JP2013138666A - 非ヒト動物の胸膜剥離モデル肺およびその作製方法、ならびに胸膜剥離モデル非ヒト動物の作製方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】表面の胸膜の少なくとも一部が剥離されることにより形成され、かつ肺胞実質と胸膜との間に空気が貯留できる剥離空間を有する非ヒト動物の肺を提供する。
【解決手段】安定した病態が得られる非ヒト動物の嚢胞性肺疾患の肺、及びその作製方法。
【選択図】なし
【解決手段】安定した病態が得られる非ヒト動物の嚢胞性肺疾患の肺、及びその作製方法。
【選択図】なし
Description
本発明は、非ヒト動物の胸膜剥離モデル肺およびその作製方法、ならびに胸膜剥離モデル非ヒト動物の作製方法に関する。
気胸とは、何らかの原因により胸腔内に侵入・貯留された空気が肺を圧迫し、肺を収縮させる状態をいい、肺表面からの空気漏れによる気胸を自然気胸という。当該自然気胸は、健常人に突然起こる特発性気胸と他疾患に関連して発生する続発性気胸とに分類される。当該特発性気胸とは、ブラ(肺内に形成される異常な空間)の破裂が原因となって発症したもの(嚢胞性肺疾患)をいい、例えば、巨大気腫性嚢胞症や肺気腫などが挙げられる。一方、当該続発性気胸とは、主に気管支喘息や肺気腫、転移性肺腫瘍などの肺疾患や薬剤が原因となって発症したものいう。
これら自然気胸と嚢胞性肺疾患とは強い関連性を持つことが知られており、ブラが巨大化すると巨大気腫性嚢胞症となる。また肺気腫では喫煙などの刺激により末梢気道が閉塞し肺組織が破壊されブラが多数形成される。
一般的な自然気胸の治療方法としては、X線写真により自然気胸の程度によって、(1)安静、(2)胸腔穿刺による脱気、(3)胸腔ドレナージ、(4)手術療法、および(5)胸膜癒着療法が挙げられ、(1)の自然治癒を除きいずれも胸腔内の余分な空気を体外に排出する手技であり、外科的手技による治療が大半を占めるのが現状である。
例えば、自然気胸の治療を目的とする発明としては、特許文献1が挙げられる。当該特許文献1では、内視鏡を用いて気管支内に一時的あるいは永久的に閉塞部を形成することにより、比較的無侵襲性で比較的安価な肺容量減少方法や装置が開示されている。
また、特許文献2では、慢性閉塞性肺疾患の患者の気管と、当該患者の肺の所定の部位とを導管で連結し、かつ気管と肺の内容積部を互いに流体連通させることにより肺内に取り込まれた空気を体外に排出させることが開示されている。
これら特許文献1および2のように、自然気胸の治療方法としては、気腫化した肺胞内の空気や何らかの原因により胸腔内に侵入・貯留された空気を物理的に体外に排出させることが求められるため、現状では外科的手技が不可避となる。そのため、これら自然気胸と嚢胞性肺疾患の研究や医薬品の開発において、嚢胞性肺疾患モデルが必要となる。そこで本発明は、自然気胸や気腫性嚢胞の治療方法の確立のための手技あるいはデバイス開発、または外科的手技のトレーニングに使用できるモデルの提供を目的とする。
本発明の他の目的としては、肺胞実質と胸膜との間に空気が貯留できる剥離空間を形成した後、当該剥離空間の閉塞を抑制・防止する胸膜剥離形成システムを提供することを目的とする。
本発明者らは鋭意研究を積み重ねた結果、表面の胸膜の少なくとも一部が剥離されることにより形成され、かつ肺胞実質と胸膜との間に空気が貯留できる剥離空間を有する非ヒト動物の肺が得られることを見出した。
本発明者らはさらに、肺胞実質と胸膜との間に空気が貯留できる剥離空間を長期間維持できうる胸膜剥離形成システムが得られることを見出した。
本発明により、安定した病態が得られる非ヒト動物の嚢胞性肺疾患の肺やその作製方法が提供される。そのため、自然気胸や嚢胞性肺疾患の程度にばらつきが低減され、定量的解析が可能な非ヒト動物の嚢胞性肺疾患の肺、嚢胞性肺疾患の非ヒト動物モデル、およびそれらの作製方法を提供することができる。
本発明により、肺胞実質と胸膜との間に空気が貯留できる剥離空間を形成した後、当該剥離空間に留置体を留置することで剥離空間を長期間維持できうる胸膜剥離形成システムを提供することができる。
本発明の第一は、表面の胸膜の少なくとも一部が剥離されることにより形成され、かつ肺胞実質と胸膜との間に空気が貯留できる剥離空間を有する非ヒト動物の肺である。
これにより、気胸の程度のばらつきが低減された非ヒト動物の気腫性嚢胞疾患の肺を提供することができ、自然気胸や気腫性嚢胞の治療方法の確立のための手技あるいはデバイス開発、または外科的手技のトレーニングに利用することができる。
すなわち、当該肺は、ヒト以外の実験動物から摘出した非ヒト動物の気管支付きの肺の表面の胸膜の少なくとも一部が剥離され、かつ当該剥離された部分は肺胞実質と胸膜との間に空気が貯留される剥離空間を有するものである。また、当該胸膜の少なくとも一部が剥離とは、肺胞実質は貫通させるが胸膜は貫通させることなく、条体の先端が胸膜に当接するまで当該気管支付きの肺の気管支から当該条体を挿通することで胸膜の少なくとも一部が剥離される。すなわち、摘出した非ヒト動物の気管支付きの肺の気管支から条体を挿入して、肺胞実質は貫通させるが胸膜は貫通させることなく、当該条体の先端が胸膜に当接するまで当該条体を押圧すると、当該肺胞実質を貫通して形成された貫通孔から外部に向かって当該条体の先端部分が突出し、かつこの先端部分は胸膜を貫通しないため、当該条体の押圧の程度を上げると、当該先端部分を中心に胸膜が剥離され、剥離された部分は肺の外部に向かって膨出し、ブラ(剥離空間)を形成することができる。さらに、肺胞実質内の空気が当該貫通孔から剥離された部分に流出するため、肺胞実質と胸膜との間に空気が貯留できる剥離空間を所定期間形成した状態を維持することができる。
そのため、本発明に係る非ヒト動物の肺の作製方法は、摘出した非ヒト動物の気管支付きの肺の気管支から遠位端に柔軟部が取り付けられた条体の先端が胸膜に当接するまで挿通する工程と、
前記条体を操作し、肺胞実質から胸膜の少なくとも一部を剥離する工程と、を有する、胸膜の少なくとも一部が剥離され、かつ肺胞実質と胸膜との間に空気が貯留できる剥離空間を有する非ヒト動物の肺の作製方法である。
前記条体を操作し、肺胞実質から胸膜の少なくとも一部を剥離する工程と、を有する、胸膜の少なくとも一部が剥離され、かつ肺胞実質と胸膜との間に空気が貯留できる剥離空間を有する非ヒト動物の肺の作製方法である。
また上述したように、条体の押圧の程度を調整することで、剥離空間の大きさを任意に制御することができる。さらに、当該剥離空間の位置や個数も適宜選択することができる。これら剥離空間の大きさや剥離空間の位置や個数を調整するために、摘出した非ヒト動物の気管支付きの肺を目視下、双眼ルーペ下、またはX線透視下で確認しながら非ヒト動物の肺に剥離空間を形成することが好ましい。
また、上記方法は、肺胞と胸膜との機械的強度の差を利用するものであるため、本発明に係る条体は、先端に柔軟部を有することが好ましい。そのため本発明に係る好適な条体としては、先端部に柔軟部分を有し、かつ好ましくは200〜3000mm、より好ましくは600〜1200mm程度の長さの線状体が好ましい。
上記柔軟部の太さは、0.05〜3mmが好ましく、0.3〜2mmがより好ましく、0.4〜0.9mmがさらに好ましい。
当該柔軟部の太さは、細気管支より末梢に到達する必要性から、2mm以下であることが望ましく、最先端の断面積が小さすぎる場合には胸膜を穿刺するリスクが高まることから、0.4〜0.9mmの範囲であることが好ましい。
本発明に係る柔軟部の長さは、X線下にて肺胞貫通後の柔軟部の長さが確認しやすく、その後他の肺胞を貫通させない程度の観点から、1〜100mmが好ましく、5〜50mmがより好ましく、10〜30mmがさらに好ましい。
本発明に係る柔軟部の材料は、ステンレス鋼のSUS316L、純金属のTa、Ni−Ti系の超弾性合金の他、ウレタンやナイロンなどの熱可塑性樹脂などが好ましく、これらは単体であっても複合体であっても良い。
本発明に係る柔軟部の軸直角断面の形状は、特に制限されることは無く、円形状、楕円形状、多角形状など適宜選択されるものである。
本発明に係る線状体の本体の材質は、ポリマー材料、金属材料、炭素繊維、セラミックス等が挙げられ、これらの材料は単独で使用されてもあるいは適宜組み合わせて使用されても良く、ある程度の剛性と弾性を有するものであれば特に制限はないが、生体適合性を有する材料であることが好ましく、金属、ポリマー材料、炭素繊維であることがより好ましく、金属およびポリマー材料であることがさらに好ましい。
具体的には、前記ポリマー材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル、ポリ乳酸、ポリグリコール酸等の脂肪族ポリエステル、セルロースアセテート、セルロースナイトレート等のセルロース系ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体等の含フッ素ポリマー等が好ましい。
前記金属材料としては、例えば、ステンレス鋼、タンタル、タンタル系合金、チタン、チタン系合金、ニッケルチタン合金(超弾性合金)、タンタルチタン合金、ニッケルアルミニウム合金、インコネル、金、プラチナ、プラチナイリジウム合金、タングステン、タングステン系合金、コバルト系合金、等が好ましい。ステンレス鋼の中では、最も耐食性が良好であるSUS316Lが好ましい。コバルト系合金の中では、MP35N、L605等が好ましい。タングステン系合金ではW−Rh25%、W−Rh26%が好ましい。
また、本発明の線状体の本体は、表面にポリテトラフルオロエチレンなどの公知の低摩擦材料や、ポリ乳酸、リン脂質ポリマー(例えば、特開2005−239988号公報)、PEGなどの公知の生体適合性材料をコーティングすることが好ましい。表面を低摩擦材料や生体適合性材料でコーティングすることにより、操作性や生体適合性を向上することができる。
さらに、当該柔軟部や線状体の本体に、X線を造影する造影剤等をコーティングまたは混入してもよい。これにより、X線透視下で条体の位置を確認できるため、確実にかつ容易に剥離空間を形成できる。ここで、造影剤は、放射線に対して不透過であれば特に制限されず、公知の放射線不透過性物質が使用できる。具体的には、ヨウ素、バリウム、ビスマス、ホウ素、臭素、カルシウム、金、白金、銀、鉄、マンガン、ニッケル、ガドリニウム、ジスプロシウム、タングステン、タンタル、ステンレス鋼、ニチノール、および硫酸バリウム等のこれらの化合物、ならびにこれらの溶液/分散液(例えば、生理食塩水);アミドトリゾ酸(amidotrizoic acid、3,5−diacetamino−2,4,6−triiodobenzoic acid)、アミドトリゾ酸ナトリウムメグルミン、アミドトリゾ酸メグルミン、イオタラム酸ナトリウム、イオタラム酸メグルミン、イオトロクス酸メグルミン、イオトロラン、イオキサグル酸、イオキシラン、イオパミドール、イオプロミド、イオヘキソール、イオベルソール、イオメプロール;ヨード化ケシ油脂肪酸エチルエステル(例えば、炭素原子がヨウ素化されているケシ種油であるLipiodolTM)などが挙げられる。これらの放射線不透過性物質は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
また、上記方法は、操作上の観点から、摘出した非ヒト動物の気管支付きの肺を陰圧装置により10〜50cmH2Oに5分〜2時間保持する工程を含むことが好ましく、具体的には、肺収容密閉容器内に装着した後、当該肺収容密閉容器内を陰圧ボックスで10〜50cmH2Oに5分〜2時間保持する工程を含むことが好ましい。但し、肺の大きさにより適宜、陰圧と時間とを調整し、操作上の観点から十分な大きさに肺を拡張すれば特に制限されるものではない。これにより、胸膜剥離後の剥離空間の大きさを確認しやすくなる。
より好ましくは、非ヒト動物気管支付きの肺を摘出し、当該肺を肺収容密閉容器内に装着した後、当該肺収容密閉容器内を5〜10cmH2Oに1分〜5分保持した後、当該ボックス内を10〜50cmH2Oに保持しながら、当該肺の気管支から条体を挿入して、肺胞実質は貫通させるが胸膜は貫通させることなく、当該条体の先端が胸膜に当接するまで当該条体を押圧する工程と、その後、当該肺胞実質を貫通して形成された貫通孔から外部に向かって当該条体の先端部分を突出させ、当該条体の胸膜に対する押圧を調整して、当該先端部分を中心に胸膜が剥離された剥離空間を形成する工程と、を含む。
本発明に係る陰圧装置1としては、例えば図1に示すように、摘出した非ヒト動物の気管支付きの肺7を収納可能な大きさのプラスチック製品の肺収容密閉容器2に、吸引ライン4が取り付けられており、前記容器内の系を陰圧にする陰圧ボックス3と、陰圧ボックスの吸引により上下する水位により陰圧を確認できる陰圧監視メモリ5と、が連結され、前記密閉容器内部の空気および水などを吸引することにより陰圧条件を作り出だすことができれば特に制限されることはない。また、前記密閉容器2には条体が挿入可能な開口部8が形成されており、かつ当該開口部には逆止弁(図示せず)が嵌合されているため、系内の密閉状態が保たれている。また、陰圧ボックスとしては、一般に広く使用されているものでよく、例えばアスピレーター、サッカー、油回転真空ポンプ、ドライ真空ポンプなどを使用することができる。
例えば、図1では、逆止弁が取り付けられた開口部8を備えた肺収容密閉容器2に、吸引ライン4を介して陰圧ボックス3が接続されており、さらに当該肺収容密閉容器2には別途陰圧監視メモリ5がライン6を介して接続されている。
上記方法により形成された肺実質と前記胸膜との間に形成された剥離空間は、好ましくは1〜20日間剥離維持され、より好ましくは1〜30日間剥離維持される。これにより、比較的長期間摘出臓器を保存することができ、輸送や試験の準備期間等に充当することができる。
本発明に用いられる動物は実験動物(ヒトを除く)であればいずれの実験種においても適応可能であるが、実験動物は適宜選択することができる。実験動物の例としては、ブタ、ラット、マウス、ウサギ、モルモット、イヌ、ネコ、サル、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ等が挙げられる。本発明は、近年、汎用されてきている特にイヌおよびブタに有用である。イヌおよびブタは、1)生理学的、解剖学的所見;2)食性から、消化吸収に関する生理;ならびに3)気管や肺構造等の特性において、ヒトに類似した面が多く、近年の動物福祉問題の観点からも本発明に適した動物である。
なお、一般に、「肺胞実質」とは、呼吸細気管支、肺胞道、および肺胞嚢を含む名称である。
本発明の第二は、肺実質を覆う胸膜の少なくとも一部が剥離された胸膜剥離モデル非ヒト動物である。
これにより、安定した病態が得られる嚢胞性肺疾患の非ヒト動物やその作製方法が提供される。
また、当該胸膜剥離モデル非ヒト動物は、ヒト以外の実験動物の肺の表面の胸膜の少なくとも一部が剥離され、かつ当該剥離された部分は肺胞実質と胸膜との間に空気が貯留される剥離空間を有するものであり、かつ当該剥離空間は、肺胞実質には貫通孔が形成されているが、胸膜には貫通孔が形成されないように、条体の先端が胸膜に当接するまで、実験動物の口腔または鼻から当該条体を挿通することで胸膜の少なくとも一部が剥離されて形成されるものである。
本発明に係る胸膜剥離モデル非ヒト動物の作製方法は、遠位端に柔軟部が取り付けられた条体を非ヒト動物の呼吸域の一部に対して当該非ヒト動物の気管の外部から侵襲し、肺実質近傍に前記柔軟部が挿入配置された後、穿刺により前記肺実質を貫通し、かつ当該肺実質を覆う胸膜に前記柔軟部が当接されることで前記肺実質と前記胸膜とが剥離した動物を作製することを含む。
すなわち、摘出した肺の代わりに、非ヒト動物を麻酔下で口腔または鼻から条体を挿入して、X線透視下で確認しながら末梢の肺胞実質に当該条体の先端部が到達することを確認した後、当該条体を近位端から押圧して肺胞実質を穿孔し貫通孔を形成し、さらに先端部が胸膜に達していることをX線透視下で確認しながら、条体を操作して胸膜を剥離して空気貯留部である剥離空間を形成し、必要により押圧を調整することで当該空間を拡大させる。当該条体の押圧の程度を上げると、当然、条体の先端部分を中心に胸膜が剥離される領域が拡大され、肺胞内の空気が貫通孔を通って剥離空間に流入するため、剥離された部分は肺の外部に向かって膨出し、ブラ(剥離空間)を形成することができる。これにより非ヒト動物の体内において、剥離空間を所定期間形成した状態を維持することができる。
本発明の胸膜剥離モデル非ヒト動物の作製方法は、肺胞と胸膜との機械的強度の差を利用し、かつ動物に対して低侵襲性の条体を用いたものであるため、動物に対するダメージ少なく、術後も早期に回復するだけでなく、術後の生存率が極めて高い。
なお、胸膜剥離モデル非ヒト動物およびその調製方法で使用される条体は、上記の非ヒト動物の肺およびその製造方法と同一であるのでここでは省略する。
また、胸膜剥離モデル非ヒト動物の種類も上記の非ヒト動物の肺およびその製造方法と同一であるのでここでは省略する。
本発明の第三は、非ヒト動物の肺胞実質と胸膜との間に空気が貯留できる剥離空間を形成する胸膜剥離形成システムであって、当該胸膜剥離形成システムは、呼吸域に挿通しうる長尺な本体ワイヤー、および前記本体ワイヤーの先端に設けられ、肺胞実質または気道を貫通し貫通孔を形成させ、かつ胸膜と当接すると前記肺胞実質または前記気道から該胸膜を剥離する柔軟部、を備えた肺胞実質または気道を貫通する条体と、前記貫通孔を拡開させる貫通孔拡開部材を先端に備えた貫通孔拡開具と、前記拡開された貫通孔を通って前記剥離空間内に挿入されるガイドワイヤーと、前記ガイドワイヤーを内部に挿通できるルーメンを少なくとも一つ備えたカテーテルと、前記カテーテルの遠位端側に収容された管状留置体と、前記管状留置体を前記剥離空間内に留置する留置手段と、を有するものである。
上記システムにより形成した剥離空間に留置体を留置することで、治癒などにより胸膜と肺実質との剥離空間が閉塞されることなく長期間剥離空間を維持できうる。
また、当該胸膜剥離形成システムは、拡開された前記貫通孔を通って前記肺胞実質または前記気道から前記胸膜を剥離されることにより形成される剥離空間内に挿入され、かつ当該剥離空間を拡張させる拡縮自在な弾性部材、当該弾性部材を近位端側から操作する操作部材、を備えた胸膜剥離具をさらに有してもよい。
図8に本発明の胸膜剥離形成システムの好ましい一例を示す。図8に示すように、肺胞実質または気道を貫通する条体Aは、例えば上記胸膜剥離非ヒト動物の肺の作製方法などにおいて記載した条体と同一であるのでここでは省略する。
貫通孔拡開具Cは、先端がテーパー状11になっている管状体であり、少なくとも一つのルーメンを有している。そのため、胞実質または気道を貫通する条体Aが当該ルーメン内を挿通することができ、当該肺胞実質または気道を貫通する条体Aは、先端に柔軟部を備えた細い線状体であるため、前記貫通孔拡開具C内に軸方向進退自在に挿通して収容されるだけでなく、ガイドワイヤーとしても使用することができる。また、前記柔軟部12は、前記本体ワイヤー13の先端に設けられ、肺胞実質または気道を貫通し、かつ胸膜と当接すると前記胸膜に沿って変形されてもよい。
さらに、前記貫通孔拡開具Cは、テーパー状11になっている管状体であることが好ましく、必要によりカテーテル10内に軸方向進退自在に挿通して収容してもよい。また、貫通孔拡開具Bに条体Aを挿通した状態で当該貫通孔拡開具を遠位端側に押し出して操作することで、当該貫通孔拡開具内を挿通している当該条体により自己調心機能を発揮して貫通孔に当該テーパー部11が嵌合することで貫通孔を拡開することができる。
また、当該貫通孔拡開具Cの長さおよびルーメンの内径は、条体の長さおよび太さによって適宜選択される。
胸膜剥離具Bは、長尺な操作部材の先端に拡縮自在な弾性部材が取り付けられている構造である。前記拡縮自在な弾性部材としては、環状体、風船状拡張体などが好ましく、弾性材料からなる環状体やいわゆるバルーンカテーテルのバルーンなどがより好ましい。前記環状体の形状は、特に制限されることはなく、円環状、多角環状など適宜選択することができる。また、前記操作部材としては、長尺物であれば特に制限されることはなく、ワイヤーなどの線材、内部に充填材を注入できる管体などが好ましい。また、当該胸膜剥離具Bは、カテーテル10内を挿通して収容され、近位端側から操作部材を牽引すると、先端の環状体などがカテーテル10内に収縮して収まることができることが好ましい。図8では、胸膜剥離具Bが、カテーテル10内に軸方向進退自在に挿通して収容されている。
本発明に係る胸膜剥離具Bの好ましい形態の一例を、図9A〜Cに示す。本発明の好ましい胸膜剥離具の一形態は、図9Aで示すように、操作部材であるワイヤーの先端に弾性材料からなるリング状の環状体が取り付けられており、カテーテルに収容可能である。そのため、操作部材であるワイヤーを近位端で牽引するとカテーテル内部に当該リング状の環状体が圧縮して収容され、さらに前記ワイヤーを押し出す、またはカテーテルを遠位端側に牽引すると、圧縮されて収容されているリング状の環状体が常態に復元する。
本発明の好ましい胸膜剥離具Bの他の一形態は、図9Bに示すように、一本の弾性材料からなる線材を先端に湾曲部を形成するよう折り曲げることにより成形したものであるため、操作部材は2本のワイヤーからなり、これらを縒っても索にしてもよく、上記の図9Aの実施形態と同様に、カテーテル内部に圧縮して収容でき、かつカテーテルから突出させると常態に復元する。
本発明の好ましい胸膜剥離具Bのその他の一形態は、図9Cに示すように、先端にはバルーンが取り付けられ、後端には圧送管体(図示せず)に充填材を注入する圧送体(図示せず)を備えた管体であり、前記圧送管体とバルーン内とが連通されている。前記圧送管体には、シリンジ、インデフレーター、ポンプ等の圧送体とが連設された構造である。そのため、前記圧送体または圧送管を押し出してカテーテルからバルーンを突出させた後、このシリンジ、インデフレーター、ポンプ等の圧送体や圧送管体に充填材を添加して圧送体を動作させると圧送管体を通ってバルーンに充填材が注入することでバルーンを拡張させることができる。さらに、バルーンを拡張させた後、当該充填材を吸引することでバルーンを収縮させることができる。そのため、圧送体や圧送管体が操作部材としてカテーテルからバルーンを突出させる役割を担う。
前記管体の後端側の拡張時の最大外径は0.5〜100mmが好ましく、3〜50mmがより好ましい。
前記管体および操作部材の材質は、上記本体ワイヤーの材質と同一であるのでここでは省略する。
本発明に係る操作部材の長さは、200〜1400mmが好ましく、200〜1000mmがより好ましい。
また、前記操作部材が圧送管体である場合、内径は0.2〜3mmが好ましく、0.4〜1.5mmがより好ましく、外径は0.5〜4mmが好ましく、0.7〜2.5mmがより好ましい。
前記バルーンの大きさは、バルーンの収縮時の径方向長さは、0.5〜4mmが好ましく、拡張時の径方向長さは、0.7〜3mmが好ましい。
上述した胸膜剥離具を、肺胞実質または気道を貫通して形成される貫通孔内に挿入し、かつ先端の弾性部材を胸膜と肺胞実質との間に位置するようにカテーテルから突出させると、先端の弾性部材は拡張することができる。これにより、拡張した大きさに伴い肺胞から胸膜を剥離した部分である剥離空間を形成することができ、または前記胸膜剥離具を近位端側で操作することにより剥離空間を大きくする(または剥離した部分を広げる)ことができる。さらに、当該胸膜剥離具を牽引することにより当該弾性部材がカテーテル内10に収容され、当該弾性部材を収縮することができる。したがって、当該胸膜剥離形成システムの近位端側の操作部材を操作することで先端の弾性部材をカテーテルから出没させ、当該弾性部材を拡縮自在にコントロールすることができる。
本発明に係る管状留置体を前記剥離空間内に留置する留置手段Dは、カテーテル内の遠位端側に収容された前記管状留置体を該カテーテルの近位端側からの操作により突出させる押し子により構成されていることが好ましい。また、当該押し子には、ガイドワイヤーや本発明に係る条体を挿通可能なルーメンが設けられていることが好ましい。
また、カテーテルの先端に収容される管状留置体E、Fは、その使用目的により、長さや材料など選択される。例えば、図8の管状留置体E、Fは、貫通孔に留置されるものであり、図8の管状留置体Gは、剥離空間内に空間保持部材として使用される。そのため、図10に示すように、カテーテル10の先端に管状留置体E、F、またはGを取り付けて、近位端側から押し子を当該カテーテル内に挿通させ、かつ操作により押し子を突出させることで、管状留置体を任意の場所に留置することができる。また、当該押し子には、胞実質または気道を貫通する条体Aが挿通できるルーメンが形成されているため、当該条体Aに沿ってカテーテル10内を自在に摺動し、カテーテル10の遠位端側に取り付けられた管状留置体E、F、またはGの端部と押し子の先端部分の押圧面とが当接して管状留置体E、F、またはGをカテーテル10の外側に押し出すことができる。
本発明に係る剥離空間を有する非ヒト動物を有する非ヒト動物モデルの作製方法は、遠位端に柔軟部が取り付けられた条体Aを非ヒト動物の呼吸域の一部に対して当該非ヒト動物の気管の外部から侵襲し、肺実質近傍に前記柔軟部が挿入配置された後、穿刺により前記肺実質を貫通し貫通孔を形成させ、かつ当該肺実質を覆う胸膜に前記柔軟部が当接されることで前記肺実質と前記胸膜とを剥離する工程(A)と、前記貫通孔に貫通孔拡開具Cを挿入して、当該貫通孔を拡開する工程(B)と、前記拡開された貫通孔を通ってガイドワイヤーを前記剥離空間内に挿入した後、先端に管状留置体を備え、かつ前記ガイドワイヤーを内部に挿通できるルーメンを少なくとも一つ備えたカテーテルを先端が貫通孔の近傍に達するまで挿入する工程(C)と、前記管状留置体を前記剥離空間内に留置する留置手段Dにより当該管状留置体を剥離空間内に留置する工程(D)とを含み、必要により、工程(C)の前に、前記拡開された貫通孔を通ってガイドワイヤーを前記剥離空間内に挿入した後、前記ガイドワイヤーを内部に挿通できるルーメンを少なくとも一つ備えたカテーテルを先端が貫通孔の近傍に達するまで挿入し、かつ当該ルーメンに胸膜剥離具Bを挿通させて剥離空間を拡大させる工程(E)を有してもよい。
以下、本発明に係る胸膜剥離形成システムを非ヒト動物モデルに使用する態様を説明する。
麻酔した非ヒト動物の口腔もしくは鼻腔内から本発明の肺胞実質または気道貫通具である先端部が柔軟なX線透視性を有する条体を挿入して、X線透視下で確認しながら先端部が柔軟な条体にて末梢の肺胞実質に当該先端部が到達することを確認する。そして、当該条体を突出させてそのまま肺胞を穿孔し貫通孔を形成し、さらに先端部が胸膜に達していることをX線透視下で確認する。その際、前記条体の先端を胸膜に当接すると、一部の胸膜が肺胞などから剥離するため、空気を貯留できる剥離空間が形成される。
次いで、前記条体の先端を胸膜に当接させた後、前記条体を本発明の貫通孔拡開具を特定のルーメン内に挿通させ、当該条体をガイドワイヤーとして遠位端側にスライドさせて、貫通孔にテーパー部分を嵌合させて貫通孔を拡張させる。
その後、貫通孔拡開具から前記条体を抜去したルーメン内に、または前記貫通孔拡開具の他のルーメン内に、本発明の胸膜剥離具を挿通させて、先端の拡縮自在な弾性部材が貫通孔を通過するように近位端側の操作部材で操作し、当該弾性部材を拡張させ、かつ先端の弾性部材を動かし、空気を貯留できる剥離空間を拡大させる。
そして、前記貫通孔を介して先端が剥離空間内に位置するようX線透視下で確認しながら、ガイドワイヤーまたは本発明に係る条体を前記貫通孔内から通した後、当該ガイドワイヤーまたは本発明に係る条体をガイドにして、先端に管状留置体を備えたカテーテルを挿入し、近位端側から操作により押し子を遠位端側に突出させ管状留置体を剥離空間内に留置する。
これにより、剥離空間内に管状留置体が存在するため、治癒などの理由により肺実質と胸膜とが閉塞することを抑制・防止することができる。また、必要により、管状留置体を貫通孔に留置することで、貫通孔の閉塞も抑制・防止することができる。
以下、本発明に係る実施例を示して本発明の具体例を説明するが、本発明の範囲を限定するものでない。
実施例1
ブタ去勢50〜60kg2頭を用い、それぞれケタミン(100mg/2mL/kg)麻酔下、腹部大動脈より放血致死させた。そして、それぞれ気管を露出し、開胸後、気管および肺を摘出し、ブタ肺1とブタ肺2とを得た。その後、摘出した気管付肺を陰圧装置が連結した陰圧ボックス(図1参照)内に摘出肺を装着して、陰圧(約40cmH2O)下にてそれぞれの摘出肺を拡張した(図2参照)。陰圧ボックスに接続された気管支から条体であるガイドワイヤー(テルモ株式会社 ラジフォーカスガイドワイヤー(登録商標) 0.034インチ)を挿入して、肉眼にて胸膜に達したことを確認した(図3参照)。そして、当該条体の近位端側で操作することでガイドワイヤー先端を動かし、胸膜を剥離して空気貯留部を拡大させることでそれぞれのブタ肺に対して人工的なブラを作製した(図4、図7ブタ肺1、ブタ肺2参照)。その後、冷蔵庫(冷蔵温度4℃、プラスチック製バットをビニール袋にて密封保存)にて5日間保存した。なお、図7ではブタ肺1におけるブラの形成位置およびブタ肺2におけるブラの形成位置を示す。
ブタ去勢50〜60kg2頭を用い、それぞれケタミン(100mg/2mL/kg)麻酔下、腹部大動脈より放血致死させた。そして、それぞれ気管を露出し、開胸後、気管および肺を摘出し、ブタ肺1とブタ肺2とを得た。その後、摘出した気管付肺を陰圧装置が連結した陰圧ボックス(図1参照)内に摘出肺を装着して、陰圧(約40cmH2O)下にてそれぞれの摘出肺を拡張した(図2参照)。陰圧ボックスに接続された気管支から条体であるガイドワイヤー(テルモ株式会社 ラジフォーカスガイドワイヤー(登録商標) 0.034インチ)を挿入して、肉眼にて胸膜に達したことを確認した(図3参照)。そして、当該条体の近位端側で操作することでガイドワイヤー先端を動かし、胸膜を剥離して空気貯留部を拡大させることでそれぞれのブタ肺に対して人工的なブラを作製した(図4、図7ブタ肺1、ブタ肺2参照)。その後、冷蔵庫(冷蔵温度4℃、プラスチック製バットをビニール袋にて密封保存)にて5日間保存した。なお、図7ではブタ肺1におけるブラの形成位置およびブタ肺2におけるブラの形成位置を示す。
5日後冷蔵庫から取り出した直後のブタ肺2の様子を図5に示す。そして、保存していた摘出肺(ブタ肺1、2)を再度陰圧ボックス(約40cmH2O)にて拡張し、作製したブラがその形状を維持されているか否かを確認した。その結果、いずれも同一の大きさのブラが形成されていることが確認された(図6参照)。
実施例2
エラスターゼ投与法により肺気腫モデルのイヌを手術台の上に仰臥位で固定し、口内から条体(テルモ株式会社 ラジフォーカスガイドワイヤー(登録商標) 0.018インチ)を挿入して、X線透視下(GE社製)で確認しながら当該条体にて末梢の肺気腫部の肺胞実質に当該先端部が到達することを確認した。そして、当該条体を突出させてそのまま肺胞を穿孔し貫通孔を形成し、さらに先端部が胸膜に達していることをX線透視下で確認した。
エラスターゼ投与法により肺気腫モデルのイヌを手術台の上に仰臥位で固定し、口内から条体(テルモ株式会社 ラジフォーカスガイドワイヤー(登録商標) 0.018インチ)を挿入して、X線透視下(GE社製)で確認しながら当該条体にて末梢の肺気腫部の肺胞実質に当該先端部が到達することを確認した。そして、当該条体を突出させてそのまま肺胞を穿孔し貫通孔を形成し、さらに先端部が胸膜に達していることをX線透視下で確認した。
また、上述したように当該条体はランスルーNSの先端突き当て荷重1gf、外径0.014インチであることから、10gf/mm2以上の負荷がかかると穿刺できることが確認された。
そして、前記条体の先端を胸膜に当接させた後、当該貫通孔拡開具(GW外径:0.46mm、カテ内径:0.50mm、カテ外径:0.55mm(最先端)、カテ外径:2.00mm(基端部)、テーパー長:40mm、貫通孔:φ2.0mm)の特定のルーメン内に挿通させ、当該条体をガイドに遠位端側にスライドさせて、貫通孔にテーパー部分を嵌合させて貫通孔を拡張させた。
そして、前記貫通孔拡開具から前記ワイヤーを抜去したルーメン内に、胸膜剥離具(ワイヤーの先端に環状体が取り付けられており、当該環状体の拡張時の大きさが、φ5mm、拡張前の大きさが、φ0.5mm以下、線径φ0.15mm NiTi製)を挿通させて、先端の弾性部材が貫通孔を通過するように操作し当該弾性部材を拡開させ、トルクをかけて先端の弾性部材を動かし、空気を貯留できる剥離空間を人工的に形成させた。
1 陰圧装置
2 肺収容密閉容器
3 陰圧ボックス
4 吸引ライン
5 陰圧監視メモリ
6 ライン
7 摘出した肺
8 開口部
10 カテーテル
11 テーパー状部分
12 柔軟部
13 本体ワイヤー
2 肺収容密閉容器
3 陰圧ボックス
4 吸引ライン
5 陰圧監視メモリ
6 ライン
7 摘出した肺
8 開口部
10 カテーテル
11 テーパー状部分
12 柔軟部
13 本体ワイヤー
Claims (3)
- 表面の胸膜の少なくとも一部が剥離されることにより形成され、かつ肺胞実質と胸膜との間に空気が貯留できる剥離空間を有する非ヒト動物の肺。
- 摘出した非ヒト動物の気管支付きの肺の気管支から遠位端に柔軟部が取り付けられた条体の先端が胸膜に当接するまで挿通する工程と、
前記条体を操作し、肺胞実質から胸膜の少なくとも一部を剥離する工程と、を有する、胸膜の少なくとも一部が剥離され、かつ肺胞実質と胸膜との間に空気が貯留できる剥離空間を有する非ヒト動物の肺の作製方法。 - 請求項1または2に記載の非ヒト動物の肺胞実質と胸膜との間に空気が貯留できる剥離空間を形成するための胸膜剥離形成システムであって、
呼吸域に挿通しうる長尺な本体ワイヤー、および前記本体ワイヤーの先端に設けられ、肺胞実質または気道を貫通し貫通孔を形成させ、かつ胸膜と当接すると前記肺胞実質または前記気道から該胸膜を剥離する柔軟部、を備えた肺胞実質または気道を貫通する条体と、
前記貫通孔を拡開させる貫通孔拡開部材を先端に備えた貫通孔拡開具と、
前記拡開された貫通孔を通って前記剥離空間内に挿入されるガイドワイヤーと、前記ガイドワイヤーを内部に挿通できるルーメンを少なくとも一つ備えたカテーテルと、
前記カテーテルの遠位端側に収容された管状留置体と、
前記管状留置体を前記剥離空間内に留置する留置手段と、を有する胸膜剥離形成システム。
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