JP2013014829A - 溶融めっき冷延鋼板の製造方法 - Google Patents

溶融めっき冷延鋼板の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】延性、加工硬化性、伸びフランジ性に優れ、引張強度が750 MPa以上の高張力冷延鋼板を製造する。
【解決手段】質量%で、C:0.10%超0.25%未満、Si:0.50%超2.0%未満、Mn:1.50%超3.0%以下、P:0.050%未満、S:0.010%以下、sol. Al:0.50%以下およびN:0.010%以下である化学組成を有するスラブに、最終1パスの圧下量が15%超で(Ar3点+30℃)以上かつ810℃以上の温度域で圧延を完了する熱間圧延を施し、圧延完了後0.6秒以内に720℃以下まで冷却し、400℃超の温度域で巻取るか、400℃以下の温度域で巻取って300℃以上Ac1点未満で焼鈍を施す。得られた熱延鋼板を冷間圧延後、(Ac3点−40℃)以上で均熱し、550℃以下300℃以上まで冷却し、30秒以上保持して焼鈍し、溶融めっきを施し、主相が低温変態生成相で第二相に残留オーステナイトを含む金属組織を鋼板が有する溶融めっき冷延鋼板を製造する。
【選択図】 なし

Description

本発明は、溶融めっき冷延鋼板の製造方法に関する。より詳しくは、プレス加工等により様々な形状に成形して利用される溶融めっき冷延鋼板、特に、延性、加工硬化性および伸びフランジ性に優れた高張力溶融めっき冷延鋼板の製造方法に関する。
産業技術分野が高度に細分化した今日、各技術分野において用いられる材料には、特殊かつ高度な性能が要求されている。例えば、プレス成形して使用される鋼板についても、プレス形状の多様化に伴い、より優れた成形性が必要とされている。また、高い強度が要求されるようになり、高張力鋼板の適用が検討されている。特に、自動車用鋼板に関しては、地球環境への配慮から、車体を軽量化して燃費を向上させるために、薄肉高成形性の高張力鋼板の需要が著しく高まってきている。プレス成形においては、使用される鋼板の厚さが薄いほど、割れやしわが発生しやすくなるため、より延性や伸びフランジ性に優れた鋼板が必要とされる。しかし、これらのプレス成形性と鋼板の高強度化とは、背反する特性であり、これらの特性を同時に満足させることは困難である。
これまでに、高張力冷延鋼板のプレス成形性を改善する方法として、ミクロ組織の微細粒化に関する技術が多く提案されている。例えば特許文献1には、熱間圧延工程においてAr3点近傍の温度域で合計圧下率80%以上の圧延を行う、極微細粒高強度熱延鋼板の製造方法が開示されており、特許文献2には、熱間圧延工程において、圧下率40%以上の圧延を連続して行う、超細粒フェライト鋼の製造方法が開示されている。
これらの技術により、熱延鋼板において強度と延性のバランスが向上するが、冷延鋼板を微細粒化しプレス成形性を改善する方法については上記特許文献に何ら記載されていない。本発明者らの検討によると、大圧下圧延によって得られた細粒熱延鋼板を母材として冷間圧延および焼鈍を行うと、結晶粒が粗大化し易く、プレス成形性に優れた冷延鋼板を得ることは困難である。特に、Ac1点以上の高温域で焼鈍することが必要な、金属組織に低温変態生成相や残留オーステナイトを含む複合組織冷延鋼板の製造においては、焼鈍時の結晶粒の粗大化が顕著であり、延性に優れるという複合組織冷延鋼板の利点を享受することができない。
特許文献3には、熱間圧延工程において、動的再結晶域での圧下を5スタンド以上の圧下パスで行う、超微細粒を有する熱延鋼板の製造方法が開示されている。しかし、熱間圧延時の温度低下を極度に低減させる必要があり、通常の熱間圧延設備で実施することは困難である。また、熱間圧延後、冷間圧延および焼鈍を行った例が示されているが、引張強度と穴拡げ性のバランスが悪く、プレス成形性が不十分である。
微細組織を有する冷延鋼板に関しては、特許文献4に平均結晶粒径が10μm以下であるフェライト中に平均結晶粒径が5μm以下である残留オーステナイトを分散させた、耐衝突安全性および成形性に優れた自動車用高強度冷延鋼板が開示されている。金属組織に残留オーステナイトを含む鋼板では、加工中にオーステナイトがマルテンサイト化することで生ずる変態誘起塑性(TRIP)により大きな伸びを示すが、硬質なマルテンサイトの生成により穴拡げ性が損なわれる。特許文献4において開示される冷延鋼板では、フェライトおよび残留オーステナイトを微細化することにより、延性および穴拡げ性が向上するとされているが、穴拡げ比は高々1.5であり、十分なプレス成形性を備えるとは言い難い。また、加工硬化指数を高めて耐衝突安全性を改善するために、主相を軟質なフェライト相とする必要があり、高い引張強度を得ることが困難である。
特許文献5には、結晶粒内に残留オーステナイトおよび/またはマルテンサイトからなる第二相を微細に分散させた、伸びおよび伸びフランジ性に優れた高強度鋼板が開示されている。しかし、第二相をナノサイズにまで微細化し結晶粒内に分散させるために、CuやNi等の高価な元素を多量に含有させ、高温で長時間の溶体化処理を行う必要があり、製造コストの上昇や生産性の低下が著しい。
特許文献6には、平均結晶粒径が10μm以下であるフェライトおよび焼戻マルテンサイト中に残留オーステナイトおよび低温変態生成相を分散させた、延性、伸びフランジ性および耐疲労特性に優れた高張力溶融亜鉛めっき鋼板が開示されている。焼戻マルテンサイトは伸びフランジ性および耐疲労特性の向上に有効な相であり、焼戻マルテンサイトを細粒化するとこれらの特性が一層向上するとされている。しかし、焼戻マルテンサイトと残留オーステナイト含む金属組織を得るためには、マルテンサイトを生成させるための一次焼鈍と、マルテンサイトを焼戻しさらに残留オーステナイトを得るための二次焼鈍が必要となり、生産性が大幅に損なわれる。
特許文献7には、熱間圧延直後に720℃以下まで急冷し600〜720℃の温度域に2秒間以上保持し、得られた熱延鋼板に冷間圧延および焼鈍を施す、微細フェライト中に残留オーステナイトが分散した冷延鋼板の製造方法が開示されている。
特開昭58−123823号公報 特開昭59−229413号公報 特開平11−152544号公報 特開平11−61326号公報 特開2005−179703号公報 特開2001−192768号公報 国際公開第2007/15541号パンフレット
上述の特許文献7において開示される技術は、熱間圧延終了後、オーステナイトに蓄積された加工歪みを解放させず、加工歪みを駆動力としてフェライト変態させることにより、微細粒組織が形成され加工性および熱的安定性が向上した冷延鋼板が得られる点において優れている。
しかし、近年のさらなる高性能化のニーズにより、高い強度と良好な延性と良好な加工硬化性と良好な伸びフランジ性とを同時に具備する溶融めっき冷延鋼板が求められようになってきた。
本発明は、そのような要請に応えるためになされたものである。具体的には、本発明の課題は、優れた延性、加工硬化性および伸びフランジ性を有する、引張強度750MPa以上の高張力溶融めっき冷延鋼板の製造方法を提供することである。
本発明者らは、高張力溶融めっき冷延鋼板の機械特性、より厳密にはめっき基材である冷延鋼板の機械特性、に影響及ぼす化学組成および製造条件の影響について鋭意検討を行った結果、次の(A)ないし(F)に述べる知見を得た。
(A)熱間圧延直後に水冷により急冷するいわゆる直後急冷プロセスを経て製造された熱延鋼板、具体的には、熱間圧延完了から0.6秒間以内に720℃以下の温度域まで急冷して製造された熱延鋼板を、冷間圧延して、焼鈍すると、焼鈍温度の上昇に伴い、溶融めっき冷延鋼板の延性および伸びフランジ性が向上するが、焼鈍温度が高すぎると、オーステナイト粒が粗大化し、焼鈍鋼板の延性および伸びフランジ性が急激に劣化する場合がある。
(B)熱間圧延の最終圧下量を上昇させると、冷間圧延後に高温で焼鈍した際に起こりうるオーステナイト粒の粗大化が抑制される。この理由は明らかではないが、(a)最終圧下量が多いほど熱延鋼板の金属組織においてフェライト分率が増加するとともにフェライトが細粒化すること、(b)最終圧下量が多いほど熱延鋼板の金属組織において粗大な低温変態生成相が減少すること、(c)フェライト粒界は、焼鈍中、フェライトからオーステナイトへの変態における核生成サイトとして機能するため、微細なフェライトが多いほど核生成頻度が上昇し、オーステナイトが細粒化すること、(d)粗大な低温変態生成相は、焼鈍中、粗大なオーステナイト粒となること、に起因すると推定される。
(C)直後急冷後の巻取工程において、巻取温度を上昇させると、冷間圧延後に高温で焼鈍した際に起こりうるオーステナイト粒の粗大化が抑制される。また、直後急冷後の巻取工程において、巻取温度を低下させて巻き取った熱延鋼板を、300℃以上、Ac1点以下の温度域で焼鈍し、その後、冷間圧延、高温で焼鈍した場合にも、オーステナイト粒の粗大化が抑制される。この理由は明らかではないが、(a)直後急冷により、熱延鋼板が細粒化するため、巻取温度の上昇に伴い、熱延鋼板中の鉄炭化物の析出量が顕著に増加すること、あるいは、直後急冷後に低温で巻き取ることにより微細なマルテンサイトが金属組織中に形成され、さらにこの熱延鋼板を焼鈍することにより微細な鉄炭化物が金属組織中に析出すること、(b)鉄炭化物は、焼鈍中、フェライトからオーステナイトへの変態における核生成サイトとして機能するため、鉄炭化物の析出量が多いほど核生成頻度が上昇し、オーステナイトが細粒化すること、(c)未固溶の鉄炭化物は、オーステナイトの粒成長を抑制するため、オーステナイトが細粒化すること、に起因すると推定される。
(D)鋼中のSi含有量が多いほど、オーステナイト粒の粗大化防止効果が強くなる。この理由は明らかではないが、(a)Si含有量の増加に伴い、鉄炭化物が微細化し数密度が増加すること、(b)これにより、フェライトからオーステナイトへの変態における核生成頻度がさらに上昇すること、(c)未固溶の鉄炭化物の増加により、オーステナイトの粒成長がさらに抑制され、オーステナイトがさらに細粒化すること、に起因すると推定される。
(E)オーステナイト粒の粗大化を抑制しながら高温で均熱して冷却すると、微細な低温変態生成相を主相とし、第二相に微細な残留オーステナイトを含んだ金属組織が得られる。
(F)この様な金属組織を有する溶融めっき冷延鋼板は、高強度でありながら良好な延性、良好な加工硬化性および良好な伸びフランジ性を示す。
以上の結果から、Siを一定量以上含有させた鋼を、最終圧下量を高めて熱間圧延した後、直後急冷し、高温でコイル状に巻取るか、あるいは低温で巻き取りかつ所定の温度で熱延板焼鈍を施した後、冷間圧延し、高温で焼鈍した後冷却することにより、主相が低温変態生成相で第二相に微細な残留オーステナイトを含み、粗大なオーステナイト粒が少ない金属組織を有する、延性、加工硬化性および伸びフランジ性に優れた溶融めっき冷延鋼板を製造することができることが判明した。
以上の知見に基づき完成した本発明は次の通りである。
(1)下記工程(A)〜(D)を有することを特徴とする、主相が低温変態生成相で第二相に残留オーステナイトを含む金属組織を備える冷延鋼板を基材とする溶融めっき冷延鋼板の製造方法:
(A)質量%で、C:0.10%超0.25%未満、Si:0.50%超2.0%未満、Mn:1.50%超3.0%以下、P:0.050%未満、S:0.010%以下、sol.Al:0.50%以下およびN:0.010%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有するスラブに、最終1パスの圧下量が15%超で(Ar3点+30℃)以上かつ810℃以上の温度域で圧延を完了する熱間圧延を施して熱延鋼板となし、前記熱延鋼板を前記圧延の完了後0.6秒間以内に720℃以下の温度域まで冷却し、400℃超の温度域で巻取る熱間圧延工程;
(B)前記熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とする冷間圧延工程;
(C)前記冷延鋼板に(Ac3点−40℃)以上の温度域で均熱処理を施した後、560℃以下300℃以上の温度域まで冷却し、該温度域で15秒以上保持する焼鈍工程;および
(D)前記焼鈍工程により得られた冷延鋼板に溶融めっきを施す溶融めっき工程。
(2)下記工程(a)〜(e)を有することを特徴とする、主相が低温変態生成相で第二相に残留オーステナイトを含む金属組織を備える冷延鋼板を基材とする溶融めっき冷延鋼板の製造方法:
(a)質量%で、C:0.10%超0.25%未満、Si:0.50%超2.0%未満、Mn:1.50%超3.0%以下、P:0.050%未満、S:0.010%以下、sol.Al:0.50%以下およびN:0.010%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有するスラブに、最終1パスの圧下量が15%超で(Ar3点+30℃)以上かつ810℃以上の温度域で圧延を完了する熱間圧延を施して熱延鋼板となし、前記熱延鋼板を前記圧延の完了後0.6秒間以内に720℃以下の温度域まで冷却し、400℃以下の温度域で巻取る熱間圧延工程;
(b)前記熱延鋼板に300℃以上Ac1点未満の温度域で焼鈍を施す熱延板焼鈍工程;
(c)前記熱延板焼鈍工程により得られた熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とする冷間圧延工程;
(d)前記冷延鋼板に(Ac3点−40℃)以上の温度域で均熱処理を施した後、560℃以下300℃以上の温度域まで冷却し、該温度域で15秒以上保持する焼鈍工程;および
(e)前記焼鈍工程により得られた冷延鋼板に溶融めっきを施す溶融めっき工程。
(3)前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Ti:0.040%未満、Nb:0.030%未満およびV:0.50%以下からなる群から選択される1種または2種以上を含有する上記(1)または(2)に記載の溶融めっき冷延鋼板の製造方法。
(4)前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Cr:1.0%以下、Mo:0.20%未満およびB:0.010%以下からなる群から選択される1種または2種以上を含有する上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の溶融めっき冷延鋼板の製造方法。
(5)前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.010%以下、Mg:0.010%以下、REM:0.050%以下およびBi:0.050%以下からなる群から選択される1種または2種以上を含有する上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の溶融めっき冷延鋼板の製造方法。
本発明によれば、プレス成形などの加工に適用できる十分な延性、加工硬化性および伸びフランジ性を有する高張力溶融めっき冷延鋼板を製造することができる。したがって、本発明は自動車の車体軽量化を通じて地球環境問題の解決に寄与できるなど産業の発展に寄与するところ大である。
本発明に係る溶融めっき冷延鋼板の製造方法におけるめっき基材である冷延鋼板の金属組織および化学組成ならびにその溶融めっき冷延鋼板を効率的、安定的かつ経済的に製造しうる製造方法における圧延、焼鈍条件、めっき条件等について以下に詳述する。
1.金属組織
本明細書において、溶融めっき冷延鋼板の金属組織とは、めっき基材である冷延鋼板のそれである。本発明の溶融めっき冷延鋼板は、主相が低温変態生成相であり第二相に残留オーステナイトを含む金属組織を有する。これは、引張強度を保ちながら、延性、加工硬化性および伸びフランジ性を向上させるのに好適であるからである。主相が、低温変態生成相ではないポリゴナルフェライトであると、引張強度および伸びフランジ性の確保が困難となる。
主相とは体積率が最大である相または組織を意味し、第二相とは主相以外の相および組織を意味する。
低温変態生成相とは、マルテンサイトやベイナイトといった低温変態により生成される相および組織をいう。これら以外の低温変態生成相として、ベイニティックフェライトが挙げられる。ベイニティックフェライトは、転位密度が高い点からポリゴナルフェライトと区別され、内部または境界に鉄炭化物が析出していない点からベイナイトと区別される。ベイニティックフェライトには、所謂ラス状または板状のベイニティックフェライトと、塊状のグラニュラーベイニティックフェライトを含む。この低温変態生成相は、2種以上の相および組織、具体的にはマルテンサイトとベイニティックフェライトとを含んでいてもよい。低温変態生成相が2種以上の相および組織を含む場合は、これらの相および組織の体積率の合計を低温変態生成相の体積率とする。
延性を向上させるために、残留オーステナイトの全組織に対する体積率は4.0%超であることが好ましい。さらに好ましくは6.0%超、特に好ましくは8.0%超、最も好ましくは10.0%超えである。一方、残留オーステナイトの体積率が過剰であると伸びフランジ性が劣化する。したがって、残留オーステナイトの体積率は25.0%未満とすることが好ましい。さらに好ましくは18.0%未満、特に好ましくは16.0%未満、最も好ましくは14.0%未満である。
低温変態生成相を主相とし第二相に残留オーステナイトを含む金属組織をもつ溶融めっき冷延鋼板では、残留オーステナイトを細粒化すると延性、加工硬化性および伸びフランジ性が著しく向上するので、残留オーステナイトの平均粒径を0.80μm未満とすることが好ましい。0.70μm未満とすることはさらに好ましく、0.60μm未満とすることは特に好ましい。残留オーステナイトの平均粒径の下限は特に限定しないが、0.15μm以下に微細化するためには、熱間圧延の最終圧下量を非常に高くする必要があり、製造負荷が著しく高まる。したがって、残留オーステナイトの平均粒径の下限は0.15μm超とすることが好ましい。
低温変態生成相を主相とし第二相に残留オーステナイトを含む金属組織をもつ溶融めっき冷延鋼板では、残留オーステナイトの平均粒径が小さくても、粗大な残留オーステナイト粒が多く存在すると、加工硬化性および伸びフランジ性が損なわれ易い。したがって、粒径が1.2μm以上である残留オーステナイト粒の数密度は3.0×10−2個/μm2以下とすることが好ましい。この数密度は2.0×10−2個/μm2以下であればさらに好ましく、1.8×10−2個/μm2以下であれば特に好ましく、1.6×10−2個/μm2以下であれば最も好ましい。
延性と伸びフランジ性のバランスをさらに向上させるためには、残留オーステナイトの平均炭素濃度は0.80%以上とすることが好ましい。さらに好ましくは0.84%以上である。一方、残留オーステナイトの平均炭素濃度が過剰になると、伸びフランジ性が劣化する。したがって、残留オーステナイトの平均炭素濃度は1.7%未満が好ましい。さらに好ましくは、1.6%未満、より好ましくは1.4%未満、特に好ましくは1.2%未満である。
延性および加工硬化性をさらに向上させるために、第二相に残留オーステナイト以外にポリゴナルフェライトを含むことが好ましい。ポリゴナルフェライトの全組織に対する体積率は2.0%超とすることが好ましい。さらに好ましくは8.0%超、特に好ましくは13.0%超である。一方、ポリゴナルフェライトの体積率が過剰になると、伸びフランジ性が劣化する。したがって、ポリゴナルフェライトの体積率は27.0%未満とすることが好ましい。さらに好ましくは24.0%未満、特に好ましくは18.0%未満である。
引張強度および加工硬化性を高めるために、低温変態生成相はマルテンサイトを含むことが好ましい。この場合、マルテンサイトの全組織に対する体積率は1.0%超とすることが好ましい。さらに好ましくは2.0%超である。一方、マルテンサイトの体積率が過剰になると伸びフランジ性が劣化する。このため、組織全体に占めるマルテンサイトの体積率は15.0%未満とすることが好ましい。さらに好ましくは10.0%未満、特に好ましくは8.0%未満、最も好ましくは6.0%未満である。
本発明に係る溶融めっき冷延鋼板の金属組織(基材冷延鋼板の金属組織)は、次のようにして測定する。すなわち、低温変態生成相およびポリゴナルフェライトの体積率は、溶融めっき鋼板から試験片を採取し、圧延方向に平行な縦断面を研磨し、ナイタールで腐食処理した後、鋼板表面(めっき面と基材鋼板との界面、以下も同様)から板厚の1/4深さ位置においてSEMを用いて金属組織を観察し、画像処理により、低温変態生成相とポリゴナルフェライトの面積率を測定し、面積率は体積率と等しいとしてそれぞれの体積率を求める。
残留オーステナイトの体積率および平均炭素濃度は、溶融めっき鋼板から試験片を採取し、鋼板表面から板厚の1/4深さ位置まで圧延面を化学研磨し、XRD用いて、それぞれX線回折強度および回折角を測定して求める。
残留オーステナイト粒の粒径および残留オーステナイトの平均粒径は、次のようにして測定する。すなわち、溶融めっき鋼板から試験片を採取し、圧延方向に平行な縦断面を電解研磨し、鋼板表面から板厚の1/4深さ位置においてEBSPを備えたSEMを用いて金属組織を観察する。面心立方晶型の結晶構造からなる相(fcc相)として観察され、母相に囲まれた領域を一つの残留オーステナイト粒とし、画像処理により、残留オーステナイト粒の数密度(単位面積あたりの粒数)および個々の残留オーステナイト粒の面積率を測定する。視野中で個々の残留オーステナイト粒が占める面積から個々のオーステナイト粒の円相当直径を求め、それらの平均値を残留オーステナイトの平均粒径とする。
EBSPによる組織観察では、板厚方向に50μm以上で圧延方向に100μm以上の大きさの領域において、0.1μm刻みで電子ビームを照射して相の判定を行う。得られた測定データの内、信頼性指数(Confidence Index)が0.1以上のものを有効なデータとして粒径測定に用いる。また、測定ノイズにより残留オーステナイトの粒径が過小に評価されることを防ぐため、円相当直径が0.15μm以上の残留オーステナイト粒のみを有効な粒として、平均粒径の算出を行う。
なお、本発明では、基材である鋼板とめっき層との境界から基材である鋼板の板厚の1/4深さ位置において、上述の金属組織を規定する。
以上の金属組織上の特徴に基づいて実現されうる機械特性として、本発明に係る方法で製造される溶融めっき冷延鋼板は、衝撃吸収性を確保するために、圧延方向と直交する方向における引張強度(TS)が750MPa以上であることが好ましく、850MPa以上であればさらに好ましく、950MPa以上であれば特に好ましい。一方、延性を確保するために、TSは1180MPa未満であることが好ましい。
プレス成形性の観点から、圧延方向と直交する方向の全伸び(El0)を下記式(1)に基づいて板厚1.2mm相当の全伸びに換算した値をEl、日本工業規格JIS Z2253に準拠し歪み範囲を5〜10%とし5%と10%の2点の公称歪みおよびこれらに対応する試験力を用いて算出される加工硬化指数をn値、日本鉄鋼連盟規格JFST1001に準拠して測定される穴拡げ率をλとしたとき、TS×Elの値が18000MPa%以上、TS×n値の値が150MPa以上、TS1.7×λの値が4500000MPa1.7%以上、(TS×El)×7×103+(TS1.7×λ)×8の値が180×106以上であることが好ましい。
El=El0×(1.2/t00.2 ・・・ (1)
ここで、式中のEl0はJIS5号引張試験片を用いて測定された全伸びの実測値を表し、t0は測定に供したJIS5号引張試験片の板厚を表し、Elは板厚が1.2mmである場合に相当する全伸びの換算値である。
TS×Elは強度と全伸びのバランスから延性を評価するための指標であり、TS×n値は強度と加工硬化指数のバランスから加工硬化性を評価するための指標であり、TS1.7×λは強度と穴拡げ率のバランスから穴拡げ性を評価するための指標である。TS×El)×7×103+(TS1.7×λ)×8は伸びと穴広げ性の複合した成形性、いわゆる伸びフランジ成形性を評価するための指標である。
TS×Elの値が20000MPa%以上、TS×n値の値が160MPa以上、TS1.7×λの値が5500000MPa1.7%以上、(TS×El)×7×103+(TS1.7×λ)×8の値が190×106以上であることがさらに好ましい。特に好ましくは(TS×El)×7×103+(TS1.7×λ)×8の値が200×106以上である。
加工硬化指数は、自動車部品をプレス成形する際に生じる歪みが5〜10%程度であることから、引張試験における歪み5〜10%に対するn値で表した。鋼板の全伸びが高くても、n値が低い場合には自動車部品のプレス成形において歪み伝播性が不十分となり、局所的な板厚減少等の成形不良が発生しやすい。また、形状凍結性の観点からは、降伏比が80%未満であることが好ましく、75%未満であることはさらに好ましく、70%未満であれば特に好ましい。
2.鋼の化学組成
C:0.10%超0.25%未満
C含有量が0.10%以下では上記の金属組織を得ることが困難となる。したがって、C含有量は0.10%超とする。好ましくは0.12%超、さらに好ましくは0.14%超、特に好ましくは0.16%超である。一方、C含有量が0.25%以上では鋼板の伸びフランジ性が損なわれるばかりか溶接性が劣化する。したがって、C含有量は0.25%未満とする。好ましくは0.23%以下、さらに好ましくは0.21%以下、特に好ましくは0.19%以下である。
Si:0.50%超2.0%未満
Siは、焼鈍中のオーステナイト粒成長抑制を通じ、延性、加工硬化性および伸びフランジ性を改善する作用を有する。また、オーステナイトの安定性を高める作用を有し、上記の金属組織を得るのに有効な元素である。Si含有量が0.50%以下では上記作用による効果を得ることが困難となる。したがって、Si含有量は0.50%超とする。好ましくは0.70%超、さらに好ましくは0.90%超、特に好ましくは1.20%超である。一方、Si含有量が2.0%以上では鋼板の表面性状が劣化する。さらに、めっき性が著しく劣化する。したがって、Si含有量は2.0%未満とする。好ましくは1.8%未満、さらに好ましくは1.6%未満、特に好ましくは1.4%未満である。
後述するAlを含有する場合は、Si含有量とsol.Al含有量が下記式(2)を満足することが好ましく、下記式(3)を満足するとさらに好ましく、下記式(4)を満足すると特に好ましい。
Si+sol.Al>0.60 ・・・ (2)
Si+sol.Al>0.90 ・・・ (3)
Si+sol.Al>1.20 ・・・ (4)
ここで、式中のSiは鋼中でのSi含有量を、sol.Alは酸可溶性のAl含有量を質量%にて表したものである。
Mn:1.50%超3.0%以下
Mnは、鋼の焼入性を向上させる作用を有し、上記の金属組織を得るのに有効な元素である。Mn含有量が1.50%以下では上記の金属組織を得ることが困難となる。したがって、Mn含有量は1.50%超とする。好ましくは1.60%超、さらに好ましくは1.80%超、特に好ましくは2.0%超である。Mn含有量が過剰となると、熱延鋼板の金属組織において、圧延方向に展伸した粗大な低温変態生成相が生じ、冷延間圧延および焼鈍後の金属組織において粗大な残留オーステナイト粒が増加し、加工硬化性および伸びフランジ性が劣化する。したがって、Mn含有量は3.0%以下とする。好ましくは2.70%未満、さらに好ましくは2.50%未満、特に好ましくは2.30%未満である。
P:0.050%未満
Pは、不純物として鋼中に含有される元素であり、粒界に偏析して鋼を脆化させる。このため、P含有量は少ないほど好ましい。したがって、P含有量は0.050%未満とする。好ましくは0.030%未満、さらに好ましくは0.020%未満、特に好ましくは0.015%未満である。
S:0.010%以下
Sは、不純物として鋼中に含有される元素であり、硫化物系介在物を形成して伸びフランジ性を劣化させる。このため、S含有量は少ないほど好ましい。したがって、S含有量は0.010%以下とする。好ましくは0.005%未満、さらに好ましくは0.003%未満、特に好ましくは0.002%未満である。
sol.Al:0.50%以下
Alは、溶鋼を脱酸する作用を有する。本発明においては、Alと同様に脱酸作用を有するSiを含有させるため、Alは必ずしも含有させる必要はない。すなわち、不純物レベルであってもよい。脱酸の促進を目的として含有させる場合には、sol.Alとして0.0050%以上含有させることが好ましい。さらに好ましいsol.Al含有量は0.020%超である。また、Alは、Siと同様にオーステナイトの安定性を高める作用を有し、上記の金属組織を得るのに有効な元素であるので、この目的でAlを含有させることもできる。この場合、sol.Al含有量は好ましくは0.040%超、さらに好ましくは0.050%超、特に好ましくは0.060%超である。一方、sol.Al含有量が高すぎると、アルミナに起因する表面疵が発生しやすくなるばかりか、変態点が大きく上昇し低温変態生成相を主相とする金属組織を得ることが困難となる。したがって、sol.Al含有量は0.50%以下とする。好ましくは0.30%未満、さらに好ましくは0.20%未満、特に好ましくは0.10%未満である。
N:0.010%以下
Nは、不純物として鋼中に含有される元素であり、延性を劣化させる。このため、N含有量は少ないほど好ましい。したがって、N含有量は0.010%以下とする。好ましくは0.006%以下であり、さらに好ましくは0.005%以下である。
本発明に係る鋼板は、以下に列記する元素を任意元素として含有してもよい。
Ti:0.040%未満、Nb:0.030%未満およびV:0.50%以下からなる群から選択される1種または2種以上
Ti、NbおよびVは、熱間圧延工程で再結晶を抑制することにより加工歪みを増大させ、熱延鋼板の組織を微細化する作用を有する。また、炭化物または窒化物として析出し、焼鈍中のオーステナイトの粗大化を抑制する作用を有する。したがって、これらの元素の1種または2種以上を含有させてもよい。しかしながら、これらの元素を過剰に含有させても上記作用による効果が飽和して不経済となる。そればかりか、焼鈍時の再結晶温度が上昇し、焼鈍後の金属組織が不均一となり、伸びフランジ性も損なわれる。さらには、炭化物または窒化物の析出量が増し、降伏比が上昇し、形状凍結性も劣化する。したがって、Ti含有量は0.040%未満、Nb含有量は0.030%未満、V含有量は0.50%以下とする。Ti含有量は好ましくは0.030%未満、さらに好ましくは0.020%未満であり、Nb含有量は好ましくは0.020%未満、さらに好ましくは0.012%未満であり、V含有量は好ましくは0.30%以下であり、さらに好ましくは0.050%未満である。また、Nb+Ti×0.2値を0.030%未満とすることが好ましく、0.020%未満とすることがさらに好ましい。
上記作用による効果をより確実に得るには、Ti:0.005%以上、Nb:0.005%以上およびV:0.010%以上のいずれかを満足させることが好ましい。Tiを含有させる場合には、Ti含有量を0.010%以上とすることがさらに好ましく、Nbを含有させる場合には、Nb含有量を0.010%以上とすることがさらに好ましく、Vを含有させる場合には、V含有量を0.020%以上とすることがさらに好ましい。
Cr:1.0%以下、Mo:0.20%未満およびB:0.010%以下からなる群から選択される1種または2種以上
Cr、MoおよびBは、鋼の焼入性を向上させる作用を有し、上記の金属組織を得るのに有効な元素である。したがって、これらの元素の1種または2種以上を含有させてもよい。しかしながら、これらの元素を過剰に含有させても上記作用による効果が飽和して不経済となる。したがって、Cr含有量は1.0%以下、Mo含有量は0.20%未満、B含有量は0.010%以下とする。Cr含有量は好ましくは0.50%以下であり、Mo含有量は好ましくは0.10%以下であり、B含有量は好ましくは0.0030%以下である。上記作用による効果をより確実に得るには、Cr:0.20%以上、Mo:0.05%以上およびB:0.0010%以上のいずれかを満足させることが好ましい。
Ca:0.010%以下、Mg:0.010%以下、REM:0.050%以下およびBi:0.050%以下からなる群から選択された1種または2種以上
Ca、MgおよびREMは介在物の形状を調整することにより、Biは凝固組織を微細化することにより、ともに伸びフランジ性を改善する作用を有する。したがって、これらの元素の1種または2種以上を含有させてもよい。しかしながら、これらの元素を過剰に含有させても上記作用による効果が飽和して不経済となる。したがって、Ca含有量は0.010%以下、Mg含有量は0.010%以下、REM含有量は0.050%以下、Bi含有量は0.050%以下とする。好ましくは、Ca含有量は0.0020%以下、Mg含有量は0.0020%以下、REM含有量は0.0020%以下、Bi含有量は0.010%以下である。上記作用をより確実に得るには、Ca:0.0005%以上、Mg:0.0005%以上、REM:0.0005%以上およびBi:0.0010%以上のいずれかを満足させることが好ましい。なお、REMとは希土類元素を意味し、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素の総称であり、REM含有量はこれらの元素の合計含有量である。
3.溶融めっき層
溶融めっき層としては、溶融亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっき、溶融アルミニウムめっき、溶融Zn−Al合金めっき、溶融Zn−Al−Mg合金めっき、溶融Zn−Al−Mg−Si合金めっき等が例示される。例えば、めっき層が合金化溶融亜鉛めっきである場合には、めっき被膜中のFe濃度を7%以上、15%以下とすることが好ましい。溶融Zn−Al合金めっきとしては、溶融Zn−5%Al合金めっきおよび溶融Zn−55%Al合金めっきが例示される。
めっき付着量は特に制限されず、従来と同様でよい。例えば、片面当たり25g/m2以上、200g/m2以下とすればよい。めっき層が合金化溶融亜鉛めっきである場合には、パウダリングを抑制する観点から片面当たり25g/m2以上、60g/m2以下とすることが好ましい。
また、さらなる耐食性の向上、塗装性の向上などの目的で、めっき後にクロム酸処理、リン酸塩処理、シリケート系ノンクロム化成処理、樹脂被膜塗布などの単層あるいは複層の後処理を施してもよい。
4.製造条件
まず、基材となる上記の金属組織と化学組成とを備えた冷延鋼板を製造する。
具体的には、上述した化学組成を有する鋼を、公知の手段により溶製された後に、連続鋳造法により鋼塊とするか、または、任意の鋳造法により鋼塊とした後に分塊圧延する方法等により鋼片とする。連続鋳造工程では、介在物に起因する表面欠陥の発生を抑制するために、鋳型内にて電磁攪拌等の外部付加的な流動を溶鋼に生じさせることが好ましい。鋼塊または鋼片は、一旦冷却されたものを再加熱して熱間圧延に供してもよく、連続鋳造後の高温状態にある鋼塊または分塊圧延後の高温状態にある鋼片をそのまま、あるいは保温して、あるいは補助的な加熱を行って熱間圧延に供してもよい。本明細書では、このような鋼塊および鋼片を、熱間圧延の素材として「スラブ」と総称する。熱間圧延に供するスラブの温度は、オーステナイトの粗大化を防止するために、1250℃未満とすることが好ましく、1200℃以下とすればさらに好ましい。熱間圧延に供するスラブの温度の下限は特に限定する必要はなく、後述するように熱間圧延を(Ar3点+30℃)以上かつ810℃以上の温度域で完了することが可能な温度であればよい。
熱間圧延は、圧延完了後にオーステナイトを変態させることにより熱延鋼板の組織を微細化するために、(Ar3点+30℃)以上かつ810℃以上の温度域で完了させる。圧延完了の温度が低すぎると、熱延鋼板の金属組織において、圧延方向に展伸した粗大な低温変態生成相が生じ、冷間圧延および焼鈍後の金属組織が粗大化し、延性、加工硬化性および伸びフランジ性が劣化し易くなる。このため、熱間圧延の完了温度は、(Ar3点+50℃)以上とすることが好ましい。さらに好ましくは(Ar3点+70℃)以上、特に好ましくは(Ar3点+90℃)以上である。また、850℃以上とすることが好ましく、さらに好ましくは880℃以上である。一方、圧延完了の温度が高すぎると、加工歪みの蓄積が不十分となり、熱延鋼板の組織を微細化することが困難となる。このため、熱間圧延の完了温度は950℃未満であることが好ましく、920℃未満であるとさらに好ましい。
なお、熱間圧延が粗圧延と仕上圧延とからなる場合には、仕上圧延を上記温度で完了するために、粗圧延と仕上圧延との間で粗圧延材を加熱してもよい。この際、粗圧延材の後端が先端よりも高温となるように加熱することにより、仕上圧延の開始時における粗圧延材の全長にわたる温度の変動を140℃以下に抑制することが望ましい。これにより、コイル内の製品特性の均一性が向上する。
粗圧延材の加熱方法は公知の手段を用いて行えばよい。例えば、粗圧延機と仕上圧延機との間にソレノイド式誘導加熱装置を設けておき、この誘導加熱装置の上流側における粗圧延材長手方向の温度分布等に基づいて加熱昇温量を制御してもよい。
熱間圧延の圧下量は、最終1パスの圧下量を板厚減少率で15%超とする。これは、オーステナイトに導入される加工歪み量を増し、熱延鋼板の金属組織を微細化し、冷間圧延および焼鈍後の金属組織を微細化し、延性、加工硬化性および伸びフランジ性を向上させるためである。最終1パスの圧下量は25%超とすることが好ましく、30%超とすればさらに好ましく、40%超とすれば特に好ましい。圧下量が高くなりすぎると、圧延荷重が上昇して圧延が困難となる。したがって、最終1パスの圧下量は55%未満とすることが好ましく、50%未満とすればさらに好ましい。圧延荷重を低下させるために、圧延ロールと鋼板の間に圧延油を供給し摩擦係数を低下させて圧延する、いわゆる潤滑圧延を行ってもよい。
熱間圧延後は、圧延完了後0.6秒間以内に720℃以下の温度域まで急冷する。これは、圧延によりオーステナイトに導入された加工歪みの解放を抑制し、加工歪みを駆動力としてオーステナイトを変態させ、熱延鋼板の組織を微細化し、冷間圧延および焼鈍後の金属組織を微細化し、延性、加工硬化性および伸びフランジ性を向上させるためである。加工歪みの解放は、急冷を停止するまでの時間が短いほど抑制されるので、圧延完了後急冷を停止するまでの時間は0.5秒間以内であることが好ましく、0.40秒間以内であればさらに好ましく、0.30秒以内であれば特に好ましく、0.20秒以内が最も好ましい。
熱延鋼板の組織は、急冷を停止する温度が低いほど細粒化するので、圧延完了後700℃以下の温度域まで急冷することが好ましく、圧延完了後680℃以下の温度域まで急冷することがさらに好ましい。また、加工歪みの解放は、急冷中の平均冷却速度が速いほど抑制されるので、急冷中の平均冷却速度を300℃/s以上とすることが好ましく、これにより、熱延鋼板の組織を一層微細化することができる。急冷中の平均冷却速度を400℃/s以上とすればさらに好ましく、600℃/s以上とすれば特に好ましく、800℃以上とすれば最も好ましい。なお、圧延完了から急冷を開始するまでの時間および、その間の冷却速度は、特に規定する必要がない。
急冷を行う設備は特に規定されないが、工業的には水量密度の高い水スプレー装置を用いることが好適であり、圧延板搬送ローラーの間に水スプレーヘッダーを配置し、圧延板の上下から十分な水量密度の高圧水を噴射する方法が例示される。
急冷停止後は、(1)鋼板を400℃超の温度域で巻取るか、あるいは、(2)急冷停止後に、鋼板を400℃以下の温度域で巻取り、熱延鋼板に300℃以上、Ac1点以下の温度域で焼鈍を施す。
前記(1)の実施態様において、鋼板を400℃超の温度域で巻取るのは、巻取温度が400℃以下であると、熱延鋼板において鉄炭化物が充分に析出せず、冷間圧延および焼鈍後の金属組織が粗大化するからである。この巻取温度は500℃超であることが好ましい。520℃超であるとさらに好ましく、550℃超であると特に好ましい。一方、巻取温度が高すぎると、熱延鋼板においてフェライトが粗大となり、冷間圧延および焼鈍後の金属組織が粗大化する。このため巻取温度は650℃未満とすることが好ましく、620℃未満とするとさらに好ましい。
一方、前記(2)の実施態様の場合、鋼板を400℃以下の温度域で巻取り、熱延鋼板に300℃以上、Ac1点以下の温度域で焼鈍を施すのは、巻取温度が400℃超であると、マルテンサイトの生成が不十分となるためである。この巻取温度は好ましくは300℃以下、さらに好ましくは200℃以下である。また、焼鈍温度が300℃未満では鉄炭化物が十分に析出せず、Ac点を超えると、フェライトが粗大となり、冷間圧延および焼鈍後の金属組織において粗大な残留オーステナイト粒が生成する。微細炭化物の析出は温度を上げると促進されるので、焼鈍温度は、400℃以上とすることが好ましく、500℃以上とすることがさらに好ましい。一方、より微細な鉄炭化物を析出させる観点からは、焼鈍温度を650℃以下とすることが好ましい。
(2)の実施態様の場合、熱間圧延され、巻き取られた熱延鋼板は、必要に応じて公知の方法に従って脱脂等の処理が施された後、焼鈍される。熱延鋼板に施す焼鈍を熱延板焼鈍といい、熱延板焼鈍後の鋼板を熱延焼鈍鋼板という。熱延板焼鈍の前に、酸洗等により脱スケールを行ってもよい。熱延板焼鈍における保持時間は特に限定する必要はない。適切な直後急冷プロセスを経て製造された熱延鋼板は、金属組織が微細であるため、長時間保持しなくてもよい。保持時間が長くなると生産性が劣化するので、保持時間の上限は20時間未満であることが好ましい。10時間未満であればさらに好ましく、5時間未満であれば特に好ましい。
急冷停止から巻取りまでの条件は特に規定しないが、急冷停止後、720〜600℃の温度域で2秒間以上保持することが好ましい。これにより、微細なフェライトの生成が促進される。さらに好ましくは、5秒以上である。一方、保持時間が長くなりすぎると生産性が損なわれるので、720〜600℃の温度域における保持時間の上限を30秒間以内とすることが好ましい。さらに好ましくは20秒以下であり、特に好ましくは15秒以下、最も好ましくは10秒以下である。720〜600℃の温度域で保持した後は、生成したフェライトの粗大化を防止するために、巻取温度までを20℃/s以上の冷却速度で冷却することが好ましい。
巻取を前記(1)又は(2)の実施態様により行う熱間圧延により得られた熱延鋼板は、酸洗等により脱スケールされた後に、常法に従って冷間圧延される。冷間圧延は、再結晶を促進して冷延圧延および焼鈍後の金属組織を均一化し、伸びフランジ性をさらに向上させるために、冷圧率(冷間圧延における圧下率)を40%以上とすることが好ましい。冷圧率が高すぎると、圧延荷重が増大して圧延が困難となるため、冷圧率の上限を70%未満とすることが好ましく、60%未満とすることはさらに好ましい。
冷間圧延後の鋼板は、必要に応じて公知の方法に従って脱脂等の処理が施された後、焼鈍される。焼鈍における均熱温度の下限は、(Ac3点−40℃)以上とする。これは、主相が低温変態生成相で第二相に残留オーステナイトを含む金属組織を得るためである。低温変態生成相の体積率を増加させ、伸びフランジ性を向上させるために、均熱温度は(Ac3点−20℃)超とすることが好ましく、Ac3点超とするとさらに好ましい。しかしながら、均熱温度が高くなり過ぎると、オーステナイトが過度に粗大化して延性、加工硬化性および伸びフランジ性が劣化し易くなる。このため、均熱温度の上限は、(Ac3点+100℃)未満とすることが好ましい。(Ac3点+50℃)未満とするとさらに好ましく、(Ac3点+20℃)未満とすると特に好ましい。
均熱温度での保持時間(均熱時間)は特に限定する必要はないが、安定した機械特性を得るために、15秒間超とすることが好ましく、60秒間超とするとさらに好ましい。一方、保持時間が長くなりすぎると、オーステナイトが過度に粗大化して、延性、加工硬化性および伸びフランジ性が劣化し易くなる。このため、保持時間は、150秒間未満とすることが好ましく、120秒間未満とするとさらに好ましい。
焼鈍における加熱過程では、再結晶を促進して焼鈍後の金属組織を均一化し、伸びフランジ性を向上させるために、700℃から均熱温度までの加熱速度を10.0℃/s未満とすることが好ましい。8.0℃/s未満とするとさらに好ましく、5.0℃/s未満とすると特に好ましい。
焼鈍における均熱後の冷却過程では、低温変態生成相を主相とする金属組織を得るために、650℃から冷却停止までの温度範囲を5℃/s以上の冷却速度で冷却することが好ましい。冷却速度が速いほど低温変態生成相の体積率が高まるので、冷却速度を10℃/s以上とするとさらに好ましく、20℃/s以上とすると特に好ましく、40℃/s以上とすることが最も好ましい。また、上記の冷却開始温度は、700℃とすることがさらに好ましい。一方、冷却速度が速すぎると鋼板の形状が損なわれるので、650〜500℃の温度範囲における冷却速度を200℃/s以下とすることが好ましい。150℃/s未満であるとさらに好ましく、130℃/s未満であれば特に好ましい。
微細なポリゴナルフェライトの生成を促進し、延性および加工硬化性を向上させる場合は、5.0℃/s未満の冷却速度で均熱温度から50℃以上冷却することが好ましい。均熱後の冷却速度は3.0℃/s未満であることがさらに好ましい。特に好ましくは2.0℃/s未満である。また、ポリゴナルフェライトの体積率をさらに増加させるためには、5.0℃/s未満の冷却速度で均熱温度から80℃以上冷却することが好ましく、100℃以上冷却することがさらに好ましく、120℃以上冷却することが特に好ましい。
また、残留オーステナイトを得るために、560〜300℃の温度域で15秒間以上保持する。残留オーステナイトの安定性を高めて延性、加工硬化性および伸びフランジ性を向上させるためには、保持温度域を475〜320℃とすることが好ましい。450〜340℃とすることはさらに好ましく、430〜360℃とすることは特に好ましい。また、保持時間を長くするほど残留オーステナイトの安定性が高まるので、保持時間を20秒間以上とすることが好ましく、30秒以上とすることが特に好ましく、40秒以上とすることがさらに好ましく、50秒以上とすることが最も好ましい。保持時間を過度に長くすると、生産性が損なわれるばかりか、逆に残留オーステナイトの安定性が低下してしまうため、500秒以下とすることが好ましい。さらに好ましくは400秒以下、特に好ましくは200秒以下、最も好ましくは100秒以下である。一方、生産性の観点から、溶融めっき処理前の再加熱を省略したい場合には、上記の保持を550〜440℃の温度域で行うことが好ましい。540〜460℃以上とすることがさらに好ましい。
こうして製造された焼鈍済みの冷延鋼板に溶融めっきを施す。溶融めっきは、上述した方法で冷延鋼板の焼鈍工程までを行い、必要に応じて鋼板を再加熱してから、溶融めっき処理を行う。溶融めっき処理の条件は、溶融めっき種に応じて通常適用されている条件を採用すればよい。例えば、溶融めっきが溶融亜鉛めっきや溶融Zn−Al合金めっきである場合には、通常の溶融めっきラインで行われる条件と同様に、450℃以上、620℃以下の温度域で溶融めっきを施し、鋼板表面に溶融亜鉛めっき層あるいは溶融Zn−Al合金めっき層を形成させればよい。
また、溶融亜鉛めっき処理後、溶融亜鉛めっき層を合金化する合金化処理を施してもよい。この場合、めっき浴中Al濃度は0.08〜0.15%に管理するのが好ましい。めっき浴中には、ZnおよびAlの他、Fe、V、Mn、Ti、Nb、Ca、Cr、Ni、W、Cu、Pb、Sn、Cd、Sb、Si、Mgが0.1%以下含まれていても特に支障はない。また、合金化処理温度は470℃以上、570℃以下とすることが好ましい。合金化処理温度が470℃未満では合金化速度が著しく低下し、合金化処理に必要な時間が増大して生産性の低下を招く場合があるからである。また、合金化処理温度が570℃を超えると、めっき層の合金化速度が著しく増大し、合金化溶融亜鉛めっき層の脆化を招く場合がある。より好ましくは550℃以下である。溶融めっき後、冷却された鋼板表面上の被膜の組成は、浸漬および冷却時に鋼材と溶融金属の間で元素の相互拡散が起こるため、一般にめっき浴組成より若干Fe濃度の高い組成となる。合金化溶融亜鉛めっきは、この相互拡散を積極的に利用したものであり、被膜中のFe濃度は7〜15%となる。
めっき付着量は特に限定するものではないが、一般には、片面当たり25〜200g/m2とするのが好ましい。合金化溶融亜鉛めっきの場合は、パウダリングが懸念されるため、めっき付着量は片面当たり25〜60g/m2とするのが好ましい。溶融めっきは典型的には両面めっきであるが、片面めっきとすることも可能である。
めっき後の製品表面には、通常防錆油が塗布されるが、必要に応じて、クロメート処理装置によりクロム酸処理等を行ってもよい。また、クロメート処理装置に代えて、リン酸塩処理装置、シリケート系ノンクロム化成処理装置、あるいは樹脂皮膜塗布装置等を設置して、リン酸塩処理、ノンクロム化成処理、樹脂皮膜塗布などの単層あるいは複層の後処理を施しても良い。
このようにして得られためっき鋼板には、常法にしたがって調質圧延を行ってもよい。しかし、調質圧延の伸び率が高いと延性の劣化を招くので、調質圧延の伸び率は1.0%以下とすることが好ましい。さらに好ましい伸び率は0.5%以下である。
本発明を、実施例を参照しながらより具体的に説明する。
実験用真空溶解炉を用いて、表1に示される化学組成を有する鋼を溶解し、鋳造した。これらの鋼塊を、熱間鍛造により厚さ30mmの鋼片とした。鋼片を、電気加熱炉を用いて1200℃に加熱し60分間保持した後、表2に示される条件で熱間圧延を行った。
具体的には、実験用熱間圧延機を用いて、(Ar3点+30℃)以上かつ810℃以上の温度域で6パスの圧延を行い、厚さ2mmに仕上げた。最終1パスの圧下率は、板厚減少率で12〜42%とした。熱間圧延後、水スプレーを使用して種々の冷却条件で650〜720℃まで冷却し、6秒間放冷した後、60℃/sの冷却速度で種々の温度まで冷却し、その温度を巻取温度とした。巻取温度を室温としたもの以外は、巻取温度に保持された電気加熱炉中に装入して30分間保持した後、20℃/hの冷却速度で室温まで炉冷却して巻取後の徐冷をシミュレートすることにより、熱延鋼板を得た。また、巻取温度を室温としたものは、一部を除いて室温から50℃/hの昇温速度で600℃まで加熱し、その後20℃/hの冷却速度で室温まで冷却する熱延板焼鈍を施した。
得られた熱延鋼板を酸洗して冷間圧延母材とし、圧下率50%で冷間圧延を施し、厚さ1.0mmの冷延鋼板を得た。連続焼鈍シミュレーターを用いて、得られた冷延鋼板を、表2の試験番号1〜27および試験番号33〜38については、10℃/sの加熱速度で550℃まで加熱した後、2℃/sの加熱速度で表2に示される種々の温度まで加熱し95秒間均熱した。その後、2℃/sの冷却速度で表2に示される種々の1次冷却停止温度まで冷却し、冷却速度を40℃/sとして表2に示される種々の冷却停止温度まで冷却し、その温度に60〜330秒間保持し、次いで460℃の溶融亜鉛めっき浴への浸漬相当の熱処理および500〜520℃の合金化処理相当の熱処理とを施した後、室温まで冷却して焼鈍鋼板を得た。また、試験番号28〜32については、冷延鋼板を、15℃/sの加熱速度で550℃まで加熱した後、2℃/sの加熱速度で表2に示される種々の温度まで加熱し20秒間均熱した。その後、冷却速度を20〜40℃/sとして480℃まで冷却し、その温度に30〜60秒間保持し、次いで460℃の溶融亜鉛めっき浴への浸漬相当の熱処理および500〜540℃の合金化処理相当の熱処理とを施した後、室温まで冷却して、冷間圧延後に焼鈍と合金化溶融亜鉛めっきに相当する熱履歴を受けた冷延鋼板を得た。
Figure 2013014829
Figure 2013014829
焼鈍鋼板から、SEM観察用試験片を採取し、圧延方向に平行な縦断面を研磨した後、ナイタールで腐食処理し、鋼板表面から板厚の1/4深さ位置における金属組織を観察し、画像処理により、低温変態生成相およびポリゴナルフェライトの体積分率を測定した。
また、焼鈍鋼板から、XRD測定用試験片を採取し、鋼板表面から板厚の1/4深さ位置まで圧延面を化学研磨した後、X線回折試験を行い、残留オーステナイトの体積分率および平均炭素濃度を測定した。具体的には、X線回折装置にリガク製RINT2500を使用し、Co−Kα線を入射してα相(110)、(200)、(211)回折ピークおよびγ相(111)、(200)、(220)回折ピークの積分強度を測定し、残留オーステナイトの体積分率を求めた。また、γ相(111)、(200)、(220)回折ピークの回折角より格子定数dγ(Å)を求め、次式の換算式により、残留オーステナイトの平均炭素濃度Cγ(質量%)を求めた。
Cγ=(dγ−3.572+0.00157×Si−0.0012×Mn)/0.033
さらに、焼鈍鋼板から、EBSP測定用試験片を採取し、圧延方向に平行な縦断面を電解研磨した後、鋼板表面から板厚の1/4深さ位置において金属組織を観察し、画像解析により、残留オーステナイト粒の粒径分布および残留オーステナイトの平均粒径を測定した。具体的には、EBSP測定装置にTSL製OIM5を使用し、板厚方向に50μmで圧延方向に100μmの大きさの領域において0.1μmピッチで電子ビームを照射し、得られた測定データの内、信頼性指数が0.1以上のものを有効なデータとしてfcc相の判定を行った。fcc相として観察され母相に囲まれた領域を一つの残留オーステナイト粒とし、個々の残留オーステナイト粒の円相当直径を求めた。残留オーステナイトの平均粒径は、円相当直径が0.15μm以上である残留オーステナイト粒を有効な残留オーステナイト粒とし、個々の有効な残留オーステナイト粒の円相当直径の平均値として算出した。また、粒径が1.2μm以上の残留オーステナイト粒の単位面積あたりの数密度(NR)を求めた。
降伏応力(YS)および引張強度(TS)は、焼鈍鋼板から、圧延方向と直行する方向に沿ってJIS5号引張試験片を採取し、引張速度10mm/minで引張試験を行うことにより求めた。全伸び(El)は、圧延方向と直行する方向に沿って採取したJIS5号引張試験片に引張試験を行い、得られた実測値(El0)を用いて、上記式(1)に基づき、板厚が1.2mmである場合に相当する換算値を求めた。加工硬化指数(n値)は、圧延方向と直行する方向に沿って採取したJIS5号引張試験片に引張試験を行い、歪み範囲を5〜10%として算出した。具体的には、公称歪み5%および10%に対する試験力を用いて2点法により算出した。
伸びフランジ性は、日本鉄鋼連盟規格JFST1001に規定する穴拡げ試験を行い、穴拡げ率(λ)を測定することにより評価した。焼鈍鋼板から100mm角の正方形素板を採取し、クリアランス12.5%で直径10mmの打ち抜き穴を開け、先端角60°の円錐ポンチでダレ側から打ち抜き穴を押し拡げ、板厚を貫通する割れが発生したときの穴の拡大率を測定し、これを穴拡げ率とした。
表3に焼鈍後の冷延鋼板の金属組織観察結果および性能評価結果を示す。なお、表1〜表3において、*印を付した数値は本発明の範囲外であることを意味する。
Figure 2013014829
本発明が規定する範囲内の鋼板についての試験結果(試験番号1〜32は、いずれも、TS×Elの値が18000MPa%以上であり、TS×n値の値が150以上であり、TS1.7×λの値が4500000MPa1.7%以上、(TS×El)×7×10+(TS1.7×λ)×8の値が180×10以上であり、良好な延性、加工硬化性および伸びフランジ性を示した。
鋼組成または製造方法が、本発明の規定する範囲から外れる鋼板についての試験結果(試験番号33〜38)は、延性、加工硬化性および伸びフランジ性のいずれかもしくは全てが劣っていた。
具体的には、鋼Uを用いた試験(試験番号33)は、鋼中のSi含有量が少ないために、残留オーステナイトの平均粒径が大きく、残留オーステナイトの体積率が低く、また、ポリゴナルフェライトの平均粒径が大きく、延性、加工硬化性および伸びフランジ性が悪い。鋼Vを用いた試験(試験番号34)および鋼Wを用いた試験(試験番号36)は、熱間圧延完了から急冷停止までの時間が長すぎるために、NRが大きく、延性および伸びフランジ性が悪い。鋼Vを用いた試験(試験番号35)は、焼鈍中の均熱温度が低すぎるために低温変態生成相を主相とする金属組織が得られておらず、伸びフランジ性が悪い。鋼Wを用いた試験(試験番号37)は、巻取温度が低すぎ、かつ熱延板焼鈍を施していないために、NRが大きく、延性および伸びフランジ性が悪い。鋼Fを用いた試験(試験番号38)は、熱間圧延の最終1パスの圧下量が低いために、NRが大きく、加工硬化性および伸びフランジ性が悪い。

Claims (5)

  1. 下記工程(A)〜(D)を有することを特徴とする、主相が低温変態生成相で第二相に残留オーステナイトを含む金属組織を備える冷延鋼板を基材とする溶融めっき冷延鋼板の製造方法:
    (A)質量%で、C:0.10%超0.25%未満、Si:0.50%超2.0%未満、Mn:1.50%超3.0%以下、P:0.050%未満、S:0.010%以下、sol.Al:0.50%以下およびN:0.010%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有するスラブに、最終1パスの圧下量が15%超で(Ar3点+30℃)以上かつ810℃以上の温度域で圧延を完了する熱間圧延を施して熱延鋼板となし、前記熱延鋼板を前記圧延の完了後0.6秒間以内に720℃以下の温度域まで冷却し、400℃超の温度域で巻取る熱間圧延工程;
    (B)前記熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とする冷間圧延工程;
    (C)前記冷延鋼板に(Ac3点−40℃)以上の温度域で均熱処理を施した後、560℃以下300℃以上の温度域まで冷却し、該温度域で15秒以上保持する焼鈍工程;および
    (D)前記焼鈍工程により得られた冷延鋼板に溶融めっきを施す溶融めっき工程。
  2. 下記工程(a)〜(e)を有することを特徴とする、主相が低温変態生成相で第二相に残留オーステナイトを含む金属組織を備える冷延鋼板を基材とする溶融めっき冷延鋼板の製造方法:
    (a)質量%で、C:0.10%超0.25%未満、Si:0.50%超2.0%未満、Mn:1.50%超3.0%以下、P:0.050%未満、S:0.010%以下、sol.Al:0.50%以下およびN:0.010%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有するスラブに、最終1パスの圧下量が15%超で(Ar3点+30℃)以上かつ810℃以上の温度域で圧延を完了する熱間圧延を施して熱延鋼板となし、前記熱延鋼板を前記圧延の完了後0.6秒間以内に720℃以下の温度域まで冷却し、400℃以下の温度域で巻取る熱間圧延工程;
    (b)前記熱延鋼板に300℃以上Ac1点未満の温度域で焼鈍を施す熱延板焼鈍工程;
    (c)前記熱延板焼鈍工程により得られた熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とする冷間圧延工程;
    (d)前記冷延鋼板に(Ac3点−40℃)以上の温度域で均熱処理を施した後、560℃以下300℃以上の温度域まで冷却し、該温度域で15秒以上保持する焼鈍工程;および
    (e)前記焼鈍工程により得られた冷延鋼板に溶融めっきを施す溶融めっき工程。
  3. 前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Ti:0.040%未満、Nb:0.030%未満およびV:0.50%以下からなる群から選択される1種または2種以上を含有する請求項1または請求項2に記載の溶融めっき冷延鋼板の製造方法。
  4. 前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Cr:1.0%以下、Mo:0.20%未満およびB:0.010%以下からなる群から選択される1種または2種以上を含有する請求項1から請求項3のいずれかに記載の溶融めっき冷延鋼板の製造方法。
  5. 前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.010%以下、Mg:0.010%以下、REM:0.050%以下およびBi:0.050%以下からなる群から選択される1種または2種以上を含有する請求項1から請求項4のいずれかに記載の溶融めっき冷延鋼板の製造方法。
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