JP2012091266A - 軟質材料の表面加工を行うラッピング装置及びラッピング加工方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】軟質材料からなる工作物に対して、簡素な構成で高精度かつ高加工能率で研磨加工を可能とするラッピング工具を備えたラッピング装置及びその加工方法を提供する。
【解決手段】ラッピング装置2は、端子部11を備えたラッピング工具1と、テーブル23上に設けられかつラップ剤4を貯留して該ラップ剤中に工作物3を浸漬させるための加工槽24などを有する。工作物3には軟質材料が用いられ、端子部11には、熱可塑性樹脂からなる端子本体12と、端子本体を加熱するための加熱手段13と、が設けられる。加熱手段の加熱量を制御して端子本体の表面温度を最適温度に調節するための温度制御手段をさらに有する。最適温度は、工作物3の硬度と端子本体表面12aの硬度との硬度比が0.4以下になるように設定されている。
【選択図】図1

Description

本発明は、ラップ端子と工作物とを相対移動させてラップ剤中の砥粒によって表面加工を行うラッピング装置及びその加工方法に関するものであり、詳しくは、軟質材料からなる工作物を均一な鏡面に加工可能なラップ端子を含んだラッピング装置及びその加工方法に関する。
プラスチック等の軟質材料が多く用いられている光学製品は、一般に、精密仕上げを要する製品である。こうした軟質材料を研磨加工する場合、軟質材料からなる工作物と比べた研磨工具端子の硬度比が大きくなり、砥粒の粒径や形状のバラツキが工作物への砥粒の食込み深さに強く影響し、スクラッチなどの加工欠陥が生じやすいことが問題とされている。
こうした軟質材料の加工欠損の問題に対し、従来、粒径と、形状のバラツキとを小さくした砥粒を使用させて対処することがなされていたが、従来の対処方法は、高硬度材料等への通常の研磨加工に比べて生産性が低くかつ加工コストが高いこと、及び熟練した職人のみがなせる技(加工法)であること、が指摘されている。
一方、本発明者らは、特許文献1及び2に示すように、在来の工作機械を利用して簡単な構成の工具により高精度かつ高加工能率の自動加工を可能とするラッピング工具を既に提案している。しかしながら、既に提案の加工技術は、高硬度材料からなる工作物への研磨加工を対象にしており、軟質材料からなる工作物への加工に対してそのまま適用し得るものではなかった。
より詳細には、特許文献1には、ラッピング工具として、工具の外側表面にゴムなどの保護被膜が施されたものが例示され、工作物として超硬金型の加工凹部が例示されている(特許文献1の段落「0023」と段落「0017」とを参照)。一方、特許文献2には、ラッピング工具として、ポリアミド系樹脂やポリプロピレン樹脂などの合成樹脂製の工具が例示され、工作物として超硬合金V10(JIS表記)製の平面形状物が例示されている(特許文献2の段落「0030」と段落「0042」とを参照)。
例えば、特許文献1に開示されたゴム等のエラストマーで被膜されたラッピング工具を軟質材料への研磨加工に適用しようとすると、工具周囲の遊離砥粒を工具表面に適度に保持できないことを本発明者らは既に確認している。一方、特許文献2に開示された合成樹脂製のラッピング工具を同様に適用すると、工具と工作物とが共に軟質材料が使用されることになり、工具と工作物との硬度比がほぼ1となる。つまり、軟質材料製の工作物に対して適用する工具が硬過ぎることになってしまい、この方法でも上記の加工欠損が生じてしまうことになる。
特開2007−054904号公報 特開2009−072875号公報 特開2004−042217号公報 特開平10−193270号公報
そこで、本発明は、以上のような従来技術における問題点や欠点を改善し、軟質材料からなる工作物に対して、簡素な構成で高精度かつ高加工能率で研磨加工を可能とするラッピング工具を備えたラッピング装置及びその加工方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、(1)合成樹脂の温度依存性に着目し、合成樹脂製の工具端子を備えた研磨工具を用意し、これを加熱すれば合成樹脂が軟化すること、及び、(2)その加熱量つまり工作物に接する工具端子の温度を制御すれば、工作物に適合した硬度比を有したラッピング工具を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
例えば、本発明の一実施態様は以下に示すものである。
端子部と前記端子部を弾性的に支持する弾性支持部とを備えたラッピング工具と、工作物を取り付けるためのテーブルと、前記ラッピング工具と前記テーブルとを相対的に移動させる送り機構と、前記テーブル上に設けられかつラップ剤を貯留して該ラップ剤中に前記工作物を浸漬させるための加工槽と、を有したラッピング装置であって、
前記工作物には、軟質材料が用いられ、
前記端子部には、熱可塑性樹脂からなる端子本体と、前記端子本体を加熱するための加熱手段と、が設けられ、
前記加熱手段の加熱量を制御して前記端子本体の表面温度を最適温度に調節するための温度制御手段をさらに有し、
前記最適温度は、前記工作物の硬度と前記端子本体の硬度との硬度比が0.4以下になるように設定されていることを特徴とするラッピング装置。
以上の構成の本発明によれば、本発明者らが既に提案していたラッピング装置では加工できなかった軟質材料からなる工作物に対して、通常の超硬合金製の工作物と同様の加工条件で高品位かつ高能率の鏡面研磨加工を施すことが可能になる。
具体的には、本発明では、ラッピング工具に設置された加熱手段により端子及びその表面を加熱して、工作物の硬度に比較して所望の硬度(硬度比)が得られるまで軟化させることで、砥粒の寸法・形状のバラツキが加工中の工作物への切り込み深さに与える影響を緩和し、従来問題となっていた加工欠損の発生を大幅に抑制することが可能になる。さらに、従来のように粒径と形状のバラツキとを小さくした砥粒のみを使用する必要は無く、より広範な範囲の寸法を有する砥粒をラップ剤に含めることが可能になる
なお、特許文献3には、研磨加工時に研磨工具をそのガラス転移温度以下に冷却等する技術が開示されているが、その明細書の段落「0008」に開示されるように、固定砥粒のバインダである樹脂の軟化を防止する目的で研磨工具の温度調節を行うものであり、軟質材料に対して高精度な研磨加工を行うことを目的とする本発明とその目的を異にするものであり、かつ、本発明の作用効果を奏するものではない。
また、特許文献4には、研磨加工の際に20℃〜70℃の温度領域で研磨用工具を加温する技術が開示されているが、その明細書の段落「0014」に開示されるように、工作物の被研磨面の形状を転写させる目的で研磨工具の温度調節を行うものであり、特許文献3と同様に、本発明とその目的を異にするものであり、かつ、本発明の作用効果を奏するものではない。
本発明のラッピング工具の構成を一部断面で示した正面図である。 本発明のラッピング装置の構成を示した図である。 ヒータから端子表面までの距離と端子表面温度との関係を示した図である。 代表的な熱可塑性樹脂における硬度と温度との関係を示した図である。 端子と工作物との硬度比と加工限界粗さとの関係を示した図である。(端子の材質と工作物の材質とを変化させた場合) 端子と工作物との硬度比と加工限界粗さとの関係を示した図である。(同一の端子を熱軟化させてその硬度を変化させた場合) 本発明のラッピング加工を施した際の表面粗さの経時変化を示した図である。 本発明の端子本体表面での砥粒の取り込み数を示した図である。 本発明のラッピング加工方法の一例を示したフローチャートである。
以下、本発明を図面に示す実施の形態に基づき説明するが、本発明は、下記の具体的な実施形態に何等限定されるものではない。
(ラッピング工具の構成)
図1は、本発明のラッピング工具1の構成を一部断面で示す正面図である。本発明のラッピング工具1は、軟質材料からなる工作物3(図2参照)に対して加工欠陥の無く鏡面研磨加工(本明細書では「ラッピング加工」とも呼ぶ。)を可能にする構造を有している。ここで、軟質材料とは、硬度(例えば、ビッカース硬度)が比較的低い材料のことをいい、より好適には、100以下の範囲のビッカース硬さを有した材料である。本発明の軟質材料として、例えば、プラスチック、アルミニウム、黄銅、鉛などが挙げられる。なお、本発明においては、軟質材料の硬度と、後述する熱可塑性樹脂の硬度と、に対して、単一のスケールで両者を比較できる理由から、ビッカース硬度を用いることが好ましい。
ラッピング工具1は、その先端部分に相当する端子部11に熱可塑性樹脂製の端子本体12(本明細書中、「端子」とも呼ぶ。)を備えている。ここで、熱可塑性樹脂として、例えば、ポリアミド系樹脂(いわゆるナイロン)、アクリル系樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン等のポリスチレン系樹脂などが挙げられる。図示の端子本体12は、略立方体形状を成しているが、必ずしもこれに限定されず、円筒形や球形を成しても良い。なお、後述する端子表面12aを熱軟化させるための温度制御の容易さの点では、略立方体形状の形状は好ましい。
また、端子本体12の上側には、端子本体12を加熱するための加熱手段(本実施例では、ヒータ)13が設けられており、端子本体12及びヒータ13の外周には、これらの要素12,13を包囲してこれらの要素12,13の温度を所望の温度に一定に保つための断熱材14が設けられている。
所望の温度に一定に保持されているか否かは、端子本体12とヒータ13との間に設置された温度計測手段(例えば、熱電対)15によってヒータ13の表面13aの温度を測定することによって判断される。熱電対15は図示しない温度制御装置に接続され、熱電対15で取得された温度情報が逐次、処理・蓄積される。
以上のように、端子本体12とヒータ13と断熱材14とがラッピング工具1の端子部11を形成する。ラッピング工具1は、好ましくは、端子部11の上方に設けられかつコイルばね16を含んだ弾性支持部17と、ラッピング工具1をラッピング装置2(図2参照)の構成要素である主軸21に接続する取付部18と、をさらに備える。ここで、弾性支持部17は、本発明のラッピング装置2によるラッピング工具1の加工中の位置決め誤差が工作物3への研磨圧力に与える影響を低減する役目を果たす。
なお、端子本体表面12aでの温度と、熱電対15を載置した場所(例えば、ヒータ表面13a)での温度とは、温度差が生じてしまい、端子本体表面12aでの温度が正確に測定出来ない場合が予測される。しかしながら、この温度差は、例えば、初期条件及び環境条件のパラメータに実測値及び仮定値を付与した有限要素法による数値解析によって見積もることが可能である。この数値解析結果の一例を図3に示す。
図3は、ヒータ表面13aから端子本体表面12aまでの距離(つまり端子厚さ)を横軸にとり、端子本体表面温度(解析値)を縦軸にとり、これらの関係を示した図である。ここで、ヒータ表面13aの温度は、80℃、100℃、120℃、又は140℃のいずれかから選ばれた一定温度とし、端子本体表面12aとラップ剤4との対流による熱伝達率は200W/mKと仮定して、定常状態の熱解析を行った結果である。この図3より、端子厚さが増大するに従い、ヒータ表面13aと端子本体表面12aとの温度差は増大する傾向があることが分かる。また、ヒータ温度を高めに設定してもヒータ表面13aと端子本体表面12aとの温度差は増大する傾向があることが分かる。
このように、本発明の加工方法に、端子周囲の環境条件を実際の状況に合うように適切に仮定した熱流体数値解析を導入すれば、熱電対15を実際の加工に供される端子本体表面12aの至近距離に設置せずとも、端子本体表面温度を適切に取得することが可能となることが分かった。
(ラッピング装置の構成)
図2は、本発明のラッピング装置2の構成を示す図である。ラッピング装置2は、在来の工作機械を利用することができ、図示のような立形の工作機械(例えば、マシニングセンタやフライス盤)の主軸21にラッピング工具1を取り付けることにより、本発明のラッピング装置2とすることができる。そのため、専用のラッピング装置を設置する必要がなく、設置スペースの確保や設備コストの大幅増加という問題を避けることができる。その結果として、製品の加工・製造コストを低減することができる。
ベッド22の上面には、工作物3を載置固定するためのテーブル23が設置されている。テーブル23はZ軸方向に直交する水平面上のX,Y軸方向に移動可能に設けられている。また、テーブル23をX,Y軸方向に移動させるためのX軸送り機構およびY軸送り機構が設けられているが、ここでは図示を省略している。X軸送り機構およびY軸送り機構もボールねじ機構と送りモータとからなるものでよい。X,Y,Z軸は互いに直交し直交座標系をなすものである。X,Y,Z軸の各送り機構により、ラッピング工具1と工作物3とは、直交3軸方向に相対移動が可能となっており、三次元の任意曲面形状の加工が可能である。
テーブル23上に固定された工作物3の周囲を包囲するように加工槽24が設置されている。加工槽24とテーブル23との接続部はシール等により水密に保たれ、ラップ剤4が漏れ出ないようにされている。加工槽24の内部にラップ剤4を貯留して、工作物3が完全にラップ剤4中に浸漬されるようにする。加工槽24の上面は開放されており、加工の妨げとなることはない。なお、在来の工作機械を利用する場合には、加工槽24は簡単に取り外し可能な構造とすることが好ましい。
(ラップ剤)
本発明のラップ剤4には、水に水飴と砥粒(例えば、ダイアモンド砥粒やアルミナ砥粒)とを添加した混合液や、水に水溶性ポリマーと砥粒とを添加した混合液を使用することが可能である。なお、後者のラップ剤4を使用することにより、長時間均一に砥粒を浮遊させることができるため、長時間の加工時間を要するラッピング加工を行う場合には非常に有効である。
ここで、水溶性ポリマーとして、砥粒の均一浮遊化の観点から、ポリエチレンオキシド(PEO)やポリアクリルアミド(PAA)が好ましいが、必ずしもこれに限定されず、高分子の網状化によりラップ剤4の粘弾性力を増加させる材料であればよい。例えば、親水性の高い、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、メタクリル酸カリウム等のアクリル酸金属塩が挙げられる。なお、PEO、PAAは、ともに人体には無害であり環境負荷も無いことから排水処理施設や化粧品などの分野にわたって使用されているポリマーである。
また、後者のラップ剤4にさらに低級アルコール類を添加してもよく、これにより、ラップ剤4が蒸発してその気化熱冷却効果を発揮し、工作物3等の発熱を効果的に除去することができる。
(熱可塑性樹脂における硬度の温度依存性)
図4に代表的な熱可塑性樹脂における硬度と温度との関係を示す。図4では、熱可塑性樹脂がエポキシ樹脂、ナイロン、及びポリプロピレン樹脂(PP)のいずれの樹脂でも、樹脂の温度が上昇するに従い、そのビッカース硬度が低下していく傾向を示している。従って、図1に示すラッピング工具1のように、端子本体12に熱可塑性樹脂を採用し、端子本体12に隣接したヒータ13を設置し、このヒータ13の通電及びその出力調整を行うことにより、端子本体12を加熱及び温度制御することによって、端子本体12(特に、その外側表面12a)を、工作物3の硬度に比べて所望の硬度まで軟化させることが可能になる。
(端子と工作物との硬度比と加工限界粗さとの関係)
図5に、端子本体12と工作物3との硬度比と加工限界粗さRzとの関係を示す。なお、硬度比を変化させるために、端子本体12を構成する材料と工作物3を構成する材料との組合せを種々用意してみた。ここで、図中の黒色四角形で示した4つのプロットは、工作物3に軟質材料であるアクリルを採用し、かつ、端子本体12に夫々、アクリル、ナイロン、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリエチレン樹脂(PE)を採用して、実際に加工した際の加工限界粗さRzである。一方、図中の複数の白抜き丸印で示したプロットは、工作物3に夫々、超硬合金(V10)、ステンレス(SUS304)、黄銅(Brass)を採用し、かつ、端子本体12にポリプロピレン樹脂(PP)を採用して、実際に加工した際の加工限界粗さRzである。
図5から、工作物3と端子本体12とのビッカース硬度比が増大すると、これに比例して加工限界粗さRzも増大してしまうことが分かる。特に硬度比が0.4より大きくなると、加工限界粗さRzも0.3より大きくなってしまう。これは、粒径や形状にバラツキのある砥粒が端子本体表面12aに十分食い込みにくくなり、工作物表面にスクラッチが発生するからであると考えられる。別言すれば、より高硬度の端子本体12においては粒径の大きな砥粒が端子表面12aに十分に深く食い込まないため、局所的に出っ張り、工作物3への切り込み深さに悪影響を与えていると考えられる。
図6も、端子本体12と工作物3との硬度比と加工限界粗さRzとの関係を示す。しかしながら、図5の場合と異なり、ここでは、本発明のラッピング工具1を採用しかつその端子本体表面12aの温度を変更することによってビッカース硬度比を変化させた。
図示のように、端子本体表面12aの温度が60℃より高温になると、加工限界粗さRzが0.2μm以下になり、さらに80℃以上になるとRzが略一定値(0.1μm)に漸近することが分かる、この結果から、工作物3に対する端子本体12の硬度比を0.4以下、より好ましくは、0.2以下にすることで、砥粒が遊離したラップ剤4にドブヅケ状態に浸漬された工作物3を押圧しながら摺動する端子本体12は、軟化した端子表面12aにて砥粒を適度に食い込ませながら保持し、砥粒の寸法や形状のバラツキが工作物3への切込み深さに与える影響を緩和する。従って、工作物3の加工面では、均一な切り込みを得られることから、鏡面状の研磨が可能になる。
図7に、本発明のラッピング工具1を用いて研磨加工を施した際の表面粗さの経時変化を示す。ここで、工作物3としてアクリル樹脂を用い、ラッピング工具1の端子本体12として、ポリプロピレン(PP)樹脂を用いて加工を行った。比較例1として、ヒータ13を通電しない状態(つまり、端子部11を非加熱の状態)でも同様に工作物3を加工し、その表面粗さの経時変化を観察した。より詳細な加工条件は以下の表1に示す。
Figure 2012091266
図7の結果より、比較例1の場合(端子本体12を熱軟化させない場合)では、工作物3と端子本体12とのビッカース硬度比は0.46と計算され、加工限界粗さRz(加工時間が経過しても変化しない表面粗さ)は0.35μmであった。これに対し、本実施例の場合(加工中の端子本体表面12aを85℃に加熱した場合)では、硬度比は0.14と計算され、加工限界粗さを0.14μmまで低減することができた。なお、加工限界粗さRzに到達するまで要した加工時間は、端子部11の加熱(本実施例)、非加熱(比較例)にかかわらず同程度であったことから、本発明の加工法は生産性を落とすことなく、軟質材料(工作物3)の鏡面研磨加工が可能である。
(工作物を加工する際の端子表面の状況)
図2に示すように、本発明では、砥粒が浮遊したラップ剤4中に工作物3をドブヅケ状態にして、ラッピング工具1の端子部11を工作物3に対して押圧・摺動させながらラッピング加工を行うため、端子本体表面12aは100W/mK以上の高い熱伝達率で冷却されることになる。しかしながら、本発明者らの試験によれば、ヒータ13の出力を40W/cm(好ましくは、65W/cm)程度まで上げれば、端子本体表面12aの温度を(上記硬度比との関係から算出される)所望の最適温度まで加熱し、維持できることが確認されている。
一方、加工時の工作物3の温度について着目すると、ラップ剤4が冷却剤としての効果を発揮するため、加熱された端子本体12が隣接していても工作物3自体の温度は上昇しない。そのため、実際の加工後の状態を確認しても、工作物3表面に焼けや溶解による変質は見られない。
また、加熱されることにより端子本体表面12aの硬度は軟化するが、この表面12aに食い込んだ砥粒を保持するだけの強度は維持しており、1000mm程度の加工面積まで実際の加工に供された端子本体12でも、端子本体表面12aに摩耗は見られなかった。
また、本発明者らは、上述した実施例のラッピング工具1を用いて、その端子本体表面12aが砥粒をどの程度取り込めたのか、実際に測定してみた。図8に、砥粒の取り込み数の実験結果を示す。ここで、比較例1として、実施例と同一のラッピング工具1(端子本体12はポリプロピレン樹脂製、表1を参照)を加熱せずにラッピング加工してみた。また、比較例2として、端子本体12がエポキシ樹脂製のラッピング工具1を加熱せずにラッピング加工してみた。これらの場合の加工後の端子本体表面12aでの砥粒の取り込み数(食いつき易さ能力)を比較してみた。ここで、図示の各取り込み数は、各場合において20回程度実測した結果を平均した数値である。なお、いずれの場合も、工作物3と端子本体表面12aとが接触加工面積が1.0mmになるまで加工した。
図8に示すように、本実施例の端子本体表面12aの取り込み数は、比較例1と比べて約4倍に増加し、比較例2と比べて約15倍に増加していることが定量的に確認された。これにより、本実施例の端子本体表面12aでは砥粒が研磨加工に適合した食いつき易い状況になっていると推察される。
本発明のラッピング工具1及びラッピング装置2は以上説明したような構成・特徴を有している。次に、これら工具1及び装置2を用いた本発明のラッピング加工方法について説明する。
(本発明のラッピング加工方法)
図9は、本発明のラッピング加工方法のフローチャートの一例を示す。先ず、加熱手段(例えば、ヒータ)13が端子部11に設けられたラッピング工具1を用意する(工程S1)。なお、工程S1の「用意」には、ラッピング工具1をラッピング装置2の主軸21に取り付けることを含む。
次に、後述の研磨加工(工程S7)を施す前に、加工対象である工作物3に用いられる材料について室温での硬度を取得する(工程S2)。さらに、端子本体12に用いられる材料について硬度の温度依存性(例えば、図4に示すように0℃〜150℃での硬度変化)を取得する(工程S3)。次いで、工程S2と工程S3とから、工作物3の硬度と端子本体表面12aの硬度との硬度比が0.4以下(好ましく、0.2以下)になるように端子表面12aの最適温度を決定する(工程S4)。
そして、実際のラッピング加工に入る為に、工作物3とラッピング工具1の少なくとも端子部11とをラップ剤4に浸漬する(工程S5)。より具体的には、ラッピング装置2に設けられた加工槽24内に工作物3を載置してから、ラップ剤4を充填し、ラッピング工具1を移動させて端子部11をラップ剤4中に浸漬させる。
その後、ラッピング工具1の端子部11に設けられた加熱手段13により端子本体12aを加熱し、図示しない温度制御手段により端子本体表面12aを工程S4で決定した最適温度に維持する(工程S6)。加熱手段13にヒータを用いた場合は、ヒータを通電し、その通電量(出力)を制御することにより工程S6を実行できる。なお、この工程S6では、端子本体表面12aを最適温度に加熱・維持するにあたって、端子本体表面温度の実測が困難な場合に、加熱手段13の温度を実測した上で数値解析(例えば、有限要素法による熱流体解析)により端子本体表面12aの温度を推定することを含むことが好ましい。これにより、熱電対等の温度測定手段15の配置が容易になり、ラッピング工具1の設計に自由度が増す。
以上のような工程S1〜S6を実行することによって、ラッピング工具1の端子本体表面12aが最適温度に維持される(つまり、熱軟化により工作物3の加工に対して最適な硬度に維持される)ことが保証される。最後に、工作物3に対して所定の加工条件でラッピング工具1を摺動又は回転させることによって研磨加工を施すのである(工程S7)。
本発明は上記実施例に限定されることなく、特許請求の範囲に記載した発明の範囲内で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲に含まれることはいうまでもない。例えば、上記実施例では、工作物3の材料(軟質材料)としてアクリル樹脂を用いて本発明の作用効果を説明したが、ヒータ13の通電量及び通電時間の制御によりラッピング工具1の端子本体表面12aの温度及び硬度を最適化することで、アクリル樹脂以外の軟質材料からなる工作3物に対して本発明を適用して鏡面研磨加工を施すことができる。
光学製品等の材料となる軟質材料に対して鏡面加工等の高精度な加工を施す要望は日増しに高まっている。本発明のラッピング装置およびラッピング加工方法は、研磨加工に熟練した職人に頼ることなく、軟質材料に対して高品位かつ高加工能率の鏡面加工を施すことが可能であるため、その適用範囲は広く、産業上の利用可能性及び有用性が非常に高い。
1 ラッピング工具
2 ラッピング装置
3 工作物
4 ラップ剤
11 端子部
12 端子本体
12a 端子本体の表面
13 加熱手段(ヒータ)
13a 加熱手段(ヒータ)の表面
14 断熱材
15 温度測定手段(熱電対)
16 コイルばね
17 弾性支持部
18 取付部
21 主軸
22 ベッド
23 テーブル
24 加工槽

Claims (9)

  1. 端子部を備えたラッピング工具と、工作物を取り付けるためのテーブルと、前記ラッピング工具と前記テーブルとを相対的に移動させる送り機構と、前記テーブル上に設けられかつラップ剤を貯留して該ラップ剤中に前記工作物を浸漬させるための加工槽と、を有したラッピング装置であって、
    前記工作物には、軟質材料が用いられ、
    前記端子部には、熱可塑性樹脂からなる端子本体と、前記端子本体を加熱するための加熱手段と、が設けられ、
    前記加熱手段の加熱量を制御して前記端子本体の表面温度を最適温度に調節するための温度制御手段をさらに有し、
    前記最適温度は、前記工作物の硬度と前記端子本体の硬度との硬度比が0.4以下になるように設定されていることを特徴とするラッピング装置。
  2. 前記硬度比が0.2以下であることを特徴とする請求項1に記載のラッピング装置。
  3. 前記硬度はビッカース硬度であることを特徴とする請求項1又は2に記載のラッピング装置。
  4. 前記軟質材料が、プラスチック、アルミニウム、黄銅、又は鉛を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のラッピング装置。
  5. 前記熱可塑性樹脂が、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリプロピレン樹脂、又はポリスチレン系樹脂を含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のラッピング装置。
  6. 前記ラップ剤は、水又は低級アルコールの少なくともいずれかの液体と、水溶性ポリマーと、砥粒と、を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のラッピング装置。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載のラッピング装置に使用されるラッピング工具。
  8. 請求項1〜6のいずれかに記載のラッピング装置を用いたラッピング加工方法であって、
    前記工作物に用いられる前記軟質材料の硬度を取得する工程と、
    前記端子本体に用いられる前記熱可塑性樹脂における硬度の温度依存性を取得する工程と、
    前記設定された硬度比になるように前記最適温度を設定する工程と、
    前記加熱手段及び前記温度制御手段により前記表面温度を前記最適温度に加熱・維持する工程と、を含むことを特徴とするラッピング加工方法。
  9. 前記最適温度を設定する工程は、前記加熱手段の温度を実測した上で数値解析により前記最適温度を推定する工程をさらに含むことを特徴とする請求項8に記載のラッピング加工方法。
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