもって、特許請求の範囲に記載された発明の内容を限定するものではない。
[蓄電装置1の構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る充電状態推定装置を有する蓄電装置1の構成を示すブロック図である。図1において、太い実線は、電力を伝達する電力線を示し、細い実線は、制御信号やデータを伝送する信号線を示す。
蓄電装置1における充電状態推定では、上述の充電電流と放電電流とを積算する手法と、上述のSOCとOCVとの関係を用いる手法と、を組み合わせて、リチウムイオン電池としての蓄電池10のSOCを推定する。ただし、上述のSOCとOCVとの関係を用いる手法では、本発明に係る後述のSOC推定処理を行う。
具体的には、蓄電池10に流れる電流が予め定められた閾値電流以上である場合には、上述の充電電流と放電電流とを積算する手法により、蓄電池10のSOCを推定する。一方、蓄電池10に流れる電流が閾値電流未満である場合には、後述の本発明に係るSOC推定処理により、蓄電池10のSOCを推定する。なお、上述の閾値電流の電流値は、充電中または放電中において蓄電池10に流れる電流の下限値に設定される。このため、図5のステップS1において後述するように、蓄電池が充電中でも放電中でもない場合、すなわち蓄電池10が待機状態である場合には、後述の本発明に係るSOC推定処理により、蓄電池10のSOCを推定することとなる。一方、蓄電池が充電中または放電中である場合には、上述の充電電流と放電電流とを積算する手法により、蓄電池10のSOCを推定することになる。
充電状態推定装置を有する蓄電装置1は、上述の蓄電池10に加えて、コンバータ20、インバータ30、充電部40、停電監視部50、制御部60、および表示部70を備える。制御部60が充電状態推定装置として機能する。
コンバータ20は、商用電源100から出力された交流電力を、直流電力に変換する。本実施形態では、商用電源100は、蓄電装置1の外部に設けられており、入力端子INにおいて蓄電装置1と接続されているものとする。
充電部40は、コンバータ20で変換された直流電力に基づいて、蓄電池10を充電する。
停電監視部50は、商用電源100から出力された交流電力を監視する。そして、商用電源100から出力された交流電力が予め定められた閾値レベル以上である場合には、停電が発生していないと判断する。一方、商用電源100から出力された交流電力が閾値レベル未満である場合には、停電が発生していると判断し、停電検知信号を制御部60に送信する。
表示部70は、液晶表示装置や発光ダイオードや7セグメントLEDといった、報知する情報に応じて表示態様を変化させるもので構成される。この表示部70は、制御部60により制御される。
制御部60は、停電検知信号を停電監視部50から受信すると、蓄電池10および表示部70を制御する。具体的には、停電検知信号を停電監視部50から受信すると、表示部70に、停電が発生している旨を表示させるとともに、蓄電池10に、この蓄電池10に蓄電されている直流電力をインバータ30へ出力させる。
また、制御部60は、コンバータ20で変換された直流電力と負荷200で必要な電力とに応じて、蓄電池10に蓄電されている直流電力をインバータ30へ出力させる。具体的には、制御部60は、コンバータ20で変換された直流電力に関する情報をコンバータ20から受信するとともに、負荷200で必要な電力に関する情報を負荷200から受信する。
負荷200で必要な電力を、コンバータ20で変換された直流電力だけで供給できる場合には、制御部60は、蓄電池10に、インバータ30へ直流電力を出力させない。これによれば、インバータ30には、コンバータ20で変換された直流電力のみが入力されることとなる。
一方、負荷200で必要な電力を、コンバータ20で変換された直流電力だけでは供給できない場合には、制御部60は、蓄電池10に、インバータ30へ直流電力を出力させる。これによれば、インバータ30には、コンバータ20で変換された直流電力に加えて、蓄電池10に蓄電されている直流電力も入力されることとなる。
また、上述のように停電検知信号を停電監視部50から受信した場合、すなわち商用電源100で停電が発生した場合にも、制御部60は、蓄電池10に、インバータ30へ直流電力を出力させる。これによれば、インバータ30には、コンバータ20からの直流電力は入力されないが、蓄電池10に蓄電されている直流電力が入力されることとなる。
なお、本実施形態では、負荷200は、出力端子OUTにおいて蓄電装置1と接続されているものとする。
また、制御部60は、蓄電池10に流れる充電電流および放電電流を検出する。そして、基本的には上述の充電電流と放電電流とを積算する手法により、蓄電池10のSOCを推定する。ただし、検出結果が予め定められた閾値電流以下である期間が予め定められた時間に亘って継続すると、後述の本発明に係るSOC推定処理により、蓄電池10のSOCを推定する。さらに、推定結果を適宜、表示部70に表示させる。
インバータ30は、コンバータ20から出力された直流電力と、蓄電池10から出力された直流電力と、の一方または両方を交流電力に変換して負荷200に供給する。
[制御部60の構成]
図2は、制御部60の構成を示すブロック図である。制御部60は、主制御部61、記憶部62、電流設定部63、電圧測定部64、電流電圧特性算定部65、OCV決定部66、SOC推定部67、および電流測定部68を備える。
主制御部61は、制御部60に設けられた各部の動作を統括制御するものであり、例えばCPU(Central Processing Unit)を含んで構成される。
記憶部62は、主制御部61の動作に必要なデータを記憶するものであり、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)のような記憶手段から構成される。
電流設定部63は、後述の特定充電電流と、後述の特定放電電流と、後述の規定時間と、後述の規定回数と、を設定するものであり、例えばCPUを含んで構成される。なお、詳細については後述するが、特定充電電流の電流値と特定放電電流の電流値とは、等しくてもよいし、異なっていてもよい。
電圧測定部64は、蓄電池10の電圧を測定する。具体的には、電圧測定部64は、上述の規定時間だけ上述の特定充電電流で蓄電池10を充電させ、充電中における蓄電池10の電圧を測定する。また、電圧測定部64は、上述の規定時間だけ上述の特定放電電流で蓄電池10を放電させ、放電中における蓄電池10の電圧を測定する。なお、電圧測定部64は、上述の充電中における蓄電池10の電圧の測定と、上述の放電中における蓄電池10の電圧の測定と、をそれぞれ上述の規定回数ずつ行う。この電圧測定部64は、例えば電圧センサを含んで構成される。
電流電圧特性算定部65は、蓄電池10の電流電圧特性を算定する。具体的には、電圧測定部64により測定された充電中における蓄電池10の電圧と、特定充電電流と、に基づいて、充電中における蓄電池10の電流電圧特性を算定するとともに、電圧測定部64により測定された放電中における蓄電池10の電圧と、特定放電電流と、に基づいて、放電中における蓄電池10の電流電圧特性を算定する。
より具体的には、電流電圧特性算定部65は、電圧測定部64により測定された規定回数分の充電中における蓄電池10の電圧について、平均値または最確値を求め、求めた電圧と特定充電電流との関係より、充電中における蓄電池10の電流電圧特性を算定する。また、電流電圧特性算定部65は、電圧測定部64により測定された規定回数分の放電中における蓄電池10の電圧について、平均値または最確値を求め、求めた電圧と特定放電電流との関係より、放電中における蓄電池10の電流電圧特性を算定する。この電流電圧特性算定部65は、例えばCPUを含んで構成される。
OCV決定部66は、電流電圧特性算定部65により算定された蓄電池10の2つの電流電圧特性に基づいて、蓄電池10のOCVを推定するものであり、例えばCPUを含んで構成される。このOCV決定部66は、蓄電池10のOCVの推定に、図3および図4を用いて後述する関係を利用する。
SOC推定部67は、OCV決定部66により推定された蓄電池10のOCVに基づいて、蓄電池10のSOCを推定する。具体的には、SOC推定部67は、記憶部62に予め記憶されている蓄電池10におけるOCVとSOCとの関係を示す関係マップ(後述の図3に示す実線を参照)を参照し、OCV決定部66により推定された蓄電池10のOCVに対応する蓄電池10のSOCを推定する。このSOC推定部67は、例えばCPUを含んで構成される。
電流測定部68は、蓄電池10に流れる電流値を測定し、測定結果を主制御部61に送信する。これによれば、主制御部61は、電流測定部68で測定された電流値に基づいて、本発明におけるSOC推定処理を実行可能か否かを判断することができる。この電流測定部68は、例えば電流センサを含んで構成される。
[OCV決定部66によるOCV推定手法]
図3は、蓄電池10におけるOCVとSOCとの関係を示す図である。図3において、横軸は蓄電池10のSOCを示し、縦軸は蓄電池10のOCVを示す。また、破線は、上述の特定充電電流で蓄電池10を充電した後に、予め定められた第1時間が経過した際の、OCVとSOCとの関係を示す。また、一点鎖線は、上述の特定放電電流で蓄電池10を放電させた後に、上述の第1時間が経過した際の、OCVとSOCとの関係を示す。また、実線は、蓄電池10を充電または放電させた後に、上述の第1時間よりも長い第2時間が経過した際の、OCVとSOCとの関係、すなわち真のOCVとSOCとの関係を示す。なお、上述の第2時間は、蓄電池10の内部におけるリチウムイオンの移動が落ち着いて平衡状態になるために必要な時間であるものとする。
OCVとSOCとの関係は、上述のように蓄電池10が劣化しても変化しないが、蓄電池10を充電した際や放電した際には、図3に示すように変化する。すなわち、充電または放電した際の蓄電池10の電圧は、蓄電池10の真のOCVから乖離する。このため、SOCの推定を高精度に行うためには、蓄電池10の真のOCVを推定する必要がある。
そこで、蓄電池10に流れる充電電流の電流値と、蓄電池10に流れる放電電流の電流値と、充電中または放電中における蓄電池10の電圧と、の関係を用いて、蓄電池10の真のOCVを推定する。この蓄電池10に流れる充電電流の電流値と、蓄電池10に流れる放電電流の電流値と、充電中または放電中における蓄電池10の電圧と、の関係について、図4を用いて以下に説明する。
図4は、充電中または放電中における蓄電池10の電圧を示す図である。なお、蓄電池10の電圧は、充電中においては上昇し、放電中においては低下するが、図4に示した期間は、充電または放電による蓄電池10の電圧変化を無視できるほどに短時間であるものとする。
図4では、放電中における蓄電池10の電圧として、2つの波形が示されている。一方は、放電電流がI1の場合の蓄電池10の電圧を示し、他方は、放電電流がI1より小さいI2の場合の蓄電池10の電圧を示す。
蓄電池10の真のOCVに対する、放電中における蓄電池10の電圧の乖離度は、蓄電池10に流れる放電電流の電流値に応じて変化する。具体的には、放電電流がI1の場合の蓄電池10の電圧と、放電電流がI2の場合の蓄電池10の電圧とでは、図4に示すように、放電電流がI1の場合の方が真のOCVから乖離する。すなわち、放電電流が大きくなるに従って、蓄電池10の電圧が真のOCVから乖離する。
また、図4では、充電中における蓄電池10の電圧として、2つの波形が示されている。一方は、充電電流がI3の場合の蓄電池10の電圧を示し、他方は、充電電流がI3よりも大きいI4の場合の蓄電池10の電圧を示す。
蓄電池10の真のOCVに対する、充電中における蓄電池10の電圧の乖離度は、蓄電池10に流れる充電電流の電流値に応じて変化する。具体的には、充電電流がI3の場合の蓄電池10の電圧と、充電電流がI4の場合の蓄電池10の電圧とでは、図4に示すように、充電電流がI4の場合の方が真のOCVから乖離する。すなわち、充電電流が大きくなるに従って、蓄電池10の電圧が真のOCVから乖離する。
ここで、特定充電電流をIm、特定放電電流をIn、特定充電電流Imで充電中における蓄電池10の電圧をVm、特定放電電流Inで放電中における蓄電池10の電圧をVnとすると、蓄電池10の真のOCVを示すV0は、上述の数式(1)または数式(2)により推定できる。
仮に、特定充電電流Imと特定放電電流Inとが等しければ、上述の数式(1)または数式(2)より、充電中における蓄電池10の電圧Vmと、放電中における蓄電池10の電圧Vnと、の中間の電圧が、蓄電池10の真のOCVを示すV0として推定されることとなる。
なお、特定充電電流および特定放電電流の電流値は、上述のように、電流設定部63において設定される。この電流設定部63は、特定充電電流の電流値と、特定放電電流の電流値と、について、以下の条件により下限値と上限値を設け、これら下限値と上限値との間で設定する。
まず、下限値について説明する。特定充電電流の電流値と、特定放電電流の電流値と、を設定するに際して、電流測定部68により、蓄電池10に流れる電流を電流センサにより測定する。この電流センサには、測定誤差が存在する場合があり、測定する電流が小さくなるに従って、測定結果に対する測定誤差の影響が大きくなってしまう。そこで、測定結果に対する測定誤差の影響が無視または許容できる値に、特定充電電流の電流値の下限値と、特定放電電流の電流値の下限値と、を設定する。
なお、必要とするSOCの精度をX[%]とすると、下記数式(3)を満たさない場合には、X[%]の精度でSOCを推定するに際して、上述の測定結果に対する測定誤差の影響が無視または許容できないものとなる。このため、X[%]の精度でSOCを推定するためには、下記数式(3)を満たす必要がある。なお、数式(3)において、測定時間とは、電圧測定部64により蓄電池10の電圧を測定する時間のことである。
次に、上限値について説明する。電圧測定部64は、充電中または放電中における蓄電池10の電圧を測定する際に、電流設定部63により設定された規定時間だけ、特定充電電流または特定放電電流を蓄電池10に流す。この規定時間は、電圧測定部64において蓄電池10の電圧を測定するために必要な時間以上であって、かつ、できる限り短い時間に設定される。ここで、電流が蓄電池10に流れると、蓄電池10の内部抵抗により蓄電池10の温度が上昇し、蓄電池10の温度は、蓄電池10に流れる電流が大きくなるに従って、大きく上昇する。蓄電池10には、温度に応じて蓄電池10の電圧が変化する特性が存在する場合がある。そこで、温度変化による蓄電池10の電圧の変化が無視または許容できる値に、特定充電電流の電流値の上限値と、特定放電電流の電流値の上限値と、を設定する。
なお、蓄電池10の温度特性による影響としての発熱量をY[cal]とすると、下記数式(4)を満たさない場合には、充電中または放電中における蓄電池10の電圧を測定するに際して、上述の温度変化による蓄電池の電圧の変化が無視または許容できないものとなる。また、充電中または放電中においては、SOCが変化してしまうが、下記数式(5)を満たさない場合には、充電中または放電中における蓄電池10の電圧を測定するに際して、SOCの変化が無視または許容できないものとなる。このため、SOCの推定を高精度に行うためには、下記数式(4)および下記数式(5)を満たす必要がある。なお、上述の数式(4)において、4.2[J]は、1[cal]に略等しいものとする。
[制御部60の動作]
以上の構成を備える制御部60が行う本発明に係るSOC推定処理について、図5を用いて以下に説明する。
ステップS1において、電流測定部68により、蓄電池10に流れる電流を測定し、主制御部61により、本発明に係るSOC推定処理を実行可能であるか否かを、電流測定部68による測定結果に基づいて判別する。
具体的には、主制御部61は、蓄電池10に流れる電流が予め定められた閾値電流以上である場合には、蓄電池10が充電中または放電中であると判別し、本発明に係るSOC推定処理を実行不可能と判別する。一方、蓄電池10に流れる電流が閾値電流未満である場合には、蓄電池10が充電中でも放電中でもない待機状態であると判別し、本発明に係るSOC推定処理を実行可能と判別する。
実行不可能と判別した場合には、上述の充電電流と放電電流とを積算する手法により蓄電池10のSOCを推定するために、図5に示したSOC推定処理を終了する。一方、実行可能と判別した場合には、本発明に係るSOC処理により蓄電池10のSOCを推定するために、ステップS2に処理を移す。
ステップS2において、電流設定部63により、特定充電電流の電流値と、特定放電電流の電流値と、規定時間と、規定回数と、を設定し、ステップS3に処理を移す。
ステップS3において、電圧測定部64により、ステップS1で設定した規定時間だけ、ステップS1で設定した電流値の特定充電電流で蓄電池10を充電するとともに、特定充電電流で充電中である蓄電池10の電圧を測定し、測定結果を記憶部62に記憶させ、ステップS4に処理を移す。なお、この処理における蓄電池10の充電を、電圧測定部64は、充電部40に行わせる。
ステップS4において、電圧測定部64により、ステップS1で設定した規定時間だけ、ステップS1で設定した電流値の特定放電電流で蓄電池10を放電させるとともに、特定放電電流で放電中である蓄電池10の電圧を測定し、測定結果を記憶部62に記憶させ、ステップS5に処理を移す。なお、この処理における蓄電池10の放電を、電圧測定部64は、図示しない放電手段により行わせる。
ステップS5において、電圧測定部64により、ステップS3における蓄電池10の電圧の測定と、ステップS4における蓄電池10の電圧の測定と、をステップS1で設定した規定回数ずつ行ったか否かを判別する。規定回数ずつ行ったと判別した場合には、ステップS6に処理を移し、規定回数ずつ行っていないと判別した場合には、ステップS3に処理を戻す。
ステップS6において、電流電圧特性算定部65により、ステップS3において測定した規定回数分の蓄電池10の電圧を記憶部62から読み出し、これら規定回数分の蓄電池10の電圧に基づいて、充電中における蓄電池10の電流電圧特性を算定し、ステップS7に処理を移す。
ステップS7において、電流電圧特性算定部65により、ステップS4において測定した規定回数分の蓄電池10の電圧を記憶部62から読み出し、これら規定回数分の蓄電池10の電圧に基づいて、放電中における蓄電池10の電流電圧特性を算定し、ステップS8に処理を移す。
ステップS8において、OCV決定部66により、ステップS6において算定した充電中における蓄電池10の電流電圧特性と、ステップS7において算定した放電中における蓄電池10の電流電圧特性と、に基づいて、上述のOCV決定手法により蓄電池10のOCVを推定し、ステップS9に処理を移す。
ステップS9において、SOC推定部67により、記憶部62に予め記憶されている図3の実線で示した蓄電池10におけるOCVとSOCとの関係を示す関係マップを参照し、ステップS8で推定した蓄電池10のOCVに基づいて、蓄電池10のSOCを推定し、図5に示したSOC推定処理を終了する。
以上の充電状態推定装置を有する蓄電装置1によれば、以下の効果を奏することができる。
蓄電装置1は、上述の数式(1)または数式(2)を用いて、蓄電池10の内部におけるリチウムイオンの移動が落ち着いて平衡状態になるまで待つことなく、蓄電池10の真のOCVを推定できる。このため、蓄電池10のSOCの推定を高精度かつ短時間に行うことができる。
また、蓄電装置1は、電流測定部68による電流の測定結果に対する測定誤差の影響が無視または許容できる値に、特定充電電流および特定放電電流の電流値の下限値を設定する。このため、蓄電池10に流れる電流の測定結果に対する測定誤差の影響の度合いを無視または許容できる範囲内にすることができるので、その結果、蓄電池10の真のOCVを正確に推定できる。
また、蓄電装置1は、蓄電池10の電圧測定の際の温度変化による蓄電池10の電圧の変化が無視または許容できる値に、温度変化の原因となる特定充電電流および特定放電電流の電流値の上限値を設定する。このため、蓄電池10に電流が流れることによって蓄電池10の温度が上昇しても、この温度上昇による蓄電池10の電圧の変化を抑制できる。したがって、蓄電池10の真のOCVをより正確に推定できる。
また、蓄電装置1は、蓄電池10としてリチウムイオン電池を適用している。リチウムイオン電池は、温度上昇に対する電圧の変化が比較的小さい蓄電池であるため、蓄電池10の真のOCVをさらに正確に推定できる。
また、蓄電装置1において、蓄電池10には内部抵抗が存在するが、この内部抵抗は、蓄電池10の温度に応じて変動する。ところが、蓄電装置1では、電流設定部63で設定する規定時間を、電圧測定部64において蓄電池10の電圧を測定するために必要な時間以上であって、かつ、できる限り短い時間に設定する。このため、本発明に係るSOC推定処理における充電や放電による蓄電池10の温度上昇を抑制でき、その結果、蓄電池10の内部抵抗の変動を抑制できる。したがって、蓄電池10の真のOCVをさらに正確に推定できる。
また、蓄電装置1は、蓄電池10のSOCの推定に、蓄電池10に流れる電流が閾値電流より大きい場合には、上述の充電電流と放電電流とを積算する手法を用い、蓄電池10に流れる電流が閾値電流以下である場合には、本発明に係るSOC推定処理を用いる。このため、本発明に係るSOC推定処理を行っていない状態において蓄電池10の充放電が行われている場合であっても、上述の充電電流と放電電流とを積算する手法を用いて、蓄電池10のSOCを推定することができる。
なお、上述の各構成や機能について、図1や図2に示したような構成要素をハードウェアで用意することで実現することもできるし、コンピュータ(CPU、情報処理装置、各種端末を含む)が所定のプログラムを読み込んで実行することで実現することもできる。プログラムは、例えば、フレキシブルディスク、CD(CD−ROMなど)、DVD(DVD−ROMやDVD−RAMなど)などのコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶された形態で提供される。この場合、コンピュータは、上述の記録媒体からプログラムを読み取って、内部記憶装置または外部記憶装置に転送し、記憶して、実行する。また、プログラムは、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスクなどの記憶装置(記録媒体)に予め記憶されており、この記憶装置から読み出された後に通信回線を介してコンピュータに提供されるものとしてもよい。
以上、この発明の実施形態につき、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計なども含まれる。
例えば、上述の実施形態では、蓄電装置1に商用電源100が接続されるものとしたが、これに限らず、例えば、太陽光発電を行う太陽電池といった直流電力を出力する機器や装置が接続されるものとしてもよい。仮に、直流電力を出力する機器が商用電源100の代わりに蓄電装置1に接続される場合には、コンバータ20が不要となる。
また、上述の実施形態では、停電が発生している旨やSOCの推定結果を報知するために、報知する情報に応じて表示態様を変化させる表示部70を設けたが、これに限らない。例えば、表示部70の代わりに、報知する情報に応じた音を出力する出音部を設けてもよい。ここで、出音部とは、例えばスピーカを含んで構成される。また、例えば、表示部70と出音部とを組み合わせて設けてもよい。
また、上述の実施形態において、蓄電池10の温度を測定する温度測定手段と、温度測定手段による測定結果に応じて電圧測定部64により測定された蓄電池10の電圧の電圧値を補正する補正手段と、を設けてもよい。これら温度測定手段および補正手段を設けた場合には、温度測定手段の測定結果について、蓄電池10の温度による影響を低減することができるので、蓄電池10について、温度によらず正確なSOCを推定できる。
また、上述の実施形態では、蓄電池10としてリチウムイオン電池を適用したが、これに限らず、例えばニッケル・カドミウム電池やニッケル水素電池などの他の2次電池も適用できる。なお、ニッケル・カドミウム電池やニッケル水素電池などは、リチウムイオン電池と比べて、周囲温度に対する電圧の変化が比較的大きい蓄電池である。このため、蓄電池10として、リチウムイオン電池の代わりにニッケル・カドミウム電池やニッケル水素電池を適用する場合には、上述の温度測定手段および補正手段を設けることで、蓄電池10の電圧に対する温度の影響を低減して、SOCを正確に推定できる。
また、上述の実施形態では、蓄電池10は、蓄電装置1に設けられるものとしたが、これに限らず、蓄電装置1とは別個に設けられるものとしてもよい。
また、上述の実施形態では、電流設定部63は、蓄電池10の電圧を測定する際に蓄電池10を充電する時間と放電させる時間とを、同一の規定時間として設定したが、これに限らない。例えば、蓄電池10を充電する時間として、第1の規定時間を設定し、蓄電池10を放電させる時間として、第1の規定時間とは異なる第2の規定時間を設定してもよい。なお、充電電流や放電電流が流れると蓄電池10の内部抵抗が変動して、蓄電池10の電圧が変動してしまうが、この蓄電池10の電圧の変動が無視または許容できる範囲内となる時間であれば、第1の規定時間および第2の規定時間を適宜設定することを妨げない。
また、上述の実施形態では、電流設定部63や電圧測定部64や電流測定部68は、制御部60に設けられるものとしたが、これに限らない。例えば、電流設定部63を制御部60の外部に設けたり、電圧測定部64を制御部60の外部に設けたり、電流測定部68を制御部60の外部に設けたりしてもよい。電流設定部63を制御部60の外部に設ける場合には、電流設定部63を、蓄電池10の近傍であって、蓄電池10と制御部60との間に設けてもよい。また、電圧測定部64や電流測定部68を制御部60の外部に設ける場合には、電圧測定部64や電流測定部68を、蓄電池10の近傍であって、蓄電池10と制御部60との間に設けてもよい。
また、上述の実施形態では、電圧測定部64により蓄電池10の電圧を測定するタイミングは、充電中や放電中としたが、これに限らない。例えば、充電終了後に予め定められた時間が経過したタイミングや、放電終了後に予め定められた時間が経過したタイミングで、電圧測定部64により蓄電池10の電圧を測定してもよい。
また、上述の実施形態では、蓄電池10のSOCの推定に、蓄電池10が充電中または放電中である場合には、上述の充電電流と放電電流とを積算する手法を用い、蓄電池10が待機状態である場合には、本発明に係るSOC推定処理を用いることとした。しかしながら、例えば後述の第1の例や第2の例といった、上述の実施形態とは異なる形態で、上述の充電電流と放電電流とを積算する手法と、本発明に係るSOC推定処理と、を組み合わせることもできる。
まず、第1の例について説明する。第1の例では、蓄電池10の運用中において、基本的には上述の充電電流と放電電流とを積算する手法により、蓄電池10のSOCを推定する。そして、蓄電池10の運用中において、蓄電池10に流れる電流が予め定められた閾値電流以下である期間が予め定められた時間に亘って継続すると、本発明に係るSOC推定処理により、蓄電池10のSOCを推定する。なお、上述の予め定められた閾値電流の電流値と、上述の予め定められた時間とは、例えば、電流測定部68による電流の測定結果に対する測定誤差の影響が、無視または許容できる値に設定されるものとする。
次に、第2の例について説明する。第2の例では、蓄電池10の運用中において、基本的には上述の充電電流と放電電流とを積算する手法を用いる。そして、運用中に充電電流が特定充電電流に等しくなった場合に、本発明に係るSOC推定処理のステップS3の処理を行って、運用中の充電電流で充電中である蓄電池10の電圧を測定する。また、運用中に放電電流が特定放電電流に等しくなった場合に、本発明に係るSOC推定処理のステップS4の処理を行って、運用中の放電電流で放電中である蓄電池10の電圧を測定する。そして、運用中の充電電流で充電中である蓄電池10の電圧の測定と、運用中の放電電流で放電中である蓄電池10の電圧の測定と、が完了した時点で、本発明に係るSOC推定処理のステップS6〜ステップS9の処理を行う。以上の形態で、上述の充電電流と放電電流とを積算する手法と、本発明に係るSOC推定処理と、を組み合わせても、蓄電池10のSOCを推定することもできる。なお、この場合、短時間に、運用中の充電電流で充電中である蓄電池10の電圧の測定と、運用中の放電電流で放電中である蓄電池10の電圧の測定と、の双方が行われることが好ましい。これによれば、運用中に、充電中または放電中における蓄電池10の電圧を測定してから、放電中または充電中における蓄電池10の電圧を測定するまでの間に、蓄電池10の蓄電容量が変化してしまうのを抑制できるので、その結果、蓄電池10のSOCをより正確に推定できる。
また、例えば、上述の充電電流と放電電流とを積算する手法と、本発明に係るSOC推定処理と、のうち、一方を用いて推定した充電状態に対して、他方を用いて推定した充電状態で補正してもよい。より具体的には、電流測定部68により測定される上述の充電電流と放電電流とを積算する手法を用いてSOCを推定するとともに、本発明に係るSOC推定処理を用いてSOCを推定する。そして、蓄電池10に流れる電流の値が予め定められた閾値以上である場合には、上述の充電電流と放電電流とを積算する手法を用いて推定した充電状態に対し重みづけ量K(ただし、Kは0<K<1を満たすものとする)を乗算したものに対して、本発明に係るSOC推定処理を用いて推定した充電状態に対し重みづけ量L(ただし、Lは0<L<K<1かつK+L=1を満たすものとする)を乗算したものを加算して、補正してもよい。一方、蓄電池10に流れる電流の値が閾値未満である場合には、本発明に係るSOC推定処理を用いて推定した充電状態に対し重みづけ量M(ただし、Mは0<M<1を満たすものとする)を乗算したものに対して、上述の充電電流と放電電流とを積算する手法を用いて推定した充電状態に対し重みづけ量N(ただし、Nは0<N<M<1かつM+N=1を満たすものとする)を乗算したものを加算して、補正してもよい。これによれば、蓄電池10のSOCをより正確に推定できる。