本発明の外周切断刃は、例えば、図1に示すように、円形薄板(円形リング状薄板)の台板10の外周縁部上に、ダイヤモンド砥粒及び/又はcBN砥粒が、電気メッキ又は無電解メッキにより形成された金属又は合金(金属結合材)で結合された切り刃部20が形成されているものである。この台板10の中央部には内穴12が形成されている。
台板は、厚みが0.1〜1.0mm、好ましくは0.2〜0.8mmで、外径が80〜200mm、好ましくは100〜180mm、内穴の直径(内径)が30〜80mm、好ましくは40〜70mmの寸法を有する。
厚み0.1〜1.0mmで外径200mm以下の範囲としたのは、精度のよい台板の製作が可能なことと、希土類焼結磁石等の被作物(ワーク)を寸法精度良く長期にわたって安定して切断できるからである。厚み0.1mm未満であると、外径によらず大きな反りが発生しやすいため、精度良い台板の製作が難しく、また、1.0mmを超えると切断加工代が大きくなる。外径をφ200mm以下としたのは、現行の超硬合金の製造技術及び加工技術での製作可能な寸法による。内穴の直径については、加工機の切断刃取り付け軸の太さに合わせ、φ30〜φ80mmとする。
台板の材質は超硬合金であり、例えば、WC、TiC、MoC、NbC、TaC、Cr3C2などの周期表IVB、VB、VIB族に属する金属の炭化物粉末をFe、Co、Ni、Mo、Cu、Pb、Sn、又はそれらの合金を用いて焼結結合した合金が好ましく、これらの中でも特にWC−Co系、WC−Ti系、C−Co系、WC−TiC−TaC−Co系の代表的なものを用い、ヤング率が450〜700GPaのものを用いる。また、これらの超硬合金においては、メッキができる程度の電気伝導性を有するか、又はパラジウム触媒などによって電気伝導性を付与できるものが好ましい。パラジウム触媒などによる電気伝導性の付与については、例えば、ABS樹脂にメッキする場合などに用いられる導電化処理剤など、公知のものを利用することができる。
なお、台板の磁気的特性は、砥粒を磁気吸引により台板に固定するために飽和磁化が大きいほうが好ましいが、仮に、飽和磁化が小さくても、後述するように磁石位置や磁界の強さを制御することで予め磁性体でコーティングされた砥粒を台板に磁気吸引させることが可能なため、40kA/m(0.05T)以上であればよい。
台板の飽和磁化は、所定厚みの台板から5mm角の測定試料を切り出し、VSMを用いて24〜25℃の間で磁化曲線(4πI−H)を測定し、第一象限における磁化の値の上限を台板の飽和磁化とすることができる。
台板外周部は、金属結合材で砥粒が固着され形成された切り刃部との結合強度を高めるため、C面取りやR面取りを施すことも効果的である。これらの面取りを施すことによって、刃厚調整時に台板と砥粒層との境目を誤って研削しすぎた場合でも、金属結合材が境目に残ることで、切り刃部の脱落を防ぐことができる。面取りの角度や量は、加工できる範囲が台板の厚みに依存するため、用いる台板の厚みと固着する砥粒の平均粒径に応じて決定する。
切り刃部を形成する砥粒としては、ダイヤモンド砥粒及び/又はcBN砥粒を用いるが、これらの砥粒は予め磁性体によってコーティングしておく必要がある。磁性体によってコーティングされる砥粒の大きさや硬さは、目的に応じて決める。
例えば、ダイヤモンド(天然ダイヤモンド、工業用合成ダイヤモンド)砥粒、cBN(立方晶窒化ホウ素)砥粒を各々単独で用いてもよいし、ダイヤモンド砥粒とcBN砥粒との混合砥粒を用いることも可能である。また、被作物に応じて、各々の砥粒を単結晶又は多結晶の中から、各々単独又は混合して用いるなどして、割れやすさを調節することも可能である。更に、これら砥粒の表面に、Fe、Co、Crなどの金属を1μm程度スパッタリングしておくことも、後述のコーティングする磁性体との結合強度を高める方法として有効である。
砥粒の大きさは、台板の厚みにもよるが、平均粒径で10〜300μmであることが好ましい。平均粒径が10μm未満であると、砥粒と砥粒の隙間が少なくなるため、切断中の目詰まりが生じやすくなり切断能力が低下するし、平均粒径300μmを超えると、磁石の切断面が粗くなるなどの不具合が生じてしまうおそれがある。このような範囲において、切断加工性や寿命などを考慮して、特定の大きさの砥粒を単独又は幾つかの組み合わせで用いればよい。
砥粒をコーティングする磁性体は、例えば、飽和磁化の低い超硬合金などの台板でも短時間で磁気吸引でき、メッキ法で固着する際に脱落しないように、砥粒の質量磁化率χgが0.2以上、好ましくは0.39以上となるように、Ni、Fe及びCoから選ばれる1種の金属、これら金属から選ばれる2種以上からなる合金、又はこれら金属若しくは合金の1種とP及びMnから選ばれる1種若しくは2種との合金を、スパッタリング、電気メッキ、無電解メッキなどの公知の方法により、皮膜の厚みが砥粒径の0.5〜100%、好ましくは2〜80%となるようにコーティングする。
砥粒の磁化率はコーティングする磁性体の磁化率とコーティングするときの厚みに依存するため、砥粒の大きさによって必要な吸引力が得られるよう磁性体の種類について考慮する必要があるが、例えば、無電解ニッケルリンメッキのようにリン含有率が高くて磁化率が小さいものでも、熱処理を施すことによって、ある程度磁化率を大きくすることも可能であるし、磁化率が小さいコーティングの上に磁化率の大きなコーティングを施すように異なる磁化率のコーティングで複層化することも可能であることから、状況に合わせて適度な範囲で調節する。
このように砥粒の質量磁化率χgを0.2以上、好ましくは0.39以上とすれば、後述する台板外周縁部に近接して形成される磁場によって、速やかに砥粒が磁化されるため、台板と永久磁石保持具(治具本体)とで形成される後述する図3の隙間64の全ての部位において、ほぼ均等に砥粒が磁気吸引される。砥粒の質量磁化率χgが0.2未満であると、上記隙間に砥粒がうまく吸引されず、メッキ中に砥粒が脱落するなどして砥粒層(切り刃部)を形成できないか、又は砥粒層に孔部などを生じてさせるため、結果として砥粒層の機械強度を弱めてしまうおそれがある。
なお、砥粒の質量磁化率は、以下の方法で測定することができる。まず、外径φ8mm、高さ5mm程度で、内径φ6mmの樹脂製容器内に、砥粒が1〜2層程度になるよう、できるだけ薄く均一に広げたあと容器から取り出して砥粒の重量を測定し、再度容器に戻してから、その上に融点50℃程度のパラフィンを被せ、全体を60℃のオーブンに入れ加熱する。次に、パラフィンが溶けた状態で容器に蓋をし、冷却する。次に、この試料を温度24〜25℃で、VSM(振動試料型磁力計:Vibrating Sample Magnetometer)を用い、初磁化曲線(4πI−H)を測定する。この初磁化曲線での微分磁化率を曲線の変曲点における傾きから求め、試料重量で割って砥粒の質量磁化率χgとする。なお、磁場はNi標準試料で校正し、砥粒の密度はタップ嵩密度を用いて測定する。
コーティングする磁性体の厚みは、切り刃部を形成した際に作る隙間の大きさにも影響を与えるので、特に適切な範囲とすることが必要である。最小厚みは、メッキでコーティングする場合でも砥粒全体をほぼ隙間無くコーティングできる厚みである2.5μm以上となるようにするのが好ましい。例えば、上述した砥粒の好ましい平均粒径範囲の最大値300μmの場合では0.5%以上、特に0.8%以上であればよい。コーティングの厚みをこのようにすることにより、外周切断刃として切断加工する際においても、砥粒の脱落を低減できる保持力を得ることができ、また、コーティングする磁性体の種類を適切に選ぶことで、メッキ工程中に脱落すること無く、砥粒が磁場によって台板外周縁部上又は近傍に吸引される。
最大厚みは、例えば、上述した砥粒の好ましい平均粒径範囲の最小値10μmの場合には、切断加工において有効に機能しない部分や、砥粒の自生作用を妨げる部分が増え、加工能力が低下するので、砥粒の平均粒径に対して100%までとすることが好ましい。
砥粒を結合する金属結合材は、後述するメッキ金属(合金)である。切り刃部の形成には、台板の外周縁部に近接して永久磁石を配設することが必要であり、例えば、台板の外周端より内側(外周切断刃としたときの回転軸側)の台板面上、又は外周端より内側で台板側面からの距離が20mm以内となる空間内に、残留磁束密度が0.3T以上である永久磁石を2個以上配置することで、台板の少なくとも外周端から10mm以内の空間に8kA/m以上の磁場を形成し、更に予め磁性体をコーティングしてなるダイヤモンド砥粒及び/又はcBN砥粒に、この磁場を作用させて磁気吸引力を生じさせ、その吸引力によりこれらの砥粒を台板外周縁部上又は近傍に磁気的に吸引固定し、その状態のまま台板外周縁部上に電気メッキ又は無電解メッキを施して、台板外周縁部上に固着する方法を採用することができる。
この際に用いる治具としては、台板の外径より大きい外径を有する絶縁体からなるカバーと、このカバーに、台板の外周端より内側になるように配置、固定された永久磁石とを有する1対の治具本体を用いることができる。メッキは、これら治具本体間に台板を保持して行うことができる。
図2,3は、このメッキの際に用いる治具の一例を示すもので、50,50は一対の治具本体であり、これら治具本体50,50はそれぞれ絶縁体製のカバー52,52と、これらカバー52,52に装着された永久磁石54,54とを有し、治具本体50,50間に台板1が保持される。なお、永久磁石54,54はカバー52,52内に埋設することが好ましいが、台板1と当接するように設けてもよい。
治具に内蔵する永久磁石には、メッキ法で金属結合材を析出させて砥粒を固着させる間、台板に砥粒を吸引しつづけるだけの磁力が必要である。必要とする磁力は、台板外周縁部と磁石との距離や、予め砥粒をコーティングしている磁性体の磁化や磁化率にもよるが、残留磁束密度0.3T以上、保磁力0.2MA/m以上、好ましくは残留磁束密度0.6T以上、保磁力0.8MA/m以上、より好ましくは残留磁束密度1.0T以上、保磁力1.0MA/m以上である永久磁石を用いることで得られる。
永久磁石の残留磁束密度は、値が大きいほど、形成する磁場の勾配を大きくできるため、局所的に砥粒を吸引したい場合には好都合である。よって、メッキ中に生じるメッキ液の撹拌や台板と治具の揺動による振動で砥粒が台板から外れてしまうことを防ぐために、0.3T以上の残留磁束密度の永久磁石を用いることが好ましい。
保磁力は値が大きいほど、高温のメッキ液にさらされても長期間砥粒を台板に強く磁気吸引でき、用いる磁石の位置、形状、大きさについての自由度が大きくなって治具製作が容易となるので、必要な残留磁束密度を満たした中から選べばよい。
永久磁石のコーティングは、メッキ液に磁石が触れる場合も考慮し、メッキ液へのコーティング材の溶出やメッキ液中の金属種との置換ができるだけ少なくなるような条件で選定して、永久磁石の耐食性を高めるようにする。例えば、Niメッキ液を用いて金属結合材を析出するのであれば、Cu、Sn、Niの金属や、エポキシ樹脂やアクリル樹脂のコーティングが適している。
治具に内蔵する永久磁石の形状と寸法及び数は、台板となる超硬合金の大きさ、所望する磁場の位置と向きと強さによる。例えば、台板外周縁部に均一に砥粒を固着させたい場合は、台板の外径に合ったリング状や円弧状の磁石、又は、1辺の長さが数mm程度の直方体状磁石を、台板外周に沿って隙間無く連続に配置する。なお、磁石にかかるコストを少なくする目的で、これら磁石の間に均等に空間を設けて個数を減らし配置してもよい。
また、用いる磁石の残留磁束密度にもよるが、磁石間隔を大きくすることで予め磁性体によってコーティングされている砥粒が吸引される部分と吸引されない部分とを設けて、固着される砥粒の有る部分と無い部分を作り、矩形状の切り刃部を形成させることもできる。
なお、台板外周縁部に生じさせる磁場は、台板を挟む2つの治具本体に固定される永久磁石の位置と磁化方向の向きの組み合わせによって様々に作り出すことができるため、台板の少なくとも外周端から10mm以内の空間に8kA/m以上、好ましくは40kA/m以上の磁場が形成されるように磁場解析と実証を繰り返して決定する。磁場の強さが8kA/m未満であると、予め磁性体によってコーティングされている砥粒の吸引力が不足するため、その状態でメッキすると、メッキ中に砥粒が動いてしまい、隙間の多い切り刃部が形成されたり、砥粒が樹枝状に固定されたりして切り刃部の寸法が所望よりも大きくなるおそれがある。その結果、整形加工中に切り刃部が脱落したり、整形加工にかかる時間が長くなったりするため、製造コストが増大する場合がある。
永久磁石の位置は、できるだけ砥粒を吸引させたい部分に近いほうが好ましいが、大まかには、台板の外周端より内側の台板面上又は外周端より内側で台板面からの距離が20mm以内である空間内、更に好ましくは距離10mm以内である空間内がより好ましい。この範囲の特定位置に0.3T以上の残留磁束密度を有する永久磁石をその全て又は一部分が含まれるように2個以上(治具本体1個あたり1個以上)配置することで、台板の少なくとも外周端から10mm以内の空間内に8kA/m以上の磁場を形成することができるため、合金工具鋼や高速度鋼のように飽和磁化が大きく磁力を誘導しやすい材質はもちろんのこと、超硬合金のように飽和磁化が低く磁力の誘導が小さい材質であっても、台板外周縁部に磁力が適切な磁場を形成させることができる。この磁場内に予め磁性体でコーティングされた砥粒を取り込むことで、コーティング皮膜が磁化されるため、結果として所望する台板外周縁部上又は近傍に砥粒を吸引保持することが可能となる。
台板外周端からの磁石の位置が、例えば、外周端から0.5mm外側(外周切断刃としたときの回転軸から離間する側)である場合のように、台板外周端に極めて近い位置であっても、上記の範囲に含まれない場合は、台板外周端近傍の磁場強度は強くなるが、磁場勾配が反転する領域が生じやすくなるため、砥粒が台板から浮き上がるような挙動を示し砥粒が脱落しやすくなる。また、台板外周端よりも内側にあっても外周端からの距離が20mmを超えてしまうような場合には、台板の外周端から10mm以内の空間にできる磁場の強度が8kA/m未満になりやすいため、砥粒を磁気的に吸引する力が不足してしまうおそれがある。また、このような場合、磁場の強度を上げるため、磁石を大きくする方法もあるが、この方法では砥粒を吸引させたい部位近傍の磁場強度を全体的に上げてしまうため、砥粒を吸引させたくない位置に砥粒が付着しやすくなって好ましくない。また、この磁石を大きくする方法は磁石を保持する治具も大きくなってしまうため、あまり現実的ではない。
治具の形状は、用いる台板の形状に合わせる。また、その寸法は治具で台板を挟んだ際に台板に対して永久磁石を所望の位置に固定できるようなものにする。例えば、台板の大きさが外径φ125mm、厚み0.26mmで、永久磁石の大きさがL2.5mm×W2mm×t1.5mmの場合には、外径125mm以上、厚み20mm程度の円板を用いることができる。
より具体的には、治具の外径は所望する砥粒層の高さ(突き出し量)が確保できるように、台板の外径+(砥粒層の高さ×2)以上とし、その厚みは、材質によるが、高温のメッキ液に出し入れする際の急激な温度変化等によって反りなどが生じない程度の強度を確保できるものにする。なお、砥粒と接する部分の治具厚みは、砥粒層が台板の厚み方向にせり出す量(図1のT3)が得られるように薄くしてもよいし、せり出し量と同等の厚みのマスキングテープを用いて他の部分と同じ厚みにしてもよい。
治具の材質は、台板を挟んだ治具全体を高温のメッキ液に浸漬して金属結合材を析出させることから、メッキが析出しない絶縁体が好ましく、その中でも耐薬品性、90℃程度までの耐熱性、メッキ液への出し入れ時に生じる急激な温度変化を繰り返し受けても安定した寸法を保つことができるような耐ヒートショック性を有することが望まれる。更に、高温のメッキ液に浸漬した際でも成型時や加工時に蓄積された内部応力などで反りを生じて台板との間に隙間を生じさせることが無いような寸法安定性も必要である。もちろん、任意の位置に永久磁石を内蔵するための溝を割れや欠けなしに高精度で加工できる加工性も求められる。
具体的なものとしては、PPS、PEEK、POM、PAR、PSF、PESなどのエンジニアリングプラスティックやアルミナなどのセラミックスを用いることができる。このような材質を用い、機械強度も考慮して厚み等の寸法を決め、永久磁石を保持する溝や、電気メッキ法を用いる場合に必要な給電電極等が収まる溝を設ける。このように製作した1対の治具本体2つを台板1枚と一体化して用いる。一体化する際には、電気メッキができるよう台板に通電するための電極等を用いて締結できるようにすれば、給電部の確保と締結を両立でき、全体も小型化できる。もちろん、一度に複数の台板にメッキできるよう、例えば、図2に示したように、治具を連結できるような構造にすれば、より効率的な生産が可能となるので好ましい。
即ち、図2において、56,56はそれぞれカバー52,52の中央部に装着された台板押さえを兼ねた電気メッキ用陰極体であり、これら陰極体56,56は、1対の治具本体50,50を支持、固定する導電性の支持棒58と接触し、この支持棒58から通電し得るようになっている。また、図2の治具は、2組の1対の治具本体50,50が所定間隔離間して支持棒58に取り付けられたものである。図2中、60はジョイント、62はエンドキャップである。なお、この図2の治具は電気メッキ用であり、無電解メッキ用の場合は、陰極体は必要とせず、その代わりに非導電性の押さえを設けてもよく、支持棒は必ずしも導電性である必要はない。
このような治具を用いてメッキを行う場合、磁性体をコーティングした砥粒は必要により天秤等で任意の質量を量り取り、永久磁石を保持した1対の治具本体で台板を挟んだ際に台板外周部と治具によって形成された隙間に吸引保持させる。図3はこの隙間を説明したもので、1対の治具本体50,50(カバー52,52)の台板1から先方に突出する突出部52a,52aと台板1の先端部との間に隙間64が形成され、この隙間64に砥粒を磁気吸引するものである。
保持させる砥粒の量は、用いる台板の外径と厚み、砥粒の大きさ及び所望する切り刃部の高さや幅に依存する。なお、台板外周の全ての位置で単位体積あたりの砥粒の量を均等にでき、かつメッキ法で砥粒を強固に固着させることができるように、砥粒を保持させメッキを数回繰り返し行うことも好ましい。
このようにして切り刃部を形成するが、切り刃部における砥粒の体積率は、10〜80体積%、特に30〜75体積%の範囲が好ましい。10体積%未満では、切断に寄与する砥粒の割合が少なく、切断時の抵抗が増える。80体積%を超えると切断中の刃先変形量が少なくなるため、切断面に切り跡が残り被作物の寸法精度や外観を悪くしてしまう。これらの理由から切断速度を遅くせざるを得なくなるので、目的に応じて砥粒にコーティングする磁性体の厚みを変えることで粒径を変えて体積率を調整することが好ましい。
なお、図1(C)に示したように、切り刃部は、台板の外周縁部を挟持し、かつ台板の外周部より先方に突出して形成されており、切り刃部の厚みが台板の厚みより厚くなるように形成されていることが有効であり、従って、このように図3で示される隙間64を形成することが好ましい。
この場合、図1(C)において、切り刃部の台板外周部を挟持する1対の挟持部22a,22bの長さH1は、それぞれ0.1〜10mm、特に0.5〜5mmであることが好ましい。また、これら1対の挟持部22a、22bの厚さT3は、それぞれ5μm(0.005mm)以上、より好ましくは5〜2,000μm、更に好ましくは10〜1,000μmであり、従って、これら1対の挟持部22a,22bの合計厚さ(即ち、切り刃部が台板より厚い部分の厚み)は好ましくは0.01mm以上、より好ましくは0.01〜4mm、更に好ましくは0.02〜2mmである。挟持部22a,22bの長さH1が0.1mm未満であると台板外周縁部の欠けや割れを防ぐ効果はあるが、台板の補強効果が少なく、切断時の抵抗による台板の変形を防げない場合がある。また、H1が10mmを超える場合は台板を補強することに対するコストパフォーマンスが低下するおそれがある。一方、T3が5μm未満であると台板の機械的強度を高めることができないし、切断スラッジを効果的に排出することができなくなるおそれがある。
なお、図4(A)〜(D)に示したように、挟持部22a,22bは、金属結合材24と砥粒26から形成されていてもよく[図4(A)]、金属結合材のみによって形成されていてもよく[図4(B)]、金属結合材のみによって台板10を覆い、更にこれを被覆して金属結合材と砥粒との層を形成するようにしてもよい[図4(C)]。なお、図4(C)の外側に全体を覆うように金属結合材を析出させて[図4(D)]のようにすると、切り刃部の強度を更に上げることができる。
更に、図4(B)〜(D)のように、挟持部の台板10に接する部分を金属結合材24のみによって形成する方法としては、例えば、台板の挟持部が形成されるべき部分のみを露出させて他の部分をマスキングし、この状態でメッキを行った後、上記した治具を装着し、隙間64に砥粒26を充填してメッキを行う方法が採用され、砥粒26を電着した後に、例えば、電着部分が露出するような外径の図2のカバー52,52で台板10をマスキングして更にメッキを行うことにより、図4(D)のように、切り刃部最外層として金属結合材24のみからなる層を形成することができる。
切り刃部20の台板10より先方に突出している突出部の突出長さ(図1(C)のH2)は、固着する砥粒の大きさによるが0.1〜10mm、特に0.3〜8mmであることが好ましい。突出長さが0.1mm未満であると、切断時の衝撃や磨耗によって切り刃部が無くなるまでの時間が短く、結果として刃の寿命が短くなってしまうし、10mmを超えると刃厚(図1のT2)にもよるが、切り刃部が変形しやすくなり、切断面がうねったりして切断した磁石の寸法精度が悪くなるおそれがある。なお、切り刃部は、金属結合材24及び砥粒26と後述の含浸樹脂から形成されている。
金属結合材は、メッキにより形成された金属又は合金であり、Ni、Fe、Co、Cu及びSnから選ばれる1種の金属、これら金属から選ばれる2種以上からなる合金、又はこれら金属若しくは合金の1種とP及びMnから選ばれる1種又は2種との合金が好ましく、これをメッキによって砥粒間及び砥粒と台板との間を連結するように析出させる。
金属結合材をメッキで形成する方法には、大きく分けて電着法(電気メッキ法)と無電解メッキ法の2種類があるが、本発明では、結合材に残留する内部応力の制御が容易で生産コストの安い電着法と、メッキ液が入り込みさえすれば金属結合材を比較的均一に析出できる無電解メッキ法とを、切り刃部に含まれる隙間が後述する適度な範囲となるように、各々単独で又は組み合わせて用いる。
NiメッキやCuメッキなどの単一金属、例えば、スルファミン酸Niメッキ液を用いた電気メッキ法を用いる場合は、主成分となるスルファミン酸ニッケルの濃度、メッキ時の電流密度、メッキ液の温度を好適な範囲とし、かつオルソベンゼンスルフォンイミドやパラトルエンスルフォンアミドなどの有機添加物の添加や、Zn、S、Mnなどの元素を加え、皮膜の応力を調整するなどして実施すればよい。
その他、Ni−Fe合金、Ni−Mn合金、Ni−P合金、Ni−Co合金、Ni−Sn合金などの合金メッキの場合は、合金中のFe、Mn、P、Co、Snの含有量、メッキ液の温度などを好適な範囲にするなどして皮膜の応力を調整する。もちろんこれらの合金メッキの場合でも応力を調整できる有機添加物の併用は効果的である。
メッキは、単一金属又は合金を析出させる従来公知のメッキ液を用いてそのメッキ液における通常のメッキ条件を採用して公知の方法で行うことができる。
好適な電気メッキ液としては、例えば、スルファミン酸ニッケルが250〜600g/L、硫酸ニッケルが50〜200g/L、塩化ニッケルが5〜70g/L、ホウ酸が20〜40g/L、オルソベンゼンスルフォンイミドが適量の電気スルファミン酸ワットニッケルメッキ液、ピロリン酸銅が30〜150g/L、ピロリン酸カリウムが100〜450g/L、25%アンモニア水が1〜20mL/L、硝酸カリウムが5〜20g/Lの電気ピロリン酸銅メッキ液などが挙げられる。また、無電解メッキ液としては、硫酸ニッケルが10〜50g/L、次亜リン酸ナトリウムが10〜50g/L、酢酸ナトリウムが10〜30g/L、クエン酸ナトリウムが5〜30g/L、チオ尿素が適量の無電解ニッケル・リン合金メッキ液などが挙げられる。
このような方法により、ダイヤモンド砥粒、cBN砥粒又はダイヤモンド砥粒とcBN砥粒との混合砥粒を台板の外周部に最終形状に近い寸法で高精度に形成する。
本発明においては、上述した方法で得られた、切り刃部の砥粒間及び砥粒と台板との間に存在する空隙に、融点が350℃以下である熱可塑性樹脂を含浸する、又は硬化温度が350℃以下の液体状の熱硬化性樹脂組成物を含浸し、これを硬化させて熱硬化性樹脂とする。これにより、本発明の超硬合金台板外周切断刃では、切り刃部の内部及び表面の、粒間及び砥粒と台板との間に、融点が350℃以下である熱可塑性樹脂、又は硬化温度が350℃以下の液体状の熱硬化性樹脂組成物の硬化物、即ち、熱硬化性樹脂が含まれている。
含浸する熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、これらの変成樹脂が挙げられ、これらから選ばれる1種以上を用い得る。
熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂を切り刃部に含浸する方法として具体的には、熱可塑性樹脂の場合は、例えば、φ0.1〜2.0mm、好ましくはφ0.8〜1.5mmの線状、粉状、又は切り刃部の形状寸法と同じで厚みが0.05〜1.5mmのリング状の薄膜状に加工した熱可塑性樹脂を、切り刃部に載せ、ホットプレートのような加熱器上、オーブンの中などで、融点以上に昇温し、溶融した樹脂を、切り刃部に含浸させ、その後、徐々に冷却して室温に戻す方法が挙げられる。また、熱硬化性樹脂の場合は、例えば、有機溶剤、硬化剤等を含む液状の熱硬化性樹脂組成物を、切り刃部に載せて浸透させ、硬化温度以上に昇温し、硬化させ、徐々に冷却して室温に戻す方法が挙げられる。この他、切り刃部の近傍に幾らかのクリアランスがある下金型に、含浸前の外周切断刃を入れた後、予め計り取った樹脂や樹脂組成物を充填して上金型をはめ、上下に適度に加圧しながら加熱して、樹脂や樹脂組成物を切り刃部に含浸させ、冷却してから脱圧し、金型から取り出す方法も可能である。加熱後は、ひずみが残らないように、徐々に冷却する。
濡れ性が比較的高い樹脂を含浸させる場合には、台板をステンレス、鉄、銅などの金属で挟んでから通電して、この金属を発熱させることで台板及び切り刃部を加熱し、樹脂を溶かした溶融液又は液状の樹脂組成物に発熱した切り刃部を接触させて含浸することもできる。
このようにして得られた切り刃部は、砥粒、砥粒をコーティングしている磁性体、金属結合材、隙間に含浸した樹脂が適度に分散した状態になっている。
なお、これら切り刃部に含浸させる樹脂の物性は、以下のものが適している。融点は、350℃以下の範囲であることが好ましい。熱可塑性樹脂の場合、融点の上限温度については、超硬合金台板にひずみが生じて寸法精度が悪化すること、機械的強度が変化すること、超硬合金台板と切り刃部の熱膨張差が顕著となって切り刃部が変形したり、ひずみが残ったりすることを防ぐため350℃以下、好ましくは300℃以下が適している。一方、熱硬化性樹脂の場合、室温付近で組成物を含浸させるために十分な流動性があればよく、融点は10℃以上が好ましい。
樹脂の弾性は、ポアソン比が0.3〜0.48、好ましくは0.33〜0.44であるものが適している。ポアソン比が0.3より低い場合、柔軟性が乏しく、切断面をなめらかにつなぐことが難しくなる。ポアソン比が0.48よりも高い場合は、硬度など他の物性が不足するため、刃先の変形が大きくなりすぎる。ポアソン比は、含浸に供する樹脂の15×15×15mmの試料を用い、パルス超音波法により測定することができる。
樹脂の硬度は、切断中に砥粒が摩滅、破壊、脱落するなどしても次の砥粒が露出して切断に寄与する作用(砥粒の自生作用)を妨げない程度でよく、砥粒を被覆している磁性体や砥粒を固着している金属結合材よりも低いものが好ましい。また、切削加工する際に用いられる加工油やクーラントに曝されても強度変化や腐食を起こさないことも必要である。
樹脂を含浸させた切り刃部は、必要に応じて、酸化アルミ、炭化ケイ素、ダイヤモンドなどの砥石による研削加工や、放電加工などを用いて所望の寸法に整える。この際、刃厚にもよるが、刃先にC0.1以上又はR0.1以上の面取りを施すことは、切断面の切り跡を少なくすることに加えて、磁石端面のカケも低減することができるので有効である。
本発明の外周切断刃を適用した切断は、その被作物(被切断物)としては、R−Co系希土類焼結磁石、R−Fe−B系希土類焼結磁石(RはYを含む希土類元素の少なくとも1種)に対する切断において効果的である。これら磁石は、例えば、次のようにして製造される。
R−Co系希土類焼結磁石は、RCo5系、R2Co17系などがある。このうち、例えば、R2Co17系では、質量百分率で20〜28%のR、5〜30%のFe、3〜10%のCu、1〜5%のZr、残部Coからなる。このような成分比で原料を秤量して溶解、鋳造し、得られた合金を平均粒径1〜20μmまで微粉砕し、R2Co17系磁石粉末を得る。その後、磁場中成形し、更に1,100〜1,250℃で0.5〜5時間焼結し、次いで焼結温度より0〜50℃低い温度で0.5〜5時間、溶体化し、最後に700〜950℃で一定時間保持した後、冷却する時効処理を施す。
R−Fe−B系希土類焼結磁石は、質量百分率で5〜40%のR、50〜90%のFe、0.2〜8%のBからなり、磁気特性や耐食性を改善するために、C、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、Sn、Hf、Ta、Wなどの添加元素を加える。これら添加元素の添加量は、Coの場合、質量百分率で30%以下、その他の元素の場合には質量百分率で8%以下である。このような成分比で原料を秤量して溶解、鋳造し、得られた合金を平均粒径1〜20μmまで微粉砕し、R−Fe−B系磁石粉末を得る。その後、磁場中成形し、更に1,000〜1,200℃で0.5〜5時間焼結し、400〜1,000℃で一定時間保持した後、冷却する時効処理を施す。
このような本発明の外周切断刃は、特に、刃先の圧縮剪断応力が、所定の範囲にあると、切断面に切り跡を残すことなく、高い寸法精度で希土類磁石を切り出すことができ、有効である。例えば、外周切断刃において、切り刃部の厚みを0.1〜1.0mm、外径を80〜200mm、刃先の面取りをR又はCで0.1以上に整えた後、外周切断刃を水平に切り刃部のみ露出する厚み5mmの円形鉄板で外周切断刃を上下から挟む支持治具を用いて、押圧時に台板部分が反らないように保持し、超硬合金台板の外周から外方に0.3mm離れた位置において、切り刃部を、接触部の長さが(切り刃部の突き出し量−0.3mm)、幅が10mmの圧子で、外周切断刃の回転軸方向(切り刃部の厚み方向)に線速1mm/minで押圧し、これを切り刃部が破断するまで継続して圧子の移動量に対する応力を測定する。この場合に圧子の移動量が大きくなると、グラフが直線性を示す領域、即ち、圧子の移動量と応力とが比例する領域が確認される。この変形量と応力の比例領域の傾きを算出すると、100〜10,000N/mmの範囲のものが、切断面に切り跡を残すことなく、高い寸法精度の磁石を切り出すことができ、特に有効である。
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
[実施例1]
質量百分率でWCが90%、Coが10%の超硬合金を外径φ125mm×内径φ40mm×厚み0.3mmのドーナツ状孔あき円板に加工し、台板とした。この台板のヤング率は600GPa、飽和磁化は127kA/m(0.16T)であった。
この台板を外周端から内側1.0mmの部分のみが露出するように粘着テープでマスキングして、市販のアルカリ脱脂水溶液に40℃、10分間浸漬した後、水洗し、50℃のピロリン酸ナトリウム30〜80g/Lの水溶液に2〜8A/dm2で通電しながら電解した。次に、超硬合金台板を純水中で超音波洗浄した後、50℃のスルファミン酸ワットニッケルメッキ液に浸漬し、5〜20A/dm2の範囲で通電して下地メッキした後、マスキングテープを剥がして水洗した。
次いで、外径φ130mm、厚み10mmのPPS樹脂製円盤の一側面に、外径φ123mm、内径φ119mm、深さ1.5mmの溝を形成し、この溝に、長さ2.5mm×幅2mm×厚み1.5mmの永久磁石(信越レアアースマグネット製N39UH、Br=1.25T)を、厚み方向を円盤の深さ方向として、均等間隔で円盤1個あたり75個配列させた後、溝をエポキシ樹脂で埋めて磁石を固定したカバーを作製し、このカバー2枚からなる治具本体で、磁石側を内側にして台板を挟持した。このとき、磁石は台板外周端から台板側面内側方向に1mm離れていた。なお、台板外周端から10mmまでの空間内に形成される磁場について磁界解析したところ、磁場強度は8kA/m(0.01T)以上であった。
予めNiPメッキした質量磁化率χg0.588、平均粒径135μmのダイヤモンド砥粒0.4gを治具と台板とで作られる凹みに全周均等になるように磁気吸引させた。次に、砥粒が磁気吸引された状態のまま、治具ごと50℃のスルファミン酸ワットニッケルメッキ液に浸漬し、5〜20A/dm2の範囲で通電して電気メッキした後、水洗した。その後、ダイヤモンド砥粒0.4gを磁気吸引させ、上記と同様にメッキして水洗する操作を再度繰り返した。
治具本体を、得られた砥粒層両側面が露出するように、外径φ123mm、厚み10mmのPPS樹脂製円盤に交換して、50℃のスルファミン酸ワットニッケルメッキ液に浸漬し、5〜20A/dm2の範囲で通電して、切り刃部全体を覆うようにメッキ析出させた後、水洗し、治具から取り外して、乾燥した。
次いで、ビスフェノールAジグリシジルエーテルとジシアンジアミドを樹脂主成分として有機溶媒に溶解させた液状エポキシ樹脂組成物を、外周切断刃の切り刃部側面に塗布して3分間保持し、その状態のまま180℃のオーブンに入れて約120分間保った後、加熱を切ってオーブン内で自然冷却した。なお、この硬化したエポキシ樹脂のポアソン比は0.34である。図5に切り刃部の刃先側面の顕微鏡写真を示す。
その後、工具研削盤を用いて、超硬合金台板からの砥粒層のせり出しが片側50μmになるように砥石で研削して、砥粒層のせり出し、厚み及び外径を整えた後、ドレスして、厚み0.4mm、外径127mmの砥粒層(切り刃部)を形成した超硬合金台板外周切断刃を得た。
[実施例2]
質量百分率でWCが90%、Coが10%の超硬合金を外径φ125mm×内径φ40mm×厚み0.3mmのドーナツ状孔あき円板に加工し、台板とした。
この台板を外周端から内側1.5mmの部分のみが露出するように粘着テープでマスキングして、市販のアルカリ脱脂水溶液に40℃、10分間浸漬した後、水洗し、50℃のピロリン酸ナトリウム30〜80g/Lの水溶液に2〜8A/dm2で通電しながら電解した。次に、超硬合金台板を純水中で超音波洗浄した後、50℃のスルファミン酸ワットニッケルメッキ液に浸漬し、5〜20A/dm2の範囲で通電して下地メッキした後、マスキングテープを剥がして水洗した。
次いで、外径φ130mm、厚み10mmのPPS樹脂製円盤の一側面に、外径φ123mm、内径φ119mm、深さ1.5mmの溝を形成し、この溝に、長さ1.8mm×幅2mm×厚み1.5mmの永久磁石(信越レアアースマグネット製N32Z、Br=1.14T)を、厚み方向を円盤の深さ方向として、均等間隔で円盤1個あたり105個配列させた後、溝をエポキシ樹脂で埋めて磁石を固定したカバーを作製し、このカバー2枚からなる治具本体で、磁石側を内側にして台板を挟持した。このとき、磁石は台板外周端から台板側面内側方向に1.5mm離れていた。なお、台板外周端から10mmまでの空間内に形成される磁場について磁界解析したところ、磁場強度は16kA/m(0.02T)以上であった。
予めNiPメッキした質量磁化率χg0.588、平均粒径135μmのダイヤモンド砥粒0.4gを治具と台板とで作られる凹みに全周均等になるように磁気吸引させた。次に、砥粒が磁気吸引された状態のまま、治具ごと50℃のスルファミン酸ワットニッケルメッキ液に浸漬し、5〜20A/dm2の範囲で通電して電気メッキした後、水洗した。その後、ダイヤモンド砥粒0.4gを磁気吸引させ、上記と同様にメッキして水洗する操作を3度繰り返した。
治具本体を、得られた砥粒層両側面が露出するように、外径φ123mm、厚み10mmのPPS樹脂製円盤に交換して、50℃のスルファミン酸ワットニッケルメッキ液に浸漬し、5〜20A/dm2の範囲で通電して、切り刃部全体を覆うようにメッキ析出させた後、水洗し、治具から取り外して、乾燥した。
次いで、実施例1で用いた液状エポキシ樹脂組成物を、外周切断刃の切り刃部側面に塗布して5分間保持し、その状態のまま180℃のオーブンに入れて約120分間保った後、加熱を切ってオーブン内で自然冷却した。
その後、工具研削盤を用いて、超硬合金台板からの砥粒層のせり出しが片側50μmになるように砥石で研削して、砥粒層のせり出し、厚み及び外径を整えた後、ドレスして、厚み0.4mm、外径129mmの砥粒層(切り刃部)を形成した超硬合金台板外周切断刃を得た。
[実施例3]
質量百分率でWCが90%、Coが10%の超硬合金を外径φ125mm×内径φ40mm×厚み0.3mmのドーナツ状孔あき円板に加工し、台板とした。
この台板を外周端から内側1.0mmの部分のみが露出するように粘着テープでマスキングして、市販のアルカリ脱脂水溶液に40℃、10分間浸漬した後、水洗し、50℃のピロリン酸ナトリウム30〜80g/Lの水溶液に2〜8A/dm2で通電しながら電解した。次に、超硬合金台板を純水中で超音波洗浄した後、50℃のスルファミン酸ワットニッケルメッキ液に浸漬し、5〜20A/dm2の範囲で通電して下地メッキした後、マスキングテープを剥がして水洗した。
次いで、実施例1で用いた治具本体で台板を挟持し、予めNiPメッキした質量磁化率χg0.392、平均粒径130μmのダイヤモンド砥粒0.4gを治具と台板とで作られる凹みに全周均等になるように磁気吸引させた。次に、砥粒が磁気吸引された状態のまま、治具ごと40℃のピロリン酸銅メッキ液に浸漬し、1〜20A/dm2の範囲で通電して電気メッキした後、水洗し、治具から取り外して、乾燥した。
次いで、実施例1で用いた液状エポキシ樹脂組成物を、外周切断刃の切り刃部側面に塗布して5分間保持し、その状態のまま180℃のオーブンに入れて約120分間保った後、加熱を切ってオーブン内で自然冷却した。
その後、工具研削盤を用いて、超硬合金台板からの砥粒層のせり出しが片側50μmになるように砥石で研削して、砥粒層のせり出し、厚み及び外径を整えた後、ドレスして、厚み0.4mm、外径126mmの砥粒層(切り刃部)を形成した超硬合金台板外周切断刃を得た。
[実施例4]
質量百分率でWCが95%、Coが5%の超硬合金を外径φ125mm×内径φ40mm×厚み0.3mmのドーナツ状孔あき円板に加工し、台板とした。この台板のヤング率は580GPa、飽和磁化は40kA/m(0.05T)であった。
この台板を外周端から内側1.0mmの部分のみが露出するように粘着テープでマスキングして、市販のアルカリ脱脂水溶液に40℃、10分間浸漬した後、水洗し、50℃のピロリン酸ナトリウム30〜80g/Lの水溶液に2〜8A/dm2で通電しながら電解した。次に、超硬合金台板を純水中で超音波洗浄した後、50℃のスルファミン酸ワットニッケルメッキ液に浸漬し、5〜20A/dm2の範囲で通電して下地メッキした後、マスキングテープを剥がして水洗した。
次いで、実施例1で用いた治具本体で台板を挟持し、予めNiPメッキした質量磁化率χg0.392、平均粒径130μmのダイヤモンド砥粒0.3gを治具と台板とで作られる凹みに全周均等になるように磁気吸引させた。次に、砥粒が磁気吸引された状態のまま、治具ごと80℃の無電解ニッケル・リン合金メッキ液に浸漬し無電解メッキした後、水洗した。その後、ダイヤモンド砥粒0.3gを磁気吸引させ、上記と同様にメッキして水洗する操作を2度繰り返し、治具から取り外して、乾燥した。
次いで、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ジエステル、クロロスルフォン化ポリエチレン及びクメンハイドロペルオキシドを含む液状アクリル樹脂組成物を、外周切断刃の切り刃部側面に塗布し、80℃のオーブンに入れて緩やかに真空状態まで減圧してから60分間加熱した後、減圧状態のまま庫内で冷却した。なお、この硬化したアクリル樹脂のポアソン比は0.4である。
その後、工具研削盤を用いて、超硬合金台板からの砥粒層のせり出しが片側50μmになるように砥石で研削して、砥粒層のせり出し、厚み及び外径を整えた後、ドレスして、厚み0.4mm、外径127mmの砥粒層(切り刃部)を形成した超硬合金台板外周切断刃を得た。
[比較例1]
質量百分率でWCが90%、Coが10%の超硬合金を外径φ125mm×内径φ40mm×厚み0.3mmのドーナツ状孔あき円板に加工し、台板とした。
この台板を外周端から内側1.0mmの部分のみが露出するように粘着テープでマスキングして、市販のアルカリ脱脂水溶液に40℃、10分間浸漬した後、水洗し、50℃のピロリン酸ナトリウム30〜80g/Lの水溶液に2〜8A/dm2で通電しながら電解した。次に、超硬合金台板を純水中で超音波洗浄した後、50℃のスルファミン酸ワットニッケルメッキ液に浸漬し、5〜20A/dm2の範囲で通電して下地メッキした後、マスキングテープを剥がして水洗した。
次いで、実施例1で用いた治具本体で台板を挟持し、予めNiPメッキした質量磁化率χg0.392、平均粒径130μmのダイヤモンド砥粒0.4gを治具と台板とで作られる凹みに全周均等になるように磁気吸引させた。次に、砥粒が磁気吸引された状態のまま、治具ごと50℃のスルファミン酸ワットニッケルメッキ液に浸漬し、5〜20A/dm2の範囲で通電して電気メッキした後、水洗した。その後、ダイヤモンド砥粒0.4gを磁気吸引させ、上記と同様にメッキして水洗する操作を再度繰り返した。
治具本体を、得られた砥粒層両側面が露出するように、外径φ123mm、厚み10mmのPPS樹脂製円盤に交換して、50℃のスルファミン酸ワットニッケルメッキ液に浸漬し、5〜20A/dm2の範囲で通電して、切り刃部全体を覆うようにメッキ析出させた後、水洗し、治具から取り外して、乾燥した。
その後、工具研削盤を用いて、超硬合金台板からの砥粒層のせり出しが片側50μmになるように砥石で研削して、砥粒層のせり出し、厚み及び外径を整えた後、ドレスして、厚み0.4mm、外径127mmの砥粒層(切り刃部)を形成した超硬合金台板外周切断刃を得た。
表1に、実施例1〜4及び比較例1の超硬合金台板外周切断刃の製作歩留まりを示す。ここで、メッキ歩留まりとは、メッキによって砥粒を固着させる工程まで実施した総数(各15枚)のうち、砥粒の脱落や砥粒層の欠損が無いものを良品として、このメッキ良品の割合を100分率で示したものであり、加工歩留まりとは、得られたメッキ良品に対して、メッキ後の工程をドレスまで実施し、砥粒層の欠損が無いものを良品として、メッキ良品の総数に対する加工良品の割合を100分率で示したものである。また、総合歩留まりとは、メッキ歩留まりと加工歩留まりとの積であり、外周切断刃の製作に供した台板に対する、外周切断刃の完成品としての良品の歩留まりを意味する。
表1から、比較例1に比べ、実施例の歩留まりが良好であること、特に、メッキ後の加工における歩留まりが良好であり、本発明の製造方法が生産性の点でも優れていることがわかる。
図6には、超硬合金台板外周切断刃を用いて希土類焼結磁石を切断する操作を実施したときの、磁石の切断精度を評価した結果を示す。切断精度の評価方法は以下のとおりである。
まず、実施例1〜4及び比較例1の超硬合金台板外周切断刃を各々2枚ずつ計10枚、間隔1.5mmで、台板の穴に回転軸を挿通して組み上げたマルチ切断刃とした。このマルチ切断刃により、回転数4,500rpm、送り速度30mm/minで、幅(W)40mm×長さ(L)130mm×高さ(H)20mmのNd−Fe−B系希土類焼結磁石から、W40mm×L(=厚み(t))1.5mm×H20mmの磁石を1,010回切り出し、実施例及び比較例の各々の2枚の外周切断刃の間で切断されたものを、評価対象の切断磁石とした。切断磁石について、切断1枚目から100枚毎を寸法計測サイクル(全10サイクル)とし、各サイクルにおいて最初の10枚分(即ち、最初のサイクルが1〜10枚目、次が101〜110枚目、最後が1,001〜1,010枚目)をサンプリングした。各サイクルの10枚について、1枚毎に中央部1点と隅部4点の合計5点の厚み(t)をマイクロメーターで測定し、5点のうちの最大値と最小値の差を切断精度(μm)として、10枚の切断精度の平均値を算出した。各寸法計測サイクルにおけるこの平均値をプロットしたものが、図6である。
比較例1の場合は、寸法計測3サイクル以降(切断枚数301枚目以降)、切断精度が悪くなっているが、実施例1〜4の場合は10サイクル目(切断枚数1,010枚目まで)まで、切断精度が落ちることがなく、本発明の超硬合金台板外周切断刃の使用耐久性が高いことがわかる。
また、得られた外周切断刃の弾性(柔軟性)を評価した結果を図7に示す。ここでは、外周切断刃の刃先の圧縮剪断応力を評価した。各々の例の外周切断刃において、刃先の面取りをR又はCで0.1以上に整えた後、超硬合金台板の外周から外方に0.3mm離れた位置において、切り刃部を、接触部の長さが(切り刃部の突き出し量−0.3mm)、幅が10mmの圧子で、外周切断刃の回転軸方向(切り刃部の厚み方向)に線速1mm/minで押圧したときの、圧子の移動量に対する応力を、島津製作所 強度試験機 AG−1を用いて測定した。押圧は、切り刃部が破断するまで継続した。この測定においては、外周切断刃を水平に切り刃部のみ露出する厚み5mmの円形鉄板で外周切断刃を上下から挟む支持治具を用いて、押圧時に台板部分が反らないように保持した。
図7に示されるように、いずれの例においても、圧子の移動量が大きくなると、グラフが直線性を示す領域、即ち、圧子の移動量と応力とが比例する領域が確認された。この直線領域の傾き(応力/圧子の移動量)を算出した結果を表2に示す。
上述した切断による評価の際、実施例の外周切断刃を用いて切断して得られた磁石片は、いずれも切断面の外観が良好であったが、比較例の外周切断刃を用いて切断して得られた磁石片では、3サイクル以降(切断枚数301枚目以降)において、切断面に切り跡(段差)が存在するサンプルが発生した。このように、上述した外周切断刃の弾性(柔軟性)評価により示される圧子の移動量と応力と傾きが大きすぎず、ある程度柔軟性をもった本発明の外周切断刃が、切断面に切り跡を残すことなく、高い寸法精度の磁石を切り出すことができることが確認された。
以上の結果から、本発明の超硬合金台板外周切断刃により切断することによって、切断後の仕上げ処理をすることなく、希土類焼結磁石等の被作物を、切断のみで高精度に仕上げることができ、被作物を高い寸法精度で提供することが可能となる。