JP2012505918A - 腫瘍ワクチン - Google Patents

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Abstract

本発明は、医薬、免疫学および腫瘍学の分野に関する。より具体的には、本発明は、動物対象において腫瘍に対する免疫応答を誘導するための方法および組成物に関する。本発明は、CD80(B7.1)をコードする核酸および HLA 抗原をコードする核酸を発現するよう遺伝的に改変された肺癌細胞または他の腫瘍細胞、ならびに該遺伝的に改変された腫瘍細胞を用いて腫瘍に対する免疫応答を刺激するための方法を提供する。本発明はさらに、CD80(B7.1)をコードする核酸および HLA 抗原をコードする核酸を発現するよう遺伝的に改変された同種異系の腫瘍細胞、例えば癌腫瘍細胞、例えば肺癌腫瘍細胞を投与することにより、癌、例えば肺癌を含む腫瘍を阻害する方法を提供する。

Description

関連出願
本願は、2008年10月17日出願の米国仮出願第61/106,355号の優先権の利益を主張する。
発明の分野
本発明は、医薬、免疫学および腫瘍学の分野に関する。より具体的には、本発明は、動物の対象において腫瘍に対する免疫応答を誘導するための方法および組成物に関する。
発明の背景
肺癌は、米国において最も一般的な癌による死因である。2002年に関して、米国癌協会(American Cancer Society)は、ほぼ 170,000 の肺癌の新規症例が診断され、155,000 人が該疾患により死亡すると予測した。局所的に進行したまたは転移性の非小細胞肺癌(NSCLC)を有する患者が、新たに診断される症例の 70%を構成する。
手術不能な疾患を有する患者に対する現在の推奨には、局所的に進行した疾患における白金に基づく化学療法および放射線治療、または転移を有する患者における単独の化学療法が含まれる。典型的な奏効率は 15% から 30%の間であり、生存期間中央値は1年未満である。転移性の NSCLC 患者を最善の支持療法(supportive care)と化学療法との間で無作為化する 52 のフェーズ III 臨床試験のメタ解析により、化学療法が1年生存の機会を 10% 増大させ、生存期間中央値を 6 週間増大させると結論づけられた。ビッグ・ラング・トライアル(Big Lung Trial)(BLT)グループからの近年の報告においても、同様の結果が報告されている。NSCLC の攻撃性は、おそらくは CD4 制御性細胞により免疫応答のプライミング(priming)を抑制することによって、および/または免疫抑制性サイトカイン、例えば TGF-βを産生することによって、免疫系を回避するその能力に関連すると考えられている。
したがって、癌、例えば肺癌を含む、腫瘍を処置するための効果的な治療を開発する要求が存在している。本発明はこの要求を満たし、かつ、関連する利点をも提供する。
本発明の概要
本発明は、CD80 (B7.1) をコードする核酸および HLA 抗原をコードする核酸を発現するよう遺伝的に改変された腫瘍細胞、例えば肺癌細胞または他の腫瘍細胞を提供する。本発明はまた、CD80 (B7.1) をコードする核酸および HLA 抗原をコードする核酸を発現するよう遺伝的に改変された同種異系の(allogeneic)肺癌腫瘍細胞を投与することによって、癌腫瘍、例えば肺癌腫瘍を含む腫瘍に対する免疫応答を刺激する方法を提供する。本発明はさらに、CD80 (B7.1) をコードする核酸および HLA 抗原をコードする核酸を発現するよう遺伝的に改変された同種異系の腫瘍細胞、例えば癌腫瘍細胞、例えば肺癌腫瘍細胞を投与することによって、癌、例えば肺癌を含む腫瘍を阻害する方法を提供する。本発明のいくつかの態様により、ワクチンは1回より多く投与される。
図の簡単な説明
図 1A および B は、フローサイトメトリー解析を示す。パネル A: ワクチン細胞の品質管理。フローサイトメトリーによって解析された、B7.1 (CD80) および HLA A1 (左側パネル) または HLA A2 (右側パネル) を共発現するワクチン細胞の代表サンプル。二重陽性の細胞のパーセンテージを示す。免疫化に適格なものとなるためには、CD80 および HLA A アレルが細胞の 70% 以上において共発現していなければならない。パネル B、ELI-スポットアッセイのために精製された患者の CD8 細胞。負の選択によって精製され、ELIスポット解析に用いられた患者の CD8 (右側パネル) 細胞の代表サンプルのフローサイトメトリー; 細胞の純度を % で示す。左側パネルはアイソタイプ対照を示す。 図 2 は、CD8 免疫応答の解析を示す: 進行した肺腫瘍患者の免疫化は、強い CD8 応答を生成する。肺腫瘍患者から得た IFN-y-スポットを形成する CD8 細胞の頻度を試験時間(週)に対してプロットする。ゼロは予備免疫状態を表し、免疫化は2週間毎に行った。20,000 の精製された CD8 細胞を、ELI-スポットアッセイに用いた。パネル A: HLA A1 または A2 でトランスフェクトされた(対応(matched)) AD 100 腫瘍細胞に 20:1=CD8:AD100 の比で曝露された HLA A1 および A2 陽性患者の、スポットを形成する CD8 細胞の頻度。パネル B: A2-AD100 に曝露された HLA A1 陽性患者または Al-AD100 に曝露された HLA A2-CD8 細胞(ミスマッチ(mismatched))からの、スポットを形成する CD8 細胞の頻度。パネル C: A1 および A2 でトランスフェクトされた AD100 に曝露された非 HLAA-1 または A2 患者の細胞(非対応(unmatched))からの、スポットを形成する CD8 細胞の頻度。パネル D: トランスフェクトされていない野生型(w.t.)の AD100 に曝露された全ての患者からのスポットを形成する CD8 細胞の頻度、または、パネル E、K562 に曝露された全ての患者からの、スポットを形成する CD8 細胞の頻度。パネル F: 野生型AD100 またはトランスフェクトされた細胞のいずれかに曝露された全ての患者からの、スポットを形成する CD8 細胞の平均頻度。パネル G: 臨床的に応答する個々の患者の CD8 スポット形成応答。四つ組の(quadruplicate)ウェル中における AD100 野生型、AD100-A1、AD100-A2 もしくは K562 を用いた再刺激または何も用いない再刺激後の平均スポット数を、試験へのエントリー後の時間に対してプロットする。矢印は、最後の免疫化の時を示す。患者 1004、1007、1010 は、9回の免疫化(18 週間)の完了後に示される時点において解析される追跡データを含んでいる。各々の患者の HLA のタイプは、角括弧の中に示される。 図 3 は、解析の時点における全ての患者の生存期間中央値を示す。生存期間中央値は 18 ヶ月であり、この患者群について期待される1年未満の生存期間中央値を上回った。 図 4 は、19 人の B7 ワクチン処置された非小細胞肺癌試験患者についての全生存を示す。 図 5A および 5B は、CD8 免疫応答の解析を示す。図 5A (上部の2つのパネル) は、免疫化前、またはトランスフェクトされていない(AD 野生型)ワクチン細胞もしくは K562 対照への曝露後 6、12 および 18 週における CD8 を示す。図 5B (下部の6つのパネル) は、臨床応答を有する患者におけるワクチン接種の終了(矢印)後の CD8 応答を示す。 図 6 は、BPV-1-B7.1-HLA A1 ベクターの一つの態様の配列およびアノテーションを示す。 図 7 は、フェーズ I 臨床試験の開始から現在または最後の生存者までの生存曲線を示す。 図 8 は、異なるレベルのワクチン接種に対する患者の応答を示す。第2または第3のコース(course)のワクチン接種を受けた患者は、臨床応答および生存の両方の点において良好であった。
詳細な説明
本発明は、CD80 (B7.1) および HLA 抗原を発現するかまたは発現させられる同種異系の腫瘍細胞の癌患者への投与が、該患者における抗腫瘍免疫応答をもたらしたという発見に関する。特に、CD80 (B7.1) および HLA-A1 または A2 でトランスフェクトされた同種異系の NSCLC 細胞を用いて数回免疫化したステージ IIIB/IV の NSCLC 患者において、CD8 に媒介される免疫応答が誘発された。免疫化は、以下においてより詳細に考察する一人を除き、試験した全ての患者においてインターフェロン-Y を分泌する CD8 T 細胞の頻度を有意に増大させ、ある1組の患者の臨床解析においては、14人中5人の患者が安定した疾患または部分的な腫瘍退縮を伴って免疫化に応答した。追加の患者において、さらなる特徴付けを行った。
肺の癌は、米国の男性および女性の両方において、癌による死亡原因の1位であり、かつ、2番目に最もよく生じる癌である (Jemal, et al., CA Cancer J. Clin. 53: 5-43 (2003)。非小細胞肺癌(NSCLC)は、免疫原性が最小であるかまたは非免疫原性であると考えられており、かつ、細胞傷害性リンパ球(CTL)の生成を抑制する CD4 制御性細胞を含み得る (Woo, et al., J. Immunol. 168: 4272-4276 (2002))。NSCLC はこれまで免疫療法の良い候補とは考えられていないが、本明細書において記載する研究は、腫瘍細胞が免疫攻撃に曝されておらず、かつ、抵抗メカニズムを未だ発達させていないため、実際には NSCLC が成功するワクチン療法に適するという仮説に基づいている。
肺癌についての免疫療法治験は、これまでヒトにおいて一貫した利益を生み出していない(Ratto, et al., Cancer 78 : 244-251 (1996); Lissoni, et al., Tumori 80: 464-467 (1994); Ratto, et al., J. Immunother 23: 161-167 (2000))。本明細書において記載する試験より前には、他のヒト試験において同様のワクチンが良好な活性を示しているが、NSCLC を有する患者においては B7.1 (CD80) でトランスフェクトされた同種異系のまたは自己の細胞を用いるワクチン治験は報告されていない (Antonia, et al., J. Urol. 167: 1995- 2000 (2002); Horig, et al., Cancer Immunol. Immunother. 49: 504-514 (2000); Hull, et al., Clin. Cancer. Res. 6: 4101-4109 (2000); von Mehren, et al., Clin. Cancer Res. 6: 2219-2228 (2000))。本明細書において記載する試験の目的は、進行した転移性 NSCLC を有する患者に投与される、CD80 および HLA A1 または A2 でトランスフェクトされた同種異系の全細胞(whole cell)腫瘍ワクチンに対する安全性、免疫原性および臨床応答を評価することであった。本明細書において、ワクチンの安全性、臨床応答および全生存(overall survival)についての結果を示す。
本明細書において記載する通り、CD8 に媒介される免疫応答がステージ IIIB/IV の NSCLC 患者において誘発され得るかを決定するため、最初に14人の対象を、CD80 (B7.1) および HLA-A1 または A2 でトランスフェクトされた同種異系の NSCLC 細胞を用いて数回免疫化した。さらなる患者を追加した。参加した患者は HLA A1 または A2 遺伝子座において対応(matched)または非対応(unmatched)であり、その免疫応答を比較した。免疫化は、一人を除く全ての患者において、NSCLC 細胞へのエキソビボ(ex vivo)での曝露に応答して、インターフェロン-y を分泌する CD8 T 細胞の頻度を有意に増大させた。対応および非対応の患者の CDS 応答は、統計的に差が無かった。NSCLC 反応性の CD8 細胞は、IL562 に対して反応しなかった。臨床的に、14人中5人の患者が、安定な疾患または部分的な腫瘍退縮を伴って免疫化に応答した。該試験は、非免疫原性または免疫抑制性の腫瘍に対する CD8IFN-y 応答が、疾患の進行したステージにおいても、細胞ワクチンによって誘起され得ることを示す。ポジティブな臨床転帰は、非免疫原性の腫瘍が、免疫化によって生成される免疫エフェクター細胞に対する感受性が高い可能性を示唆している。
こうして、CD80 および HLA 抗原を発現する改変された腫瘍細胞の腫瘍患者への投与が望ましい治療効果をもたらすことが見出された。したがって、一つの態様において、本発明は、CD80 をコードする第一の核酸および HLA 抗原をコードする第二の核酸が導入された腫瘍肺癌細胞を提供する。これらの改変された腫瘍細胞は、1回より多く投与することができる。該改変された腫瘍細胞は、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19 または 20 回投与することができる。好ましくは、ワクチンは2〜9回投与される。
本明細書において用いる場合、単数形の“ある”、“ひとつの”および“該”の語は、特に断りのない限り、それが言及する用語の複数形をも具体的に包含する。本明細書において、特に断りのない限り、“または”の語は“包括的”な“および/または”の意味で用いられ、“排他的”な“いずれか/または”の意味で用いられるものではない。本願明細書および特許請求の範囲において、特に断りのない限り、単数形は、複数形の指示対象をも含む。
“約”との用語は、本明細書において、およそ、周辺、概ね、または前後の意味で用いられる。“約”の用語を数値範囲と組み合わせて用いる場合、該用語は、該数値が示すよりも上および下へ境界を拡張することによって、その範囲を改変する。一般に、本明細書において“約”の用語は、ある数値を、20% の分散によって、示される値よりも上下に改変するために用いられる。本明細書において用いる場合、移行句(transitional phrase)であるかクレームの本文であるかにかかわらず、“含む”および“含んでいる”との用語は、開放的な(open-ended)意味を有するものと解されるべきである。すなわち、該用語は、“少なくとも有する”または“少なくとも含む”という語句と同義に解釈されるべきである。方法について用いる場合、“含む”との用語は、該方法が少なくとも記載された工程を含むが、さらなる工程を含んでもよいことを意味する。化合物または組成物について用いる場合、“含む” との用語は、該化合物または組成物が少なくとも記載された特徴または構成成分を含むが、さらなる特徴または構成成分を含んでもよいことを意味する。
“腫瘍”との用語は、良性(例えば、転移を形成せず、隣接する正常組織を破壊しない腫瘍)または悪性/癌(例えば、周辺の組織に侵入し、通常は転移を生成することができ、除去を試みた後に再発する可能性があり、適切に処置されない限り宿主を死亡させる可能性が高い腫瘍)であり得る腫瘍性増殖を意味するために用いられる (Steadman's Medical Dictionary, 26th Ed, Williams & Wilkins, Baltimore, MD (1995) を参照されたい)。
本発明はまた、CD80 をコードする第一の核酸および HLA 抗原をコードする第二の核酸が導入された同種異系の腫瘍細胞を患者に投与することにより、患者における腫瘍量を安定化するかまたは逆行させる方法を提供する。
別の態様において、本発明は、腫瘍癌細胞、例えば肺癌細胞であり得る、CD80 (B7.1) をコードする核酸および HLA 抗原をコードする核酸を発現するよう遺伝的に改変された腫瘍細胞を提供する。
代表的な HLA 抗原としては、これらに限定されないが、HLA A1、HLA A2、HLA A3、HLA A27 等が挙げられる。特定の態様において、HLA 抗原は HLA A1 または HLA A2 であり得る(実施例を参照されたい)。当業者は、本発明から逸脱することなく、本発明において用い得る HLA 抗原をコードする多数の異なる核酸配列が存在することを理解するであろう(以下を参照されたい)。当業者に公知のあらゆる適切な材料および/または方法を、本発明を実施する際に利用することができる。しかし、好ましい材料および方法を記載する。以下の説明および実施例において言及される材料、試薬等は、特に断りのない限り、商業的供給源から入手することができる。
本明細書において用いる技術用語および科学用語は、特に断りのない限り、本発明が属する分野の当業者によって通常理解される意味を有する。
本明細書において、当業者に公知の様々な方法および材料が引用される。組換え DNA 技術の一般的な原理を示す標準的な参考文献としては、例えば、Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology (Supplement 56), John Wiley & Sons, New York (2001); Sambrook and Russel, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd ed., Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor (2001); Kaufman et al., Eds., Handbook of Molecular and Cellular Methods in Biology in Medicine, CRC Press, Boca Raton (1995); McPherson, Ed., Directed Mutagenesis: A Practical Approach, IRL Press, Oxford (1991) が挙げられる。薬理学の一般的な原理を示す標準的な参考文献としては、Goodman and Gilman's The Pharmacological Basis of Therapeutics, 10th Ed., McGraw Hill Companies Inc., New York (2001) が挙げられる。本発明の組成物は、所望により、希釈剤および賦形剤を含む周知の医薬上許容される担体のいずれかと共に医薬上許容される媒体中に製剤される (Remington's Pharmaceutical Sciences, 18th Ed., Gennaro, Mack Publishing Co., Easton, PA 1990 and Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Lippincott, Williams & Wilkins, 1995 を参照されたい)。本発明の組成物を製造する際に用いられる医薬上許容される担体/媒体のタイプは哺乳類への該組成物の投与様式に応じて異なるが、一般に、医薬上許容される担体は生理学的に不活性かつ無毒性である。本発明の組成物の製剤は、1より多くのタイプの本発明の化合物を含んでもよく、さらに、処置されるべき症状/状態の処置に有用ないかなる他の薬理学的に活性な成分を含んでもよい。
いくつかの態様において、癌細胞は肺組織の癌細胞(“肺癌細胞”とも称する)、例えば腺癌細胞型であり得、例えば、肺癌細胞は以下に例示する AD 100 細胞株であり得る。
本発明はさらに、CD80 (B7.1) をコードする核酸および HLA 抗原をコードする核酸を発現するよう遺伝的に改変された同種異系の腫瘍細胞を投与することによって、患者において腫瘍、例えば癌、例えば肺癌に対する免疫応答を刺激する方法を提供する。該腫瘍細胞は、癌細胞、例えば肺癌腫瘍細胞であり得る。
本発明の方法は、本発明の方法の利益を受け得るあらゆる対象に使用するためのものである。したがって、本発明において、“対象”、“患者”ならびに“個体”(互換的に用いられる)には、ヒトおよび非ヒト対象、特に家畜が含まれる。
一つの態様において、本発明の方法は、HLA 抗原を、腫瘍肺癌細胞が投与される個体に対応(match)させることを含み得る。HLA ハプロタイプを決定する方法は当業者に周知であり、例えば、HLA アレルに対する抗体または混合リンパ球反応を利用する周知の血清学的アッセイを用いる方法がある。特定の態様において、本発明の方法は、HLA 抗原 HLA A1、HLA A2、HLA A3 または HLA A27 を用いて行うことができる。本発明の方法は、例えば腺癌、例えば以下に例示する AD100 細胞株を含む様々な腫瘍細胞(例えば、肺癌細胞)を用いることができる。
さらなる別の態様において、本発明は、CD80 (B7.1) をコードする核酸および HLA 抗原をコードする核酸を発現するよう遺伝的に改変された同種異系の腫瘍細胞を投与することによって、腫瘍を阻害する方法を提供する。該腫瘍は、例えば癌腫瘍細胞、例えば肺癌腫瘍細胞であり得る。特定の態様において、CD80 (B7.1) および HLA 抗原を発現するよう改変された同種異系の癌細胞の投与により阻害される腫瘍は、肺癌である。
本明細書において、“同種異系の細胞”とは、該細胞が投与される個体に由来しない細胞、即ち、該個体とは異なる遺伝的構成を有する細胞を意味する。同種異系の細胞は一般的に、該細胞が投与される個体と同じ種から得られる。例えば、同種異系の細胞は、ヒト患者、例えば癌患者に投与するための、本明細書に記載されるヒト細胞であり得る。本明細書において、“同種異系の腫瘍細胞”とは、該同種異系の細胞が投与される個体に由来しない腫瘍細胞を意味する。
一般的に、同種異系の腫瘍細胞は、該細胞が投与される個体において腫瘍に対する免疫応答を刺激することができる1以上の腫瘍抗原を発現する。本明細書において、“同種異系の癌細胞”、例えば肺癌細胞とは、該同種異系の細胞が投与される個体に由来しない癌細胞を意味する。一般的に、同種異系の癌細胞は、該細胞が投与される個体において、癌、例えば肺癌に対する免疫応答を刺激することができる1以上の腫瘍抗原を発現する。
本明細書において、“遺伝的に改変された細胞”とは、例えばトランスフェクションまたは形質導入(transduction)によって、外来性の核酸を発現するよう遺伝的に改変された細胞を意味する。細胞は、例えば本明細書に記載される CD80 (B7.1) をコードする核酸および/または HLA 抗原をコードする核酸を発現するよう、遺伝的に改変することができる。1より多くのポリペプチド、例えば CD80 (B7.1) および HLA 抗原を発現するよう細胞を遺伝的に改変する場合、該ポリペプチドは、所望により、別の核酸にコードされてもよく(実施例1を参照)、または同じ核酸にコードされてもよいことが理解される。細胞を遺伝的に改変する方法は、当業者に周知である。
本発明は、癌患者において免疫応答を刺激するための方法および組成物を提供する。該組成物および方法は、非免疫原性の腫瘍に対する免疫応答を誘導するために特に有用である。本明細書において、非免疫原性の腫瘍とは、例えば腫瘍浸潤リンパ球(TIL)におけるインターフェロン-γ(IFNγ)を産生する CD8 T細胞の相当の刺激によって検出可能な自然免疫応答を誘発しない腫瘍である。
伝統的に、免疫療法による処置にはメラノーマおよび他の免疫原性の腫瘍が好まれていた。非免疫原性の腫瘍細胞は CTL 応答の回避に関して免疫選択されていないため、本発明においては、非免疫原性の腫瘍を能動免疫療法の良好な標的と考える。代表的な非免疫原性の腫瘍としては、これらに限定されないが、肺や膵臓等の腫瘍が挙げられる。
特に有用な非免疫原性の腫瘍の型は、本明細書に例示するとおり、非小細胞肺癌(NSCLC)である。NSCLC 腫瘍は、非免疫原性であり、かつ、CTL 応答を自然には生成しないため、能動免疫療法の良好な標的である。したがって、NSCLC 腫瘍細胞は、細胞傷害性 T 細胞およびナチュラルキラー(NK)細胞に対する回避メカニズムを発達させておらず、NSCLC 腫瘍は細胞傷害性の攻撃に対し感受性である。本明細書に記載する通り、本発明の組成物を用いて NSCLC 患者における腫瘍増殖を遅らせることに成功した (実施例 II および III を参照されたい)。
gp96 はアジュバント活性と多価のペプチド特異性を結びつけるため、NSCLC 腫瘍は、gp96 を発現および分泌し、ワクチンの有効性を増強するよう遺伝的に改変することもできる。多価性(polyvalence)は、免疫選択および回避を阻止する。腫瘍により分泌される gp96 は、樹状細胞(DC)、ナチュラルキラー細胞(NK) および細胞傷害性 T リンパ球(CTL)を活性化し、自然免疫および獲得免疫を活性化する。腫瘍細胞は、NK特異的メカニズムによって、NKG2D を介する CD8 CTL の無差別殺傷(promiscuous killing)によって、および MHC に制限された CD8 CTL 活性によって、殺すことができる。腫瘍に分泌される gp96 による DC および NK の活性化も、NSCLC 腫瘍において見出される免疫抑制性の CD4 制御性細胞の生成に対抗し得る。腫瘍により分泌される gp96 は、DC およびマクロファージ上の CD91 受容体を介する抗原交差提示を刺激する。NSCLC は、メラノーマにおいても見出される腫瘍抗原を共有することが知られており、さらなる共通抗原を賦与され得る。したがって、ワクチンとして用いられる、同種異系の、gp96 を分泌する腫瘍細胞は、患者の自己腫瘍に対する免疫を生成すると予測される。同様に、CD80 および HLA 抗原を発現する同種異系の腫瘍細胞を含む本発明の組成物は、患者の自己腫瘍に対する免疫を生成することができる。
肺腫瘍は、制御性細胞によって、TGF-P 分泌によって、および MHC クラス I の下方制御によって、CTL のプライミングを阻止する。したがって、CTL 応答を生成するために免疫原性のワクチンが必要である。肺腫瘍は、CTL 回避に関して選択されていないため、CTL による殺傷に感受性である。肺腫瘍 TIL は、プライミングを抑制する多数の CD4 制御性細胞を含有する。対照的に、メラノーマ TIL は、その殺傷活性が遮断されている抗原特異的 CD8 CTL を含有し、プライミングが既に起こっていることを示す。本明細書に記載する通り、CD80 (B7.1) および HLA 抗原を発現するよう遺伝的に改変された同種異系の腫瘍細胞を含むワクチンを用いて肺癌患者を処置することに成功した (実施例 II および III)。したがって、NSCLC の免疫療法(ワクチン療法)は、処置しなければ致命的なこの疾患を処置するために有用である。
本明細書において、腺癌は、CD80 (B7.1) および HLA 抗原を発現させるために本発明の組成物および方法において用いることができる代表的な肺癌である。他の型の肺癌は周知であり、他の型の肺癌由来の細胞を本発明の組成物および方法において同様に用いることができる。代表的な肺癌としては、例えば、腺癌であってもよい非小細胞肺癌、扁平細胞癌、または大細胞癌、小細胞肺癌、およびカルチノイドが挙げられる。当業者は、本明細書に記載されるものと同様の方法を用いて、容易に、様々な型の肺癌から組織サンプルを得、肺癌を処置するために有用な細胞株を作成することができる。同様に、他の型の非免疫原性の腫瘍を、CD80 (B7.1) および HLA 抗原を発現するよう遺伝的に改変し得る同種異系の腫瘍細胞を作成するために用いることができ、同様の型の腫瘍または同様の型の腫瘍抗原を発現する腫瘍を処置するために用いることができる。
代表的な同種異系の腫瘍細胞は、本明細書に記載される、ヒト肺腺癌細胞株である AD 100 細胞株である。他の肺癌細胞株は当業者に周知であり、CD80 (B7.1) および HLA 抗原を用いて遺伝的に改変された同種異系の細胞を作成するために同様に用いることができる。例えば、肺癌細胞株を含む多数の細胞株が周知であり、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)(ATCC; Manassas VA)から入手することが可能である。代表的な NSCLC 細胞株としては、これらに限定されないが、NCI-H2126[H2126] (ATCC CCL-256); NCI-H23 [H23] (ATCC CRL-5800); NCI-H1299[H1299] (ATCC CRL-5803);NCI-H358 [H358] (ATCC CRL-5807); NCI-H810 [H810] (ATCC CRL-5816); NCI-H522 [H522] (ATCC CRL-5810); NCI-H1155 [H1155] (ATCC CRL-5818); NCI-H647 [H647] (ATCC CRL-5834); NCI-H650 [H650] (ATCC CRL-5835); NCI-H838[H838] (ATCC CRL-5844); NCI-H920 [H920] (ATCC CRL-5850); NCI-H969 [H969] (ATCC CRL-5852); NCI- H1385 [H1385] (ATCC CRL-5867);NCI-H1435[H1435] (ATCC CRL-5870); NCI- H1437[H1437] (ATCC CRL-5872); NCI-H1563[H1563] (ATCC CRL-5875); NCI- H1568[H1568] (ATCC CRL-5876); NCI-H1581[H1581] (ATCC CRL-5878); NCI- H1623[H1623] (ATCC CRL-5881); NCI-H1651 [H1651] (ATCC CRL-5884); NCI- H1693[H1693] (ATCC CRL-5887); NCI-H1703[H1703] (ATCC CRL-5889); NCI- H1734[H1734] (ATCC CRL-5891); NCI-H1755[H1755] (ATCC CRL-5892); NCI- H1770 [H1770] (ATCC CRL-5893); NCI-H1793[H1793] (ATCC CRL-5896); NCI-H1838[H1838] (ATCC CRL-5899); NCI-H1869[H1869] (ATCC CRL-5900); NCI- H1915 [H1915] (ATCC CRL-5904); NCI-H1944[H1944] (ATCC CRL-5907); NCI- H1975[H1975] (ATCC CRL-5908); NCI-H1993 [H1993] (ATCC CRL-5909); NCI- H2023[H2023] (ATCC CRL-5912); NCI-H2030 [H2030] (ATCC CRL-5914); NCI- H2073 [H2073] (ATCC CRL-5918); NCI-H2085 [H2085] (ATCC CRL-5921); NCI- H2087 [H2087] (ATCC CRL-5922); NCI-H2106 [H2106] (ATCC CRL-5923); NCI-H2110 [H2110] (ATCC CRL-5924);NCI-H2135 [H2135] (ATCC CRL-5926); NCI- H2172[H2172] (ATCC CRL-5930);NCI-H2228 [H2228] (ATCC CRL-5935); NCI- H2291 [H2291] (ATCC CRL-5939); NCI-H2342 [H2342] (ATCC CRL-5941); NCI- H2347 [H2347] (ATCC CRL-5942); NCI-H2405 [H2405] (ATCC CRL-5944); NCI- H2444 [H2444] (ATCC CRL-5945); および NCI-H2122 [H2122] (ATCC CRL-5985) が挙げられる。これらの腫瘍細胞株および他の腫瘍細胞株、特に非免疫原性の腫瘍のものを、本発明の組成物および方法において同様に用いることができる。
本明細書において、これらの腫瘍細胞株および他の腫瘍細胞株を、腫瘍抗原に対する免疫応答を増強する外来性分子を発現するよう遺伝的に改変することができる。かかる分子としては、これらに限定されないが、CD80 (B7.1)、ヒト HLA 抗原、例えば HLA A1、A2、A3、A27 等が挙げられる。当業者は、周知の方法を用いて、かかる分子をコードする適切な配列を容易に得ることができる。当業者は、かかる分子の変異体が入手可能であるかまたは周知の方法を用いて容易に得ることができることを容易に理解するであろう。既知の完全または部分配列に基づいて、当業者は、周知の分子生物学の手法を用いて、本明細書に記載される、腫瘍細胞を遺伝的に改変するのに適した核酸配列を得ることができる。これらの代表的な配列およびかかる配列の自然変異(natural variation)が本発明の範囲内において考慮されることが理解される。
免疫応答を増強する分子をコードする代表的な核酸配列は、例えば、完全なおよび部分的な cDNA 配列ならびにゲノム配列を含む GenBank から入手可能であり、かかる配列を用いて所望の免疫増強分子をコードする適切な核酸配列を得ることができる。GenBank から入手可能なかかる配列の代表例としては、これらに限定されないが、GenBank 受入番号 NT_005612; NM_012092; NM_175862; NM_006889; NM_005191; BC_042665; NM_012092; NM_175862; NM_006889; NM_152854; NM_005214; NM_005514; NM_002116; Z70315; NM_002127; AH013634; L34703; L34734; AF389378; U30904; AH006709; AH006661; AH006660; X55710;U04244;U35431; M24043; U03859; NM_005514;NM_002116; Z30341;NM_012292; NM_002127;NM_002117; AH007560; AH000042; AB048347; AB032594; AJ293264; AJ293263; AB030575 AB030574; AB030573; AF221125; AF221124; AH009136; X60764; AB032597; L17005; Y13267; AH003586; Z46633; Z27120; Z33453; Z23071; X02457; X57954; K02883; U21053; U04243; U18930; L36318; L36591; L38504; L33922; M20179; M20139; M24042; M15497; M31944; U04787; U01848; M27537; U11267; U03907; U03863; U03862; U03861; NM002116; L34724; L34723;L34721; L34737; L34701; Z97370; L15370; AH003070; M20179; M16273; M16272; M15497; M19756; M19757; NT008413 等が挙げられる。
本発明の組成物および方法は、腫瘍に対する免疫応答を刺激するために有用である。かかる免疫応答は、腫瘍に関連する徴候または症状を処置または軽減する際に有用である。かかる免疫応答は、肺癌に関連する徴候または症状を改善させることができる。本明細書において、“処置”とは、本発明の化合物を投与した個体における症状を、本発明によって処置されていない個体の症状と比較して、減少させ、阻止し、および/または逆行させることを意味する。実務家は、本明細書に記載される組成物および方法が、その後の治療を決定するための熟練した実務家(医師または獣医師)による継続的な臨床評価と共に用いられるべきであることを理解するであろう。したがって、処置の後、実務家は、標準的な方法によって、肺炎症の処置におけるあらゆる改善を評価するであろう。かかる評価は、特定の処置用量や投与様式等を増大させ、減少させまたは継続するか否かを評価する際の助けとなり、情報を提供するものである。
そのため、本発明の方法は、例えば癌、例えば肺癌を含む腫瘍を処置するために用いることができる。本発明の方法は、例えば、さらなる腫瘍増殖を阻止することによって、腫瘍増殖を遅らせることによって、または腫瘍退縮を引き起こすことによって、腫瘍の増殖を阻害するために用いることができる。したがって、本発明の方法は、例えば、癌、例えば肺癌を処置するために用いることができる。本発明の化合物が投与される対象は特定の外傷性状態(traumatic state)に苦しむ必要がないことが理解されるであろう。実際に、本発明の化合物は、症状の発生前(例えば、癌からの寛解期にある患者)に予防的に投与することができる。“治療的”、“治療上”およびこれらの用語の置換(permutation)は、治療的、対症的および予防的な使用を包含するために用いられる。したがって、本明細書において、“症状を処置または軽減する”とは、治療上有効量の本発明の組成物が投与された個体の症状を、かかる投与を受けていない個体の症状と比較して、減少させ、阻止し、および/または逆行させることを意味する。
“治療上有効量”との用語は、求める治療的結果を達成するために有効な用量における処置を意味するために用いられる。さらに、当業者は、微調整によって、および/または1より多くの本発明の組成物を投与することによって(例えば、2つの異なる遺伝的に改変された腫瘍細胞の同時投与によって)、または治療効果を(例えば相乗的に)増強する別の化合物と共に本発明の組成物を投与することによって、本発明の組成物の治療上有効量を減少または増大させ得ることを理解するであろう。したがって、本発明は、投与/処置を所与の哺乳類に特異的な特定の要件(exigency)に合わせるための方法を提供する。以下の実施例において示す通り、治療上有効量は、例えば経験的に、比較的低い量から始めて、有益な効果の同時評価を行いながら段階的に増加させることによって、容易に決定することができる。したがって、本発明の方法は、単独でまたは他の周知の腫瘍治療と組み合わせて、腫瘍を有する患者を処置するために用いることができる。当業者は、例えば、肺癌患者の平均余命を延ばす際および/または肺癌患者の生活の質を改善する際における、本発明の有利な使用を容易に理解するであろう。
局所的に進行した手術不能な疾患(ステージ IIIB)を有する NSCLC 患者に対する現在の推奨には、白金に基づく化学療法および放射線治療、ならびに転移(ステージ IV)を有する患者に対する単独の化学療法が含まれる (Clinical practice guidelines for the treatment of unresectable non-small-cell lung cancer; adopted on May 16,1997 by the American Society of Clinical Oncology, J. Clin. Oncol. 15: 2996-3018,1997)。しかし、これらのアプローチの結果は十分でなく、生存の増大は限られている。今日までに公表された最も大きなメタ解析により、化学療法は1年生存率を 10% 増大させ、生存期間中央値を 6 週間増大させると結論づけられた (Chemotherapy in non-small cell lung cancer: A meta-analysis using updated data on individual patients from 52randomizsed clinical trials. Non-Small Cell Lung Cancer Collaborative Group. BMJ 311: 899,1995)。ビッグ・ラング・トライアル(Big Lung Trial)(BLT)群からの近年の報告は、同様の結果を報告した (Stephens et al., Proc. Am. Soc. Clin. Oncol. 21: 2002 (abstract1661))。フェーズ III 臨床試験において、転移性の疾患を有する患者の生存期間中央値は1年未満である (Schiller, et al., N. Engl. J. Med. 346: 92-98 (2002))。
2つのフェーズ III 治験により、第一次化学療法の失敗の後、応答すると期待されるのは標準的な第二次化学療法を受ける患者のわずか 6% だけであり、生存期間中央値はおよそ 6 ヶ月であることが示された (Shepherd, et al., J. Clin. Oncol. 18: 2095-2103 (2000); Fossella, et al., J. Clin. Oncol. 18: 2354-2362 (2000))。本明細書に記載する実験において、患者の群は再発性または転移性の疾患状態の結果として非常に悪い予後を有し、かつ、ほとんどの患者は手術、放射線および/または対症的化学療法による処置が成功せず、予測される生存期間は 6 ヶ月未満であった。
ワクチン接種アプローチ、例えば本明細書に記載されるものは、非免疫原性の腫瘍を有する患者において免疫応答を誘導する有効な手段と成り得る。NSCLC 腫瘍が腫瘍抗原を含むという証拠は存在する (Yamazaki, et al., Cancer Res. 59: 4642- 4650 (1999); Weynants, et al., Am. J. Respir. Crit. Care Med. 159: 55-62 (1999); Bixby, et al., Int. J. Cancer 78: 685-694 (1998); Yamada, et al., Cancer Res. 63: 2829-2835 (2003))。しかし、肺腫瘍は、免疫原性が低く、かつ、潜在的に免疫抑制性であり (Woo, et al., J. Immunol. 168 : 4272-4276 (2002); Woo et al., Cancer Res. 61: 4766-4772 (2001); Neuner, et al., Int. J. Cancer. 101 : 287-292 (2002); Neuner, et al., Lung Cancer 34 (supplement 2): S79-82 (2001); Dohadwala, et al., J. Biel Chem. 276: 20809-20812 (2001))、それによって T 細胞をアネルギー化(anergize)または寛容化(tolerize)するため (Schwartz, J. Exp. Med. 184: 1-8 (1996); Lombardi, et al., Science 264: 1587- 1589 (1994))、免疫療法の候補として不良であると考えられている。したがって、肺腫瘍は、免疫による攻撃を受けておらず、そのため、免疫エフェクター細胞に抵抗する回避メカニズムを発達させることができていない。したがって、特に、多数のモデル系において腫瘍拒絶に CD8 CTL が関与していることを考慮すると、肺腫瘍は、腫瘍浸潤リンパ球を有する免疫原性の腫瘍とは異なり、キラー CTL に屈し得る (Podack, J. Leukoc. Biel. 57: 548-552(1995))。
これまでのところ、全細胞ワクチンが最良の臨床結果をもたらしているため、本明細書において、同種異系の全細胞ワクチンを選択した。例えば、全細胞メラノーマワクチンを投与した場合に、統計的に有意な生存利益が生じた (Morton, et al., Ann. Surg. 236: 438-449 (2002))。対照的に、単一のエピトープに向けられたワクチンは、腫瘍エスケープ変異体(tumor escape mutant)のため、限られた有用性しか有さない可能性がある (Velders, et al., Semin. Oncol. 25: 697-706 (1998))。全細胞ワクチンアプローチのさらなる利点は、特定の肺腫瘍抗原の先験的描写(a priori delineation)を必要としないことである。本明細書に記載の実験において見出されるように、ワクチン接種が成功し、CTL が生成すれば、原因の抗原部位を後に同定することができる。同種異系の細胞に基づくワクチンは、異なる患者の肺腫瘍において肺腫瘍抗原が共通しており、該抗原が該患者の抗原提示細胞によって交差提示され得るという仮定の下で、自家ワクチンの良好な代替手段を提供する。肺腫瘍における共通抗原については限られた証拠しか存在しないが(Yamazaki, et al., Cancer Res. 59: 4642-4650 (1999); Yamada, et al., Cancer Res. 63: 2829-2835 (2003))、この事は他の腫瘍において示されている (Fong, et al., Annu. Rev. Immunol. 18: 245-273 (2000); Boon, et al., Annu. Rev. Immunol. 12:337-365 (1994))。
同種異系のワクチン接種に応答して生成される CD8 細胞が自己腫瘍細胞を認識することの直接的な証拠を得るために、手術時に腫瘍検体を得るべきである。本明細書に記載の進行した疾患を有する患者の治験においては、腫瘍検体を得ることができなかった (実施例 II および III を参照)。しかし、外部ワクチン接種の休止後であってもインビトロで AD100 に反応する患者の CD8 細胞の頻度が高いまま長期間持続すること、および何人かの患者において増大すること(番号 1004 および番号 1007; 図 5)は、自己腫瘍による患者の CD8 細胞の免疫刺激およびその同種異系のワクチンとの交差反応と一致する。
本明細書に記載する実験において、部分的な応答を有した患者は一人だけであったが、他の5人の患者は安定した疾患を有した。CD8 に媒介される腫瘍特異的免疫応答により、増強された免疫応答性が実証された。非常に悪い予後を有する 19人の患者のうち6人(32%)が急速に死に至る状態の疾患安定化を示し、非常に進行した疾患にもかかわらず全コホートの生存期間中央値が 18 ヶ月に達したという事実は有望である。本明細書に記載する結果は、ワクチン接種によって腫瘍の進行が遅れること、および患者が該ワクチンの HLA A1 または A2 遺伝子座に対して同種異系であるか否かに関わらずこの効果が生じることを示す。該発見はまた、間接的抗原提示が抗腫瘍活性を促進するのに有効であり得ること、および同種異系の MHC 分子が該効果を増強することを示す。
本明細書に記載する結果において、ワクチンは良好な耐容性を示し、患者の生活の質は非常に良く、かくして患者の転帰を改善した。これは免疫的産物であるため、いくつかの免疫に媒介される副作用が予測されると考えた。予測される許容可能な副作用のかかる現象の可能性のある例は、例えば、5人の患者におけるワクチン接種部位の局所的紅斑、および1人の患者が経験した間接痛の発症であった (実施例 3 を参照)。
CD80 および HLA 抗原を発現するよう遺伝的に改変された腫瘍細胞を含む本発明の組成物は、免疫化にとって有用な周知の構成要素のいずれかを含めることにより、ワクチンにおいて有用な生理学的に許容可能な担体と組み合わせることができる。生理学的担体の構成要素は、ワクチンとして投与される抗原に対する免疫応答を促進または増強することを目的としている。製剤は、抗原に対する免疫応答を刺激する組成物の中に、好ましい pH 範囲を維持するためのバッファー、塩、または個体へ抗原を提示する他の構成要素を含んでもよい。生理学的に許容される担体は、抗原に対する免疫応答を増強する1以上のアジュバントを含んでもよい。製剤は、皮下に、筋肉内に、皮内に、または免疫化に関して許容されるあらゆる様式において投与することができる。
アジュバントとは、本発明の免疫原性物質、例えば CD80 および HLA 抗原を発現するよう遺伝的に改変された腫瘍細胞に添加した場合に、該混合物に曝露されたレシピエント宿主において該免疫原性物質に対する免疫応答を非特異的に増強または強化する物質をいう。アジュバントとしては、例えば、水中油エマルション、油中水エマルション、ミョウバン(alum)(アルミニウム塩)、リポソームおよび微粒子、例えばポリスチレン(polysytrene)、デンプン、ポリホスファゼンおよびポリ乳酸/ポリグリコシドを挙げることができる。
アジュバントとしてはまた、例えば、スクアレン混合物(SAF-I)、ムラミルペプチド、サポニン誘導体、マイコバクテリウム細胞壁調製物、モノホスホリルリピド A、ミコール酸誘導体、非イオン性ブロックコポリマー界面活性剤、Quil A、コレラ毒素 B サブユニット、ポリホスファゼンおよび誘導体、ならびに免疫刺激複合体(ISCOM)、例えば Takahashi et al. Nature 344: 873-875 (1990)に記載されるものを挙げることができる。獣医学的用途および動物における抗体の産生のために、フロイントアジュバント(完全および不完全の両方)の分裂促進成分を用いることができる。ヒトにおいては、不完全フロイントアジュバント(IFA)が有用なアジュバントである。様々な適切なアジュバントが当該技術分野において周知である (例えば Warren and Chedid, CRC Critical Reviews in Immunology 8: 83(1988); Allison and Byars, in Vaccines: New Approaches to Immunological Problems, Ellis, ed., Butterworth-Heinemann, Boston (1992) を参照されたい)。さらなるアジュバントとしては、例えば、カルメット・ゲラン桿菌(BCG)、デトックス(DETOX)(マイコバクテリウム・フレイ(Mycobacterium phlei)の細胞壁骨格(CWS)およびサルモネラ・ミネソタ(Salmonella Minnesota)のモノホスホリルリピド A (MPL)を含む)等が挙げられる (例えば、Hoover et al., J. Clin. Oncol., 11: 390 (1993); Woodlock et al., J. Immunotherapy 22: 251-259 (1999) を参照されたい)。
図 6 は、ウシパピローマウイルス タイプ 1 (BPV-1) ベクター由来の BPV-1-B7.1-HLA A1 ベクターの一つの態様の配列およびアノテーションを示す。該ベクターは、それぞれ CMV およびメタロチオネイン(Metallothioneine)プロモーターの下での遺伝子発現のための2つの発現カセットを含むよう、さらに操作した。このベクターの配列は、本明細書の最後に示す。
本明細書に記載される本発明の組成物および方法は、腫瘍を有する患者を処置するために有用である。特定の態様は肺癌を用いて例示されるが、同様のアプローチを、適切な同種異系の細胞を用いて、癌を含む他の型の腫瘍を処置するためにも用い得ることが理解される。
本発明の様々な態様の活性に実質的に影響を与えない改変も、本明細書中に提供される本発明の定義の範囲内に提供されることが理解される。したがって、以下の実施例は本発明を説明することを目的とするが、本発明を限定することを目的とするものではない。特許請求の範囲に記載の発明を、詳細に、かつ、その特定の態様を参照して説明したが、特許請求の範囲に記載の発明に対し、その精神および範囲から逸脱することなく様々な変更および改変を為し得ることは当業者に明らかであろう。したがって、例えば、当業者は、ありふれた実験法のみを用いて、本明細書に記載される特定の物質および方法の多数の等価物(equivalent)を認識し、または確認することができるであろう。かかる等価物は、本発明の範囲内であると考えられ、以下の特許請求の範囲によってカバーされる。
実施例 1: 進行した非小細胞肺癌を有する患者における B7.1/HLA-A 遺伝子改変腺癌細胞株を用いた同種異系のワクチン接種
本実施例は、進行した非小細胞肺癌(NSCLC)を有する患者における B7.1 HLA-A 遺伝子改変腺癌細胞株を用いる同種異系のワクチン接種のために使用されるプロトコールを記載する。本実施例は使用される実験プロトコールを記載する。
以下の実施例は、(a) 免疫療法に用いられる、CD80 および HLA A でトランスフェクトされた同種異系の肺腫瘍細胞が、IFN-y についての ELI スポットによって評価される腫瘍特異的 CD8-CTL の活性化および増殖(expansion)を誘発することができるか否かを評価すること; (b) 非小細胞肺癌(NSCLC)を有する患者における、B7.1 および HLA A1 または A2 でトランスフェクトされた同種異系の腫瘍細胞ワクチンの投与の安全性および毒性を評価すること; および (c) NSCLC を有する患者の臨床転帰における、かかる B7.1 ワクチンの抗腫瘍効果を評価することを目的とした。
患者の選択
最初に、新たに診断されたかまたは再発性転移性の非小細胞肺癌(NSCLC)を有する15人の患者を試験した。これら 15 人の患者の解析を、実施例 2 に記載する。さらなる4人の患者を追加して全員で 19 人の患者とし、該 19 人の患者についてのさらなる結果を実施例 3 に記載した。該患者は、化学療法、放射線治療、手術またはこれらすべての組み合わせが既に失敗していた患者である。適格性の基準は以下の通りであった: 年齢 > 18 歳、東部協同腫瘍研究グループ(Eastern Cooperative Oncology Group)(ECOG)の一般状態(performance status) 0-2、測定可能な疾患、署名によるインフォームドコンセント、および組織学的に確認された NSCLC (癌性胸水を有するステージ IIIB、ステージ IV、または再発性)。脳転移を有する患者は、脳転移が既に処置された場合に、試験へ組み入れた。患者が化学療法、放射線治療または生物学的修飾剤(modifying agent)を受けているか、または先行する 4 週間の期間内にある場合には、該患者を試験に適格でないものとした。全ての患者は、シルベスター総合癌センター(Sylvester Comprehensive Cancer Center)/マイアミ大学の外来患者診療所において処置された。ECOG 基準によって一般状態を評価しながら、体重および生命徴候を含む完全な病歴および物理的試験を行った。治験参加の前に以下の試験を行った: 全血球数; 血小板数; 化学 (尿酸、カルシウム、リン、血清グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(SGOT)および血清グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ(SGPT)を含むトランスアミナーゼ、アルカリフォスファターゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、総ビリルビンおよび直接ビリルビン、血中尿素窒素(BUN)、クレアチニン、アルブミン、総タンパク質、電解質、およびグルコース); および心電図(EKG)。HLA 分類を得た。ワクチン接種されている間、腫瘍応答をコンピュータ断層撮影(CT)スキャンによって評価しながら、患者を月に2回追跡調査した。腫瘍測定は、関連部位の CT スキャンを含むX線撮影調査の結果から得た。
ワクチン細胞株および遺伝的改変
1994 年に Dr. N. Savaraj (マイアミ大学、医学研究科) によって、肺癌患者の生検からヒト肺腺癌細胞株が樹立され、AD100 と命名された。患者は、転移性の肺腺癌に起因する腸骨稜の骨びらんからくる骨盤痛の初期症状を 1993 年に示した 74 歳の白人男性であった。培養用の癌細胞を、骨盤骨破壊の領域から骨髄穿刺によって得た。該患者は、骨盤への放射線治療で処置されたが、診断の1ヶ月後に死亡した。この患者から得た細胞株は、標準培地(以下に記載される)中において培養され続けており、かつ、マイコプラズマ、ウイルスまたは他の外来性物質の混入が無い。該細胞株は均質であり、プラスチックに対して接着性であり、およそ 26 時間の分裂速度で増殖する。
遺伝的改変
AD100 を、プラスミド cDNA である pBMG-Neo-B7.1 および pBMG-His-HLA A2 を用いて、または B45-Neo-CM-Al-B7.1 を用いてトランスフェクトした (Yamazaki et al.、Cancer Res.、59: 4642、1999)。トランスフェクトされた細胞を、G418 およびヒスチジノールを用いて選択した。正しい配列の検証は、制限解析ならびに関連遺伝子産物の発現、すなわちベクター配列の G418 またはヒスチジノール耐性、トランスフェクトされた cDNA の HLA Al、A2、および B7.1 の発現に基づいた。細胞の複製を阻止するため、例えばコバルト(Co)照射器における 12,000 Rads を用いて、細胞に放射線を照射し、使用するまで 5x107 細胞の一定量において 10% DMSO 中で凍結保存した。組織培養に再播種すると、該細胞は約 14 日間生存しているように見えたが、コロニーを形成することができず、該細胞は複製できないことが示された。したがって、該細胞はワクチン細胞として使用するのに安全であると考えられた。それらをワクチンとして使用するための最小限の要件は、ワクチン細胞の代表的バッチについての図 1A に示される通り、細胞の少なくとも 70% における HLA A1 または A2 および B7.1 の共発現であった。トランスフェクトされていない AD100 株は、FACS において抗 HLA A1 もしくは A2 または B7.1 を用いる染色に関して陰性であった。図 1A は、免疫化に使用される CD80 および HLA A1 または A2 でトランスフェクトされた AD100 ワクチン細胞の、フローサイトメトリー解析による品質管理を示す。
免疫化
局所的な皮膚反応の程度を減少させるため、体の複数の部位において皮内注射を行った。HLA A1 または A2 であった患者は対応する HLA-対応(matched)ワクチンを受け取り、他方、HLA A1 でも HLA A2 でもなかった患者は HLA Al でトランスフェクトされたワクチン(即ち、HLA-非対応(unmatched)ワクチン)を受け取った。所与のワクチン接種日において、患者は、投与用に2つから5つの一定分量に分割された総用量 5x107 の放射線照射された細胞(12,000 rad)を、四肢において、最も近い隣接する注射部位から針の侵入部位まで少なくとも 5 cm の間隔を空けて、各一定分量の2つから5つの皮内注射として受け取った。治療の下で腫瘍の進行が起こらなかったことを条件として、治療期間の間に、2週間ごとに1回、合計で9回の免疫化(4.5x108 細胞)を行った(表 1)。後続のワクチン接種については、注射部位を別の肢へ時計回りに回転させた。ワクチン接種の一つのコースは、3回の隔週の注入を含んだ。画像評価(CTスキャン)による安定な疾患または応答性の NSCLC の証拠を有し、かつ、無毒性から中程度までの毒性 (グレード < 2) を有する患者を、同じ用量におけるさらなるコースによって処置した。第二の注入のコースは、第一のコースを完了させる3回目のワクチン接種の2週間後に開始した。CT スキャンによる腫瘍進行が無く、かつ、重篤なまたは生命を脅かす毒性 (グレード > 3) が無い場合、第三のコースを、第二の治療コースの3回目のワクチン接種の2週間後に開始して、同じ用量の治療により行った。各コースが行われる前および行われた後における血液検査による臨床毒性および免疫学的評価を実施した。試験の期間中、患者を毎週、臨床的に追跡調査し、これには血球数および基礎的化学のモニタリングが含まれた (表 1)。
表 1 は、NSCLC (IIIB/IV) 患者の処置および評価のスケジュールを示す。上記の通り、患者を2週間間隔で9回免疫化した。3つの免疫化の各々の前および後において、免疫学的アッセイを行った。
Figure 2012505918
免疫学的試験
皮膚試験の遅延型過敏(DTH)およびインターフェロン-γ IFN-γについての酵素結合免疫スポット(enzyme-linked immunospot)(ELISPOT)アッセイを含む免疫学的試験を行った。CD4 細胞によって媒介される免疫応答を、105Al、A2 またはトランスフェクトされていない AD100-B7 ワクチン細胞の皮内注射後の DTH 反応によって試験した。3つの免疫化の各コースの前および後において、精製された CD8 細胞を患者から得た。Spin-sep prep (Stem Cell Technologies; Vancouver、Canada)を使用して、抗CD56、抗CD4 および他の抗体を用いる負の枯渇(negative depletion)によって CDS 細胞を濃縮した。純度は 80% よりも高く(図 1B)、主な混入細胞は B 細胞であった(示さず)。解析のために、試験患者の全てのワクチン接種が完了するまで、10% ジメチルスルホキシド(DMSO)および 20% ウシ胎仔血清(FCS)を含有する培地中において CD8 細胞を凍結させた。免疫前およびワクチン接種後の ELISPOT 頻度についての解析を、同じ日に、同じマイクロタイタープレート中において行った。アッセイは四つ組みで行い、2x104 の精製された患者の CD8 細胞を、それぞれ、103 A1 もしくは A2 でトランスフェクトされた又はトランスフェクトされていない AD100 を用いて、K562 を用いて、または培地のみを用いて3日間刺激し、IFN-y を産生する細胞の頻度を ELISPOT によって決定した。免疫化の前ならびに 3、6 および 9 回目の免疫化の後に、免疫アッセイを行った。
統計解析
患者の特徴を、パーセンテージを用いた計算として、または平均値および範囲として表す。カプラン・マイヤーの積-極限(product-limit)法によって推定される全生存を、試験への参加から何らかの原因で死亡するまでの時間として定義する。死亡しなかった場合には、患者との最後の接触日において経過観察を打ち切った。患者の生存期間が年齢(連続的)、性別、人種(非ヒスパニック系白人対その他)、腫瘍の病態(腺癌対その他)およびワクチンの HLA 適合と関連するか否かを決定するために、単変量および多変量の比例ハザード回帰を用いた。対応する臨床応答の解析にはロジスティック回帰を用いた。ハザード比および生存している患者のパーセンテージについては、90% の信頼区間(CI) L90- U90 を報告する。推定されるパラメータ、例えばハザード比が L90 を超えることは、95% の信頼度を与えるものと理解できる。
実施例 2: 同種異系のワクチンを用いた全細胞免疫化に対する、進行した肺癌患者の特異的 CD8 T細胞応答
本実施例は、同種異系のワクチンを用いた全細胞免疫化についての 15人の患者群の試験結果を記載する。
進行した NSCLC ステージ IIIB/IV を有する患者について、HLA の型を分類した。HLA A1 陽性患者は AD-A1-B7 ワクチンを受け取り; HLA A2 陽性患者は AD-A2-B7 ワクチンを受け取り; HLA A1 陽性でも A2 陽性でもない患者は AD-A1-B7 または AD-A2-B7 ワクチンのいずれかを受け取った。精製された患者の CD8 細胞を HLA A1 もしくは A2 でトランスフェクトされたかまたはトランスフェクトされていない AD100 を用いてインビトロで再刺激した後、IFN-y を分泌する CD8 細胞の頻度を ELISPOT によって決定した。対照は、K562 を用いた刺激ならびに刺激細胞を用いない CD8 細胞のインキュベーションを含んだ。
免疫化された腫瘍患者の ELISPOT 応答を、それぞれ HLA A1 または A2 でトランスフェクトされた AD100 細胞にインビトロで3日間曝露された HLA A1 または A2 患者から得られた IFN-γ を分泌する CD8 細胞の数を示す、HLA 対応(matched)応答として表す (図 2A)。HLA ミスマッチ(mismatched)応答は、A1 または A2 患者の CD8 細胞をそれぞれ A2 または A1 でトランスフェクトされた AD100 に曝露した場合に形成されたスポットの数を示す (図 2B)。対応応答は、6±4 (平均値の標準誤差、SEM) の IFN-γを分泌する免疫前 CD8 細胞 (2万あたり) から、6回の免疫化の後、最大で 90±35 (SEM) の IFN-γを分泌する細胞まで 15倍増大し、次の3回の免疫化の間このレベルを維持した。ミスマッチ応答は、24±18 から最大 142±42 まで、5.7倍増大した。この9人の患者の群には、3回の免疫化の前および後のいずれにおいても応答を示さず(0 スポット)、その時点において腫瘍が進行した一人の患者が含まれ、該患者は治験から外れた。
残りの 5 人の患者は、HLA A1 および A2 のいずれに関しても陰性であった。A1 または A2 でトランスフェクトされた AD 100 への曝露に対するこれらの患者の CD8 応答を、図 2C において非対応(unmatched)応答として示す。IFN-γを分泌する CDS 細胞の頻度は、免疫前の 4.8±1.8 から3回の免疫化後の 105±24 まで 21倍増大し、治験の間を通して一定であった。この頻度の増大は、トランスフェクトされていない 野生型 AD100 に曝露された場合の全患者の CD8 細胞の頻度の増大と同等である (図2D)。最終的に、応答の特異性は、K562 に対する応答の増大 (図 2E) または曝露されていない CD8 細胞の増大が無いことから明らかになる。K562 に対する CD8 応答と、野生型形態における AD100 もしくは遺伝的改変後の AD100 に対する CD8 応答とは、ワクチン接種後の各時点において有意に異なっている (図 2F)。
表 2 に示される CD8 応答は、A1 または A2 陽性患者についての、対応(matched)ワクチンに対する応答を報告する。非 Al、A2 患者については、AD100-A2 に対する応答である。15 人の患者のうち一人は、第一の免疫化のコースを完了する前における治験と関係のない腎不全のため、解析することができなかった。処置された15人の患者のうち、5人の患者が臨床応答を有した: 一人は部分的応答(PR)を有し、4人の患者は安定な疾患(SD)を有した。これらの臨床応答を有する患者のうち4人(PR+3SD)は、以下の期間、さらなる治療を伴うことなく、その疾患の安定化を伴って生存している: 31、28、25 および 12ヶ月。
死亡した患者は、初めは SD を 5 ヶ月間有し、その後進行し、数コースの対症的化学療法にもかかわらず 15 ヶ月後に死亡した。対照的に、イレッサ(Iressa)(商標)を用いた治療の後に安定な疾患を達成した一人の患者を除いて、ワクチン接種に応答しなかった他の10人の患者のうち9人が死亡している。表 2 は、治験前の処置、免疫化に対する臨床応答ならびに免疫応答を含む、全ての患者についてのデータを要約している。処置されている間に進行性の疾患を有した患者は、表 2 に示す通り、試験から外れた。
表 2 は、同種異系の B7/HLA A でトランスフェクトされた NSCLC ワクチンを用いて処置された、進行したステージ IIIB/IV の NSCLC を有する15人の患者の臨床応答、免疫学的 CD8 応答、生存および前処置の概要を示す。表 2 中における略語は以下の通りである: PD - 進行性の疾患; NE- 免疫応答については評価できないが、右側の生存期間解析には含めた; PR- 部分的応答; SD- 安定な疾患; C- 化学療法; R- 放射線; S- 手術。生存は、試験への参加からの生存時間を示す; + は患者が生存していることを示す; n.d. 不実施、進行のために試験から外れた患者。
Figure 2012505918
5人の患者が臨床応答を有し、トランスフェクトされたかまたはされていない AD100 へのエキソビボでの曝露によって測定される連続的な免疫化の後に IFN-スポットを形成する CD8 細胞の頻度が増大した一方、K562 に対する反応性は低いまま変化しなかった (図 2E)。臨床的に応答した患者のうち3人(図 2; 1004、1007、1010)においては、18 週間の処置期間の終了後、治験への参加後 35 から 75 週において血液サンプルを得、該サンプルは AD100 に応答する CD8 細胞の相当の力価を依然として示した (図 2G)。実際、2人中2人の患者(1004、1007)において、18 週の時点で免疫化が終了した後でさえ、力価はさらに増大した。
解析の時点における全ての患者の生存期間中央値は 18 ヶ月であり、この患者群について予測される1年未満の生存期間中央値を上回った(図 3)。図 3 において 90% 信頼区間を示す。MHC 適合および臨床応答による生存の解析により、HLA 非対応(unmatched)の患者が p=0.07 の統計的に有意ではない生存率の改善を示した一方、臨床的応答者は非応答者と比較して有意な(p=0.008)生存率の改善を有することが明らかとなった。
安全性
治験に参加した 15 人の患者のうち、死または入院を必要とする事象として定義される、処置に関連する重篤な有害事象を経験した者はいなかった。処置に関連する副作用は、3日から4日のうちに消散する局所的紅斑および腫脹(swelling)から成った。一人の患者が、処置に関連していた可能性がある一過性の関節痛を訴えた。一人の患者が、最後の免疫化から 30 日以内に肺不全によって死亡した; これまでに心膜炎のエピソードを有した一人の患者は、最後の免疫化のコースの間に心膜液貯留を経験し、心膜開窓術を必要とした。体液中においては、腫瘍細胞は検出されなかった; 患者は免疫化に応答し、依然として安定な疾患状態にある。上記の通り、一人の患者が、1つの免疫化のコースの完了前に腎不全を有した。これらの事象のいずれも、独立した安全性監視委員会によって処置に関連する可能性が高いとみなされることはなかった。
実施例 3: 同種異系のワクチンを用いる全細胞免疫化に対する、進行した肺癌患者のさらなる特徴付け
本実施例は、実施例 2 に記載した試験の続きであり、さらなる患者および試験期間を含む。実験は、基本的に実施例 2 および Raez et al., J. Clin. Oncol. 22: 2800-2807 (2004) に記載される通りに行った。
患者の特徴
19 人の試験患者の特徴を表 3 に示す。東部協同腫瘍研究グループの一般状態は、18 人の患者(74%)において 0 から 1 であった。13人の患者が A1 (3人の患者) または A2 (10 人の患者) のいずれかの HLA 対応ワクチンを受け取った一方、非Al かつ非A2 であった6人の患者は非対応ワクチン(即ち HLA-A1 ワクチン)を受け取った。HLA A 対応患者はワクチン細胞による直接的抗原提示によって CD8 応答を媒介し得るが、非対応の患者は、ワクチン細胞の死および抗原提示細胞による抗原取り込み後の間接的な抗原提示を介して CD8 応答を開始し得ると考えられた。試験への参加前に、全ての患者は以下の処置をすでに受けていた: 手術を受けた者が9人(47%)、放射線治療を受けた者が6人(32%)、化学療法を受けた者が 17 人(89%)。化学療法で処置された患者のうち、10 人(53%)は1より多くの化学療法による処置が成功していなかった。
Figure 2012505918
臨床転帰
18人の患者が合計で 30 コースのワクチン、合計で 90 回のワクチン接種を受けた(表 4)。5人の患者は完全なコースを3つ受け、2人の患者は完全なコースを2つ受けた。最初のワクチン接種の後に重篤な有害事象(SAE)が生じたために試験から外れた一人の患者(完了したコースなし)を除き、残りの 11 人の患者は完全なコースを1つ受け、その後、疾患の進行のために試験から外れた。4人の患者はワクチン接種後に SAE を経験したが、そのいずれもワクチンに関連するとは判断されなかった。
Figure 2012505918
第一のワクチン接種のコースの間、58歳の女性が心膜開窓術を必要とする悪性の心膜液貯留を発症した; 該患者は試験から外れ、ホスピスへ移り、1 週間後に死亡した。該患者は以前、試験への参加前に5つの対症的化学療法による処置が成功していなかった。76歳の男性患者も心膜開窓術を必要とする心膜液貯留を発症したが、事前スキャンの精査により、発症しつつある心膜液貯留が試験への参加前に明らかにされた。SAE が発症する前に3つのコースのワクチンを受け取ったこの患者は、安定な疾患を継続して有している。該患者は現在も生存しており、31 ヶ月後もさらなる治療を伴わず健全である。
55歳の男性は、1 週間前に同意書にサインし、予備的な皮膚試験を受けた後、最初のワクチン接種の日において、化学療法に誘導された腎障害の悪化が発見された。該患者の腎機能はその後悪化し続け、該患者は 3 ヶ月後に死亡した。SAE を経験した4人目の患者は、脳転移を有する 56歳の女性であった。第二のワクチン接種のコースの間に、該患者は呼吸不全を発症し、その後試験から外れ、該疾患の進行から 30 日以内に死亡した。この患者は以前に、4つの対症的化学療法による処置が成功していなかった。
他の副作用に関しては、一人の患者が注入部位における一過性の痛み を訴えた。4人の患者が、ワクチン接種部位において1週間以内に消散するいくらかの紅斑を発症した。一人の患者が、最初のコースの後にいくつかの関節において中程度の間接痛を経験した。以下を含む検査値の有意な変化を有する患者は見られなかった: 全血球数および血小板数、クレアチニン/BUN、カルシウム、および肝機能試験。表 5 は、試験において応答を有した6人の患者についての応答までの時間、応答の期間、および生存期間を示す。
Figure 2012505918
一人の患者が 13 ヶ月続く部分的な応答を有し、5人の患者が 1.6 から 39+ ヶ月の範囲の安定な疾患を示した(表 5)。臨床応答率は 32% (19 人中6人の患者)であった。2004年2月の時点で、これらの患者は 23 から 40+ ヶ月の範囲の生存期間を有し、5人の患者が依然として生存していた。
部分的な応答を有した患者がポジトロン放出断層撮影スキャンによって確認された新たな悪性の病変を発症した後、その疾患が臨床的に非侵襲性であると判断されたため、該患者は 2 ヶ月の間観察下に置かれた。いくつかの病変はその後、サイズが減少するかまたは消滅した。この患者は、ワクチン接種完了後36 ヶ月において、対症的化学療法を必要とすることなく安定な疾患を有し続けている。処置に対する応答を有した6人の患者のうち、その後の対症的化学療法を必要としたのは一人だけであった。残りの5人の患者は、さらなる処置を必要とすることなく安定な疾患を有し続けている。
治療に応答しなかった他の 13 人の患者のうち、2004年2月の時点で生存していたのは2人だけであった。これらの患者のうち一人がゲフィチニブ(イレッサ(商標))を用いて疾患安定化を経験し、もう一方の患者は対症的化学療法を受けている。
年齢、性別、人種、病態およびワクチンの HLA 対応についてのロジスティック回帰分析により、これらの因子のいずれも臨床応答(即ち、部分的な応答または安定な疾患)に対して統計上有意に関連してはいない(全ての場合において P > 0.10)ことが示された。
図 4 は、19 人の試験患者についての全生存のカプラン・マイヤー推定を示す(縦のチェックマークは打ち切られた(censored)経過観察を示す)。推定生存期間中央値は 18 ヶ月である (90% CI、7 から 23 ヶ月)。1年、2年、および 3年全生存の推定は、それぞれ 52%(90% CI、32% から 71%)、30% (90% CI、11% から 49%)、および 30% (90% CI、11% から 49%)である。2004年2月の時点で、試験への参加後 1 から 23 ヶ月で 12 人の患者が死亡した (表 2)。依然として生存している7人の患者については、試験参加からの経過観察は現時点で 10 から 40 ヶ月の範囲であり、経過観察期間の中央値が 36 ヶ月である。
単変量比例ハザード回帰分析により、HLA 対応ワクチンを受け取る患者において死亡率がより高く(ハザード比 = 4.5; 90% CI、1.1 から 17.2)、腺癌を有する患者において死亡率がより低い(ハザード比 = 0.3; 90% CI、0.1 から 1.0)可能性が示唆された。しかし、5つの共変数(HLA 対応、年齢、性別、人種、病態)を含む多変量解析により、全体の死亡率に対するワクチンの HLA 対応の有害作用は割り引かれた; 対応する補正ハザード比は 1.9 (P =0.51) であった。腺癌対他の病態の補正ハザード比は通常の有意性レベルにおける確率の範囲内である 0.2 (P =0.11) であった。
ワクチン接種に対する免疫応答
このコホートの患者は大いに前処理されており、かつ、免疫抑制性であると考えられている大きな腫瘍量を有していた。したがって、腫瘍ワクチン接種プロトコールによってこれらの患者において特異的免疫応答を誘導し得るか否かを確証することは重要であった。CD8 CTL 応答は腫瘍拒絶にとって重大な意味を持つと考えられるため、研究は免疫系のこの部門(arm)に焦点をあてた。非特異的ナチュラルキラー(NK)活性と CD8 CTL 活性とを区別するため、二重のストラテジーを採用した。第一に、抗 CD56 を抗体の負の選択カクテルに含めることによって CD8 細胞を精製して NK 細胞を除去した。第二に、CD8 細胞を NK の標的である K562 に曝露した。NK の混入は、K562 への曝露に応答する細胞の高い力価をもたらす。
一人を除く全ての患者が 6 週間(3回のワクチン接種)後において測定可能な CD8 応答を有し、該応答は 12 週間後に増大し、かつ、18 週間後までに安定化する傾向があった (表 6)。野生型 A1 または A2 でトランスフェクトされた AD100 への患者 CD8 細胞のインビトロでの曝露は有意差を生じなかった。2人の患者(患者番号 1012 および 1019)は、早期の疾患進行または有害事象により、解析に利用できる経過観察サンプルが無かったため、免疫学的に評価することができなかった。一人の患者は非常に穏やかな応答しか有さなかったが、他のほとんどの患者は、ワクチン接種に対して、強力な、大いに統計的に有意な応答を示した (ワクチン細胞への曝露に対する免疫化前および免疫化後の力価、および K562 対照に対する応答の欠如を参照されたい; 図 5、上部パネル)。一人を除く全ての患者が 6 週間(3回のワクチン接種)後において測定可能な CD8 応答を有し、該応答は 12 週間後に増大し、かつ、18 週間後までに安定化する傾向があった (表 6)。野生型 A1 または A2 でトランスフェクトされた AD100 への患者 CD8 細胞のインビトロでの曝露は、有意差を生じなかった。2人の患者(患者番号 1012 および 1019)は、早期の疾患進行または有害事象により解析に利用できる経過観察サンプルが無かったため、免疫学的に評価することができなかった。一人の患者は非常に穏やかな応答しか有さなかったが、他のほとんどの患者は、ワクチン接種に対して、強力な、大いに統計的に有意な応答を示した (ワクチン細胞への曝露に対する免疫化前および免疫化後の力価、および K562 対照に対する応答の欠如を参照されたい; 図 5、上部パネル)。
Figure 2012505918
Figure 2012505918
患者がワクチンに対し HLA 対応(matched)であったか否かによって CD8 応答における統計的有意差は無かった (表 6)。ワクチン接種前のほとんどの患者は、ワクチン細胞に対して低い免疫応答しか有さないかまたは免疫応答を有さず、K562 への曝露に対しても同様に低い活性しか示さなかった。一人の患者(番号1016)は、AD100 に対してワクチン接種前の強い CD8 活性を有し、かつ、K562 に対しては最小の活性しか有さず (図 5、最後のパネル)、腫瘍に対する既存の免疫活性が示唆される。別の患者(番号1002)は、その CD8 細胞のワクチン接種前の高い K562 反応性を有し、AD100 に対しては活性が低かった。ワクチン接種は AD100 に対する反応性を増大させ、かつ、存在する場合には K562 に対する CD8 反応性を減少させる傾向があった。
6人の臨床的に応答する患者の免疫応答(図5B、下部パネル)は、AD100 刺激に対する CD8 力価がワクチン接種の休止後 150 週まで上昇し続けることを示している。
本明細書に記載の試験に参加した患者における疾患の進行したステージを考慮すると、いくつかの臨床的利益の証拠は予測されず、かつ有望なものであった。さらに、試験した B7-ワクチンは CD8 CTL 応答を誘導したため、本試験において見られた臨床転帰の原因として CD8 応答が関連している可能性がある。最小の疾患の状態において、さらなる試験を行う。再発の確率を減少させ、潜在的に生存期間を延ばすため、初期のステージの NSCLC (ステージI/II) を有する患者に、手術後にワクチン接種する。
本実施例において記載する結果は、ワクチン接種によって腫瘍の進行を遅らせることができ、かつ、患者がワクチンの HLA A1 または A2 遺伝子座に対して同種異系であるか否かに関わらずこの効果が生じることを示す。これらの発見はまた、間接的な抗原提示が抗腫瘍活性を促進するのに効果的であること、および同種異系の MHC 分子が該効果を増強することを支持する。
実施例 4: AD100-A1-B7.1 細胞の樹立および増殖
NSCLC を有する患者に由来するヒト肺腺癌細胞株(AD100 と命名された)が、1994年にマイアミ大学において樹立された。この細胞株は、標準培地中において培養され続けており、かつ、マイコプラズマ、ウイルスまたは他の外来性物質の混入が無い。該細胞株は、均質であり、プラスチックに対して接着性であり、およそ 26 時間の分裂速度で増殖する。
AD100 細胞を、プラスミド cDNAである pBMG-Neo-B7.1 および pBMG-His-HLA A2 を用いて、または B45-Neo-CM-A1-B7.1 を用いてトランスフェクトする。トランスフェクトされた細胞を、G418 およびヒスチジノールを用いて選択した。正しい配列の検証は、制限解析ならびに関連遺伝子産物の発現、すなわちベクター 配列の G418 またはヒスチジノール耐性、トランスフェクトされた cDNA の HLA A1、A2、および B7.1 の発現に基づいた。それらをワクチンとして使用するための最小限の要件は、ワクチン細胞の代表的バッチについての 図 1a に示される通り、細胞の少なくとも 70% における HLA A1 または A2 および B7.1 の共発現であった。
ADl00-Al-67.1 細胞は前もって一定分量に調製し、凍結することができる。細胞を含むクライオバイアル(cryovial)を、37℃のウォーターバスおよび緩やかな回旋を用いて素早く完全に解凍する。次いで、前もって準備され、氷上に維持された無菌の 15 ml の円錐型遠心管へ細胞を直ちにに移す。この 15 ml の円錐型遠心管へ 9ml の 完全培地 1 (IMDM; FBS 熱非働化保証 - 終濃度 9%; ゲンタマイシン - 終濃度 0.04 mg/ml)を一度に1から2滴、ゆっくりと添加し、その間、細胞を培地と均一に混合するために管を穏やかに旋回させる。この工程には 10 から 15 分を要する。全ての培地を添加した後、ブレーキを“低”にセットした状態で、室温にて 300xg (1200 rpm) で 10 分間、細胞を遠心する。次いで上清を穏やかに吸引除去し、細胞を、室温に平衡化した 10 ml の完全培地 2 (IMDM; FBS 熱非働化保証 - 終濃度 9%; ゲンタマイシン - 終濃度 0.04 mg/ml; ジェネテシン G-418 - 終濃度 1 mg/ml) 中に再懸濁させる。
その後、トリパンブルー(Trypan Blue) を 1:10 希釈にて用いて細胞の計数および生死判別を行う。次いで細胞を、35 ml の完全培地 2 を含む T-175 組織培養フラスコあたり 2x106 細胞の量で播種する。次いで、播種されたフラスコを 3 から 5 日間、5% CO2 を有する 37℃のインキュベーター中でインキュベートする。
稼働中の細胞バンクのための細胞の培養
細胞がフラスコへ接着したか否かの評価を行う培養3日目までは、細胞を妨害すべきではない。培養3日目において、接着した細胞のパーセンテージを見積もる必要がある。細胞の≧70% がフラスコへ接着している場合には、培地を交換する必要がある。吸引ピペットを用いて古い培地を除去し、37℃まで事前に温められた 50 ml の新鮮な完全培地 1 を各フラスコへ添加すべきである。次いで、さらなる培養のため、5% CO2 を有する 37℃のインキュベーターへフラスコを戻す。もし、培養3日目において細胞を観察した際に、接着しているのが細胞の≦70% であるとみなされる倍場合には、培地を交換せずに5日目まで細胞をそのままにしておく必要がある。培養 3-5 日後において、37℃のインキュベーターからフラスコを取り出し、集密度(confluency)のパーセンテージを決定する。細胞を、90-95% コンフルエントであるとみなされる時まで培養する必要がある。該細胞は、集密度がフラスコあたり 90-95% に達したときに分割しなければならない。
稼働中の細胞バンクのための、トリプシン EDTA を用いる細胞の回収
細胞が 90-95% の集密度に到達した後、上清を吸引により除去し、予め 37℃に温めた 12 ml のトリプシン-EDTA を各フラスコへ添加することによって細胞を回収する。該細胞を、この溶液中において 37℃でおよそ 20 分間インキュベートする。インキュベーションの後、細胞がもはやフラスコに接着していないことを確実にするため、その表面を横切ってフラスコを勢いよく振る。次いで 13 ml の完全培地を添加してトリプシン-EDTA 反応を中和する。次いで、フラスコから剥がれた細胞を含む上清を回収し、無菌の 50 ml または 250 ml 円錐型遠心管へ移す。全てのフラスコからの細胞懸濁液を合わせて、同時に洗浄すべきである。次いで、細胞を、ブレーキを“低”にセットした状態で、室温にて 300xg (1200 rpm) で 10 分間遠心する。次いで、上清を吸引除去し、細胞を 15-30ml の(37℃に)予め温められた完全培地 2 中に再懸濁させる。
その後、トリパンブルーを 1:10 の希釈で用いて細胞の計数および生死判別を行う。
次いで、新しい T-175 組織培養フラスコに、(37℃に)予め温められた完全培地 2 を用いて、フラスコあたり 2.0x106 細胞の密度で播種する。各 T-175 組織培養フラスコ内の完全培地 2 の総容積は 35 ml とすべきである。
上記の回収および拡大(expanding)工程を、201 T-175 フラスコに一度に播種できるまで、およそ 7 日毎に繰り返す。この閾値が満たされた場合には、最後の拡大のために完全培地 2 を用いて細胞を播種する。最初の 3-5 日の培養の後、細胞が接着して栄養供給できる状態になった場合に、完全培地 1 への変更を用いる。細胞が 90-95% の集密度に達したときに、上記の通りに細胞を回収する。次いで、細胞を、少なくとも 200 ml の (4℃) 洗浄培地 (0.9% の塩化ナトリウム; 0.5% の HAS; および 0.0067% の USP 炭酸水素ナトリウム) 中にて2回洗浄する。2回目の洗浄の後、細胞ペレットを洗浄培地中に再懸濁させて最終容積 200 ml とする。1:70 希釈のトリパンブルーを用いて細胞の計数および生死判別を再度行う。次いで、コバルト照射装置を用いて 12,000 rads で細胞に放射線照射する。これにて、細胞は凍結保存できる状態となる。
拡大した AD100-A1-B7.1 細胞の凍結保存
少なくとも 80-120 個のクライオバイアルを、細胞識別、バッチ番号、細胞濃度、実験者のイニシャル(tech's initial)および日付を用いてラベルするべきである。次いで、細胞を、4℃において 300xg (1200rpm)で 10 分間、ブレーキをオンにした状態で遠心する。その後、上清を吸引除去し、ペレット化した細胞を氷上に置く。次いで、細胞を穏やかに混合しながらゆっくりと氷冷の洗浄培地中に再懸濁させて 200xl06/mlの濃度とする。氷冷の凍結培地 (0.9% の塩化ナトリウム; 0.5% の HAS; 0.0067% の USP 炭酸水素ナトリウム; および 20% DMSO) を 1:1 の比でゆっくりと添加して 100xl06/ml の細胞濃度および 10% の DMSO 濃度を得る。次いで、細胞を氷上で 0.5 ml (50xl06 細胞) ずつ事前に準備されたクライオバイアルに分注し、その後 -80℃にて 18-24 時間保存する。24 時間後、凍結した細胞を液体窒素保存タンクへ移す。
本願において、様々な出版物が引用されている。これら出版物の開示事項は、本発明が関連する技術水準をより完全に説明するために、各々が引用により取り込まれると具体的にかつ個々に示されるのと同程度に、引用によりその全体が本願に取り込まれる。本明細書において引用される特許、公開された出願および科学文献は、当業者の知識を証明するものであり、各々が引用により取り込まれると具体的にかつ個々に示されるのと同程度に、引用によりその全体が本願に取り込まれる。本明細書において引用されるいかなる参考文献と本明細書の特定の教示との間のいかなる矛盾も、後者を支持することで解消されるものとする。同様に、技術分野において理解されている単語または語句の定義と本明細書において具体的に教示される該単語または語句の定義との間のいかなる矛盾も、後者を支持することで解消されるものとする。
実施例 5. 1. フェーズ 1 試験の設計および結果
各々が 2 週間の間隔で離れている3回のワクチン接種が、処置の一つのコースを構成した。第一のコースの終わりに、安定な疾患または応答性の NSCLC の証拠(コンピュータ断層撮影スキャンによる)を有し、かつ、無毒性から中程度までの毒性(グレード≦2)を有する患者を、第二のコースのワクチン接種によって処置した。毒性のために第二または第三のコースの処置を拒否した患者はいなかった。
腫瘍の進行または重篤な毒性(グレード≧3)が無い場合、第三のコースのワクチン接種を行った。グレード≧3 の薬剤に関連する毒性を経験した患者はおらず、そのため、進行しなかった全ての患者は第三のコースのワクチン接種に適格であった。
したがって、全部で3つのコース、または全部で9回のワクチン接種が本試験において可能であった。各ワクチン接種の前および後に臨床評価および毒性評価を行い、かつ、各コースの前および後に免疫学的評価を行った。
A. 治験において試験した全ての患者の生存状態および履歴
最新の生存曲線を 図 7 に示す。完全な患者の履歴および経過観察を表 7 に示す。
B. 応答者の現在の状態
6人の臨床的応答者のうち3人が死亡し、最も近いのは 2007年2月であった (以下の患者 # 14、および表 1)。2007年3月の時点において、3人が生存し続けている。該6人の臨床的応答者の平均生存期間は、現時点で 59+ ヶ月である (中央値 = 〜 66+ (60 または 72+) ヶ月)。最初の6人の臨床的応答者の詳細な状態を、以下に示す (患者 # は表 7 を参照):
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C. 最新の生存曲線(治験の開始から現在または最後の生存者まで)
図 7 を参照されたい。
D. 応答した患者または有害作用を有した患者のパーセンテージ
表 8 に示される通り、19 人の患者が治験に参加した。一人の患者がワクチン接種を受ける前に試験から外れたが、該患者は依然として 19 人の患者の中に数えられていることに注意すべきである。
19 人の患者のうち6人(32%)が、部分的な応答(PR)または安定な疾患(SD)のいずれかを伴って臨床的に応答した。
19 人の患者のうち3人(16%)が、ワクチンに関連する可能性があると判断される有害事象(グレード 1 または 2)を経験した。これらの有害事象は以下から構成された: 発疹 (1 人の患者)、間接における中程度の間接痛 (1 人の患者)、および胸痛 (1 人の患者)。さらに、19 人の患者のうち4人(21%)が、ワクチン接種部位においていくらかの一過性の紅斑を発症した。該紅斑は1週間以内に消散したため、有害事象であるとは考えなかった。
19 人の患者のうち、薬剤に関連する重篤な有害事象(SAE)を経験した者はいなかった(0%)。全ての SAE は、ワクチンに関連しないものであると判断された。19 人の患者のうち4人(21%)が、薬剤に関連しない SAE を経験した。
Figure 2012505918
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E. 異なるレベルのワクチンに対する患者の応答
さらなる詳細については 図 8 におけるグラフを参照されたい。第二のまたは第三のコースのワクチン接種を受けた患者は、臨床応答および生存の両方の点において、よりいっそう良好な状態であった。8 または 9 回のワクチン接種を受けた5人全ての患者が、臨床的応答者であった。臨床的応答者のうち、6人中 5人(83%)が、最初の治療において 8 または 9 回のワクチン接種を受けた。非応答者のうち、13人中 12 人(92%)が 0-3 回のワクチン接種を受けた。
F. 応答者の NSCLC 細胞型(腺癌、気管支肺胞、扁平上皮および未分化)の病態に関する分解
6 人の臨床的応答者について、病態は以下の通りであった: 4 人が腺癌を有し、1 人が気管支肺胞癌を有し、1 人が扁平細胞癌を有した。パーセンテージに基づくと、腺癌を有する 11人の患者のうち 4人(36%)が応答し、気管支肺胞癌を有する 3人の患者のうち 1人(33%)が応答し、扁平細胞癌を有する 3 人の患者のうち 1人(33%)が応答し、かつ、未分化癌を有する 2人の患者のうち応答した者はいなかった(0%)。さらなる詳細については表 1 を参照されたい。
G. 治験および患者における対応および非対応 HLA の比較
5つの共変数(HLA 対応、性別、人種、病態)を含む多変量解析は、全体の死亡率に関して HLA 対応の統計的有意性を示さなかった。
19 人の患者のうち、13 人が対応であり(3 人が A1、10 人が A2)、6 人が非対応であった。6 人の臨床的応答者のうち、3 人が HLA 対応であり、3 人が非対応であった。対応患者のうち、3 人中 1 人(33%)の A1 対応患者が臨床的応答者であり、10 人中 2 人(20%)の A2 対応患者が臨床的応答者であった。非対応患者のうち、6 人中 3人(50%)が臨床的応答者であった。
年齢、性別、人種、病態およびワクチンの HLA 対応についてのロジスティック回帰分析により、これらの因子のいずれも、臨床応答に統計上有意に関連しない(全ての場合において P≧0.10)ことが示された事に注意すべきである。
単変量比例ハザード回帰分析により、HLA 対応ワクチンを受け取る患者において死亡率がより高く(ハザード比 = 4.5; 90% CI、1.1 から 17.2)、腺癌を有する患者において死亡率がより低い(ハザード比 = 0.3; 90% CI、0.1 から 1.0)可能性が示唆された。しかし、5つの共変数(HLA 対応、年齢、性別、人種、病態)を含む多変量解析により、全体の死亡率に対するワクチンの HLA 対応の有害作用は割り引かれた; 対応する補正ハザード比は 1.9 (P=0.51) であった。腺癌対他の病態の補正ハザード比は通常の有意性レベルにおける確率の範囲内である 0.2 (P=0.11) であった。

















BPV-1-B7.1-HLA A1 ベクター配列
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Claims (22)

  1. ヒト対象において保護的免疫応答を生成する方法であって、CD80(B7.1)をコードする核酸を含むウシパピローマウイルス由来の真核生物発現ベクターおよび HLA 抗原をコードする核酸を含むウシパピローマウイルス由来の真核生物発現ベクターを用いてトランスフェクトされた有効量の肺癌細胞を該対象に投与することを含む方法。
  2. 真核生物発現ベクターが、マウス メタロチオネイン-I プロモーター (MTI) をコードする核酸を含む、請求項1の方法。
  3. 真核生物発現ベクターが、G418 耐性遺伝子またはヒスチジノール耐性遺伝子をコードする核酸を含む、請求項1の方法。
  4. HLA 抗原が、HLA Al、HLA A2、HLA A3 および HLA A27 から選択される、請求項1の方法。
  5. 肺癌細胞が腺癌である、請求項1の方法。
  6. HLA 抗原が、HLA Al、HLA A2、HLA A3 および HLA A27 から選択される、請求項2の方法。
  7. 肺癌細胞が腺癌である、請求項2の方法。
  8. 肺癌細胞が1回より多く投与される、請求項1の方法。
  9. ヒト対象において保護的免疫応答を生成する方法であって、CD80(B7.1)をコードする核酸および HLA 抗原をコードする核酸を含むウシパピローマウイルス由来の真核生物発現ベクターを用いてトランスフェクトされた有効量の肺癌細胞を該対象に投与することを含む方法。
  10. 真核生物発現ベクターが、マウス メタロチオネイン-I プロモーター (MTI) をコードする核酸およびサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターをコードする核酸を含む、請求項9の方法。
  11. 真核生物発現ベクターが、G418 耐性遺伝子またはヒスチジノール耐性遺伝子をコードする核酸を含む、請求項9の方法。
  12. HLA 抗原が、HLA Al、HLA A2、HLA A3 および HLA A27 から選択される、請求項9の方法。
  13. 肺癌細胞が腺癌である、請求項9の方法。
  14. HLA 抗原が、HLA Al、HLA A2、HLA A3 および HLA A27 から選択される、請求項10の方法。
  15. 肺癌細胞が腺癌である、請求項10の方法。
  16. 肺癌細胞が1回より多く投与される、請求項9の方法。
  17. CD80(B7.1)をコードする核酸および HLA 抗原をコードする核酸を発現するよう遺伝的に改変された肺癌細胞の集団であって、該細胞の少なくとも 70% が CD80(B7.1)および HLA 抗原を共発現する、肺癌細胞の集団。
  18. HLA 抗原が、HLA Al、HLA A2、HLA A3 および HLA A27 から選択される、請求項17の肺癌細胞の集団。
  19. 肺癌細胞が腺癌である、請求項17の肺癌細胞の集団。
  20. 肺癌に対するワクチンを製造する方法であって、CD80(B7.1)をコードする核酸および HLA 抗原をコードする核酸を発現するよう肺癌細胞の集団を遺伝的に改変することを含み、該細胞の少なくとも 70% が CD80(B7.1)および HLA 抗原を共発現する、方法。
  21. HLA 抗原が、HLA Al、HLA A2、HLA A3 および HLA A27 から選択される、請求項20の方法。
  22. 肺癌細胞が腺癌である、請求項20の方法。
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