JP2012195405A - 酸化亜鉛を主成分とする透明導電膜を用いた太陽電池用透明導電性基板、その製造方法、およびこれに用いるターゲット - Google Patents

酸化亜鉛を主成分とする透明導電膜を用いた太陽電池用透明導電性基板、その製造方法、およびこれに用いるターゲット Download PDF

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Abstract

【課題】高い光電変換効率を得るためのダブルテクスチャー構造を有する酸化亜鉛を主成分とする透明導電膜を用いた太陽電池用透明導電性基板、その製造方法、およびこれに用いるターゲットを提供する。
【解決手段】本発明の太陽電池用透明導電性基板は、表面に凹凸(A)を形成した透明基板と、この透明基板の凹凸上に成膜され酸化亜鉛を主成分とした透明導電膜とを備え、この透明導電膜が表面に前記凹凸(A)より小さな凹凸(B)を有する。
【選択図】なし

Description

本発明は、高い光電変換効率を有する薄膜太陽電池の製造に用いられる、2種類の凹凸からなるダブルテクスチャー構造を有し、酸化亜鉛を主成分とする透明導電膜を用いた太陽電池用透明導電性基板、その製造方法、およびこれに用いるターゲットに関する。
近年、化石エネルギーの枯渇問題に関する関心の高まりにより、その代替エネルギーである太陽光発電(太陽電池)が注目されている。
太陽電池市場は、技術開発の進んだシリコン系の太陽電池が古くから実用化されており、なかでも光電変換効率に優れた結晶シリコン太陽電池が広く用いられている。
しかし、結晶シリコン太陽電池は、製造上、薄膜化が困難であるため、原料のシリコンが多量に消費され、シリコンの供給不安が問題視されている。また、量産時に大面積化が出来ないため、生産コストがかかるといった問題も有している。
一方、これらの問題点を解決するものとしてアモルファスシリコンを光電変換層とした太陽電池が注目されている。
アモルファスシリコンは、CVD(Chemical Vapor Deposition)で成膜されるため、膜厚を自在にコントロールでき、且つ生産においても大型化が可能であるため、現在この技術開発が進んでいる。
アモルファスシリコン薄膜太陽電池では、光電変換層(i層)の膜厚を厚くするとダングリングボンド(膜中の欠陥)が増加し光電変換効率の低下につながるため、その光電変換層の厚みを薄くする必要がある。
このようなアモルファスシリコン薄膜太陽電池から優れた光電変換効率を得るためには、入射した光を有効に利用する光閉じ込め技術の開発が必要となる。この技術は、例えば、光電変換層と透明導電膜の界面を凹凸のあるテクスチャー構造とすることで、光取り込み効果、光拡散効果および光閉じ込め効果を発現させることができ、光電変換効率を向上させるものである。
光取り込み効果とは、凹凸の傾斜構造により、透明導電膜と光電変換層の界面での反射ロスを低減することができ、光電変換層の太陽光の取り込み量を多くすることができる。
光拡散効果とは、透明導電膜の界面、または光電変換層の界面で光電変換層への入射光が散乱され、光電変換層内での光路長が長くなることにより、太陽光の吸収量を多くすることができる。
光閉じ込め効果とは、光電変換層と透明導電膜の界面を凹凸のあるテクスチャー構造にて、その界面で光電変換層から透明導電膜へ向う光を光電変換層の界面で反射させることにより光電変換層内での光路長を長くし、光電変換層での光の吸収量を大きくさせるものである。
また、透明導電膜の上部にはp型、i型、およびn型のアモルファスシリコン層がCVDにより成膜されるが、透明導電膜の表面の凸部が鋭角である場合、または、透明導電膜の表面の凹部が深い場合には、p型シリコン層の被覆性が悪化するため、被覆性が良好である形状が望まれる。
表面に凹凸を有する透明導電膜は、例えば、ガラス基板上にCVD法により酸化錫膜を形成することにより得られるが、この製法で製造される透明電極付きガラス基板を製造できるメーカーが限られるため、供給に不安がある。また、酸化錫膜は比抵抗が高いため、膜厚を厚くする必要があり、生産性にも問題がある。
また、スパッタ法で酸化亜鉛膜をガラス基板上に成膜した後、酸またはアルカリを処理して凹凸を形成させる方法も検討されている。
特許文献1には、基板上に酸化亜鉛からなる透明導電膜を形成し、該透明導電膜を酸性またはアルカリ性水溶液でエッチングすることにより表面に凹凸を形成する太陽電池用基板の製造方法が開示されている。
特許文献2には、基板上に酸化亜鉛からなる透明導電膜を形成し、酸性またはアルカリ性水溶液からなるエッチング液を用いて該透明導電膜の表面を少なくとも2回にわたってエッチングを施すことにより、この表面に凹凸を形成する太陽電池用基板の製造方法が開示されている。
しかし、これらの技術による、単純な酸性またはアルカリ性溶液でエッチング処理を行うだけでは、光取り込み効果、光拡散効果及び光閉じ込め効果は十分ではなく、結果として発電効率が十分ではない。さらに、表面のエッチング処理を行う分、コスト増の原因となる。
また、酸化亜鉛系透明導電膜を作製する際、通常よりスパッタガス圧を高くすることにより凹凸を形成することが知られている(特許文献3参照)。
しかし、この方法では、通常のスパッタ圧(0.06〜1.4Pa)より、高いスパッタ圧に設定する必要があるので、成膜速度が遅く、生産性が低く、実用的でない。さらに、光取り込み効果、光拡散効果及び光閉じ込め効果は十分ではない。
特開平11−233800号公報 特開2004−119491号公報 特開平6−57410号公報
上記のように、これまでに開示された技術を用いた太陽電池は、光取り込み効果、光拡散効果及び光閉じ込め効果は十分ではなく、高い光電変換効率を得ることはできない。
そこで、本発明の課題は、上記問題に鑑みなされたものであり、高い光電変換効率を得るためのダブルテクスチャー構造を有する酸化亜鉛を主成分とする透明導電膜を用いた太陽電池用透明導電性基板、その製造方法、およびこれに用いるターゲットを提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく種々検討した結果、酸化亜鉛を主成分とする透明導電膜の表面に対して、光取り込み効果、光拡散効果及び光閉じ込め効果を向上させるような2種類の凹凸のあるダブルテクスチャー構造を形成することにより、高い光電変換効率を得ることができるという新たな事実を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本願発明の要旨は以下のとおりである。
(1)表面に凹凸(A)を形成した透明基板と、この透明基板の凹凸上に成膜され酸化亜鉛を主成分とした透明導電膜とを備え、この透明導電膜が表面に前記凹凸(A)より小さな凹凸(B)を有することを特徴とする太陽電池用透明導電性基板。
(2)前記凹凸(A)の形状は波状であり、かつ前記凹凸(B)の形状は多角錐状である前記(1)に記載の太陽電池用透明導電性基板。
(3)前記透明基板が、ガラス基板または透明樹脂基板である前記(1)または(2)に記載の太陽電池用透明導電性基板。
(4)前記透明導電膜は、チタンの原子数の割合が全金属原子数に対して2%超10%以下であり、かつチタン源として、一般式:TiO2−X(X=0.1〜1)で表される低原子価酸化チタンを含む酸化亜鉛を主成分とする酸化物焼結体を用いて形成されることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の太陽電池用透明導電性基板。
(5)前記低原子価酸化チタンは、酸化チタン(TiO)および酸化チタン(Ti23)から選ばれる前記(4)に記載の太陽電池用透明導電性基板。
(6)レーザー加工法により透明基板の表面に凹凸(A)を作製し、次に、その透明基板の凹凸面上に、酸化亜鉛を主成分とし、前記凹凸(A)より小さな凹凸(B)を表面に有する透明導電膜を成膜することを特徴とする太陽電池用透明導電性基板の製造方法。
(7)前記レーザー加工法に用いられるパルスレーザーは、アルゴンフロライド(ArF)エキシマレーザーである前記(6)に記載の太陽電池用透明導電性基板の製造方法。
(8)前記透明導電膜が、スパッタリング法、イオンプレーティング法、パルスレーザ堆積法(PLD法)またはエレクトロンビーム(EB)蒸着法により形成される、前記(6)または(7)に記載の太陽電池用透明導電性基板の製造方法。
(9)前記(8)に記載の透明導電膜の成膜に用いられるターゲットであって、チタンの原子数の割合が全金属原子数に対して2%超10%以下であり、かつチタン源として、一般式:TiO2−X(X=0.1〜1)で表される低原子価酸化チタンを含む酸化亜鉛を主成分とする酸化物焼結体を加工してなることを特徴とするターゲット。
本発明の太陽電池用透明導電性基板は、表面が大きな波状の凹凸である透明基板と、この透明基板上に表面が該凹凸よりも小さなピラミッド状の凹凸を有する透明導電膜とを有する、すなわち周期の異なる大小2種類の凹凸からなるダブルテクスチャー構造を形成することで、光取り込み効果、光拡散効果、光閉じ込め効果が高く、かつ被覆性が良好な凹凸形状を作成できる高光電変換効率の薄膜太陽電池を製造できる。
実施例1で用いた、レーザー加工する前のPET基板の表面を拡大した電子顕微鏡写真(一目盛:2.00μm)である。 実施例1で得られた、レーザー加工した後のPET基板の表面を拡大した電子顕微鏡写真(一目盛:2.00μm)である。 実施例1で得られた透明導電膜の表面を拡大した電子顕微鏡写真(一目盛:0.500μm)である。 実施例1で得られた透明導電膜の表面を拡大した電子顕微鏡写真(一目盛:0.200μm)である。 実施例1で得られた透明導電膜の表面を拡大した電子顕微鏡写真(一目盛:0.100μm)である。 実施例1で得られた透明導電性基板の、光の波長に対する拡散透過率および直線透過率の測定結果を示すグラフである。 図6に示す結果を基に算出した、光の波長に対するヘイズ率を示すグラフである。
以下、本発明の太陽電池用透明導電性基板の一実施形態について、詳細に説明する。
本発明の太陽電池用透明導電性基板は、表面に凹凸(A)を形成した透明基板と、この透明基板の凹凸上に成膜され酸化亜鉛を主成分とした透明導電膜とを備え、この透明導電膜が表面に前記凹凸(A)より小さな凹凸(B)を有するダブルテクスチャー構造を形成したものである。このようなダブルテクスチャー構造を有する本発明の太陽電池用透明導電性基板は、周期の異なる大小2種類の凹凸を有することにより、短波長(300m程度)側から長波長(1400m程度)側まで(i)光取り込み効果、(ii)光拡散効果、および(iii)光閉じ込め効果を有する。
<透明基板>
透明基板は、表面に凹凸(A)を有する。凹凸(A)の形状は、特に限定されず、例えば、半円球状などであってもよいが、光拡散効果の観点から半円球状であるのが好ましく、透明基板の表面は周期的に半円球状凹凸が複数形成された波状であるのが好ましい。
凹凸(A)が大きさは、例えば、凹凸(A)の形状が波状である場合、波底部から波頂部の高さは、通常0.3〜2μmであり、好ましくは0.5〜1.5μmであるのがよく、波幅は、通常0.5〜5μmであり、好ましくは0.8〜3μmであるのがよい。凹凸(A)の大きさが、上記範囲内であれば、光取り込み効果、光拡散効果、および特に長波長側の光に対する光閉じ込め効果に優れた太陽電池用透明導電性基板とすることができる。
透明基板の材質は、前記した短波長から長波長を吸収しない基板であるのが好ましく、ガラス基板、または透明樹脂基板であるのが好ましい。
ガラス基板としては、例えば、無アルカリガラス、アルカリガラス等が挙げられる。
透明樹脂基板としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)基板、ポリエチレンナフタレート(PEN)基板、ポリカーボネート(PC)基板、ポリイミド基板等の公知の樹脂基板などが挙げられる。
<透明導電膜>
透明導電膜は、透明基板の凹凸面上に成膜され、表面に凹凸(A)より小さな微細凹凸(B)を有する。この微細凹凸(B)は、後述するように、スパッタリング法等で透明導電膜を透明基板上に成膜する際に、酸化亜鉛の柱状結晶を成膜面に対して垂直方向に成長させることにより形成されるものである。
従って、凹凸(B)は、上記のように結晶成長によって形成されるため、その形状は特に特定されないが、例えば、四角錐などの多角錐状などである。
凹凸(B)の大きさは、凹凸(A)よりも小さければ特に限定されず、底部から頂部の高さは、通常0.05〜0.2μmであり、好ましくは0.07〜0.15μmであるのがよく、幅は、通常0.1〜0.5μmであり、好ましくは0.2〜0.4μmであるのがよい。凹凸(B)の大きさが、上記範囲内であれば、光取り込み効果、光拡散効果、および特に短波長側の光に対する光閉じ込め効果に優れた太陽電池用透明導電性基板とすることができる。
透明導電膜は、酸化亜鉛を主成分とした酸化亜鉛系透明導電膜であり、チタンをドープした酸化亜鉛系透明導電膜であるのが好ましい。これは、チタンドープ酸化亜鉛系透明導電膜は、10−4Ω・cm前半オーダーの低抵抗を示し、化学的耐久性(耐熱性、耐湿性)に優れ、好適な近赤外領域の透過性に優れるという特長を有しているためである。
<太陽電池用透明導電性基板の製造方法>
本発明の太陽電池用透明導電性基板の製造方法は、レーザー加工法により透明基板の表面に凹凸(A)を作製し、次に、その透明基板の凹凸面上に、酸化亜鉛を主成分とし、前記凹凸(A)より小さな凹凸(B)を表面に有する透明導電膜を成膜するものである。
本発明では、パルスレーザーを用いたレーザー加工法により、透明基板に大きな波状の凹凸(A)を形成する。
レーザー加工法は、透明基板に、集光レンズで絞ったレーザー光を照射し、透明基板材料の表面を直接加工する。レーザー加工法を用いれば、透明基板の表面に周期的に凹凸(A)を形成することができ、例えばサンドブラスト法等を用いて波状の凹凸(A)を形成する場合のように、不均一な凹凸になってしまうようなことがない。さらに、一般的な酸又はアルカリ溶液でのエッチングに比べて、前述した凹凸(A)の形状や大きさなどを高精度に制御することができる。
レーザー加工法に使用するレーザーとしては、透明基板が吸収する波長であれば特に限定されず、例えば、アルゴンフロライド(ArF;波長193nm)エキシマレーザー、クリプトンフロライド(KrF;波長233nm)エキシマレーザー、フッ素(F;波長157nm)レーザー、I線、g線などが挙げられ、透明基板がPET基板またはガラス基板である場合にはArFエキシマレーザーが好ましい。
レーザー加工法の具体例として、エネルギー密度を0.5〜5J/cmとしたArF(波長193nm)エキシマーレーザーを集光レンズで絞ったレーザーを、透明基板上に照射することで、基板表面にサブミクロンから数ミクロンオーダーの半円球状の凹凸を形成することができる。
(透明導電膜の作製方法)
本発明では、チタンドープ酸化亜鉛透明導電膜を上記の周期的に大きな波状の凹凸(A)を形成した透明基板上に形成する。形成方法は、後述する酸化物焼結体またはターゲットを用いてスパッタリング法、イオンプレーティング法、パルスレーザー堆積(PLD)法またはエレクトロンビーム(EB)蒸着法等の真空成膜法で形成されることが好ましい。
このようにして形成される透明導電膜の表面には、酸化亜鉛の柱状結晶が成長するため、凹凸基板の上にスパッタ成膜すると自然と微細凹凸(B)が形成される。形成される凹凸(B)の寸法を制御するには、例えば、スパッタ条件を最適化すればよい。また、微細凹凸(B)が形成された透明導電膜の上部に、例えば、p型、i型、およびn型のアモルファスシリコン層がCVDにより成膜されても、p型シリコン層の被覆性は良好である。
(ターゲット)
本発明のターゲットは、スパッタリング法、イオンプレーティング法、PLD法またはEB蒸着法による成膜に用いられるターゲットである。なお、このような成膜の際に用いる固形材料のことを「タブレット」と称する場合もあるが、本発明においてはこれらを含め「ターゲット」と称することとする。
本発明のターゲットは、後述する酸化物焼結体を加工してなる。
加工方法は、特に制限されず、適宜公知の方法を採用すればよい。例えば、酸化物焼結体に平面研削等を施した後、所定の寸法に切断してから、支持台に貼着することにより、本発明のターゲットを得ることができる。また、必要に応じて、複数枚の酸化物焼結体を分割形状にならべて、大面積のターゲット(複合ターゲット)としてもよい。
酸化物焼結体またはターゲットを用いて形成された透明導電膜は、優れた導電性と化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐薬品性(耐アルカリ性、耐酸性)など)とを兼ね備えたものであるので、太陽電池の光電変換素子の窓電極だけでなく、例えば、液晶ディスプレイ・プラズマディスプレイ・無機EL(エレクトロルミネセンス)ディスプレイ・有機ELディスプレイ・電子ペーパーなどの透明電極、透明タッチパネル等の入力装置の電極、電磁シールドの電磁遮蔽膜等の用途に好適に用いられる。さらに、酸化物焼結体またはターゲットを用いて形成された透明導電膜は、透明電波吸収体、紫外線吸収体、さらには透明半導体デバイスとして、他の金属膜や金属酸化膜と組み合わせて活用することもできる。
(酸化物焼結体)
本発明において使用される酸化物焼結体は、実質的に亜鉛、チタンおよび酸素からなるチタンドープ酸化亜鉛の焼結体である。ここで、「実質的」とは、酸化物焼結体を構成する全原子の99%以上が亜鉛、チタンおよび酸素からなることを意味する。
酸化物焼結体においては、チタンが原子数比でTi/(Zn+Ti)=0.02超0.1以下となるよう含有されていることが重要である。このTi/(Zn+Ti)の値が0.02以下となるチタン含有量であると、この酸化物焼結体をターゲットとして形成された膜の耐薬品性など化学的耐久性が不充分となり、しかも、酸化物焼結体中にチタン酸亜鉛化合物が形成されにくくなるため焼結体の強度が低下し、ターゲットへの加工が困難になる。一方、Ti/(Zn+Ti)の値が0.1を超えるチタン含有量であると、後述するように酸化物焼結体中に含まれないことが望まれる酸化チタン結晶相の形成が避けられなくなり、この酸化物焼結体をターゲットとして形成された膜の導電性や透明性が低下する。好ましくは、チタンの含有量は、原子数比でTi/(Zn+Ti)=0.03〜0.09となる量であり、より好ましくは、原子数比でTi/(Zn+Ti)=0.04〜0.08となる量である。
酸化物焼結体は、酸化亜鉛相とチタン酸亜鉛化合物相とから構成されるか、または、チタン酸亜鉛化合物相から構成されるのが好ましい。このように酸化物焼結体中にチタン酸亜鉛化合物相が含まれていると、焼結体自体の強度が増すので、例えばターゲットとして過酷な条件(高電力など)で成膜してもクラックを生じることがない。
ここで、チタン酸亜鉛化合物相とは、具体的には、ZnTiO、ZnTiOのほか、これらの亜鉛サイトにチタン元素が固溶されたものや、酸素欠損が導入されているものや、Zn/Ti比がこれらの化合物から僅かにずれた非化学量論組成のものも含むものとする。
また、酸化亜鉛相とは、具体的には、ZnOのほか、これにチタン元素が固溶されたものや、酸素欠損が導入されているものや、亜鉛欠損により非化学量論組成となったものも含むものとする。なお、酸化亜鉛相は、通常、ウルツ鉱型構造をとる。
酸化物焼結体は、実質的に酸化チタンの結晶相を含有しないことが好ましい。酸化物焼結体に酸化チタンの結晶相が含まれていると、得られる膜が、比抵抗などの物性にムラがあり均一性に欠けるものとなるおそれがある。酸化物焼結体は、上述したTi/(Zn+Ti)の値が0.1以下であるので、通常、チタンが酸化亜鉛に完全に反応し、酸化物焼結体中に酸化チタン結晶相は生成されにくい。
なお、酸化チタンの結晶相とは、具体的には、TiO、Ti、TiOのほか、これらの結晶にZnなど他の元素が固溶された物質も含むものとする。
酸化物焼結体は、ガリウム、アルミニウム、錫、シリコン、ゲルマニウム、ジルコニウム、ハフニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素(以下、これらを「添加元素」と称することもある)をも含有することが好ましい。このような添加元素を含有することによって、この酸化物焼結体をターゲットとして形成される膜の比抵抗に加え、酸化物焼結体自体の比抵抗も低下させることができる。例えば、直流スパッタリング時の成膜速度は、スパッタリングターゲットとする酸化物焼結体の比抵抗に依存し、酸化物焼結体自体の比抵抗を下げることにより、成膜時の生産性を向上させることができる。
添加元素を含有する場合、その全含有量は、原子比で、酸化物焼結体を構成する全金属元素の総量に対して0.05%以下であることが好ましい。添加元素の含有量が前記範囲よりも多いと、酸化物焼結体をターゲットとして形成される膜の比抵抗が増大するおそれがある。
前記添加元素は、酸化物の形態で酸化物焼結体中に存在していてもよいし、前記酸化亜鉛相の亜鉛サイトに置換した(固溶した)形態で存在していてもよいし、前記チタン酸亜鉛化合物相のチタンサイトおよび/または亜鉛サイトに置換した(固溶した)形態で存在していてもよい。
酸化物焼結体は、必須元素である亜鉛およびチタンや、前記添加元素のほかに、例えば、インジウム、イリジウム、ルテニウム、レニウムなどの他の元素を、不純物として含有していてもよい。不純物として含有される元素の合計含有量は、原子比で、酸化物焼結体を構成する全金属元素の総量に対して0.5%以下であることが好ましい。
酸化物焼結体の比抵抗は、5kΩ・cm以下であることが好ましい。例えば、直流スパッタリング時の成膜速度は、スパッタリングターゲットとする酸化物焼結体の比抵抗に依存するので、酸化物焼結体の比抵抗が5kΩ・cmを超えると、直流スパッタで安定的な成膜を行えないおそれがある。成膜時の生産性を考慮すると、酸化物焼結体の比抵抗は低いほど好ましく、具体的には100Ω・cm以下であるのがよい。
以上のような酸化物焼結体は、後述する酸化物焼結体の製造方法によって好ましく得られるが、該製造方法により得られたものに限定されるわけではない。例えば、チタン金属と、酸化亜鉛粉または水酸化亜鉛粉とを組み合わせたものや、酸化チタン粉と亜鉛金属とを組み合わせたものを原料粉末として得られたものであってもよい。通常、酸化物焼結体を還元雰囲気にて焼結した場合は、酸素欠損の導入により、酸化物焼結体の比抵抗は低くなり、酸化雰囲気にて焼結した場合は、比抵抗は高くなる。
(酸化物焼結体の製造方法)
酸化物焼結体の製造方法は、酸化チタン粉と、酸化亜鉛粉または水酸化亜鉛粉との混合粉及び/またはチタン酸亜鉛化合物粉を含む原料粉末を成形した後、得られた成形体を焼結することにより、上述した酸化物焼結体を得る方法である。
前記原料粉末としては、酸化チタン粉と、酸化亜鉛粉または水酸化亜鉛粉との混合粉、もしくはチタン酸亜鉛化合物粉を含むものであればよく、酸化チタン粉と、酸化亜鉛粉または水酸化亜鉛粉と、チタン酸亜鉛化合物粉との混合粉であってもよい。好ましくは、酸化チタン粉と、酸化亜鉛粉または水酸化亜鉛粉との混合粉を含むものがよい。上述したように、例えば、チタン金属と、酸化亜鉛粉または水酸化亜鉛粉とを組み合わせたものや、酸化チタン粉と亜鉛金属とを組み合わせたものを原料粉末としても、酸化物焼結体は得られるが、その場合、酸化物焼結体中にチタンや亜鉛の金属粒が存在しやすくなり、これをターゲットとして成膜すると、成膜中にターゲット表面の金属粒が溶融してしまい、ターゲットから放出されず、得られる膜の組成とターゲットの組成とが大きく異なる傾向がある。
前記酸化チタン粉としては、4価のチタンからなる酸化チタン(TiO)、3価のチタンからなる酸化チタン(Ti)、2価のチタンからなる酸化チタン(TiO)等の低原子価酸化チタンの粉末を用いることができ、特にTiの粉末を用いるのが好ましい。なぜなら、Tiの結晶構造は三方晶であり、これと混合する酸化亜鉛は六方晶のウルツ鉱であるため、結晶構造の対称性が一致し、固相焼結する際に置換固溶しやすいからである。
ここでいう低原子価酸化チタンとは、TiO(II)、Ti(III)のように、原子価が2価または3価の整数であるチタン元素の酸化物だけでなく、Ti、Ti、Ti11、Ti、Ti15等をも含む一般式:TiO2−X(X=0.1〜1)で表される新規な低原子価酸化チタンをいう。この低原子価酸化チタンの粉末は、前記一般式で表される酸化チタンの1種を単独で用いてもよく、あるいは2種以上の混合物を用いてもよい。
なお、前記低原子価酸化チタンの構造は、X線回折装置(X−Ray Diffraction、 XRD)、X線光電子分光装置(X−ray Photoelectron Spectroscopy、 XPS)などの機器分析によって確認することができる。
Ti、Ti、Ti11、Ti、Ti15等をも含む一般式:TiO2−X(X=0.1〜1)は単成分を作製するのは難しく、混合物として得られる。通常、酸化チタン(TiO)を水素雰囲気等の還元雰囲気にて、還元剤としてカーボン等を用いて、加熱することにより作製することができる。水素濃度、還元剤としてカーボン量、加熱温度を調製することにより、低原子価酸化チタンの混合物の割合を制御することができる。
前記酸化亜鉛粉としては、通常、ウルツ鉱構造のZnO等の粉末が用いられ、さらにこのZnOを予め還元雰囲気で焼成して酸素欠損を含有させたものを用いてもよい。
前記水酸化亜鉛粉としては、アモルファスまたは結晶構造のいずれであってもよい。
前記チタン酸亜鉛化合物としては、ZnTiO、ZnTiO等の粉末を用いることができ、特に、ZnTiOの粉末を用いるのが好ましい。
原料粉末として各々用いる化合物(粉)の平均粒径は、それぞれ5μm以下であることが好ましい。
前記原料粉末として、酸化チタン粉と、酸化亜鉛粉または水酸化亜鉛粉との混合粉を用いる場合、もしくは酸化チタン粉と、酸化亜鉛粉または水酸化亜鉛粉と、チタン酸亜鉛化合物粉との混合粉を用いる場合の各粉の混合割合は、各々用いる化合物(粉)の種類に応じて、最終的に得られる酸化物焼結体において原子数比でTi/(Zn+Ti)の値が上述した範囲となるように適宜設定すればよい。その際、亜鉛はチタンに比べて蒸気圧が高く焼結した際に揮散しやすいことを考慮して、所望する酸化物焼結体の目的組成(ZnとTiとの原子数比)よりも、予め亜鉛の量が多くなるように混合割合を設定しておくことが好ましい。具体的には、亜鉛の揮散のしやすさは、焼結する際の雰囲気によって異なり、例えば、酸化亜鉛粉を用いた場合、大気雰囲気や酸化雰囲気では酸化亜鉛粉自体の揮散しか起こらないが、還元雰囲気で焼結すると、酸化亜鉛が還元されて、酸化亜鉛よりもさらに揮散しやすい金属亜鉛となるので、亜鉛の消失量が増すことになるのである(ただし、後述のように、一旦焼結した後、還元雰囲気中でアニール処理を施す場合には、アニール処理を施す時点で既に複合酸化物となっているので、亜鉛が揮散しにくい)。したがって、目的組成に対してどの程度亜鉛の量を増やしておくかについては、焼結の雰囲気などを考慮して設定すればよく、例えば、大気雰囲気や酸化雰囲気で焼結する場合には所望する原子数比となる量の1.0〜1.05倍程度、還元雰囲気で焼結する場合には所望する原子数比となる量の1.1〜1.3倍程度とすればよい。なお、原料粉末として各々用いる化合物(粉)は、それぞれ1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
前記原料粉末は成形される前に、粉砕処理が施されてもよい。粉砕処理が施されることで、原料粉末は幅の狭い粒度分布に整えられ、後述する焼結において、均一に固相焼結させることができ、密度の高い酸化物焼結体を得ることができる。
粉砕処理する方法としては、特に限定されず、例えば、メディアを使用する場合、ビーズミル、ボールミル、遊星ミル、サンドグラインダー、振動ミルまたはアトライター等の装置を備えた粉砕機による方法、メディアを使用しないジェットミル、ナノマイザー、スターバースト等の湿式超高圧微粒化装置による方法などが挙げられる。
前記原料粉末を成形する際の方法は、特に制限されるものではないが、例えば、原料粉末と水系溶媒とを混合し、得られたスラリーを充分に湿式混合により混合した後、固液分離・乾燥・造粒し、得られた造粒物を成形すればよい。
水系溶媒は、水を主成分とし、水単独であってもよいし、水とメタノール、エタノールなどのアルコールなどとの混合物であってもよい。
湿式混合は、例えば、硬質ZrOボール等を用いた湿式ボールミルや振動ミルにより行なえばよく、湿式ボールミルや振動ミルを用いた場合の混合時間は、12〜78時間程度が好ましい。なお、原料粉末をそのまま乾式混合してもよいが、湿式混合の方がより好ましい。
固液分離・乾燥・造粒については、それぞれ公知の方法を採用すればよい。
得られた造粒物を成形する際には、例えば、造粒物を型枠に入れ、冷間プレスや冷間静水圧プレスなどの冷間成形機を用いて1ton/cm以上の圧力をかけて成形することができる。このとき、ホットプレスなどを用いて熱間で成形を行うと、製造コストの面で不利となるとともに、大型焼結体が得にくくなる。なお、成形体として造粒物を得る際には、乾燥後、公知の方法で造粒すればよいのであるが、その場合、原料粉末とともにバインダーも混合することが好ましい。バインダーとして、例えば、ポリビニルアルコール、酢酸ビニル等を用いることができる。
得られた成形体の焼結は、大気雰囲気、不活性雰囲気、還元雰囲気(例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素、真空、水素等)および酸化雰囲気(大気よりも酸素濃度が高い雰囲気)のいずれかの雰囲気中、600〜1500℃で行なう。
そして、大気雰囲気または酸化雰囲気中で焼結した場合には、その後さらに還元雰囲気中でアニール処理を施すようにする。この大気雰囲気中または酸化雰囲気中で焼結した後に施す還元雰囲気中でのアニール処理は、酸化物焼結体に酸素欠損を生じさせ、比抵抗を低下させるために行なうものである。したがって、大気雰囲気中または還元雰囲気中で焼結した際にも、さらなる比抵抗の低下を所望する場合には、焼結後、前記アニール処理を施すのが好ましいことは言うまでもない。
いずれの雰囲気中で焼結する際も、焼結温度は600〜1500℃、好ましくは1000〜1300℃とする。焼結温度が600℃未満であると、焼結が充分に進行しないので、ターゲット密度が低くなり、一方、1500℃を超えると、酸化亜鉛自体が分解して消失してしまうこととなる。なお、成形体を前記焼結温度まで昇温する際には、昇温速度を、1000℃までは5〜10℃/分とし、1000℃を超え1500℃までは1〜4℃/分とすることが、焼結密度を均一にするうえで好ましい。
いずれの雰囲気中で焼結する際も、焼結時間(すなわち、焼結温度での保持時間)は、3〜15時間とすることが好ましい。焼結時間が3時間未満であると、焼結密度が不充分となりやすく、得られる酸化物焼結体の強度が低下する傾向があり、一方、15時間を超えると、焼結体の結晶粒成長が著しくなるとともに、空孔の粗大化、ひいては最大空孔径の増大化を招く傾向があり、その結果、焼結密度が低下するおそれがある。
焼結を行なう際の方法は、特に制限されるものではなく、常圧焼成法、ホットプレス法、熱間等方圧加圧法(HIP)法、冷間等方圧加圧法(CIP)法、マイクロ波焼結法、ミリ波焼結法など公知の方法を採用することができる。
前記アニール処理を施す際の還元雰囲気としては、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素、真空および水素からなる群より選ばれる少なくとも1種からなる雰囲気が挙げられる。
前記アニール処理の方法としては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素、水素などの非酸化性ガスを導入しながら常圧で加熱する方法や、真空(好ましくは、2Pa以下)下で加熱する方法等により行うことができるが、製造コストの観点からは、前者の常圧で行う方法が有利である。
前記アニール処理を施すに際し、アニール温度(加熱温度)は、1000〜1400℃とするのが好ましく、より好ましくは1100〜1300℃とするのがよい。アニール時間(加熱時間)は、7〜15時間とするのが好ましく、より好ましくは8〜12時間とするのがよい。アニール温度が1000℃未満であると、アニール処理による酸素欠損の導入が不充分になるおそれがあり、一方、1400℃を超えると、亜鉛が揮散しやすくなり、得られる酸化物焼結体の組成(ZnとTiとの原子数比)が所望の比率と異なってしまうおそれがある。
(透明導電性基板)
このようにして、透明基板とチタンドープ酸化亜鉛透明導電膜とのダブルテクスチャー構造を有する、光取り込み効果、光拡散効果および光閉じ込め効果に優れた透明導電性基板が得られ、太陽電池用透明導電性基板として極めて優れた性能を有する。
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例により限定されるものではない。
なお、得られた透明導電性基板の評価は以下の方法で行なった。
<比抵抗>
比抵抗は、抵抗率計(三菱化学(株)製「LORESTA−GP、MCP−T610」)を用いて、四端子四探針法により測定した。詳しくは、サンプルに4本の針状の電極を直線上に置き、外側の二探針間に一定の電流を流し、内側の二探針間に一定電流を流し、内側の二探針間に生じる電位差を測定し、抵抗を求めた。
<表面抵抗>
表面抵抗は、比抵抗(Ω・cm)を膜厚(cm)で除することにより算出した。
<透過率>
透過率は、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光(株)製「V−670」)を用いて測定した。
<ヘイズ率>
ヘイズ率は、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光(株)製「V−670」)を用いて直線透過率、拡散透過率を測定し、計算により求めた。
ヘイズ率(%)=100×(拡散透過率−直線透過率)/(拡散透過率)
<耐湿性>
透明導電性基板を、温度60℃、相対湿度90%の雰囲気中に1000時間保持する耐湿試験に付した後、表面抵抗を測定した。耐湿試験後の表面抵抗が、耐湿試験前の表面抵抗の2倍以下であると、耐湿性に優れると言える。
<耐熱性>
透明導電性基板を、温度200℃の大気中に5時間保持する耐熱試験に付した後、表面抵抗を測定した。耐熱試験後の表面抵抗が、耐熱試験前の表面抵抗の1.5倍以下であると、耐熱性に優れると言える。
<耐アルカリ性>
透明導電性基板を、3%のNaOH水溶液(40℃)中に10分間浸漬し、浸漬前後の基板上の膜質の変化の有無を目視にて確認した。
<耐酸性>
透明導電性基板を、3%のHCl水溶液(40℃)中に10分間浸漬し、浸漬前後の基板上の膜質の変化の有無を目視にて確認した。
(実施例1)
エネルギー密度を1.2J/cmとしたArFエキシマレーザー(波長:193nm)を用い、集光レンズで絞ったレーザー光をPET基板(厚さ:300μm)に直接照射することによって、PET基板の表面に波状の凹凸(A)を作製した。このレーザー加工をする前のPET基板の表面、およびこのレーザー加工をした後のPET基板の表面を電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)により観察し、FE−SEMによる電子顕微鏡写真をそれぞれ図1、図2に示す。
凹凸(A)を形成したPET基板の表面に以下のスパッタ法によりチタンドープ酸化亜鉛透明導電膜を成膜した。
透明導電膜の成膜方法は以下の通りである。
<酸化物焼結体の製造>
酸化亜鉛粉(ZnO粉末;純度99.9%、平均粒径1μm以下、和光純薬工業(株)製)および酸化チタン粉(Ti粉末;純度99.9%、平均粒径1μm以下、(株)高純度化学研究所製)を原料粉末とし、これらをZn:Tiの原子数比が97:3となる割合で樹脂製ポットに入れ、湿式ボールミル混合法により湿式混合した。湿式混合は、ボールとして硬質ZrOボールを用い、混合時間を18時間として行った。
次いで、混合後の原料粉末スラリーを取り出し、乾燥、造粒した後、冷間静水圧プレスにて1ton/cmの圧力をかけて成形し、直径100mm、厚さ8mmの円盤状成形体を得た。得られた円盤状の成形体をAr不活性雰囲気中にて5℃/分で、1000℃を超え1300℃までを1℃/分で昇温し、焼結温度である1300℃で5時間保持することにより焼結し、酸化物焼結体(1)を得た。
得られた酸化物焼結体(1)をエネルギー分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「EDX−700L」)にて分析したところ、ZnとTiの原子数比はZn:Ti=97:3であった(Ti/(Zn+Ti)=0.03)。この酸化物焼結体(1)の結晶構造をX線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)により調べたところ、酸化亜鉛(ZnO)とチタン酸亜鉛(ZnTiO)の結晶相の混合物であり、酸化チタンの結晶相は全く存在していなかった。
次に、得られた酸化物焼結体(1)を50mmφの円盤状に加工して、スパッタリング用ターゲットを得、これを用いてスパッタリング法により、PET基板上に透明導電膜を成膜し、透明導電性基板を作製した。
すなわち、スパッタリング装置(キャノンアネルバエンジニアリング(株)製「E−200」)内に、上記スパッタリング用ターゲットおよび表面に凹凸を形成したPET基板を設置し、Arガス(純度99.9995%以上、Ar純ガス=5N)を12sccmで導入して、圧力0.5Pa、電力75W、基板温度130℃(PET基板の耐熱性が低いため)の条件下でスパッタリングを行い、基板上に膜厚500nmの透明導電膜を形成した。透明導電膜の表面に、酸化亜鉛の柱状結晶によるピラミッド状の微細凹凸(B)が形成されていることを電子顕微鏡により確認した。
形成した透明導電膜中の組成(Zn:Ti)について、波長分散型蛍光X線装置((株)島津製作所製「XRF−1700WS」)を用い蛍光X線法により検量線を用いて定量分析を行ったところ、Zn:Ti(原子数比)=97:3であった。また、この透明導電膜について、X線回折装置(理学電機(株)製「RINT2000」)を用い薄膜測定用のアタッチメントを使用したX線回折を行うとともに、エネルギー分散型X線マイクロアナライザー(TEM−EDX)を用いて亜鉛へのチタンのドープ状態を調べ、さらに電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、チタンが亜鉛に置換固溶していることがわかった。
得られた透明導電性基板上の透明導電膜の比抵抗は5.8×10−4Ω・cmであり、表面抵抗は11.6Ω/□であった。なお、透明導電性基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。
得られた透明導電性基板の耐湿性を評価したところ、耐湿試験後の表面抵抗は、耐湿試験前の表面抵抗の1.5倍であり、耐湿性に優れることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐熱性を評価したところ、耐熱試験後の表面抵抗は、耐熱試験前の表面抵抗の1.4倍であり、耐熱性に優れることがわかった。
得られた透明導電性基板の耐アルカリ性を評価したところ、浸漬前後で膜質に変化はなく耐アルカリ性に優れていることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐酸性を評価したところ、浸漬後、膜厚が薄くなっており溶解していたが、浸漬前後で膜質に変化はなく耐酸性に優れていることがわかった。
以上のことから、得られた透明導電性基板上の膜は、透明かつ低抵抗であるとともに、化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐アルカリ性、耐酸性)をも兼ね備えた透明導電膜であることが明らかである。
ダブルテクスチャー構造の確認を電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)により行った。FE−SEMによる電子顕微鏡写真を図3、図4、図5に示す。この図3〜5から、透明導電膜はPET基板に形成された凹凸(A)の面に対して垂直方向に成長(いわゆるC軸成長)しているのがわかる。
凹凸のピッチ幅について、波状の大きい凹凸(A)のピッチ幅は約1μm程の間隔にあり、高さが約0.5μmであった。また、ピラミッド状の小さい凹凸(B)の幅は約0.1μm程の幅で膜全体に形成されており、高さが約0.05μmであった。これらの二段階の工程により、レーザー加工したPET基板による波状の大きいピッチの凹凸(A)と、チタンドープ酸化亜鉛透明導電膜の結晶成長によるピラミッド状の小さいピッチの凹凸(B)を有するダブルテクスチャー構造が形成されていることが確認された。
次に、拡散透過率、直線透過率(300〜1500nm)を測定した結果を図6示す。さらにこれら結果から、以下の式により、ヘイズ率を計算した結果を図7に示す。
ヘイズ率(%)=100×(拡散透過率−直線透過率)/(拡散透過率)
図6に示すように、500〜1500nm程度の近赤外領域において80%ぐらいの透過性を示しており、高透過性であることがわかる。
図7に示すように、ヘイズ率は長波長にいくに従い低下しているが、太陽光スペクトルの有効波長である400〜900nmにおける平均は80%と大きな値であることがわかった。
これら結果から、光取り込み効果、光拡散効果及び光閉じ込め効果に極めて有効であることがわかった。
以上、透明基板と透明導電膜からなるダブルテクスチャー構造の本発明の透明導電性基板は、低抵抗かつ、化学的耐久性(耐湿性、耐熱性)に優れ、近赤外領域まで透過性が優れ、光拡散効果及び光閉じ込め効果に優れていることがわかった。
(比較例1)
凹凸を形成していないPET基板上にスパッタ法によりチタンドープ酸化亜鉛透明導電膜を成膜した他は、実施例1と同様にして透明導電性基板を得た。
形成した透明導電膜中の組成(Zn:Ti)について、実施例1と同様にして定量分析を行ったところ、Zn:Ti(原子数比)=97:3であった。また、この透明導電膜について、実施例1と同様にして亜鉛へのチタンのドープ状態を調べ、さらに結晶構造を調べたところ、C軸配向したウルツ鉱型の単相であり、チタンが亜鉛に置換固溶していることがわかった。
得られた透明導電性基板上の透明導電膜の比抵抗は5.8×10−4Ω・cmであり、表面抵抗は11.6Ω/□であった。なお、透明導電性基板上の比抵抗の分布は面内均一であった。
得られた透明導電性基板の耐湿性を評価したところ、耐湿試験後の表面抵抗は、耐湿試験前の表面抵抗の1.5倍であり、耐湿性に優れることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐熱性を評価したところ、耐熱試験後の表面抵抗は、耐熱試験前の表面抵抗の1.4倍であり、耐熱性に優れることがわかった。
得られた透明導電性基板の耐アルカリ性を評価したところ、浸漬前後で膜質に変化はなく耐アルカリ性に優れていることがわかった。また、得られた透明導電性基板の耐酸性を評価したところ、浸漬後、膜厚が薄くなっており溶解していたが、浸漬前後で膜質に変化はなく耐酸性に優れていることがわかった。
以上のことから、得られた透明導電性基板上の膜は、透明かつ低抵抗であるとともに、化学的耐久性(耐熱性、耐湿性、耐アルカリ性、耐酸性)をも兼ね備えた透明導電膜であることが明らかである。
以上、比較例1で得られた透明導電膜は、低抵抗かつ、化学的耐久性(耐湿性、耐熱性)に優れ、近赤外領域まで透過性が優れていたが、PET基材に凹凸構造がないので、透明導電膜表面は平滑のままであった。
そのため、比較例1で得られた透明導電性基板は、直線透過率と拡散透過率は同一なので、ヘイズはなく、光拡散効果及び光閉じ込め効果は認められなかった。

Claims (9)

  1. 表面に凹凸(A)を形成した透明基板と、この透明基板の凹凸面上に成膜され酸化亜鉛を主成分とした透明導電膜とを備え、この透明導電膜が表面に前記凹凸(A)より小さな凹凸(B)を有することを特徴とする太陽電池用透明導電性基板。
  2. 前記凹凸(A)の形状は波状であり、かつ前記凹凸(B)の形状は多角錐状である請求項1に記載の太陽電池用透明導電性基板。
  3. 前記透明基板が、ガラス基板または樹脂基板である請求項1または2に記載の太陽電池用透明導電性基板。
  4. 前記透明導電膜は、チタンの原子数の割合が全金属原子数に対して2%超10%以下であり、かつチタン源として、一般式:TiO2−X(X=0.1〜1)で表される低原子価酸化チタンを含む酸化亜鉛を主成分とする酸化物焼結体を用いて形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の太陽電池用透明導電性基板。
  5. 前記低原子価酸化チタンは、酸化チタン(TiO)および酸化チタン(Ti23)から選ばれる請求項4に記載の太陽電池用透明導電性基板。
  6. レーザー加工法により透明基板の表面に凹凸(A)を作製し、
    次に、前記透明基板の凹凸面上に、酸化亜鉛を主成分とし前記凹凸(A)より小さな凹凸(B)を表面に有する透明導電膜を成膜することを特徴とする太陽電池用透明導電性基板の製造方法。
  7. 前記レーザー加工法に用いられるパルスレーザーは、アルゴンフロライド(ArF)エキシマレーザーである請求項6に記載の太陽電池用透明導電性基板の製造方法。
  8. 前記透明導電膜が、スパッタリング法、イオンプレーティング法、パルスレーザ堆積法(PLD法)またはエレクトロンビーム(EB)蒸着法により形成される、請求項6または7に記載の太陽電池用透明導電性基板の製造方法。
  9. 請求項8に記載の透明導電膜の成膜に用いられるターゲットであって、
    チタンの原子数の割合が全金属原子数に対して2%超10%以下であり、かつチタン源として、一般式:TiO2−X(X=0.1〜1)で表される低原子価酸化チタンを含む酸化亜鉛を主成分とする酸化物焼結体を加工してなることを特徴とするターゲット。
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