以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。
〔インクジェット記録装置の全体構成〕
図1は本実施形態に係るインクジェット記録装置の外観斜視図である。このインクジェット記録装置10は、紫外線硬化型インク(UV硬化インク)を用いて記録媒体12上にカラー画像を形成するワイドフォーマットプリンタである。ワイドフォーマットプリンタは、大型ポスターや商業用壁面広告など、広い描画範囲を記録するのに好適な装置である。ここでは、A3ノビ以上に対応するものを「ワイドフォーマット」と呼ぶ。
インクジェット記録装置10は、装置本体20と、この装置本体20を支持する支持脚22と、を備えている。装置本体20には、記録媒体(メディア)12に向けてインクを吐出するドロップオンデマンド型のインクジェットヘッド24と、記録媒体12を支持するプラテン26と、ヘッド移動手段(走査手段)としてのガイド機構28及びキャリッジ30が設けられている。
ガイド機構28は、プラテン26の上方において、記録媒体12の搬送方向(X方向)に直交し且つプラテン26の媒体支持面と平行な走査方向(Y方向)に沿って延在するように配置されている。キャリッジ30は、ガイド機構28に沿ってY方向に往復移動可能に支持されている。キャリッジ30には、インクジェットヘッド24が搭載されるとともに、記録媒体12上のインクに紫外線を照射する仮硬化光源(ピニング光源)32A、32Bと、本硬化光源(キュアリング光源)34A、34Bとが搭載されている。
仮硬化光源32A、32Bは、インクジェットヘッド24から吐出されたインク滴が記録媒体12に着弾した後に、隣接液滴同士が合一化しない程度にインクを仮硬化させるための紫外線を照射する光源である。仮硬化光源32A、32Bから紫外線が照射されたインクは、着弾干渉を回避するものの、ドット展開がされる(十分に広がることができる)程度に仮硬化する。
本硬化光源34A、34Bは、仮硬化後に追加露光を行い、最終的にインクを完全に硬化(本硬化)させるための紫外線を照射する光源である。本硬化光源34A、34Bは、記録媒体12上のインクに仮硬化光源32A、32Bから紫外線を照射した後の追加露光を行い、最終的にインクを完全に硬化(本硬化)させるための紫外線を照射する光源である。
キャリッジ30上に配置されたインクジェットヘッド24、仮硬化光源32A、32B及び本硬化光源34A、34Bは、ガイド機構28に沿ってキャリッジ30とともに一体的に(一緒に)移動する。キャリッジ30の往復移動方向(Y方向)が「主走査方向」、記録媒体12の搬送方向(X方向)が「副走査方向」に相当する。
記録媒体12には、紙、不織布、合成化学繊維、ポリ塩化ビニル(PVC)、ターポリン、ポリエチレンテレフタレート(PET)など、材質を問わず、また、浸透性媒体、非浸透性媒体を問わず、様々な媒体を用いることができる。記録媒体12は、装置の背面側からロール紙状態(図2参照)で給紙され、印字後は装置正面側の巻き取りロール(図1中不図示、図2の符号52)に巻き取られる。プラテン26上に搬送された記録媒体12に対して、インクジェットヘッド24からインク滴が吐出され、記録媒体12上に付着したインク滴に対して仮硬化光源32A、32B、本硬化光源34A、34Bから紫外線が照射される。
図1において、装置本体20の正面に向かって左側の前面に、インクカートリッジ36の取り付け部38が設けられている。インクカートリッジ36は、紫外線硬化型インクを貯留する交換自在なインク供給源(インクタンク)である。インクカートリッジ36は、本例のインクジェット記録装置10で使用される各色インクに対応して設けられている。色別の各インクカートリッジ36は、それぞれ独立に形成された不図示のインク供給経路によってインクジェットヘッド24に接続される。各色のインク残量が少なくなった場合にインクカートリッジ36の交換が行われる。
また、図示を省略するが、装置本体20の正面に向かって右側には、インクジェットヘッド24のメンテナンス部が設けられている。該メンテナンス部は、非印字時におけるインクジェットヘッド24を保湿するためのキャップと、インクジェットヘッド24のノズル面(インク吐出面)を清掃するための払拭部材(ブレード、ウエブ等)が設けられている。インクジェットヘッド24のノズル面をキャッピングするキャップは、メンテナンスのためにノズルから吐出されたインク滴を受けるためのインク受けが設けられている。
〔記録媒体搬送路の説明〕
図2は、インクジェット記録装置10における記録媒体搬送路を模式的に示す説明図である。図2に示すように、プラテン26は逆樋状に形成され、その上面が記録媒体12の支持面(媒体支持面)となる。プラテン26の近傍における記録媒体搬送方向(X方向)の上流側には、記録媒体12を間欠搬送するための記録媒体搬送手段である駆動側送りローラ40と、従動側送りローラ42とが配設されている。
駆動側送りローラ40は、図示しないモータによって回転駆動可能に構成された金属などの硬質の素材で形成されたローラ部材である。また、従動側送りローラ42は、駆動側送りローラ40と対向するように配置されたローラ部材である。
図3は、インクジェット記録装置10の従動側送りローラ42近傍の外観斜視図である。同図に示すように、インクジェット記録装置10は、3つの従動側送りローラ42を回転自在に支持するローラ支持部材44を複数備えている。
図4は、従動側送りローラ42の外観斜視図である。同図に示すように、従動側送りローラ42は、外径が均一の円筒形状を有するゴム等の弾性部材42aと、弾性部材42aの外周を被覆した疎水部材42bとから構成されている。
従動側送りローラ42は、記録媒体12の送り精度を保つという観点から、記録媒体12に高いニップ圧を均一に付与しなくてはならない。このため、弾性部材、特にゴム部材が適しており、かつ表面粗さが記録媒体12に傷を与えない程度に大きいことが望ましい。
しかし、ゴム部材は石油系の不純物を含んでいるため、上述のように記録媒体12の表面に不純物を転写したり、記録媒体12から水分や油分を取り除くことが発生する。したがって表面部材としては適切でない。
そこで、本実施形態では、従動側送りローラ42を、弾性部材42aと疎水部材42bとの二層構造で構成している。
弾性体42aは、硬度が小さすぎる(柔らかすぎる)と永久ひずみが発生し、ニップによって形状が完全に変形してしまう。また、硬度が大きすぎる(硬すぎる)と、十分なニップ幅を確保できず、搬送の安定性を確保することができない。これらを鑑みて、弾性部材42aとしては、硬度が30°〜70°のゴムを用いることが好ましい。
また、疎水部材42bとしては、表面張力が100mN/m以下の部材を用いることができる。ここでは、従動側送りローラ42は、円筒形状のゴムの表面を薄肉のテフロンチューブにより被覆することで形成されている。
軸46は、ローラ指示部材44に対して圧入や接着剤などにより両端が固定されている。一方で、軸46は、従動側送りローラ42が回転可能となるように、弾性部材42aの中心孔に挿入されている。
ローラ支持部材44は、図示しない付勢手段により、駆動側送りローラ40に対して所定のニップ荷重を付与可能に構成されている。これにより、駆動側送りローラ40と従動側送りローラ42に所定のニップ圧が付与される。
このように、駆動側送りローラ40と従動側送りローラ42とにより、一対のニップローラを構成している。記録媒体12は、駆動側送りローラ40と従動側送りローラ42との間に挟持され、所定のニップ圧でニップされ、プラテン26上の記録媒体搬送方向へ搬送される。
記録媒体12の表面(記録面)には、従動側送りローラ42の疎水部材42bが接触する。従動側送りローラ42の接触面に疎水かつ表面エネルギーが低い物性を有する部材を用いることで、記録媒体12に転写される微量な不純物が、基材と大きく違わないこととなる。
図2の説明に戻り、ロール・ツー・ロール方式の媒体搬送手段を構成する供給側のロール(送り出し供給ロール)50から送り出された記録媒体12は、印字部の入り口(プラテン26の記録媒体搬送方向の上流側)に設けられた駆動側送りローラ40と従動側送りローラ42によって、記録媒体搬送方向に間欠搬送される。インクジェットヘッド24の直下の印字部に到達した記録媒体12は、インクジェットヘッド24により印字が実行され、印字後に巻き取りロール52に巻き取られる。
印字部においてインクジェットヘッド24と対向する位置にあるプラテン26の裏面(記録媒体12を支持する面と反対側の面)には、印字中の記録媒体12の温度を調整するための温調部54が設けられている。印字時の記録媒体12が所定の温度となるように調整されると、記録媒体12に着弾したインク液滴の粘度や、表面張力等の物性値が所望の値になり、所望のドット径を得ることが可能となる。なお、必要に応じて、温調部54の上流側にプレ温調部56を設けてもよいし、温調部54の下流側にアフター温調部58を設けてもよい。
〔画像形成部の構成〕
図5は、キャリッジ30上に配置されるインクジェットヘッド24と仮硬化光源32A、32B及び本硬化光源34A、34Bの配置形態の例を示す平面透視図である。
インクジェットヘッド24には、ホワイト(白)インク(W)、マゼンタ(M)、ライトマゼンタ(Lm)、シアン(C)、ライトシアン(Lc)、イエロー(Y)、黒(K)、クリア(透明)インク(CL)の各色のインクごとに、それぞれ色のインクを吐出するためのノズル列61W、61M、61Lm、61C、61Lc、61Y、61K、61CLが設けられている。図5ではノズル列を点線により図示し、ノズルの個別の図示は省略されている。また、以下の説明では、ノズル列61W、61M、61Lm、61C、61Lc、61Y、61K、61CLを総称して符号61を付してノズル列を表すことがある。
インク色の種類(色数)や色の組合せについては本実施形態に限定されない。例えば、Lc、Lmのノズル列を省略する形態、CLやWのノズル列のいずれか一方を省略する形態、メタルインクのノズル列を追加する形態、Wのノズル列に代わりメタルインクのノズル列を具備する形態、特別色のインクを吐出するノズル列を追加する形態などが可能である。また、色別のノズル列の配置順序も特に限定はない。ただし、複数のインク種のうち紫外線に対する硬化感度の低いインクを仮硬化光源32A又は仮硬化光源32Bに近い側に配置する構成が好ましい。
色別のノズル列61ごとにヘッドモジュールを構成し、これらを並べることによって、カラー描画が可能なインクジェットヘッド24を構成することができる。例えば、イエローインクを吐出するノズル列61Yを有するヘッドモジュール24Yと、マゼンタインクを吐出するノズル列61Mを有するヘッドモジュール24Mと、シアンインクを吐出するノズル列61Cを有するヘッドモジュール24Cと、黒インクを吐出するノズル列61Kを有するヘッドモジュール24Kと、Lc、Lm、CL、Wの各色のインクを吐出するノズル列61Lc、61Lm、61CL、61Wをそれぞれ有する各ヘッドモジュール24Lc、24Lm、24CL、24Wと、をキャリッジ30の往復移動方向(主走査方向、Y方向)に沿って並ぶように等間隔に配置する態様も可能である。色別のヘッドモジュール24M、24Lm、24C、24Lc、24Y、24Kのモジュール群(ヘッド群)を「インクジェットヘッド」と解釈してもよいし、各モジュールをそれぞれ「インクジェットヘッド」と解釈することも可能である。あるいはまた、1つのインクジェットヘッド24の内部で色別にインク流路を分けて形成し、1ヘッドで複数色のインクを吐出するノズル列を備える構成も可能である。
各ノズル列61は、複数個のノズルが一定の間隔で記録媒体搬送方向(副走査方向、X方向)に沿って1列に(直線的に)並んだものとなっている。本例のインクジェットヘッド24は、各ノズル列61を構成するノズルの配置ピッチ(ノズルピッチ)が254マイクロメートル(100dpi)、1列のノズル列61を構成するノズルの数は256ノズル、ノズル列61の全長Lw(ノズル列の全長)は約65ミリメートル(254マイクロメートル×255=64.8ミリメートル)である。また、吐出周波数は15kHzであり、駆動波形の変更によって10ピコリットル、20ピコリットル、30ピコリットルの3種類の吐出液滴量を打ち分けることができる。
詳細は後述するが、本例に示すインクジェット記録装置10の画像記録には、マルチパス方式が適用される。また、マルチパス方式の画像記録に対応して、仮硬化光源32A、32B及び本仮硬化光源32A、32Bの露光制御が行われる。
〔インクジェットヘッドの構造〕
図6(a)は、インクジェットヘッド24のノズル配置を示す平面透視図であり、一色分のノズル列61が一つのヘッドモジュール24を構成する形態として図示されている。同図に示すように、一色分のノズル列61は、副走査方向に沿って1列にノズル70が配置されている。各ノズル70は吐出させるインクが収容される圧力室72(破線により図示)と連通している。なお、図6(b)に示すように、ノズル70を二列の千鳥配置させる態様も可能である。
図7は、インクジェットヘッド24の立体構造を示す断面図であり、1ノズル分(1吐出素子分)の構造が図示されている。本例に適用されるインクジェットヘッド24のインク吐出方式としては、圧電素子(ピエゾアクチュエータ)の変形によってインク滴を飛ばす方式(ピエゾジェット方式)が採用されている。紫外線硬化型インクは、一般に溶剤インクと比べて高粘度であるため、吐出力が比較的大きなピエゾジェット方式が有利である。
なお、圧力室72内のインクを加熱するためのヒータを備え、インクの膜沸騰現象を利用してノズル70からインクを吐出させるサーマル方式を適用することも可能である。
圧力室72は、ノズル流路71を介してノズル70と連通するととともに、供給口(供給絞り)74を介して共通流路76と連通される。共通流路76は、一色分のノズル列61(図6参照)を構成するノズル70のそれぞれに対応する圧力室72と連通して、各圧力室72に対してインクを供給している。
圧力室72の天井面を構成する振動板78は、圧力室72の外側面の圧力室72に対応する位置に圧電素子80が設けられている。圧電素子80は、上部電極82と下部電極84との間に圧電体がはさまれた構造を有しており、上部電極82と下部電極84との間に駆動電圧が供給されるとひずみ変形が生じ、振動板78を変形させる。
すなわち、画像データに応じて圧電素子80へ駆動電圧を供給すると、振動板78が変形して圧力室72の体積を収縮させ、圧力室72の体積減少に対応する量のインクがノズル70から吐出される。圧電素子80への駆動電圧の供給を停止させると、圧電素子80のひずみ変形が復元されるとともに圧力室72が元の形状に復元され、供給口74を介して共通流路76から圧力室72へインクが充填される。
インクジェットヘッド24はノズルプレート70Aのインク吐出面70Bが親液性を有している。親液処理の方法として、ノズルプレート70Aのインク吐出面70Bの少なくとも一部に非撥インク性の層を1層以上形成する方法が挙げられる。
具体的には、インク吐出面70Bの少なくとも一部に、金、ステンレス、鉄、チタン、タンタル、プラチナ、ロジウム、ニッケル、クロム、酸化ケイ素、窒化ケイ素及び窒化アルミニウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種により形成された層を備えることが好ましく、金、ステンレス、鉄、チタン、酸化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウムよりなる群から選ばれた少なくとも1種により形成された層を備えることがより好ましく、金、ステンレス及び酸化ケイ素よりなる群から選ばれた少なくとも1種により形成された層を備えることがさらに好ましく、酸化ケイ素により形成された層を備えることも好ましい。
親液処理方法としては、公知の方法を用いることができ、限定されないが、例えば(1)シリコン製のノズルプレートの表面を熱酸化して酸化ケイ素膜を形成する方法、(2)シリコンやシリコン以外の酸化膜を酸化的に形成する方法、若しくは、スパッタリングにより形成する方法、(3)金属膜を形成する方法、が挙げられる。これらの方法の詳細については、米国特許出願公開第2010/0141709号明細書を参照することができる。
〔インク供給系の説明〕
図8は、インクジェット記録装置10のインク供給系の構成を示すブロック図である。同図に示すように、インクカートリッジ36に収容されているインクは、供給ポンプ90によって吸引され、サブタンク92を介してインクジェットヘッド24に送られる。サブタンク92には、内部のインクの圧力を調整するための圧力調整部94が設けられている。
圧力調整部94は、バルブ96を介してサブタンク92と連通される加減圧用ポンプ97と、バルブ96と加減圧用ポンプ97との間に設けられる圧力計98と、を具備している。
通常の印字時は、加減圧用ポンプ97がサブタンク92内のインクを吸引する方向に動作し、サブタンク92の内部圧力及びインクジェットヘッド24の内部圧力が負圧に維持される。一方、インクジェットヘッド24のメンテナンス時は、加減圧用ポンプ77がサブタンク92内のインクを加圧する方向に動作し、サブタンク92の内部及びインクジェットヘッド24の内部が強制的に加圧され、インクジェットヘッド24内のインクがノズルを介して排出される。インクジェットヘッド24から強制的に排出されたインクは、上述したキャップ(図示せず)のインク受けに収容される。
本例に示すインクジェット記録装置10は、図8に図示したインク供給系において、インクの温度が一定範囲内に保たれるように調整される。インクの温度を一定に保つための構成例として、サブタンク92内のインクの温度や、サブタンク92からインクジェットヘッド24へインクを供給するインク流路に温度センサ及びヒータを備え、温度センサの検出結果に基づきヒータを動作させる態様が挙げられる。
また、インクカートリッジ36からインクジェットヘッド24の間のインクが通過する部分を断熱材で覆い、外部の温度変化の影響を受けないように構成する態様も好ましい。さらに、インクジェットヘッド24の内部にヒータを備え、インクジェットヘッド24の内部で温度管理をする態様も好ましい。
本例に示すインクジェット記録装置では、25℃におけるインク粘度が50ミリパスカル・秒以下となるように調整され、吐出の安定性が確保されている。例えば、インク粘度が3ミリパスカル・秒から15ミリパスカル・秒となるように、インクが25℃から80℃に加熱される。より好ましくは、インク粘度が3ミリパスカル・秒から13ミリパスカル・秒になるように25〜50℃に加熱される。
本実施形態において用いられる紫外線硬化型インクは、概して通常のインクジェット記録装置で使用される水性インクより粘度が高いため、吐出時の温度変動による粘度変動が大きい。インクの粘度変動は、液滴サイズの変化及び液滴吐出速度の変化に対して大きな影響を与え、ひいては画質劣化を引き起こす。したがって、吐出時のインクの温度はできるだけ一定に保つことが必要である。
よって、インクの温度の制御幅は、好ましくは設定温度の±5℃、より好ましくは設定温度の±2℃、さらに好ましくは設定温度±1℃とすることが適当である。なお、インクの温度は、次に説明する制御系によって管理される。
〔制御系の構成〕
図9は、インクジェット記録装置10の制御系の要部構成を示すブロック図である。同図に示すように、インクジェット記録装置10は、制御手段としての制御装置102が設けられている。
制御装置102としては、例えば、中央演算処理装置(CPU)を備えたコンピュータ等を用いることができる。制御装置102は、所定のプログラムに従ってインクジェット記録装置10の全体を制御する制御装置として機能するとともに、各種演算を行う演算装置として機能する。制御装置102には、記録媒体搬送制御部104、キャリッジ駆動制御部106、光源制御部108、画像処理部110、吐出制御部112が含まれる。これらの各部は、ハードウエア回路又はソフトウエア、若しくはこれらの組合せによって実現される。
記録媒体搬送制御部104は、記録媒体12(図1参照)の搬送を行うための搬送駆動部114を制御する。搬送駆動部114は、図2に示す駆動側送りローラ40を駆動する駆動用モータ、及びその駆動回路が含まれる。プラテン26(図1参照)上に搬送された記録媒体12は、インクジェットヘッド24による主走査方向の往復走査(印刷パスの動き)に合わせて、副走査方向へ間欠送りされる。
図9に示すキャリッジ駆動制御部106は、キャリッジ30(図1参照)を主走査方向に移動させるための主走査駆動部116を制御する。主走査駆動部116は、キャリッジ30の移動機構に連結される駆動用モータ、及びその制御回路が含まれる。光源制御部108は、LED駆動回路118を介して仮硬化光源32A、32BのUV‐LED素子(不図示)の発光を制御するとともに、LED駆動回路119を介して本硬化光源34A、34BのUV‐LED素子の発光を制御する制御手段である。
制御装置102は、操作パネル等の入力装置120、表示装置122が接続されている。入力装置120は、手動による外部操作信号を制御装置102へ入力する手段であり、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、操作ボタンなど各種形態を採用しうる。表示装置122には、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、CRTなど、各種形態を採用し得る。オペレータは、入力装置120を操作することにより、作画モード(「作画フォーマット」と同義)の選択、印刷条件の入力や付属情報の入力・編集などを行うことができ、入力内容や検索結果等の各種情報は、表示装置122の表示を通じて確認することができる。
また、インクジェット記録装置10には、各種情報を格納しておく情報記憶部124と、印刷用の画像データを取り込むための画像入力インターフェース126が設けられている。画像入力インターフェースには、シリアルインターフェースを適用してもよいし、パラレルインターフェースを適用してもよい。この部分には、通信を高速化するためのバッファメモリ(不図示)を搭載してもよい。
画像入力インターフェース126を介して入力された画像データは、画像処理部110にて印刷用のデータ(ドットデータ)に変換される。ドットデータは、一般に、多階調の画像データに対して色変換処理、ハーフトーン処理を行って生成される。色変換処理は、sRGBなどで表現された画像データ(例えば、RGB各色について8ビットの画像データ)をインクジェット記録装置10で使用するインク各色の色データに変換する処理である。
ハーフトーン処理は、色変換処理により生成された各色の色データに対して、誤差拡散法や閾値マトリクス等の処理で各色のドットデータに変換する処理である。ハーフトーン処理の手段としては、誤差拡散法、ディザ法、閾値マトリクス法、濃度パターン法など、各種公知の手段を適用できる。ハーフトーン処理は、一般にM値(M≧3)の階調画像データをN値(N<M)の階調画像データに変換する。最も簡単な例では、二値(ドットのオンオフ)のドット画像データに変換するが、ハーフトーン処理において、ドットサイズの種類(例えば、大ドット、中ドット、小ドットなどの3種類)に対応した多値の量子化を行うことも可能である。
こうして得られた二値又は多値の画像データ(ドットデータ)は、各ノズルの駆動(オン)/非駆動(オフ)、さらに、多値の場合には液滴量(ドットサイズ)を制御するインク吐出データ(打滴制御データ)として利用される。
吐出制御部112は、画像処理部110において生成されたドットデータに基づいて、ヘッド駆動回路128に対する吐出制御信号を生成する。また、吐出制御部112は、駆動波形生成部(不図示)を備えている。駆動波形生成部は、インクジェットヘッド24の各ノズルに対応した吐出エネルギー発生素子(本例では、ピエゾ素子)を駆動するための駆動電圧の電圧波形を生成する手段である。
駆動波形データは、予め情報記憶部124に格納されており、必要に応じて使用される駆動波形データが出力される。駆動波形生成部から出力された駆動波形は、ヘッド駆動回路128に供給される。なお、駆動波形生成部から出力される信号はデジタル波形データであってもよいし、アナログ電圧信号であってもよい。
ヘッド駆動回路128を介してインクジェットヘッド24の各吐出エネルギー発生素子に対して、共通の駆動電圧が印加され、各ノズルの吐出タイミングに応じて各エネルギー発生素子の個別電極に接続されたスイッチ素子(不図示)のオンオフを切り換えることで、対応するノズルからインクが吐出される。
情報記憶部124は、制御装置102のCPUが実行するプログラム、及び制御に必要な各種データなどが格納されている。情報記憶部124は、作画モードに応じた解像度の設定情報、パス数(スキャンの繰り返し数)、副走査送り量の制御に必要な送り量情報、仮硬化光源32A、32B及び本硬化光源34A、34Bの制御情報などが格納されている。
エンコーダ130は、主走査駆動部116の駆動用モータ、及び搬送駆動部114の駆動用モータに取り付けられており、該駆動モータの回転量及び回転速度に応じたパルス信号を出力し、該パルス信号は制御装置102に送られる。エンコーダ130から出力されたパルス信号に基づいて、キャリッジ30の位置、及び記録媒体12(図1参照)の位置が把握される。
センサ132は、装置各部に具備されるセンサ類が含まれる。例えば、キャリッジ30に取り付けられる記録媒体12の幅を検出するセンサにより、センサ132から得られたセンサ信号に基づいて記録媒体12の幅が把握される。
センサ132の他の例として、インクの温度を検出する温度センサ、記録媒体の位置を検出する位置検出センサ、圧力センサなどが挙げられる。例えば、インクの温度を検出する温度センサから得られたインクの温度情報に基づいて、制御装置102は不図示のヒータ制御部に対して指令信号を送出し、該ヒータ制御部は制御装置102からの指令信号に基づいてヒータの動作を制御する。なお、図9に図示した構成は、適宜変更、追加、削除が可能である。
〔作画モードについて〕
本例に示すインクジェット記録装置10は、マルチパス方式の描画制御が適用され、印字パス数の変更によって印字解像度(記録解像度)を変更することが可能である。例えば、高生産モード、標準モード、高画質モードの3種類の作画モードが用意され、各モードでそれぞれ印字解像度が異なる。印刷目的や用途に応じて作画モードを選択することができる。なお、以下の説明で使用される「dpi」は、「1インチあたりのドット数」を表している。
高生産モードでは、600dpi(主走査方向)×500dpi(副走査方向)の解像度で印字が実行される。高生産モードの場合、主走査方向は2パス(2回の走査)によって600dpiの解像度が実現される。1回目の走査(キャリッジ30の往路)では300dpiの解像度でドットが形成される。2回目の走査(復路)では1回目の走査(往路)で形成されたドットの中間を300dpiで補間するようにドットが形成され、主走査方向について600dpiの解像度が得られる。
一方、副走査方向については、ノズルピッチが100dpiであり、1回の主走査(1パス)により副走査方向に100dpiの解像度でドットが形成される。したがって、5パス印字(5回の走査)により、ノズルピッチ間の間を埋める補間印字を行うことで500dpiの解像度が実現される。なお、高生産モードのキャリッジ30の主走査速度は、1270ミリメートル毎秒である。
標準モードでは、600dpi×800dpiの解像度で印字が実行され、主走査方向は2パス印字、副走査は8パス印字により600dpi×800dpiの解像度を得ている。
高画質モードでは、1200×1200dpiの解像度で印字が実行され、主走査方向は4パス、副走査方向が12パスにより1200dpi×1200dpiの解像度を得ている。
〔インク組成物の説明〕
本実施形態において用いられるインクは、顔料を含んでおり、実質的に界面活性剤成分を含まない。ここで、実質的に界面活性剤成分を含まないとは、界面活性剤成分を全く含有していないものだけでなく、本発明の効果を示す範囲であれば少量含有していてもよいことを示している。なお、必要に応じて、さらに分散剤やその他の成分を用いて構成することができる。また、画像の耐性を向上させるために、インク液の粘度や表面張力を高くすることによって、記録媒体上をインクが濡れ広がりにくくすることも可能である。例えば、下記の成分の中で、顔料や樹脂粒子などの分散粒子成分を増やすことは、インク液の粘度を高めるだけでなく、凝集を速め、凝集体自体の強度向上にも期待できるので好ましい。
(顔料)
本実施形態において用いられるインクは、色材成分として顔料の少なくとも1種を含有する。顔料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、有機顔料、無機顔料のいずれであってもよい。顔料は、水に殆ど不溶であるか又は難溶である顔料であることが、インク着色性の点で好ましい。
(分散剤)
本実施形態において用いられるインクは、分散剤の少なくとも1種を含有することができる。顔料の分散剤としては、ポリマー分散剤を用いることができる。ポリマー分散剤は、水溶性の分散剤、又は非水溶性の分散剤のいずれでもよい。
本実施形態においては、画像の耐光性や品質などの観点から、顔料と分散剤と含むことが好ましく、有機顔料とポリマー分散剤とを含むことがより好ましく、有機顔料とカルボキシル基を含むポリマー分散剤とを含むことが特に好ましい。また、顔料は、凝集性の観点から、カルボキシル基を有するポリマー分散剤に被覆され、水不溶性であることが好ましい。
顔料の平均粒子径としては、10〜200nmが好ましく、10〜150nmがより好ましく、10〜100nmがさらに好ましい。平均粒子径は、200nm以下であると色再現性が良好になり、インクジェット法で打滴する際の打滴特性が良好になり、10nm以上であると耐光性が良好になる。また、色材の粒径分布に関しては、特に制限はなく、広い粒径分布又は単分散性の粒径分布のいずれであってもよい。また、単分散性の粒径分布を持つ色材を2種以上混合して使用してもよい。
なお、顔料粒子の平均粒子径及び粒径分布は、ナノトラック粒度分布測定装置UPA−EX150(日機装(株)製)を用いて、動的光散乱法により体積平均粒径を測定することにより求められるものである。
顔料は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
顔料のインク中における含有量としては、画像濃度の観点から、インクに対して、1〜25質量%であることが好ましく、2〜20質量%がより好ましく、5〜20質量%がさらに好ましく、5〜15質量%が特に好ましい。
(ポリマー粒子)
本実施形態において用いられるインクは、ポリマー粒子の少なくとも1種を含有することが好ましい。これにより、画像の耐擦性、定着性等をより向上させることができる。
(重合性化合物)
本実施形態において用いられるインクは、紫外線などの活性エネルギー線により重合する水溶性の重合性化合物の少なくとも1種を含有することができる。
水溶性とは、水に一定濃度以上溶解できることをいい、水性のインク中に(望ましくは均一に)溶解し得るものであればよい。また、後述する水溶性有機溶剤を添加することにより溶解度が上がってインク中に(望ましくは均一に)溶解するものであってもよい。具体的には、水に対する溶解度が10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。
本実施形態における重合性化合物としては、擦過耐性を高め得る観点から、多官能のモノマーが好ましく、2官能〜6官能のモノマーが好ましく、溶解性と擦過耐性の両立の観点から、2官能〜4官能のモノマーが好ましい。重合性化合物は、1種単独又は2種以上を組み合わせて含有することができる。
また、重合性化合物のインク中における含有量としては、顔料及びポリマーの粒子の合計の固形分に対して、30〜300質量%が好ましく、50〜200質量%がより好ましい。重合性化合物の含有量は、30質量%以上であると画像強度がより向上して画像の耐擦過性に優れ、300質量%以下であるとパイルハイトの点で有利である。
(開始剤)
本実施形態に用いられるインクは、活性エネルギー線により前記重合性化合物の重合を開始する開始剤の少なくとも1種を含有することができる。光重合開始剤は、1種単独で又は2種以上を混合して、あるいは増感剤と併用して使用することができる。
開始剤は、活性エネルギー線により重合反応を開始し得る化合物を適宜選択して含有することができ、例えば、放射線若しくは光、又は電子線により活性種(ラジカル、酸、塩基など)を発生する開始剤(例えば、光重合開始剤等)を用いることができる。
開始剤を含有する場合、インク中における開始剤の含有量としては、重合性化合物に対して、1〜40質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましい。開始剤の含有量は、1質量%以上であると画像の耐擦過性がより向上し、高速記録に有利であり、40質量%以下であると吐出安定性の点で有利である。
(水溶性有機溶剤)
本発明におけるインクは、水溶性有機溶媒の少なくとも1種を含有することができる。水溶性有機溶媒は、乾燥防止、湿潤あるいは浸透促進の効果を得ることができる。乾燥防止には、噴射ノズルのインク吐出口においてインクが付着乾燥して凝集体ができ、目詰まりするのを防止する乾燥防止剤として用いられ、乾燥防止や湿潤には、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶媒が好ましい。また、浸透促進には、紙へのインク浸透性を高める浸透促進剤として用いることができる。
乾燥防止剤としては、水より蒸気圧の低い水溶性有機溶媒であることが好ましい。
乾燥防止剤は、1種単独で用いても2種以上併用してもよい。乾燥防止剤の含有量は、インク中に10〜50質量%の範囲とするのが好ましい。
浸透促進剤としては、インクを記録媒体(印刷用紙など)により良く浸透させる目的で好適である。浸透促進剤は、1種単独で用いても2種以上併用してもよい。浸透促進剤の含有量は、インク中に5〜30質量%の範囲であるのが好ましい。また、浸透促進剤は、画像の滲み、紙抜け(プリントスルー)を起こさない量の範囲内で使用することが好ましい。
(水)
インクは、水を含有するものであるが、水の量には特に制限はない。中でも、水の好ましい含有量は、10〜99質量%であり、より好ましくは30〜80質量%であり、さらに好ましくは50〜70質量%である。
(その他の添加剤)
本実施形態におけるインクは、上記成分以外にその他の添加剤を用いて構成することができる。その他の添加剤としては、例えば、乾燥防止剤(湿潤剤)、褪色防止剤、乳化安定剤、浸透促進剤、紫外線吸収剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤、表面張力調整剤、消泡剤、粘度調整剤、分散剤、分散安定剤、防錆剤、キレート剤等の公知の添加剤が挙げられる。
本実施形態に用いられるインクの表面張力は、好ましくは10〜50mN/m、より好ましくは25〜40mN/mである。ポリオレフィン、PET、コート紙、非コート紙など様々な被記録媒体へ記録する場合、滲み及び浸透の観点から、25mN/m以上が好ましく、濡れ性の観点から40mN/m以下が好ましい。
〔記録媒体の説明〕
本実施形態に用いられる記録媒体には、特に制限はないが、紙、不織布、合成化学繊維、ポリ塩化ビニル(PVC)、ターポリン、ポリエチレンテレフタレート(PET)など、材質を問わず、また、浸透性媒体、非浸透性媒体を問わず、様々な媒体を用いることができる。
水性インクを用いた一般のインクジェット法による画像記録においてはインクの吸収、乾燥が遅く、打滴後に色材移動が起こりやすく、画像品質が低下しやすい記録媒体であっても、本実施形態によれば、色材移動を抑制して色濃度、色相に優れた高品位の画像の記録が可能である。
また、本実施形態においては、記録媒体の種類に応じて、従動側送りローラ42のニップ荷重(ニップ圧)の制御を行うことが好ましい。
〔実施例〕
インクジェット記録装置10を用いて、以下の方法により、材質条件及びニップ条件の異なる従動側送りローラ42の評価を行った。
まず、各従動側送りローラ42を用いて記録媒体12を搬送し、インクジェットヘッド24においてインクを打滴し、仮硬化光源32A、32B、本硬化光源34A、34Bにより記録媒体12上のインクに紫外線を照射して硬化させた。作画モードとしては、600dpi(主走査方向)×500dpi(副走査方向)の高生産モードを用いた。
ここで使用したインクの表面張力は、36.2mN/mである。また、記録媒体12としては、PVC、ターポリン、及びPETをそれぞれ用いた。PVC、ターポリン、PETのそれぞれに打滴し、硬化したインクの直径及び接触角を、図10に示す。なお、接触角の測定は、硬化したインク滴の左右端点を結ぶ直線と、インク滴頂点とインク滴端点を結ぶ直線との為す角度を測定する1/2θ法により行った。図10に示した硬化したインクの直径及び接触角の関係は、表面張力が25〜40mN/mの範囲のインクにおいて成り立つ。
また、インクジェットヘッド24において印字する画像としては、全面が一定の濃度のいわゆるベタ画像を用いた。
このように記録媒体12上に画像を印字し、画像のムラ、記録媒体12の搬送性、表面の傷について評価を行った。
ムラとは、図13を用いて説明したように、記録媒体12の表面において、従動側送りローラ42に接触した部分と接触していない部分とで、打滴されたインクのドット密度とドット径が異なることにより発生する色ムラを指している。ムラの発生状況については、ムラが視認できない場合を「○」、うっすらとムラが視認できる場合を「△」、はっきりとムラが視認できる場合を「×」と評価した。
また、所望の搬送ピッチで搬送できていない場合には、二重に印字される領域が発生するため、画像に搬送ピッチ間のスジが発生する。したがって、搬送性については、印字画像に搬送ピッチ間のスジが発生していない場合を「○」、うっすらとスジが視認できる場合を「△」、はっきりとスジが視認できる場合を「×」と評価した。
また、従動側送りローラ42の記録媒体12と接触する面の表面粗さRaが粗い場合には、記録媒体12の表面にキズが発生する。したがって、記録媒体の表面にキズが視認できない場合を「○」、うっすらとキズが視認できる場合を「△」、はっきりとキズが視認できる場合を「×」と評価した。
インクジェット記録装置においては、これらの評価基準において「×」が含まれないことが必要である。本実施例では、条件(a)〜条件(h)の8つの条件について評価した。各条件のパラメータとその評価結果を、図11に示す。
図11に示すように、条件(a)は、硬度70°のEPDM(エチレンプロピレンゴム)からなる従動側送りローラ42(弾性部材42a=硬度70°のEPDM、疎水部材42b=無し)を用いており、その表面粗さRaは2.7[μm]である。またニップ荷重を11[N]とした。このときのニップ圧は0.5[Mpa]である。また、条件(b)は、硬度70°のシリコンゴムからなる従動側送りローラ42(弾性部材42a=硬度70°のシリコンゴム、疎水部材42b=無し)を用いており、その表面粗さRaは2.4[μm]である。またニップ荷重は11[N]であり、このときのニップ圧は0.5[Mpa]である。
評価の結果、図11に示すように、条件(a)、条件(b)においては、PVC、ターポリン、及びPETにおいて、搬送性及び表面キズは発生しないが、ムラが発生した。この結果、及び後述する条件(c)〜条件(h)の結果から、従動側送りローラ42の記録媒体12に接触する表面は、EPDMやシリコンゴムでは不適切であることがわかる。
次に、条件(c)〜条件(e)においては、弾性部材42aとして硬度70°のEPDM、疎水部材42bとして表面粗さRa=1.2[μm]のテフロン(登録商標)(表面張力=18mN/m)を用いた。条件(c)についてはニップ荷重11[N]、条件(d)についてはニップ荷重10[N]、条件(e)についてはニップ荷重9[N]とした。このときのニップ圧は、条件(c)が0.5[Mpa]、条件(d)が0.45[Mpa]、条件(e)が0.4[Mpa]となる。
この評価の結果、図11に示すように、条件(c)〜条件(e)において、PVC、ターポリン、及びPETにおいてムラは発生しなかった。また、表面キズも発生しなかった。搬送性については、条件(c)、(d)においてうっすらとスジが視認され、条件(e)においてははっきりとスジが視認された。この結果から、ニップ圧は0.45[Mpa]以上であることが好ましいことがわかる。
さらに、条件(f)〜条件(h)においては、ともに弾性部材42aとして硬度70°のEPDM、疎水部材42bとしてテフロンを用いた。また、疎水部材42bの表面粗さRaについては、条件(f)が9.4[μm]、条件(g)が10.8[μm]、条件(h)が12.7[μm]とした。また、ニップ荷重はそれぞれ11[N]とした。このときのニップ圧は、0.5[Mpa]となる。
この評価の結果、図11に示すように、条件(f)〜条件(h)において、PVC、ターポリン、及びPETにおいてムラは発生しなかった。また、搬送性についても、条件(f)〜条件(h)において、スジは視認されなかった。表面キズについては、条件(f)においてはキズが視認できなかったが、条件(g)においてはうっすらとキズが視認でき、条件(h)においてははっきりとキズが視認できた。この結果から、疎水部材42bの表面粗さRaは、10.8μm以下であることが好ましいことがわかる。
以上のように、ニップローラのうち、記録媒体の記録面側に配置されるローラを、回転軸の外周面に配置される円筒形状の弾性部材と、該弾性部材の外周面を覆う疎水部材とから構成することにより、記録媒体表面にローラが接触しても色ムラが発生することなく、高精細な画像を記録することができる。
特に、ニップ圧を0.45[Mpa]以上、より好ましくは0.5[Mpa]以上とすることで、良好な搬送性を得ることができる。また、疎水部材の表面粗さRaを10.8[μm]以下、より好ましくは10.0[μm]以下、さらにより好ましくは9.4[μm]以下とすることで、記録媒体表面のキズの発生を良好に抑制することができる。
上記の評価結果から、本実施形態の従動側送りローラ42は、表面張力が10〜50mN/mのインク(特に現行の標準的なUV硬化インクである25〜40mN/mのインク)であって、記録媒体上に形成されるドットの接触角が、硬化した段階で5〜50deg(1/2θ法による)の範囲となるインクに対して有効であると考えられる。また、疎水部材42bの表面張力が100mN/m以下であることが好ましい。特に、インクの表面張力と記録媒体の表面張力との差が大きい場合に有効である。
本発明の技術的範囲は、上記実施形態に記載の範囲には限定されない。各実施形態における構成等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、各実施形態間で適宜組み合わせることができる。