JP2012219284A - 局部変形能に優れた高強度冷延鋼板とその製造方法 - Google Patents

局部変形能に優れた高強度冷延鋼板とその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】曲げ、伸びフランジ、バーリング加工などの局部変形能に優れた高強度冷延鋼板とその製造方法を提供する。
【解決手段】C:0.002〜0.20%、Si:0.001〜2.5%、Mn:0.001〜4.0%、P:0.001〜0.15%、S:0.0005〜0.03%、Al:0.001〜2.0%、N:0.0005〜0.01%、O:0.0005〜0.01%を含有し、金属組織におけるベイナイトの面積率が95%以上であり、鋼板の集合組織で少なくとも鋼板の表面から5/8〜3/8の板厚における板面の{100}<011>〜{223}<110>方位群のX線ランダム強度比の平均値が4.0未満でかつ{332}<113>の結晶方位のX線ランダム強度比が5.0以下、さらに粒単位のサイズの体積平均が7μm以下であることを特徴とする局部変形能に優れた高強度冷延鋼板。
【選択図】図6

Description

本発明は、曲げ、伸びフランジ、バーリング加工などの局部変形能に優れた高強度冷延鋼板に関するもので、自動車部品等が主たる用途である。
自動車からの炭酸ガスの排出量を抑えるために、高強度鋼板を使用して自動車車体の軽量化が進められている。また、搭乗者の安全性確保のためにも、自動車車体には軟鋼板の他に高強度鋼板が多く使用されるようになってきている。更に自動車車体の軽量化を今後進めていくためには、従来以上に高強度鋼板の使用強度レベルを高めなければならず、例えば足回り部品に高強度鋼板を用いるにはバーリング加工のための局部変形能を改善しなければならない。
しかしながら、一般的に鋼板を高強度化すれば成形性が低下し、非特許文献1のように絞り成形や張り出し成形に重要な均一伸びが低下する。これに対して非特許文献2のように、鋼板の金属組織を複合化することで同一強度でも均一伸びを確保する方法が開示されている。
一方では、曲げ成形、穴拡げ加工やバーリング加工に代表される局部延性を改善する鋼板の金属組織制御法についても開示されており、介在物制御や単一組織化すること、さらには組織間の硬度差を低減すれば、曲げ性や穴広げ加工に効果的であることが非特許文献3に開示されている。
これは、組織制御により単一組織にすることにより、穴広げ性を改善するものであるが、単一組織にするためには、非特許文献4のようにオーステナイト単相からの熱処理が製法の基本となる。さらに、延性との両立から熱間圧延後の冷却制御により金属組織制御を行い、析出物の制御および変態組織を制御することでフェライトとベイナイトの適切な分率を得る技術も非特許文献4に開示がある。
一方、熱間圧延の仕上温度、仕上圧延の圧下率及び温度範囲を制御し、オーステナイトの再結晶を促進させ、圧延集合組織の発達を抑制し、結晶方位をランダム化することにより、強度、延性、穴広げ性を向上させる手法が特許文献1に開示されている。
特開2009−263718号公報
岸田、新日鉄技報(1999)No.371,p.13 O. Matsumura et al、Trans. ISIJ(1987)vol.27,p.570 加藤ら、製鉄研究(1984)vol.312,p.41 K.Sugimoto et al、ISIJ International (2000)Vol.40,p.920
上述したように、局部変形能を劣化させる要因は組織間硬度差、非金属介在物、発達した圧延集合組織などの様々な“不均一性”である。そのうち最も影響の大きいものは、上記非特許文献3に示されている組織間硬度差とされており、その他有力な支配因子として、特許文献1で示されている発達した圧延集合組織が挙げられる。
これらの要素が複合的に絡み合い鋼板の局部変形能が決定されているため、集合組織制御による局部変形能の上昇代を最大化するためには、併せて組織制御を行い、組織間硬度差に起因する不均一性を極力排除する必要がある。
そこで本願発明では、集合組織制御と併せて、ベイナイトの面積率が95%以上の金属組織とすることで高強度鋼板の局部延性を改善し、併せて鋼板内の異方性についても改善できるような局部変形能に優れた高強度冷延鋼板とその製造方法を提供するものである。
従来の知見によれば、前述のように穴拡げ性や曲げ性などの改善は、介在物制御、析出物微細化、組織均質・単相化および組織間の硬度差の低減などによって行われていた。しかし、これだけでは、NbやTiなどが添加されている高強度鋼板では異方性への影響が懸念される。これは、他の成形性因子を犠牲にしたり、成形前のブランクの取る方向を限定してしまうなどの問題が生じてしまうこととなり、用途も限定的になってしまう。
そこで本発明者らは、穴拡げ性、曲げ加工性を向上させるために、新たに鋼板の集合組織の影響に着目して、その作用効果を詳細に調査、研究した。その結果、特定の結晶方位群の各方位の強度を制御することで、伸びや強度を大きく落とすことなく、局部変形能が飛躍的に向上することを明らかにした。強調すべき点は、その集合組織制御による局部変形能の向上代は鋼組織に大きく依存し、ベイナイトの面積率が95%以上の金属組織とすることで、鋼の強度を担保した上で、局部変形能の向上代が最大化されることをも明らかにしたことである。
加えて、特定の結晶方位群の各方位の強度を制御した組織においては粒単位のサイズが局部延性に大きく影響を及ぼすことを見出した。
一般に、低温生成相(ベイナイト、マルテンサイト等)が混在した組織において、結晶粒の定義は極めてあいまいで、定量化が困難であった。これに対し、本発明者らは、次のように測定される粒単位を用いれば定量化の問題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明でいう粒単位は、EBSP(Electron Back Scattering Pattern: 電子後方散乱パターン)による鋼板の方位の解析において、例えば、1500倍の倍率にて、0.5μm以下の測定ステップで方位測定を行い、隣りあう測定点の方位差が15°を超えた位置を粒単位の粒境界として定めるものである。そして、測定された粒単位の円相当径dを求め、個々の体積を4/3πd3で求め、体積の重み付け平均により、体積平均径を求めることができ、低温生成相が混在した組織の結晶粒を定量化して評価できるようになる。
本発明は前述の知見に基づいて構成されており、その主旨とするところは以下の通りである。
(1)質量%で、
C :0.002%以上、0.20%以下、
Si:0.001%以上、2.5%以下、
Mn:0.01%以上、4.0%以下、
P :0.001%以上、0.15%以下、
S :0.0005%以上、0.03%以下、
Al:0.001%以上、2.0%以下、
N :0.0005%以上、0.01%以下、
O :0.0005%以上、0.01%以下、
Si+Al:1.0%未満
を含有し、残部鉄および不可避的不純物からなり、
鋼板の金属組織におけるベイナイトの面積率が95%以上であり、鋼板の集合組織における、少なくとも鋼板の表面から5/8〜3/8の板厚における板面の{100}<011>〜{223}<110>方位群のX線ランダム強度比の平均値が4.0未満で、かつ{332}<113>の結晶方位のX線ランダム強度比が5.0以下であり、更に鋼板の金属組織における粒単位のサイズの体積平均が7μm以下であることを特徴とする局部変形能に優れた高強度冷延鋼板。
(2)更に、ベイナイトの粒単位のうち圧延方向の長さdLと板厚方向の長さdtの比、dL/dtが3.0以下である粒の割合が50%以上であることを特徴とする上記(1)に記載の局部変形能に優れた高強度冷延鋼板。
(3)更に、質量%で、
Ti:0.001%以上、0.20%以下、
Nb:0.001%以上、0.20%以下、
V :0.001%以上、1.0%以下、
W :0.001%以上、1.0%以下
の1種又は2種以上を含有する上記(1)または(2)に記載の局部変形能に優れた高強度冷延鋼板。
(4)更に、質量%で、
B :0.0001以上、0.0050%以下
Mo:0.001以上、1.0%以下、
Cr:0.001以上、2.0%以下、
Cu:0.001以上、2.0%以下、
Ni:0.001以上、2.0%以下、
Co:0.0001以上、1.0%以下、
Sn:0.0001以上、0.2%以下、
Zr:0.0001以上、0.2%以下、
As:0.0001以上、0.50%以下
の1種又は2種以上を含有する上記(1)〜(3)のいずれかに記載の局部変形能に優れた高強度冷延鋼板。
(5)更に、質量%で、
Mg:0.0001以上、0.010%以下、
REM:0.0001以上、0.1%以下、
Ca:0.0001以上、0.010%以下
の1種又は2種以上を含有する上記(1)〜(4)のいずれかに記載の局部変形能に優れた高強度冷延鋼板。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の高強度冷延鋼板の表面に、溶融亜鉛めっき層または、合金化溶融亜鉛めっき層を備えることを特徴とする局部変形能に優れた高強度冷延鋼板。
(7)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の高強度冷延鋼板を製造するに当たり、
所定の鋼板成分に溶製したのち、鋼塊またはスラブに鋳造して、それに粗圧延にて1000℃以上、1200℃以下の温度域で20%以上の圧下を少なくとも1回以上行い、オーステナイト粒径を200μm以下とし、その後、仕上圧延において(式1)にある鋼板成分により決定される温度をT1℃とすると、T1+30℃以上、T1+200℃以下の温度範囲における圧下率の合計を50%以上とし、その後のT1℃以上、T1+30℃未満の温度範囲における圧下率の合計を30%以下とした後、Ar3変態温度以上で熱間圧延を終了し、圧下の最終パス後のT1℃以上、T1+30℃以下の温度域での停留時間t(秒)が、(式2)を満たした後、冷却を行い、つづいて、酸洗し、冷間にて30%以上、70%以下の圧延を行い、その後、Ae3〜950℃の温度域で1〜300秒間の焼鈍をした後、Ae3〜500℃の温度域における平均冷却速度を10℃/s以上、200℃/s以下とし、さらに、350℃以上、500℃以下の過時効熱処理温度にて(式4)を満たすt2秒間以上保持することを特徴とする局部変形能に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。ただし、t2の最大値は400秒とする。
T1(℃)=850+10×(C+N)×Mn+350×Nb+250×Ti+40×B+10×Cr+100×Mo+100×V
・・・(式1)
t<t1 ・・・(式2)
ここで、t1は(式3)で表される。
t1=0.001((Tf−T1)×P1)2−0.109((Tf−T1)×P1)+3.1 ・・・(式3)
ここで、TfおよびP1は、それぞれ、T1+30℃以上、T1+200℃以下の温度範囲における最終圧下時の温度と圧下率である。
log(t2)=0.0002(T2−425)+1.18 ・・・(式4)
ここで、T2は過時効処理温度である。
(8)上記(7)に記載の製造方法において、T1+30℃以上、T1+200℃以下の温度範囲における圧延の最終パスの圧延率は25%以上であることを特徴とする局部変形能に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
(9)上記(7)または(8)に記載の製造方法で、Ar3変態温度以上で熱間圧延を終了した後、前記(式2)で示されるt秒以内に冷却温度変化が40℃以上、150℃以下で冷却速度が50℃/s以上となる直後急冷を開始することを特徴とする局部変形能に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
(10)上記(7)〜(9)のいずれかに記載の製造方法によって製造された冷延鋼板の表面に、溶融亜鉛めっき層または、合金化溶融亜鉛めっき層を形成することを特徴とする局部変形能に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
なお、粒単位は、EBSP(Electron Back Scattering Pattern)による鋼板の方位の解析において、隣りあう測定点の方位差が一定の角度を超えた位置を粒単位の粒境界として定めるものである。
本発明によれば、鋼板の集合組織と鋼組織を制御することで、曲げ、伸びフランジ、バーリング加工などの局部変形能に優れた高強度冷延鋼板を得るものである。
{100}<011>〜{223}<110>方位群のX線ランダム強度比の平均値と板厚/最小曲げ半径の関係を示す。 {332}<113>方位群のX線ランダム強度比と板厚/最小曲げ半径の関係を示す。 粗圧延における40%以上の圧延回数と粗圧延のオーステナイト粒径の関係を示す。 T1+30〜T1+200℃の圧下率と{100}<011>〜{223}<110>方位群のX線ランダム強度比の平均値の関係を示す。 T1+30〜T1+200℃の圧下率と{332}<113>の結晶方位のX線ランダム強度比の関係を示す。 本発明鋼と比較鋼の強度と穴拡げ性の関係を示す。 本発明鋼と比較鋼の強度と曲げ性の関係を示す。
以下に本発明の内容を詳細に説明する。
まず、冷延鋼板の表面から5/8〜3/8の板厚における板面のX線ランダム強度比について述べる。
本発明の冷延鋼板において、鋼板の表面から5/8〜3/8の板厚における板面の{100}<011>〜{223}<110>方位群のX線ランダム強度比の平均値、及び{332}<113>の結晶方位のX線ランダム強度比は、特に重要な特性値である。
図1のように鋼板の表面から5/8〜3/8板厚における板面のX線回折を行い、ランダム試料に対する各方位の強度比を求めたときの、{100}<011>〜{223}<110>方位群の平均値が4.0未満で、直近要求される骨格部品の加工に必要な板厚/曲げ半径≧1.5を満たすことができる。加えて、鋼組織が請求項1の要件、つまりはベイナイト分率95%以上を満たす場合、板厚/曲げ半径≧2.5を満たす。穴拡げ性や小さな限界曲げ特性を必要とする場合には{100}<011>〜{223}<110>方位群の平均値は、3.0未満が望ましい。
この値が4.0以上では鋼板の機械的特性の異方性が極めて強くなり、ひいてはある方向のみの局部変形能を改善するもののそれとは異なる方向での材質が著しく劣化し板厚/曲げ半径≧1.5を満足できなくなる。一方、現行の一般的な連続熱延工程では実現が難しいが、0.5未満になると局部変形能の劣化が懸念される。
この方位群に含まれる主な方位は、{100}<011>、{116}<110>、{114}<110>、{113}<110>、{112}<110>、{335}<110>および{223}<110>である。
これら各方位のX線ランダム強度比はX線回折やEBSD(Electron Back Scattering Diffraction:電子後方散乱回折法)などの装置を用いて測定する。{110}極点図に基づきベクトル法により計算した3次元集合組織や{110}、{100}、{211}、{310}極点図のうち複数の極点図(好ましくは3つ以上)を用いて級数展開法で計算した3次元集合組織から求めればよい。
たとえば、後者の方法における上記各結晶方位のX線ランダム強度比には、3次元集合組織のφ=45゜断面における(001)[1-10]、(116) [1-10]、(114) [1-10]、(113) [1-10]、(112) [1-10]、(335) [1-10]、(223) [1-10]の強度をそのまま用いればよい。
{100}<011>〜{223}<110>方位群の平均値とは、上記の各方位の相加平均である。上記の全ての方位の強度を得ることができない場合には、{100}<011>、{116}<110>、{114}<110>、{112}<110>、{223}<110>の各方位の相加平均で代替してもよい。(「マイナス1」を表すアッパーバー付きの1は「−1」で表記した。)
さらに同様な理由から、鋼板の表面から5/8〜3/8板厚における板面の{332}<113>の結晶方位のX線ランダム強度比は図2のように5.0以下でなくてはならない。望ましくは3.0以下であれば、直近要求される骨格部品の加工に必要な板厚/曲げ半径≧1.5を満たす。加えて、鋼組織が請求項1の要件、つまりはベイナイト分率95%以上を満たす場合、板厚/曲げ半径≧2.5を満たす。一方、{332}<113>の結晶方位のX線ランダム強度比が5.0超であると、鋼板の機械的特性の異方性が極めて強くなり、ひいてはある方向のみの局部変形能を改善するもののそれとは異なる方向での材質が著しく劣化し、板厚/曲げ半径≧1.5を確実に満足できなくなる。一方、現行の一般的な連続熱延工程では実現が難しいが、0.5未満になると局部変形能の劣化が懸念される。
以上述べた結晶方位のX線強度が曲げ加工時の形状凍結性に対して重要であることの理由は必ずしも明らかではないが、曲げ変形時の結晶のすべり挙動と関係があるものと推測される。
X線回折に供する試料は、機械研磨などによって鋼板を所定の板厚まで表面より減厚し、次いで、化学研磨や電解研磨などによって歪みを除去すると同時に板厚の3/8〜5/8の範囲で適当な面が測定面となるように上述の方法に従って試料を調整して測定すればよい。
当然のことであるが、上述のX線強度の限定が板厚1/2近傍だけでなく、なるべく多くの厚みについて満たされることで、より一層局延性能が良好になる。
しかしながら, 鋼板の表面から3/8〜5/8の測定を行うことで概ね鋼板全体の材質特性を代表することができるためこれを規定するものとする。なお、{hkl}<uvw>で表される結晶方位とは、板面の法線方向が<hkl>に平行で、圧延方向が<uvw>と平行であることを示している。
続いて、鋼板の粒単位について述べる。
本発明者らは、冷延鋼板における集合組織制御を鋭意検討した結果、その集合組織が上記のように制御された条件では粒単位が、局部延性に及ぼす影響が極めて大きく、これを微細化することで局部延性の飛躍的な向上が得られることがわかった。
その理由は明らかではないが、熱延鋼帯の集合組織のランダム化、粒単位の微細化はミクロオーダーで生じる局部的な歪集中を抑制し、変形の均質化が高まることでミクロ的な局部歪集中を抑え、歪をミクロオーダーにおいても均一に分散できるためと考えている。
このとき、粒単位の寄与については個数が少量であっても粒単位の大きなものが多い程、局部延性の劣化は大きくなる。このため、粒単位のサイズは通常のサイズ平均ではなく、体積の重み付け平均で定義される体積平均したときに局部延性と強い相間が得られる。この効果を得るためには、粒単位のサイズの体積平均は7μm以下であること必要である。より、穴拡げ性を高いレベルで確保するためには、5μm以下が望ましい。
なお、粒単位の測定方法については、前述のとおりとする。
本発明者らは、更に局部延性を追求した結果、上記の集合組織、粒単位を満たした上で、粒単位が等軸性に優れたときに、局部延性が向上することも見出した。この等軸性を表す指標としては、粒単位で表される粒において、その粒の冷間圧延方向の長さdLと板厚方向の長さdtの比、dL/dtが3.0以下の等軸性に優れた粒の割合が全ベイナイト粒のうち、少なくとも50%以上必要である。50%未満では局部延性が劣化する。
続いて、成分の限定条件について述べる。なお、含有量の%は質量%である。
Cは鋼組織の95%以上をベイナイトとするために下限を0.02%とする。また、Cは強度を増加させる元素であるので、強度確保のためには0.025%以上とすることが好ましい。一方で、C量が0.20%を超えると溶接性を損なうことがあったり、硬質組織の増加により加工性が極端に劣化することあったりするため、上限を0.20%とする。また、C量が0.10%を超えると成形性が劣化するため、C量を0.10%以下とすることが好ましい。
Siは鋼板の機械的強度を高めるのに有効な元素であるが、2.5%超となると加工性が劣化したり、表面疵が発生したりするので、これを上限とする。また、Si量が多いと化成処理性が低下するので、1.20%以下とすることが好ましい。一方、実用鋼でSiを0.001%未満とするのは困難であるので、これを下限とする。
Mnも鋼板の機械的強度を高めるのに有効な元素であるが、4.0%超となると加工性が劣化するので、これを上限とする。一方、実用鋼でMnを0.01%未満とするのは困難であるので、これを下限とする。また、Mn以外に、Sによる熱間割れの発生を抑制するTiなどの元素が十分に添加されない場合には、質量%でMn/S≧20となるMn量を添加することが望ましい。さらに、Mnは、その含有量の増加に伴いオーステナイト域温度を低温側に拡大させて焼入れ性を向上させ、バーリング性に優れる連続冷却変態組織の形成を容易にする元素である。この効果は、Mn含有量が、1%未満では発揮しにくいので、1%以上添加することが望ましい。
PとSの上限はそれぞれPが0.15%以下、Sが0.03%以下とする。これは、加工性の劣化や熱間圧延または冷間圧延時の割れを防ぐためである。下限は、P、Sとも現行の一般的な精錬(二次精錬を含む)で可能な値として、Pでは0.001%、Sでは0.0005%とした。
Alは脱酸のために0.001%以上添加する。脱酸が十分に必要な場合は、0.01%以上の添加が好ましい。また、Alはγ→α変態点を顕著に上昇させる元素でもある。しかし、多すぎると溶接性が劣悪となるため、上限を2.0%とする。好ましくは、1.0%以下とする。
NとOは不純物であり、加工性を悪くさせないように、ともに0.01%以下とする。下限は、両元素とも現行の一般的な精錬(二次精錬を含む)で可能な0.0005%とした。ただし、極端な製鋼コストの上昇を抑えるためには0.001%以上とすることが好ましい。
SiおよびAlが過剰に含まれると過時効処理中のセメンタイト析出が抑制され、残留オーステナイト分率が大きく成り過ぎてしまうため、SiとAlの合計添加量は1%未満とする。
更に、析出強化によって強度を得る場合、微細な炭窒化物を生成させることがよい。析出強化を得るためには、Ti、Nb、V、Wの添加が有効であり、これらの1種または2種以上を含有しても構わない。
Ti、Nb、V、Wの添加でこの効果を得るためには、Tiは0.001%、Nbは0.001%、Vは0.001%以上、Wは0.001%以上の添加が必要である。析出強化が特に必要である場合は、Tiを0.01%以上、Nbを0.005%以上、Vを0.01%以上、Wを0.01%以上添加することが望ましい。ただし過度な添加でも強度上昇は飽和してしまうこと、加えて、熱延後の再結晶を抑制することで、冷延焼鈍後の結晶方位制御を困難にすることから、Tiで0.20%以下、Nbで0.20%以下、Vで1.0%以下、Wで1.0%以下とする必要がある。
組織の焼き入れ性を上昇させ第二相制御を行うことで強度を確保する場合、B、Mo、Cr、Cu、Ni、Co、Sn、Zr、Asの1種または2種以上の添加が有効である。この効果を得るためには、Bは0.0001%以上、Mo、Cr、Cu、Niは0.001%以上、Co、Sn、Zr、Asは0.0001%以上を添加する必要がある。しかし、過度の添加は逆に加工性を劣化させるので、Bの上限を0.0050%、Moの上限を1.00%、Cr、Cu、Niの上限を2.0%、Coの上限を1.0%、Sn、Zrの上限を0.2%、Asを0.50%とする。
局部成形能を向上のため、Mg、REM、Caは介在物を無害化するため重要な添加元素である。この効果を得るためのそれぞれの下限を0.0001%とした。一方、過剰添加は清浄度の悪化につながるためMgで0.010%、REMで0.1%、Caで0.010%を上限とした。
なお、本発明の高強度冷延鋼板に表面処理してもその局部変形能改善効果を失うものでなく、電気めっき、溶融めっき、蒸着めっき、有機皮膜形成、フィルムラミネート、有機塩類/無機塩類処理、ノンクロ処理等の何れでも本発明の効果が得られる。
次に、本発明の冷延鋼板の金属組織について説明する。
本発明の冷延鋼板の金属組織は、ベイナイトの面積率が95%以上であり、好ましくはベイナイト単相である。これは、金属組織を、ベイナイトとすることにより、強度と穴広げ性の両立が可能になるためである。更に、この組織は比較的高温での変態によって生成するため、製造する際に低温まで冷却する必要がなくなり、材質安定性、生産性の観点でも好ましい組織である。
残部として、5%以下の初析フェライト、パーライト、マルテンサイト、残留オーステナイトは許容される。初析フェライトは、十分に析出強化されていれば問題ないが、成分によっては軟質になることがあり、面積率が5%超になると、ベイナイトとの硬度差により、穴広げ性が若干低下する。また、パーライトは、面積率が5%超になると、強度、加工性を損なうことがある。マルテンサイトや、加工誘起変態してマルテンサイトになる残留オーステナイトの面積率がそれぞれ1%以上、5%超になると、ベイナイトと、ベイナイトよりも硬質な組織との界面が割れ発生の起点になり、穴広げ性が劣化する。
したがって、ベイナイトの面積率を95%以上にすれば、残部の初析フェライト、パーライト、マルテンサイト、残留γの面積率は5%以下になるので、強度と穴広げ性のバランスが良好になる。ただし、上記の通りマルテンサイトは1%未満とする必要がある。
ここで、本発明おけるベイナイトとは、日本鉄鋼協会基礎研究会ベイナイト調査研究部会/編;低炭素鋼のベイナイト組織と変態挙動に関する最近の研究−ベイナイト調査研究部会最終報告書−(1994年 日本鉄鋼協会)に記載されているように拡散的機構により生成するポリゴナルフェライトやパーライトを含むミクロ組織と無拡散でせん断的機構により生成するマルテンサイトとの中間段階にある連続冷却変態組織(Zw)と定義されるミクロ組織をいう。
すなわち、連続冷却変態組織(Zw)とは、光学顕微鏡観察組織として上記参考文献125〜127項にあるように、主にBainitic ferrite(α°)と、Granular bainitic ferrite(α)と、Quasi-polygonal ferrite(α)とから構成され、さらに少量の残留オーステナイト(γ)と、Martensite-austenite(MA)とを含むミクロ組織であると定義される。
なお、αとは、ポリゴナルフェライト(PF)と同様にエッチングにより内部構造が現出しないが、形状がアシュキュラーでありPFとは明確に区別される。ここでは、対象とする結晶粒の周囲長さlq、その円相当径をdqとするとそれらの比(lq/dq)がlq/dq≧3.5を満たす粒がαである。
本発明における連続冷却変態組織(Zw)とは、このうちα°、α、α、γ、MAのうちいずれか一種又は二種以上を含むミクロ組織と定義される。なお、少量のγ、MAはその合計量を3%以下とする。
この連続冷却変態組織(Zw)は、ナイタール試薬を用いたエッチングでの光学顕微鏡観察では判別しにくい場合がある。その場合は、EBSP−OIMTMを用いて判別する。
EBSP−OIM(Electron Back Scatter Diffraction Pattern−Orientation Image Microscopy登録商標)法とは、走査型電子顕微鏡SEM(Scaninng Electron Microscope)内で高傾斜した試料に電子線を照射し、後方散乱して形成された菊池パターンを高感度カメラで撮影し、コンピュータ画像処理する事により照射点の結晶方位を短時間で測定する装置及びソフトウエアで構成されている。
EBSP法では、バルク試料表面の微細構造並びに結晶方位の定量的解析ができ、分析エリアは、SEMの分解能にもよるが、SEMで観察できる領域内であれば最小20nmの分解能まで分析できる。EBSP−OIM法による解析は、数時間かけて、分析したい領域を等間隔のグリッド状に数万点マッピングして行う。多結晶材料では、試料内の結晶方位分布や結晶粒の大きさを見ることができる。本発明おいては、その各パケットの方位差を15°としてマッピングした画像より判別が可能なものを連続冷却変態組織(Zw)と便宜的に定義しても良い。
また、初析フェライトの組織分率は、EBSP−OIMに装備されているKAM(Kernel Average Misorientation)法にて求めた。
KAM法は測定データのうちのある正六角形のピクセルの隣り合う6個(第一近似)もしくはさらにその外側12(第二近似)、さらにはさらにその外側の18個(第三近似)のピクセル間の方位差の平均し、その値をその中心のピクセルの値とする計算を各ピクセルに行う。
粒界を越えないようにこの計算を実施することで粒内の方位変化を表現するマップを作成できる。すなわち、このマップは粒内の局所的な方位変化に基づくひずみの分布を表している。なお、本発明において解析条件はEBSP−OIMにおいて隣接するピクセル間の方位差を計算する条件は第三近似として、この方位差が5°以下となるものを表示させた。である。
本発明においてここで初析フェライトとは、上記の方位差第三近似1°以下と算出されたピクセルの面性分率までのミクロ組織と定義した。
これは、高温で変態したポリゴナルな初析フェライトは拡散変態で生成するので、転位密度が小さく、粒内の歪みが少ないため、結晶方位の粒内差が小さく、これまで発明者らが実施してきた様々な調査結果より、光学顕微鏡観察で得られるポリゴナルなフェライト体積分率とKAM法にて測定した方位差第三近似1°で得られるエリアの面積分率がほぼ良い一致を得たためである。
次に本発明の冷延鋼板の製造方法について述べる。
優れた局部変形能を実現するためには、X線ランダム強度比をもつ集合組織を形成させることおよび粒単位の微細化、等軸粒化、均質化の条件を満たした鋼板とすることが重要で、これらを同時に満たすための製造条件の詳細を以下に記す。
熱間圧延に先行する製造方法は特に限定するものではない。すなわち、高炉や電炉等による溶製に引き続き各種の2次製錬を行い、次いで、通常の連続鋳造、インゴット法による鋳造の他、薄スラブ鋳造などの方法で鋳造すればよい。連続鋳造の場合には一度低温まで冷却したのち、再度加熱してから熱間圧延しても良いし、鋳造スラブを連続的に熱延しても良い。原料にはスクラップを使用しても構わない。
また、熱間圧延においては粗圧延後にシートバーを接合し、連続的に仕上げ圧延をしても良い。その際に粗バーを一旦コイル状に巻き、必要に応じて保温機能を有するカバーに格納し、再度巻き戻してから接合を行っても良い。
本発明の局部変形能に優れた高強度鋼板は、以下の要件を満たす場合に得られる。
まず、粗圧延後すなわち仕上げ圧延前のオーステナイト粒径が重要で、仕上げ圧延前のオーステナイト粒径が小さいことが望ましく、200μm以下であれば粒単位の微細化及び主相の均質化に大きく寄与することが判明した。
この200μm以下の仕上げ圧延前のオーステナイト粒径を得るためには、図3のように1000℃以上1200℃以下の温度域での粗圧延で少なくとも20%以上の圧下率で1回以上圧延すれば所定のオーステナイト粒径が得られることも判明した。但し、より均質性を高め、局部延性を高めるためには、1000℃以上、1200℃以下の温度域での粗圧延率で少なくとも40%以上の圧延率で1回以上圧延する必要がある。
圧下率およびその圧下の回数は大きいほど、細粒を得ることができ、この効果をより効率的に得るためには、100μm以下のオーステナイト粒径にすることが望ましく、このためには、40%以上の圧延は2回以上行うことが望ましい。ただし、70%を超える圧下や10回を超える粗圧延は温度の低下やスケールの過剰生成の懸念がある。
このように、仕上げ圧延前のオーステナイト粒径を小さくすることが、後々の仕上げ圧延でのオーステナイトの再結晶促進、最終組織の粒単位の微細、等軸化の制御を通した局部変形能の改善に有効である。
これは、仕上げ圧延中の再結晶核の1つとして粗圧延後の(すなわち仕上げ圧延前の)オーステナイト粒界が機能することによると推測される。
粗圧延後のオーステナイト粒径を確認するためには、仕上げ圧延に入る前の板片を可能な限り急冷することが望ましく、10℃/s以上の冷却速度で板片を冷却して、板片断面の組織をエッチングしてオーステナイト粒界を浮き立たせて光学顕微鏡にて測定する。この際、50倍以上の倍率にて20視野以上を、画像解析やポイントカウント法にて測定する。
また鋼板の表面から5/8〜3/8の板厚における板面の{100}<011>〜{223}<110>方位群のX線ランダム強度比の平均値、及び{332}<113>の結晶方位のX線ランダム強度比を前述の値の範囲とするには、粗圧延後の仕上げ圧延で鋼板成分によって決められるT1温度
T1(℃)=850+10×(C+N)×Mn+350×Nb+250×Ti+40×B+10×Cr+100×Mo
+100×V ・・・(式1)
を基準に、T1+30℃以上、T1+200℃以下の温度域における圧下率の合計を50%以上とすることが必要であり、続けて、T1以上T1+30℃未満での圧下率を極力抑えることにより、最終製品の局部変形能を確保することができる。図4〜図5に各温度域での圧下率と各方位のX線ランダム強度比の関係を示す。
すなわち、図4と図5に示すように、T1+30℃以上、T1+200℃以下の温度域における大圧下と、その後のT1以上、T1+30℃未満での軽圧下は、後述の実施例の表2、3に見られるように鋼板の表面から5/8〜3/8の板厚における板面の{100}<011>〜{223}<110>方位群のX線ランダム強度比の平均値、{332}<113>の結晶方位のX線ランダム強度比を制御して最終製品の局部変形能を飛躍的に改善する。
このT1温度自体は経験的に求めたものである。T1温度を基準として、各鋼のオーステナイト域での再結晶が促進されることを発明者らは実験により経験的に知見した。さらに良好な局部変形能を得るためには、大圧下による歪を蓄積することが重要で、圧下率の合計として50%以上は必須である。さらには、70%以上の圧下を取ることが望ましく、一方で90%を超える圧下率をとることは温度確保や過大な圧延付加を加えることとなる。
更に、熱延板の均質性を高め、局部延性を極限まで高めるためには、T1+30℃以上T1+200℃以下の温度域での圧延のうち、最終パスの圧延率は25%以上である必要がある。但し、より高い加工性が要求される場合は最終の2パスを25%以上とする必要がある。
さらに、蓄積した歪の開放による均一な再結晶を促すため、T1+30℃以上、T1+200℃以下での大圧下の後、T1℃以上、T1+30℃未満の温度域での加工量をなるべく少なく抑えることが必要で、T1℃以上、T1+30℃未満での圧下率で30%以下とし、板形状からは10%以上の圧下率がのぞましいが、より局部変形能を重視する場合には圧下率は0%が望ましい。また、T1℃以上、T1+30℃未満での圧下率が大きいとせっかく再結晶したオーステナイト粒が展伸してしまい、停留時間が短いと再結晶が十分に進まず局部変形能を劣化させてしまう。すなわち、本願発明の製造条件においては、仕上げ圧延においてオーステナイトを均一・微細に再結晶させることで製品の集合組織を制御して穴拡げ性や曲げ性と言った局部変形能を改善する方法である。
前述の規定した温度域よりも低温で圧延が行われたり大きな圧下率を取ってしまうと、オーステナイトの集合組織が発達し、最終的に得られる鋼板の板面に、[課題を解決するための手段]の(1)で述べた所定のX線強度レベルの各結晶方位が得られない。
一方、前述の規定した温度域よりも高温で圧延が行われたり小さい圧下率を取ってしまったりすると、粗粒化や混粒となり、20μmを超える結晶粒の面積率が増大する。
上述の規定した圧延が行われているか否は、圧延率は圧延荷重、板厚測定などから実績または計算により求めることができるし、温度についてもスタンド間温度計があれば実測可能で、またはラインスピードや圧下率などから加工発熱を考慮した計算シミュレーション、或いはその両方によって得ることができる。
以上のように行われる熱間圧延はAr以上の温度で終了する。熱間圧延をAr以下で終了するとオーステナイトとフェライトに2相域圧延になってしまい{100}<011>〜{223}<110>方位群への集積が強くなり、結果として局部変形能が著しく劣化する。
更に、粒単位を微細化し、伸展粒を抑制するためには、T1+30℃以上T1+200℃以下での圧下時の最大加工発熱量、即ち圧下による温度上昇代(℃)を18℃以下に抑えることが望ましく、スタンド間冷却などの使用が望ましい。
T1+30℃以上、T1+200℃未満の温度範囲における圧延の最後の圧延スタンドで圧下後の冷却は、オーステナイトの粒径に大きな影響を与え、これが冷延焼鈍後の組織の等軸粒分率、粗大粒分率に強く影響を与える。
T1+30℃以上、T1+200℃未満の温度範囲における圧下の最終パスから冷却開始までの時間t(秒)が、5秒以下であることが望ましい。5秒以上ではオーステナイト粒が粗大化して強度と局部延性が低下する。更に、冷却開始までの時間は、最終圧下の実施温度Tfと圧延率P1に対して、(式2)を満たす必要がある。時間tがt1以上になると、粗粒化が進み局部延性が著しく低下する。
t<t1 ・・・(式2)
ここで、t1は下記の(式3)で求めることのできる数値である。
t1=0.001((Tf−T1)×P1)2−0.109((Tf−T1)×P1)+3.1 ・・・(式3)
再結晶後の粒成長を極力抑制するため、(式2)で定義されるt秒以内に開始される直後急冷の温度変化は40℃以上、150℃以下とする。直後急冷後の冷却については特に規定はせず、それぞれの目的にあった組織制御を行うための冷却パターンをとっても本発明の効果は得られる。
上記のようにして製造した熱延原板を冷間にて30%以上70%以下の圧延を行う。圧下率が30%以下では、その後の焼鈍工程で再結晶を起こすことが困難となり、等軸粒分率が低下する上、焼鈍後の粒が粗大化してしまう。70%を超える圧延では、焼鈍時の集合組織の発達させるため、異方性が強くなってしまう。このため、70%以下とする。
冷間圧延された鋼板は、その後、オーステナイト単相鋼若しくはほぼオーステナイト単相鋼とするためAe3~950℃の温度域に1〜300秒間保持される。これより低温もしくは短時間では、その後の冷却工程でベイナイト組織の分率が95%以上とならず、集合組織制御による局部延性の上昇代が低下する。一方、950℃を超えたり、300秒を超える保持が続くと、結晶粒が粗大化してしまうため、20μm以下の粒の面積率が増大する。なお、Ae[℃]は、C、Mn、Si、Cu、Ni、Cr、Moの含有量[質量%]によって、以下の(式5)によって計算される。なお、選択元素を含有しない場合は、0として計算する。
Ae=911−239C−36Mn+40Si−28Cu−20Ni−12Cr+63Mo ・・・(式5)
その後、Ae3から500℃間の温度域における平均冷却速度が10℃/s以上、200℃/s以下となるよう500℃以下の温度まで一次冷却する。
一次冷却速度が、10℃/s未満では、フェライトが過剰に生じてしまいベイナイト組織の分率を95%以上とすることが出来ないため、集合組織制御による局部延性の上昇代が低下する。一方、200℃/sを超える冷却速度としても、冷却終点温度の制御性が著しく劣化するため200℃/s以下とする。好ましくは、フェライト変態とパーライト変態を確実に抑制するため、HF〜0.5HF+250℃における平均冷却速度は、0.5HF+250℃~500℃における平均冷却速度を超えないものとする。
ベイナイト変態を促進させるため、一次冷却に続けて350℃〜500℃の温度範囲で過時効熱処理を行う。この温度範囲で保持する時間は、過時効処理温度T2に応じて下記の(式4)を満たすt2秒間以上とする。ただし、(式4)の適用可能温度範囲を考慮し、t2の最大値は400秒とする。
Log(t2)=0.0002(T2−425)+1.18 ・・・(式4)
なお、本発明において、保持とは等温保持のみさすのではなく、500〜350℃の温度域で滞留させることを意味する。即ち、一旦、350℃に冷却した後、500℃まで加熱しても良いし、500℃に冷却後350℃まで冷却しても良い。
なお、本発明に係る鋼板は張り出し成形と、曲げ、張り出し、絞り等、曲げ加工を主体とする複合成形にも適用できる。
本発明の実施例を挙げながら、本発明の技術的内容について説明する。
実施例として、表1に示した成分組成を有する、AからTまでの本発明の請求項の成分を満たす鋼及びaからiの比較鋼を用いて検討した結果について説明する。
これらの鋼は、鋳造後、そのままもしくは一旦室温まで冷却された後に再加熱し、1000℃〜1300℃の温度範囲に加熱され、その後、表2の条件で熱間圧延が施され、Ar3変態温度以上で熱間圧延を終了し、表2に示す条件で冷却して2〜5mm厚の熱延鋼板とした後、酸洗し、冷延した後、1.2〜2.3mm厚に冷間圧延を施し、表2に示す焼鈍条件にて焼鈍を施した後、0.5%のスキンパス圧延を行い、材質評価に供した。
表1に各鋼の化学成分を、表2に各製造条件を示す。また、表3にそれぞれの組織構成と機械的特性を示す。
局部変形能の指標として穴拡げ率および60°V字曲げによる限界曲げ半径を用いた。曲げ試験はC方向曲げとした。なお、引っ張り試験および曲げ試験はJIS Z 2241およびZ 2248(Vブロック90°曲げ試験)に、穴拡げ試験は鉄連規格JFS T1001にそれぞれ準拠した。X線ランダム強度比は前述のEBSPを用いて圧延方向に平行な断面の3/8〜5/の領域を0.5μmピッチで測定した。表3において、Bはベイナイト、Pはパーライト、Fは初析フェライト、Mはマルテンサイト、rAは残留オーステナイトを意味する。
本発明の規定を満たすもののみが、図6、7に示すように優れた穴拡げ性と、曲げ性を併せ持つことができることがわかる。
Figure 2012219284
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Figure 2012219284
Figure 2012219284

Claims (10)

  1. 質量%で、
    C :0.02%以上、0.20%以下、
    Si:0.001%以上、2.5%以下、
    Mn:0.01%以上、4.0%以下、
    P :0.001%以上、0.15%以下、
    S :0.0005%以上、0.03%以下、
    Al:0.001%以上、2.0%以下、
    N :0.0005%以上、0.01%以下、
    O :0.0005%以上、0.01%以下、
    Si+Al:1.0%未満
    を含有し、残部鉄および不可避的不純物からなり、
    鋼板の金属組織におけるベイナイトの面積率が95%以上であり、
    鋼板の集合組織における、少なくとも鋼板の表面から5/8〜3/8の板厚における板面の{100}<011>〜{223}<110>方位群のX線ランダム強度比の平均値が4.0未満で、かつ{332}<113>の結晶方位のX線ランダム強度比が5.0以下であり、
    更に鋼板の金属組織における粒単位のサイズの体積平均が7μm以下であることを特徴とする局部変形能に優れた高強度冷延鋼板。
  2. 更に、ベイナイトの粒単位のうち圧延方向の長さdLと板厚方向の長さdtの比、dL/dtが3.0以下である粒の割合が50%以上であることを特徴とする請求項1に記載の局部変形能に優れた高強度冷延鋼板。
  3. 更に、質量%で、
    Ti:0.001%以上、0.20%以下、
    Nb:0.001%以上、0.20%以下、
    V :0.001%以上、1.0%以下、
    W :0.001%以上、1.0%以下
    の1種又は2種以上を含有する請求項1又は2に記載の局部変形能に優れた高強度冷延鋼板。
  4. 更に、質量%で、
    B :0.0001以上、0.0050%以下
    Mo:0.001以上、1.0%以下、
    Cr:0.001以上、2.0%以下、
    Cu:0.001以上、2.0%以下、
    Ni:0.001以上、2.0%以下、
    Co:0.0001以上、1.0%以下、
    Sn:0.0001以上、0.2%以下、
    Zr:0.0001以上、0.2%以下、
    As:0.0001以上、0.50%以下
    の1種又は2種以上を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の局部変形能に優れた高強度冷延鋼板。
  5. 更に、質量%で、
    Mg:0.0001以上、0.010%以下、
    REM:0.0001以上、0.1%以下、
    Ca:0.0001以上、0.010%以下
    の1種又は2種以上を含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の局部変形能に優れた高強度冷延鋼板。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の高強度冷延鋼板の表面に、溶融亜鉛めっき層または、合金化溶融亜鉛めっき層を備えることを特徴とする局部変形能に優れた高強度冷延鋼板。
  7. 請求項1〜5の何れか1項に記載の高強度冷延鋼板を製造するに当たり、
    所定の鋼板成分に溶製したのち、鋼塊またはスラブに鋳造して、それに粗圧延にて1000℃以上、1200℃以下の温度域で20%以上の圧下を少なくとも1回以上行い、オーステナイト粒径を200μm以下とし、
    その後、仕上圧延において(式1)にある鋼板成分により決定される温度をT1℃とすると、T1+30℃以上、T1+200℃以下の温度範囲における圧下率の合計を50%以上とし、その後のT1℃以上、T1+30℃未満の温度範囲における圧下率の合計を30%以下とした後、Ar3変態温度以上で熱間圧延を終了し、圧下の最終パス後のT1℃以上、T1+30℃以下の温度域での停留時間t(秒)が、(式2)を満たした後、冷却を行い、
    つづいて、酸洗し、冷間にて30%以上、70%以下の圧延を行い、その後、Ae3〜950℃の温度域で1〜300秒間の焼鈍をした後、Ae3〜500℃の温度域における平均冷却速度を10℃/s以上、200℃/s以下とし、さらに、350℃以上、500℃以下の過時効熱処理温度にて、(式4)を満たすt2秒以上400秒以下保持することを特徴とする局部変形能に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。ただし、t2の最大値は400秒とする。
    T1(℃)=850+10×(C+N)×Mn+350×Nb+250×Ti+40×B+10×Cr+100×Mo+100×V
    ・・・(式1)
    t<t1 ・・・(式2)
    ここで、t1は(式3)で表される。
    t1=0.001((Tf−T1)×P1)2−0.109((Tf−T1)×P1)+3.1 ・・・(式3)
    ここで、TfおよびP1は、それぞれ、T1+30℃以上、T1+200℃以下の温度範囲における最終圧下時の温度と圧下率である。
    log(t2)=0.0002(T2−425)+1.18 ・・・(式4)
    ここで、T2は過時効処理温度であり、t2の最大値は400とする。
  8. 請求項7に記載の製造方法において、T1+30℃以上、T1+200℃以下の温度範囲における圧延の最終パスの圧延率は25%以上であることを特徴とする局部変形能に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
  9. 請求項7または8に記載の製造方法で、Ar3変態温度以上で熱間圧延を終了した後、前記(式2)で示されるt秒以内に冷却温度変化が40℃以上、150℃以下で冷却速度が50℃/s以上となる直後急冷を開始することを特徴とする局部変形能に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
  10. 請求項7〜9のいずれか1項に記載の製造方法によって製造された冷延鋼板の表面に、溶融亜鉛めっき層または、合金化溶融亜鉛めっき層を形成することを特徴とする局部変形能に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
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