よって、このような技術における改良が必要とされている。
(発明の要旨)
本発明は、一般に、バイオ人工腎臓において使用するための膜のような基材、および、このような基材上での生細胞の固定化を伴う他の用途に関する。本発明の主題は、いくつかの場合、相互に関係する製品、特定の問題に対する代替的な解決策、そして/または、1以上のシステムおよび/もしくは物品の複数の異なる使用を含む。
一局面において、本発明は物品に関する。一組の実施形態によれば、この物品は、基材と、基材の少なくとも一部分の上に配置された接着剤(adhesive)と、接着剤の少なくとも一部分の上に配置された細胞支持タンパク質(cell support protein)と、細胞支持タンパク質でコーティングされた基材の少なくとも一部分の上に配置された細胞とを備える。いくつかの場合、接着剤は、カテコール部分を有する分子、および/または、この分子を含むポリマーを含む。
いくつかの局面において、本発明は、一般に、バイオ人工臓器に関する。一組の実施形態において、このバイオ人工臓器は、血液の供給源と流体連絡可能となるように配置された基材と、基材の少なくとも一部分の上に配置された接着剤と、接着剤の少なくとも一部分の上に配置されたタンパク質および/またはペプチドと、タンパク質および/またはペプチドの少なくとも一部分の上に配置された細胞とを備える。いくつかの場合、接着剤は、カテコール部分を有する分子、および/または、この分子を含むポリマーを含む。
本発明の他の局面は、一般に、特定の方法に関する。一組の実施形態によれば、この方法は、基材の少なくとも一部分を、カテコール部分を有する分子および/またはこの分子を含むポリマーを含む接着剤でコーティングする工程と、接着剤の少なくとも一部分を、細胞支持タンパク質でコーティングする工程と、細胞支持タンパク質の少なくとも一部分の上に細胞を接種する工程とを包含する。この方法は、特定の場合、基材の少なくとも一部分を接着剤でコーティングする工程と、接着剤の少なくとも一部分をタンパク質でコーティングする工程と、タンパク質でコーティングされた基材の少なくとも一部分の上に細胞を接種する工程とを包含する。いくつかの実施形態において、このタンパク質は、基材上に接種された該細胞の分化を促進し得る。
別の局面において、本発明は、本明細書中に記載される1以上の実施形態、例えば、コーティングされた膜を作製する方法を包含する。なお別の局面において、本発明は、本明細書中に記載される1以上の実施形態、例えば、コーティングされた膜を使用する方法を包含する。
本発明の他の利点および新規な特徴は、添付の図面と組み合わせて考慮したとき、以下の、本発明の種々の非限定的な実施形態の詳細な説明から明らかとなる。本明細書と、参考として援用される文献とが、矛盾する、および/または、相反する開示を含んでいる場合には、本明細書が支配するものとする。
例えば、本発明は以下を提供する:
(項目1) 以下:
基材と;
該基材の少なくとも一部分の上に配置された接着剤であって、該接着剤は、カテコール部分を有する分子および/または該分子を含むポリマーを含む、接着剤と;
該接着剤の少なくとも一部分の上に配置された細胞支持タンパク質と;
該細胞支持タンパク質でコーティングされた該基材の少なくとも一部分の上に配置された細胞と
を備える、物品。
(項目2) 前記基材がポリマーを含む、上記項目に記載の物品。
(項目3) 前記基材がガラスを含む、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目4) 前記基材が金属を含む、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目5) 前記基材がセラミックを含む、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目6) 前記接着剤が、3,4−ジヒドロキシ−L−フェニルアラニン(DOPA)を含む、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目7) 前記接着剤がポリ(ドパミン)を含む、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目8) 前記接着剤がポリ(DOPA)を含む、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目9) 前記接着剤が、3,4−ジヒドロキシ−L−フェニルアラニン−リジンを含む、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目10) 前記細胞支持タンパク質の少なくとも約50%が細胞外マトリクスタンパク質を含む、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目11) 前記細胞支持タンパク質の少なくとも約70%が細胞外マトリクスタンパク質を含む、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目12) 前記細胞支持タンパク質が本質的に細胞外マトリクスタンパク質からなる、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目13) 前記細胞外マトリクスタンパク質がコラーゲンを含む、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目14) 前記コラーゲンがIV型コラーゲンを含む、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目15) 前記コラーゲンがI型コラーゲンを含む、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目16) 前記コラーゲンがヒト胎盤コラーゲンである、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目17) 前記細胞外マトリクスタンパク質がラミニンを含む、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目18) 前記細胞支持タンパク質が、細胞の分化を改善するタンパク質を含む、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目19) 前記細胞支持タンパク質がBMP−7を含む、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目20) 前記細胞支持タンパク質が合成ペプチドを含む、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目21) 前記細胞支持タンパク質が、細胞外マトリクスタンパク質に特徴的なアミノ酸配列を含む合成ペプチドを含む、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目22) 前記配列がRGDである、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目23) 前記細胞支持タンパク質がヒトタンパク質を含む、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目24) 前記基材が膜である、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目25) 前記膜が半透膜である、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目26) 前記膜が限外濾過膜である、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目27) 前記膜が血液透析膜である、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目28) 前記膜が血液濾過膜である、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目29) 加えられた圧力に抵抗するための前記膜に対する支持を提供するように構成および配置された膜支持層をさらに備える、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目30) 前記基材が、ポリスルホンを含有するポリマーを含む、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目31) 前記基材が、ポリビニルピロリドンを含有するポリマーを含む、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目32) 前記基材が、ポリエーテルスルホンを含有するポリマーを含む、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目33) 前記基材が、再生セルロース膜を含む、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目34) 前記基材が、酢酸セルロースを含有するポリマーを含む、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目35) 前記基材が、ポリカーボネートを含有するポリマーを含む、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目36) 前記基材が、ポリ(エチレン)を含有するポリマーを含む、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目37) 前記基材が、ポリオレフィンを含有するポリマーを含む、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目38) 前記基材が、ポリプロピレンを含有するポリマーを含む、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目39) 前記基材が、ポリアミドを含有するポリマーを含む、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目40) 前記基材が、ポリアリールエーエルスルホンを含有するポリマーを含む、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目41) 前記基材が、ポリアクリロニトリルを含有するポリマーを含む、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目42) 前記基材が、ポリ(フッ化ビニリデン)を含有するポリマーを含む、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目43) 前記基材が管状の構成を有する、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目44) 前記基材が非管状構成を有する、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目45) 前記基材が実質的に平坦である、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目46) 前記基材が約50μmと約500μmとの間の厚みを有する、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目47) 前記基材が約10μmと約200μmとの間の厚みを有する、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目48) バイオ人工臓器である、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目49) バイオ人工腎臓である、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目50) 少なくとも1つの血液透析カートリッジを含む、上記項目のいずれか1項に記載の物品。
(項目51) 以下:
血液の供給源と流体連絡可能となるように配置された基材と;
該基材の少なくとも一部分の上に配置された接着剤であって、該接着剤は、カテコール部分を有する分子および/または該分子を含むポリマーを含む、接着剤と;
該接着剤の少なくとも一部分の上に配置されたタンパク質および/またはペプチドと;
該タンパク質および/またはペプチドの少なくとも一部分の上に配置された細胞と
を備える、バイオ人工臓器。
(項目52) 前記基材がポリマーを含む、上記項目に記載のバイオ人工臓器。
(項目53) 前記基材がガラスを含む、上記項目のいずれか1項に記載のバイオ人工臓器。
(項目54) 前記基材が金属を含む、上記項目のいずれか1項に記載のバイオ人工臓器。
(項目55) 前記基材がセラミックを含む、上記項目のいずれか1項に記載のバイオ人工臓器。
(項目56) 前記バイオ人工臓器がバイオ人工腎臓である、上記項目のいずれか1項に記載のバイオ人工臓器。
(項目57) 前記バイオ人工臓器が少なくとも1つの血液透析カートリッジを含む、上記項目のいずれか1項に記載のバイオ人工臓器。
(項目58) 前記基材が、血液の供給源と流体連絡可能な第一の区画を、血液濾過液の供給源と流体連絡可能な第二の区画から分離するポリマー膜である、上記項目のいずれか1項に記載のバイオ人工臓器。
(項目59) 前記接着剤が前記基材の片側のみに配置される、上記項目のいずれか1項に記載のバイオ人工臓器。
(項目60) 前記接着剤が3,4−ジヒドロキシ−L−フェニルアラニンを含む、上記項目のいずれか1項に記載のバイオ人工臓器。
(項目61) 前記タンパク質が細胞外マトリクスタンパク質である、上記項目のいずれか1項に記載のバイオ人工臓器。
(項目62) 前記細胞外マトリクスタンパク質がコラーゲンを含む、上記項目のいずれか1項に記載のバイオ人工臓器。
(項目63) 前記コラーゲンがIV型コラーゲンを含む、上記項目のいずれか1項に記載のバイオ人工臓器。
(項目64) 前記タンパク質が合成ペプチドを含む、上記項目のいずれか1項に記載のバイオ人工臓器。
(項目65) 前記タンパク質が、細胞外マトリクスタンパク質に特徴的なアミノ酸配列を含む合成ペプチドを含む、上記項目のいずれか1項に記載のバイオ人工臓器。
(項目66) 前記基材が半透膜である、上記項目のいずれか1項に記載のバイオ人工臓器。
(項目67) 前記基材が限外濾過膜である、上記項目のいずれか1項に記載のバイオ人工臓器。
(項目68) 前記基材が血液透析膜である、上記項目のいずれか1項に記載のバイオ人工臓器。
(項目69) 前記基材が血液濾過膜である、上記項目のいずれか1項に記載のバイオ人工臓器。
(項目70) 前記基材が、ポリスルホンを含有するポリマーを含む、上記項目のいずれか1項に記載のバイオ人工臓器。
(項目71) 前記基材が、ポリビニルピロリドンを含有するポリマーを含む、上記項目のいずれか1項に記載のバイオ人工臓器。
(項目72) 前記基材が、ポリエーテルスルホンを含有するポリマーを含む、上記項目のいずれか1項に記載のバイオ人工臓器。
(項目73) 前記基材が、酢酸セルロースを含有するポリマーを含む、上記項目のいずれか1項に記載のバイオ人工臓器。
(項目74) 前記基材が、ポリカーボネートを含有するポリマーを含む、上記項目のいずれか1項に記載のバイオ人工臓器。
(項目75) 前記基材が、ポリ(エチレン)を含有するポリマーを含む、上記項目のいずれか1項に記載のバイオ人工臓器。
(項目76) 前記基材が、ポリオレフィンを含有するポリマーを含む、上記項目のいずれか1項に記載のバイオ人工臓器。
(項目77) 前記基材が、ポリプロピレンを含有するポリマーを含む、上記項目のいずれか1項に記載のバイオ人工臓器。
(項目78) 前記基材が、ポリアミドを含有するポリマーを含む、上記項目のいずれか1項に記載のバイオ人工臓器。
(項目79) 前記基材が、ポリアリールエーエルスルホンを含有するポリマーを含む、上記項目のいずれか1項に記載のバイオ人工臓器。
(項目80) 前記基材が、ポリアクリロニトリルを含有するポリマーを含む、上記項目のいずれか1項に記載のバイオ人工臓器。
(項目81) 前記基材が、ポリ(フッ化ビニリデン)を含有するポリマーを含む、上記項目のいずれか1項に記載のバイオ人工臓器。
(項目82) 以下:
基材の少なくとも一部分を、カテコール部分を有する分子および/または該分子を含むポリマーを含む接着剤でコーティングする工程と;
該接着剤の少なくとも一部分を、細胞支持タンパク質でコーティングする工程と;
該細胞支持タンパク質の少なくとも一部分の上に細胞を接種する工程と
を包含する、方法。
(項目83) 前記基材がポリマーを含む、上記項目に記載の方法。
(項目84) 前記基材がガラスを含む、上記項目のいずれか1項に記載の方法。
(項目85) 前記基材が金属を含む、上記項目のいずれか1項に記載の方法。
(項目86) 前記基材がセラミックを含む、上記項目のいずれか1項に記載の方法。
(項目87) 前記基材が膜である、上記項目のいずれか1項に記載の方法。
(項目88) 前記接着剤が3,4−ジヒドロキシ−L−フェニルアラニンを含む、上記項目のいずれか1項に記載の方法。
(項目89) 前記接着剤が、基材の少なくとも一部分を、カテコール部分を有する分子および/またはそのポリマーを含む接着剤でコーティングする前記工程において、該基材の一部分に塗布される第一の溶液中に含有される、上記項目のいずれか1項に記載の方法。
(項目90) 前記第一の溶液を前記基材上にスピンコーティングする工程を包含する、上記項目のいずれか1項に記載の方法。
(項目91) 前記細胞支持タンパク質が細胞外マトリクスタンパク質を含む、上記項目のいずれか1項に記載の方法。
(項目92) 前記細胞外マトリクスタンパク質が、前記基材に塗布される第二の溶液中に含有される、上記項目のいずれか1項に記載の方法。
(項目93) 前記細胞外マトリクスタンパク質がIV型コラーゲンを含む、上記項目のいずれか1項に記載の方法。
(項目94) 前記細胞の少なくとも一部が、ヒト腎臓近位尿細管細胞である、上記項目のいずれか1項に記載の方法。
(項目95) 前記細胞支持タンパク質が合成ペプチドを含む、上記項目のいずれか1項に記載の方法。
(項目96) 前記細胞支持タンパク質が、細胞外マトリクスタンパク質に特徴的なアミノ酸配列を含む合成ペプチドを含む、上記項目のいずれか1項に記載の方法。
(項目97) 以下:
基材の少なくとも一部分を接着剤でコーティングする工程と;
該接着剤の少なくとも一部分をタンパク質でコーティングする工程と;
該タンパク質でコーティングされた該基材の少なくとも一部分の上に細胞を接種する工程
を包含し、該タンパク質が、該基材上に接種された該細胞の分化を促進する、方法。
(項目98) 前記細胞支持タンパク質が合成ペプチドを含む、上記項目に記載の方法。
(項目99) 前記細胞支持タンパク質が、細胞外マトリクスタンパク質に特徴的なアミノ酸配列を含む合成ペプチドを含む、上記項目のいずれか1項に記載の方法。
(概要)
本発明は、一般に、バイオ人工腎臓のようなバイオ人工臓器および他の用途において使用するための膜のような改変された基材に関する。特定の局面は、一般に、細胞の付着を促進するために改変された膜または他の基材に関する。一組の実施形態において、基材または膜は、例えば膜または基材の片側が、3,4−ジヒドロキシ−L−フェニルアラニン(DOPA)、ポリ(ドパミン)のような接着剤、または、カテコール部分を有する分子を含む他の接着剤で少なくとも部分的にコーティングされ得る。この基材の接着剤でコーティングされた部分の少なくとも一部分の上に、細胞外マトリクスタンパク質(例えば、コラーゲン)のようなタンパク質がコーティングされ得、ここに、初代ヒト腎近位尿細管細胞のような細胞が付着され得る。驚くべきことに、このような二重コーティングは、他の方法では細胞の付着を促進しない場合がある、膜または他の基材へのこのような細胞の付着を促進するために使用され得る。特定の実施形態では、コーティングはまた、細胞の接着だけでなく、細胞の増殖および/または分化も助長または促進し得る。このような膜または他の基材は、例えば、バイオ人工腎臓のようなバイオ人工臓器、血液透析カートリッジ、バイオ移植組織片、バイオセンサ、バイオリアクタなどにおいて有用であり得る。特定の実施形態では、細胞は、膜または他の基材の片側のみに付着され得るが、もう片側には細胞が付着されないままであり得る。
(詳細な説明)
本発明は、一般に、バイオ人工腎臓のようなバイオ人工臓器および他の用途において使用するための膜のような改変された基材に関する。特定の局面は、一般に、細胞の付着を促進するために改変された膜または他の基材に関する。一組の実施形態において、基材または膜は、例えば膜または基材の片側が、3,4−ジヒドロキシ−L−フェニルアラニン(DOPA)、3,4−ジヒドロキシ−D−フェニルアラニン、ポリ(ドパミン)、ポリ(DOPA)、ポリ(3,4−ジヒドロキシ−D−フェニルアラニン)のような接着剤、または、カテコール部分を有する分子を含む他の接着剤で少なくとも部分的にコーティングされ得る。この基材の接着剤でコーティングされた部分の少なくとも一部分の上に、細胞外マトリクスタンパク質(例えば、コラーゲン)のようなタンパク質がコーティングされ得、ここに、初代ヒト腎近位尿細管細胞のような細胞が接着され得る。驚くべきことに、このような二重コーティングは、他の方法では細胞の接着を促進しない場合がある、膜または他の基材へのこのような細胞の付着を促進するために使用され得る。特定の実施形態では、コーティングはまた、細胞の接着だけでなく、細胞の増殖および/または分化も助長または促進し得る。このような膜または他の基材は、例えば、バイオ人工腎臓のようなバイオ人工臓器、血液透析カートリッジ、バイオ移植組織片、バイオセンサ、バイオリアクタなどにおいて有用であり得る。特定の実施形態では、細胞は、膜または他の基材の片側のみに付着され得るが、もう片側には細胞が付着されないままであり得る。
本発明の特定の実施形態に従って提供される膜または基材は、血液が、被験体から引き抜かれ、そして、そのデバイス内へ/デバイスを通して通過させられるバイオ人工臓器デバイスのような用途において使用され得る。すなわち、例えば、膜または他の基材は、例えば、ヒトまたは非ヒト動物のような被験体の血液の供給源と流体連絡可能となるように、デバイス内に配置され得る。基材/膜は、基材/膜の第一の部分が実質的に細胞を含まない一方で、基材/膜の第二の部分が付着された細胞を含むように処理され得る。一組の実施形態において、これらの領域は、例えば、基材または膜が、血液に露出される一方のチャンバを、付着した細胞を含む別のチャンバから分離するように、基材または膜の反対側に位置し得、これらの細胞は、血液と相互作用可能であるか、または、それらの部分が膜を横切って通過可能である。例えば、膜は、限外濾過膜、血液透析膜、血液濾過膜、および/または、半透膜であり得、ここでは、例えば、以下に考察されるように、血液の1以上の成分が第一のチャンバから、膜を横切って、第二のチャンバへと通過可能であり、一方で、血液細胞のような細胞および血液からの他の成分(例えば、血清タンパク質またはフィブリン)が、血液に直接露出された膜の領域には実質的に付着することができない。これに対し、第二のチャンバでは、膜に付着した1以上の細胞または細胞の型が存在し得、これらの細胞または細胞の型は、例えば、血液を浄化する、化学反応を引き起こす、血液に物質を追加するか、または血液から物質を取り除く、などのために、膜を横切って輸送される血液の成分と相互作用し得る。バイオ人工腎臓の場合、特定の非限定的な例として、細胞は、その細胞が露出されている限外濾過液から、血液中に水、グルコース、タンパク質および/または小さな溶質を輸送するために使用され得、そして/または、これらの細胞は、(その細胞によって産生された)1,25−ジヒドロキシビタミンD3のような他の物質を血液中に産生または分泌することを可能にし得る。
特定の例として、バイオ人工臓器は、バイオ人工腎臓、または、透析のために使用される血液透析カートリッジであり得る。バイオ人工腎臓の非限定的な例は、図1を参照して以下に検討される。血液透析カートリッジの多くの型が容易に商業上入手可能である。膜は、被験体から引き抜かれた血液を含む第一のチャンバを、細胞を含む第二のチャンバから分離するためにこのようなデバイスにおいて使用され得、これらの細胞は、膜を横切って輸送される血液の成分と相互作用可能である。第二のチャンバはまた、限外濾過液を含み得、細胞はこの濾過液から物質を再吸収することが可能である。しかしながら、第二のチャンバ内の細胞は、例えば、基材または膜の存在によって、流出して、被験体の血液に入ることは不可能であり得る。
代表的には、バイオ人工腎臓は、2つ(またはそれより多く)のユニット、例えば、血液透析カートリッジまたは血液濾過カートリッジのような2つのカートリッジを含む。第一のユニットは、通常の血液濾過を行うために使用され得、例えば、ここでは、尿毒症の毒素を含む限外濾過液が血液から分離される。第一のユニットは、いかなる固定化された腎細胞を含まない可能性がある。次に、限外濾過液および血液は、第二のユニットへと流れ得、この第二のユニットは、本明細書中に記載されるもののような細胞を含み得る。限外濾過液は、細胞が存在するのと同じチャンバ内(例えば、中空糸膜の管腔内)にあり、一方で、血液は、異なるチャンバ内(例えば、中空糸膜の外側)にある。第二のユニット内の細胞は、例えば、本明細書中に考察されるように、血流と限外濾過液との間で物質を交換可能であり得る。バイオ人工腎臓の非限定的な例は、Zinkらによる国際特許出願第PCT/SG2010/000380号(2010年10月6日出願、発明の名称「Delivery of BMP−7 and Methods of Use Thereof」;およびYingらによる国際特許出願第PCT/SG2010/000377号(2010年10月4日出願、発明の名称「Improved Bioartificial Kidneys」)に見られ得、これらは各々が本明細書中に参考として援用される。別の例として、肝細胞は、血液からの物質を解毒するか、または、血液中で見られるタンパク質、アミノ酸、炭水化物などと相互作用するように機能し得る。さらに別の例として、膵臓β細胞は、被験体の血液内の血中グルコースレベルに応じてインシュリンを産生するために使用され得る。例えば、処置または治療の目的のために、このような細胞を、被験体から取り出された血液と相互作用可能にさせ、一方で(例えば、血液が被験体に戻されるときに)被験体の血液および/または身体にこのような細胞が入る能力を低減ないし排除することが望ましい場合がある。
本発明に従って修飾可能な膜または他の基材は、任意の適切な材料、例えば、ポリマーもしくはプラスチック、ガラス、セラミック、金属など、ならびに、これらおよび/または他の材料の組合せから形成され得る。いくつかの実施形態では、基材または膜は、血液からの成分の濾過または輸送を可能にし得、同時にこれらの基材または膜を通る細胞のアクセスまたは輸送を防ぐ、1以上の穴、孔、チャネル、経路などを含み得る。例えば、膜は、半透膜(例えば、拡散および/または対流(convection)によって特定の分子および/またはイオンのみを通過させる膜)および/または限外濾過膜(例えば、約1マイクロメートル未満、約500nm未満、約300nm未満、約100nm未満、約50nm未満、約30nm未満、約10nm未満、約5nm未満、約3nm未満などの平均孔径を有する膜)であり得る。このような孔径は、例えば、BETまたは水銀ポロシメトリーを用いて決定され得るか、または、電子顕微鏡法を用いて推定され得る。
いくつかの実施形態では、膜または基材は、例えばタンパク質の選択性を制御するために使用され得る孔径を有し得る。例えば、膜は、約10%未満、約5%未満、約2%未満、約1%未満、約0.5%未満、約0.2%未満、約0.1%未満などの、(例えば、血液内で代表的に見られるタンパク質の)総タンパク質浸透性を有し得る。いくつかの場合、膜の孔径は、膜が、予め決められた分子量カットオフ(MWCO)値を有し得るように選択され得る。例えば、膜は、約50,000Da未満、約30,000Da未満、約20,000Da未満、約10,000Da未満、約5,000Da未満、約2,000Da未満、約1,000Da未満などのMWCOを有し得る(当業者に理解されるように、MWCOは、厳密な数値限定としてではなく、孔径に関する指標または推定値として一般に使用される)。特定の非限定的な例として、いくつかの実施形態では、膜は、血液から尿毒症性の物質(例えば、尿素およびクレアチニン)を選択的に除去し、一方で、有用なタンパク質(例えば、アルブミン)の漏れを防ぐことが可能である。
いくつかの実施形態では、膜または他の基材は、ポリマーから形成されるか、または、ポリマーを含む。ポリマーは、用途における使用に適した任意のポリマーであり得、その用途では、膜または他の基材は、血液と相互作用することが意図され、いくつかの場合には、血液から(例えば、ヒト被験体のような血液の供給源から)細胞を分離するために使用される。ポリマーは、例えば、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ならびに/または、これらおよび/もしくは他のポリマーの任意の組合せ(例えば、PES/PVPおよびPSF/PVP)、ならびに、本明細書中で言及されるポリマーのうちの任意のもののコポリマーであり得る。なお別の例としては、FullcureTM(Objet Geometries,Inc.)のようなアクリルベースの光重合体が使用され得る。なお別の例として、ポリマーは、再生セルロースであり得る。本明細書中に記載される構造を形成するために使用され得るポリマーのさらなる例としては、以下が挙げられるがこれらに限定されない:酢酸セルロース、ポリアリールエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、ポリビニルブトリル(polyvinylbutryl)、ポリビニルピリジル、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、エチレン−プロピレンゴム類(EPDMまたはEPR)、塩素化ポリエチレン(CPE)、エチレンビスアクリルアミド(EBA)、アクリレート類(例えば、アルキルアクリレート類、グリコールアクリレート類、ポリグリコールアクリレート類、エチレンエチルアクリレート(EEA))、水素化ニトリルブタジエンゴム(HNBR)、天然ゴム、ニトリルブタジエンゴム(NBR)、特定のフルオロポリマー類、シリコーンゴム、ポリイソプレン、エチレン酢酸ビニル(EVA)、クロロスルホニルゴム、フッ化ポリ(アリーレンエーテル)(FPAE)、ポリエーテルケトン類、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド類、ジエポキシド類、ジイソシアネート類、ジイソチオシアネート類、ホルムアルデヒド樹脂、アミノ樹脂、ポリウレタン類(plyurethanes)、不飽和ポリエーテル類、ポリグリコールビニルエーテル類、ポリグリコールジビニルエーテル類、ポリ(無水物)類、ポリオルトエステル類、ポリホスファゼン類、ポリブチレン類、ポリカプロラクトン類(polycapralactones)、ポリカーボネート類、ならびにアルブミン、コラーゲンおよび多糖類のようなタンパク質ポリマー類、これらのコポリマー、ならびに、このようなポリマーのモノマー。
本明細書中に記載される膜または他の基材を形成するために使用され得るポリマーのなお他の例としては、以下が挙げられるがこれらに限定されない:ポリアミン類(例えば、ポリ(エチレンイミン)およびポリプロピレンイミン(PPI));ポリアミド類(例えば、ポリアミド(Nylon)、ポリ(ε−カプロラクタム)(Nylon 6)、ポリ(ヘキサメチレンアジパミド)(Nylon 66))、ポリイミド類(例えば、ポリイミド、ポリニトリルおよびポリ(ピロメリットイミド(pyromellitimide)−1,4−ジフェニルエーテル)(Kapton));ビニルポリマー類(例えば、ポリアクリルアミド、ポリ(2−ビニルピリジン)、ポリビニルピロリドン)、ポリ(メチルシアノアクリレート)、ポリ(エチルシアノアクリレート)、ポリ(ブチルシアノアクリレート)、ポリ(イソブチルシアノアクリレート)、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(フッ化ビニル)、ポリ(2−ビニルピリジン)、ビニルポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレンおよびポリ(イソヘキシルシアノアクリレート));ポリアセタール類;ポリオレフィン類(polyolefms)(例えば、ポリ(ブテン−1)、ポリ(n−ペンテン−2)、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン);ポリエステル類(例えば、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヒドロキシブチレート);ポリエーテル類(ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリ(プロピレンオキシド)(PPO)、ポリ(テトラメチレンオキシド)(PTMO));ビニリデンポリマー類(例えば、ポリイソブチレン、ポリ(メチルスチレン)、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)、ポリ(塩化ビニリデン)およびポリ(フッ化ビニリデン));ポリアラミド類(例えば、ポリ(イミノ−1,3−フェニレンイミノイソフタロイル)およびポリ(イミノ−1,4−フェニレンイミノテレフタロイル));ポリ複素芳香族化合物類(例えば、ポリベンゾイミダゾール(PBI)、ポリベンゾビスオキサゾール(PBO)およびポリベンゾビスチアゾール(PBT));ポリ複素環式化合物類(例えば、ポリピロール);ポリウレタン類;フェノール系ポリマー類(例えば、フェノール−ホルムアルデヒド);ポリアルキン類(例えば、ポリアセチレン);ポリジエン類(例えば、1,2−ポリブタジエン、cis−またはtrans−1,4−ポリブタジエン);ポリシロキサン類(例えば、ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS)、ポリ(ジエチルシロキサン)(PDES)、ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)、ポリ(エチレン)(PE)、ポリオレフィン、ポリジフェニルシロキサン(PDPS)およびポリメチルフェニルシロキサン(PMPS));ならびに、無機ポリマー類(例えば、ポリホスファゼン、ポリホスホネート、ポリシラン類、ポリシラザン類)。使用され得るさらなるポリマーは、Yingらによる国際特許出願第PCT/US2006/035610号(発明の名称「Porous Polymeric Articles」、2006年9月12日出願、2008年1月10日にWO 2008/005035として公開)に記載され、この出願は本明細書中に参考として援用される。いくつかの実施形態では、Pall OmegaTMメンブレン(Pall Corporation)のような市販の膜が使用され得る。
他の物質が、ポリマーの代わりに、または、ポリマーに加えて、基材において使用され得る。例えば、基材は、ガラス、金属、セラミック、半導体などを含み得る。
いくつかの実施形態において、膜または他の基材は、膜または基材に対して抗付着(anti−fouling)特性を与える1以上の組成物で処理され得るか、または、このような組成物を含み得る。例えば、膜または他の基材は、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、3−メチルアクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、または、他の非付着性(non−fouling)組成物を含み得る。
いくつかの実施形態では、膜または他の基材は、所望の性能特性を生じるように選択され得る。例えば、膜の厚みを減らすと、一方の側面からもう一方の側面までの流体が流れなければならない距離を短縮することによって、より効率的な限外濾過が可能となり得る。膜の厚みは、いくつかの実施形態では、50マイクロメートルと500マイクロメートルとの間、50マイクロメートルと400マイクロメートルとの間、50マイクロメートルと300マイクロメートルとの間、50マイクロメートルと200マイクロメートルとの間、100マイクロメートルと500マイクロメートルとの間、100マイクロメートルと400マイクロメートルとの間、または、200マイクロメートルと400マイクロメートルとの間であり得る。
しかしながら、厚みを減らすことはまた、膜または基材の機械的強度も低下させ得る。したがって、いくつかの実施形態では、マクロ多孔性(macroporous)の支持層が、膜または他の基材を補強するために使用され得る。例えば、支持層は、例えば限外濾過液または血液濾過液の供給源と流体連絡した、バイオ人工腎臓(または他のバイオ人工臓器)において、膜または他の基材に隣接して配置され得る。任意の適切な生体適合性材料が支持層を製造するために使用され得る。いくつかの実施形態では、支持層は、膜または他の支持体と比してマクロ多孔性であり得る。支持層を製造するために使用され得るポリマーの非限定的な例としては、上記のポリマーが挙げられる。支持層と膜または基材とはまた、同じ材料から形成されても、異なる材料から形成されてもよい。
膜または基材は、任意の適切な形状および構成を有し得る。例えば、膜は、(例えば、中空糸透析カートリッジまたは血液透析カートリッジにおいてのような)管状構成、または、非管状構成を有し得る。いくつかの実施形態では、膜は、実質的に平らなシートの形状であり得る。例えば、膜はディスク様もしくはプレート様であり得、厚みは、膜の幅、長さまたは直径よりもかなり小さい。
特定の局面では、細胞は、本発明の膜または基材を組み込んだデバイス内に組み込まれ得る。しかしながら、このようなデバイスにおいて、細胞から血液を分離するために使用される膜または他の基材は、代表的には、有益かつ同時に、細胞側への細胞の(例えば、腎細胞または肝細胞のような細胞の)接着を促進し、一方では、血液側への細胞の(例えば、血小板またはマクロファージのような細胞の)接着を低減または阻害する。このような機能を提供する1つの方法は、異なる側面には異なる特性を持つ膜または基材を使用することである。例えば、一方の側面は、比較的疎細胞性(cytophobic)であり得るのに対し、もう一方の側面は、比較的親細胞性(cytophilic)である。したがって、一組の実施形態では、比較的疎細胞性の膜および/または血液適合性(hemocompatible)な膜または他の基材が使用され、ここで、膜の一方の側面は、比較的疎細胞性となるように処理される。血液適合性膜の例としては、血液透析において使用するために市販されているものが挙げられる;これらの膜はしばしば、細胞、ならびに血清アルブミンおよびフィブリンのような血液タンパク質の接着の低減を示す。例えば、以下に考察されるように、膜または他の基材の一方の側面は、必要に応じて膜への細胞支持タンパク質の結合を促進するための接着剤を介して、細胞支持タンパク質でコーティングされ得る。
いくつかの実施形態では、膜または他の基材に接着される1以上のタンパク質が存在し得る。例えば、膜または他の基材は、1以上の細胞支持タンパク質を含み得る。「細胞支持タンパク質」は、少なくとも接着を促進し、そしてまた、そのタンパク質が付着されるか、またはそのタンパク質と接した細胞の増殖および/または分化を促進し得る、任意のタンパク質またはペプチドであり得る。例えば、膜または他の基材に付着され、そして、必要に応じて分極した上皮を形成する、適切な細胞(例えば、バイオ人工腎臓については、ヒト腎近位尿細管細胞)の数が、細胞支持タンパク質が存在する場合に、細胞支持タンパク質が存在しない場合よりも多くなり得る。細胞支持タンパク質は、天然のものであっても、合成のものであってもよく、そして、ヒトのものであっても、ヒト由来のものであっても、ヒト別の生物由来のものであっても(例えば、マウスタンパク質)、人工的に作り出されたものであってもよい。細胞支持タンパク質は、任意の適切な供給源、例えば、合成されたもの、細胞内でインビトロで増殖させたもの、特定の生物から取得したものなどから入手され得る。本明細書中で使用される場合、用語「タンパク質」および「ペプチド」は交換可能である、すなわち、当業者によって理解されるように、タンパク質とペプチドとの間には、残基の長さまたは数の点で、特定の同意を得たカットオフは存在しないことに留意すべきである。細胞支持タンパク質の例としては、例えば、細胞外マトリクスタンパク質および/またはポリカチオン性ペプチドが挙げられる。
いくつかの実施形態では、膜もしくは他の基材上、または、少なくともその一方の表面上のタンパク質の少なくとも約50%が、細胞外マトリクスタンパク質のような細胞支持タンパク質であり、特定の場合、膜または他の基材上のタンパク質の少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%または少なくとも約99%が細胞支持タンパク質である。いくつかの場合、細胞支持タンパク質の少なくとも一部は、1以上の細胞外マトリクスタンパク質を含み得、そして特定の実施形態においては、膜または他の基材上の細胞支持タンパク質の少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%または少なくとも約99%が、1以上の細胞外マトリクスタンパク質を含む。
広範な種々の細胞支持タンパク質が使用され得る。細胞支持タンパク質は、細胞の分化、細胞の接着、細胞の伸展(spreading)、細胞の移動などを向上させるタンパク質であり得る。細胞支持タンパク質として有用であるか、または有用である可能性がある、適切な細胞外マトリクスタンパク質の非限定的な例としては、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、エラスチン、テネイシン、または種々のコラーゲン類(例えば、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン、IV型コラーゲン、V型コラーゲン、VI型コラーゲン、VII型コラーゲン、VIII型コラーゲン、IX型コラーゲン、X型コラーゲン、XI型コラーゲン、XII型コラーゲン、XIII型コラーゲン、XIV型コラーゲン、XV型コラーゲン、XVI型コラーゲン、XVII型コラーゲン、XVIII型コラーゲン、XIX型コラーゲン、XX型コラーゲン、XXI型コラーゲン、XXII型コラーゲン、XXIII型コラーゲン、XXIV型コラーゲン、XXV型コラーゲン、XXVI型コラーゲン、XXVII型コラーゲン、XXVIII型コラーゲンまたはXXIX型コラーゲン)が挙げられる。コラーゲンは、任意の適切な供給源、例えば、ヒト胎盤コラーゲン、皮膚コラーゲンなどに由来し得る。細胞支持タンパク質として使用するために適しているか、または、適している可能性がある、ポリカチオン性ペプチドの例としては、ポリ−L−リジン、ポリ−L−アルギニン、ポリ−L−ヒスチジン、ならびに/あるいは、これら、および/または、他の適切なポリカチオン性ペプチドもしくは他の種のコポリマーもしくはブレンドが挙げられるがこれらに限定されない。細胞支持タンパク質のなお他の例としては、RGD配列(アルギニン−グリシン−アスパラギン酸)を含むタンパク質が挙げられ、この配列は、上記のもののような細胞外マトリクスタンパク質において一般に見出される配列である。このような配列は、特定の細胞外マトリクスタンパク質から誘導され得るか、さもなくば、特定の細胞外マトリクスタンパク質において見出され得、すなわち、この配列は、細胞外マトリクスタンパク質に特徴的なものであり得る。なお別の例として、細胞支持タンパク質は、細胞外マトリクスタンパク質に特徴的な配列(例えば、RGD配列)を含む合成ペプチドであり得る。いくつかの場合、細胞支持タンパク質は、基材または膜上での細胞の細胞分化を促進し得る。このようなタンパク質の1つの非限定的な例は、骨形成タンパク質7(BMP−7)である。例えば、Zinkらによる、国際特許出願第PCT/SG2010/000380号(2010年10月6日出願、発明の名称「Delivery of BMP−7 and Methods of Use Thereof」;本明細書中に参考として援用される)を参照のこと。
いくつかの局面において、細胞外マトリクスタンパク質のようなタンパク質は、接着剤を用いて、膜または他の基材に対して接着され得るか、さもなくば、固定化され得る。接着剤は、タンパク質と膜または他の基材との間に配置され得、そして、(タンパク質、接着剤および膜/基材の性質に依存する)任意の適切な機構(例えば、共有結合、非共有結合、イオン性の力、ファンデルワールス相互作用、水素結合、物理的な挿入(intercalation)など)によって、膜または他の基材に対するタンパク質の接着を引き起こし得るか、または、増強し得る。接着剤は、接着剤の非存在下で接着され得るタンパク質の量または濃度と比して、膜または他の基材に対して接着または固定化されるタンパク質の量または濃度を増加させ得る、あらゆる適切な物質であり得る。いくつかの実施形態では、接着剤は、膜または他の基材の片側のみに配置される。
一組の実施形態では、接着剤は、カテコール部分、例えば、以下:
のような部分を有する分子を含み、上記式において、波線は、例えば、カテコール部分を含む以下の例に示されるように、この部分の、分子の残りへの付着点を示す。すなわち、このような接着剤の非限定的な例としては、3,4−ジヒドロキシ−L−フェニルアラニン(DOPA)および3,4−ジヒドロキシ−L−フェニルアラニン−リジンが挙げられる。いくつかの場合、接着剤は、ポリ(ドパミン)、ポリ(ドパミンメタクリルアミド−co−メトキシエチルアクリレート)(pDMA−co−MEA)、PEG−DOPAなどのような、カテコール部分を含むポリマーまたはコポリマーであるか、または、これらのポリマーまたはコポリマーを含む。DOPAは以下の構造:
を有する。pDMA−co−MEAは以下の構造:
を有する。
加えて、他の実施形態では、これらおよび/または他の接着剤(例えば、カテコール部分を有する分子を含む他の接着剤)の組合せが使用され得る。
いかなる理論にも束縛されることは望まないが、カテコール性アミノ酸を含む分子を含む接着剤は、特定のタンパク質の固体化(solidification)につながる特定の架橋反応に関与し得ると考えられ、この場合、この架橋反応には、Fe3+のような金属イオンについて役割が存在し得る。すなわち、いくつかの場合、酸化されたカテコール性アミノ酸残基が接着剤の固体化につながる架橋反応において役割を担い得る。加えて、架橋は別にして、DOPAは、配位、共有結合、水素結合などを介して、種々の化学的に異なる表面(有機および無機)に対して高い親和性を有することが知られている。また、いくつかの実施形態では、DOPAのような接着剤は、基材の表面をコーティングするか、および/または、変換するか、および/または、表面と反応して、特定の場合には、細胞支持タンパク質の非存在下でさえも、基材の表面をより親細胞性の形態に変え得る。例えば、細胞支持タンパク質での処理の後にDOPAまたは他のこのような接着剤で処理された基材は、細胞支持タンパク質では処理されているが、DOPAまたは他の接着剤は用いていない同様の表面よりも良好な細胞接着特性を示し得る。
このように、本発明の種々の実施形態において、1以上の細胞および/または細胞型は、膜または他の基材上に配置された細胞支持タンパク質上に配置され得、この配置は、例えば、接着剤を介してそこに付着または接着されることによってなされる。表面は、部分的または完全に細胞で覆われ得る。用途に応じて、任意の適切な細胞が使用され得る。例えば、細胞は、ヒトおよび/または非ヒトの細胞、例えば、非ヒト哺乳動物細胞を含み得る。細胞の特定の非限定的な例としては、腎細胞(例えば、腎近位尿細管細胞)、肝細胞(例えば、肝実質細胞)、リンパ球(lymphocyte)、膵臓β細胞(例えば、血中に送達するためのインシュリンを産生するためのもの)、リンパ細胞(lymph cell)などが挙げられる。さらなる非限定的な例として、細胞は、初代細胞、非不死化細胞、幹細胞(例えば、胚性幹細胞、間葉系幹細胞および人工多能性(iPS)幹細胞)、分化細胞(例えば、幹細胞から得られるもの)などを含み得るか、または、本質的にこれらからなり得る。
特定の非限定的な例として、膜または他の基材上の細胞は、例えば、バイオ人工腎臓のような用途のために、腎近位尿細管細胞を含み得、バイオ人工腎臓は、このような細胞を含む1以上の血液透析カートリッジを備え得る。いくつかの場合、本明細書中で考察されるように、細胞は、膜または他の基材の一方の表面上にのみ、例えば、デバイスの血液側から隔離された側に配置される。特定の実施形態において、細胞は、膜の少なくとも一部分の上に連続した層を形成し得、その結果、限外濾過液は、腎近位尿細管細胞層を通過することなく膜を通過できない。例えば、いくつかの実施形態では、細胞は、膜上でコンフルエントな上皮を形成する。特定の実施形態では、細胞近傍の(paracellular)空間が、接着結合によって密封され得る。いくつかの場合、細胞は、膜の表面上に単層を形成することが可能である。
一組の実施形態では、腎近位尿細管細胞は、他の細胞と同時に培養される。例えば、特定の実施形態では、腎近位尿細管細胞は、腎細胞型(例えば、遠位尿細管細胞、集合尿細管細胞(collecting duct cell)、有足突起および腎線維芽細胞)または内皮細胞と同時に培養され得る。いくつかの実施形態では、腎近位尿細管細胞の性能(例えば、物質を再吸収する能力)は、同時培養において改善され得る。
いくつかの実施形態では、例えば、Zinkらによる国際特許出願第PCT/SG2010/000380号(2010年10月6日出願、発明の名称「Delivery of BMP−7 and Methods of Use Thereof」;この出願は本明細書中に参考として援用される)において考察されるように、1以上の因子が、腎近位尿細管細胞の形態およびコンフルエンスの形成および/または維持を促進するために使用され得る。例えば、いくつかの実施形態では、骨形成タンパク質7(BMP−7)が因子として使用され得る。いくつかの実施形態では、1以上の因子は、BAK内から制御された様式で放出され得る。いくつかの場合、1以上の因子は、腎尿細管細胞内で産生され得る。
加えて、本発明のいくつかの局面は、本明細書中に記載されるもののようなポリマー膜を製造するためのシステムおよび方法に関する。例えば、ポリマー膜または他の基材は、接着剤(例えば、カテコール部分を有する分子を含む接着剤)でコーティングされ得る。膜もしくは他の基材、またはこれらの一部分は、まず、このような接着剤または接着剤の前駆物質を含む溶液に曝露され得る。例えば、膜もしくは基材が溶液中に浸漬され得るか、溶液が膜もしくは基材の上に塗られ得るか、または、溶液が、スピンコーティング(spin−coating)技術を用いて膜もしくは基材に付加され得る。溶液は、次に、(例えば、待つか、加熱するか、乾燥環境に曝露するなどによって)必要に応じて乾燥させられ得、そして必要に応じて、例えば、p(DMA−co−MEA)を形成するためのDMAおよびMEAモノマーのフリーラジカル共重合によって、乾燥溶液内で重合が誘導され得るが、特定の用途においては、膜は、(例えば脱イオン水を用いて)洗浄されるのみで、乾燥されない場合がある。
一度十分な乾燥が生じると、接着剤は、1以上の細胞支持タンパク質(例えば、細胞外マトリクスタンパク質または本明細書中で考察される他のタンパク質(複数可))を含む別の溶液でコーティングされ得る。タンパク質でのコーティングは、例えば、上で記載したもののような技術を用いて実施され得る。コーティングプロセスは、接着剤で用いられるコーティングプロセスと同じであっても異なっていてもよい。コーティングはまた、例えば、上で記載したもののような技術を用いて乾燥され得る。接着剤は、細胞支持タンパク質の基材への接着を促進し得る。しかしながら、いくつかの実施形態では、いくつかの細胞支持タンパク質は、少なくとも部分的に、これらの領域における接着剤の存在なしに、膜または他の基材に接着することが可能であり得る。
一度十分に乾燥または洗浄されると、1以上の細胞または細胞型が、膜または他の基材の上に(例えば、少なくとも細胞支持タンパク質でコーティングされた膜/基材の部分の上に)播種もしくはプレーティングされ得る。例えば、細胞支持タンパク質が配置される基材の部分の上に、例えば、細胞を含む溶液を基材上に塗布することによってなど、基材上に細胞を播種するための任意の適切な技術が使用され得る。いくつかの場合、膜または基材の他の部分にも同様に播種され得る。
加えて、本発明の特定の局面は、一般に、バイオ人工腎臓すなわちBAKに関する。バイオ人工腎臓の非限定的な例は、Yingらによる国際特許出願第PCT/SG2010/000377号(2010年10月4日出願、発明の名称「Improved Bioartificial Kidneys」)に見出され得、この出願はその全体が本明細書中に参考として援用される。いくつかの実施形態では、BAKは、限外濾過ユニットとバイオリアクタユニット(例えば、固定化された細胞を含むもの)を含み得る。いくつかの実施形態では、限外濾過ユニットとバイオリアクタユニットとは、単一のハウジング内に収容され得、この単一のハウジングは、特定の場合には、限外濾過ユニットを含む第一の堅い壁で囲まれた区画と、バイオリアクタユニットを含む第二の堅い壁で囲まれた区画とに区分され得る。特定の他の実施形態においては、単一のハウジングは、限外濾過セクション(限外濾過ユニット)を形成する膜(複数可)と、バイオリアクタユニットを形成する膜(複数可)の両方を含む単一の堅い壁で囲まれた区画のみを含み得る。特定の実施形態では、限外濾過ユニットおよびバイオリアクタユニットは、各々が物理的に隔てられた、独立の可動式ハウジング内に含まれ、ここで、これらのハウジングは、互いに流体連絡して接続される。
バイオリアクタユニットは一般に、再吸収膜を含み、この膜の少なくとも一部は、その上に複数の腎近位尿細管細胞が配置され得、ここで、腎近位尿細管細胞は、選択的に分子を輸送し、そして、溶質がこの再吸収膜を通過することを選択的に可能にする。特定の実施形態では、複数のヒト腎近位尿細管細胞は、バイオリアクタユニットの膜の少なくとも一部の上で細胞の単層を実質的に形成し、そして、特定のこのような実施形態においては、複数のヒト腎近位尿細管細胞は、バイオリアクタユニットの膜の少なくとも片側の実質的に全体において、細胞の単層を実質的に形成する。いくつかの実施形態では、バイオリアクタユニットは、実質的に平らなデバイス(例えば、デバイスの幅、長さまたは直径よりもかなり小さい厚みを有するディスク様またはプレート様)として構成され得、腎近位尿細管細胞層の改善された保全、および、腎近位尿細管細胞層のより容易なモニタリング、ならびに、特定の実施形態においては、より大きい携帯性および装着性といった、有益な特性を与え得る。他の実施形態では、再吸収ユニットは、中空糸の濾過または透析カートリッジを含む。
中空糸BAKの非限定的な例が図1に示される。BAK 100は、被験体の循環系111と流体連絡する入口110を備える。血液は、入口を通って濾過ユニット120内に流れる。濾過ユニットは、流体は通過できるが細胞は通過できない複数の中空糸膜121を備える。「限外濾過液(ultrafiltrate)」は、この膜を通過した流体をいう。「保持液(retentate)」は、膜を横切らない血液の部分をいう。血液は、濾過ユニットの中空糸内に流れ、そして、血液からの流体が、中空糸膜を通過して、中空糸の外部にある空間122内に限外濾過液の形成を生じる。保持液123および限外濾過液124は、次に、バイオリアクタユニット130内に流れる。バイオリアクタユニットは中空糸膜131を備え、この中に、濾過ユニットからの限外濾過液が流れる。濾過ユニットからの保持液は、中空糸の外側にある空間132内に流れる。バイオリアクタユニットの中空糸の内部表面は、その上部に播種された腎近位尿細管細胞133を有する。濾過ユニットからの限外濾過液は、バイオリアクタユニットの中空糸内に流れ、ここで、腎近位尿細管細胞と接する。限外濾過液からの流体の一部が、腎近位尿細管細胞が播種された中空糸を通過して、中空糸の外側にある空間内へと入る。この流体は、本明細書において、「再吸収液(reabsorbate)」と称される。腎臓の尿細管と同様に、ヒト近位尿細管細胞は、グルコース、水およびイオンのような重要な物質の再吸収および代謝の調節において、その生物学的な機能を果たし得る。いくつかの非限定的な実施形態では、治療的に活性なタンパク質または他の因子は、バイオリアクタユニット内の細胞および/または別の成分(例えば、図1においてBMP−7 140によって例証される)によって放出され得る。残りの限外濾過液135は、BAKから出て、廃液容器内へと流れる。いくつかの実施形態では、組み合わされた保持液および再吸収液136が、BAKから流れ出て、被験体の循環系内に戻る。いくつかの実施形態では、平底型(flat−bed)BAKは、例えば、Yingらによる国際特許出願第PCT/SG2010/000377号(2010年10月4日出願、発明の名称「Improved Bioartificial Kidneys」)に記載されるように使用され得、この出願は、本明細書中に参考として援用される。
以下の文献が、本明細書中に参考として援用される:Zinkらによる国際特許出願第PCT/SG2010/000380号(2010年10月6日出願、発明の名称「Delivery of BMP−7 and Methods of Use Thereof」);および、Yingらによる国際特許出願第PCT/SG2010/000377号(2010年10月4日出願、発明の名称「Improved Bioartificial Kidneys」)。
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態を例示することが意図されるが、本発明の全範囲を例示するものではない。
実施例1
バイオ人工腎臓(BAK)は、従来の血液濾過器(hemofilter)を、腎近位尿細管細胞のような腎細胞を含むバイオリアクタと直列で組み合わせる。これらの細胞は、グルコース、アミノ酸、炭酸水素塩、電解質および水の再吸収、毒素および生体異物の分泌、1,25−ジヒドロキシビタミンD3の産生、免疫調節機能などの機能を提供し得る。ヒト初代腎近位尿細管細胞(HPTC)は、臨床治験において使用されており、そしてこれらは、BAK用途に効果的である。
近位尿細管細胞は、代表的には適切に分化され、そして、BAKの多孔性膜上に接着結合によって密閉されるコンフルエントな上皮を形成し得る。万一これが生じない場合、いくつかの場合では、細胞の機能は弱められる場合がある。このような条件下では、BAK全体は、依然として、通常の血液濾過デバイスの機能を行い得るが、限外濾過液の成分が、バイオリアクタユニット内の血液へと戻る拡散が生じ得る。
この実施例は、多様なポリマー膜上での、未処理であるか、または、異なる表面処理およびコーティングの手法に供されたかのいずれかのヒト腎近位尿細管細胞の性能を検討する。
51kDaの平均分子量(MW)を持つPES(Ultrason(登録商標)E6020P)をBASF(Ludwigshafen,Germany)から購入した。PVP(25kDaの平均MW)をMerck(Singapore)から購入した。N−メチル−2−ピロリドン(NMP)(Merck,Darmstadt,Germany)およびN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc,Sigma−Aldrich,Singapore)を溶媒として使用した。PSF(22kDaの平均MW)、ポリ(エーテルイミド)(PEI、12kDaの平均MW)、ポリ(無水マレイン酸−alt−1−オクタデセン)(PA−18、約30〜50kDaのMW)、ポリ−L−リジン(PLL、0.01%)、3,4−ジヒドロキシ−L−フェニルアラニン(DOPA)および過酸化水素(31%)をSigma−Aldrichから購入した。市販の再生セルロース膜(Millicell(登録商標)−HA)をMillipore(Cork,Ireland)から購入し、市販のポリ(エチレンテレフタラート)(PET,Transwell(登録商標))膜を、Corning(Corning,NY,USA)から入手した。
PES/PVP、PSF/PVPおよびPSF膜の調製および表面処理:PES/PVP膜およびPSF/PVP膜は、相反転法により調製した。簡単に述べると、PESおよびPVPを、18/8/74重量%のPES/PVP/NMPの最終組成でNMP中に溶解させた。約5mlのポリマー溶液をシリコンウエファー上に導入し、市販のスピンコーティング装置(CEE 100CB Coat Bake System,Brewer Science,Rolla,MO,USA)を用いることにより、1500rpmで30秒間回転させた。回転の後、ウエファーを直接水浴中に浸漬させた。シリカウエファーから自然に剥がれた後、このPES/PVP膜を大量の脱イオン(DI)水で洗浄し、使用前に室温にてDI水中に保存した。同様に、PSF/PVP膜およびPSF膜を、それぞれ、20/5/75重量%のPSF/PVP/NMPまたは25/75重量%のPSF/NMPの最終濃度で調製した。全ての膜は、同じスピンコーティング条件(1500rpm、30秒間)下で作製した。異なる表面処理に用いた条件を表1に列挙する。
表1.PES/PVP膜の表面処理
水接触角の測定:1μlのDI水を膜の表面上にピペットで移した。水接触角を、SCA20ソフトウェアを用いて、ゴニオメーター(Contact Angle System OCA 30,DataPhysics Instruments GmbH,Filderstadt,Germany)で測定した。
ゼータ電位の測定:未処理および処理済のPES/PVP膜のゼータ電位を、めっきしたサンプルセル(plated sample cell)を備える動電学分析器(EKA 1.00,Anton−Paar GmbH,Graz,Austria)を用いることにより測定した。膜を2cm×1cmの片に切断した。測定は、pH6.8にて1mMのKCl溶液中、25℃で行った。各場合において、測定は3回反復して行った。
膜表面上のカルボン酸基の特徴付け:未処理および処理済のPES/PVP膜上のカルボン酸基の表面密度を、トルイジンブルーO(TBO)染色アッセイを用いることにより決定した。膜を、pH10のTBO溶液(0.5mM)中に浸した。DI水で洗浄することにより複合体形成しなかった色素分子を除去した。カルボン酸基上に吸着された色素分子を、50%酢酸溶液中で脱着させた。この溶液中の色素の濃度を、マイクロプレートリーダー(Tecan Safire2TM,Maennedorf,Switzerland)を用いて、633nmにおける吸光度を測定することによって決定した。
X線光電子分光法(XPS):XPSを、VG ESCA 220i−XL画像化XPSシステム(LPD Lab Services,Blackburn,UK)を用いて実施した。Al Kα(K−アルファ)X線を供給源として用いた(hν(hニュー)=1486.6eV)。サンプルについての全結合エネルギーを、外来炭素C(1s)のピークを285eVに設定することによって関係付けた。
インビトロ細胞培養:HK−2細胞および1バッチのHPTCは、American Type Culture Collection(ATCC,Rockville,MD,USA)から入手した。HK−2細胞を、10%胎仔ウシ血清(FBS,Invitrogen,Carlsbad,CA,USA)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を用いて培養した。ATCCからのHPTCを、0.5% FBSおよび腎上皮細胞増殖キット−BBE(ATCC)を補充した上皮細胞基本培地中で培養した。HPTCのさらなるバッチをScienCell Research Laboratories(Carlsbad,CA,USA)から入手し、販売元によって推奨される培地(これは、2% FBSおよび1%上皮細胞増殖補充物(ScienCell Research Laboratories)を補充した腎上皮細胞基本培地であった)中で培養した。バッチに依存する影響を排除するために、継代回数が少ないHPTC(継代3〜5回)のみを適用し、そして、異なるバッチの初代細胞を使用した。全ての細胞培養培地に、1%ペニシリン/ストレプトマイシン溶液(Gibco,Carlsbad,CA,USA)を補充し、そして、全ての細胞を、標準的な組織培養プラスチックウェアを用いて増殖させ、5%CO2雰囲気中、37℃にてインキュベートした。Vi−CellTM分析器(Beckman Coulter,Fullerton,CA,USA)を用いて細胞の計数を行った。
バイオリアクタの条件およびγ(ガンマ)−グルタミルトランスフェラーゼ(GGT)アッセイ:膜を、平底型のバイオリアクタ内に組み立てた。細胞を播種した膜は、約30cm2の面積を有する。バイオリアクタを、バイオリアクタの入口を通して培地を注入することによって調整し、そして、培地で満たしたバイオリアクタを、5%CO2雰囲気中、37℃にて60分間インキュベートした。その後、培地を捨てた。細胞をトリプシン処理し、そして、バイオリアクタ内に細胞懸濁物を注入し、確実に気泡が存在しないようにすることにより、1×107個のHK−2細胞を膜上に播種した。次いで、細胞を播種したバイオリアクタを、細胞の付着を可能にする静置条件下で、5%CO2雰囲気中、37℃にて5時間インキュベートした。HPTCの場合には、4×106個の細胞を播種した。底のチャンバを、10mlの培地で満たした。HPTCを、細胞を付着させるために、4時間または一晩(GGTアッセイについて)インキュベートした。細胞の付着の後、バイオリアクタを、0.5ml/分または80μl/分(GGTアッセイについて)の中程度の(medium)流速での灌流のために、ポンプに接続した。GGTアッセイについては、第二のバイオリアクタにNIH/3T3細胞を播種し、そして、平行して実験を行った。
GGT活性をアッセイするために、バイオリアクタを、Sigma−Aldrichから入手した20mMのグリシル−グリシンおよび1mMのL−ガンマ−グルタミル−(p−ニトロアニリド)を補充した、フェノールレッドを含まない細胞培養培地で灌流した。バイオリアクタを、調整のためにこの培地で4時間灌流し、そして、続く1時間の間に回収した培地を用いてアッセイを行った。4−ニトロアニリドの濃度を、405nmにてマイクロプレートリーダーにより決定した。
免疫染色:免疫染色のために、細胞を含む膜を、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で洗浄し、そして、室温にて10分間、3.7%ホルムアルデヒド/PBSで固定した。密着結合タンパク質である閉鎖帯(zonula occludens)(ZO)−1およびα(アルファ)−平滑筋アクチン(α−SMA)の間接的免疫染色を行った。細胞の核を、4’,6’−ジアミジノ−2’−フェニルインドール(DAPI)で染色した。各場合における免疫染色結果の評価のために、3つの複製物(replica)を全体的に目で観察し、そして、各サンプルの異なる領域から複数の像を撮った。実験の大部分は、少なくとも1回繰り返し、そして、異なるバッチのHPTCを使用した。
ECMコーティングならびにDOPAおよびIV型コラーゲンを用いた二重コーティング:マウスI型コラーゲン(750μg/ml;Allergan,Fremont,CA,USA)、ヒト胎盤IV型コラーゲン(150μg/ml,Merck)、またはラミニンと混合したヒト胎盤IV型コラーゲン(Sigma−Aldrich、150μg/mlのIV型コラーゲンと混合した100μg/mlのラミニン)を使用した。膜を、H.Zhangら、”The impact of extracellular matrix coatings on the performance of human renal cells applied in bioartificial kidneys”,Biomaterials,2009,30(15),2899−2911(本明細書中に参考として援用される)に記載される手法に従って、ECM成分でコーティングした。簡単に述べると、ECM成分を、細胞培養培地を用いてその最終濃度まで希釈した。コーティング溶液を膜に加え、例えば、層流式フード(laminar flow hood)内で一晩乾燥させた。この方法は、未処理の膜または表1に記載される手法に従ってDOPAでコーティングされた膜に適用した。
異なる基材上に吸着されたフルオレセインイソチオシアネート(FITC)結合体化IV型コラーゲンの量の定量:この実験は、FITC(Invitrogen)と結合体化させたヒト胎盤IV型コラーゲンを用いて行った。簡単に述べると、未処理およびDOPAコーティングしたPES/PVP膜上に吸着されたIV型コラーゲンの量を定量するために、FITC標識したIV型コラーゲンを使用した。150μg/mlのFITC標識IV型コラーゲン(ヒト胎盤、Invitrogen)を、37℃にて1時間、96ウェル組織培養プレート(Nunc)内の未処理およびDOPAコーティングしたPES/PVP膜上に吸着させた。TCPSがコントロールとしての役目を果たした。緩く結合したタンパク質を解離させ、再結合を防ぐために、それぞれ、485nmの励起波長および530nmの発光波長でのマイクロプレートリーダー(Tecan SafireTM,Maennedorf,Switzerland)における蛍光の読み取りの前に、基材をPBSで3回洗浄した。3つの複製物を評価した。既知量のFITC標識IV型コラーゲンを使用して標準曲線を作成した。
PES/PVP膜に対する細胞の付着:TBOアッセイを用いて、HK−2細胞の膜への付着を決定した。簡単に述べると、未処理および表面処理したPES/PVP膜を、96ウェルプレート(Nunc)のウェル内にフィットするように切断した。HK−2細胞を、膜の上に、6×104細胞/サンプルの密度で播種した。細胞を1時間付着させ、そして、接着していない細胞をサンプルから濯ぎ落とした。接着した細胞を、4%パラホルムアルデヒドで固定し、4%パラホルムアルデヒド中0.5%のTBOで染色した。染色を1%ドデシル硫酸ナトリウムで可溶化し、そして、マイクロプレートリーダー(Tecan SafireTM,Maennedorf,Switzerland)を用いて、630nmにて吸光度を測定した。
製造業者によって提供される説明書に従い、3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−5−(3−カルボキシ−メトキシフェニル)−2−(4−スルホフェニル)−2H テトラゾリウム分子内塩(MTS)アッセイ(Promega,Madison,WI,USA)を実施した。簡単に述べると、各時点で、19:1の容量比でMTS試薬を含む完全培地中で細胞をインキュベートした。1時間のインキュベーションの後、光学密度(OD)を490nmにて測定した。示される結果は、ブランクウェルで得られた値を引いた後の吸光度の測定値を示す。
画像化:Zeiss AxioObserver Z1(Carl Zeiss,Jena,Germany)またはOlympus BX−DSU(Olympus,Tokyo,Japan)蛍光顕微鏡を使用して、落射蛍光(epifluorescence)画像化を行った。細胞の走査型電子顕微鏡法のために、まず、サンプルをPBS中2.5%グルタルアルデヒドにおいて固定し、続いて、エタノール系列(30%、70%、80%、90%、95%、3×100%、各30分)で脱水した。その後、これらのサンプルを、Autosamdri 825臨界点乾燥機(Tousimis Inc.,Rockville,MD,USA)内で乾燥させた。最後に、サンプルを、金でスパッタリングし、そして、JSM−7400F電界放出形走査電子顕微鏡(JEOL,Tokyo,Japan)を用いてSEMを行った。膜のSEMは、サンプルを一晩凍結乾燥させ、白金を用いたスパッタコーティングの後に、同じ顕微鏡を用いて行った。
統計学:全ての統計的分析は、Microsoft(登録商標)Excel(Microsoft Corp.,Redmond,WA)を用いて行った。有意レベルの判定には、Studentの両側t検定を用いた。
ポリマー膜上でのHPTCの性能:第一のシリーズの実験において、HPTCの性能は、種々のポリマー膜上で検討した。細胞の性能は、特定の物質が長期の用途により適切であり得るかどうかを確認するために、3週間の期間にわたり検討した。検討した膜の材料には、現在、血液透析または血液濾過に広く使用されており、BAKにおいて応用されているPSF/PVPを含めた。加えて、PES/PVPおよび再生セルロース(RC)の膜(これらもまた血液透析または血液濾過に使用されている)もまた研究した。さらに、ポリ(エーテルイミド)−FC(PEI−FC)の膜もまた検討した。ポリ(エーテルイミド)ベースの膜は、バイオハイブリッド型(biohybrid)臓器の構築によく適しているようであった。ポジティブコントロールとして、PET Transwell(登録商標)膜を用い、この膜は、共培養系でのインビトロ細胞培養において、そしてまた、腎細胞と共に頻繁に使用されている。PET Transwell(登録商標)膜は、生体適合性を高めるために、酸素プラズマで処理した。検討した他の膜は全て、いかなる表面処理にも供さなかった。
HPTCを、示した材料から構成される異なるポリマー膜上で3週間にわたり培養した(播種密度:1×105細胞/cm2)。全ての材料は、別のポジティブコントロールとして用いた組織培養ポリスチレン(TCPS)を除いてコーティングされておらず、TCPSはIV型コラーゲンでコーティングした。ZO−1およびα(アルファ)−SMAを、免疫染色(DAPI)により検出した。かなりの量のα(アルファ)−SMAを発現する筋線維芽細胞が、PET Transwell(登録商標)膜上に検出された。各場合において、3つの複製物を評価した。各サンプルから、異なる領域から複数の像を記録した。代表的な像を図2に示す。スケールバーは50μmである。
3週間の培養期間の後、PSF/PVP膜、PES/PVP膜、RC膜およびPEI−FC膜上にはほんのわずかな細胞しか存在しなかった(図2A〜2D)。これに対し、ポジティブコントロールであるPET Transwell(登録商標)膜上では、かなりの数の細胞と、単層の形成が認められた(図2E)。しかしながら、ZO−1免疫染色パターンによって示されるように(密着結合成分であるZO−1は、上皮分化のマーカーであり、そして、亀甲金網様のZO−1免疫染色パターンは、適切な密着結合の形成を反映している)、上皮の分化は不十分であった。また、PET Transwell(登録商標)膜上には、かなりの数のα(アルファ)−SMA発現筋線維芽細胞が存在した(図2E;α(アルファ)−SMA発現筋線維芽細胞は、上皮から間葉系への移行のプロセスによって、インビトロ培養においてHPTC内に生じるようである)。
これに対し、別のポジティブコントロールとしての役割を果たした、IV型コラーゲンコーティングした組織培養ポリスチレン(TCPS)上では、HPTCは、分化した上皮を形成した(図2F)。これらの上皮は、亀甲金網様のZO−1免疫染色パターンによって示されるように、広範囲にわたる密着結合の形成を示した。亀甲金網様のZO−1免疫染色パターンを示すHPTC上皮は、分極しており、そして、先端の刷子縁を露呈した。これらの特徴は、BAKにおける適切な細胞の性能に重要であり得る。TCPSを、生体適合性を改善するために酸素プラズマで処理し、そして、HPTCの分化した上皮は、IV型コラーゲンコーティングしたTCPS上で約2〜3週間の期間にわたり維持され得る。
ECMコーティングした膜上でのHPTCの性能:上に略述した知見は、HPTCの性能が、検討された従来のポリマー膜材料上では十分ではなかったらしいことを示した。この結果はまた、表面処理と、適切な細胞外マトリクス(ECM)コーティングが、HPTCの性能を改善し得ることを示唆した。ECMコーティングが、血液透析または血液濾過のために使用される膜材料上でのHPTCの性能を十分に改善し得るかどうかを調べるため、未処理またはECMコーティングしたPES/PVP膜上での細胞の増殖を分析した。I型コラーゲンおよびIV型コラーゲンをコーティング材料として使用した。なぜなら、ヒト腎近位尿細管細胞の最も高い増殖速度が、以前にこれらのECMコーティング上で観察されたからである。特に、HPTCの分化および分化したHPTC上皮の維持の点では、IV型コラーゲンコーティングで、良好な結果が得られた。さらに、IV型コラーゲンとラミニンの混合物(これらはともに、基底板の成分である)を検討した。FITC標識IV型コラーゲンを用いたコントロール実験は、PES/PVP膜に対するこのコーティング材料の吸着が、少なくとも、TCPSと同程度に良好であったことを示した(図3)。細胞増殖実験についてのコントロールとして、コーティングなしおよびECMコーティングしたPET Transwell(登録商標)膜(この上では、HPTCは十分に増殖した)を使用した(図2E)。
図3は、異なる基材上でのFITC結合体化IV型コラーゲンの吸着を示す。バー(平均±SD、n=3)は、TCPS、そして、未処理またはDOPAコーティングしたPES/PVP膜の表面に吸着されたFITC結合体化IV型コラーゲンの量を示す。有意差は、アスタリスクによって示す(*:p<0.05、***:p<0.001)。
1×105細胞/cm2の密度で播種したHPTCを、PES/PVPまたはPET Transwell(登録商標)膜上で4週間まで培養した。これらの膜は、コーティングしないか、または、I型コラーゲン、IV型コラーゲン、もしくは、IV型コラーゲンとラミニンの混合物でコーティングした。平行に培養したサンプルの対応するサブセットを用いて細胞を計数することにより、細胞数を毎週決定した。各群の
4つの白色およびグレーのバーは(図4)、それぞれ、1週、2週、3週および4週(左から右、平均±標準偏差(SD)、n=3)における、PES/PVPおよびPET Transwell(登録商標)膜上での細胞数を示した。
これらの結果は、HPTCの性能が、ECMコーティングよりもかなり多く、下にある(underlying)膜の材料によって影響されたことを示した。HPTCは、PET Transwell(登録商標)膜上で首尾よく増殖し、そして、これは、コーティングなしの膜にもコーティングした膜にも当てはまったが、増殖速度に対して、異なるECMコーティングによるいくらかの影響が観察された(図4)。これに対し、細胞数は常に、コーティングなしおよびコーティングした膜の両方について、PES/PVP膜において非常に低いままであった(図4)。繰り返しになるが、ECMコーティングによるいくらかの影響が観察され、そして、インキュベーション期間の後半では、細胞数は、コーティングなしの膜と比して、ECMコーティングしたPES/PVP膜上でより高かった。それにもかかわらず、細胞数は、全ての場合において非常に低いままであり、ECMコーティングしたPES/PVP膜で得られた結果は、上で論じた用途には不十分であった。同じことを、IV型コラーゲンまたは他のECMコーティングでコーティングしたPSF/PVP膜に当てはめた(データ示さず)。さらに、ECMコーティングしたPET Transwell(登録商標)膜の免疫染色および視覚による検査は、この場合、ECMコーティングが、細胞の分化を適切には改善できなかったことを明らかにした(データ示さず)。このように、総合すると、これらの結果は、膜の材料が、ECMコーティングを適用した後でさえも、HPTCの性能に対して重大な影響を有することを示す。非HPTC適合性膜は、適切なECMコーティングを適用することによっては、有意に改善できなかった。
PES/PVP膜の親水性に対する表面処理の効果:HPTCは、BAKにおける用途について関心があるPES/PVPおよびPSF/PVPを含む種々の従来のポリマー膜材料上では上手く作動せず、そして、ECMコーティングを適用することによっても十分な改善が容易には達成できなかったので、従来の膜材料の種々の表面改変について検討した。まず、表面改変の効果を調べた。最初のシリーズの実験では、水接触角を測定して、PES/PVP膜の親水性に対する種々の表面処理の効果を決定した。HPTCは、親水性のガラスまたはTCPS表面上で上手く増殖および分化し、表面の親水性を増すことが、HPTCの性能を改善する助けとなり得ることが示唆された。
種々の処理および成分(表1を参照)は、以下の理由から選択した。ポリ(無水マレイン酸−alt−1−オクタデセン)(PA−18)は、両親媒性コポリマーである。水性環境におけるこのコポリマーでの疎水性表面のコーティングは、両親媒性分子の規則正しい配置をもたらし、結果として、その親水性部分が露出され、すなわち、表面がより親水性となり得る。ポリ−L−リジン(PLL)は、正に荷電しており、しばしば、基材表面への細胞の接着を改善するために使用される。過酸化水素は、強力な酸化剤であり、親水性官能基を導入する。酸素プラズマ処理は、膜表面にカルボン酸基およびヒドロキシル基を導入することが知られ、そして、しばしば、ポリマー性基材の細胞適合性(cytocompatibility)を改善するために使用される。3,4−ジヒドロキシ−L−フェニルアラニン(DOPA)は、湿った表面への強力な接着のためにイガイによって分泌される化合物である。これは、異なる基材上で薄い接着剤ポリマーフィルムを形成し得る。
図5は、PES/PVP膜に種々の処理を適用した後に測定した水接触角を示す。未処理のPES/PVPの水接触角は62.5°±1.1°であったが、TCPS(細胞培養のための「ゴールドスタンダード(gold standard)」)の水接触角は約45°であった。PES/PVP膜の水接触角は、種々の表面処理を適用することによって体系的に変更され得る(図5)。PA−18処理したPES/PVPは、未処理のPES/PVPよりもなお疎水性であった(75.4°±4.8°の水接触角)。PA−18とは対照的に、他の表面処理は、未処理のPES/PVPと比較して、より親水性の膜表面を生じた。PLL処理は、水接触角を約50°まで幾分減少させた。過酸化水素および酸素プラズマ処理は、接触角の約40°までのさらなる減少をもたらした。表面の親水性における最大の変化は、DOPA処理によって誘導され、この処理は、接触角を15°まで減少させた。図5では、バーは、未処理または処理済みのPES/PVP膜上の水滴の接触角を示す(n=4、平均±SD)。
表面電荷およびカルボン酸基の密度に対する種々の処理の効果:次のシリーズの実験では、未処理のPES/PVP膜のゼータ電位、ならびに、表面電荷に対する種々の処理の効果を特徴付けた。未処理のPES/PVP膜は、わずかに負の表面電荷を有する(図6)。この図は、PES/PVP膜のゼータ電位を示す。バーは、未処理または処理済のPES/PVP膜のゼータ電位(平均±SD;n=3)を示す。予測されたとおり、正に荷電したPLLでの処理は、約+4mVの正のゼータ電位を生じた。これに対し、酸素プラズマ処理およびDOPA処理したPES/PVP膜は、約−6〜−7mVのより負のゼータ電位を示し(図6)、カルボン酸基のような負に荷電した官能基の導入が示唆された。したがって、TBO色素アッセイを用いて、未処理および処理済のPES/PVP膜の表面上でのカルボン酸基の密度を調べた。
図7は、PES/PVP膜の表面上へのカルボン酸基の導入を示す。図7Aは、TBOアッセイを用いて決定した、PES/PVP膜の表面上のカルボン酸基の量を示す。バーは、633nmにおける吸光度を示す(平均±SD、n=3)。図7Bおよび7Cは、未処理(図7B)および酸素プラズマ処理(図7C)したPES/PVP膜の高解像度XPSスペクトルを示す。
このように、図7Aは、酸素プラズマ処理が最も高い密度の官能基を導入したことを示し、この官能基は、XPS分光法によりカルボン酸基であることが確認された(図7Bおよび7C)。高解像度XPS C1sスペクトルは、酸素プラズマ処理したPES/PVP上のカルボキシル基およびカルボニル基の存在を示したが(図7C)、これは、未処理のサンプル上では検出されなかった(図7B)。TBO色素アッセイは、高い密度の官能基がまた、DOPA処理によって導入されたことを明らかにした(図7A)。このことは、含まれるDOPA分子と結合したカルボン酸基に起因するものと考えられ得る。予測されたとおり、PLLコーティングおよび過酸化水素処理は、官能基の表面密度に有意な変化をもたらさなかった。
ヒト近位尿細管細胞の付着:次に、異なる処理と、表面特性における変化、そして、それらがどのようにヒト近位尿細管細胞の付着に影響したかを検討した。アッセイは、HK−2細胞(ヒト近位尿細管細胞株)を用いて実施し、そして、膜に対する細胞の付着は、TBOアッセイを用いることにより定量した。図8に示されるように、DOPA処理で良好な結果が得られ、そして、細胞の付着は、未処理のPES/PVP膜およびPLL、過酸化水素または酸素プラズマで処理した膜と比較して、有意に増強された。図8では、細胞の接着は、細胞の播種から1時間後に、TBOアッセイを用いて決定した(平均±SD、n=3)。アスタリスクは有意差を示す(***:p<0.001、*:p<0.05)。
これらの結果はまた、DOPAおよび酸素プラズマ処理の両方が、正味の負表面電荷につながり(図6)、そして、カルボン酸基の密度を増加させた(図7)が、DOPA処理したPES/PVP膜に対する細胞の付着は、酸素プラズマ処理した膜と比較して有意に増強された(図8)ことを示した。このことは、DOPA処理した表面に対する細胞の付着の高い程度が、DOPA分子中に存在するアミノ基のような他の官能基の導入に起因するものであったことを示唆した。細胞の付着の点での良好な結果がDOPAコーティングした膜で得られたが、より長い期間での腎細胞の性能に対するDOPAコーティングの効果は不確かであったので、この局面を、さらに、以下の実験で調べた。
DOPA処理膜上での近位尿細管細胞の増殖および分化:まず、HK−2細胞の増殖および分化を検討した。図9Bは、1週間のインビトロ培養後に、これらの細胞がDOPAコーティングしたPES/PVP膜上でコンフルエントな分化した上皮を形成したことを示す。これに対し、未処理のPES/PVP膜上ではほんのわずかな単細胞しか見出すことができなかった(図9A)。
具体的には、HK−2細胞を、未処理(図9A)またはDOPAコーティングしたPES/PVP膜(図9B)上に播種し(1×105細胞/cm2)、そして、1週間のインビトロ培養後にこれらの膜を画像化した。ZO−1は、免疫染色により検出した。各場合において、3つの複製物を評価した。各サンプルから複数の像を撮った。代表的な像を示す。スケールバーは50μmである。
それにも関わらず、HK−2細胞は、常にHPTCと同等に機能的というわけではなく、これは、臨床上の大きな問題である。それゆえ、HPTCの増殖および分化も特徴付けた。まず、1週間の培養期間の増殖を検討した。図10Cは、未処理のPES/PVP膜上では、HPTCの数が、播種後の最初の2日間でかなり低下し、そして、培養期間の残りでは、絶えず少ないままであったことを示す。これに対し、DOPAコーティングしたPES/PVP膜上では、播種後の最初の2日間で細胞数がわずかに減少した後、培養期間の残りでは、急激な増殖が観察された。これらのデータは、視覚的な印象(図10Aおよび10B)、そして、上で考察した最初の知見(図2)と一致していた。目での観察もまた、未処理の膜上で多くの死細胞および傷ついた細胞を明らかにし、ここで観察された少ない細胞数が、弱い細胞の付着のみに起因するものではなかったことが示唆された。
図10Aおよび10Bは、未処理(図10A)およびDOPAコーティングした(図10B)PES/PVP膜上での1週間のインビトロ培養(5×104細胞/cm2の播種密度)後に記録した、HPTCのDAPI染色した核の顕微鏡写真である。スケールバーは50μmである。図10Cでは、未処理またはDOPAコーティングしたPES/PVP膜上に細胞を播種してから0日後、2日後、5日後および7日後に、HPTC数を計数した(平均±SD、n=3)。
DOPAコーティングした膜およびDOPA/IV型コラーゲンコーティングした膜上でのHPTCの性能:次に、HPTCによる分化した上皮の形成を調べた。ZO−1の免疫染色パターンは、HK−2細胞(図9)とは対照的に、HPTCが、DOPAコーティングしたPES/PVP膜上では、適切に分化した上皮を形成しなかった(データ示さず)ことを示した。また、これまでに、HPTCは、ECMコーティングしたPES/PVP上でも上手く作動しなかったことが分かった(図4)。しかしながら、HPTCの増殖および単層の形成がDOPAコーティングしたPES/PVP上で改善され(図10)、そして、細胞が適切な基材上で増殖した場合には、IV型コラーゲンが、HPTCによる分化した上皮の形成を促進したという知見を考慮し、次に、HPTCが、まずDOPAでコーティングし、続いてIV型コラーゲンの層でコーティングしたPES/PVP膜上で分化した上皮を形成し得るかどうかを検討した。FITC結合体化IV型コラーゲンを用いて行ったコントロール実験は、DOPAコーティングが、未処理のPES/PVPおよびTCPS(図3)と比較して、吸着されたIV型コラーゲンの量を有意に増大させたことを示した。
その後、二重コーティングした膜上で1週間培養したHPTCによる分化した上皮の形成を検討した。未処理(図11A)、IV型コラーゲンコーティング(図11B)およびDOPAおよびIV型コラーゲンコーティング(図11C)したPES/PVP膜上での1週間のインビトロ培養(5×104細胞/cm2の播種密度)後に、HPTCを画像化した。図11Dは、DOPAおよびIV型コラーゲンでコーティングしたPSF/PVP膜(同じ播種密度および培養期間)で得られた結果を示す。ZO−1は、免疫蛍光法(ZO−1およびDAPI)によって検出した。図11Cの矢印は、密着結合の形成が生じたいくつかの領域を指し示す。しかしながら、細胞は、二重コーティングしたPES/PVP膜上での1週間の培養後もまだコンフルエントに足りず(subconfluent)、そして、広範囲にわたる密着結合の形成は示さなかった。これに対し、二重コーティングしたPSF/PVP膜上での1週間の培養の後には、HPTCはコンフルエントであり、広範囲にわたる密着結合の形成が生じた(図11D)。図11D内の差込図は、密着結合の形成が認められた、四角に囲まれた領域を拡大したものを示す。広範囲にわたる密着結合の形成が生じたが、密着結合は、図11Dの全域では認められない。なぜなら、密集した膜表面は、完全には平らではなかったからである。それゆえ、異なる領域が、異なる焦点平面に存在していた。各場合において、3つの複製物を評価した。各サンプルから、異なる領域から複数の像を記録した。代表的な像を示す。スケールバーは50μmである。
図11Cは、DOPA/IV型コラーゲンコーティングしたPES/PVP膜上で、未処理またはIV型コラーゲンコーティングしたPES/PVP膜(図11Aおよび11B)と比較して、増大した細胞数および増強された密着結合の形成が観察されたことを示す。しかしながら、細胞を播種してから1週間後には、コンフルエントな上皮は形成されなかった。HPTCの性能が、下にある膜の材料と表面のコーティングによって影響されたので、細胞の性能が、別の膜材料、すなわち、PSF/PVP(これは、すでにBAKにおいて応用されている)を使用することによってさらに改善され得るかどうかについてもまた調べた。図11Dは、HPTCが、DOPA/IV型コラーゲンコーティングしたPSF/PVP膜上で、播種から1週間後に、十分に分化したコンフルエントな上皮を形成したことを示す。これに対し、未処理またはIV型コラーゲンコーティングしたPSF/PVP膜(図2、およびデータ示さず)上では、HPTCの性能は劣っていた。
まとめると、これらの結果は、適切なECM成分または近位尿細管細胞の挙動に影響を与える他の分子のいずれかを用いたPES/PVPまたはPSF/PVP膜の単独コーティングは、BAKにおける用途にとって十分にはHPTCの性能を改善しなかったことを示した。しかしながら、DOPAおよびIV型コラーゲンを用いたPSF/PVP膜の二重コーティングは、BAKにおける用途にとって重要な、HPTCによる分化した上皮の形成につながった。
純粋なPESおよびPSF膜上でのHPTCの性能:図12では、HPTCを、純粋なPSFの膜上で1週間(図12A〜12C)または3週間(図12D)培養した(5×104細胞/cm2の播種密度)。ZO−1を免疫染色(DAPI)により検出した。PSF膜は、コーティングなし(図12Aおよび12D)か、IV型コラーゲンでコーティングするか(図12B)、または、DOPAおよびIV型コラーゲンで二重コーティングした(図12C)。
PSFまたはPESのいずれかをベースとした現在の合成血液透析膜は、代表的には、抗付着剤としてPVPを含む。しかしながら、PVPは、腎細胞の付着、増殖および生存に対し、負の影響を有し得る。実際、細胞の増殖、生存および分化は、純粋なPES(データ示さず)およびPSF膜(PVPを含有する膜と比較して;図2および12D)上で、これらの純粋な膜がコーティングなしの場合でさえも、大いに改善された。HPTCの増殖および生存は、IV型コラーゲンの単独コーティングまたはDOPAとIV型コラーゲンの二重コーティングによってさらに改善され得る(図12A〜12C)。コーティングなしの純粋なPSFまたはPES膜上での細胞の増殖は比較的遅く、そして、分化した上皮の形成は、約2〜3週間の培養期間の後にのみ観察され得る(図12)。
これらの実験は、未処理、または、異なる表面処理およびコーティングの手法に供されたかのいずれかのポリマー膜上での、ヒト腎近位尿細管細胞の性能を検討した。HPTCは、RC、PSF/PVPおよびPES/PVP膜を含む大部分の未処理の膜の上では、分化した上皮を形成しないことがわかった。これらの材料の膜は、血液透析または血液濾過に使用されており、そして、PSF/PVP膜はまた、ECMコーティングの後に、BAKにおいて適用されている。本明細書において検討し、DOPAまたはECMによる単独コーティングを持つ表面処理は全て、これらの膜上でのHPTCの性能を十分には改善しなかった。これらの知見は、ECMコーティングしたPSF/PVP膜が、少なくともHPTCを用いる場合に、BAKのバイオリアクタユニットにおける用途に適切でない場合があることを示唆した。また、HPTCとは対照的に、ヒトの不死化された近位尿細管細胞株であるHK−2は、DOPAコーティングしたPES/PVP膜上で分化した上皮を形成することがわかった。このことは再度、HPTCと確立された細胞株の異なる挙動を強調した。
また、単独コーティングを使用した場合、細胞の挙動はしばしば、用いられる膜の材料と、適用されるコーティングの組み合わせによって影響を受けることも分かった。このことは、単独コーティングが依然として膜の材料と細胞表面との間にいくらかの相互作用を可能にしており、そのことが、細胞の挙動を損ね得るということに起因し得る。膜表面との異なる型の相互作用を示す異なるコーティング材料を用いた二重コーティングは、膜表面の細胞に対する接近可能性を低下させ得、そして、このことが、何故、DOPAとIV型コラーゲンによる二重コーティングがPES/PVPおよびPSF/PVP膜上でのHPTCの性能を顕著に改善したかを説明し得る。HPTCは純粋なPSFまたはPES膜上で分化した上皮を形成したが、上皮の形成は比較的ゆっくりであったので、PVPは、これらの膜において重要な成分であることが分かった。
データは、親水性が重要な膜の特徴であり得ることを示唆する。HPTCは、親水性のTCPSおよびガラスの表面上で分化した上皮を形成した。このことはまた、PSFおよびPES膜上でも生じたが、上皮の形成は、これらの疎水性表面上ではかなり遅く、よりゆっくりとした細胞の増殖が示唆された。検討した全ての処理のうち、DOPAコーティングは、最も顕著な親水性の増大をもたらしたことに注意すべきである。正に荷電した表面は、HPTCの接着は促進し得るが、分化した上皮の形成は促進しない。このことは、HPTCが、ポリ−L−リジンでコーティングされたTCPS上で分化した上皮を形成しなかったという事実によって示唆された。すなわち、親水性でかつ負に荷電した表面がより適切であり得る。
これらの結果はまた、カルボン酸基も、生物学的な細胞接着分子またはシグナル伝達分子も重要ではなかったことを示唆した。また、HPTCを用いた用途のために設計される表面は、良好な接着特性を有するべきであることに注意することも重要であった。実際、PVPによって引き起こされる問題は、PSF膜に導入する際の、その抗接着作用に起因するようであった。細胞培養培地中のPVPは、HPTCの性能を損ねなかった。他の腎細胞型(例えば、MDCKおよびLLC−PK1)は、PVPを含有する材料および他の接着性の低い材料においても十分に作動したことから、HPTCは、基材の表面接着性に対して特に感受性であるようであった。
まとめると、HPTCのための基材表面、好都合には親水性で、負に荷電し、かつ接着性であるようである。これらの特性は、重要ではあるが、適切に分化したHPTC上皮を生成するには十分ではないようである。このことは、単独DOPAコーティングした膜がこれらの特性を示し、HPTCの付着および増殖を維持するが、この細胞型による分化した上皮の形成は維持しないという事実によって示唆される。このように、本研究は、ECMコーティングが、接着、増殖および生存が損ねられない条件下で分化を促進するために適用され得ることを実証する。
HPTCのための膜材料が、良好な接着特性を有するべきであるという見解は、両方の表面が同じ材料から構成された膜はBAKの用途に有用ではない場合があることを示唆するが、これは、血液に曝露される表面が抗接着性であるべきであるからである。非対称膜の概念は重要であり、そして、血液適合性の非接着性側面はまた、必要とされる機械的強度も提供し得る。
これらの結果は、BAKにおいて使用される従来の材料が、今までのところ、HPTCを用いた用途には十分には合っていないことを示す。血液透析膜は、血液適合性については最適化されたが、混成の初代細胞の増殖については最適化されなかった。分化した上皮は、純粋なPSFまたはPES膜(より長時間の間隔を要するが)およびDOPAとECMの二重コーティングを持つPSF/PVP膜の上で、HPTCによって首尾よく形成された。
実施例2
これらの実験は、本明細書において考察される接着剤用いた膜のコーティングが、膜を通る水流に実質的に不利な影響を及ぼし得ないことを示す。図13に示されるように、30kDaの分子量カットオフを持つMillipore製の市販のポリエーテルスルホン(PES)膜を用いて実験を行った。コーティングなし(左の棒)およびコーティングあり(右の棒)のPES膜で得られた結果は、有意には異ならなかった(Studentのt検定、p>0.05)。実験を繰り返し、コーティングした膜とコーティングなしの膜との間には一貫して差が認められなかった。
コントロールとしてのコーティングなしのVivaspinTMカラムおよびDOPAおよびIV型コラーゲンでコーティングしたVivaspinTMカラムを用いて、膜の透過性に対する潜在的な影響を決定するためのさらなる実験を行った。使用したVivaspinTMカラムは、30,000kDaの分子量カットオフを持つPES膜から構成された。VivaspinTMカラムの一例を図14Aに示す。3mgの尿素溶液をVivaspinTMの上側の区画に加えた。細胞培養培地を下側の区画に加えた。磁気撹拌子を使用して、上側の区画に力を生じさせた。この設定を一晩そのままにした。コーティングしたスピンカラムおよびコーティングなしのスピンカラムの両方について、i−Stat分析器を用いて、上側および下側の区画における尿素の量を測定した。それぞれの区画における尿素の割合は、以下のようにして計算した:
(区画内の尿素の量/3mgの尿素)×100。
理論上、尿素の大部分は、下側の区画へと流れるはずである。表2に示されるように、最初に加えた尿素の90%が、コーティングなしのカラムの下側の区画に見られた。これに対し、コーティングしたカラムの下側区画では、尿素の68%が見られ、コーティングしたカラムについては、流れがやや遅い可能性があり得ることが示唆された。それにも関わらず、尿素の大部分は、コーティングしたカラムおよびコーティングなしのカラムの両方について下側区画で見られた。コーティングしたカラムの場合、尿素の21%(すなわち、100%−11%−68%)が、上側または下側のいずれの区画においても見られなかった。このことは、尿素の一部が膜に固着した可能性があることを示し得、これは特に、DOPAが接着性の物質であるからである。
5%ウシ血清アルブミン(BSA)を、20μg/mlのProtease Kを用いて、還元条件下、55℃にて1時間消化した。1mMのPMSF(フッ化フェニルメチルスルホニル)プロテアーゼインヒビターを用いて消化を停止させた。
消化したBSAを、VivaspinTMカラムの上側区画に加え、そして、3000gで3分間遠心分離した。上側区画(レーン3および4)または下側区画(レーン5および6)からの等量のタンパク質をゲル上にロードし、そして、NuPAGEシステムを用いてタンパク質を分離した(図14B)。VivaspinTMカラムにアプライしなかった消化BSAを、コントロールとして用いた(レーン2)。事前に染色されたPagerulerマーカーをレーン1にロードした。実験は、コーティングしたカラム(レーン3および5)およびコーティングなしのカラム(レーン4および6)の両方を用いて行った。
膜の分子量カットオフはおよそ30kDaであったので、30kDaより大きいサイズのタンパク質フラグメントは、大部分が上側の区画(レーン3および4)に限定されるはずであり、それに対して、より小さなフラグメントは膜を通過し得、そして、下側の区画で検出され得る。これらの結果は、より大きなタンパク質フラグメントの大部分が、上側の区画において検出され(レーン3および4の四角によって示される)、それに対して、下側の区画は、主として35kDaよりも小さなサイズのタンパク質を含む(レーン5および6の四角)ことを示す。
これらの結果はまた、コーティングした膜とコーティングなしの膜との間(レーン3および4と、レーン5および6との間)には大きな差がないことを示唆し、二重コーティングが、膜の分子量カットオフに対して負の影響を有さないことを示している。
本発明のいくつかの実施形態が本明細書において記載され、そして例示されてきたが、当業者は、本明細書に記載される機能を実施し、そして/または、結果および/もしくは1以上の利点を達成するための種々の他の手段および/または構造を容易に想像し、このような改変および/または修正の各々は、本発明の範囲内とみなされる。より一般的には、当業者は、本明細書中に記載される全てのパラメータ、寸法、材料および構成が、例示的なものを意図し、実際のパラメータ、寸法、材料および/または構成は、本発明の教示が使用される特定の用途に依存することを容易に理解する。当業者は、慣用的に過ぎないな実験を使用して、本明細書中に記載される発明の特定の実施形態に対する多くの等価物を認識するか、または、確認することが可能である。それゆえ、上述の実施形態は、一例としてのみ提示されること、そして、添付の特許請求の範囲およびそれに対する等価物の範囲内で、本発明は、具体的に記載および特許請求されるものとは別のやり方で実施され得ることが理解されるべきである。本発明は、本明細書中に記載される各個々の特徴、システム、物品、材料、キットおよび/または方法に関する。さらに、このような特徴、システム、物品、材料、キットおよび/または方法が互いに矛盾しない場合、2以上のこのような特徴、システム、物品、材料、キットおよび/または方法の任意の組合せは、本発明の範囲内に包含される。
本明細書中で定義および使用される定義は全て、辞書の定義、参考として援用される文書における定義、および/または、定義される用語の通常の意味の上位で支配するものと理解されるべきである。
不定冠詞「a」および「an」は、本明細書および特許請求の範囲において使用される場合、そうでないと明確に示されない限り、「少なくとも1(つ、個)の」を意味するものと理解されるべきである。
語句「および/または(および/もしくは、ならびに/あるいは)」は、本明細書および特許請求の範囲において使用される場合、このように等位接続された要素の「いずれかまたは両方」を意味する、すなわち、要素は、いくつかの場合には接続的に存在し、そして、他の場合には離接的に存在するものと理解されるべきである。「および/または(および/もしくは、ならびに/あるいは)」と共に列挙された複数の要素は、同じ様式で、すなわち、このように等位接続された要素のうちの「1またはそれより多く」と解釈されるべきである。他の要素が、必要に応じて、「および/または(および/もしくは、ならびに/あるいは)」節によって具体的に同定された要素以外に、これらの具体的に同定された要素と関連するにせよ、関連しないにせよ、存在し得る。すなわち、非限定的な例として、「Aおよび/または(および/もしくは、ならびに/あるいは)B」に対する参照は、「含む(comprising)」のような開放型(open−ended)の言語と組み合わせて使用される場合、ある実施形態では、Aのみ(必要に応じてB以外の要素を含む);別の実施形態では、Bのみ(必要に応じてA以外の要素を含む);なお別の実施形態では、AとBの両方(必要に応じて他の要素を含む)などを指し得る。
本明細書および特許請求の範囲において使用される場合、「または(もしくは、あるいは)」は、上で定義された「および/または(および/もしくは、ならびに/あるいは)」と同じ意味を有すると理解されるべきである。例えば、リスト内で項目を分ける際、「または(もしくは、あるいは)」または「および/または(および/もしくは、ならびに/あるいは)」は、包括的である、すなわち、多数の要素または要素のリストのうちの、少なくとも1つを包含するが、1より多くも、そして必要に応じて、リスト外の追加の項目も包含するものとして解釈されるものとする。「〜のうちの1つ(1個、一方)だけ」、または「〜のうちの厳密に1つ(1個、一方)」、または特許請求の範囲において使用される場合には、「〜からなる」のような、明確にそうでないと示される用語だけが、多数の要素または要素のリストのうちの厳密に1つの要素を包含することをいう。一般に、用語「または(もしくは、あるいは)」は、本明細書中で使用される場合、「いずれか」、「〜のうちの1つ(1個、一方)」、「〜のうちの1つ(1個、一方)だけ」または「〜のうちの厳密に1つ(1個、一方)」のような排他的な用語が先行する際には、排他的選択肢(すなわち、「一方または他方であるが両方ではない」)を示すものとしてのみ解釈されるものとする。「本質的に〜からなる」は、特許請求の範囲において使用される場合、特許法の分野において使用される通常の意味を有するものとする。
本明細書および特許請求の範囲において使用される場合、語句「少なくとも1(つ、個)の」は、1またはそれより多くの要素のリストに対する参照において、その要素のリスト内の任意の1またはそれより多くの要素から選択された少なくとも1つの要素を意味すると理解されるものとするが、必ずしも、要素のリスト内に具体的に列挙された各々全ての要素のうちの少なくとも1つを含まず、また、要素のリスト内の要素の任意の組合せも排除しない。この定義はまた、必要に応じて、語句「少なくとも1つ(1個、一方)の」が参照する要素のリスト内で具体的に同定された要素以外に、これらの具体的に同定された要素と関連するにせよ、関連しないにせよ、要素が存在し得ることを容認する。すなわち、非限定的な例として、「Aおよび(ならびに)Bの少なくとも一方」(または、同意義で、「Aまたは(もしくは、あるいは)Bの少なくとも一方」、または、同意義で、「Aおよび/または(および/もしくは、ならびに/あるいは)Bの少なくとも一方」)は、一実施形態では、少なくとも1つの(必要に応じて1より多くを含む)Aであり、Bは存在しない(そして、必要に応じてB以外の要素を含む);別の実施形態では、少なくとも1つの(必要に応じて1より多くを含む)Bであり、Aは存在しない(そして、必要に応じて、A以外の要素を含む);なお別の実施形態では、少なくとも1つの(必要に応じて1より多くを含む)Aと、少なくとも1つの(必要に応じて1より多くを含む)Bである(そして、必要に応じて他の要素を含む);などを指し得る。
また、そうでないと明確に示されない限り、本明細書において特許請求される1より多くの工程または行為を含むあらゆる方法において、その方法の工程または行為の順序は、必ずしも、その方法の工程または行為が記載される順序に限定されないものと理解されるべきである。
特許請求の範囲において、ならびに、上記の明細書において、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「有する(carrying)」、「有する(having)」、「含む(containing)」、「含む、伴う(involving)」、「保持する(holding)」、「〜から構成される(composed of)」などのような移行句は全て、開放型、すなわち、〜を含むがそれに限定されないことを意味するものと理解されるべきである。米国特許庁の特許審査便覧、第2111.03節に示されるように、移行句「〜からなる」および「本質的に〜からなる」だけが、それぞれ、閉鎖型(closed)または半閉鎖型(semi−closed)の移行句であるものとする。