JP2013075782A - カーボンナノファイバー、およびカーボンナノファイバー分散液 - Google Patents

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【課題】 本発明者らは、カーボンナノファイバーに特定の酸化処理を施すことにより、カーボンナノファイバーの仕事関数を著しく向上させることができることを見出した。すなわち、本発明は、仕事関数の高いカーボンナノファイバー、およびこのカーボンナノファイバーを用いる分散液を提供することを目的とする。
【解決手段】 走査型ケルビンプローブで測定した時の仕事関数が、5.5〜6.0eVであることを特徴とする、カーボンナノファイバーである。また、このカーボンナノファイバーと、分散媒とを含む、カーボンナノファイバー分散液である。
【選択図】 なし

Description

本発明は、カーボンナノファイバー、およびカーボンナノファイバー分散液に関する。より詳しくは、有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子という)の陽極に適したカーボンナノファイバーおよびこのカーボンナノファイバーを含む分散液に関する。
近年、有機EL素子は、発光効率や耐久性の向上などに伴い、様々な分野に利用され始めており、特に、照明器具やディスプレイの用途への応用展開が急速に進んでいる。
図1に、有機EL素子の断面構造の一例を示す。図1は、トップエミッション型の例である。図1のように、有機EL素子1は、基材10上に、有機分子からなる発光層30を、一対の陰極20と陽極40の間にサンドイッチした多層構造で構成され、通常、陽極40は封止剤50で封止される。有機EL素子1は、陰極20と陽極40に電界を印加することにより、発光層30に、陰極20から電子を、陽極40から正孔を注入して、発光層30で電子と正孔の再結合を起こさせ、この再結合エネルギーによって基底状態の有機分子を励起状態にする。この励起有機分子が再び基底状態に戻る際のエネルギーが光として放出される。
従来、陽極には、透明性と導電性の観点からインジウムドープ錫(ITO)が用いられている。このITOを用いた陽極の透明性、正孔注入性、劣化防護性を改善するために、カーボンナノチューブを含むバッファ層を、陽極と発光層の間に配置する方法が検討されている(特許文献1)。ここで、陽極の正孔注入性を高めるには、仕事関数が高いことが求められる。
しかしながら、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバーは、製造したままの状態では、4.9eV程度であり、仕事関数が十分に高いとはいえない。
また、カーボンナノファイバーの分散性を向上させるために、カーボンナノファイバーを混酸で表面酸化処理する方法が開示されている(特許文献2の第0035段落)。本発明者らが、このカーボンナノファイバーの仕事関数を測定したところ、5.4eVまで高くなっていることがわかったが、より高い仕事関数を持つカーボンナノファイバーが求められている。
特開平2002−313582号公報 特開平2009−272041号公報
本発明は、従来の上記要求を解決したものである。本発明者らは、カーボンナノファイバーに特定の酸化処理を施すことにより、カーボンナノファイバーの仕事関数を著しく向上させることができることを見出した。すなわち、本発明は、仕事関数の高いカーボンナノファイバー、およびこのカーボンナノファイバーを用いる分散液を提供することを目的とする。
本発明は、以下に示す構成によって上記課題を解決するカーボンナノファイバー、およびカーボンナノファイバー分散液に関する。
(1)走査型ケルビンプローブで測定した時の仕事関数が、5.5〜6.0eVであることを特徴とする、カーボンナノファイバー。
(2)上記(1)のカーボンナノファイバーと、分散媒とを含有する、カーボンナノファイバー分散液。
本発明(1)によれば、有機EL素子の陽極に適したカーボンナノファイバーを提供することができる。また、本発明(2)によれば、仕事関数の高い有機EL素子の陽極を容易に製造することが可能なカーボンナノファイバー分散液が得られる。
トップエミッション型有機EL素子の断面構造の一例である。 カーボンナノファイバーの電解酸化処理装置の模式図である。
以下、本発明を実施形態に基づいて具体的に説明する。なお、%は特に示さない限り、また数値固有の場合を除いて質量%である。
〔カーボンナノファイバー〕
本発明のカーボンナノファイバーは、走査型ケルビンプローブで測定した時の仕事関数が、5.5〜6.0eVであることを特徴とする。
カーボンナノファイバーは、直径が1〜1000nmで、アスペクト比が5以上のものをいい、直径が1〜100nmで、アスペクト比が10〜1000であると好ましい。また、カーボンナノファイバーは、X線回折測定によるグラファイトの[002]面の面間隔が、0.35nm以下であると好ましい。上記直径とアスペクト比のカーボンナノファイバーは、溶媒中で均一に分散し易く、分散液を乾燥して形成される塗膜中で、相互に十分な接触点を形成することができる。X線回折測定によるグラファイト層の[002]面の面間隔が上記範囲内であるカーボンナノファイバーは、結晶性が高いため、電気抵抗が小さい。さらに、カーボンナノファイバーの圧密体の体積抵抗値が1.0Ω・cm以下であると、良好な導電性を発揮することができる。
ここで、直径は、透過型電子顕微鏡写真(倍率10万倍)を観察して求めた平均直径である(n=50)。アスペクト比は、透過型電子顕微鏡写真(倍率10万倍)を観察して、(長さ/直径)を計算して求める(n=50)。X線回折測定は、CuKα線により行う。カーボンナノファイバーの圧密体の体積抵抗値は、試料粉末を円筒ドーナツ状のPP製絶縁ジグに入れ、開口部の両端を円筒の真鍮電極によって100kgf/cmで加圧し、真鍮電極間の抵抗値をデジタルマルチメーターによって測定し、この測定値から算出する。
カーボンナノファイバーは、気相成長法で作製され、触媒が、Fe、Ni、Co、Mn、Cu、Mg、AlおよびCaの酸化物からなる群より選ばれる1種または2種以上の系であると、好ましい直径、アスペクト比、グラファイト層の[002]面の面間隔のカーボンナノファイバーを得られ易いので、好ましい。
なお、一酸化炭素を主な原料ガスとした気相成長法によって製造されたカーボンナノファイバーを用いると、本発明の効果をより発揮することができる。この一酸化炭素を主な原料ガスとした気相成長法によって製造されたカーボンナノファイバーは、分散性に優れ、かつ透明性も優れている。また、一酸化炭素を主な原料ガスとした気相成長法によって製造されたカーボンナノファイバーは、トルエン着色透過量を95%以上にすることができ、カーボンナノファイバーの透明性を向上させることができる。ここで、トルエン着色透過量の測定は、JISK6218−4「ゴム用カーボンブラック−付随的特性−第4部:トルエン着色透過度の求め方」に準拠して行う。
次に、カーボンナノファイバーの走査型ケルビンプローブで測定した時の仕事関数は、5.5〜6.0eVである。仕事関数が5.5eV未満では、正孔注入性が十分に高いとはいえず、仕事関数が6.0eVを超えると、カーボンナノファイバーの結晶性が低下しすぎ、カーボンナノファイバーの導電性が低くなってしまう。ここで、仕事関数は、テックサイエンス製走査型ケルビンプローブで測定する。
仕事関数が、5.5〜6.0eVであるカーボンナノファイバーは、以下のようにして製造することができる。原料となるカーボンナノファイバー(以下、原料ファイバーという)は、特に限定されないが、上述のように、一酸化炭素を主な原料ガスとした気相成長法によって製造されたカーボンナノファイバーを用いると、好ましい。原料ファイバーに、酸化剤を使用する電解酸化処理を行うことにより、仕事関数を高くすることができる。図2に、原料ファイバーの電解酸化処理装置の模式図を示す。図2に示すように、電解酸化処理装置100は、液槽140を隔膜130で仕切り、陽極110と陰極120は、隔壁130を隔てて備えられる。また、陽極110側には陽極液111が、陰極120側には陰極液121が、それぞれ貯留される。そして、陽極液111と陰極液121は、隔膜130を介して流通可能になっている。また、陽極液111は、均一に電解酸化処理を行うために、攪拌機150により撹拌される。
陽極110および陰極120には、白金めっきをしたチタンの網状体を使用する。陽極液111は、硫酸(HSO)又は硝酸(HNO)等のオキソ酸を主成分とし、1価の銀イオン、2価のコバルトイオン又は3価のセリウムイオン等の酸化剤を含む。この酸化剤は、電解酸化により、強力な酸化剤として機能するレドックス種である。陰極液121には、オキソ酸のみを用いる。また、隔壁130には、多孔質アルミナやイオン交換膜を使用することが好ましいが、その他バイコールガラス、フッ素系樹脂膜(商品名;Nafion)等であっても良い。
酸化剤が一価の銀イオンである場合について説明すると、陽極10では、以下の反応式(1):
Ag → Ag2+ + e (1)
のように、Agが電気化学的に酸化する。ここで発生するAg2+が、カーボンナノファイバー表面を酸化し、Agに戻る。
一方、陰極20では、以下の反応式(2)〜(4):
HNO + 2H + 2e → HNO + HO (2)
HNO + H + e → NO↑ + HO (3)
2NO + O2 → 2NO↑ (4)
のように、硝酸が電気分解し、NOガスが発生する。
原料ファイバーに酸化剤を使用する電解酸化処理を行うと、原料ファイバー表面が親水化し、仕事関数が高くなる。詳細には、酸化剤を使用する電解酸化処理によって、原料ファイバーと、周囲の酸素、窒素、水分等が反応して、原料ファイバー表面に、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基等の極性官能基が形成され、原料ファイバー表面が親水化し、これらの極性官能基の存在により仕事関数が高くなると、考えられる。
酸化剤を使用する電解酸化処理を適度に行うと、カーボンナノファイバーの仕事関数が増加するが、電解酸化処理が弱すぎると、カーボンナノファイバーの仕事関数を十分に高くすることができない。一方、電解酸化処理が強すぎると、カーボンナノファイバーの結晶に欠陥を増加させてしまい、カーボンナノファイバーの仕事関数が減少してしまう。適度な電解酸化処理条件の一例は、陽極の酸化種のモル濃度が0.1〜1.5Mであり、オキソ酸のモル濃度が2〜8Mであり、温度は、25〜120℃であり、カーボンナノファイバーの含有量は、陽極液とカーボンナノファイバーの合計100質量部に対して、10〜50質量部である。一方、陰極のオキソ酸のモル濃度が2〜8Mである。また、電流密度は0.1〜2A/cmである。
次に、酸化剤を使用する電解酸化処理が終了した陽極液を濾過し、カーボンナノファイバーを取り出した後、カーボンナノファイバーに対して、質量で10倍のイオン交換水で、カーボンナノファイバーを洗浄する。洗浄後のカーボンナノファイバーを、50℃で10時間乾燥して、仕事関数が、5.5〜6.0eVであるカーボンナノファイバーを得ることができる。なお、この酸化剤を使用する電解酸化処理で、カーボンナノファイバーの触媒の少なくとも一部を除去することができる。
〔カーボンナノファイバー分散液〕
本発明のカーボンナノファイバーは、上記カーボンナノファイバーと、分散媒とを含有する。
分散媒の種類は限定されず、例えば、水系、アルコール系、ケトン系、エステル系などの溶媒を用いることができる。上記カーボンナノファイバーは、表面に極性官能基が形成されていると考えられるので、分散媒としては、極性溶媒が好ましい。また、分散性の観点から、分散媒としては、水、エタノール、イソプロパノール(IPA)、シクロヘキサノン、酢酸エチル、N−メチルピロリドン(NMP)、酢酸ブチル、メチルイソブチルケトンが、より好ましい。
分散媒の含有量は、カーボンナノファイバー分散液:100質量部に対して、50〜99質量部であると、好ましい。この含有量が50質量部以上であれば、カーボンナノファイバーを溶媒中に、十分に分散できる。一方、この含有量が99質量部以下であれば、カーボンナノファイバー分散液から形成される塗膜に、十分な導電性が得られる。
カーボンナノファイバー分散液は、本発明の目的を損なわない範囲で、更に必要に応じ、慣用の各種添加剤を含有させることができる。このような添加剤としては、分散剤、レベリング剤、粘度調整剤、消泡剤、硬化触媒、酸化防止剤等が挙げられる。
カーボンナノファイバー分散液は、上述の成分を、常法により、ペイントシェーカー、ボールミル、サンドミル、セントリミル、三本ロール等によって混合し、カーボンナノファイバー等を分散させ、作製することができる。無論、通常の攪拌操作によって作製することもできる。
このカーボンナノファイバー分散液を、基材上に、塗布し、乾燥して、導電性膜を簡便に得ることができる。基材は、当業者に公知のものでよく、特に限定されない。基材としては、プラスチック成形体、ガラス基板等が挙げられる。
なお、カーボンナノファイバー分散液は、バインダー成分を含有させて、カーボンナノファイバー組成物として使用することができる。バインダー成分としては、例えば、ポリビニルアルコール樹脂、塩ビ−酢ビ樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等が挙げられる。
バインダー成分の含有量は、カーボンナノファイバー組成物:100質量部に対して、5〜60質量部であると、カーボンナノファイバー組成物の塗工性、密着性の観点から、好ましい。
以下、実施例により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
〔実施例1〕
《カーボンナノファイバーの製造》
Co、Mg酸化物を触媒にし、一酸化炭素を主な原料ガスとして気相成長法によって合成された平均直径:20nmのカーボンナノファイバー(以下、CNFという)を、原料ファイバーとして使用した。
使用したCNFのアスペクト比は、10〜1000であり、X線回折測定によるグラファイトの[002]面の面間隔は、0.339〜0.344nmであり、圧密体の体積抵抗率は、0.1Ω・cmであった。また、一酸化炭素を原料とする場合のトルエン着色透過率は、98〜99%であった。CNFの平均直径は、透過型電子顕微鏡写真(倍率10万倍)を観察して求めた(n=50)。アスペクト比は、透過型電子顕微鏡写真(倍率10万倍)を観察して、(長さ/直径)を計算して求めた(n=50)。X線回折測定は、CuKα線により行った。圧密体の体積抵抗値は、試料粉末を円筒ドーナツ状のPP製絶縁ジグに入れ、開口部の両端を円筒の真鍮電極によって100kgf/cmで加圧し、真鍮電極間の抵抗値をデジタルマルチメーターによって測定し、この測定値から算出した。トルエン着色透過量の測定は、JISK6218−4「ゴム用カーボンブラック−付随的特性−第4部:トルエン着色透過度の求め方」に準拠して行った。
このCNFを、図2に示すような電解酸化処理装置100を用いて、電解酸化処理した。液槽140には、内容積:2000cmのガラス製容器を用いた。陽極110および陰極120には、幅:30mm、長さ:50mm、厚さ:2mmの白金めっきをしたチタンの網状体を使用した。隔壁30には、多孔質アルミナを使用した。陽極液111には、1000gの0.2MのAgを含む7Mの硝酸を用いた。ここで、Agは、硝酸銀(AgNO)として添加した。陰極液121には、200gの7Mの硝酸を用いた。
陽極液111を、30℃に加熱した後、攪拌機150で撹拌子ながら、10gのCNFを添加し、電流密度:0.5A/cmで、30分間電解酸化処理を行った。
電解酸化処理が終了した陽極液を濾過し、CNFを取り出した後、CNFに対して、質量で10倍のイオン交換水で、CNFを洗浄した。洗浄後のCNFを、50℃で10時間乾燥して、実施例1のCNFを得た。なお、実施例1のCNFは、電解酸化処理により親水性が向上し、水に良好な分散性を示した。
《CNFの評価》
CNFの仕事関数を、テックサイエンス製走査型ケルビンプローブで測定した。表1に、結果を示す。
〔実施例2〜5、比較例1〜3〕
表1に記載した条件で電解酸化処理を行ったこと以外は、実施例1と同様にして、CNFを作製し、評価を行った。表1に、結果を示す。なお、実施例2〜5のCNFは、電解酸化処理により親水性が向上し、水に良好な分散性を示した。
〔比較例4〕
CNFを、硝酸(濃度60%)と硫酸(濃度95%以上)の混合液に、CNF:硝酸:硫酸=1質量部:5質量部:15質量部の割合で混合し、60℃で60分間加熱して表面酸化処理を行った。得られた溶液を濾過し、5回水洗を行って残留する酸を洗い流した。その後、乾燥して粉末化し、CNFを得た。
〔比較例5〕
原料として使用したCNFの評価を行った。表1に、結果を示す。
表1からわかるように、実施例1〜5の全てで、仕事関数が高いカーボンナノファイバーが得られた。特に、実施例2では、仕事関数が6.0eVと著しく高いカーボンナノファイバーが得られた。これに対して、電解酸化処理での電流密度が高すぎる比較例1、陽極液のオキソ酸濃度が低すぎる比較例2、陽極液の酸化種の濃度が低すぎる比較例3では、仕事関数が5.4eVであった。また、混酸処理をした比較例4では、5.1eV、原料のCNFをそのまま使用した比較例5では、4.9eVであった。
1 有機EL素子
10 基材
20 陰極
30 発光層
40 陽極
50 封止材
100 電解酸化処理装置
110 陽極
111 陽極液
120 陰極
121 陰極液
130 隔膜
140 液槽
150 撹拌機

Claims (2)

  1. 走査型ケルビンプローブで測定した時の仕事関数が、5.5〜6.0eVであることを特徴とする、カーボンナノファイバー。
  2. 請求項1のカーボンナノファイバーと、分散媒とを含有する、カーボンナノファイバー分散液。
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