JP2012137131A - 骨ねじおよび骨ねじの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】骨との結合力を適切に調節し得る骨ねじを提供する。
【解決手段】チタン又はチタン合金からなる骨ねじにあって、ねじ山の表面に面粗度の高い粗面部と、面粗度の低い滑面部とを形成するとともに、さらに、ねじ山の表面全域に陽極酸化処理を施すようにした。かかる骨ねじによれば、ねじ山表面の粗面部と滑面部の位置を変化させることによって、骨との結合力を大幅に変化させることができ、粗面部と滑面部の形成部位を適宜設定することで、骨との結合力を適切に調節可能となる。また、骨との結合力の強い骨ねじも実現可能となる。
【選択図】図2

Description

本発明は、骨折部位の接合や歯科用インプラントなどに用いられる骨ねじに関する。
骨ねじは、骨に埋植することによって、骨折した骨同士を接合したり、歯科用インプラントを骨に固定するのに用いられている。骨ねじには、チタンやチタン合金製のものが広く用いられている(例えば、特許文献1)。
従来の骨ねじには、ねじ山の表面に粗し加工を施したものがある。このようにねじ山表面を粗面にしたものは、アンカー効果が向上して骨から抜け難くなるとされている。粗し加工の方法としては、ショットブラスト、エッチング、プラズマ溶射などが採用されている。
また、従来の骨ねじには、ねじ山の表面に酸化処理を施したものがある。かかる骨ねじでは、酸化処理によって形成される二酸化チタン被膜が高い生体活性を発揮し、埋植後にねじ山表面に多くの骨組織が生成されることで、骨ねじが脱落し難くなるとされている。かかる酸化処理としては、母材を電気分解の陽極として用いる陽極酸化処理が広く採用されている。
特開2005−21420号公報
ところで、従来の骨ねじでは、骨との結合力を高くする努力が行われているが、一方で、骨との結合力は高いものほどよいとは限らない。骨ねじは、永続的に埋植するだけでなく、抜去が必要な場合もあり、骨との結合が強すぎると抜去時の手間が大きくなり、また、抜去の際に骨を大きく傷つけるおそれがあるためである。したがって、骨ねじは、その用途に適した結合力で骨と結合することが求められる。
しかしながら、骨ねじの結合力は、骨芽細胞との親和性などの影響を受けるため、結合力が決まるメカニズムは汎用ねじに比べてはるかに複雑である。上記のように、従来の骨ねじでは、骨との結合力を高めるために粗し加工や酸化処理が行われているが、かかる手法だけでは、骨ねじと骨との結合力を適切に調節できていない。
本発明はかかる現状に鑑みてなされたものであり、骨との結合力を適切に調節し得る骨ねじ、及び該骨ねじの製造方法の提供を目的とする。
発明者らは、ねじ山表面に、粗し加工と陽極酸化処理を組み合わせることで、結合力に優れた骨ねじの開発を試みた。その結果、表面を粗したねじ山に陽極酸化処理を施しても、表面の生体活性はそれほど向上せず、陽極酸化処理の効果が十分に得られないことが判明した。そして、発明者は、かかる知見に基づいて、さらなる研究を行った結果、陽極酸化処理をする骨ねじでは、ねじ山の表面に面粗度の高い粗面部と、面粗度の低い滑面部とを選択的に形成することで、骨との結合力を大幅に変化させ得ることを見出し本発明に至った。
本発明は、チタン又はチタン合金からなるものであって、ねじ山の表面に面粗度の高い粗面部と、面粗度の低い滑面部とが形成されており、さらに、ねじ山の表面全域に陽極酸化処理が施されていることを特徴とする骨ねじである。
発明者の研究によれば、かかる骨ねじでは、ねじ山表面の粗面部と滑面部の位置を変化させることによって、骨との結合力を大幅に変化させることができる。したがって、かかる骨ねじでは、粗面部と滑面部の形成部位を適宜設定することで、骨との結合力を適切に調節でき、また、骨との結合力の強い骨ねじを実現可能となる。
本発明にあって、前記粗面部は、ねじ山表面の谷側部分に形成されており、前記滑面部は、ねじ山の山側部分に形成されている構成が提案される。かかる構成では、粗面部のアンカー効果と、滑面部の生体活性向上効果とが効果的に相乗することで、骨ねじの結合力を著しく向上させることができる。
また、本発明の骨ねじの製造方法としては、面粗度の高い部分と低い部分が転造面に形成されたダイスを用いてチタン又はチタン合金からなる母材を転造し、該母材にねじ山を形成すると同時に、該ねじ山の表面に面粗度の高い粗面部と、面粗度の低い滑面部を形成する転造工程と、該転造工程の後に、ねじ山の表面に陽極酸化処理を行う陽極酸化工程とを含む製造方法が提案される。
かかる製造方法にあっては、上述のように、粗面部と滑面部の形成位置を設定することで、所要の結合力をもった骨ねじを製造できる。また、かかる製造方法では、表面に粗面部と滑面部を選択的に形成した骨ねじを低コストで量産可能となる。すなわち、ショットブラスト等の既存の方法でねじ山表面に部分的な粗し加工を施す場合、母材ごとに精緻なマスキングが必要になって高コストになる。これに対して、かかる製造方法では、ねじを転造する転造ダイスの転造面に部分的な粗し加工を施しておけば、母材にマスキングを施す必要がないから、低コストで骨ねじを量産できる。また、かかる製造方法では、転造面の微小凹凸をねじ山表面に転写することで、ねじ山の転造と同時に粗面部と滑面部を形成できるため、少ない工程数で上記骨ねじを効率よく製造できる。
本発明にあって、前記粗面部の算術平均粗さRaは0.5μm以上であることが望ましく、1.0μm以上であることがより望ましい。Raが0.5μm以上であれば、粗面部によるアンカー効果が得られ、Raが1.0μm以上であれば、より強いアンカー効果が得られる。一方で、滑面部の算術平均粗さRaは0.5μm未満であることが望ましく、0.1μm未満であることがより望ましい。Raが0.5μm未満であれば、滑面部において生体活性向上効果が得られ、0.1μm未満であれば、より顕著な生体活性向上効果を期待できる。
以上に述べたように、本発明の骨ねじでは、ねじ山表面の粗面部と滑面部の形成部位を適宜設定することで骨との結合力を適切に調節できる。また、本発明の骨ねじの製造方法によれば、所要の結合力を有する骨ねじを低コストで量産できる。
転造丸棒の形状を示す説明図である。 ねじ山の山側部を滑面とし、谷側部を粗面とした骨ねじの形状を示す説明図である。 埋植した試験品と骨の界面の組織写真である。 骨ねじを埋植した評価用試料の写真である。 研磨丸棒の生体活性と表面粗さRaの関係を示すグラフである。
<試験品製造方法>
(研磨丸棒)
直径2mmの純Ti丸棒に、湿式研磨によって表面粗さRa/μmが0.05から1.2となるようにミクロ表面凹凸を形成し、研磨丸棒を得た。この研磨丸棒は各研磨条件について、研磨しただけのもの,研磨後に下記の空気中高温酸化処理を施したもの、研磨後に下記の陽極酸化処理を施したものの3種類を試験品として準備した。なお、試験品は、動物埋植試験を念頭においているため、全ての評価試験(XRD、SEM、表面粗さ測定など)は、オートクレーブ滅菌(121℃、20min)を施してから行った(以下の試験品は全て同様)。
空気中高温酸化処理では、400℃の炉内に上記研磨丸棒をセットして2h保持し、その後、炉冷することにより、各研磨丸棒に二酸化チタンコーティングを施した。空気中高温酸化処理した研磨丸棒をXRD分析した結果、表面にルチル構造の二酸化チタン被膜が生成していることが確認された。膜厚はおよそ120nmであった。
陽極酸化処理では、0.1M、H3PO4水溶液中で、最大印加電圧100V(0.1 V・s−1で昇圧)で研磨丸棒を陽極として電気分解を行い、研磨丸棒に二酸化チタンコーティングを施した。陽極酸化処理後の研磨丸棒をXRD分析した結果、表面にアナターゼ構造の二酸化チタン被膜が生成していることが確認された。膜厚はおよそ120nmであった。
(転造丸棒)
全長8mm、直径2mmの純Ti丸棒を準備し、この純Ti丸棒を転造して、転造面の凹凸形状を転写した転造丸棒を得た。また、トルクドライバーによってトルクを測定するために、各転造丸棒の先端をキー状に放電加工した。転造丸棒の形状を図1に示す。
転造丸棒に微小凹凸を付与する転造工具(平ダイス)は、転造面を平滑(F)にしたもの、二段階の強度でショットブラストしたもの(S1,S2)、および二段階の強度で放電処理したもの(E1,E2)の5種類を準備し、これらにより5水準の表面粗さの試験品を作製した。各試験品の算術平均粗さRaを測定したところ、表1の通りであった。この算術平均粗さは、転造に用いた転造工具の転造面と同様の値を示しており、転写率が高いことがわかった。
上記転造丸棒については、それぞれの表面粗さについて、転造後に陽極酸化処理を行った。陽極酸化処理は、上記研磨丸棒と同条件で行った。
(骨ねじ)
全長8mmおよび呼び径M2の純チタン製骨ねじを転造によって製造した。母材は純チタンとした。骨ねじは、(1)ねじ山表面を全域にわたって平滑にしたもの、(2)ねじ山の山側部分を平滑、ねじ山の谷側部分を粗面にしたもの(図2参照)、(3)ねじ山の山側部分を粗面、ねじ山の谷側部分を平滑にしたものの3種類を試験品として準備した。ここで、ねじ山の「山側部分」とは、ねじの有効径よりも外側の部分を指し、ねじ山の「谷側部分」とは、ねじの有効径よりも内側の部分を指す。また、骨ねじは、トルクドライバーによってトルクを測定するために、先端をキー状に放電加工した。
上記3種類の骨ねじは、転造面の面粗度の異なる3種類の転造工具(平ダイス)を用いて転造した。すなわち、ねじ山全体が平滑な骨ねじ(1)は、転造面全域を研磨した転造工具を用いて転造した。また、部分的な粗面部を有する2種類の骨ねじ(2)(3)は、研磨後の転造面に対してショットブラストによって部分的な粗面を形成した転造工具を用いて転造した。このように、転造工具の転造面に部分的な粗面を形成しておけば、ねじ山形成と同時に、ねじ山表面に粗面部と滑面部を選択的に形成できる。なお、転造面の平滑度合いは、上記転造丸棒作製時の条件(F)と同様になるようにした。また、転造面に対する部分的なショットブラストは、上記転造丸棒作製時の条件(S2)と同条件で行った。
そして、上記骨ねじ(1)(2)(3)の夫々について、転造後に陽極酸化処理を施したものと、陽極酸化処理を施さないものの2種類の試験品を準備した。陽極酸化処理は、上記研磨丸棒と同条件で行った。
<評価用試料>
(ラット脛骨埋植実験および生体活性評価)
10週齢のラット脛骨骨幹部(両足)に、前記研磨丸棒、転造丸棒、および骨ねじを埋植し、2週間生育した。その後、埋植した試験品およびその周辺の骨組織を含む箇所を切り出して、評価用試料とした。
(生体活性評価)
研磨丸棒を埋植した評価用試料を用いて、後述する「骨‐インプラント接触比(RB‐I)」によって生体活性を評価した。具体的には、評価用試料を厚さ20μmに研磨加工してトルイジンブルーにて染色し、図3に示すように、光学顕微鏡観察下で、試験品(インプラント試料)の表面上に骨組織が生成した領域を定量した。そして、試験品の埋植部分の長さと、試験品上に骨組織が生成した部分の長さの比を、下記数式1に示すように「骨‐インプラント接触比(RB‐I)」と定義し、これによって生体活性を評価した。なお、骨は、皮質骨部(骨表面において硬組織で構成され力学的支持を担う)と、海綿骨部(骨内部において骨代謝が速く、硬組織が約3割)で構成されているが、RB‐Iは、代謝が遅く生体活性の差が明瞭に表れる皮質骨部において評価した。
(抜去トルク評価)
前記骨ねじおよび転造丸棒について、評価用試料(図4)の骨表面から突出した先端キー部にトルクドライバー(日本計測システム株式会社製)をセットして回転させ、360°回転までの最大トルク(以下、抜去トルク)を測定した。
<評価試験結果>
(生体活性評価)
図5は、研磨丸棒を埋植した評価用試料の生体活性評価の結果である。図5に示されるように、陽極酸化処理及び空気中高温酸化処理を施していない研磨丸棒(as‐polishied)では、生体活性のRa依存性がほとんど認められないが、陽極酸化処理を施した研磨丸棒(anodized in H3PO4)では、Ra<0.5μmの範囲で高い生体活性が発現しており、Ra≧0.5μmの範囲では、生体活性が殆ど向上していないことがわかった。また、空気中高温酸化処理を施した研磨丸棒(oxidation in air)の生体活性は、陽極酸化処理及び空気中高温酸化処理を施していない研磨丸棒とほとんど差異は認められなかった。なお、図5の結果にあって、陽極酸化処理した試験品についてのRaは、陽極酸化処理後に測定したものである。
以上の結果より、表面粗さRaがRa≧0.5μmの範囲では、表面に陽極酸化処理を施しても生体活性の増大効果が表れず、陽極酸化処理による生体活性向上効果を得るためには、面粗度を低くする必要があることが示された。
(転造丸棒の抜去トルク評価)
陽極酸化処理を施した転造丸棒の抜去トルク評価の結果を表2に示す。この結果は、同一製造条件の試験品を埋植した評価用試料を6サンプルずつ採取し、その平均値を示したものである。
表2の左側の条件は、表1に示す条件と対応している。すなわち、最上段の試験品(F)の表面が最も平滑であり、下段になるほど表面が粗いものとなる。抜去トルク評価の結果、表2に示されるように、表面の平滑な試験品(F)で1.65N・cmと高い値を示した。そして、この試験品(F)よりも表面が一水準粗い試験品(S1)では、抜去トルクが0.76N・cmと減少し、そこから、表面が粗い試験品になるほど抜去トルクが上昇し、表面の最も粗い試験品(E2)では、1.89N・cmと高い値を示した。
この結果は、上述の生体活性評価で示された傾向により説明できる。すなわち、表面が平滑な試験品(F)で抜去トルクが高くなったのは、陽極酸化処理によって試験品(F)の表面の生体活性が向上し、骨組織との接触面積が増大したためと説明できる。一水準粗い試験品(S1)で抜去トルクが大きく減少したのは、面粗度が高くなることによって、生体活性向上の効果が大きく減少したためと考えられる。また、試験品(S1)から試験品(E2)にかけて抜去トルクが増大するのは、面粗度の増加に伴って表面凹凸が骨の内部に大きく侵入してアンカー効果が強くなったためと考えられる。
以上のように、陽極酸化処理による効果は、面粗度の低い試験品で強くなり、面粗度が高くなると減少してしまうため、陽極酸化処理と粗し加工を単純に組み合わせても、陽極酸化処理による生体活性向上効果と、転造丸棒表面の粗面化によるアンカー効果とを適切に相乗させ難いことが示唆された。
(骨ねじの抜去トルク評価)
上記骨ねじの抜去トルク評価の結果を表3に示す。この結果は、同一製造条件の試験品を埋植した評価用試料を5サンプルずつ採取し、その平均値を示したものである。
陽極酸化処理を施した骨ねじは、何れの条件においても陽極酸化処理によって抜去トルクが向上した。注目すべきは、試験品3B(山側粗面,谷側滑面)の抜去トルクが、試験品1B(全域滑面)と比べて1割程度しか抜去トルクが向上していないのに対し、試験品2B(山側滑面、谷側粗面)の抜去トルクが、試験品1Bの2倍近くの抜去トルクが得られたことである。陽極酸化処理を施していない試料[2A]と試料[2B]の間で抜去トルクの差に大きな違いが見られないことから判断すると、陽極酸化処理を施した骨ねじでは、粗面部と滑面部の形成箇所の違いによって、生体活性向上効果とアンカー効果の相乗効果が大きく変化し、これにより、抜去トルクが大きく変化したものと考えられる。
以上の結果より、陽極酸化処理の効果が見込める滑面部と、アンカー効果は期待できるが、陽極酸化処理による生体活性向上効果の低い粗面部とをねじ山に形成することによって、骨からの抜去トルクを幅広く変化させることができることが示された。また、骨ねじのねじ山の山側に滑面部を、谷側に粗面部を形成した場合には、骨との結合力が強く、極めて脱落し難い骨ねじが得られることが示唆された。

Claims (5)

  1. チタン又はチタン合金からなるものであって、ねじ山の表面に面粗度の高い粗面部と、面粗度の低い滑面部とが形成されており、さらに、ねじ山の表面全域に陽極酸化処理が施されていることを特徴とする骨ねじ。
  2. 前記粗面部は、ねじ山表面の谷側部分に形成されており、前記滑面部は、ねじ山の山側部分に形成されていることを特徴とする請求項1記載の骨ねじ。
  3. 前記粗面部の算術平均粗さRaは0.5μm以上であり、前記滑面部の算術平均粗さRaは0.5μm未満であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の骨ねじ。
  4. 面粗度の高い部分と低い部分が転造面に形成されたダイスを用いてチタン又はチタン合金からなる母材を転造し、該母材にねじ山を形成すると同時に、該ねじ山の表面に面粗度の高い粗面部と、面粗度の低い滑面部を形成する転造工程と、
    該転造工程の後に、ねじ山の表面に陽極酸化処理を行う陽極酸化工程とを含むことを特徴とする骨ねじの製造方法。
  5. 前記転造工程では、前記粗面部の算術平均粗さRaが0.5μm以上になり、前記滑面部の算術平均粗さRaが0.5μm未満になるようすることを特徴とする請求項4記載の骨ねじの製造方法。
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