JP2013064646A - テラヘルツ分光による材料の評価方法 - Google Patents

テラヘルツ分光による材料の評価方法 Download PDF

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Abstract

【課題】有機化合物を主体として含む材料、無機化合物を主体とし有機化合物を含む材料または有機化合物と組合せて用いる無機化合物からなる材料の機能を、テラヘルツ分光を利用して、室温で感度よく観測し評価する方法を提供する。
【解決手段】有機化合物を主体とする材料、無機化合物を主体とし有機化合物を含む材料または有機化合物と組合せて用いる無機化合物からなる材料であり、該化合物が分子レベルで配列状態を形成している材料に、テラヘルツ波を照射して測定される周波数0.1〜10THzの領域における分光スペクトルを用いて該材料の機能を評価する方法であって、材料に所定の処理を加える前後に分光スペクトルを測定し、分光スペクトル間に出現する配列状態の構造の歪みに起因する非対称振動由来の吸収の変化を指標として機能を評価することを特徴とするテラヘルツ分光による材料の評価方法。
【選択図】図4

Description

本発明は、医療関係材料、特にコラーゲンや生体鉱物などを用いた再生医療材料、有機・無機絶縁材料、エレクトロニクス材料、フォトニクス材料、情報通信関係材料等に利用可能な材料の機能を、これらの材料を主として構成する化合物の分子レベルの配列状態をテラヘルツ分光により測定することで評価する、テラヘルツ分光による材料の評価方法に関する。
X線回折、ラマン分光、近赤外分光、テラヘルツ分光等の分光技術を用いて、化学的に安定している化合物が分子レベルで繰返し配列している試料において、それぞれ観測できる信号を利用して、化合物中の不純物の挙動などを解析することが行われている。このような解析において、例えば、極微量の不純物を検出する場合、信号(吸収バンドや回折ピーク)の幅の僅かな広がりや横軸(周波数や回折角)のシフト量を観測することになるため、試料の個体差による信号の大きさなどの違いが解析に大きく影響する。
この影響は、分光技術により異なり、測定対象が細胞外マトリックスのように複雑な立体的な構造を有する場合、可視や近赤外領域などでは散乱が大きく、ラマン分光や超短パルスを利用した評価は困難となる。また、X線や近赤外分光を用いた場合には、波長が短いために、結晶格子や分子の基準振動など非常に小さな領域の情報が得られるが、化合物のマクロな繰返し配列の状態変化を捉えることは感度的に容易でない。
技術分野の一例として、再生医工学分野を挙げると、近年、再生医工学分野において、組織に生じた大きな欠損部の再生を促すためにコラーゲンやハイドロキシアパタイト等を利用した様々な足場材料が検討されている。足場材料は再生組織の機能や構造を大きく左右することがわかっていることから、その構造や分子挙動などについて詳しく調査することが求められている。
そこで、このような足場材料について、X線や近赤外光などを利用した分析機器により解析が行われてきた。具体的には、光波長変換を利用して足場材料の1つであるコラーゲン繊維の配向性や変性を観察する技術(特許文献1を参照)、X線回折を利用してハイドロキシアパタイトやコラーゲンの挙動を観測する技術が既に知られている(例えば、特許文献2および非特許文献1を参照)。しかしながら、これらの方法では、分子間の弱い結合や添加量の少ない不純物による化合物の繰返し配列の状態を室温で感度よく観測することは困難であった。
また、テラヘルツ領域において格子振動や水素結合などの弱い分子間相互作用が観測できることは知られており、例えば、炭酸カルシウム系の生体鉱物における結晶構造を解析した報告等がされている(例えば、非特許文献2、3を参照)。別の例として、半導体材料のLaAlOについて、結晶構造内の酸素欠陥により化合物の繰返し配列の状態が変化し、テラヘルツ領域に角度依存性を有する新たな吸収ピークが出現することが報告されている(例えば、非特許文献4を参照)。
しかしながら、材料を主体として構成する有機化合物または無機化合物における分子レベルの配列状態が該材料中のその他の成分との相互作用により、特に有機化合物と無機化合物との相互作用により受ける影響を、モデル化し易い原子団の基準振動や骨格振動由来の吸収ではなく、分子軌道の乱れによって生じる自発分極によりテラヘルツ(0.1〜10THz)領域に出現する、大きな電気双極子の非対称振動由来の吸収に注目して、求めることは行われていない。
特開2010−000026号公報 特許第3940789号公報
"X線回折による骨組織中コラーゲン―アパタイトの力学的挙動観察,"日本機械学会第17回バイオエンジニアリング講演会講演論文集,pp.69−70(2005) "Study on Absorption Properties of Cuttlefish Bone by Terahertz Spectroscopy," International Congress on Analytical Sciences, 25P145, Kyoto International Conference Center, Japan (May. 25, 2011) "Study of CaCO3-containing minerals by THz spectroscopy," The joint 35th international conference on infrared and millimeter waves and the 16th international conference on Terahertz(IRMMW2010/THz2010), Mo-P34, Rome, Italy (Sep. 6, 2010) "Effect of Annealing on Optical absorption of LaAlO3 at Terahertz Frequencies," Japanese Jounal of Applied Physics, vol. 50, 021502 (2011)
本発明の目的は、医療関係材料、有機・無機絶縁材料、エレクトロニクス材料、フォトニクス材料、情報通信関係材料等に適用される、有機化合物を主体として含む材料、無機化合物を主体とし有機化合物を含む材料または有機化合物と組合せて用いる無機化合物からなる材料の機能を、テラヘルツ分光を利用して、室温で感度よく観測し評価する方法を提供することにある。
本発明のテラヘルツ分光による材料の評価方法は、有機化合物を主体として含む材料、無機化合物を主体とし有機化合物を含む材料または有機化合物と組合せて用いる無機化合物からなる材料であり、前記材料を主体として構成する化合物が該材料中で分子レベルで配列状態を形成している材料に、テラヘルツ波を照射して測定される周波数0.1〜10THzの領域における分光スペクトルを用いて、該材料が有する機能を評価する方法であって、前記材料に所定の処理を加える前後に前記分光スペクトルを測定し、得られた分光スペクトル間に出現する、前記配列状態の構造の歪みに起因する非対称振動由来の吸収の変化を指標として、前記機能を評価することを特徴とする。
ここで、上記分光スペクトル間に出現する上記配列状態の構造の歪みに起因する非対称振動由来の吸収の変化とは、吸収が全くないものから吸収が出現する変化、存在した吸収が消失する変化、存在した吸収の面積、強度が増減する変化、ピーク周波数がシフトする変化等の変化の少なくともひとつを有する変化をいう。
本発明の材料の評価方法において、所定の処理により引き起こされる前記材料を主体として構成する化合物の分子レベルでの配列状態の構造の歪みが、非対称振動由来の吸収の変化として前記テラヘルツ領域の分光スペクトルにより計測されるような化合物の配列状態として、例えば、高分子化合物の配向状態、結晶性化合物の結晶配列状態、液晶性化合物の配向状態が挙げられる。
本発明の材料の評価方法において、該処理により引き起こされる前記材料を主体として構成する化合物の分子レベルの配列状態の構造の歪みが、非対称振動由来の吸収の変化として前記テラヘルツ領域の分光スペクトルにより計測されるような処理として、例えば、−40〜200℃の加熱または冷却処理、圧力による処理、アルカリ性または酸性の溶液による処理、塩溶液または有機溶媒による処理、前記材料を主体として構成する化合物以外の有機化合物または無機化合物の添加による処理から選ばれる処理が挙げられる。
本発明の材料の評価方法は、例えば、臨界表面張力が35mN/m以上の高分子化合物を主体とする材料に好ましく適用できる。
本発明の材料の評価方法は、前記材料がコラーゲンであり、前記処理がコラーゲン分子の収縮を誘因する処理であって、前記テラヘルツ領域の分光スペクトル間に出現する収縮に起因する非対称振動由来の吸収の変化を指標としてコラーゲンの変性度合を評価する場合に、好ましく適用できる。
本発明の材料の評価方法は、また、前記材料がリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化鉄および酸化ケイ素からなる群から選ばれる無機化合物を主成分として含有する生体鉱物または該生体鉱物を主体とし有機化合物を含む材料であり、前記処理が前記材料が含有する有機化合物に対する処理または有機化合物の添加であって、前記テラヘルツ領域の分光スペクトル間に出現する、前記有機化合物との相互作用による生体鉱物の配列状態の構造変化に起因する非対称振動由来の吸収の変化を指標として、前記材料の機能を評価する場合に、好ましく適用できる。
本発明によれば、医療関係材料、有機・無機絶縁材料、エレクトロニクス材料、フォトニクス材料、情報通信関係材料等に適用される、有機化合物を主体として含む材料、無機化合物を主体とし有機化合物を含む材料または有機化合物と組合せて用いる無機化合物からなる材料の機能を、該材料を主体として構成する化合物の配列状態における分子軌道の乱れによって生じる自発分極によりテラヘルツ領域に出現する、大きな電気双極子の非対称振動由来の吸収を利用することで、室温で感度よく観測し評価することができる。
コラーゲンにNaCl微結晶が作用した際の繰返し配列の状態変化を模式的に示す図である。 実施例1において甲イカの骨を熱処理した際のテラヘルツ分光測定結果を示す図である。 実施例2においてコラーゲンに塩溶液を作用させた前後のテラヘルツ分光測定結果の違いを示す図である。 実施例2においてコラーゲンのゼラチン化の程度を、試料に塩溶液を作用させて評価した際に用いたテラヘルツ分光測定結果を示す図である。 実施例2においてコラーゲンの低分子化(無配向化)の程度を、試料に塩溶液を作用させて評価した際に用いたテラヘルツ分光測定結果を示す図である。
以下に本発明の実施の形態を説明する。
本発明のテラヘルツ分光による材料の評価方法は、有機化合物を主体として含む材料、無機化合物を主体とし有機化合物を含む材料または有機化合物と組合せて用いる無機化合物からなる材料であり、前記材料を主体として構成する化合物が該材料中で分子レベルで配列状態を形成している材料に、テラヘルツ波を照射して測定される周波数0.1〜10THzの領域における分光スペクトルを用いて、該材料が有する機能を評価する方法であって、前記材料に所定の処理を加える前後に前記分光スペクトルを測定し、得られた分光スペクトル間に出現する、前記配列状態の構造の歪みに起因する非対称振動由来の吸収の変化を指標として、前記機能を評価することを特徴とする。
このように、本発明の材料の評価方法においては、原子団の基準振動由来の吸収ではなく、該材料を主体として構成する化合物の配列状態における分子軌道の乱れによって生じる自発分極により、テラヘルツ領域の分光スペクトルに出現する、大きな電気双極子の非対称振動由来の吸収を利用する。本発明者らは、結晶性や配向性が高く、赤外不活性な振動であっても、例えば、高分子化合物では分子収縮を起こさせたり、有機化合物や無機化合物では他の化合物を混入して相互作用を生じさせたりすると、結晶性や配向性が低下するため、対称性が崩れて赤外活性な振動に変わる場合があり、その結果、0.1〜10THzのテラヘルツ領域の分光スペクトルに吸収が出現することを見出し、この吸収特性を利用して機能性材料を評価する方法を確立するに至った。
本発明の評価方法が対象とする材料は、以下の(A)および(B)の2つの条件を満たすものであれば特に制限されない。
(A):有機化合物を主体として含む材料、無機化合物を主体とし有機化合物を含む材料または有機化合物と組合せて用いる無機化合物からなる材料である。なお、材料がある化合物を主体として含むとは、材料全体の質量に対してその化合物が含まれる割合が50〜100質量%であることをいう。
(B):前記材料を主体として構成する化合物が、該材料中で分子レベルで配列状態を形成している材料である。
化合物が分子レベルで配列状態を形成している例としては、高分子化合物の配向状態、結晶性化合物の結晶配列状態、液晶性化合物の配向状態等が挙げられる。
高分子化合物の配向状態としては、高分子鎖が一定方向に規則的に配列した、例えば結晶性高分子の配向状態や、極性基を有する高分子化合物が水素結合により規則的に配向した配向状態、例えば、コラーゲンの3重らせん配列状態、DNAの2重らせん等が挙げられる。
上記(A)の条件を満たす結晶性高分子として、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン等が挙げられる。また、多重らせん配列状態を示すタンパク質としては、コラーゲン、DNA、RNA等が挙げられる。
また、上記(A)の条件を満たす結晶性無機化合物として、具体的には、生体鉱物等が挙げられる。また、生体鉱物として、具体的には、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化鉄、酸化ケイ素、等の無機化合物を主成分として含有する生体鉱物が挙げられる。
さらに、上記(A)の条件を満たす液晶性化合物としては、液晶性化合物として公知の各種高分子有機化合物、低分子有機化合物が特に制限なく挙げられる。
本発明の評価方法においては、上記材料に所定の処理を加える前後で、テラヘルツ波を照射して測定される周波数0.1〜10THzの領域における分光スペクトルを測定し、得られた分光スペクトル間に出現する、上記材料を主体として構成する化合物の分子レベルでの配列状態の構造の歪みに起因する非対称振動由来の吸収の変化を指標として、この材料の機能を評価するものである。
このような処理としては、上記配列状態の構造の歪みを引き起こす処理であれば特に制限されず、上記材料を主体として構成する化合物の種類や、その配列状態の種類によって適宜選択される。具体的には、−40〜200℃の加熱または冷却処理、加圧または減圧等の圧力による処理、アルカリ性または酸性の溶液による処理、塩溶液または有機溶媒による処理、上記材料を主体として構成する化合物以外の有機化合物または無機化合物の添加による処理等が挙げられる。
上記配列状態の歪みを引き起こす処理は、評価される材料を主として構成する配列状態を示す化合物の種類により適宜選択される。本発明の評価方法においては、上記配列状態の歪みの発生要因が−40〜200℃の加熱または冷却処理のような熱や、加圧や減圧等の圧力によらず、他成分との接触、他成分の侵入等による相互作用によることが好ましく、したがって配列状態の歪みを引き起こす処理もそのような処理が好ましい。その、理由は熱処理等により本質的な分子構造が変化してしまい、全く別の材料になってしまう可能性があるからである。
ここで、評価される材料を主として構成する化合物としても、上記観点から選択されることが好ましい。例えば、高分子化合物の場合には、臨界表面張力が35mN/m以上の化合物であれば、極性が十分に高く、水素結合等を形成しやすいことから、熱処理によらず、他成分の添加等で発生する相互作用で配列状態を変化させることが可能である。
なお、極性の指標として、分子構造上の特徴を用いる場合には、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基等の極性基を有するか否か、またこのような極性基の量を示す方法が挙げられる。
本発明の材料の評価方法は、テラヘルツ分光を用いて、化合物の繰返し配列の状態変化、特には、分子軌道の変化によって生じた微視的な自発分極が広範囲で同方向に揃ったときに出現する大きな電気双極子由来の吸収ピークを観測することにより、例えば、繰返し配列に乱れが無いときの吸収をゼロとして、それを基準として試料の状態を感度よく評価できるようになる。これにより、例えば、分子間の作用が重要な役割を果たしていると言われている医療関係材料、有機・無機絶縁材料、エレクトロニクス材料、フォトニクス材料、情報通信関係材料等において、その材料を主として構成する化合物の分子レベルでの配列状態をより正確に判別でき、機能評価に適用できるものである。具体的な応用例としては各分野において以下の例が挙げられる。
テラヘルツ分光を用いた医療関係材料の評価としては、次の例が挙げられる。無機化合物、特には、生体鉱物を主体とする材料については、ハイドロキシアパタイト(Ca(POOH)とコラーゲンの複合体の硬組織、または足場材料としての性能評価、炭酸カルシウムの結晶多形のカルサイト結晶やアラゴナイト結晶を主体として有機物質を含む硬組織の成分・形態の分析、および足場材料への適性評価等が挙げられる。また、有機化合物を主体とする材料として、コラーゲンの機能評価に適用可能である。
有機・無機絶縁材料の評価としては、マイクロまたはナノコンポジットの機能評価、より具体的には、ポリアミド、ポリエチレン、ポリエステル等から選ばれるベースポリマーとタルク、クレー等から選ばれる無機フィラーとの組合せからなる絶縁材料の機能の分析に応用可能である。
エレクトロニクス材料の評価としては、テラヘルツ分光により示される分子レベルの配列状態の対称性がキャリアの速度に依存することから、製造されたペンタセン等の有機半導体材料の機能評価に応用可能である。
フォトニクス材料、特には、有機非線形光学結晶の評価としては、テラヘルツ分光により示される分子レベルの配列状態の対称性が波長変換の効率や吸湿の状態に依存することから、4−dimethylamino−N−methyl−4−stilbazolium−tosylate(DAST)等の機能評価に応用可能である。
本発明の材料の評価方法はこのように様々な分野の各種材料に適用可能であるが、本発明の材料の評価方法について、以下、医療関係材料として上に挙げた、コラーゲンの機能の評価方法を例に、具体的に説明する。
本発明の評価方法により、コラーゲンの機能を評価する例としては、コラーゲンに対してコラーゲン分子の収縮を誘因する処理を施し、その前後に測定したテラヘルツ領域の分光スペクトル間に出現する、コラーゲン分子の収縮に起因する非対称振動由来の吸収の変化を指標としてコラーゲンの変性度合を評価する例が挙げられる。
評価の対象とするコラーゲンは3重らせん配列構造を有するコラーゲンであり、このコラーゲンが分子レベルで収縮する処理として、コラーゲンに塩溶液を作用させる処理が挙げられる。コラーゲンを塩溶液で処理し乾燥すると、コラーゲンの3重らせん配列の周囲に塩の微結晶が形成され、配列状態に歪みを発生させ分子鎖レベルでの収縮が起こる。図1は、塩として塩化ナトリウム(NaCl)を用いてコラーゲンを処理した際の、コラーゲンの繰返し配列の状態変化を模式的に示す図である。
コラーゲンはペプチド鎖が3本集まって立体的な3重らせん構造を有するが、図1においては、平面上に簡略化して示すために、コラーゲンを構成する典型的な2本のペプチド鎖が水素結合した状態を部分的にかつ模式的に示すものである。上記典型的なペプチド鎖とは、グリシン(Gly)−プロリン(Pro)−ヒドロキシプロリン(Hyp)が順番にペプチド結合したものである。コラーゲンのペプチド鎖を構成するアミノ酸としては、これに限定されるものではなく、図1に示すペプチド鎖は例示のためのペプチド鎖である。
コラーゲンは正常な状態においては、例えば、図1の左側に示す、一方のペプチド鎖のGlyの−NHともう一方のペプチド鎖のGlyの−C=Oが水素結合を形成するように、3本のペプチド鎖が規則的に水素結合で結合して3重らせん構造の対称な配向状態を示している。
このようなコラーゲンにおいて、図1の右側に示すように、NaCl微結晶が2本のペプチド鎖の周囲に形成されると、本来ならば上記同様の水素結合の状態が保たれるべき位置で、水素結合は切断され、Glyの−NHにClが接近することでGlyの分子軌道が変化し分極(P)が生じる。図1ではこれにより分極(P)が生じた部分に矢印方向に微小な双極子モーメントが作用していることを示す。
ここで、図1中の分極(P)の変化は非常に小さく、この一点のみの変化を測定するとすれば、低温で熱揺らぎ等を除去して測定しなければ検出が困難である。しかしながら、コラーゲンに対する塩溶液の処理は分子レベルで一点をターゲットとして行う処理ではなく、全体に亘る処理であることから、広範囲で上記同様の変化が生じ、試料全体で大きな双極子モーメント(電荷×距離)を有するため、常温において感度よく、テラヘルツ分光での検出が可能となる。また、このようにしてコラーゲンの分子レベルでの引き起こされた収縮は、例えば、シート状のコラーゲンでは皺が発生する等の変化として外観にも現れる。
ここで、試料のテラヘルツ分光スペクトルを得るためのテラヘルツ分光測定装置としては、周波数0.1〜10THz、波数3.3〜333cm−1の領域のテラヘルツ波を照射して試料を透過するまた反射するテラヘルツ波の分光スペクトルが得られる装置であれば特に制限されない。
コラーゲンに実際に生理食塩水を作用させた後述の実施例の結果を参照すれば、例えば、図3の(a)生理食塩水で処理される前のコラーゲンのテラヘルツ波領域を含む分光スペクトルと(b)生理食塩水で処理された後のコラーゲンのテラヘルツ波領域を含む分光スペクトル((a)、(b)ともに波数100〜600cm−1)に示す通り、処理の前(a)には波数3.3〜333cm−1の領域には吸収がなかったのが、処理後(b)には波数3.3〜333cm−1の領域の略中央の約168cm−1(約5THz)に吸収ピークが出現している。この吸収ピークが、上記図1でそのミクロな状態が模式的に説明されるように、NaCl微結晶の浸入により、コラーゲン分子の規則的な繰り返し配列状態に歪み、収縮を引き起こす微視的な自発分極(P)が発生し、この自発分極(P)が試料全体の広範囲で同方向に揃うことで、テラヘルツ波の分光スペクトルに出現する、大きな電気双極子由来の吸収ピークである。
ここで、例えば、上記のように塩溶液を作用させる等してコラーゲンに分子の収縮を発生させて、テラヘルツ波の分光スペクトルに出現する吸収ピークを指標として、コラーゲンの変性度を評価する方法について説明する。
具体的手順としては、(1)標準試料の標準塩溶液による処理後のテラヘルツ波の分光スペクトルを測定し標準の吸収ピークとする、(2)検体試料の標準塩溶液による処理後のテラヘルツ波の分光スペクトルを測定し吸収ピークを得る、(3)(1)で得られた標準の吸収ピークと(2)で得られた検体試料の吸収ピークを比較し、例えば、ピーク面積の割合で検体試料の変性度を評価する、という手順が挙げられる。
上記においてコラーゲンに分子の収縮を発生させる処理(以下、「収縮処理」ということもある)を、塩溶液、特に塩化ナトリウム水溶液の処理を例に説明したが、該処理としては塩溶液による処理に限定されない。このような収縮処理としては、塩溶液による処理の他に熱処理が挙げられる。
また、上記コラーゲンの収縮処理に使用可能な塩溶液の塩としては、コラーゲン分子の周囲に微結晶が生成することで、分子を収縮させ、分子に部分的に自発分極を発生させることが可能な塩であれば特に制限されないが、具体的には、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、銅、鉄、アルミニウム、リチウム等の金属イオンやアンモニウムイオン等の陽イオンと、塩素イオン、臭素イオン、炭酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン等の酸由来の陰イオンとで得られる塩等が挙げられる。これらのなかでも塩化ナトリウム、臭化リチウム等が好ましい。塩は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。塩溶液に用いる溶媒としては、水を主体とする水系溶媒が好ましい。塩溶液の濃度は、処理するコラーゲンに応じて適宜選択される。
コラーゲンにおいては、上記の通り正常な状態では規則正しい3重らせん配列を示すが、何らかの作用により変性が起こり部分的に規則正しい配列が行われていないコラーゲンでは、塩溶液等による処理により自発分極を起こす箇所が全体として減少しテラヘルツ波の分光スペクトルの収縮による吸収ピーク、具体的には、168cm−1(5THz)付近の吸収ピークが小さくなることがわかっている。コラーゲンの変性としては、例えば、熱変性によるゼラチン化や酵素反応による低分子化等が挙げられる。
このような本発明の評価方法をコラーゲンに適用した場合、例えば、化粧品の分野では、肌への浸透力と、コラーゲンの分子レベルでの配列状態のようなコラーゲンの形態との間には相関関係がある可能性が高く、原料の品質検査に用いるなど、商品の製造ラインにおいてコラーゲンの形態を確認する手段として有用である。さらに食品においてもコラーゲンの形態と鮮度、添加物としての扱いやすさなどの関連を、それぞれの業者がデータベース化することにより、製品の品質向上にも役立てることができる。
以上、コラーゲンを例にして本発明の評価方法を説明したが、無機化合物の結晶配列構造に、有機化合物が作用することで、結晶状態に歪みが生じ、その歪みが生じる前後で得られるテラヘルツ分光スペクトル間に出現する、結晶配列状態の構造の歪みに起因する非対称振動由来の吸収の変化を、生体鉱物を主体として有機化合物を含む硬組織の1種である甲イカの骨を例として説明する。
甲イカの骨は、以下の実施例1に示す通り炭酸カルシウムのアラゴナイト結晶にキチン質がコーティングされた構成を有する。したがって、甲イカの骨のテラヘルツ分光スペクトルには、コラーゲンの例とは異なり未処理の状態において、アラゴナイト結晶の結晶配列状態にキチン質が作用して歪みが発生し、その歪みに起因する非対称振動由来の吸収が現れている。図2に実線で示される約2.15THzに相当な強度の吸収ピークを有する分光スペクトルが、未処理の甲イカの骨、すなわちアラゴナイト結晶にキチン質がコーティングされた状態の測定結果である。
ここで、甲イカの骨において、アラゴナイト結晶に対するキチン質の影響のないテラヘルツ分光スペクトルを得、上記で得られた分光スペクトルと比較すれば、アラゴナイト結晶に対するキチン質の影響を確認することができる。そこで、甲イカの骨において、アラゴナイト結晶を覆っているキチン質を除去する処理として、有機化合物を除去可能な温度で適度な時間処理する、例えば、350℃、2時間処理する熱処理を行う。結果として、具体的には、図2の破線で示されるようにキチン質が除去されて2THz付近の吸収ピークは減少する。
このように、テラヘルツ分光スペクトルを用いることで、甲イカの骨におけるアラゴナイト結晶とキチン質の状態により甲イカの骨としての機能の評価が可能となる。この場合、具体的には、(1)アラゴナイト結晶にキチン質がコーティングされた状態から、キチン質を除去する処理を行い、テラヘルツ分光スペクトルを測定した標準分光スペクトルを準備する、(2)次いで、検体試料についてテラヘルツ分光スペクトルを得る、(3)(2)で得られた検体試料のテラヘルツ分光スペクトルと(1)で準備したテラヘルツ分光スペクトルの差で、アラゴナイト結晶へのキチン質のコーティング状態を評価する等の方法が挙げられる。
上記においてアラゴナイト結晶表面のキチン質を除去する処理について、熱処理を例に説明したが、該除去処理としては熱処理に限定されない。例えば、アラゴナイト結晶に、反応、作用せずに、キチン質のみを溶解、除去可能な有機溶媒等による処理により、アラゴナイト結晶表面からキチン質を除去してもよい。アラゴナイト結晶とキチン質の組合せ以外の生体鉱物と有機化合物の組合せにおいても、有機化合物の除去に有機溶媒を使用する場合には、上記観点により有機溶媒を適宜選択する。
上記甲イカの骨の評価方法の例は、広く生体鉱物と有機化合物からなる硬組織の評価に適用可能である。また、例えば、甲イカの骨を水熱処理すること等で作製されるハイドロキシアパタイトを単独でまたはこれとコラーゲンを組合せて用いる足場材料の機能を評価する方法として使用できる。足場材料では、ハイドロキシアパタイトが単独で骨の欠損部分に移植されて骨が再生する足場となる場合や、ハイドロキシアパタイトにコラーゲン処理をした材料が骨の欠損部分に移植されて骨が再生する足場となる場合等がある。
ハイドロキシアパタイトを単独で用いる場合には、例えば、以下の評価方法が挙げられる。複数のハイドロキシアパタイト材料について、その一部を検体として用いハイドロキシアパタイトにコラーゲン処理を施してその前後でテラヘルツ分光スペクトルを測定する。各ハイドロキシアパタイトを例えば実験動物等の骨に移植しその経過を観察し、テラヘルツ分光スペクトルの結果と再生の結果の関係を調べる。実際に用いるハイドロキシアパタイトについての評価は、その一部を検体として用いハイドロキシアパタイトにコラーゲン処理を施してその前後でテラヘルツ分光スペクトルを測定し、既に得られた分光スペクトルと再生の結果の関係に参照して可、不可を判定する。なお、ハイドロキシアパタイトとコラーゲンを組合せた足場の場合にも同様の評価方法が適用可能である。
以上、コラーゲンや生体鉱物を例に本発明の評価方法について説明したが、本発明の評価方法はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨に反しない限度において、また必要に応じて、その構成を適宜変更することができる。また、評価対象の材料としても、これらに限定されず、有機化合物を主体として含む材料、無機化合物を主体とし有機化合物を含む材料または有機化合物と組合せて用いる無機化合物からなる材料であり、この材料を主体として構成する化合物が材料中で分子レベルで配列状態を形成している材料に広く適用可能である。
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
生体鉱物における有機化合物との相互作用の評価例として、甲イカの骨を試料として用い、試料の状態を熱処理により変化させることで、有機化合物がキチン質であり、無機結晶が炭酸カルシウムのアラゴナイト結晶である場合の両化合物間の相互作用が変化することを確認するとともに、これを検体試料の状態(機能)を評価する指標とする評価方法について検討した。
(試料の調製)
層状に構成されている甲イカの骨から内側の層(厚さ:0.7mm)を採取し、さらに約15×15mmのサイズに切断して試料とした。
(測定装置)
テラヘルツ時間領域分光装置(RS−01020、栃木ニコン社製)を用いた。
(測定方法)
甲イカの骨の成長方向とテラヘルツ電界方向の成す角度θが0°になるようにしてテラヘルツ時間領域分光装置により1〜4THzの領域で測定を行った。
(測定および評価)
甲イカの骨は、炭酸カルシウムのアラゴナイト結晶を主体として、キチン質を4.5質量%程度含有する組成である。詳細にはアラゴナイト結晶にキチン質がコーティングされた状態であり、この状態は走査型電子顕微鏡画像により確認されている。キチン質は直鎖型の含窒素多糖高分子であり、概ね350℃以上の熱処理により取り除くことが可能である。
上記甲イカの骨の試料を350℃で加熱し、アラゴナイト結晶にコーティングされたキチン質を取り除く過程において、具体的には、未処理(非加熱)(A)、1時間後(B)、および2時間後(C)のテラヘルツ領域における電磁波の吸光度データを取得した。併せて光学顕微鏡画像によりアラゴナイト結晶表面のキチン質の状態を確認した。3つの吸光度データの結果を併せて図2に示す。これら3つの吸光度データと光学顕微鏡画像から以下のことが言える。
(A)未処理(非加熱)の甲イカの骨におけるキチン質とアラゴナイト結晶の関係
キチン質がコーティングされているアラゴナイト結晶からなる未処理すなわち非加熱の甲イカの骨の試料においては、アラゴナイト結晶におけるキチン質による結晶構造の歪みが大きく、その歪みに起因する非対称振動由来の吸収が、テラヘルツ領域の電磁波の吸光度データにおいて、2.15THz付近をピークとして現れている。
(B)加熱1時間後の甲イカの骨におけるキチン質とアラゴナイト結晶の関係
350℃で1時間処理後の試料においては、アラゴナイト結晶表面のキチン質がある程度取り除かれていることが光学顕微鏡画像で確認できた。一方、テラヘルツ領域の電磁波の吸光度データにおいては、2.27THz付近をピークとする吸収が、ピーク面積、ピーク最大強度ともに上記未処理の場合に比べて小さく現れている。これは、キチン質がある程度取り除かれたことにより、アラゴナイト結晶におけるキチン質が存在することによる結晶構造の歪みが上記未処理の場合に比べて減少し、その歪みに起因する非対称振動由来の吸収が小さくなったためである。
(C)加熱2時間後の甲イカの骨におけるキチン質とアラゴナイト結晶の関係
さらに350℃で2時間処理後の試料においては、アラゴナイト結晶表面のキチン質が殆ど取り除かれていることが光学顕微鏡画像で確認できた。一方、テラヘルツ領域の電磁波の吸光度データにおいては、2.32THz付近をピークとする吸収が、ピーク面積、ピーク最大強度ともに上記1時間処理の場合に比べても各段に小さく現れている。これは、キチン質が殆ど取り除かれたことにより、アラゴナイト結晶におけるキチン質が存在することによる結晶構造の歪みが上記1時間処理の場合に比べても大きく減少し、その歪みに起因する非対称振動由来の吸収が殆どなくなったためである。
これらの結果から、甲イカの骨について、キチン質を取り除くような加熱処理を行った場合に、加熱時間が1時間、2時間と増え、キチン質の量が減るにしたがい、試料をテラヘルツ領域の電磁波で測定して得られた吸光度データにおいて、吸収のピーク面積およびピーク最大強度は段階的に小さくなり、また、ピーク周波数が段階的に高周波側にシフトしていることがわかる。この結果から、キチン質とアラゴナイト結晶の間に弱い作用が働いていたことが確認できた。なお、キチン質が存在する状況では、角度θが0°の場合に、上記の変化が顕著に現れる。θが他の角度ではこの変化が小さいか観られないことから、甲イカの骨の成長方向においてより配向性がよいことが明らかである。
この結果を利用して、甲イカの骨について、検体試料を上記角度θが0°となるようにしてテラヘルツ分光データを取得して、上記キチン質が除去された処理後のテラヘルツ分光データと比較することにより、検体試料のアラゴナイト結晶上のキチン質の状態が評価できると考えられる。
[実施例2]
各種コラーゲンシートにおいて、コラーゲン分子の収縮を誘因する処理として塩溶液を作用させる処理を用いて、その処理の前後におけるテラヘルツ分光スペクトル間に出現する収縮に起因する非対称振動由来の吸収の変化を指標としてコラーゲンの変性度合を評価する方法を検討した。
(測定装置)
フーリエ変換テラヘルツ分光装置(VIR−F、日本分光社製)を用いた。
(試料)
コラーゲンシートとして、テラピアの皮由来のコラーゲンシート、牛の皮膚由来のコラーゲンシート、ラットの尾由来のコラーゲンシート(いずれもAtree社製、サイズ(乾燥時):縦、横、約10mm、厚さ約0.02mm)を用いた。
(1)塩溶液による分子構造変化の確認
コラーゲンシートを処理する塩溶液として、10倍濃縮のPBS溶液(リン酸緩衝生理食塩水)を用いて分子構造に及ぼす変化を確認した。以下、用いた10倍濃縮のPBS溶液を「塩溶液A」という。
上記3種のコラーゲンシートのそれぞれを塩溶液Aに浸漬処理し、乾燥させてコラーゲンシートの収縮サンプルを作製した。乾燥は、自然乾燥(湿度:10%以下)で行った。塩溶液Aに浸漬する前、後の各コラーゲンシートについて、上記テラヘルツ分光装置により、波数:100〜600cm−1、周波数:3〜18THz領域の吸収を測定した。結果を、塩溶液Aに浸漬前については図3(a)に、塩溶液Aに浸漬、乾燥後については図3(b)に示す。
図3(b)からわかるように、各コラーゲンシートを塩溶液Aに浸漬後、乾燥し、塩の作用によって収縮させたコラーゲンでは、化学的安定性を失い、テラヘルツ分光スペクトルにおいて、約168cm−1(約5THz)に新たな吸収ピークが出現している。この吸収のピーク周波数はアミノ酸の組成によらないことから、コラーゲンの中心に共通して繰返し配列しているグリシンに、個々のレベルで図1に示すような自発分極(P)が発生し、この自発分極(P)が試料全体の広範囲で同方向に揃うことで、テラヘルツ波の分光スペクトルに出現した大きな電気双極子由来の吸収ピークであると考えられる。
なお、図3(c)には、テラピアの皮由来のコラーゲンシートにおいて、塩溶液Aに浸漬処理する方法は同様であるが、乾燥方法を変えることで、コラーゲン分子内に形成される塩化ナトリウムの微結晶の大きさを調整し、コラーゲンの配列構造の歪み量を調整することで吸収ピークの大きさを調整する例を示した。具体的には、乾燥方法を自然乾燥(湿度:約70%)と真空乾燥に変えた以外は全く同じ条件で塩溶液Aによる収縮処理を行った後のテラピアの皮由来のコラーゲンシートの吸光度データを図3(c)に示した。
図3(c)から、真空乾燥(点線)においては、乾燥が急速に行われるため、同じ浸漬処理であっても自然乾燥(実線)の場合に比べて塩化ナトリウムの結晶を小さくすることができ、これによりテラヘルツ波の分光スペクトルにおける上記約168cm−1(約5THz)の吸収ピークを強度、面積共に大きくすることが可能であることがわかる。したがって、必要に応じて乾燥方法を選択することで、検体試料の変性度の評価の精度を調整することが可能となる。すなわち、変性度の大きな検体試料においては収縮処理の精度を上げることが要求されることがあり、そのような場合に乾燥方法を変更することで対応することができる。なお、同様の調整は、塩溶液の種類や濃度を変えることによっても実行可能である。
(2a)ゼラチン化による変性度を評価する方法
上記(1)のようにしてコラーゲンを塩溶液処理することで、テラヘルツ分光スペクトルに出現する吸収ピークを利用して、コラーゲンの変性度を評価する方法として、コラーゲンを加熱してゼラチン化した際の変性度を評価する方法を例に検討した。ここでは、通常のコラーゲンと加温してゼラチン化したコラーゲン線維を区別する方法を検討した。さらに、ゼラチン化の程度、すなわちコラーゲンの変性度を、上記(1)のコラーゲンを塩溶液処理することで、テラヘルツ分光スペクトルに出現する吸収ピークを利用して評価する方法について考察した。
テラピアの皮由来のコラーゲンシートを純水中で30℃まで加熱し15分間保持して、ゼラチン化を進行させた試料を作製した。なお、魚類由来のコラーゲンは23℃以上でゼラチン化が起こり変性することが知られている。コラーゲンは由来により温度は異なるが、このように加温することでゼラチン化することが知られている。ゼラチン化したコラーゲンにおいては、グリシンのNHとプロリン等のC=Oの水素結合は外れ、3重構造ではなくなり、これと同時に、配向性やらせん構造の対称性を失う。そこで、この状態を(1)のコラーゲンを塩溶液処理することでテラヘルツ分光スペクトルに出現する吸収ピークを利用して、上記正常なコラーゲンの場合と比較した。
上記で得られたテラピアの皮由来のコラーゲンシートについてゼラチン化を進行させた試料を、上記(1)と同様に塩溶液Aに浸漬し、乾燥させた試料をテラヘルツ分光装置により、上記同様に測定した。なお乾燥は、真空乾燥で行った。得られたテラヘルツ分光スペクトル(点線)を上記の正常なテラピアの皮由来のコラーゲンシートを塩溶液Aに浸漬、真空乾燥後に得られたテラヘルツ分光スペクトル(実線)と共に図4に示す。図4に示す通り、正常なテラピアの皮由来のコラーゲンシートを塩溶液Aに浸漬、真空乾燥した場合に比べ、ゼラチン化を進行させたコラーゲンシートを塩溶液Aに浸漬、真空乾燥した場合の方が、テラヘルツ分光スペクトルにおいて、約168cm−1(約5THz)に生じる吸収ピークの強度、面積が共に小さくなることが確認された。つまり、コラーゲンのゼラチン化による3重構造の状態変化を、塩溶液の処理に伴いテラヘルツ分光スペクトルに出現する吸収ピークの差を利用して感度よく判別できることが確認できた。
なお、例えば、テラピアの皮由来のコラーゲンシートについて、コラーゲンのゼラチン化による変性度合いが異なる複数の試料を準備し、上記方法により同様の評価を行えば、正常なテラピアの皮由来のコラーゲンシートの塩溶液の処理に伴いテラヘルツ分光スペクトルに出現する吸収ピークと各試料を同様に処理した際に出現する吸収ピークとの差に相違が観られ、その差の相違により変性度合いを評価できると考える。
(2b)低分子化(無配向化)による変性度を評価する方法
上記(1)のようにしてコラーゲンを塩溶液処理することで、テラヘルツ分光スペクトルに出現する吸収ピークを利用して、コラーゲンの変性度を評価する方法として、コラーゲンを低分子化して無配向化した際の配向度(変性度)を評価する方法を例に検討した。
コラーゲンを酵素反応により低分子化したコラーゲンペプチド(Mw:5,000)に塩溶液を作用して乾燥し得られた無配向のコラーゲンペプチド試料A(Atree社製、サイズ(乾燥時):φ10mm、厚さ:約0.3mm)、およびコラーゲン(Mw:300,000)に塩溶液を作用して乾燥し得られたコラーゲン試料B(Atree社製、サイズ(乾燥時):φ10mm、厚さ:約0.02mm)についてテラヘルツ分光装置により、上記同様の分光スペクトルを測定した。
なお、コラーゲンペプチド試料Aおよびコラーゲン試料Bの作製方法については次の通りである。
テラピアの皮由来のコラーゲンペプチド(Mw:5,000)を濃度が10%となるように溶媒に溶解してコラーゲンペプチド溶液を作製した。次いで、このコラーゲンペプチド溶液の1mlに10倍濃縮のPBS溶液を0.03ml配合して混合液とした。得られた混合液を、乾燥後にφ10mmの円形状となるように自然乾燥することで厚さ約0.3mmのコラーゲンペプチド試料Aを得た。
上記において、テラピアの皮由来のコラーゲンペプチド(Mw:5,000)をテラピアの皮由来のコラーゲン(Mw:300,000)に変え、コラーゲン溶液の濃度を1%とした以外は同様にして、φ10mm、厚さ約0.02mmのコラーゲン試料Bを得た。
得られたテラヘルツ分光スペクトルをコラーゲンペプチド試料Aについては実線で、コラーゲン試料Bについては破線で図5に示す。
図5に示す通り、正常なテラピアの皮由来のコラーゲン試料の場合には、テラヘルツ分光スペクトルにおいて、約168cm−1(約5THz)に生じる吸収ピークが、低分子化した場合には、全く確認されないことがわかった。コラーゲン濃度に対する塩の濃度をコラーゲンシートと同等に調整した場合にも、同じ結果となった。つまり、コラーゲンの低分子化による無配向化の状態変化を、塩溶液の処理に伴いテラヘルツ分光スペクトルに出現する吸収ピークを利用して判別できることが確認できた。この結果より、コラーゲンとこれを低分子化したコラーゲンペプチドを区別することが可能と言える。
なお、例えば、テラピアの皮由来のコラーゲンについて、コラーゲンの低分子化の程度(変性(分解)度)が異なる複数の試料を準備し、上記方法により同様の評価を行えば、正常なテラピアの皮由来のコラーゲンの塩溶液の処理に伴いテラヘルツ分光スペクトルに出現する吸収ピークと各試料を同様に処理した際に出現する吸収ピークとの差に相違が観られ、その差の相違により低分子化の程度(変性度)を評価できると考える。
医学分野においては、将来的に硬組織や再生医療に使用される足場材料の配向性や分子挙動の評価を行う方法として、本発明を応用できる可能性がある。また、細胞外基質の中でもコラーゲンは、化粧品・食品など、様々な分野で使用される材料であるため、様々な産業界へ直接貢献できる。さらに、同様に有機化合物を主体として含む材料、無機化合物を主体とし有機化合物を含む材料または有機化合物と組合せて用いる無機化合物からなる材料であり、この材料を主体として構成する化合物が材料中で分子レベルで配列状態を形成している材料に広く適用可能であり、有機・無機絶縁材料、エレクトロニクス材料、フォトニクス材料、情報通信関係材料等での応用が期待できる。

Claims (6)

  1. 有機化合物を主体として含む材料、無機化合物を主体とし有機化合物を含む材料または有機化合物と組合せて用いる無機化合物からなる材料であり、前記材料を主体として構成する化合物が該材料中で分子レベルで配列状態を形成している材料に、テラヘルツ波を照射して測定される周波数0.1〜10THzの領域における分光スペクトルを用いて、該材料が有する機能を評価する方法であって、
    前記材料に所定の処理を加える前後に前記分光スペクトルを測定し、得られた分光スペクトル間に出現する、前記配列状態の構造の歪みに起因する非対称振動由来の吸収の変化を指標として、前記機能を評価することを特徴とするテラヘルツ分光による材料の評価方法。
  2. 前記配列状態が、高分子化合物の配向状態、結晶性化合物の結晶配列状態、または液晶性化合物の配向状態である請求項1記載の材料の評価方法。
  3. 前記処理が、−40〜200℃の加熱または冷却処理、圧力による処理、アルカリ性または酸性の溶液による処理、塩溶液または有機溶媒による処理、前記材料を主体として構成する化合物以外の有機化合物または無機化合物の添加による処理からなる群から選ばれる方法により行われる請求項1または2記載の材料の評価方法。
  4. 前記材料が、臨界表面張力が35mN/m以上の高分子化合物を主体とする材料である請求項1〜3のいずれか1項に記載の材料の評価方法。
  5. 前記材料がコラーゲンであり、前記処理がコラーゲン分子の収縮を誘因する処理であって、前記分光スペクトル間に出現する収縮に起因する非対称振動由来の吸収の変化を指標としてコラーゲンの変性度合を評価する請求項1〜4のいずれか1項に記載の材料の評価方法。
  6. 前記材料がリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、酸化鉄および酸化ケイ素からなる群から選ばれる無機化合物を主成分として含有する生体鉱物または該生体鉱物を主体とし有機化合物を含む材料であり、前記処理が前記材料が含有する有機化合物に対する処理または有機化合物の添加であって、前記分光スペクトル間に出現する、前記有機化合物との相互作用による生体鉱物の配列状態の構造変化に起因する非対称振動由来の吸収の変化を指標として、前記材料の機能を評価する請求項1〜4のいずれか1項に記載の機能性材料の評価方法。
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