JP2013122437A - ラマン分光測定装置、ラマン分光測定プログラム、及びそれを格納した記録媒体 - Google Patents

ラマン分光測定装置、ラマン分光測定プログラム、及びそれを格納した記録媒体 Download PDF

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Abstract

【課題】ラマンスペクトルから得られる分子構造情報を数値化することにより、測定対象が癌か否かを客観的且つ迅速に判別する。
【解決手段】ラマンスペクトルにおけるラマンバンドであって、所定のラマンシフトに表れる複数のラマンバンドに基づいた各々の強度の比から、測定対象が癌か否かを判別する判別手段を有する。但し、前記複数のラマンバンドのうち、一つのラマンバンドは少なくともタンパク質に起因して表れるものであり、別のラマンバンドは少なくともタンパク質に起因して表れるものである。
【選択図】図11

Description

本発明は、ラマン分光測定装置、ラマン分光測定プログラム、及びそれを格納した記録媒体に関し、特にラマンスペクトルを用いて測定対象が癌か否かを判別するラマン分光測定装置、ラマン分光測定プログラム、及びそれを格納した記録媒体に関する。
近年、生体組織や様々な物質などを測定対象としたラマン分光測定によって、タンパク質、核酸など生体試料に含まれている構成物の分析や、生体組織の種類の区別、正常な組織と癌組織との弁別などを行うことが検討されている。
このようなラマン分光測定においては、生体組織などの測定対象となる検体に対して所定波長の励起光を照射し、検体での非弾性散乱によって生成されて検体から放出されたラマン散乱光を分光測定して、ラマン散乱光の波長スペクトルを得る。そして、このラマンスペクトル中に現れるラマンピークの波長や強度等から、検体に含まれる構成物や検体の状態の特定など、検体についての分析を行う。以降、ラマン散乱光の波長スペクトルのことを「ラマンスペクトル」とも言う。
ここで挙げたラマン分光測定に関し、ラマンスペクトルから得られる分子構造情報を数値化する技術としては、例えば特許文献1〜4が知られている。
特許文献1では、検体の分析に対してラマン分光測定装置を用いる技術が記載されており、ラマンスペクトルでのバックグラウンド光の強度を低減する技術が記載されている。 特許文献2では、ラマンスペクトルに対し、受信者操作特性(Receiver Operating Characteristic:ROC)を考慮した上で、検体が癌か否かをラマンスペクトルから判別する技術が記載されている。
特許文献3では、検体に対し、生体内物質として糖化ヘモグロビン(HbAlc)を測定するためにラマン分光法を用いる技術が記載されている。詳しく言うと、予め、ラマンスペクトルにおけるピーク強度比とHbAlcの量との関係を得ておき、検体におけるピーク強度比から検体のHbAlcの量を算出する方法が記載されている。
特許文献4では、子宮頚前癌を診断するためにラマン分光診断法を用いる技術が記載されている。詳しく言うと、予め、正常試料におけるラマンバンドの強度を得ておき、この強度に対して、検体におけるラマンバンドの強度を対比させることにより、子宮頚前癌の有無を判別する方法が記載されている。
特開2002−5835号公報 特開2007−222669号公報 特開2010−5062号公報 特表平10−505167号公報
特許文献1〜4に示すように、近年、ラマン分光診断法を用い、ラマンスペクトルから得られる分子構造情報を数値化し、検体が癌か否かを判別する技術が次々と登場している。しかしながら、特許文献2のようにROCを用いて癌か否かを判別するにしても、具体的にどのようなラマンスペクトルを有していれば癌であると判定するのかが、現在の課題である。つまり、ラマン分光診断法を用いたとしても、癌か否かの閾値は、ラマン分光診断装置メーカー又は測定者の主観にかなりの部分で依存することになっている。それに加え、特許文献3〜4に記載の技術だと、予め、ピーク強度比とHbAlcの量の関係や、正常試料におけるラマンバンドの強度をデータとして得ておく必要がある。また、検体が癌か否かの判別については、常に正常試料との対比が必要になるため、正常試料の選定に始まり正常試料との対比に至るまで、種々のデータが必要となり、迅速に測定できるとは言い難い状況である。更に、特許文献4においては、癌か否かの閾値をどの値とするかについては現在も客観的指標の算出方法は確立されておらず、ラマン分光診断装置メーカー又は測定者の主観にかなりの部分で依存することになってしまっていた。
本発明の目的は、ラマンスペクトルから得られる分子構造情報を数値化することにより、測定対象が癌か否かを客観的且つ迅速に判別するラマン分光測定装置、ラマン分光測定プログラム、及びそれを格納した記録媒体を提供することにある。
本発明者らは、上記の課題を解決するためのラマン分光測定装置について検討した。その検討に際し、本発明者らはまず、正常部位及び癌部位のラマンスペクトルの比較から検討を開始した。
この検討において用いられた測定対象としては、大腸癌摘出手術で得られた生検体を用いた。その他の条件は、後述の実施例1に記載の通りとし、25の測定対象に対しラマン測定を行い、癌部位80点、正常部位60点からのラマンスペクトルを得た。また、得られた測定結果は、病理診断の結果を考慮して解析を行った。その結果として、今回の25の測定対象からの測定で得られた正常部位、癌部位それぞれに対して得たラマンスペクトルを平均化したもの(平均ラマンスペクトル)を図2に示す。
図2を見ると、ラマンバンドの比較では、正常部位(○、細線)及び癌部位(×、太線)のうち、どちらかのみに現れるなどの顕著なマーカーバンドの存在は見られなかった。その一方、正常部位及び癌部位の平均ラマンスペクトルには強度の差異が生じていた。本発明者らはこの差異に着目し、それぞれの平均ラマンスペクトルの差異を検出するため、正常部位のスペクトルから癌部位のスペクトルを差し引き、差スペクトルを得た。この差スペクトルを図3に示す。なお、この差スペクトルは、タンパク質のフェニルアラニン残基に帰属される1003cm−1のバンド強度で規格化している。
図3を見ると、得られた差スペクトルにおいては、1300cm−1以下、1447cm−1及び1657cm−1ラマンシフトに、顕著なラマンバンドが表れている。なお、「ラマンシフト」とは、ラマン分光の波長を単位cm−1(カイザー)で示したものである。また、ラマンスペクトルにおいて、表れるラマンピークを含む凸状の領域の少なくとも一部の帯域のことを「ラマンバンド」とも言う。
なお、後述の実施例2に対応する条件においても、正常部位及び癌部位のラマンスペクトルの比較を行った。実施例2において図2に対応する図を図4に示し、図3に対応する図を図5に示す。
これらのラマンシフトに位置するラマンバンドは、タンパク質及び脂質に帰属されるものと考えられている。これを示す文献としては例えば、「日本分光学会測定法シリーズ17」(学会出版センター発行 ▲浜▼口宏夫・平川暁子編)が挙げられる。つまり、正常部位の脂質に起因するラマンバンドの強度の方が、癌部位の脂質に起因するラマンバンドの強度のよりも高くなっており、癌となることによりの測定対象内にて脂質が減少していることに、本発明者は着目した。そして、ある測定対象から得られるラマンスペクトルにおいて、タンパク質や脂質に起因する複数のラマンバンドの強度を求め、このラマンバンドの強度の比を得ることにより、測定対象が癌か否かを判別するという手法を想到した。なお、この手法を適用した装置については、以降「ラマン分光測定装置」と言うが、上記の機能を考慮すると、「癌判別装置」「ラマン分光測定による癌判別装置」と言っても構わない。
以上の知見に基づいて成された本発明の態様は、以下の通りである。
本発明の第1の態様は、
ラマンスペクトルにおけるラマンバンドであって、所定のラマンシフトに表れる複数のラマンバンドに基づいた各々の強度の比から、測定対象が癌か否かを判別する判別手段を有することを特徴とするラマン分光測定装置である。
但し、前記複数のラマンバンドのうち、一つのラマンバンドは少なくともタンパク質に起因して表れるものであり、別のラマンバンドは少なくとも脂質に起因して表れるものである。
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の態様であって、
前記強度の比は、1003cm−1、1447cm−1及び1657cm−1のうち少なくとも二つのラマンシフト又はその近傍に表れるラマンバンドの強度比であることを特徴とする。
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載の態様であって、
前記強度の比は、1003cm−1ラマンシフト又はその近傍に表れるラマンバンドと1447cm−1ラマンシフト又はその近傍に表れるラマンバンドとの強度比、及び、1657cm−1ラマンシフト又はその近傍に表れるラマンバンドと1447cm−1ラマンシフト又はその近傍に表れるラマンバンドとの強度比であることを特徴とする。
本発明の第4の態様は、第1ないし第3のいずれかの態様に記載の態様であって、
癌か否かに関する判別データが前記判別手段により取得され、前記判別データによって、癌か否かの境界を表す関数が更新されることを特徴とする。
本発明の第5の態様は、第1ないし第4のいずれかの態様に記載の態様であって、
前記強度は、単一関数によるフィッティング曲線を用いて求められることを特徴とする。
本発明の第6の態様は、
ラマンスペクトルにおけるラマンバンドであって、所定のラマンシフトに表れる複数のラマンバンドに基づいた各々の強度の比から、測定対象が癌か否かを判別する判別手段としてコンピュータ装置を機能させることを特徴とするラマン分光測定プログラムである。
但し、前記複数のラマンバンドのうち、一つのラマンバンドは少なくともタンパク質に起因して表れるものであり、別のラマンバンドは少なくとも脂質に起因して表れるものである。
本発明の第7の態様は、第6の態様に記載の態様であって、
癌か否かに関する判別データが前記判別手段により取得され、前記判別データによって、癌か否かの境界を表す関数が更新されることを特徴とする。
本発明の第8の態様は、第6又は第7の態様に記載のラマン分光測定プログラムを格納した記録媒体である。
本発明によれば、ラマンスペクトルから得られる分子構造情報を数値化することにより、測定対象が癌か否かを客観的且つ迅速に判別することができる。
本実施形態におけるラマン分光測定装置を示す概略図である。 本実施形態(実施例1)における、測定対象が正常の場合及び測定対象が癌の場合の平均ラマンスペクトルを記載したグラフである。 図2において、測定対象が正常部位の場合の強度と、測定対象が癌部位の場合の強度との差を示したグラフである。 実施例2における、測定対象が正常の場合及び測定対象が癌の場合の平均ラマンスペクトルを記載したグラフである。 図4において、測定対象が正常部位の場合の強度と、測定対象が癌部位の場合の強度との差を示したグラフである。 本実施形態におけるラマン分光測定システムの構成例を示すブロック図である。 本実施形態におけるラマン分光測定装置を用いた測定の際の操作の手順の概要を示すフローチャートである。 図7におけるS15(S14)の手順の詳細を示すフローチャートである。 本実施形態におけるラマン分光測定装置を用いた測定により得られた測定データの解析及び癌か否かの判別の手順の概要を示すフローチャートである。 本実施形態(実施例1)における、1003cm−1ラマンシフトに表れたラマンバンドの強度と1447cm−1ラマンシフトに表れたラマンバンドの強度との強度比と、その強度比を有する測定対象数との関係を示したヒストグラムである。なお、(1003cm−1強度)/(1447cm−1強度)の値を横軸とし、測定点の数及び測定対象の数から得られたデータの数(頻度)を縦軸としている。 本実施形態(実施例1)において、1003cm−1ラマンシフト又はその近傍に表れたラマンバンドと1447cm−1ラマンシフト又はその近傍に表れたラマンバンドとの強度比を横軸とし、1657cm−1ラマンシフト又はその近傍に表れたラマンバンドと1447cm−1ラマンシフト又はその近傍に表れたラマンバンドとの強度比を縦軸とし、測定対象が正常の場合と、測定対象が癌の場合とを対比させた結果を示すグラフである。なお、グラフ中の直線は、癌か否かの境界を示す判別直線である。 本実施形態(実施例1)における、1447cm−1ラマンシフトに表れたラマンバンドの強度を求めるための手法を示すグラフである。 実施例2における、1003cm−1ラマンシフトに表れたラマンバンドの強度と1447cm−1ラマンシフトに表れたラマンバンドの強度との強度比と、その強度比を有する測定対象数との関係を示したヒストグラムである。なお、(1003cm−1強度)/(1447cm−1強度)の値を横軸とし、測定点の数及び測定対象の数から得られたデータの数(頻度)を縦軸としている。 実施例2において、1003cm−1ラマンシフト又はその近傍に表れたラマンバンドと1447cm−1ラマンシフト又はその近傍に表れたラマンバンドとの強度比を横軸とし、1657cm−1ラマンシフト又はその近傍に表れたラマンバンドと1447cm−1ラマンシフト又はその近傍に表れたラマンバンドとの強度比を縦軸とし、測定対象が正常の場合と、測定対象が癌の場合とを対比させた結果を示すグラフである。なお、グラフ中の直線は、癌か否かの境界を示す判別直線である。 実施例2における、1447cm−1ラマンシフトに表れたラマンバンドの強度を求めるための手法を示すグラフである。 実施例3における、測定対象が正常の場合及び測定対象が癌の場合の平均ラマンスペクトルを記載したグラフである。但し、測定対象が正常の場合(破線)及び測定対象が癌の場合(実線)の平均ラマンスペクトル各々のベースラインの差を解消している(点線であり直線)。また、グラフの下部のラマンバンド(点線)は、ラマンバンド発生に起因しているラマンシフトごとに、平均ラマンスペクトルのラマンバンド各々を分離したものを示す。 実施例3において、1003cm−1ラマンシフト又はその近傍に表れたラマンバンドと1447cm−1ラマンシフト又はその近傍に表れたラマンバンドとの強度比を横軸とし、1657cm−1ラマンシフト又はその近傍に表れたラマンバンドと1447cm−1ラマンシフト又はその近傍に表れたラマンバンドとの強度比を縦軸とし、測定対象が正常の場合と、測定対象が癌の場合とを対比させた結果を示すグラフである。なお、グラフ中の直線は、癌か否かの境界を示す判別直線である。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
本実施形態においては、次の順序で説明を行う。
1.ラマン分光測定装置の構成
2.ラマン分光測定装置の作用(ラマン分光測定方法)
3.測定の際の操作の手順
4.測定により得られた測定データの解析及び癌か否かの判別の手順
5.実施の形態による効果
6.変形例
<1.ラマン分光測定装置の構成>
図1は、本発明に係るラマン分光測定装置の一実施形態について概略的に示す構成図である。図1において、ラマン分光測定を用いた分析の測定対象は、符号αによって示されている。本実施形態における測定対象には特に制限はなく、患者の体内そのもの(即ち生体)であっても良い。
本実施形態によるラマン分光測定装置は、レーザ光源10と、導光光学系11と、集光光学系21と、ファイバープローブ50と、分光器30と、近赤外光検出器31と、癌判別手段40とを備えて構成されている。そして、本実施形態のラマン分光測定装置においては、レーザ光源10、分光器30、近赤外光検出器31、癌判別手段40、そして導光光学系11と集光光学系21の一部が、筐体1内に収納されている。説明の便宜上、以降、筐体1内に収納されている構成を「レーザ光源10等」と略称する。
レーザ光源10は、測定対象αに励起光として照射されるパルス状のレーザ光を出射して供給する励起光源である。この励起光は、測定対象αでの非弾性散乱によってラマン散乱光を生成するためのものであり、励起光の波長としては、近赤外で所定の下限波長以上の波長範囲内の波長が用いられる。具体的には、850nm以上、より好ましくは900nm以上の波長範囲内にある所定波長が用いられる。このような波長範囲のパルス励起光を供給するレーザ光源10としては、例えば、波長1064nmの光を供給するNd:YAGレーザなどがある。
レーザ光源10から供給された近赤外のパルス状の励起光は、導光光学系11によって測定対象αへと導かれる。この導光光学系11は、光路を設定または変更する反射ミラーなどの光学素子を組み合わせて構成される。また、図1に示した構成においては、導光光学系11の光路上に、ハーフミラー15及び励起光を集束させるための集束レンズ13、ファイバープローブ50に光を導光するためのファイバー16、そしてファイバープローブ50が設けられている。
導光光学系11を構成しているこれらの各光学要素を通過した励起光は、測定対象αへと、ファイバープローブ50を介して照射される。そして、測定対象αにおいて、励起光の非弾性散乱によるラマン散乱光が生成される。なお、測定対象αに検体を用いる場合は測定対象載置台が必要になるが、上述のように測定対象αに生体を用いる場合は、測定対象載置台は不要となる。
測定対象αで生成して放出されたラマン散乱光は、再びファイバープローブ50を介し、集光光学系21によって所定の集束位置へと導光、集束される。この集光光学系21は、測定対象αからのラマン散乱光について、励起光の照射方向に対して後方散乱されたラマン散乱光を集光するように構成されている。
集光光学系21によって集束されたラマン散乱光は、分光器30によって分光された後、その出射スリットで選択された波長成分の光が、近赤外光検出器31によって検出される。
近赤外光検出器31としては、励起光によって決まる波長域の近赤外光に対して充分な感度を有するものが用いられる。具体的には、例えば、近赤外光に感度がある光電子増倍管やフォトダイオード、CCDなどを用いることが可能である。
また、ラマン散乱光の波長スペクトル(ラマンスペクトル)を得るためには、所定の波長域にわたって分光されたラマン散乱光の測定を行う必要がある。これに対して、受光素子一つからなる近赤外光検出器31を用いた場合には、分光器30の出射スリットによって選択される波長をスキャンしていくことによって、各波長成分のラマン散乱光を順次測定してラマンスペクトルを得る。
そして、本実施形態におけるラマン分光測定装置には、この近赤外光検出器31に接続する形で、癌判別手段40が設けられている。この癌判別手段40は、本実施形態におけるラマン分光測定装置において上記に列挙した構成の一部又は全部を制御する手段である。それとともに、この癌判別手段40は、作用については後で詳述するが、近赤外光検出器31によりある測定対象αに対して得られたラマンスペクトルにおけるラマンバンドであって、所定のラマンシフトに表れる複数のラマンバンドに基づいた各々の強度の比から、測定対象αが癌か否かを判別するものである。具体的に言うと、近赤外光検出器31から送信される電気信号(即ちラマンバンドの強度の基となる電気信号)が入力されることにより、所定のラマンシフトに表れるラマンバンドの強度比を演算し、測定対象αが癌か否かを判別する手段である。
なお、本明細書における「癌か否か」とは、癌細胞を有するか否かのみならず、癌の初期段階か否か(即ち人体に有害な癌となっているか否か)も含む。「癌か否か」を更に正確に言えば、「癌化しているか否か」とも言える。そのため、「癌か否か」が「細胞が癌化しているか否か」という意味であっても構わない。
以下、癌判別手段40について詳述する。
本実施形態におけるラマン分光測定システムの構成例を示すブロック図である図6に示すように、筐体1内に収納された癌判別手段40は、同じく筐体1内に収納されたレーザ光源10、分光器30、近赤外光検出器31に対し、情報の送受信が可能なように接続されている。なお、レーザ光源10、分光器30、近赤外光検出器31の相互間においても、情報の送受信が可能なように接続されていても構わない。また、癌判別手段40内に配置された記録手段45の代わりに又は追加で、筐体1の外に別途、外付記録手段80を設けても構わない。また、外付記録手段80は、筐体1の内部に設けても構わない。また、筐体1における癌判別手段40と接続されても構わないし、その他の手段(分光器30等)に接続されても構わない。
更に、癌判別手段40は、インターネット等の通信回線60を介して、サーバ装置70と接続されていても構わない。なお、図例では、癌判別手段40とサーバ装置70とが1対1で接続されている場合を示しているが、実際には複数の癌判別手段40が通信回線60を介してサーバ装置70と接続されていても構わない。
そして、癌判別手段40は、コンピュータ部41、操作手段42、表示手段43、演算手段44、記録手段45により構成されている。もちろん、上記以外の構成を含んでも良いが、説明の便宜上、本実施形態においては上記の構成を基に説明する。
コンピュータ部41は、癌判別手段40の中心的存在であり、癌判別手段40内の上記の構成のみならず、レーザ光源10等に対する制御コントローラーである。また、本明細書における「コンピュータ装置」の少なくとも一部を指す。コンピュータ部41としては例えば、CPUやメモリ、ハードディスク等を備えたPC等を用いても構わない。
操作手段42は、コンピュータ部41に対し、諸々の情報を入力するための手段であり、入力手段となる端末を指す。操作手段42としては例えば、マウスやキーボード等が挙げられる。
表示手段43は、上記の癌判別の結果やラマンスペクトル、測定に関する諸々の情報等を操作者に対して表示するための手段である。表示手段43としては例えば、モニタ等が挙げられる。
演算手段44は、ラマンスペクトルの算出の前に較正データ(後述)を取得し、それを基に波長較正を行ったり、測定対象に対する測定結果を取得し、それを基にラマンスペクトルの算出やグラフ化を行ったり(例えば図12)、ラマンバンドの強度比から癌判別を行ったり(例えば図11)する手段である。コンピュータ部41の一部の機能を、演算手段44のために用いても構わない。以降、特記しない限り、演算(算出)に関する処理は、コンピュータ部41を介して演算手段44にて行っているものとする。
記録手段45は、近赤外光検出器31により測定されたデータを記録したり、演算手段44により取得された較正データ、癌判別手段40により得られた判別結果、本実施形態のラマン分光測定装置により得られた測定結果等(以降、「データ等」と略称する。)を記録しておいたりするための手段である。もちろん、上記以外のデータを保存しておいても構わない。例えば検体に関するデータや、生体の場合だと患者に関するデータを保存しておいても構わない。
なお、この記録手段45の代わりに、通信回線60を介して接続されているサーバ装置70にデータ等を記録しても構わないし、記録手段45にデータ等を記録するとともに、サーバ装置70にデータ等を送信し、サーバ装置70にデータ等を別途記録しても構わない。
なお、以降、本実施形態におけるラマン分光測定装置のことを、サーバ装置70に対し、「ユーザ装置」とも言う。
上記の各手段は、コンピュータ装置を用いて実現することが可能である。また、コンピュータプログラムを用い、これらの各手段としてコンピュータ装置を機能させることも可能である。更に、上記の通信回線60やサーバ装置70を使用することにより、ラマン分光測定システムとしても運用することも可能となる。 なお、上記各手段としてコンピュータ装置を機能させる具体的なステップとしては、後述の<3.測定の際の操作の手順><4.測定により得られた測定データの解析及び癌か否かの判別の手順>にて詳述する。
本実施形態における癌判別のメカニズムについて以下の<2.ラマン分光測定装置の作用(ラマン分光測定方法)>にて説明する。
<2.ラマン分光測定装置の作用(ラマン分光測定方法)>
以下、本実施形態におけるラマン分光測定装置の作用について説明する。
先にも述べたように、癌部位では、正常部位に比べて、相対的に(タンパク質量)/(脂質量)の値が大きくなっている。この特性を利用することにより、ラマンスペクトルにおいて、癌か否かを判別する。そのためにも、ラマンスペクトルにおける所定のラマンシフトに表れるラマンバンドの強度を利用する際、少なくともタンパク質に起因して表れるラマンバンドが1つと、少なくとも脂質に起因して表れるラマンバンドが1つ必要になる。こうすることにより、1つのラマンスペクトルにおいて、これらのラマンバンドの強度比を求めることにより、(タンパク質量)/(脂質量)についての指標を数値として算出することができる。そして、測定対象αが、その強度比がある閾値を超えていたら癌である、超えていなかったら癌ではないと判別する。この判別を行うのが、上記の癌判別手段40である。
上記の手法を用いることにより、ある測定対象αに対して少なくとも1つのラマンスペクトルを得ることができれば、その1つのラマンスペクトルのラマンバンドの強度の比(以降、「ラマンバンドの強度比」又は単に「強度比」とも言う。)を算出することにより、測定対象αが癌か否かを判別できる。
ところで、ラマンバンドの強度を求めるための具体的な方法としては、図12に示すようなフィッティング曲線(破線)を使用することが一例として挙げられる。図12においては、測定対象に対する上記の平均ラマンスペクトル(実線)において、1447cm−1ラマンシフトにおけるラマンバンドの面積からラマンバンドの強度を求めている。なお以降、説明の便宜上、例えば1003cm−1ラマンシフトにおけるラマンバンドの強度を、「1003cm−1強度」又は単に「強度」というように短縮化して表現する。
本実施形態におけるフィッティング曲線の作成に用いているガウス関数は、以下のものである。
y(x)=y+A*exp(−((x−x)/W))・・・(1)
但し、y:ラマンバンドの強度
x:ラマンシフト
=3521.3±50.2
A=4894.4±54.6
=1448.3±0.192
W=29.028±0.46
なお、各々の数字は、図12の○から□の範囲において,元のグラフとの差異が最も小さくなるように決定している。
そして、図12におけるプロット上の○と□との間において平均ラマンスペクトルとフィッティング曲線とが重なるようにした上で、フィッティング曲線においてラマンバンドに該当する部分の面積を算出し、その面積に基づいて強度を算出している。そして、複数の所定のラマンシフトにおけるラマンバンドの強度を算出し、それらの強度比を算出する。
なお、「所定のラマンシフト」としては、図3に示すように、1003cm−1、1447cm−1及び1657cm−1が挙げられる。つまり、あるラマンスペクトルからラマンバンドの強度比を取得する際には、1003cm−1、1447cm−1及び1657cm−1のうち少なくとも二つのラマンシフト又はその近傍に表れるラマンバンドの強度比を算出する。なお、1003cm−1ラマンシフトに表れるラマンバンドはタンパク質のみに帰属するものであり、1447cm−1ラマンシフトに表れるラマンバンドはタンパク質と脂質の両方に帰属するものである。1657cm−1ラマンシフトに表れるラマンバンドも、タンパク質と脂質の両方に帰属するものであり、脂質のC=C伸縮振動、及びタンパク質のアミドIモードに帰属するものである。
また、「ラマンバンドに基づいた強度」には、図2、図3、図12に示すようなラマンスペクトルにおいて、凸部となっている各々のラマンバンドにおける積算強度を用いても良いし、ラマンバンドの一部を構成する部分(例えばピーク部分)のみの強度を用いても良い。逆に、ラマンバンドにおいて過剰に突出するピーク部分を除いた部分の積算強度を用いても良い。
本実施形態においては、図12において説明したように、ラマンスペクトルに対して○と□の2点の間でフィッティング関数を用い、積算強度を求めている。そして、各ラマンシフトに表れたあるラマンバンドと、別のラマンシフトに表れた別のラマンバンドとの強度比を算出する。
なお、この強度比の数としては、少なくとも1つの強度比を算出すれば良い。その手法を行う場合、その強度比について、癌か否かの閾値を予め取得しておく。この取得手法としては、後述の実施例に示すように、正常部位及び癌部位における測定対象αを複数用意しておき、各々の測定対象αに対して強度比を取得する。その結果から癌か否かの閾値を決定するという手法が挙げられる。例えば図10においては、(1003cm−1強度)/(1447cm−1強度)の値を横軸とし、測定点の数及び測定対象の数から得られたデータの数(以降、「頻度」とも言う。)を縦軸とした場合のヒストグラム示している。これを、(1003cm−1強度)/(1447cm−1強度)の値が0.20を超えた場合、測定対象αが癌であると判別することも考えられる。
一方、強度比を求める際のラマンシフトの組み合わせにおいてより好ましいのは、1003cm−1ラマンシフト又はその近傍に表れるラマンバンドと1447cm−1ラマンシフト又はその近傍に表れるラマンバンドとの強度比(第1強度比)、及び、1657cm−1ラマンシフト又はその近傍に表れるラマンバンドと1447cm−1ラマンシフト又はその近傍に表れるラマンバンドとの強度比(第2強度比)を求めることである。タンパク質と脂質の両方に帰属するラマンシフトである1447cm−1ラマンシフトにおける強度を、2つの強度比の共通項(分母)として用いている。そのため、第1強度比においては、1003cm−1ラマンシフトがタンパク質のみに帰属することから、(タンパク質量)/(タンパク質量+脂質量)の指標を得ることができる。そして、第2強度比においては、1657cm−1ラマンシフトがタンパク質及び脂質の両方に帰属することから、(タンパク質量+脂質量)/(タンパク質量+脂質量)(但し分子と分母とでは、ラマンバンドを発生させる要因となる帰属対象が異なる。)の指標を得ることができる。そして図11(後述の実施例)に示すように、各々の強度比をX軸及びY軸とし、2次元プロットを行うことにより、仮にX軸((1003cm−1強度)/(1447cm−1強度)即ち(タンパク質量)/(タンパク質量+脂質量))において高い強度比を有し、Y軸((1657cm−1強度)/(1447cm−1強度)即ち(タンパク質量+脂質量)/(タンパク質量+脂質量))において高い強度比を有していると測定対象が癌になってしまっている、というように、強度比を複数とすることにより、更に正確な癌判別を行うことが可能となる。また、X軸及びY軸両方において低い強度比を有している場合には正常な状態が維持されている(癌になっていない)、というような正確な判断も可能になる。それと同様に、X軸及びY軸両方において高い強度比を有している場合には癌になっている、というような正確な判断も可能になる。また、例えば図11において、癌か否かの境界を関数(例えば一次関数(以降、「判別直線」とも言う。)やROC曲線等)で表現しても良い。判別直線を用いる場合、判別直線よりも下方にあれば正常、上方にあれば癌となっている、という判別を行っても良い。また、ROCを用いて、2次元プロットを図表化することにより癌判別を行っても良く、その結果をラマン分光測定装置における表示手段に表示しても良い。
なお、癌か否かの境界を表現する関数は、測定データが記録手段45等に追加的に蓄積される度に、追加分の測定データを反映させながら更新していくのが好ましい。こうすることにより、測定データの数が増加することから、癌か否かの境界の精度が向上していく。更に、誤った測定データが当初は記録手段45等に記録されていたとしても、正しい測定データの量が増加することにより、癌か否かの境界の精度が向上していく。また、癌か否かの境界を表現する関数が予め存在すれば、追加的に測定データを蓄積する前に、明らかに誤った測定データか否かの判別も容易になる。その結果、誤った測定データを記録手段45等に記録する前に排除することも可能になり、癌か否かの境界の精度は更に向上することになる。更に、誤った測定データを記録手段45等に記録した後においても、誤った測定データを削除することも可能となり、誤った測定データが測定結果に反映され続けるのを防止することができる。例えば、癌か否かの境界を表現する関数をある程度の数の患者に共通して用意しておき、生体元又は検体元となる特定の患者における測定データを蓄積し続けることにより、徐々に当該患者にカスタマイズされた当該境界を表す関数を精度よく得ることができる。
また、測定対象αが患者の生体である場合、癌か否かの境界を表現する関数は患者によって個人差が存在する。そこで、ある患者の測定データ等を記録手段45等に蓄積していれば、その患者に対して癌か否かを判別するのに最適な関数(いわばその患者に応じてカスタマイズされた境界)を取得することも可能となる。
しかも本実施形態ならば、測定データの蓄積による関数の更新を測定と共にリアルタイムに行うことも可能である。つまり、患者に対して癌判別を行っている最中、又は手術中であっても、生体に対して癌か否かの判断を行いつつリアルタイムに癌か否かの境界の精度を向上させることも可能となる。
なお、本実施形態においては「ラマンシフトの近傍」と表現しているが、例えば1003cm−1ラマンシフトに表れるラマンバンドは、原則的には確かに1003cm−1ラマンシフトに不変的に表れることになる。しかしながら、1003cm−1ラマンシフトのみにピークが表れるわけではなく、実際にはその前後のラマンシフトにおいても一定の強度を有するラマンスペクトルが得られる。そのため、1003cm−1ラマンシフトのみならず、そのラマンシフトと近い数値のラマンシフトの強度のことも本発明の概念に含むべく「ラマンシフトの近傍」と表現している。
以上、本実施形態におけるラマン分光測定装置を用いた癌判別のメカニズムについて述べた。以下、具体的に癌判別を行う手順について説明する。癌判別を行う手順は大きく分けて、「測定」及び「解析及び判別」に分けられる。「測定」については<3.測定の際の操作の手順>にて詳述する。そして、「解析及び判別」については<4.測定により得られた測定データの解析及び癌か否かの判別の手順>にて述べる。
<3.測定の際の操作の手順>
上述した構成のラマン分光測定装置における測定の際の操作の手順について説明する。特に記載がない処理については、公知の技術を用いても構わない処理である。
図7は、ラマン分光測定装置における測定の際の操作の手順の概要を示すフローチャートである。
まず、癌判別手段40における操作手段42によって、ラマン分光測定装置に電源を入れる(ステップ11、以下ステップを「S」と略す)。以降、特記がなければ、癌判別手段40におけるコンピュータ部41によって、以降の操作(並びにデータ解析及び癌か否かの判別)を制御する。つまり、以降のステップの主体は、特記が無い限りコンピュータ部41によって行う例を挙げる。
なお、近赤外光検出器31については、光路の真空化を行う必要がある。そのため、S11の際に、図示しない真空ポンプを作動させ、近赤外光検出器31における光路の真空化を行う。それと共に、近赤外光検出器31における受光素子の冷却を開始する。なお、この冷却には、例えば近赤外光検出器31内にあるペルチェ素子等を用いても良い。
次に、測定準備が完了したか否かを判断する(S12)。この判断においては、近赤外光検出器31からコンピュータ部41に送信される真空状況と受光素子の温度状況とを勘案する。準備完了との判断が出れば、次のステップ(S13)に進む。一方、準備が未だ完了していないと判断されれば、真空状況と受光素子の温度状況が適切になるまで待機する。
測定準備が完了した後、今度は、測定に必要な較正データが取得済みか否かを判断する(S13)。なお、ここで言う「較正データ」とは、分光器30と近赤外光検出器31との関係を把握しておくためのデータである。具体的に言うと、「近赤外光検出器31の、どの受光素子に、どの波数が対応しているのか」について明らかにしておくことを言う。較正データが取得済みとの判断が出れば、較正データの取得(S14)を省略し、測定対象に対する測定(S15)へと進む。この省略が可能な場合としては、例えば本実施形態のように筐体1内にレーザ光源等を一体化して収納しており、同じく収納されている記録手段45に、以前に取得された較正データが記録されている場合が挙げられる。その場合、コンピュータ部41を介して記録手段45から当該較正データを参照し、測定対象に対する測定(S15)においてその較正データを使用する。なお、筐体1内の記録手段45でなくとも、サーバ装置70や外付記録手段80に較正データを記録しておいても構わない。以降、これらの記録手段をまとめて、「記録手段45等」とも言う。
一方、較正データが未だ取得されていないと判断されれば、較正データの取得(S14)へと進む。
較正データの取得(S14)においては、演算手段44を用いて波長較正を行うことにより、較正データを取得する。この波長較正は、公知の方法を行えば良い。なお、較正データを得る際には、波数等が既知であるラマンスペクトルを出す物質などをキャリブレーション材料として用いれば良い。
次に、測定対象に対する測定を行う(S15)。測定対象に対する測定(S15)の具体的な手法としては、<1.ラマン分光測定装置の構成><2.ラマン分光測定装置の作用(ラマン分光測定方法)>でも述べたところであるが、更なる詳細については、全体のステップであるS11〜S18を説明した後、別途詳述する。
本実施形態においては、1つの測定対象に対し複数の測定点にて測定を行う。更に、別の測定対象に対し複数の測定点にて測定を行う。このようにして、測定対象に対して測定を行う。なお、この測定にて取得された測定データについても記録手段45等に記録しておくのが好ましい。測定対象に対する測定(S15)を一通り行った後、全ての測定対象及び測定点に対して測定が終了したか否かを判断する(S16)。測定終了との判断が出れば、次のステップ(S17)に進む。一方、測定が未だ終了していないと判断されれば、再度、測定対象に対する測定(S15)を行う。そして、測定が終了するまでこのサイクルを繰り返す。
測定終了との判断が出ると、次に、波長較正の確認を行うか否かを決定する(S17)。波長較正の確認が不要である場合は、次のステップに進み、癌判別手段40における操作手段42によって、ラマン分光測定装置の電源を切る(S18)。一方、波長較正の確認を行う場合は、「波長較正」が正しい状態のままか否かの確認を行う(S14’)。なお、較正の確認方法としては、S14と同様の方法を採用しても構わず、キャリブレーション材料を用いて較正データの取得を行っても構わない。なお万一、ここで得られた較正データが測定結果に大きく影響を与える場合は、波長較正を再度行う。その上で、ラマンスペクトルのデータの修正を行うことが可能ならば、演算手段44を用いてラマンスペクトルのデータを修正した後、修正後のラマンスペクトルのデータを記録手段45等に保存した後、ラマン分光測定装置の電源を切る(S18)。ラマンスペクトルのデータの修正を行うことが不可能ならば、較正データの取得(S14)や測定対象に対する測定(S15)を再度行う。そして最終的に、適切なラマンスペクトルのデータが得られるまで上記のサイクルを繰り返し、ラマン分光測定装置の電源を切る(S18)。
以下、測定対象に対する測定(S15)についての詳細を、図8を用いて説明する。なお、以下に述べる詳細は、較正データの取得(S14)についても当てはまる。図8は、図7におけるS14の手順の詳細を示すフローチャートである。
測定に先立ち、ファイバープローブ50と測定対象αとの位置あわせを行う(S1501)。更に詳しく言うと、ファイバープローブ50の先端を、測定対象αにおける測定点へと向ける。
位置あわせ(S1501)終了後、操作手段42により測定の開始に関する入力を行う(S1502)。具体的に言うと、表示手段43に表示された測定開始ボタンを操作手段42(マウス)にてクリックする。なお、この時点で測定回数や測定時間について操作手段42を介して予めコンピュータ部41に入力しておいても構わない。また、測定中に測定回数や測定時間について操作手段42を介して予めコンピュータ部41に入力しても構わない。
こうして測定が開始されると、まず、レーザ光源10から照射されたレーザが、導光光学系11を介して測定対象の測定点に対し、所定の条件で照射される(S1503)。この所定の条件は、最終的にラマンスペクトルを適切に取得でき、ラマンバンドの各々に基づいた強度の比が得られる条件であれば、任意の条件で構わない。所定の条件の一例としては、10kHzにてパルス発光させ、その際のパルス幅を100nsec(ナノ秒)とした上で、レーザ照射を10秒間行う。
レーザ照射(S1503)を行う際、その照射により生じたラマン分光をファイバープローブ50で受光し、分光器30及び近赤外光検出器31へとラマン分光が伝送される(S1504)。なおその際、照射光カットフィルターを別途設けても良い。こうすることにより、照射光における直接反射光が分光器30に入射するのを抑制することが可能となる。
その後、レーザ照射を停止する(S1505)。そして、S1504にて得られたラマン分光に関する仮データを、記録手段45等に記録する(S1506)。この記録は一時的なものであっても構わない。
レーザ照射〜記録手段45等への記録(S1503〜S1506)を所定の回数(X回)(例えば6回)、繰り返す。そして、上記のサイクルを6回行ったか否かを判断する(S1507)。6回行ったとの判断が出れば、次のステップ(S1508)に進む。一方、6回行っていないと判断されれば、6回に至るまで、上記のサイクルを繰り返す。
なお、本実施形態における「所定の回数」は、所定の回数の数だけ得られたラマン分光に関する仮データから、適切なラマンスペクトル、ひいてはラマンバンドの各々に基づいた強度の比が適切に得られる程度の回数であれば良い。以降、本明細書における「所定の回数」は、ラマンバンドの各々に基づいた強度の比が適切に得られる程度の回数を意味する。結局のところ、「所定の回数」は、種々のデータにおいて、所定の回数に応じた個数の仮データを取得し、その後、加算平均等の算出処理により正式データを取得する際に必要となる回数のことを指す。本実施形態においては、上述の通り、所定の回数(X回)を6回と定めている。そして、S1506にて記録された、ラマン分光に関する6個の仮データを、演算手段44を用いて加算平均し、1つの正式データにする(S1508)。そして、この1つの正式データを記録手段45等に正式に記録する(S1509)。この1つの正式データから、ある測定点におけるラマンスペクトルを取得する。
以上のステップにより、1つの測定点における測定を終了する(S1510)。本実施形態においては、1つの測定点における測定に要する時間は1分間としている。
そして、別の測定点又は別の測定対象に対して測定を行う際には、ファイバープローブ50と測定対象αとの位置あわせ(S151)から始まり、以降は上記と同様のステップを行う。そして、測定対象に対する測定(S15)により、測定データを得る。
なお、上記のレーザ照射条件や測定条件は、ラマン分光測定装置の仕様等により、適切な条件が変わる可能性がある。そのため、上記の条件はあくまで一例を示すものである。
<4.測定により得られた測定データの解析及び癌か否かの判別の手順>
次に、測定により得られた測定データの解析及び癌か否かの判別の手順について説明する。特に記載がない処理については、公知の技術を用いても構わない処理である。
図9は、ラマン分光測定装置を用いた測定により得られた測定データの解析及び癌か否かの判別(以降、「解析・判別」とも言う。)の手順の概要を示すフローチャートである。
まず、操作手段42により解析・判別の開始に関する入力を行う(S201)。具体的に言うと、表示手段43に表示された解析・判別の開始ボタンを操作手段42(マウス)にてクリックする。
次に、波長較正に関する較正処理を、測定データを取得する前後又はそのいずれかのタイミングにて行う(S202)。この処理については、上記<3.測定の際の操作の手順>のS14(更にはS1501〜S1510)で述べたとおりである。なお、図9に示すように、この較正処理の際に、記録手段45等に既に記録されていた較正データを参照しても構わない。
次に、未較正の測定データの数に応じた回数(例えば測定対象の数を5つとした場合、それに応じた回数である5回)、較正処理が行われたか否かを判断する(S203)。5回行ったとの判断が出れば、次のステップ(S204)に進む。一方、5回行っていないと判断されれば、5回に至るまで、S202を繰り返す。
次に、ラマンスペクトルにおけるラマンバンドの面積演算を演算手段44にて行う(S204)。この面積演算には、S202により較正された較正済みの測定データが用いられる。
そして、S203と同様に、面積演算が所定の回数(Y回)行われたか否かを判断する(S205)。即ち、所定の回数分の、ラマンバンドの面積に関するデータが取得されたか否かを判断する。なお、上記の所定の回数(Y回)は、15回とする。内訳を言うと、以下の通りである。S203では測定対象の数を5つとしている。また、本実施形態においては、1003cm−1、1447cm−1、1657cm−1という3箇所のラマンシフトにおけるラマンバンドの強度を測定している。つまり、5つの測定対象に対して、3つのラマンシフトにおける強度を測定しているため、所定の回数(Y回)は15回となる。
続いて、15回行ったとの判断が出れば、次のステップ(S206)に進む。一方、15回行っていないと判断されれば、15回に至るまで、S204を繰り返す。
上記のS201〜205により、測定データの解析が行われる。以下、S206〜S210において癌か否かの判別を行う。
面積演算(S204)により得られたラマンバンドの面積データに基づき、複数のラマンバンドに基づいた各々の強度の比を算出する。そして、図11に示すように、縦軸と横軸とで種類の異なる強度比を算出し、それを2次元プロット化する。その際に、癌か否かを判別するための「癌か否かの境界を表す関数」(例えば判別直線)についての情報が既に記録されているのならば、その情報を用い、各面積データに対して(即ち各測定点及び/又は各測定対象に対して)、癌か否かの判別の基となる判別データを演算にて取得する(S206)。
この判別データに基づき、各測定点及び/又は各測定対象が、癌か否かの判別を行う(S207)。もし、正常(非癌)と判定されたのならば、その判別データは正常データとして記録手段45等に蓄積しておく。一方、癌と判定されたのならば、その判別データは癌データとして記録手段45等に蓄積しておく。そしてこれらの判別データは、判別直線を表す関数を更新する際に用いられることになり、判別直線の癌か否かの判別精度を向上させることが可能になる。
癌か否かの判別(S207)が終了した後、コンピュータ部41を介しつつ表示手段43にその2次元プロットを表示する(S208)。なお、この表示は、2次元プロット以外の方法で癌か否か結果を表示してももちろん構わない。例えば、癌か否かを各測定点及び/又は各測定対象に対する判別データを色分けして表示しても構わないし、表示手段43において画像表示するかわりに、ブザー音や音声により、癌か否かを判別できるような構成を設けても構わない。
そして、S203と同様に、癌か否かの判別が所定の回数(Z回)(例えば5回)行われたか否かを判断する(S209)。5回行ったとの判断が出れば、解析・判別を終了する処理を行う(S210)。一方、5回行っていないと判断されれば、所定の回数に至るまで、S206〜S208を繰り返す。
なお、本実施形態における回数に関する記載は、あくまで良好な判別結果が得られるようにするための回数であれば良く、その具体的な回数は任意のものであっても構わない。また、良好な判別結果が得られるようにするために、回数をカウントする以外の方法を採用しても良い。例えば、処理済みの元データにはフラグを立てておき、フラグの無い元データが無くなるまで処理を繰り返す、といった手段などを用い、ループ処理を進めても良い。
本実施形態においては、以上のステップを、ラマン分光測定プログラムにより行っている。具体的に言うと、コンピュータ装置を、上記の各工程を行うための手段(例えば測定手段や判別手段)として機能させるプログラムである。なお、判別手段においては、ラマンスペクトルにおけるラマンバンドであって、所定のラマンシフトに表れる複数のラマンバンドに基づいた各々の強度の比から、測定対象が癌か否かを判別する。
<5.実施の形態による効果>
本実施形態によれば、癌となることにより測定対象内にて脂質が減少していることに着目した上で、タンパク質や脂質に起因する複数のラマンバンドの強度を求め、このラマンバンドの強度の比を得ることにより、ラマンスペクトルから得られる分子構造情報を数値化することにより、測定対象が癌か否かを客観的且つ迅速に判別することができる。
<6.変形例>
本実施形態においては、測定対象として、患者の体から切除した部分(即ち検体)を選択した。その一方、測定対象として、患者の体内そのもの(即ち生体)を選択しても良い。この場合、検査中や手術中においてもリアルタイムにラマン分光測定を用いることができる。そうなると、患部が癌か否かの判別が手術中においてもリアルタイムで可能になる。
それに関係して、本発明が適用可能な用途としては、上述の通り、手術中における診断(術中診断)が挙げられる。これにより、癌部位を切除し、癌部位の取り残しのおそれを軽減することができる。また、正常部位は誤って切除せずとも済むため、非侵襲的に手術を終えることが可能となり、術者のみならず患者の負担も著しく軽減される。
また、他の用途としては、スクリーニング(健康診断)が挙げられる。これにより、生体を検査中に、被験者が癌か否かの判別をスクリーニングすることが可能となる。なお、このスクリーニングにおいては、癌である可能性のある被験者を判別できれば良い。癌の疑いがある被験者に対して、後で、精密検査を行えば良い。仮に、本実施形態で述べたラマン分光測定装置が100%の精度を誇るものでなく、上記装置により被験者が癌である(陽性)と判断される一方、精密検査を行った結果癌でない(偽陽性)と最終判断されるというケースが存在したとしても、健康診断において上記装置を使用することにより、少なくとも癌である可能性のある被験者をスクリーニングすることができる。なお、従来の内視鏡像では白色光を使用しているため、凹凸の少ない平坦病変は見逃されるおそれがある。そのため、まずは本実施形態のラマン分光測定装置により被験者に対してスクリーニングを行い、癌である疑いのある被験者をピックアップすることも可能となる。
以上の通り、本実施形態のラマン分光測定装置ならは、内視鏡像だと見逃されるような病変であっても精度良く癌か否かの判別が可能となり、被験者が癌か否かの早期発見にも寄与する。
また、本実施形態においては、測定対象の主成分がタンパク質及び脂質である場合、即ちタンパク質及び脂質の存在量がトレードオフの関係となっている例について述べている。その一方、タンパク質及び脂質以外に多くの物質が測定対象に含まれていたとしても、癌部位におけるタンパク質が正常部位に比べて増加していることを把握できれば、上述のように正常・癌部位の区別が得られる可能性もある。
また、本実施形態においては、測定対象に対して1つのラマンスペクトルを取得し、そのラマンスペクトルに表れた複数のラマンバンドの強度比から癌か否かを判別したが、測定対象に対して複数のラマンスペクトルを取得しても構わず、このラマンスペクトルの平均をとり、その平均ラマンスペクトルに対して、ラマンバンドの強度比を算出しても良い。
また、本実施形態においては、ラマンスペクトルにおけるラマンバンドの強度比を用いた場合について述べた。その一方、図2を見れば明らかなように、正常部位のスペクトルでは、癌部位に比べて、全体的にラマンスペクトルにおけるベースラインの上昇が見られる。これは、測定対象からの自家蛍光によるものと考えられる。そのため、ラマン分光以外にも、蛍光強度の違いによっても正常・癌部位の区別が得られる可能性もある。
更に、本実施形態においてはラマンバンドの強度を求める際のフィッティング関数としてガウス関数を用いたが、ローレンツ関数のように他の関数を用いても構わない。もちろん、ガウス関数とローレンツ関数とを組み合わせたフォークト関数を用いても構わない。
なお、先に述べた図12は、一つのラマンバンドの強度を求めるために、単一関数によるフィッティング曲線を用いている。これに対し、後述の図16に示すように、複数のラマンバンドの強度を求めるために基準線(点線であり直線)を設ける手法を用いても構わない。しかしながら、後述の実施例1〜3に示すように、基準線を設けた場合の強度の求め方(実施例3)よりも、単一関数によるフィッティング曲線を用いた方(実施例1〜2)が、感度及び特異度は向上している。そのため、本実施形態においては、ラマンバンドに基づいた強度を求める際に、単一関数によるフィッティング曲線を用いるのが好ましい。
また、本実施形態のラマン分光測定装置においては、筐体1内にレーザ光源10等を収納したが、レーザ光源10等の一部又は全部を筐体1外に配置してももちろん構わないし、筐体1を設けなくとも構わない。また、ラマン分光測定装置を構成するものの一部又は全部を筐体1の内外に配置してももちろん構わない。
また、本実施形態において癌判別手段40はユーザ装置に配置されていた。その一方、癌判別手段40をサーバ装置70に配置しても構わない。そして、コンピュータ部41なり別途制御手段なりコンピュータ装置をサーバ装置70に設け、コンピュータ装置を介し、測定対象が癌か否かを判別しても構わない。具体例を挙げると、ユーザ装置において測定されたラマンスペクトルに関するデータをサーバ装置70に送信し、上記ラマンスペクトルにおけるラマンバンドであって、所定のラマンシフトに表れる複数のラマンバンドに基づいた各々の強度の比から、測定対象が癌か否かをサーバ装置70の判別手段にて判別し、その判別の結果を上記ユーザ装置に送信しても構わない。そして、上記のコンピュータ装置を介してそれを行っても構わない。こうすることにより、ラマン分光測定を行うユーザ装置自体が従来のものであったり、ラマン分光測定プログラムがユーザ装置にインストールされていない場合であったりしても、測定対象における癌か否かの情報を測定者は入手することが可能になる。
なお、上記のラマン分光測定プログラムが格納された、コンピュータ装置等により読み取り可能な記録媒体(例えばCD、DVD、ブルーレイディスク、USBメモリ等々)についても、上記の技術的特徴を備えており、上記の効果を奏する。
次に実施例を示し、本発明について具体的に説明する。もちろん本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
本実施例においては、図1に示すラマン分光装置を用い、測定対象αに対して測定を行った。分光装置についてより詳しく言うと、波長1064nmで励起するファイバープローブ型のラマン分光装置を用いた。なお、測定対象αを測定する位置での励起光強度は40mWとし、レーザ照射時間は1分とし、1つの測定対象αに対してスペクトルを得た。
また、測定対象αとしては、大腸癌摘出手術で得られた生検体を用いた。なお、血液の影響を回避するため、検体表面に付着した血液をふき取った上で、その他の処理をせず、測定対象αを生体から摘出した後2時間以内に測定を終えた。測定の際は、生検体の中で癌部位、正常部位それぞれにおいてランダムに測定点を選び、ラマンスペクトルを取得した。正常部位の測定では、癌部位から1cm以上十分に離れ、明らに正常と思われる位置から測定点を選んだ。この測定を、25の測定対象に対し行った。そして最終的に、測定点としては合計で、癌部位80点、正常部位60点からのラマンスペクトルを得た。また、得られた測定結果に対して、病理診断の結果を考慮し、以下のような解析を行った。
まず、今回の25の測定対象からの測定で得られた正常部位、癌部位それぞれの平均ラマンスペクトルを図2に示す。正常部位のスペクトルでは、癌部位に比べて全体的にベースラインの上昇が見られる。これは、測定対象αからの自家蛍光によるものと考えられ、蛍光強度の違いによっても正常・癌部位の区別が得られる可能性もある。一方、ラマンバンドの比較では、正常・癌部位どちらかのみに現れるなどの顕著なマーカーバンドの存在は見られなかった。
そして、タンパク質のみに帰属される1003cm−1のラマンバンド、及びタンパク質・脂質両方に帰属される1447cm−1のラマンバンドに着目し、それぞれのバンド強度比(1003cm−1強度)/(1447cm−1強度)を、今回得られた全てのスペクトルにおいて算出した。なお、その際には、実施の形態で述べたようなガウス関数を用いてフィッティング曲線を形成することにより、バンド強度を求めた(図12)。この値の分布をとった結果(ヒストグラム)を図10に示す。この結果から、強度比の値の分布において、正常部位、癌部位の間で違いが見られることが確認された。
同様に、脂質のC=C伸縮振動、及びタンパク質のアミドIモードに帰属される1657cm−1のラマンバンドにも着目し、ラマンバンドの強度比(1657cm−1強度)/(1447cm−1強度)を算出すると、こちらもその分布に有意な差が見られた。これらラマンバンドにおける2種類の強度比を用いると、図11のような2次元プロットが得られた。2つの指標を用いることで、よりはっきりと正常・癌部位の区別が可能となった。図11に示す直線をカットオフとして正常・癌を区別すると、今回の測定結果では感度89%、特異度89%という結果が得られ、ラマンスペクトルから得られる分子構造情報を数値化することにより、測定対象αが癌か否かを客観的且つ迅速に判別することが可能となった。
(実施例2)
本実施例においては、実施例1における測定対象数及び測定点の数を増加させた。具体的に言うと、測定対象数は26とし、測定点は154とし、測定対象数及び測定点を増加させた。そして、バンド強度比(1003cm−1強度)/(1447cm−1強度)、及び、強度比(1657cm−1強度)/(1447cm−1強度)を、今回得られた全てのスペクトルにおいて算出した。なお、本実施例においては、癌か否かの境界を表現する関数は、追加分の測定データを反映させながら更新している。具体的に言うと、測定初期に取得された測定データであって、測定の精度の向上を妨げるおそれのある測定データを取り除く処理を行った。それと同時に、新たな測定データを追加し、判別精度の向上を図りながら本実施例を行った。
本実施例の結果について、実施例2におけるヒストグラムを図13に示す。なお、図13は、実施例1の図10に対応する。
ラマンバンドにおける2種類の強度比を用い、図14のような2次元プロットを得た。なお、図14は、実施例1の図11に対応する。図14に示す直線をカットオフとして正常・癌を区別すると、正常と判別された数は73、癌と判別された数は81であった。そして、感度93%、特異度94%という非常に良好な結果が得られた。つまり、測定対象数及び測定点の数を増加させつつ、単一関数によるフィッティング曲線を用いることにより、測定対象αが癌か否かを更に正確に判別することが可能となった。
なお、実施例1と同様、実施例2においてもガウス関数を用いてフィッティング曲線を形成することにより、バンド強度を求めている。その様子を図15に示す。なお、図15は、実施例1の図12に対応する。
(実施例3)
本実施例においては、実施例1におけるバンド強度の求め方を、実施の形態で例示したように、基準線を用いる方法へと変更した。今回の測定で得られた正常部位、癌部位それぞれの平均ラマンスペクトルを図16に示す。但し、図16においては測定対象が正常の場合(破線)及び測定対象が癌の場合(実線)の平均ラマンスペクトル各々のベースラインの差を解消している。また、グラフの下部のラマンバンド(点線)は、ラマンバンド発生に起因しているラマンシフトごとに、平均ラマンスペクトルのラマンバンド各々を分離したものを示す。そしてこの分離したラマンバンドの面積を算出した。そして、バンド強度比(1003cm−1強度)/(1447cm−1強度)、及び、強度比(1657cm−1強度)/(1447cm−1強度)を、今回得られた全てのスペクトルにおいて算出した。ラマンバンドに関する2種類の強度比を用い、図17のような2次元プロットを得た。図17に示す直線をカットオフとして正常・癌を区別すると、感度86%、特異度86%という良好な結果が得られた。
以下、本発明の別の態様について付記する。
[付記1]
ラマンスペクトルにおけるラマンバンドであって、所定のラマンシフトに表れる複数のラマンバンドに基づいた各々の強度の比から、測定対象が癌か否かを判別する判別手段を有することを特徴とするラマン分光測定システム。
但し、前記複数のラマンバンドのうち、一つのラマンバンドは少なくともタンパク質に起因して表れるものであり、別のラマンバンドは少なくとも脂質に起因して表れるものである。
[付記2]
ユーザ装置において測定されたラマンスペクトルに関するデータをサーバ装置に送信し、前記ラマンスペクトルにおけるラマンバンドであって、所定のラマンシフトに表れる複数のラマンバンドに基づいた各々の強度の比から、測定対象が癌か否かを前記サーバ装置の判別手段にて判別し、その判別の結果又はその結果の基となるデータを前記ユーザ装置に送信することを特徴とするラマン分光測定システム。
但し、前記複数のラマンバンドのうち、一つのラマンバンドは少なくともタンパク質に起因して表れるものであり、別のラマンバンドは少なくとも脂質に起因して表れるものである。
1…筐体、10…レーザ光源、11…導光光学系、13…集束レンズ、15…ハーフミラー、16…ファイバー、21…集光光学系、30…分光器、31…近赤外光検出器、40…癌判別手段、41…コンピュータ部、42…操作手段、43…表示手段、44…演算手段、45…記録手段、50…ファイバープローブ、60…通信回線、70…サーバ装置、80…外付記録手段、α…測定対象

Claims (8)

  1. ラマンスペクトルにおけるラマンバンドであって、所定のラマンシフトに表れる複数のラマンバンドに基づいた各々の強度の比から、測定対象が癌か否かを判別する判別手段を有することを特徴とするラマン分光測定装置。
    但し、前記複数のラマンバンドのうち、一つのラマンバンドは少なくともタンパク質に起因して表れるものであり、別のラマンバンドは少なくとも脂質に起因して表れるものである。
  2. 前記強度の比は、1003cm−1、1447cm−1及び1657cm−1のうち少なくとも二つのラマンシフト又はその近傍に表れるラマンバンドの強度比であることを特徴とする請求項1に記載のラマン分光測定装置。
  3. 前記強度の比は、1003cm−1ラマンシフト又はその近傍に表れるラマンバンドと1447cm−1ラマンシフト又はその近傍に表れるラマンバンドとの強度比、及び、1657cm−1ラマンシフト又はその近傍に表れるラマンバンドと1447cm−1ラマンシフト又はその近傍に表れるラマンバンドとの強度比であることを特徴とする請求項2に記載のラマン分光測定装置。
  4. 癌か否かに関する判別データが前記判別手段により取得され、前記判別データによって、癌か否かの境界を表す関数が更新されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のラマン分光測定装置。
  5. 前記強度は、単一関数によるフィッティング曲線を用いて求められることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のラマン分光測定装置。
  6. ラマンスペクトルにおけるラマンバンドであって、所定のラマンシフトに表れる複数のラマンバンドに基づいた各々の強度の比から、測定対象が癌か否かを判別する判別手段としてコンピュータ装置を機能させることを特徴とするラマン分光測定プログラム。
    但し、前記複数のラマンバンドのうち、一つのラマンバンドは少なくともタンパク質に起因して表れるものであり、別のラマンバンドは少なくとも脂質に起因して表れるものである。
  7. 癌か否かに関する判別データが前記判別手段により取得され、前記判別データによって、癌か否かの境界を表す関数が更新されることを特徴とする請求項6に記載のラマン分光測定プログラム。
  8. 請求項6又は7に記載のラマン分光測定プログラムを格納した記録媒体。
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