近年のインターネットの普及と共に、既に全世帯の90%にも及ぶ世帯で光ファイバを用いた回線が利用可能となっている。このようにブロードバンド化の流れは確実に進展してはいるが、実際には、光回線の敷設による採算が見込めないエリアがあることから、ブロードバンド・ゼロ地域の解消を如何にして実現するかという問題はなかなか解決する術が見つからない現状がある。
このような不採算地域(条件不利地域)における対策としては、無線回線を利用することが有利とされており、例えばWiMAX(Worldwide interoperability for microwave access)と呼ばれる無線規格を用いたサービスのための周波数チャネルを10MHz確保し、この周波数チャネルを用いたWiMAXサービスを、条件不利地域を中心に適用する「地域WiMAX」と呼ばれる施策が実施されている。この施策に用いられているWiMAXでは、例えば基地局は10W程度の大きな送信電力で信号送信を行い、この結果、半径3km程度のエリアを1局でカバーすることが可能となっている。
一般に、見通しがきく環境では送信局と受信局の間での伝搬に伴う信号の損失は、距離の2乗に反比例する。見通し外の場合にはこの減衰の程度は距離の3〜4乗に反比例するようになり、回線設計上にはより厳しい制限が課せられることになる。仮に見通しを想定したとしても、伝送距離を2倍に伸ばすためには、送信電力を22 =4倍にする必要があり、より線形性の高い送信アンプを必要とする。しかし、そのような送信アンプは高価であると共に、電力効率は著しく低下するため、必要な消費電力は急激に増加する。
近年は特に環境問題が注目され、無線を含めたインフラの低消費電力化が要求されており、このような非効率的な高出力の送信アンプを用いた通信は好ましくない。このような問題を解決するための方法としては、例えば、非特許文献1に記載のように、複数の中継局を介在させたコヒーレント伝送が有効である。この非特許文献1では、中継においては非再生中継を仮定しているが、このコヒーレント伝送のポイントは中継の形態が「非再生中継」か「再生中継」かには依存しておらず、あくまでも受信側において各信号が同位相で合成されるように送信することが重要である。また、このコヒーレント伝送を行う場合の形態の1つとして、分散アンテナシステムがある。分散アンテナシステムは、1つの制御局に場所的に分散されて設置された複数のアンテナ(厳密にはアンテナに、光・電気変換や信号増幅等を行う装置が組み合わされた無線モジュールないしはリモート基地局)が接続された構成であり、制御局と各アンテナ間は光ファイバ等で接続される。また、他の形態として、1つの基地局に複数の中継局が接続された構成(無線中継システム)をとることもできる。この場合は、基地局および中継局がそれぞれ分散アンテナシステムの制御局とアンテナに相当することになるが、基地局と中継局が無線により接続される点で大きく異なる構成である。いずれの場合も、複数のアンテナ(中継局)が受信端末側で各信号が同位相で合成されるように送信するコヒーレント伝送を行うことができる。以下に、その詳細な説明を行う。
[従来技術におけるコヒーレント伝送のシステム概要]
(無線中継システム)
図20は、従来技術における無線中継システムの概要を示す。
図20において、101は送信局、102−1〜102−4は中継局、103は受信局を示す。ここでは、無線中継システムの形態を示し、中継局102−1〜102−4は全部でN局存在すると仮定する。まず送信局101は、受信局103宛ての無線パケットを一旦中継局102−1〜102−4に対して送信する。中継局102−1〜102−4は、受信した信号に対して各種受信信号処理を行い、送信局101が送信した無線パケットを再生(復元)する。次に、各中継局102−1〜102−4は、再生した同一の無線パケットを同時刻に受信局103に対して送信するが、この際、各中継局から送信された信号が受信局103において同一の位相で受信されるように、送信信号の位相を調整する。受信局103ではこれらの中継局102−1〜102−4からの信号が全て合成されて受信される。この際、各中継局により送信された信号が、受信局において同程度の受信電力で受信されるとするならば、合成された後の信号は、合成される前の信号に対して振幅でN倍となり、受信電力はその2乗に比例するためN2 倍となる。
ここで、中継局が1局の場合とN局の場合で比較する。評価条件を公平にするために、単一の中継局で送信電力Pで送信した場合と、N局の中継局102−1〜102−4がそれぞれ送信電力をP/Nとして送信した場合について比較して考える。N局から送信された信号の合成により、総受信電力は1局当たりの受信電力のN2 倍となるが、N局で送信した場合の1局当たりの送信電力は1局で送信した場合の1/N倍として評価するため、結果として受信電力は(1/N)×N2 =N倍となる。つまり、中継局102−1〜102−4の総送信電力を一定としているにもかかわらず、受信電力がN倍となり、回線利得としては10×Log10N dBを稼ぐことが可能になる。
(分散アンテナシステム)
図21は、従来技術における分散アンテナシステムの概要を示す。
図21において、111−1〜111−3は協調的な通信を行う個々のセル、112−1〜112−3は各セルのリモート基地局、113−1〜113−6は端末局、114は制御局、115は光ファイバ等の有線伝送路をあらわす。複数のセル111−1〜111−3のリモート基地局112−1〜112−3は、同一の周波数チャネルを用いて各端末局113−1〜113−6と通信を行う。制御局114は、光ファイバ等の有線伝送路115を介してリモート基地局112−1〜112−3を制御する。同一周波数を用いた通信であることから、各端末局113−1〜113−6は複数のリモート基地局113−1〜113−3からの信号を同時に受信可能であり、例えば端末局113−4は、全てのリモート基地局112−1〜112−3からの信号を受信することができる。この際、リモート基地局112−1と端末局113−4、リモート基地局112−2と端末局113−4、リモート基地局112−3と端末局113−4のそれぞれのチャネルの情報が既知であれば、リモート基地局112−1〜112−3が端末局113−4に宛てて信号を送信する際に、端末局113−4で各受信信号が同位相合成となるように送信側での送信ウエイト乗算を施すことで受信電力が増加するため、通信特性を改善可能である。これらの同位相合成のための信号処理の制御は全て制御局114で実施され、リモート基地局112−1〜112−3は制御局114の指示に従い動作する。
ここで、特筆すべき点は、制御局114と各リモート基地局112−1〜112−3との間は光ファイバで接続されており、この回線上で転送される光信号を各リモート基地局112−1〜112−3では光/電気変換を行うことで無線回線上で送信する電気信号を生成し、信号増幅などの処理の後にこれをアンテナから送信する。このような制御を利用することで、全てのチャネル情報を把握した制御局に受信側において同位相合成となるような信号処理の機能を集約し、その結果、各リモート基地局112−1〜112−3における位相制御の不確定性を回避しながら通信品質の向上を図ることが可能となる。
なお、厳密な意味での分散アンテナシステムでは、各リモート基地局112−1〜112−3は同時に複数の端末局と同一周波数上で空間多重を行うマルチユーザMIMO(Multiple Input Multiple Output)技術を利用してさらなる特性改善を図ることができるが、マルチユーザMIMO技術を利用する場合は、多数の送信アンテナを利用することで、端末側における希望信号の同位相合成と、異なる端末間の干渉信号の除去のためのヌル制御を両立をしているという差分を除けば、基本的にはコヒーレント伝送を基礎とした制御であると理解できる。
[コヒーレント伝送におけるチャネルフィードバックの概要]
コヒーレント伝送を行うためには、送受信局間のチャネルの状態を把握する必要がある。それぞれのアンテナ/中継局から送信された信号が同位相で受信局に届くためには、送信側であるアンテナ/中継局において送受信局間のチャネルの状態を把握して、それに応じた送信ウエイトを用いて信号が送信される必要があるためである。
図22は、従来技術におけるチャネルフィードバックの処理フローを示す。
従来技術におけるチャネルフィードバックの方法は大別して2種類の方法がある。一般的には、フォワードリンクとその逆方向のバックワードリンクのチャネル情報は一致しない。それは、フォワードリンクで用いられる送信側のハイパワーアンプと受信側のローノイズアンプの組み合わせと、バックワードリンクで用いられる送信側のハイパワーアンプと受信側のローノイズアンプの組み合わせが異なり、フォワードリンクのチャネル情報とバックワードリンクのチャネル情報との間で複素位相や振幅が異なるからである。
しかし、後述する換算処理(キャリブレーション処理)を実施することで、バックワードリンクのチャネル情報からフォワードリンクの情報を換算推定することが可能である。ここでは、フォワードリンクのチャネル推定結果を直接取得する「(1) 直接的な方法」と、バックワードリンクの情報を用いて換算推定する「(2) 間接的な方法」の2種類について説明する。また以降の説明においては、先の説明における「リモート基地局」および「中継局」を区別しない場合は「無線モジュール」と呼ぶことにする。
図22(1) において、直接的な方法では、チャネル情報を推定開始する(S101 )と、各無線モジュールから端末局宛にチャネル推定用のプリアンブル信号などを含む無線パケットを送信する(S102 )。端末局でこの無線パケットを受信し、プリアンブル信号などを用いてチャネル推定を実施する(S103 )。端末局では、このチャネル推定結果を「制御情報収容用の無線パケット」に収容し、無線モジュールに送信する(S104 )。無線モジュールでのこの「制御情報収容用の無線パケット」を受信し、チャネル情報を取得する(S105 )。さらに無線モジュールではこのチャネル情報をメモリに保存し、チャネル情報に関するデータベースを構築し(S106 )、処理を終了する(S107 )。
図22(2) において、間接的な方法では、チャネル情報を推定開始する(S108 )と、端末局から無線モジュール宛にチャネル推定用のプリアンブル信号などを含む無線パケットを送信する(S109 )。無線モジュールでこの無線パケットを受信し、プリアンブル信号などを用いてチャネル推定を実施する(S110 )。無線モジュールではこのバックワードリンクにおけるチャネル情報の推定結果に、後述する換算処理を施し、フォワードリンク側のチャネル情報を取得する(S111 )。当該換算処理については、上述のフォワードリンクとバックワードリンクにおけるハイパワーアンプとローノイズアンプの相違を補正する係数を事前に取得しておけば、バックワードリンクにおけるチャネル情報の推定結果に当該補正する係数を乗算することによって、上記の処理S111 での換算処理を実施することが可能である。さらに無線モジュールではこのチャネル情報をメモリに保存し、チャネル情報に関するデータベースを構築し(S112 )、処理を終了する(S113 )。
なお、このようにしてチャネル情報を事前に取得しておき、一般的には実際に通信を行う際にこのチャネル情報をもとに送信ウエイトを算出する。送信ウエイトを事前に算出しておいても構わないが、チャネル情報は時間と共に変動するため、状況に応じてたとえば周期的に更新することが一般的である。また、上記の中でチャネル情報をデータベース化して保存するのは、無線モジュール以外のその他の制御局等で行っても構わない。
また、分散アンテナシステムを例にとれば、この送信ウエイト算出処理は各無線モジュールで個別に行うのではなく、制御局側で集中制御的に一括処理を行うことが一般的である。特に、マルチユーザMIMOにより複数の端末局と同時に同一周波数チャネルで通信を行う際には、全てのチャネル情報を用いなければ送信ウエイトを算出することは出来ない。ただし、マルチユーザMIMOではなく、1台の端末局との間での1対1通信(つまり、単なるMIMO)を行う場合に限定すれば、チャネル情報から得られる伝送路上での複素位相の回転をキャンセルする送信ウエイト(つまり、全ての無線モジュールでチャネル情報と送信ウエイトを乗算すると複素位相が定数となる)を利用可能であるので、無線モジュールで個別に処理をすることも可能である。
[従来技術におけるコヒーレント伝送の信号処理概要]
従来方式におけるコヒーレント伝送の信号処理について、以下に簡単に説明する。
図27は、従来技術における送信信号の送信処理フローの例を示す。
図27において、送信処理を開始すると(S121 )、宛先局のチャネル情報を記録されたメモリより読み出し(S122 )、読み出されたチャネル情報をもとに送信ウエイトを算出する(S123 )。これとは別に、送信すべきデータに対する無線パケット生成や変調処理等の各種信号処理により、送信信号を生成する(S124 )。生成された信号はそのまま送信することも可能であるが、受信側での同位相合成を実現するために、処理S123 で算出した送信ウエイトを各無線モジュール毎に乗算し(S125 )、この信号を各無線モジュールに転送する(S126 )。各無線モジュールでは、この信号を送信し(S127-1 〜S127-3 )、送信処理を終了する(S128-1 〜S128-3 )。
以上の説明では、処理S122 、処理S123 、処理S124 を処理S126 の前段階で実施する場合について説明したが、処理S124 で生成した信号を各無線モジュールに直接転送し(S126 に相当)、その後に送信ウエイトの乗算処理(S125 に相当)を実施しても良い。この場合、処理S122 、処理S123 は各無線モジュールで個別に実施しても構わない。
図28は、従来技術における受信信号の受信処理フローの例を示す。
図28において、処理S131 から処理S134 までの処理は各無線モジュールで受信した信号に個別行う処理であり、複数の処理がパラレルに実施される。これらの処理結果を集約し、処理S135 以降の処理を実施する構成になっている。
まず、各無線モジュールで信号を受信する(S131-1 〜S131-3 )。ここでの受信とは、受信した信号ないしはそれをダウンコンバートした信号に対しアナログ/デジタル変換を施す処理までを含み、以降の信号処理はこれらのデジタル化された受信信号に対する処理を意味する。続けて、各無線モジュールの受信信号に対し、無線パケットに付与されていた既知のパターンのプリアンブル信号の受信状態より、チャネル推定を実施する(S132-1 〜S132-3 )。ここで、伝搬路上での信号の減衰、および複素位相の回転状態を把握する。この推定されたチャネル情報を用いて、適切な受信ウエイトを算出する(S133-1 〜S133-3 )。算出された受信ウエイトを受信信号に乗算し(S134-1 〜S134-3 )、これらの信号を加算合成し(S135 )、合成された信号に対して通常の受信信号処理を実施し(S136 )、処理を終了する(S137 )。
[従来技術におけるコヒーレント伝送の無線通信装置の構成例]
以上の従来方式にかかわる無線通信装置の構成例を以下に示す。一般の無線通信装置は送信側と受信側の機能を両方備えるのが一般的で、特にチャネル情報のフィードバックの際には双方を同時に利用することになるが、説明の都合上、送信側と受信側の機能ブロックを便宜的に分けて説明する。
(1) 分散アンテナシステム
(ダウンリンクにおける送信側の構成例)
図23は、従来技術のダウンリンクにおける送信側(制御局〜リモート基地局)の構成例を示す。
図23において、134は制御局装置、135−1〜135−3は無線モジュール(ここではリモート基地局)である。121は送信信号処理回路、122−1〜122−3はD/A変換器、123−1〜123−3はミキサ、124−1〜124−3はフィルタ、125−1〜125−3はE/O変換器、126−1〜126−3は光ファイバ、127−1〜127−3はO/E変換器、128−1〜128−3はハイパワーアンプ、129−1〜129−3はアンテナ、130はチャネル情報取得回路、131はチャネル情報記憶回路、132は送信ウエイト算出回路、133はローカル発振器を表す。
送信信号処理回路121は、ネットワーク側より送信すべきデータが入力すると、無線回線で送信する無線パケットを生成して変調処理を行う。さらに、変調処理がなされたベースバンド信号に送信ウエイトを乗算し、必要に応じて残りの信号処理(例えばOFDM変調方式を用いるのであれば、IFFT処理、ガードインターバルの挿入、波形生計等の処理)を施し、ベースバンドにおける送信信号のサンプリングデータを生成する。これらの信号は無線モジュール毎に個別の信号として出力され、宛先の無線モジュール135−1〜135−3毎に、D/A変換器122−1〜122−3でデジタル・サンプリングデータからベースバンドのアナログ信号に変換する。さらに、各アナログ信号は、ローカル発振器133から入力される信号とミキサ123−1〜123−3で乗算され、無線周波数の信号にアップコンバートされる。ここでの信号は、送信すべきチャネルの帯域外の周波数成分にも信号が含まれるため、フィルタ124−1〜124−3で帯域外成分を除去し、送信すべき電気的な信号を生成する。これを無線モジュール135−1〜135−3に転送する際には、信号のレベル損失やノイズ混入を防ぐため、E/O変換器125−1〜125−3で電気信号から光信号に変換し、光ファイバ126−1〜126−3を介して無線モジュール135−1〜135−3に転送する。
各無線モジュール135−1〜135−3では、受信した光信号をO/E変換器127−1〜127−3で電気信号に変換し、これをハイパワーアンプ128−1〜128−3で信号増幅し、アンテナ129−1〜129−3より送信する。
なお、送信信号処理回路121で乗算される送信ウエイトは、チャネル情報取得回路130で別途取得しておき、これを逐次更新しながらチャネル情報記憶回路131に記録しておく。信号の送信時に送信ウエイト算出回路132は、チャネル情報をチャネル情報記憶回路131から読み出し、その情報をもとに送信ウエイトを算出し、これを送信信号処理回路121に入力する。
ここでの重要な特徴は、単一のローカル発振器133からの信号を分岐して各ミキサ123−1〜123−3に入力している点である。単一のローカル発振器により出力された信号を共有することにより、各ミキサ123−1〜123−3に入力される信号の相対的な位相関係は常に固定的(ほぼ同位相)になる。したがって、各無線モジュール135−1〜135−3間相互の位相の不確定性が回避されることから、受信側で同位相合成となる送信ウエイト乗算処理が容易になる。
(アップリンクにおける受信側の構成例)
図24は、従来技術のアップリンクにおける受信側(リモート基地局〜制御局)の構成例を示す。
図24において、153は制御局装置、154−1〜154−3は無線モジュール(ここではリモート基地局)である。141は受信信号処理回路、142−1〜142−3はA/D変換器、143−1〜143−3はフィルタ、144−1〜144−3はミキサ、145−1〜145−3はO/E変換器、146−1〜146−3は光ファイバ、147−1〜147−3はE/O変換器、148−1〜148−3はローノイズアンプ、149−1〜149−3はアンテナ、150はチャネル情報推定回路、151は受信ウエイト算出回路、152はローカル発振器を表す。
各無線モジュール154−1〜154−3では、アンテナ149−1〜149−3で受信した信号をローノイズアンプ148−1〜148−3で増幅し、これをE/O変換器147−1〜147−3で電気的な信号から光信号に変換する。この光信号は光ファイバ146−1〜146−3を介して制御局装置153に送られる。
制御局装置153では、これらの信号を無線モジュール154−1〜154−3毎に、O/E変換器145−1〜145−3で光信号を電気信号に変換し、この信号とローカル発振器152から入力される信号とがミキサ144−1〜144−3で乗算され、無線周波数の信号からベースバンドの信号にダウンコンバートされる。ここでの信号には、受信すべきチャネルの帯域外の周波数成分も含まれるため、フィルタ143−1〜143−3で帯域外成分を除去し、これをA/D変換器142−1〜142−3でデジタル・ベースバンド信号に変換する。これらの信号は全て受信信号処理回路141に集約され、ここで所定の受信ウエイトを乗算して合成した後、合成された信号に対して復調処理を施し、再生されたデータを外部(ネットワーク側)に出力する。
ここで、受信信号処理回路141で乗算する受信ウエイトは、上述の信号処理とは別の処理により取得する。具体的には、A/D変換器142−1〜142−3でデジタル・ベースバンド信号に変換された信号は、同時にチャネル情報推定回路150に入力され、ここでチャネル情報を推定し、その推定結果を受信ウエイト算出回路151に入力する。受信ウエイト算出回路151では、当該チャネル情報をもとに乗算すべき受信ウエイトを算出し、これを受信信号処理回路141に入力する。なお、ここでは信号受信時に取得するチャネル情報をもとに受信ウエイトを算出することを明示的に示すため、チャネル情報推定回路150、受信ウエイト算出回路151を受信信号処理回路141とは便宜上区別して図示したが、実際にはチャネル情報推定回路150、受信ウエイト算出回路151は受信信号処理回路141の機能の一部とみなすことも可能である。
送信側の場合と同様に、ここでは単一のローカル発振器152からの信号を分岐して各ミキサ144−1〜144−3に入力している。これにより、各ミキサ144−1〜144−3に入力される信号の相対的な位相関係は常に固定的(ほぼ同位相)になる。ただし、受信側に関しては、ミキサ144−1〜144−3で信号の乗算が行われた後の信号に対して、チャネル情報推定回路150でチャネル情報の推定を行うのであれば、仮にローカル発振器152からの信号の位相関係が異なっていても、その影響を除去した信号処理を行うことは可能である。ただし、無線モジュール154−1〜154−3毎に個別のローカル発振器152を用いるような場合には、ローカル発振器152毎に周波数誤差が避けられないため、時間と共に無線モジュール154−1〜154−3毎に独立で異なる位相の回転が加わり、その影響を除去することは困難となる。したがって、受信側においても相互に周波数誤差や複素位相の不確定性を持たない共通の信号をダウンコンバートに利用することが基本的な構成となる。
(2) 無線中継システム
(ダウンリンクにおける送信側の構成例)
図25は、従来技術のダウンリンクにおける送信側(基地局〜中継局)の構成例を示す 図25において、176−1〜176−3は無線モジュール(ここでは中継局)、177は基地局装置である。161は送信信号処理回路、162は第2の無線システム送信装置、163はアンテナ、164−1〜164−3はアンテナ、165−1〜165−3は第2の無線システム受信装置、166−1〜166−3は送信信号処理回路#2、167−1〜167−3はD/A変換器、168−1〜168−3はミキサ、169−1〜169−3はフィルタ、170−1〜170−3はハイパワーアンプ、171−1〜171−3はアンテナ、172−1〜172−3はチャネル情報取得回路、173−1〜173−3はチャネル情報記憶回路、174−1〜174−3は送信ウエイト算出回路、175−1〜175−3はローカル発振器を表す。
基地局装置177の送信信号処理回路161は、ネットワーク側より送信すべきデータを入力すると変調処理を行い、送信信号を生成する。第2の無線システム送信装置162は、アンテナ163を介してその信号を各無線モジュール176−1〜176−3に送信する。この送信信号は、ネットワーク側から入力されたデータそのものでも、所定の処理を施したものであっても構わない。ただし、全ての無線モジュール176−1〜176−3から同一内容の信号が送信できるような共通のルールを全ての無線モジュール176−1〜176−3で共有している。たとえば、送信/受信のアドレスは同一のものを使用する等の同一の信号を生成するためのルールである。
各無線モジュール176−1〜176−3では、アンテナ164−1〜164−3で信号を受信し、第2の無線システム受信装置165−1〜165−3で受信信号の復調処理を施し、その受信した信号を送信信号処理回路166−1〜166−3に入力する。送信信号処理回路166−1〜166−3では、無線回線で送信する無線パケットを生成し、変調処理を行う。変調処理がなされたベースバンド信号には送信ウエイトが乗算され、更に必要な処理(例えばOFDM変調方式を用いるのであれば、IFFT処理、ガードインターバルの挿入、波形生計等の処理)を施し、ベースバンドにおける送信信号のサンプリングデータを生成する。さらにD/A変換器167−1〜167−3でデジタル・サンプリングデータからベースバンドのアナログ信号に変換する。さらに、各アナログ信号は、ミキサ168−1〜168−3でローカル発振器175−1〜175−3から入力される信号と乗算され、無線周波数の信号にアップコンバートされる。ここでの信号は、送信すべきチャネルの帯域外の周波数成分にも信号が含まれるため、フィルタ169−1〜169−3で帯域外成分を除去し、これをハイパワーアンプ170−1〜170−3で信号増幅し、アンテナ171−1〜171−3より送信する。各無線モジュール176−1〜176−3から送信される信号は異なる送信ウエイトが乗算されていることを除けば、基本的には同一内容の信号となっており、この結果、受信局側では同位相合成を実現することができる。
なお、送信信号処理回路166−1〜166−3で乗算される送信ウエイトは、チャネル情報取得回路172−1〜172−3で別途取得しておき、これを逐次更新しながらチャネル情報記憶回路173−1〜173−3に記録しておく。信号の送信時に送信ウエイト算出回路174−1〜174−3は、チャネル情報をチャネル情報記憶回路173−1〜173−3から読み出し、その情報をもとに送信ウエイトを算出し、これを送信信号処理回路166−1〜166−3に入力する。なお、チャネル情報取得回路172−1〜172−3でのチャネル情報の取得に関しては、先の[コヒーレント伝送におけるチャネルフィードバックの概要]にて示した方法で取得するものとする。
上記の分散アンテナシステムの例では、単一のローカル発振器からの信号を分岐して各ミキサに入力していたが、中継局を介する場合では物理的に互いに異なる場所に存在する無線モジュールであるために、共通のローカル発振器を利用することはできない。この結果、個別のローカル発振器175−1〜175−3を利用している。
(アップリンクにおける受信側の構成例)
図26は、従来技術のアップリンクにおける受信側(基地局〜中継局)の構成例を示す。
図26において、194は基地局装置、195−1〜195−3は無線モジュール(ここでは中継局)である。181は受信信号処理回路、182は第2の無線システム受信装置、183はアンテナ、184−1〜184−3はアンテナ、185−1〜185−3は第2の無線システム送信装置、186−1〜186−3はA/D変換器、187−1〜187−3はフィルタ、188−1〜188−3はミキサ、189−1〜189−3はローノイズアンプ、190−1〜190−3はアンテナ、191はチャネル情報推定回路、192は受信ウエイト算出回路、193−1〜193−3はローカル発振器を表す。
各無線モジュール195−1〜195−3では、アンテナ190−1〜190−3で受信した信号をローノイズアンプ189−1〜189−3で増幅する。この信号とローカル発振器193−1〜193−3から入力される信号とをミキサ188−1〜188−3で乗算し、無線周波数の信号からベースバンドの信号にダウンコンバートする。ここでの信号は、受信すべきチャネルの帯域外の周波数成分にも信号が含まれるため、フィルタ187−1〜187−3で帯域外成分が除去され、これをA/D変換器186−1〜186−3でサンプリングしてデジタル・ベースバンド信号に変換される。この信号は、第2の無線システム送信装置185−1〜185−3で無線パケット内にカプセル化され、第2の無線システムを用いて基地局装置194に送られる。
基地局装置194では、アンテナ183で受信した信号を第2の無線システム受信装置182で受信信号処理し、受信信号処理回路181に入力する。受信信号処理回路181では、各無線モジュール195−1〜195−3からの信号が全て集約され、各無線モジュール195−1〜195−3で受信された信号に所定の受信ウエイトを乗算して合成し、合成された信号に対して復調処理等の信号処理を施し、再生された無線パケットからデータを取り出して外部(ネットワーク側)に出力する。
ここで、受信信号処理回路181で乗算する受信ウエイトに関しては、第2の無線システム受信装置182から、取得した情報をチャネル情報推定回路191に入力し、ここでチャネル情報を推定し、その結果を受信ウエイト算出回路192に入力し、適切な受信ウエイトを算出し、その結果を受信信号処理回路181に入力する。なお、ここでは信号受信時に取得するチャネル情報をもとに受信ウエイトを算出することを明示的に示すため、チャネル情報推定回路191、受信ウエイト算出回路192を受信信号処理回路181とは便宜上区別して図示したが、実際にはチャネル情報推定回路191、受信ウエイト算出回路192は受信信号処理回路181の機能の一部とみなすことも可能である。
以上、分散アンテナシステムおよび中継局を介したコヒーレント伝送の説明を行った。以上説明した従来技術には後述するように様々な問題が残されており、特に中継局を介したコヒーレント伝送については現在では実現の目途が立っていない。
[発明の動作原理]
本発明の特徴は、従来は受信信号に基づいて算出していた送受信装置間のチャネル情報を、送受信装置間の距離に基づいた近似式により算出することである。受信信号に基づいてチャネル情報を算出する従来の手法では、当該受信信号の品質が低い(SNRが低い)場合に、チャネル情報の精度が低いことが問題であった。そこで、本発明では、受信信号を利用することなく、送受信装置間の距離に基づく近似式を使用することにより、低SNR環境においてチャネル情報の精度を改善する。なお、本発明によると、同位相合成をするために必要なチャネル情報は、各送受信装置間の絶対的なチャネル情報(振幅減衰量、位相変動量)ではなく、各リモート基地局/中継局と受信装置との間のチャネル情報の相対的な値でよい。以下、本発明の動作原理について詳細に説明する。
(前提条件)
本発明においては、全ての無線モジュールと全ての端末局の正確な座標(空間的な位置情報)が既知であり、かつタイミングに関しても高精度で同期が可能であるものとする。正確な座標、および高精度な同期の実現性および実現方法については後述する。
(チャネル情報の近似について)
本発明の本質は、全ての無線モジュールと端末局との間のチャネル情報を、各座標の間の距離を算出し、無線モジュールと端末局の間の信号伝搬が自由空間上での信号伝搬であるものと仮定して信号の減衰と複素位相の回転量を推定し求めることである。この場合、信号の減衰量は単純に距離の2乗に反比例し、複素位相の回転量は距離を波長で除算したものに係数2πを乗算して求めることが可能である。そしてこのチャネル情報をもとに、送信ウエイトおよび受信ウエイトを算出する。固定的に設置された無線モジュール、端末局を想定することで、座標情報の継続的な取得に伴う座標の測定誤差を排除するためのチャネル情報の更新を除けば、これらの送信ウエイト、受信ウエイトは固定的に利用可能であり、通信の都度に算出する必要はなくなる。
従来であれば、例えば大地反射などの影響などを考慮し、単に送受信局の距離だけではチャネル情報を取得することは不可能とされていた。実際に、絶対的な値としてのチャネル情報を取得することは不可能である。しかし、複数の無線モジュールと端末局との間の個々のチャネル情報の相対的な関係(振幅の比率、複素位相差に相当)は送受信局の距離情報から推定することは可能である。以下、具体的な無線通信システムを例としたチャネル情報の近似の考え方と、その無線通信システムにおける同位相合成の考え方および大地反射の影響を説明する。
(無線通信システムにおけるチャネル情報の近似方法の考え方)
図1は、本発明の無線通信システム(分散アンテナシステム)の構成例を示す。本構成例に基づいてチャネル情報の近似方法の考え方について説明する。
図1において、1はネットワーク、2は制御局、3−1〜3−6は無線モジュール、4−1〜4−3は端末局を表す。ネットワーク1と制御局2、制御局2と無線モジュール3−1〜3−6は、光ファイバ等の有線回線(図中では点線で表示)により接続されており、データの送受信を高速に行うことが可能である。無線モジュール3−1〜3−6と端末局4−1〜4−3(図1ではこの中の端末局4−1を選択的に示す)の間の実線矢印は、無線通信システムにおける無線回線を示す。なお、無線モジュールはN台に一般化することが可能であるが、ここではN=6台の場合を記載している。
また、想定する無線通信システムの説明の前提条件として、無線モジュール3−1〜3−6の座標は(x1,y1,z1)〜(x6,y6,z6)、端末局4−1〜4−3の座標は(Xa,Ya,Za)〜(Xc,Yc,Zc)であり、送信ウエイトを生成する主体において既知であるとする。特に無線モジュール3−1〜3−6の座標(x1,y1,z1)〜(x6,y6,z6)の相互の相対的な座標関係は使用する周波数に対応する波長に対し、十分な(例えば10%以下の誤差となるような)精度で測定されているものとする。ここで、相互の相対的な座標関係が高精度であるとは、例えば全地球測位システムGPS(Global Positioning System )等を用いて測定した場合、全ての絶対座標が全て所定の方向に(δx,δy,δz )だけオフセットが付与された座標として測定されたとしても、相対的な位置関係についてはそのオフセット量にはあまり影響を受けない。例えば、第i無線モジュールと第j無線モジュールの相対位置関係( xi,yi,zi)−( xj,yj,zj)は高精度に求めることができる。同様に端末局4−1〜4−3の座標(Xa,Ya,Za)〜(Xc,Yc,Zc)にも十分な精度は必要であるが、相対的には無線モジュール3−1〜3−6同士の相対位置関係よりは要求される精度は低くて良い。これは無線モジュールから見た場合に、端末局に到来する波は遠距離地点では平面波近似が可能な状況となり、この結果、端末局の位置に関する測定誤差は、チャネル情報に対しては共通の係数が乗算された状態にしかならないからである。
なお、ここでの座標は3次元の座標であり、長距離伝送の場合には地球の球面の状態も考慮した直交座標系で表されていることとする。例えば、地球に対する極座標表示で表された座標を直交座標系に変換したものなどを利用すれば良い。また、無線モジュール3−1〜3−6は、同期の取れた基準時刻に関するタイミング情報を共有するものとする。ここでのタイミングについての精度は、例えば利用する周波数の逆数により与えられる周期に対し、十分な(例えば10%以下の誤差となるような)精度で同期されているものとする。一例としては、制御局2と無線モジュール3−1〜3−6が図1に示すように光ファイバ等で接続され、かつその経路長がほぼ等しい場合には、明示的な同期制御を行わなくても、制御局2が送信した信号を各無線モジュール3−1〜3−6ではほぼ同時刻に受信できるため、無線モジュールが受信した信号を即座に送信すれば結果的に同期を図ったのと等価となる。または、光ファイバの経路長が異なっていたとしても、その経路長差が既知であるならば、その経路長差を光速で除算して得られる時間分だけ遅延時間を調整することでタイミングを調整することも出来る。この遅延時間についての調整は、制御局2と無線モジュール3−1〜3−6が無線回線で接続されている場合でも、制御局2と無線モジュール3−1〜3−6の距離が既知であれば、その伝搬遅延を把握することが可能となるため、同様の遅延時間の調整が可能である。また、この遅延時間の調整は、実際に送信ないしは受信処理するタイミングを前後に調整することで同期を図る以外にも、調整すべき時間、すなわちタイミングの誤差が測定等により既知であるならば、その時間差により無線通信システムにおける無線信号の複素位相の回転量がどれだけ変化するかを推定し、その回転量をキャンセルするような補正処理により対応することも可能である。この場合、その補正は送信ウエイトないしは受信ウエイトをタイミング誤差の影響を考慮した値に補正・変更することを意味する。すなわち、同位相合成をするためには、経路差長、タイミング誤差のような相対的な値に基づいて送信ウエイト、受信ウエイトを補正・変更すればよい。
さらに、無線モジュール3−1〜3−6および端末局4−1〜4−3は、図1において例えばビルの屋上や鉄塔や電柱の上部等や家の屋根の上部など比較的高所に設置することとし、基本的には無線モジュール3−1〜3−6と端末局4−1〜4−3の間は見通しがきく位置関係となっているものとする。ただし、必ずしも全ての見通しがきかなくても、各端末局4−1〜4−3から多数の無線モジュール3−1〜3−6への見通しが確保できていれば、見通しできる無線モジュール3−1〜3−6の数に比例した効果が期待できる。また、ここでは端末局4−1〜4−3がユーザ宅の屋根の上部に設置してあるように記述しているが、一般的には複数のユーザで共用する形で端末局4−1〜4−3が設置され(例えば、電柱や鉄塔の上に共用の端末局を設置)、その端末局と各ユーザ宅の間は別の有線または無線回線で接続することでネットワークとの接続サービスを提供しても構わない。
(座標情報により取得した相対的な値に基づく同位相合成について)
次に、このような座標情報を用いた送信ウエイトおよび受信ウエイトにて所望の同位相合成が可能な理由について説明する。一般に、見通しが可能な環境での通信特性は、見通し波のみの1波モデル、ないしは見通し波と大地反射の2波モデルで概ね説明することができる。もし1波モデルであれば、図1の各無線モジュール3−1〜3−6と端末局4−1〜4−3の間の距離のみでチャネル情報を推定することができるが、2波モデルの場合には大地の反射点の位置のz軸成分が不明の場合(つまり、反射点を判断するのに必要な十分な地形情報がない場合)には、2波合成後の位相がどのような値になっているかが不明である。このため、一般には正確なチャネル情報を取得することは困難である。しかし、本発明の目的は正確なチャネル情報を取得する点ではなく、全ての信号を同位相合成するのに必要な情報を取得する点にあるため、チャネル情報の絶対的な値は未定でも、チャネル情報の相対的な関係が取得できれば十分である。この点を意識して、大地反射の影響について以下にまとめる。
図2は、大地反射の影響の概要を示す。
図2において、Aは無線モジュール(座標(x1,y1,z1))、Bは無線モジュール(座標(x2,y2,z2))、Cは端末局(座標(Xa,Ya,Za))、Dは仮想的端末局(座標(Xa,Ya,-Za)) 、E,Fは大地の反射点を示す。大地での反射として、ここでは簡単のためz=0となる平面状で反射するものと仮定し、この反射面に対して端末局Cと鏡像関係にある仮想的端末局Dを図示した。この場合、A−E−Cを結ぶ経路長は、直線AEDと一致する。同様に、B−F−Cを結ぶ経路長は、直線BFDと一致する。また、ここでは回線設計上での厳しい条件となるように、無線モジュールA,Bと端末局Cの間の距離が十分遠くに離れているものと仮定する。
ここで、無線モジュールAと端末局Cを結ぶ直線AC、無線モジュールAと仮想的端末局Dを結ぶ直線AED、無線モジュールBと端末局Dを結ぶ直線BC、無線モジュールBと仮想的端末局Dを結ぶ直線BFDの関係に着目する。
各無線モジュールA,B間の距離が無線モジュールA,Bと端末局C間の距離に比較して十分近距離の場合には、「直線AC(A→Cの経路)と直線AED(A→E→Cの経路に一致)との差」と、「直線BC(B→Cの経路)と直線BFD(B→F→Cの経路に一致)との差」は適当な条件で数値計算を行うと近似的に一致することが確認できる。この両者の差が利用する無線周波数の波長に対して十分小さい場合には、1波モデルにて直線ACと直線BCから与えられる両者のチャネル情報の相対的な位相関係と、2波モデルにて反射波を合成した後のチャネル情報の相対的な位相関係とはほぼ一致する。若干補足すると、2波モデルで合成後の信号の複素位相や振幅の絶対的な値を推定するためには反射点の座標情報や、反射時の反射係数などの情報が必要であるが、各無線モジュールA,Bと端末局Cの間のチャネル情報の複素位相の相対的な関係のみが分かれば良いのであれば、上述の方法で推定することが可能である。
なお、実際の伝搬路上では上記の2波モデル以上に、多くの多重反射波が受信局側に到達することになるが、それらの反射波の複素位相はほぼランダムであるために、これらの多重反射波のみを抽出してN局からの信号を合成したとしても、直接波および大地反射波までの同位相合成のように振幅はN倍にはならない。統計的には、ルートN倍程度に収まるため、ランダムな反射波の合成よりも、直接波および大地反射の合成は受信電力(振幅の2乗に比例)に換算すれば約N倍大きい効果となって表れるはずである。したがって、ランダムな反射波に関しては無視可能である。
このように座標情報を用いることで、個別の無線モジュールと端末局の間の信号伝送では低SNR状態でチャネル推定精度が低くなる場合であっても、各無線モジュールの間のチャネル情報の相対的な関係を推定することが可能になり、その結果を利用して適切な送信ウエイトおよび受信ウエイトを算出することが可能となる。
(アンプの個体差による影響(キャリブレーション)について)
実際の無線通信装置では、送信の直前にハイパワーアンプにて信号増幅を行うことが多い。この場合、そのハイパワーアンプの個体差により増幅率に誤差があると共に、ハイパワーアンプ内で複素位相がアンプ固体毎に異なる値で回転する場合がある。同様に、受信側の信号処理においては信号の受信直後にローノイズアンプにて信号増幅を行うことが多く、このローノイズアンプについても個体差により増幅率に誤差があると共に、ローノイズアンプ内で複素位相が異なる回転量をとる場合がある。
特に、これらの増幅率および位相回転量には周波数依存性があり、その個体差が無視できないほどに大きい場合には、キャリブレーション処理を施す必要がある。この増幅率および位相回転量の誤差は時間的にはほぼ安定しているため、これらの値を事前に測定しておき、誤差の影響をキャンセルするための係数を座標情報から算出した送信ウエイトおよび受信ウエイトに乗算したものを実効上の送信ウエイトおよび受信ウエイトとみなせば良い。例えば、アンプの設計上の増幅率に対し、実際の増幅率がα(設計値どおりの場合にはα=1)であるとする。また、複素位相がθだけ回転するものとする。この場合のキャリブレーションに用いる係数は例えばα-1・Exp(-iθ) を用いれば良い。また、周波数依存性がある場合には、各周波数毎にこのようなキャリブレーション係数を設定すれば良い。なお、以下の実施形態の説明における数式においては、キャリブレーション係数は本来は送信側と受信側で別々の値を取るために異なる記号で標記すべきであるが、送信ウエイトおよび受信ウエイトの算出や利用に関しては共通点が多いため、便宜上、送受信で共通の表記としてキャリブレーション係数をCcalb.(f)として説明を行う。実際の運用に関しては、それぞれを送信用および受信用のキャリブレーション係数に読み替えて各種処理を行う。
本発明では、空間上の座標情報をもとにチャネル情報を推定する。先の説明の中でも、実際にはハイパワーアンプやローノイズアンプ(厳密にはその他のフィルタ等の回路を含めた送信系および受信系の回路)等により、振幅や複素位相が変化する場合があり、その調整のためのキャリブレーション係数を事前に取得しておき、これを補正に用いると説明した。このキャリブレーション処理としては従来技術にもある如何なる方法を用いても構わないが、以下にその一例を紹介する。
図3は、キャリブレーションの概要を示す。
図3において、205−1〜205−3は無線モジュールであり、201−1〜201−3はハイパワーアンプ(HPA)、202−1〜202−3はローノイズアンプ(LNA)、203−1〜203−3は時分割スイッチ(TDD−SW)、204−1〜204−3はアンテナを表す。ここではチャネル情報に影響を与える機能のみを抽出したため、図示した以外の構成は省略したが、無線モジュール205−1〜205−3にはその他の機能も含まれる。また、ハイパワーアンプ201−1の通過により信号の振幅および複素位相がZHPA#1(f)だけ変化するとする。同様にハイパワーアンプ201−2の通過によりZHPA#2(f)、ハイパワーアンプ201−3の通過によりZHPA#0(f)、ローノイズアンプ202−1の通過によりZLNA#1(f)、ローノイズアンプ202−2の通過によりZLNA#2(f)、ローノイズアンプ202−3の通過によりZLNA#0(f)だけ変化するとする。ここでは一般的な条件として周波数依存性があるものとし、「(f) 」の標記を行っている。
ここで、例えば無線モジュール205−1および無線モジュール205−2から試験用の無線モジュール205−3に信号を送信する場合のチャネル情報について説明する。無線モジュール205−1のアンテナ204−1と無線モジュール205−3のアンテナ205−3の間の空間上のチャネル情報がh1(f)であり、無線モジュール205−2のアンテナ204−2と無線モジュール205−3のアンテナ205−3の間の空間上のチャネル情報がh2(f)であるとする。しかし、実際に無線モジュール205−1から無線モジュール205−3に送信する際のチャネル情報は、空間上のh1(f)にハイパワーアンプ201−1の通過に伴う係数であるZHPA#1(f)、およびローノイズアンプ201−3の通過に伴う係数であるZLNA#0(f)が乗算された値として観測される。同様に、無線モジュール205−2から無線モジュール205−3に送信する際のチャネル情報は、空間上のh2(f)にハイパワーアンプ201−2の通過に伴う係数であるZHPA#2(f)、およびローノイズアンプ201−3の通過に伴う係数であるZLNA#0(f)が乗算された値として観測される。したがって、無線モジュール205−1と無線モジュール205−2の間では、相対的にZHPA#2(f)/ZHPA#1(f)だけ制御の誤差が発生する。
この状況は受信側においても同様であり、無線モジュール205−3から送信された信号を無線モジュール205−1で受信する場合、チャネル情報は空間上のh1(f)にハイパワーアンプ201−3の通過に伴う係数であるZHPA#0(f)、ローノイズアンプ202−1の通過による係数ZLNA#1(f)が乗算された値として観測される。同様に、無線モジュール205−2にて受信する場合、チャネル情報は空間上のh2(f)にハイパワーアンプ201−3の通過に伴う係数であるZHPA#0(f)、ローノイズアンプ202−2の通過による係数ZLNA#2(f)が乗算された値として観測される。したがって、無線モジュール205−1と無線モジュール205−2の間では、相対的にZLNA#2(f)/ZLNA#1(f)だけ制御の誤差が発生する。
これらの影響をキャンセルするためには、装置の製造段階でリファレンスとなる試験用の無線モジュール205−3を用意し、その試験用の無線モジュール205−3と各無線モジュール205−1〜205−2のアンテナ端を直接ケーブルで接続し、伝搬路上のチャネル情報が共通の値(ここでは便宜上h0(f)と標記する)となる環境でチャネル情報を測定しておく。これらの値は、無線モジュール205−1→無線モジュール205−3のチャネルはZHPA#1(f)・h0(f)・ZLNA#0(f)、無線モジュール205−2→無線モジュール205−3のチャネルはZHPA#2(f)・h0(f)・ZLNA#0(f)、無線モジュール205−3→無線モジュール205−1のチャネルはZHPA#0(f)・h0(f)・ZLNA#1(f)、無線モジュール205−3→無線モジュール205−2のチャネルはZHPA#0(f)・h0(f)・ZLNA#2(f)で表される。
送信ウエイトの補正用の係数としてはこれらの逆数、
{ZHPA#1(f)・h0(f)・ZLNA#0(f)}-1、{ZHPA#2(f)・h0(f)・ZLNA#0(f)}-1
を用い、これらを座標情報から求めた送信ウエイトに乗算して補正後の送信ウエイトを取得する。同様に、受信ウエイトの補正用の係数としては、これらの逆数、
{ZHPA#0(f)・h0(f)・ZLNA#1(f)}-1、{ZHPA#0(f)・h0(f)・ZLNA#2(f)}-1
を用い、これらを座標情報から求めた受信ウエイトに乗算して補正後の受信ウエイトを取得する。ここでの係数h0(f)・ZLNA#0(f)およびZHPA#0(f)・h0(f)そのものは意味のない値であるが、全ての無線モジュールに共通の係数となっているので、その絶対的な値が取得できなくても実効上問題とはならない。なお、これらの送信ウエイトおよび受信ウエイトの補正用の係数は、本発明においてはその振幅成分、すなわち絶対値自体は意味を持たないので、それぞれ絶対値で規格化して複素位相成分だけを抜き出した値として用いても構わない。例えば、送信ウエイトのキャリブレーション係数に関しては
|ZHPA#1(f)・h0(f)・ZLNA#0(f)|/{ZHPA#1(f)・h0(f)・ZLNA#0(f)}、
|ZHPA#2(f)・h0(f)・ZLNA#0(f)|/{ZHPA#2(f)・h0(f)・ZLNA#0(f)}等、
受信ウエイトのキャリブレーション係数に関しては
|ZHPA#0(f)・h0(f)・ZLNA#1(f)|/{ZHPA#0(f)・h0(f)・ZLNA#1(f)}、
|ZHPA#0(f)・h0(f)・ZLNA#2(f)|/{ZHPA#0(f)・h0(f)・ZLNA#2(f)}等
の値を用いれば良い。ここでの|x|の標記はxの絶対値を表す。
なお、本明細書では、これらのキャリブレーション係数を取得し、その値をデジタル信号処理上で利用する場合の説明を中心に行うが、当然ながらアナログ回路上において、これらのキャリブレーション係数が全てほぼ一定の値(複素位相が一定値であれば、絶対値そのものには差があっても構わない)となるように装置内で調整を行っていれば、全てのキャリブレーション係数が1であるとみなした処理に読み替えることも可能である。
[座標情報やタイミングの精度について]
本発明では、座標情報およびタイミングの正確な把握が可能であることを前提としている。以下の説明では、その取得方法や精度について簡単に説明する。
まず、座標およびタイミングに求められる精度について以下に説明する。ここまでの説明の中で繰り返し、本発明では同位相合成を行うとしてきたが、そのような同位相合成を行う目的は信号の合成により受信信号レベルを向上させることである。例えば、複素空間上で同一周波数f(このfは無線周波数帯における周波数であり、ベースバンド帯での周波数ではない)で位相誤差2πΔの信号、Exp(2πj・ft)とExp(2πj・(ft+Δ))の合成を考える。
この場合、合成後の信号における Exp(2πj・ft)の係数である{1+Exp(2πj・Δ)}が1以上であれば合成された信号は受信強度が増加する。このためには、Δが約0.33以下であれば良いため、波長λおよび周期T(=1/f )に対して誤差が±16%以下であれば少なくとも合成の結果、信号強度は劣化しない。ここで重要なのは、この誤差はあくまでも波長ないしは周期を基準としている点である。すなわち、比較的低い周波数帯であればこの条件は結果的に緩和される。具体的には、アナログテレビが停波した後の周波数の再利用を想定すれば、 100MHzないし 200MHz程度の周波数資源が活用できる。仮に周波数が 100MHzであるとすれば、波長は3m、周期は10nsに相当する。ここで10%の誤差を想定すれば距離に対して30cm、タイミングに関しては1nsの精度を実現すれば良い。また、この周波数であれば、無線周波数での直接のA/D変換およびD/A変換も動作速度的には現実的である。
次に、このような精度での座標の特定について簡単に説明を行う。本発明においては、端末局側の座標の精度はあまり問題とならず、無線モジュール側の相対的な位置関係だけが問題となる。例えば、所定の位置から所定の半径で同心円を描き、その円周上に所定の間隔で無線モジュールを配置すれば、cm単位の誤差での相対的な位置関係を特定することが可能である。
また、中継局を介したコヒーレント伝送の場合であれば、GPS等の利用により座標情報を取得することも可能である。文献(日本経済新聞2011年1月6日朝刊第1面「日本版GPS海外開放」)によれば、将来的には数cmの精度での位置測定も可能となることが示されており、GPSも座標特定の1つの手段となりうる。また、GPSの誤差の主要な原因は、米国における軍事的な観点から誤差を付与しているSA(Selective Availability)による結果でもあり、例えば3時間以上の平均化処理などによりその影響を除去することも可能であるし、DGPS(DifferentialGPS)の利用により影響を低減することも可能である。さらには、同時刻に全無線モジュールの座標を測定することができれば、SAの結果生じる誤差は全無線モジュールで同一となるので、絶対的な座標の誤差は残されても、相対的な位置関係の精度は高く保つことが可能である。このようなGPSを用いる以外にも、無線モジュールの近辺に測定の基準となる座標が既知の3点を定め、3点測距により相対的な座標を特定しても構わない。さらには、土地の測量などに用いる技術を用いて、相対的な位置関係を測定しても構わない。
次に、タイミングの同期精度について以下に説明する。上記の説明ではタイミングの精度の一例として1ns以内としたが、これは絶対時刻に対する精度に関する条件ではない。あくまでも、各無線モジュールが備えるタイミングに関する相対的な精度である。分散アンテナシステムのように無線モジュールが制御局と光ファイバで接続されるような場合には、制御局から同時に信号を配信するために、仮に光ファイバに経路長の差があったとしてもその経路長差を考慮した信号処理でタイミング誤差の補償は可能である。
問題となるのは中継局を介したコヒーレント伝送の場合である。上記の説明では、誤差1ns以内の同一タイミングで全ての無線モジュールから一斉に信号を送信することを前提として説明を行ってきたが、実際には必ずしも同一タイミングで送信を開始する必要はない。例えば、OFDM(Orthognal Frequency Division Multiplexing )変調方式やSC−FDE(Single Carrier Frequency Domain Equalization)伝送技術のようなブロック伝送を行う場合には、ブロック伝送のシンボルタイミングが一致していなくてもこのタイミングの不一致はガードインターバルで補償可能である。重要なのは、ある瞬間に着目した際に合成されるべき複数の信号が同位相で合成される点であり、シンボルタイミングそのものの同期を意図しているのではないことである。すなわち、このシンボルタイミングの誤差に相当するオフセット値δを測定することができれば、そのオフセット時間により変化する複素位相を算出し、その値をキャンセルするための係数を送信ウエイトおよび受信ウエイトに加味することで、シンボルタイミングそのものはタイミング誤差が残った状態でも、実効的には同位相合成を実現可能である。この信号処理の詳細は、以下に示す実施例3において説明する。
以上が本発明の動作原理である。ここまでは、特定の周波数に着目した説明を行っていたが、実際の運用においては通信において所定の帯域幅を持った信号を扱うことになるので、送信側および受信側における一連の処理においては、それらの信号を複数の周波数成分に分けて扱い、個々の周波数成分毎に異なる送受信ウエイトおよび各種補正の係数を用いた処理となる点に注意が必要である。また以下に、本発明の実施形態について説明を行うが、以下の説明では簡単のためにキャリブレーションにかかわる処理については説明は省略する。
実施例1として、図1に示した無線通信システム(分散アンテナシステム)を想定する。
(チャネル情報、送信ウエイト、受信ウエイトの算出処理について)
以下、本実施形態における制御局2側から端末局4−1に対して信号を送信する場合の動作(ダウンリンク)について、その具体的な信号処理や送信ウエイトおよび受信ウエイトの算出処理について説明する。
まず、ネットワーク1側より送信すべきデータを受信した制御局2は、そのデータを各無線モジュール3−1〜3−6と端末局4−1の間の無線回線上で伝送するための無線パケットに変換するデジタル信号処理を行う。なお、本実施形態における無線モジュールとは、リモート基地局に相当する。
まず、各無線モジュール3−1〜3−6から送信すべき信号の基本波形(すなわち各無線モジュールで送信ウエイトを乗算する前の信号)が周波数fおよび時刻tに対して式(2) で表されるψ(f,t) とする。
ここで、A(f,t) は無線周波数帯での周波数fの周波数成分に対する時刻tでの変調信号の複素位相および振幅を表す関数となっている。またjは虚数単位を表す。なお、ここでの周波数とは実際の無線通信で用いられる無線周波数である点に注意する。
次に、式(2) で表される全ての無線モジュールに共通の基本信号に対し、第k無線モジュールにおいて乗算すべき送信ウエイトの算出方法を以下に示す。まず、第k無線モジュールの座標が(xk,yk,yk)とすれば、端末局4−1との距離L(k) は以下の式で求られる。
ここで、波長をλ=C/f(ここでCは光速 3.0×108[m/s])とする。なお、波長も周波数依存性をもつため本来は添え字として周波数fを添えて示すべきであるが、ここでは簡単のため省略する。第k無線モジュールにおいて周波数fに対するチャネル情報hk(f)は、見通し波のみを考慮した自由空間での伝搬を仮定すれば以下の式で表される。
同位相合成となるようにするためには、この複素位相をキャンセルする係数を乗算すれば良いので、求めるべき送信ウエイトWk(f)はキャリブレーション係数Ccalb.(f)を考慮して以下の式で与えられる。
すなわち、送信ウエイトWk(f)は、各無線モジュールと端末局間の見通し波に対する経路差に伴う位相差をキャンセルする係数となっている。したがって、送信される信号は以下の式で表される。
なお、本発明の動作原理の説明では、制御局2と無線モジュール3−1〜3−6の有線回線の経路長差に伴い発生するタイミング誤差を、光ファイバ等の経路長差を光速で除算することでタイミング調整の遅延量を算出し、直接的に遅延させて補正することも可能と説明したが、この送信ウエイトにその経路長を加味して一括して補正することも可能である。この場合には、制御局2と第k無線モジュールの間の光ファイバ(ないしは後述する基地局と無線モジュール間の距離)等の経路長をd(k) とすれば、式(5) の送信ウエイトを以下のように換算することが可能である。
この結果、送信される信号は以下のように変換される。
このように、従来技術における(課題1)については、見通しを前提とする場合には各無線モジュールと端末局間の距離を利用することで、複雑なチャネルのフィードバックを不要としている。
なお、以上のチャネル情報および送受信ウエイトに関しては、特定の周波数ないしは波長に関する説明を行ってきた。しかし、無線通信には所定の帯域幅が必要であり、例えばOFDM変調方式の場合を例にとれば、通信に用いられる各周波数成分、すなわちサブキャリア毎に異なるチャネル情報および送受信ウエイトを用いる必要がある。その場合には、以上の数式の周波数fに対し、各サブキャリアの周波数を代入すれば、その周波数成分に対するチャネル情報および送受信ウエイトを得ることが可能である。なお、各種周波数成分とは、OFDM変調方式を用いる場合以外にも、シングルキャリアを用い周波数軸上の等化処理を行うSC−FDE技術の場合でも、受信側において等化処理を行う各周波数成分において、OFDM変調方式の場合と同様に送信ウエイトおよび受信ウエイトを乗算した信号処理を実施することで同等の効果を期待することが可能である。なお、OFDM変調方式に対しOFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access )方式は、サブキャリア上に複数の端末局を同時に収容する点でOFDMとは異なるが、物理レイヤ上での信号処理は基本的に同じであるので、以下での説明においてはOFDMとOFDMAは同等であるものとして扱うこととする。
例えばOFDMの場合を例に、もう少し詳細な補足説明を以下に示す。SC−FDEにしても同様であるが、OFDMでは通常はベースバンド帯でのデジタル信号処理の後に無線周波数帯にアップコンバートされて信号が送信される。時刻tにおいて、ベースバンド帯での信号処理の際の第mサブキャリアの周波数 fm に対し、送信信号の送信コンスタレーション上の信号点を複素数で表示した値をB(fm ,t)とする。無線周波数帯の中心周 波数を fc とすると、式(2) 、式(6) 、式(8) に表れるA(f,t) に関してはA(fm+fc ,t)=B(fm ,t)の関係となっている。このように、A(f,t) に関してはベースバンド帯での周波数 fm であるか無線周波数帯での周波数fであるかはあまり意識して扱う必要はないのであるが、式(5) ,式(7) に表れるウエイト(同様に式(6) 、式(8) の中にも現れている係数)に記載される周波数fはあくまでも無線周波数帯での周波数fである点に注意して、送受信ウエイトの算出をしなければならない。この点を意識すれば、f= fm + fc となる無線周波数の信号に対する信号処理をベースバンド帯で実施する際に、送受信ウエイトはベースバンドでの周波数 fm に対し、Wk(fm+fc) またはWk(fm+fc,d) を対応させて処理を行えばよい。そして最終的にアナログ信号処理ないしはデジタル信号処理にて無線周波数帯にアップコンバートすることで、式(6) ,式(8) に記載の信号を生成することが可能である。
図4は、本発明の実施例1における送受信ウエイト算出の処理フローを示す。式(5) または式(7) の説明では送信ウエイトとして説明を行ったが、ハイパワーアンプないしはローノイズアンプでの増幅率および複素位相の個体差に依存する部分を除き、あくまでも空間上でのチャネル情報のみに(図3におけるh1(f) およびh2(f) に相当)着目すれば、フォワードリンクとバックワードリンクのチャネル情報は一致する。したがって、先に説明したキャリブレーションの係数の送受信間の差を除けば、送信ウエイトと受信ウエイトは一致することになり、したがって送信ウエイトを示す数式においては敢えて「送信」を示す添え字を省略し、受信ウエイトと共通の数式として説明を行う。
図4において、送受信ウエイト算出処理を開始すると(S1 )、無線モジュールは自局の設置場所(ここでは装置の筐体ではなくアンテナの設置位置を意味する)の座標を取得する(S2 )。続けて、通信相手となる端末局の設置場所(ここでも同様に装置の筐体ではなくアンテナの設置位置を意味する)の座標を取得する(S3 )。これらの情報をもとに、式(3) を用いて端末局と無線モジュールの距離を算出する(S4 )。この距離を用いて、さらにキャリブレーション係数(送信および受信で異なる点に注意)を考慮して式(5) または式(7) を用いて送受信ウエイトを算出する(S5 )。この結果をメモリに保存し送受信ウエイトのデータベース化を図り(S6 )、処理を終了する(S7 )。なお、以上の処理は全ての周波数成分に対して同様に行うことになる。
ここでは、実際の通信よりも前に送受信ウエイトを事前に算出するとした説明を行ったが、これは高精度な座標情報を必要とする本発明の対象とするシステムは装置を固定設置するものを想定しており、その場合には座標も送受信ウエイトも時間と共に変化することはない。この場合には、一度送受信ウエイトを算出しておけば、それ以降はその送受信ウエイトを常に利用可能であり、したがって事前にデータベース化することが好ましい。ただし、通信の開始毎に送受信ウエイトを算出したり、時間と共に定期的に送受信ウエイトや座標情報を更新しても構わない。特に、GPSやその他の方法で座標情報を取得する場合には、長時間の測定(およびその平均化処理等)により座標の測定誤差を抑圧することも可能であり、その場合には定期的に送受信ウエイトや座標情報を更新することでより精度を高めることになる。
(ダウンリンクについて)
複数の無線モジュールから端末局へのダウンリンクの送信処理について説明する。なお、無線通信システムの構成は図1に記載のものと同一である。
(装置構成)
図5は、本発明の実施例1のダウンリンクにおける送信側(制御局〜無線モジュール)の構成例を示す。
図5において、24は制御局装置、25−1〜25−3は無線モジュールである。11は送信信号処理回路、12−1〜12−3はD/A変換器、13−1〜13−3はミキサ、14−1〜14−3はフィルタ、15−1〜15−3はE/O変換器、16−1〜16−3は光ファイバ、17−1〜17−3はO/E変換器、18−1〜18−3はハイパワーアンプ、19−1〜19−3はアンテナ、20は座標情報記憶回路、21は送信ウエイト算出回路、22は送信ウエイト記憶回路、23はローカル発振器を表す。
図23に示した従来構成においては、送信ウエイトの算出に関してはチャネル情報取得回路130にて別途取得したチャネル情報を逐次更新しながらチャネル情報記憶回路131に記録しておき、信号の送信時に送信ウエイト算出回路132にて送信ウエイトを算出していたのに対し、本実施形態では、無線モジュールや端末局の座標を座標情報記憶回路20に記憶させ、送信ウエイト算出回路21にて式(5) または式(7) を用いて送信ウエイトを算出し、これを送信ウエイト記憶回路22に記録しておき、信号の送信時には記憶された送信ウエイトを利用する点である。更に言えば、図23に示した従来構成に関する説明では、便宜上、チャネル情報取得回路130を標記していたが、受信信号が極端に低SNR状態となる環境では、上述の課題1が問題となりチャネル情報を取得する術がなかったが、本実施形態ではその具体的な実現方法が示されている。
なお、先にも説明したように送信ウエイトは通信に用いる帯域内の周波数成分毎に異なる値となるため、送信信号処理回路11ではOFDMないしはSC−FDEのように周波数成分毎の信号処理が個別に行われることになる。例えば、OFDMであれば、変調処理はサブキャリア毎に個別に行われるため、そのサブキャリア毎に異なる送信ウエイトを乗算することになる。また、SC−FDEであれば、一旦、変調処理を施して生成した(ガードインターバルないしはサイクリックプレフィックスと呼ばれる領域を除いた)送信信号に対し、周波数軸上での等化処理を行う単位であるブロック毎に、一旦、FFT処理を施し、施された各周波数成分上で送信ウエイトの乗算処理を行う。なお前述の通り、送信ウエイトはベースバンドでの周波数 fm に対し、Wk(fm+fc) またはWk(fm+fc,d) を対応させて処理を行えばよい。そして送信ウエイトを乗算した信号に対してIFFT処理を施し、IFFTで得られた信号に対してガードインターバルを付与して1つのブロックの信号を生成する。
(送信信号の送信処理フロー)
図6は、本発明の実施例1における送信信号の送信処理フローの例を示す。
図6において、送信処理を開始すると(S11)、送信すべきデータに対する無線パケット生成や変調処理等の各種信号処理により、周波数成分毎の送信信号を生成する(S12)。これはOFDMであれば各サブキャリアの信号を、SC−FDEであればガードインターバルを除くシングルキャリアの信号をFFTでサブキャリア毎の周波数成分に分解した信号成分の生成を意味する。各無線モジュールでは、この信号を送信する際に乗算する送信ウエイトを読み出し(S13-1〜S13-3)、この送信ウエイトを送信信号に乗算する(S14-1〜S14-3)。さらに、送信ウエイトの乗算結果をもとにIFFTおよびガードインターバルの付与などにより送信信号を生成し(S15-1〜S15-3)、この信号を各無線モジュールに転送する(S16-1〜S16-3)。各無線モジュールでは、受信した信号を送信し(S17-1〜S17-3)、送信処理を終了する(S18-1〜S18-3)。
なお、処理S14-1〜S14-3における送信ウエイトの乗算処理では、各周波数成分に対して実施する。また処理S15-1〜S15-3における送信信号の生成とは、OFDMおよびSC−FDE共に、各サブキャリア毎の信号成分を用いたIFFT処理とその信号に対するガードインターバルの付与を意味する。
図5の装置構成に基づいて上記の処理をもう少し具体的に説明すれば、処理S16-1〜S16-3では、処理S15-1〜S15-3で生成されたデジタル・ベースバンド信号に対しD/A変換によりデジタル信号からアナログ信号に変換し、変換された信号をアップコンバートして無線周波数に変換した後、E/O変換により光信号に変換して各無線モジュールに転送する。さらに処理S17-1〜S17-3では、受信した光信号に対してO/E変換を行い、この信号を増幅して送信する。
特徴として、図5でも説明したように、本発明では信号送信の都度、送信ウエイトを算出することは行わない。図4で説明した手順で座標情報を用いて別途算出しておいた送信ウエイトを用い、信号の送信を行うことになる。
(アップリンクについて)
端末局から複数の無線モジュールへのアップリンクの受信処理についても、上記の複数の無線モジュールから端末局へのダウンリンクの送信処理と同様に実施可能である。なお、無線通信システムの構成としては図1に記載のものと同一である。
(装置構成)
図7は、本発明の実施例1のアップリンクにおける受信側(無線モジュール〜制御局)の構成例を示す。
図7において、44は制御局装置、45−1〜45−3は無線モジュールである。31は受信信号処理回路、32−1〜32−3はA/D変換器、33−1〜33−3はフィルタ、34−1〜34−3はミキサ、35−1〜35−3はO/E変換器、36−1〜36−3は光ファイバ、37−1〜37−3はE/O変換器、38−1〜38−3はローノイズアンプ、39−1〜39−3はアンテナ、40は座標情報記憶回路、41は受信ウエイト算出回路、42は受信ウエイト記憶回路、43はローカル発振器を表す。
図24に示した従来構成では、受信ウエイトを算出するために、A/D変換器142−1〜142−3にてデジタル・ベースバンド信号に変換された信号がチャネル情報推定回路150に入力され、ここでチャネル情報を推定し、その推定結果を受信ウエイト算出回路151に入力し、受信ウエイト算出回路151でチャネル情報をもとに乗算すべき受信ウエイトを算出し、これを受信信号処理回路141に入力していたのに対し、本実施形態では、無線モジュールや端末局の座標を座標情報記憶回路40に記憶させ、受信ウエイト算出回路41にて式(5) ないし式(7) を用いて受信ウエイトを算出し、これを受信ウエイト記憶回路42に記録しておき、信号の送信時には記憶された送信ウエイトを利用する。すなわち、従来構成では受信の都度に受信信号から得られるチャネル情報をもとに受信ウエイトを生成していたが、本実施形態では、受信ウエイトは無線パケットの受信前から既知であり、それ故に受信信号が如何に低SNR状態であったとしても、そのチャネル推定精度に依存することなく信号処理を行うことが可能である。
なお、先にも説明したように受信ウエイトは通信に用いる帯域内の周波数成分毎に異なる値となるため、受信信号処理回路31ではOFDMないしはSC−FDEのように周波数成分毎の信号処理が個別に行われることになる。例えば、本発明では高精度のタイミング同期が前提となるため、受信側では既知のタイミングでOFDMシンボルないしはSC−FDEの伝送ブロックを切り出し、これからガードインターバルを除去した信号に対してFFT処理を実施し、各周波数成分に分離して受信ウエイトの乗算処理を実施する。
また、ここでの説明はミキサ34−1〜34−3で無線周波数帯からベースバンド帯にダウンコンバートされており、FFT処理により分離された各周波数成分の引数となる周波数は無線周波数帯のものとは異なるが、前述の通り、無線周波数fと中心周波数 fc 、ベースバンド帯での第mサブキャリアの周波数 fm の間にはf= fm + fc の関係があるため、ここで用いる受信ウエイトはベースバンドでの周波数 fm に対し、またはWk(fm+fc) またはWk(fm+fc,d) が対応することになる。そしてこの受信ウエイトの乗算後には、各周波数成分に各無線モジュールからのそれらの信号を加算合成し、合成して得られた信号をもとに復調処理を実施する。OFDMであれば、サブキャリア毎の信号をもとにサブキャリア毎の復調処理を、SC−FDEであればサブキャリア毎に分離された信号の周波数軸上での等化処理の後にIFFT処理を施し、その信号に対して復調処理を実施する。なお、OFDMにおける復調処理またはSC−FDEにおける等化処理に必要となるチャネル情報は、各無線モジュールの信号を受信ウエイト乗算と加算合成後の信号に対して求める必要があるため、無線パケットの先頭のチャネル推定信号領域に対して、加算合成後の信号に対してFFT処理を施しチャネル推定を行う必要がある。ただし、これらの一連の処理は、周波数成分毎の受信ウエイトの乗算、各無線モジュールの信号の加算合成を除けば既存のOFDMないしはSC−FDEにおける信号処理と同一であり、ここでは詳細は省略する。
以上は、各周波数成分毎の受信ウエイトを周波数軸上で乗算する信号処理の例を示したが、この信号処理と等価な信号処理は、FFT処理を実施する前段にて処理することも可能である。特開2007-215007 号公報(無線通信方法及び無線基地局)には、FFT処理を実施する前段に周波数成分毎に異なる受信ウエイトを乗算する手法が開示されており、具体的な処理としては、まず周波数成分毎の受信ウエイトをIFFT処理することで時間軸上の受信ウエイトに変換する。さらに、受信した信号のサンプリングデータに対し、受信時刻が異なる多数のサンプリングデータに対し、その遅延量に対応した時間軸上の受信ウエイトを乗算し、異なるサンプリング時刻の信号を重み付けしながら加算処理するという内容である。いわゆる等化器と類似の処理であるが、処理としてはチャネルの等化ではなく同位相合成のための受信ウエイトの乗算を行うことに相当する。このように、その他の信号処理においても同等の処理は実現可能である。
なお、図5における座標情報記憶回路20、送信ウエイト算出回路21、送信ウエイト記憶回路22と、図7における座標情報記憶回路40、受信ウエイト算出回路41、受信ウエイト記憶回路42は基本的に機能が同じであるため、送受信機能を両方含む装置構成においては、それぞれを共用することが可能である。ただし、先に述べたハイパワーアンプ18−1〜18−3およびローノイズアンプ38−1〜38−3における増幅率、複素位相回転量の個体差を補正するためのキャリブレーション係数は送信と受信で異なるため、これらの補正を行う場合には受信ウエイト算出回路41と送信ウエイト算出回路21は一部異なる機能(異なるキャリブレーション係数の乗算機能)を備えることになる。
(受信信号の受信処理フロー)
図8は、本発明の実施例1における受信信号の受信処理フローの例を示す。ここでは、処理S21-1〜S21-3から処理S25-1〜S25-3までの処理は各無線モジュール毎に個別的に行う処理であり、複数の処理がパラレルに実施される。これらの処理結果を集約し、処理S26以降の処理を実施する構成になっている。
図8において、各無線モジュールで信号を受信すると(S21-1〜S21-3)、受信された信号は無線モジュールから制御局装置に転送される(S22-1〜S22-3)。制御局装置では信号を受信すると、受信した信号を各周波数成分に分離する(S23-1〜S23-3)。さらに送信元である端末局に対応した式(5) または式(7) で与えられる受信ウエイトを読み出し(S24-1〜S24-3)、各無線モジュールの各周波数成分の信号に対し、周波数成分毎の受信ウエイトを乗算する(S25-1〜S25-3)。以上の処理を行った信号を集約し、全ての無線モジュールの周波数成分毎の信号を加算合成する(S26)。この加算合成された信号に対し、通常の受信信号処理を実施し(S27)、処理を終了する(S28)。
図7の装置構成に基づいて上記の処理をもう少し具体的に説明すれば、処理S21-1〜S21-3では、受信した信号を増幅する処理を含む。さらに処理S22-1〜S22-3では、この信号をE/O変換した光信号として光ファイバを介して制御局装置まで転送し、さらに制御局装置ではこの光信号をO/E変換で電気信号に変換し、さらにダウンコンバートした信号に対しアナログ/デジタル変換を施す処理までを含む。処理S23-1〜S23-3に関しては、OFDMシンボルないしはSC−FDEのブロックからガードインターバルを除去し、この信号に対してFFT処理を実施し各周波数成分に分離する。処理S27は、OFDMであれば各サブキャリアの復調処理を実施する。また、SC−FDEであれば全無線モジュールで合成された各周波数成分の信号を用いて周波数軸上の等化処理を行い、更にIFFT処理を実施し、その信号に対して復調処理を行う。
以上が受信信号の処理フローである。例えば一般的な分散アンテナシステムであれば、複数の無線モジュールで受信した信号に乗算する受信ウエイトは受信信号のプリアンブル等を利用してチャネル推定処理を実施し、その結果を利用して受信ウエイトを逐次算出するのが一般的である。しかし、仮に個々の無線モジュールで受信した信号の受信信号強度が非常に低く、チャネル推定精度が著しく低くなる状況では、全ての信号の同位相合成は精度的に困難である。しかし本発明によれば、そのような低SNR環境の信号であっても、近似的かつ簡易に同位相合成に必要な受信ウエイトを利用することが可能となる。
なお、受信側において受信信号を参照することなく受信ウエイトを選択するためには、信号受信以前に制御局側で受信する信号の送信元である端末局および信号の受信タイミングが認識できている必要がある。しかし、これは制御局側が集中制御で無線リソース管理(すなわちスケジューリング)を行っていればまったく問題とはならない。
図9は、本発明の実施例2における無通信線システム(無線中継システム)の構成例を示す。
図9において、本実施形態では、無線モジュール3−1〜3−6は中継局としての動作し、これらの中継局を統括する基地局9を配置する構成となるが、この基地局9は実施例1において参照した図1の無線通信システムにおける制御局2に対応する。
(課題2について)
本実施形態と図20で説明した従来技術との差分は、本実施形態では、実施例1と同様に全ての無線モジュール3−1〜3−6および端末局4−1〜4−3の座標が無線モジュール3−1〜3−6側ないしは基地局9側で正確に把握できている点である。また、図1との差分は、図1では各無線モジュールは光ファイバ等の高速な有線回線を介して制御局2と接続されていたのに対し、図9では基地局9が制御局2の代わりに配置されている点である。このため、基地局9と各無線モジュール3−1〜3−6との間には、破線矢印で示した第2の無線システムによる無線回線が設定されている。各無線モジュール3−1〜3−6と端末局4−1〜4−3が第1の無線システムで接続され、基地局9と各無線モジュール3−1〜3−6は第2の無線システムで接続されているとの意味は、その両者は異なる無線標準規格であっても異なる周波数帯であっても構わないことを意味している。すなわち、図1における光ファイバ等の高速な有線回線の代替となるものであれば、第2の無線システムは如何なる無線システム(第1の無線システムを含む)であっても構わない。このように、基本的な部分では実施例1と類似の形態ではあるが、無線を用いることで実際の運用においては条件が異なる。すなわち、中継局を介するときには前述の(課題2)が問題となる。
課題2の原因は、各中継局が備えるローカル発振器の位相が非同期であった点である。特に、それぞれのローカル発振器は周波数誤差を持つため、一旦、同期を図っても徐々にずれて直ぐに非同期状態となってしまう。このローカル発振器を介在させる理由は、一般的な無線システムでは一旦ベースバンドでデジタル/アナログ変換を実施し、その後に無線周波数にアップコンバートするためにローカル発振器の信号と送信すべきベースバンド信号をミキサで合成(ないしは乗算)して無線周波数の信号を生成していたからである。実施例1の場合にも同様にローカル発振器は利用しているが、全てのミキサに供給される信号は共通のローカル発振器からの信号を分岐していたものであったため、この問題は発生しなかった。
本実施形態では、この問題を回避するために、各無線モジュールにおいて、式(6) または式(8) で表される無線信号をサンプリング処理して得られるサンプリングデータに対してデジタル/アナログ変換を行い、直接、無線周波数の信号を生成することとした。たとえば、アナログテレビで用いていたVHF帯(100MHzや 200MHz等)などであれば、直接的に無線信号を生成することが可能である。
また、各無線モジュールからは信号を一斉に送信する必要があるが、そのタイミングを調整するためには、基地局9の座標(x0,y0,z0)を利用することが可能である。式(7) における第k無線モジュールと制御局間の光ファイバの経路長d(k) は、本実施形態では基地局9と無線モジュール3−1〜3−6間の距離と置き換えることが可能であり、この場合には以下の式を用いれば良い。
これを用いれば、例えば基地局から基準タイミング通知用の信号(例えばパルス状の信号)を送信し、この信号の受信時刻を基準として所定の時間だけオフセットしたタイミングにて一斉に送信すれば良い。この際には送信ウエイトは式(7) を用いることになる。なお、先に説明した通り、本実施形態においてもチャネル情報および送受信ウエイトは各周波数成分毎に異なるため、周波数成分毎に個別の値を用いることになる。
(ダウンリンクについて)
複数の無線モジュールから端末局へのダウンリンクの送信処理について説明する。なお、本実施形態における無線モジュールは中継局である。
(装置構成)
図10は、本発明の実施例2のダウンリンクにおける送信側(基地局〜無線モジュール)の構成例を示す。
図10において、65は基地局装置、66−1〜66−3は無線モジュール(ここでは中継局)である。51は送信信号処理回路、52は第2の無線システム送信装置、53はアンテナ、54−1〜54−3はアンテナ、55−1〜55−3は第2の無線システム受信装置、56−1〜56−3は送信信号処理回路、57−1〜57−3はD/A変換器、58−1〜58−3はフィルタ、59−1〜59−3はハイパワーアンプ、60−1〜60−3はアンテナ、61−1〜61−3は座標情報取得回路、62−1〜62−3は送信ウエイト算出回路、63−1〜63−3は送信ウエイト記憶回路、64−1〜64−3はタイミング同期回路を示す。
図25に示す従来技術の説明では、便宜上、チャネル情報取得回路172−1〜172−3を標記していたが、受信信号が極端に低SNR状態となる環境では、上述の課題1が問題となりチャネル情報を取得する術がなかった。しかし、本実施形態では、図4で説明した手法としてその具体的な実現方法が示されている。また、図25では各無線モジュール176−1〜176−3にローカル発振器175−1〜175−3を備えていたが、本実施形態では、無線周波数の信号を直接D/A変換器を用いて生成することでローカル発振器を不要とした。この結果、ローカル発振器が相互に非同期であることに起因した複素位相の不確定性の問題は回避することが可能である。さらに、従来方式では信号の送信毎に最新のチャネル情報を用いて送信ウエイトを算出していたが、ここでは固定的な送信ウエイトを用いるので、毎回計算することなしに、座標情報から事前に送信ウエイトを計算し、それを記憶したものを利用することになる。
実施例1と大きく異なる点としては、実施例2ではタイミング同期回路64−1〜64−3が必要となる点である。実施例2では、各無線モジュール66−1〜66−3の送信信号処理回路56−1〜56−3で基地局装置65から転送された信号を個別に再生するが、この再生タイミングが同期していない場合には複素位相の不確定性が除去できないため、同一タイミングで送信を開始するように調整を行う必要がある。そのため、第2の無線システム(場合によっては第2の無線システムとは異なる第3の無線システムでも良いが、便宜上、それらをまとめてここでは第2の無線システムと呼ぶ。たとえば、GPS、UWBのような高精度のタイミング同期を可能とする情報を抽出可能な無線システムが必要である。)からタイミング同期に必要となる情報をタイミング同期回路64−1〜64−3が取得し、信号の送信開始タイミング等を送信信号処理回路56−1〜56−3に供給する。
以下、送信動作について詳細に説明する。ネットワーク側より基地局装置65に送信すべきデータが入力されると、送信信号処理回路51では送信すべき信号に対して第1の無線システムで送信する無線パケットの生成等のMAC処理を行い、さらに第2の無線システムの無線パケット内にこれをカプセル化する。第2の無線システム送信装置52ではアンテナ53を介してそのデータを各無線モジュール66−1〜66−3に送信する。各無線モジュール66−1〜66−3では、アンテナ54−1〜54−3で信号を受信し、第2の無線システム受信装置55−1〜55−3で第2の無線システムの復調処理を施し、カプセル化された信号を取り出す。送信信号処理装置56−1〜56−3では、取り出した信号に対して変調処理を行う。具体的には、OFDMの場合にはサブキャリア毎の変調処理を意味し、SC−FDEであればシングルキャリアでの変調処理に加え、これをFFT処理することで各周波数成分に分離する処理までを含む。その後、分離された各周波数成分毎に個別の送信ウエイトを乗算し、ベースバンドでの周波数 fm に対し、
Ak(fm+fc,t) Wk(fm+fc) またはAk(fm+fc,t) Wk(fm+fc,d)
に相当する情報を算出する。さらに、送信ウエイトが乗算されたこの各周波数成分を用いてIFFT処理(厳密には、ここでは式(6) または式(8) に相当する無線周波数帯の時間軸上での信号の生成処理)およびガードインターバルの付与等の信号処理を実施し、無線周波数における送信信号(式(6) または式(8) )のデジタル・サンプリングデータを生成する。
さらに、D/A変換器57−1〜57−3でデジタル・サンプリングデータから無線周波数のアナログ信号に変換する。さらに、送信すべきチャネルの帯域外の周波数成分を除去するためにフィルタ58−1〜58−3で帯域外成分を除去し、これをハイパワーアンプ59−1〜59−3で信号増幅し、アンテナ60−1〜60−3より送信する。各無線モジュール66−1〜66−3から送信される信号は異なる送信ウエイトが乗算されていることを除けば、基本的には同一内容の信号となっており、この結果、受信局側では同位相合成を実現することができる。
なお、送信信号処理回路56−1〜56−3で乗算される送信ウエイトは、座標情報取得回路61−1〜61−3で管理する座標情報をもとに送信ウエイト算出回路62−1〜62−3で別途取得し、これを送信ウエイト記憶回路63−1〜63−3に記憶しておき、無線パケットの送信時には宛先局に対応した送信ウエイトを送信ウエイト記憶回路63−1〜63−3から読み出して、送信信号処理回路56−1〜56−3で送信ウエイトを乗算する。送信信号処理回路56−1〜56−3からD/A変換器57−1〜57−3への信号出力開始タイミングは、タイミング同期回路64−1〜64−3で管理される。
なお、上述の説明では第1の無線システムで送信する無線パケットの生成等のMAC処理を施した情報をカプセル化する際の説明を行ったが、第1の無線システムにおける無線パケットに収容されるべき物理およびMACレイヤでの制御情報等が、各無線モジュール66−1〜66−3で全く同一の内容の制御情報として生成できるのであれば、これらの制御情報は付与せずに、送信信号処理回路56−1〜56−3で無線パケットの生成等のMAC処理を施す構成としても良い。この場合には、実効的にはもはやカプセル化と呼べる処理ではないが、ここでは便宜上、この場合も含めてカプセル化として包括的な説明を行っている。
さらに、送信信号処理回路56−1〜56−3で行う変調処理などの一部を、基地局装置65で行う構成とすることも可能である。ここでは、基地局装置65側で変調処理および各周波数成分への信号分離までを行い、各周波数成分に分離された情報(すなわちIQ平面上の複素情報)をカプセル化して基地局装置65から各無線モジュール66−1〜66−3に転送することになる。これらの送信ウエイトを乗算する前の各周波数成分に関する情報生成処理は、全ての無線モジュール66−1〜66−3で共通の処理であるため、無線モジュール66−1〜66−3の処理の負荷を軽減するのに有効である。ただし、この処理に伴い第2の無線システム上で転送すべき情報量が増加する傾向もあり、第2の無線システムの伝送容量に余裕がある場合に適用は限られる。なお、この場合も送信信号処理回路56−1〜56−3で行うIFFT処理(厳密には、ここでは式(6) または式(8) に相当する無線周波数帯の時間軸上での信号の生成処理)およびガードインターバルの付与等の信号処理の前段まではベースバンドでの信号処理となり、送信ウエイトは同様にベースバンド帯での周波数 fm に対し、Wk(fm+fc) またはWk(fm+fc,d) が対応することになる。
(送信信号の送信処理フロー)
図11に、本発明の実施例2における送信信号の送信処理フローの例を示す。
図11において、送信処理を開始すると(S31)、ネットワーク側から入力されたデータに所定の処理(ここでは変調処理などは含まない)、例えば第1の無線システムで送信する無線パケットの生成等のMAC処理を施し、その信号を第2の無線システムの無線パケット内にカプセル化し(S32)、これを各無線モジュールに第2の無線システムの無線回線を用いて転送する(S33)。各無線モジュールでは、この信号を受信し、第2の無線システムの信号処理を行いカプセル化された信号を取り出し、変調処理等を含む所定の信号処理により各周波数成分に分離された送信信号を生成する(S34-1〜S34-3)。具体的には、OFDMであればサブキャリア毎の変調処理を、SC−FDEであれば変調処理の後にFFT処理を施し、各周波数成分毎に信号分離を行う。
各無線モジュールでは、この信号を送信する際に乗算する各周波数成分の送信ウエイトを読み出し(S35-1〜S35-3)、この送信ウエイトを分離された各周波数成分の信号に乗算するとともに、IFFT処理(厳密には式(6) または式(8) に相当する無線周波数帯の時間軸上での信号の生成処理)およびガードインターバルの付与等の信号処理により送信信号を生成する(S36-1〜S36-3)。さらに、この信号を送信し(S37-1〜S37-3)、送信処理を終了する(S38-1〜S38-3)。なお、前述のようにIFFT処理の前段まではベースバンド帯での信号処理となるため、ここでの送信ウエイトはベースバンド帯での周波数 fm に対し、Wk(fm+fc) またはWk(fm+fc,d) が対応することになる。
図12は、本発明の実施例2における送信信号の別の送信処理フローの例を示す。
図11の説明では、第2の無線システムを用いて転送する情報量を抑えることを目的に、基地局側から無線モジュール側に転送する信号は変調処理を行う前の信号として説明を行ったが、変調処理を行った信号を第2の無線システムの無線パケット内にカプセル化して転送しても構わない。この場合、第2の無線システムの無線パケットにカプセル化される信号は、変調処理等を含め各周波数成分に分離された信号(例えば式(2) のA(f,t) に関する情報、サブキャリア毎の多値変調のマッピングデータ(送信コンスタレーション上の情報))など、送信信号処理の中間段階の様々な形態であって構わない。
図12に示す送信信号処理フローでは、図11における処理S32の前段で、各種変調処理および各周波数成分への分離などを伴う送信信号生成処理(S39)を実施し、無線モジュール側では処理S34-1〜S34-3が、その処理の一部分を抜粋した第2の無線システムの終端およびカプセル化された信号の抽出処理などの変調処理を伴わない信号処理(S40-1〜S40-3)に置き換わる。図10の構成では、基地局装置65の送信信号処理回路51と、無線モジュール66−1〜66−3の送信信号処理回路56−1〜56−3で通常の送信信号処理を分担することになり、その配分に関しては図11、図12等のようにどのような形態であっても構わない。
図10の装置構成に基づいて上記の処理をもう少し具体的に説明すれば、処理S37での処理は、処理S36-1〜S36-3で生成された無線周波数の信号に対し直接D/A変換によりデジタル信号からアナログ信号に変換し、帯域外信号をフィルタで除外し、信号の増幅を行いアンテナより送信する処理を意味する。
処理S33と処理S34の間では、単に第2の無線システムを用いて基地局装置と無線モジュール66−1〜66−3の間で通信を行うのであるが、通信容量を抑制するためには、1対1のユニキャスト通信の代わりに、1対多のブロードキャスト/マルチキャスト的な通信を行うことが好ましい。すなわち、基地局は無線モジュールのそれぞれに対して個別に送信を行うのではなく、全ての無線モジュールを対象としたブロードキャスト/マルチキャスト通信を行う。ここで、1対多のブロードキャストの場合には再送制御などが出来ないため、第2の無線システム上で符号誤りが発生した場合には無線モジュール66−1〜66−3では送信すべき信号を生成できなくなるが、多数の無線モジュール66−1〜66−3が一斉に送信するために、符号誤りの発生した無線モジュールがその信号の送信を休止してもなんら問題はない。
処理S34-1〜S34-3では、第2の無線システムで受信した信号を終端し、カプセル化されたデータを抽出すると共に、この信号に対し変調処理を施している。実施例1では制御局側(つまり実施例2では基地局側に相当)で変調処理を施した送信信号を生成しているが、一般に、元データに対し変調処理を施した信号は、転送すべき情報量が膨大になる傾向がある。したがって、第2の無線システムでの転送すべき情報量を抑えるためには、元データないしは元データに制御情報を付与した信号(例えばMAC処理を施した信号)を第2の無線システムにてカプセル化することが好ましい。そしてこの場合は、各無線モジュール64−1〜64−3の送信信号処理回路56−1〜56−3において変調処理等を実施する。ただし、全ての無線モジュール64−1〜64−3で生成する送信信号が、送信ウエイトなどを除いて実質的に同一の信号であることを担保するために、所定の条件を全ての無線モジュール64−1〜64−3で共有する必要がある。この条件は、例えば全無線モジュール64−1〜64−3で同一の変調方式や誤り訂正の符号化率などを採用することを意味し、この条件を満たすための方法としては、たとえば無線モジュール64−1〜64−3に予めその条件が設定されていても、第2の無線システムから通知されても構わない。具体的には、どの端末はどの変調方式を用いるという設定テーブルを全無線モジュールが備えても良いし、全ての通信が固定的に単一の変調方式を用いていても構わない。
また、処理S35-1〜処理S35-3にあるように、実施例1と同様に、実施例2においても信号送信の都度、送信ウエイトを算出することは行わず、所定の場所に記録された情報を読み出して利用する。この際、図4で説明した手順で座標情報を用いて別途算出しておいた送信ウエイトを用いることになる。
(アップリンクについて)
(装置構成)
図13は、本発明の実施例2のアップリンクにおける受信側(無線モジュール〜基地局)の構成例を示す。
図13において、85は基地局装置、86−1〜86−3は無線モジュール(ここでは中継局)である。71は受信信号処理回路、72は第2の無線システム受信装置、73はアンテナ、74−1〜74−3はアンテナ、75−1〜75−3は第2の無線システム送信装置、76−1〜76−3は受信信号処理回路、77−1〜77−3はA/D変換器、78−1〜78−3はフィルタ、79−1〜79−3はローノイズアンプ、80−1〜80−3はアンテナ、81−1〜81―3はタイミング同期回路、82は座標情報記憶回路、83は受信ウエイト算出回路、84は受信ウエイト記憶回路を表す。
各無線モジュール86−1〜86−3では、アンテナ80−1〜80−3で受信した信号をローノイズアンプ79−1〜79−3で増幅する。増幅された信号は、受信すべきチャネルの帯域外の周波数成分を除去するため、フィルタ78−1〜78−3で帯域外成分を除去し、A/D変換器77−1〜77−3でサンプリングし、無線周波数におけるデジタル信号に変換される。この信号は、受信信号処理回路76−1〜76−3でデジタル信号処理として無線周波数からベースバンドへのダウンコンバート処理、帯域外信号除去のためのデジタルフィルタ処理、ガードインターバルの除去とFFT処理などの信号処理を行い、第2の無線システムにおける無線パケットにカプセル化するための信号に変換する。この信号は、第2の無線システム送信装置75−1〜75−3で無線パケット内にカプセル化され、第2の無線システムを用いて基地局装置85に送られる。
基地局装置85では、アンテナ73で受信された信号を第2の無線システム受信装置72で受信信号処理し、カプセル化されていた情報を抜き出し、受信信号処理回路71に入力する。受信信号処理回路71では、各無線モジュール86−1〜86−3からの信号が全て集約されるため、各無線モジュール86−1〜86−3で受信された信号に周波数成分毎に個別に所定の受信ウエイトを乗算して周波数成分毎に個別に合成し、合成された信号に対して復調処理を施し、再生された無線パケットからデータを取り出して外部(ネットワーク側)に出力する。なお、受信ウエイトの乗算はベースバンド上での信号処理となるため、ここでの受信ウエイトはベースバンド帯での周波数 fm に対し、Wk(fm+fc) またはWk(fm+fc,d) を用いることになる。また復調処理に関しては、SC−FDEの場合には受信ウエイトを乗算した後の各周波数成分の信号に対して周波数軸上の等化処理およびIFFT処理を実施、その後の信号に対して復調処理を行うことになる。
ここで、受信信号処理回路71で乗算される受信ウエイトは、座標情報取得回路82で管理する座標情報をもとに受信ウエイト算出回路83で別途取得し、これを受信ウエイト記憶回路84に記憶しておき、受信時には送信元局に対応した受信ウエイトを受信ウエイト記憶回路84から読み出して、受信信号処理回路71で受信ウエイトを乗算する。したがって、実施例1と同様に、信号受信時のチャネル推定結果をもとにした受信ウエイトの算出処理は回避され、低SNR環境でチャネル推定精度が極端に低くても、問題なく同位相合成を行うことが可能である。この受信ウエイトも、送信ウエイトと同様に各周波数毎に異なる値となる。また、送信側にても説明したように、各無線モジュールで非同期のローカル発振器の信号を用いたダウンコンバート処理を行ってはいないので、ローカル発振器の信号の位相不確定性の問題も回避可能である。
また、送信側の場合と同様に、実施例2では各中継局にタイミング同期回路81−1〜81−3が必要となる。本発明では全ての無線モジュール88−1〜88−3のA/D変換器が独立に動作するとともに、受信した信号を休みなく全て基地局装置85側に転送する訳ではなく、実際に有効な信号が受信されている期間のみの情報を転送しているため、サンプリングデータを取得する際に、無線モジュールのそれぞれが取得するサンプリング・データが同時刻のものとなるように処理する必要がある。このため、タイミング同期回路81−1〜81−3を設け、受信信号処理回路76−1〜76−3でサンプリング・データのデータ列の中から同時刻に相当するデータを抜き出すタイミングを提供する。タイミングの提供方法としては、タイミング同期回路81−1〜81−3は基本的に送信側で説明したタイミング同期回路64−1〜64−3と同等の機能により、各無線モジュール86−1〜86−3の基準タイミングと基地局装置85側の基準タイミングのずれを監視する。そして、受信側の同期タイミング回路は、受信側の同期タイミングを管理する。実際にはこれらの機能を両方含む回路にて送受信両方のタイミングが管理されることになる。
(受信信号の受信処理フロー)
図14は、本発明の実施例2における受信信号の受信処理フローの例を示す。
受信信号処理フローは、基本的には図8に示す実施例1と同様であるが、送信側の場合と同様に無線モジュールからの受信信号の転送の際には第2の無線システムを用いるため、これに関連して、以下のように処理の変更が伴う。
各無線モジュールで信号を受信すると(S41-1〜S41-3)、受信した信号に対して信号増幅、帯域外信号の除去、無線周波数帯におけるA/D変換、デジタル信号処理による無線周波数帯からベースバンド帯へのダウンコンバート処理、OFDMシンボル周期ないしはSC−FDEのブロック周期で信号を切り出し、ガードインターバルの除去の後にFFT処理により各周波数成分に信号分離するなどの受信信号処理を実施し(S42-1〜S42-3)、その情報を第2の無線システムの無線パケットにカプセル化する(S43-1〜S43-3)。カプセル化された信号は基地局側に第2の無線システムを用いて転送され(S44-1〜S44-3)、基地局側では各無線モジュール毎の受信ウエイトを読み出し(S45-1〜S45-3)、各周波数成分毎にこれらの受信ウエイトを受信信号に乗算し(S46-1〜S46-3)、その後、周波数成分毎に全ての信号を加算合成し(S47)、復調処理を実施(S48)して処理を終了する(S49)。なお、受信ウエイトの乗算はベースバンド上での信号処理となるため、ここでの受信ウエイトはベースバンド帯での周波数 fm に対し、Wk(fm+fc) またはWk(fm+fc,d) を用いることになる。またSC−FDEの場合には、処理S48の復調処理とは各周波数成分の信号に対して周波数軸上の等化処理およびIFFT処理を実施した信号に対する復調処理に置き換えられる。
なお、第2の実施例に関する上記の説明では、受信信号を周波数成分に分離した情報を転送するとしたが、必ずしも周波数成分に分離した情報を第2の無線システムにて転送しなくても良い。例えば、処理S42-1〜S42-3において、無線周波数帯でのサンプリングデータに対するデジタル信号処理として、周波数のダウンコンバート処理、帯域外信号除去のためのデジタルフィルタ処理等によりデジタル・ベースバンド信号に変換した信号を、先ほどと同様に第2の無線システムの無線パケットにカプセル化して無線モジュールから基地局装置に転送しても構わない。
また、図13および図14での説明では受信ウエイトの乗算は基地局側で実施するとして説明を行ったが、各無線モジュール側で乗算した信号をカプセル化して第2の無線システムを用いて基地局側に転送するとしても良い。この場合には、無線モジュール側に座標情報取得回路82、受信ウエイト算出回路83、受信ウエイト記憶回路84および受信ウエイトの乗算処理に対応した機能を備え、基地局側からはこれらの機能を省略する形で実現することが可能である。また、無線モジュールにおけるこれらの機能を送信側の対応する機能と共用することも可能である。
実施例3では、構成としては実施例2と同様に、図9に示す複数の中継局を介する無線中継システムを前提とする。実施例2との相違点は、各無線モジュールが高精度で同期を図りながら同一タイミングで信号送信および信号受信を行うことが困難な場合に対応するための手段を有する点にある。
まず、タイミング同期に関する問題点から説明する。例えば、UWB(Ultra Wide Band )等の広帯域のシステムにおけるタイミング同期の手法として、基地局が1ns以下の短いパルスを定期的に送信し、各無線モジュールではこのタイミングをそれぞれの自走クロックで観測することで、無線モジュールのもつ基準タイミングと基地局側のもつ基準タイミングのオフセットを測定することが考えられる。このタイミングのオフセットを高精度で測定するためには、このクロックのクロックレートを非常に高速としなければならない。しかし、A/D変換およびD/A変換のサンプリングのクロックレートは一般にはこれよりも低い値となる。ここでサンプリングのタイミングは、自走するサンプリングクロックのクロックタイミングで実施されるため、サンプリングクロック周期以下の時間刻みでのタイミングの微調整は一般のA/D変換およびD/A変換では不可能である。ここで、このような場合においても、サンプリングクロック周期よりも小さい基準タイミングとのオフセット値δ(本実施形態では、基準タイミングからの「遅れ」をδの時間軸上の正の値とする)を測定し、当該オフセット値δを用いて送信ウエイトないしは受信ウエイトを微調整することにより、高精度のタイミング同期を図るのと等価な動作を実現することが可能である。
具体的には、OFDM変調方式やSC−FDE伝送技術などを用いたシステムの場合には、式(7) に相当する送信ウエイトを下記の式(10)に置き換えることでオフセット値δをキャンセルする補正が可能である。
ここで、送信に関する基準タイミングの遅れはその遅れ時間に相当する負の位相オフセットを生じさせるが、受信に関する基準タイミングの遅れはその遅れ時間に相当する正の位相オフセットを伴う信号を受信する作用として表れるため、受信ウエイトに関するδに関する補正は式(10)とはδの係数が逆符号の次の式(11)で与えられる点に注意が必要である。
図15は、本発明の実施例3における動作概要を示す。ここでは、アップリンクにおける信号の受信状態を示している。
図15において、91は第1の無線モジュールにおける受信信号に受信ウエイトを乗算後の信号波形、92は第2の無線モジュールにおける受信信号に受信ウエイトを乗算後の信号波形、93は第2の無線モジュールの受信信号に式(11)を乗算した仮想的な信号波形、94は第1の無線モジュールと同一タイミングでサンプリングしていた場合の第2の無線モジュールにおける受信信号に受信ウエイトを乗算後の仮想的な信号波形を表す。
第1の無線モジュールと第2の無線モジュールは、それぞれ基準タイミングがオフセットδだけずれているものとする。この場合、それぞれが個々の基準タイミングで受信信号をサンプリングすると、第2の無線モジュールは第1の無線モジュールよりも時間δだけ遅く信号を受信している。本来、同一時刻に信号を受信していれば、受信ウエイトを乗算後の第2の無線モジュールでは信号波形94となり、第1の無線モジュールの信号波形91と同位相合成可能なはずである。しかし、時間δの遅延に伴い、第2の無線モジュールで取得される信号波形は波形92となり、信号波形91と同位相合成とはならない。
そこで、信号波形92にExp(−2πf・(δ/C)・j)(送信側ではExp(+2πf・(δ/C)・j))を乗算することで、受信信号の複素位相を回転させる。実際にはこの係数は受信信号91と受信信号92の双方に乗算するのであるが、便宜上、第1の無線モジュールは基準タイミングとのタイミング誤差がなかった(δ=0)ものとして説明を行う。信号波形92にExp(−2πf・(δ/C)・j)を乗算した信号波形は信号波形93に変換され、この仮想的な信号波形93は第1の無線モジュールと同一タイミングで受信した場合の仮想的な受信信号94と一致し、Exp(−2πf・(δ/C)・j)の乗算によりタイミングのオフセットδを補正することが可能となることが分かる。なお、送受信ウエイトの乗算をベースバンド帯での信号処理として行う場合には、ベースバンド帯での周波数fmに対し、Wk(fm+fc,d) を用いることになる。
(ダウンリンクについて)
(装置構成)
図16は、本発明の実施例3のダウンリンクにおける送信側(基地局〜無線モジュール)の構成例を示す。
図10に示す実施例2との差分は、送信ウエイト算出回路67−1〜67−3、タイミング同期回路68−1〜68−3、送信信号処理回路69−1〜69−3の機能が異なり、図10における送信ウエイト記憶回路63−1〜63−3が省略されている点である。
まず、タイミング同期回路68−1〜68−3では、先に説明した基準タイミングの同期用の信号を受信する都度、基地局装置65と無線モジュール66−1〜66−3との間の基準タイミングの誤差を測定し、送信信号処理回路69−1〜69−3に対してタイミングの補正処理を指示する。ただし、D/A変換器57−1〜57−3のサンプリングクロックは各無線モジュール66−1〜66−3で自走のクロックを用いるため、このクロック周期以下の短い時間のタイミングの補正は行えない。送信信号処理回路69−1〜69−3ではこのサンプリングクロックのクロック周期でのタイミング補正を行い、これでは補正しきれない僅かなタイミングのオフセット値δをタイミング同期回路68−1〜68−3から送信ウエイト算出回路67−1〜67−3に通知する。送信ウエイト算出回路67−1〜67−3では、式(10)を用いて送信ウエイトを算出し、この送信ウエイトを送信信号処理回路69−1〜69−3に通知し、送信ウエイトの乗算を行う。第2の実施例では、固定的な送信ウエイトを用いていたため、送信ウエイト記憶回路63−1〜63−3を用いていたが、タイミングのオフセット値δは時間と共に変動するために、信号を送信するたびに送信ウエイトを更新する必要がある。なお、式(10)または式(11)の中のタイミングのオフセット値δ以外の項に対応する係数(式(5) または式(7) に相当)は時間と共に変動しないので、実際にはこの値を送信ウエイト記憶回路63−1〜63−3に記憶しておき、オフセット値δに依存した補正を送信ウエイト算出回路67−1〜67−3にて随時行うとみなすこともできる。この場合には、送信ウエイト算出回路67−1〜67−3内に送信ウエイト記憶回路63−1〜63−3が内在されていると理解すれば良い。
(送信信号の送信処理フロー)
図17は、本発明の実施例3における送信信号の送信処理フローの一部を示す。
本送信信号処理フローは、図11および図12に示した第2の実施例の処理S34-kまたは処理S40-k(第k無線モジュールにおける処理として、添え字kが付与されている)と処理S37-kとの間で行われる処理を示している。
まず、信号の送信タイミングとは別に、各無線モジュールは自局の基準タイミングと基地局装置側の基準タイミングとの誤差を定期的に測定し(S55-k)、自局で自走しているサンプリングクロックに換算して何クロックを補正すべきかを算出する(S56-k)。さらに、この補正では補正しきれないオフセット値δを合わせて算出する(S57-k)。一方、信号の送信時において、図11または図12の処理S34-kまたは処理S40-kにて取得された第k無線モジュールから送信すべき信号に対し、処理S57-kで取得したオフセット値δを用い、送信ウエイトを式(10)で算出し(S52-k)、送信信号に送信ウエイトを乗算する(S53-k)。送信信号処理回路69−1〜69−3では、乗算された信号に対して実施例2で説明した各種信号処理を施し、処理S56-kで求めたサンプリングクロック刻みでのタイミング補正を行い(S54-k)、図11および図12の処理S37-kとして、信号送信を行う(S58-k)。
(アップリンクについて)
(装置構成)
図18は、本発明の実施例3のアップリンクにおける受信側(無線モジュール〜基地局)の構成例を示す。
図18において、無線モジュール86−1〜86−3のタイミング同期回路88−1〜88−3では、先に説明した基準タイミングの同期用の信号を受信する都度、基地局装置85と無線モジュール86−1〜86−3との間の基準タイミングの誤差を測定し、受信信号処理回路89−1〜89−3に対してタイミングの補正処理を指示する。ただし、A/D変換器77−1〜77−3のサンプリングクロックは各無線モジュール86−1〜86−3で自走のクロックを用いるため、このクロック周期以下の短い時間のタイミングの補正は行えない。受信信号処理回路89−1〜89−3では、このサンプリングクロックのクロック周期でのタイミング補正を行い、これでは補正しきれない僅かなタイミングのオフセット値δをタイミング同期回路88−1〜88−3から受信ウエイト算出回路87−1〜87−3に通知する。ここで、式(11)に記載の受信ウエイトを算出し、その結果を受信信号処理回路89−1〜89−3に通知して、受信ウエイトの乗算処理を行う。ここでの基準タイミングのオフセット値は受信の都度変化しうるので、実施例2のように受信ウエイトを受信ウエイト記憶回路83−1〜83−3に記録して固定的に利用するのではなく、受信の都度、受信ウエイトを算出する。なお、ダウンリンクでの送信処理と同様に、受信ウエイト記憶回路83−1〜83−3が受信ウエイト算出回路87−1〜87−3内に内在されているとみなしても良い。
(受信信号の受信処理フロー)
図19は、本発明の実施例3における受信信号の受信処理フローの一部を示す。
本受信信号処理フローは、図14に示した第2の実施例の処理S41-k(第k無線モジュールにおける処理として、添え字kが付与されている)と処理S47との間で行われる処理を示している。
送信側の説明と同様に、信号の受信タイミングとは別に、各無線モジュールは自局の基準タイミングと基地局装置側の基準タイミングとの誤差を定期的に測定し(S67-k)、自局で自走しているサンプリングクロックに換算して何クロックを補正すべきかを算出する(S68-k)。さらに、この補正では補正しきれないオフセット値δを合わせて算出する(S69-k)。一方、信号の受信時において、図14の処理S41-kにて取得された第k無線モジュールで受信された信号に対し、処理S68-kで求めたサンプリングクロック刻みでのタイミング補正を行ったタイミングで信号を抜き出す(S62-k)。これは、受信信号のサンプリング自体は連続的に行われているとしても、どのサンプリング値からが実際の受信信号か、すなわち受信信号の先頭かを調整する処理に相当する。さらに処理S62-kで取得したオフセット値δを用い、受信ウエイトを式(11)で算出し(S63-k)、受信信号処理回路89−1〜89−3にて受信信号に受信ウエイトを乗算するなどの所定の信号処理を実施する(S64-k)。これを第2の無線システムの無線パケットにカプセル化し(S65-k)、第2の無線システムを用いて基地局側に信号を転送し(S66-k)、図14の処理S47に移行し(S70-k)、受信信号を加算合成して受信信号処理を実施する。
以上説明したように、本発明の実施例3では、送信ウエイトおよび受信ウエイトは無線モジュール側で測定する基準タイミングの誤差を考慮した値となるため、送信および受信共に無線モジュール側で送受信ウエイトを乗算する処理を実施することになる。また、ここでの説明では、基地局が送信する信号をもとに無線モジュール側で基準タイミングの誤差を測定する場合を例にとっていたが、GPS等の別の手段で基準タイミングを取得し、その結果をもとに全ての無線モジュールで共通となる基準タイミングとのタイミング誤差を取得することで実現しても構わない。
[各無線モジュールにおけるクロック誤差について]
本発明の実施例2および実施例3に共通の補足であるが、各無線モジュールにてA/D変換またはD/A変換を行う際のサンプリングクロックは、厳密には各無線モジュール毎に誤差を含むことになる。このクロックの誤差は、結果的に無線周波数の信号の周波数誤差となり、送信信号または受信信号の同位相合成を実現する際に、ある瞬間は同位相合成であっても時間の経過とともに同位相合成とならない状況を引き起こす可能性がある。これはいわゆる「うなり」現象に相当するものであるが、このような条件では信号の安定的な通信は厳しい。
この場合は、このクロックの周波数誤差を直接的に補償して正確なクロックで動作させることは困難であるが、一方で周波数誤差がどの程度であるかを取得することは可能であり、この測定された周波数誤差を用いて周波数誤差補償処理を実施することは可能である。
例えば、クロックの周波数誤差がΔfであったとする。式(1) で送信される信号は、仮に広帯域の周波数成分を含んでいたとしても、全ての周波数に対して固定値Δfの周波数オフセットがついた状態で観測される。すなわち、式(2) は下記の式(12)に置き換えられた信号とみなされる。
これに対し、全てのサンプリングデータ(送信時にはD/A変換前のデータ、受信時にはA/D変換後のデータ)に時刻tと共に異なる係数Exp(−2πjΔft)を乗算することで以下のように信号の周波数誤差は補償され、式(2) に相当する信号を得ることが出来る。
このような送信AFC(Automatic Frequency Control )または受信AFC処理を導入することで、前記課題2の各端末毎の周波数誤差は補償可能である。
注意点としては、送信ウエイトおよび受信ウエイトは、少なくとも1つの無線パケットを送信する間にはウエイトの値は固定値のままであり、時間と共に変動することはないが、この送受信AFCの係数は時間と共に複素位相が一定速度で回転する係数となっているので、単なる送受信ウエイトの補正という形の処理とは異なるものになっている。
[OFDMAの利用について]
以上の説明は、OFDM変調方式またはSC−FDE方式を利用した場合を中心に説明を行ってきたが、先にも説明したようにOFDMA方式はOFDM方式のMACレイヤ上での拡張を行った方式であり、物理レイヤでの処理に特徴を持つ本発明ではOFDMとOFDMAは全く等価なものとして位置づけている。ただし、注意点があるのでその点について簡単に説明しておく。
OFDM変調方式では全てのサブキャリアが同一の端末局との通信に利用されているので、その際の送受信ウエイトは共通の端末局に対するウエイトを用いていた。しかし、OFDMAでは時間軸および周波数軸上にパッチワーク状に異なる端末局への割り当てを寄せ集めているため、時間(OFDMシンボル)および周波数(サブキャリア)毎に対応する端末局に対する送受信ウエイトを用いる必要がある。しかし、その差を除けばOFDMとOFDMAは全く同様に処理することが可能であり、OFDMAにおいても全く同様に本発明を適用することができる。