以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
本発明による第1の実施形態では、まず、広い通信領域をカバーするマクロセルと、そのマクロセル内に狭い通信領域をカバーする複数のフェムトセルが存在し、それらの各セルにそれぞれ端末が収容されているシステムにおいて、予め決められたプリコーディングベクトルの候補(コードブック)の中から、幾つかのベクトルをフェムトセルが選択し、選択したベクトルに関する情報をマクロセルへ通知する構成について示す。この場合に、フェムトセルから幾つかのプリコーディングベクトルを通知されたマクロセルでは、その情報を基に、フェムトセルと同一リソースを用いた伝送を行う際に用いるプリコーディングベクトルの算出を行う。このような構成とすることにより、例えば、フェムトセルは自身にとって都合の良いプリコーディングベクトルをマクロセルに通知し、そのプリコーディングベクトルを用いた伝送をマクロセルに行わせることが可能となるため、マクロセルとフェムトセルが同一リソースを用いた伝送を行う場合にも、マクロセルからフェムトセルに到来する干渉を低減することができる。
ここで、プリコーディングとは、各送信アンテナから送信される信号にそれぞれ重み付けを行う処理であり、重み(ウェイト)を表わすベクトル(または行列)と送信信号ベクトルを乗算することにより行うことができる。また、マクロセルにおける基地局装置はMeNB、フェムトセルにおける基地局装置はHeNBとも呼ばれる。さらに、ここでは一例としてマクロセルとフェムトセルを想定しているが、ゾーン半径の異なる複数のセルであり、片方のセルにおける所望信号が他のセルにとって干渉となるようなセルの組み合わせであればよく、光張り出し基地局(RRE:Remote Radio Equipments)、ピコセル(PeNB)、ホットスポット、リレー局などで構成されるセルやゾーンを対象としてもよい。
本実施の形態で対象とするシステムの構成例を図1に示す。図1に示すように、本実施形態では、1つのマクロセル内に3つのフェムトセル(フェムトセル1〜3)が存在するシステムを例として説明を行う。ここで、マクロセル全体を制御するMeNB10(第1の基地局装置)は4本の送受信アンテナを有し、マクロ端末20(第1の端末装置)へのデータ伝送を行うものとする。また、MeNB10が制御するマクロセル内には、それぞれフェムトセルを制御するHeNB11〜13(第2の基地局装置)が設置されているものとする。これらのHeNB11〜13も全て4本の送受信アンテナを有しており、HeNB11はフェムト端末21(第2の端末装置)へ、HeNB12はフェムト端末22(第2の端末装置)へ、HeNB13はフェムト端末23(第2の端末装置)へそれぞれデータ伝送を行う。また、全ての端末(マクロ端末20、フェムト端末21〜23)は、それぞれ2本の受信アンテナを有するものとする。但し、各セルに収容される端末の数やフェムトセルの数、各装置の送受信アンテナ数はこれに限るものではなく、任意の数としてよい。
このような状況において、各セルが同一リソースを用いたダウンリンク伝送を行う場合には、図1に示すように、各フェムトセルにおける端末21〜23はMeNB10から非常に大きな干渉を受けることとなる。但し、MeNB10から受ける干渉の大きさは、MeNB10とフェムト端末との距離や伝搬路だけでなく、MeNB10において用いられるプリコーディングベクトルにも大きく依存する。
そこで、本実施の形態では、予め決められたプリコーディングベクトルの候補(コードブック)の中から、MeNB10において用いられた場合に自身が受ける干渉が大きくなる上位幾つかのベクトルを、フェムト端末21〜23またはHeNB11〜13が選択し、選択したベクトルに関する情報をMeNB10に通知するものとする。そして、このようなベクトルを通知されたMeNB10では、通知されたベクトルを用いた伝送はフェムトセルに与える影響(干渉の強度)が大きいものと判断し、それ以外のプリコーディングベクトルを用いた伝送を行う。
ここで、例えば、4本の送信アンテナを備える場合のプリコーディングベクトル(行列)は次式で与えられるものとする。
但し、式(1)のun(n=0,1,…,15)は図2に示される4行1列のベクトルであり、Iは4行4列の単位行列である。また、図2の右端の列は、実際に用いられる16個のプリコーディングベクトルを表わしており、Wn {1}は式(1)で得られたWnの1列目をプリコーディングベクトルとして用いることを意味している。このようなプリコーディングベクトルは、3GPPにおいて標準化が行われた移動通信規格であるLTE(Long Term Evolution)のRelease 8において採用されているプリコーディングベクトルの一部である。
但し、ここでは1ストリーム(またはレイヤとも呼ばれる)のデータ信号を伝送する場合のベクトルのみを示しているが、複数のストリームを伝送する際に用いられるプリコーディングベクトルも式(1)を基に算出することができる。例えば、2ストリームを伝送する場合には式(1)で得られたWnのいずれか2列を、3ストリームを伝送する場合にはWnのいずれか3列を、4ストリームを伝送する場合にはWnの列を並び替えた行列を、送信信号に乗算することによりプリコーディングが行われる。
本実施の形態では、このように式(1)と図2で示されるプリコーディングベクトルを用いるものとするが、これに限らず、その他のベクトルを用いる構成としてもよい。
また、ここで、MeNB10とマクロ端末20の間の伝搬路をHMM、HeNB11とフェムト端末21の間の伝搬路をHFF1、HeNB12とフェムト端末22の間の伝搬路をHFF2、HeNB13とフェムト端末23の間の伝搬路をHFF3とする。また、MeNB10とフェムト端末21の間の伝搬路をHMF1、MeNB10とフェムト端末22の間の伝搬路をHMF2、MeNB10とフェムト端末23の間の伝搬路をHMF3とする。
ここで、本実施の形態における各eNBはそれぞれ4本ずつ、各端末はそれぞれ2本ずつのアンテナを有するため、上記の伝搬路は全て2行4列の行列となる。
このようなシステムにおいて、本実施の形態におけるフェムト端末は、まずMeNB10から送信される伝搬路推定用信号(リファレンス信号やパイロット信号と呼ばれることもある)を受信し、受信した既知の伝搬路推定用信号を用いてMeNB10との間の伝搬路を推定する。この推定された伝搬路にプリコーディングベクトルを乗算すると、MeNB10においてプリコーディングが行われた場合の等価的な伝搬路を算出することができる。例えば、フェムト端末21において推定された伝搬路HMF1とプリコーディングベクトルW0 {1}を乗算したHMF1W0 {1}は、MeNB10においてW0 {1}を用いたプリコーディングが行われて送信された信号が、フェムト端末21において受信される際の等価的な伝搬路であるといえる。したがって、n=0〜15のWn {1}について、HMF1Wn {1}をそれぞれ算出することにより、各プリコーディングベクトルが用いられた場合の等価的な伝搬路を求めることができる。そして、求められた等価伝搬路の大きさを算出することにより、MeNB10において各プリコーディングベクトルが用いられた場合に、MeNB10からフェムト端末21が受ける干渉の影響を推測することが可能となる。本実施の形態では、この等価伝搬路の大きさは式(2)で表わされるノルムの2乗で評価するものとする。
但し、HMFmはMeNB10とフェムトセルmにおけるフェムト端末の間の伝搬路を示している。また、式(2)の代わりに、tr[(HMFmWn {1})(HMFmWn {1})H]のように記載してもよい。このtr[A]は、行列Aの対角成分の総和を求めるトレース演算である。
このように、各フェムト端末において、各プリコーディングベクトルに対して式(2)の演算を行うことにより、それぞれがMeNB10から受ける干渉の影響を推測することが可能となるが、これは瞬時の伝搬路における影響である。一般に、家庭に設置されることが多いフェムトセルは、インターネットを通じてセルラネットワークに接続するため、HeNBとMeNB間で情報をやり取りする際に生じる遅延が比較的大きくなることから、瞬時の伝搬路に基づくプリコーディングベクトルの選択は有効でないことが多い。
そこで、本実施の形態では、各フェムト端末において、各プリコーディングベクトルに対する影響評価(式(2))を長い時間にわたって平均化し、その平均化した結果を基に、各プリコーディングベクトルが用いられる場合の自身に対する影響の大きさを推測する。
この時、比較的長い時間(所定時間)にわたってプリコーディングベクトル毎に式(2)を平均化してもよいし、広い帯域にわたって伝搬路を推定し、式(2)を算出して、それらを平均化してもよい。但し、ここでは式(2)で表わされる値を平均化した結果を用いるものとしているが、ピコセル等、基地局が専用線によってMeNBと接続されているような場合には、必ずしも平均化する必要はなく、瞬時の伝搬路のみを基に、各プリコーディングベクトルが用いられる場合の影響の大きさを推測してもよい。また、フェムトセルにおいても、伝搬路が準静止状態にあるような場合には、瞬時の伝搬路のみに基づくようにしてもよい。
このようにプリコーディングベクトル毎に平均化された値を基に、各フェムト端末21〜23は、自身に対する影響の大きさを推測し、自身に対して影響が大きいと推測されるプリコーディングベクトルを幾つか選択する。
ここで、例えば、影響の大きいものから上位3個のプリコーディングベクトルのインデックスnを選択するものとすると、この処理は式(3)のように表わすこともできる。
但し、max3は、大きいものから順に3つ選択する演算を表わし、E[A]はAの平均を表わしている。また、ここでは影響、つまり式(3)の( )内の値の大きいものから上位3つを選択するものとしているが、これに限らず、プリコーディングベクトル数未満の数であれば任意の数としてよい。
各フェムト端末21〜23は、この式(3)に示すような演算を行って、MeNB10において用いられた場合に影響の大きいプリコーディングベクトルを選択する。そして、選択したプリコーディングベクトルのインデックス(図2に示す識別番号)を、自身が接続しているHeNB11〜13にそれぞれ通知する。このように、フェムト端末からプリコーディングベクトルに関する情報を受け取った各HeNB11〜13は、この情報を有線ネットワーク経由でMeNB10に通知する。
ここで、例えば、HeNB11はフェムト端末21から{1,3,4}のインデックスを、HeNB12はフェムト端末22から{3,4,6}のインデックスを、HeNB13はフェムト端末23から{7,10,11}のインデックスをそれぞれ受け取ったとすると、各HeNB11〜13は、それらのインデックスを全てMeNB10に通知することから、MeNB10には{1,3,4,6,7,10,11}のインデックスが通知されることとなる。
このように通知されたインデックスは、MeNB10がそれらのインデックスが示すプリコーディングベクトルを用いた場合に、フェムトセル1〜3内の全てのフェムト端末(フェムト端末21〜23)へ大きな干渉を与えてしまうと考えられるプリコーディングベクトルを表わしている。したがって、MeNB10において、それら以外のプリコーディングベクトルを用いてマクロ端末20への伝送を行えば、フェムトセルに与える干渉を完全に抑圧することはできないものの、大きく軽減できるものと考えられる。
そこで、MeNB10では、各HeNB11〜13から通知されたもの以外のインデックスが示すプリコーディングベクトルのうち、いずれか1つを選択し、選択したプリコーディングベクトルによりマクロ端末20宛の信号にプリコーディングを施して、各HeNB11〜13が各フェムト端末21〜23に対する伝送を行うのと同一リソースを用いて伝送する。つまり、ここでは、{0,2,5,8,9,12,13,14,15}のインデックスが示すプリコーディングベクトルのうち、いずれか1つを選択してプリコーディングを行うこととなる。
このように、MeNB10では、各HeNB11〜13から通知されたもの以外のプリコーディングベクトルの中から1つを選択して用いる必要があるが、マクロ端末20が伝送を希望するプリコーディングベクトルに関する情報をMeNB10に通知する場合には、マクロ端末20から通知された情報を基にプリコーディングベクトルを選択することができる。これは例えば、マクロ端末20においても式(2)を用いて、最も強く信号(希望信号)を受信可能なプリコーディングベクトルのインデックスを選択し、そのインデックスをMeNB10に通知することにより行うことができる。但し、この場合には、プリコーディングベクトル毎の信号強度を平均化した結果に基づいて選択しなくてもよい。
このようにマクロ端末20から通知されたインデックスが、例えば8であった場合には、各フェムトセルから通知されたもの以外のプリコーディングベクトル({0,2,5,8,9,12,13,14,15})のうちの1つと一致するため、このプリコーディングベクトルを用いて伝送を行っても、各フェムトセルに与える影響はそれほど大きくないものと考えられる。したがって、MeNB10はインデックスが8のプリコーディングベクトルを選択し、このプリコーディングベクトルを信号に乗算して、マクロ端末20へ向けて伝送することができる。一方、マクロ端末20から通知されたインデックスが、例えば11であった場合には、各フェムトセルから通知されたプリコーディングベクトル({1,3,4,6,7,10,11})のうちの1つと一致するため、このプリコーディングベクトルを用いた伝送を行う場合には、少なくとも1つのフェムトセルに大きな影響を与えるものと考えられる。したがって、このような場合には、フェムトセルから通知されたもの以外のプリコーディングベクトルの中から1つをランダムに選択して用いるようにしてもよいし、それらの中から、マクロ端末20から通知されたものに最も近い(相関が高い)プリコーディングベクトルを選択するようにしてもよい。
このように、各HeNBから通知された情報とマクロ端末から通知された情報を基にプリコーディングに用いるベクトルを選択することにより、フェムトセルに与える干渉を軽減しつつ、マクロセルにおいてもある程度の受信特性を確保することができる。したがって、マクロセルとフェムトセルにおいて同一リソースを用いた伝送を行うことが可能となり、別々のリソースを用いる場合に比べ、周波数利用効率に優れたシステムを構築することができる。
また、ここでは、MeNB10においてのみプリコーディングを行って信号を伝送することとなっているが、各HeNB11〜13においても、各フェムト端末21〜23宛の信号にプリコーディングを施してから伝送する構成としてもよい。このためには、マクロ端末20がMeNB10との間の伝搬路を推定し、希望のプリコーディングベクトルを通知するのと同様に、各フェムト端末21〜23においてもHeNB11〜13との間の伝搬路を推定し、式(2)を用いて、最も強く信号(希望信号)を受信可能なプリコーディングベクトルのインデックスを選択して、そのインデックスを各HeNB11〜13に通知することが必要となる。したがって、この場合の各フェムト端末21〜23は、MeNB10における使用を希望しない3つのプリコーディングベクトルと、自身が接続するHeNB11〜13における使用を希望する1つのプリコーディングベクトルを、それぞれHeNB11〜13に通知することとなる。
ここで、以上のような処理を行うMeNB10、HeNB11〜13、マクロ/フェムト端末20,21〜23の装置構成を示す。まず、MeNB10の装置構成を図3に示す。図3に示すように、本実施の形態におけるMeNB10は、上位層30、変調部31、プリコーディング部32、信号多重部33、ベクトル選択部34、伝搬路推定用信号生成部35、D/A部36−1〜4、無線部37−1〜4、41、送信アンテナ部38−1〜4、受信部39、A/D部40、受信アンテナ部42から構成される。但し、この図3は、シングルキャリア伝送が行われる場合のMeNB10の装置構成を示している。
この図3に示すMeNB10では、先に述べたように、各端末装置に伝搬路(HMM、HMF1、HMF2、HMF3)を推定させるための伝搬路推定用信号を送信する。この伝搬路推定用信号は、伝搬路推定用信号生成部35において生成される既知の信号であり、この信号に対するプリコーディングは行われないため、伝搬路推定用信号生成部35から信号多重部33を経由して、D/A部36−1〜4に入力される。D/A部36−1〜4では、入力された信号に対してディジタル/アナログ変換が行われ、無線部37−1〜4において無線送信可能な周波数に周波数変換された後、送信アンテナ部38−1〜4からそれぞれ送信される。
ここで、各端末装置との間の伝搬路を推定するための伝搬路推定用信号はデータ信号とは多重されていないものとする。また、MeNB10の各送信アンテナと各端末装置の受信アンテナの間の伝搬路をそれぞれ推定できるように、各送信アンテナから送信される伝搬路推定用信号は互いに干渉し合わないように異なるリソース(タイミング)で送信される。さらに、先に述べたように、フェムト端末21〜23では、MeNB10が自身に対して与える影響をある程度長い時間にわたって平均化する必要があるため、その時間分の伝搬路を推定する必要がある。したがって、MeNB10は上述の伝搬路推定用信号をある程度長い時間にわたって送信するものとする。この送信は、定期的であってもよいし、不定期、または連続的であってもよい。
このように送信した伝搬路推定用信号を基に、各端末装置21〜23では伝搬路の推定が行われ、先に述べたプリコーディングベクトルの選択が行われる。そして、選択したプリコーディングベクトルのインデックスを、マクロ端末20はMeNB10に、フェムト端末21〜23はHeNB11〜13にそれぞれ通知する。フェムト端末21〜23からそのインデックスを受け取ったHeNB11〜13は、有線ネットワークを通じてMeNB10にそのインデックスを通知する。マクロ端末20から通知された、インデックスを示す信号は、MeNB10の受信アンテナ部42で受信され、無線部41において無線周波数からアナログ/ディジタル変換可能な周波数へ周波数変換された後、A/D部40においてアナログ/ディジタル変換される。A/D部40においてディジタル信号に変換された信号は、受信部39に入力されて復調等の処理が行われて、プリコーディングベクトルのインデックスとして再生された後、ベクトル選択部34に入力される。また、MeNB10はHeNB11〜13からもプリコーディングベクトルのインデックスを受け取るが、この情報は有線ネットワーク経由で上位層30に入力される。そして、上位層30からベクトル選択部34に入力される。
これらのインデックスが入力されるベクトル選択部34では、全てのフェムト端末21〜23が選択した、MeNB10における使用を希望しない幾つかのプリコーディングベクトルに関する情報と、マクロ端末20が選択した、MeNB10における使用を希望するプリコーディングベクトルに関する情報とに基づいて、実際に伝送に用いるプリコーディングベクトルを選択する。この選択は、先に述べたように、基本的にはフェムト端末21〜23が選択したもの以外の中から選択する。特に、フェムト端末21〜23が選択したもの以外の中に、マクロ端末20から通知されたプリコーディングベクトルがある場合には、そのプリコーディングベクトルを選択する。一方、フェムト端末21〜23が選択したもの以外の中に、マクロ端末20から通知されたプリコーディングベクトルがない場合には、フェムト端末21〜23が選択したもの以外の中からランダムにプリコーディングベクトルを選択してよい。このように選択されたプリコーディングベクトルはプリコーディング部32に入力される。
ベクトル選択部34におけるプリコーディングベクトルの選択後、MeNB10はHeNB11〜13と同一リソースにおいてマクロ端末20宛のデータ信号を伝送する。この信号は、上位層30から変調部31に入力された情報信号を、変調部31において変調した信号であり、変調後にプリコーディング部32においてプリコーディングされる。このプリコーディングは、ベクトル選択部34において選択されたプリコーディングベクトルを信号に乗算することにより行われる。また、プリコーディング部32には、伝搬路推定用信号生成部35から伝搬路推定用の信号が入力される。この伝搬路推定用信号は、マクロ端末20における復調の際に用いられる伝搬路推定用信号であり、データ信号と同じプリコーディングが行われる。
このようにプリコーディングが行われたデータ信号と伝搬路推定用信号は信号多重部33に入力され、伝送するフレームが構成される。但し、復調のための伝搬路推定用信号は、先に述べた伝搬路推定用信号と同様に、互いに干渉し合わないように直交させて伝送する構成とする。信号多重部33において構成されたフレームは、D/A部36−1〜4においてディジタル/アナログ変換され、無線部37−1〜4において無線送信可能な周波数に周波数変換された後、送信アンテナ部38−1〜4からマクロ端末20宛に送信される。
このようなMeNB10の構成とすることにより、フェムト端末21〜23が選択したプリコーディングベクトルとマクロ端末20が選択したプリコーディングベクトルに基づいて、マクロ端末20における受信特性をある程度確保しつつ、フェムトセルへ与える干渉を低減できるプリコーディングベクトルを選択し、そのプリコーディングベクトルを用いた伝送を行うことができる。このようにフェムトセルへの干渉を低減できるため、フェムトセルと全て異なるリソースを用いた伝送を行う必要がなくなり、周波数利用効率の低下を軽減することが可能となる。
次に、本実施の形態におけるHeNBの装置構成を図4に示す。但し、図1に示す3つのHeNB(HeNB11〜13)は全て同じ構成であるものとする。図4に示すように、本実施の形態におけるHeNB11〜13は、上位層50、変調部51、プリコーディング部52、信号多重部53、伝搬路推定用信号生成部54、D/A部55−1〜4、無線部56−1〜4,60、送信アンテナ部57−1〜4、受信部58、A/D部59、受信アンテナ部61から構成される。但し、図3に示すMeNB10と同様に、シングルキャリア伝送が行われる場合のHeNB11〜13の装置構成を示している。
図3、図4からわかるように、このHeNB11〜13は先に説明したMeNB10とほぼ同じ構成となっているため、MeNB10と異なる点を中心に説明する。
まず、受信アンテナ部61から受信部58にかけては、フェムト端末21〜23から通知されるプリコーディングベクトルに関する情報を受信する機能を有する。本実施の形態では、フェムト端末21〜23から通知されるプリコーディングベクトルは、MeNB10における使用を希望しない幾つかのプリコーディングベクトルと、HeNB11〜13における使用を希望するプリコーディングベクトルであり、これら通知された情報のうち、前者を上位層50へ、後者をプリコーディング部52へそれぞれ入力する。MeNB10における使用を希望しない幾つかのプリコーディングベクトルに関する情報を入力された上位層50では、その入力された情報を、有線ネットワークを経由してMeNB10に通知する処理が行われる。また、HeNB11〜13における使用を希望するプリコーディングベクトルは、プリコーディング部52における、フェムト端末21〜23宛の信号との乗算に用いられる。そして、プリコーディングを施された信号は伝搬路推定用信号と多重されて、フェムト端末21〜23宛に伝送される。
このような構成とすることにより、フェムト端末21〜23が選択したプリコーディングベクトルに関する情報をMeNB10に通知することができ、フェムト端末21〜23に与える影響の少ないプリコーディングベクトルをMeNB10に用いさせることが可能となる。
また、本実施の形態における端末の装置構成を図5に示す。但し、図1に示すマクロ端末20と3つのフェムト端末は(フェムト端末21〜23)は全て同じ構成であるものとする。図5に示すように、本実施の形態における端末は、受信アンテナ部70−1〜2、無線部71−1〜2、82、A/D部72−1〜2、信号分離部73、受信ウェイト乗算部74、復調部75、上位層76、伝搬路推定部77、受信ウェイト算出部78、ベクトル選択部79、送信部80、D/A部81、無線部82、送信アンテナ部83から構成される。但し、ここでは、シングルキャリア伝送が行われる場合の端末の装置構成を示している。
この図5に示す端末では、まず、MeNB10やHeNB11〜13から送信された信号を受信アンテナ部70−1〜2で受信し、無線部71−1〜2において受信信号を無線周波数からアナログ/ディジタル変換可能な周波数へ周波数変換した後、A/D部72−1〜2においてアナログ/ディジタル変換する。A/D部71−1〜2においてディジタル信号に変換された信号は信号分離部73に入力され、伝搬路推定用信号とデータ信号が多重されている場合には、それらを分離し、伝搬路推定用信号を伝搬路推定部77へ、データ信号を受信ウェイト乗算部74へそれぞれ入力する。また、プリコーディングベクトルを選択するための伝搬路推定用の信号を受信した場合には、この信号を信号分離部73から伝搬路推定部77へ入力する。
伝搬路推定部77では、既知の伝搬路推定用信号による伝搬路の推定が行われる。ここで、先に述べたように、プリコーディングベクトルを選択するために用いられる伝搬路推定信号にはプリコーディングが行われていないため、これに基づく伝搬路推定を行うことにより、MeNB10やHeNB11〜13との間の伝搬路(HMM、HFFm、HMFm等)を推定することができる。このように推定された伝搬路は、ベクトル選択部79へ入力され、プリコーディングベクトルの選択に用いられる。この選択は、先に述べたように、式(2)や式(3)によって行うことができる。ベクトル選択部79で選択されたプリコーディングベクトルに関する情報は送信部80に入力され、変調等が行われて送信可能な形式に変換された後、D/A部81においてディジタル/アナログ変換され、無線部82において無線送信可能な周波数に周波数変換された後、送信アンテナ部83からMeNB10やHeNB11〜13宛に送信される。
また、伝搬路推定部77では、データ信号と同じプリコーディングベクトルを用いてプリコーディングされた伝搬路推定用信号に基づく伝搬路の推定も行われる。このような伝搬路推定用信号は、データ信号と多重されている信号であり、データ信号を復調する際に必要となる等価的な伝搬路の推定に用いられる。このように推定されたデータ信号復調用の等価的な伝搬路は、受信ウェイト算出部78に入力され、受信ウェイトの算出に用いられる。この受信ウェイトは、2本の受信アンテナでそれぞれ受信された信号を1つの受信信号に合成するためのウェイトであり、そのためのウェイトであれば、どのようなウェイトを用いてもよいが、本実施の形態では最大比合成を行うウェイトを用いるものとする。このウェイトは、推定された等価的な伝搬路をHW'とすると、(HW')Hのように表わされる。但し、ここでは、送信装置(MeNB10やHeNB11〜13)と端末20,21〜23の間の伝搬路をH、送信装置において用いられているプリコーディングベクトルをW'としている。
このように算出された受信ウェイトは、受信ウェイト乗算部74へ入力され、信号分離部73から入力されたデータ信号と乗算される。この乗算により、2本の受信アンテナでそれぞれ受信された信号を1つの受信信号に合成することができる。そして、合成された受信信号は復調部75において復調されて、送信装置(MeNB10やHeNB21〜23)から送信されたデータが再生され、上位層76へ入力される。
以上のような端末20,21〜23の装置構成とすることにより、MeNB10やHeNB11〜13との間の伝搬路に基づいて、所望または非所望のプリコーディングベクトルを選択することができ、さらに、MeNB10やHeNB11〜13から送信されたデータ信号を受信、復調することができる。特に、この端末がHeNB11〜13と接続する場合には、自身への影響が少ないプリコーディングベクトルをMeNB10に通知することができ、フェムトセルに与える干渉を軽減した伝送をMeNB10に行わせることが可能となる。したがって、マクロセルとフェムトセルにおいて同一リソースを用いた伝送を行うことが可能となり、別々のリソースを用いる場合に比べ、周波数利用効率に優れたシステムを構築することができる。
以上の実施形態では、シングルキャリア伝送を行うシステムを例として説明を行ったが、これに限らず、マルチキャリア伝送を行うシステムにも適用可能である。マルチキャリア伝送を行うシステムに適用する場合、サブキャリア毎の伝搬路に応じてプリコーディングベクトルを選択する構成としてもよいし、幾つかのサブキャリアをまとめ、そのまとめた単位で平均的な伝搬路を算出して、それに応じたプリコーディングベクトルを選択するようにしてもよい。また、マルチキャリア伝送システムにおいては、各アンテナから送信する伝搬路推定用信号を異なるサブキャリアに配置することもできる。
また、先に述べたフェムト端末21〜23は、MeNB10における使用を希望しない幾つかのプリコーディングベクトルを選択して、それに関する情報をHeNB11〜13に通知する処理を行うが、その際、MeNB10において1ストリームの伝送が行われることを前提としたプリコーディングベクトルの選択を行うものとしていた。これは、式(2)や式(3)において、Wn(n=0〜15)の1列目であるWn {1}の中からプリコーディングベクトルを選択するものとしていたためである。
ここで、MeNB10は常に1ストリームのみを伝送するわけではないため、フェムト端末21〜23においても、MeNB10が複数ストリームを伝送することを前提として、非所望のプリコーディングベクトルを選択するようにしてもよい。例えば、式(2)や式(3)を用いたプリコーディングベクトルに関する評価を、Wn {12}やWn {134}といった複数のベクトルについて行ってもよい。但し、Wn {12}はWnの1列目と2列目を2ストリーム用のプリコーディングベクトルとすることを表わしており、Wn {134}はWnの1、3、4列目を3ストリーム用のプリコーディングベクトルとすることを表わしている。このように、複数ストリームの伝送を前提としてプリコーディングベクトルを選択するようにしてもよい。
また逆に、MeNB10において複数ストリームの伝送が行われる場合にも、フェムト端末21〜23では、非所望のプリコーディングベクトルを1ストリーム分だけ選択して通知するようにしてもよい。これは、MeNBにおいて複数ストリームの伝送が行われる場合でも、1ストリーム目に用いられるプリコーディングベクトル(Wnの1列目)は常に用いられ、最も代表的なベクトルであると考えられるためである。
さらに、このように、何ストリーム分のプリコーディングベクトルを非所望プリコーディングベクトルとして選択し、通知するかということを、MeNB10からの指示に応じて変更する構成としてもよい。これは、例えば、MeNB10が2ストリーム分のプリコーディングベクトルを通知するように指示する場合には、フェムト端末21〜23は、2ストリーム分のベクトルの組を幾つか選択、通知し、MeNB10が1ストリーム分のプリコーディングベクトルを通知するように指示する場合には、フェムト端末21〜23は、1ストリーム分のベクトルの組を幾つか選択、通知するというようなものである。このようなMeNB10からの指示は、まず有線ネットワーク経由でMeNB10からHeNB11〜13に送られ、HeNB11〜13を経由してフェムト端末21〜23に送られる。
また、本実施の形態では、MeNB10における使用を希望しない幾つかのプリコーディングベクトルをフェムト端末21〜23がそれぞれ選択するものとしていたが、この選択処理をHeNB11〜13において行うようにしてもよい。これは、本来、MeNB10からの干渉はフェムト端末21〜23が受けるため、先に述べたように、フェムト端末21〜23においてその影響を推測し、非所望のプリコーディングベクトルを選択するのが望ましいが、フェムトセルは非常にセル半径の小さいセルであり、MeNB10から見たフェムト端末21〜23の位置とHeNB11〜13の位置はほぼ同じであるものと考えられる。そのような場合には、フェムト端末21〜23とHeNB11〜13で同じプリコーディングベクトルが選択される可能性も高く、フェムト端末21〜23の代わりにHeNB11〜13で、MeNB10における使用を希望しない幾つかのプリコーディングベクトルを選択しても構わないという考えに基づくものである。このように、HeNB11〜13でプリコーディングベクトルの選択を行う場合には、図4に示す装置構成を、図5と同様に受信機能を複数備えるように変更し、受信部58内に伝搬路推定部やベクトル選択部を備えるようにする必要がある。そして、受信部58内のベクトル選択部で選択されたプリコーディングベクトルは、上位層50へ入力され、上位層50から有線ネットワークを経由してMeNB10に通知される。このような変更を行うことにより、フェムトセルとして、MeNB10における使用を希望しない幾つかのプリコーディングベクトルをHeNB11〜13が選択し、MeNB10に通知することができる。
また、一般に、HeNB11〜13は接続すべき端末が存在する場合にのみ動作し(アクティブモード)、それ以外の時間はスリープモードとなり、信号の伝送を行わないようにすることで周囲に与える干渉を低減している。先に述べたように、MeNB10から受ける干渉の影響に関する評価は、ある程度長い時間にわたって行うことが好ましいことから、HeNB11〜13でプリコーディングベクトルの選択を行う場合には、HeNB11〜13がスリープモードである間も、伝搬路の推定と、式(2)の演算とその平均化を行うようにしてもよい。そして、HeNB11〜13に接続を希望するフェムト端末が現れた場合にスリープモードを解除してアクティブモードへ移ることとなるが、この際に、MeNB10における使用を希望しない幾つかのプリコーディングベクトルを選択してMeNB10に通知するようにしてもよい。スリープモードの間にも、このような処理を行うことにより、ある程度長い時間をかけて選択する必要があるプリコーディングベクトルを、フェムト端末が現れてすぐに選択することが可能となり、マクロセルとフェムトセルにおいて同一リソースを用いた伝送を効率的に実現することができる。さらに、スリープモードからアクティブモードへ移った後においては、HeNB11〜13は定期的、または不定期的にプリコーディングベクトルに関する情報を更新して、MeNB10に通知してもよい。
また逆に、HeNB11〜13がアクティブモードからスリープモードに移る場合には、その前にHeNB11〜13から通知していたプリコーディングベクトルに関する情報を、MeNB10において考慮して、実際に伝送する際に用いるプリコーディングベクトルを選択する必要がなくなるため、その情報をリセットするような情報をHeNB11〜13からMeNB10に通知してもよい。この時にHeNB11〜13からMeNB10に通知する情報としては、例えば、アクティブモードからスリープモードに移ることを示す任意のビット数の情報でもよいし、全てのプリコーディングベクトルの使用を認めることを示す情報でもよい。また、予め用意されたプリコーディングベクトルの候補とは異なるインデックス、例えば、予め用意されている図2の中にはない16というインデックスを通知するようにしてもよい。このように、HeNB11〜13から通知されたプリコーディングベクトルをリセットする情報を受け取ったMeNB10では、そのHeNB11〜13では伝送が行われないものと判断し、その他のHeNB11〜13から通知されたプリコーディングベクトルに関する情報を基に、実際に伝送に用いるプリコーディングベクトルの選択を行う。また、全てのHeNB11〜13がスリープモードとなる場合には、マクロ端末20からの通知情報のみに基づいてプリコーディングベクトルの選択を行うこととなる。
さらに、本実施の形態では、3つのフェムトセルを対象として、それらのフェムトセルを構成するHeNB11〜13からそれぞれ通知されたプリコーディングベクトルに関する情報に基づいて、MeNB10において用いるプリコーディングベクトルを選択するものとしていたが、実際のシステムにおいては、より多くのフェムトセルが形成される場合もある。そのように、非常に多くのフェムトセルがマクロセル内に形成される際には、各フェムトセルから通知されるプリコーディングベクトルの多くが重複せず、図2に示す16個の候補の全てが、いずれかのフェムトセルにとっては都合の悪いプリコーディングベクトルとなる場合もある。このような場合には、式(2)の平均値をフェムトセル毎に算出して、その値を比較することにより、マクロセルから受ける干渉が大きいものと予想されるフェムトセルを幾つか抽出し、そのフェムトセルから通知されたプリコーディングベクトルに関する情報を基に、実際に伝送に用いるプリコーディングベクトルを選択するようにしてもよい。但し、この場合には、各フェムトセルにおいて、式(2)をある程度長い時間にわたって平均した値を基にプリコーディングベクトルを選択し、選択された幾つかのプリコーディングベクトルに関する情報と共に、その選択された幾つかのプリコーディングベクトルに関する式(2)の平均値について、さらに集合平均をとった値をMeNBに通知するものとする。
また、フェムトセル毎に式(2)を平均化するのではなく、プリコーディングベクトル毎に平均化した値を各フェムトセルからMeNB10に通知し、その総和が最小となるプリコーディングベクトルをMeNB10において用いるものとしてもよい。この場合には、各フェムトセルにおいて、式(2)をある程度長い時間にわたって平均した値を基にプリコーディングベクトルを選択し、選択されたプリコーディングベクトルに関する情報と共に、その選択されたプリコーディングベクトルに関する式(2)の平均値をそれぞれMeNB10に通知する。そして、MeNB10において、各フェムトセルから通知された、各プリコーディングベクトルに関する式(2)の値をプリコーディングベクトル毎に加算し、その総和が最小となるプリコーディングベクトルを選択するものとする。
また、これらとは別に、各フェムトセルから通知されるプリコーディングベクトルのうち、複数のフェムトセルから重複して通知されるプリコーディングベクトルは、より多くのフェムトセルへ影響を与えるベクトルであると考えられるため、そのようなベクトルは用いない、つまり、より少ない数のフェムトセルから通知されるプリコーディングベクトルを実際に用いるようにしてもよい。この場合には、フェムトセルにおいて選択されたプリコーディングベクトルに関する情報以外の付加的な情報を通知することなく、より多くのフェムトセルに影響を与えるプリコーディングベクトルの使用を防ぐことができる。
さらに、フェムトセルの数が多く、全てのフェムトセルにとって都合のよいプリコーディングベクトルがない場合には、マクロセルにおける伝送を停止するようにしてもよい。このような制御により、マクロセルからフェムトセルへ与える干渉を完全に抑圧することが可能となる。そして、いずれかのプリコーディングベクトルがMeNB10において使用可能であると判断される場合(いずれのフェムトセルにとっても非所望でないプリコーディングベクトルが存在する場合)においてのみ、マクロセルにおける伝送を行うようにすることもできる。つまり、この場合には、フェムトセルから通知される情報に基づいて、マクロセルにおける伝送が許可されるか否かを判断していることとなる。
また、これまでは、全てのフェムトセルの端末21〜23またはHeNB11〜13において、MeNB10における使用を希望しない幾つかのプリコーディングベクトルを選択して、MeNB10に通知するものとしていたが、これとは異なり、MeNB10から受ける影響の大きいフェムトセルからのみ、そのような情報を通知する構成としてもよい。この場合には、各フェムトセルの端末21〜23またはHeNB11〜13において、式(2)の平均値等を算出することにより干渉の影響を評価し、予め決められた閾値以上の干渉を受けるものと評価されたフェムトセルにおいてのみ、MeNB10における使用を希望しない幾つかのプリコーディングベクトルを選択して、MeNB10に通知することとなる。
また、このような影響の評価のオン/オフをMeNBからの指示に応じて切り替えるようにしてもよい。これは例えば、アクティブモードとなっているHeNBの数が少ない場合には、アクティブモードとなっている全てのHeNBからプリコーディングベクトルに関する情報が通知されるようにし、逆に、アクティブモードとなっているHeNBの数が多い場合には、アクティブモードとなっているHeNBの中で、MeNBから受ける影響の大きいフェムトセル内のHeNBからのみプリコーディングベクトルに関する情報が通知されるようにすることで実現することができる。この場合、MeNBは、アクティブモードとなっているHeNBの数に応じて、上記切り替えを指示する情報を各HeNBに通知する必要がある。
上記の実施形態では、フェムト端末21〜23またはHeNB11〜13で選択するプリコーディングベクトルは、MeNB10における使用を希望しないプリコーディングベクトルであったが、これとは異なり、MeNB10における使用を希望するプリコーディングベクトルを選択するようにしてもよい。この場合、式(3)はmaxではなくminとなり、MeNB10では、フェムトセルから通知されたプリコーディングベクトルのうち、いずれかを選択して伝送に用いることとなる。また、式(3)をmaxとするかminとするかを、MeNB10からの指示に応じて切り替えるようにしてもよい。これは、マクロセル内に存在するフェムトセル数1というように非常に少ない場合には、式(3)をminとし、MeNB10での使用がフェムトセルにとって都合のよいプリコーディングベクトルを選択することにより、その1つのフェムトセルへの干渉の抑圧をより効果的に行うことが可能となり、逆にマクロセル内に多数のフェムトセルが存在する場合には、式(3)をmaxとし、MeNB10での使用がフェムトセルにとって都合の悪いプリコーディングベクトルを選択することにより、より多くのフェムトセルへ干渉を与えにくい伝送を行うことが可能となるためである。したがって、アクティブなフェムトセル数等に応じて、プリコーディングベクトルの選択基準を切り替えることにより、より効率的な伝送を行うことができる。
また、本実施の形態では、フェムト端末21〜23において選択されたプリコーディングベクトルに関する情報をMeNB10に通知し、その情報を基に実際に用いるプリコーディングベクトルをMeNB10が選択するようにしていたが、MeNB10では、フェムト端末21〜23から通知された情報ではなく、マクロ端末20から通知された情報を基にプリコーディングベクトルを選択することもできる。これは、フェムトセルはマクロセル内に位置するため、端末がフェムトセルのゾーン内に入る前には必ずマクロセルに接続するものと考えられるためである。先に述べたように、マクロ端末20はMeNB10に対して所望のプリコーディングベクトルを通知し、MeNB10においてプリコーディングされた信号を受信するが、このマクロ端末20がフェムトセルのゾーン内に入り、HeNB11〜13と接続を開始すると、フェムトセルに入る前にマクロセルに通知していた所望のプリコーディングベクトルは、非所望のプリコーディングベクトルという位置づけに変わることとなる。したがって、端末がマクロセルからフェムトセルにハンドオーバする直前にMeNB10に通知したプリコーディングベクトルに関する情報を、その端末がフェムトセルに移動した後には、MeNB10における使用を希望しないプリコーディングベクトルとして、MeNB10と接続する別の端末宛のプリコーディングベクトルの選択時に考慮することができる。フェムトセルに与える干渉の影響の評価は、ある程度長い時間にわたって平均化することが望ましいため、マクロセルからフェムトセルへのハンドオーバ直後では、プリコーディングベクトルの適切な選択が行えないものの、上記のようにハンドオーバ直前のプリコーディングベクトルを考慮することにより、そのような問題を回避することができる。
(第2の実施形態)
本発明による第1の実施形態では、MeNB10は、フェムト端末21〜23またはHeNB11〜13において選択されたプリコーディングベクトルに関する情報を取得し、その情報を基に、プリコーディングベクトルの候補の中からいずれかを選択してプリコーディングを行うものとしていたが、予め決められた候補の中からプリコーディングベクトルを選択する必要はなく、MeNB10において新たにプリコーディングベクトルを算出して用いるようにしてもよい。但し、この場合にも、フェムト端末21〜23またはHeNB11〜13において選択されたプリコーディングベクトルに関する情報を基に、以下のように算出する。
まず、本実施の形態でも、第1の実施形態と同様、式(2)を基に各プリコーディングベクトルがフェムトセルに与える干渉の影響を推測する。そして、式(2)の値が大きくなる、つまり、フェムトセルに最も大きな干渉を与えるものと考えられるプリコーディングベクトルを1つ選択し、MeNB10に通知する。このようなプリコーディングの選択は、フェムト端末21〜23において行ってもよいし、HeNB11〜13において行ってもよい。フェムト端末21〜23においてプリコーディングベクトルを選択した場合には、選択したプリコーディングベクトルに関する情報をまずHeNB11〜13に通知し、HeNB11〜13から有線ネットワークを通じてMeNB10に通知するものとする。また、このプリコーディングベクトルの選択・通知について、第1の実施形態では、予め決められた候補の中から複数のプリコーディングベクトルを選択して、それらを通知するものとしていたが、本実施の形態では、選択・通知するプリコーディングベクトルは1つとしている点が異なる。
本実施の形態においても、図1に示すように、マクロセル内に3つのフェムトセルが存在する場合を対象とすると、3つのフェムトセルからそれぞれ1つずつのプリコーディングベクトルが通知されるため、フェムトセルからは3つのプリコーディングベクトルが通知されることとなる。ここで、例えば、予め決められたプリコーディングベクトルとして図2に示すものを用いるものとし、フェムトセル1からはWn1 {1}が、フェムトセル2からはWn2 {1}が、フェムトセル3からはWn3 {1}がそれぞれ通知されるものとする。つまり、フェムトセルmからWnm {1}が通知されることを意味している。また、第1の実施形態と同様に、マクロ端末20もプリコーディングベクトルを選択してMeNB10に通知するものとし、選択・通知されたプリコーディングベクトルをWnM {1}とする。但し、マクロ端末20は、MeNB10における使用を希望するプリコーディングベクトルを選択して通知する。
このように、本実施の形態では、MeNB10には合計4つのプリコーディングベクトルが通知されることとなるが、MeNB10では、これらのプリコーディングベクトルを基に新たなプリコーディングベクトルを算出する。この算出は、SLNR(Signal to Leakage and Noise power Ratio)基準により行うものとする。ここで、SLNR基準とは、信号の宛先となる受信装置への所望信号と、宛先以外の他の受信装置の方へ漏れ出る干渉及び雑音の電力比が最大となるようなプリコーディングベクトルを算出するための基準である。この基準に基づき、MeNB10において算出されるプリコーディングベクトルをWMとすると、WMは以下のように算出される。
但し、evec(A)は行列Aの最大固有値に対応する固有ベクトルを、σM 2はマクロ端末におけるSNR(Signal to Noise power Ratio)の逆数(または雑音電力)をそれぞれ表わしている。
このようなプリコーディングベクトルWMをMeNBにおいて新たに算出し、マクロ端末20への伝送の際に行うプリコーディングに用いることにより、マクロ端末20への受信品質をある程度確保しつつ、3つのフェムトセルに与える干渉も低減することが可能となる。ここでは、フェムトセルの数を3つとしているが、これ以上の数のフェムトセルが存在する場合にも適用可能である。また、複数のフェムトセルから重複したプリコーディングベクトルが通知される場合には、式(4)においてプリコーディングベクトルの共分散行列を加算する際に、重複分は演算に含めなくてよい。
このように、フェムトセルとマクロ端末20から通知されるプリコーディングベクトルに関する情報を基に、新たにプリコーディングベクトルを算出するMeNB10は、図3とほぼ同じ構成で実現できる。但し、ベクトル選択部34において式(4)に示す演算を行って、プリコーディングベクトルを算出する必要がある。また、HeNB11〜13と端末20,21〜23は、それぞれ図4、図5に示す構成で実現可能である。
以上の実施形態では、フェムト端末21〜23やHeNB11〜13で選択されたプリコーディングベクトルに関する情報はMeNB10に集められ、それらの情報を基にMeNB10において実際に用いるプリコーディングベクトルを選択するものとしていたが、複数のMeNBを制御する集中制御局がある場合には、その集中制御局において、MeNBで用いるプリコーディングベクトルを選択するようにしてもよい。ここで、集中制御局は、光ファイバ等の有線ネットワークでMeNBと接続されているため、その有線ネットワークを経由して、情報のやり取りが行われることとなる。
また、ここでは、主にマクロセル内にフェムトセルが存在する場合について説明を行ったが、例えば、ピコセル内にフェムトセルが存在する場合においても、同様の制御により、ピコセルとフェムトセルで同一リソースを用いる場合にもピコセルがフェムトセルに与える干渉を抑圧することが可能となる。この場合には、PeNBでの使用を希望しないプリコーディングベクトルを、フェムト端末またはHeNBにおいて選択し、PeNBに通知することにより実現することができる。また、フェムト端末またはHeNBは、MeNBかPeNBのどちらかに対してのみ、プリコーディングベクトルを通知するのではなく、両方に対して、それぞれ使用を希望しないプリコーディングベクトルを通知することもできる。
さらに、本発明は、図6に示すような通信範囲が重複する無線通信システム等にも適用可能である。図6は、無線LAN(Local Area Network)を例として、端末100がAP(Access Point)103(第2の基地局装置)へ、AP104(第2の基地局装置)が端末101(第2の端末装置)へ、AP105(第1の基地局装置)が端末102(第1の端末装置)へそれぞれ信号を送信している状況を表わしている。ここで、AP103と端末101へは、AP105から干渉が到来するものとする。このような場合に、以上の実施形態と同様に、AP105における使用を希望しないプリコーディングベクトルを、AP103と端末101において選択し、選択されたプリコーディングベクトルをAP105に通知することにより、図6に示すような干渉を低減することが可能となる。このような構成は、無線LANシステムだけでなく、比較的狭い領域に多数の送受信装置が混在するようなシステムにおいても有効である。例えば、家庭内の様々な電化製品がそれぞれ無線ネットワークで互いに接続されるような場合にも適用可能である。
上記の実施の形態において、添付図面に図示されている構成等については、これらに限定されるものではなく、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
また、本実施の形態で説明した機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各部の処理を行ってもよい。尚、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また前記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。